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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1339764
審判番号 不服2017-9574  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-29 
確定日 2018-04-26 
事件の表示 特願2012-244724「高分子圧電材料,およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月19日出願公開,特開2014- 93487〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年11月6日の出願であって,平成27年9月29日に審査請求され,平成28年8月23日付けで拒絶理由が通知され,同年10月28日に意見書と補正書が提出され,平成29年3月27日付けで拒絶査定がなされ,同年6月29日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年6月29日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成29年6月29日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし13を補正して,補正後の請求項1ないし12とするものであって,補正前後の請求項1は次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み,
DSC法で得られる結晶化度が20%以上80%以下であり,
可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40以上700以下である高分子圧電材料であり,
前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが下記式(1)を満たし,かつ,
前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,
前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下である高分子圧電材料。
式(1):Tmb≦Tma+70℃」

<補正後>
「【請求項1】
重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み,
DSC法で得られる結晶化度が30%以上50%以下であり,
可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が60以上437.5以下である高分子圧電材料であり,
前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが下記式(1)を満たし,かつ,
前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,
前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下であり,前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下である,高分子圧電材料。
式(1):Tmb≦Tma+70℃」

2 補正事項の整理
本件補正の請求項1についての補正事項を整理すると次のとおりである。

・補正事項1
補正前の請求項1の「DSC法で得られる結晶化度が20%以上80%以下であり」を補正して,補正後の請求項1の「DSC法で得られる結晶化度が30%以上50%以下であり」とすること。

・補正事項2
補正前の請求項1の「マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40以上700以下である」を補正して,補正後の請求項1の「マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が60以上437.5以下である」とすること。

・補正事項3
補正前の請求項1の「前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下である」を補正して,補正後の請求項1の「前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下であり,前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下である,」とすること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1ないし3は,いずれも特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)さらに,補正事項1ないし3による補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1ないし3は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1ないし3は,いずれも特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)そして,補正事項1ないし3は,いずれも発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)以上検討したとおりであるから,本件補正の補正事項1ないし3を含む請求項1についての補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項1ないし3を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み,
DSC法で得られる結晶化度が30%以上50%以下であり,
可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が60以上437.5以下である高分子圧電材料であり,
前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが下記式(1)を満たし,かつ,
前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,
前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下であり,前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下である,高分子圧電材料。
式(1):Tmb≦Tma+70℃」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
ア 拒絶査定の理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,国際公開第2012/026494号(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

「発明が解決しようとする課題
[0008]しかし,上記特許文献1及び2に示される圧電材は,いずれも透明性において不十分である。
本発明における第1の実施形態は,上記事情に鑑み,圧電定数d_(14)が大きく,透明性,寸法安定性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明における第2の実施形態は,圧電定数d_(14)が大きく,透明性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009]前記課題を達成するための具体的手段は,以下の通りである。
<1>重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み,
DSC法で得られる結晶化度が40%?80%であり,
可視光線に対する透過ヘイズが0.0%?40%であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5?15.0であり,かつ,
前記MORcと前記結晶化度との積が100?700である,高分子圧電材料。
<途中省略>
<9>前記高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子100重量部に対し,結晶核剤を0.01?1.0重量部含む,<1>?<8>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。」

「[0015]〔光学活性を有するヘリカルキラル高分子〕
光学活性を有するヘリカルキラル高分子とは,分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子をいう。
光学活性を有するヘリカルキラル高分子(以下,「光学活性高分子」ともいう)としては,例えば,ポリペプチド,セルロース誘導体,ポリ乳酸系樹脂,ポリプロピレンオキシド,ポリ(β?ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
前記ポリペプチドとしては,例えば,ポリ(グルタル酸γ-ベンジル),ポリ(グルタル酸γ-メチル)等が挙げられる。
前記セルロース誘導体としては,例えば,酢酸セルロース,シアノエチルセルロース等が挙げられる。」

「[0030]〔その他の成分〕
本実施形態の高分子圧電材料は,本実施形態の効果を損なわない限度において,ヘリカルキラル高分子,及び所望により含まれるポリフッ化ビニリデン以外に,ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や,シリカ,ヒドロキシアパタイト,モンモリロナイト等の無機フィラー,フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。
<途中省略>
[0032]-結晶促進剤(結晶核剤)-
結晶促進剤は,結晶化促進の効果が認められるものであれば,特に限定されないが,ポリ乳酸の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。
例えば,有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛,ポリリン酸メラミン,メラミンシアヌレート,フェニルホスホン酸亜鉛,フェニルホスホン酸カルシウム,フェニルホスホン酸マグネシウム,無機系物質のタルク,クレー等が挙げられる。
それらのうちでも,最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し,良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお,使用する結晶促進剤は,市販されているものを用いることができる。具体的には例えば,フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
[0033]結晶核剤の含有量は,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して通常0.01?1.0重量部,好ましくは0.01?0.5重量部,より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から特に好ましくは0.02?0.2重量部である。結晶核剤の上記含有量が,0.01重量部未満では結晶促進の効果が十分でなく,1.0重量部を超えると結晶化の速度を制御しにくくなり,高分子圧電材料の透明性が低下する傾向にある。
なお,高分子圧電材料は,透明性の観点からは,ヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましい。」

「[0063]〔規格化分子配向MORcと結晶化度の積〕
高分子圧電材料の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積は100?700,好ましくは125?650,さらに好ましくは250?350である。高分子圧電材料の結晶化度と,規格化分子配向MORcとの積が100?700の範囲にあれば,高分子圧電材料の圧電性と透明性とのバランスが良好であり,かつ寸法安定性も高く,後述する圧電素子として好適に用いることができる。」

「[0097]<第1の実施形態>
〔実施例1-1〕
三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)を,・・・・。」

イ 引用発明
引用例1の上記の記載から,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明)という。)が記載されていると認められる。

「ポリ乳酸系樹脂を挙げることができる,重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み,
DSC法で得られる結晶化度が40%?80%であり,
可視光線に対する透過ヘイズが0.0%?40%であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が好ましくは250?350である高分子圧電材料であって,
前記高分子圧電材料は,公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよく,
前記結晶核剤の含有量は,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して,好ましくは0.01?0.5重量部である高分子圧電材料。」

ウ 拒絶査定の理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2010-280910号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,上記従来技術における課題を解決しようとするものであり,透明性,耐熱性および生産性に優れた乳酸系ポリマー組成物,該組成物からなる成形品および該成形品の生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。より詳しくは,耐熱性を付与するに十分な結晶化度および結晶サイズを抑制することのできる乳酸系ポリマー組成物,該組成物からなる成形品,シートおよび多層シート,該シートもしくは多層シートを二次成形して得られる熱成形品,該熱成形品の生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは,乳酸系ポリマー組成物をある条件下で加熱処理を行い結晶化させる際に,結晶核剤を特定量添加することにより,結晶の大きさを制御して透明性を維持し,また結晶化促進剤を特定量添加することにより,乳酸系ポリマー組成物の機械物性を実質上損なうことなく維持したまま結晶化速度を著しく促進させ得ることを見出した。さらに,このような乳酸系ポリマー組成物からなるシートを,特定の結晶化度にした後,二次成形することにより,耐熱性および透明性に優れた熱成形品を,優れた生産効率で得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成された。
【0013】
すなわち,本発明に係る第1の乳酸系ポリマー組成物は,乳酸系ポリマー(A)100重量部,アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機結晶核剤(B)0.1?3重量部,および結晶化促進剤(C)0.1?7重量部を含むことを特徴とする。」

「【0026】
乳酸系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は,好ましくは3万?500万,より好ましくは5万?100万,さらに好ましくは10万?30万,特に好ましくは10万?20万である。また,その分散度(Mw/Mn)は,2?10,好ましくは2?8,より好ましくは2?6,さらに好ましくは2?4,特に好ましくは2?3である。乳酸系ポリマーの重量平均分子量(Mw)や分散度(Mw/Mn)が前記範囲にあることにより,結晶化時の速度が早く,成形可能な乳酸系ポリマー組成物が得られる。」

「【0027】
なお,本発明の乳酸系ポリマー組成物には,本発明の目的を損なわない範囲で,上記乳酸系ポリマー(A)以外の他の樹脂を混合してもよい。
(B)有機結晶核剤
本発明における有機結晶核剤(B)とは,上記乳酸系ポリマー組成物内に存在し,ある条件下で加熱処理を行った際に結晶核となり,結晶化を促進させる効果を有するものである。その際,結晶の大きさおよび数を制御して透明性を保持することが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる有機結晶核剤(B)は,アミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機化合物である。
具体的には,カプリン酸アミド,ステアリン酸アミド,オレイン酸アミド,エルカ酸アミド,ベヘニン酸アミド等の炭素数8?30の脂肪族カルボン酸モノアミドや,メチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスラウリン酸アミド,エチレンビスカプリン酸アミド,エチレンビスオレイン酸アミド,エチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスエルカ酸アミド,エチレンビスベヘニン酸アミド,エチレンビスイソステアリン酸アミド,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド,ブチレンビスステアリン酸アミド,ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド,へキサメチレンビスステアリン酸アミド,へキサメチレンビスベヘニン酸アミド,へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪族カルボン酸ビスアミドなど,分子内にアミド結合を有する脂肪酸アミド類を挙げることができる。
<途中省略>
【0033】
本発明の乳酸系ポリマー組成物の第1の態様において,上記有機結晶核剤(B)の総添加量は,乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して,0.1?3重量部,好ましくは0.1?1.5重量部,さらに好ましくは0.2?1.0重量部である。また,本発明の乳酸系ポリマー組成物の第2の態様において,上記有機結晶核剤(B)の総添加量は,乳酸系ポリマー(A)100重量部に対して,0.1?3重量部,好ましくは0.3?2重量部,さらに好ましくは0.5?1.5重量部である。」

引用例2の上記記載から,重量平均分子量(Mw)が,好ましくは5万?100万である乳酸系ポリマーに加熱処理を行い結晶化させる際に,具体的には,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドを挙げることができるアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機化合物を,結晶核剤として,乳酸系ポリマー100重量部に対して,好ましくは0.2?1.0重量部を添加することにより,結晶の大きさを制御して透明性を維持したまま結晶化することができるという技術的事項を理解することができる。

エ 拒絶査定の理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2009-179773号公報(以下「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
脂肪族ポリエステルからなるシートを成形して得られる成形体であって,結晶化度χAが3?60%である脂肪族ポリエステルからなる層Aを少なくとも有し,かつ,成形体のヘーズが10%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項2】
前記層Aが結晶核剤を含有することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
<途中省略>
【請求項6】
前記層Aおよび/または層Bの脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする,請求項1?5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。」

「【0035】
本発明の層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルに用いられるポリ乳酸の重量平均分子量は,適度な製膜性,延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため,5万?50万であることが好ましく,より好ましくは10万?25万である。なお,ここでいう重量平均分子量とは,ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い,ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。」

「【0054】
結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては,ラウリン酸アミド,パルミチン酸アミド,オレイン酸アミド,ステアリン酸アミド,エルカ酸アミド,ベヘニン酸アミド,リシノール酸アミド,ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類,N-オレイルパルミチン酸アミド,N-オレイルオレイン酸アミド,N-オレイルステアリン酸アミド,N-ステアリルオレイン酸アミド,N-ステアリルステアリン酸アミド,N-ステアリルエルカ酸アミド,メチロールステアリン酸アミド,メチロールベヘニン酸アミドのようなN-置換脂肪族モノカルボン酸アミド類,メチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスラウリン酸アミド,エチレンビスカプリン酸アミド,エチレンビスオレイン酸アミド,エチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスエルカ酸アミド,エチレンビスベヘニン酸アミド,エチレンビスイソステアリン酸アミド,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド,ブチレンビスステアリン酸アミド,ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド,へキサメチレンビスステアリン酸アミド,へキサメチレンビスベヘニン酸アミド,へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド,m-キシリレンビスステアリン酸アミド,m-キシリレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族カルボン酸ビスアミド類,N,N´-ジオレイルセバシン酸アミド,N,N´-ジオレイルアジピン酸アミド,N,N´-ジステアリルアジピン酸アミド,N,N´-ジステアリルセバシン酸アミドのようなN-置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類が挙げられる。この中でも,脂肪族モノカルボン酸アミド類,N-置換脂肪族モノカルボン酸アミド類および脂肪族カルボン酸ビスアミド類から選ばれた化合物が好適に用いられる。好ましくは炭素数4?30,より好ましくは炭素数12?30の脂肪族カルボン酸と,アンモニアもしくは炭素数1?30の脂肪族/芳香族のモノアミン/ジアミンから選ばれたアミンとのアミドが好ましく用いられる。特に,パルミチン酸アミド,ステアリン酸アミド,エルカ酸アミド,ベヘニン酸アミド,リシノール酸アミド,ヒドロキシステアリン酸アミド,N-オレイルパルミチン酸アミド,N-ステアリルエルカ酸アミド,エチレンビスカプリン酸アミド,エチレンビスオレイン酸アミド,エチレンビスステアリン酸アミド,エチレンビスラウリン酸アミド,エチレンビスエルカ酸アミド,m-キシリレンビスステアリン酸アミドおよびm-キシリレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドから選ばれた化合物が好適に用いられる。」

引用例3の上記記載から,結晶化度が3?60%,成形体のヘーズが10%以下である,重量平均分子量(Mw)が,5万?50万であるポリ乳酸からなる脂肪族ポリエステル系成形体の結晶核剤として,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが挙げられるという技術的事項を理解することができる。

(3)本願補正発明1の進歩性について
ア 本願補正発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「DSC法で得られる結晶化度が40%?80%」と,本願補正発明1の「DSC法で得られる結晶化度が30%以上50%以下」は,「DSC法で得られる結晶化度」が,所定の値を備える範囲で一致する。

(イ)引用発明の「マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が好ましくは250?350であるである高分子圧電材料」は,本願補正発明1の「マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が60以上437.5以下である高分子圧電材料」を満たす。

(ウ)引用発明の「前記結晶核剤の含有量は,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して,好ましくは0.01?0.5重量部」と,本願補正発明1の「前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下」は,「前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.5質量部以下」で範囲で一致する。

したがって,上記の対応関係から,引用発明は,以下の一致点において,本願補正発明1の構成を満たし,以下の点で相違する。

<一致点>
「重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み,
DSC法で得られる結晶化度が所定の値を備え,
可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が60以上437.5以下である高分子圧電材料であり,
前記結晶核剤の含有量が,前記ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下である,高分子圧電材料。」

<相違点>
・相違点1:一致点に係る構成である,結晶核剤が,本願補正発明1では,「前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが,式(1):Tmb≦Tma+70℃ を満たし,かつ,前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下」であるのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

・相違点2:本願補正発明1では,DSC法で得られる結晶化度が,「30%以上50%以下」と特定されているのに対して,引用発明では,「40%?80%」と特定されている点。

イ 相違点についての判断
・相違点1について
(ア)引用例1の上記4(2)アの,「〔その他の成分〕 本実施形態の高分子圧電材料は,・・・公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。」([0030]),「-結晶促進剤(結晶核剤)-結晶促進剤は,結晶化促進の効果が認められるものであれば,特に限定されない」([0032]),及び「結晶核剤の含有量は,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して通常0.01?1.0重量部,好ましくは0.01?0.5重量部,・・・なお,高分子圧電材料は,透明性の観点からは,ヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましい。」([0033])との記載から,引用発明に係る「高分子圧電材料」は,透明性の観点からは,ヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましいが,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して,好ましくは0.01?0.5重量部の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよく,結晶促進剤(結晶核剤)は,結晶化促進の効果が認められるものであれば,特に限定されないことが理解される。

(イ)一方,上記4(2)ウのとおり,引用例2から,重量平均分子量(Mw)が,好ましくは5万?100万である乳酸系ポリマーに加熱処理を行い結晶化させる際に,具体的には,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドを挙げることができるアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機化合物を,結晶核剤として,乳酸系ポリマー100重量部に対して,好ましくは0.2?1.0重量部を添加することにより,結晶の大きさを制御して透明性を維持したまま結晶化することができるという技術的事項を理解することができる。
そして,当該「エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド」は,本願補正発明1を引用する補正後の請求項2において,本願補正発明1で特定する結晶核剤の1種類として特定された化合物であり,かつ,本願明細書の表1の実施例2において,EBHS:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドの物性値が,樹脂LA(三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万))との組合せにおいて,「前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが,式(1):Tmb≦Tma+70℃ を満たし,かつ,前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下」という条件を満たすものであることが示されていることに照らして,引用例2に記載された前記「エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド」である結晶核剤は,引用発明の重量平均分子量が5万?100万であるポリ乳酸系樹脂,例えば,引用例1の[0097]に例示される,三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)との組合せにおいて,相違点1に係る「前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが,式(1):Tmb≦Tma+70℃ を満たし,かつ,前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下」であるという条件を満たすといえる。

(ウ)さらに,上記4(2)エのとおり,引用例3から,結晶化度が3?60%,成形体のヘーズが10%以下である,重量平均分子量(Mw)が,5万?50万であるポリ乳酸からなる酸脂肪族ポリエステル系成形体の結晶核剤として,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが挙げられるという技術的事項を理解することができる。
そして,当該「エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド」は,本願補正発明1を引用する補正後の請求項2において,本願補正発明1で特定する結晶核剤の1種類として特定された化合物であり,かつ,本願明細書の表1の実施例2において,EBHS:エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドの物性値が,樹脂LA(三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万))との組合せにおいて,「前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが,式(1):Tmb≦Tma+70℃ を満たし,かつ,前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下」という条件を満たすものであることが示されていることに照らして,引用例3に記載された前記「エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド」である結晶核剤は,引用発明の重量平均分子量が5万?100万であるポリ乳酸系樹脂,例えば,引用例1の[0097]に例示される,三井化学(株)製ポリ乳酸系高分子(登録商標LACEA,H-400,重量平均分子量Mw:20万)との組合せにおいて,相違点1に係る「前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが,式(1):Tmb≦Tma+70℃ を満たし,かつ,前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下」であるという条件を満たすといえる。

(エ)そうすると,公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよいと特定されている引用発明において,重量平均分子量(Mw)が,5万?100万,あるいは,5万?50万であるポリ乳酸系樹脂の結晶核剤として公知の化合物である,エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等を用いることは,当業者が適宜なし得たことであり,かつ,引用発明の結晶核剤として,このような材料を用いた場合には,上記相違点1について,本願補正発明1の構成を満たすものと認められる。
そして,結晶核剤として,このような化合物を用いたことによる効果も格別のものとは認められない。
したがって,引用発明において,上記相違点1について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
本願補正発明1で特定する結晶化度と,引用発明で特定する結晶化度は,「40%以上50%以下」の範囲で重複する。
そして,引用発明で特定する,「40%?80%」の範囲内において,「40%以上50%以下」の範囲に属する値を選択することに格別の困難は認められない。
さらに,本願の発明の詳細な説明の「【0044】<高分子圧電材料の物性>〔結晶化度〕本発明における高分子圧電材料の結晶化度は,DSC法によって求められるものであり,本発明の高分子圧電材料の結晶化度は20%以上80%以下であり,25%以上70%以下が好ましく,30%以上50%以下がより好ましい。前記範囲に結晶化度があれば,高分子圧電材料の圧電性,透明性のバランスがよく,また高分子圧電材料を延伸するときに,白化や破断がおきにくく製造しやすい。」との記載,及び,表2に記載された,実施例1ないし7,及び比較例1ないし6の結晶化度が,全て「30%以上50%以下」の範囲に含まれる値を示しており,結晶化度が,「30%以上50%以下」の範囲に属する場合と,前記範囲に属さない場合との比較が示されていない点に照らして,本願明細書の記載からは,結晶化度を,「30%以上50%以下」としたことにより,結晶化度が「40%?80%」と特定される引用発明が有する効果とは異質な効果,又は同質ではあるが際だって優れた効果を奏するとも認めることはできない。
したがって,引用発明において,上記相違点2について,本願補正発明1の構成を満たすものとすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,以下のように主張する。
「本願発明は,先の意見書で述べたように,透明性を大きく損ねることなく製造効率が向上された高分子圧電材料が得られるという特異な効果が奏される。具体的には,同じ製造条件(アニール時間等)を経て得られたものを比べた場合に,特性(圧電定数等)が向上した高分子圧電材料が得られる(段落0011,0105?0108等)。特に本願発明では,請求項1の補正により,結晶核剤の含有量を,ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下に限定したため,・・・結晶促進の効果を発揮しつつ結晶化の速度を制御することができ,その結果,結晶化度を向上させつつ,圧電定数の低下が抑制された高分子圧電材料が得られると考えられる(段落0037)。・・・ここで,本願実施例を参照すると,結晶核剤の含有量が上記範囲であることの効果を確認することができる。具体的には,本願請求項1の結晶核剤に該当する「チラバゾールP-4」を含有する実施例1,3及び6において,結晶核剤の含有量が上記範囲(0.5質量部)の実施例1は,かかる含有量が0.8質量部超え(1.0質量部)の実施例3,6に比べて,透明性が大きく損なわれずに結晶化度が向上しており,かつ圧電定数の低下が抑制されていることが示されている。すなわち,実施例1では,結晶化度を向上させつつ,圧電性及び透明性のバランスが良好な高分子圧電材料が得られている(段落0104の表2等)。本願請求項1の結晶核剤に該当する「EBHS(エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド)」を含有する実施例2,4及び7においても,実施例2と,実施例4,7との比較から同様の効果が示されている(段落0104の表2等)。」

(イ)しかしながら,本願明細書に記載された,結晶核剤の含有量が上記範囲(0.5質量部)の実施例1と,結晶核剤の含有量が0.8質量部超え(1.0質量部)の実施例3,6とは,結晶核剤の含有量が異なるほかに,高分子圧電材料の製造方法においても相違するから,当該異なる方法によって作製された高分子圧電材料を測定した結果を比較する表2の各数値の相違が,結晶核剤の含有量の違いに由来するものか,製造方法の相違に基づいて生じたものであるのかを判別することができない。
したがって,これらの測定結果に基づく審判請求人の前記主張は,その前提において根拠がなく採用することができない。

(ウ)また,仮に,前記測定結果の相違が,結晶核剤の含有量の違いのみに由来するものであったとしても,審判請求人の前記主張は,以下の理由から採用することができない。
すなわち,引用例1には,以下の記載がある。
「本発明における第1の実施形態は,上記事情に鑑み,圧電定数d_(14)が大きく,透明性,寸法安定性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明における第2の実施形態は,圧電定数d_(14)が大きく,透明性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。」([0008]),「結晶核剤の含有量は,ヘリカルキラル高分子100重量部に対して通常0.01?1.0重量部,好ましくは0.01?0.5重量部,より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から特に好ましくは0.02?0.2重量部である。結晶核剤の上記含有量が,0.01重量部未満では結晶促進の効果が十分でなく,1.0重量部を超えると結晶化の速度を制御しにくくなり,高分子圧電材料の透明性が低下する傾向にある。なお,高分子圧電材料は,透明性の観点からは,ヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましい。」([0033])
そうすると,同じ製造条件(アニール時間等)を経て得られたものを比べた場合に,結晶核剤を用いることで,結晶化が促進され,特性(圧電定数等)が向上した高分子圧電材料が得られることは,結晶核剤の,結晶化を促進する働きをもつという定義そのものから自明の効果であるところ,このような働きをもつ結晶核剤の含有量を,引用例1の前記記載に基づいて,「好まし」いとされる,「0.01?0.5重量部」(この範囲は,本願補正発明1で特定する「0.01質量部以上0.8質量部以下」の範囲に含まれる)とすることは容易になし得たことといえる。
そして,「0.02?0.2重量部」とすることが,結晶促進効果等の観点から特に好ましく,他方,1.0重量部を超えると結晶化の速度を制御しにくくなり,高分子圧電材料の透明性が低下する傾向にあることが,引用例1に記載されているのであるから,当該記載に基づいて,圧電定数が大きく,透明性に優れた高分子圧電材料を提供することを目的とした引用発明において,結晶核剤の含有量を,本願補正発明1で特定する「0.01質量部以上0.8質量部以下」の範囲に含まれる「0.01?0.5重量部」としたことによって,含有量が0.8質量部を超え(例えば,1.0質量部)ている場合と比較して,結晶促進効果,結晶化の速度の制御,及び高分子圧電材料の透明性の低下の観点から優れた効果を得ることができるであろうことは,当業者が予測するものといえる。
すなわち,結晶核剤の含有量を,ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下に限定したことによる効果は,当業者が予測し得た範囲内のものといえるから,審判請求人の主張する「特異な効果」を認めることはできない。
したがって,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

(エ)さらに,本願補正発明1の解決しようとする課題が,「透明性を大きく損ねることなく製造効率が向上された高分子圧電材料を提供すること」(【0009】)であるところ,本願補正発明1は,「可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であ」ることを,発明特定事項として備えるものであるから,前記解決しようとする課題における「透明性を大きく損ねることなく」は,「可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であ」ることから外れることがないことを特定しようとする技術的意義を有するものと理解できる。
一方,本願明細書の表2に記載された,実施例1と,実施例3,6,及び,実施例2と,実施例4,7の透過ヘイズの値は,いずれも,「可視光線に対する透過ヘイズが40%以下」の範囲に含まれる値である。
してみれば,結晶核剤の含有量を,ヘリカルキラル高分子100質量部に対し,0.01質量部以上0.8質量部以下である0.5質量部とした場合と,0.8質量部超えである1.0質量部とした場合のいずれも,「透明性を大きく損ねることなく」という課題を解決しているものと解されるから,結晶核剤の含有量を,0.5質量部とした場合と1.0質量部とした場合の相違に基づく,効果の特異性に係る審判請求人の前記主張は,この理由によっても採用することができない。

(4)むすび
本願補正発明1は,引用例1に記載された引用発明と引用例2ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年6月29日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-13に係る発明は,平成28年10月28日に提出された補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-13に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
重量平均分子量が5万以上100万以下である光学活性を有するヘリカルキラル高分子と結晶核剤とを含み,
DSC法で得られる結晶化度が20%以上80%以下であり,
可視光線に対する透過ヘイズが40%以下であり,
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が40以上700以下である高分子圧電材料であり,
前記ヘリカルキラル高分子の融点Tmaと前記結晶核剤の融点Tmbとが下記式(1)を満たし,かつ,
前記ヘリカルキラル高分子の溶解パラメーターSPa(単位:(J/cm^(3))^(1/2))と前記結晶核剤の溶解パラメーターSPb(単位:(J/cm^(3))^(1/2))との差の絶対値が5以下であり,
前記結晶核剤が炭素数6以上のアルキル基を有し,前記結晶核剤の重量平均分子量が300以上1800以下である高分子圧電材料。
式(1):Tmb≦Tma+70℃」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶理由に引用され,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1ないし3に記載されている事項は,上記「第2 4(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を限定したものである本願補正発明1が,前記「第2 4 (3)本願補正発明1の進歩性について」で判断したとおり,引用例1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1も同様に,引用例1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-26 
結審通知日 2018-02-27 
審決日 2018-03-12 
出願番号 特願2012-244724(P2012-244724)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 大嶋 洋一
加藤 浩一
発明の名称 高分子圧電材料、およびその製造方法  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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