• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C10M
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C10M
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C10M
管理番号 1339392
審判番号 訂正2018-390022  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-01-31 
確定日 2018-04-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5358965号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5358965号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許
本件訂正審判に係る特許は、発明の名称を「転動装置用生分解性グリース組成物及び転動装置」とする特許第5358965号(以下、「本件特許」という。)であって、平成20年2月8日を出願日とする特願2008-28968号について、平成25年9月13日、設定登録を受けたものである(設定登録時の請求項の数は2である。)。

2 本件訂正審判における手続の経緯
本件訂正審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 1月31日 審判請求書提出
同年 2月16日付け 手続補正指令(方式)
同年 2月23日 手続補正書提出

第2 本件訂正審判の請求の趣旨と訂正内容

1 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

2 本件訂正の内容
本件訂正審判に係る明細書及び特許請求の範囲の訂正の内容は、以下に示す、訂正事項1ないし8である(以下、これらを併せて「本件訂正」という。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲【請求項1】の「植物油及びエステル油の少なくとも一方からなる基油」との記載を、「菜種油」に訂正する(請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
明細書段落【0006】の「(1)植物油及びエステル油の少なくとも一方からなる基油」との記載を、「(1)菜種油」に訂正する。
(3) 訂正事項3
明細書段落【0010】の「基油には、生分解性に優れることから植物油及びエステル油の少なくとも一方を用いる。」との記載を、「基油には、生分解性に優れることから菜種油を用いる。」に訂正する。
(4) 訂正事項4
明細書段落【0011】の「植物油としては、菜種油,ひまわり油,大豆油,綿実油,コーン油,ひまし油等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。但し、低温での流動性と酸化安定性とのバランスに優れた菜種油、ひまし油が特に好ましい。」との記載を、「低温での流動性と酸化安定性とのバランスに優れた菜種油が特に好ましい。」に訂正する。
(5) 訂正事項5
明細書段落【0012】の記載を削除する。
(6) 訂正事項6
明細書段落【0020】の「(実施例1?6、比較例1?3)」との記載を、「(実施例1、4、参考例2?3、5?6、比較例1?3)」に訂正し、同段落の「実施例1?3では生分解性の基油(植物油またはエステル油)」との記載を、「実施例1、参考例2?3では生分解性の基油(植物油またはエステル油)」に訂正し、同段落の「実施例4?6では生分解性の基油(植物油またはエステル油)」との記載を、「実施例4、参考例5?6では生分解性の基油(植物油またはエステル油)」に訂正し、同段落【0023】の【表1】中の「実施例2」との記載を、「参考例2」に訂正し、同表中の「実施例3」との記載を、「参考例3」に訂正し、同表中の「実施例5」との記載を、「参考例5」に訂正し、同表中の「実施例6」との記載を、「参考例6」に訂正する。
(7) 訂正事項7
明細書段落【0024】の「植物油またはエステル油」との記載を、「菜種油」に訂正する。
(8) 訂正事項8
明細書段落【0020】の「比較襟3」との記載を、「比較例3」に訂正する。

第3 当審の判断

前記訂正事項1ないし8が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否か(訂正の目的の適否)、同条第5項(新規事項の追加の有無)、同条第6項(特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無)及び同条第7項(独立特許要件充足性)の各規定に適合するものであるか否かについて、訂正事項1から順に以下検討をする。

1 訂正事項1
(1) 訂正の目的の適否
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の「植物油及びエステル油の少なくとも一方からなる基油」を「菜種油」に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。
また、特許請求の範囲の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、訂正事項1は、請求項2についても、上記請求項1と同様の訂正を行うものであるところ、当該訂正も、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
明細書段落【0023】の【表1】(同表の説明は同段落【0020】参照)の実施例1、4には、菜種油を基油とし、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドあるいはN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n?ジブチルアミドを増ちょう剤としたグリース(不混和ちょう度をNLGI No.2に調整したもの)が具体例として記載され、同表には、それらの生分解性評価試験及びトルク試験の結果が併記されている。そして、図面【図2】及び【図3】(同図の説明は同段落【0022】参照)には、これら実施例1、4を封入した試験軸受のトルクの変動について記載され、同【0024】には、当該実施例のグリースは生分解性に優れ、更にこれらを封入した試験軸受も低トルクで、かつ、トルクが早期に安定していることについて記載されている。
また、図面【図4】(同図の説明は同段落【0025】参照)及び図面【図5】(同図の説明は同段落【0026】参照)には、菜種油を基油とし、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドあるいはN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n?ジブチルアミドを増ちょう剤として得られたグリースの増ちょう剤量と不混和ちょう度との関係について記載され、同段落【0027】には、当該増ちょう剤を用いることにより、2?5質量%という少ない量で、転がり軸受用として一般的なNLGI No.2程度のちょう度が得られることについて記載されている。
このように、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドあるいはN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n?ジブチルアミドを増ちょう剤としたグリースにおいて、菜種油を基油とすることは、明細書において具体例をもって示されていた事項であるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項1は、特許請求の範囲に記載された「植物油及びエステル油の少なくとも一方からなる基油」を「菜種油」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。
(4) 独立特許要件充足性
訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、先行技術との関係において、特許要件を満たさなくなるような事情は存在せず、また、訂正事項1により、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に新たな記載不備が生じるわけでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。

2 訂正事項2
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0006】には、本件訂正前の請求項1に対応する「(1)植物油及びエステル油の少なくとも一方からなる基油」との記載がなされていたところ、当該請求項1は前記訂正事項1により訂正されたため、両者は整合しないものとなった。
訂正事項2は、当該不整合を解消するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
前記「1(2)」のとおり、基油を菜種油とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項であるから、訂正事項2は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項2は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

3 訂正事項3
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0010】には、本件訂正前の請求項1に対応する「基油には、生分解性に優れることから植物油及びエステル油の少なくとも一方を用いる。」との記載がなされていたところ、当該請求項1は前記訂正事項1により訂正されたため、両者は整合しないものとなった。
訂正事項3は、当該不整合を解消するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
前記「1(2)」のとおり、基油を菜種油とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項であるから、訂正事項3は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項3は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

4 訂正事項4
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0011】には、本件訂正前の請求項1に対応する「植物油としては、菜種油,ひまわり油,大豆油,綿実油,コーン油,ひまし油等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。
但し、低温での流動性と酸化安定性とのバランスに優れた菜種油、ひまし油が特に好ましい。」との記載がなされていたところ、当該請求項1は前記訂正事項1により訂正されたため、両者は整合しないものとなった。
訂正事項4は、当該不整合を解消するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
前記「1(2)」のとおり、基油を菜種油とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項であるから、訂正事項4は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項4は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

5 訂正事項5
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0012】には、本件訂正前の請求項1に対応するエステル油に関する記載がなされていたところ、当該請求項1は前記訂正事項1により訂正されたため、両者は整合しないものとなった。
訂正事項5は、当該不整合を解消するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
訂正事項5は、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と整合しない明細書の記載を削除するものであるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項5は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

6 訂正事項6
(1) 訂正の目的の適否
前記訂正事項1により、特許請求の範囲に記載された基油は、菜種油に減縮されたところ、本件訂正前の明細書の実施例2、3、5及び6は、基油として菜種油以外の植物油またはエステル油を用いているから、これらは本件訂正後の特許請求の範囲に係る発明の実施例にあたらない。
訂正事項6は、当該発明の技術的範囲に含まれなくなる実施例を参考例とし、当該訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
訂正事項6は、前記訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために、当該発明の技術的範囲に含まれなくなる実施例を参考例に訂正するものである。
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項6は、単に、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

7 訂正事項7
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0024】には、本件訂正前の請求項1に対応させて「植物油またはエステル油」との記載がなされていたところ、当該請求項1は前記訂正事項1により訂正されたため、両者は整合しないものとなった。
訂正事項7は、当該不整合を解消するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
前記「1(2)」のとおり、基油を菜種油とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項であるから、訂正事項7は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項7は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載に明細書の記載を整合させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

8 訂正事項8
(1) 訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書段落【0020】には、「比較襟3」と記載されているが、日本語として意味をなさず、文脈からみて「比較例3」の誤記であることは明白である。
訂正事項8は、明白な誤記を本来の正しい意味に正すものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
訂正事項8は、単に、日本語として意味をなさない明白な誤記である「比較襟3」を、本来の意味である「比較例3」に正すものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項8は、単なる誤記の訂正にすぎないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項8は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。
(4) 独立特許要件充足性
訂正事項8は、単に、日本語として意味をなさない明白な誤記を、本来の意味に正すものであるから、これにより独立特許要件を充足しなくなるような事情は認められない。
したがって、訂正事項8は、特許法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。

第4 結び

以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転動装置用生分解性グリース組成物及び転動装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動装置用生分解性グリース組成物、並びに前記生分解性グリース組成物で潤滑される転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受等の転動装置では、環境問題から、生分解性グリース組成物により潤滑することが行われている。生分解性グリース組成物としては、基油に生分解性の高い植物油やエステル油を用い、増ちょう剤として金属石けんを使用しているものが殆どである(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、基油は生分解性が高いものの、増ちょう剤は金属元素を含むことから、グリース全体としての生分解性は良好とは言えない。しかも、潤滑性を確保するためにはNLGI No.2(265?295)程度のちょう度が必要となるが、その場合、金属石けんの含有量として10?20質量%程度必要であり、金属元素量が多くなるため、グリース全体としての生分解性は良好とは言い難い。また、金属石けんの含有量が多いことにより、トルクが高くなって発熱量が増したり、トルクの安定までに時間を要する等の問題もある。
【0004】
【特許文献1】特開平5-86389号公報
【特許文献2】特開2002-323053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、これまでよりも優れた生分解性を有し、更に増ちょう剤量を低減して低トルク化及びトルクの早期安定化を図った生分解性グリース組成物を提供することを目的とする。また、前記の生分解性グリース組成物による潤滑され、低トルクでトルク安定性に優れる転動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、下記の転動装置用生分解性グリース組成物及び転動装置を提供する。
(1)菜種油に、増ちょう剤としてN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド及びN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドの少なくとも一方をグリース全量に対し2?5質量%配合し、不混和ちょう度をNLGI No.2に調整したことを特徴とする転動装置用生分解性グリース組成物。
(2)上記(1)に記載の転動装置用生分解性グリース組成物により潤滑されることを特徴とする転動装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生分解性グリース組成物は、基油だけでなく、増ちょう剤にも生分解性を有する材料を用いるため、従来の基油のみ生分解性を有する生分解性グリース組成物よりも格段に優れる生分解性を有する。しかも、増ちょう剤量を低減することができ、低トルク化及びトルクの早期安定化も図れる。
【0008】
また、本発明の転動装置は、前記の生分解性グリース組成物による潤滑されるため、低トルクで、トルク安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0010】
(生分解性グリース組成物)
本発明の生分解性グリース組成物において、基油には、生分解性に優れることから菜種油を用いる。
【0011】
低温での流動性と酸化安定性とのバランスに優れた菜種油が特に好ましい。
【0012】(削除)
【0013】
また、基油は、潤滑性等の観点から、40℃における動粘度が10?400mm^(2)/sであることが好ましく、20?150mm^(2)/sであることがより好ましい。基油が植物部とエステル油との混合油の場合は、前記の動粘度となるように、組み合わせや混合比を調整する。
【0014】
増ちょう剤には、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド及びN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドの少なくとも一方を用いる。これらの増ちょう剤は、生分解性に優れるだけでなく、ゲル化性能にも優れるため、より少ない含有量でNLGI No.2とすることができる。NLGI No.2とする場合、金属石けんでは10?20質量%程度の含有量が必要であるのに対し、2?5質量%で済む。そのため、低トルク化、トルクの早期安定化を図ることができ、更には相対的に基油量が増すため、生分解性が更に向上し、潤滑性も向上する。
【0015】
また、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドとを併用する場合は、合計で前記の含有量とする。
【0016】
生分解性グリース組成物には、必要に応じて各種添加剤を添加することができるが、生分解性を有するものや、金属元素を含まないものを用いることが望ましい。
【0017】
また、生分解性グリース組成物の調製方法は、従来と同様で構わない。
【0018】
(転動装置)
本発明は、上記の生分解性グリース組成物で潤滑される転動装置を提供する。図1に玉軸受1を例示するが、この玉軸受1は、内輪10と外輪11との間に、保持器12により、複数の玉13が等間隔で転動自在に配置されており、内輪10、外輪11及び玉13で形成される軸受空間に上記の生分解性グリース組成物Gを充填し、シール部材14で封止されている。また、軸受の用途としてはホイール用軸受、食品機械用軸受、電装補機用軸受、エンジン用軸受、精密機械用軸受、工作機械用軸受等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
転動装置としては、その他に、ボールねじ、リニアガイド装置、直動ベアリング等があるが、何れも上記の生分解性グリース組成物で潤滑される限り、公知の構成で構わない。
【実施例】
【0020】
(実施例1、4、参考例2?3、5?6、比較例1?3)
表1に示すように、実施例1、参考例2?3では生分解性の基油(植物油またはエステル油)に、増ちょう剤としてN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドを4質量%となるように配合して試験グリースとした。また、実施例4、参考例5?6では生分解性の基油(植物油またはエステル油)に、増ちょう剤としてN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドを4質量%となるように配合して試験グリースとした。一方、比較例1では菜種油にリチウム石けんを配合し、比較例2では鉱油にリチウム石けんを10質量%となるように配合し、比較例3では鉱油にウレアを18質量%となるように配合して試験グリースとした。尚、何れの試験グリースも、不混和ちょう度をNLGI No.2に調整した。そして、各試験グリースについて、下記の(1)生分解性評価試験及び(2)トルク試験を行った。結果を表1に併記する。
【0021】
(1)生分解性評価試験
欧州規格諮問委員会規格のL-33-T-82に規定された方法に従い、下記の3ランクにて評価した。転動装置に使用するグリースは、自然環境に放出された際の分解の速さから、生分解度80%以上であることが好ましく、Aランクを合格とした。
Aランク:生分解度80%以上
Bランク:生分解度60%以上80%未満
Cランク:生分解度60%未満
【0022】
(2)トルク試験
日本精工(株)製単列深溝玉軸受(内径25mm、外径62mm、幅17mm)に、試験グリースを3.4g封入し、試験軸受を作製した。そして、試験軸受を、常温、ラジアル荷重30N、アキシアル荷重300N、回転数3000min^(-1)にて回転させてトルクを測定し、回転開始5分後の値をトルク値とした。また、実施例1、比較例1及び比較例3の試験グリースを封入した試験軸受のトルクの変動を図2に、実施例4、比較例1及び比較例3の試験グリースを封入した試験軸受のトルクの変動を図3に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1及び図2、図3から、本発明に従い、菜種油に、増ちょう剤としてN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドまたはN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドを配合してなる実施例の各試験グリースは生分解性に優れ、更にこれらを封入した試験軸受も低トルクで、かつ、トルクが早期に安定している。これに対し、比較例1の試験グリースでは、基油が生分解性を有するため、生分解性の評価結果は合格であるが、増ちょう剤がリチウム石けんであり、その含有量が多いため試験軸受のトルクが大きく、トルクが安定するまで長時間を要している。また、比較例2の試験グリースでは、基油が鉱油で、増ちょう剤がリチウム石けんであるため、生分解性が悪く、試験軸受も含有量が多いことからトルクが高く、トルクが安定するまで長時間を要している。また、比較例3の試験グリースでは、基油が鉱油で、増ちょう剤がウレアであるため、生分解性が悪く、試験軸受も、リチウム石けんに比べて含有量が更に多いため、トルクが最も大きく、トルクが安定するまでの時間も長い。
【0025】
(増ちょう剤量と不混和ちょう度との関係)
菜種油を基油とし、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドの含有量が異なるグリースを調整し、得られたグリースの不混和ちょう度を測定した。増ちょう剤量と不混和ちょう度との関係を図4に示す。
【0026】
また、菜種油を基油とし、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドの含有量が異なるグリースを調製し、得られたグリースの不混和ちょう度を測定した。増ちょう剤量と不混和ちょう度との関係を図5に示す。
【0027】
図示されるように、増ちょう剤としてN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドを用いることにより、2?5質量%という他の増ちょう剤を用いた場合よりも少ない量で、転がり軸受用として一般的なNLGI No.2程度のちょう度が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の転動装置の一例である玉軸受を示す断面図である。
【図2】実施例1、比較例1及び比較例3の試験グリースのトルク試験の結果を示すグラフである。
【図3】実施例4、比較例1及び比較例3の試験グリースのトルク試験の結果を示すグラフである。
【図4】増ちょう剤(N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド)量と不混和ちょう度との関係を示すグラフである。
【図5】増ちょう剤(N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミド)量と不混和ちょう度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 玉軸受
10 内輪
11 外輪
12 保持器
13 玉
14 シール部材
G 生分解性グリース組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種油に、増ちょう剤としてN-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド及びN-ラウロイル-L-グルタミン酸-α,γ-n-ジブチルアミドの少なくとも一方をグリース全量に対し2?5質量%配合し、不混和ちょう度をNLGI No.2に調整したことを特徴とする転動装置用生分解性グリース組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の転動装置用生分解性グリース組成物により潤滑されることを特徴とする転動装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-19 
結審通知日 2018-03-22 
審決日 2018-04-05 
出願番号 特願2008-28968(P2008-28968)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C10M)
P 1 41・ 853- Y (C10M)
P 1 41・ 856- Y (C10M)
P 1 41・ 851- Y (C10M)
最終処分 成立  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
登録日 2013-09-13 
登録番号 特許第5358965号(P5358965)
発明の名称 転動装置用生分解性グリース組成物及び転動装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ