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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1340004
審判番号 不服2017-4294  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-27 
確定日 2018-05-09 
事件の表示 特願2015-112086「有機電界発光素子用材料、該有機電界発光素子用材料を含む組成物、並びに、該組成物により形成された膜、及び有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開,特開2015-193632〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年8月17日に出願した特願2010-182647号の一部を平成27年6月2日に新たな特許出願(特願2015-112086号)としたものであって,平成28年6月17日付けで拒絶理由が通知され,同年9月20日に意見書が提出されたが,同年11月22日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年3月27日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出された。


2 補正の適否について
平成29年3月27日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正のうち補正後の請求項1に係る補正は,補正前の請求項1及び2を削除するとともに,補正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項4を新たな請求項1とするものであるから,特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
また,補正後の請求項1に記載された事項は,補正前の請求項1,2及び4に記載された事項であるから,本件補正のうち補正後の請求項1に係る補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。したがって,本件補正のうち補正後の請求項1に係る補正は,同法17条の2第3項の規定に適合する。
よって,本件補正のうち補正後の請求項1に係る補正は,適法になされたものである。


3 本願の請求項1に係る発明
(1) 前記2で述べたとおり,本件補正のうち補正後の請求項1に係る補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1に係る発明は,平成29年31月27日提出の手続補正書によって補正された請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体を昇華して,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入する有機電界発光素子用材料の製造方法であって,
前記前駆体が下記一般式(A1)で表される化合物である,有機電界発光素子用材料の製造方法。
【化1】

(一般式(A1)中,Qはそれぞれ独立に,縮環していてもよい6員の芳香族炭化水素環,又は縮環していてもよい6員の芳香族ヘテロ環を表す。)」(以下,「本件発明」という。)

(2) なお,本件発明における「一般式(A1)」中の「Q」は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2,3の記載や,本件明細書の【0023】ないし【0028】の記載等からみて,置換基を有する「縮環していてもよい6員の芳香族炭化水素環,又は縮環していてもよい6員の芳香族ヘテロ環」を包含していると解するのが相当である。


4 拒絶査定の拒絶の理由の概要
(1) 本件補正前の請求項4(本件補正後の請求項1)に対する拒絶査定の拒絶の理由(以下,「査定理由」という。)は,概略,次のとおりである。

本件発明は,引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(周知例:引用文献2,引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 査定理由で引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献1:特開2008-218983号公報
引用文献2:特開2007-266201号公報
引用文献3:特開平10-306228号公報


5 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1(特開2008-218983号公報)は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,湿式成膜法による成膜が可能な,架橋基を有する有機化合物からなる正孔輸送材料と,該正孔輸送材料を重合させてなる高分子化合物と,該正孔輸送材料を含有する有機電界発光素子用組成物と,該高分子化合物を含有する層を有する,発光効率が高く,駆動安定性に優れた有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,有機薄膜を用いた電界発光素子(有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては,真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
真空蒸着法は積層化が可能であるため,陽極および/または陰極からの電荷注入の改善,励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。湿式成膜法は真空プロセスが要らず,大面積化が容易で,1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
しかしながら,湿式成膜法は積層化が困難であるため,真空蒸着法による素子に比べて駆動安定性に劣り,一部を除いて実用レベルに至っていないのが現状である。特に,湿式成膜法での積層化は,有機溶媒と水系溶媒を使用するなどして二層の積層は可能であるが,三層以上の積層化は困難であった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,湿式成膜法に適した正孔輸送材料,特に電子および励起子を発光層側に封じ込める効果が高く,保存安定性に優れる正孔輸送材料を提供することを課題とする。
本発明はまた,発光効率が高く,駆動安定性が高い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,下記の特定構造を有する架橋基を有する有機化合物が,高い正孔輸送能,高い電子および励起子阻止能を有し,保存安定性にも優れる,湿式成膜法に適した化合物であることを見出し,本発明に到達した。
【0009】
[1] 下記一般式(I)で表され,分子量が300?5000であることを特徴とする正孔輸送材料。
【化5】

[式(I)中,R^(1)?R^(4)は,各々独立に,水素原子,連結基Z1への直接結合または1価の基を示す。
nは,1?4の整数を示す。
連結基Z^(1)は,nが1のときは存在せず,nが2以上のときは直接結合またはn価の連結基を示す。
A^(1)は,水素原子または下記式(IA)で表される架橋基を示す。但し,一分子中において,少なくとも1つのA1は下記式(IA)で表される架橋基である。
E^(1)は,下記式(IE-1)または(IE-2)で表される基を示す。
一分子中に存在する,複数の,R^(1)?R^(4),A^(1)およびE^(1)は,それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
-G^(1)-J^(1) (IA)
{式(IA)中,G^(1)は,-O-基,-C(=O)-基,または置換基を有していてもよい-CH_(2)-基から選ばれる基を1?30個連結してなる2価の基を示す。J^(1)は,架橋基群Tの中から選ばれる一価の基を表す。
<架橋基群T>
【化6】

(式J-1,J-3?J-5中,R^(5)?R^(8)は,各々独立に,水素原子またはアルキル基を示す。式J-7において,Ar^(1)は,置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。但し,式J-1の基は,カルボニル基に直接連結されることはない。)}
-O-R^(0) (IE-1)
-Ar^(2) (IE-2)
{式(IE-1)中,R^(0)は1価の基を示す。式(IE-2)中,Ar^(2)は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。}]
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明の正孔輸送材料は,高い正孔輸送能,高い電子および励起子阻止能を有し,保存安定性にも優れる。また,この正孔輸送材料は湿式成膜法に適しており,この正孔輸送材料を用いて有機電界発光素子の有機層を湿式成膜法で積層して形成することが可能となる。
【0021】
また,この正孔輸送材料を含む有機電界発光素子用組成物を用いて,湿式成膜法により形成される有機電界発光素子は,大面積化が可能である。
また,この正孔輸送材料を含む有機電界発光素子用組成物を用いて,有機溶剤に不溶な有機薄膜を形成することも可能であり,有機電界発光素子の湿式成膜法による積層化が容易となる。
さらに,本発明の正孔輸送材料を重合させて得られる高分子化合物を含有する層を有する有機電界発光素子によれば,高い効率で発光させることが可能となり,かつ素子の安定性,特に駆動安定性が向上する。
また,本発明の正孔輸送材料は,優れた製膜性,電荷輸送性,発光特性,耐熱性から,素子の層構成に合わせて,正孔注入材料,正孔輸送材料,発光材料,ホスト材料,電子注入材料,電子輸送材料などとしても適用可能である。」

(イ) 「【0088】
[10]合成法
本発明の正孔輸送材料は,目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し,公知の手法を用いて合成することができる。
代表的な合成スキームを以下に示す。
【0089】
【化43】

【0090】
ここで,X^(1)?X^(9)は,脱離基(例えば,Br,I,-B(OH)_(2)など)を表す。
Y^(1)?Y^(2)は,A^(21)の前駆体(例えば,ビニル基の前駆体は-CHO基であり,-O-(CH_(2))_(4)-O-CH_(2)-メチルオキセタン基の前駆体は,-OH基である),または,脱離基(例えば,Br,I,-B(OH)_(2)など)を表す。
R^(21)?R^(23)は,R^(2)?R^(4)と同義の架橋基を表す。
A^(21)は,A^(1)と同義の架橋基を表す。
E^(2)はE^(1)と同義の基を表す。
各原料化合物は,適宜,試薬として入手可能であり,反応は,公知のカップリング手法を用いて,容易に実現可能である。
尚,ArNH_(2)系化合物(例えば,化合物a,e)からAr_(2)NH系化合物(例えば,化合物b,c)を合成する反応においては,一旦,アシル化し,ArNHAc体にしてから,Ar_(2)NAc体を得,その後,脱アセチル化してAr_(2)NH体を得ることも選択可能である。ここで,Arは,それぞれ独立に,任意の1価の芳香族炭化水素基を表し,Acは,アセチル基を表す。
【0091】
化合物の精製方法としては,「分離精製技術ハンドブック」(1993年,(財)日本化学会編),「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年,(株)アイ ピー シー発行),あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年,(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし,公知の技術を利用可能である。具体的には,抽出(懸濁洗浄,煮沸洗浄,超音波洗浄,酸塩基洗浄を含む),吸着,吸蔵,融解,晶析(溶媒からの再結晶,再沈殿を含む),蒸留(常圧蒸留,減圧蒸留),蒸発,昇華(常圧昇華,減圧昇華),イオン交換,透析,濾過,限外濾過,逆浸透,圧浸透,帯域溶解,電気泳動,遠心分離,浮上分離,沈降分離,磁気分離,各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム,ペーパー,薄層,キャピラリー,移動相分類:ガス,液体,ミセル,超臨界流体。分離機構:吸着,分配,イオン交換,分子ふるい,キレート,ゲル濾過,排除,アフィニティー)などが挙げられる。
【0092】
生成物の確認や純度の分析方法としては,ガスクロマトグラフ(GC),高速液体クロマトグラフ(HPLC),高速アミノ酸分析計(有機化合物),キャピラリー電気泳動測定(CE),サイズ排除クロマトグラフ(SEC),ゲル浸透クロマトグラフ(GPC),交差分別クロマトグラフ(CFC),質量分析(MS,LC/MS,GC/MS,MS/MS),核磁気共鳴装置(NMR(1HNMR,13CNMR)),フーリエ変換赤外分光高度計(FT-IR),紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR),電子スピン共鳴装置(ESR),透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA),金属元素分析(イオンクロマトグラフ,誘導結合プラズマ-発光分光(ICP-AES)原子吸光分析(AAS),蛍光X線分析装置(XRF)),非金属元素分析,微量成分分析(ICP-MS,GF-AAS,GD-MS)等を必要に応じ,適用可能である。」

(ウ) 「【実施例】
【0248】
次に,本発明を実施例によって更に具体的に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り,以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0249】
[合成例]
以下に本発明の正孔輸送材料の合成例を示す。
なお,以下の合成例において,ガラス転移温度はDSC測定により,重量減少開始温度はTG-DTA測定により,融点はDSC測定またはTG-DTA測定によりそれぞれ求めた。
・・・(中略)・・・
【0273】
(合成例4)
<目的物11の合成>
・・・(中略)・・・
【0275】
<目的物12の合成>
【化81】

【0276】
窒素気流中,トルエン(200ml)に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.16g)とビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.145g)を加えて室温で10分間攪拌し,さらに目的物11(8.01g),アニリン(6.15g),およびtert-ブトキシナトリウム(2.31g)を加えて,100℃で6時間攪拌した。放冷後不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製することにより,目的物12(6.40g)を得た。
【0277】
<目的物13の合成>
・・・(中略)・・・
【0279】
<目的物14の合成>
【化83】

【0280】
窒素気流中,ジメチルスルホキシド(50ml)に粉砕した水酸化カリウム(8.98g)を加え,m-ブロモフェノール(6.92g)を加えて30分間攪拌後,目的物13(12.33g)を加えて室温で6時間攪拌した。析出物を濾取した後,濾液を塩化メチレンで抽出して油層を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=2:1)で精製することにより,目的物14(11.4g)を得た。
【0281】
<目的物15の合成>
【化84】

【0282】
窒素気流中,目的物12(3.30g),目的物14(3.16g),tert-ブトキシナトリウム(0.92g),およびトルエン(30ml)の溶液に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.083g),トリ-tert-ブチルフォスフィン(0.16g),およびトルエン(5ml)を窒素雰囲気下,60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて,100℃で4時間攪拌した。放冷後,不溶物を濾別し,濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル=20:1)で精製することにより,目的物15(1.18g)を得た。
DEI-MS(m/z=660(M^(+)))により目的物15であることを確認した。」

イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した引用文献1の記載(特に前記ア(ウ)の記載)から,目的物15の製造方法についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(便宜上,目的物12を得る工程を「第1工程」と,目的物14を得る工程を「第2工程」と,目的物12と目的物14とから目的物15を得る構成を「第3工程」と表現した。)

「有機電界発光素子用の正孔輸送材料として用いられる下記構造式(1)で表される目的物15の製造方法であって,
窒素気流中,トルエン(200ml)に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.16g)とビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.145g)を加えて室温で10分間攪拌し,さらに下記構造式(2)で表される目的物11(8.01g),アニリン(6.15g),及びtert-ブトキシナトリウム(2.31g)を加えて,100℃で6時間攪拌し,放冷後不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製することにより,下記構造式(3)で表される目的物12(6.40g)を得る第1工程と,
窒素気流中,ジメチルスルホキシド(50ml)に粉砕した水酸化カリウム(8.98g)を加え,m-ブロモフェノール(6.92g)を加えて30分間攪拌後,下記構造式(4)で表される目的物13(12.33g)を加えて室温で6時間攪拌し,析出物を濾取した後,濾液を塩化メチレンで抽出して油層を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=2:1)で精製することにより,下記構造式(5)で表される目的物14(11.4g)を得る第2工程と,
窒素気流中,前記目的物12(3.30g),前記目的物14(3.16g),tert-ブトキシナトリウム(0.92g),及びトルエン(30ml)の溶液に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.083g),トリ-tert-ブチルフォスフィン(0.16g),及びトルエン(5ml)を窒素雰囲気下,60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて,100℃で4時間攪拌し,放冷後,不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル=20:1)で精製することにより,目的物15(1.18g)を得る第3工程と,
を有する目的物15の製造方法。
[目的物15の構造式(1)]

[目的物11の構造式(2)]

[目的物12の構造式(3)]

[目的物13の構造式(4)]

[目的物14の構造式(5)]

」(以下,「引用発明」という。)

(2)周知の事項
ア 引用文献2の記載
引用文献2(特開2007-266201号公報)は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
「【0007】
即ち,本発明の構成は以下の通りである。
(1)下記式(1)で表される化合物を半導体材料として用いた電界効果トランジスタ。
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)中,X_(1)及びX_(2)はそれぞれ独立に酸素原子,硫黄原子又はセレン原子を,R_(1),R_(2)はそれぞれ独立に水素原子,置換されていても良い脂肪族アルキル基又は置換されていても良い芳香族基を,R_(3),R_(4)はそれぞれ独立に水素原子,置換されていても良い脂肪族アルキル基,置換されてもよい脂肪族アルコキシ基,置換されていても良い芳香族基又は置換されてもよい芳香族オキシ基をそれぞれ表す。)
・・・(中略)・・・
【0016】
式(1)で表されるジアミンの化合物は,公知の方法により合成することができる(特許文献3を参照)。例えば,下記scheme 1に示すように,スクシニルコハク酸ジエチルエステルとアミンとの反応物を空気酸化することなどにより,ジアミン化合物の合成が可能である(特許文献3及び非特許文献1を参照)。
【0017】
【化2】

【0018】
上記反応式において,前述したようにX_(1)及びX_(2)はそれぞれ独立に酸素原子,硫黄原子又はセレン原子を,R_(1),R_(2)はそれぞれ独立に水素原子,置換されていても良い脂肪族アルキル基又は置換されていても良い芳香族基を,R_(3),R_(4)はそれぞれ独立に水素原子,置換されていても良い脂肪族アルキル基,置換されてもよい脂肪族アルコキシ基,置換されていても良い芳香族基又は置換されてもよい芳香族オキシ基をそれぞれ表す。
又,式(1)で表される化合物の精製法としては,特に限定されず,それ自体公知のカラムグロマトグラフィーや再結晶等の手法が採用できる。又,より純度を上げるためには,真空昇華精製を行うことも可能である。」

イ 引用文献3の記載
引用文献3(特開平10-306228号公報)は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する周知事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,色素の高純度精製方法及び精製色素を使用する色素気化型熱記録方法(画像情報に応じた選択的加熱により,熱記録ヘッドから色素を昇華あるいは気化により飛翔せしめ,対向する印画紙に記録する画像記録方法)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年ハードコピーのカラー化に対するニーズが急速に高まっており,電子写真,インクジェット,溶融型感熱転写,色素熱転写(昇華型感熱転写)などの記録技術が検討されている。・・・(中略)・・・
【0004】・・・(中略)・・・上記のように,画質,ランニングコスト,装置コスト,記録速度などの要求を全て満足する記録技術は現在存在しない。これらの問題点を解決する新たな熱記録方法が提案されている・・・(中略)・・・即ち,これらの方法は気化性(昇華性)色素,あるいは気化性色素を含む記録液を,直接加熱することにより色素を気化(昇華)させ,気化した色素を飛翔させて印画紙に導き記録を行う方法である。この熱記録方式では加熱手段への記録エネルギーに応じて,色素の気化量を制御することができるため,濃度階調が可能となり,インクシートを使用する従来の色素熱転写記録方式と同様の高画質のカラー記録が可能となり,しかもインクシートを使用しないので,インクジェット方式と同様の低ランニングコストが実現できる。
【0005】しかし,これらの方法では色素を直接加熱して気化させるために,色素に対する熱のストレスが非常に大きく,従来の色素では記録中に熱分解が生じ,安定した記録を実施することが困難であった。従って,色素の耐熱性の向上が重要な課題である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,上記の新熱記録方式用の色素として適した優れた熱安定性を有する,高度に精製された色素を得る色素の精製方法及びその色素を使用する上記新熱記録方法を提供することにある。」

(イ) 「【0008】
・・・(中略)・・・本発明において,気化精製とは,固相状態の不純物を含む色素原料を,その原料の状態によって,液相状態を経由するかあるいは経由することなく気相状態にし,再び固相状態に戻すこと,即ち,擬昇華精製及び昇華精製のいずれも含むものである。以下,これらを総称して気化精製という。
【0009】
【発明の実施形態】気化精製は高温での加熱下に実施されるが,加熱温度としては色素の気化温度以上で,分解点以下に抑えて実施する必要がある。分解点より通常5?200℃低め,好ましくは20?200℃低めとする。また,色素の分解を防ぎ加熱温度を低くするため及び色素の昇華速度を促進するために,減圧下で実施するのが有効である。通常,圧力条件としては,0.0001?500torr,好ましくは0.01?50torr,特に好ましくは0.01?20torrである。更に後述するように,色素の熱分解抑制剤の存在下で精製することが有効である。また,キャリアーガスとしては,色素と反応性を有さない窒素,アルゴン,ヘリウム等を流通させることもできる。
【0010】図1は,本発明の色素の昇華精製において,一例として用いられるゴールドファーネス透明電気炉を有する自動加熱装置の要部構造を示す断面図である。1はゴールドファーネス透明電気炉,2はアルミナ繊維,3は原料色素を収容する試験管,4はグーチロート,5は石英管,6は原料色素,7は昇華精製色素,8及び8′は熱電対位置を表す。
【0011】本発明の気化精製に供される色素としては,メチン系色素,アゾメチン系色素,アゾ系色素,キノフタロン系色素,クマリン系色素,アントラキノン系色素,及び縮合多環系色素が挙げられる。これらの色素は良好な昇華性を有するために,非イオン性の構造であることが望ましい。色素気化型熱記録に用いる色素としては,通常,気化する温度として常圧400℃以下,好ましくは300℃以下,更に好ましくは100?300℃を有する。メチン系色素としては下記一般構造式(I)で表される色素が挙げられる。
【0012】
【化1】

【0013】ここで,X^(1)及びY^(1)はX^(1)(Y^(1))CH_(2)で表される活性メチレン化合物の残基を表し,X^(1)及びY^(1)は,それぞれ,シアノ基,-COZ^(2)または-SO_(2)Z^(3)(Z^(2)及びZ^(3)としては,それぞれ,-R^(1),-OR^(2),-NR^(3)R^(4),または5?6員環のヘテロ環基を表し,R^(1)?R^(4)は,それぞれ,水素原子,置換もしくは非置換のアルキル基,置換もしくは非置換のアリール基,5?6員環のヘテロ環基,または5?6員環のシクロアルキル基を表す。)を表すか,またはX^(1)とY^(1)とが一緒になって5?6員環の炭素環もしくはヘテロ環を形成してもよく,これらの環は他の環と縮合していてもよい。具体的には下記一般式(II)?(VII)のものが挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0032】本発明で使用される色素の熱分解抑制剤としては,色素物性に影響を与えない限り制限はなく,酸化防止剤,光安定剤,ゴムの老化防止剤等から選ぶことが出来る。特に,本発明に係わる色素の熱分解抑制に有効な物質は,酸化防止剤としては,それぞれ第2表,第3表及び第4表に示したフェノール系化合物,リン酸系化合物,硫黄系化合物等が挙げられる。その他の酸化防止剤としては,ビタミンC,ビタミンE等の天然の酸化防止剤や食品衛生法により食品への添加が許されている合成酸化防止剤であるジブチルオキシトルエン,ブチルオキシアニソール,プロトカテチュ酸エチル,没食子酸イソアミル,没食子酸プロピル,グアヤク脂,ノルジヒドログアイアレチン酸等が挙げられる。光安定剤として知られている化合物としては,第5表に示したヒンダードアミン系化合物が挙げられる。またゴム用老化防止剤として知られている化合物としては,第6表に示されるジフェニルアミン系化合物その他が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0042】
【表15】



(ウ) 「【0048】[実施例1]・・・(中略)・・・
【0050】上記の方法で得た色素1gを内径2cm,長さ20cmのガラス製試験管の底部に入れ,試料の上部にアルミナ繊維の薄膜を詰めた。その試験管を図1に示すように,ゴールドファーネス透明電気炉1を有する自動加熱装置(株式会社サーモ理工製)の石英管5内に入れ,試験管の出口にグーチロート4を被せ原料色素(試料)6をセットした。石英管を油回転真空ポンプ及び油拡散ポンプに接続し,排気をし,7×10^(-4)Torrの減圧とし,170℃で3時間加熱し,気化精製を実施した。・・・(中略)・・・
【0056】[実施例3]1-イソブチルアミノ-4-ブロモアントラキノン7.2g,アニリン56g,酢酸ソーダ3.3g及び硫酸銅0.1gを仕込み,155?160℃で1時間撹拌下,反応した。室温まで冷却後,メタノール100ml及び濃塩酸50mlを添加し,30分間撹拌後,析出した結晶を濾過し,メタノール及び水で洗浄後乾燥し,下記構造式で示される色素(融点130℃,分解温度362℃)を5.5g得た。
【0057】
【化12】

【0058】上記の方法で得た色素1gを実施例1と同様の方法で精製を実施した。但し加熱温度は180℃とした。その結果,精製された色素が試験管の出口部分の器壁に青色の結晶として析出した。試験管の底部には,黒色の非気化性の残渣が少量残った。また,試験管の出口に付けたグーチロートには,低温気化性成分と目的の色素の混合体が薄く器壁に付着した。試験管の出口部分に析出した色素の量は0.90gであり,純度は高速液体クロマトグラフィーでの分析の結果99.9%以上であった。試験管の底部に残った残渣は0.09gであり,この残渣中には色素は全く残存していなかった。また,グーチロートに付着した成分は0.01gであり,この成分中に色素は50%含まれていた。
【0059】上記の方法で精製した色素1gを上記と同様の方法で再気化精製を実施したところ,試験管の底部に残渣は全く残らなかった。試験管の出口部分からは0.99g,グーチロートの器壁からは0.01gの色素が回収されたが,それぞれの純度は99.9%以上であった。上記の方法で精製された純度99.9%以上の色素及び未精製の色素(純度95.9%)をそれぞれ1μg,アルミニウム製容器(容量:40μl)に封入し,示差走査熱量計セイコーDSC20(セイコーインスツルメント(株)製)で,200℃で2時間加熱した後,色素の分解率を調べた。その結果,精製色素は全く分解が無かったが,未精製の色素は10%の色素が分解していた。上記の試験結果より,精製した色素は加熱後の残渣を含有しないため,及び熱安定性の向上により加熱記録時の色素の分解が抑制されるため,前記の新熱記録方式に適用した場合,良好な記録ができる特性を有している。」

ウ 引用文献2及び3の記載から把握される周知の技術事項
前記ア及びイで摘記した引用文献2及び3の記載から,次の技術事項が,本願の出願前に周知であったと認められる。

「昇華温度程度の加熱によって何らかの化学反応を起こすような基を有していない二級アミン化合物が,昇華精製により精製することが可能なこと。」(以下,「周知事項」という。)


6 当審拒絶理由についての判断
(1)対比
ア 引用発明の「構造式(3)で表される目的物12」は,「目的物15」の前駆体である。
しかるに,引用発明の「目的物12」は「N-H」を有しているところ,第3工程において,当該「N-H」のHが,架橋基を有するフェニル基で置換されるから,当該「N-H」は「水素結合性部位」といえる。
したがって,引用発明の「構造式(3)で表される目的物12」は,本件発明の「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体」に相当する。

イ 引用発明の第1工程では,合成された目的物12を「不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製する」という方法を用いて精製しているところ,当該目的物12に対する精製方法と,本件発明の前駆体に対する「昇華」とは,「精製」である点で共通する。

ウ 引用発明は,第3工程において,目的物12の「N-H」のHを,架橋性基(3-メチルオキセタン)を有するフェニル基で置換させ,目的物15を得ているところ,前記架橋性基(3-メチルオキセタン)は本件発明の「重合性基」に相当するから,前記第3工程を,前駆体である目的物12の「N-H」へ重合性基を導入する工程ということができる。
したがって,引用発明は,本件発明の「前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入する」との要件に相当する工程を有している。

エ 引用発明の「有機電界発光素子の正孔輸送材料」は,本件発明の「有機電界発光素子用材料」に相当する。

オ 前記3(2)で述べた事項に照らせば,引用発明の「構造式(3)で表される目的物12」は,本件発明の「一般式(A1)」において,一方のQをフェニル基とし,他方のQを4-(ジフェニルアミノ)フェニル基で置換されたフェニル基とした化合物に該当する。
したがって,引用発明の「構造式(3)で表される目的物12」は,本件発明の「一般式(A1)で表される化合物である」との「前駆体」に係る要件を満足する。

カ 前記アないしオに照らせば,本件発明と引用発明は,
「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体を精製して,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入する有機電界発光素子用材料の製造方法であって,
前記前駆体が下記一般式(A1)で表される化合物である,有機電界発光素子用材料の製造方法。
【化1】

(一般式(A1)中,Qはそれぞれ独立に,縮環していてもよい6員の芳香族炭化水素環,又は縮環していてもよい6員の芳香族ヘテロ環を表す。)」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点:
本件発明は,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体」の精製を,「昇華」により行うのに対して,
引用発明は,「構造式(3)で表される目的物12」の精製を,「不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製する」という方法により行っており,昇華精製は行っていない点。

(2)相違点の判断
引用文献1の【0091】には,化合物の精製方法として,各種クロマトグラフィーとともに「昇華(常圧昇華,減圧昇華)」が挙げられている(前記5(1)ア(イ)を参照。)。
ここで,前記5(2)ウで認定したように,「昇華温度程度の加熱によって何らかの化学反応を起こすような基を有していない二級アミン化合物が,昇華精製により精製することが可能なこと。」(周知事項)が本件出願の出願前に周知であったと認められるところ,引用発明の「目的物12」は,「昇華温度程度の加熱によって何らかの化学反応を起こすような基」を有していないから,当該「目的物12」に対して昇華精製を行うことが可能であることは,前記周知事項に基づいて,当業者が容易に把握できることである。
そうすると,引用発明の第1工程において,「目的物12」に対して「不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製する」という方法に代えて,あるいは,当該方法に加えて,「昇華精製」を含む方法により精製すること,すなわち,引用発明を,相違点に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献1の【0091】の記載及び周知事項に基づいて,当業者が容易になし得たことというほかない。

(3)請求人の主張について
ア 審判請求書において,請求人は,
「引用文献3の段落[0011]には,『本発明の気化精製に供される色素としては,メチン系色素,アゾメチン系色素,アゾ系色素,キノフタロン系色素,クマリン系色素,アントラキノン系色素,及び縮合多環系色素が挙げられる。これらの色素は良好な昇華性を有するために,非イオン性の構造であることが望ましい。』ことが記載されています。引用文献1の目的物12は,ここに記載されるいずれの色素にも該当しません。したがって,この記載を読んだ当業者は,引用文献1の目的物12に対して昇華精製を試みることを動機付けられることはありません。むしろ,良好な昇華性を有する色素に該当しないことが明白であることから,目的物12の昇華精製を試みないのが自然です。」
などと主張する。
しかしながら,請求人が指摘する引用文献3の【0011】(前記5(2)イ(イ)を参照。)の記載は,【0004】(前記5(2)イ(ア)を参照。)に記載された「熱記録方法」に用いられる色素のうち,気化精製に適した色素を例示したにすぎないのであって,当該記載から,当業者は,これら例示された色素に該当しない色素は,概して昇華精製に適していないと理解するとしても,色素ではない引用発明の目的物12のような二級アミン化合物が昇華精製に適していないと理解することはないから,当該請求人の主張は採用できない。

イ また,審判請求書において,請求人は,
「引用文献3の段落[0009]には,引用文献3の色素の昇華精製を『色素の熱分解抑制剤の存在下で精製することが有効である。』ことが記載されています。そして,その熱分解抑制剤として段落[0032]には『ジフェニルアミン系化合物』が挙げられています。さらに,そのジフェニルアミン系化合物の具体例として,段落[0042]には下記の構造を有する化合物が挙げられています。
【化7】

一見して明らかなように,上記の構造は,引用文献1に記載される目的物12の構造と酷似しています。したがって,引用文献3を見た当業者は,引用文献1に記載される目的物12は,色素の昇華精製時に存在させる熱分解抑制剤として有用な化合物であると認識します。熱分解抑制剤は,色素の昇華精製時に自らが昇華してしまうものであっては意味がありません。このため,色素に対する過酷な昇華精製条件下において安定に存在して,昇華しにくいものであることが必須となります。したがって,熱分解抑制剤は相当に過酷な条件でないと昇華しないものであり,昇華精製には適さないものであることが容易にうかがえます。よって,引用文献3を見た当業者は,引用文献1に記載される目的物12を昇華精製することは積極的に回避し,カラムクロマトグラフィーのような温和な条件下での精製を選択します。」
などとも主張する。
確かに,請求人が指摘する引用文献3の【0032】(前記5(2)イ(イ)を参照。)には,色素の熱分解抑制剤として,ゴム用老化防止剤を用いることができることが記載されるとともに,当該ゴム用老化防止剤としてジフェニルアミン系化合物が挙げられており,【0042】(前記5(2)イ(イ)を参照。)の【表15】の「第6表 老化防止剤」には,当該ゴム用老化防止剤として,請求人が指摘するジフェニルアミン系化合物(以下,便宜上「例示ジフェニルアミン系化合物」という。)が示されているが,当該引用文献3の記載から理解されるのは,せいぜいのところ,熱分解抑制剤の昇華温度を色素の昇華温度よりも高くする必要があることから,「例示ジフェニルアミン系化合物」の昇華温度が,引用文献3に記載された色素の昇華温度と比べて,概ね高いと考えられるといった程度のことであって,「例示ジフェニルアミン系化合物」自体が昇華精製に適さない物質であると当業者が理解することはない。
しかるに,前記(2)で述べたように,引用発明の「目的物12」が,「昇華温度程度の加熱によって何らかの化学反応を起こすような基」を有しておらず,昇華精製が可能な物質であることは,前記5(2)ウで認定した周知事項に基づいて,当業者が容易に把握できることである。
したがって,当該請求人の主張も採用できない。

ウ さらに,審判請求書において,請求人は,
「NHを有する化合物であれば,どんな構造や分子量や化学的特徴を有するものであって昇華精製に適している訳ではないことは,技術常識となっております。NHを有する化合物であっても,昇華精製に適している化合物と昇華精製に適していない化合物が存在することが当業者の共通認識となっている以上,『有機電界発光素子用材料』から遠い技術分野のNH化合物が精製されていることがたまたま記載されている引用文献3が存在することをもって,『有機電界発光素子用材料』の前駆体を含むすべてのNH化合物が昇華精製に適していると断言することは到底できません。」
などとも主張する。
しかしながら,引用発明の「目的物12」が昇華精製が可能な物質であることが,当業者が容易に把握できることであることは,前記(2)で述べたとおりであるし,また,拒絶査定の備考欄において指摘されているように,「有機電界発光素子用材料」の技術分野において精製方法として昇華精製を採用することは,周知であったと認められる(周知例:特表2005-519429号公報(拒絶査定における引用文献4)の【0042】,特表2007-506237号公報(拒絶査定における引用文献5)の【0070】)から,引用発明において昇華精製を採用することに,技術分野上の困難性が存在するとも認められない。
したがって,当該請求人の主張も採用できない。

(4)効果について
本件発明の効果は,引用文献1の記載及び周知事項に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,引用文献1に記載された発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


7 むすび
本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-28 
結審通知日 2017-12-05 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2015-112086(P2015-112086)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 宮澤 浩
清水 康司
発明の名称 有機電界発光素子用材料、該有機電界発光素子用材料を含む組成物、並びに、該組成物により形成された膜、及び有機電界発光素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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