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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1340056 |
異議申立番号 | 異議2017-700013 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-06 |
確定日 | 2018-03-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5946574号発明「ポリウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5946574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5946574号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第5946574号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2015-165530号)は、平成27年8月25日に出願人サンユレック株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成28年6月10日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、平成28年7月6日に特許公報が発行されたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成29年1月6日付けで特許異議申立人安田愛美(以下「申立人」という。)により「特許第5946574号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。 3.以降の手続の経緯 以降の手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 4月14日付け 取消理由通知 平成29年 6月13日 意見書・訂正請求書 平成29年 6月19日付け 通知書(申立人あて) 平成29年 7月12日 意見書(申立人) 平成29年 9月29日付け 取消理由通知(決定の予告) 平成29年11月28日 意見書・訂正請求書 平成29年12月11日付け 通知書(申立人あて) 平成29年12月27日 意見書(申立人) (なお、上記平成29年6月13日付けの訂正請求は、平成29年11月28日付けの訂正請求がされたことによって、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。) 第2 申立人が主張する取消理由 申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第7号証を提示し、取消理由として、概略、以下の取消理由1及び2が存するとしている。 取消理由1:本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第6号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 取消理由2:本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし4は、いずれも、同各項に記載された事項の範囲まで、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載を拡張ないし一般化できるものではないから、本件特許の請求項1ないし4の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであって、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2015-131883号公報 甲第2号証:特開平3-124719号公報 甲第3号証:特開平3-68677号公報 甲第4号証:特開平10-7789号公報 甲第5号証:国際公開第2012/090863号 甲第6号証:「Coatings & Polymers-Product Overview」なるクローダジャパン株式会社が2015年1月に作成したものと解される技術資料(カタログ) 甲第7号証:特開平10-147624号公報 (以下、それぞれ「甲1」ないし「甲7」と略していう。) 第3 取消理由通知(決定の予告)の概要 上記平成29年9月29日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 「第5 当審の判断 当審は、 申立人が主張する取消理由1により、本件発明1ないし4についての特許は依然としていずれも取り消すべきもの、 と判断する。 ・・(中略)・・ 4.まとめ 以上のとおり、本件発明1ないし4は、いずれも甲1に記載された発明(及び甲2又は甲6に記載された技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明1ないし4は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」 第4 平成29年11月28日付けの訂正請求について 上記平成29年11月28日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。 1.訂正内容 本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物、可塑剤及び無機充填剤を含むポリウレタン樹脂組成物であって、前記水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み、ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?80:20であり、前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%であり、前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である、ポリウレタン樹脂組成物。」とあるのを、「水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物、可塑剤及び無機充填剤を含むポリウレタン樹脂組成物であって、前記水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み、ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50であり、前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%であり、前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であり、 前記ヒマシ油系ポリオールの含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100重量%に対して、1?30重量%であり、 前記ダイマー酸ポリオールは、下記(1)?(4)から選択される少なくとも1種である、 ポリウレタン樹脂組成物。 (1)ダイマー酸と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (2)ダイマー酸と、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレントリオール又は長鎖のポリオールとが反応してなるダイマー酸ポリオール (3)ダイマー酸及び他のポリカルボン酸の混合物と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (4)ダイマー酸とアルキレンオキシドとが反応してなるダイマー酸ポリオール」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、請求項1及び請求項2の記載を引用する請求項3、並びに、請求項3の記載を引用する請求項4についても同様に訂正する)。 2.検討 上記訂正事項1による訂正は、本件特許に係る請求項1及び同項を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし4について、水酸基含有化合物中のダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールの含有割合の範囲を実質的に減縮し、ヒマシ油系ポリオールの使用量の範囲を規定し、また、ダイマー酸ポリオールの種別につき(1)ないし(4)で示された範囲に規定することにより、もって特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 そして、上記訂正事項1による訂正は、上記のとおり、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の範囲を実質的に減縮したものであり、新たに付加された事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づくものであることが明らかであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであることが明らかであって、さらに、本件特許に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでないことも明らかである。 なお、本件訂正前の本件特許に係る請求項2ないし4は、いずれも請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件訂正後の請求項2ないし4についても同様であるから、本件訂正は、請求項1ないし4につき特許法第120条の5第4項に規定される「一群の請求項」ごとにされたものである。 してみると、本件訂正に係る上記訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第4項に規定する要件並びに同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件をも満たすものと認められる。 3.訂正請求に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを認める。 第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項 訂正後の本件特許に係る請求項1ないし4には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物、可塑剤及び無機充填剤を含むポリウレタン樹脂組成物であって、 前記水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み、 ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50であり、 前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%であり、 前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であり、 前記ヒマシ油系ポリオールの含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100重量%に対して、1?30重量%であり、 前記ダイマー酸ポリオールは、下記(1)?(4)から選択される少なくとも1種である、 ポリウレタン樹脂組成物。 (1)ダイマー酸と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (2)ダイマー酸と、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレントリオール又は長鎖のポリオールとが反応してなるダイマー酸ポリオール (3)ダイマー酸及び他のポリカルボン酸の混合物と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (4)ダイマー酸とアルキレンオキシドとが反応してなるダイマー酸ポリオール 【請求項2】 電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。 【請求項4】 請求項3に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。」 (以下、上記訂正後の請求項1ないし4に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。) 第6 当審の判断 当審は、 当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1及び2につきいずれも理由がないから、本件発明1ないし4についての特許は取り消すべきものとはいえない、 と判断する。 以下、事案に鑑み、取消理由2、取消理由1の順で詳述する。 I.取消理由2について 取消理由2に係る申立人の主張につきまず整理すると、本件発明の所期の効果である伸び率(柔軟性)、相溶性、硬度、耐湿性及び難燃性などの物性は、水酸基含有化合物の構造により大きく変化することが当業者の技術常識であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に実施例に係る記載を検討すると、特定の「ダイマー酸ポリオール(A1)」と特定の「ヒマシ油系ポリオール(A2)」との組合せのみであり、請求項1に記載された多様な化合物を包含する「ダイマー酸ポリオール」と多様な化合物を包含する「ヒマシ油系ポリオール」との組合せからなる発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないから、いわゆるサポート要件を満たさないというものであると認められる。 そこで、上記申立人が主張する点につき検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0010】及び【0013】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「優れた伸び率(柔軟性)を示し、かつ優れた相溶性、硬度、耐湿性及び難燃性を示すポリウレタン樹脂組成物」の提供にあるものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に実施例(比較例)に係る記載(【0117】【表1】)からみて、水酸基含有化合物として、特定の「ダイマー酸ポリオール(A1)」を単独で使用した場合(「実施例1」)又は特定の「ダイマー酸ポリオール(A1)」と特定の「ヒマシ油系ポリオール(A2)」との組合せを使用した場合(「実施例2」ないし「実施例7」)につき、その他の条件を具備しているならば、特定のポリブタジエンポリオール(R-15HT)を単独で使用する場合(「比較例1」)、特定のポリブタジエンポリオール(R-15HT)と特定の「ヒマシ油系ポリオール(A2)」との組合せを使用した場合(「比較例2」)又は特定の「ヒマシ油系ポリオール(A2)」を単独で使用する場合(「比較例4」)に比して、難燃性を保持しつつ、硬度、相溶性、耐湿性及び伸び率(柔軟性)のいずれも優れるという効果が得られることが看取できるものと認められる。 また、本件特許明細書及び申立人が提示した各甲号証の記載を検討しても、上記特定の「ダイマー酸ポリオール(A1)」以外のダイマー酸ポリオール又は特定の「ヒマシ油系ポリオール(A2)」以外のヒマシ油系ポリオールを使用した場合に、本件発明に係る解決課題を解決できるような上記所期の効果を奏さないであろうと認識できるような技術事項につき記載ないし示唆されておらず、ほかに当該他のポリオールを使用した場合に上記所期の効果を奏さないであろうと認識すべき当業者の技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に記載された事項で特定される発明、すなわち本件発明1が、本件発明に係る解決課題を解決できるような上記所期の効果を奏するであろうと当業者が認識することができるように記載したものということができる。 したがって、請求項1に記載された事項で特定される発明、すなわち本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきものであって、請求項1を引用して記載された請求項2ないし4についても同様であるから、申立人が主張する上記取消理由2は理由がない。 (よって、当審は、上記取消理由2につき通知しなかった。) II.取消理由1について この取消理由1は、上記2回の取消理由通知において当審も通知したものであり、併せて再度検討を行う。 1.甲号証に記載された事項及び記載された発明 以下、上記取消理由1につき検討するにあたり、当該取消理由は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし6に記載された事項を確認・摘示する(甲7は取消理由2に係る参考資料であるから摘示しない。)とともに、甲1に記載された発明の認定を行う。(なお、各摘示における下線は当審が付したものである。) (1)甲1 ア.甲1に記載された事項 甲1には、以下の(a1)ないし(a6)の事項が記載されている。 (a1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物および金属水酸化物(C)を含有するポリウレタン樹脂組成物(X)であって、 前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)およびひまし油系ポリオール(B)を含有し、 前記金属水酸化物(C)が、ポリウレタン樹脂組成物(X)100質量部に対して、55質量部?80質量部含有し、 前記ひまし油系ポリオール(B)および前記金属水酸化物(C)の質量比が(B):(C)=1:5?1:10であるポリウレタン樹脂組成物。 【請求項2】 前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)を含有する請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 電気電子部品用であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。」 (a2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリウレタン樹脂組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、電子回路基板や電子部品は、外部からの汚染を防ぐためにポリウレタン樹脂等を用いて封止することが行われている(特許文献1)。近年、電子部品などの長寿命化に伴って、長期にわたって湿熱下で使用されることから、優れた耐湿熱性を有することも求められている。 【0003】 このような点に鑑み、本発明者らは、変圧器のケース内部のような密閉かつ高温環境下でも熱的耐久性に優れるポリブタジエンポリオール、ひまし油系ポリオールおよびポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を含有するポリウレタン樹脂組成物について開示してきた(特許文献2)。 【0004】 一方、封止材の周辺部品には樹脂ケースが使用される場合がある。この場合に、電子基板等の筐体(きょうたい)やケース材に対して、ケミカルストレスクラックが発生しないことが求められるが、これまでに開示されていたポリウレタン樹脂組成物ではケミカルストレスクラックの生じにくさが、十分でない場合があった。ケミカルストレスクラックとは、樹脂ケースの引張強度以下の引張応力で発生する、典型的な脆性破壊をいい、成形品において、引張応力発生箇所(荷重がかかっている箇所)に薬品が付着・接触した場合等に、時間経過を伴って薬品と応力との相乗作用にて割れ(クレーズ、クラック)が起る現象である。 ・・(中略)・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、かつ樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン樹脂組成物として特定の構造のポリオールおよびイソシアネート基含有化合物、特定量の金属水酸化物を用いることにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。 ・・(中略)・・ 【発明の効果】 【0011】 本発明のポリウレタン樹脂組成物を用いることにより、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、かつ樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂を得ることかできる。」 (a3) 「【0014】 本発明に用いる水酸基含有化合物は、ポリブタジエンポリオール(A)およびひまし油系ポリオール(B)を含有する。前記ポリブタジエンポリオール(A)と前記ひまし油系ポリオール(B)の2種類のポリオール化合物を含有していることから、ポリウレタン樹脂組成物の混合時の相溶性が優れる。 ・・(中略)・・ 【0016】 ポリブタジエンポリオール(A)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して3?25質量%であることが好ましく、5?20質量%であることがより好ましい。ポリブタジエンポリオール(A)の配合量が上記範囲より少ないと、耐湿熱性、電気絶縁性が低下する傾向があり、上記範囲より多いとポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。 ・・(中略)・・ 【0019】 ひまし油系ポリオール(B)の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して3?25質量%であることが好ましく、5?20質量%であることがより好ましい。ひまし油系ポリオール(B)の配合量が上記範囲より少ないと、ポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度が高くなり、作業性が低下する傾向があり、上記範囲より多いと耐湿熱性が低下する傾向がある。」 (a4) 「【0025】 本発明に用いるイソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物の変性体を含有することが好ましく、イソシアヌレート変性体(D)および/またはポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有することがさらに好ましい。イソシアネート基含有化合物がポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)を含有することにより、ポリウレタン樹脂の熱的耐久性が優れたものとなる。その理由は明らかではないが、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体の加水分解抑制効果によるものと推察できる。また、イソシアネート基含有化合物には、他のポリイソシアネート化合物(E)を含めることが出来る。他のイソシアネート化合物としては、イソシアヌレート変性体以外であれば特に限定されることなく、ビウレット変性体、アダクト変性体、二官能変性体、単量体等が挙げられる。 【0026】 ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物および芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。 【0027】 脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどが挙げられる。 ・・(中略)・・ 芳香族ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0031】 ポリイソシアネート化合物としては、反応性、耐久性、粘度および作業性の観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物が好ましく、脂肪族ポリイソシアネート化合物がより好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートが最も好ましい。」 (a5) 「【0035】 なお、本発明に用いるポリオール成分には、本発明の効果を損なわない程度に、ポリブタジエンポリオール(A)およびひまし油系ポリオール(B)以外のポリオールを配合することができる。このようなポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオールの水素化物およびポリイソプレンポリオールの水素化物などが挙げられる。」 (a6) 「【実施例】 【0041】 以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のポリウレタン樹脂組成物および本発明のポリウレタン樹脂用原料組成物について詳細に説明する。なお、本明細書中に於ける「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。 【0042】 実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。 (ポリブタジエンポリオール(A)) A1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-15HT、出光興産社製) A2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール (商品名:Poly bd R-45HT、出光興産社製) (ひまし油系ポリオール(B)) B1: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:URIC Y-403、伊藤製油社製) B2: ひまし油 (商品名:ひまし油、伊藤製油社製) B3: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (官能基数 1価) (商品名:URIC H-31、伊藤製油社製) B4: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル (商品名:URIC Y-406、伊藤製油社製) B5: ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル(官能基数 1価) (商品名:HS1-160、豊国製油社製) (金属水酸化物(C)) C1:水酸化アルミニウム (商品名:水酸化アルミC-305、住友化学社製) C2:水酸化マグネシウム (タテホ化学工業社製) (ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)) D1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体 (商品名:デュラネートTLA-100、旭化成ケミカルズ社製) (他のポリイソシアネート化合物(E)) E1:ヘキサメチレンジイソシアネートの2官能型変性体 (商品名:デュラネートD201、旭化成ケミカルズ社製) E2:ヘキサメチレンジイソシアネートの2官能型変性体 (商品名:デュラネートA-201H、旭化成ケミカルズ社製) (可塑剤) ジイソノニルフタレート (商品名:サンソサイザーDINP、新日本理化社製) <実施例1?13及び比較例1?5> 表1および表2に示す配合により、各実施例及び各比較例のポリウレタン樹脂組成物を調製した。調製に際しては、表1に示す成分のうち、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)および他のポリイソシアネート化合物(E)を除く成分を混合機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて2000rpmで3分間混合した後、25℃に調整した。続いて、この混合物に25℃に調整したポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)および他のポリイソシアネート化合物(E)を加え、同上の混合機を用いて2000rpmで60秒間混合することにより、各実施例のポリウレタン樹脂組成物を得た。 ・・(中略)・・ 【0044】 【表1】 【0045】 【表2】 【0046】 なお、比較例2は、粘度が著しく高く、均質なウレタン樹脂を得ることが出来なかった。 【0047】 <評価結果> 実施例1?13から分かるように、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、混合粘度が使用可能な範囲であり、また、作業性、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性に優れ、樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいことが分かる。一方、比較例1のようにポリウレタン樹脂組成物(X)中の金属水酸化物(C)が少ない系では難燃性および耐ケミカルストレスクラック性、比較例2のようにポリウレタン樹脂組成物(X)中の金属水酸化物(C)が多い系では作業性が劣る。比較例3のように、ひまし油系ポリオール(B)に変えてフタル酸エステル系可塑剤を用いた系では、耐ケミカルストレスクラック性が著しく劣る。比較例4のように、ひまし油系ポリオール(B)および前記金属水酸化物(C)の質量比の金属水酸化物(C)の割合が低い系では耐湿熱性が劣り、比較例5のように、ひまし油系ポリオール(B)および前記金属水酸化物(C)の質量比の金属水酸化物(C)の割合が高い系では作業性が劣ることがわかる。」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)の記載事項(特に(a1)及び(a2)の下線部)からみて、甲1には、 「水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物および金属水酸化物(C)を含有するポリウレタン樹脂組成物(X)であって、 前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)、ひまし油系ポリオール(B)及び上記(A)又は(B)以外のポリオール化合物を含有し、 前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)を含有し、 前記金属水酸化物(C)が、ポリウレタン樹脂組成物(X)100質量部に対して、55質量部?80質量部含有し、 前記ひまし油系ポリオール(B)および前記金属水酸化物(C)の質量比が(B):(C)=1:5?1:10であるポリウレタン樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、 「電気電子部品封止用である甲1発明1のポリウレタン樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲1発明2」という。)及び 「甲1発明2のポリウレタン樹脂組成物で封止されてなる電気電子部品。」 に係る発明(以下「甲1発明3」という。)がそれぞれ記載されているものといえる。 (2)甲2に記載された事項 甲2には、以下の(b1)ないし(b5)の事項が記載されている。 (b1) 「2 特許請求の範囲 (1)下記一般式〔I〕で示される繰返し単位を有することを特徴とする数平均分子量3000以上のポリウレタン。 〔I〕 (ここでn、mは6?10の整数でありRは2価の炭化水素基である。) (2)下記一般式〔II〕で示されるジオールをポリイソシアネートと反応させることを特徴とするポリウレタンの製造方法。 〔II〕」 (第1頁左下欄第4行?右下欄第1行) (b2) 「〔産業上の利用分野〕 本発明は封止材、ポツティング材、コーテイング材、接着剤等として有用な飽和炭化水素骨格を有する新規なポリウレタン及びその製造方法に関する。 〔従来の技術〕 従来よりポリオール成分として飽和炭化水素系ポリオールを用いると耐熱性、耐水性、電気絶縁性等が良好なポリウレタンが得られることが知られている。そして飽和炭化水素系ポリオールとしてポリブタジェンポリオールないしポリイソプレンポリオールを水添したものが知られているが、これらは室温でワックス状であったり、液状であっても粘度が非常に高いので作業性が悪く、作業性改善のため溶媒や可塑剤を用いる必要があり、用途が制限されていた。また硬化速度の調整も困難であった。 〔発明が解決しようとする課題〕 本発明は飽和炭化水素骨格を有していても、作業性が良く、硬化速度の調整も容易に行なえる新規なポリウレタン及びその製造方法に関する。」 (第1頁右下欄第3行?第2頁左上欄第7行) (b3) 「本発明のポリウレタンはジオール成分として下記一般式〔II〕で示されるジオールを使用することによって得られる。 (式は省略) (ここでn、m:6?10の整数) ここで好ましくはn=m=8である。 このようなジオールは一般にダイマー酸と呼ばれるている二量体化脂肪酸を水添及び還元することにより得られる。市販されているダイマー酸は通常二量体化脂肪酸を主成分とし、他に原料の単量体酸や二量体と脂肪酸を含有するが、これを蒸留し、できる限り純度の高い二量体化脂肪酸を原料とすることが好ましい。そして残存する炭素炭素二重結合を水添し、カルボン酸を還元することにより容易に(II)式で示される構造の飽和炭化水素系ジオールを得ることができる。 ・・(中略)・・ (II)は室温で液状であり、粘度が25℃で2000?3000cp程度と低いため溶媒や可塑剤を用いなくても作業性が良好である。また一級のOH基を有するため反応性が高く、硬化速度の調整も容易である。 本発明ではポリオール成分として(II)単独もしくは他のポリオールと併用して用いることができる。併用するポリオールとしては、ポリウレタンの原料として一般に使われているものから適宜選ぶことができる。例を挙げればポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール類、ポリブチレンアジペートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリメチルバレロラクトンポリオール等のポリエステルポリオール類、ポリブタジエンポリオール等の不飽和炭化水素系ポリオール類、ヒマシ油系ポリオール類、(II)以外の飽和炭化水素系ポリオール類、シリコーン系ポリオール類等が挙げられる。ただしこれらの使用量は(II)の飽和炭化水素骨格に由来する優れた性質あるいは作業性等を損なわないためにはポリオール成分の内の50重量%以下、好ましくは30重量%以下とすることが必要である。」 (第2頁右上欄第2行?第3頁左上欄第4行) (b4) 「〔発明の効果] 以上のようにして得られる本発明のポリウレタンは、原料ポリオールが低粘度で作業性が良好なため、溶媒や可塑剤を用いる必要がなく、ポットライフ、硬化速度の調整が容易であり、また飽和炭化水素骨格を有するので優れた耐熱性、耐水性、電気絶縁性が期待できるので、電子部品の封止材を始めとする電気・電子工業向防振、防湿用ポッティング材、電線コイルの層間絶縁材、防水コーティング材、自動車工業で用いられる電子部品、電装品のポッティング材、防振材、建築用シーリング材、各種接着剤、コーティング材として使用でき工業上極めて有用である。」 (第3頁右下欄第19行?第4頁左上欄第11行) (b5) 「〔実施例〕 次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 実施例1 市販のダイマー酸水添還元ジオールKX-500(荒川化学工業(株)製、主として(V)の構造よりなるジオール、水酸基価202.9KOHmg/g)31.7gと2,4-トリレンジイソシアネート(以下、100TDIと略す)10.0gとをフラスコに秤り取り、フラスコ内を乾燥窒素で置換した後25℃で5分間撹拌混合した。この混合物の粘度を経時的に測定すると25℃で1時間後に10万センチポイズ(cp)に達した。すなわちKX-500と100-TDIを混合後1時間程度は十分作業可能であることがわかる。またこの混合物をビーカーに取り、100℃に加熱したところ1時間で流動性を失った。この後十分硬化を進ませたサンプルのIRチャートを第1図に示した。またこのものはGPC法で求めたポリスチレン換算の数平均分子量は16000であった。 実施例2 KX-500 19.1gとISONATE 143L(MD化成(株)製液状変性ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI))10.0gとをフラスコに秤り取り、フラスコ内を乾燥窒素で置換した後25℃で5分間撹拌混合した。この混合物の粘度を経時的に測定すると25℃で15分後に10万cpに達した。すなわちKX-500と100-TDIを混合後15分程度は十分作業可能であることがわかる。またJSR型キュラストメーターによりこの混合物のゲル化開始時間を測定すると100℃で6分であった。このもののIRチャートを第2図に示した。 また上記混合物を厚さ200μmのスペーサーを介して100℃、ゲージ圧100kg/cm^(2)の条件で1時間プレスし、フィルムを作製した。このフィルムから幅10mmの短冊サンプルを切り出し、テンシロン引張試験機により引張物性を測定したところ次のような結果が得られた。 (測定条件:23℃、チャック間20mm、引張速度100mm/min) 100%モジュラス 110kg/cm^(2) 破断強度 123kg/cm^(2) 破断伸び 160%」 (第4頁左上欄第12行?左下欄第16行) (3)甲3に記載された事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 (c1) 「本発明者等は、先に従来法の欠点をなくすべく研究の結果、(1)常圧における沸点が200℃以上、融点或いは軟化点が150℃以下である実質的に炭化水素からなる物質をポリウレタン原料中に混和し、特定通気度以下にするときは防水性のシーリング材となし得ること、(2)ポリオールとして特にポリジエン系ポリオール、ダイマ-酸系ポリオール、ヒマシ油系ポリオールの単独又はそれらの混合物を使用するときは防水性を向上し得られることを究明し得た。 これにより後処理によりアスファルト等の充填剤を必ずしも含浸させる欠点をなくし得、且つ優れた防水性のシーリング材を得ることに成功した。」 (第2頁右上欄第8行?第20行) (4)甲4に記載された事項 甲4には、以下の事項が記載されている。(なお、摘示において、いわゆる丸数字は表現できないので「○1」のように表現する。) (d1) 「【0002】 【従来の技術】従来、汎用のポリエーテルポリオールを用いて得られるポリウレタン樹脂では吸水寸法変化が少ないことが求められるシール材やロール材の分野においては、撥水性が不十分である。この問題を解決する方法として、○1パラフィン、ワックス、石油樹脂、ポリブテン等の疎水性物質をポリエーテルポリオールに混合し、有機ポリイソシアネートと反応したもの(たとえば特公昭59-37036号公報等);○2ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油、ダイマー酸変性ポリオール等の疎水骨格ポリオールと有機ポリイソシアネートとを反応させたもの(たとえば特公平2-55470号、特公平4-63912号公報);○3ポリオレフィンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等と有機ポリイソシアネートとを反応させたもの(たとえば特開昭63-27583号、特開平2-298574号公報);○4分子構造内にフッ素や珪素原子を有するポリオールと有機ポリイソシアネートとを反応させたもの(たとえば特開昭62-115020号、特開昭63-6025号、特開平2-258821号公報)などが知られている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記○1のポリウレタン樹脂は硬化後経時的に疎水性物質のブリードアウト現象が起きる;○2のポリウレタン樹脂は分子構造内に炭素-炭素二重結合を有するために耐候性が悪い;○3のポリウレタン樹脂は結晶性が高く硬くなる;○4のポリウレタン樹脂は材料コストが高く経済性に欠けるためにようとが制限される;という問題があった。」 (5)甲5に記載された事項 甲5には、以下の事項が記載されている。 (e1) 「[0035]本発明において中空糸膜モジュールの封止剤としては、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1つを使用することができる。封止剤は、121℃の飽和水蒸気と24時間接触させた後の引張り強度の低下率が25%以内であることが、蒸気滅菌に対して十分な耐久性を有するために必要である。引張り強度の低下率が20%以内であることがさらに好ましい。引張り強度の低下率は、封止剤に用いる樹脂を用いて試験片を作成し、該試験片を121℃の水蒸気で24時間処理し、当該処理前後の試験片の引張り強度をJIS K 6251(2004)に従って測定することにより求める。詳細は後述する。 [0036]連続発酵法による化学品の製造では、予め中空糸膜モジュールを蒸気滅菌してから使用する。121℃の飽和水蒸気と24時間接触させた後の引張り強度の低下率が25%より大きい封止剤を使用すると、蒸気滅菌時に封止剤が劣化して接着強度が弱まり、封止剤と筐体が剥離しやすく、剥離箇所から雑菌汚染が発生する可能性がある。 [0037]また蒸気滅菌時に封止剤と中空糸膜が剥離すると、剥離箇所から雑菌汚染が発生する可能性がある。本発明で使用するポリスルホン系樹脂からなる中空糸膜は、ポリウレタン樹脂およびエポキシ樹脂のいずれとも優れた接着性を示し、蒸気滅菌を長時間行っても剥離しにくい。 [0038]ポリウレタン樹脂は、イソシアネートとポリオールを反応させて得ることができる。イソシアネートの種類は、その反応物が十分な耐湿熱性を持つものであれば特に限定されないが、例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(ポリメリックMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種類以上併用しても良い。 [0039]ポリオールの種類は、その反応物が十分な耐湿熱性を持つものであれば特に限定されないが、例えばポリブタジエン系ポリオール、ダイマー酸変性ポリオール、エポキシ樹脂変性ポリオール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種類以上併用しても良い。また反応物の耐湿熱性を損なわない範囲であれば、例えば、ひまし油系ポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオールなど、その他の種類のポリオールを併用することもできる。 ・・(中略)・・ [0041]また封止剤にフィラーを添加することで反応による発熱を抑えて収縮応力を小さくし、反応物の亀裂発生や筐体からの剥離を発生しにくくし、さらに強度を向上させることもできる。 [0042]フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等が使用でき、シリカが好ましく用いられる。封止剤樹脂中のフィラーの添加量は、封止剤樹脂の1重量%?60重量%が好ましい。」 (6)甲6に記載された事項 甲6には、下記の事項が記載されており、申立人が申立書第8頁最下行?第9頁第11行で主張するとおり、「C36骨格を有するジオール(ダイマージオール)」が上市されていることが記載され、当該ジオールを使用することにより「ポリウレタンへのC36骨格導入」がされて「柔軟性・強靱性付与」、「接着性向上」及び「耐加水分解性付与」が図られることが記載されているものといえる。 「 」 「 」 2.本件発明1ないし4についての検討 上記本件発明1ないし4につき、それぞれ検討する。 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「水酸基含有化合物」、「イソシアネート基含有化合物」、「金属水酸化物(C)」及び「ポリウレタン樹脂組成物(X)」は、それぞれ、本件発明1における「水酸基含有化合物」、「ポリイソシアネート化合物」、「無機充填剤」及び「ポリウレタン樹脂組成物」に相当するものと認められ、甲1発明1における「前記金属水酸化物(C)が、ポリウレタン樹脂組成物(X)100質量部に対して、55質量部?80質量部含有し」は、本件発明1における「前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%であり」と、その重量比範囲の大部分において重複するものと認められる。 してみると、本件発明1と甲1発明1とは、 「水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物及び無機充填剤を含むポリウレタン樹脂組成物であって、 前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%である、 ポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。 相違点1:本件発明1では、ポリウレタン樹脂組成物が「可塑剤」を含むものであるのに対して、甲1発明1では、可塑剤の使用につき特定されていない点 相違点2:本件発明1では、「ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である」のに対して、甲1発明1では、「イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(D)を含有」する点 相違点3:本件発明1では、「水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み、ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50であ」るのに対して、甲1発明1では、「水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)、ひまし油系ポリオール(B)及び上記(A)又は(B)以外のポリオール化合物を含有」する点 相違点4:本件発明1では、「前記ヒマシ油系ポリオールの含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100重量%に対して、1?30重量%であ」るのに対して、甲1発明1では、「ひまし油系ポリオール(B)」のポリウレタン樹脂組成物に対する使用量比につき規定されておらず、「前記ひまし油系ポリオール(B)および前記金属水酸化物(C)の質量比が(B):(C)=1:5?1:10である」点 相違点5:本件発明1では、「前記ダイマー酸ポリオールは、下記(1)?(4)から選択される少なくとも1種である」及び「(1)ダイマー酸と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール(2)ダイマー酸と、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレントリオール又は長鎖のポリオールとが反応してなるダイマー酸ポリオール(3)ダイマー酸及び他のポリカルボン酸の混合物と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール(4)ダイマー酸とアルキレンオキシドとが反応してなるダイマー酸ポリオール」であるのに対して、甲1発明1では、「上記(A)又は(B)以外のポリオール化合物」であり、ダイマー酸ポリオールの種類及びその使用の有無につき特定されていない点 イ.検討 事案に鑑み、相違点3及び5につきまず検討する。 (ア)相違点3について 上記相違点3につき検討する。 (a)まず、「水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み」の点につき検討すると、甲2にも開示されているとおり、電気電子部品の封止材などの用途に使用する硬化性ウレタン樹脂組成物におけるポリオール化合物として、飽和炭化水素骨格を有する二量体化ジオール、いわゆるダイマージオールを単独で又は必要に応じてポリブタジエンポリオール、ヒマシ油系ポリオール類などの他のポリオール化合物と組み合わせて使用し、組成物の作業性などを改善することは、当業者に少なくとも公知の技術である。 また、甲6にも開示されているとおり、ダイマージオールを使用してポリウレタンを構成した場合、ポリウレタンの柔軟性・強靱性及び耐加水分解性などの物性が付与されることも、当業者に少なくとも公知の技術である。 してみると、甲1発明1において、硬化性ウレタン樹脂組成物の作業性及びその硬化後のウレタン樹脂組成物の柔軟性・強靱性及び耐加水分解性などの物性をさらに改善することを意図して、上記甲2及び甲6に開示された当業者に少なくとも公知の技術に基づき、甲1発明1における上記(A)又は(B)以外のポリオール化合物としてダイマージオールを使用することは、当業者が適宜なし得ることである。 (b)次に、「ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50であ」る点につき検討すると、甲1には、甲1発明1におけるポリウレタン樹脂組成物において、ひまし油系ポリオール(B)の使用量につき、ポリウレタン樹脂組成物に対して3?25質量%であることが好ましく、その範囲より少ないと作業性が低下し、その範囲より多いと耐湿熱性が低下することが開示されている(上記摘示(a2)参照)が、ひまし油系ポリオールとダイマー酸ポリオールとを併用する場合における量比については記載又は示唆されていない。 また、甲2には、ダイマージオールとポリブタジエンポリオール、ヒマシ油系ポリオール類などの他のポリオール化合物とを組み合わせて使用する場合において、作業性(の改善)等を損なわないために、他のポリオールの使用量を全ポリオール成分の50重量%以下とすべきことが開示されている(摘示(b1)参照)ものの、ダイマーポリオールとヒマシ油系ポリオールとを、上記量比で使用すべきことが記載又は示唆するものでもない。 してみると、甲1発明1において、上記甲2の知見を組み合わせたとしても、「重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50」とすることは、当業者が適宜なし得ることということはできない。 (c)したがって、上記相違点3は、当業者が適宜なし得ることではない。 (イ)相違点5について 上記(ア)の相違点3に係る検討でも示したとおり、甲2で開示されている「ダイマージオール」及び甲6で開示されている「C36骨格を有するジオール(ダイマージオール)」は、いずれもダイマー酸を直接水素添加・還元したジオール化合物であるところ、本件発明1において使用される(1)?(4)に該当するポリオールは、いずれもエステル結合を有するものであるから、化学構造を異にするものと認められる。 そして、甲1発明1において、「(A)又は(B)以外のポリオール化合物」として、ダイマージオール等のダイマー酸系ポリオールを使用することは当業者が適宜なし得ることであるのに対して、上記(1)?(4)に該当するポリオールのような特定のエステル結合を有するダイマー酸系ポリオールを使用することについてまで、直ちに当業者が適宜なし得ることとはいえない。 また、上記甲1ないし甲6の各甲号証の記載を検討しても、ダイマー酸系ポリオールの中から、上記(1)?(4)に該当するポリオールのような特定のエステル結合を有するダイマー酸系ポリオールを選択して使用することを動機付ける事項が存するものとは認められない。(なお、甲6には、「プリプラスト」なる商品名のC36含有ポリエステルポリオールにつき開示されているが、「C36骨格を有するジオール(ダイマージオール)」ではなく、当該エステル結合を有するダイマー酸ポリオールを特に選択して使用すべき事項までは開示されていない。) してみると、甲1発明1における「(A)又は(B)以外のポリオール化合物」として、上記(1)?(4)に該当するポリオールのような特定のエステル結合を有するダイマー酸系ポリオールを使用することは、当業者が適宜なし得ることとはいえない。 したがって、上記相違点5は、当業者が適宜なし得ることではない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、上記相違点3及び5の点につき、甲1発明1及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて当業者が想到できるものとはいえないから、その他の相違点につき検討するまでもなく、甲1発明1及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明1を引用する本件発明2及び3につき併せて検討する。 本件発明2及び3と甲1発明2とをそれぞれ対比すると、本件発明2では、「請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物」であり、本件発明3では、「請求項1・・に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材」であるのに対して、甲1発明2では、「甲1発明1のポリウレタン樹脂組成物」又は「電気電子部品封止用である甲1発明1のポリウレタン樹脂組成物」である点でのみ相違し、その余で一致する。 しかるに、本件発明2と甲1発明2との間において、本件発明2における「請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物」は、上記(1)で説示したとおり、甲1発明1及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明2についても、同様の理由により、甲1発明2及び甲2又は甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 また、本件発明3と甲1発明2との間において、本件発明3は、用途限定がされた樹脂組成物に係る甲1発明2の「電気電子部品封止用である・・ポリウレタン樹脂組成物」につき、用途発明に単に表現ぶりを変更することにより、「・・ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材」とされたものと認められるものの、本件発明3における「請求項1・・に記載のポリウレタン樹脂組成物」は、上記(1)で説示したとおり、甲1発明1及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明3についても、同様の理由により、甲1発明2及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (3)本件発明4について 本件発明3を引用する本件発明4につき検討する。 本件発明4と甲1発明3とを対比すると、本件発明4では、「請求項3に記載の封止材を用いて樹脂封止された」であるのに対して、甲1発明3では、「甲1発明2のポリウレタン樹脂組成物で封止されてなる」点でのみ相違し、その余で一致する。 しかるに、本件発明4における「請求項3に記載の封止材」、すなわち本件発明3は、上記(2)で説示したとおり、甲1発明2及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明4についても、同様の理由により、甲1発明3及び甲2ないし甲6に開示されている技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 3.取消理由1に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし4は、いずれも甲1に記載された発明(甲1発明1、甲1発明2及び甲1発明3)及び甲2ないし甲6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明1ないし4は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 よって、申立人が主張する取消理由1は、理由がない。 (当審が通知した取消理由についても解消されたものと認められる。) III.当審の判断のまとめ 以上のとおり、申立人が主張する取消理由1及び2並びに当審が通知した取消理由については、いずれも理由がないから、本件発明1ないし4についての特許は、取り消すべきものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、申立人が提示した証拠及び主張する理由によって、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すべきものとはいえない。 また、ほかに、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水酸基含有化合物、ポリイソシアネート化合物、可塑剤及び無機充填剤を含むポリウレタン樹脂組成物であって、 前記水酸基含有化合物が、ダイマー酸ポリオール及びヒマシ油系ポリオールを含み、 ダイマー酸ポリオールとヒマシ油系ポリオールとの含有割合が、重量比で、ダイマー酸ポリオール:ヒマシ油系ポリオール=20:80?50:50であり、 前記無機充填剤の含有量が、ポリウレタン樹脂組成物中、50?85重量%であり、 前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であり、 前記ヒマシ油系ポリオールの含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100重量%に対して、1?30重量%であり、 前記ダイマー酸ポリオールは、下記(1)?(4)から選択される少なくとも1種である、 ポリウレタン樹脂組成物。 (1)ダイマー酸と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (2)ダイマー酸と、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレントリオール又は長鎖のポリオールとが反応してなるダイマー酸ポリオール (3)ダイマー酸及び他のポリカルボン酸の混合物と、短鎖のジオール(2価アルコール)、トリオール(3価アルコール)又は短鎖のポリオール(4価以上のアルコール)とが反応してなるダイマー酸ポリオール (4)ダイマー酸とアルキレンオキシドとが反応してなるダイマー酸ポリオール 【請求項2】 電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。 【請求項4】 請求項3に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-02-28 |
出願番号 | 特願2015-165530(P2015-165530) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 久保田 英樹 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
佐久 敬 橋本 栄和 |
登録日 | 2016-06-10 |
登録番号 | 特許第5946574号(P5946574) |
権利者 | サンユレック株式会社 |
発明の名称 | ポリウレタン樹脂組成物 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |