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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1339659
審判番号 不服2017-4603  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-03 
確定日 2018-05-15 
事件の表示 特願2014-257411「偏光板用保護フィルム及びそれを用いた偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年8月6日出願公開,特開2015-143842,請求項の数(7)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2014-257411号(以下「本件出願」という。)は,平成26年12月19日(優先権 平成25年12月27日)の出願であって,その手続等の概要は,以下のとおりである。
平成28年 6月24日付け:手続補正書
平成28年 8月23日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月28日付け:意見書
平成28年10月28日付け:手続補正書
平成28年12月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 4月 3日付け:審判請求書
平成29年 4月 3日付け:手続補正書
平成30年 1月15日付け:拒絶理由通知書
(この拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由を,以下「当合議体の拒絶の理由」という。)
平成30年 2月28日付け:意見書
平成30年 2月28日付け:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,[A]本件出願の(原査定時の)請求項1及び請求項4?請求項10に係る発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,また,[B]本件出願の(原査定時の)請求項1及び請求項3?請求項10に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,同法同条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

原査定において引用された文献は,以下のとおりである。
引用文献1:特開2009-134121号公報
引用文献2:国際公開第2006/112207号
引用文献3:特開2006-328334号公報
引用文献4:特開2008-299096号公報
引用文献5:特開2010-107953号公報
引用文献6:特開2012-159665号公報
引用文献7:特開2010-79239号公報

なお,引用文献1?引用文献3は,いずれも,特許法29条1項3号の拒絶の理由において引用された文献であるとともに,同法同条2項の拒絶の理由においても(いわゆる主引用例として)引用された文献でもある。また,引用文献4は同法同条2項の拒絶の理由において(いわゆる副引用例として)引用された文献であり,引用文献5?引用文献7は,いずれも周知技術を示す文献として引用されたものである。
また,原査定においては,付記として,[C]本件出願の(原査定時の)請求項2に対して,引用文献1?引用文献3を引用例とする特許法29条1項3号及び同法同条2項の拒絶の理由,及び[D]本件出願の(原査定時の)請求項1,請求項2,請求項5及び請求項7に対して,引用文献4を引用例とする特許法29条1項3号及び同法同条2項の拒絶の理由があるとされている。

3 当合議体の拒絶の理由
当合議体の拒絶の理由は,概略,[A]本件出願の(本件補正前の)請求項1?請求項4,請求項6及び請求項7に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,また,[B]本件出願の(本件補正前の)請求項1?請求項9に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法同条2項の規定により特許を受けることができない,[C]本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない,というものである。
当合議体の拒絶の理由において引用された文献は,以下のとおりである。
引用例1:特開2010-100801号公報
引用例2:特開2012-82358号公報
引用例3:特開2009-292869号公報
引用例4:特開2010-72135号公報
なお,引用例1?引用例4は,いずれも,特許法29条1項3号の拒絶の理由において引用された文献であるとともに,同法同条2項の拒絶の理由において(いわゆる主引用例として)引用された文献でもある。

当合議体が通知した36条6項1号の拒絶の理由は,審判請求と同時にされた補正が,実施例1及び実施例3の構成の一部を根拠とするものであった(他の主要な構成が欠けていたため,当該補正後の発明が,当業者が発明の課題を解決することができると認識できる範囲を超えていた)ことを理由とするものである。

4 本願発明
本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
偏光フィルムに,エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分の硬化物を含む接着剤層を介して積層される偏光板用保護フィルムであって,
メタクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸エステル由来の構成単位とを含む(メタ)アクリル系樹脂からなり,面配向係数ΔPの絶対値が1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下である延伸フィルムを含み,
前記延伸フィルムは,ゴム粒子を含み,
前記偏光フィルムに対する密着性が,温度23℃,相対湿度55%RHの条件下で5.01N/25mm以上である偏光板用保護フィルム。

【請求項2】
前記延伸フィルムは,二軸延伸フィルムである請求項1に記載の偏光板用保護フィルム。

【請求項3】
前記延伸フィルムは,その厚みが10?150μmである請求項1又は2に記載の偏光板用保護フィルム。

【請求項4】
前記延伸フィルム上に積層される表面処理層をさらに含む請求項1?3のいずれか1項に記載の偏光板用保護フィルム。

【請求項5】
前記延伸フィルムの厚み方向の位相差値(R_(th))が-35nm?35nmである請求項1?4のいずれか1項に記載の偏光板用保護フィルム。

【請求項6】
前記延伸フィルムの面内の位相差値(R_(0))が0nm?15nmである請求項1?5のいずれか1項に記載の偏光板用保護フィルム。

【請求項7】
偏光フィルムと,
前記偏光フィルムの少なくとも一方の面に前記接着剤層を介して積層される請求項1?6のいずれか1項に記載の偏光板用保護フィルムと,
を含む,偏光板。」

第2 当合議体の拒絶の理由に対する判断
1 引用例1について
(1) 引用例1の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,当合議体の拒絶の理由において引用された引用例1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インフレーション法により,実用的強度の改良されたアクリル系樹脂フィルムを製造する方法及び当該製造方法により得られるアクリル系樹脂フィルムに関する。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら,上述したような,建材用途,加飾フィルム用途,貼合積層フィルム用途,農業フィルム用途,インテリアフィルム用途等の,一般的なフィルム用途,その他特殊な光学的機能が求められる光学フィルム用途の双方において,インフレーション法のように多品種少量生産に好適なフィルムの製造技術であって,光学特性,表面硬度等の物性を維持して,しかも実用可能な強度を有するアクリル系樹脂フィルムの製造技術については,さらなる改良が必要とされている。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等が鋭意研究を重ねた結果,インフレーション法を用いて,延伸加工時の樹脂温度と延伸倍率を特定の範囲とし,アクリル系樹脂フィルムの長手方向,幅方向,厚み方向の分子配向度をコントロールし,高い透明性,高い表面硬度,位相差の少ないという優れた光学的特性を維持しながら,衝撃強度,折り曲げ時の割れに対する耐折強さの優れたフィルムを製造する方法を見出し,本発明を完成するに至った。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下,本発明を実施するための形態(以下,本実施形態)について詳細に説明する。
…(省略)…
【0028】
〔フィルムの構成材料〕
本実施形態のフィルムの製造方法において用いられる原料樹脂は,アクリル系樹脂を主成分とする。
…(省略)…
【0029】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂としては,以下の(a)?(d)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の重合体及びこれらの混合物が適用できる。
(a)メタクリル酸単量体,アクリル酸単量体,メタクリル酸エステル単量体,アクリル酸エステル単量体単独重合体又は共重合体,及びこれらの混合物。
…(省略)…
【0030】
メタクリル酸エステル単量体の具体例としては,…(省略)…メタクリル酸メチルが好ましい。
アクリル酸エステル単量体の具体例としては,アクリル酸メチル…(省略)…が挙げられる。
…(省略)…
【0036】
(フィルムの構成材料の留意点)
本実施形態におけるフィルムは,用途に応じて構成材料を選択することが好ましい。
すなわち,本実施形態のフィルムを光学フィルムとして用いる場合には,樹脂の固有複屈折の絶対値を小さくする必要があるので,スチレンを含む樹脂を用いることが好ましい。
…(省略)…
【0053】
〔フィルムの物性〕
(面配向度(ΔP))
本実施形態においては,下記式(3)で表されるフィルムの面配向度(ΔP)の絶対値が0.7×10^(-5)以上であることが好ましく,7.0×10^(-5)以上であることがより好ましく,10.0×10^(-5)以上であることがさらに好ましく,15.0×10^(-5)以上であることがさらにより好ましい。
ΔP=(Nx+Ny)/2-Nz・・・(3)
…(省略)…
【0054】
…(省略)…
特に,光学フィルムとして利用する場合には,フィルムの面配向度(ΔP)の絶対値は0.7×10^(-5)以上100×10^(-5)以下の範囲内であることが好ましく,1.0×10^(-5)以上50×10^(-5)以下の範囲内であることがより好ましく,2.5×10^(-5)以上30×10^(-5)以下の範囲内であることがさらに好ましい。
…(省略)…
【0068】
〔用途〕
…(省略)…
なお,光学フィルムとして使用する場合,例えば,偏光子保護フィルムとして利用する場合には,所定の偏光子と接する面に,接着性を向上させる易接着処理を施してもよい。」

ウ 「【実施例1】
【0069】
以下,本発明の実施例と,比較例を挙げて具体的に説明する。
…(省略)…
【0083】
<アクリル系樹脂AR1,AR2の調整>
(アクリル系樹脂AR1)
公知の方法(例えば,特公昭63-1964号公報に記載の方法)で,単量体としてメタクリル酸メチル,スチレン,無水マレイン酸を用いて,メタクリル酸メチル・スチレン・無水マレイン酸共重合体を作製した。
共重合体の組成,重量平均分子量,MFR(メルト・フローレート)を,下記表1に示す。
…(省略)…
(アクリル系樹脂AR2)
公知の方法(例えば,特許第3779777号公報に記載の溶液重合法)により,単量体としてメタクリル酸メチル,アクリル酸メチルを用いて,メタクリル酸メチル・アクリル酸メチル共重合体を作製した。
共重合体の組成,重量平均分子量,MFR(メルト・フローレート)を,下記表1に示す。
…(省略)…
【0084】
【表1】

…(省略)…
【0096】
次に,後述する実施例20?57,比較例4?12においては,光学フィルム用途としてのフィルムを製造し,評価を行った。
…(省略)…
【0107】
フィルムの製造条件を下記表3に示す。
…(省略)…
MD方向の延伸倍率(DDR),TD方向の延伸倍率(BUR),及びフィルムの厚さが下記表3に示す値となるように,樹脂の押出し速度,フィルムの引き取り速度,樹脂を膨らませるために入れる空気の量,冷却する冷風の温度を制御した。
…(省略)…
【0109】
【表3】(当合議体注:表の一部のみを示す。)

【0110】
上記表3に示すように,実施例20?39のフィルムは,いずれも,実用上十分な耐折強さを有し,光学特性,透明性も良好であった。
…(省略)…
【0111】
〔実施例40?48〕
アクリル系樹脂AR1に代えて,アクリル系樹脂AR2を用いた。
…(省略)…
【0115】
【表4】(当合議体注:表の一部のみを示す。)



(2) 引用発明及び参考発明
ア 引用発明
引用例1には,【0084】の表1に記載された材料を使用し,【0109】の表3に記載された物性等を具備する実施例28の「光学フィルム用途としてのフィルム」(【0096】)として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。なお,事案に鑑みて,本願発明1に関係する材料や物性等のみを取り上げて引用発明としている。)。
「 アクリル系樹脂(AR1)90質量%,軟質樹脂からなるゴム状弾性体粒子を含むアクリル系樹脂10質量%を材料とし,
製膜条件のうち,製造方法は,インフレーション法であり,
製膜条件のうち,MD方向の延伸倍率(DDR)は6.6倍,TD方向の延伸倍率(BUR)は2.8倍であり,
面配向度ΔPが-16.3×10^(-5)である光学フィルム用途としてのフィルムであって,
アクリル系樹脂(AR1)の成分は,メタクリル酸メチル74質量%,スチレン16質量%,無水マレイン酸10質量%であり,
軟質樹脂からなるゴム状弾性体粒子を含むアクリル系樹脂は,メタクリル酸メチル,アクリル酸ブチル及びスチレンの共重合体と,メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルの共重合体との混合物(旭化成ケミカルズ(株) デルペットSR8500)である,
光学フィルム用途としてのフィルム。」

イ 参考発明
同様に,【0084】の表1に記載された材料を使用し,【0115】の表4に記載された物性等を具備する実施例40?48の「光学フィルム用途としてのフィルム」(【0096】)として,以下の発明も記載されている(以下「参考発明」という。事案に鑑みて,延伸倍率及び面配向度を数値範囲として表す。)。
「 アクリル系樹脂(AR2)100質量%を材料とし,
製膜条件のうち,製造方法は,インフレーション法であり,
製膜条件のうち,MD方向の延伸倍率(DDR)は11?23倍,TD方向の延伸倍率(BUR)は2.1?2.9倍であり,
面配向度ΔPが1.33×10^(-5)?5.5×10^(-5)である光学フィルム用途としてのフィルムであって,
アクリル系樹脂(AR2)の成分は,メタクリル酸メチル98質量%,アクリル酸メチル2質量%である,
光学フィルム用途としてのフィルム。」

(3) 対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 偏光板用保護フィルム
引用発明は,「光学フィルム用途としてのフィルム」である。また,本願発明1は「偏光板用保護フィルム」であるから,光学フィルムということができる。
したがって,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」と本願発明1の「偏光板用保護フィルム」は,「光学フィルム」の点において共通する。

イ 延伸フィルム
引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」の「製膜条件のうち,製造方法は,インフレーション法であり」,「製膜条件のうち,MD方向の延伸倍率(DDR)は6.6倍,TD方向の延伸倍率(BUR)は2.8倍」である。
そうしてみると,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,本願発明1の「偏光板用保護フィルム」における,「延伸フィルムを含み」という要件を満たす。

ウ 面配向係数ΔP
引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,「面配向度ΔPが-16.3×10^(-5)である」。また,引用例1の【0053】に記載された「面配向度ΔP」の定義,及び本件出願の明細書の【0019】に記載された「面配向係数ΔP」の定義からみて,引用発明の「面配向度ΔP」と本願発明1の「面配向係数ΔP」は同一の物性値である。
そうしてみると,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,本願発明1の「延伸フィルム」における,「面配向係数ΔPの絶対値が1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下である」という要件を満たす。

エ (メタ)アクリル樹脂
引用発明の「アクリル系樹脂(AR1)の成分は,メタクリル酸メチル74質量%,スチレン16質量%,無水マレイン酸10質量%」である。
そうしてみると,引用発明の「アクリル系樹脂(AR1)」は,メタクリル酸メチル由来の構成単位を含む,メタクリル系樹脂といえる。また,「メタクリル酸メチル」は,技術的にみて,本願発明1でいう「メタクリル酸エステル」に該当する。そして,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,材料として「アクリル系樹脂(AR1)90質量%」を含む。
したがって,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,本願発明1の「延伸フィルム」における「メタクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸エステル由来の構成単位とを含む(メタ)アクリル系樹脂からなり」という要件のうち,「メタクリル酸エステル由来の構成単位」「を含む(メタ)アクリル系樹脂からなり」という要件を満たす。

オ ゴム粒子
引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,材料として「軟質樹脂からなるゴム状弾性体粒子を含むアクリル系樹脂10質量%」を含む。
したがって,引用発明の「光学フィルム用途としてのフィルム」は,本願発明1の「延伸フィルム」における,「前記延伸フィルムは,ゴム粒子を含み」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果からみて,本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 光学フィルムであって,
メタクリル酸エステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系樹脂からなり,面配向係数ΔPの絶対値が1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下である延伸フィルムを含み,
前記延伸フィルムは,ゴム粒子を含む,
光学フィルム。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
光学フィルムに関して,本願発明1は,「偏光フィルムに,エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分の硬化物を含む接着剤層を介して積層される偏光板用保護フィルム」であるのに対して,引用発明は,「光学フィルム用途としてのフィルム」ではあるものの,「偏光フィルムに,エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分の硬化物を含む接着剤層を介して積層される偏光板用保護フィルム」として適した物であるか,不明である点。
また,本願発明1は,「前記偏光フィルムに対する密着性が,温度23℃,相対湿度55%RHの条件下で5.01N/25mm以上」という特性を具備するのに対して,引用発明は,このような特性を具備するか,不明である点。

(相違点2)
(メタ)アクリル系樹脂に関して,本願発明1は,「アクリル酸エステル由来の構成単位」を含むのに対して,引用発明は,「アクリル酸エステル由来の構成単位」は含まない点。

(5) 判断
ア 特許法29条1項3号について
本願発明1と引用発明は,相違点1及び相違点2において相違するから,同一であるということはできない。

イ 特許法29条2項について
事案に鑑みて,相違点2について判断する。
引用発明は,「アクリル系樹脂(AR1)の成分」が,「メタクリル酸メチル74質量%,スチレン16質量%,無水マレイン酸10質量%」である,具体的な実施例(実施例48)である。
したがって,引用発明に接した当業者が,引用発明の「アクリル系樹脂(AR1)の成分」を相違点2に係る本願発明1の構成を具備したものに替える特段の動機はないというべきである。

ところで,引用例1には,「アクリル系樹脂(AR2)の成分」が,「メタクリル酸メチル98質量%,アクリル酸メチル2質量%」である,参考発明(前記(2)イ参照。)も開示されている。ここで,参考発明の「メタクリル酸メチル」及び「アクリル酸メチル」は,それぞれ本願発明1でいう「メタクリル酸エステル」及び「アクリル酸エステル」に該当するから,参考発明の「アクリル系樹脂(AR2)」は,相違点2に係る本願発明1の「メタクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸エステル由来の構成単位とを含む(メタ)アクリル系樹脂」といえる。
しかしながら,参考発明の「面配向度ΔP」は「1.33×10^(-5)?5.5×10^(-5)」であり,本願発明1の「面配向係数ΔP」の範囲外である。また,参考発明は,本願発明1でいう「ゴム粒子」を含むものでもない。
そうしてみると,仮に,引用発明と参考発明を組み合わせようと考えた当業者を想定しても,本願発明1の構成の全てを具備した発明に到るとはいえない。

なお,引用発明において,「アクリル系樹脂(AR1)」を「アクリル系樹脂(AR2)」に替えた場合においても,「面配向度ΔP」を「1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下」とすることは,技術的にみて可能である(インフレーション法における延伸倍率等の製膜条件を調整すれば良いと考えられる。)。
しかしながら,引用例1の【0054】には,「光学フィルムとして利用する場合には,フィルムの面配向度(ΔP)の絶対値は0.7×10^(-5)以上100×10^(-5)以下の範囲内であることが好ましく,1.0×10^(-5)以上50×10^(-5)以下の範囲内であることがより好ましく,2.5×10^(-5)以上30×10^(-5)以下の範囲内であることがさらに好ましい。」と記載されている。すなわち,引用例1に開示された「面配向度ΔP」の絶対値は,「さらに好ましい」とされる範囲でみても,「2.5×10^(-5)以上30×10^(-5)以下」であり,本願発明1の「1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下」より遙かに広い範囲である。
したがって,「面配向度ΔP」を「1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下」とすることが,技術的にみて可能であるとしても,容易であるとまではいえない。

したがって,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6) 請求項2?請求項7に係る発明について
本件出願の請求項2?請求項6に係る発明は,いずれも前記相違点2に係る本願発明1の構成を具備する,偏光板用保護フィルムの発明である。また,本件出願の請求項7に係る発明は,本願発明1の偏光板用保護フィルムを含む偏光板の発明である。
したがって,いずれの発明も,本願発明1と同じ理由により,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(7) 引用例1に記載された他の発明について
当合議体の拒絶の理由においては,引用例1に記載された実施例3,実施例25,実施例33,実施例37及び実施例52を引用発明とした拒絶の理由も通知したところである。
しかしながら,これら実施例の樹脂は,いずれも「アクリル系樹脂(AR1)」,すなわち「メタクリル酸メチル74質量%,スチレン16質量%,無水マレイン酸10質量%」を成分とするものである。
したがって,前記(5)及び(6)と同じ理由により,本件出願の請求項1?請求項7に係る発明(以下「本願発明」と総称する。)は,いずれも,引用例1に記載された発明ということができず,また,当業者が,引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

2 引用例2?引用例4について
(1) 引用例2について
当合議体の拒絶の理由では,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である,引用例2に記載された実施例1及び実施例3の光学用フィルムを引用発明とした拒絶の理由も通知したところである。
しかしながら,実施例1及び実施例3の光学用フィルムは,いずれも,ゴム粒子を含まないものであり,この点において本願発明と相違する。

また,仮に,当業者が,実施例1及び実施例3の光学用フィルム中にゴム粒子を含めた場合を想定しても,どのようなゴム粒子を,どの程度含めるかは不明である。そうしてみると,本願発明の「偏光フィルムに対する密着性が,温度23℃,相対湿度55%RHの条件下で5.01N/25mm以上である」という構成を具備したものになるとまではいえない。
したがって,本願発明は,引用例2に記載された発明であるということはできず,また,当業者が,引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるということもできない。

(2) 引用例3について
当合議体の拒絶の理由では,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である,引用例3に記載された実施例1及び実施例7のアクリルフィルムを引用発明とした拒絶の理由も通知したところである。
しかしながら,実施例1及び実施例7のアクリルフィルムは,いずれも,ゴム粒子を含まないものである。
したがって,前記(1)と同じ理由により,本願発明は,引用例3に記載された発明であるということはできず,また,当業者が,引用例3に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるということもできない。

(3) 引用例4について
当合議体の拒絶の理由では,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である,引用例4に記載された実施例6の光学フィルムを引用発明とした拒絶の理由も通知したところである。
しかしながら,実施例6の光学フィルムも,ゴム粒子を含まないものである。
したがって,前記(1)と同じ理由により,本願発明は,引用例4に記載された発明であるということはできず,また,当業者が,引用例4に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるということもできない。

3 36条6項1号の拒絶の理由について
当合議体が通知した,審判請求と同時にされた補正に起因する36条6項1号の拒絶の理由は,本件補正により解消した。

第3 原査定の拒絶の理由に対する判断
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物であり,原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断に関係する記載箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板に関する。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,偏光子の少なくとも片面に,接着剤層,透明保護フィルムおよび光学補償層をこの順で有する偏光板であって,当該偏光板を液晶パネルに適用した場合にも表示ムラを小さく抑えることができる,偏光板を提供することを目的とする。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0008】
…(省略)…
【0009】
即ち本発明は,偏光子の少なくとも片面に,接着剤層,透明保護フィルムおよび光学補償層をこの順で有する偏光板であって,
前記光学補償層は,nx≒ny>nz(但し,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx,ny,nzとする)の関係を満足し,かつ,
前記透明保護フィルムはグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有してなり,かつ,面内位相差が40nm未満,厚み方向位相差が80nm未満であることを特徴とする偏光板,に関する。
…(省略)…
【0058】
第一の透明保護フィルムの厚さは,適宜に決定しうるが,一般には強度や取扱性等の作業性,薄層性などの点より1?500μm程度である。特に1?300μmが好ましく,5?200μmがより好ましい。薄型化の点からは,透明保護フィルムの厚さは5?100μmが好ましい。なお,クニックは,第一の透明保護フィルムが,薄型化するほど生じやすくなる。
…(省略)…
【0062】
本発明の透明保護フィルム(第一および第二のいずれも含む)の位相差は,面内位相差が40nm未満,かつ,厚み方向位相差が80nm未満である。面内位相差Reは,Re=(nx-ny)×d,で表わされる。厚み方向位相差Rthは,Rth=(nx-nz)×d,で表される。また,Nz係数は,Nz=(nx-nz)/(nx-ny),で表される。
…(省略)…
【実施例】
【0203】
以下,本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
…(省略)…
【0214】
<透明保護フィルム>
以下に示すものを用いた。
透明保護フィルム1:MS樹脂(MS-200;メタクリル酸メチル/スチレン(モル比)=80/20の共重合体,新日鐵化学(株)製)をモノメチルアミンでイミド化(イミド化率:90%)した。…(省略)…前記イミド化されたMS樹脂を溶融押出製膜し,次いで,縦2倍,横2倍に二軸延伸した透明保護フィルム(厚さ40μm,Re=2nm,Rth=2nm)を用いた。」

(2) 引用文献1発明
引用文献1の【0214】には,「偏光子の少なくとも片面に,接着剤層,透明保護フィルムおよび光学補償層をこの順で有する偏光板」(【0006】)に用いられる透明保護フィルムとして,次の発明が記載されている(以下「引用文献1発明」という。)。
「 偏光子の少なくとも片面に,接着剤層,透明保護フィルムおよび光学補償層をこの順で有する偏光板に用いられる透明保護フィルムであって,
MS樹脂(メタクリル酸メチル/スチレン(モル比)=80/20の共重合体)をモノメチルアミンでイミド化(イミド化率:90%)し,
イミド化されたMS樹脂を溶融押出製膜し,
次いで,縦2倍,横2倍に二軸延伸してなり,
厚さd=40μm,Re=2nm,Rth=2nmである,
透明保護フィルム。」

(3) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用文献1発明を対比すると,両者は次の構成で一致する。
「偏光フィルムに,接着剤層を介して積層される偏光板用保護フィルムであって,
メタクリル酸エステル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系樹脂からなり,延伸フィルムを含む,
偏光板用保護フィルム。」

イ 相違点
本願発明1と引用文献1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の「偏光板用保護フィルム」は,偏光フィルムに,「エポキシ化合物及びオキセタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの成分の硬化物を含む」接着剤層を介して積層される偏光板用保護フィルムであるのに対して,引用文献1発明の「透明保護フィルム」の接着剤層は,不明である点。

(相違点2)
本願発明1の「(メタ)アクリル樹脂」は,「アクリル酸エステル由来の構成単位」を含むのに対して,引用文献1発明の「MS樹脂」は,「アクリル酸エステル由来の構成単位」は含まない点。

(相違点3)
本願発明1の「延伸フィルム」は,「面配向係数ΔPの絶対値が1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下である」延伸フィルムであるのに対して,引用発明の「透明保護フィルム」の面配向係数ΔPは,0.25×10^(-4)と計算される点。
(当合議体注:Re=(nx-ny)×d,Rth=(nx-nz)×dであるから,面配向係数ΔP=(nx+ny)/2-nzは,(Rth-Re/2)/dにより計算される。)

(相違点4)
本願発明1の「延伸フィルム」は,「ゴム粒子を含み」というものであるのに対して,引用文献1発明の「透明保護フィルム」は,ゴム粒子を含まない点。

(相違点5)
本願発明の「偏光板用保護フィルム」は,「前記偏光フィルムに対する密着性が,温度23℃,相対湿度55%RHの条件下で5.01N/25mm以上である」という特性を具備するのに対して,引用文献1発明の「透明保護フィルム」は,このような特性を具備するか,不明である点。

(4) 判断
ア 特許法29条1項3号について
本願発明1と引用文献1発明は,相違点1?相違点5において相違する。
したがって,本願発明1と引用文献1発明は,同一であるということができない。

イ 特許法29条2項について
事案に鑑みて,相違点3について判断する。
引用文献1発明の「透明保護フィルム」は,「厚さd=40μm,Re=2nm,Rth=2nm」である,【0214】記載の具体的な実施例である。
したがって,引用文献1発明に接した当業者が,引用発明の透明保護フィルム」の「厚さd=40μm,Re=2nm,Rth=2nm」を,相違点3に係る本願発明1の構成を具備したものに替える特段の動機はないというべきである。

ところで,引用文献1には,透明保護フィルムの厚さd,面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthについて,【0058】及び【0062】の下線部のような記載がある。そして,透明保護フィルムの厚さd,面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthが取り得る値によっては,「面配向係数ΔPの絶対値が1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下」,すなわち相違点3に係る本願発明1の構成を具備したものとなり得る(例:引用文献1発明において,Rthを2nmから7nmに変えると,面配向係数ΔPは1.5×10^(-4)となる。)。
しかしながら,引用文献1には,そもそも面配向係数ΔPを「1.5×10^(-4)以上1.7×10^(-4)以下」という範囲内に収めるという技術的思想が存在しない。また,引用文献1発明において,何らかの理由により,例えば,上記のようにRthのみを2nmから7nmに変更するという動機も見当たらない。
そうしてみると,仮に,引用文献1発明の透明保護フィルムの厚さd,面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthを変更しようと考えた当業者を想定しても,前記相違点3に係る本願発明1の構成を具備した発明に到るとはいえない。

したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者が引用文献1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 請求項2?請求項7に係る発明について
本件出願の請求項2?請求項6に係る発明は,いずれも前記相違点3に係る本願発明1の構成を具備する,偏光板用保護フィルムの発明である。また,本件出願の請求項7に係る発明は,本願発明1の偏光板用保護フィルムを含む偏光板の発明である。
したがって,いずれの発明も,本願発明1と同じ理由により,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 引用文献2及び引用文献3について
引用文献2及び引用文献3についても,引用文献1の場合と同様である。

第4 まとめ
本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,いずれも,引用例1?引用例4及び引用文献1?引用文献3のいずれかに記載された発明ということができないから,特許法29条1項3号に該当する発明であるということができない。また,本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は,いずれも,引用例1?引用例4及び引用文献1?引用文献3のいずれかに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということができないから,同法同条2項の規定により特許を受けることができないとすることもできない。そして,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号の規定に適合するものである。
したがって,当合議体の拒絶の理由及び原査定の拒絶の理由によって,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-04-25 
出願番号 特願2014-257411(P2014-257411)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆山▲崎▼ 和子  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
発明の名称 偏光板用保護フィルム及びそれを用いた偏光板  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
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