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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1339960
審判番号 不服2017-463  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-12 
確定日 2018-05-10 
事件の表示 特願2013-223767「圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月 7日出願公開、特開2015- 88529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年10月28日の出願であって、平成27年2月4日付けで手続補正がなされ、平成28年3月10日付け拒絶理由通知に対して同年4月28日付けで手続補正がなされたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成29年1月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成29年1月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年1月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成29年1月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲および明細書についてするもので、特許請求の範囲については、
本件補正前に、
「【請求項1】
圧粉磁心の製造に用いられる磁心用粉末の製造方法であって、
AlおよびSiを含む鉄合金からなり粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程と、
該酸化処理工程により得られた該軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより酸化アルミニウムからなる絶縁層により少なくとも一部表面が被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程を備え、
前記磁心用粉末は該絶縁被覆粒子からなることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸化雰囲気は、露点が-40℃以下であり、加熱温度が800?1100℃であり、酸素濃度が0.1?30体積%である請求項1に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記鉄合金は、全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、
Al:0.5?5%、
Si:0.5?9%、
残部:Feと不可避不純物または改質元素、
からなる請求項1または2に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
AlおよびSiを含む鉄合金からなり粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱して得られ、表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子の粉末である酸化粉末を加圧成形した成形体を得る成形工程と、該成形体を非酸化雰囲気で加熱することにより、該軟磁性粒子の隣接間の少なくとも一部に酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成された圧粉磁心を得る成形体加熱工程と、
を備えることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記成形体加熱工程は、前記成形体を700?950℃に加熱する焼鈍工程である請求項4に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記酸化雰囲気は、露点が-40℃以下であり、加熱温度が800?1100℃であり、酸素濃度が0.1?30体積%である請求項4または5に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
請求項1?3のいずれかに記載した製造方法により得られた磁心用粉末を加圧成形して圧粉磁心を得ることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記圧粉磁心は、前記加熱処理された軟磁性粒子のみからなる請求項4?7のいずれかに記載の圧粉磁心の製造方法。」
とあったところを、

「【請求項1】
圧粉磁心の製造に用いられる磁心用粉末の製造方法であって、
AlおよびSiを含む鉄合金からなり粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程と、
該酸化処理工程により得られた該軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより酸化アルミニウムからなる絶縁層で表面が被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程を備え、
前記鉄合金は、該鉄合金全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、
Al:1?4.5%、Si:1?6%、Fe:残部からなり、
前記磁心用粉末は該絶縁被覆粒子からなることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸化雰囲気は、露点が-40℃以下であり、加熱温度が800?1100℃であり、酸素濃度が0.1?30体積%である請求項1に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記Alは1.5?4%である請求項1または2に記載の磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
AlおよびSiを含む鉄合金からなり粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱して得られ、表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子の粉末である酸化粉末のみを加圧成形した成形体を得る成形工程と、
該成形体を非酸化雰囲気で加熱することにより、該軟磁性粒子の隣接間に酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成された圧粉磁心を得る成形体加熱工程とを備え、
前記鉄合金は、該鉄合金全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、
Al:1?4.5%、Si:1?6%、Fe:残部からなることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記成形体加熱工程は、前記成形体を700?950℃に加熱する焼鈍工程である請求項4に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記酸化雰囲気は、露点が-40℃以下であり、加熱温度が800?1100℃であり、酸素濃度が0.1?30体積%である請求項4または5に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
請求項1?3のいずれかに記載した製造方法により得られた磁心用粉末を加圧成形して圧粉磁心を得ることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。」
とするものである。

2.補正の目的要件について
本件補正における補正の目的は、以下のとおりのものと認められる。

(1)本件補正前の請求項1に記載された「絶縁層により少なくとも一部表面が被覆された」を「絶縁層で表面が被覆された」に、本件補正前の請求項4に記載された「該軟磁性粒子の隣接間の少なくとも一部に酸化アルミニウム」を「該軟磁性粒子の隣接間に酸化アルミニウム」に補正したが、これにより絶縁層や酸化アルミニウムの形成の程度が限られたわけではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、同項第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、および第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
なお、当該補正に関する主張かどうか不明であるが、審判請求人は審判請求書において「ところが、本願発明のように、Al含有量が少なくても、適量のSiを含む鉄合金からなる粉末を用いますと、酸化処理した段階で酸化アルミニウムの生成が不十分でも、その後にさらに非酸化処理を行うことにより、実質的に酸化アルミニウムのみからなる良好な皮膜が粒子表面に生成されるようになります([0035]?[0037]、[0046]、[0052]、[0053]、[0057]?[0062]等)。」と主張しているが、指摘された段落の記載どころか全ての明細書の記載を参照しても、「実質的に酸化アルミニウムのみからなる良好な皮膜が粒子表面に生成される」点は記載されていないので、審判請求人の主張は失当である。

(2)本件補正前の請求項3に記載された「前記鉄合金は、全体を100質量%(単に「%」で表す。)としたときに、Al:0.5?5%、Si:0.5?9%、残部:Feと不可避不純物または改質元素、からなる」という鉄合金の組成について、本件補正により請求項1を「前記鉄合金は・・・Fe:残部からなり」と補正し、当該請求項1を引用する請求項3を「前記Alは1.5?4%である」と補正したが、当該請求項1を引用する請求項3に係る発明の発明特定事項を補正前後で比較すると、残部に「不可避不純物または改質元素」を含む点が削除されているので、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、同項第1号に掲げる請求項の削除、第3号に掲げる誤記の訂正、および第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成29年1月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年4月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
圧粉磁心の製造に用いられる磁心用粉末の製造方法であって、
AlおよびSiを含む鉄合金からなり粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程と、
該酸化処理工程により得られた該軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより酸化アルミニウムからなる絶縁層により少なくとも一部表面が被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程を備え、
前記磁心用粉末は該絶縁被覆粒子からなることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-88502号(以下「引用文献」という。)には、「酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、酸化物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心および磁性素子」について、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0007】
本発明の目的は、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末を安価に製造することができる酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、かかる製造方法により製造された酸化物被覆軟磁性粉末、この粉末を用いて製造され、高透磁率で低損失の圧粉磁心、およびこの圧粉磁心を備えた高性能の磁性素子を提供することにある。」

イ.「【0021】
以下、本発明の酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法の各工程について、順次説明する。
[1]まず、一次粒子を用意する(第1の工程)。
用意する一次粒子は、軟磁性材料で構成され、表面が酸化鉄を含む酸化物層で覆われた粒子である。
また、一次粒子を構成する軟磁性材料は、主成分としてFeを含み、主成分に次いで含有率の大きい副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含むものである。
【0022】
このような一次粒子としては、いかなる方法で製造されたものでもよいが、例えば、前述したような軟磁性材料で構成された粒子を酸化性雰囲気中に放置したり、前記粒子の表面に急激な酸化処理を施したりしたもの、水アトマイズ法により製造されたもの等を用いることができる。かかる方法によれば、主成分であるFeが優先的に酸化し、酸化鉄を含む酸化物層が形成される。
ここで、酸化性雰囲気としては、例えば、大気(空気)、酸素、水蒸気等を含む雰囲気が挙げられる。
また、酸化処理としては、例えば、酸化性雰囲気中で急加熱(熱乾燥処理)する方法や、硝酸等の酸化剤を含む薬剤中や水中に浸漬する方法、等が挙げられる。」

ウ.「【0027】
[2]次に、得られた一次粒子に、不活性雰囲気中で熱処理を施す。
ここで、一次粒子の酸化物層中には、酸化鉄と前述した副成分が含まれている。
このような一次粒子に、不活性雰囲気中で熱処理を施すと、酸化物層中の酸化鉄に熱エネルギーが付与される。
ところで、副成分であるSi、AlおよびCrは、その酸化物標準生成自由エネルギーが、鉄のそれに比べて小さい。すなわち、Si、AlおよびCrは、酸素と引き合う力が、鉄と酸素とが引き合う力よりも大きい。したがって、酸化鉄と副成分とが隣接した状態で、不活性雰囲気中において、酸化鉄に熱エネルギーが付与されると、酸化鉄中の酸素が、より安定な状態を目指して副成分と結合する。このため、酸化物層中の酸化鉄が還元されるとともに、酸化物層中に副成分の酸化物が生成される。その結果、粒子本体部と、その表面に設けられた、副成分の酸化物を含む材料で構成された酸化物層とを有する二次粒子、すなわち酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。また、酸化鉄が減少して鉄が増加するため、軟磁性粉末の磁気特性が向上する。」

エ.「【0039】
ここで、粒子本体部(一次粒子)を構成する軟磁性材料における副成分の含有率は、1?15wt%程度であるのが好ましく、2?10wt%程度であるのがより好ましい。副成分の含有率を前記範囲内とすることにより、軟磁性材料の磁気特性が著しく低下するのを防止しつつ、酸化鉄に比べて化学的に安定な副成分の酸化物を十分な量確保することができる。
具体的には、副成分としてSiを含む場合、Siの含有率は、2?10wt%程度であるのが好ましく、3?8wt%程度であるのがより好ましい。
・・・(中略)・・・
【0041】
また、副成分としてAlを含む場合、Alの含有率は、2?8wt%程度であるのが好ましく、2?6wt%程度であるのがより好ましい。
Alは、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Al2O3等)を容易に生成する。このため、Alを含む軟磁性材料は、耐食性に特に優れたものとなる。
さらに、Alの酸化物は、特に強固で安定性が高いため、軟磁性材料で構成された粒子の表面付近にAlの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより確実に絶縁することができる。
したがって、Alの含有率を前記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さい圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。」

上記アないしエから、引用文献の「酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法」には以下の事項が記載されている。
・上記アによれば、圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法である。
・上記イによれば、主成分としてFeを含み、副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む軟磁性材料で構成された粒子を酸化性雰囲気中で加熱することにより、該粒子の表面に酸化鉄を含む酸化物層を形成するものである。
・上記ウによれば、一次粒子(表面に酸化鉄を含む酸化物層が形成された粒子)を不活性雰囲気中で熱処理するものである。これにより、酸化鉄が還元され、該粒子表面に副成分の酸化物を含む材料で構成された酸化物層を有する酸化物被覆軟磁性粉末が得られるものである。
・上記エによれば、Siの含有率は2?10wt%程度であり、Alの含有率は2?6wt%程度である。

そうすると、上記摘示事項から、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法であって、
主成分としてFeを含み、副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む軟磁性材料で構成された粒子を酸化性雰囲気中で加熱することにより、該粒子の表面に酸化鉄を含む酸化物層を形成し、Siの含有量は2?10wt%程度、Alの含有量は2?6wt%程度であり、
表面に酸化鉄を含む酸化物層が形成された粒子を不活性雰囲気中で熱処理することにより、酸化鉄が還元され、該粒子表面に副成分の酸化物を含む材料で構成された酸化物層を有する酸化物被覆軟磁性粉末を得る、
酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法」は、圧粉磁心用の粉末であるから、本願発明の「圧粉磁心の製造に用いられる磁心用粉末の製造方法」および「磁心用粉末の製造方法」に相当する。

(2)引用発明の「軟磁性材料で構成された粒子を酸化性雰囲気中で加熱すること」は、本願発明の「軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程」に相当する。
但し、軟磁性粒子の成分について、本願発明は「AlおよびSiを含む鉄合金」であるのに対し、引用発明は「主成分としてFeを含み、副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む軟磁性材料」であって、Si及びAlが必須成分となっていない点で一応相違する。
更に、軟磁性粒子の粒径について、本願発明は「50μm以上のものを含む」のに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

(3)引用発明の「表面に酸化鉄を含む酸化物層が形成された粒子を不活性雰囲気中で熱処理することにより、酸化鉄が還元され、該粒子表面に副成分の酸化物を含む材料で構成された酸化物層を有する酸化物被覆軟磁性粉末を得る」ことは、非酸化雰囲気である不活性雰囲気中で熱処理をして酸化鉄ではない他の成分の酸化物層(絶縁層)を形成することだから、本願発明の「該酸化処理工程により得られた該軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより酸化物からなる絶縁層により少なくとも一部表面が被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程を備え、前記磁心用粉末は該絶縁被覆粒子からなる」ことに相当する。
但し、酸化物からなる絶縁層について、本願発明は「酸化アルミニウム」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
<一致点>
「圧粉磁心の製造に用いられる磁心用粉末の製造方法であって、
軟磁性粒子を酸化雰囲気中で加熱する酸化処理工程と、
該酸化処理工程により得られた該軟磁性粒子の表面近傍に酸化鉄を有する酸化粒子を、非酸化雰囲気で加熱することにより酸化物からなる絶縁層により少なくとも一部表面が被覆された絶縁被覆粒子を得る非酸化処理工程を備え、
前記磁心用粉末は該絶縁被覆粒子からなることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。」

<相違点1>
軟磁性粒子の成分について、本願発明は「AlおよびSiを含む鉄合金」であるのに対し、引用発明は「主成分としてFeを含み、副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む軟磁性材料」であって、Si及びAlが必須成分となっていない点。

<相違点2>
軟磁性粒子の粒径について、本願発明は「50μm以上のものを含む」のに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点。

<相違点3>
酸化物からなる絶縁層について、本願発明は「酸化アルミニウム」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がされていない点

4.判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点1及び3について
引用発明は「Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む」ものであるところ、引用文献の表1(第16頁)の実施例2を参照すると「SiおよびAl」が選択されており、また、磁心用粉末としてセンダスト(Fe-Si-Al合金)がごく普通に使用されていることも勘案すると、引用発明の軟磁性粉末の成分として「主成分Fe、副成分としてSiとAlを選択」して相違点1の構成にすることは、当業者が容易になし得たことである。
またその場合、引用発明も、Alを含み、不活性雰囲気中(非酸化雰囲気中)で熱処理するから、少なくとも一部表面に「酸化アルミニウム」が被覆された絶縁被覆粒子(相違点3)が形成されるものである。
したがって、相違点1および3に係る構成は、引用発明から当業者が容易になし得たものである。

(2)相違点2について
引用発明の軟磁性粉末の粒径については直接記載はないが、引用文献の段落【0045】に「製造された酸化物被覆軟磁性粉末の平均粒径は、5?30μm程度である」と記載されている。
ここで、本願発明の「粒径が50μm以上のものを含む軟磁性粒子」は、粒径の上限・下限が特定されているわけではなく、軟磁性粒子の一部(極端にいうと、ただ1つの軟磁性粒子)が50μmであれば足りるものであり、つまり、50μm未満の軟磁性粒子を含むことも何ら排除するものではないから、平均粒径が30μm以下のものも含まれるものと認められる。
したがって、相違点2に係る構成は、軟磁性粒子の粒径の特定が明確にされているわけではなく、引用発明のものも含まれるから、実質的な相違点ではない。
なお、本願明細書の段落【0032】には「軟磁性粒子の粒径は問わないが、通常、10?300μmさらには50?250μmであると好ましい。粒径が過大になると・・・、粒径が過小になると・・・。」と記載されており、ここでいう過小な粒径とは「10μm未満」であると認定できる。また、同段落【0071】には「・・・粉末粒度が小さくなり粉末全体としての表面積が増加する圧粉磁心(資料7、9および10)ほど、比抵抗または強度が向上する傾向にあることもわかる。そして粒径が小さい低粒度のSi含有粉末の場合、酸化処理中の酸素濃度が低くても、十分な比抵抗または強度が得られることがわかった。」と記載されており、ここでいう粒径が小さいとは【表2】によれば「75μm以下」であると認定できる。そうすると、本願明細書の記載からして、粒子径が「10μm?75μm」の範囲の軟磁性粉末であれば、効果において格別な差異はないと認められる。よって、本願発明において「50μm以上のものを含む」ことに、格別な技術的意義を認めることはできない。

したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明により当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用文献から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-12 
結審通知日 2018-03-13 
審決日 2018-03-26 
出願番号 特願2013-223767(P2013-223767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 56- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
國分 直樹
発明の名称 圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法  
代理人 森岡 正往  
代理人 特許業務法人SANSUI国際特許事務所  

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