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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1340025
審判番号 不服2016-14074  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-20 
確定日 2018-05-07 
事件の表示 特願2011-249143「塩基反応性成分を含む組成物およびフォトリソグラフィーのための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日出願公開、特開2012-113302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年11月14日の外国語書面出願(パリ条約による優先権主張 2010年11月15日 米国)であって、平成24年1月13日に翻訳文提出書が提出され、平成27年6月11日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書の提出とともに誤訳訂正がなされ、平成28年5月12日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年9月20日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成29年8月3日付けで拒絶理由を通知し、その応答期間中の同年11月7日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。

2 本件発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年11月7日付け手続補正の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
a)(i)1種以上の樹脂
(ii)光活性成分、および
(iii)前記1種以上の樹脂とは異なり、かつ(A)1以上の塩基反応性基および(B)1以上の塩基反応性基に加えて、これとは異なる1以上の酸基を含み、前記酸基がカルボン酸基およびスルホン酸基から選択され、前記(A)1以上の塩基反応性基および(B)1以上の酸基が同じ樹脂繰り返し単位に存在する1種以上の材料
を含み、前記1種以上の材料(iii)が光酸不安定基を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し、並びに
b)適用されたフォトレジスト層を前記フォトレジスト組成物を活性化する放射線に液浸露光することを含む、フォトレジスト組成物を処理する方法。
【請求項2】
適用中に前記(iii)1種以上の材料がフォトレジスト組成物層の上部に向かって移動する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(iii)1種以上の材料が水性アルカリ現像剤と反応してヒドロキシ、カルボキシもしくはスルホン酸基を提供する基を含み、および/または前記(iii)1種以上の材料が1以上のフッ素基もしくはフッ素置換基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(iii)1種以上の材料が樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
露光されたフォトレジスト層を水性アルカリ現像剤で現像し、それにより前記1以上の塩基反応性基が結合破壊反応を受けて1以上の極性基を生じさせることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
現像前のフォトレジスト層が40°を超える水後退接触角を有し、かつ現像後のフォトレジスト層が30°未満の水後退接触角を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記(iii)1種以上の材料が、1以上のニトロ基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記(iii)1種以上の材料が、1以上のスルホノ基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記(iii)1種以上の材料が、1以上のスルホキシド基を含む、請求項1に記載の方法。」(以下、まとめて「本件発明」という。)

3 当審の拒絶理由
当審において平成29年8月3日付けで通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

理由1.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2.(委任省令要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由3.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の請求項1?10の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由4.(新規性)本件出願の請求項1,3?6,8?10に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由5.(進歩性)本件出願の請求項1?10に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2010-250075号公報

4 判断
サポート要件について検討する。
本件発明は、「(i)1種以上の樹脂(ii)光活性成分、および(iii)前記1種以上の樹脂とは異なり、かつ(A)1以上の塩基反応性基および(B)1以上の塩基反応性基に加えて、これとは異なる1以上の酸基を含み、前記酸基がカルボン酸基およびスルホン酸基から選択され、前記(A)1以上の塩基反応性基および(B)1以上の酸基が同じ樹脂繰り返し単位に存在する1種以上の材料」を含むフォトレジスト組成物を基体上に適用し、液浸露光する、フォトレジスト組成物を処理する方法に関する発明である。
一方、本件出願の明細書の段落【0007】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「ブロブ欠陥のような欠陥が低減」されることとも受け取れるが、ブロブ欠陥をアルカリ現像液と反応する塩基反応性基を導入することにより解決することは、例えば、平成27年6月11日付けの拒絶理由通知において提示された特開2008-111103号公報の段落【0062】、特開2009-288771号公報の段落【0015】、特開2010-134012号公報の段落【0026】,【0027】に記載されているように、本件出願前において極めて周知な技術的事項に過ぎない。
そうすると、本件発明は、ブロブ欠陥のような欠陥が低減される効果が広く知られた塩基反応性基を有するフォトレジスト組成物において、さらに、塩基反応性基を有する樹脂繰り返し単位に「(B)1以上の塩基反応性基に加えて、これとは異なる1以上の酸基を含み、前記酸基がカルボン酸基およびスルホン酸基から選択され」るという要件を付加して、課題を解決しようとするものといえる。
しかしながら、塩基反応性基を有する樹脂繰り返し単位に、極性基として、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含めることにより、いかなる効果が生じるのかについて、本件出願の明細書には何も記載されていない。また、特定の酸基を含むことによる作用機序や実験例も何ら示されていない。明細書の段落【0010】には、「より具体的には、本発明のこの形態のある実施形態においては、好ましい塩基反応性材料は(i)1以上の塩基反応性基および(ii)1以上の酸基、例えば、1以上のカルボン酸(-COOH)基、1以上のスルホン酸(-SO_(3)H)基、もしくは他の酸基、または他の極性基、例えば、ヒドロキシ(-OH)、特にフルオロ以外のハロゲン、例えば、Br、ClもしくはI;シアノ;ニトロ;スルホノ;スルホキシド;などを含むことができる。塩基反応性材料がポリマーである場合には、好適には、塩基反応性部分および塩基反応性でないさらなる極性基が同じポリマー繰り返し単位に存在していてよく(例えば、両方の基は、重合されて塩基反応性樹脂を形成する単一のモノマーに存在しうる)、または塩基反応性部分および塩基反応性でないさらなる極性基が別々のポリマー繰り返し単位に存在していてもよい(例えば、別々の基は、重合されて樹脂を形成する別々のモノマーに存在しうる)。」と記載されるのみであり、酸基の作用や効果について何ら記載されていない。また、段落【0015】には、「理論に拘束されるものではないが、塩基反応性基の反応および現像工程中のより極性(親水性)の基の産生の結果として、フォトレジストレリーフ像のさらに親水性の表面を提供することにより、本発明のフォトレジストは欠陥の低減を示すことができると考えられる。より親水性の表面を提供することにより、現像およびその後の脱イオン化すすぎ工程の際のレジストレリーフ像上およびその周辺での水滴形成が低減されうる。水滴形成の低減はひいては、レジストフラグメントが水滴内に集められそして望まれない位置、例えば、現像の際に露出した基体領域に堆積されうるブロブ欠陥をはじめとする欠陥の発生の低減をもたらしうる。」と記載されている。当該記載は、塩基反応性基の反応および現像工程中のより極性(親水性)の基の産生の結果として、親水性の表面が提供されることの効果について記載したものであり、塩基反応性基の反応および現像工程中の極性の基の産生以前から存在する酸基の作用や効果を記載したものではない。さらに、段落【0083】?【0094】に実施例が開示されており、段落【0092】には製造されたフォトレジストの材料が記載されている。しかしながら、段落【0092】における「1.樹脂成分」は、モノマー成分として「メタクリル酸シアノ-ノルボルニル」を含むとされるが、メタクリル酸とノルボルニルがエステル結合にて結合されてモノマーを形成したものであるから、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を有していないことは明らかである。また、段落【0092】における「4.実質的に非混和性の添加剤」も、段落【0091】の記載によれば、「GMA-2233TFP」モノマーと「ECPMA」モノマーとから合成されるものであるから、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を有していない。さらに、段落【0094】に記載された樹脂も、モノマーがカルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を有しておらず、樹脂もカルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を有していないことは明らかである。そして、これらのフォトレジスト又は樹脂を用いた場合のブロブ欠陥の状態も示されていない。以上のとおり、本件明細書には、本件発明の要件を満たす実施例は開示されていない。
そして、液浸露光を行うにあたり、フォトレジスト組成物層表面の水後退接触角は比較的高くして撥水性を持たせ、現像の際には水後退接触角を比較的低くして液滴形成を低減させることが技術常識であるところ、材料が塩基反応性基とともに、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含有することにより、塩基反応性基の反応性にどのような影響を及ぼすかは、化学式からは予測のつかないことであり、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含まない材料と比べてブロブ欠陥が低減できるとする根拠を見いだせず、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含まない材料と同程度にブロブ欠陥を低減できるかどうかも明らかでない。さらには、材料がカルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含むことは液浸露光時に必要とされる撥水性を悪化させる恐れすらある。
したがって、本件発明は、いずれもその効果が確認されておらずまた推認もできないものであり、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含有しない実施例に基づいて、本件発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

5 請求人の意見
請求人は、平成29年11月7日付けの意見書において、以下のとおりの主張をしている。
「[5]理由3(サポート要件)について
補正後の本願請求項1は、1以上の塩基反応性基とは異なる極性基を1以上の酸基(カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される)に限定しています。
本願明細書には、「好ましい塩基反応性材料は(i)1以上の塩基反応性基および(ii)1以上の酸基、例えば、1以上のカルボン酸(-COOH)基、1以上のスルホン酸(-SO_(3)H)基、もしくは他の酸基、または他の極性基、例えば、ヒドロキシ(-OH)、特にフルオロ以外のハロゲン、例えば、Br、ClもしくはI;シアノ;ニトロ;スルホノ;スルホキシド;などを含むことができる。」と記載されています(段落0010)。
また、本願明細書には、フォトレジスト中に極性基が存在することにより、水滴形成が低減され、フォトレジストの欠陥を低減し得ることが記載されています(段落0010、段落0015等)。
したがって、補正後の本願請求項1?9に係る発明は、本願の発明の詳細な説明に記載したものであると思料します。」
しかしながら、請求人が言及する段落【0010】には、カルボン酸基およびスルホン酸基から選択される酸基を含むことができると記載されるのみであって、本件発明の課題をどのように解決するのかを明らかにしていない。また、段落【0015】には、塩基性反応基の反応および現像工程中のより極性の基の産生による効果が記載されているのであって、塩基性反応基の反応および現像工程における産生より前より存在する酸基の効果については何ら記載されていない。そして、液浸露光工程および現像工程において、これらの酸基が存在することの影響は、技術常識を勘案したとしても本件出願の明細書の記載から把握することはできないものであり、このような酸基を含む本件発明が課題を解決できるとする根拠を見いだせない。

6 むすび
以上のとおり、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項1号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-01 
結審通知日 2017-12-06 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2011-249143(P2011-249143)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔清水 裕勝  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
清水 康司
発明の名称 塩基反応性成分を含む組成物およびフォトリソグラフィーのための方法  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  

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