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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1339563
審判番号 不服2017-2955  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-28 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2013-552432「パッシベーション膜付半導体基板及びその製造方法,並びに太陽電池素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日国際公開,WO2013/103141〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,2012年12月28日(優先権主張2012年1月6日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成26年3月25日に審査請求され,平成27年9月4日付けで拒絶理由を通知し,同年11月9日に意見書と手続補正書が提出され,平成28年6月20日に拒絶理由が通知され,同年10月27日に意見書が提出され,同年11月25日付けで拒絶査定され,平成29年2月28日に拒絶査定不服審判が請求され,同年4月11日に手続補正書が提出され,同年10月24日付けで,当審から拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年12月26日に意見書と手続補正書が提出されたものである。
そして,その請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれを「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は,平成29年12月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,本願発明1は,以下のとおりである。

「【請求項1】
p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有する半導体基板上の前記p型層及びn型層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層上に電極を形成する工程と,
前記半導体基板の前記電極が形成される面の一方又は両方の面上に,有機アルミニウム化合物を含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と,
前記組成物層を熱処理してパッシベーション膜を形成する工程と,
を有し,
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は,前記有機アルミニウム化合物としての下記一般式(I)で表される化合物と,樹脂と,を含み,
前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中の前記有機アルミニウム化合物の含有率は,10質量%?70質量%である,太陽電池素子の製造方法。
【化1】


[式中,R^(1)はそれぞれ独立して炭素数1?8のアルキル基を表す。nは0?3の整数を表す。X^(2)及びX^(3)はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R^(2),R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を表す]」

2 当審拒絶理由
一方,当審において,平成29年10月24日付けで通知した拒絶理由(当審拒絶理由)の概要は以下のとおりである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1-6
・引用文献1-7

・備考
ア 引例1を主引例とした検討
(ア)請求項1について
引例1の請求項1,2,5,【0007】,【0017】-【0022】には,p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有する半導体基板上の前記p型層及びn型層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層上に電極を形成する工程と,前記半導体基板の前記電極が形成される面の一方の面上に,酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション膜を形成する工程と,を有する太陽電池素子の製造方法が記載されており,しかも,引例1の【0023】には,前記第1パッシベーション膜は塗布剤やペースト印刷などによって形成されたものでも良いことが記載されている。

そして,引例3の特許請求の範囲,第2ページ左上欄第15行-右下欄第7行,第3ページ右上欄第3行-第4ページ左上欄第4行,第6ページ右下欄第9行-第7ページ右上欄第10行,引例4の特許請求の範囲,【0015】,【0016】,【0022】-【0025】,【0051】-【0064】,引例5の特許請求の範囲,【0015】等に記載されているように,酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜を形成する方法として,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して行う方法は周知である。(引例3の実施例5のAl_(2)O_(3)膜53,実施例6のAl_(2)O_(3)膜64は,酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜といえる。引例4の【0064】には,引例4の絶縁膜形成用インクを用いて作製された絶縁膜の用途として,パッシベーション膜が明示されている。引例5の【0021】には,シリコン酸化物および金属酸化膜を含む保護膜が,太陽電池の表面にパッシベ-ション効果を与えることが記載されているから,前記保護膜はパッシベーション膜といえる。)

してみれば,第1パッシベーション膜は塗布剤やペースト印刷などによって形成されたものでも良いとされている引例1に記載された発明の酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション膜の形成を,引例3-5に記載された,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して行うパッシベーション膜の形成方法によって行うことは当業者が容易になし得たことである。

なお,酸化アルミニウムの負の固定電荷に由来する電界効果パッシベーション効果は,引例1の【0007】,【0017】,引例2の【0057】-【0059】等にも記載されているように,本願の優先権の主張の日前において公知の効果であるから,本願発明の効果は,当業者が予測し得た範囲内のものである。

(イ)請求項2について
パッシベーション膜形成用組成物を,半導体基板上の電極が形成されない領域に付与する方法は,引例5の【0031】,【0033】,【0037】に記載されている。

(ウ)請求項3について
半導体基板上への電極の形成を,電極形成用組成物の半導体基板上への付与と,その後の熱処理によって行うことは,引例1の【0047】の「銀ペーストを印刷した後に500?700℃で焼成」,引例2の【0072】-【0075】,引例5の【0036】の「アルミペーストを焼成」等にも記載されているように周知の方法である。

(エ)請求項4-6について
本願の一般式(I)で表される化合物に含まれる有機アルミニウム化合物は,引例3-5に記載されるように,パッシベーション膜形成用の材料として周知である。
他方,必要に応じて塗布剤の粘度等を調整することは,引例4の【0061】等にも記載されているように普通に行われていることである。そして,粘度等を調整するために,塗布剤に樹脂等を含有させることは,引例6の【0031】-【0035】等に記載されているように慣用手段にすぎない。
また,引例7の【0083】にも記載されているように,パッシベーション膜を,感光性樹脂組成物で作製することも格別のこととは認められない。
してみれば,引例1に記載された発明で用いられるパッシベーション膜形成用の組成物を,樹脂が含まれるものとすることは当業者が適宜なし得たことである。

イ 引例2を主引例とした検討
(ア)請求項1について
引例2の請求項1,7,8,【0005】,【0057】-【0059】等の記載を参照されたい。
引例2には,【0129】に「例えば,陰の固定電荷を有するアルミニウムオキシド(Al_(2)O_(3))をALD」を利用して形成することが例示されているだけであって,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して行うことは明記されていないから,この点で,引例2に記載された発明と,本願発明とは相違する。

他方,引例3の特許請求の範囲,第2ページ左上欄第15行-右下欄第7行,第3ページ右上欄第3行-第4ページ左上欄第4行,第6ページ右下欄第9行-第7ページ右上欄第10行,引例4の特許請求の範囲,【0015】,【0016】,【0022】-【0025】,【0051】-【0064】,引例5の特許請求の範囲,【0015】等には,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜を形成する方法が記載されている。(引例3の実施例5のAl_(2)O_(3)膜53,実施例6のAl_(2)O_(3)膜64は,酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜といえる。引例4の【0064】には,引例4の絶縁膜形成用インクを用いて作製された絶縁膜の用途として,パッシベーション膜が明示されている。引例5の【0021】には,シリコン酸化物および金属酸化膜を含む保護膜が,太陽電池の表面にパッシベ-ション効果を与えることが記載されているから,前記保護膜はパッシベーション膜といえる。)

さらに,引例3には,従来技術の化学的気相成長法等を用いた酸化アルミニウムの形成方法は,導体配線や電極材料そのものを酸化してしまう等の課題(引例3第1ページ左下欄第17行-第2ページ左上欄第14行)を有するところ,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜を形成する方法を用いることで,このような課題を解決できることが記載されており,
引例4には,従来技術のALD等の方法は,製造コストの増大等の課題(【0015】-【0016】)を有するところ,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜を形成する方法を用いることで,このような課題を解決できることが記載されており,
引例5の【0005】等には,プラズマCVD等のチャンバを用いた太陽電池の製造方法の有する課題が記載されている。

そして,「例えば,陰の固定電荷を有するアルミニウムオキシド(Al_(2)O_(3))をALD」を利用して形成することが例示されている引例2に記載された発明に,引例3-5に記載された,有機アルミニウム化合物を含む組成物を,半導体基板上に塗布して組成物層を形成し,その後,当該組成物層を熱処理して行うパッシベーション膜の形成方法を適用することで,前記引例3-5に記載された,導体配線や電極材料そのものの酸化,製造コストの増大,チャンバを用いることによって生じる等の課題を解消しようとすることは,当業者が容易になし得たことである。

なお,酸化アルミニウムの負の固定電荷に由来する電界効果パッシベーション効果は,引例1の【0007】,【0017】,引例2の【0057】-【0059】等にも記載されているように,本願の優先権の主張の日前において公知の効果であるから,本願発明の効果は,当業者が予測し得た範囲内のものである。

(イ)請求項2について
パッシベーション膜形成用組成物を,半導体基板上の電極が形成されない領域に付与する方法は,引例5の【0031】,【0033】,【0037】に記載されている。

(ウ)請求項3について
半導体基板上への電極の形成を,電極形成用組成物の半導体基板上への付与と,その後の熱処理によって行うことは,引例1の【0047】の「銀ペーストを印刷した後に500?700℃で焼成」,引例2の【0072】-【0075】,引例5の【0036】の「アルミペーストを焼成」等にも記載されているように周知の方法である。

(エ)請求項4-6について
本願の一般式(I)で表される化合物に含まれる有機アルミニウム化合物は,引例3-5に記載されるように,パッシベーション膜形成用の材料として周知である。
他方,必要に応じて塗布剤の粘度等を調整することは,引例4の【0061】等にも記載されているように普通に行われていることである。そして,粘度等を調整するために,塗布剤に樹脂等を含有させることは,引例6の【0031】-【0035】等に記載されているように慣用手段にすぎない。
また,引例7の【0083】にも記載されているように,パッシベーション膜を,感光性樹脂組成物で作製することも格別のこととは認められない。
してみれば,パッシベーション膜形成用の組成物を,樹脂が含まれるものとすることは当業者が適宜なし得たことである。


引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2008-10746号公報
2.特開2011-233875号公報
3.特開昭51-33567号公報
4.特開2011-216845号公報
5.特開2003-179240号公報
6.特表2011-501442号公報
7.特開2011-102997号公報 」

3 引用例の記載と引用発明
(1)当審拒絶理由で,「引例1」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-10746号公報(以下「引用例1」という。)には,「太陽電池,および太陽電池の製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。(下線は当審において付した。以下同じ。)
「【請求項1】
シリコン基板の1表面に,第1導電型不純物拡散層と第2導電型不純物拡散層が形成された太陽電池であって,前記第1導電型不純物拡散層上,前記第2導電型不純物拡散層上に,それぞれ化学組成の異なる第1パッシベーション膜および第2パッシベーション膜が形成されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記第1パッシベーション膜は,酸化珪素および/または酸化アルミニウムを含む少なくとも1層の膜であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池。

・・・
【請求項5】
前記シリコン基板の太陽光の入射側と反対側の面にpn接合を有することを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の太陽電池。」

「【0007】
また,近年不純物拡散層と誘電体膜の固定電荷の関係に注目した研究が行なわれている。一般に正の固定電荷を有する窒化珪素膜はn型層に対して,負の固定電荷を有する酸化アルミニウム膜はp型拡散層に対して高いパッシベーション性を有するという報告がなされている(非特許文献1)。
・・・」

「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,シリコン基板表面における第1導電型不純物拡散層もしくは第2導電型不純物拡散層上に最適なパッシベーション膜を形成することで,表面再結合速度を減少でき,変換効率の高い太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<太陽電池>
図1に基づいて本発明の太陽電池について説明する。
【0019】
図1は,本発明による太陽電池の一実施形態であって裏面接合型太陽電池を示す。図1(b)は,太陽電池を受光面の反対面(以下裏面とも言う)から見た正面図である。両端に大きな集電機能を有する主電極としてのp電極108,n電極107が形成され,これに加えて,互いに入りこむように細いp電極108,n電極107が形成されている。裏面にアライメントマーク102を設けることも可能である。これは,後述する製造工程でペーストを塗布し,パターニングする際に正確に印刷するために設けてもよい。そして,図1(b)をI-I方向に切断した断面図が,図1(a)である。太陽電池の裏面にp電極108,n電極107を有し,それぞれ,シリコン基板に不純物としてボロンなどをドーピングすることで形成する高濃度のp型ドーピング層であるp+層106,シリコン基板に不純物としてリンなどをドーピングすることで形成する高濃度のn型ドーピング層であるn+層105と接続している。なお,シリコン基板101は,本図においては,n型のシリコン基板を用いているが,p型のシリコン基板を用いてもよい。
【0020】
本発明において,たとえばp+層106のようにシリコン基板中で多数キャリアが正孔である領域を第1導電型不純物拡散層という。一方,n+層105やn型のシリコン基板101のようにシリコン基板中で多数キャリアが電子である領域を第2導電型不純物拡散層という。太陽電池にp型のシリコン基板を用いた場合には,そのシリコン基板は第1導電型不純物層として使用できる。
【0021】
そして,図1(a)において,p電極108およびn電極107と接続されている面以外のp+層106,n+層105露出面は,それぞれ第1パッシベーション膜103,第2パッシベーション膜104に接している。また,ドーピングしていないn型のシリコン基板101露出部分も第2パッシベーション膜104を形成する。つまり,本発明の太陽電池は,シリコン基板の1表面の第1導電型不純物拡散層上に第1パッシベーション膜103を,シリコン基板の1表面の第2導電型不純物拡散層上に第2パッシベーション膜104を有する。また,受光面側には,第2パッシベーション膜としての役割も兼ねる反射防止膜109を形成する。
【0022】
また,本発明の太陽電池は,図1に示したシリコン基板の裏面にpn接合を形成するいわゆる裏面接合型太陽電池であることが好ましい。本発明の太陽電池においては,導電型不純物拡散層の種類によって,その表面に形成されるパッシベーション膜を区別することから,該問題を解決することができるからである。ただし,本発明は,裏面接合型太陽電池に限定されるものではない。
【0023】
≪パッシベーション膜≫
本発明の太陽電池は,第1パッシベーション膜と第2パッシベーション膜の化学組成が異なる。第1パッシベーション膜は,シリコン基板の外部表面の第1導電型不純物拡散層に接する面の形状に合わせて形成する。第1パッシベーション膜は,酸化珪素や酸化アルミニウムを含む膜であることが好ましい。そして,第1パッシベーション膜は,1つの化学組成物からなる単層膜でもよいし,酸化珪素や酸化アルミニウムなどの膜を含む多数の化学組成物の膜からなる積層膜であってもよい。積層膜であるときは,酸化珪素あるいは酸化アルミニウムが,第1導電型不純物拡散層上に接していることが好ましい。第1パッシベーション膜の厚さは膜質にもよるが,後工程での作業性を考慮し,10?200nmが好ましい。また,CVD法によって成膜されたものでも良いし,塗布剤やペースト印刷などによって形成されたものでも良い。」

「【0082】
表1から示されるとおり,第1導電型不純物拡散層上に酸化珪素膜,酸化アルミニウム膜を形成したときの表面再結合速度は,屈折率3.3の窒化珪素膜を形成したときの約1/4程度であることが示された。また,第2導電型不純物拡散層上に屈折率3.3の窒化珪素膜を形成したときの表面再結合速度は,酸化珪素膜,酸化アルミニウム膜を形成したときの1/2.5程度であることが示された。以上より,第1パッシベーション膜として酸化珪素膜,酸化アルミニウム膜を,第2パッシベーション膜として窒化珪素膜を用いることで効果的に表面再結合を抑えることが可能となることが示された。」

そうすると,上記の記載に照らして,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコン基板の裏面にpn接合を有する裏面接合型太陽電池の製造方法であって,
前記太陽電池の裏面の,シリコン基板に不純物としてボロンなどをドーピングすることで形成する高濃度のp型ドーピング層であるp+層,シリコン基板に不純物としてリンなどをドーピングすることで形成する高濃度のn型ドーピング層であるn+層のそれぞれと接続するp電極,n電極を形成する工程と,
p電極およびn電極と接続されている面以外のp+層,n+層露出面に,それぞれ第1パッシベーション膜,第2パッシベーション膜を形成する工程とを有し,
前記第1パッシベーション膜は,シリコン基板の外部表面のp+層に接する面の形状に合わせて形成するものであって,第1パッシベーション膜は,酸化珪素や酸化アルミニウムを含む膜であることが好ましく,
前記第1パッシベーション膜は,塗布剤やペースト印刷などによって形成されたものでも良い,裏面接合型太陽電池の製造方法。」

(2)当審拒絶理由で,「引例2」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-233875号公報(以下「引用例2」という。)には,「太陽電池及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。
「【0058】
第1導電型半導体基板10の後面に形成される保護層50は,アルミニウムオキシド(Al2O3)などの陰の固定電荷を有する保護層50を使用するのが好ましい。
【0059】
具体的に,保護層50が多数の陰電荷(negative charge)を帯びる場合,第1導電型半導体基板10に存在する少数電荷(minor charges)である電子が第1導電型半導体基板10の後面側へ(つまり,後面電極60側へ)移動することを妨害することによって,第1導電型半導体基板10の後面において電子と正孔が再結合して消滅することを防止できる。したがって,電荷の損失を減らして太陽電池の効率を向上できる。」

そうすると,上記記載に照らして,引用例2から,保護層が多数の陰電荷(negative charge)を帯びる場合,第1導電型半導体基板に存在する少数電荷(minor charges)である電子が第1導電型半導体基板の後面側へ(つまり,後面電極側へ)移動することを妨害して,第1導電型半導体基板の後面において電子と正孔が再結合して消滅することを防止することができる。したがって,電荷の損失を減らして太陽電池の効率を向上するために,保護層としては,アルミニウムオキシド(Al_(2)O_(3))などを使用することが好ましいという技術的事項を理解することができる。

(3)当審拒絶理由で,「引例3」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭51-33567号公報(以下「引用例3」という。)には,「酸化アルミニウム膜を有する半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。
「特許請求の範囲
半導体基体もしくは半導体装置表面の上部に酸化アルミニウム膜を有する半導体素子もしくは半導体装置を製造する製造方法において,有機アルミニウムキレート化合物をふくむ溶液を塗布する工程と,加熱する工程とにより酸化アルミニウム膜を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)

「本発明は,上記欠点のない,どのような状態の半導体表面にでも適用することのできる酸化アルミニウムの製造方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために,本発明では,比較的低温で熱分解するアルミニウムキレート化合物を溶媒に溶解し,これを半導体表面に塗布し,しかるのち熱処理を加えてアルミニウムキレート化合物を熱分解することにより酸化アルミニウム膜を得た。熱分解温度は少なくとも300℃以上であればよいため,化学気相成長法ならびに直接酸化法にくらべてきわめて簡便であり,作業性にも優れている。また,本発明によって形成した酸化アルミニウムは,ピンホールがほとんどない,均一な膜が形成できるため,陽極酸化法で得られる酸化アルミニウムにくらべて絶縁性に優れている。さらに,塗布して低温加熱するだけの工程であるため,グロー放電あるいは反応性スパッタなどの方法でみられる半導体素子特性の劣化という問題は全く発生しないという長所を有している。
酸化アルミニウムの被膜を形成し得るアルミニウムキレート化合物は,次の化学構造


を有するものが供される。ここに,R_(1),R_(2),R_(3)は炭素数1?4のアルキル基であり,X_(1),X_(2),X_(3),X_(4),X_(5),X_(6)はアルミニウムと配位結合をなす配位子であって,



からなる群から選ばれた配位子である。
ここでアルキル基R_(1)?R_(9)の炭素数を1?4に限定したのは,これ以上の炭素鎖長をもつアルキル基のキレート化合物は高い融点をもち,低温処理で熱分解が完全に行なわれにくく,不完全なAl_(2)O_(3)膜しか得られない可能性をもつことによる。」(第2ページ左上欄第12行-同ページ右下欄第7行)

「本発明なるAl_(2)O_(3)膜形成のためには少なくとも300℃以上の温度であればよく処理温度の上限は適用する半導体素子あるいは半導体装置によって決定される。たとえば,Al_(2)O_(3)形成のためには1000℃以上でも当然可能であるが,p-n接合を含む場合は900?1000℃が可能な範囲,半導体素子の電極,配線等にAlが用いられていると550℃程度,また半田等が電極に用いられていると350℃が上限温度となる。
また,溶媒にアルミニウムキレート化合物を溶解し,基板上に回転塗布し,300℃30分の加熱を行なったのち,形成されるAl_(2)O_(3)の膜の厚さは,溶媒に含まれるアルミニウムキレート化合物の濃度と基板の回転数によって異なってくるが,回転数を5000回転/毎分としたときに形成される膜の厚さを測定した結果,濃度が0.1wt%のとき50?100Å,濃度が1wt%のとき100?200Å,濃度が10wt%のとき250?500Å,濃度が50wt%のとき,750?1200Åであった。各濃度に対して,上記のように膜厚が一定しないのは,アルミニウムキレート化合物の分子量や,キレート配位子の数が異なるためであって,各分子量中に占めるAlの割合が多い程すなわち,全体の分子量が小さい程,また,キレート配位子が少いもの程,同一濃度(wt%)で厚い膜が得られる傾向にあった。
したがって回転数5000rpmで形成できるAl_(2)O_(3)の膜厚は最大約1000Åであるが,これ以上の厚い膜を形成する場合は,300℃以上の温度で30分加熱処理したのち,再び溶液を塗布し,加熱処理することをくり返せばよい。」(第3ページ右下欄第16行-第4ページ右上欄第6行)

「本実施例では,アルミニウムキレート化合物の塗布膜に対する加熱処理を400℃,30分で行なった。この加熱処理をする段階では,まだ電極の金属が形成されていないので,この場合原理的には,加熱温度としては,第1および第2の半導性領域25,26が熱移動しない温度,たとえば1000℃まで選ぶことができることはいうまでもない。」(第5ページ左下欄第6-13行)

「実施例5
第5図によって説明する。第5図は,半導体基板51の中に,基板51とは反対の導電性を有する半導性領域52があり,その表面をAl_(2)O_(3)膜53によって被覆した構造の半導体素子の断面図を示している。Al_(2)O_(3)膜53は,アルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレートを用い,熱処理を350℃30分行なって厚さ2400Åに形成した(800Åづつ3回形成した)。これによって得られる表面安定化の効果は,化学気相成長法で形成したAl_(2)O_(3)膜によって得られる効果と全く同様であった。
したがって,本発明は,化学気相成長法で必要な高価な装置や原料を全く用いず,安価に,容易に表面安定化膜としてのAl_(2)O_(3)が形成できるという利点がある。
実施例6
第6図によって説明する。第6図は,半導体基板61の上に,基板61とは反対の導電性を有する半導性領域62と,半導性領域62の中にあって,半導性領域62とは反対の導電性を有する半導性領域63とからなる半導体素子であって,半導体基板61と半導性領域62との間に存在するp-nジャンクションが,半導体基板の側面にいわゆるメサエッチによって露出されており,かつこの半導体素子表面をAl_(2)O_(3)膜64で被覆保護したような半導体素子の一断面図である。したがって本実施例はAl_(2)O_(3)膜64をジャンクション保護被覆として用いた場合の例である。このようにメサエッチによって露出したジャンクションを,化学気相成長去によるAl_(2)O_(3)で保護しようとすると,ジャンクション面はほゞ垂直に近い面であるために,Al_(2)O_(3)膜の堆積は困難であって,完全な保護効果を期待することはできない。これに対して,本実施例では,溶液の塗布によって被膜を形成するため,垂直に近い面に対しても十分に被膜を形成させることができる。
Al_(2)O_(3)膜はアルミニウムモノエチルアセトアセテートジイソプロピレートを用い,熱処理を300℃,30分行なって,厚さ2400Åを形成した。これによって得られる表面安定効果は,十分満足できるものであった。」(第6ページ右下欄第9行-第7ページ右上欄第10行)

そうすると,上記記載に照らして,引用例3から,
・次の化学構造


を有し,R_(1),R_(2),R_(3)は炭素数1?4のアルキル基であり,X_(1),X_(2),X_(3),X_(4),X_(5),X_(6)はアルミニウムと配位結合をなす配位子であって,



で表される有機アルミニウムキレート化合物をふくむ溶液を,半導体基板の中の基板とは反対の導電性を有する半導性領域の表面に塗布する工程と,加熱する工程を含む方法により,Al_(2)O_(3)膜によって被覆した構造の半導体素子あるいは半導体装置を製造する方法は,化学気相成長法で必要な高価な装置や原料を全く用いず,安価に,容易に表面安定化膜としてのAl_(2)O_(3)が形成できるという利点があり,
・前記加熱の処理温度の上限は適用する半導体素子あるいは半導体装置によって決定され,Al_(2)O_(3)形成のためには1000℃以上でも当然可能であるが,p-n接合を含む場合は900?1000℃が可能な範囲,半導体素子の電極,配線等にAlが用いられていると550℃程度,また半田等が電極に用いられていると350℃が上限温度となるが,電極の金属が形成されていない場合には,加熱温度としては,半導性領域が熱移動しない温度,たとえば1000℃まで選ぶことができることはいうまでもなく,
・溶媒にアルミニウムキレート化合物を溶解し,基板上に回転塗布し,加熱を行なったのち,形成されるAl_(2)O_(3)の膜の厚さは,溶媒に含まれるアルミニウムキレート化合物の濃度と基板の回転数によって異なり,回転数を5000回転/毎分としたときに形成される膜の厚さは,濃度が10wt%のとき250?500Å,濃度が50wt%のとき,750?1200Åであり,回転数5000rpmで形成できるAl_(2)O_(3)の膜厚は最大約1000Åであることから,これ以上の厚い膜を形成する場合は,加熱処理したのち,再び溶液を塗布し,加熱処理することをくり返せばよいという技術的事項を理解することができる。

(4)当審拒絶理由で,「引例4」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-216845号公報(以下「引用例4」という。)には,「絶縁膜形成用インク,絶縁膜の製造方法及び半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,絶縁膜形成用インク,絶縁膜の製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。」

「【0015】
このような絶縁膜を形成する方法としては,CVD(Chemical Vapor Deposition),ALD(Atomic Layer Deposition),スパッタリング等の真空プロセスにより成膜する方法が従来用いられてきた。
【0016】
一方,近年,基板サイズの大型化に伴う製造装置の大型化による製造コストの増大といった問題等から,半導体デバイスを印刷プロセスで製造するための技術開発が盛んに行われており,絶縁膜も溶液を用いたプロセスにより形成する方法が検討されている。」

「【0051】
〔第1の実施の形態〕
本実施の形態は,溶液プロセスにより酸化物絶縁膜を形成するために用いられる溶液となる絶縁膜形成用インクである。本実施の形態における絶縁膜形成用インクは,第一に,1または2以上のアルカリ土類金属元素と,Ga,Sc,Y,及びランタノイド(Ceを除く)のうち1または2以上の金属元素と,が溶液に含まれることを特徴とする絶縁膜形成用インクである。
【0052】
また,第二には,前記絶縁膜形成用インクが,更に,Al,Ti,Zr,Hf,Ce,Nb,Taのうち1または2以上の金属元素を含むことを特徴とする絶縁膜形成用インクである。
【0053】
前記絶縁膜形成用インクは,前記金属の金属有機酸塩および有機金属錯体の少なくとも一つを,含むことを特徴とする。尚,本願において,「有機金属錯体」とは,金属-炭素結合を有する有機金属化合物と,配位結合を有する金属錯体との,両者を含んでいる。
【0054】
また,前記金属有機酸塩は,置換若しくは無置換のカルボン酸塩であることを特徴とする。一例として,酢酸マグネシウム,プロピオン酸カルシウム,ナフテン酸ジルコニウム,オクチル酸バリウム,2-エチルヘキサン酸ランタン,等を用いることが出来るが,これに限定されるものではない。
【0055】
また,前記有機金属錯体は,アセチルアセトナート誘導体,置換若しくは無置換のフェニル基,或いは置換若しくは無置換のアルコキシ基を含むことを特徴とする。一例として,ストロンチウムアセチルアセトナート水和物,トリス(2,2,6,6?テトラメチルー3,5?ヘプタネディオネート)ネオジウム,テトラエトキシアセチルアセトナトタンタル,チタニウムブトキシド,アルミニウムジ(s-ブトキシド)アセト酢酸エステルキレート,等を用いることが出来るが,これに限定されるものではない。
【0056】
更に,前記有機金属錯体は,カルボニル基,置換若しくは無置換のアルキル基,置換若しくは無置換のシクロジエニル基を含む有機金属錯体であってもよい。一例として,ニオブペンタカルボニル,トリス(シクロペンタジエニル)イットリウム,テトラベンジルハフニウム,ジエチルアルミニウム,等を用いることが出来るが,これに限定されるものではない。
【0057】
また,更には,前記絶縁膜形成用インクが,前記金属の無機塩を含むことを特徴とする。一例として,炭酸ストロンチウム,硝酸スカンジウム水和物,硫酸ガリウム,等を用いることが出来るが,これに限定されるものではない。
【0058】
本実施の形態における絶縁膜形成用インクに使用される溶媒は,前記金属原料化合物を安定に溶解若しくは分散することが可能な溶媒を適切に選択して使用することが出来る。一例として,トルエン,イソプロパノール,安息香酸エチル,N,N-ジメチルホルムアミド,炭酸プロピレン,2-エチルヘキサン酸,ミネラルスピリッツ,ジメチルプロピレンウレア,4-ブチロラクトン,2-メトキシエタノール,水,等を用いることが出来るが,これに限定されるものではない。
【0059】
また,塗布する方法や下地に合わせて,粘度調整用の増粘剤や界面活性剤などを添加しても良い。」

「【0064】
本実施の形態において作製される絶縁膜の用途としては,電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor;FET),DRAM(Dynamic Random Access Memory)等のメモリ素子,CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor,相補型金属酸化物半導体素子),光電変換素子(Photovoltaic devices),OLED(Organic light-emitting diode)等の有機発光素子,絶縁膜を有する各種センサまたはLSI(Large Scale Integration)等の集積回路等が挙げられ,具体的には,これらの素子におけるゲート絶縁膜,キャパシタ絶縁膜,パッシベーション膜等として用いることができる。」

そうすると,上記記載に照らして,引用例4から,
・半導体装置の絶縁膜の製造方法という技術分野において,CVD(Chemical Vapor Deposition),ALD(Atomic Layer Deposition),スパッタリング等の真空プロセスにより成膜する方法が従来用いられてきたが,近年の基板サイズの大型化に伴う製造装置の大型化による製造コストの増大といった問題等から,半導体デバイスを印刷プロセスで製造するための技術開発が盛んに行われており,絶縁膜も溶液を用いたプロセスにより形成する方法が検討されていること,及び,
・アルミニウムジ(s-ブトキシド)アセト酢酸エステルキレート等の有機金属錯体を含む絶縁膜形成用インクは,塗布する方法や下地に合わせて,粘度調整用の増粘剤や界面活性剤などを添加しても良いこと,さらに,
・前記形態において作製される絶縁膜は,光電変換素子(Photovoltaic devices)等におけるパッシベーション膜として用いることができること,という技術的事項を理解することができる。

(5)当審拒絶理由で,「引例6」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2011-501442号公報(以下「引用例5」という。)には,「片側裏面コンタクト太陽電池用誘電体コーティング」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の記載がある。
「【0027】
さらに,本発明は,太陽電池に使用する誘電体組成物の製造方法に関するものであり,前記方法は,液状のリン含有組成物を濾過する段階と,有機チタン化合物を分散剤と接触させ,前記有機チタン化合物を十分に湿潤させる段階と,前記リン含有組成物と,前記有機チタン化合物と,ビヒクル,界面活性剤,拡散剤,及び溶媒のうち少なくとも1つと,を合わせて混合し,誘電体ペースト混合物を形成する段階とからなる。いかなる点においても,本組成物を収容したり混合するために,金属器具は使用しない。
【0028】
本願開示の誘電体コーティング材系の主要成分をより詳細に記載する。重量及びその他の量は,全材系中の重量パーセントで示したものであり,未加工のペースト,すなわち,焼成前の量である。
【0029】
金属。本願の金属は,チタン,タンタル,もしくはニオブとすることができ,有機金属化合物の形態で提供してもよい。例えば,前記有機金属化合物は,金属エトキシド,金属2-エチルヘキソキシド,金属イソブトキシド,金属イソプロポキシド,金属メトキシド,金属n-ブトキシド,金属n-プロポキシド,もしくはその他有機金属化合物からなる群から選択してもよい。普通の金属形態の金属もしくは金属の酸化物を用いてもよいが,好ましくはない。前記したものの組み合わせも可能である。提供されるチタンの形態にかかわらず,前記材系は,約0.1?約10重量%,好適には約0.2?約5重量%,より好適には約0.3?約2.5重量%の金属を含む。金属エトキシドが好ましい。
【0030】
リン。リンは,溶液状もしくは分散状で提供してもよい。リンは,リン酸エステルとして提供してもよく,特に,エトキシ化アルコールもしくはエトキシ化フェノールのリン酸エステル,もしくはより一般的には,アルコキシル化アルコールもしくはアルコキシル化フェノールのリン酸エステルであってもよい。前記アルコールもしくはフェノールは,オレイルアルコール,フェノール,ジノニルフェノール,ジデシルフェノール,及びそれらの組み合わせから選択可能である。さらに,適したリン酸エステルとしては,リン酸メトキシド,リン酸エトキシド,リン酸プロポキシド,リン酸ブトキシド,さらに,最大20の炭素原子を有するリン酸アルコキシドが挙げられる。その他の成分が存在してもよいが,好適な実施形態では,前記材系は,意図的に添加されたバリウムを含有しない。提供されるリンの形態にかかわらず,前記誘電体材系は,約0.1?約5重量%,好適には約0.2?約4重量%,より好適には約0.3?約2.5重量%のリンを含む。
【0031】
有機物。本願の誘電体材系は,ビヒクル,溶媒,分散剤,拡散剤,及び湿潤剤のうち少なくとも1つを含む。
【0032】
ビヒクル。本願材系は,一般的には,溶媒中に溶解した樹脂の溶液,頻繁には,樹脂とチキソトロピー剤の両方を含有する溶媒溶液であるビヒクルもしくはキャリアを含み,ペーストを形成する。前記ペーストの有機部分は,(a)少なくとも約80重量%の有機溶媒,(b)最大約15重量%の熱可塑性樹脂,(c)最大約4重量%のチキソトロピー剤,及び(d)最大約2重量%の湿潤剤を含む。2種以上の溶媒,樹脂,チキソトロープ,及び/又は湿潤剤の使用も想定される。好適な実施形態において,適度な量の(a)?(d)の上記成分が有機部分に存在する。
【0033】
エチルセルロースは,一般的に用いられる樹脂であるが,エチルヒドロキシエチルセルロース,ウッドロジン,エチルセルロースとフェノール樹脂の混合物,低級アルコールのポリメタクリレートとエチレングリコールモノアセテートのモノブチルエーテルの混合物,なども使用可能である。
【0034】
溶媒。常圧で約130℃?約350℃の沸点を有する溶媒が好ましい。広く使用される溶媒としては,α-又はβ-テルピネオールのようなテルペン,もしくは,Dowanol(登録商標;ジエチレングリコールモノエチルエーテル)のような高沸点アルコール,又はそれらと,butyl Carbitol(登録商標;ジエチレングリコールモノブチルエーテル),dibutyl Carbitol(登録商標;ジエチレングリコールジブチルエーテル),butyl Carbitol(登録商標)acetate(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート),ヘキシレングリコール,Texanol(登録商標;2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)のような他の溶媒との混合物,並びにその他のアルコールエステル,ケロシン,及びフタル酸ジブチルが挙げられる。コンタクトを改善するため,ビヒクルは,例えば,アルミニウムもしくはホウ素をベースとする有機金属化合物を含有することができる。N-Diffusol(登録商標;ヘプタン中の五酸化リン含有エチレングリコールモノメチルエーテル)は,リン元素と同程度の拡散係数を持つn型拡散剤を含有する安定な液体製剤である。各用途に求められる所望の粘度や揮発性を得るため,これらと他の溶媒との様々な組み合わせが処方可能である。厚膜ペースト処方で一般的に使用される他の分散剤,界面活性剤,及び流動性改質剤が含まれていてもよい。このような製品の市販例としては,以下の商標にて販売されているものが挙げられる:Texanol(登録商標;Eastman Chemical Company,テネシー州キングスポート);Dowanol及びCarbitol(登録商標;Dow Chemical Co.,ミシシッピ州ミッドランド);Triton(登録商標;Union Carbide Division of Dow Chemical Co.,ミシシッピ州ミッドランド),Thixatrol(登録商標;Elementis Company,ニュージャージー州ハイツタウン),及びDiffusol(登録商標;Transene Co.Inc.,マサチューセッツ州ダンバー)。
【0035】
一般的に使用される有機チキソトロピー剤は,硬化ヒマシ油及びその誘導体である。チキソトロープは,懸濁液のせん断流動化能を有する溶媒においてのみ好適であるため,常に必要とされるものではない。また,湿潤剤としては,脂肪酸エステル,例えば,N-タロー-1,3-ジアミノプロパンジオレアート,N-タロートリメチレンジアミンジアセテート,N-ココトリメチレンジアミン,ベータジアミン類,N-オレイルトリメチレンジアミン,N-タロートリメチレンジアミン,N-タロートリメチレンジアミンジオレアート,及びそれらの組み合わせが用いられる。」

そうすると,上記記載に照らして,引用例5から,
・太陽電池に使用する誘電体組成物の製造方法が,リン含有組成物と,有機チタン化合物と,ビヒクル,界面活性剤,拡散剤,及び溶媒のうち少なくとも1つと,を合わせて混合して誘電体ペースト混合物を形成するものであって,当該材系は,一般的には,溶媒中に溶解した樹脂の溶液,頻繁には,樹脂とチキソトロピー剤の両方を含有する溶媒溶液であるビヒクルもしくはキャリアを含み,ペーストを形成するものであり,ここで,前記樹脂として,エチルセルロース,エチルヒドロキシエチルセルロース,ウッドロジン,エチルセルロースとフェノール樹脂の混合物,低級アルコールのポリメタクリレートとエチレングリコールモノアセテートのモノブチルエーテルの混合物,などが使用可能であるという技術的事項を理解することができる。

4 当審の判断
(1)請求項1の進歩性について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)シリコン基板は,半導体基板の一種であるから,引用発明の「シリコン基板の裏面にpn接合を有する裏面接合型太陽電池」は,本願発明1の「p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有する半導体基板」に相当する。

(イ)引用発明の「前記太陽電池の裏面の,シリコン基板に不純物としてボロンなどをドーピングすることで形成する高濃度のp型ドーピング層であるp+層,シリコン基板に不純物としてリンなどをドーピングすることで形成する高濃度のn型ドーピング層であるn+層のそれぞれと接続するp電極,n電極を形成する工程」は,本願発明1の「前記p型層及びn型層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層上に電極を形成する工程」に相当する。

(ウ)引用発明が,第1パッシベーション膜を,塗布剤やペースト印刷などによって形成するものであるところ,当該「塗布剤」及び前記「ペースト印刷」で使用する「ペースト」が,複数の成分を含有する混合物,すなわち,組成物であることは技術常識に照らして明らかである。
そうすると,引用発明の「第1パッシベーション膜は,塗布剤やペースト印刷などによって形成」は,組成物である塗布剤又はペーストを,塗布又は印刷の対象となる面に付与して組成物層を形成し,第1パッシベーション膜を形成することを特定するものと理解される。
してみれば,引用発明の「『前記第1パッシベーション膜は,シリコン基板の外部表面のp+層に接する面の形状に合わせて形成するものであって,第1パッシベーション膜は,酸化珪素や酸化アルミニウムを含む膜であることが好ましく,前記第1パッシベーション膜は,塗布剤やペースト印刷などによって形成』するものである『p電極およびn電極と接続されている面以外のp+層,n+層露出面に,それぞれ第1パッシベーション膜,第2パッシベーション膜を形成する工程』」と,本願発明1の「前記半導体基板の前記電極が形成される面の一方又は両方の面上に,有機アルミニウム化合物を含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と,前記組成物層を熱処理してパッシベーション膜を形成する工程」とは,「前記半導体基板の前記電極が形成される面の一方又は両方の面上に,半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程」と「パッシベーション膜を形成する工程」とを含む点で一致する。

したがって,上記の対応関係から,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有する半導体基板上の前記p型層及びn型層からなる群より選ばれる少なくとも1つの層上に電極を形成する工程と,
前記半導体基板の前記電極が形成される面の一方又は両方の面上に,半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と,
パッシベーション膜を形成する工程と,
を有する,太陽電池素子の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:一致点に係る,半導体基板の電極が形成される面の一方又は両方の面上に,半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成して,パッシベーション膜を形成する工程が,本願発明1は,「有機アルミニウム化合物を含む半導体基板パッシベーション膜形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と,前記組成物層を熱処理してパッシベーション膜を形成する工程と,を有し,前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は,前記有機アルミニウム化合物としての下記一般式(I)で表される化合物と,を含み,前記半導体基板パッシベーション膜形成用組成物中の前記有機アルミニウム化合物の含有率は,10質量%?70質量%である,
【化1】


[式中,R^(1)はそれぞれ独立して炭素数1?8のアルキル基を表す。nは0?3の整数を表す。X^(2)及びX^(3)はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R^(2),R^(3)及びR^(4)はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?8のアルキル基を表す]」のに対して,引用発明では,第1パッシベーション膜は,塗布剤やペースト印刷などによって形成されたものでも良いとされているものの,有機アルミニウム化合物を含むことは特定されていない点。

・相違点2:本願発明1では,半導体基板パッシベーション膜形成用組成物は,「樹脂」を含むのに対して,引用発明では,特定されていない点。

イ 判断
・相違点1について
引用発明では,「第1パッシベーション膜」を「塗布剤やペースト印刷」によって形成することが特定されており,一般に「塗布剤やペースト印刷」による膜形成はCVDによる膜形成に比べて安価で容易に膜を形成できる製造方法であるから,引用発明は,「第1パッシベーション膜」である「酸化アルミニウムを含む膜」を安価で容易に形成するために「塗布剤やペースト印刷」により膜形成しているといえる。
一方,引用例3には,相違点1の【化1】で表される有機アルミニウムキレート化合物を含む溶液を塗布することにより酸化アルミニウム膜を形成するに際して,有機アルミニウムキレート化合物をふくむ溶液を,半導体基板の中の基板とは反対の導電性を有する半導性領域の表面に塗布する工程,加熱する工程を含む方法により,半導体素子あるいは半導体装置を被覆する,表面安定化膜としてAl_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)膜を形成することが記載されている。
そして,溶媒に含まれる有機アルミニウムキレート化合物の濃度は,形成されるAl_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)膜の厚さ,成膜条件等に応じて変更する必要があり,具体的な濃度として相違点1の濃度範囲に含まれる10wt%及び50wt%が示されていること,化学気相成長法で必要な高価な装置や原料を全く用いずに,安価に,容易に表面安定化膜としてのAl_(2)O_(3)膜が形成できることも引用例3に記載されており,「表面安定化膜」は「パッシベーション膜」と呼び得るものであることは明らかである。
そうすると,引用例3に接した当業者であれば,引用発明の「第1パッシベーション膜」である「酸化アルミニウムを含む膜」を「塗布剤やペースト印刷」により形成するに際して,塗布方法が記載された引用例3の形成方法により酸化アルミニウム膜を形成することで,相違点1の工程とすることは,容易に想到し得たものである。

・相違点2について
塗布剤やペースト印刷に用いる組成物に,必要に応じて粘度調整用の粘度調整剤や界面活性剤などを添加しても良いこと,及び,粘度調整剤として樹脂を用いる場合があることは,引用例4及び引用例5の記載からも明らかなように周知の事項といえる。
そして,本願発明1は,樹脂の組成,含有量を特定しておらず,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,相違点2に基づく顕著な効果を認めることはできない。
したがって,引用発明の塗布剤やペースト印刷において使用する組成物に,樹脂を添加すること,すなわち,引用発明において,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。

ウ 効果について
パッシベーション膜として,負の固定電荷をもつ材料である酸化アルミニウムを含む材料を用いたことにより,優れたパッシベーション効果を得ることができるとする効果は,引用例1の「負の固定電荷を有する酸化アルミニウム膜はp型拡散層に対して高いパッシベーション性を有する」,「表面再結合速度を減少でき,変換効率の高い太陽電池を提供することができる」,「第1パッシベーション膜として酸化珪素膜,酸化アルミニウム膜を,第2パッシベーション膜として窒化珪素膜を用いることで効果的に表面再結合を抑えることが可能となる」との記載,引用例2の「保護層50が多数の陰電荷(negative charge)を帯びる場合,第1導電型半導体基板10に存在する少数電荷(minor charges)である電子が第1導電型半導体基板10の後面側へ(つまり,後面電極60側へ)移動することを妨害することによって,第1導電型半導体基板10の後面において電子と正孔が再結合して消滅することを防止できる。したがって,電荷の損失を減らして太陽電池の効率を向上できる。」との記載から当業者が予測する範囲内のものであり,前記パッシベーション膜を簡便な手法で形成することができるとする効果も,引用例3の「本発明は,化学気相成長法で必要な高価な装置や原料を全く用いず,安価に,容易に表面安定化膜としてのAl_(2)O_(3)が形成できるという利点がある。」との記載から当業者が予測する範囲内のものである。
したがって,引用発明において,相違点1,2について,本願発明1の構成を採用したことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

エ 審判請求人の主張について
なお,審判請求人は,平成29年12月26日に提出した意見書において以下の主張をする。
「引用文献3は,半導体装置の製造方法において,有機アルミニウムキレート化合物及び溶媒を含む溶液を塗布・加熱することにより酸化アルミニウム膜を形成することを特徴としております(特許請求の範囲)。ここで,引用文献3は,材料として,比較的低温で熱分解する有機アルミニウムキレート化合物を選択することにより,熱処理工程においてこの有機アルミニウムキレート化合物を熱分解させるというメカニズムに依存しております(第450頁左上欄下から6?1行)。そのため,引用文献3の溶液に引用文献6のように樹脂を添加した場合,熱処理工程後に樹脂が残存する等,有機アルミニウムキレート化合物の熱分解に悪影響を与える蓋然性が高いと思われます。従いまして,引用文献3の組成物に引用文献6の樹脂を適用することには阻害要因があると言えます。」
しかしながら,引用例3の「本発明なるAl_(2)O_(3)膜形成のためには少なくとも300℃以上の温度であればよく処理温度の上限は適用する半導体素子あるいは半導体装置によって決定される。たとえば,Al_(2)O_(3)形成のためには1000℃以上でも当然可能であるが,p-n接合を含む場合は900?1000℃が可能な範囲,半導体素子の電極,配線等にAlが用いられていると550℃程度,また半田等が電極に用いられていると350℃が上限温度となる。」との記載に照らして,引用例3に記載された方法は,低温での熱処理に限定されるものではなく,また,引用例5にも記載されているように,パッシベーション膜形成用組成物に樹脂を含める場合があることも知られているのであるから,引用例3において,樹脂を添加することに阻害要因があるとは認められない。
したがって,審判請求人の前記主張は採用することができない。

(2)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用例1ないし5に記載された発明から容易に発明をすることができたものである。
したがって,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから,本願の他の請求項については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-14 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2013-552432(P2013-552432)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
大嶋 洋一
発明の名称 パッシベーション膜付半導体基板及びその製造方法、並びに太陽電池素子及びその製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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