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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  H01M
管理番号 1340050
異議申立番号 異議2016-701046  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-11 
確定日 2018-03-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5914380号発明「電池用包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5914380号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。 特許第5914380号の請求項1ないし10、12ないし21に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5914380号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成25年2月18日に特許出願され、平成28年4月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月11日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年11月11日に特許異議申立人岡林茂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものであって、平成29年1月17日に取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月17日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、同年5月11日に訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年6月16日に特許権者から意見書が提出され、同年7月28日に申立人から意見書が提出され、さらに、同年10月5日に取消理由(決定の予告)(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、その指定期間内である同年12月12日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、平成30年1月19日に申立人から意見書が提出されたものである。

2 訂正の適否についての判断
平成29年3月17日になされた訂正請求は、その後、本件訂正請求がなされたため、取り下げられたものとみなせるから、以下、本件訂正請求による訂正について、検討する。
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の趣旨は、「特許第5914380号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?21について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正の請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は、変更された箇所を表すために当審が付与したものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、」とあるのを「前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記硬化剤は、多官能イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」とあるのを「前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5のうち請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項5を引用して新たな請求項12とする。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5のうち請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項5、12を引用して新たな請求項13とする。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5のうち請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項5、12、13を引用して新たな請求項14とする。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物から前記絶縁層を形成し、」を「前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)から前記絶縁層を形成し、」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項10を引用して新たな請求項15とする。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項10、15を引用して新たな請求項16とする。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16を引用して新たな請求項17とする。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項6を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17を引用して新たな請求項18とする。

サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項7を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17、18を引用して新たな請求項19とする。

シ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17、18、19を引用して新たな請求項20とする。

ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項10のうち請求項5を引用するものについて、独立形式に改めて、新たな請求項21とするとともに、「前記硬化剤は、多官能イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」とあるのを「前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
訂正事項1は、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」について、本件訂正後は、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「硬化剤」について、本件訂正後は、「多官能イソシアネート化合物」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項5のうち請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項5を引用して新たな請求項12とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項5のうち請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項5、12を引用して新たな請求項13とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項5
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項5のうち請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項5、12、13を引用して新たな請求項14とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ 訂正事項6
訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるとともに、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物」について、本件訂正後は、「樹脂組成物」が「硬化物」であることを特定するとともに、「樹脂組成物の硬化物」から「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

キ 訂正事項7
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項10を引用して新たな請求項15とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ク 訂正事項8
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項10、15を引用して新たな請求項16とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ケ 訂正事項9
訂正事項9は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16を引用して新たな請求項17とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

コ 訂正事項10
訂正事項10は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項6を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17を引用して新たな請求項18とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

サ 訂正事項11
訂正事項11は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項7を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17、18を引用して新たな請求項19とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

シ 訂正事項12
訂正事項12は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項8を引用するものについて、訂正後の請求項10、15、16、17、18、19を引用して新たな請求項20とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ス 訂正事項13
訂正事項13は、特許請求の範囲の請求項10のうち請求項5を引用するものについて、独立形式に改めて、新たな請求項21とするとともに、「硬化剤」について、本件訂正後は、「多官能イソシアネート化合物」を除くものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について
本件訂正前の請求項11は、特許異議の申立てがなされていないところ、訂正事項6は、請求項11が引用する請求項10を訂正するものであるが、本件訂正後の請求項11に係る発明は、特許を受けることができない理由が見当たらないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また、訂正事項1?5、7?13は、当該訂正事項に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの規定は適用されない。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?11は、本件訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって、記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1?11に対応する、本件訂正後の請求項1?21は一群の請求項であるといえるから、訂正事項1?13は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?21〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1?21に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明21」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?21に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料。
【請求項2】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項1または2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む、電池用包装材料。
【請求項6】
前記硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されている、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項8】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項1?7のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項9】
正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?8のいずれかに記載の電池用包装材料により封止されてなる、電池。
【請求項10】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料の製造方法。
【請求項11】
前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項5に記載の電池用包装材料。
【請求項13】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項5または12に記載の電池用包装材料。
【請求項14】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項5、12または13に記載の電池用包装材料。
【請求項15】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項10に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項16】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項10または15に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項17】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項10、15または16に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項18】
前記硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されている、請求項10、15、16または17に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項19】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項10、15、16、17または18に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項20】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項10、15、16、17、18または19に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項21】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む、電池用包装材料の製造方法。」

(2)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
<取消理由>
本件発明1?10は、その出願の日前の国際特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の国際特許出願の願書に最初に添付された明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、しかも、この出願の発明者がその出願前の国際特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が国際特許出願の出願人と同一でもないので、本件発明1?10に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

<国際特許出願> 国際出願番号PCT/JP2013/050466(以下、「先願国際出願」という。)(国際公開第2013/114934号(申立人が提出した「甲第1号証」))

なお、取消理由に対応する申立理由の証拠として、申立人は上記甲第1号証以外に下記の甲第2?4号証を提出している。
甲第2号証:特開2001-176467号公報
甲第3号証:特開2008-230198号公報
甲第4号証:特開2012-216364号公報
また、本件特許異議の申立ての理由は、取消理由において全て採用している。

(3)各甲号証の記載事項
ア 先願明細書等の記載
申立人が提出した甲第1号証に係る先願国際出願の国際出願日における明細書、請求の範囲及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した(以下、同じ。)。
ア-1 明細書の記載
「[0001]本発明は、例えば、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型のリチウムイオン二次電池等の二次電池のケースとして好適に用いられる包装材、或いは食品、医薬品の包装材として好適な包装材に関する。」
「[0014]本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、電解液の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することを防止できると共に、充放電の繰り返しによる発熱や包装材の膨張、収縮の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することも防止できる、層間のラミネート強度に優れた成形用包装材を提供すること、及び、このような層間のラミネート強度に優れた成形用包装材を生産性良く製造することのできる製造方法を提供することを目的とする。」
「[0039]本発明に係る成形用包装材1の一実施形態を図1に示す。この成形用包装材1は、例えば、上面が開口された略直方体形状等に成形されてリチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられるものである。
[0040]前記成形用包装材1は、金属箔層4の一方の面に第2接着剤層11を介して耐熱性樹脂層(外側層)2が積層一体化されると共に、前記金属箔層4の他方の面に第1接着剤層5を介してポリプロピレン層(内側層)3が積層一体化されてなる。
[0041]前記金属箔層4の少なくとも内側の面(ポリプロピレン層3側の面)4aに化成処理が施され、該金属箔層4の内側の化成処理面4aに第1接着剤層5が積層されている。
[0042]前記第1接着剤層5は、前記金属箔層4の内側の化成処理面4aに、少なくとも
(A)有機溶媒と、
(B)該有機溶媒に溶解され、130℃で測定したMFR(メルトフローレート)が5g/10分?42g/10分である、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、
(C)多官能イソシアネート化合物と、 を含有してなる第1接着剤を塗布することによって形成されたものである。」
「[0058]前記第1接着剤(処理液)を構成する有機溶媒(A成分)としては、接着剤組成物の加熱等により、揮発させ、除去することが容易な有機溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤、n-ヘキサン等の脂肪族系有機溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族系有機溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶媒等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0059]中でも、前記有機溶媒(A成分)としては、アルコール系有機溶媒(エタノール、イソプロピルアルコール等)を少なくとも含む構成であるのが好ましく、この場合には接着剤の貯蔵安定性を向上させることができる。さらに、前記有機溶媒の全量に対するアルコール系有機溶媒の含有比率は0.1質量%?20質量%に設定されるのが好ましく、中でも0.3質量%?10質量%に設定されるのが特に好ましい。
[0060]前記カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)としては、例えば、不飽和カルボン酸又は/及びその誘導体で変性されたポリオレフィン等が挙げられる。前記変性としては、グラフト付加変性などが挙げられる。
[0061]前記不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸等が挙げられる。これらのエチレン性不飽和カルボン酸は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
[0062]これらの中でも、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物でグラフト付加変性されたポリプロピレンを用いるのが好ましく、特に無水マレイン酸でグラフト付加変性されたポリプロピレンが好適である。」
「[0067]また、前記B成分の融点は、好ましくは50℃?90℃、より好ましくは60℃?85℃である。融点が前記好適範囲内であれば、高温下においても大きいラミネート強度を得ることができる。」
「[0070]前記多官能イソシアネート化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば、特に限定されず、芳香族系、脂肪族系、脂環族系の各種イソシアネート化合物、更には、これらのイソシアネート化合物の変性物を用いることができる。具体例としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、及びこれらの化合物をイソシアヌレート変性、ビュレット変性、トリメチロールプロパン等の多価アルコールでアダクト変性した変性物、イソシアネートをブロック剤でマスクして安定化したブロック型イソシアネート等が挙げられる。中でも、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物を用いるのが好ましい。前記多官能イソシアネート化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記第1接着剤(処理液)において、前記多官能イソシアネート化合物は、通常、有機溶媒に溶解している。
[0071]
前記第1接着剤(処理液)におけるカルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)と、多官能イソシアネート化合物との含有割合については、特に限定されないが、多官能イソシアネート化合物が有するイソシアネート基(NCO)と、ポリオレフィン樹脂(B成分、D成分)が有するカルボキシル基を構成するヒドロキシル基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.01?12.0であるのが好ましい。前記当量比(NCO/OH)が0.01?12.0であれば、特に初期の接着性に優れた第1接着剤組成物とすることができると共に、十分な架橋密度を有し、且つ柔軟性等に優れた硬化物(第1接着剤層)を形成することができる。中でも、前記当量比(NCO/OH)は、より好ましくは0.04?12.0、更に好ましくは0.1?12.0、特に好ましくは0.1?9.0である。なお、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂としてB成分のみを含有する場合には、当量比=(NCO)/(B成分のOH)であり、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂としてB成分及びD成分を含有する場合には、当量比=(NCO)/(B成分のOH+D成分のOH)である。」
「[0083]<原材料>
(合成例1)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J
メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体(MFR:10g/10分、融点:85℃;以下、「プロピレン系ランダム共重合体A」という)100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を、シリンダー部の最高温度を170℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応させた。その後、押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去して、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、130℃で測定したMFRが12g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂J)1g当たり0.4mmolであった。
[0084](合成例2)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂K
プロピレン系ランダム共重合体Aに代えて、メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体B(MFR:5g/10分)を用いた以外は、合成例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂K(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Kは、130℃で測定したMFRが8g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂K)1g当たり0.4mmolであった。
[0085](合成例3)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂L
プロピレン系ランダム共重合体Aに代えて、メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体C(MFR:36g/10分)を用いた以外は、合成例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂L(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Lは、130℃で測定したMFRが40g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂K)1g当たり0.4mmolであった。
[0086](合成例4)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂X
プロピレン系ランダム共重合体Aに代えて、メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体D(MFR:1g/10分)を用いた以外は、合成例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂X(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Xは、130℃で測定したMFRが3g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂X)1g当たり0.4mmolであった。
[0087](合成例5)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Y
プロピレン系ランダム共重合体Aに代えて、メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体E(MFR:42g/10分)を用いた以外は、合成例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Y(B成分)を合成した。このカルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Yは、130℃で測定したMFRが45g/10分であり、カルボキシル基の含有量は、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂(樹脂Y)1g当たり0.4mmolであった。
[0088](合成例6)カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂M
プロピレン重合体(融点:163℃)100質量部及びトルエン435質量部を撹拌機が付設された内容積1.5Lのオートクレーブに入れ、撹拌下、140℃に昇温し、プロピレン重合体を完全に溶解させた。この溶液を140℃に保ったまま、撹拌下、無水マレイン酸16質量部及びジクミルパーオキサイド1.5質量部を、それぞれ4時間かけて同時に滴下し、滴下終了後、更に140℃で1時間撹拌して、後反応を行い、変性重合体を得た。次いで、この変性重合体含有溶液を室温まで冷却し、溶液にアセトンを加えることによって変性重合体を析出させた。析出した変性重合体を繰り返しアセトンで洗浄した後、乾燥を行って、変性重合体を回収した。この変性重合体は、変性重合体における無水マレイン酸のグラフト量は2.8質量%であり、融点が156℃、カルボキシル基の含有量が変性重合体1g当たり0.6mmolであった。
[0089]次に、前記得られた変性重合体15質量部及びトルエン85質量部を、撹拌機付きオートクレーブに入れ、130℃に加熱して変性重合体を完全に溶解させた。その後、撹拌しながら25℃/時間の冷却速度で90℃まで降温した後、5℃/時間の冷却速度で60℃まで冷却した。次いで、20℃/時間の冷却速度で30℃まで降温して、固形分(カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂M)15質量%の乳白色の均一な分散液Pを得た。前記カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂M(D成分)の、DSCで測定した融点は156℃であった。
[0090](合成例7)カルボキシル基を含有しないポリプロピレン樹脂N
メタロセン触媒を重合触媒として用いて製造した、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体F(MFR:12g/10分)15質量部及びトルエン85質量部を、撹拌機付きオートクレーブに入れ、撹拌下、130℃に加熱して共重合体Fを完全に溶解させた。その後、撹拌しながら25℃/時間の冷却速度で90℃まで降温した後、5℃/時間の冷却速度で60℃まで冷却した。次いで、20℃/時間の冷却速度で30℃まで降温して、固形分(カルボキシル基を含有しないポリプロピレン樹脂N)15質量%の乳白色の均一な分散液Qを得た。
[0091]次に、実施例1?8及び比較例1?4について説明する。
[0092]<実施例1>
トルエン(有機溶媒;A成分)850g、130℃で測定したMFRが12g/10分である、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J(B成分)150g、HDI(多官能イソシアネート化合物;C成分)15gを配合してなる第1接着剤E(処理液)を作製した。前記第1接着剤Eの固形分含有率は15質量%である。また、前記第1接着剤Eにおいて、B成分(カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂)は、溶媒のトルエンに溶解している。
[0093]厚さ40μmのアルミニウム箔4の両面に、ポリアクリル酸、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、180℃で乾燥を行って、クロム付着量が10mg/m^(2)となるようにした後、このアルミニウム箔4の一方の面に厚さ25μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(二軸延伸ナイロンフィルム)(耐熱性樹脂層)2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、前記第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、200℃の熱風乾燥炉を通過させることによって、加熱による焼き付けを行って、固着量2g/m^(2)の第1接着剤層5を形成せしめて、積層体30を得、次いで、図2に示すように、押出機の押出ダイス20から押し出したプロピレン-エチレン共重合体樹脂(DSCで測定した融点が140℃、230℃で測定したMFRが21g/10分)3Xを40μmの厚さで前記第1接着剤層5の未積層面(何も積層されていない面)5aに押出ラミネート法により積層一体化することにより、図1に示す成形用包装材1を得た。」
ア-2 請求の範囲の記載
「[請求項1]外側層としての耐熱性樹脂層と、内側層としてのポリプロピレン層と、これら両層間に配設された金属箔層とを含む成形用包装材であって、
前記金属箔層の少なくとも内側の面に化成処理が施され、前記金属箔層の内側の化成処理面に接着剤層を介して前記ポリプロピレン層が積層され、
前記接着剤層は、前記金属箔層の内側の化成処理面に、少なくとも有機溶媒と、該有機溶媒に溶解され、130℃で測定したMFRが5g/10分?42g/10分である、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含有してなる接着剤を塗布することによって形成されたものであることを特徴とする成形用包装材。」
ア-3 図面の記載
「[図1]


ア-4 先願明細書等に記載された発明
(ア)上記ア-1の[0093]には、アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより、成形用包装材1を得たことが記載されている。
(イ)上記ア-1の[0092]には、第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであることが記載されている。
(ウ)上記ア-1の[0083]には、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100質量部、無水マレイン酸2質量部、ラウリルメタクリレート1質量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5質量部を混練して反応させて、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jを合成したことが記載されている。
(エ)上記ア-1の[0093]に記載された「成形用包装材1」は、上記ア-1の[0001]の記載からすると、リチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられるものである。
また、上記ア-1の[0001]の記載によれば、上記ア-1の[0093]に記載された「成形用包装材1」で包装されたリチウムイオンポリマー二次電池が記載されているといえる。
(オ)上記(ア)?(エ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる、成形用包装材1であって、
第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、
カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される、リチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1。」
(カ)また、同様に上記(ア)?(エ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる、成形用包装材1の製造方法であって、
第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、
カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される、リチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1の製造方法。」
(キ)さらに、上記(ア)?(オ)より、先願明細書等には、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。
「先願発明の成形用包装材1で包装されたリチウムイオンポリマー二次電池。」

イ 甲第2号証の記載
申立人が提出した甲第2号証には、次の記載がある。
イ-1 明細書の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、正極および負極と共に電解質を備えた電池素子が外装部材により覆われてなる電池に関する。」
「【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電池の平面構造を表すものであり、図2は、図1のII-II線に沿った断面構造を表すものである。この電池は、外装部材10と、外装部材10により覆われた電池素子20とを備えている。電池素子20は、例えば、正極21と負極22とが電解質23を介して積層されたものである。
【0013】外装部材10は、例えば、高分子化合物膜と金属膜と高分子化合物膜とをこの順に張り合わせたラミネートフィルムにより形成されている。この外装部材10は、端部が融着あるいは接着剤によりシールされて袋状となっており、後述する正極集電体層21aおよび負極集電体層22aが導出される集電体導出端部Eを有している。なお、高分子化合物膜の構成材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂,ナイロン(ポリアミド系の合成樹脂),酢酸ビニル系樹脂,アクリル樹脂あるいはエポキシ樹脂が挙げられる。また、金属膜は、外装部材10の内部に外気が侵入することを防止する機能を有することが好ましく、アルミニウム(Al)箔などが適当である。」
イ-2 図面の記載
「【図2】




ウ 甲第3号証の記載
申立人が提出した甲第3号証には、次の記載がある。
ウ-1 明細書の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料に関するものであり、特に耐内容物性に優れた包装材料に関するものである。」
「【0008】
本発明の包装材料は、バリア層、接着層およびシーラント層がこの順に積層されてなる包装材料である。」
「【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2?6のアルケンが好ましく、これらの混合物を用いてもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2?4のアルケンがより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましく、エチレンが最も好ましい。」
「【0018】
接着層に用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂は、バリア層やシーラント層との接着性が良好になる点から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1?30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1?20のアルコールとのエステル化物が好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、入手の容易さと接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸?」とは、「アクリル酸?またはメタクリル酸?」を意味する。)
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、接着性が向上する点から、0.1?20質量%であることが好ましく、3?15質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が0.1質量%未満の場合はアルミニウム箔やポリオレフィン樹脂系フィルムとの接着性が低下する傾向にあり、20質量%を超える場合は耐内容物性が低下する傾向がある。また、(メタ)アクリル酸エステル成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。」
「【0021】
接着層は、酸変性ポリオレフィン樹脂を架橋するための架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの含有量は耐内容物性を考慮し、適宜、決めればよい。」
「【0037】
本発明の包装材料は様々な内容物に対して良好な耐性を有していることから、特に、揮発性を有する内容物の包装材料として好適であり、中でも香り成分、香辛料成分、薬効成分を有する製品の包装材料として最適である。具体的には、芳香剤、香料、入浴剤、香辛料、湿布剤、医薬品、二次電池、トイレタリー製品、界面活性剤、シャンプー、リンス、洗剤、防虫剤、殺虫剤、消臭剤、育毛剤、食酢、歯磨き剤、化粧品の包装材料に好適に使用される。」

エ 甲第4号証の記載
申立人が提出した甲第4号証には、次の記載がある。
エ-1 明細書の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用外装体とその製造方法並びにその外装体を用いた電池に関する。」
「【0013】
本発明の電池用外装体は、厚み方向に順に、基材層、バリア層、接着層及びシーラント層をこの順に積層した構成を有する。」
「【0019】
本発明の電池用外装体は、接着層として、プロピレン成分を70質量%以上含有する酸変性ポリプロピレン樹脂を含む。プロピレン成分の含有量が70質量%未満になると、シーラント層との接着性が低下し、結果、外装体の耐電解液性が低下する。なお、本発明では、後述する酸成分以外の成分が全てプロピレン成分である純然たる酸変性ポリプロピレン樹脂は勿論のこと、プロピレン成分以外の成分を含んでいてもプロピレン成分の含有量が70質量%以上であれば、その樹脂も本発明にいう酸変性ポリプロピレン樹脂に包含する。」
「【0026】
また、接着層には、酸変性ポリプロピレン樹脂だけでなく架橋剤も含まれる必要がある。そして、本発明では、架橋剤としてオキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方、すなわち両化合物の一方又は両者を使用する必要がある。」
「【0032】
このように本発明では、架橋剤として、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方を用いるが、これらを含めた全ての架橋剤の含有量が前記した範囲内にあれば、他の架橋剤を併用してもよい。他の架橋剤としては、任意のものが使用できるが、実用上、イソシアネート化合物、アミノ樹脂(メラミン化合物、尿素化合物など)、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤などが好適である。中でも、架橋剤としてエポキシ化合物を使用する場合において、イソシアネート化合物及びアミノ樹脂の少なくとも一方を併用することが好ましい。これは、酸変性ポリプロピレン樹脂に含まれるカルボキシル基とエポキシ基との反応により生じる水酸基と、イソシアネート化合物及びアミノ樹脂の一方又は両者を反応させることで、より強固に架橋され、耐電解液性や耐漏液性が高まるからである。結果として、このように架橋された酸変性プロピレン樹脂を用いることで、基材(アルミ箔、プロピレンシーラント)との良好な密着性を維持し、耐電解液性、耐漏液性をより発現させることができる。」

4 対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比する。
(ア)先願発明の「アルミニウム箔4」、「二軸延伸ポリアミドフィルム2」、「第1接着剤層5」、「プロピレン-エチレン共重合体樹脂3X」、「リチウムイオンポリマー二次電池のケースとして用いられる成形用包装材1」は、それぞれ本件発明1の「金属層」、「基材層」、「絶縁層」、「シーラント層」、「電池用包装材料」に相当する。

(イ)先願発明の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」、「無水マレイン酸」、「ラウリルメタクリレート」、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」は、それぞれ本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂」、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物」、「(メタ)アクリル酸エステル」、「硬化剤」に相当する。

(ウ)先願発明の「アルミニウム箔4の一方の面に二軸延伸ポリアミドフィルム2を二液硬化型のウレタン系接着剤11でドライラミネートし、次いでアルミニウム箔4の他方の面4aに、第1接着剤E(処理液)をグラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめて積層体30を得、次いで、プロピレン-エチレン共重合体樹脂3Xを第1接着剤層5の未積層面5aに積層一体化することにより得られる」事項は、本件発明1の「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からな」る事項に相当する。

(エ)先願発明の「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体」は、本件発明1の「プロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である」「ポリプロピレン系樹脂」に含まれるものである。

(オ)先願発明の「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」としては、上記(3) ア ア-1の[0060]?[0062]の記載によれば、「無水マレイン酸でグラフト付加変性されたポリプロピレン」が特に好適とされている。
そうすると、先願発明の「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、グラフト付加変性されたものであるといえるから、先願発明の「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される」「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」は、本件発明1の「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂」に相当する。

(カ)先願発明の「第1接着剤E(処理液)」は、硬化剤である「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「配合してなるものであ」って、「グラビアロール法で塗布した後、加熱による焼き付けを行って、第1接着剤層5を形成せしめ」るものであるから、先願発明の「硬化物」に相当するものである。
そうすると、先願発明の「第1接着剤E(処理液)は、トルエン850g、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J150g、HDI(多官能イソシアネート化合物)15gを配合してなるものであり、カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂Jは、」「プロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される」事項は、本件発明1の「絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」である事項に相当する。

(キ)上記(ア)?(カ)より、本件発明1と先願発明とは、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料。」で共通し、次の相違点1で相違する。

(相違点1)
「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」について、本件発明1は、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」ものであるのに対し、先願発明は、このような硬化物も含むものである点。

(ク)以下、上記相違点1について検討する。
先願発明の「第1接着剤層5」は、「プロピレン単位97モル%及びエチレン単位3モル%からなるプロピレン-エチレンランダム共重合体100重量部、無水マレイン酸2重量部、ラウリルメタクリレート1重量部及びジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を混練して反応させて合成される」「カルボキシル基含有ポリプロピレン樹脂J」、「トルエン」、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「配合してなるもの」であるから、「無水マレイン酸」及び「ラウリルメタクリレート」で変性された「プロピレン-エチレンランダム共重合体」、並びに、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を含むものであり、これはすなわち、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物」である。
一方、本件発明1は、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」として、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」ものである。
したがって、本件発明1は先願発明と同一とはいえない。

イ 本件発明2?4について
請求項2?4は、請求項1を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記アで検討した理由と同様に、本件発明2?4は、先願発明と同一とはいえない。

ウ 本件発明5について
(ア)上記アの(ア)?(カ)を考慮しつつ、本件発明5と先願発明とを対比すると、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料。」である点で共通し、次の相違点2で相違する。

(相違点2)
「硬化剤」が、本件発明5は、「カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」ものであるのに対し、先願発明は、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」である点。

(イ)以下、上記相違点2について検討する。
先願明細書等の請求の範囲の請求項1の記載(上記3(3)ア ア-2参照。)によれば、「多官能イソシアネート化合物」は、先願明細書等に記載された「接着剤」に含まれる必須の成分であり、先願明細書等(上記3(3)ア ア-1の[0070]?[0071])には、「多官能イソシアネート化合物」以外の硬化剤を用いることは記載も示唆もされていない。
一方、電池の包装材料における、変性ポリプロピレン樹脂を含む接着層に含有する架橋剤(本件発明5の「硬化剤」に相当。)として、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物を用いることは、周知技術(上記3(3)ウ ウ-1の【0021】、【0037】、エ エ-1の【0001】、【0026】、【0032】参照。)であるから、先願発明において、イソシアネート化合物である「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種」とすることは、一見すると周知技術の転換にあたる。
しかしながら、先願明細書等には、「本発明は、・・・(略)・・・電解液の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することを防止できると共に、充放電の繰り返しによる発熱や包装材の膨張、収縮の影響を受けて層間ラミネート強度が低下することも防止できる、層間のラミネート強度に優れた成形用包装材を提供すること・・・(略)・・・を目的とする」(上記3(3)ア ア-1の[0014])と先願発明の解決しようとする課題が記載されており、上記のような周知技術が存在し、先願発明において、上記周知技術の転換をしたとしても、上記課題を解決し得るとまでいえない。
そうすると、先願発明において、イソシアネート化合物である「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種」とすることは、単なる周知技術の転換であるとはいえないから、本件発明5は先願発明と実質的に同一とはいえない。
なお、念のため、甲第3号証及び甲第4号証の記載について詳細に検討する。
甲第3号証に記載された「包装材料」は、「二次電池」以外の用途も多数示されており(上記3(3)ウ ウ-1の【0037】参照。)、先願発明の課題である、「電解液の影響を受けて層間ラミネート強度が低下すること」、及び、「充放電の繰り返しによる発熱や包装材の膨張、収縮の影響を受けて層間ラミネート強度が低下すること」まで考慮したものではないから、先願発明において、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」に代えて、甲第3号証に記載された「エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物」(上記3(3)ウ ウ-1の【0021】参照。)に転換した場合に、上記課題を解決し得るとまでいえない。
また、甲第4号証には、「架橋剤」について、「オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方を用いるが、・・・(略)・・・他の架橋剤を併用してもよい。他の架橋剤としては、任意のものが使用できるが、実用上、イソシアネート化合物・・・(略)・・・カルボジイミド化合物・・・(略)・・・などが好適である」(上記3(3)エ エ-1の【0032】参照。)と記載されており、「イソシアネート化合物」は、「オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方」と併用して用いるものであって、単独で用いるものではなく、したがって、架橋剤として、「イソシアネート化合物」と「オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方」とが、交換可能である等価なものということはできないから、甲第4号証は、先願発明において、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」に代えて、「オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物」とすることが、単なる周知技術の転換であるとの証拠とはなり得ない。

エ 本件発明6?8について
請求項6?8は、請求項1または5を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明6?8は、本件発明1または5の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記アまたはウで検討した理由と同様に、本件発明6?8は先願発明と同一とはいえない。

オ 本件発明9について
請求項9は、請求項1または5を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明9と先願発明2とを対比すると、少なくとも、上記アで示した相違点1、または、上記ウで示した相違点2と同様の相違点で相違する。
そうすると、上記アまたはウで検討した理由と同様の理由で、本件発明9は先願発明と同一とはいえない。

カ 本件発明10について
本件発明10と先願方法発明とを対比すると、両者は、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料の製造方法。」で共通し、下記の相違点3で相違する。

(相違点3)
「不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物」について、本件発明10は、「不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く」ものであるのに対し、先願方法発明は、このような硬化物も含むものである点。

上記相違点3は上記アで示した相違点1と同様の相違点であるから、上記アで検討した理由と同様の理由で、本件発明10は先願方法発明と同一とはいえない。

キ 本件発明11について
本件訂正前の請求項11に係る発明は、特許異議の申立てがなされていないので、本件発明11に係る特許の取り消しについての判断は行わない。

ク 本件発明12?14について
請求項12?14は、請求項5を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明12?14は、本件発明5の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記ウで検討した理由と同様に、上記相違点2において先願発明と相違するから、本件発明12?14は先願発明と同一とはいえない。

ケ 本件発明15?20について
請求項15?20は、請求項10を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明15?20は、本件発明10の発明特定事項を全て含み、さらに限定をしたものであるから、上記カで検討した理由と同様に、上記相違点3において先願方法発明と相違するから、本件発明15?20は先願方法発明と同一とはいえない。

コ 本件発明21について
本件発明21と先願方法発明とを対比すると、両者は、
「少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料の製造方法。」で共通し、下記の相違点4で相違する。

(相違点4)
「硬化剤」が、本件発明21は、「カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む」ものであるのに対し、先願方法発明は、「HDI(多官能イソシアネート化合物)」である点。

上記ウで検討した理由と同様の理由で、先願方法発明において、イソシアネート化合物である「HDI(多官能イソシアネート化合物)」を「カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種」とすることは、単なる周知技術の転換であるとはいえないから、本件発明21は先願方法発明と実質的に同一とはいえない。

4 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?10、12?21に係る特許を取り消すことはできない
また、他に本件請求項1?10、12?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料。
【請求項2】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項1または2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とがこの順に積層された積層体からなり、
前記絶縁層は、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物であり、
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む、電池用包装材料。
【請求項6】
前記硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されている、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項8】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項1?7のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項9】
正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?8のいずれかに記載の電池用包装材料により封止されてなる、電池。
【請求項10】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物(ただし、不飽和カルボン酸またはその酸無水物とラウリルメタクリレートとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、多官能イソシアネート化合物とを含む樹脂組成物の硬化物を除く)から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%である、電池用包装材料の製造方法。
【請求項11】
前記工程後に、前記積層体を前記シーラント層の融点以上の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項5に記載の電池用包装材料。
【請求項13】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項5または12に記載の電池用包装材料。
【請求項14】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項5、12または13に記載の電池用包装材料。
【請求項15】
前記変性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン及びプロピレン共重合体の少なくとも一方のプロピレン系樹脂が、前記不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性されたものである、請求項10に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項16】
前記絶縁層の厚みが、0.1μm?20μmである、請求項10または15に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項17】
前記変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、80モル%?100モル%である、請求項10、15または16に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項18】
前記硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されている、請求項10、15、16または17に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項19】
前記樹脂組成物において、前記硬化剤の含有量は、前記変性ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部?50質量部の範囲にある、請求項10、15、16、17または18に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項20】
前記金属層がアルミニウム箔により形成されている、請求項10、15、16、17、18または19に記載の電池用包装材料の製造方法。
【請求項21】
少なくとも、基材層と、金属層と、絶縁層と、シーラント層とをこの順に積層して積層体を得る工程を備え、
前記工程において、不飽和カルボン酸またはその酸無水物と(メタ)アクリル酸エステルとで変性された変性ポリプロピレン系樹脂と、硬化剤とを含む樹脂組成物の硬化物から前記絶縁層を形成し、
変性ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の割合が、50モル%?100モル%であり、
前記硬化剤は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む、電池用包装材料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-22 
出願番号 特願2013-29516(P2013-29516)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 赤樫 祐樹  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 千葉 輝久
土屋 知久
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5914380号(P5914380)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 電池用包装材料  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  
代理人 山田 威一郎  
代理人 松井 宏記  
代理人 立花 顕治  
代理人 山田 威一郎  
代理人 水谷 馨也  
代理人 立花 顕治  
代理人 松井 宏記  
代理人 田中 順也  

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