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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12P
審判 全部無効 2項進歩性  C12P
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12P
管理番号 1339831
審判番号 無効2015-800102  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-31 
確定日 2018-05-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第5624535号発明「低いコアフコシル化を有する抗体及び抗体誘導体を調製するための方法並びに組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5624535号に係る特許についての出願は、平成21年5月1日(パリ条約による優先権主張 平成20年5月2日、米国、平成20年8月28日、米国、平成20年10月21日、米国)に特許出願され、平成26年10月3日に設定登録がなされたものである。
請求人は、平成27年3月31日付で当該特許の請求項1?24に係る発明について、特許無効審判請求を行った。本件無効審判の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年3月31日 審判請求書及び甲第1?8号証
平成27年5月27日 甲第3?8号証の訳文
平成27年8月31日 答弁書
平成27年10月28日 審理事項通知書(日付は起案日)
平成27年11月30日 口頭審理陳述要領書(請求人)及び甲第9?13号証
平成27年11月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年12月7日 甲第9?12号証の訳文
平成27年12月14日 口頭審理
平成27年12月25日 上申書(請求人)及び甲第14、15号証
平成27年12月25日 上申書(被請求人)
平成28年1月15日 上申書(被請求人)及び乙第1,2号証
平成28年2月12日 回答書(請求人)

第2 本件発明
本件特許の請求項1?24に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法であって、
糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを介してFcドメインに結合した少なくとも一つの複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体を発現する宿主細胞を有効量のフコース類似体を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階、及び
前記抗体又は抗体誘導体を細胞から分離する段階を含み、
ここで、前記フコース類似体が以下の式(III)又は(IV)の一つ
【化1】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、式(III)又は(IV)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1?R4のそれぞれは、フルオロ、クロロ、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル及び-OC1?C10アルキルからなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R2a及びR3aのそれぞれは、H、F及びClからなる群から独立に選択され、
R5は、-CH3、-CHF2、-CH=C=CH2、-C≡CH、-C≡CCH3、-CH2C≡CH、-C(O)OCH3、-CH(OAc)CH3、-CN、-CH2CN、-CH2X(XはBr、Cl又はIである)及びメトキシランからなる群から選択され、
R5が-CH=C=CH2又は-CHF2以外である場合、R1、R2、R3、R2a及びR3aの少なくとも一つは、フルオロ又はクロロであり、
前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する、
あるいは、前記フコース類似体が以下の式(I)又は(II)の一つ
【化2】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、
式(I)又は(II)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1?R4のそれぞれは、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル及び-OC1?C10アルキルからなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R5は、-C≡CH、-C≡CCH3、-CH2C≡CH、-C(O)OCH3、-CH(OAc)CH3、-CN、-CH2CN、-CH2X(XはBr、Cl又はIである)及びメトキシランからなる群から選択され、
前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する、
あるいは、前記フコース類似体が以下の式(V)又は(VI)の一つ
【化3】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、式(V)又は(VI)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1、R2、R2a、R3、R3a及びR4のそれぞれは、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル、-OC1?C10アルキル及び小電子求引基からなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R5は、-CH3、-CH2X、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C1?C4アルキル、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C2?C4アルケン、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C2?C4アルキン、-CH=C(R10)(R11)、-C(CH3)=C(R12)(R13)、-C(R14)=C=C(R15)(R16)、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-C3炭素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-CH(X')-C3炭素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換されたC3複素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-CH(X')-C3複素環、-CH2N3、-CH2CH2N3及びベンジルオキシメチルからなる群から選択されるメンバーか、或いはR5は、小電子求引基であり、
R10は、水素或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R11は、非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R12は、水素、ハロゲン或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R13は、水素或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R14は、水素又はメチルであり、
R15及びR16は、水素、メチル及びハロゲンから独立に選択され、
Xは、ハロゲンであり、
X'は、ハロゲン又は水素であり、
さらに、R1、R2、R2a、R3及びR3aのそれぞれが場合によって水素であり、R1、R2、R2a、R3及びR3aのうち隣接炭素原子上の二つが場合によって結合して、前記隣接炭素原子間の二重結合を形成しており、
ただし、(i)R2及びR2aが両方とも水素である、(ii)R3及びR3aが両方とも水素である、(iii)R1が水素である、(iv)二重結合が前記隣接炭素原子間に存在する、又は(v)R5がベンジルオキシメチルである場合を除き、R1、R2、R2a、R3、R3a、R4及びR5の少なくとも一つは、小電子求引基であり、或いはR5は、ハロゲン、不飽和部位、炭素環、複素環又はアジドを含み、
前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する、上記方法。
【請求項2】
前記フコース類似体の5%未満が前記抗体又は抗体誘導体の複合N-グリコシド結合糖鎖に組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フコース類似体の有効量が、抗体又は抗体誘導体の複合N-グリコシド結合糖鎖へのフコースの組み込みを少なくとも80%減少させるのに十分な類似体の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択され、R2がFである、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択され、R1及びR2がそれぞれFである、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択され、R1、R3及びR4は、-OH及び-OAcからそれぞれ独立に選択され、ここで、R2はFであり、R2a及びR3aは、それぞれHであり、R5は、-CH3である、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記フコース類似体が式(I)又は(II)の一つからなる群より選択され、ここで、R1?R4のそれぞれが-OH及び-OC(O)C1?C10アルキルからなる群から独立に選択される、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記フコース類似体が式(I)又は(II)の一つからなる群より選択され、ここで、R5が-C≡CH及び-C≡CCH3からなる群から選択される、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記フコース類似体が式(I)又は(II)の一つからなる群より選択され、ここで、 R5が-C(O)OCH3又は-CH2CNである、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記フコース類似体が、表1に示されるアルキニルフコース、アルキニルフコーステトラアセテート、5-プロピニルフコーステトラアセテート、アルキニルフコーステトラプロパノエート、アルキニルフコーステトラ-n-ヘキサノエート、アルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)、アルキニルフコースペルニコチネート、アルキニルフコースペルイソニコチネート、アルキニルフコースペル-PEGエステル、1-メチル-2,3,4-トリアセチルアルキニルフコースもしくはアルキニルフコースペルイソブタノエート、5-シアノフコーステトラアセテートもしくは5-メチルエステルフコーステトラアセテート、又は表2に示される2-デオキシ-2-フルオロフコースジアセテート、2-デオキシ-2-クロロフコーストリアセテート、2-デオキシ-2-フルオロフコース、2-デオキシ-2-フルオロフコースペルアセテート、1,2-ジフルオロ-1,2-ジデオキシフコースペルアセテートもしくは6,6-ジフルオロフコーステトラアセテートである、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記培地が少なくとも500リットルの容積を有する、請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
有効量のフコース類似体を含む、低いコアフコシル化を有する抗体又は抗体誘導体の産生のための哺乳類細胞培養培地であって、
ここで、前記フコース類似体が以下の式(III)又は(IV)の一つ
【化4】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、式(III)又は(IV)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1?R4のそれぞれは、フルオロ、クロロ、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル及び-OC1?C10アルキルからなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R2a及びR3aのそれぞれは、H、F及びClからなる群から独立に選択され、
R5は、-CH3、-CHF2、-CH=C=CH2、-C≡CH、-C≡CCH3、-CH2C≡CH、-C(O)OCH3、-CH(OAc)CH3、-CN、-CH2CN、-CH2X(XはBr、Cl又はIである)及びメトキシランからなる群から選択され、
R5が-CH=C=CH2又は-CHF2以外である場合、R1、R2、R3、R2a及びR3aの少なくとも一つは、フルオロ又はクロロである、
あるいは、前記フコース類似体が以下の式(I)又は(II)の一つ
【化5】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、式(I)又は(II)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1?R4のそれぞれは、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル及び-OC1?C10アルキルからなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R5は、-C≡CH、-C≡CCH3、-CH2C≡CH、-C(O)OCH3、-CH(OAc)CH3、-CN、-CH2CN、-CH2X(XはBr、Cl又はIである)及びメトキシランからなる群から選択される、
あるいは、前記フコース類似体が以下の式(V)又は(VI)の一つ
【化6】

或いはその生物学的に許容される塩又は溶媒和物からなる群から選択され、式(V)又は(VI)のそれぞれは、アルファ若しくはベータアノマー又は対応するアルドース形であってよく、
R1、R2、R2a、R3、R3a及びR4のそれぞれは、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O)Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3、-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3、-O-tri-C1?C3アルキルシリル、-OC1?C10アルキル及び小電子求引基からなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数であり、
R5は、-CH3、-CH2X、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C1?C4アルキル、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C2?C4アルケン、非置換又はハロゲンで置換された-CH(X')-C2?C4アルキン、-CH=C(R10)(R11)、-C(CH3)=C(R12)(R13)、-C(R14)=C=C(R15)(R16)、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-C3炭素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-CH(X')-C3炭素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換されたC3複素環、非置換又はメチル若しくはハロゲンで置換された-CH(X')-C3複素環、-CH2N3、-CH2CH2N3及びベンジルオキシメチルからなる群から選択されるメンバーか、或いはR5は、小電子求引基であり、
R10は、水素或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R11は、非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R12は、水素、ハロゲン或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R13は、水素或いは非置換又はハロゲンで置換されたC1?C3アルキルであり、
R14は、水素又はメチルであり、
R15及びR16は、水素、メチル及びハロゲンから独立に選択され、
Xは、ハロゲンであり、
X'は、ハロゲン又は水素であり、
さらに、R1、R2、R2a、R3及びR3aのそれぞれが場合によって水素であり、R1、R2、R2a、R3及びR3aのうち隣接炭素原子上の二つが場合によって結合して、前記隣接炭素原子間の二重結合を形成しており、
ただし、(i)R2及びR2aが両方とも水素である、(ii)R3及びR3aが両方とも水素である、(iii)R1が水素である、(iv)二重結合が前記隣接炭素原子間に存在する、又は(v)R5がベンジルオキシメチルである場合を除き、R1、R2、R2a、R3、R3a、R4及びR5の少なくとも一つ
は、小電子求引基であり、或いはR5は、ハロゲン、不飽和部位、炭素環、複素環又はアジドを含む、上記哺乳類細胞培養培地。
【請求項13】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択され、R1、R2、R2a、R3及びR3aの少なくとも一つがフルオロ又はクロロである、請求項12に記載の培地。
【請求項14】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択され、R1、R2、R2a、R3及びR3aの二つがフルオロ又はクロロである、請求項12に記載の培地。
【請求項15】
前記フコース類似体が式(I)又は(II)の一つからなる群より選択され、R5が-C≡CHであり、R1?R4が-OAcである、請求項12に記載の培地。
【請求項16】
前記フコース類似体が、表1に示されるアルキニルフコース、アルキニルフコーステトラアセテート、5-プロピニルフコーステトラアセテート、アルキニルフコーステトラプロパノエート、アルキニルフコーステトラ-n-ヘキサノエート、アルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)、アルキニルフコースペルニコチネート、アルキニルフコースペルイソニコチネート、アルキニルフコースペル-PEGエステル、1-メチル-2,3,4-トリアセチルアルキニルフコースもしくはアルキニルフコースペルイソブタノエート、5-シアノフコーステトラアセテートもしくは5-メチルエステルフコーステトラアセテート、又は表2に示される2-デオキシ-2-フルオロフコースジアセテート、2-デオキシ-2-クロロフコーストリアセテート、2-デオキシ-2-フルオロフコース、2-デオキシ-2-フルオロフコースペルアセテート、1,2-ジフルオロ-1,2-ジデオキシフコースペルアセテートもしくは6,6-ジフルオロフコーステトラアセテートである、請求項12に記載の培地。
【請求項17】
前記フコース類似体が式(III)又は(IV)の一つからなる群より選択される、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記フコース類似体が式(I)又は(II)の一つからなる群より選択される、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
R1?R4のそれぞれは、-OH、-OC(O)H、-OC(O)C1?C10アルキル、-OC(O)C2?C10アルケニル、-OC(O)C2?C10アルキニル、-OC(O)アリール、-OC(O)複素環、-OC(O)C1?C10アルキレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルケニレン(アリール)、-OC(O)C2?C10アルキニル(アリール)、-OC(O)C1?C10アルキレン複素環、-OC(O)C2?C10アルケニレン(複素環)、-OC(O)C2?C10アルキニル複素環、-OCH2OC(O)アルキル、-OCH2OC(O)Oアルキル、-OCH2OC(O)アリール、-OCH2OC(O) Oアリール、-OC(O)CH2O(CH2CH2O)nCH3及び-OC(O)CH2CH2O(CH2CH2O)nCH3からなる群から独立に選択され、各nは、0?5から独立に選択される整数である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
フコース類似体が2-デオキシ-2-フルオロフコースである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項1?11及び17?20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
抗体又は抗体誘導体を精製する段階を含む、請求項1?11及び17?21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
R1、R3及びR4が-OH及び-OAcからなる群からそれぞれ独立に選択され、R2がFであり、R2a及びR3aがそれぞれHであり、R5が-CH3である、請求項12に記載の培地。
【請求項24】
有効量が、抗体又は抗体誘導体の複合N-グリコシド結合糖鎖へのフコースの組み込みを少なくとも80%減少させるのに十分な類似体の量である、請求項12?16及び23のいずれか1項に記載の培地。
(請求項1?24に係る発明を、以下、「本件発明1」?「本件発明24」という。)

第3 当事者の主張
1 請求人の主張する無効理由の概要
審判請求書、口頭審理陳述要領書及び口頭審理調書の記載によれば、請求人が主張する無効理由の概要は次のとおりである。

(1)無効理由1
本件発明1?24は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。なお、甲第1号証は、本件第1優先日である平成20年5月2日に頒布された刊行物であるが、本件の優先権主張は無効だから、引用例として適格なものである。

(2)無効理由2
本件発明1?24は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。なお、甲第1号証は、本件第1優先日である平成20年5月2日に頒布された刊行物であるが、本件の優先権主張は無効だから、引用例として適格なものである。

(3)無効理由3
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1及び本件発明12で用いる膨大な種類のフコース類似体のうちわずか一部分についてしか、コアフコシル化が低減した抗体を製造し得ることが示されていない。化合物の活性は、その構造から推定することが困難であり、低分子化合物においては構造のわずかな変化が活性に影響を与えるという技術常識に照らせば、発明の詳細な説明は、本件発明1、本件発明12及びそれらの発明に従属する本件発明2?11、13?24の全範囲について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)無効理由4
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項12には、膨大な種類のフコース類似体を用いる発明が記載されているのに対して、発明の詳細な説明には、そのうちわずか一部分についてしか、コアフコシル化が低減した抗体を製造し得ることが示されていない。化合物の活性は、その構造から推定することが困難であり、低分子化合物においては構造のわずかな変化が活性に影響を与えるという技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の上記記載を請求項1、請求項12及びそれらに従属する請求項2?11、13?24の全範囲にまで拡張一般化することはできないから、本件は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2008/052030号
甲第2号証:特表2010-507394号公報
甲第3号証:BMC Biotechnology, 7:84(2007)
甲第4号証:J.Med.Chem., vol.23(2), pp.143-149(1980)
甲第5号証:Biochem.Biophys.Res.Commun., vol.87(4), pp.989-992(1979)
甲第6号証:米国特許仮出願明細書第61/050173号
甲第7号証:米国特許仮出願明細書第61/092700号
甲第8号証:米国特許仮出願明細書第61/107289号
甲第9号証:Ajit Varki et al, "Essentials of Glycobiology", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999, Chapter40
甲第10号証:Glycobiology, vol.17(1), pp.104-118(2006)
甲第11号証:J.Exp.Med., vol.180, pp.1087-1096(1994)
甲第12号証:Nature Biotechnol., vol.24(10), pp.1241-1252(2006)
甲第13号証:件名「PATENTSCOPEに特許公報が公開される時間について」に対する、WIPO日本事務所からの返信電子メール
甲第14号証:Am.J.Physiol.Renal.Physiol., vol.296, pp.459-469(2009
甲第15号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA., vol.103(33), pp.12371-12376(2006)

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人の主張する無効理由1?4はいずれも理由がないと主張し、証拠方法として乙第1?2号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:ステファン C.アレイ博士の2009年5月1日付け宣誓書[1]
乙第2号証:ステファン C.アレイ博士の2009年5月1日付け宣誓書[2]

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、下記の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、甲第1号証に対応する日本語出願の公表公報である甲第2号証の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホスト細胞により生成される免疫糖タンパク質分子の抗体依存細胞傷害性(ADCC)を増大させる方法であって、
前記ホスト細胞により生成される免疫糖タンパク質分子のADCCを増大させるカスタノスペルミンを、25μM?約800μM濃度で備え、容量が少なくとも1リットルである培地で前記ホスト細胞を成長させる工程を備える、免疫糖タンパク質分子の抗体依存細胞傷害性(ADCC)を増大させる方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】 本発明は、抗体を含む、特性が改良された免疫糖タンパク質に関し、それには、抗体依存性細胞傷害性およびグリコシル化パターン、細胞培養方法およびそのような免疫糖タンパク質を生成するための培地、並びに病気の処置における当該免疫糖タンパク質の使用が含まれる。」
ウ 「【0008】 FcγRIIIa受容体が媒体となるADCC機能の重大な糖の決定要素は、コアN‐リンクの構造に加えられるアルファ‐1、6‐フコース部の欠如であることを、ある報告が示唆している」
エ 「【0009】 フコース含有量の低い免疫グロブリンを生成する方法が提案されているが、治療の指標として最適なADCC機能を備えるバイオ医薬品の製造にとって大きな障害があるものもある。例えば、フコース残基(フコーシダーゼ)を取り除く酵素を備える免疫グロブリンの処置には、重大な経済上の、および薬品の安定性上の危険が潜在していて、費用のかかる製造工程を追加する必要がある。フコシル化糖タンパク質の合成に関係する主要酵素を破壊するための細胞系(line)の分子的な処理には、特別なホストの負担が必要であり、現在のプラクティスにおいては、治療上の使用のために有効性および安全性が最適化されるようADCCの有効性を変えると、薬品の「調節可能な」生成が可能ではなくなる。ADCCの高められていない比較生成物を生成するには、費用および時間がかかる。RNAiまたはアンチセンス分子で細胞系(line)を処置してこれらの主要酵素のレベルを破壊すると、予想できない的外れの効果が得られ、また、生産を行う規模で実施される程度には実用的であるとしても、費用がかかるであろう。
このように、ADCCの高められた免疫薬を調合するのに有効な方法、またそれによって生成され、治療上使用される改良された免疫薬が切望されている。」
オ 「【0018】 本発明は、抗体依存傷害性(ADCC)および/またはホスト細胞により生成される免疫糖タンパク質のFc受容体結合を向上させる方法を提供する。当該方法は、糖修飾因子、例えば、カスタノスペルミンを、ホスト細胞が生成した免疫糖タンパク質分子の組成物のADCC活性および/またはFc受容体結合を増大させるような濃度で備え、少なくとも体積が750mL、1L、2L、3L、4L、5L、10L、15L、20Lまたはそれ以上の培地において、ホスト細胞を成長させることを伴っている。かかる糖修飾因子、例えば、カスタノスペルミンの最適な濃度は、糖修飾因子の有効性および所望のADCCの関連する調節(modulation)に依存するが、培地における糖修飾因子の代表的な最終濃度は、800μM未満または750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、250、200、150、125、100、90、80、70、60、50、40、30、20または10μM未満である。」
カ 「【0022】 本発明によって、糖含有量/グリコシル化パターンを変え、および/または免疫糖タンパク質のフコース含有量を低減する方法もまた提供されるが、該方法は、総フコース含有量を低減し、および/またはホスト細胞が生成する免疫糖タンパク質分子の組成物のグリコシル化パターンを変えるような濃度で、糖修飾因子、例えばカスタノスペルミンを備え、体積が、少なくとも750mL、1L、2L、3L、4L、5L、10L、15L、20Lまたはそれ以上である培地において、ホスト細胞を成長させることによるものである。培地における糖修飾因子の代表的な最終濃度は、800μM未満または750、700、650、600、550、500、450、400、350、300、250、200、150、125、100、90、80、70、60、50、40、30、20または10μM未満である。」
キ 「【0030】 免疫糖タンパク質
「免疫糖タンパク質」という語は、ターゲット分子と結合するグリコシル化ポリペプチドのことを称し、免疫グロブリンの一定領域から得られる十分なアミノ酸配列を含んで、好ましくは、ADCCおよび/またはCDCというエフェクター機能を提供する。」
ク 「【0044】 糖修飾因子
「糖修飾因子」は、好ましくは、分子量が<1000ドルトンの、ポリペプチドに付着する炭水化物(糖)の一部である糖の付加、除去または修飾に関与する酵素の活性を抑制する小さな有機化合物である。」
ケ 「【0048】 代表的な糖修飾因子には、以下のいずれかが含まれる。カスタノスペルミンは、グルコシダーゼIおよびIIのインヒビターであると考えられている。デオキシフコノジリミシンは、フコシダーゼのインヒビターである。6‐メチル‐テトラヒドロ‐ピラン‐2H‐2、3、4‐トリオールは、インビトロで、L‐フコースのリン酸化、すなわち、GDP‐L‐フコースの生合成の第一工程を阻害することが報告されている。6、8a‐ジエピカスタノスペルミンは、フコシルトランスフェラーゼのインヒビターであると報告されている。1‐N‐イミュノシュガーAおよびB(それぞれ、1‐ブチル‐5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩および5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩としても知られている)は、フコシルトランスフェラーゼのインヒビターであることが報告されている。デオキシマンノジリミシン(DMJ)は、ERマンノシダーゼIのインヒビターである。キフネンシン(Kf)は、ERマンノシダーゼIのインヒビターである。スワインゾニン(Sw)は、ERマンノシダーゼIIのインヒビターである。モネンシン(Mn)は、コアオリゴ糖の伸長に干渉するERとゴルジとの間の細胞内タンパク質輸送のインヒビターである。
【0049】 本明細書に記述されているデータが示すように、さまざまなグリコシダーゼおよび/またはマンノシダーゼのインヒビターによって、ADCC活性を増大する1つ以上の所望の効果が得られ、Fc受容体の結合が増大され、グリコシル化パターンが変えられている。
【0050】 代表的な例においては、カスタノスペルミン(MW189.21)が、培地に添加され、最終の濃度を約200μM(約37.8μg/mLに相当する)とするか、濃度範囲を約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140または150μMより大きく、約300、275、250、225、200、175、150、125、100、75、60または50μg/mLまでとする。例えば、10-50か、50-200か、50-300か、100-300か、150-250μMの範囲が意図されている。
【0051】 他の代表的な例において、DMJ、例えば、DMJ-HCl(MW199.6)が培地に加えられて、最終の濃度を約200μM(約32.6μgDMJ/mLに相当する)とするか、濃度範囲を約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140または150μMより大きく、約300、275、250、225、200、175、150、125、100、75、60または50μg/mLまでとする。例えば、10-50か、50-200か、50-300か、100-300か、150-250μMの範囲が意図されている。
【0052】 他の代表的な例において、キフネンシン(MW232.2)が培地に加えられて、最終の濃度を約10μM(約2.3μg/mLに相当する)とするか、濃度範囲を約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10μMより大きく、約50、45、40、35、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12または11μMまでとする。例えば、1-10か、1-25か、1-50か、5-10か、5-25か、5-15μMの範囲が意図されている。」
コ 「【0057】 本発明によって、免疫糖タンパク質を生成する方法もまた提供されるが、任意の培地において、またはここに記述されるいずれかの条件のもとで、ホスト細胞を培養することを含むものである。当該方法はさらに、ホスト細胞または培地から免疫糖タンパク質を調製する工程を含む。」

(2)甲第3号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証は、「抗体産生細胞におけるα1,6-フコース転移酵素(FUT8)及びGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)の二重ノックダウン:完全に非フコシル化し、ADCC活性が向上した治療用抗体を産生するための新しい戦略」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「背景: 抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)は、Fcに結合するオリゴ糖のコアフコースの欠如により大きく向上し、ヒト体内における抗腫瘍活性の臨床的有効性に密接に関連する。」(第1頁要約の1?2行)
イ 「結果: 第一に、オリゴ糖のフコース修飾における3つの重要な遺伝子、すなわち、α1,6-フコース転移酵素(FUT8)、GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)及びGDP-フコーストランスポーター(GFT)に対する低分子干渉RNA(siRNA)を用いた機能欠損分析により、最も効果的なsiRNA(標的mRNAの>90%を抑制する)を用いても、それぞれの標的の1遺伝子ノックダウンは抗体産生細胞の産物を完全に非フコシル化するには不十分であることがわかった。興味深いことに、予想を超えたことであるが、フコシル化の低減において、FUT8及びGMDsiRNAの共働効果が観察されたが、これらはGFTsiRNAとの組み合わせでは観察されなかった。」(第1頁要約の第8?14行)
ウ 「哺乳類細胞内において、Fcオリゴ糖のコアフコシル化は、α1,6結合を介してGDP-フコースからFcオリゴ糖の最内N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)までのフコース転移を触媒する唯一の遺伝子、つまり、1,6-フコース転移酵素(FUT-8)によって仲介される。オリゴ糖フコシル化の必須基質である細胞内GDP-フコースが、図1に示す新生経路及び再利用経路の両方を介して細胞質内で合成される。細胞外環境から細胞質内へ取り込まれたD-グルコース由来のGDP-マンノースを、新生経路が、2つのタンパク質、GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ及び4-レダクターゼ(FX)による3つの酵素反応を介して、GDP-フコースに変換する。再利用経路によって、細胞外又は細胞質源由来の遊離L-フコース誘導体から、GDP-フコースが合成される。細胞内GDP-フコースの大部分が、新生経路を介して産生され、代謝産物を含まないL-フコースは、再利用経路を介して、再利用もされる。細胞質内に蓄積されたGDP-フコースは、ゴルジ膜に固定されたGDP-フコーストランスポーター(GFT)によってゴルジ体の内腔内に輸送されて、その後、フコシルトランスフェラーゼによるフコシル化糖複合体の合成において、基質として供される。」(第2頁右欄第10行?第3頁左欄第15行)

(3)甲第4号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証は、「ハロゲン化L-フコース及びD-ガラクトース類似体:合成と代謝効果」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「2位及び5-メチル基において修飾された、いくつかの新規なL-フコース類似体が、細胞膜糖複合体阻害剤又は調節剤の候補として合成され、生物学的効果について試験された。・・・類似体4b、4c及び9bは、1×10-3Mにおいて、SW613ヒト乳腺腫瘍細胞の高分子画分へのL-[3H]フコース取り込みを特異的に阻害した。」(第143頁要約の第1?9行)
イ 「L-フコース代謝物の中間体及びGDP-L-フコースへの経路を検討することにより、潜在的な阻害剤又は修飾剤の合理的な設計の基礎が得られた。細胞内のGDP-L-フコースは、新生経路によって適当なD-マンノース前駆体から合成されるか、あmたは、アノマー炭素のリン酸化から開始されるL-フコースから合成されるかのいずれかであり、その後、得られた1-リン酸糖とGTPとの縮合が起きる。したがって、L-フコース類似体は後者の経路(サルベージ経路)に影響するようであるが、D-マンノースの類似体は、新生生合成経路の潜在的な阻害剤である。」(第143頁右欄第2?12行)
ウ 「6位の修飾は、ヌクレオチド糖への変換及び複合糖質への取り込みを可能とするL-フコースキナーゼのような適切な酵素の基質活性に著しい影響を与えるべきではない。逆に、2位の修飾は、アノマー中心への近接性によって、L-フコース同化酵素の阻害剤の開発をもたらし得る。」(第143頁右欄第16行?第144頁左欄第2行)
エ 「第145頁の「表II」は、「いくつかのフコース類似体の、細胞成長及び高分子生合成に与える影響」と題する表であって、それぞれのフコース類似体を添加した培地におけるヒト乳腺腫瘍細胞SW613のフコース取り込み量が、フコース類似体を添加しなかった場合のフコース取り込み量に対する%として記載されている。
2-Cl-2-デオキシ-L-フコース(9a) 75%
2-Br-2-デオキシ-L-フコース(9b) 37%
2-デオキシ-2-I-L-フコース(13) 8%
6-F-L-フコース(4a) 9%
6-Cl-L-フコース(4a) 14%
6-Br-L-フコース(4a) 21%
6-I-L-フコース(4a) 92%
オ 「考察
L-フコースの5-メチル基の1水素をハロゲン原子に置換することによって、親糖のピラノース環のコンフォメーションに顕著な効果が及ぶことはなく、また、アノマー中心へは比較的小さな電子影響が及ぶと予想された。これら一連の類似体によるお前駆体の高分子画分への取り込みへの影響(表II)に比較して、1mMの4aが[3H]フコースの取り込みをコントロールレベルの9%まで特異的に抑制し、他方、L-ロイシンの取り込み又は白血病L1210細胞の増殖に有意な程度まで影響することはなかった。ハロゲン原始のサイズの増加と共に、L-フコース組み込みへの阻害効果は低減し、これに付随して細胞毒性は増加した。・・・2-ハロゲン化L-フコース類似体の3位と4位のO-アセチル化の影響も確定された(表III)。O-アセチル化誘導体は、非O-アセチル化誘導体よりもより有効な成長阻害剤であることがわかった。これは、とりわけ2-ブロモ-2-デオキシ類似体について明らかである。P288リンパ腫細胞の高分子画分への前駆物質組み込みの阻害の程度は、成長阻害の程度に匹敵するようにみえる(表III)。」(第146頁右欄第14?47行)

(4)甲第5号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証は、「2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコース、及びそれが哺乳類細胞におけるL-[1-14C]フコース利用に及ぼす効果」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
ア 「要約
・・・培養中のマウス線維芽細胞(TAL/N P及びTAL/N B)は、L-[1-14C]フコースをトリプシン分解画分及び細胞構成成分における糖タンパク質に取り込む。2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコース又はL-フコースを0.1?10mMの範囲で培地に添加すると、ラベルが競合的に、かつ徐々に減少した。これらの証拠はフルオロ糖が糖タンパク質画分に取り込まれることを示唆する。」(第989頁要約第1?8行)
イ 「同位体でラベルした2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースを用いれば、高分子構造に取り込まれた修飾糖の量や化学的位置について正確に決定できるかもしれない。」(第991頁第14?16行)

2 無効理由1について
本件の優先権主張の有効性ないし甲第1号証の引用例適格性について両当事者間には争いがあるが、事案に鑑み、甲第1号証を引用例として適格なものであるとして、以下、検討する。

(1)引用発明
上記摘記事項1(1)ア、カ、ク、ケ及びコからみて、甲第1号証には次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「フコース含有量が低減した免疫糖タンパク質分子を製造する方法であって、
免疫糖タンパク質分子を生成するホスト細胞を有効量の糖修飾因子を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階、及び
前記免疫糖タンパク質分子を細胞から分離する段階を含み、
ここで、前記糖修飾因子は、好ましくは、分子量が<1000ドルトンの、ポリペプチドに付着する炭水化物(糖)の一部である糖の付加、除去または修飾に関与する酵素の活性を抑制する小さな有機化合物であり、
前記免疫糖タンパク質分子が前記糖修飾因子の不存在下で培養したホスト細胞からの免疫糖タンパク質分子と比較して低いフコース含有量を有する、上記方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比
引用発明の「フコース含有量が低減」とは、甲第1号証の上記摘記事項1(1)ウ、オ及びカに照らすと、免疫糖タンパク質のコアN-リンクの構造に結合するフコースの量が低減することを意味し、本件発明1の「低いコアフコシル化を有する」と相違ないと解される。また、甲第1号証の上記摘記事項1(1)キに照らすと、引用発明の「免疫糖タンパク質分子」は本件発明1の「修飾抗体又は抗体誘導体」に相当し、技術常識からみて、引用発明の「ホスト細胞」は本件発明1の「宿主細胞」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
一致点: 低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法であって、糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを介してFcドメインに結合した少なくとも一つの複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体を発現する宿主細胞を有効量の有機化合物を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階、及び前記免疫糖タンパク質分子を細胞から分離する段階を含み、前記抗体又は抗体誘導体が前記有機化合物の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する、上記方法。
相違点: 有機化合物が、本件発明は、特定のフコース類似体であるのに対して、引用発明は、糖修飾因子である点。

(3)判断
上記相違点について検討するに、甲第1号証には、代表的な糖修飾因子として、ポリペプチドに結合した糖鎖における糖の付加、除去又は修飾に関与する各種酵素の阻害剤として知られたカスタノスペルミン、デオキシフコノジリミシン、6‐メチル‐テトラヒドロ‐ピラン‐2H‐2、3、4‐トリオール、6、8a‐ジエピカスタノスペルミン、1‐N‐イミュノシュガーAおよびB(それぞれ、1‐ブチル‐5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩および5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩としても知られている)、デオキシマンノジリミシン(DMJ)、キフネンシン(Kf)、スワインゾニン(Sw)、及びモネンシン(Mn)が列挙されているが(上記摘記事項1(1)ケ)、本件発明1で用いるフコース類似体に該当するものは記載されていない。
一方、甲第4号証には、本件発明1で用いるフコース類似体に該当する化合物である、2-Cl-2-デオキシ-L-フコース(9a)、6-Cl-L-フコース(4b)、6-Br-L-フコース(4c)、及び6-I-L-フコース(4d)が、記載されている(上記摘記事項1(3)エ)。しかしながら、甲第4号証は、フコース類似体の細胞膜糖複合体阻害剤としての効果を検討することを目的とした文献であって、フコース類似体による阻害実験も、培養細胞の高分子画分へのフコース取り込みに関するものであって、引用発明のように抗体の糖鎖へのフコース取り込みに関するものではない。そして、抗体というタンパク質に結合した糖鎖へのフコース取り込みと主にリン脂質等からなる細胞膜へのフコース取り込みとが同じ機序によるものであるとか、同じ酵素が関与するものであるという証拠や技術常識があるわけでもないのだから、引用発明で用いる糖修飾因子として、甲第4号証に記載されたフコース類似体を採用することに動機付けはない。
したがって、上記相違点に係る構成が、甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものであるということはできない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、甲第3号証に記載された、フコシル化酵素を阻害すれば抗体のフコシル化が抑制されるという技術常識を勘案すれば、引用発明で用いる糖修飾因子として甲第4号証に記載されたフコース類似体を採用することは当業者にとって容易である旨主張する。
そこで、まず、甲第3号証の記載内容について検討すると、その題名及び上記摘記事項1(2)イのとおり、甲第3号証は、完全に非フコシル化し、ADCC活性が向上した治療用抗体を産生するための手法を開発することを目的とした文献であって、糖鎖のフコース取り込みに関与する酵素を遺伝子発現のレベルで抑制した細胞を用いて抗体を産生し、そのフコシル化の程度を測定することにより、α1,6-フコース転移酵素(FUT8)及びGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)の両方を同時に阻害すれば、フコシル化を高度に阻害できたことを報告するものである。したがって、甲第3号証には、フコシル化に関与する特定の酵素を阻害すれば抗体のフコシル化が抑制されるという知見が記載されているということはできる。
しかしながら、そもそも甲第4号証は抗体の産生とは関連性がない文献なので、甲第3号証と組み合わせる動機を見出すことはできない。たとえ両文献にフコース取り込みという共通点があるとしても、甲第4号証には、特定のフコース類似体が細胞膜画分へのフコース取り込みをある程度阻害したことが記載されているにとどまり、当該フコース類似体がタンパク質に結合した糖鎖のフコシル化に関与する酵素の阻害剤であることが示されているわけではないのだから、甲第3号証に記載された上記知見を考慮しても、引用発明で用いる糖修飾因子として甲第4号証に記載されたフコース類似体を採用することが当業者にとって容易であるということはできない。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。本件発明2?24についても同様である。
したがって、本件の優先権主張の有効性ないし甲第1号証の引用例適格性について検討するまでもなく、無効理由1は理由がない。

3 無効理由2について
(1)引用発明の認定及び対比
無効理由2は、無効理由1と同様に、甲第1号証を主引用例とするものであるから、引用発明、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、上記2(1)及び(2)で認定したとおりのものである。ここに、相違点のみ再掲する。
相違点: 有機化合物が、本件発明は、特定のフコース類似体であるのに対して、引用発明は、糖修飾因子である点。

(2)判断
上記相違点について検討するに、甲第1号証には、代表的な糖修飾因子として、ポリペプチドに結合した糖鎖における糖の付加、除去又は修飾に関与する各種酵素の阻害剤として知られたカスタノスペルミン、デオキシフコノジリミシン、6‐メチル‐テトラヒドロ‐ピラン‐2H‐2、3、4‐トリオール、6、8a‐ジエピカスタノスペルミン、1‐N‐イミュノシュガーAおよびB(それぞれ、1‐ブチル‐5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩および5‐メチル‐ピペリジン‐3、4‐ジオール塩酸塩としても知られている)、デオキシマンノジリミシン(DMJ)、キフネンシン(Kf)、スワインゾニン(Sw)、及びモネンシン(Mn)が列挙されているが(上記摘記事項1(1)ケ)、本件発明1で用いるフコース類似体に該当するものは記載されていない。
一方、甲第5号証には、本件発明1で用いるフコース類似体に該当する化合物である2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースが、マウス線維芽細胞のトリプシン分解画分及び細胞構成成分へのL-フコースの取り込みを競合的に阻害したという実験結果が示され、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースが糖タンパク質画分に取り込まれる可能性が考察されている(上記摘記事項1(4)ア)。しかしながら、上記摘記事項1(4)イのとおり、甲第5号証においては、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースが細胞の高分子成分の中でどのような位置へ取り込まれるのかは今後研究すべき課題とされており、糖タンパク質画分への取り込みは一つの可能性にすぎないのだから、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースを糖タンパク質画分へのフコース取り込み阻害剤として使用できることまで示唆されているとはいえない。まして、甲第5号証は、抗体産生とは関連のない文献であるのだから、引用発明で抗体糖鎖のコアフコシル化に関与する酵素を阻害するために用いられる糖修飾因子として、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースを採用しようとする動機付けを与えるものとはいうことができない。
したがって、上記相違点に係る構成が、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものであるということはできない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、甲第3号証に記載された、フコシル化酵素を阻害すれば抗体のフコシル化が抑制されるという技術常識を勘案すれば、引用発明で用いる糖修飾因子として甲第5号証に記載された2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースを採用することは当業 者にとって容易である旨主張する。
しかしながら、上記1(2)のとおり、甲第3号証は、抗体の糖鎖へのフコース取り込みに関与する酵素に着目し、それを遺伝子発現のレベルで阻害することで抗体のコアフコシル化を抑制することを報告する論文であるところ、甲第5号証は抗体の産生とは関連性のない文献なので、甲第3号証と組み合わせる動機を見出すことはできない。たとえ両文献にフコース取り込みという共通点があるとしても、甲第5号証には、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースが細胞の高分子成分へのフコース取り込みを阻害したことが記載されているにとどまり、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースがポリペプチドに結合した糖鎖のフコシル化に関与する酵素の阻害剤であることが示されているわけではないのだから、甲第3号証に記載された上記知見を考慮しても、引用発明で用いる糖修飾因子として甲第5号証に記載された2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコースを採用することが当業者にとって容易であるということはできない。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。本件発明2?24についても同様である。
したがって、本件の優先権主張の有効性ないし甲第1号証の引用例適格性について検討するまでもなく、無効理由2は理由がない。

4 無効理由3について
(1)審判請求人の主張の具体的内容
審判請求人は、無効理由3の具体的内容として、下記ア及びイの点を主張する。
ア 発明の詳細な説明の表1には、5-シアノフコーステトラアセテート(ピラノース型)、5-シアノフコーステトラアセテート(フラノース型)、及びアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)を添加した培地を用いて宿主細胞の培養を行った場合には、不十分な抗体産生あるいは細胞増殖の阻害によって、非コアフコシル化が検出されなかったことが記載されている。また、例えば、表1に50μMでの阻害活性が「>80%」と記載されたアルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)にもう一つピバレートエステル基(-OCOC(CH3)3)が付加しただけで、阻害活性が「約0%」(50μMアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート))となるように、化学構造がわずかでも変化すると活性に大きな相違がもたらされるというのが、当業界の技術常識である。したがって、請求項1に記載されたフコース類似体の全てが低いコアフコシル化抗体の製造に使用することができるわけではない。
イ 本件発明2に関して、発明の詳細な説明には、5%未満のフコース類似体が組み込まれる方法が具体的に記載されていない。フコース類似体の組み込みのデータを示す表3において最小値が20%であることからみても、どのようにすれば組み込みを5%未満にできるのか、不明である。

(2) 証拠の記載事項
ア 乙第1号証
乙第1号証は、本件発明者の一人であるステファン C.アレイ博士の2009年5月1日付け宣誓書であって、添付資料Aとして、本件出願前に行われた実験の生データを提出し、本件発明の詳細な説明の表1に記載されたアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の50μMにおける阻害「約0%」は誤記であって、正しくは「>80%」であることを主張するものである。
「添付資料A


イ 乙第2号証
乙第2号証は、本件発明者の一人であるステファン C.アレイ博士の2009年5月1日付け宣誓書であって、添付資料Aの実験データを提出し、本件発明の詳細な説明の表1及び2に50μMでも1mMでもコアフコシル化を「>80%」阻害することが記載された、5-アルキニルフコース(ペルアセテート形態)及び2-デオキシ-2-フルオロフコースの抗体への組み込みがそれぞれ3%及び0.2%であることを説明し、発明の詳細な説明は、本件発明2について当業者が実施できる程度に記載したものであることを主張するものである。
「添付資料A




(3)当審の判断
ア 発明の詳細な説明の記載が、本件発明1について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというためには、本件発明1の方法で低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造することができると当業者が理解できる程度に記載してあることが必要である。
その点、発明の詳細な説明には、複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体、それらを発現する宿主細胞、培地に添加するフコース類似体、培養方法及び抗体又は抗体誘導体の精製について、「抗体及び抗体誘導体」の項(段落【0102】?【0113】)、「フコース類似体」の項(段落【0054】?【0101】)及び「非コアフコシル化抗体及び抗体誘導体を製造する方法」の項(段落【0114】?【0131】)に一般的な記載がされるとともに、実施例1?36にフコース類似体の合成、抗体の産生、抗体のコアフコシル化やそれに関連する生物学的活性の分析に関する実験例が具体的データとともに記載されている。
したがって、発明の詳細な説明は、全体として、本件発明1について当業者が実施をすることができる程度に記載されたものと一応認めることができる。本件発明2?24についても同様である。
イ 審判請求人の主張(1)アについて
発明の詳細な説明の表1には、各種フコース類似体を50μMまたは1mMの濃度で添加した培地を用いてヒト化IgG1抗CD70モノクローナル抗体h1F6を産生するCHO CG44細胞を培養した上清から精製した抗体におけるコアフコシル化の阻害の程度(%)が示されている。表1には、審判請求人が指摘する5-シアノフコーステトラアセテート(ピラノース型)及び5-シアノフコーステトラアセテート(フラノース型)は、1mMにおける阻害は「ND」(表1の脚注によれば、フコース類似体の存在下での不十分な抗体産生又は細胞成長の阻害のため、非コアフコシル化抗体が検出されなかったことを意味する。)であるものの、50μMではそれぞれ「20%」及び「5-10%」と記載されており、上記両化合物は50μMのような1mMよりも低い濃度で用いれば、低いフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造できることが理解される。したがって、発明の詳細な説明には、フコース類似体として上記両化合物を用いた場合に、本件発明が実施できることが具体的に記載されているということができる。
一方、アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)に関しては、表1に50μMで「約0%」、1mMで「ND」と記載されている。しかしながら、上記アのとおり、発明の詳細な説明は、全体として、請求項1に記載された各種フコース類似体を培地に添加することによって、低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造できる程度に記載されていると一応認められるのだから、表1及び2に列挙された各種フコース類似体のコアフコシル化の阻害%のうちで唯一5μMにおいても1mMにおいても効果がないと解される表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の上記データは不自然といえる。そして、本件出願前に行われた実験の生データである乙第1号証の添付資料Aによれば、次のとおり、アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害は>80%程度であることが認められる。
すなわち、乙第1号証の添付資料Aは、各種フコース類似体を50μM添加した培地で産生した抗体糖鎖の質量分析のチャートであって、各チャートの「50325」及び「50471」のピークがそれぞれコアフコシル化を有さない糖鎖及び有する糖鎖に相当するところ、チャート「092408_40」(アルキニルフコーステトラキス(トリメチルアセテート))、「092408_41」(アルキニルフコーステトラキス(トリメチルアセテート))及び「092408_43」(アルキニルフコースジ(トリメチルアセテート))からは、本件発明の詳細な説明の表1に記載されたとおりの50μMにおける阻害(それぞれ、20%、5%及び>80%)が見て取れる。一方、チャート「092408_42」からは、アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害が>80%程度であることが見て取れ、これは表1の「約0%」とは矛盾するものの、生データであるチャートを疑う理由はないし、上記アで検討したとおりの本件発明の詳細な説明の記載内容に沿うものである。
したがって、フコース類似体として、アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)を発明の詳細な説明に記載されたとおりに用いれば、本件発明1が実施できると認めることができるから、表1の「約0%」及び「ND」の記載のみをもって、本件が実施可能要件を欠くとまではいうことができず、審判請求人の主張(1)アは採用することができない。
ウ 審判請求人の主張(1)イについて
本件発明2は、「前記フコース類似体の5%未満が前記抗体又は抗体誘導体の複合N-グリコシド結合糖鎖に組み込まれる、請求項1に記載の方法。」というものである。発明の詳細な説明によれば、本件発明は、複合N結合型グリカンを有するが、コアフコシル化の低い組換え抗体の生産用のフコース類似体を提供することを課題とし(段落【0006】)、フコース類似体のグリコシド結合糖鎖への組み込みに関しては、「一般」の項に「特定の実施形態において、微量のフコース類似体(又はフコース類似体の代謝物若しくは生成物)が複合N-グリコシド結合糖鎖(単数又は複数)に組み込まれている。例えば、種々の実施形態において、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満又は約1%未満の抗体及び抗体誘導体がフコース類似体又はフコース類似体の代謝物若しくは生成物によるコアフコシル化を受けている。いくつかの実施形態において、フコース類似体又はフコース類似体の代謝物若しくは生成物によるコアフコシル化を受けている抗体及び抗体誘導体が実質的にない(すなわち、0.5%未満しか受けていない)。」(段落【0053】)と記載されていることに照らすと、本件発明2は、本件発明1の「低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法」のうち、抗体又は抗体誘導体の複合N-グリコシド結合糖鎖の5%未満にフコース類似体が組み込まれる場合を意味すると解される(両当事者もその前提で主張立証をしている。)。
その前提で本件発明2に関する実施可能要件について検討するに、発明の詳細な説明には、フコース類似体のグリコシド結合糖鎖への組み込みに関する上記段落【0053】の記載に続いて、フコース類似体は、宿主細胞に取り込まれ、フコースサルベージ経路などにおける酵素を阻害する旨が記載されている(段落【0054】?【0055】)。一般に酵素は基質特異性が高いという技術常識を考慮すると、上記記載のとおり、フコース類似体が抗体糖鎖へのフコース組み込みに関与する酵素を阻害するとしても、当該酵素の基質となって抗体糖鎖に組み込まれることは多くないと考えるのが自然である。各種フコース類似体の抗体への組み込み%を記載した実施例35の表3では、本件発明で用いられるフコース類似体の中で5-(2-アジドエチル)アラビノーステトラアセテートの20%が最小値ではあるものの、フコース類似体の種類によっては組み込み%がより低い場合があることは十分予測されることである。このことは、非請求人が提出した乙第2号証の、コアフコシル化阻害が>80%である5-アルキニルフコース(ペルアセテート形態)及び2-デオキシ-2-フルオロフコースの抗体への組み込みがそれぞれ3%及び0.2%であることを示す具体的実験データと矛盾しない。
以上により、本件発明1の中には、フコース類似体の抗体又は抗体融合体の複合N-グリコシド結合糖鎖への組み込みが5%未満である場合が十分あると認められるから、審判請求人の主張(1)イは採用することができない。
(4)小括
以上のとおり、審判請求人が主張する無効理由3は理由がない。

5 無効理由4について
審判請求人は、無効理由4については、無効理由3の主張を引用するだけで、それ以外には何ら具体的な主張をしていない。
そして上記4のとおり、審判請求人の具体的主張を検討しても、発明の詳細な説明は、本件発明1?24について当業者が実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできないのだから、翻って、本件発明1?24が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることもできない。
したがって、審判請求人が主張する無効理由4は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?24に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-26 
結審通知日 2016-05-06 
審決日 2016-05-17 
出願番号 特願2011-507698(P2011-507698)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (C12P)
P 1 113・ 537- Y (C12P)
P 1 113・ 121- Y (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 松田 芳子
長井 啓子
登録日 2014-10-03 
登録番号 特許第5624535号(P5624535)
発明の名称 低いコアフコシル化を有する抗体及び抗体誘導体を調製するための方法並びに組成物  
代理人 植田 渉  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 一入 章夫  
代理人 鶴田 聡子  
代理人 平松 千春  
代理人 菊田 尚子  
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