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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1339606
審判番号 不服2017-8659  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-14 
確定日 2018-04-13 
事件の表示 特願2013-167103「脳機能計測装置および脳機能計測装置用計測プローブ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月19日出願公開、特開2015- 33561〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月9日の出願であって、平成28年10月28日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月10日付けで拒絶査定されたところ、同年6月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成29年6月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成29年6月14日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
光ファイバを有する送光用または受光用プローブであり、被験者の頭部に配置される複数の計測プローブと、
前記複数の計測プローブの各々と接続され、前記計測プローブを介して計測を行う本体部とを備え、
前記複数の計測プローブは、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する第1プローブと、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する第2プローブとを含み、
前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、
前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有するとともに、前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている、 脳機能計測装置。

【請求項2】
前記第2接触部は、少なくとも頭部表面側に弾性変形可能な接触面部を有する、請求項1に記載の脳機能計測装置。

【請求項3】
前記複数の計測プローブを取り付けるための取付穴を含むとともに、前記被験者の頭部に装着されるホルダをさらに備え、
前記第1接触部は、前記取付穴よりも小さい外形形状を有し、
前記第2接触部は、少なくとも頭部表面側の接触面部が前記取付穴よりも大きい外形形状を有する、請求項1、2のいずれかに記載の脳機能計測装置。

【請求項4】
前記第2接触部は、前記光ファイバの先端部を取り囲むように配置されている、請求項1?3のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項5】
前記第1プローブと前記第2プローブとは、共通のプローブ本体を含み、
前記第2接触部は、前記プローブ本体の先端部に着脱可能に構成された接触部材を有し、
前記第2プローブは、前記プローブ本体の先端部に前記接触部材が装着されることにより構成されている、請求項1?4のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項6】
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する1または複数の第1プローブと、
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する1または複数の第2プローブとを備え、
前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、
前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有するとともに、前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている、脳機能計測装置用計測プローブ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
光ファイバを有する送光用または受光用プローブであり、被験者の頭部に配置される複数の計測プローブと、
前記複数の計測プローブの各々と接続され、前記計測プローブを介して計測を行う本体部とを備え、
前記複数の計測プローブは、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する第1プローブと、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する第2プローブとを含む、脳機能計測装置。

【請求項2】
前記第1接触部は、細長形状を有し、
前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有する、請求項1に記載の脳機能計測装置。

【請求項3】
前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、
前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている、請求項1または2に記載の脳機能計測装置。

【請求項4】
前記第2接触部は、少なくとも頭部表面側に弾性変形可能な接触面部を有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項5】
前記複数の計測プローブを取り付けるための取付穴を含むとともに、前記被験者の頭部に装着されるホルダをさらに備え、
前記第1接触部は、前記取付穴よりも小さい外形形状を有し、
前記第2接触部は、少なくとも頭部表面側の接触面部が前記取付穴よりも大きい外形形状を有する、請求項1?4のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項6】
前記第2接触部は、前記光ファイバの先端部を取り囲むように配置されている、請求項1?5のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項7】
前記第1プローブと前記第2プローブとは、共通のプローブ本体を含み、
前記第2接触部は、前記プローブ本体の先端部に着脱可能に構成された接触部材を有し、
前記第2プローブは、前記プローブ本体の先端部に前記接触部材が装着されることにより構成されている、請求項1?6のいずれか1項に記載の脳機能計測装置。

【請求項8】
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する1または複数の第1プローブと、
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する1または複数の第2プローブとを備える、脳機能計測装置用計測プローブ。」

2 補正の適否
(1) 本件補正の補正事項について
本件補正の補正事項は、以下のとおりである。

補正事項1)補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を、補正後の請求項1とし、補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4-7を、補正後の請求項2-5とする。

補正事項2)補正前の請求項8において、「前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有するとともに、前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている」ことを限定して、補正後の請求項6とする。

上記補正事項1は、請求項1-2の削除とそれに伴う引用請求項の補正であるから、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

上記補正事項2は、補正前の請求項8に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1プローブ」及び「第2プローブ」について、上記のとおり限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、以下において、本件補正後の請求項6に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものであり、以下のとおり、当審にて分節しA)?E)の見出しを付けた。

「 【請求項6】
A-1)光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され、
A-2)被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する
A-3)1または複数の第1プローブと、

B-1)光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され、
B-2)被験者の頭部側の先端部において、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する
B-3)1または複数の第2プローブとを備え、

C-1)前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、
C-2)前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、

D-1)前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有するとともに、
D-2)前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている、
E)脳機能計測装置用計測プローブ。」

(2)引用例の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2008-307318号公報)には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。

(引1a)「【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体に装着され、被検体に対して光を照射するとともに被検体から戻る光を検出する生体光計測装置のプローブ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の生体光計測装置のプローブ装置では、プローブホルダの孔に固定部材が挿入され装着されている。固定部材には、照射用又は受光用の光ファイバの先端部が保持されている。光ファイバの先端部は、固定部材から突出しており、被検体の表面に当接される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004-97590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のプローブ装置では、光ファイバの先端面が研磨加工されており、またプローブホルダを被検体に装着したときには光ファイバの先端面がばねにより被検体に押し付けられるため、検査課題を実施しながらヘモグロビン濃度の変化量を計測する場合など、プローブホルダの装着時間が長くなると、被検体に痛みを感じさせることがあった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、装着時の被検体の痛みを軽減することができる生体光計測装置のプローブ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る生体光計測装置のプローブ装置は、複数のソケット装着孔を有し、被検体に装着されるホルダ、ソケット装着孔に挿入され装着されるソケットと、ソケットにより保持され、先端部がソケットから突出して被検体に当接される光ファイバとをそれぞれ有する複数個のプローブ、及び光ファイバの先端部が挿入される光ファイバ挿入孔を有し
、少なくとも1個のプローブの光ファイバの先端部に装着される少なくとも1個のパッドを備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明の生体光計測装置のプローブ装置は、少なくとも1個のプローブの光ファイバの先端部にパッドを装着したので、被検体に対する圧力が分散され、装着時の被検体の痛みを軽減することができる。」

(引1b)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による生体光計測装置のプローブ装置の要部断面図、図2は図1のプローブ装置を示す斜視図、図3は図2のプローブ装置を斜め下から見た斜視図、図4は図2のプローブ装置を示す分解斜視図である。
【0009】
ホルダ1は、被検体の頭部に装着される。ホルダ1には、複数(図では1つのみ示す)のソケット装着孔1aが設けられている。ソケット装着孔1aは、所定のピッチ(例えば15mm又は30mm)でマトリクス状に配置されている。
【0010】
ホルダ1には、複数個のプローブ2が装着されている。各プローブ2は、ソケット装着孔1aに挿入され装着されたソケット3と、ソケット3により保持された光ファイバ4と、ホルダ1を被検体に装着したときに光ファイバ4の先端部4aを被検体側へ付勢するばね5とを有している。ソケット3は、ソケット装着孔1aに挿入されると、着脱方向への移動がロック機構(図示せず)により規制される。各光ファイバ4の先端部4aは、ソケット3から突出して被検体に当接される。
【0011】
少なくとも1個のプローブ2の光ファイバ4の先端部4aには、ゴム(例えばシリコンゴム)製の円筒状のパッド(キャップ)6が装着されている。パッド6の中央には、光ファイバ4の先端部4aが挿入される光ファイバ挿入孔6aが設けられている。パッド6は、光ファイバ4の先端面がパッド6の被検体側の面と面一になるように先端部4aに装着されている。
【0012】
パッド6の被検体に当接する面には、球面状の丸みが付けられている。また、光ファイバ4の先端部4aの軸方向に直角な方向についてのパッド6の外形寸法、即ちパッド6の外径は、ソケット装着孔1aの径よりも小さくなっている。これにより、光ファイバ4の先端部4aにパッド6を装着したままで、プローブ2をソケット装着孔1aから引き抜くことが可能となっている。
【0013】
プローブ2には、被検体に光を照射するための複数の照射プローブと、被検体を通過した光を検出する複数の検出プローブとが含まれている。照射プローブ及び検出プローブは、交互に配置されている。
【0014】
計測装置本体(図示せず)は、可視から赤外領域の波長の光を発生し照射プローブに送る。照射プローブから照射された光の一部は、照射プローブと検出プローブとの間に位置する計測点で大脳皮質を透過し検出プローブに入射する。このとき、検出プローブでの検出光量は、計測点のヘモグロビン濃度に応じて変化する。計測装置本体は、検出プローブでの検出光量を計測し、その計測結果から各計測点における血液中のヘモグロビン濃度の変化量を計測し、計測結果に関する情報をモニタに表示する。
【0015】
このような生体光計測装置のプローブ装置では、少なくとも1個のプローブ2の光ファイバ4の先端部4aにパッド6を装着したので、被検体の頭皮に対する圧力が分散され、装着時の被検体の痛みを軽減することができる。
【0016】
また、パッド6を光ファイバ4に装着したままで、プローブ2をソケット装着孔1aから引き抜くことが可能であるため、ホルダ1へのプローブ2の着脱の度にパッド6を着脱する必要がなく、作業効率が向上する。
【0017】
なお、パッド6は、全てのプローブ2に装着してもよいが、例えば頭髪のない額部分に位置するプローブ2だけに装着するなど、必要なプローブ2のみに装着してもよい。
また、全てのプローブ2に同じパッド6を装着する必要はなく、プローブ2の位置に応じて異なる柔らかさのパッド6を装着するなどしてもよい。
さらに、光ファイバ挿入孔6aの外周にスリットを設け、光ファイバ挿入孔6aの径方向外側からスリットを通して光ファイバ4の先端部4aを光ファイバ挿入孔6aに装着するようにしてもよい。」


(引1c)図1は、以下のようなものである。


(イ)引用文献1の記載から把握できる事項
a 引用文献1には「パッド6は、」「頭髪のない額部分に位置するプローブ2だけに装着する」(【0017】段落)との記載があり、この場合、「複数個のプローブ2」には、「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」以外のプローブ2が存在し、当該「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」以外のプローブ2には、パッド6が装着されていないことは明らかである。
b また、引用文献1の「複数個のプローブ2」は「被検体の頭部に装着され」る「ホルダ1に」「装着され」る(【0009】-【0010】段落)ものであるから、当該「複数個のプローブ2」には、頭髪のある部分に位置するプローブ2が含まれていることは明らかである。
c 上記a-bから、引用文献1記載の発明において、「パッド6」が「頭髪のない額部分に位置するプローブ2だけに装着」される場合には、頭髪のある部分に位置するプローブ2には、パッド6が装着されていないことが読み取れる。

(ウ)引用文献1に記載された発明
上記(引1b)の下線部の事項に、上記(イ)での検討を加えて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。

「 ホルダ1は、被検体の頭部に装着され(【0009】)、
ホルダ1には、複数個のプローブ2が装着され(【0010】)、
各プローブ2は、光ファイバ4を有し(【0010】)、
各光ファイバ4の先端部4aは、ソケット3から突出して被検体に当接され(【0010】)、
少なくとも1個のプローブ2の光ファイバ4の先端部4aには、ゴム(例えばシリコンゴム)製の円筒状のパッド6が装着され(【0011】)、
パッド6の被検体に当接する面には、球面状の丸みが付けられ(【0012】)、
プローブ2には、被検体に光を照射するための複数の照射プローブと、被検体を通過した光を検出する複数の検出プローブとが含まれ(【0013】)、
照射プローブから照射された光の一部は、照射プローブと検出プローブとの間に位置する計測点で大脳皮質を透過し検出プローブに入射し、このとき、検出プローブでの検出光量は、計測点のヘモグロビン濃度に応じて変化し(【0014】)、
計測装置本体は、可視から赤外領域の波長の光を発生し照射プローブに送り、また、検出プローブでの検出光量を計測し、その計測結果から各計測点における血液中のヘモグロビン濃度の変化量を計測し(【0014】)、
パッド6は、頭髪のない額部分に位置するプローブ2だけに装着され(【0017】)、
頭髪のある部分に位置するプローブ2には、パッド6が装着されていない(上記(イ)a)、
生体光計測装置のプローブ装置」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、引用文献2(国際公開第2005/058161号)には、以下の記載がある。

(引2a)「技術分野
本発明は、光を用いて生体内部の情報を計測する装置のプローブに関する。
背景技術
生体内部の情報を、簡便で生体に害を与えずに計測する装置が、臨床医療や脳科学等の分野で用いられている。その中でも、特に光を用いた計測法は非常に有効な手段である。その第一の理由は、生体内部の酸素代謝機能は生体中の特定色素(ヘモグロビン、チトクロームaa3、ミオダロビン等)の濃度に対応しており、これらの色素の濃度は、光の吸収量から求められるからである。また、光計測が有効である第二、第三の理由は、光は光ファイバにより扱いが簡便であり、さらに安全基準の範囲内での使用により生体に害を与えないことが挙げられる。
・・・
また、このような生体光計測を実現するために、被検体に接触させる計測プローブが用いられている。これは、光を照射する光照射部と、生体内を透過あるいは反射してきた光を検出する光検出部と、前記光照射部と前記光検出部を格子状に配列させて固定する固定部材とによつて構成されている。また、この固定部材をバンドもしくはゴム紐もしくはへァバンドなどを用いて光照射部と光検出部を被検体に接触させる構造になっている。または、固定部材がへルメットのように被検体にかぶせられるようになっている。この生体光計測プローブの例として、特許文献3(特開平8?117209号公報)、特許文献4(特開2001?286449号公報)もしくは特許文献5(特開2003?322612号公報)などが挙げられる。」(明細書第1頁3行目-第2頁7行目)

(引2b)「(実施例5)
検出部102を被検体に密着させる機構を有する遮光部108の例を図18に示す。遮光部108は検出部102を中央に通すように穴1081をあけてあり、図19のように、保持部104で保持された検出部102を包むようにはめ込むことが可能である。図20は図19を横から見たものである。遮光部108は、光を遮断するためにその表面もしくは全体を、光を吸収する色で着色されている。このことにより、生体光計測に用いる光以外の外部の不要な光を遮断し、照明部より被検体に照射され被検体の内部を透過もしくは反射した光のみを、穴1081を通して検出部102で検出することができる。またこの遮光部108は、図19もしくは図20と同様に、照明部101に対しても適用することができ、照明部101から被検体の内部以外の箇所に光が漏れることを防ぐことができる。被検体の内部以外に漏れた光が検出部102で直接検出されることを未然に防ぐことが可能である。
遮光部108は、照明部101や検出部102を被検体に密着させる機能も有する。例えば、ゴム系素材ゃジエル素材などに代表される粘着性のある素材から成る遮光部108を用いることで、照明部101および検出部102を、被検体に対してずれにくく、密着させることが可能である。」

(引2c)図18は、以下のようなものである。


(引2d)図19は、以下のようなものである。


図18、19から、「遮光部108」は、厚みに対して半径が大きく、「扁平形状」であるといえる。

ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献3(特開2007-260122号公報)には、以下の記載がある。

(引3a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱媒質の内部に存在する観察対象部位を光によって観察するための装置に関し、特に生体内部に存在する血管や神経等を観察する装置に関するものである。」

(引3b)「【0026】
〔第一実施形態〕
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図6を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る散乱媒質内部観察装置1は、光源2と、光源2からの光を散乱体である観察物体Wに導く照明装置3と、照明装置3によって照明された観察物体Wを観察する観察光学系4とを備えている。
【0027】
照明装置3は、光源2からの光を収束させる集光レンズ11と、集光レンズ11によって集光された光を観察物体Wの表面に導光する導光部材12を有している。導光部材12としては、例えば光ファイバ等の細線状のライトガイドが用いられる。また、導光部材12の観察物体側端部近傍には、観察物体Wの表面を覆って観察物体Wの導光部材12近傍で反射または散乱された光を遮光する遮光部材13が配置されている。」

(引3c)「【0038】
以下、この散乱媒質内部観察装置1による具体的な観察方法について説明する。本実施形態では、図1及び図6に示すように、観察物体Wである脂肪において照明装置3の遮光部材13に対向する部位の表面から周囲に光が漏れないように、遮光部材13の先端面を、脂肪の表面に密着させた状態で、照明装置3による照明を行う。」

(引3d)図1は、以下のようなものである。


図1から、「遮光部材13」は、厚みに対して半径が大きく、「扁平形状」であるといえる。

(3)引用発明との対比
引用発明と本件補正発明とを対比する。

ア C-2)及びD-2)について
(ア)引用発明の「被検体」は、本件補正発明の「被験者」に相当する。
(イ)引用発明の「頭髪のない額部分」及び「頭髪のある部分」は、それぞれ、本件補正発明の「頭部の無毛部」及び「頭部の有毛部」に相当する。
(ウ)したがって、引用発明の「被検体の頭部に装着され」た「ホルダ1」に「装着され」た「複数個のプローブ2」の、「頭髪のある部分に位置するプローブ2」及び「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」は、それぞれ、本件補正発明のC-2)「被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され」ている「第1プローブ」及びD-2)「被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている」「第2プローブ」に相当する。

イ E)について
(ア)引用発明の「プローブ2には、被検体に光を照射するための複数の照射プローブと、被検体を通過した光を検出する複数の検出プローブとが含まれ」、「計測装置本体は、可視から赤外領域の波長の光を発生し照射プローブに送り、また、検出プローブでの検出光量を計測」するものであるから、引用発明における「プローブ2」は、「計測装置本体」に接続されていることは明らかである。
そして、引用発明の「計測装置本体」は、「照射プローブと検出プローブとの間に位置する計測点で大脳皮質を透過し検出プローブに入射」したときに「計測点のヘモグロビン濃度に応じて変化」した「検出プローブでの検出光量」「を計測し、その計測結果から各計測点における血液中のヘモグロビン濃度の変化量を計測」する装置であって、ここで「各計測点における血液中のヘモグロビン濃度の変化量」が「大脳皮質」の各計測点に対応する位置での活動量を反映していることは明らかであるから、本件補正発明の「脳機能計測装置」に相当する。
(イ)したがって、引用発明の「頭髪のある部分に位置するプローブ2」及び「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」は、いずれも、「計測装置本体」に接続されて使用されるものであるから、本件補正発明のE)「脳機能計測装置用計測プローブ」に相当する。

ウ A-1)、A-3)、B-1)、B-3)について
(ア)引用発明の「各プローブ2」の「各光ファイバ4の先端部4aは、ソケット3から突出して被検体に当接され」ることは、「プローブ2」が「被検体の頭部に装着され」た「ホルダ1」に装着されていること、及び上記ア(ア)から、本件補正発明のA-1)及びB-1)における「プローブ」の「先端部が被験者の頭部に配置される」ことに相当する。
(イ)そして、引用発明の「頭髪のある部分に位置するプローブ2」及び「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」は、「光ファイバ4を有し」、「被検体の頭部に装着され」た「ホルダ1」に「装着され」て、「各光ファイバ4の先端部4aは、ソケット3から突出して被検体に当接され」、「計測装置本体」に接続されているものであるから、それぞれ、本件補正発明におけるA-1)「光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され」たA-3)「1または複数の第1プローブ」及びB-1)「光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され」たB-3)「1または複数の第2プローブ」に相当する。

エ A-2)について
本願明細書【0035】段落の「第1接触部30(光ファイバ21の先端部20a)が頭部表面に接触する」との記載によれば、引用発明の「ソケット3から突出して被検体に当接され」る「光ファイバ4の先端部4a」は、引用発明の「頭髪のある部分に位置するプローブ2」には「パッド6が装着されていない」から、本件補正発明の「1または複数の第1プローブ」がA-2)「被験者の頭部側の先端部において」「有する」「第1接触部」に相当する。

オ B-2)について
引用発明における「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」には、その「光ファイバ4の先端部4aに」「パッド6が装着され」、「パッド6」は「被検体に当接する面」を有するものである。
そして、「パッド6が装着されていない」「頭髪のある部分に位置するプローブ2」の被験者の頭部表面側の面積よりも、「パッド6」が「装着され」ている「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」の被験者の頭部表面側の面積の方が、大きいことは明らかである。
したがって、引用発明における「頭髪のない額部分に位置するプローブ2」に「装着され」ている「パッド6」と、本件補正発明における「1または複数の第2プローブ」がB-2)「被験者の頭部側の先端部において」「有する」、「遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部」とは、1または複数の第2プローブが被験者の頭部側の先端部において被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する点で共通する。

カ C-1)について
引用発明の「ソケット3から突出して被検体に当接され」る「光ファイバ4の先端部4a」は、細長形状の光ファイバであるから、引用発明における「頭髪のある部分に位置するプローブ2」の「光ファイバ4の先端部4a」が、本件補正発明におけるC-1)「前記第1接触部は、細長形状を有する」ことは明らかである。

キ 上記ア-カから、引用発明は、本件補正発明に対して、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する1または複数の第1プローブと、
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する1または複数の第2プローブとを備え、
前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、
前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている、
脳機能計測装置用計測プローブ。」


<相違点>
(相違点1)第2接触部の光学特性について、本件補正発明の第2接触部は「遮光性を有する」のに対して、引用発明の「ゴム(例えばシリコンゴム)製」の「パッド6」が遮光性を有するか否か明らかでない点。

(相違点2)第2接触部の形状について、本件補正発明の第2接触部は「被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有する」のに対して、引用発明の「円筒状」の「パッド6」がそのような形状を有するか否か明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1について
生体に光ファイバを接触させて生体内で反射又は散乱された光を計測する生体光計測において、生体に接触する光ファイバの先端に取り付ける部材に、遮光性を持たせることで、計測に不要な光を遮断することは、例えば引用文献2の「遮光部108」や引用文献3の「遮光部材13」にみられるように、本願出願前において、当業者に周知の技術的事項である。
そして、引用発明も生体光計測に関するものであって、計測に不要な光を遮断するという課題を有していることは明らかである。
したがって、引用発明において、上記周知技術を採用して、引用発明における「ゴム(例えばシリコンゴム)製」の「パッド6」を遮光性のものとすることで、相違点1に係る本件補正発明の構成すなわち「遮光性を有する」第2接触部とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

イ 相違点2について
生体に光ファイバを接触させて生体内で反射又は散乱された光を計測する生体光計測において、生体に接触する光ファイバの先端に取り付けられる部材を、被検体の表面に密着できるような扁平形状とすることは、例えば引用文献2の「遮光部108」や引用文献3の「遮光部材13」にみられるように、本願出願前において、当業者に周知の技術的事項である。
ここで、上記周知の技術的事項における被検体の表面に密着できるような扁平形状は、本件補正発明における「被験者の表面に沿った扁平形状」に相当する。
そして、引用発明も生体光計測に関するものであって、「プローブ2」が被検体に対してずれにくく密着できる方が好ましいことは明らかである。
したがって、引用発明において、上記周知技術を採用して、引用発明における「ゴム(例えばシリコンゴム)製」の「円筒状」の「パッド6」を、被験者の表面に密着できる扁平形状、すなわち相違点2に係る本件補正発明における構成の「被験者の頭部表面に沿った扁平形状」とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

エ 小括
上記ア-ウから、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年6月14日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-8に係る発明は、平成28年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば、次のとおり。

「 【請求項8】
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、第1接触部を有する1または複数の第1プローブと、
光ファイバを有し、先端部が被験者の頭部に配置されるとともに、前記脳機能計測装置に接続されるように構成され、被験者の頭部側の先端部において、遮光性を有するとともに被験者の頭部表面側の面積が前記第1接触部よりも大きい第2接触部を有する1または複数の第2プローブとを備える、脳機能計測装置用計測プローブ。」

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1-3、その記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1プローブ」及び「第2プローブ」に係る限定事項である「前記第1接触部は、細長形状を有するとともに、前記第1プローブは、被験者の頭部の有毛部に対応する位置に配置されるように構成され、前記第2接触部は、被験者の頭部表面に沿った扁平形状を有するとともに、前記第2プローブは、被験者の頭部の無毛部に対応する位置に配置されるように構成されている」ことを削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記理由2[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-08 
結審通知日 2018-02-13 
審決日 2018-03-01 
出願番号 特願2013-167103(P2013-167103)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田倉 直人関根 裕  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
松岡 智也
発明の名称 脳機能計測装置および脳機能計測装置用計測プローブ  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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