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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1339434
審判番号 不服2016-18364  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-07 
確定日 2018-04-11 
事件の表示 特願2014-212202「共役共通光路リソグラフィレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 80870〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月17日の出願であって、平成27年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月27日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年7月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年12月7日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年12月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成28年4月27日付けの手続補正の特許請求の範囲
「 【請求項1】
順に、第一球面レンズと第二球面レンズ、第三球面レンズ及び第四球面レンズが配列され、上記第一、二球面レンズによって曲率が付与されて球収差が校正され、上記第三、四球面レンズによって非点収差と像面湾曲が校正される四つの球面レンズと、
上記第四球面レンズの下方に配置され、光経路を反射し、開口数の大きさを制御する球面反射鏡と、
第一平面反射鏡と第二平面反射鏡を有し、斜めに、上記第一球面レンズの上方に設置され、光経路を案内する両平面反射鏡と、が含有され、
上記各光学レンズの設置により、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件にある図柄は、各光学レンズによってフォーカスされた後、歪みなしの画像が形成される、ことを特徴とする共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項2】
上記第一と第二及び第三球面レンズは、正曲面レンズであることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項3】
上記第四球面レンズは、負曲面レンズからなることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項4】
上記第一と第二、第三及び第四球面レンズの材料は、色収差を校正するように順番に配列されることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項5】
上記物件は、光マスクであることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項6】
上記物件にある図柄は、順に、上記第一平面反射鏡や上記第一球面レンズ、上第二球面レンズ鏡、上記第三球面レンズ、上記第四球面レンズ、上記球面反射鏡、上記第四球面レンズ、上記第三球面レンズ、上記第二球面レンズ、上記第一球面レンズ及び上記第二平面反射鏡に通し、画像が形成されて出力されることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。
【請求項7】
視準画像投影装置に適用されることを特徴とする請求項1に記載の共役共通光路リソグラフィレンズ。」(以下、「補正前の特許請求の範囲」という。)を
「 【請求項1】
順に、第一球面レンズ(11)と第二球面レンズ(12)、第三球面レンズ(13)及び第四球面レンズ(14)が配列され、上記第一、二球面レンズ(11,12)によって曲率が付与されて球収差が校正され、上記第三、四球面レンズ(13,14)によって非点収差と像面湾曲が校正される四つの球面レンズ(11,12,13,14)と、
上記第四球面レンズ(14)の下方に配置され、光経路を反射し、開口数の大きさを制御する球面反射鏡(15)と、
第一平面反射鏡(16)と第二平面反射鏡(17)を有し、斜めに、上記第一球面レンズ(11)の上方に設置され、光経路を案内する両平面反射鏡(16,17)と、が含有され、
上記各光学レンズの設置により、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件にある図柄は、各光学レンズによってフォーカスされた後、歪みなしの画像が形成され、
上記第一(11)と第二(12)及び第三球面レンズ(13)は、正曲面レンズであり、
上記第四球面レンズ(14)は、負曲面レンズとからなり、
上記第一(11)と第二(12)、第三(13)及び第四球面レンズ(14)の材料は、色収差を校正するように順番に配列され、
数値口径比がF/4.5、F/3.0またはF/1.4の共役共通光路リソグラフィレンズであり、
上記物件は、光マスクであり、
上記物件にある図柄は、順に、上記第一平面反射鏡(16)や上記第一球面レンズ(11)、上第二球面レンズ(12)、上記第三球面レンズ(13)、上記第四球面レンズ(14)、上記球面反射鏡(15)、上記第四球面レンズ(14)、上記第三球面レンズ(13)、上記第二球面レンズ(12)、上記第一球面レンズ(11)及び上記第二平面反射鏡(17)に通し、画像が形成されて出力され、
視準画像投影装置に適用される、
ことを特徴とする共役共通光路リソグラフィレンズ。」(下線部は補正箇所を示す。)
と補正するものである。

本件補正は、補正前の特許請求の範囲に記載された各構成要素に、本願の明細書及び図面において用いられていた番号を、括弧内に付記する補正事項(以下、「補正事項1」という。)と、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明に、補正前の特許請求の範囲の請求項2?7において特定されていた発明特定事項を付加する補正事項(以下、「補正事項2」という。)と、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明に、「数値口径比がF/4.5、F/3.0またはF/1.4」とする限定を付加する補正事項(以下、「補正事項3」という。)を含んでいる。

2 補正の目的
本件補正の補正事項1は、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面において記載されていた番号に基づくものであり、補正事項2は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項2?7の記載に基づくものであるから、補正事項1及び2は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。そして、補正事項3も、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0022】の「その中、図1と図2は、それぞれ、数値口径比F/4.5の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図であり、図3と図4は、それぞれ、F/3.0の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図であり、図5と図6は、それぞれ、F/1.4の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図である。」(下線は合議体が付与した。)との記載に基づくものであるから、補正事項3も当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加には当たらない。

また、補正事項3は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の共役共通光路リソグラフィレンズの数値口径比を限定するものである。本件補正の前後において請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 本願明細書の記載
本願明細書には、以下の記載がある。
(1)「 【技術分野】
【0001】
本発明は、共役共通光路リソグラフィレンズ(Conjugate Common Optical Path Lithography Lens)に関し、特に、球面と畳み合い式組み立てを利用し、全球面鏡セットと二種類の光学材料を組み合わせた共役共通光路リソグラフィレンズセットに関する。」

(2)「 【背景技術】
【0002】
リソグラフィレンズセットは、電子素子で露光機を作製する時の重要な二次システムであり、既存の電子素子メーカが使用した露光機は、全屈折式と長伸び式に分けられ、前者は体積が大きく、後者は素子数が少なくなるが、多数の面を利用するため、作製や組み立てが簡単ではない。
【0003】
長伸び式露光機は、例えば、ドイツのツアイス(ZEISS)会社-ASMLの方式(ドイツ特許DE19355198、DE19922209)と日本のニコン(NIKON)会社による畳み合い式漸近曲率方式で露光機能(図7を参照されたい。)が実現されるものがあり、また、材料を節約するため、フランスのサフラン(SAFRAN)会社が、ダイソン(DYSON)反射屈折式(中華人民共和国特許号CN101171546)で、光路を低減させ、光が鏡セット40、50内において折り返し、レンズの数が少なくなるが、レンズセット40、50と反射面20、22に、非球面(図8を参照されたい。)を利用しなければならなく、また、上海微機電会社によって提案された露光機(米国特許号US7746571 B2)にも、類似した方式(或いは、長伸び式)により、露光機能が実現される。しかしながら、上記特許は、複数の非球面レンズを利用するため、作製や組み立てが簡単でないだけでなく、組み立ての時、機構に対する精度の要求も高く、そのため、そのコストがより高くなる。上記のように、一般の従来のものは、実用的なものとは言えなかった。
【0004】
本発明者は、上記欠点を解消するため、慎重に研究し、また、学理を活用して、有効に上記欠点を解消でき、設計が合理である本発明を提案する。」

(3)「 【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、従来の上記問題を解消でき、球面と畳み合い式組み立てを利用して、その四つの球面レンズの各球面レンズと反射鏡の曲率が、ともに球面になり、全球面レンズセットと二種類の光学材料とを合わせてからなる共役共通光路リソグラフィレンズセットを提供する。
【0007】
本発明の次の目的は、リソグラフィレンズの機能がより容易に達成でき、素子の数が少なく、光部材の作製がより簡単になり(レンズ作製経験公式に満足できる)、校正簡単、抗色収差、優れた口径比F/#とコストダウン等の効果が得られる共役共通光路リソグラフィレンズセットを提供する。」

(4)「 【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以上の目的を達成するため、共役共通光路リソグラフィレンズであり、順に、第一球面レンズと第二球面レンズ、第三球面レンズ及び第四球面レンズが配列され、上記第一、二球面レンズによって、曲率が付与されて球収差が校正され、上記第三、四球面レンズによって、非点収差と像面湾曲が校正される四つの球面レンズと、上記第四球面レンズの下方に配置され、光経路を反射し、開口数の大きさを制御する球面反射鏡と、第一平面反射鏡と第二平面反射鏡を有し、斜めに、上記第一球面レンズの上方に設置され、光経路を案内する両平面反射鏡と、が含有され、上記各光学レンズの設置により、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件にある図柄は、各光学レンズによってフォーカスされた後、歪みなしの画像が形成される。
【0009】
本発明の上記実施例によれば、上記第一と第二及び第三球面レンズは、正曲面レンズである。
【0010】
本発明の上記実施例によれば、上記第四球面レンズは、負曲面凹レンズからなる。
【0011】
本発明の上記実施例によれば、上記第一と第二、第三及び第四球面レンズの材料は、色収差を校正するように順番に配列される。
【0012】
本発明の上記実施例によれば、上記物件は、光マスクである。
【0013】
本発明の上記実施例によれば、上記物件にある図柄は、順に、上記第一平面反射鏡や上記第一球面レンズ、上記第二球面レンズ、上記第三球面レンズ、上記第四球面レンズ、上記球面反射鏡、上記第四球面レンズ、上記第三球面レンズ、上記第二球面レンズ、上記第一球面レンズ及び上記第二平面反射鏡に通し、画像が形成されて出力される。
【0014】
本発明の上記実施例によれば、上記共役共通光路リソグラフィレンズは、視準画像投影装置に適用される。」

(5)「 【0018】
上記の四つの球面レンズ11?14は、順に、第一球面レンズ11と第二球面レンズ12、第三球面レンズ13及び第四球面レンズ14が配列され、また、上記第一と第二及び第三球面レンズ11、12、13は、正曲面レンズで、上記第四球面レンズ14は、負曲面レンズからなり、上記第一、二球面レンズ11、12は曲率を提供して球収差を校正し、上記第三、四つの球面レンズ13、14は非点収差を校正し、像面を湾曲させ、上記第一と第二、第三及び第四球面レンズ11、12、13、14の材料は色収差を校正するように順番に配列される。」

(6)「 【0019】
上記球面反射鏡15は、上記第四球面レンズ14の下方に配置され、光経路を反射し、開口数の大きさを制御する。」

(7)「 【0020】
上記両平面反射鏡16、17は、第一平面反射鏡16と第二平面反射鏡17とがあり、斜めに、上記第一球面レンズ11の上方に設置され、光経路を案内し、これにより、上記各光学レンズセットにより、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件上の図柄が、各光学レンズセットによってフォーカスされた後、歪みの無い画像が形成される。そのため、上記の構造によって、新規の共役共通光路リソグラフィレンズが構成される。」

(8)「 【0022】
露光機台の主なアセンブリの1つは、リソグラフィレンズであり、リソグラフィレンズの機能は、投影された光マスクが、レンズを介して、光マスクの構造として、結像面に結像され、その光学レンズの規格の解析能力が、回折極限になるように要求され、また、歪み値が最大画角の0.01%以下である。これに対して、本発明は、複数の実施例を挙げて、各実施例に対して回折調整伝達函数(Modulation Transfer Function, MTF)性質をテストする。その中、図1と図2は、それぞれ、数値口径比F/4.5の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図であり、図3と図4は、それぞれ、F/3.0の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図であり、図5と図6は、それぞれ、F/1.4の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図である。上記各図の結果によると、本発明に係る各実施例のリソグラフィレンズの各収差が有効に校正され、その解析能力も回折極限値の5%以下に近づき、比較的に高い解析画像の能力が得られ、また、26mm x 68mmの場領域が投射できる。
【0023】
そのため、本発明は、球面と畳み合い式組み立てを利用して、その四つの球面レンズの各球面レンズと反射鏡の曲率が球面になり、全球面鏡セットと二種類の光学材料とを合わせて共役共通光路リソグラフィレンズセットが形成され、リソグラフィレンズの機能はより簡単に実現され、素子の数が少なく、光部材の作製がより簡単になり(レンズ作製経験公式に満足できる)、校正簡単、抗色収差、優れた口径比F/#とコストダウン等の効果が得られる。
【0024】
以上のように、本発明に係る共役共通光路リソグラフィレンズは、有効に、従来の諸欠点を解消でき、全球面鏡セットと二種類の光学材料とを合わせて、共役共通光路リソグラフィレンズセットが形成され、リソグラフィレンズの機能が実現されるため、本発明は、より進歩的かつより実用的で、法に従って特許出願をする。」

4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
(1)特許法第36条第4項第1号実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすというためには、本件補正発明の各構成要件を充足し、解析能力、歪み値、抗色収差、優れた口径比F/#を、非球面を利用することなく実現できる共役共通光路リソグラフィレンズを、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が製造し、使用することができる程度の記載が本願明細書の発明の詳細な説明にあることを要するというべきである。

(3)本件補正発明は、「上記第一、二球面レンズ(11,12)によって曲率が付与されて球収差が校正され、上記第三、四球面レンズ(13,14)によって非点収差と像面湾曲が校正される四つの球面レンズ(11,12,13,14)」が含有されることを構成要件(以下、「構成要件1」という。)としている。
一方、前記3(5)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「上記第一、二球面レンズ11、12は曲率を提供して球収差を校正し、上記第三、四つの球面レンズ13、14は非点収差を校正し、像面を湾曲させ、上記第一と第二、第三及び第四球面レンズ11、12、13、14の材料は色収差を校正するように順番に配列される」との記載がある。しかし、本願明細書の発明の詳細な説明は、第一、二球面レンズ11、12が、どのように設計されることで共役共通光路リソグラフィレンズの球収差を校正するのかを明らかにしていない。また、本願明細書の発明の詳細な説明は、第三、四つの球面レンズ13、14が、どのように設計されることで共役共通光学リソグラフィレンズの非点収差と像面湾曲を校正するのかを明らかにしていない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明は、色収差を校正するための四つの球面レンズ11?14の諸元量等の数値データも明らかにしていない。
一般に光学系の設計において、特定の収差を校正するために面形状や面間隔等を調整したレンズを追加することによって収差を校正することは知られていたといえるが、レンズを増やさずに複数の収差を同時に校正するよう設計することが自明であったとはいえない。
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、「球収差」及び「非点収差」、「像面湾曲」を校正するための作用機序を明らかにしておらず、複数の収差をレンズを増やさずに校正することが自明であったともいえない。したがって、当業者が本件補正発明の共役共通光路リソグラフィレンズを製造するにあたり、「球収差」及び「非点収差」、「像面湾曲」を校正するために四つの球面レンズをどのように設計するかをその記載や技術常識に基づいて理解することができる程度の記載が、本願明細書の発明の詳細な説明になされていたとはいえない。

(4)また、本件補正発明は、「各光学レンズの設置により、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件にある図柄は、各光学レンズによってフォーカスされた後、歪みなしの画像が形成され」ることを構成要件(以下、「構成要件2」という。)としている。
前記3(7)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「上記各光学レンズセットにより、テレセントリック(Telecentric)構造が形成されて、物件上の図柄が、各光学レンズセットによってフォーカスされた後、歪みの無い画像が形成される。」と記載されている。しかし、歪みは、収差を原因として発生することが知られている。光学系の一部に光軸と主光線とが平行とみなせる部分が存在したとしても、収差が校正されていなければ、歪みの無い画像を形成することができない。そして、前記(3)において検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、各収差を校正するための作用機序が記載されていない。
さらに、光学系の設計において、従来複数のレンズを用いて校正していた収差の一つを一つの非球面を用いることにより校正することは技術常識であったといえるものの、非球面を用いて校正していた収差を、素子数を増加することなく実現することが、当業者にとって自明であったとはいえない。
したがって、本願出願時の技術常識を勘案したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が共役共通光路リソグラフィレンズを製造するに際し、四つの球面レンズで、解析能力、歪み値、抗色収差、優れた口径比F/#及び歪みなしの画像を、非球面を利用することなく実現できるように、各光学要素をどのように設計すればよいかをその記載や技術常識に基づいて理解することができる程度の記載がなされていたとはいえない。

(5)本願の図1?図6には、3つの実施例の共役共通光路リソグラフィレンズの断面図とその回折調整伝達函数曲線図が示されているものの、本願明細書の発明の詳細な説明には、前記3(8)に記載したとおり、それぞれの数値口径比がF/4.5、F/3.0、F/1.4であったことが記載されているに過ぎない。解析能力については、本願明細書の発明の詳細な説明に「その解析能力も回折極限値の5%以下に近づき、比較的に高い解析画像の能力が得られ、」と記載されているのみであり、具体的なMTFの値も記載しておらず、実施例各々の解析能力がそれぞれどの値であったのかについて何ら開示していない。また、歪み値、色収差については何ら開示されていない。
そして、一般に、レンズを用いた光学系を具体的に設計する際には、レンズ枚数や各レンズ面の正負ばかりでなく各レンズ面の曲率半径、レンズ面間隔及びレンズ厚、接合レンズの有無とその配置、各レンズの屈折率とアッベ数、絞りの位置等の諸元量を含む多数の要素を調整して、諸収差やMTF等の光学系の諸特性を確認し、数多くの試行錯誤を繰り返して、1つの光学系の設計を完成させるものであることが、当業者の常識である。しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明は、レンズ枚数、各レンズ面の正負、数値口径比についての開示があるものの、レンズを用いた光学系の設計において重要な、レンズ面の曲率半径や屈折率、アッベ数等の上記諸元量等の数値データを一切開示していない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に基づいて本件補正発明の共役共通光路リソグラフィレンズを製造しようとした場合、たとえ、出願当時の技術常識を参酌したとしても、レンズの各面の曲率や屈折率、反射鏡の曲率、アッベ数、並びにレンズ間距離など、多数の要素の数値を決定するために、諸収差及びMTF等の光学系の諸特性を確認しながら膨大な数の試行錯誤を繰り返す必要があることは明らかである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施例に基づいて製造しようとした場合、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ず、構成要件1及び構成要件2を充足する共役共通光路リソグラフィレンズを本願明細書の発明の詳細な説明に基づいて、当業者が製造することはできない。

(6)以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない。

5 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(1)特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁大合議部判決平成17年11月11日〔平成17年(行ケ)10042号〕参照)。

(2)本件補正発明が解決しようとする課題は、前記3(2)及び3(3)に摘記した本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づけば、非球面を利用するため作製や組み立てが簡単でないという従来のリソグラフィレンズセットの欠点を解消できる、球面と畳み合い式組み立てを利用し、その四つの球面レンズの各球面レンズと反射鏡の曲率が、ともに球面になり、全球面レンズセットと二種類の光学材料とを合わせてなる共役共通光路リソグラフィレンズセットであって、素子の数が少なく、光部材の作製がより簡単になり校正簡単、抗色収差、優れた口径比F/#とコストダウン等の効果が得られる共役共通光路リソグラフィレンズセットを提供することであるといえる。

(3)本件補正発明の構成によって、上記課題が解決できるかについて検討すると、すでに前記4(3)に記載したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、「球収差」及び「非点収差」、「像面湾曲」を校正するための作用機序を明らかにしていない。また、非球面を利用せずに、光学要素の数を増やすことなく、各種収差を歪みなしといえる値に低減するような技術常識が、本願の出願時に存在したともいえない。このため、技術常識を参酌したとしても、どのようにして四つの球面レンズの各球面レンズと反射鏡の曲率が、ともに球面になり、全球面レンズセットと二種類の光学材料とを合わせてなる共役共通光路リソグラフィレンズセットによって、校正簡単、抗色収差等の効果が得られるのかを理解することができない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が課題を解決できると認識できるものを把握することができない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例によって、本件補正発明が上記課題を解決できるものであることが示されているかについて検討すると、すでに前記4(5)に記載したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、図2,4及び6に各実施例の回折調整伝達函数曲線を示すものの、具体的なMTFの値を記載しておらず、実施例各々の解析能力がそれぞれどの値であったのかについて何ら開示しておらず、また、歪み値、色収差については何ら開示されていない。したがって、技術常識を参酌したとしても、本件補正発明の構成によって、四つの球面レンズの各球面レンズと反射鏡の曲率が、ともに球面になり、全球面レンズセットと二種類の光学材料とを合わせてなる共役共通光路リソグラフィレンズセットで、校正簡単、抗色収差等の効果が得られるとする本件補正発明の課題が解決できることを当業者が認識することができない。

(4)以上のとおり、本件補正発明は、技術常識を参酌したとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項1号に規定するサポート要件を満たしていない。

6 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成28年4月27日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、前記第2の1に補正前の特許請求の範囲として記載したとおりのものと認められる。(以下、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、「本件発明」という。)

2 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含んでいる。

(1)(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の請求項1?7の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 判断
本件発明は、構成要件1及び構成要件2を具備しているから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、前記第2の4で述べたのと同様の理由によって、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない。
また、本件発明が解決しようとする課題は、本件補正発明が解決しようとする課題と同一であると認められるから、本願の特許請求の範囲の記載は、前記第2の5で述べたのと同様の理由によって、同法同条第6項第1号に規定するサポート要件を満たしていない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-07 
結審通知日 2017-11-14 
審決日 2017-11-27 
出願番号 特願2014-212202(P2014-212202)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 536- Z (G02B)
P 1 8・ 537- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
発明の名称 共役共通光路リソグラフィレンズ  
代理人 鈴木 征四郎  

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