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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1340079
異議申立番号 異議2017-700792  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-15 
確定日 2018-03-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6078999号発明「カラーフィルタ用赤色顔料分散液及びその製造方法,カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物及びその製造方法,カラーフィルタ,並びに,液晶表示装置及び有機発光表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6078999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1-6,8,10-12],[7],[9]について訂正することを認める。 特許第6078999号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6078999号(以下「本件特許」という。)の請求項1?請求項12に係る特許についての出願(特願2012-141274号)は,平成24年6月22日(優先権主張平成23年9月2日)に特許出願され,平成29年1月27日にその特許権の設定登録がされ,同年2月15日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である同年8月15日に,特許異議申立人秋山満により特許異議の申立てがされ,同年11月21日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成30年1月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされ,その訂正の請求に対して特許異議申立人秋山満から同年2月28日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に,「nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」なる構成を追加する。請求項1の記載を引用する請求項2?請求項6,請求項8,請求項10?請求項12も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項7に,「nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」なる構成を追加する。

(3)訂正事項3
請求項9に,「nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」なる構成を追加する。

2 訂正の目的の適否,一群の請求項,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
訂正事項1について,請求項2?請求項6,請求項8及び請求項10?請求項12は,請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているから,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正事項1は,一群の請求項に対して請求されたものであり,特許法120条の5第4項の規定を満たす。
訂正事項1に関連する記載として,明細書の段落【0076】には,請求項1に記載された一般式(IV)と同じ一般式(IV)が記載されるとともに,その説明として,「n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」と記載されている。したがって,訂正事項1に係る訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定を満たす。
また,訂正事項1は,前述のとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定を満たす。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
訂正事項2に関連する記載として,明細書の段落【0076】には,請求項7に記載された一般式(IV)と同じ一般式(IV)が記載されるとともに,その説明として,「n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」と記載されている。したがって,訂正事項2に係る訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定を満たす。
また,訂正事項2は,前述のとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定を満たす。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
訂正事項3に関連する記載として,明細書の段落【0076】には,請求項9に記載された一般式(IV)と同じ一般式(IV)が記載されるとともに,その説明として,「n及びn’は5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」と記載されている。したがって,訂正事項3に係る訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定を満たす。
また,訂正事項3は,前述のとおり明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定を満たす。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法120条の5第2項3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条4項,及び,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項[1?6,8,10?12],[7],[9]について訂正を認める。

第3 特許異議の申立について
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?訂正請求項12に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明12」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1?請求項12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1
「【請求項1】
アントラキノン骨格を有する赤色顔料と,黄色顔料のスルホン化誘導体と,顔料分散剤と,溶媒とを含有し,前記顔料分散剤が,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと,ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって,前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が,下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し,さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である,カラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化1】

(式(IV)中,R^(4)は水素原子又はメチル基であり,R^(5)は炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は,それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は,水素原子,あるいは炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,-CHO,-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり,R^(9)は,炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は,炭素数1?18のアルキル基であり,R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。)
【請求項2】
前記黄色顔料のスルホン化誘導体が,C.I.ピグメントイエロー138のスルホン化誘導体である,請求項1に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項3】
前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料が,C.I.ピグメントレッド177である,請求項1又は2に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項4】
前記黄色顔料のスルホン化誘導体の含有量が,前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料100質量部に対して1?25質量部である,請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項5】
前記顔料分散剤において,前記エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーが,下記一般式(I)で表される,請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化2】

(式(I)中,R^(1)は水素原子又はメチル基,R^(2)及びR^(3)は,各々独立に,水素原子,又は置換されていてもよい環状若しくは鎖状の炭化水素基を表すか,R^(2)及びR^(3)が互いに結合して環状構造を形成する。Qは2価の連結基を表す。)
【請求項6】
前記顔料分散剤において,前記有機酸化合物が,下記一般式(II)及び/又は下記一般式(III)で表される,請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化3】

(式(II)及び式(III)中,R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に,水素原子,水酸基,炭素数1?18のアルキル基,炭素数2?18のアルケニル基,アラルキル基,アリール基,-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e),-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e),又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり,R^(a)及びR^(a’)のいずれかは炭素原子を含む。R^(a’’)は,炭素数1?18のアルキル基,炭素数2?18のアルケニル基,アラルキル基,アリール基,-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e),-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(b)は,炭素数1?18のアルキル基,炭素数2?18のアルケニル基,アラルキル基,アリール基,-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e),-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e),又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は,炭素数1?18のアルキル基,炭素数2?18のアルケニル基,アラルキル基,アリール基,-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e),又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は,それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり,R^(e)は,水素原子,あるいは炭素数1?18のアルキル基,炭素数2?18のアルケニル基,アラルキル基,アリール基,-CHO,-CH_(2)CHO,-CO-CH=CH_(2),-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(f)で示される1価の基であり,R^(f)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(a),R^(a’),及びR^(b)において,アルキル基,アルケニル基,アラルキル基,アリール基はそれぞれ,置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数,tは1?5の整数,uは1?18の整数を示す。)
【請求項7】
溶媒中,黄色顔料のスルホン化誘導体と,顔料分散剤との存在下で,前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料を分散させる工程を有し,前記顔料分散剤が,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと,ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって,前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が,下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し,さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である,カラーフィルタ用赤色顔料分散液の製造方法。
【化4】

(式(IV)中,R^(4)は水素原子又はメチル基であり,R^(5)は炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は,それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は,水素原子,あるいは炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,-CHO,-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり,R^(9)は,炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は,炭素数1?18のアルキル基であり,R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。)
【請求項8】
少なくとも前記請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液と,感光性バインダー成分とを含有する,カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物。
【請求項9】
溶媒中,黄色顔料のスルホン化誘導体と,顔料分散剤との存在下で,前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料を分散させて赤色顔料分散液を調製する工程と, 前記赤色顔料分散液と,感光性バインダー成分とを混合する工程を有し,前記顔料分散剤が,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと,ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって,前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が,下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し,さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である,カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物の製造方法。
【化5】

(式(IV)中,R^(4)は水素原子又はメチル基であり,R^(5)は炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は,それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は,水素原子,あるいは炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,-CHO,-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり,R^(9)は,炭素数1?18のアルキル基,アラルキル基,アリール基,シアノ基,-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8),-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8),又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は,炭素数1?18のアルキル基であり,R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。)
【請求項10】
前記請求項8に記載のカラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物を用いて形成された着色層を有することを特徴とする,カラーフィルタ。
【請求項11】
前記請求項10に記載のカラーフィルタと,対向基板と,前記カラーフィルタと前記対向基板との間に形成された液晶層とを有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項12】
前記請求項10に記載のカラーフィルタと,有機発光体とを有することを特徴とする有機発光表示装置。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?請求項12に係る特許に対して平成29年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
請求項1,請求項7及び請求項9の記載において,「x」,「y」,「z」及び「n」の意味するところが不明確である。よって,請求項1?請求項12に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。

3 判断
本件訂正請求による訂正の結果,請求項1,請求項7及び請求項9には,「nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」という構成が追加された。これにより,「x」,「y」,「z」及び「n」の意味が明確となった。したがって,本件発明1?本件発明12に係る特許出願が特許法36条6項2号の規定に違反するものとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立ての理由の概要
ア 理由1
特許異議申立人は,下記の甲1号証?甲4号証を提出し,訂正前の請求項1?請求項12に係る特許が特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,請求項1?請求項12に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲1号証:特開2008-242414号公報
甲2号証:John J. Florio and Daniel J. Miller, Handbook of Coatings Additives Second Edition, US, Marcel Dekker, Inc., 2004, p.564.
甲3号証:特開2003-128669号公報
甲4号証:特開2009-258668号公報

イ 理由2
特許異議申立人は,訂正前の請求項1,請求項7及び請求項9の「有機酸化合物」は,その具体的な種類が何ら特定されていないところ,実施例においては,有機酸化合物として「フェニルホスホン酸(PPA)」と「フェニルホスフィン酸」の2種類しか使用されてなく,それ以外の種類の有機酸化合物の効果については何も実証されていないこと,また,訂正前の請求項6において特定された有機酸化合物のうち,一般式(III)で表される化合物は実施例において使用されていないことから,請求項1?請求項12は明細書の開示範囲を大きく逸脱するものであり,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。

(2)理由1について
ア 甲1号証の記載事項
本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲1号証には,次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散剤と,顔料と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤と,溶剤とを有するカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物であって,前記顔料分散剤が,下記一般式(I)で表される構成単位(1)と,下記一般式(II)で表される構成単位(2)とを有し,さらに前記構成単位(1)が有するアミノ基と,下記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルとが塩を形成したブロック共重合体であることを特徴とするカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(I)?(III)中,R^(1)は,水素,またはメチル基であり,R^(2)およびR^(3)は,水素,または炭素数が1?8の直鎖,分岐または環状のアルキル基であり,Q^(1)は,炭素数1?8のアルキレン基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-CH(R^(6))-CH(R^(7))-および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-(CH_(2))_(y)-からなる群から選択される置換基である。また,R^(6)およびR^(7)は,それぞれ独立に水素,またはメチル基である。
また,R^(4)およびR^(5)は,炭素数が1?18の直鎖,分岐または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-R^(8)および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-R^(8)からなる群から選択される置換基であり,芳香環中の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基で置換することができる。
ここで,R^(8)は水素,または炭素数が1?18の直鎖,分枝または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-CHO,-CH_(2)CHO,-CO-CH=CH_(2),-CO-C(CH_(3))=CH_(2),および-CH_(2)COOR^(9)からなる群から選択される置換基である。R^(8)が水素以外である場合,R^(8)中の炭素原子上の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基またはF,Cl,Brで置換することができる。また,R^(9)は水素,または炭素数が1?5のアルキル基である。
また,xは0?18の整数であり,yは1?5の整数であり,zは0?18の整数である。l,mは1?200の整数であり,nは1?2の整数である。)」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,顔料分散性,およびアルカリ現像性に優れたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物に関するものである。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,上記問題点に鑑みてなされたものであり,顔料分散性,およびアルカリ現像性に優れたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を提供することを主目的とするものである。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
・・・(略)・・・
【0013】
本発明によれば,上記顔料分散剤が,上記一般式(I)で表される構成単位(1)と,上記一般式(II)で表される構成単位(2)とを有し,かつ上記構成単位(1)が有するアミノ基と,上記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルとが塩を形成したブロック共重合体であることにより,塩形成部位を形成する上記構成単位(1)の上記顔料への吸着性を強め,構成単位(2)が上記溶剤との相溶性に優れることにより,上記溶剤中での上記顔料の安定化を図ることができるため,上記顔料の分散性および安定性に優れたものとすることができる。
また,上記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルを有することにより,上記構成単位(1)に含まれるアミノ基と上記酸性リン酸エステルとが形成する塩形成部位が,アルカリ現像時のアルカリ水溶液に対して高い溶解性を有することから,アルカリ現像性に優れたものとすることができる。したがって,本発明のカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を用いて,カラーフィルタを製造した場合には,アルカリ現像時間を短縮することができ,生産性に優れたものとすることができる。また,アルカリ現像性に優れることにより,未露光箇所におけるカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の残渣が少ない高品質なカラーフィルタを得ることができる。
・・・(略)・・・
【0039】
本発明に用いられる置換基R^(4)は,炭素数が1?18の直鎖,分岐または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-R^(8)および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-R^(8)からなる群から選択される置換基であり,芳香環中の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基で置換することができる。また,R^(6)およびR^(7)は,それぞれ独立に水素,またはメチル基である。
ここで,R^(8)は水素,または炭素数が1?18の直鎖,分枝または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-CHO,-CH_(2)CHO,-CO-CH=CH_(2),-CO-C(CH_(3))=CH_(2),および-CH_(2)COOR^(9)からなる群から選択される置換基である。R^(8)が水素以外である場合,R^(8)中の炭素原子上の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基またはF,Cl,Brで置換することができる。また,R^(9)は水素,または炭素数が1?5のアルキル基である。
また,上記において,R^(4)およびR^(8)が芳香環を有する場合において,芳香環中の水素が置換される位置としては,通常,芳香環中において置換可能な水素が存在する箇所であれば特に限定されるものではない。
【0040】
上記置換基R^(4)およびR^(8)に含まれる炭素数が1?18の直鎖,分枝または環状のアルキル基としては,具体的には,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,tert-ブチル基,2-エチルヘキシル基,ヘキシル基,シクロヘキシル基,オクチル基,ノニル基,ラウリル基,ステアリル基,ボルニル基,イソボルニル基,ジシクロペンタニル基,ジシクロペンテニル基,1-アダマンチル基,2-メチル-2-アダマンチル基,2-エチル-2-アダマンチル基を挙げることができる。
【0041】
本発明において,上記置換基R^(4)としては,なかでも,後述する溶剤との溶解性に優れたものを用いることが好ましく,具体的には,上記ブロック共重合体を構成する構成単位等によっても異なるが,上記溶剤が,テトラヒドロフラン,トルエン等である場合には,メチル基,エチル基,ベンジル基等を用いることが好ましく,上記溶剤が,ペンタン,ヘキサン等のより極性の低いものである場合には,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基等を用いることが好ましい。
ここで,上記置換基R^(4)をこのように設定する理由は,上記置換基R^(4)を含む構成単位(2)が,上記溶剤に対する可溶性を有し,上記構成単位(1)のアミノ基と,後述する酸性リン酸エステルとが形成する塩形成部位が顔料に対して高い吸着性を有するものであることにより,顔料の分散性,および安定性を特に優れたものとすることができるからである。
【0042】
さらに,上記置換基としては,上記ブロック共重合体の分散性能等を妨げない範囲で,アルコキシ基,水酸基,カルボキシル基,アミノ基,エポキシ基,水素結合形成基等の置換基によって置換されたものとしてもよい。
・・・(略)・・・
【0059】
本発明に用いられるブロック共重合体の製造方法としては,上記構成単位(1)と,上記構成単位(2)とを有し,かつ上記構成単位(1)が有するアミノ基と,上記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルとが塩を形成したものを製造することができる方法であれば特に限定されるものではない。本発明においては,例えば,上記構成単位(1)および構成単位(2)を公知の重合手段を用いて重合した後,後述する溶剤中に溶解または分散し,次いで上記溶剤中に上記酸性リン酸エステルを添加し,攪拌することにより製造することができる。
【0060】
また,上記重合手段としては,上記構成単位(1)および構成単位(2)を所望のユニット比で重合し,所望の分子量とすることができるものであれば特に限定されるものではなく,ビニル基を有する化合物の重合に一般的に用いられる方法を用いることができ,例えばアニオン重合やリビングラジカル重合等を用いることができる。本発明においては,なかでも,資料J.Am.Chem.Soc.105,5706(1983)O.W.Websterら,に開示されているグループトランスファー重合(GTP)のようにリビング的に重合が進行する方法を用いることが好ましい。分子量,分子量分布等を所望の範囲とすることが容易であるので,上記顔料分散剤の分散性,アルカリ現像性等の特性を均一にすることができるからである。
・・・(略)・・・
【0065】
3.顔料
本発明のカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物に用いられる顔料は,カラーフィルタの着色層を形成した際に所望の発色が可能なものであれば特に限定されるものではなく,種々の有機又は無機着色剤を,単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
上記有機着色剤としては,例えば,染料,有機顔料,天然色素等を用いることができる。有機顔料の具体例としては,カラーインデックス(C.I.;The Society of Dyers and Colourists社発行)においてピグメント(Pigment)に分類されている化合物を挙げることができる。
【0067】
このような化合物としては,例えば,C.I.ピグメントイエロー1,C.I.ピグメントイエロー3,C.I.ピグメントイエロー12,C.I.ピグメントイエロー138,C.I.ピグメントイエロー139,C.I.ピグメントイエロー150,C.I.ピグメントイエロー180,C.I.ピグメントイエロー185等のイエロー系ピグメント;C.I.ピグメントレッド1,C.I.ピグメントレッド2,C.I.ピグメントレッド3,C.I.ピグメントレッド254,C.I.ピグメントレッド177等のレッド系ピグメント;C.I.ピグメントブルー15,C.I.ピグメントブルー15:3,C.I.ピグメントブルー15:4,C.I.ピグメントブルー15:6等のブルー系ピグメント;C.I.ピグメントバイオレット23等のバイオレット系ピグメント;及び,ピグメントグリーン36等のグリーン系ピグメント等のカラーインデックス(C.I.)番号が付されているものを挙げることができる。
・・・(略)・・・
【0083】
7.カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物
本発明のカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物は,上述した顔料分散剤と,顔料と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤と,溶剤とを有するものであれば特に限定されるものではなく,例えば,添加剤を含むものであっても良い。
・・・(略)・・・
【0087】
本発明のカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の製造方法としては,上述した顔料分散剤と,顔料と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤とが,溶剤中に均一に溶解または分散したものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく,公知の混合手段を用いて混合することができる。
また,上記製造方法における,カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の各構成の混合順番としては,溶剤中に,上記顔料分散剤と,顔料と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤とを同時に投入し混合するものであってもよく,また,溶剤中に,上記顔料分散剤と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤とを添加し混合した後,顔料を添加するものであってもよい。本発明においては上記混合順番のいずれも好適に用いることができるが,なかでも,溶剤中に,上記顔料分散剤および顔料を添加し,分散機を用いて分散させることによって,顔料分散液を作製した後,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤とを添加し混合したものであることが好ましい。顔料の凝集を効果的に防ぎ,均一に分散させることが容易だからである。
【0088】
このような顔料分散液の調整方法としては,上記の顔料分散剤,顔料,及び,必要に応じてその他の成分を,任意の順序で上記溶剤に混合し,公知の分散機を用いて分散させることによって顔料分散液を調製することができる。分散処理を行うための分散機としては,2本ロール,3本ロール等のロールミル,ボールミル,振動ボールミル等のボールミル,ペイントシェーカー,連続ディスク型ビーズミル,連続アニュラー型ビーズミル等のビーズミル等が挙げられる。ビーズミルの好ましい分散条件として,使用するビーズ径は0.03mm?2mmが好ましく,より好ましくは0.1mm?1mmである。また,分散後,5.0μm?0.2μmのメンブランフィルターで濾過することが好ましい。顔料の分散性に優れた顔料分散液が得られるからである。この顔料分散液は,顔料分散性に優れたカラーフィルター用ネガ型レジスト組成物を調製するための予備調製物として用いられる。
・・・(略)・・・
【0093】
1.着色層
本発明のカラーフィルタに用いられる着色層は,上記カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を用いて形成されたものであれば,特に限定されるものではないが,通常,後述する透明基板上の遮光部の開口部に形成され,上記カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物に含まれる顔料の種類によって,3色以上の着色パターンからなるものである。」

(エ)「【実施例】
【0126】
次に,実施例及び比較例を挙げて,本発明についてさらに具体的に説明する。
【0127】
1.ブロック共重合体Aの製造
冷却管,添加用ロート,窒素用インレット,機械的攪拌機,デジタル温度計を備えた500ml丸底4口セパラブルフラスコに,テトラヒドロフラン(THF)250重量部および開始剤のジメチルケテンメチルトリメチルシリルアセタール5.81重量部を添加用ロートを介して加え,充分に窒素置換を行った。触媒のテトラブチルアンモニウムm-クロロベンゾエートの1Mアセトニトリル溶液0.5重量部をシリンジを用いて注入し,第1モノマーのメタクリル酸メチル100重量部を添加用ロートを用い,60分かけて滴下した。反応フラスコを氷浴で冷却することにより,温度を40℃未満に保った。1時間後,第2モノマーであるメタクリル酸ジメチルアミノエチル33.3重量部を20分かけて滴下した。1時間反応させた後,メタノール1重量部を加えて反応を停止させた。得られたブロック共重合体THF溶液はヘキサン中で再沈殿させ,濾過,真空乾燥により精製を行い,ブロック共重合体Aを得た。このようにして得られたブロック共重合体Aを,GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて,N-メチルピロリドン,0.01M臭化リチウム添加/ポリスチレン標準の条件で確認したところ,メタクリル酸メチル(MMA)およびメタクリル酸ジメチルアミノエチル(DMAEMA)の構成割合MMA/DMAEMAが,3/1であり,重量平均分子量Mw:4500,平均分子量Mn:5330,多分散度:1.18であった。
【0128】
2.ブロック共重合体Bの製造
ジメチルケテンメチルトリメチルシリルアセタール2.32重量部,テトラブチルアンモニウムm-クロロベンゾエートの1Mアセトニトリル溶液0.2重量部,メタクリル酸メチル120重量部,メタクリル酸ジメチルアミノエチル13.3重量部,メタノール0.5重量部とした以外は,上記ブロック共重合体Aと同様の方法によってブロック共重合体Bを得た。このようにして得られたブロック共重合体Bを,上記ブロック共重合体Aと同様の方法で確認したところ,MMAおよびDMAEMAの構成割合MMA/DMAEMAが,9/1であり,重量平均分子量Mw:9940,平均分子量Mn:11800,多分散度:1.19であった。
【0129】
3.ブロック共重合体溶液の調製
100ml丸底フラスコ中で,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)25.2重量部に,ブロック共重合体A1.8重量部を溶解させ,塩形成成分であるメタクリルオキシエチルアシッドホスフェート(ホスマーM:ユニケミカル社製)を0.42重量部(ブロック共重合体のDMAEMAユニットと等モル量)加え,反応温度25℃で6時間攪拌させることで,リン酸塩を形成したブロック共重合体溶液Aを得た。
同様にして,以下の表1に示すように,ブロック共重合体,塩形成成分,反応温度を変更してリン酸塩を形成したブロック共重合体溶液B?D,四級アンモニウム塩を形成したブロック共重合体溶液E?H,塩形成していないブロック共重合体溶液Iを得た。
なお,上記塩形成成分は,ブロック共重合体のDMAEMAユニットと等モル量となるように添加した。
【0130】
【表1】

【0131】
4.顔料分散液の調製
次いで,調製したブロック共重合体溶液(ブロック共重合体溶液A?I)27重量部,ジケトピロロピロール系顔料(a)(PR254:平均一次粒径30nm)3重量部,0.3mmジルコニアビーズ60重量部をマヨネーズビンに入れ,予備解砕としてペイントシェーカー(浅田鉄工社製)にて1時間振とうし,次いでその分散液30重量部と粒径0.1mmのジルコニアビーズ60重量部とをマヨネーズビンに入れ,同様に本解砕としてペイントシェーカーにて3時間分散を行い,顔料分散液A?Iを得た。
【0132】
[実施例1]
上記で得られた顔料分散液A46重量部に,バインダー成分31重量部(アルカリ可溶性樹脂としてアクリル共重合体(有効成分54%)9重量部,多官能モノマーとして光又は熱重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート5重量部,および光開始剤として2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン2重量部,およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート15重量部),および溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート22重量部を添加し,均一になるまで混合し,さらにメッシュサイズ0.2μmである加圧ろ過装置によりろ過することでカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物Aを得た。
【0133】
[実施例2?4,比較例1?5]
顔料分散液Aに替えて,顔料分散液B?Iを用いた以外は,実施例1と同様にしてカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物B?Iを得た。
【0134】
[評価]
実施例および比較例により得られたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物について,顔料分散安定性,アルカリ現像性の評価を行った。実施結果を下記表2に示す。
【0135】
(顔料分散安定性評価)
実施例および比較例によって調製されたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の顔料分散安定性の評価として,上記カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の調製に用いた顔料分散液を,40℃で1週間静置し,静置前後の上記顔料分散液の粒径の測定を行った。粒径の測定には,日機装(株)製「マイクロトラック粒度分布計」を用いた。
【0136】
(アルカリ現像性評価)
上記カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を,厚み0.7mmで10mm×10mmのガラス基板上に,膜厚が3.0μmとなるようにスピンコーターを用いて塗布した後,水平台にて6分間静置し,次いでホットプレートを用いて80℃で3分間乾燥することにより着色層を形成した。その後,上記着色層が形成されたガラス板を,アルカリ現像液として0.05質量%水酸化カリウム水溶液中に静置し,上記着色層が完全に溶解し,上記着色層を形成した箇所のガラス面が現れるまでの時間を現像時間として測定した。
【0137】
【表2】

【0138】
表2において,実施例1?4と比較例1?4の対比から明らかなように,実施例1?4では,アルカリ現像時間が大幅に短縮されており,アルカリ現像性に優れていることが確認できた。また,実施例1?4のカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の調製に用いた顔料分散液では,顔料粒子の増粒が全く起っていないことから,分散安定性に優れていることが確認できた。
また,塩形成していないブロック共重合体溶液Iを用いた比較例5は,上記顔料分散安定性評価において,1週間静置後にはゲル化していた。また,顔料分散液中の粒子の粒径が大きく,メッシュサイズ0.2μmである加圧ろ過装置による,ろ過をすることができず,カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を調製することができなかった。
【0139】
[実施例5]
50mlスクリュー管に,上記で得られた顔料分散液Aを30重量部に対して,開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70:和光純薬社製)を0.025重量部加え,超音波処理しながら50℃で10時間反応させることにより,塩形成成分であるメタクリルオキシエチルアシッドホスフェートに含まれる二重結合部位同士が重合した複合化顔料分散液Jを得た。
次いで,顔料分散液Aに替えて,複合化顔料分散液Jを用いた以外は,実施例1と同様にしてカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物Jを得た。
【0140】
[評価]
実施例5により得られたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物Jについて,顔料分散安定性,アルカリ現像性の評価を行った。実施結果を上記表2に示す。」

(オ)甲1号証の段落【0087】には,請求項1に記載されたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物の製造方法に関して,「本発明においては上記混合順番のいずれも好適に用いることができるが,なかでも,溶剤中に,上記顔料分散剤および顔料を添加し,分散機を用いて分散させることによって,顔料分散液を作製した後,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤とを添加し混合したものであることが好ましい。顔料の凝集を効果的に防ぎ,均一に分散させることが容易だからである。」と記載され,同段落【0088】には,「この顔料分散液は,顔料分散性に優れたカラーフィルター用ネガ型レジスト組成物を調製するための予備調製物として用いられる。」と記載されている。したがって,甲1号証には,請求項1に記載されたカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を調整するための予備調整物として用いられる顔料分散液として,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 顔料分散剤と,顔料と,アルカリ可溶性樹脂と,多官能性モノマーと,光開始剤と,溶剤とを有するカラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を調整するための予備調整物として用いられる顔料分散液であって,
溶剤中に,上記顔料分散剤および顔料を添加し,分散機を用いて分散させることによって作製され,
前記顔料分散剤が,下記一般式(I)で表される構成単位(1)と,下記一般式(II)で表される構成単位(2)とを有し,さらに前記構成単位(1)が有するアミノ基と,下記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルとが塩を形成したブロック共重合体であることを特徴とする顔料分散液。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(I)?(III)中,R^(1)は,水素,またはメチル基であり,R^(2)およびR^(3)は,水素,または炭素数が1?8の直鎖,分岐または環状のアルキル基であり,Q^(1)は,炭素数1?8のアルキレン基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-CH(R^(6))-CH(R^(7))-および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-(CH_(2))_(y)-からなる群から選択される置換基である。また,R^(6)およびR^(7)は,それぞれ独立に水素,またはメチル基である。
また,R^(4)およびR^(5)は,炭素数が1?18の直鎖,分岐または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-R^(8)および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-R^(8)からなる群から選択される置換基であり,芳香環中の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基で置換することができる。
ここで,R^(8)は水素,または炭素数が1?18の直鎖,分枝または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-CHO,-CH_(2)CHO,-CO-CH=CH_(2),-CO-C(CH_(3))=CH_(2),および-CH_(2)COOR^(9)からなる群から選択される置換基である。R^(8)が水素以外である場合,R^(8)中の炭素原子上の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基またはF,Cl,Brで置換することができる。また,R^(9)は水素,または炭素数が1?5のアルキル基である。
また,xは0?18の整数であり,yは1?5の整数であり,zは0?18の整数である。l,mは1?200の整数であり,nは1?2の整数である。)」

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)顔料,顔料分散剤,溶媒
甲1発明の「顔料分散剤」及び「溶剤」は,「顔料分散液」における機能からして,それぞれ,本件発明1の「顔料分散剤」及び「溶媒」に対応付けられるものである。また,甲1発明の「顔料」は,本件発明1の「アントラキノン骨格を有する赤色顔料と,黄色顔料のスルホン化誘導体」と,顔料である点で共通する。

(イ)共重合体
甲1発明は,「前記顔料分散剤が,・・・ブロック共重合体である」。したがって,甲1発明の「ブロック共重合体」は,本件発明1の顔料分散剤であるところの「グラフト共重合体」に対応付けられるものである。そして,両者は共重合体である点で共通し,更に,下記(ウ)?(オ)で指摘する共通点を備える。

(ウ)甲1発明は,「前記顔料分散剤が,下記一般式(I)で表される構成単位(1)・・・を有」する「ブロック共重合体」である(一般式(I)については,上記ア(ア)を参照。)。そして,一般式(I)より,当該構成単位(1)は,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーに由来する構成単位であると解される。このことは,甲1号証の実施例において,一方のモノマーとして「メタクリル酸ジメチルアミノエチル」が用いられていることからも,確認される事項である。
したがって,本件発明1の「グラフト共重合体」と甲1発明の「ブロック共重合体」は,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーを共重合成分として含有する点で共通する。

(エ)甲1発明は,「前記顔料分散剤が,・・・下記一般式(II)で表される構成単位(2)とを有」する「ブロック共重合体」である(一般式(II)については,上記ア(ア)を参照。以下で引用される「一般式(II)」についても同様。)。そして,一般式(II)より,当該構成単位(2)は,末端にエチレン性不飽和結合を有するモノマーに由来する構成単位であると解される。このことは,甲1号証の実施例において,一方のモノマーとして「メタクリル酸メチル」が用いられていることからも,確認される事項である。
したがって,本件発明1の「グラフト共重合体」と甲1発明の「ブロック共重合体」は,末端にエチレン性不飽和結合を有するモノマーを共重合成分として含有する点で共通する。

(オ)甲1発明は,「前記顔料分散剤が,・・・前記構成単位(1)が有するアミノ基と,下記一般式(III)で表される酸性リン酸エステルとが塩を形成したブロック共重合体である」(一般式(III)については,上記ア(ア)を参照。)。ここで,「下記一般式(III)で表される酸性リン酸エステル」は,有機酸化合物に包含される。また,上記(ウ)で述べたように,甲1発明の「構成単位(1)」は,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーを共重合させた結果形成されるものと解されるから,「構成単位(1)が有するアミノ基」とは,当該モノマー由来のアミノ基であると解される。
したがって,本件発明1の「グラフト共重合体」と甲1発明の「ブロック共重合体」は,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成した共重合体である点で共通する。

(カ)カラーフィルタ用赤色顔料分散液
甲1発明は,「カラーフィルタ用ネガ型レジスト組成物を調整するための予備調整物として用いられる顔料分散液」である。すなわち,「カラーフィルタ用」の「顔料分散液」である。したがって,甲1発明と本件発明1は,カラーフィルタ用顔料分散液である点で共通する。

(キ)上記(ア)?(カ)からみて,本件発明1と甲1発明とは,
「 顔料と,顔料分散剤と,溶媒とを含有し,前記顔料分散剤が,エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと,末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーとを共重合成分として含有する共重合体であって,さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成した共重合体である,カラーフィルタ用顔料分散液。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は,顔料が「アントラキノン骨格を有する赤色顔料と,黄色顔料のスルホン化誘導体」であり,カラーフィルタ用「赤色」顔料分散液あるのに対して,甲1発明は,顔料についてそのような特定はされておらず,顔料分散液の顔料の色も特定されていない点。

(相違点2)
本件発明では,末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーが,「ポリマー鎖」「を含むマクロモノマー」であり,「前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が,下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有」する(一般式(IV)については,上記1を参照。以下で引用する「一般式(IV)」についても同様。)のに対して,甲1発明の一般式(II)では,そのような特定はされていない点。

ウ 判断
上記相違点2について検討する。
(ア)甲1発明は,顔料分散剤であるブロック共重合体が,一般式(II)で表される構成単位(2)を有するところ,一般式(II)は,モノマーのエチレン性不飽和二重結合に起因すると解される主鎖部と,当該主鎖部に-COO-基により連結されたR^(4)から構成されている。そして,R^(4)について,「R^(4)・・・は,炭素数が1?18の直鎖,分岐または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-(CH(R^(6))-CH(R^(7))-O)_(x)-R^(8)および-((CH_(2))_(y)-O)_(z)-R^(8)からなる群から選択される置換基であり,芳香環中の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基で置換することができる。ここで,R^(8)は水素,または炭素数が1?18の直鎖,分枝または環状のアルキル基,ベンジル基,フェニル基,ピリジル基,ビフェニル基,ピリジルフェニル基,-CHO,-CH_(2)CHO,-CO-CH=CH_(2),-CO-C(CH_(3))=CH_(2),および-CH_(2)COOR^(9)からなる群から選択される置換基である。R^(8)が水素以外である場合,R^(8)中の炭素原子上の水素は,炭素数が1?4の直鎖または分枝のアルキル基またはF,Cl,Brで置換することができる。また,R^(9)は水素,または炭素数が1?5のアルキル基である。 また,xは0?18の整数であり,yは1?5の整数であり,zは0?18の整数である。・・・)」と規定されている。しかし,ここに列挙されたR^(4)の中に,本件発明1の一般式(IV)に該当する基は含まれていない。

(イ)甲1号証の段落【0041】には,置換基R^(4)について好ましい具体例が挙げられているが,それらは,炭素数が小さなアルキル基であって,本件発明1の一般式(IV)で表されるポリマー鎖ではない。また,甲1号証の実施例では,甲1発明の構成単位(2)を形成するものと解される第1モノマーとして,「メタクリル酸メチル」が用いられているが(段落【0127】?【0128】を参照。),これは上記R^(4)がメチル基に該当するものである。そうしてみると,甲1号証の全体として,一般式(II)で表される構成単位(2)として,側鎖の構造が小さいものが好ましいとする思想が開示されているものと解される。したがって,甲1号証の発明の詳細な説明中の記載並びに示唆を踏まえても,一般式(II)で表される構成単位(2)を形成するために,ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーを,共重合成分として選択することを,当業者が容易になし得たとはいえない。

(ウ)甲1発明において,R^(4)及びR^(8)の選択肢の中には,「炭素数が1?18の・・・分岐・・・のアルキル基」が含まれている。この置換基には,本件発明1の一般式(IV)において,例えば,R^(4)を水素原子,R^(5)を炭素数1のアルキル基とした上で,n=5を選択した構成単位を有するポリマー鎖を備えた置換基も包含されうる。しかし,甲1発明において,一般式(II)が取り得る多数の選択肢の中から,前述のような特定のマクロモノマー由来の構成単位を選択する動機を,当業者が有していたとはいいがたい。したがって,甲1発明の一般式(II)において,本件発明1のマクロモノマーから形成されるような構成単位を選択することが,当業者が容易になし得たということはできない。

(エ)特許異議申立人が提出した甲2号証?甲4号証は,顔料分散性を向上させるために,所定の顔料にスルホン化された顔料を添加することが,周知の技術であることを示すために提出されたものである。そして,甲2号証?甲4号証にも,相違点2に係る本件補正発明1の構成に関する記載や示唆はない。

(オ)特許異議申立人は,特許異議申立書において,甲1発明の一般式(II)で表される構成単位(2)を構成するためのモノマーは,本件発明1の,一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有するポリマー鎖を備えたマクロモノマーであると主張する。しかし,本件発明1の一般式(IV)は,グラフト共重合体の主鎖に含まれる構成単位ではなく,主鎖に結合する側鎖の構成単位を表すのに対して,甲1発明の一般式(II)に含まれる繰り返し部分は,ブロック共重合体の主鎖の構成単位を表すから,両者を比較することは,妥当ではない。

(カ)以上(ア)?(オ)から,甲1発明に,相違点2に係る本件発明1の構成を具備させることは,当業者にとって容易になし得たものではない。

(キ)以上のとおりであるから,相違点1の容易想到性について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1号証?甲4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明2?本件発明12について
(ア)本件発明2?本件発明6,本件発明8,本件発明10?本件発明12
本件発明1が,甲1号証?甲4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから,本件発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特定事項を付加した本件発明2?本件発明6,本件発明8並びに本件発明10?本件発明12も同様に,甲1号証?甲4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明7,本件発明9
本件発明7は,カラーフィルタ用赤色顔料分散液の製造方法に関する発明であるが,本件発明1の発明特定事項の全てに対応する構成を備えている。
また,本件発明9は,カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物の製造方法に関する発明であるが,本件発明1の発明特定事項の全てに対応する構成を備えている。
したがって,本件発明1が,甲1号証?甲4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから,本件発明7及び本件発明9も同様に,甲1号証?甲4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3)理由2について
本件特許の明細書の段落【0008】には,発明が解決しようとする課題として,「分散性及び分散安定性に優れ,高輝度及び高コントラスト化の要求を達成するカラーフィルタ用赤色顔料分散液・・・を提供することを目的とするものである。」と記載されている。そして,同段落【0058】には,「本発明によれば,用いられる顔料分散剤が,上記塩型グラフト共重合体であることにより,塩形成部位が顔料に対する吸着性が強く,一方でグラフトされているポリマー鎖が溶媒に対して溶解性を有する。上記顔料分散剤を用いると,従来顔料分散性,及び顔料分散安定性が悪かった顔料に対しても溶媒中での安定化を図ることができ,顔料の分散性及び分散安定性を優れたものとすることができる。」と記載されている。更に,同段落【0059】には,「また,有機酸化合物を有することにより,上記モノマーに含まれるアミノ基と有機酸化合物とが形成する塩形成部位が,アルカリ現像時のアルカリ水溶液に対して高い溶解性を有することから,アルカリ現像性に優れたものとすることができる。したがって,本発明のカラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物を用いて,カラーフィルタを製造した場合には,アルカリ現像時間を短縮することができ,生産性に優れたものとすることができる。また,アルカリ現像性に優れることにより,未露光箇所におけるカラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物の残渣が少ない高品質なカラーフィルタを得ることができる。」と記載されている。すなわち,本件特許の明細書の発明の詳細な説明には,グラフト共重合体中のアミノ基の少なくとも一部が,有機酸化合物と塩を形成していることにより,顔料への吸着性を強くできることや,アルカリ水溶液への溶解性を高くできることが記載され,そうした作用により,発明の課題が解決できることが記載されている。
そうしてみると,本件発明1?本件発明12は,いずれも「エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成し」ているという構成を具備しているから,本件発明1?本件発明12が,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
したがって,本件発明1?本件発明12に係る特許出願が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

5 特許異議申立人の主張について
平成30年2月28日付け意見書で特許異議申立人は,本件訂正請求により訂正された請求項1,請求項7及び請求項9には,一般式(IV)中のn,x,y及びzについて,「nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数,yは1?5の整数,zは1?18の整数を示す。」という構成が記載されているところ,本件特許の明細書の実施例において使用されているマクロモノマーは,製造例6で合成したマクロモノマーMM-1と製造例7で合成されたマクロモノマーMM-2の2種類だけであり,n,x,y及びzについての上記構成の範囲において課題が解決できることは開示されていないから,請求項1?請求項12の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし,本件特許の明細書の発明の詳細な説明には,アントラキノン骨格を有する赤色顔料の分散性及び分散安定性を向上することが課題として記載され(段落【0008】を参照。),黄色顔料のスルホン化誘導体と,所定の顔料分散剤を用いることにより,当該課題が解決できたことが記載されている。そして,前記所定の顔料分散剤として,前記訂正された請求項1,7及び9に記載された顔料分散剤が開示されている(段落【0076】を参照。)。また,その作用機序として,塩形成部位が赤色顔料表面に吸着された黄色顔料のスルホン化誘導体に強い吸着性を有し,マクロモノマー由来の部位は溶媒に対して溶解性を有することが記載されている(段落【0031】を参照。)。そうしてみると,本件特許の発明の詳細な説明には,黄色顔料のスルホン化誘導体並びに溶媒に対して親和性を備えた2つの部位からなる塩型グラフト共重合体を用いることにより,課題を解決できたことが開示されているといえる。そして,顔料分散剤における溶媒に対して溶解性を有する部位のサイズが,黄色顔料のスルホン化誘導体に対して親和性を有する部位とのバランスを欠くものでない限り,顔料分散剤としての機能を有することは,当業者であれば当然予測できることである。グラフト共重合体とされる本件発明1?本件発明12の顔料分散剤が,実施例で合成された2種類以外であっても,課題を解決できることは明らかである。
また,本件特許の発明の詳細な説明には,マクロモノマーの質量平均分子量の好適な範囲が記されるとともに,その作用が説明されている(段落【0089】を参照。)。マクロモノマーの分子量は,一般式(IV)におけるn,x,y及びzに依存するから,当該説明は,n,x,y及びzが上記構成に係る範囲を満足する場合に,当該顔料分散剤が好適に機能し,課題を解決できることを説明するものといえる。
以上のとおりであるから,実施例においてマクロモノマーが2種類しか開示されていないからといって,請求項1?12において,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていない,とはいえない。よって,特許異議申立人の主張は採用できない。

第4 むすび
したがって,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?請求項12に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?請求項12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン骨格を有する赤色顔料と、黄色顔料のスルホン化誘導体と、顔料分散剤と、溶媒とを含有し、前記顔料分散剤が、エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと、ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって、前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が、下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し、さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である、カラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化1】

(式(IV)中、R^(4)は水素原子又はメチル基であり、R^(5)は炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は、水素原子、あるいは炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり、R^(9)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は、炭素数1?18のアルキル基であり、R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項2】
前記黄色顔料のスルホン化誘導体が、C.I.ピグメントイエロー138のスルホン化誘導体である、請求項1に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項3】
前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料が、C.I.ピグメントレッド177である、請求項1又は2に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項4】
前記黄色顔料のスルホン化誘導体の含有量が、前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料100質量部に対して1?25質量部である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【請求項5】
前記顔料分散剤において、前記エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーが、下記一般式(I)で表される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化2】

(式(I)中、R^(1)は水素原子又はメチル基、R^(2)及びR^(3)は、各々独立に、水素原子、又は置換されていてもよい環状若しくは鎖状の炭化水素基を表すか、R^(2)及びR^(3)が互いに結合して環状構造を形成する。Qは2価の連結基を表す。)
【請求項6】
前記顔料分散剤において、前記有機酸化合物が、下記一般式(II)及び/又は下記一般式(III)で表される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液。
【化3】

(式(II)及び式(III)中、R^(a)及びR^(a’)はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(a’’)で示される1価の基であり、R^(a)及びR^(a’)のいずれかは炭素原子を含む。R^(a’’)は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(b)は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)、又は-O-R^(b’)で示される1価の基である。R^(b’)は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、-[CH(R^(c))-CH(R^(d))-O]_(s)-R^(e)、又は-[(CH_(2))_(t)-O]_(u)-R^(e)で示される1価の基である。
R^(c)及びR^(d)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R^(e)は、水素原子、あるいは炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CH_(2)CHO、-CO-CH=CH_(2)、-CO-C(CH_(3))=CH_(2)又は-CH_(2)COOR^(f)で示される1価の基であり、R^(f)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基である。R^(a)、R^(a’)、及びR^(b)において、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基はそれぞれ、置換基を有していてもよい。
sは1?18の整数、tは1?5の整数、uは1?18の整数を示す。)
【請求項7】
溶媒中、黄色顔料のスルホン化誘導体と、顔料分散剤との存在下で、前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料を分散させる工程を有し、前記顔料分散剤が、エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと、ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって、前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が、下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し、さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である、カラーフィルタ用赤色顔料分散液の製造方法。
【化4】

(式(IV)中、R^(4)は水素原子又はメチル基であり、R^(5)は炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は、水素原子、あるいは炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり、R^(9)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は、炭素数1?18のアルキル基であり、R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項8】
少なくとも前記請求項1乃至6のいずれか一項に記載のカラーフィルタ用赤色顔料分散液と、感光性バインダー成分とを含有する、カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物。
【請求項9】
溶媒中、黄色顔料のスルホン化誘導体と、顔料分散剤との存在下で、前記アントラキノン骨格を有する赤色顔料を分散させて赤色顔料分散液を調製する工程と、
前記赤色顔料分散液と、感光性バインダー成分とを混合する工程を有し、前記顔料分散剤が、エチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマーと、ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むマクロモノマーとを共重合成分として含有するグラフト共重合体であって、前記マクロモノマーの前記ポリマー鎖が、下記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも有し、さらにエチレン性不飽和二重結合とアミノ基とを有するモノマー由来のアミノ基の少なくとも一部と有機酸化合物とが塩を形成したグラフト共重合体である、カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物の製造方法。
【化5】

(式(IV)中、R^(4)は水素原子又はメチル基であり、R^(5)は炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、-CO-O-R^(9)又は-O-CO-R^(10)で示される1価の基である。R^(6)及びR^(7)は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R^(8)は、水素原子、あるいは炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CH_(2)CHO又は-CH_(2)COOR^(11)で示される1価の基であり、R^(9)は、炭素数1?18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R^(6))-CH(R^(7))-O]_(x)-R^(8)、-[(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)、又は-[CO-(CH_(2))_(y)-O]_(z)-R^(8)で示される1価の基である。R^(10)は、炭素数1?18のアルキル基であり、R^(11)は水素原子又は炭素数1?5のアルキル基を示す。
nは5?200の整数を示す。xは1?18の整数、yは1?5の整数、zは1?18の整数を示す。)
【請求項10】
前記請求項8に記載のカラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物を用いて形成された着色層を有することを特徴とする、カラーフィルタ。
【請求項11】
前記請求項10に記載のカラーフィルタと、対向基板と、前記カラーフィルタと前記対向基板との間に形成された液晶層とを有することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項12】
前記請求項10に記載のカラーフィルタと、有機発光体とを有することを特徴とする有機発光表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-14 
出願番号 特願2012-141274(P2012-141274)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 濱野 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
佐藤 秀樹
登録日 2017-01-27 
登録番号 特許第6078999号(P6078999)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 カラーフィルタ用赤色顔料分散液及びその製造方法、カラーフィルタ用赤色感光性樹脂組成物及びその製造方法、カラーフィルタ、並びに、液晶表示装置及び有機発光表示装置  
代理人 山下 昭彦  
代理人 岸本 達人  
代理人 岸本 達人  
代理人 山下 昭彦  

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