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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1340065
異議申立番号 異議2016-700797  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-31 
確定日 2018-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5873337号発明「液状調味料の柑橘風味向上方法,液状調味料,及びそれを用いた食品の製造方法,この方法により製造された食品」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5873337号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-3〕,〔4-8〕について訂正することを認める。 特許第5873337号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5873337号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は,平成28年1月22日付けでその特許権の設定登録がされた。
そして,平成28年8月31日に特許異議申立人寺田佳鬼(以下「申立人1」という。)より全請求項に係る特許に対して,また,平成28年9月1日に特許異議申立人猪瀬則之(以下「申立人2」という。)より請求項4?8に係る特許に対して,特許異議の申立てがされ,その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成28年12月16日付け 取消理由通知
平成29年 2月17日付け 意見書(特許権者),訂正請求書
同年 4月 6日付け 意見書(申立人2)
同年 4月 7日付け 意見書(申立人1)
同年 5月22日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月20日付け 意見書(特許権者),訂正請求書
同年 8月31日付け 意見書(申立人1)
同年10月30日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月19日付け 意見書(特許権者),訂正請求書

なお,平成29年2月17日付け訂正請求書による訂正請求,及び,平成29年7月20日付け訂正請求書による訂正請求については,特許法第120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
また,平成29年12月19日付け訂正請求書による訂正請求については,申立人1及び2に対して,訂正請求があった旨を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,両者からは何らの応答もなかった。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者による平成29年12月19日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また,本件訂正請求書による訂正を以下「本件訂正」という。)における請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり,その内容は,本件訂正請求書によれば,それぞれ次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって,
前記液状調味料を100質量%とした場合に,前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%,前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.1?0.2であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。」
とあるのを,
「柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって,
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし,
前記液状調味料を100質量%とした場合に,前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%,前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズ,スダチ,カボス,ダイダイ,ユコウ,オレンジ,グレープフルーツ,ライム,レモン,及びシークワーサーのうちの少なくとも1種である」
とあるのを,
「前記柑橘成分が,ユズ果汁である」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記液状調味料が,ぽん酢,たれ類,鍋物用調味料,又はつゆである請求項1又は2に記載の液状調味料の柑橘風味向上方法。」
とあるのを,
「柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって,
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし,
前記液状調味料を100質量%とした場合に,前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%,前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記液状調味料を加熱調理して,鍋物にする際の柑橘風味向上方法であり,
前記液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%の柑橘成分,及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.1?0.2であることを特徴とする液状調味料。」
とあるのを,
「加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%の柑橘成分,及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し,
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであることを特徴とする加熱調理用液状調味料。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズ,スダチ,カボス,ダイダイ,ユコウ,オレンジ,グレープフルーツ,ライム,レモン,及びシークワーサーのうちの少なくとも1種である請求項4に記載の液状調味料。」
とあるのを,
「前記柑橘成分が,ユズ果汁である請求項4に記載の加熱調理用液状調味料。」
と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「前記液状調味料が,ぽん酢,たれ類,鍋物用調味料,又はつゆである請求項4又は5に記載の液状調味料。」
とあるのを,
「加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%の柑橘成分,及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し,
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記加熱調理用液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする加熱調理用液状調味料。」
と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に
「前記液状調味料が,容器詰液状調味料である請求項4乃至6のうちのいずれか1項に記載の液状調味料。」
とあるのを,
「前記加熱調理用液状調味料が,容器詰液状調味料である請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料。」
と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項4乃至7のうちのいずれか1項に記載の液状調味料を用いることを特徴とする食品の製造方法。」とあるのを,
「請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料を用いることを特徴とする食品の製造方法。」
と訂正する。


2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち,訂正前の請求項1に,「前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし,」という事項,「前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,」 という事項,及び,「前記液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法であ」るという事項を追加する訂正は,当該追加によって請求項1をさらに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,本件明細書の【0029】,【0019】,【0014】の記載に基いたものであるから,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項1のうち,訂正前の請求項1のTI値の範囲である「0.1?0.2」を,「0.163」とする訂正は,TI値の範囲をさらに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,TI値「0.163」は,本件明細書の【0030】の【表1】の実施例1や【0039】の【表3】の実施例4等の記載に基いたものであるから,新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項2の「柑橘類」について,「ユズ」と特定するとともに,その柑橘成分を「ユズ果汁」と限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,本件明細書の【0019】や各実施例等の記載に基いたものであるから,新規事項を追加するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用する記載であるところ,これを請求項2を引用しないものとした上で,請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し独立請求項とすることを含むものであり,これは,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,上記(1)に示したように,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項3のうち,「液状調味料を加熱調理して,鍋物にする際の柑橘風味向上方法」であるという事項を追加する訂正や,訂正前の請求項3の「ぽん酢,たれ類,鍋物用調味料,又はつゆ」を「鍋物用調味料」に限定する訂正は,当該追加や限定によって請求項3をさらに減縮するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,新規事項を追加するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4のうち,訂正前の請求項4に,「前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており,」という事項,及び,「前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであ」るという事項を追加する訂正や,訂正前の請求項4の「液状調味料」を「加熱調理用液状調味料」と限定する訂正は,当該追加や限定によって請求項4をさらに限定するものであるから,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,これらは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,それぞれ本件明細書の【0029】,【0019】,【0014】の記載に基いたものであるから,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項4のうち,訂正前の請求項4のTI値の範囲である「0.1?0.2」を,「0.163」とする訂正は,TI値の範囲をさらに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,TI値「0.163」は,本件明細書の【0030】の【表1】の実施例1や【0039】の【表3】の実施例4等の記載に基いたものであるから,新規事項を追加するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5のうち,柑橘成分の訂正は,上記(2)に示したように,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,また,本件明細書の【0019】の記載に基いたものであることから,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項5のうち,「加熱調理用液状調味料」の限定は,引用する請求項4の訂正に合わせたものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,新規事項を追加するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は,訂正前の請求項6が請求項4又は5を引用する記載であるところ,これを請求項5を引用しないものとした上で,請求項4を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立請求項とすることを含むものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,上記(4)に示したように,新規事項を追加するものではない。
また,訂正事項6のうち,液状調味料について訂正前の請求項6の「ぽん酢,たれ類,鍋物用調味料,又はつゆ」を「鍋物用調味料」に限定する訂正は,上記(3)に示したように,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,新規事項を追加するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は,訂正前の請求項7が請求項4乃至6のうちのいずれか1項を引用する記載であるところ,これを請求項6を引用せず請求項4又は5を引用するものとするとともに,引用する請求項4の訂正に合わせて,訂正前の請求項7の「液状調味料」を「加熱調理用液状調味料」と訂正するものであり,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,新規事項を追加するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は,訂正前の請求項8が請求項4乃至7のうちのいずれか1項を引用する記載であるところ,これを請求項6及び7を引用せず請求項4又は5を引用するものとするとともに,引用する請求項4の訂正に合わせて,訂正前の請求項8の「液状調味料」を「加熱調理用液状調味料」と訂正するものであり,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これは,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないし,新規事項を追加するものではない。

(9)一群の請求項について
訂正事項1?3に係る訂正前の請求項1?3について,訂正前の請求項2,3は,訂正前の請求項1を直接又は間接に引用するものであり,訂正前の請求項1?3は一群の請求項である。そして,訂正事項1?3は,訂正前の請求項1?3に係る事項を訂正するものであるから,一群の請求項に対して請求されたものである。
また,訂正事項4?8に係る訂正前の請求項4?8について,訂正前の請求項5?8は,訂正前の請求項4を直接又は間接に引用するものであり,訂正前の請求項4?8は一群の請求項である。そして,訂正事項4?8は,訂正前の請求項4?8に係る事項を訂正するものであるから,一群の請求項に対して請求されたものである。


3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による上記訂正事項1?8は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-3〕,〔4-8〕について訂正を認める。


第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから,請求項1?8に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」等という。また,それらをまとめて「本件発明」という。)は,請求項1?8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって,
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし,
前記液状調味料を100質量%とした場合に,前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%,前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項2】
前記柑橘成分が,ユズ果汁である請求項1に記載の液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項3】
柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって,
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし,
前記液状調味料を100質量%とした場合に,前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%,前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記液状調味料を加熱調理して,鍋物にする際の柑橘風味向上方法であり,
前記液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項4】
加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%の柑橘成分,及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し,
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであることを特徴とする加熱調理用液状調味料。
【請求項5】
前記柑橘成分が,ユズ果汁である請求項4に記載の加熱調理用液状調味料。
【請求項6】
加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%の柑橘成分,及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し,
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており,
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり,
前記柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり,
前記加熱調理用液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする加熱調理用液状調味料。
【請求項7】
前記加熱調理用液状調味料が,容器詰液状調味料である請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料を用いることを特徴とする食品の製造方法。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対し,平成28年12月16日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。(以下,申立人1による特許異議申立書を「申立書1」,申立人2による特許異議申立書を「申立書2」という。)
(1)取消理由1(新規性)
請求項1,2,4,5,7及び8に係る発明は,以下の引用例1又は5に示されるように,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
請求項1?8に係る発明は,以下の引用例1?17に示されるように,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(3)取消理由3-1(明確性要件1)
請求項1及び4に記載される「柑橘成分」という事項は,その特定するものが明確でなく,また,これに関連して,請求項1の「前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%」,及び,請求項4の「0.01?50質量%の柑橘成分」という事項も明確でないから,請求項1?8に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(4)取消理由3-2(明確性要件2)
請求項3及び6に記載される「たれ類」という事項は,その特定するものが明確でないから,請求項3に係る特許及び請求項6?8に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(5)取消理由4-1(サポート要件1)
請求項1の「前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%」という事項,及び,請求項4の「0.01?50質量%の柑橘成分」という事項の範囲まで,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されるユズ果汁及びその含有量を拡張ないし一般化できるとはいえないから,請求項1?8に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(6)取消理由4-2(サポート要件2)
請求項1及び4の「前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.1?0.2である」という事項の範囲まで,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されるキサンタンガムのTI値を拡張ないし一般化できるとはいえないから,請求項1?8に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(7)取消理由4-3(サポート要件3)
本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項1及び4に特定される「0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.1?0.2である」キサンタンガムを用いる液状調味料の柑橘風味向上方法や,上記キサンタンガムを含む液状調味料等は開示されていないから,請求項1?8に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(8)取消理由5(実施可能要件)
上記取消理由3-1に関連して,本件明細書の発明の詳細な説明は,請求項1?8に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,上記請求項に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

<引用例一覧>
引用例1 特開2005-253425号(申立書1の甲第1号証,申立書2の甲第1号証)
引用例2 MINTEL GNPD,2004年9月,インターネット,
<URL:http://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/302274/from_search/A3fUMIKm5f/?page=1;記録番号(ID#)302274>(申立書1の甲第2号証)
引用例3 社団法人日本輸入食品安全推進協会,「改訂食品添加物インデックス -和名・英名・ENo.検索便覧」,中央法規出版株式会社,2006年9月15日,p61,p9,p11(申立書1の甲第3号証)
引用例4 米国特許4163807号明細書(申立書1の甲第4号証)
引用例5 特開2010-011781号公報(申立書1の甲第5号証,申立書2の甲第2号証)
引用例6 特開2001-299263号公報(申立書1の甲第6号証)
引用例7 特願2012-001368号の平成27年12月15日付け意見書(申立書1の甲第7号証)
引用例8 大本俊郎,“粘度安定性に優れたキサンタンガム”,食品と科学,株式会社食品と科学社,平成15年2月,第45巻,第2号,p83-88(申立書1の甲第8号証)
引用例9 MINTEL GNPD,2010年11月,インターネット,
<URL:http://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1448730/from_search/vBjBwiENl5/?page=15;記録番号(ID#)1448730>(申立書1の甲第9号証)
引用例10 MINTEL GNPD,2009年8月,インターネット,
<URL:http://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1168498/from_search/vBjBwiENl5/?page=11;記録番号(ID#)1168498>(申立書1の甲第10号証)
引用例11 MINTEL GNPD,2010年2月,インターネット,
<URL:http://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/1322888/from_search/vBjBwiENl5/?page=12;記録番号(ID#)1322888>(申立書1の甲第11号証)
引用例12 新村出,「広辞苑第六版」,株式会社岩波書店,2008年1月11日,p1837(申立書1の甲第12号証)
引用例13 五十嵐脩,小林彰夫,田村真八郎,「丸善食品総合辞典」,丸善株式会社,平成10年3月25日,p1015(申立書1の甲第13号証)
引用例14 特開平4-262759号公報(申立書2の甲第3号証)
引用例15 特開平5-308913号公報(申立書2の甲第4号証)
引用例16 “FFI Report”,「FFIジャーナル」,FFIジャーナル編集委員会,2003年6月1日,Vol.208,No.6,p491-495(申立書2の甲第5号証)
引用例17 小原哲二郎,細谷憲政監修,「簡明食辞林第二版」,株式会社樹村房,平成9年4月25日,p960-961(申立書2の甲第6号証)


2 引用例の記載事項
(1)引用例1
引用例1には,以下の各事項が記載されている。
(1a)「【0028】
実施例1?2:レモン風味のドレッシング
下記処方のうち,水にサラダ油を加えて攪拌した溶液に,表1記載量のゲル化剤及びキサンタンガムを添加して,80℃10分間加熱攪拌溶解した後,その他の原料(クエン酸,塩,砂糖,15%酸度酢,レモン果汁)を加えて,攪拌しながら40℃まで冷却し,マイクロゲル化させた後,再度攪拌しながら加温し,90℃達温で加温を止め,75℃にてホットパック充填し,レモン風味のドレッシングを調製した(pH2.5)(実施例1,2)。実施例1?2のドレッシングは,調製直後及び40℃30日間保存後も,油相部が均一に分散しており,また,野菜にかけて食したが,さらっとした食感でかつ油相部が均一に分散した良好なドレッシングであった。」

(1b)「【0029】
比較例として,キサンタンガム無添加品(比較例1),脱アシル型ジェランガム無添加品(比較例2),ネイティブ型ジェランガム及びカラギナンのみ添加品(比較例3)を調製したが,いずれのドレッシングも調製直後及び40℃30日間保存後における,油相部の分散性は悪かった。」

(1c)「【0030】
処方 部
ゲル化剤(ゲルアップ※K-S*注1)) 表1記載
キサンタンガム(サンエース※NXG-S*注2)) 表1記載
ゲル化剤(ビストップ※D-1843*注3)) 表1記載
サラダ油 20
クエン酸 0.5
食塩 0.2
砂糖 5
15%酸度酢 6
レモン果汁 3
水にて 100とする
【0031】
注1)ゲルアップ※K-S*;脱アシル型ジェランガム42%,クエン酸3ナトリウム10%含有
注2)サンエース※NXG-S*;アセチル基含量が1%以下のキサンタンガム100%含有
注3)ビストップ※D-1843;ネイティブ型ジェランガム50%,カラギナン20%含有」

(1d)「【0032】




以上の(1a)?(1d)によると,引用例1には,実施例2,比較例2に関し,以下の発明が記載されていると認められる。

<引用発明1A>
「レモン風味のドレッシング調製方法であって,
下記処方のうち,水にサラダ油を加えて攪拌した溶液に,以下の量のゲル化剤及びキサンタンガムを添加して,80℃10分間加熱攪拌溶解した後,その他の原料(クエン酸,塩,砂糖,15%酸度酢,レモン果汁)を加えて,攪拌しながら40℃まで冷却し,マイクロゲル化させた後,再度攪拌しながら加温し,90℃達温で加温を止め,75℃にてホットパック充填し,レモン風味のドレッシングを調製(pH2.5)する方法。
処方 部
ゲル化剤(ゲルアップK-S) 0.13
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.15
ゲル化剤(ビストップD-1843) 0.2
サラダ油 20
クエン酸 0.5
食塩 0.2
砂糖 5
15%酸度酢 6
レモン果汁 3
水にて 100とする」

<引用発明1B>
「レモン風味のドレッシングであって,以下の処方よりなるもの。
処方 部
ゲル化剤(ゲルアップK-S) 0.13
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.15
ゲル化剤(ビストップD-1843) 0.2
サラダ油 20
クエン酸 0.5
食塩 0.2
砂糖 5
15%酸度酢 6
レモン果汁 3
水にて 100とする」

<引用発明1C>
「レモン風味のドレッシングの調製方法であって,
下記処方のうち,水にサラダ油を加えて攪拌した溶液に,以下の量のキサンタンガムを添加して,80℃10分間加熱攪拌溶解した後,その他の原料(クエン酸,塩,砂糖,15%酸度酢,レモン果汁)を加えて,攪拌しながら40℃まで冷却し,マイクロゲル化させた後,再度攪拌しながら加温し,90℃達温で加温を止め,75℃にてホットパック充填し,レモン風味のドレッシングを調製(pH2.5)する方法。
処方 部
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.15
サラダ油 20
クエン酸 0.5
食塩 0.2
砂糖 5
15%酸度酢 6
レモン果汁 3
水にて 100とする」

<引用発明1D>
「レモン風味のドレッシングであって,以下の処方よりなるもの。
処方 部
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.15
サラダ油 20
クエン酸 0.5
食塩 0.2
砂糖 5
15%酸度酢 6
レモン果汁 3
水にて 100とする」

(2)引用例5
引用例5には,以下の各事項が記載されている。
(5a)「【0390】
以下,本発明の内容を以下の実施例,比較例を用いて具体的に説明する。但し,本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また,特に記載のない限り「部」とは「重量部」,「%」は「重量%」を意味するものとする。文中「*」印の製品は,三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品であること,文中「‡」印は,三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。」

(5b)「【0446】
実験例10 油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料の調製(2)
油脂を用いず,調製例1または既存品1?5のデキストリンを用いて,下記処方に従ってノンオイル調味料を調製した(実施10-1,比較例10-1?10-5)。また比較のため,デキストリン14%に代えてブドウ糖(全固形分の調整)を14%用いて同様にして調味料を調製した(比較例10-0:デキストリン未使用)。」

(5c)「【0447】
<ノンオイル調味料処方>
デキストリン 14.0(%)
砂糖 7.0
リンゴ酢 7.0
醸造酢 4.5
レモン果汁 2.0
食塩 4.0
ガディガム 0.3
キサンタンガム 0.1
L-グルタミン酸ナトリウム 0.2
カロチン色素 0.1
水 残 部
合 計 100.0 %。」

(5d)「【0448】
詳細には,水を攪拌しながら,砂糖,キサンタンガム(サンエース‡NXG-S*),ガディガム(ガティガムSD*)およびデキストリンを添加し,これを80℃で10分間加熱しながら攪拌し溶解した。次いで,これに,リンゴ酢,醸造酢,レモン果汁,食塩,およびL-グルタミン酸ナトリウムおよびカロチン色素を添加し,水で全量が100%になるように調整した。そして調製した溶液を容器にホットパック充填し,室温まで冷却した後,冷蔵庫(5℃)にて冷却した。」

以上の(5a)?(5d)によると,引用例5には,実験例10に関して,以下の発明が記載されていると認められる。

<引用発明5A>
「油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料の調製方法であって,
以下の処方のもと,水を攪拌しながら,砂糖,キサンタンガム(サンエースNXG-S),ガディガム(ガティガムSD)およびデキストリンを添加し,これを80℃で10分間加熱しながら攪拌し溶解し,次いで,これに,リンゴ酢,醸造酢,レモン果汁,食塩,およびL-グルタミン酸ナトリウムおよびカロチン色素を添加し,水で全量が100%になるように調整し,調製した溶液を容器にホットパック充填し,室温まで冷却した後,冷蔵庫(5℃)にて冷却した方法。
デキストリン 14.0(%)
砂糖 7.0
リンゴ酢 7.0
醸造酢 4.5
レモン果汁 2.0
食塩 4.0
ガディガム(ガティガムSD) 0.3
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.1
L-グルタミン酸ナトリウム 0.2
カロチン色素 0.1
水 残 部
合 計 100.0 %。」

<引用発明5B>
「油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料であって,以下の処方よりなるもの。
デキストリン 14.0(%)
砂糖 7.0
リンゴ酢 7.0
醸造酢 4.5
レモン果汁 2.0
食塩 4.0
ガディガム(ガティガムSD) 0.3
キサンタンガム(サンエースNXG-S) 0.1
L-グルタミン酸ナトリウム 0.2
カロチン色素 0.1
水 残 部
合 計 100.0 %。」

(3)引用例6
引用例6には,以下の各事項が記載されている。
(6a)「【0002】
【従来の技術】ゆず,すだち,かぼす等の柑橘類は香りと風味に優れた果実であり,香味成分の多くは果皮に含まれている。しかしながら,果皮には香味成分以外に苦味を呈する成分も多く含まれていることから,香りと風味に優れた果皮をドレッシング等の酸性液体調味料に含有させると苦味を呈し食味が悪いという問題があった。そのため,酸性液体調味料では,果肉を圧搾して得られる苦味が比較的少ない果汁を含有させることが一般的に行なわれている。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】しかしながら,柑橘類の果汁は,苦味は少ないものの香りと風味に欠けるという問題があった。また,上述の果汁を製造するする際に発生する果皮は,その殆どが産業廃棄物として廃棄されているが,近年,産業廃棄物が問題視されていることから,果皮の有効利用が求められるようになった。
【0004】そこで本発明の目的は,柑橘類の果皮を有効利用し,果皮由来の苦味が低減され,柑橘類の香りと風味,また食味に優れた酸性液体調味料を提供することである。」

(6b)「【0006】
【発明の実施の形態】以下本発明を説明する。なお,本発明において「%」は「質量%」を意味する。本発明の「酸性液体調味料」は,柑橘類の果皮粉砕物と魚介類エキスを含有した調味料であって,pHが3?5,全体の粘度が50mPa・s以上の液状の調味料であり,一般的にドレッシングと称される。このような酸性液体調味料としては,食用油脂の状態あるいは有無により,分離タイプ,乳化タイプ,ノンオイルタイプに分けられる。なお,本発明では,分離タイプの酸性液体調味料における粘度とは,通常,使用するときに行なう行為,つまり調味料が入った容器を振って,乳化状態としたときの粘度である。」

(6c)「【0013】
【実施例】[実施例1]ゆず果汁を製造する際に発生したゆず果皮をダイサーで粉砕し,約2mmの大きさのゆず果皮粉砕物(生)を得た。この粉砕物を用い,下記の配合割合の酸性液体調味料(ノンオイルタイプ)を製造した。つまり,各原料をミキサー内に投入し,均一となるまで十分に混合した後,300ml容量のペット容器に充填した。」

(6d)「【0014】
<配合割合>
・食酢(酸度:4%) 20.0%
・醤油 20.0%
・ブドウ糖果糖液糖 15.0%
・ゆず果皮粉砕物(生) 5.0%
・ゆず果汁 5.0%
・みりん 3.0%
・食塩 1.5%
・煮干しエキス(固形分:95%) 0.6%
・キサンタンガム 0.1%
・清水で 100.0%」

(6e)「【0015】得られた酸性液体調味料は,pHが3.9,粘度が200mPa・s[B型粘度計((株)東京計器製)でローターNo.1,品温20℃,回転数20rpmで測定開始1分後の粘度]であり,果皮由来の苦味が低減され,ゆずの香りと風味,また食味に優れた酸性液体調味料であった。また,ゆず果皮粉砕物に代え,かぼす,あるいはすだちの果皮粉砕物を用いたところ同様な結果が得られた。」

以上の(6a)?(6e)によると,引用例6には,実施例1に関して,以下の発明が記載されていると認められる。

<引用発明6A>
「ノンオイルタイプのドレッシングを提供する方法であって,
ゆず果汁を製造する際に発生したゆず果皮をダイサーで粉砕し,約2mmの大きさのゆず果皮粉砕物(生)を得た後,この粉砕物と原料をミキサー内に投入し,均一となるまで十分に混合した後,300ml容量のペット容器に充填し,下記の配合割合のドレッシング(ノンオイルタイプ)とする方法。
・食酢(酸度:4%) 20.0%
・醤油 20.0%
・ブドウ糖果糖液糖 15.0%
・ゆず果皮粉砕物(生) 5.0%
・ゆず果汁 5.0%
・みりん 3.0%
・食塩 1.5%
・煮干しエキス(固形分:95%) 0.6%
・キサンタンガム 0.1%
・清水で 100.0%」

<引用発明6B>
「ノンオイルタイプのドレッシングであって,以下の配合割合のもの。
・食酢(酸度:4%) 20.0%
・醤油 20.0%
・ブドウ糖果糖液糖 15.0%
・ゆず果皮粉砕物(生) 5.0%
・ゆず果汁 5.0%
・みりん 3.0%
・食塩 1.5%
・煮干しエキス(固形分:95%) 0.6%
・キサンタンガム 0.1%
・清水で 100.0%」

(4)引用例8
引用例8には,以下の各事項が記載されている。
(8a)「キサンタンガムはユニークで特徴のある様々な特性が評価され,世界各国でドレッシング類をはじめ,タレ,レトルト食品等の粘度付与,粘性改良,安定性向上等の目的で使用されている。」(83ページ最上段2?7行)

(8b)「低pH領域で長期間保存した場合の粘度低下をほぼ完全解消することに成功したキサンタンガムが今回ご紹介するキサンタンガム,サンエースNXG-Sである。本品は従来のキサンタンガムでは困難であった低pH領域で長期間安定的に使用するという潜在的な市場を活性化できるキサンタンガムとして位置付けられている。」(84ページ二段4?13行)

(8c)「サンエースNXG-Sはドレッシング等の不溶性固形分の分散安定や乳化安定目的で,効率的に食品へ機能を付与することができる。」(85ページ最下段8?12行)

(5)引用例14
引用例14には,以下の各事項が記載されている。
(14a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,具材を含む水中油滴型ドレッシングに関するものであり,更に詳しくは,豪華なイメージを有するサラダ等を手軽につくることができ,且つ加熱殺菌後,或るいは保存中における乳化安定性,及び具材の分散安定性に優れた具材入り水中油滴型ドレッシングに関する。」

(14b)「【0024】
【実施例1】水40重量部に,キサンタンガム0.2重量部,卵黄1重量部,食塩2重量部,生クリーム10重量部,グルタミン酸ナトリウム1重量部,レモン汁2重量部,上白糖1重量部,食酢5重量部,こしょう0.1重量部を加えて均一に混合し,次いでこれに,なたね油20重量部を加えて,ホモミキサーで約1分間撹拌後,ホモジナイザーで150kg/cm2の条件で均質化し粘度1800cp,500nmの吸光度24の水中油滴型ドレッシングを製造した。次に,上記ドレッシング5重量部と,ダイスカット処理したタマネギ0.5重量部,ニンジン0.5重量部,ホール状のコーン1重量部,フレーク状のツナ1重量部(5?10mm×5?30mmの大きさを最大とする面を少なくとも一つは有する具材は,具材全体の84重量%であった)を,透明なパウチ(材質:ナイロン/ポリプロピレン)に充填した後密封し,これに90°C,10分間の殺菌処理を施し,具材を含む水中油滴型ドレッシングAを得た。このようにして得られた具材を含む水中油滴型ドレッシングAの粘度は1600cpであった。」

以上の(14a),(14b)によると,引用例14には,実施例1に関して,以下の発明が記載されていると認められる。

<引用発明14B>
「具材を含む水中油滴型ドレッシングAであって,以下の配合のドレッシング5重量部と,具材である,ダイスカット処理したタマネギ0.5重量部,ニンジン0.5重量部,ホール状のコーン1重量部,フレーク状のツナ1重量部(5?10mm×5?30mmの大きさを最大とする面を少なくとも一つは有する具材は,具材全体の84重量%であった)とからなるもの。
ドレッシングの配合
水40重量部に,キサンタンガム0.2重量部,卵黄1重量部,食塩2重量部,生クリーム10重量部,グルタミン酸ナトリウム1重量部,レモン汁2重量部,上白糖1重量部,食酢5重量部,こしょう0.1重量部,及び,なたね油20重量部。」

(6)引用例16
引用例16には,以下の事項が記載されている。
(16a)「サンエース(当審注:登録商標マークあり)NXG-Sは,従来品よりも同一添加量での粘度が高く,シュードプラスチック製にも優れています。
したがって,サンエース(当審注:登録商標マークあり)NXG-Sはドレッシング等における不溶性固形分の分散安定や乳化安定目的においてより効果的に食品へ機能を付与することができます。」(493ページ左欄11?右欄3行)


3 取消理由1について
(1)本件発明1及び2の新規性について
本件発明1と,引用発明1A,引用発明1C及び引用発明5Aとを対比すると,両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は,「液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法」であるのに対して,引用発明1A及び1Cは,レモン風味のドレッシングの調製方法であり,引用発明5Aは,油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料の調製方法である点。

上記相違点1を検討するに,上記相違点1は実質的な相違である。
よって,本件発明1は,上記各引用発明ではない。
また,本件発明2は,本件発明1の特定事項を全て含み本件発明1をより減縮したものであるから,同様の理由により,上記各引用発明ではない。

(2)本件発明4,5,7及び8の新規性について
本件発明4と,引用発明1B,引用発明1D及び引用発明5Bとを対比すると,両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明4は,「加熱調理用液状調味料」であるのに対して,引用発明1B及び1Dは,レモン風味のドレッシングであり,引用発明5Bは,油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料である点。

上記相違点2を検討するに,上記相違点2は実質的な相違である。
よって,本件発明4は,上記各引用発明ではない。
また,本件発明5,7及び8は,本件発明4の特定事項を全て含み本件発明4をより減縮したものあるから,同様の理由により,上記各引用発明ではない。

(3)小括
以上より,本件発明1,2,4,5,7及び8は,引用例1又は引用例5に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項第3号に該当しないから,上記取消理由1によっては請求項1,2,4,5,7及び8に係る特許は取り消すことはできない。


4 取消理由2について
(1)本件発明1?3の進歩性について
本件発明1と,引用発明1A,引用発明1C,引用発明5A及び引用発明6Aとを対比すると,両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明1は,「液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法」であるのに対して,引用発明1A及び1Cは,レモン風味のドレッシングの調製方法であり,引用発明5Aは,油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料の調製方法であり,引用発明6Aは,ノンオイルタイプのドレッシングを提供する方法である点。

上記相違点3について検討するに,上記各引用発明の液状調味料はそれぞれ,上記相違点3のとおりであるところ,これらを加熱調理に供することはそもそも想定し得ない。また,上記引用例1?17をみても,上記のような液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上のために供することは記載されていないし示唆も見出せない。
よって,上記各引用発明をして上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって,本件発明1は,上記各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件発明2及び3は,本件発明1の特定事項を全て含み本件発明1をより減縮したものであるから,同様の理由により,上記各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明4?8の進歩性について
本件発明4と,引用発明1B,引用発明1D,引用発明5B,引用発明6B及び引用発明14Bとを対比すると,両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点4]
本件発明4は,「加熱調理用液状調味料」であるのに対して,引用発明1B及び1Dは,レモン風味のドレッシングであり,引用発明5Bは,油脂を含まない非乳化マヨネーズ様調味料であり,引用発明6Bは,ノンオイルタイプのドレッシングであり,引用発明14Bは,具材を含む水中油滴型ドレッシングである点。

上記相違点4について検討するに,上記各引用発明の液状調味料はそれぞれ,上記相違点4のとおりであるところ,これらを加熱調理用液状調味料とすることはそもそも想定し得ない。また,上記引用例1?17をみても,上記のような液状調味料を加熱調理用とすることは記載されていないし示唆も見出せない。
よって,上記各引用発明をして上記相違点4に係る本件発明4の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって,本件発明4は,上記各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件発明5?8は,本件発明4の特定事項を全て含み本件発明4をより減縮したものであるから,同様の理由により,上記各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上より,本件発明1?8は,上記各引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,特許法第29条第2項の規定に違反していないから,上記取消理由2によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


5 取消理由3-1(明確性要件1)について
取消理由3-1の概要は,上記「第4」の1(3)のとおりである。
しかしながら,本件訂正(訂正事項1,3,4及び6)によって,請求項1,3,4及び6の「柑橘成分」は,「柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズであり」と特定され,「柑橘成分」の特定するものが明確になった。また,これにより,請求項1及び3の「柑橘成分の含有量は0.01?50質量%」という事項や,請求項4及び6の「0.01?50質量%の柑橘成分」という事項もまた明確になった。
以上より,上記取消理由3-1によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


6 取消理由3-2(明確性要件2)について
取消理由3-2の概要は,上記「第4」の1(4)のとおりである。
しかしながら,本件訂正(訂正事項3及び6)によって,請求項3及び6の「たれ類」は削除され,本件発明3及び6は明確になった。
以上より,上記取消理由3-2によっては請求項3及び6に係る特許は取り消すことはできない。


7 取消理由4-1(サポート要件1)について
取消理由4-1の概要は,上記「第4」の1(5)のとおりである。
しかしながら,本件発明の「柑橘成分」については,上記「5 取消理由3-1(明確性要件1)について」に示したように,本件訂正(訂正事項1,3,4及び6)によって,「柑橘成分を得るための柑橘類が,ユズ」と特定され明確になった。そして,発明の詳細な説明の実施例1?9には,柑橘成分を得るための柑橘類がユズであるものが記載されている。
また,本件発明の柑橘成分の含有量についてみると,本件明細書には,次の記載がある。
「【0020】
液状調味料における柑橘成分の含有量は,液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%である。柑橘成分の含有量が0.01?50質量%であれば,特に柑橘成分の形態によって含有量を調整することにより,液状調味料に柑橘類の風味を十分に付与することができ,且つ柑橘成分が過剰であって,柑橘類由来の苦味が強く感じられるようになり,調味料として却って風味が低下するようなこともない。
【0021】
柑橘成分の含有量は,液状調味料を100質量%とした場合に,0.01?50質量%であればよいが,柑橘類の種類,及びその形態によって含有量を調整することが好ましい。例えば,生果実から搾汁した果汁である場合は,含有量は,0.5?50質量%,好ましくは1?30質量%であり,特に1.5?20質量%であることが好ましい。また,果実である場合は,含有量は,0.5?20質量%,特に1?15質量%であることが好ましい。更に,果皮である場合は,含有量は,0.5?20質量%,特に1?15質量%であることが好ましい。また,前述の果汁の濃縮物,及び果実,果皮の抽出物のように,フレーバーの基となる成分の含有割合が高い場合は,含有量は,0.01?20質量%,特に0.05?10質量%であることが好ましい。尚,柑橘成分として果汁の濃縮物及び抽出物を用いる場合には,原料である柑橘類果実及び果汁(0.5?50質量%)から得られる,濃縮物及び抽出物(0.01?20質量%)とすることができる。」
上記記載によれば,本件発明において,柑橘成分の含有量である「0.01?50質量%」は,通常の液体調味料において,柑橘類の種類及びその状態によって含有量が調整され得る範囲を幅広く特定しているにすぎず,上記含有量の範囲に技術的特徴はない。そして,本件発明は,柑橘成分の含有量を最適化するものではないので,柑橘成分の含有量の「0.01?50質量%」の全範囲にわたる実施例がないことをもって,サポート要件を満たさないとすることはできない。
以上より,上記取消理由4-1によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


8 取消理由4-2及び4-3(サポート要件2及び3)について
取消理由4-2及び4-3の概要は,上記「第4」の1(6)及び(7)のとおりである。
しかしながら,本件訂正(訂正事項1,3,4及び6)によって,請求項1,3,4及び6の「キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)」は,「0.163」と特定された。そして,本件明細書の発明の詳細な説明(特に,実施例1?6,8及び9)には,TI値が0.163であるキサンタンガムを含有する液状調味料が記載され,当該液状調味料の加熱後の柑橘風味向上に係る効果が確認されている。
以上より,上記取消理由4-2及び4-3によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


9 取消理由5(実施可能要件)について
取消理由5の概要は,上記「第4」の1(8)のとおりである。
しかしながら,上記「5 取消理由3-1(明確性要件1)について」に示したように,本件発明は明確であり,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上より,取消理由5によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人1は,申立書1の「エ-1.特許法第36条第6項第2号(同法113条第4号)」の「(i)」において,本件請求項1の記載は,本件明細書の【0007】,【0008】及び【0010】に記載された発明が解決しようとする課題,及びその解決手段の記載と整合していない旨主張している。
しかしながら,上記「7 取消理由4-1(サポート要件1)について」に示したように,本件発明の柑橘成分の含有量に係る特定は,技術的特徴を有さないものであり,課題解決に直接関わらないものであるから,請求項1等の記載が,上記【0007】,【0008】及び【0010】の記載と整合していないところはない。
よって,本件発明は明確であるから,上記理由によっては請求項1?8に係る特許は取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり,請求項1?8に係る特許は,上記取消理由通知に記載した取消理由1?5及び上記申立書1に記載された特許異議申立理由によっては,取り消すことはできない。
また,他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって、
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし、
前記液状調味料を100質量%とした場合に、前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%、前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり、
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり、
前記柑橘成分を得るための柑橘類が、ユズであり、
前記液状調味料を加熱調理する際の柑橘風味向上方法であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項2】
前記柑橘成分が、ユズ果汁である請求項1に記載の液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項3】
柑橘成分とキサンタンガムとを含有する液状調味料の柑橘風味向上方法であって、
前記キサンタンガムを前記液状調味料中に溶解して含有する状態とし、
前記液状調味料を100質量%とした場合に、前記柑橘成分の含有量は0.01?50質量%、前記キサンタンガムの含有量は0.07?0.3質量%であり、
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり、
前記柑橘成分を得るための柑橘類が、ユズであり、
前記液状調味料を加熱調理して、鍋物にする際の柑橘風味向上方法であり、
前記液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする液状調味料の柑橘風味向上方法。
【請求項4】
加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に、0.01?50質量%の柑橘成分、及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し、
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており、
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり、
前記柑橘成分を得るための柑橘類が、ユズであることを特徴とする加熱調理用液状調味料。
【請求項5】
前記柑橘成分が、ユズ果汁である請求項4に記載の加熱調理用液状調味料。
【請求項6】
加熱調理用液状調味料を100質量%とした場合に、0.01?50質量%の柑橘成分、及び0.07?0.3質量%のキサンタンガムを含有し、
前記キサンタンガムは前記加熱調理用液状調味料中に溶解しており、
前記キサンタンガムの0.15質量%濃度の水溶液のせん断速度依存性(TI値)が0.163であり、
前記柑橘成分を得るための柑橘類が、ユズであり、
前記加熱調理用液状調味料が鍋物用調味料であることを特徴とする加熱調理用液状調味料。
【請求項7】
前記加熱調理用液状調味料が、容器詰液状調味料である請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の加熱調理用液状調味料を用いることを特徴とする食品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-08 
出願番号 特願2012-1368(P2012-1368)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 中村 則夫
山崎 勝司
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5873337号(P5873337)
権利者 株式会社Mizkan Holdings 株式会社Mizkan
発明の名称 液状調味料の柑橘風味向上方法、液状調味料、及びそれを用いた食品の製造方法、この方法により製造された食品  
代理人 小島 清路  
代理人 鈴木 勝雅  
代理人 平岩 康幸  
代理人 小島 清路  
代理人 鈴木 勝雅  
代理人 平岩 康幸  
代理人 鈴木 勝雅  
代理人 小島 清路  
代理人 平岩 康幸  

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