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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1340077
異議申立番号 異議2017-700721  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-25 
確定日 2018-03-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6066158号発明「エポキシ樹脂,硬化性樹脂組成物,その硬化物,半導体封止材料,及び半導体装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6066158号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4〕,5及び〔6?11〕について訂正することを認める。 特許第6066158号の請求項3及び5に係る発明についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6066158号の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6066158号(請求項の数11。以下,「本件特許」という。)は,平成24年1月27日を出願日とする特許出願(特願2012-15225号)に係るものであって,平成29年1月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成29年1月25日である。)。
その後,本件特許の請求項1?11に係る発明についての特許に対して,特許異議申立人である大島 静江(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成29年 7月25日 特許異議申立書
8月10日 手続補正書(特許異議申立書の補正)
10月 2日 取消理由通知書
11月21日 意見書,訂正請求書
12月 5日 通知書(訂正請求があった旨の通知)

なお,上記通知書(訂正請求があった旨の通知)に対して,申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成29年11月21日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?4,5及び6?11について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を,
「下記構造式(1)
【化1】

(式中,R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し,かつ,示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にあることを特徴とする結晶性エポキシ樹脂。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3の何れか1項記載」とあるのを,「請求項1又は2記載」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を,
「エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)とを必須成分する硬化性樹脂組成物であって,前記エポキシ樹脂(A)として,下記構造式(1)
【化4】

(式中,R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し,かつ,示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある結晶性エポキシ樹脂(a)を用いることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。」と訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び5について
訂正事項1及び5に係る訂正は,それぞれ,訂正前の請求項1及び5における,構造式(1)で表される化合物の含有割合について,GPC測定における面積比率で「70%以上」を同「80?98面積%」とするものである。
これらの訂正は,構造式(1)で表される化合物の含有割合について,GPC測定における面積比率で「70%以上」を同「80?98面積%」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書」という。)には,「前記構造式(1)で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%で含有する」(請求項3),「また,本発明のエポキシ樹脂中の,前記構造式(1)で表される化合物のGPC測定による含有率を80?98面積%の範囲に調節するには,・・・を行うことが好ましい。」(【0053】)との記載があるから,これらの訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4に係る訂正は,訂正前の請求項3及び5を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,これらの訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1?3の何れか1項」を「請求項1又は2」に訂正するものである。
この訂正は,上記の訂正事項2及び4による請求項の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?4について,請求項2?4は,請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
訂正前の請求項6?11について,請求項7?11は,請求項6を直接的又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項5によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項6?11に対応する訂正後の請求項6?11は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号又は3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?11に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ項番に従い「本件発明1」等という。)。

【請求項1】
下記構造式(1)
【化1】

(式中,R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し,かつ,示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にあることを特徴とする結晶性エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記構造式(1)で表される化合物が下記構造式(1-b)
【化2】

(式中,R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
である請求項1記載の結晶性エポキシ樹脂。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が,そのエポキシ当量が163?200g/eq.の範囲にあるものである請求項1又は2記載の結晶性エポキシ樹脂。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)とを必須成分する硬化性樹脂組成物であって,前記エポキシ樹脂(A)として,下記構造式(1)
【化4】

(式中,R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し,かつ,示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある結晶性エポキシ樹脂(a)を用いることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
硬化剤(B)が,フェノール化合物である請求項6記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
更に無機質充填材を組成物中70?95質量%となる割合で含有する請求項6又は7記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6?8の何れか一つの熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項10】
半導体封止材料である請求項8記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて半導体チップを封止してなる半導体装置。

第4 特許異議の申立ての概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件発明1?11(本件訂正前の請求項1?11に係る発明に対応する。)は,下記(1)?(5)のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?11に係る発明についての特許は,特許法113条2号又は4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記(6)の甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。)並びに参考資料1及び2を提出する。

(1)取消理由1(新規性)
本件発明1,2及び4は,甲1に記載された発明を静置したものであり,本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから,特許法29条1項2号に該当し特許を受けることができないものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件発明1,2及び4は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)取消理由3(進歩性)
本件発明1?4及び6?11は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(4)取消理由4(進歩性)
本件発明5は,甲2に記載された発明及び周知技術(参考資料1及び2)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)取消理由5(サポート要件)
本件発明1,2及び4?11については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
(6)証拠方法
・甲1 米国特許第5300618号明細書
・甲2 特開2008-184598号公報
・甲3 特開平10-182789号公報
・甲4 実験成績証明書
・参考資料1 特開2012-219081号公報
・参考資料2 特開2012-52062号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
上記1の取消理由4(進歩性),同取消理由5(サポート要件)(ただし,本件発明1,2,4及び6?11に対して。)と同旨。

第5 当審の判断
本件特許の請求項3及び5が本件訂正により削除された結果,同請求項3及び5に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由4(進歩性)
取消理由4は,本件発明5を対象とするものであるが,上記のとおり,本件特許の請求項5に係る発明についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,取消理由4について判断しない。

(2)取消理由5(サポート要件)
ア 本件発明1,2及び4について
本件明細書の記載(【0011】)によれば,本件発明1の課題は,硬化前においてはハンドリング性に優れるとともに,硬化後は高い難燃性と耐湿耐半田性を発現するエポキシ樹脂を提供することであると認められる。
このような課題に対して,本件明細書には,以下の記載がある。
「本発明者らは,上記課題を解決するため,鋭意検討した結果,特定のベンゾイルジグリシジルオキシベンゼンを主たる成分とし,かつ,DSC測定において所定の融点領域を有するエポキシ樹脂を主剤として用いた場合に,硬化前のハンドリング性に優れると共に,硬化物においてハロゲンフリーで高い難燃性と耐湿耐半田性が飛躍的に向上することを見出し,本発明を完成するに至った。」(【0012】)
「本発明では融点が70℃未満となる場合には,常温液状乃至低融点のエポキシ樹脂となって保存時のブロッキング化を招きやすくハンドリング性が低いものとなる他,エポキシ樹脂中に占める上記構造式(1)で表される化合物の含有量が少なくなり,硬化物の難燃性の低下を招くものとなる。」(【0033】)
「また,本発明では,融点は,特に,70℃以上98℃以下の範囲に位置することが望ましい。融点が98℃以下の範囲となることにより,常温(25℃)にて結晶性に富み,ハンドリング性に優れ硬化剤等との混合時における均一性が良好なものとなる他,溶融混練時における流動性に優れ,トランスファー成形工程における成形性に優れたものとなる。」(【0034】)
「上記した本発明のエポキシ樹脂は,更に具体的には,下記構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で70%以上となる割合で含有するものであることが硬化物の難燃性に優れる点から好ましい。」(注:構造式は省略。以下同様。)(【0040】?【0042】)
以上の記載を踏まえ,本件発明1の構成を前提とすれば,本件発明1の課題は,エポキシ樹脂において,「構造式(1)・・・で表される化合物」の含有割合を「GPC測定における面積比率で80?98面積%」とし,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点」を「70℃以上98℃以下の範囲」とし,常温にて「結晶性」とすることによって,解決されるとされていることが理解できる。
そして,本件明細書には,本件発明1を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(表1等を参照。),これらの実施例及び比較例によれば,実施例において,実際に結晶性エポキシ樹脂が得られており(結晶性であるため,ハンドリング性に優れるものと解される。),その硬化物は高い難燃性と耐湿耐半田性を有するものであることが示されているといえる。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,本件発明1の構成を備えるエポキシ樹脂によれば,同実施例と同様に,ハンドリング性に優れるとともに,その硬化物は高い難燃性と耐湿耐半田性を有することが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。また,本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2及び4についても同様であり,本件発明2及び4は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

イ 本件発明6?11について
本件発明6は,本件発明1と同じエポキシ樹脂を用いる熱硬化性樹脂組成物に関する発明であるが,上記アで述べたとおり,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである以上,本件発明6及び同発明を直接的又は間接的に引用する本件発明7?11についても同様であり,本件発明6?11は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

ウ まとめ
したがって,取消理由5によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
なお,申立人は,取消理由5に関し,本件発明5についても主張するが,上記のとおり,本件特許の請求項5に係る発明についての本件特許異議の申立ては却下すべきものであるから,本件発明5について判断しない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由1(新規性)
ア 甲1に記載された発明
甲1の記載(実験例1)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「攪拌機,温度計,ディーン・スターク凝縮器及び滴下漏斗を備えた丸底フラスコに,ベンゾイルレゾルシノール(240.8グラム,1.125モル)及びエピクロロヒドリン(1041グラム,11.25モル)を投入し,フラスコの内容物を100?125℃まで加熱し,ベンゾイルレゾルシノール及びエピクロロヒドリンの還流溶液に水酸化ナトリウム水溶液(50%W/W,183グラム,2.29モル)をゆっくりと添加し,共沸水を連続的に除去しながら,分離したエピクロロヒドリンを連続的に反応フラスコに戻し,その後,最初に大気圧下で,次いで真空蒸留条件下(最高ポット温度130?135℃,真空度27?28インチ(Hg))で,過剰のエピクロロヒドリンを留去し,次に,1200mlのアセトンを加え,15分間還流してエポキシドを溶解させ,最後に,塩,塩化ナトリウムをろ過し,溶媒アセトンを常圧蒸留条件と減圧蒸留条件(温度95?97℃,真空度27?28インチ(Hg))の両方を用いて蒸留除去して得られた,エポキシ当量(EEW)180を有する352グラムのエポキシド(収率96%)。」(以下,「甲1発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると,両者は,エポキシ樹脂に関するものである点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」する(注:構造式は省略。以下同様。)のに対して,甲1発明では,どのような化合物をどの程度の割合で含有するのか特定されていない点。
・相違点2
本件発明1では,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」のに対して,甲1発明では,融点が特定されていない点。
・相違点3
本件発明1では,エポキシ樹脂が「結晶性」のものであるのに対して,甲1発明では,結晶性のものであるのかどうか明らかではない点。

(イ)相違点1?3の検討
甲1には,実験例1で得られたエポキシド(甲1発明に係るエポキシド)に関し,そのエポキシドが結晶性のものであるのかどうかについて,何ら記載されておらず,また,そのエポキシドを結晶性のものとすることについても,何ら記載されていない。さらに,どのような化合物をどの程度の割合で含有するのか,その融点はどの程度であるのかについても,何ら記載されていない。そして,甲1発明に係るエポキシドであれば,必ず,「結晶性」のものであり,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものであり,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものであることが,技術常識であるともいえない。
この点,申立人は,上記実験例1の再現実験の結果が示されているとされる実験成績証明書(甲4)を提出し,相違点1?3はいずれも実質的な相違点ではないと主張する。
しかしながら,上記実験成績証明書には,作成日並びに作成者名及びその押印がなく,また,実際に再現実験を行った日時及び場所のほか,実験者名も記載されていないから,そもそも,実験成績証明書自体の信用性を疑わざるを得ず,上記実験成績証明書が,実際に上記実験例1を忠実に再現したものであると認めることができない。
そうすると,上記実験成績証明書に基づいて,甲1発明に係るエポキシドに関し,所定の条件で静置した場合に「結晶性」のものが得られるとか,その「結晶性」のエポキシドが,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものであるとか,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものであるなどと認めることはできない。
なお,念のため,その内容を検討しても,上記実験成績証明書には,得られたエポキシ化合物の結晶物のGPC測定における面積比率が「72.35%」であったことが記載されており,本件発明1における「80?98面積%」とは相違する。
以上によれば,相違点1?3は,いずれも,実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明を静置したものであり,本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。

ウ 本件発明2及び4について
本件発明2及び4は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明を静置したものであり,本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない以上,本件発明2及び4についても同様に,甲1に記載された発明を静置したものであり,本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び4は,いずれも,甲1に記載された発明を静置したものであり,本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるとはいえないから,申立人が主張する取消理由1は理由がない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由2(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とは,上記(1)イ(ア)で述べたとおり,少なくとも,相違点1?3で相違する。

(イ)相違点1?3の検討
上記(1)イ(イ)で述べたとおり,甲1には,実験例1で得られたエポキシド(甲1発明に係るエポキシド)に関し,そのエポキシドが結晶性のものであるのかどうかについて,何ら記載されておらず,また,そのエポキシドを結晶性のものとすることについても,何ら記載されていない。さらに,どのような化合物をどの程度の割合で含有するのか,その融点はどの程度であるのかについても,何ら記載されていない。そして,甲1発明に係るエポキシドであれば,必ず,「結晶性」のものであり,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものであり,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものであることが,技術常識であるともいえない。
また,申立人が提出した実験成績証明書(甲4)を採用することができないことも,上記(1)イ(イ)で述べたとおりである。
そうすると,甲1発明において,得られたエポキシドを「結晶性」のものとし,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものとし,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものとすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2及び4について
本件発明2及び4は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4についても同様に,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1,2及び4は,いずれも,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由2は理由がない。
したがって,取消理由2によっては,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由3(進歩性)
ア 甲2に記載された発明
甲2の記載(製造例1【0048】)によれば,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「還流装置,攪拌装置,減圧装置,滴下装置を備えたフラスコ中に,2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン214重量部(1.0mol)およびエピクロルヒドリン1110重量部(12.0mol)を仕込み,滴下装置中に水酸化ナトリウム166.6重量部(2.0mol)を48重量%水溶液として入れておき,その水酸化ナトリウム水溶液を,内部温度60?80℃で100?150Torrの還流下で2時間かけて滴下し,同時に,共沸蒸留により水を除去し,その後さらに2時間反応させた後,脱エピクロルヒドリン,水洗,脱溶剤およびろ過をして得られた,エポキシ樹脂(エポキシ当量185,可鹸化塩素0.02%,粘度50dPa・s/50℃)(EP-1)。」(以下,「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると,両者は,エポキシ樹脂に関するものである点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明1では,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」する(注:構造式は省略。以下同様。)のに対して,甲2発明では,どのような化合物をどの程度の割合で含有するのか特定されていない点。
・相違点5
本件発明1では,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」のに対して,甲2発明では,融点が特定されていない点。
・相違点6
本件発明1では,エポキシ樹脂が「結晶性」のものであるのに対して,甲2発明では,結晶性のものであるのかどうか明らかではない点。

(イ)相違点4?6の検討
a 甲2には,製造例1で得られたエポキシ樹脂(甲2発明に係るエポキシ樹脂)に関し,そのエポキシ樹脂が結晶性のものであるのかどうかについて,何ら記載されておらず,また,そのエポキシ樹脂を結晶性のものとすることについても,何ら記載されていない。さらに,どのような化合物をどの程度の割合で含有するのか,その融点はどの程度であるのかについても,何ら記載されていない。そして,甲2発明に係るエポキシ樹脂であれば,必ず,「結晶性」のものであり,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものであり,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものであることが,技術常識であるともいえない。
b 甲2には,エポキシ樹脂は,各種基材への接着性に優れており,また,エポキシ樹脂を硬化剤で硬化させた硬化物は,耐熱性,耐薬品性,電気特性,機械特性等に優れているため,塗料,接着剤,各種成形材料等の用途に用いられていること(【0002】),エポキシ樹脂組成物は,液状のエポキシ樹脂と液状または固体の硬化剤等とを組み合わされて用いられるが,常温で硬化剤と容易に反応するので,使用直前に両者を混合する必要がある等の欠点があること(【0003】),このような欠点を克服するために,常温では反応性に乏しく,加熱によって反応する硬化剤を予め混合して用いる,一液型のエポキシ樹脂組成物が種々開発されていること(【0004】),本発明の目的は,硬化性,貯蔵安定性に優れ,接着性にも優れた,一液型として使用することのできる硬化性エポキシ樹脂組成物を提供すること(【0007】)が記載されている。
これらの記載によれば,甲2発明に係るエポキシ樹脂は,液状の形態で硬化剤と組み合わされて,一液型のエポキシ樹脂組成物として,塗料,接着剤,各種成形材料等の用途に用いられるものと解される。
一方,甲3には,半導体封止材料用として,結晶性エポキシ樹脂が種々検討されていること(【0003】),従来の半導体封止材料は,溶剤溶解性が非常に悪く,エポキシ化工程中に結晶化を起こしたり,得られたエポキシ樹脂の融点が150℃以上もあるために,溶混練時に硬化反応が開始したり,ゲル化も生じてしまうため,実際には半導体封止材料の調整ができないという課題を有していたこと(【0004】),本発明は,半導体封止材料用途に使用可能な適度な融点(70?140℃の範囲内)を有し,エポキシ化工程中に結晶化を招くことがない等のエポキシ樹脂組成物及び半導体封止材料を提供することを課題とするものであること(【0005】)が記載されている。
以上によれば,甲2発明と甲3に記載された事項とは,いずれもエポキシ樹脂に関するものである点で共通するものの,具体的に適用される用途が,甲2発明では,塗料,接着剤,各種成形材料等であるのに対して,甲3では,半導体封止材料であり,両者は異なるものである。そして,甲2発明に係るエポキシ樹脂は,上記のとおり,液状のままで,塗料,接着剤,各種成形材料等の用途に用いられることを前提としたものであるから,たとえ,甲3に,半導体封止材料に用いられる結晶性エポキシ樹脂に関し,その融点を70?140℃の範囲内とすることが記載されているとしても,甲2発明において,エポキシ樹脂を「結晶性」のものとし,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものとし,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものとすることが動機付けられるとはいえない。むしろ,液状のままで用いられることを前提とした甲2発明においては,エポキシ樹脂を「結晶性」のものとすることは,阻害されているともいえる。
そうすると,甲2発明において,得られたエポキシ樹脂を「結晶性」のものとし,「構造式(1)・・・で表される化合物を,GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有」するものとし,「示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある」ものとすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2及び4について
本件発明2及び4は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4についても同様に,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明6?11について
本件発明6は,本件発明1と同じエポキシ樹脂を用いる熱硬化性樹脂組成物に関する発明であるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明6及び同発明を直接的又は間接的に引用する本件発明7?11についても同様に,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ まとめ
以上のとおり,本件発明1,2,4及び6?11は,いずれも,甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由3は理由がない。
したがって,取消理由3によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項3及び5が本件訂正により削除された結果,同請求項3及び5に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により決定をもって却下すべきものである。
また,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1,2,4及び6?11に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を、GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にあることを特徴とする結晶性エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記構造式(1)で表される化合物が下記構造式(1-b)
【化2】

(式中、R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
である請求項1記載の結晶性エポキシ樹脂。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、そのエポキシ当量が163?200g/eq.の範囲にあるものである請求項1又は2項記載の結晶性エポキシ樹脂。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)とを必須成分する硬化性樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂(A)として、下記構造式(1)
【化4】

(式中、R^(1)は水素原子又はメトキシ基を表す。)
で表される化合物を、GPC測定における面積比率で80?98面積%となる割合で含有し、かつ、示差走査熱量測定(DSC)にて毎分10℃の速度で昇温した際の融点が70℃以上98℃以下の範囲にある結晶性エポキシ樹脂(a)を用いることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
硬化剤(B)が、フェノール化合物である請求項6記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
更に無機質充填材を組成物中70?95質量%となる割合で含有する請求項6又は7記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6?8の何れか一つの熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項10】
半導体封止材料である請求項8記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて半導体チップを封止してなる半導体装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-13 
出願番号 特願2012-15225(P2012-15225)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 112- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 猛
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6066158号(P6066158)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 エポキシ樹脂、硬化性樹脂組成物、その硬化物、半導体封止材料、及び半導体装置  
代理人 小川 眞治  
代理人 河野 通洋  
代理人 河野 通洋  
代理人 小川 眞治  
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