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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 D01F |
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管理番号 | 1340074 |
異議申立番号 | 異議2017-700858 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-08 |
確定日 | 2018-03-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6090546号発明「吸湿性芯鞘複合糸およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6090546号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6090546号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6090546号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年5月11日(優先権主張平成27年5月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立期間内である同年9月8日に請求項1?5に係る特許について、同年9月8日に特許異議申立人KBセーレン株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月18日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)がされ、本件訂正請求に対して申立人から平成30年2月22日付けで意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容を、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1に「鞘部ポリマーがポリアミドであって、」と記載されているのを、「鞘部ポリマーが硫酸相対粘度2.6?3.3であるポリアミドであって、」と訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1に「沸騰水吸収率が6?11%である」と記載されているのを、「沸騰水吸収率が7?11%である」と訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の本件特許の明細書の段落0065?0067、0074?0076を削除する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の本件特許の明細書の段落0086の表1から、実施例4、7の欄を削除する。 なお、訂正事項4について、本件訂正請求書の「6 請求の理由」には記載されていないが、本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであるところ、添付された訂正明細書の段落0086の表1を見ると、訂正前の表1の実施例4、7の欄が削除されているから、訂正事項4も、本件訂正の内容であると判断した。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 (1)訂正事項1 訂正事項1は、本件訂正前の鞘部ポリマーのポリアミドについて、「硫酸相対粘度が2.6?3.3である」との構成を付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、この訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 また、訂正事項1は、本件特許の明細書の段落0034の「本発明の鞘部に使用するポリアミドチップは、硫酸相対粘度にて2.3以上3.3以下が好ましく、さらに好ましくは、2.6以上3.3以下である。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、沸騰水吸収率について、本件訂正前の「6?11%である」と数値範囲で指定されているのを、「7?11%である」と当該数値範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、この訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 また、訂正事項2は、本件特許の明細書の段落0030の「本発明の芯鞘複合糸は、その沸騰水収縮率が6?11%である必要がある。・・・沸騰水収縮率のより好ましい範囲は6?10%であり、さらに好ましくは7?9.5%である。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、本件特許の明細書において、上記訂正事項1及び2による請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2?5についての訂正と整合させるために、本件訂正前は実施例4、7としていた段落0065?0067、0074?0076の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3は、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、本件特許の明細書において、上記訂正事項1及び2による請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2?5についての訂正と整合させるために、段落0086の表1から、実施例4、7の欄を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項4は、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)一群の請求項 訂正事項1、2は、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2?5について訂正するものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。また、本件訂正請求は、訂正事項3、4による明細書の訂正に係る請求項1?5の全てについて行われたものであり、特許法第120条の5第9項において引用する同法第126条第4項の規定に適合する。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記第2.のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーが硫酸相対粘度2.6?3.3であるポリアミドであって、沸騰水収縮率が7?11%である吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項2】 伸度が60?90%である請求項1に記載の吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項3】 請求項1または2記載の吸湿性芯鞘複合糸からなる仮撚加工糸。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の吸湿性芯鞘複合糸を少なくとも一部に有する布帛。 【請求項5】 紡糸口金から吐出された糸条を冷却風にて冷却固化した後、糸条に水溶液(エマルジョン油剤)を2度付与して巻き取る繊維の製造方法であって、1段階目と2段階目の付与時間のギャップが20msec以上である請求項1または2に記載の吸湿性芯鞘複合糸の製造方法。」 2.取消理由の概要 本件訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成29年10月18日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 なお、特許異議申立書に記載された申立理由は、すべて通知した。 以下、甲第1号証等、甲第1号証等に記載された発明、甲第1号証等に記載された事項を、それぞれ「甲1」等、「甲1発明」等、「甲1事項」等という。 甲1:特開2010-189772号公報 甲2:特開2012-211406号公報 甲3:特許第6068470号公報 甲4:実開昭48-102352号公報および実願昭47-29582号(実開昭48-102352号)のマイクロフィルム 甲5:特開昭56-107006号公報 甲6:特開2011-162907号公報 甲7:特開2000-73235号公報 甲8:特開2005-320655号公報 理由1)本件発明1、4は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2)本件発明1?5は、甲1発明及び甲2?6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3)本件発明1?5は、甲3発明並びに甲2、7及び8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.甲各号証の記載 (1)甲1の記載、甲1発明 ア.甲1の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。 「【請求項1】 ポリアミド系エラストマーを含有する成分とポリアミド系樹脂を含有する成分との2成分分割型構造を有するコンジュゲート繊維であって、 繊維中の前記ポリアミド系エラストマーの含有率が20?80重量%である ことを特徴とするコンジュゲート繊維。 【請求項2】 芯部にポリアミド系エラストマーを含有し、鞘部にポリアミド系樹脂を含有する芯鞘型構造を有することを特徴とする請求項1記載のコンジュゲート繊維。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、優れた染色性を有し、かつ、接触冷感及び肌触りが良好な生地を得ることができるコンジュゲート繊維を提供することを目的とする。また、本発明は、該コンジュゲート繊維を用いてなる生地を提供することを目的とする。」 「【0013】 上記ポリアミド系エラストマーのなかでも、極めて優れた帯電防止効果が得られること、紡糸性に優れること、及び、比重が小さく、軽い生地や肌着を作製できることから、下記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体が好適である。このようなポリエーテルブロックアミド共重合体のうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)等が挙げられる。 【0014】 【化1】 」 「【0026】 本発明のコンジュゲート繊維における、100℃の熱水を用いてJIS L1015(1999)に準拠した方法により測定した熱水収縮率は特に限定されないが、好ましい上限は20%である。上記熱水収縮率が20%を超えると、得られる繊維を用いてなる生地が重くなり、軽量感が損なわれることがある。」 「【0032】 (実施例1) 芯部用樹脂としてポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてポリアミド系樹脂であるナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)とを用い、これらの芯部用樹脂及び鞘部用樹脂をそれぞれ単軸押出機により加熱溶融し、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合の芯部の断面が円形、鞘部の断面が開口率30%の略C形、かつ、繊維中のポリアミド系エラストマーの含有率が80重量%となるように複合紡糸し、部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。得られたコンジュゲート繊維の繊度は120デシテックス(36フィラメント構成)、1フィラメントあたりの直径は約20μmであった。 得られたコンジュゲート繊維を用いて編み立てを行い、135℃のセット温度でフライス生地を作製した。」 「【0035】 (実施例4) 鞘部の断面が開口率20%の略C形となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして 部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。得られたコンジュゲート繊維の繊度は120デシテックス(36フィラメント構成)、1フィラメントあたりの直径は約20μmであった。 得られたコンジュゲート繊維を用いて編み立てを行い、135℃のセット温度でフライス生地を作製した。 【0036】 (実施例5) 繊維中のポリアミド系エラストマーの含有率が50重量%となるようにし、鞘部用樹脂としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして部分開口型の偏心芯鞘型コンジュゲート繊維を得た。・・・」 また、段落0069の【表1】には、実施例1、実施例5の熱水収縮率がそれぞれ11%、12%であることが記載されている。 イ.甲1発明-1 上記ア.から、実施例1に着目すると、甲1には、以下の甲1発明-1が記載されている。 《甲1発明-1》 「芯部に以下の化学式で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてポリアミド系樹脂であるナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)とを用い、熱水収縮率が11%であるコンジュゲート繊維。 」 ウ.甲1発明-2 また、上記ア.から、実施例5に着目すると、甲1には、実施例5として、以下の甲1発明-2が記載されている。 《甲1発明-2》 「芯部に以下の化学式で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、「ペバックス 1074SA01」)と、鞘部用樹脂としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)とを用い、熱水収縮率が12%であるコンジュゲート繊維。 」 (2)甲2の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、芯部がポリアミド樹脂であり、鞘部がポリアミド樹脂である芯鞘型ポリアミドマルチフィラメントからなる吸放湿性ポリアミド捲縮糸であって、織編物とすること、仮撚捲縮加工を行うこと、原糸の伸度を71から75%とすることが記載されている(請求項1?3、段落0013、0054の表1等)。 (3)甲3の記載、甲3発明 ア.甲3の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 芯部と鞘部からなり芯部が繊維表面に露出しない形状の芯鞘複合繊維であり、下記一般式(1)に示すハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とし、6-ナイロン樹脂を鞘部とした、繊維横断面における芯部と鞘部の面積比率が3/1?1/5である芯鞘複合繊維。 」 「【発明の効果】 【0007】 本発明の、ハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とし、6-ナイロン樹脂を鞘部とした芯鞘複合繊維によれば、優れた生産性でかつ、繊維表面に芯部を露出させずとも優れた吸湿性、制電性および接触冷感性が得られ、また、ポリウレタンやポリエチレンテレフタレートとの交編織における後工程でのトラブルが解消できる。 また、本発明の複合繊維は、直接肌に触れて非常に着心地の良い布帛に製造できるため、例えば肌着、シャツ、背広、パンティストッキング、靴下、帽子、マフラー、作業着、スポーツウェアといった衣料品や寝具品、その他手袋、靴内材、ヘルメット内材、車両内装材、室内内装材等の製品の分野に幅広く用いることができる。」 「【0009】 ・・・ このように、芯部に、ハードセグメントが6-ナイロンであるポリアミドブロック共重合物を用い、鞘部に、6-ナイロン樹脂を用いたものであれば、優れた吸湿性、制電性および接触冷感性を発現することができる。 上記6-ナイロン樹脂は、95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.1?2.9が好ましく、なかでも2.1?2.6であることが好ましい。この範囲であると、製糸工程での糸切れ、芯鞘比率斑が生じ難く、糸質も優れたものとなる。」 「【実施例】 【0019】 以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。 ・・・ また、95.7%硫酸溶液での相対粘度は、95.7%硫酸50mlに対し、6-ナイロン樹脂0.5gを溶解させた溶液を、オストワルド粘度計により25℃恒温下にて流下させ、その流下時間を硫酸の流下時間で割り返して求めた。 【0020】 〔実施例1〕 芯部にハードセグメントが6-ナイロン、ソフトセグメントがポリエチレングリコールであるポリエーテルブロックアミド共重合物(アルケマ社製PEBAX MH1657)、鞘部に95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.43の6-ナイロン(DSM社製1010J)を用い、溶融紡糸により芯部/鞘部の面積比1/1の芯部が露出しない形状の芯鞘複合繊維を得た。・・・」 イ.甲3発明 上記ア.から、甲3には、以下の甲3発明が記載されている 《甲3発明》 「芯部が下記一般式(1)に示すハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物であり、鞘部が95.7%硫酸溶液での相対粘度が2.43の6-ナイロン樹脂である、吸湿性芯鞘複合繊維。 」 (4)甲4の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、走行糸条に対してオイリングローラーにより油剤を付与する装置が記載されている(実用新案登録請求の範囲等を参照)。 (5)甲5の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲5には、極細マルチフィラメントの溶融紡糸方法が記載されている(特許請求の範囲等を参照)。 (6)甲6の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲6には、吸放湿性に優れた、ポリアミド56からなるフィラメントである捲縮糸が記載されている(特許請求の範囲、段落0015等を参照)。 (7)甲7の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲7には、ポリエステル(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維である捲縮性複合繊維において、沸水収縮率が2%未満の場合は、捲縮性能が不十分で、沸水収縮率が13%を超える場合、織編物の風合いが硬くなることが記載されている(請求項1、3、段落0025等を参照)。 (8)甲8の記載 本件優先日前に頒布された刊行物である甲8には、仮撚用ポリアミド極細繊維において、熱水収縮率が10%を超えると風合いが硬くなること、熱水収縮率が8?9.1%であることが記載されている(段落0015、0016、0031の表1。段落0031の表1については実施例1?4を参照)。 4.判断 (1)理由1(特許法第29条第1項第3号)について ア.甲1発明-1による理由1について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-1とを対比すると、少なくとも以下の《相違点1》において相違する。 《相違点1》 「本件発明1は鞘部ポリマーのポリアミドが硫酸相対粘度2.6?3.3であるのに対し、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)は硫酸相対粘度が不明である点。」 b.判断 特許権者が平成29年12月18日付け意見書で挙げた国際公開第2017/150718号には、「ポリアミド樹脂・・・UBE NYLON 1011FB(宇部興産(株)製)ポリアミド6、相対粘度2.0、・・・」との記載(段落0026参照)から、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)の硫酸相対粘度は2.6?3.3ではない。そして、《相違点1》は、ポリアミドの硫酸相対粘度という物理量の相違についてのものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲1発明-1であるとはいえない。 (イ)本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-1であるとはいえない。 イ.甲1発明-2による理由1について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-2とを対比すると、少なくとも以下の《相違点2》において相違する。 《相違点2》 「芯鞘複合糸の沸騰水収縮率について、本件発明1は「7?11%」であるのに対し、甲1発明-2は12%である点。」 b.判断 相違点2は、芯鞘複合糸の沸騰水収縮率の具体的な数値あるいは数値範囲についてのものであるから、実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲1発明-2とは、少なくとも実質的な相違点である相違点2によって相違するから、甲1発明-2ではない。 (イ)本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-2ではない。 ウ.小括 以上のとおり、本件発明1?5は、甲1発明-1あるいは甲1発明-2ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。 (2)理由2(特許法第29条第2項)について ア.甲1発明-1を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-1とを対比すると、上記(1)ア.(ア)a.に示した《相違点1》について少なくとも相違する。 b.判断 特許権者が平成29年12月18日付け意見書で挙げた国際公開第2017/150718号には、「ポリアミド樹脂・・・UBE NYLON 1011FB(宇部興産(株)製)ポリアミド6、相対粘度2.0、・・・」との記載がある(段落0026参照)ものの、甲1発明-1の鞘部ポリマーのナイロン6(宇部興産社製、「UBEナイロン1011FB」)の硫酸相対粘度が2.6?3.3とすることは、甲2?6の何れにも記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、鞘部ポリマーの硫酸相対粘度を2.6?3.3にすることで、「沸騰水収縮率を規定とすることが容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上し、快適なテキスタイルの実現が容易となる」との格別な作用効果を奏する(本件特許の明細書の段落0034)。このような作用効果は、甲1および甲2?8に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明-1及び甲2?6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 平成30年2月22日付け意見書において申立人は、参考資料1?5を挙げて、ポリアミド繊維に用いるポリアミドの相対粘度を2.6?3.3の範囲とすることは周知の技術であると主張する。 しかし、芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーがポリアミドである吸湿性芯鞘複合糸において、硫酸相対粘度を2.6?3.3の範囲にすることで、「沸騰水収縮率を規定とすることが容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上し、快適なテキスタイルの実現が容易となる」(本件特許の明細書の段落0034)という技術思想までもが、参考文献1?5には開示されていて周知であるとはいえないから、申立人の主張は当を得たものではなく、採用することはできない。 (イ)本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲1発明-1及び甲2?6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.甲1発明-2を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲1発明-2とを対比すると、上記(1)イ.(ア)a.に示した《相違点2》について少なくとも相違する。 b.判断 本件特許の明細書には、沸騰水収縮率について、「本発明の芯鞘複合糸は、その沸騰水収縮率が6?11%である必要がある。本規定の範囲内とすることで、仮撚加工糸とし、その後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現できる。沸騰水収縮率が6%未満であると、仮撚加工前に芯鞘複合糸の結晶化が進行しており、仮撚加工で捲縮をかけても捲縮が入らずふくらみ感やソフトな風合いを実現できず、また11%より大きくなると、収縮が大きすぎるために、テキスタイルが硬い風合いとなる場合がある。沸騰水収縮率のより好ましい範囲は6?10%であり、さらに好ましくは7?9.5%である。」(段落0030)との記載がある。しかし、甲1発明-2は、「優れた染色性を有し、かつ、接触冷感及び肌触りが良好な生地を得る」(段落0008)ことを課題とするものであるから、甲1発明-2において、沸騰水収縮率を「12%」から「7?11%」の範囲へと変更する動機付けが存在しない。甲1の段落0069の表1には沸騰水収縮率を「7?11%」の範囲にした実施例1、3、9?12、15が記載されているけれども、鞘部用樹脂(鞘部ポリマー)としてナイロン11(アルケマ社製、「リルサン BESN TL」)を用いた芯鞘複合糸において沸騰水収縮率を「7?11%」の範囲にすることは、甲1にはもちろん、甲2?甲8にも記載はないし、示唆する記載もない。 本件発明1は、沸騰水収縮率を7?11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである。また、6%未満であると仮撚加工前に芯鞘複合糸の結晶化が進行しており仮撚加工で捲縮をかけても捲縮が入らずふくらみ感やソフトな風合いを実現できないことから好ましくは7%以上とし、11%より大きくなると、収縮が大きすぎるために、テキスタイルが硬い風合いとなる場合があるものである(本件特許の明細書の段落0030)。 このような作用効果は、甲1および甲2?6に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明-2及び甲2?6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 平成30年2月22日付け意見書において申立人は、参考資料6を挙げて、アルケマ社製「リルサン BESN TL」の硫酸相対粘度は3.0である旨を主張する。 しかし、仮に甲1発明-2の鞘部ポリマーのナイロン11(アルケマ社製「リルサン BESN TL」)の硫酸相対粘度が3.0であったとしても、上記b.で示したとおり、甲1発明-2において、沸騰水収縮率を「12%」から「7?11%」の範囲内のものとすることの動機は存在しないから、本件発明1は甲1発明-2及び甲2?6事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.甲3発明を主たる引用例とする理由2について (ア)本件発明1について a.対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点3及び4において相違する。 《相違点3》 「本件発明1は鞘部ポリマーのポリアミドの硫酸相対粘度が2.6?3.3であるのに対し、甲3発明における鞘部の6-ナイロン樹脂(ポリアミド)の硫酸相対粘度が2.43である点。」 《相違点4》 「沸騰水収縮率について、本件発明1は「7?11%」であるのに対し、甲3発明は不明である点。」 c.判断 (a)相違点3、4について 甲3発明において、鞘部の6-ナイロン樹脂(ポリアミド)の硫酸相対粘度を2.43から「2.6?3.3」の範囲に変更しつつ、芯鞘複合繊維の沸騰水収縮率について「7?11%」とすることは、甲3にはもちろん、甲2、7、8にも記載や示唆はされておらず、そのようにする動機は存在しない。 甲3発明は、鞘部の6-ナイロン樹脂について、95.7%硫酸溶液での相対粘度は「2.1?2.9が好ましく、なかでも2.1?2.6であることが好ましい。」とするものである(段落0009)。 しかし、鞘部の6-ナイロン樹脂について、実施例の2.43から「2.6?3.3」の範囲に変更しつつ、芯鞘複合繊維の沸騰水収縮率について「7?11%」とすることまでは、甲3には記載も示唆もされていない。 これに対し、本件発明1は、鞘部のポリアミドの硫酸相対粘度を2.6?3.3の範囲とすることで、沸騰水収縮率を規定することを容易とし、ΔMRの洗濯耐久性を向上し、快適なテキスタイルの実現を容易としつつ(本件特許の明細書の段落0034)、規定することが容易となった沸騰水収縮率を7?11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである(本件特許の明細書の段落0030)。 このように、ΔMRの洗濯耐久性と、これまでにない柔らかな風合いをともに実現するという作用効果は、甲3および甲2、7、8に接した当業者であっても予測し得ないものである。 よって、本件発明1は甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 c.申立人の意見について 特許異議申立書の27頁4?21行及び平成30年2月22日付け意見書の8頁1?15行において申立人は、甲7及び甲8を挙げて、合成繊維の沸騰水収縮率が布帛の風合いに影響することは当業者にとって周知技術である旨を主張する。 しかし、甲7事項はポリエステル(A)とポリアミド(B)とからなるサイドバイサイド型複合繊維(甲7の請求項1、3等参照)、甲8事項はポリアミド極細繊維に関するものである。布帛の風合いは、糸の構造(芯鞘型複合糸か、サイドバイサイド型複合糸か、複合糸でないか等)やその材質によって変動するものであって、本件発明1のように芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり鞘部ポリマーがポリアミドである芯鞘型複合糸において、風合いをよくするために沸騰水収縮率を設定するものではない。 そして、上記b.で示したとおり、本件発明1は、鞘部のポリアミドの硫酸相対粘度を2.6?3.3の範囲とすることで、沸騰水収縮率を規定とすることを容易とし、ΔMRの洗濯耐久性を向上し、快適なテキスタイルの実現を容易としつつ、沸騰水収縮率を7?11%とすることで、仮撚加工糸としその後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現するものである。このような技術思想は、甲7及び甲8には開示されていない。 (イ)本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1?5は、甲1発明-1及び甲2?6事項、甲1発明-2及び甲2?6事項あるいは甲3発明及び甲2、7、8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないから、取り消すことはできない。 第4.むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した上記取消理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 吸湿性芯鞘複合糸およびその製造方法 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、風合いに優れた吸湿性芯鞘複合糸に関するものである。 【背景技術】 【0002】 ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂から成る合成繊維は、強度、耐薬品性、耐熱性などに優れるために、衣料用途や産業用途など幅広く用いられている。 【0003】 特にポリアミド繊維はその独特な柔らかさ、高い引っ張り強度、染色時の発色性、高い耐熱性等の特性に加え、吸湿性に優れており、インナーウエア、スポーツウエアなどの用途に広く使用されている。しかしながら、ポリアミド繊維は綿などの天然繊維と比べると吸湿性は十分とはいえず、また、ムレやべたつきといった問題点を有し、快適性の面で天然繊維に劣ることが問題となっている。 【0004】 そのような背景からムレやべたつきを防ぐための優れた吸放湿性を示し、天然繊維に近い快適性を有する合成繊維が、主にインナー用途やスポーツ衣料用途において要望されている。 【0005】 そこで、ポリアミド繊維に親水性化合物を添加する方法が一般には最も多く検討されてきた。例えば、特許文献1には、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドンをポリアミドにブレンドして紡糸することで吸湿性能を向上させる方法が提案されている。 【0006】 一方、繊維の構造を芯鞘構造とし、高吸湿性の熱可塑性樹脂を芯部に、力学特性に優れた熱可塑性樹脂を鞘部とする芯鞘構造とすることで、吸湿性能と、力学特性を両立させる検討が盛んに行われている。 【0007】 例えば、特許文献2には、芯部と鞘部からなり芯部が繊維表面に露出しない形状の芯鞘複合繊維であり、ハードセグメントが6-ナイロンであるポリエーテルブロックアミド共重合物を芯部とし、6-ナイロン樹脂を鞘部とした、繊維横断面における芯部と鞘部の面積比率が3/1?1/5である芯鞘複合繊維が記載されている。 【0008】 また、特許文献3には、熱可塑性樹脂を芯部とし繊維形成性ポリアミド樹脂を鞘部とする芯鞘型複合繊維であって、該芯部を形成する熱可塑性樹脂の主成分がポリエーテルエステルアミドであり、かつ芯部の比率が複合繊維全重量の5?50重量%であることを特徴とする吸湿性に優れた芯鞘型複合繊維として、ポリエーテルエステルアミドを芯部に、ポリアミドを鞘部に配し、高吸湿性を発現させた芯鞘複合繊維が記載されている。 【0009】 また、特許文献4には、ポリアミド又はポリエステルを鞘成分、ポリエチレンオキサイドの架橋物からなる熱可塑性吸水性樹脂を芯成分としたことを特徴とする吸放湿性を有する複合繊維が記載されている。ここには、高吸湿性の非水溶性ポリエチレンオキシド変性物を芯部に、ポリアミドを鞘部に配した高吸湿芯鞘複合繊維が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0010】 【特許文献1】特開平9-188917号公報 【特許文献2】国際公開第2014/10709号 【特許文献3】特開平6-136618号公報 【特許文献4】特開平8-209450号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 しかしながら、特許文献1に記載の繊維は、天然繊維に近い吸放湿性を有しているものの、その性能は十分に満足できるものでなく、更なる高い吸放湿性の達成が課題である。 【0012】 また、特許文献2?4の芯鞘複合繊維は、天然繊維と同等かそれ以上の吸放湿性を有しているものの、芯部が繰り返しの実使用によって劣化し、繰り返し使用による吸湿性能の低下が課題であった。また、布帛としたときの風合いもナイロンと同等の柔らかさであるため不十分であった。既存品を超越するソフトな風合いが強く要望されてきた。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、前記従来技術の問題点を克服し、高い吸湿性能を有し天然繊維を超える快適性と、実使用に耐えうる吸湿性能の洗濯耐久性、さらにはこれまでに無い柔らかな風合いを実現できる芯鞘複合糸を提供することを目的とする。 【0014】 本発明は、上記課題を解決するために、下記の構成からなる。 【0015】 (1)芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーがポリアミドであって、沸騰水収縮率が6?11%である吸湿性芯鞘複合糸。 【0016】 (2)伸度が60?90%である(1)に記載の吸湿性芯鞘複合糸。 【0017】 (3)(1)または(2)の吸湿性芯鞘複合糸からなる仮撚加工糸。 【0018】 (4)(1)?(3)のいずれか1項に記載の吸湿性芯鞘複合糸を少なくとも一部に有する布帛。 【0019】 (5)紡糸口金から吐出された糸条を冷却風にて冷却固化した後、糸条に水溶液(エマルジョン油剤)を2度付与して巻き取る繊維の製造方法であって、1段階目と2段階目の付与時間のギャップが20msec以上である(1)または(2)に記載の吸湿性芯鞘複合糸の製造方法。 【発明の効果】 【0020】 本発明によれば、高い吸湿性能を有し天然繊維を超える快適性と、実使用に耐えうる吸湿性能の洗濯耐久性、これまでに無い柔らかな風合いを実現できる芯鞘複合糸を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0021】 本発明の芯鞘複合糸は、鞘部にポリアミド、芯部に高い吸湿性能を有する熱可塑性ポリマーを用いる。芯部の高い吸湿性能を有する熱可塑性ポリマーとは、ペレット形状で測定したΔMRが10%以上のポリマーを指し、ポリエーテルエステルアミド共重合体やポリビニルアルコール、セルロース系熱可塑性樹脂等があげられる。その中でも、熱安定性や鞘部のポリアミドとの相溶性が良く耐剥離性に優れる観点から、ポリエーテルエステルアミド共重合体を用いる。このような芯鞘複合糸とすることで、ΔMRの高い糸が実現でき、吸湿性に優れ、快適なテキスタイルが実現できる。なお、ΔMRとは、湿度調整の指標であり、軽?中作業あるいは軽?中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温湿度と、20℃×65%RHに代表される外気温湿度における吸湿率の差で表される。ΔMRは大きければ大きいほど吸湿性能が高く、着用時の快適性が良好であることに対応する。 【0022】 ポリエーテルエステルアミド共重合体とは、同一分子鎖内にエーテル結合、エステル結合およびアミド結合を持つブロック共重合体である。より具体的にはラクタム、アミノカルボン酸、ジアミンとジカルボン酸の塩から選ばれた1種もしくは2種以上のポリアミド成分(A)およびジカルボン酸とポリ(アルキレンオキシド)グリコールからなるポリエーテルエステル成分(B)を重縮合反応させて得られるブロック共重合体ポリマーである。 【0023】 ポリアミド成分(A)としては、ε-カプロラクタム、ドデカノラクタム、ウンデカノラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸,11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのω-アミノカルボン酸、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等の前駆体であるジアミン-ジカルボン酸のナイロン塩類があり、好ましいポリアミド形成性成分はε-カプロラクタムである。 【0024】 ポリエーテルエステル成分(B)は、炭素数4?20のジカルボン酸とポリ(アルキレンオキシド)グリコールとからなるものである。炭素数4?20のジカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカジ酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸をあげることができ、1種または2種以上混合して用いることができる。好ましいジカルボン酸はアジピン酸、セバシン酸、ドデカジ酸、テレフタル酸、イソフタル酸である。またポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール等があげられ、特に良好な吸湿性能を有するポリエチレングリコールが好ましい。 【0025】 ポリ(アルキレンオキシド)グリコールの数平均分子量は300?10000が好ましく、より好ましくは500?5000である。分子量が300以上であると、重縮合反応中に系外に飛散しにくく、吸湿性能が安定した繊維となるため好ましい。また、10000以下であると、均一なブロック共重合体が得られ製糸性が安定するため好ましい。 【0026】 ポリエーテルエステル成分(B)の構成比率はmol比にて、20?80%であることが好ましい。20%以上であると、良好な吸湿性が得られるため好ましい。また、80%以下であると、良好な染色堅牢性や洗濯耐久性が得られるため好ましい。 【0027】 このようなポリエーテルエステルアミド共重合体として、アルケマ社製“MH1657”や“MV1074”等が市販されている。 【0028】 鞘部のポリアミドには、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン9、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612等、あるいはそれらとアミド形成官能基を有する化合物、例えばラウロラクタム、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の共重合成分を含有する共重合ポリアミドがあげられる。中でも、ナイロン6および、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612が、ポリエーテルエステルアミド共重合体との融点の差が小さく、溶融紡糸時にポリエーテルエステルアミド共重合体の熱劣化が抑制でき、製糸性の観点から好ましい。中でも好ましくは、染色性に富むナイロン6である。 【0029】 本発明の鞘部のポリアミドには、各種の添加剤、たとえば、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、螢光増白剤、帯電防止剤、吸湿性ポリマー、カーボンなどを、総添加物の含有量が0.001?10重量%の間で必要に応じて共重合または混合していてもよい。 【0030】 本発明の芯鞘複合糸は、その沸騰水収縮率が6?11%である必要がある。本規定の範囲内とすることで、仮撚加工糸とし、その後テキスタイルとしたときに、従来のナイロンにはないソフトな風合いを実現できる。沸騰水収縮率が6%未満であると、仮撚加工前に芯鞘複合糸の結晶化が進行しており、仮撚加工で捲縮をかけても捲縮が入らずふくらみ感やソフトな風合いを実現できず、また11%より大きくなると、収縮が大きすぎるために、テキスタイルが硬い風合いとなる場合がある。沸騰水収縮率のより好ましい範囲は6?10%であり、さらに好ましくは7?9.5%である。 【0031】 沸騰水収縮率を6?11%とするには、上述の芯鞘複合糸とすることに加え、糸の生産時に油剤付与を2段階に分けて行うことが好ましい。油剤は糸の平滑性や収束性を向上させるためには必須であるが、冷却固化が完了した糸条に水溶液(エマルジョン)を付与し、一定時間置いた後、再度エマルジョンを付与することで、沸騰水収縮率を低下させることが容易となる。1段階目の付与にて同時に水分が糸に供給され、その際に結晶化が進み、さらに2段階目の給油により平滑性と収束性が確保されるためと考えられる。1段階目と2段階目の付与時間のギャップは20msec以上であると沸騰水収縮率を本発明の規定内に制御することが容易となるため、好ましい。付与時間のギャップは長いほうが好ましいが、長くするには工程を長くする必要があるため、効率的な生産を考慮し設定するのがよい。なお、糸の紡糸速度が3000m/分、1段階目と2段階目の油剤付与位置の差が1.5mのとき、付与時間のギャップは30msecである。さらに、油剤付与時の糸張力を0.15?0.40cN/dtexの範囲とすることが、糸の配向が促進されるため、沸騰水収縮率を本規定内とするために好ましい。なお、糸張力は、1段階目から2段階目までの間で測定する。 また、本発明の芯鞘複合糸の伸度は60?90%であることが好ましい。ソフト性の向上のためには仮撚加工すると良く、仮撚加工するためには伸度は60?90%であると捲縮の経時変化や繰り返しの引張りにおける捲縮低下が少なく、また、糸のソフト性をさらに向上させることができ、好ましい。 【0032】 本発明の芯鞘複合糸の総繊度、フィラメント数(長繊維の場合)、長さ・捲縮数(短繊維の場合)も特に限定はなく、断面形状も得られる布帛の用途等に応じて任意の形状とすることができる。衣料用長繊維素材として使用することを考慮すると、マルチフィラメントとしての総繊度は5デシテックス以上235デシテックス以下、フィラメント数は1以上144フィラメント以下が好ましい。また、断面形状は円形、三角、扁平、Y型、星形や偏芯型、貼り合わせ型が好ましい。 【0033】 本発明の芯鞘複合糸の芯部の比率は、複合糸100重量部に対して20重量部?80重量部であることが好ましく、更に好ましくは、30重量部?70重量部である。かかる範囲とすることにより、良好なΔMRが得られるほか、仮撚加工における加工性が良好となる。 【0034】 本発明の鞘部に使用するポリアミドチップは、硫酸相対粘度にて2.3以上3.3以下が好ましく、さらに好ましくは、2.6以上3.3以下である。かかる範囲とすることにより、沸騰水収縮率を規定とすることが容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上し、快適なテキスタイルの実現が容易となる。 【0035】 本発明の芯部に使用するポリエーテルエステルアミド共重合体のチップは、オルトクロロフェノール相対粘度(OCP相対粘度)にて1.2以上2.0以下であることが好ましい。オルトクロロフェノール相対粘度が1.2以上であると、紡糸時に鞘部に最適な応力が加わり、鞘部のポリアミドの結晶化が進み、沸騰水収縮率の制御が容易となるほか、ΔMRの洗濯耐久性が向上するため好ましい。 【0036】 本発明の芯鞘複合糸は、上述の好ましい製造方法のほかは、公知の溶融紡糸、複合紡糸の手法により得ることができるが、例示すると以下のとおりである。 【0037】 例えば、ポリアミド(鞘部)とポリエーテルエステルアミド共重合体(芯部)を別々に溶融しギヤポンプにて計量・輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して紡糸口金から吐出し、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより糸条を室温まで冷却する。上述の方法にて2段給油を行い、引き取りローラーを通過させる。引き取りローラーの周速度は3000?3900m/分が好ましい。引き取りローラーを通過した糸条は、好ましくは1.0?1.1倍の倍率で延伸を行い、延伸ローラーを通過させる。その後、パッケージフォームが好ましくなるような巻取り張力に調整した後、ワインダー(巻取装置)で巻き取る。 【0038】 本発明にて得られた芯鞘複合糸は仮撚加工することでソフト性が向上し、これまでに無い風合いが得られるものであるが、仮撚加工はフリクション加工、ピン加工、ベルトニップ加工など既知の技術を用いて行うことができる。コスト等を勘案した場合、フリクション加工が好ましく、捲縮性能を鑑みた場合、ピン加工が好ましい。いずれの加工においても仮撚加工後の伸度は捲縮の経時変化や仮撚加工性、その後の製織製編を鑑みた場合、25?40%で設定するのが好ましい。なお、良好な捲縮や経時変化を抑制するため、熱セットは140?170℃で行うことが好ましい。 【0039】 本発明の芯鞘複合糸は、布帛、衣料品に好ましく用いられ、布帛形態としては、織物、編物、不織布など目的に応じて選択でき、衣料も含まれる。また、衣料品としては、インナーウエア、スポーツウエアなどの各種衣料用製品とすることができる。 【実施例】 【0040】 以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。 【0041】 (1)硫酸相対粘度 試料0.25gを濃度98重量%の硫酸100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間(T1)を測定した。引き続き、濃度98重量%の硫酸のみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を硫酸相対粘度とした。 【0042】 (2)オルトクロロフェノール相対粘度(OCP相対粘度) 試料0.5gをオルトクロロフェノール100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間(T1)を測定した。引き続き、オルトクロロフェノールのみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2をOCP相対粘度とした。 【0043】 (3)繊度 1.125m/周の検尺器に繊維試料をセットし、200回転させて、ループ状かせを作成し、熱風乾燥機にて乾燥後(105±2℃×60分)、天秤にてかせ質量を量り、公定水分率を乗じた値から繊度を算出した。なお、芯鞘複合糸の公定水分率は、4.5重量%とした。 【0044】 (4)強度・伸度 繊維試料を、オリエンテック(株)製“TENSILON”(登録商標)、UCT-100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、2010年)に示される定速伸長条件で測定した。伸度は、引張強さ-伸び曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。また、強度は、最大強力を繊度で除した値を強度とした。測定は10回行い、平均値を強度および伸度とした。 【0045】 (5)沸騰水収縮率 繊維をかせ取りし、0.09cN/dtex荷重下で試料長S0を測定した後、無荷重の状態で15分間、沸騰水中で処理を行い、処理後、風乾し、0.09cN/dtexの荷重下で試料長S1を測定し、次式で算出した。 沸騰水収縮率=(S0-S1)/S0×100%・・・・・(1)。 【0046】 (6)伸縮復元率(CR) 仮撚加工糸の捲縮性を示す指標である。 【0047】 仮撚加工糸をかせ取りし、90℃の水中で20分間フリー処理し、風乾した。次に、25℃の水中で0.0018cN/dtexの荷重を掛け、2分後のかせ長L1を測定した。次に同じく水中で0.0018cN/dtexの荷重を取り除き、0.09cN/dtexの荷重を掛け、2分後のかせ長L0を測定し、次式で算出した。 CR=(L0-L1)/L0×100%・・・・・・・・・(2)。 【0048】 (7)ΔMR 筒編機にて、筒編地を度目が50となるように調整して作製した。繊維の正量繊度が低い場合は、筒編機に給糸する繊維の総繊度が50?100dtexとなるように適宜合糸し、総繊度が100dtexを超える場合は、筒編機への給糸を1本で行い、前記同様度目が50となるように調整して作製した。この筒編地を、秤量瓶に1?2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算した。 MR1=[(W65-W0)/W0]×100%・・・・・・(3) MR2=[(W90-W0)/W0]×100%・・・・・・(4) ΔMR=MR2-MR1・・・・・・・・・・・・・・・(5)。 【0049】 (8)洗濯後ΔMR 筒編地を、JIS L0217(1995)付表1記載の番号103記載の方法にて、繰り返し20回洗濯を実施した後、上記記載のΔMR(吸放湿性)を測定し算出した。 △MRが7.0%以上はS評価、5.0%以上をA評価とした。 【0050】 (9)洗濯後ΔMR保持率 洗濯前後のΔMRの変化指標として、洗濯後ΔMR保持率を下記式にて算出した。 洗濯処理後のΔMR/洗濯処理前のΔMR×100・・(6) △MR保持率が95%以上はS評価、90%以上で洗濯耐久性があり、着用時に良好な快適性が得られると判断した場合はA評価とした。それ以外はC評価とした。 【0051】 (10)布帛風合い 本発明の芯鞘複合糸と22デシテックスのポリウレタン弾性糸を用い、28Gのシングル丸編機にてベア天竺を作製、精錬、熱セット、染色、仕上げセットを経て、布帛を得た。また、通常のナイロン6の44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸(CR26%)を準備し、上記と同様にベア天竺編物を作製した。得られた布帛の風合いについて、比較評価を行った。SおよびAを合格とした。 S・・・通常のナイロン6を使用した布帛と比較し、はるかに柔らかい特性を示した。 A・・・通常のナイロン6を使用した布帛と比較し、柔らかさで優位である。 C・・・通常のナイロン6を使用した布帛と同等である。 【0052】 (11)総合評価 洗濯後ΔMR、洗濯後ΔMR保持率、布帛風合いですべてがS評価の場合、吸湿が良好である快適性に加え、ソフト性も優秀であり総合評価もSとした。すべてがA以上である場合を総合A評価、いずれかでCがあるものは総合C評価とした。 【0053】 (12)張力測定 東レエンジニアリング社製のTENSION METERとFT-Rピックアップセンサーを用い張力値を測定した。 【0054】 1段目の油剤付与時の糸張力は、1段目と2段目の給油装置間で張力値を測定し、張力値を繊度で割り返した値(cN/dtex)とした。 【0055】 巻取り張力は、第2ローラーとワインダー間で張力値(cN)を測定した。 【0056】 [実施例1] ポリアミド成分がナイロン6、およびポリエーテル成分(ポリ(アルキレンオキシド)グリコール)が分子量1500のポリエチレングリコールであり、ポリエーテル成分の構成比率はmol比にて約76%であるポリエーテルエステルアミド共重合体(アルケマ社製、MH1657、オルトクロロフェノール相対粘度:1.69)を芯部とし、硫酸相対粘度が2.71、アミノ末端基量が5.95×10^(-5)mol/gであるナイロン6を鞘部とし、270℃にて溶融し、同心円芯鞘複合用口金から芯/鞘比率(重量部)=50/50になるように紡糸した。なお、アミノ末端基量は重合時にヘキサメチレンジアミンおよび酢酸にて調整した。 【0057】 この時、得られる芯鞘複合糸の総繊度が57dtexとなるようにギヤポンプの回転数を選定し、芯成分、鞘成分それぞれ19.6g/minの吐出量とした。口金ノズルより吐出した糸条は糸条冷却装置冷却固化した後、給油装置により1%濃度のエマルジョン油剤を用いて1段階目の油剤付与を実施した。このときの糸の張力は0.30cN/dtexであった。1段階目の給油から2.0m下流に2段階目の給油装置を設置し、15%濃度のエマルジョン油剤を用いて油剤付与を行った。その後、3,500m/分の速度で回転する第1ローラーにて一旦引き取り、引き続いて同速度で回転する第2ローラーを介し、さらに、巻取り張力が5cNとなるように3,430m/分の周速度に調整したワインダーにて巻き取った。すなわち、この場合、1段階目から2段階目までの油剤付与の時間ギャップは34msecとしている。得られた芯鞘複合糸の物性は表1に示す通りであり、沸騰水収縮率8.5%、伸度75%である芯鞘複合糸を得た。 【0058】 この芯鞘複合糸を、フリクション型仮撚加工機を用いて、加工倍率1.3倍、加工速度400m/分、ヒーター温度150℃にて加工を行い、伸度が34%である44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。なお、本仮撚条件は実施例、比較例共に共通して用いた条件である。 【0059】 得られた仮撚加工糸を評価したところ、ΔMRは12.1%、洗濯後ΔMRは11.8%、すなわち、ΔMR保持率98%と非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示し、布帛の風合いも非常に良く、通常のナイロンを超越する柔らかさであった。したがって、総合評価はSとなった。 【0060】 [実施例2] 第1ローラー、および、第2ローラーの速度を3,200m/分とし、1段階目と2段階目の位置関係は実施例1と同一の2.0mで紡糸した。すなわち、油剤付与の時間ギャップを38msecとして紡糸した。なお、巻取り張力が5cNとなるようにワインダーの速度を調整したことは実施例1と同様である。また、ポリマーの吐出量は仮撚加工糸の繊度が44dtexとなるように調整した。得られた芯鞘複合糸の物性は表1に示す通りであり、沸騰水収縮率7.2%、伸度81%であった。 【0061】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を1.35倍とし、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0062】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが11.2%、ΔMR保持率が97%と、非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示した。布帛の風合いも非常に良く、通常のナイロンを超越する柔らかさであった。したがって、総合評価はSであった。 【0063】 [実施例3] 延伸倍率を1.05倍とした。すなわち、第1ローラーは3,500m/分、第2ローラーは3,675m/分として紡糸した。油剤付与の時間ギャップは実施例1と同様とし、その他の条件も実施例1と同様の考え方で設定した。得られた芯鞘複合糸の物性は表1に示す通りであり、沸騰水収縮率9.5%、伸度66であった。 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を調整した以外は実施例1と同様に仮撚加工を行い、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0064】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが12.8%、ΔMR保持率が98%と、非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示した。一方、布帛の風合いは、芯鞘複合糸の沸騰収縮率が実施例1よりも高かったため、若干の粗硬感が見られたが、通常のナイロン6を使用した布帛よりも良好な柔らかさであった。したがって、総合評価はAであった。 【0065】(削除) 【0066】(削除) 【0067】(削除) 【0068】 [実施例5] 芯/鞘比率(重量部)=20/80とし、さらに第1ローラー、第2ローラーとも3,800m/分、1段階目の油剤付与から1.25m下流に2段階目の油剤付与を行うように変更した。すなわち、油剤付与の時間ギャップを20msecとして紡糸した。得られた芯鞘複合糸の物性は表1に示す通りであり、時間ギャップを短く設定したため、沸騰水収縮率はやや高めとなり、沸騰水収縮率10.8%、伸度58%であった。 【0069】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を設定した以外は実施例1と同様に仮撚加工を実施し、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0070】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが5.9%、ΔMR保持率が98%であり、良好な吸放湿性を示し、非常に良好な吸放湿性の洗濯耐久性を示した。一方、布帛の風合いは芯鞘複合糸の沸騰収縮率が実施例1よりも高かったため、若干の粗硬感が見られたが、通常のナイロン6を使用した布帛よりも良好な柔らかさであった。したがって、総合評価はAとなった。 【0071】 [実施例6] 硫酸相対粘度が3.30、アミノ末端基量が4.78×10^(-5)mol/gであるナイロン6を鞘部とした以外は実施例1と同様に紡糸した。得られた芯鞘複合糸の物性は表1に示す通りであり、沸騰水収縮率9.3%、伸度70%であった。 【0072】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を設定した以外は実施例1と同様に仮撚加工を実施し、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0073】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが12.2%、ΔMR保持率が99%と、非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示した。布帛の風合いも非常に良く、通常のナイロンを超越する柔らかさであった。したがって、総合評価もSであった。 【0074】(削除) 【0075】(削除) 【0076】(削除) 【0077】 [比較例1] 硫酸相対粘度が2.15、アミノ末端基量が4.70×10^(-5)mol/gであるナイロン6を鞘部とし、第1ローラー、および、第2ローラーの速度を4,000m/分とし、1段目と2段目の位置関係は実施例1と同一の2.0mで紡糸した。すなわち、油剤付与の時間ギャップを30msecとして紡糸した。得られた芯鞘複合糸の物性は表2に示す通りであり、沸騰水収縮率は11.5%、伸度68%であった。 【0078】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を設定した以外は実施例1と同様に、仮撚加工を実施し、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0079】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが7.5%、ΔMR保持率が70%であり、吸放湿性の洗濯耐久性に劣るものであった。さらに、布帛の風合いは、沸騰水収縮率が実施例よりも高かったため、粗硬感が強く、通常のナイロン6を使用した布帛と同等のものしか得られなかった。したがって、総合評価はCであった。 【0080】 [比較例2] 第1ローラー、および、第2ローラーの速度を4,200m/分とし、1段階目と2段階目の位置関係は実施例1と同一の2.0mで紡糸した。すなわち、油剤付与の時間ギャップを7msecとして紡糸した。得られた芯鞘複合糸の物性は表2に示す通りであり、沸騰水収縮率は14.5%、伸度70%であった。 【0081】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を設定した以外は実施例1と同様に、仮撚加工を実施し、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0082】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが10.6%、ΔMR保持率が96%と、非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示した。一方、布帛の風合いは、沸騰水収縮率が実施例よりも高かったため、粗硬感が強く、通常のナイロン6を使用した布帛と同等のものしか得られなかった。C評価であった。したがって、総合評価はCであった。 【0083】 [比較例3] 第2ローラーの速度を3,465m/分、第2ローラーの表面温度を130℃とした以外は実施例1と同様に紡糸した。得られた芯鞘複合糸の物性は表2に示す通りであり、沸騰水収縮率は5.2%、伸度70%であった。 【0084】 仮撚加工は実施例1と同様に行ったが、仮撚加工糸の伸度が35%となるように加工倍率を設定した以外は実施例1と同様に仮撚加工を実施し、44dtex-26フィラメントの仮撚加工糸を得た。 【0085】 得られた仮撚加工糸は、洗濯後ΔMRが11.5%、ΔMR保持率が96%と、非常に良好な吸放湿性と吸放湿性の洗濯耐久性を示した。一方、布帛の風合いは、沸騰水収縮率が実施例よりも低かったため、芯鞘複合糸の結晶化が進行しており、捲縮が入らず、ふくらみ感に欠け、通常のナイロン6を使用した布帛と同等のものしか得られなかった。したがって、総合評価はCであった。 【0086】 【表1】 【0087】 【表2】 【産業上の利用可能性】 【0088】 本発明の芯鞘複合糸により、高い吸湿性能、および、実使用に耐えうる吸湿性能の洗濯耐久性を有し、かつ、柔らかな風合いを実現できる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 芯部ポリマーがポリエーテルエステルアミド共重合体であり、鞘部ポリマーが硫酸相対粘度2.6?3.3であるポリアミドであって、沸騰水収縮率が7?11%である吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項2】 伸度が60?90%である請求項1に記載の吸湿性芯鞘複合糸。 【請求項3】 請求項1または2記載の吸湿性芯鞘複合糸からなる仮撚加工糸。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の吸湿性芯鞘複合糸を少なくとも一部に有する布帛。 【請求項5】 紡糸口金から吐出された糸条を冷却風にて冷却固化した後、糸条に水溶液(エマルジョン油剤)を2度付与して巻き取る繊維の製造方法であって、1段階目と2段階目の付与時間のギャップが20msec以上である請求項1または2に記載の吸湿性芯鞘複合糸の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-14 |
出願番号 | 特願2016-556911(P2016-556911) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(D01F)
P 1 651・ 113- YAA (D01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也、久保田 葵 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
谿花 正由輝 久保 克彦 |
登録日 | 2017-02-17 |
登録番号 | 特許第6090546号(P6090546) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 吸湿性芯鞘複合糸およびその製造方法 |