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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1339936
審判番号 不服2017-8696  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-14 
確定日 2018-05-30 
事件の表示 特願2014-163140「窒化物半導体発光素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月22日出願公開、特開2016- 39325、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年8月8日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年12月11日付け :拒絶理由の通知
(同年12月15日発送)
平成28年 2月12日 :意見書・手続補正書の提出
同年 7月21日付け :最後の拒絶理由の通知
(同年7月26日発送)
同年10月18日 :意見書・手続補正書の提出
平成29年 3月13日付け :拒絶査定(同年3月15日送達)
同年 6月14日 :審判請求書の提出
同年 8月 4日 :手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(平成29年3月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-96460号公報
2.特開2003-273398号公報
3.特開2006-186257号公報


第3 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、平成28年10月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び6は以下のとおりの発明である。(下線は補正箇所である。)

「【請求項1】
サファイア基板のC面の上層に形成されたn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、
前記n型窒化物半導体層は、Al_(X1)In_(X2)Ga_(X3)N(0<X1≦1、0≦X2<1、0<X3<1、X1+X2+X3=1)を含み、含有されるC濃度及びO濃度が共に1×10^(17)/cm^(3)以下であり、
主たる発光波長が375nm以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。」
「【請求項6】
サファイア基板を準備する工程(a)と、
前記サファイア基板のC面上にn型窒化物半導体層を形成する工程(b)と、
前記n型窒化物半導体層の上層に活性層を形成する工程(c)と、
前記活性層の上層にp型窒化物半導体層を形成する工程(d)とを有し、 前記工程(b)において、前記n型窒化物半導体層は、Al_(X1)In_(X2)Ga_(X3)N(0<X1≦1、0≦X2<1、0<X3<1、X1+X2+X3=1)を含み、含有されるC濃度及びO濃度が共に1×10^(17)/cm^(3)以下であり、
主たる発光波長が375nm以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2014-96460号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付加した。以下同様。)。
(1)「【0026】
以下では、紫外半導体発光素子10の各構成要素について詳細に説明する。
【0027】
基板1は、エピタキシャル成長用の単結晶基板である。この基板1は、上記一表面が(0001)面のサファイア基板、つまり、c面サファイア基板(α-Al_(2)O_(3)基板)を好適に用いることができる。c面サファイア基板は、(0001)からのオフ角が、0?0.2°のものが好ましい。紫外半導体発光素子10は、基板1の他表面から光を取り出す場合、基板1として発光層4から放射される紫外光に対して透明な単結晶基板を採用すればよい。この場合、紫外半導体発光素子10は、基板1の上記他表面が光取り出し面となる。基板1は、サファイア基板に限らず、例えば、酸化ガリウム基板(β-Ga_(2)O_(3)基板)、スピネル基板、炭化シリコン基板、酸化亜鉛基板、酸化マグネシウム基板、硼化ジルコニウム基板、III族窒化物系半導体基板などを用いてもよい。なお、紫外半導体発光素子10は、製造時に用いるエピタキシャル成長用の単結晶基板が紫外光を透過可能な透光性基板でない場合には、単結晶基板をリフトオフなどにより除去してもよい。この場合、紫外半導体発光素子10は、製造時において、エピタキシャル成長用の単結晶基板を除去する前に、単結晶基板の上記一表面側の最表層側に支持基板を張り合わせるのが好ましい。」
(2)「【0029】
n型層3は、発光層4へ電子を注入するためのものであり、n型窒化物半導体層により構成されている。n型層3の膜厚は、一例として2μmに設定してあるが、特に限定するものではない。n型窒化物半導体層は、n型Al_(z)Ga_(1-z)N(0<z≦1)層からなる。n型窒化物半導体層を構成するn型Al_(z)Ga_(1-z)N(0<z≦1)層の組成比は、発光層4で発光する紫外光を吸収しない組成比であれば、特に限定するものではない。ここで、発光層4が量子井戸構造を有する場合、n型窒化物半導体層は、例えば、発光層4における井戸層のAlの組成が0.40、障壁層のAlの組成が0.55の場合、n型Al_(z)Ga_(1-z)N(0<z≦1)層のAlの組成であるzは、障壁層のAlの組成と同じ0.55とすることができる。すなわち、発光層4の井戸層がAl_(0.40)Ga_(0.60)N層からなり、障壁層がAl_(0.55)Ga_(0.45)N層からなる場合、n型窒化物半導体層は、例えば、n型Al_(0.55)Ga_(0.45)N層とすることができる。n型層3は、単層構造に限らず、多層構造でもよく、例えば、n型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層と、当該n型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層上のn型Al_(0.55)Ga_(0.45)N層とで構成してもよい。」
(3)「【0032】
発光層4は、所望の発光波長の紫外光を発光するように井戸層のAlの組成を設定してある。Al_(a)Ga_(1-a)N(0<a≦1)層からなる井戸層を備えた発光層4は、井戸層のAlの組成であるaを変化させることにより、発光波長を210nm?360nmの範囲で任意の発光波長に設定することが可能である。」
(4)「【0034】
p型層5は、例えば、発光層4上に形成された第1のp型窒化物半導体層と、この第1のp型窒化物半導体層上に形成された第2のp型窒化物半導体層と、この第2のp型窒化物半導体層上に形成された第3のp型窒化物半導体層とを備えた構成とすることができる。第1?第3のp型窒化物半導体層のアクセプタ不純物としては、例えば、Mgが好ましい。」
(5)「【0037】
第2のp型窒化物半導体層は、発光層4へ正孔を輸送するためのものである。」
(6)「【0063】
(4)n型層3を形成する工程
この工程は、基板1の上記一表面側にn型層3を形成する工程である。なお、基板1の上記一表面上にバッファ層2が形成されている場合、この工程は、バッファ層2上にn型層3を形成する工程である。」
(7)「【0066】
(5)発光層4を形成する工程
この工程は、n型層3上に発光層4を形成する工程である。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「c面サファイア基板のc面に形成されたn型窒化物半導体層からなるn型層と、
n型窒化物半導体層からなるn型層上に形成された発光層と、
発光層上に形成された第1?第3のp型窒化物半導体からなるp型層とを有し、
前記n型窒化物半導体層はn型Al_(0.55)Ga_(0.45)N層であり、
発光波長が210nm?360nmの範囲である紫外半導体発光素子。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2003-273398号公報)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0009】この発明は、前記の課題を解決し、高い結晶品質を有し、充分な移動度を持つ導電性窒化アルミニウム等の半導体材料およびそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。

(2)「【0033】[実施の形態1]この発明の実施の形態1による半導体材料について説明する。図1(a)に示すように、有機金属気相成長法(MOCVD法)により、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)を、N原料としてNH_(3)を、Siドーパント原料として500ppm濃度のH_(2)ベースのシラン(SiH_(4))を、希釈ガスとして水素ガスを同時に供給する。これによって、(0001)面方位でSi極性を有するシリコンカーバイド(SiC)基板1上に、シリコン(Si)をドーピングしたSi濃度1×10^(19)cm^(-3)の窒化アルミニウム(AlN)の半導体層2を成長する。また、図1(b)に示すように、Al_(x)Ga_(1-x)Nの半導体層3を形成するために、原料としてGaが必要な場合には、トリメチルガリウム(TMGa)を用いた。成長温度は1050?1100℃であり、成長圧力は300Torrである。SiC基板は、ウルツ鉱(六方晶)構造という結晶構造を持っている。この構造の(0001)面方位には、結晶学的に2種類の面、すなわち、Si(極性)面とC(極性)面とがある。Si(極性)面とは、表面のSi原子から垂直の1本の結合が出ている面であり、C(極性)面とは、表面のC原子から垂直の1本の結合が出ている面である(吉田貞史著「SiC素子実用化に向けた研究の現状と将来展望」、表面科学2000年12月号、3ページ、日本表面科学会編)。」
(3)「【0036】Al_(x)Ga_(1-x)Nの組成xが0.5から0.7までの範囲、0.7から0.9までの範囲、0.9から1までの範囲、さらに窒化アルミニウム(AlN)と区別する理由は、組成xが増加するほど、n型伝導を得るのが困難になるからである。n型伝導が最も困難なのは窒化アルミニウム(AlN)である。その物理的な理由は、組成xが大きくなると、バンドギャップが広くなり、シリコン(Si)が形成するドナー準位の伝導帯底からのエネルギーが大きくなるためである。3×10^(17)cm^(-3)以上で5×10^(19)cm^(-3)以下の範囲内でn型伝導性を示し、移動度は1cm^(2)/Vs以上であった。特に、Si原子濃度が1×10^(18)cm^(-3)以上、2×10^(19)cm^(-3)以下の範囲内にあるとき、移動度は10cm^(2)/Vs以上にもなり、特にn型伝導特性が非常に優れていた。
【0037】本発明の効果を図3を用いて説明する。窒化アルミニウム(AlN)は、ほぼ同数のAl原子とN原子とが交互に4本の結合で結合している結晶である。しかし、我々の理論的に最も精度のよい計算方法である第一原理計算法によれば、結晶中には、図3(a)で示すように、N原子が抜けた「空乏」(図中では△印で囲んだVで示し、以下、V△と記す)と呼ばれる状態が3×10^(17)cm^(-3)の濃度で形成する。空乏V△は自由電子を捕獲してしまう。
【0038】この理由は、3×10^(17)cm^(-3)の濃度で空乏が形成された結晶の方が、空乏が全く形成されない結晶よりも、熱力学的に安定であるからである。Si濃度が3×10^(17)cm^(-3)より低い場合(図3(a))、元々のAl原子の位置に入ったSi原子(図中では□印で囲んだSiで示し、以下、Si□と記す)は、自由電子を結晶中に一旦、供給(放出)する。しかし、その自由電子は全て空乏に捕獲されてしまうので、結晶は絶縁体のままであり、n型を示さない。
【0039】図3(b)で示されるように、Si濃度が3×10^(17)cm^(-3)より高い場合、Al原子位置のSi原子(Si□)は空乏(V△)よりも多い。この結果、十分に自由電子を結晶中に供給(放出)するため、初めてn型半導体になる。これは、窒化アルミニウム(AlN)および窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)がn型になるために、本願の発明者が示した効果の機構に他ならない(Y. Taniyasu, M. Kasu, N. Kobayashi, Applied Physics Letters 投稿予定)。
【0040】図3(c)で示されるように、Si濃度が5×10^(19)cm^(-3)より高い場合、Si原子は、Al位置だけでなく、N原子位置にも入るようになる。これを図中では、○印で囲んだSi(以下、Si○と記す)で示す。Al原子位置のSi原子(Si□)が一旦結晶中へ供給(放出)した自由電子を、このN原子位置のSi原子(Si○)が捕獲してしまうため、再び結晶は絶縁体になってしまう。Si濃度が5×10^(19)cm^(-3)より高くなると、Si原子がAl原子位置よりN原子位置に場所を変えるのは、本願の発明者が行なった第一原理計算によれば、熱力学的にN原子位置の方が安定になるからである。
【0041】以上のように、Si濃度が3×10^(17)cm^(-3)と5×10^(19)cm^(-3)の限られた範囲内でのみn型半導体になるのは、前記の第一原理計算で初めて示された効果であり、実験結果でも定量的に確認することができた。
【0042】以上の説明では窒化アルミニウム(AlN)に対して行なったが、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)では、Ga原子が一部のAl原子を置き換えたものであり、我々の計算でも、先の図3(a)、(b)、(c)の状態変化が起きる濃度はほとんど同じである。」
(4)「【0044】以上の効果では、酸素原子や炭素原子がないことも重要である。なぜなら、酸素原子や炭素原子は、前記の説明で、空乏と同じ役割をするので、n型半導体になる図3(b)の状態の下限値を増加させてしまう。つまり、図3(b)の状態の下限値が、上限値に達してしまった場合、図3(b)の状態は全く形成されなくなってしまう。SiドープAlN中の酸素濃度に対する移動度の変化を図4に示し、範囲Aでは、窒化アルミニウム(AlN)中に含有する酸素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満である。また、SiドープAlN中の炭素濃度に対する移動度の変化を図5に示し、範囲Bでは、窒化アルミニウム(AlN)中に含有する炭素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満である。」
(5)「【0046】前記の効果では、基板に(0001)面方位でSi極性を有するSiC基板を用いることが重要である。他の材料の基板、例えば、サファイア基板の場合、サファイアとAlN(またはAlGaN)の間の格子定数の違い(格子不整合)が大きすぎ、空乏が増加するからである。また、SiC基板であっても他の面方位、例えば(11-20)面方位を用いた場合、あるいはC極性を用いた場合は、格子不整合が大きすぎ、空乏が増加してしまう。この結果、n型半導体になる状態(図3(b))の下限が上昇することにより、範囲が狭くなってしまう。または、範囲が消滅してしまうことにより、所望の効果を得ることができない。」

したがって、引用文献2には、SiC基板上に形成したSiドープAlN中の酸素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満であるとき、又は、SiドープAlN中の炭素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満であるとき、SiドープAlNの電子の移動度が充分に大きくなるという技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2006-186257号公報)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0015】
この発明によれば、発光素子構造を構成する層がA面方位でしかも良質なものとして得られるためC面GaN系III-V族化合物半導体特有のピエゾ電界を解消することができ、発光効率の向上を図ることができるとともに、発光波長のシフトを防止することができ、信頼性および特性に優れた半導体発光素子を得ることができる。そして、このような半導体発光素子を用いることにより、信頼性および特性に優れた集積型半導体発光装置、画像表示装置および照明装置を得ることができる。」
(2)「【0019】
成長時の原料のV/III比を1000以下として成長させたGaN層13は平坦なA面が得られるが、一般に点欠陥が多くて黄色の発光が強く、バンド端発光が非常に弱い。図1Bにおいて、この点欠陥が多い部分を符号13aで示す。そこで、図2Aに示すように、例えば、成長時の原料のV/III比を1000より大きくし、かつ50kPa以上の圧力下でMOCVD法によりGaN層13上に、n型不純物としてSiがドープされたn型GaN層14を成長させる。こうして成長されるn型GaN層14は欠陥がほとんどなく、周辺に角がなければS面が出にくく、表面はA面となる。図2Aにおいては、GaN層13の角の近傍のn型GaN層14にのみS面が形成されている。このn型GaN層14の成長条件の一例を挙げると、圧力90kPa、TMG14.8sccm(57μmol/min)、NH_(3 )6lm、原料のV/III比4700、成長温度1000℃、成長時間900sである。」

したがって、引用文献3には、表面がA面であるn型GaN層を原料のV/III比4700で成長させるという技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「c面サファイア基板のc面に形成されたn型窒化物半導体層からなるn型層3」は、本願発明1の「サファイア基板のC面の上層に形成されたn型窒化物半導体層」に相当する。
イ 引用発明の「発光層」はn型層から注入された電子(【0029】参照。)とp型層から輸送された正孔(【0037】参照。)を紫外光に変換するものであり、本願発明1の「活性層」に相当するから、引用発明の「n型窒化物半導体層からなるn型層3上に形成された発光層4」は、本願発明1の「前記n型窒化物半導体層の上層に形成された活性層」に相当する。
ウ 引用発明の「発光層上に形成されたp型窒化物半導体からなるp型層」は、本願発明1の「前記活性層の上層に形成されたp型窒化物半導体層」に相当する。
エ 引用発明の「n型Al_(0.55)Ga_(0.45)N層」は、本願発明1の「Al_(X1)In_(X2)Ga_(X3)N(0<X1≦1、0≦X2<1、0<X3<1、X1+X2+X3=1)」のX1=0.55、X2=0、X3=0.45のときのものであるから、引用発明の「前記n型窒化物半導体層はn型Al_(0.55)Ga_(0.45)N層であり」は、本願発明1の「前記n型窒化物半導体層は、Al_(X1)In_(X2)Ga_(X3)N(0<X1≦1、0≦X2<1、0<X3<1、X1+X2+X3=1)を含み」に相当する。
オ 引用発明の「発光波長が210nm?360nmの範囲である」は、本願発明1の「主たる発光波長が375nm以下である」に相当する。
カ 引用発明の「紫外半導体発光素子」は、窒化物半導体層を有しているから、本願発明1の「窒化物半導体発光素子」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「サファイア基板のC面の上層に形成されたn型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成されたp型窒化物半導体層とを有し、
前記n型窒化物半導体層は、Al_(X1)In_(X2)Ga_(X3)N(0<X1≦1、0≦X2<1、0<X3<1、X1+X2+X3=1)を含み、
主たる発光波長が375nm以下であることを特徴とする窒化物半導体発光素子。」
(相違点1)
本願発明1は「前記n型窒化物半導体層は、含有されるC濃度及びO濃度が共に1×10^(17)/cm^(3)以下であ」るのに対し、引用発明はn型窒化物半導体層に含有されるC濃度及びO濃度が不明である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は、c面サファイア基板のc面に形成されたn型窒化物半導体層からなるn型層を有している。
引用文献2には、SiC基板上に形成したSiドープAlN中の酸素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満であるとき、又は、SiドープAlN中の炭素原子濃度が1×10^(17)cm^(-3)未満であるとき、SiドープAlNの電子の移動度が充分に大きくなるという技術的事項が記載されている。しかしながら、サファイア基板のC面の上層に形成されたn型窒化物半導体層中の酸素原子濃度又は炭素原子濃度と前記n型窒化物半導体層の電子の移動度との関係は記載されていない。
そして、引用文献2の【0046】には、サファイア基板の場合、サファイアとAlN(またはAlGaN)の間の格子定数の違い(格子不整合)が大きすぎて空乏が増加し、n型半導体になる状態のSi濃度の下限が上昇するという欠点が記載されているから、サファイア基板のc面上に形成されたn型窒化物半導体層中の酸素原子濃度又は炭素原子濃度と前記n型窒化物半導体層の電子の移動度との関係は示唆もされていないといえる。
また、引用文献3には、サファイア基板のC面の上層に形成されたn型窒化物半導体層中の酸素原子濃度又は炭素原子濃度と前記n型窒化物半導体層の電子の移動度との関係については記載も示唆もされていない。
そして、本願発明1は、n型窒化物半導体層に含有されるC濃度及びO濃度が共に1×10^(17)/cm^(3)以下であることにより、ディープ発光が抑制されるので、高い単色性と高い発光効率を有する発光素子が実現されるという効果を奏するものである。
よって、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて、引用発明のc面サファイア基板上のn型層について、含有されるC濃度及びO濃度を共に1×10^(17)/cm^(3)以下とすることは容易に想到し得ない。
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。

2 本願発明2-8について
本願発明2-8は何れも、本願発明1と同じく「含有されるC濃度及びO濃度が共に1×10^(17)/cm^(3)以下」という構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-8は、当業者が引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-18 
出願番号 特願2014-163140(P2014-163140)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 皆藤 彰吾吉野 三寛森口 忠紀  
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 近藤 幸浩
村井 友和
発明の名称 窒化物半導体発光素子及びその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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