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審決分類 |
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C |
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管理番号 | 1339388 |
審判番号 | 訂正2018-390013 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-01-19 |
確定日 | 2018-04-05 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5655473号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5655473号の明細書、及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5655473号は、平成22年9月30日に特許出願され、その請求項1に係る発明は、平成26年12月5日にその特許権の設定登録がされたものであって、平成30年1月19日に本件訂正審判が請求されたものである。 第2 請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5655473号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。 1 訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記保持器の窓部は、軸方向の片側もしくは両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、」とあるのを、 「前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、」に訂正する。(下線は、請求人が付与。以下同様。) 2 訂正事項2 本件特許の明細書の段落【0006】に「軌道輪と非接触状態で保持器に玉を保持させること(片側もしくは両側転動体持たせ)で軸受の低トルク化を可能とする」とあるのを、 「軌道輪と非接触状態で保持器に玉を保持させること(両側転動体持たせ)で軸受の低トルク化を可能とする」に訂正する。 3 訂正事項3 本件特許の明細書の段落【0007】に「前記保持器の窓部は、軸方向の片側もしくは両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、」とあるのを、 「前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、」に訂正する。 4 訂正事項4 本件特許の明細書の段落【0010】に「【図1】本発明の第1実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。」とあるのを、「【図1】本発明の第1参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。」に訂正し、 同段落に「【図3】本発明の第3実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。」とあるのを、「【図3】本発明の第3参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。」に訂正し、 同段落に「【図4】本発明の第4実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。」とあるのを、「【図4】本発明の第4参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。 」に訂正し、 同段落に「【図7】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係るスラスト玉軸受とスラストころ軸受の軸受サイズ、及び動トルクの比較結果を示す図である。」とあるのを、「【図7】本発明の一参考形態(第1参考形態)に係るスラスト玉軸受とスラストころ軸受の軸受サイズ、及び動トルクの比較結果を示す図である。」に訂正する。 5 訂正事項5 本件特許の明細書の段落【0012】に「(第1実施形態) 図1には、本発明の第1実施形態に係るスラスト玉軸受の構成が示されている。かかる軸受は、軌道面を有する少なくとも1枚の軌道輪と、当該軌道面に対して周方向へ沿って配された複数の玉と、当該玉を転動自在に保持する保持器とを備えている。この場合、軌道輪を少なくとも1枚備えていれば、軸受を構成することは可能であるが、本実施形態においては、図1に示すように2枚の軌道輪2,4を相対回転可能に対向して配置した軸受構成を想定している。ただし、後述する本発明の第3実施形態(図3)及び第4実施形態(図4)のように、軌道輪を1枚だけ備えた軸受構成とすることも可能である。」とあるのを、 「(第1参考形態) 図1には、本発明の第1参考形態に係るスラスト玉軸受の構成が示されている。かかる軸受は、軌道面を有する少なくとも1枚の軌道輪と、当該軌道面に対して周方向へ沿って配された複数の玉と、当該玉を転動自在に保持する保持器とを備えている。この場合、軌道輪を少なくとも1枚備えていれば、軸受を構成することは可能であるが、本参考形態においては、図1に示すように2枚の軌道輪2,4を相対回転可能に対向して配置した軸受構成を想定している。ただし、後述する本発明の第3参考形態(図3)及び第4参考形態(図4)のように、軌道輪を1枚だけ備えた軸受構成とすることも可能である。」に訂正する。 6 訂正事項6 本件特許の明細書の段落【0019】に「本実施形態において、」とあるのを、「本参考形態において、」に訂正し、 同明細書の段落【0021】に「本実施形態に係る」とあるのを、「本参考形態に係る」に訂正し、 同明細書の段落【0023】の2箇所に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0025】に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0025】に「第3実施形態」とあるのを、「第3参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0025】に「第4実施形態」とあるのを、「第4参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0026】に「第3実施形態」とあるのを、「第3参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0026】の3箇所に「本実施形態」とあるのを、「本参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0026】に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0027】に「第4実施形態」とあるのを、「第4参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0027】の3箇所に「本実施形態」とあるのを、「本参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0027】に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0027】に「第3実施形態」とあるのを、「第3参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0028】に「第3実施形態」とあるのを、「第3参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0028】に「第4実施形態」とあるのを、「第4参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0028】に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0028】に「第1実施形態から第4実施形態(図1から図4)」とあるのを、「図1から図4」に訂正し、 同明細書の段落【0029】の2箇所に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0030】に「第1実施形態」とあるのを、「第1参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0030】に「第3実施形態」とあるのを、「第3参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0030】に「第4実施形態」とあるのを、「第4参考形態」に訂正し、 同明細書の段落【0031】に「第1実施形態から第6実施形態(図1から図6)」とあるのを、「図1から図6」に訂正する。 第3 当審の判断 1 訂正事項1について (1)訂正の目的について 訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「前記保持器の窓部は、軸方向の片側もしくは両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され」と記載されていることにより、「前記保持器の窓部は、軸方向の片側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され」ている態様(以下、「前者の態様」という。)と、「前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され」ている態様(以下、「後者の態様」という。)の、2つの態様を任意選択事項として特定していた。 訂正事項1は、前者の態様を排除し、後者の態様に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】、段落【0024】、【0025】、【0029】、【0030】、【図2】、【図5】(b)、及び【図6】には、後者の態様が記載されているから、後者の態様、すなわち訂正事項1の「前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、」との事項は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 前記「(1)」から明らかなように、訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、発明特定事項として、前者の態様と後者の態様の2つの態様を特定していたところ、訂正事項1は、前者の態様を排除し、後者の態様に限定するものであるから、発明特定事項をより狭くするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 訂正事項1は、前記「(3)」のとおり、請求項1における発明特定事項をより狭くするものであるから、当該請求項1に係る発明について特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、訂正事項1により当該請求項1に係る発明が特許法第36条第4項第1項又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。 したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 2 訂正事項2?6について (1)訂正の目的について 訂正事項2?6は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である、 したがって、訂正事項2?6は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 前記「1(2)」と同様の理由により、訂正事項2?6は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項2?6は、特許請求の範囲の記載との整合を図るために、明細書の記載を訂正するものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2?6は、特許法第126条第6項の規定に適合する。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正事項1?6は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 スラスト玉軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、スラスト軸受、具体的には、主として自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどに使用されるスラスト玉軸受に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から、所定の回転軸を回転自在に支持すべく、種々の転がり軸受が用いられており、当該転がり軸受の軸受形式は、負荷する荷重の方向によってラジアル軸受とスラスト軸受に大別することができ、さらに、転動体の種類によって玉軸受ところ軸受に分類することができる。例えば、自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションの回転部分にはスラストころ軸受が装着され、当該回転部分に加わる軸方向のアキシアル荷重(スラスト荷重)を負荷している(特許文献1から3参照)。図9には、スラストころ軸受の構成の一例を示す。 【0003】 ところで、近年、地球温暖化を始めとする環境問題の深刻化を受け、自動車用のスラスト軸受に対する小型化、軽量化及び低トルク化の要請が厳しくなってきており、さらには、価格競争力確保のための低コスト化(端的には、軸受単価の低減や組み立ての効率化など)の要請も根強い。 このような要請に応える方策としては、ころ径(図9に示す寸法D)及びころ長(同、寸法L)を短縮させることによって軸受の小型軽量化を図るとともに、組み込みころ数を減少させることによって低トルク化を図ることなどが挙げられ、これらは軸受単価の低減化にもつながる場合がある。また、軌道輪(外径軌道輪32及び内径軌道輪34)とC&Rアセンブリ(保持器38ところ36の組付体)を非分離に一体化させることで、客先での組み立て性を向上させ、低コスト化を図ることが可能となる。その際、軌道輪(外径軌道輪32もしくは内径軌道輪34)を省くことで、軸受の軸方向幅をさらに狭めることも可能であるが、その一方で、当該軸受が装着される相手側部材のころ転動部位等に研磨などの加工が別途必要となる場合があり、この場合にはコストアップを招くこととなってしまう。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】実特平7-12627号公報 【特許文献2】特開2002-213439号公報 【特許文献3】特開平10-159842号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、ころ長Lを短くし、ころ径Dに対するころ長Lの比率(ころ長L/ころ径D)が1.5以下になると、ころ自体、ひいては軸受全体の製造方法の変更が必要となる場合があり、結果としてコストアップを招いてしまうという問題がある。あるいは、組み込みころ数を減らすと、保持器38の平面部の面積が窓部の面積に比べて大きく(広く)なることは不可避となる。したがって、例えば、金属製の保持器において、その組み込みころ数を減らし過ぎると、保持器平面部の面積が窓部面積に比べて過大となるため、当該保持器の熱処理時に反り変形などの不具合を引き起こし易くなってしまう。 また、低トルク化のためには、軸受の回転中に保持器がころのみで保持され、軌道輪と接触しない保持器構成(いわゆるころ持たせ保持器)とすることも有効であるが、ころ径が小さくなるに従って保持器の高さ(図9に示す寸法H)が低くなるため、実際にはころ持たせの実現は容易でない。この場合、保持器窓部の寸法を調整することで、ころ持たせを実現することも考えられるが、当該窓部の加工精度によってはころを拘束し、結果として、ころのスムーズな転動を妨げてしまう虞がある。 【0006】 本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、同一径及び同一個数のころを用いた場合と比較し、軸受の径方向幅(軸受外内径寸法比率)を短縮させることで軸受の小型軽量化を可能とするとともに、軌道輪と非接触状態で保持器に玉を保持させること(両側転動体持たせ)で軸受の低トルク化を可能とするスラスト玉軸受を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 このような目的を達成するために、本発明に係るスラスト玉軸受は、軌道面を有する少なくとも1枚の軌道輪と、当該軌道面に対して周方向へ沿って配された複数の玉と、当該玉を転動自在に保持する保持器とを備え、前記軌道輪は、軌道面が形成された円環状の軌道平板部と、当該軌道平板部の外周縁部から軸方向の一方側へ延出する外径側円筒部、もしくは前記平板部の内周縁部から軸方向の他方側へ延出する内径側円筒部のいずれかを有し、前記保持器は、前記玉で保持させる転動体持たせで、前記軌道輪と非接触状態であり、その外径が前記外径側円筒部の内径寸法より小寸、もしくはその内径が前記内径側円筒部の外径寸法より大寸、あるいは前記外径が前記外径側円筒部の内径寸法より小寸で、かつ前記内径が前記内径側円筒部の外径寸法より大寸に設定された円環状の保持器平板部と、当該保持器平板部に対して周方向へ沿って穿孔され、前記玉を保持するための複数の窓部とを有し、前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、当該玉を転動自在かつ脱落不能に保持し、前記外径側円筒部には、その延出周端部を縮径方向へ突出させ、前記保持器平板部の外周縁部と係合可能な外径側突出部が設けられているとともに、前記内径側円筒部には、その延出周端部を拡径方向へ突出させ、前記保持器平板部の内周縁部と係合可能な内径側突出部が設けられており、前記軌道輪と、前記保持器及び前記玉とを互いに相対回転可能で、かつ非分離に一体化させている。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、同一径及び同一個数のころを用いた場合と比較し、軸受の径方向幅(軸受外内径寸法比率)を短縮させることができ、軸受の小型軽量化を図ることができる。また、軌道輪と非接触状態で保持器に玉を保持させること、すなわち保持器を片側もしくは両側転動体持たせとすることができ、軸受の低トルク化を図ることができる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の第1参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。 【図2】本発明の第2実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。 【図3】本発明の第3参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。 【図4】本発明の第4参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す要部断面図である。 【図5】本発明の第5実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す図であって、(a)は、2つのPCDをなすように2列配置した玉を保持器で片側持たせとした軸受の要部断面図、(b)は、2つのPCDをなすように2列配置した玉を保持器で両側持たせとした軸受の要部断面図、(c)は、保持器窓部の開口周縁の構成を示す要部平面図である。 【図6】本発明の第6実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を示す図であって、(a)は、異なるPCDをなすように散在させた玉を保持器で両側持たせとした軸受の要部断面図、(b)は、保持器窓部の開口周縁の構成を示す要部平面図である。 【図7】本発明の一参考形態(第1参考形態)に係るスラスト玉軸受とスラストころ軸受の軸受サイズ、及び動トルクの比較結果を示す図である。 【図8】図7に示すスラストころ軸受との比較に用いたスラスト玉軸受の保持器の構成条件を説明するための図である。 【図9】従来のスラストころ軸受の構成を示す要部断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明のスラスト玉軸受(以下、単に軸受ともいう)について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明に係るスラスト玉軸受は、主として自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどの回転部分に装着され、当該回転部分に加わる軸方向のアキシアル荷重(スラスト荷重)を負荷するために用いられる場合を一例として想定するが、その用途はこれに限定されるものではない。その際、軸受は、軌道輪、転動体(玉)、及び保持器が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、焼付き防止、あるいは疲れ寿命の延長などを図るべく、潤滑することが好ましい。本実施形態においては、グリース潤滑と比べ、潤滑剤の流動性や軸受に対する冷却効果に優れた油潤滑(例えば、軸受内部への潤滑油の封入等)がなされている場合を一例として想定する。ただし、グリース潤滑(例えば、軸受内部へのグリースの封入等)とすることも想定可能である。 【0012】 (第1参考形態) 図1には、本発明の第1参考形態に係るスラスト玉軸受の構成が示されている。かかる軸受は、軌道面を有する少なくとも1枚の軌道輪と、当該軌道面に対して周方向へ沿って配された複数の玉と、当該玉を転動自在に保持する保持器とを備えている。この場合、軌道輪を少なくとも1枚備えていれば、軸受を構成することは可能であるが、本参考形態においては、図1に示すように2枚の軌道輪2,4を相対回転可能に対向して配置した軸受構成を想定している。ただし、後述する本発明の第3参考形態(図3)及び第4参考形態(図4)のように、軌道輪を1枚だけ備えた軸受構成とすることも可能である。 【0013】 2つの軌道輪のうち、軸方向の一方側(一例として、図1の左側)に配置される軌道輪(以下、外径軌道輪という)2は、軌道面(同、外径側軌道面という)2sが形成された円環状の軌道平板部(同、外径側平面部という)2aと、当該外径側平面部2aの外周縁部から軸方向の他方側(一例として、図1の右側)へ略直角をなして延出する外径側円筒部2bを有している。 これに対し、2つの軌道輪のうち、軸方向の他方側(一例として、図1の右側)に配置される軌道輪(以下、内径軌道輪という)4は、軌道面(同、内径側軌道面という)4sが形成された円環状の軌道平板部(同、内径側平面部という)4aと、当該内径側平面部4aの内周縁部から軸方向の一方側(一例として、図1の左側)へ略直角をなして延出する内径側円筒部4bを有している。 【0014】 この場合、外径軌道輪2及び内径軌道輪4は、いずれも薄肉(例えば、板厚が0.5mmから1.0mm程度)の板材を加工(プレス加工や曲げ加工など)することにより、断面視略L字状をなすように成形されている。そして、これらの外径軌道輪2及び内径軌道輪4は、外径側平面部2aと内径側平面部4a、より具体的には外径側軌道面2sと内径側軌道面4sが対向するとともに、外径側円筒部2bが外径側(図1においては上側)、内径側円筒部4bが内径側(同、下側)に配され、断面視略矩形状をなすように組み付けられる(図1)。 【0015】 転動体としての玉6は、その大きさ(直径(玉径))や組み込み数(配設数)などを任意に設定することができる。本実施形態においては、その直径(玉径)が1.5mmから2.5mm程度に設定された22個から40個程度の玉6が、その外周面(転動面)を外径側軌道面2sと内径側軌道面4sへ当接させるように、これらの軌道面2s,4s間の対向空間(以下、転動空間という)に周方向へ沿って所定間隔(一例として、等間隔)で配されている場合(単一のピッチ円径(PCD:Pitch Circle Diameter)をなす単列配置)を一例として想定する。なお、外径軌道輪2及び内径軌道輪4の構成、例えば、外径側平面部2a及び内径側平面部4aの径方向幅や、外径側円筒部2b及び内径側円筒部4bの軸方向長さは、上記転動空間に配される玉6の玉径や個数などに応じて設定すればよい。また、外径側平面部2aに対する外径側円筒部2bの延出角度、及び内径側平面部4aに対する内径側円筒部4bの延出角度も特に限定されない。 【0016】 保持器8は、その外径が外径軌道輪2の外径側円筒部2bの内径寸法より小寸で、かつその内径が内径軌道輪4の内径側円筒部4bの外径寸法より大寸に設定された円環状の平板部(以下、保持器平板部という)8aと、当該保持器平板部8aに対して周方向へ沿って穿孔され、玉6を保持するための複数の窓部80とを有している。そして、保持器8は、各窓部80に玉6を挿入し、これを保持した状態で外径軌道輪2と内径軌道輪4の間、具体的には、外径側軌道面2sと内径側軌道面4sの間の転動空間へ組み付けられる。このように保持器8が転動空間へ組み付けられた状態においては、保持器平板部8aが外径側円筒部2b及び内径側円筒部4bのいずれとも接触することなく、これらと所定の間隙を空けた状態となっている。なお、保持器8は、外径軌道輪2及び内径軌道輪4よりもさらに薄肉(例えば、板厚が0.3mmから0.5mm程度)の板材を加工(プレス加工や穿孔加工など)することにより、略円環の平板状に成形されている。 【0017】 保持器8の窓部80は、軸方向(図1の左右方向)の片側もしくは両側の開口周縁が玉6の直径(玉径)よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、当該玉6を転動自在かつ脱落不能に保持している。本実施形態においては、図1に示すように、窓部80の軸方向の片側(同図の左側)の開口周縁80aをその開口径が玉径よりも僅かに小寸となるまで軸方向の中央部位(以下、軸方向中央部という)80bよりも縮径させ、当該窓部80へ挿入した玉6を転動自在かつ脱落不能に保持する保持器8(端的には、窓部80)の構成(いわゆる片側転動体持たせ)を一例として想定している。すなわち、保持器8は、窓部80へ挿入した玉6を開口周縁80aと干渉させることで、かかる玉6を窓部80内において転動自在かつ脱落不能に保持している。 なお、開口周縁80aとは軸方向に対して反対側(図1の右側)の窓部80の開口周縁80cは、軸方向中央部80bよりも拡径され、その開口径が玉径よりも僅かに大寸に設定されている。すなわち、窓部80は、開口周縁80aから軸方向中央部80bを経て開口周縁80cへ向かうに従って徐々に周面域が拡径されるテーパー状(いわゆる円すい台形状の貫通孔)をなしている。その際、窓部80のテーパー角度(図8に示す傾斜角度α)は、30°から50°程度に設定すればよいが、特に限定されない。また、窓部80への玉6の挿入は、開口周縁80cから行えばよい。 【0018】 保持器8をこのような一枚の板材にテーパー状の窓部80を打ち抜くという非常に単純な構成とすることで、保持器8が金属製である場合であっても、当該保持器8を片側転動体持たせの構成とすることができるとともに、熱処理時における変形を確実に抑制することができる。仮に、保持器8に熱変形が生じた場合であっても、例えば、プレステンパーなどにより、当該保持器8の形状を容易に矯正することができる。 【0019】 本参考形態において、外径軌道輪2の外径側円筒部2bには、その延出周端部を縮径方向(図1においては下方向)へ突出させ、保持器平板部8aの外周縁部8bと係合可能な突出部(以下、外径側突出部という)2cが設けられている。これに対し、内径軌道輪4の内径側円筒部4bには、その延出周端部を拡径方向(図1においては上方向)へ突出させ、保持器平板部8aの内周縁部8cと係合可能な突出部(以下、内径側突出部という)4cが設けられている。なお、外径側突出部2cは、外径軌道輪2が軸方向(図1においては左方向)へ位置ずれした際、保持器平板部8aの外周縁部8bと干渉して係合し、過剰な押圧力が負荷されない限り、当該外周縁部8bとの干渉状態を維持して前記軸方向へそれ以上位置ずれすることがないように、その突出形態(突出長さや突出範囲など)を設定すればよい。同様に、内径側突出部4cは、内径側軌道輪4が軸方向(図1においては右方向)へ位置ずれした際、保持器平板部8aの内周縁部8cと干渉して係合し、過剰な押圧力が負荷されない限り、当該内周縁部8cとの干渉状態を維持して前記軸方向へそれ以上位置ずれすることがないように、その突出形態(突出長さや突出範囲など)を設定すればよい。また、図1には、外径側円筒部2b及び内径側円筒部4bの延出周端部を全周に亘って連続して突出させてなる外径側突出部2c及び内径側突出部4cの構成を一例として示しているが、例えば、前記円筒部2b,4bの延出周端部の1箇所、もしくは断続的に周方向の数箇所だけを突出させた構成とすることも可能である。 【0020】 このように外径軌道輪2の外径側円筒部2bに外径側突出部2cを設けるとともに、内径軌道輪4の内径側円筒部4bに内径側突出部4cを設けることで、外径軌道輪2及び内径軌道輪4と、保持器8及び玉6とを組み付けた場合、これらの軌道輪2,4と保持器8及び玉6の組付体(アセンブリ)とを互いに相対回転可能で、かつ非分離に一体化させることができる。 【0021】 ここで、本参考形態に係るスラスト玉軸受(以下、本件軸受という)と、転動体としてころを用いたスラストころ軸受(同、比較軸受という)の軸受サイズ、及び動トルクの比較を行った。その際、同一径(直径が1.5mm、2.0mm、2.5mmの3種類)の転動体(玉もしくはころ)を同一個数(22個、30個、40個の3種類)、同一板厚(0.3mm、0.4mm、0.5mmの3種類、図8に示す寸法t1)の保持器で保持し、これらを同一板厚(0.5mm、0.8mm、1.0mmの3種類)の軌道輪(外径軌道輪及び内径軌道輪)間の転動空間へ組み付けた場合における軸受内径寸法、及び当該軸受内径寸法に対する軸受外径寸法の比率(軸受外径寸法/軸受内径寸法の値)、そして動トルクを本件軸受と比較軸受についてそれぞれ測定し、その測定値を比較した。なお、比較は、転動体径、転動体個数、保持器板厚、軌道輪板厚をそれぞれ1.5mm、22個、0.3mm、0.5mmに設定した本件軸受及び比較軸受の構成を構成1、同様にかかる値をそれぞれ2.0mm、30個、0.4mm、0.8mmに設定した構成を構成2、2.5mm、40個、0.5mm、1.0mmに設定した構成を構成3とし、各構成1から3ごとに行った。また、いずれの構成においても転動体(玉もしくはころ)のPCDの位置は共通とし、本件軸受における保持器窓部の傾斜角度(図8に示す角度α)は、構成1を50°、構成2を40°、そして構成3を30°にそれぞれ設定した。以上の条件下での比較結果を図7に示す。 【0022】 図7から明らかなように、構成1から3のいずれにおいても、本件軸受は比較軸受よりも軸受内径寸法が4mmから5mm程度大きく、当該軸受内径寸法に対する軸受外径寸法の比率(軸受外径寸法/軸受内径寸法の値)が0.4から0.6程度小さい。すなわち、転動体(玉もしくはころ)の径及び個数、及び保持器と軌道輪を上記条件とし、PCD位置を共通とした場合、本件軸受は、比較軸受よりも軸受の径方向幅(軸受外径寸法/軸受内径寸法の値、軸受外内径寸法比率)を小さくする(短縮させる)ことができる。したがって、本件軸受であるスラスト玉軸受によれば、軸受の小型軽量化を図ることができ、結果として、本件軸受(スラスト玉軸受)が装着される自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどの車載装置の小型軽量化を図ることが可能となる。 また、構成1から3のいずれにおいても、本件軸受は比較軸受よりも動トルクが5分の1程度に抑えられている。したがって、本件軸受であるスラスト玉軸受によれば、動トルクを格段に低減させることができ、結果として、上記自動車のトランスミッションなどの車載装置の高効率化を図ることが可能となる。 【0023】 なお、上述した第1参考形態(図1)は、本発明に係るスラスト玉軸受の一例に過ぎず、軸受構成はこれに限定されることなく、適宜変更することが可能である。例えば、図2から図6には、本発明の第2実施形態から第6実施形態に係るスラスト玉軸受の構成がそれぞれ示されており、各図示構成であっても、上述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。以下、これらの各実施形態について説明する。ただし、これら各実施形態の基本的軸受構成は、上述した第1参考形態(図1)と共通するものであり、その構成部材と同一もしくは類似する部材については図面上で同一符号を付して説明を省略もしくは簡略化し、各実施形態に特有の構成についてのみ詳述する。 【0024】 (第2実施形態) 本実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を図2に示す。 本実施形態においては、保持器8を所定の樹脂(各種の合成樹脂など)で射出成形している。その際、保持器8は、窓部80の軸方向(図2の左右方向)の両側の開口周縁80aを軸方向中央部80bよりも縮径させ、当該窓部80へ挿入した玉6を転動自在かつ脱落不能に保持する構成(いわゆる両側転動体持たせ)となるように成形する。具体的には、窓部80の軸方向中央部80bから軸方向両側の開口周縁80aに到るまでの周面域を凹曲面状(例えば、保持する玉6の外周面(転動面)の曲率よりも小さな曲率の凹球面状)をなすように成形すればよい。 かかる保持器8の窓部80に玉6を挿入する場合、まず、当該保持器8の軸方向の一方側(いずれ側かは問わない)の開口周縁80aに玉6の外周面(転動面)を当接させる。この状態から、玉6を軸方向の他方側へ押圧し、前記軸方向の一方側の開口周縁80aを玉6の外周面に沿って拡張させつつ、窓部80内(軸方向中央部80b)へ押し込んでいく。そして、玉6が軸方向の他方側の開口周縁80aと当接するまで押し込み、当該玉6を窓部80へ挿入する(いわゆるパチン挿入)。この結果、窓部80に挿入された玉6は、保持器8の軸方向の両側で開口周縁80aによって挟持された状態となる(図2に示す状態)。これにより、窓部80内での玉6の回転姿勢を安定させることができるとともに、当該玉6が窓部80から脱落することを有効に防止することができる。 なお、図2には、保持器8の肉厚を軌道輪(外径軌道輪2及び内径軌道輪4)よりも厚肉とした構成を一例として示しているが、上述した第1実施形態(図1)と同様に、軌道輪(外径軌道輪2及び内径軌道輪4)よりも薄肉とした保持器構成とすることも可能である。 【0025】 上述した第1参考形態(図1)及び第2実施形態(図2)においては、2枚の軌道輪(外径軌道輪2及び内径軌道輪4)を相対回転可能に対向して配置し、これらの軌道面(外径側軌道面2s及び内径側軌道面4s)間の転動空間に保持器8及び玉6を組み付けた軸受構成としているが、軸受が装着される相手側部材(例えば、自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどの車載装置)が玉6と接触する部位(以下、相手側軌道面という)の面状態が良好である場合(例えば、表面研磨加工が施されて滑面状態となっている場合など)には、軌道輪を1枚だけ備えた軸受構成とすることも可能である。 このような軌道輪が1枚の軸受構成を、第3参考形態(図3)及び第4参考形態(図4)として次に説明する。 【0026】 (第3参考形態) 本参考形態は、上述した第1参考形態(図1)における内径軌道輪4を省略し、軌道輪を外径軌道輪2のみで構成した形態(軸受を一部開放した形態)となっている。本参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を図3に示す。 本参考形態においては、軸受を相手側部材(例えば、自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどの車載装置)に装着することで、外径軌道輪2の外径側軌道面2sと相手側軌道面(図示しない)との間に玉6を転動させるための転動空間を形成しており、当該転動空間に保持器8及び玉6の組付体(アセンブリ)が配設される構成となっている。この場合、外径軌道輪2の外径側突出部2cは、軸方向へ最も突出する部位(図3においては、右方向の突出端)20cが外径側軌道面2sと当接状態にある玉6よりも軸方向(同図においては、右方向)へ突出することがないように、その突出形態(突出長さや突出範囲など)が設定されている。これにより、軸受を相手側部材に装着させた際、外径側突出部2c(具体的には、その突出端20c)を当該相手側部材(相手側軌道面)と干渉(当接)させることなく、玉6の外周面(転動面)を外径側軌道面2sと相手側軌道面の双方に当接させることができ、これら軌道面の間に玉6の転動空間を形成することが可能となる。なお、保持器8及び玉6の組付体(アセンブリ)は、窓部80の開口周縁80aが相手側部材(相手側軌道面)へ臨むように、別の捉え方をすれば、開口周縁80aが軸受の開放側(図3においては、右側)へ向くように、前記転動空間へ配設させることが好ましい。 このように軌道輪を外径軌道輪2のみで構成することで、さらに軸受の小型軽量化を図ることが可能となり、結果として、軸受が装着される自動車のトランスミッションなどの車載装置の一層の小型軽量化を図ることも可能となる。 【0027】 (第4参考形態) 本参考形態は、上述した第1参考形態(図1)における外径軌道輪2を省略し、軌道輪を内径軌道輪4のみで構成した形態(軸受を一部開放した形態)となっている。本参考形態に係るスラスト玉軸受の構成を図4に示す。 本参考形態においては、軸受を相手側部材(例えば、自動車のエアコン用コンプレッサやトルクコンバータ、トランスミッションなどの車載装置)に装着することで、内径軌道輪4の内径側軌道面4sと相手側軌道面(図示しない)との間に玉6を転動させるための転動空間を形成しており、当該転動空間に保持器8及び玉6の組付体(アセンブリ)が配設される構成となっている。この場合、内径軌道輪4の内径側突出部4cは、軸方向へ最も突出する部位(図4においては、左方向の突出端)40cが内径側軌道面4sと当接状態にある玉6よりも軸方向(同図においては、左方向)へ突出することがないように、その突出形態(突出長さや突出範囲など)が設定されている。これにより、軸受を相手側部材に装着させた際、内径側突出部4c(具体的には、その突出端40c)を当該相手側部材(相手側軌道面)と干渉(当接)させることなく、玉6の外周面(転動面)を内径側軌道面4sと相手側軌道面の双方に当接させることができ、これら軌道面の間に玉6の転動空間を形成することが可能となる。なお、保持器8及び玉6の組付体(アセンブリ)は、窓部80の開口周縁80aが相手側部材(相手側軌道面)へ臨むように、別の捉え方をすれば、開口周縁80aが軸受の開放側(図4においては、左側)へ向くように、前記転動空間へ配設させることが好ましい。 このように軌道輪を内径軌道輪4のみで構成することで、さらに軸受の小型軽量化を図ることが可能となり、結果として、軸受が装着される車載装置の一層の小型軽量化を図ることも可能となることは、上述した第3参考形態と同様である。 【0028】 なお、これら第3参考形態(図3)及び第4参考形態(図4)においては、上述した第1参考形態(図1)における内径軌道輪4もしくは外径軌道輪2を省略した軸受構成としているが、第2実施形態(図2)における内径軌道輪4もしくは外径軌道輪2を省略した軸受構成とすることも想定可能である。 また、上述した図1から図4においては、玉6を所定の転動空間に対して周方向に沿って所定間隔(一例として、等間隔)で配した軸受構成(すなわち、単一のPCDをなす単列玉配置)としているが、例えば、軸受内外径幅の狭小化条件がそれ程厳しくない場合などには、かかる所定空間に玉6を複列配置もしくは散在させた軸受構成とすることも可能である。 このように単一PCDをなす単列以外の玉配置とした軸受構成を、第5実施形態(図5)及び第6実施形態(図6)として次に説明する。 【0029】 (第5実施形態) 本実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を図5に示す。 本実施形態は、上述した第1参考形態(図1)及び第2実施形態(図2)において、外径側軌道面2sと内径側軌道面4sの間の転動空間に対し、同一放射線上(周方向に対して同一の位相上)に2つずつ並べた玉6を周方向に沿って所定間隔(一例として、等間隔)で配した軸受構成(すなわち、異なるPCDをなす複列玉配置(2つのPCDをなす2列玉配置))としている。図5(a)には、第1参考形態(図1)に係るスラスト玉軸受を2つのPCDをなす2列玉配置とし、これらの玉6を保持器8で片側持たせとした軸受構成を示しており、同図(b)には、第2実施形態(図2)に係るスラスト玉軸受を2つのPCDをなす2列玉配置とし、これらの玉6を保持器8で両側持たせとした軸受構成を示している。 図5(a)に示す構成においては、軸方向の片側(同図の左側)の開口周縁80aを玉6の直径(玉径)の2倍よりも僅かに小さな径方向幅で、かつ玉6の直径よりも僅かに小さな周方向幅の矩形状とした窓部80が、保持器平板部8aに対してプレス加工などにより複数穿孔されている(図5(c))。これに対し、図5(b)に示す構成においては、軸方向の両側(同図の左側及び右側)の開口周縁80aをいずれも玉6の直径(玉径)の2倍よりも僅かに小さな径方向幅で、かつ玉6の直径よりも僅かに小さな周方向幅の矩形状とした窓部80が、保持器平板部8aに対して射出成形などにより複数形成されている(図5(c))。 【0030】 (第6実施形態) 本実施形態に係るスラスト玉軸受の構成を図6に示す。 本実施形態は、上述した第2実施形態(図2)において、外径側軌道面2sと内径側軌道面4sの間の転動空間に対し、周方向に沿って所定間隔(一例として、等間隔)で配した複数の玉6を異なるPCD位置で、かつ周方向に対する位相をずらして同一放射線状に並ばないように配列した軸受構成としている。すなわち、異なるPCDをなす散在玉配置とし、これらの玉6を保持器8で両側持たせとした軸受構成となっている(図6(a))。 この場合、保持器8には、軸方向(図6(a)の左右方向)の両側の開口周縁80aを軸方向中央部80bよりも縮径させ、当該窓部80へ挿入した玉6を転動自在かつ脱落不能に保持する構成(いわゆる両側転動体持たせ)とする窓部80を玉配置に応じて成形すればよい(図6(b))。 なお、本実施形態は、図6に示すように、上述した第2実施形態(図2)に係るスラスト玉軸受を異なるPCDをなす散在玉配置とし、これらの玉6を保持器8で両側持たせとすることを想定しているが、第1参考形態(図1)に係るスラスト玉軸受を異なるPCDをなす散在玉配置とし、これらの玉6を保持器8で片側持たせとすることも想定可能である。 また、第5実施形態(図5)及び第6実施形態(図6)に係るスラスト玉軸受を、上述した第3参考形態(図3)及び第4参考形態(図4)のように内径軌道輪4もしくは外径軌道輪2を省略した軸受構成(軸受の一部を開放した構成)とすることも想定可能である。 【0031】 以上、図1から図6に係るスラスト玉軸受によれば、同一径及び同一個数のころを用いた場合と比較し、軸受の径方向幅(軸受外内径寸法比率)を短縮させることができ、軸受の小型軽量化を図ることができる。また、軌道輪(外径軌道輪2や内径軌道輪4)と非接触状態で保持器8に玉6を保持させること、すなわち保持器8を片側もしくは両側転動体持たせとすることができ、軸受の低トルク化を図ることができる。 なお、スラストころ軸受は、その構造上、回転時にころと軌道輪(外径軌道輪や内径軌道輪)の間ですべりが発生し、トルクの増大や両者の接触部分などに摩耗を誘発する場合があるが、転動体を玉とした場合にはこのようなすべりはほぼ発生しないため、スラスト玉軸受はスラストころ軸受と比べてトルク低減化や摩耗防止を図りやすい。また、転動体径(ころ径)が2.5mm以上である場合には、保持器の形状によってはスラストころ軸受においてもころ持たせとすることが可能であるが、転動体径(ころ径)が2.5mmよりも小さい場合には、保持器をころ持たせとすることは容易でない。したがって、転動体径(玉径)が2.5mmよりも小さい本発明の各実施形態は、同一径のころを用いたスラストころ軸受に対し、低トルク化や耐摩耗性の観点において高い優位性を持つ。 【符号の説明】 【0032】 2 外径軌道輪 2a 外径側平面部 2b 外径側円筒部 2c 外径側突出部 2s 外径側軌道面 4 内径軌道輪 4a 内径側平面部 4b 内径側円筒部 4c 内径側突出部 4s 内径側軌道面 6 玉 8 保持器 8a 保持器平板部 8b 保持器平板部外周縁部 8c 保持器平板部内周縁部 80 保持器窓部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 軌道面を有する少なくとも1枚の軌道輪と、当該軌道面に対して周方向へ沿って配された複数の玉と、当該玉を転動自在に保持する保持器とを備え、 前記軌道輪は、軌道面が形成された円環状の軌道平板部と、当該軌道平板部の外周縁部から軸方向の一方側へ延出する外径側円筒部、もしくは前記平板部の内周縁部から軸方向の他方側へ延出する内径側円筒部のいずれかを有し、 前記保持器は、前記玉で保持させる転動体持たせで、前記軌道輪と非接触状態であり、その外径が前記外径側円筒部の内径寸法より小寸、もしくはその内径が前記内径側円筒部の外径寸法より大寸、あるいは前記外径が前記外径側円筒部の内径寸法より小寸で、かつ前記内径が前記内径側円筒部の外径寸法より大寸に設定された円環状の保持器平板部と、当該保持器平板部に対して周方向へ沿って穿孔され、前記玉を保持するための複数の窓部とを有し、 前記保持器の窓部は、軸方向の両側の開口周縁が前記玉の直径よりも小寸となるように軸方向の中央部位に対して縮径され、当該玉を転動自在かつ脱落不能に保持し、 前記外径側円筒部には、その延出周端部を縮径方向へ突出させ、前記保持器平板部の外周縁部と係合可能な外径側突出部が設けられているとともに、前記内径側円筒部には、その延出周端部を拡径方向へ突出させ、前記保持器平板部の内周縁部と係合可能な内径側突出部が設けられており、 前記軌道輪と、前記保持器及び前記玉とを互いに相対回転可能で、かつ非分離に一体化させたことを特徴とするスラスト玉軸受。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-03-09 |
結審通知日 | 2018-03-13 |
審決日 | 2018-03-26 |
出願番号 | 特願2010-220528(P2010-220528) |
審決分類 |
P
1
41・
853-
Y
(F16C)
P 1 41・ 854- Y (F16C) P 1 41・ 855- Y (F16C) P 1 41・ 856- Y (F16C) P 1 41・ 851- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 内田 博之 |
登録日 | 2014-12-05 |
登録番号 | 特許第5655473号(P5655473) |
発明の名称 | スラスト玉軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |