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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F17C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F17C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F17C
管理番号 1340047
異議申立番号 異議2016-701089  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-24 
確定日 2018-03-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5926464号発明「液化ガスで燃料タンクを充填する方法及び液化ガス燃料システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5926464号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第5926464号の請求項1、3ないし9、11に係る特許を維持する。 特許第5926464号の請求項2及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5926464号の請求項1-11に係る特許についての出願は、平成28年4月28日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年11月24日に特許異議申立人 金 帝憲より請求項1-11に対して特許異議の申立てがされ、平成29年1月12日付けで取消理由が通知され、同年4月14日に意見書の提出及び訂正請求がされ、これに対して平成29年4月24日付けで訂正拒絶理由が通知され、特許権者は同年6月14日に手続補正書及び意見書を提出し、同年7月21日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年9月20日付けで再度の取消理由通知(決定の予告)がされ、同年12月25日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年2月7日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年4月14日付けの訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。


2.訂正の適否
(1)訂正の内容
(訂正事項1) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項1の「液化ガスの燃料タンクを充填する方法であって」を、「船舶のガス動作式エンジンと接続する液化ガスの燃料タンクを充填する方法であって」に訂正することを請求する。(請求項1の記載を引用する請求項3?9及び11も同様に訂正する)
(訂正事項2) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項1の「前記タンクの前記圧力は、前記タンク内の前記液化ガスの前記表面より上の」を、「前記タンクの前記圧力は、前記第1段階の間、前記タンク内の前記液化ガスの前記表面より上の」に訂正することを請求する。(請求項1の記載を引用する請求項3?9及び11も同様に訂正する)
(訂正事項3) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項1の「前記充填手順の所定の状態において、前記充填手順の第2段階が開始され」を、「前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる前記タンクの所定の充填レベルである前記充填手順の所定の状態において、前記充填手順の前記第2段階が開始され」に訂正することを請求する。(請求項1の記載を引用する請求項3?9及び11も同様に訂正する)
(訂正事項4) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を削除することを請求する。
(訂正事項5) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項3の「前記充填手順の所定の段階の後」を、「前記充填手順の前記所定の状態の後」に訂正することを請求する。(請求項3の記載を引用する請求項11も同様に訂正する)
(訂正事項6) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項3の「船舶のエンジンの」を、「前記船舶の前記エンジンの」に訂正することを請求する。(請求項3の記載を引用する請求項11も同様に訂正する)
(訂正事項7) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(訂正事項8) 特許権者は、特許請求の範囲の請求項11の「請求項1乃至10」を、「請求項1、3乃至9」に訂正することを請求する。

以上纏めると、以下の特許請求の範囲への訂正を請求するものである。(下線は訂正箇所を示すもので、特許権者が付加したもの)
「【請求項1】
船舶のガス動作式エンジンと接続する液化ガスの燃料タンクを充填する方法であって、前記液化ガスは、前記タンク内の前記液化ガスの表面より下の前記タンクの下方セクションに前記ガスが導入されるように前記液化ガスが前記タンクにもたらされ、充填手順の第1段階の間、前記ガスが前記タンクの前記下方セクションに導入される一方、前記タンクの圧力は所定の設定圧力より下に維持され、
前記タンクの前記圧力は、前記第1段階の間、前記タンク内の前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの上方セクションのガススペースへの前記液化ガスの噴霧によって所定の設定圧力より下に維持され、前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる前記タンクの所定の充填レベルである前記充填手順の所定の状態において、前記充填手順の前記第2段階が開始され、前記充填手順の前記第2段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧は、減少され且つ前記タンクの前記圧力は上昇するようにされ、前記充填手順の前記第2段階は、前記タンクの所定の充填段階に達するまで実行される、ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記充填手順の前記所定の状態の後、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの前記噴霧の制御は、第2の所定の設定圧力が、前記船舶の前記エンジンの必要とされるガス供給圧力に対応する前記制御に設定されるように、実行される。
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記充填手順の前記第1段階の間に前記タンクにもたらされる前記ガスの一部は、前記タンクの前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される前記ガスの一部は、前記タンクに導入される前記ガスの一定部分であるように設定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧速度は、前記タンクの実際のガス圧力が前記充填手順の前記所定の状態まで減少傾向を有するように、制御される、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
充填プロセスの間、前記タンクの前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される前記液化ガスは、前記タンクの前記下方セクションから再循環される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧速度は、前記タンクの実際のガス圧力と前記所定の設定圧力との間の差に基づいて制御される、
請求項1又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧の速度は、完全に停止される、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
ガス動作式エンジンのための液化ガス燃料システムであって:
- 少なくとも1つのガス動作式エンジンと接続している燃料タンクと、
- そこに液化ガスの外部ソースが一時的に接続され得る入口コネクタを有する燃料ラインであって、
- 前記燃料ラインは少なくとも2つの分岐を有し、その第1の一方は前記タンクに延びるとともに前記タンクの底部の近傍にその出口を有し、第2の分岐は複数の噴霧ノズルを備えるその出口を有して前記タンクに延びる、燃料ラインと、
- 制御ユニット、を有し、
前記制御ユニットは、請求項1、3乃至9のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成される、ことを特徴とする、
システム。」

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、「液化ガスの燃料タンク」の使用用途について訂正前は特段特定がなされず任意とされていたものを、「船舶のガス動作エンジンと接続する」とした事項を追加することにより特定するものであって、その根拠は【0025】及び図1の図示にあるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2は「タンク」の「圧力」に関して、「所定の設定圧力より下に維持され」る旨の発明特定事項に対して、当該維持される期間を「前記第1段階の間」であることを追加するものであるが、訂正前であっても当該維持される期間が第1段階であることは他の記載から明らかであったと認められるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3は「前記充填手順の第2段階が開始され」る条件として、訂正前では「前記充填手順の所定の状態」とされており、特許異議の申し立て理由及び取消理由通知(決定の予告)でも取消理由2とされた記載を、明瞭でない記載の釈明を目的として「前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる前記充填手順の所定の状態」と訂正したものである。そして、「所定の状態」が「前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる」ことは、当初明細書ないし図面の、【0013】、【0031】、【0032】、【0039】、【図2】の記載ないし図示から自明であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項4及び7は、請求項の削除を目的としたものであることが明らかであり、また新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5は、訂正前の「前記充填手順の所定の段階の後」を、「前記充填手順の所定の状態の後」へ変更するものであって、訂正前では液化ガスの噴霧が、第1段階にも第2段階にも行われていることから見ると、「所定の段階」との記載が、第1段階なのか第2段階なのかが直ちに明確とならない誤記であったものを、「所定の状態」へ変更する結果、第2段階の液化ガス噴霧を特定するものであることを明らかとするものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。また、変更に係る事項の真偽は、明細書の【0039】の「所定の状態Cの後」及び図2の図示に基づくものであるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項6は、訂正前の「船舶のエンジンの」との記載に対し、「船舶」及び「エンジン」が指す対象として、既に記載済みの「船舶」及び「エンジン」であることを明らかにすべく、それぞれに「前記」を付したものであって、その根拠は【0031】、【0025】、及び図1の図示にあるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項8は、請求項2及び10の削除に伴い引用元の請求項の番号の一部を除くものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正前の請求項1?11は、請求項2?11が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(3)小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1ないし8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1-11について訂正を認める。


3.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
上記1.に示した平成29年1月12日付けで通知した取消理由、及び同年9月20日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、各々大略以下のとおりである。
【1月12日付け取消理由】
(取消理由1)本件の請求項1-9、11に係る特許は、甲第1号証-甲第4号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(取消理由2)本件の請求項1、10、及び請求項1、10を引用する請求項2-9及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(取消理由3)本件の請求項1-11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

なお、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は存在しない。

【9月20日付け取消理由(決定の予告)】
本件発明1-9、11は、方法発明中の第2段階開始条件が特許請求の範囲の記載からは明確でなく(上記「取消理由2」)、加えて本件発明1-9、11に関し、明細書の発明の詳細な説明にも十分な記載がないため、発明を実施することができない(上記「取消理由3」)不備がある。
したがって、本件発明1-9、11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項10に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項10に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

(2)訂正後の請求項1-11に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1-11に係る発明(以下、各々「本件発明1」等という。)は、上記2.(1)訂正の内容において示したとおりのものである。

(3)取消理由1-3に対する検討
事案に鑑み、取消理由2から検討する。
ア 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
当該取消理由で指摘した具体的な箇所は、次の2点である。
a.請求項1の「充填手順の第2段階が開始される」とする「前記充填手順の所定の状態」との事項が指す状態を不明とするもの
b.請求項10の「所定の状態」に対して付された「第2段階の継続時間が最小化されるように、定められる」との事項を不明とするもの
上記a.及びb.のうち、b.については訂正により請求項10が削除となったため、当該記載の不備は消滅している。
そこで、残るa.について検討する。
平成29年12月25日付け訂正請求では、当該a.に係る請求項1の「充填手順の第2段階が開始される」とする「前記充填手順の所定の状態」との事項は、上記「2.訂正の適否」の「(1)訂正の内容」の「(訂正事項3)」に示す以下の記載に訂正された。
「前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる前記タンクの所定の充填レベルである前記充填手順の所定の状態において、前記充填手順の前記第2段階が開始され」
当該訂正により、請求項1及びこれを引用する訂正後の請求項3-9、11は、訂正前に不明確であるとされた「所定」が指す内容として、「前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる」様に定められたとする事項が追加された。
要するに、「第2段階」が「開始」される「状態」とは、訂正により不定とはされず、充填手順の第1段階が、充填の間に液化ガスの噴霧を伴うことによりタンク内圧力が設定圧力より下に維持されることと、充填手順の第2段階では液化ガスの噴霧が減少され且つタンクの圧力が上昇するようにされることが特定されている以上、最終の圧力目標値が訂正により船舶のガス動作式エンジンによって必要とされるレベルになるとした訂正事項3の追加された事項により定まれば、計算等の手法により充填手順の第2段階を開始すべき状態が定まる関係が成立することが、上記訂正事項3に係る訂正により明らかとなったと認められる。
よって、取消理由2は、本訂正により解消された。

なお、特許異議申立人は、平成30年2月7日提出の意見書にて、当該取消理由2について意見を述べており(意見書の「3 意見の内容」の(1))、技術的意義が訂正されても依然として不明である旨の主張を行っているが、特許異議申立人が示す技術的意義は、上記した「要するに・・・開始すべき状態が定まる関係が成立する」という点で第三者が技術的に理解できないとはいえず、依然として不明であるとはいえない。

イ 取消理由3(特許法第36条第4項第1号)について
平成29年1月12日付け取消理由及び同年9月20日付け取消理由(決定の予告)で指摘した具体的な点は、請求項1に記載した「所定の状態」に関し、発明の詳細な説明に具体的な条件ないし方法を説明した箇所が無いこと、特許権者が平成29年6月14日に提出した意見書の「(7)理由3について」にて、所定の状態に関し、所定の充填段階に近づいた状態であることが明細書の【0032】、【0031】から明らかなので明確かつ十分に記載されている旨の主張を検討してもなお、当該状態の指す内容について具体的に示していないとし、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとしたものである。
当該不備は、本訂正により「所定の状態」に対して充填の最終目標レベルが特定されたことにより発明の詳細な説明で記載された事項との対応関係が明らかになったため、もはや本件発明の実施に際し不十分とされる状態ではなくなったと認められる。
よって、取消理由3は、本訂正により解消された。

なお、当該取消理由3についても、特許異議申立人は前記意見書の「3 意見の内容」の(2)にて、上記アのなお書きに示した趣旨を示しつつ、「第2段階における液化ガスの噴霧量やガス充填量などをどのように制御するのかを示す記載はない。」との反論を行っているが、発明の詳細な説明の【0030】-【0033】及び【0039】並びに【図2】の図示を総合すれば、噴霧される液化ガスの減少を操作し、タンク内の圧力を上昇させる制御を実行することで充填完了時のタンク内圧力をある値まで制御可能であることと、最終のタンク内の目標レベルが船舶のガス動作式エンジンによって必要とされるレベルであることを明確に定めるとすれば、必然的に第2段階への切り替え状態が決まり得ることを当業者は十分に理解できると判断される。また、特許異議申立人が実施に際して液化ガスの噴霧量の具体値やガス充填量の具体値を必要とするとの主張については、対象とされるタンクの熱容量や全体の充填可能容量などの前提条件により液化ガス噴霧に要する制御量が左右される関係にあることが当業者であれば自明な技術要素になる事情が窺えることを勘案すると、特定の値を示すことが必ずしも全ての実施形態に有効である結果を生じるとは考えられず、特定値を示すことと、本件特許が実施可能要件を満足することとは、必要条件となる関係を有さないというべきである。よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 取消理由1(特許法第29条第2項)について
上記アの取消理由2に係る検討で示したように、本件発明1の「所定の状態」は本訂正により、第2段階として特定されている「液化ガスの噴霧」の「減少」が原因でもたらされる「圧力」の「上昇」度合いが、液化ガスの充填終了時点でちょうど「エンジンの必要とされるガス供給圧力」に到達するに足る状態を指すことが明らかとされた。
他方、取消理由通知(決定の予告)では、既に上述の本件発明1の認定を仮になしたとしても、取消理由1は成り立たない旨検討済みである。
そうすると、本訂正により本件発明1がすべて検討済みの取消理由1に対する説示どおりとされた以上、当該理由1を妥当とすべき事情は見いだせない。本件発明1を引用する他の請求項についても同様である。

なお、当該取消理由1についても、特許異議申立人は前記意見書の「3 意見の内容」の(3)にて意見を述べているが、「液化ガス充填作業において、タンク内圧力を背景技術のように充填作業完了後に目標圧(エンジン要求圧)にまで昇圧するか、周知の圧力制御手段を用いて充填作業中に目標圧(エンジン要求圧)にまで昇圧するかは設計事項である。」との主張は、主張中に「周知」とされた事項が、本件発明1で採用した手法のとおりであれば妥当であるとは考えられるものの、特許異議申立人が周知の事項として示した、甲第1号証の【0018】や、特表2009-541140号公報の【0007】には、単にエンジンが必要とするガス圧力の値に関する記載が示されるに留まり、当該記載内容は液化ガスの噴霧をタンク内圧力の上昇をもたらす程度に減少させる工程を示したものではないから、特許異議申立人が主張する理由によっては、本件発明1に到達することができない。よって、当該主張は採用できない。

エ 中結
以上のことから、本件発明1とされる方法は、訂正後の特許請求の範囲の記載から明確であって、発明の詳細な説明の記載等に基づいて当業者がその発明の実施を行うに明確かつ十分なものであると認められ、取消理由2ないし3は成り立たない。
また、本件発明1は、取消理由1によって取り消すことはできない。
さらに、本件発明1を引用する本件発明3-9及び11は、本件発明1の発明特定事項をすべて備える関係にあるから、同様にいずれの取消理由によっても取り消すことはできない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明1、3-9、11に係る特許は、いずれの取消理由によっても取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3-9、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2及び10に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2及び10に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のガス動作式エンジンと接続する液化ガスの燃料タンクを充填する方法であって、前記液化ガスは、前記タンク内の前記液化ガスの表面より下の前記タンクの下方セクションに前記ガスが導入されるように前記液化ガスが前記タンクにもたらされ、充填手順の第1段階の間、前記ガスが前記タンクの前記下方セクションに導入される一方、前記タンクの圧力は所定の設定圧力より下に維持され、
前記タンクの前記圧力は、前記第1段階の間、前記タンク内の前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの上方セクションのガススペースへの前記液化ガスの噴霧によって所定の設定圧力より下に維持され、前記充填手順の第2段階の最後にガス圧力が前記タンクに接続される前記エンジンによって必要とされるレベルになる前記タンクの所定の充填レベルである前記充填手順の所定の状態において、前記充填手順の前記第2段階が開始され、前記充填手順の前記第2段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧は、減少され且つ前記タンクの前記圧力は上昇するようにされ、前記充填手順の前記第2段階は、前記タンクの所定の充填段階に達するまで実行される、ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記充填手順の前記所定の状態の後、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの前記噴霧の制御は、第2の所定の設定圧力が、前記船舶の前記エンジンの必要とされるガス供給圧力に対応する前記制御に設定されるように、実行される。
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記充填手順の前記第1段階の間に前記タンクにもたらされる前記ガスの一部は、前記タンクの前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される前記ガスの一部は、前記タンクに導入される前記ガスの一定部分であるように設定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧速度は、前記タンクの実際のガス圧力が前記充填手順の前記所定の状態まで減少傾向を有するように、制御される、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
充填プロセスの間、前記タンクの前記液化ガスの前記表面より上の前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースに噴霧される前記液化ガスは、前記タンクの前記下方セクションから再循環される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧速度は、前記タンクの実際のガス圧力と前記所定の設定圧力との間の差に基づいて制御される、
請求項1又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2段階の間、前記タンクの前記上方セクションの前記ガススペースへの前記液化ガスの噴霧の速度は、完全に停止される、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
ガス動作式エンジンのための液化ガス燃料システムであって:
- 少なくとも1つのガス動作式エンジンと接続している燃料タンクと、
- そこに液化ガスの外部ソースが一時的に接続され得る入口コネクタを有する燃料ラインであって、
- 前記燃料ラインは少なくとも2つの分岐を有し、その第1の一方は前記タンクに延びるとともに前記タンクの底部の近傍にその出口を有し、第2の分岐は複数の噴霧ノズルを備えるその出口を有して前記タンクに延びる、燃料ラインと、
- 制御ユニット、を有し、
前記制御ユニットは、請求項1、3乃至9のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成される、ことを特徴とする、
システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-28 
出願番号 特願2015-547097(P2015-547097)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F17C)
P 1 651・ 537- YAA (F17C)
P 1 651・ 536- YAA (F17C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西 秀隆  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 中川 隆司
西村 泰英
登録日 2016-04-28 
登録番号 特許第5926464号(P5926464)
権利者 ワルトシラ フィンランド オサケユキチュア
発明の名称 液化ガスで燃料タンクを充填する方法及び液化ガス燃料システム  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 大貫 進介  

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