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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1340085
異議申立番号 異議2017-700678  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2018-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6059408号発明「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板とその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6059408号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?6〕、〔2?6〕、7について訂正することを認める。 特許第6059408号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6059408号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2016年 3月 2日(優先権主張 平成27年 3月 2日 日本国(JP))を国際出願日として特許出願され、平成28年12月16日にその特許権の設定登録がされ、平成29年 1月11日に特許掲載公報が発行され、同年 7月11日(受理日 7月11日)に特許異議申立人 小園 祐子(以下、「申立人小園」という。)により特許異議の申立て(以下、「異議申立1」といい、異議申立1の特許異議申立書を「申立書1」という。)がされ、同年 7月11日(受理日 7月13日)に特許異議申立人 日鐵住金鋼板株式会社(以下、「申立人日鐵住金鋼板」という。)により特許異議の申立て(以下、「異議申立2」といい、異議申立2の特許異議申立書を「申立書2」という。)がされ、同年 9月19日付けで当審より取消理由が通知され、特許権者より同年11月21日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年12月29日付けで申立人日鐵住金鋼板より意見書(以下、「意見書2」という。)が提出され、平成30年 1月 4日付けで申立人小園より意見書(以下、「意見書1」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年11月21日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
と記載されているのを、
「【請求項1】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項3?6も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「【請求項2】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
と記載されているのを、
「【請求項2】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3?6も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「【請求項4】
前記主層がα-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(2)を満足することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
t/d≧1.5 ・・・(2)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(μm)」
と記載されているのを、
「【請求項4】
前記主層がα-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(2)を満足することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
t/d≧1.5 ・・・(2)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(隣接するデンドライトアーム間の中心距離)(μm)」に訂正する。
(請求項4の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「【請求項7】
25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。」
と記載されているのを、
「【請求項7】
25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び3?10質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の本件特許明細書の【0035】に
「【0035】
また、前記インターデンドライト中に微細且つ均一に分散するMg_(2)Siの粒子については、長径に対する単径の比が0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
従来技術では、例えば上述した特許文献3に述べられているように、Mg_(2)Siの粒子については、短径の長径に対する比率で0.4以上としている。この場合Mg_(2)Siが大きく且つ分布も不均一になるため、腐食初期のMg_(2)Siの溶解速度がZnに比べて著しく速く、Mg_(2)Siが優先的に溶解して流出することから、腐食生成物にMgが有効に取り込まれず、腐食生成物表面のMg濃化部も少なく局所的になり、耐食性向上効果は得られない。
一方、本発明技術では、長径と短径との差(アスペクト比)を大きくすることで、前記めっき皮膜の表面及び加工部に入ったクラック破面に存在するMg_(2)Siの粒子が微細且つ均一な分散に寄与する。その結果、腐食時にMg_(2)SiがZnとともに徐々に溶解し、腐食生成物にMgが多量に取り込まれ、腐食生成物表面の全面にMg濃化部が厚く生成して腐食の進行を抑え、加工部耐食性を飛躍的に向上できる。
ここで、前記Mg_(2)Siの長径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も長い径のことであり、前記Mg_(2)Siの短径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も短い径のことを意味する。」
と記載されているのを、
「【0035】
また、前記インターデンドライト中に微細且つ均一に分散するMg_(2)Siの粒子については、長径に対する短径の比が0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
従来技術では、例えば上述した特許文献3に述べられているように、Mg_(2)Siの粒子については、短径の長径に対する比率で0.4以上としている。この場合Mg_(2)Siが大きく且つ分布も不均一になるため、腐食初期のMg_(2)Siの溶解速度がZnに比べて著しく速く、Mg_(2)Siが優先的に溶解して流出することから、腐食生成物にMgが有効に取り込まれず、腐食生成物表面のMg濃化部も少なく局所的になり、耐食性向上効果は得られない。
一方、本発明技術では、長径と短径との差(アスペクト比)を大きくすることで、前記めっき皮膜の表面及び加工部に入ったクラック破面に存在するMg_(2)Siの粒子が微細且つ均一な分散に寄与する。その結果、腐食時にMg_(2)SiがZnとともに徐々に溶解し、腐食生成物にMgが多量に取り込まれ、腐食生成物表面の全面にMg濃化部が厚く生成して腐食の進行を抑え、加工部耐食性を飛躍的に向上できる。
ここで、前記Mg_(2)Siの長径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も長い径のことであり、前記Mg_(2)Siの短径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も短い径のことを意味する。」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の本件特許明細書の【0059】に
「【0059】
【表1】


と記載されているのを、
「【0059】
【表1】


に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の本件特許明細書の【0063】に
「【0063】
【表2】


と記載されているのを、
「【0063】
【表2】


に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の本件特許明細書の【0067】に
「【0067】
【表3】


と記載されているのを、
「【0067】
【表3】


に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の本件特許明細書の【0071】に
「【0071】
【表4】


と記載されているのを、
「【0071】
【表4】


に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板において、「膜厚が27μm以下であり」との発明特定事項を追加することによりめっき被膜の膜厚を限定し、また、「残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、」との発明特定事項を追加することにより、めっき被膜の組成範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項1は、めっき被膜の膜厚および組成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
更に、めっき皮膜の「膜厚が27μm以下」であることは、本件特許明細書の【0042】、【0056】?【0072】に記載される事項であり、「残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有」することは、本件特許明細書の【0020】に記載される事項であるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
このことは、請求項1を引用する請求項3?6における訂正事項1による訂正も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板において、「膜厚が27μm以下であり」との発明特定事項を追加することによりめっき被膜の膜厚を限定し、また、「残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、」との発明特定事項を追加することにより、めっき被膜の組成範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項2は、めっき被膜の膜厚および組成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
更に、めっき皮膜の「膜厚が27μm以下」であることは、本件特許明細書の【0042】、【0056】?【0072】に記載される事項であり、「残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有」することは、本件特許明細書の【0020】に記載される事項であるから、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
このことは、請求項2を引用する請求項3?6における訂正事項2による訂正も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の「平均デンドライト径」に関して、「(隣接するデンドライトアーム間の中心距離)」との記載を追加することにより、「デンドライト径」という用語の意味を明確にし、明瞭でない記載の釈明をしようとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項3は、「デンドライト径」という用語の意味を明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
更に、めっき皮膜の「デンドライト径」が「隣接するデンドライトアーム間の中心距離」であることは、本件特許明細書の【0031】に記載される事項であるから、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
このことは、請求項4を引用する請求項5?6における訂正事項3による訂正も同様である。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法において、めっき浴のMgの含有量を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項4は、めっき浴の組成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
更に、めっき浴のMg含有量が「3?10質量%」であることは、本件特許明細書の【0023】、【0052】に記載される事項であるから、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の本件特許明細書の【0035】の「単径」との記載を「短径」と訂正することにより誤記を訂正するものであるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項5は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(6)訂正事項6?9について
訂正事項6は、本件訂正前の本件特許明細書の【0059】の【表1】から、特許請求の範囲の記載と整合せず、又は意味が不明瞭なデータが記載されている「No.24」、「No.33」、「No.36」、「No.37」、「No.41」、「No.57」、「No.58」、「No.67」を削除することにより、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
訂正事項7は、本件訂正前の本件特許明細書の【0063】の【表2】から、特許請求の範囲の記載と整合せず、又は意味が不明瞭なデータが記載されている「No.15」、「No.20」、「No.21」、「No.22」を削除することにより、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
訂正事項8は、本件訂正前の本件特許明細書の【0067】の【表3】から、特許請求の範囲の記載と整合せず、又は意味が不明瞭なデータが記載されている「No.15」、「No.20」、「No.21」、「No.22」を削除することにより、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
訂正事項9は、本件訂正前の本件特許明細書の【0071】の【表4】から、特許請求の範囲の記載と整合せず、又は意味が不明瞭なデータが記載されている「No.67」を削除することにより、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
従って、上記訂正事項6?9は、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項6?9は、いずれも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3?請求項6は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正後の請求項1、請求項3?請求項6は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項3?請求項6は、訂正前の請求項2を引用するものであるから、本件訂正後の請求項2?請求項6は一群の請求項である。
また、訂正事項6?9は、一群の請求項1、請求項3?請求項6、一群の請求項2?請求項6及び請求項7の全てについて明細書を訂正するものである。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 むすび
したがって、上記訂正事項1?9からなる本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、3?6〕、〔2?6〕、7、について訂正を認める。

第3 請求項に係る発明
上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6059408号の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【請求項2】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【請求項3】
前記界面合金層の厚さが、1μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項4】
前記主層がα-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(2)を満足することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
t/d≧1.5 ・・・(2)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(隣接するデンドライトアーム間の中心距離)(μm)
【請求項5】
前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、2.3超え?5質量%のSi及び3?10質量%のMgを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項6】
前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び5超え?10質量%のMgを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項7】
25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び3?10質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。」

第4 取消理由の概要
当審からの取消理由通知における取消理由の概要は以下のとおりである。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)異議申立1について
(ア)訂正前の請求項1、2に係る発明は、Al、Si、Mg及びZn以外のほかの任意の添加元素を、全ての元素の合計含有量が100質量%を超えない範囲内の任意の量において含有するめっき被膜を含む溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板をも包含しているものと解されるが、当該訂正前の請求項1、2に係る発明の範囲まで、訂正前の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
このことは、訂正前の請求項1、2に係る発明を引用する訂正前の請求項3?6に係る発明についても同様である。
その理由は、申立書1第12頁第7行?第14頁第5行に記載のとおりである。

(イ)訂正前の請求項1、2、7に係る発明ではZn含有量の下限値が明らかでなく、Feに対して犠牲防食作用を持つZnを僅かな量でしか含有しないめっき被膜を含む溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板をも包含する訂正前の請求項1、2、7に係る発明の範囲まで、訂正前の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
このことは、訂正前の請求項1、2に係る発明を引用する訂正前の請求項3?6に係る発明についても同様である。
その理由は、申立書1第14頁第6行?第15頁最終行に記載のとおりである。

(ウ)訂正前の請求項1、2に係る発明は、訂正前の本件特許発明の課題を解決することができない態様をも包含するものであり、そのような態様のものは、訂正前の発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、訂正前の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるものである。
このことは、訂正前の請求項1、2に係る発明を引用する訂正前の請求項3?6に係る発明についても同様である。
その理由は、申立書1第16頁第1行?第15行に記載のとおりである。

(2)異議申立2について
(ア)訂正前の請求項7に係る発明は、訂正前の明細書において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、訂正前の請求項7の記載は、サポート要件を満たさない。
その理由は、申立書2第35頁第23行?第36頁第5行に記載のとおりである。

(イ)訂正前の本件特許明細書【0059】【表1】のNo.36?No.41とは異なるめっき組成で平均冷却速度を変化させた場合に、良好な耐食性という訂正前の請求項7に係る発明の効果が得られることが裏付けられているとはいえないので、訂正前の請求項7に係る発明の範囲まで、訂正前の明細書に開示された内容を拡張ないし一般化することはできず、訂正前の請求項7の記載は、サポート要件を満たさない。
その理由は、申立書2第36頁第6行?第14行に記載のとおりである。

(ウ)平均冷却速度について、訂正前の請求項7に係る発明の「10℃/sec未満」の全範囲、及び「10℃/sec以上」の全範囲まで、訂正前の明細書に開示された内容を拡張ないし一般化することはできず、訂正前の請求項7の記載は、サポート要件を満たさない。
その理由は、申立書2第37頁第2行?第12行に記載のとおりである。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についてのむすび
以上のとおりであるので、訂正前の請求項1?7に係る発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)異議申立1について
(ア)訂正前の本件特許明細書【0059】【表1】のNo.57、No.58の「第1冷却速度540℃から380℃まで0℃/secの平均冷却速度で冷却する」ことが何を意味するのかが不明であるので、訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
その理由は、申立書1第16頁第17行?第17頁第13行に記載のとおりである。

(イ)訂正前の本件特許明細書【0059】【表1】のNo.58は、訂正前の請求項7に係る発明の発明特定事項を満たさないにもかかわらず本発明例とされ、しかも、当該No.58の「0℃/secの平均冷却速度」の意味するところは、出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できるとは認められないから、訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
その理由は、申立書1第17頁第14行?第22行に記載のとおりである。

(2)異議申立2について
(ア)訂正前の本件特許明細書は、【0053】の記載と【0059】【表1】のNo.36、37及びNo.40、41の記載とが矛盾しているから、訂正前の請求項7に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明できているとはいえず、訂正前の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない。
その理由は、申立書2第36頁第15行?第24行に記載のとおりである。

(イ)訂正前の本件特許明細書は、【0059】【表1】のNo.67の記載の意味が全く不明であるから、訂正前の請求項7に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明できているとはいえず、訂正前の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない。
その理由は、申立書2第36頁第25行?第37頁第1行に記載のとおりである。

(ウ)訂正前の本件特許明細書は、【0059】【表1】のNo.58、No.57の平均冷却速度が0℃/secであり、冷却しているのか、いないのか全く意味が不明であるから、訂正前の請求項1、2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明できているとはいえず、実施可能要件を満たさない。
その理由は、申立書2第37頁第13行?第18行に記載のとおりである。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についてのむすび
以上のとおりであるので、訂正前の請求項1?4、7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)異議申立2について
(ア)訂正前の請求項4に係る発明における「平均デンドライト径」が何を意味しているのか明確ではなく、訂正前の特許請求の範囲の記載は、明確性要件を満たさない。
その理由は、申立書2第37頁第19行?第38頁第4行に記載のとおりである

(イ)以上のとおりであるので、訂正前の請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 特許法第29条第1項第3号(新規性)または第29条第2項(進歩性)について
(1)異議申立1について
(1-1)異議申立1の各甲号証
甲第1号証 国際公開第2011/102434号
甲第2号証 国際公開第01/11100号
甲第3号証 国際公開第2014/019020号
甲第4号証 Z.Chen et.al.,A new quaternary phase observed in a laser treated
Zn-Al-Mg-Si coating,Journal of
Alloys and Compounds 589(2014)pp.226-229及びその翻訳文
甲第5号証 特表2012-520391号公報
甲第6号証 山口伸一ら,溶融Al-Si-Mg合金めっき鋼板のめっき組成と腐食挙動,鉄と鋼 Tetsu-To-Hagane Vol.99(2013)No.10,pp.617-624,平成25年10月 1日発行

(1-2)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
甲第1号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項の全てが記載されているといえるから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第35頁第2行?第36頁第13行に記載のとおりである。

イ 訂正前の請求項2に係る発明について
甲第1号証には、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項の全てが記載されているといえるから、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第36頁第14行?第41頁第6行に記載のとおりである。

ウ 訂正前の請求項3に係る発明について
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または甲第1号証に記載の発明において合金層の厚みを1μm以下に制御することは、当業者であれば容易になしえたことである。
その理由は、申立書1第41頁第7行?第14行に記載のとおりである。
エ 訂正前の請求項4に係る発明について
甲第1号証に記載の発明において、溶融めっき鋼材の耐食性を向上させるために、甲第4号証及び甲第5号証の教示を考慮して、めっき層中のα-Al相によって構成されるデンドライト組織をより微細な構造にしてインターデンドライト状チャンネルに沿った腐食経路をブロックするように、めっき層中のOT:SDAS比を1.5:1よりも十分大きなものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
その理由は、申立書1第41頁第15行?第43頁第26行に記載のとおりである。

オ 訂正前の請求項5、6に係る発明について
訂正前の請求項5、6に係る発明は甲第1号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第43頁第27行?第44頁第4行に記載のとおりである。

カ 訂正前の請求項7に係る発明について
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証の教示を参酌することにより、甲第1号証に記載の発明から当業者が容易に想到できたものである。
その理由は、申立書1第44頁第5行?第46頁第22行に記載のとおりである。

(1-3)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
甲第2号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項の全てが記載されているといえるから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第46頁第23行?第49頁第8行に記載のとおりである。

イ 訂正前の請求項2に係る発明について
甲第2号証には、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項の全てが記載されているといえるから、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第49頁第9行?第50頁第8行に記載のとおりである。

ウ 訂正前の請求項3に係る発明について
甲第2号証に記載の発明において、甲第1号証等の教示を参酌して、めっき層と地鉄の界面に含まれる合金層の厚さを、合金層による作用を効果的に発揮しかつ合金層によって溶融めっき鋼材の加工性が損なわれないようにするために、1μm以下に制御することは当業者であれば容易になし得たことである。
その理由は、申立書1第50頁第9行?第22行に記載のとおりである。

エ 訂正前の請求項4に係る発明について
甲第2号証に記載の発明において、溶融めっき鋼材の耐食性を向上させるために、甲第4号証及び甲第5号証の教示を考慮して、めっき層中のAl富有樹枝状相によって構成されるデンドライト組織をより微細な構造にしてインターデンドライト状チャンネルに沿った腐食経路をブロックするように、めっき層中のOT:SDAS比を1.5:1よりも十分大きなものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
その理由は、申立書1第50頁第23行?第51頁第14行に記載のとおりである。

オ 訂正前の請求項5、6に係る発明について
訂正前の請求項5、6に係る発明は甲第2号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第51頁第15行?第18行に記載のとおりである。

カ 訂正前の請求項7に係る発明について
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証の教示を参酌することにより、甲第2号証に記載の発明から当業者が容易に想到できたものである。
その理由は、申立書1第51頁第19行?第52頁最終行に記載のとおりである。

(1-4)甲第3号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
(ア)甲第3号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項の全てが記載されているといえるから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明である。
その理由は、申立書1第53頁第3行?第55頁第19行に記載のとおりである。

(イ)一方で、たとえ仮に甲第3号証に記載された発明が「前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上である」との発明特定事項を充足しているとは認められないとしても、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載の発明に対して進歩性を有するとは認められない。
その理由は、申立書1第55頁第20行?第56頁第7行に記載のとおりである。

イ 訂正前の請求項2に係る発明について
(ア)甲第3号証に記載される発明は、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項の全てを満たす蓋然性が極めて高いものと認められる。

(イ)また、仮に甲第3号証に記載された発明が「前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上である」との発明特定事項を充足しているとはいえないとしても、当業者は、周知の技術的事項(甲第2号証、甲第4号証)を参酌して、甲第3号証に記載の発明に基づいて訂正前の請求項1に係る発明を容易に想到し得るため、結果として訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項、ひいては訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項を満たすこととなるから、訂正前の請求項2に係る発明は甲第3号証に記載された発明であるか、又は甲第3号証に記載の発明から当業者が容易に想到できたものである。
その理由は、申立書1第56頁第8行?第57頁第8行に記載のとおりである。

ウ 訂正前の請求項3に係る発明について
訂正前の請求項3に係る発明は甲第3号証に記載された発明であるか、または甲第3号証に記載の発明において合金層の厚みを1μm以下に制御することは当業者であれば容易になしえたことである。
その理由は、申立書1第57頁第9行?第15行に記載のとおりである。

エ 訂正前の請求項5、6に係る発明について
甲第3号証に記載の発明において、金属めっきの組成を訂正前の請求項5、6に係る発明に特定される範囲内とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
その理由は、申立書1第57頁第16行?第23行に記載のとおりである。

オ 訂正前の請求項7に係る発明について
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証の教示を参酌することにより、甲第3号証に記載の発明から容易に想到できたものである。
その理由は、申立書1第57頁第24行?第59頁第5行に記載のとおりである。

(2)異議申立2について
(2-1)異議申立2の各甲号証
甲第1号証 国際公開第2011/102434号
甲第2号証 特開2013-44024号公報
甲第3号証 特表2012-520391号公報
甲第4号証 加茂 祐一、“平成24年度 学位論文 Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究”、[online]、[印刷日2017年 7月 3日] p.103-109、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/1>、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/2>
甲第5号証 岩波 理化学辞典 第5版、発行者 山口昭夫、発行所 株式会社岩波書店、2012年12月 5日 第5版第12刷発行
参考資料1 東京工業大学付属図書館蔵書検索(OPAC)、“Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究/加茂祐一”、インターネット
(2-2)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
甲第1号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項が悉く開示されているから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証により新規性を有さない。
その理由は、申立書2第24頁第5行?第26頁第9行に記載のとおりである。

イ 訂正前の請求項2に係る発明について
甲第1号証には、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項が悉く開示されているから、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証により新規性を有さない。
その理由は、申立書2第27頁第12行?第29頁最終行に記載のとおりである。

ウ 訂正前の請求項3に係る発明について
甲第1号証に記載される発明の発明特定事項は、訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項と一致する。
その理由は、申立書2第31頁第1行?第6行に記載のとおりである。

エ 訂正前の請求項4に係る発明について
甲第1号証に記載される発明において、破断面の錆を抑制するために、甲第3号証のようにOT:SDAS比を2:1以上にして、訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項を満たすようにすることは、当業者であれば容易に想到することができ、訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項の効果が格別顕著であるとはいえない。
その理由は、申立書2第31頁第13行?第32頁第2行に記載のとおりである。

オ 訂正前の請求項5、6に係る発明について
甲第1号証に記載される発明の発明特定事項は、訂正前の請求項5、6に係る発明の発明特定事項と一致する。
その理由は、申立書2第32頁第4行?第9行及び第17行?第22行に記載のとおりである。

カ 訂正前の請求項7に係る発明について
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証により進歩性を有さない。
その理由は、申立書2第33頁第5行?第34頁第21行に記載のとおりである。

(2-3) 甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 訂正前の請求項1に係る発明について
甲第2号証には、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項が悉く開示されているから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証により新規性を有さない。
その理由は、申立書2第26頁第10行?第27頁第10行に記載のとおりである。

イ 訂正前の請求項2に係る発明について
甲第2号証には、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項が悉く開示されているから、訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証により新規性を有さない。
その理由は、申立書2第30頁第1行?第26行に記載のとおりである。

ウ 訂正前の請求項3に係る発明について
甲第2号証に記載される発明は、訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項と一致する。
その理由は、申立書2第31頁第7行?第12行に記載のとおりである。

エ 訂正前の請求項4に係る発明について
甲第2号証に記載される発明において、破断面の錆を抑制するために、甲第3号証のようにOT:SDAS比を2:1以上にして、訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項を満たすようにすることは、当業者であれば容易に想到することができ、訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項の効果が格別顕著であるとはいえない。
その理由は、申立書2第31頁第13行?第32頁第2行に記載のとおりである。

オ 訂正前の請求項5、6に係る発明について
甲第2号証に記載される発明は、訂正前の請求項5、6に係る発明の発明特定事項と一致する。
その理由は、申立書2第32頁第10行?第15行及び第32頁第23行?第33頁第3行に記載のとおりである。

カ 訂正前の請求項7に係る発明について
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第2号証により進歩性を有さない。
その理由は、申立書2第34頁第22行?第35頁第21行に記載のとおりである。

(3)特許法第29条第1項第3号(新規性)または第29条第2項(進歩性)についてのむすび
以上のとおりであるので、訂正前の請求項1?7に係る発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するものに対してされたものであるか、または、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 異議申立理由の概要
異議申立1、2による異議申立理由の概要は以下のとおりである。
1 異議申立1について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
異議申立1の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての申立理由は、上記第4の1(1)に記載される事項と同旨のものである。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
異議申立1の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての申立理由は、上記第4の2(1)に記載される事項と同旨のものである。

(3)特許法第29条第1項第3号(新規性)または第29条第2項(進歩性)について
異議申立1の特許法第29条第1項第3号(新規性)または第29条第2項(進歩性)についての申立理由は、上記第4の4(1)に記載される事項と同旨のものである。

2 異議申立2について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
異議申立2の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての申立理由は、上記第4の1(2)に記載される事項と同旨のものである。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
異議申立2の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についてについての申立理由は、上記第4の2(2)に記載される事項と同旨のものである。

(3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
異議申立2の特許法第36条第6項第2号(明確性)についてについての申立理由は、上記第4の3(1)に記載される事項と同旨のものである。

(4)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について
異議申立2の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)についての申立理由は、上記第4の4(2)に記載される事項と同旨のものである。

第6 取消理由及び異議申立理由についての判断
上記第4、第5より、当審からの取消理由通知において異議申立1、2の異議申立理由は全て記載されているので、以下、上記取消理由通知の記載に沿って検討する。
1 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(a)「【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。」

(b)「【0020】
(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板)
本発明の対象とする溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜を有し、該めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層からなる。そして、前記めっき皮膜は、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0021】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、25?80質量%とし、好ましくは35?65質量%である。めっき主層のAl含有量が25質量%以上であれば、Alのデンドライト凝固が起こる。これにより、主層は主としてZnを過飽和に含有し、Alがデンドライト凝固した部分(α-Al相のデンドライト部分)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト部分)からなり、且つ該デンドライト部分がめっき皮膜の膜厚方向に積層した耐食性に優れる構造を確保できる。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上する。極めて高い耐食性を得るためには、主層のAl含有量を35質量%以上とすることがより好ましい。一方、主層のAl含有量が80質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、主層のAl含有量は80質量%以下とする。また、主層のAl含有量が65質量%以下であれば、めっきの付着量が少なくなり、鋼素地が露出しやすくなった場合にもFeに対して犠牲防食作用を有し、十分な耐食性が得られる。よって、めっき主層のAl含有量は65質量%以下とすることが好ましい。」

(c)「【0025】
そして本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、前記インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、前記単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましい。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」

(d)「【0031】
なお、前記デンドライト径とは、隣接するデンドライトアーム間の中心距離(デンドライトアームスペーシング)のことを意味する。本発明では、前記デンドライト径を、2次枝法([軽金属学会 鋳造・凝固部会、「軽金属」38巻、P54、1988年]を参照。)に従って測定する。本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜主層におけるデンドイト部分は、配向性が高く、アームが整列している部分が多いためである。
具体的には、図4に示すように、研磨及び/又はエッチングしためっき皮膜主層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて拡大観察し(例えば200倍で観察し)、無作為に選択した視野の中で、デンドライトアームが3本以上整列している部分を選択し(図4では、A-B間の3本を選択している。)、アームが整列している方向に沿って距離(図4では、距離L)を測定する。その後、測定した距離をデンドライトアームの本数で除して(図4では、L/3)、デンドライト径を算出する。当該デンドライト径は、1つの視野の中で、3箇所以上測定し、それぞれ得られたデンドライト径の平均を算出したものを平均デンドライト径とする。」

(e)「【0032】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、上述したように前記主層がMg_(2)Siを含有しているが、該主層におけるMg_(2)Siの含有量が、1.0質量%以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明でのMg_(2)Siの含有量については、例えばAl-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜を酸に溶解させた後、ICP分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)でSi及びMgの量(g/m^(2))を測定する。そして、Si量から、界面合金層含有分(界面合金層1μmあたり、0.45g/m^(2))を引き、2.7を乗じてMg_(2)Siの量(g/m^(2))に換算し、めっき量(g/m^(2))で除して、Mg_(2)Siの質量%を算出する方法が用いられるが、Mg_(2)Siの含有量がわかればどのような分析方法を用いても良い。
【0033】
また、前記主層における主層におけるMg_(2)Siの面積率が、該主層の断面で見て1%以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明でのMg_(2)Siの面積率については、例えば、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜の断面を、SEM-EDXでマッピングし、1つの視野中でMgとSiが重なって検出される部分(Mg_(2)Siが存在する部分)の面積率(%)を、画像処理によって導出する方法が用いられるが、Mg_(2)Siが存在する部分の面積率が把握することができる方法であれば、特に限定されない。
【0034】
さらに、前記主層に含まれるMg_(2)Siについては、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明での強度比の算出については、X線回折パターンを、例えば管電圧:30kV、管電流:10mA、Cu Kα管球(波長λ=0.154nm)、測定角度2θ=10°?90°の条件で取得し、Alを示す(200)面(面間隔d=0.2024nm)及びMg_(2)Siを示す(111)面(面間隔d=0.367nm)の強度をそれぞれ測定し、後者を前者で除することによって行うが、X線回折の条件は特に限定するものではない。」

(f)「【0042】
なお、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜の膜厚は、15μm以上27μm以下であることが好ましい。一般的に、前記めっき皮膜が薄いほど、耐食性が悪化する傾向にあり、厚いほど、加工性が劣化する傾向があるためである。
また、前記界面合金層の厚さは、1μm以下であることが好ましい。界面合金層の厚さを1μm以下とすることで、高い加工性が実現でき、より優れた加工部耐食性が得られるからである。例えば、前述したように、めっき皮膜中のSi含有量を0.6質量%超えとすることで、界面合金層の成長を抑制できるので、界面合金層の厚みを1μm以下とすることが可能になる。
ここで、前記めっき皮膜及び前記界面合金層の厚さを得る方法は、正確に把握できる方法であれば特に限定はされない。例えば、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の断面をSEMにより観察し、1視野ごとに3か所の厚さを測定し、3視野で測定した9か所の厚さの平均を算出することで把握することができる。」

(g)「【0053】
そして、本発明の製造方法は、前記溶融めっき後の鋼板について、前記第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却する。本発明者らの研究の結果、Mg_(2)Siについては、めっき浴の浴温?浴温-50℃程度(第1冷却温度)の温度域までに生成しやすいことがわかっており、該第1冷却温度までの冷却速度を平均10℃/sec未満とすることよって、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となる。一方、第1冷却温度?380℃までの温度域では、単相Siが析出しやすいことがわかっており、第1冷却温度から380℃までを平均10℃/sec以上の冷却速度とすることで、単相Siの析出を抑制することが可能となる。
また、より確実に単相Siの析出を防ぐ点からは、第1冷却温度から380℃までの平均冷却速度を、20℃/sec以上とすることが好ましく、40℃/sec以上とすることがより好ましい。」

(h)「【0059】
【表1】


(i)「【0063】
【表2】



(j)「【0067】
【表3】



2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)異議申立1について
(ア)本件特許発明1、2は、いずれも、めっき皮膜が、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものであり、本件特許発明7は、めっき浴が、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び3?10質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるものであるから、本件特許発明1、2、7が、Al、Si、Mg及びZn以外のほかの任意の添加元素を、全ての元素の合計含有量が100質量%を超えない範囲内の任意の量において含有するめっき被膜を含む溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板及びその製造方法を包含するものとはいえない。

(イ)上記1の(b)によれば、めっき被膜の主層のAl含有量が80質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化するものである。
そして、上記1の(b)の記載に接した当業者は、ZnがFeに対して犠牲防食作用を有するものであって、めっき被膜が耐食性を損なわない程度の量のZnを含有することを理解でき、このことと、上記(ア)の検討によれば、本件特許発明1、2、7におけるめっき被膜は、発明の特性を損なわない程度の量のZnを含有するものと理解できるので、本件特許発明1、2、7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえない。

(ウ)また、上記1の(h)のNo.36、37及び1の(i)のNo.21、22は削除されたので、本件特許発明1及び2により課題を解決することができないともいえない。

(エ)したがって、異議申立1の理由により、本件特許発明1?7に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に違反して特許されたものということはできない。

(2)異議申立2について
(ア)本件特許発明7は、Mgの含有量が3?10質量%であるから、上記1の(h)のNo.11、19、20はMgの含有量について本件特許発明7の発明特定事項を満たさない比較例となったので、本件特許発明7により課題を解決できないとはいえない。

(イ)上記1の(g)によれば、本件特許明細書には、Mg_(2)Siについて、めっき浴の浴温?浴温-50℃程度(第1冷却温度)の温度域までに生成しやすいことがわかっており、該第1冷却温度までの冷却速度を平均10℃/sec未満とすることよって、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となる一方、第1冷却温度?380℃までの温度域では、単相Siが析出しやすいことがわかっており、第1冷却温度から380℃までを平均10℃/sec以上の冷却速度とすることで、単相Siの析出を抑制することが可能となることが記載されている。

(ウ)そして上記1の(g)の記載に接した当業者は、 Mg_(2)Siや単相Siが生成する際の特性に基づいて、上記1の(h)のNo.38?No.40とは異なるめっき組成で冷却速度を変化させた場合でも、良好な耐食性といった本件特許発明7の効果が得られることを理解できるから、めっき浴の組成について、本件特許発明7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえない。

(エ)また、上記1の(g)の記載に接した当業者は、 Mg_(2)SiやSiが生成する際の特性に基づいて、「第1冷却温度までの平均冷却速度を10℃/sec未満」とし、「第1冷却温度から380℃までの平均冷却速度を10℃/sec以上」とすることで、良好な耐食性といった本件特許発明7の効果が得られることを理解できるから、平均冷却速度について、本件特許発明7の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえない。

(オ)したがって、異議申立2の理由により、本件特許発明7に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に違反して特許されたものということはできない。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)異議申立1について
(ア)上記1の(h)によれば、No.57、No.58の「第1冷却速度540℃から380℃まで0℃/secの平均冷却速度で冷却する」ものは削除され、本件特許明細書に意味が不明瞭な点はなくなったので、本件特許が、特許法第36条第4項第1号に違反して特許されたものということはできない。

(2)異議申立2について
(ア)上記1の(h)によれば、No.24、No.33、No.36、No.37、No.41、No.57、No.58、No.67は削除され、上記1の(i)によれば、No.15、No.20、No.21、No.22は削除され、上記1の(j)によれば、No.15、No.20、No.21、No.22は削除され、本件特許明細書に矛盾や意味が不明瞭な点はなくなったので、本件特許が、特許法第36条第4項第1号に違反して特許されたものということはできない。

4 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)異議申立2について
(ア)本件特許発明4の「平均デンドライト径」が「平均デンドライト径(隣接するデンドライトアーム間の中心距離)(μm)」とされ、このことは上記1の(d)の記載とも矛盾しない。

(イ)そして、上記「平均デンドライト径」が「隣接するデンドライトアーム間の中心距離(デンドライトアームスペーシング)」のことを意味することが明らかとなり、上記1の(d)によれば、デンドライト径を、2次枝法([軽金属学会 鋳造・凝固部会、「軽金属」38巻、P54、1988年]を参照。)に従って測定することが明らかとなったので、本件特許発明4に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に違反して特許されたものということはできない。

5 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)異議申立1について
(1-1)各甲号証の記載事項
異議申立1の各甲号証は、上記第4の4(1)(1-1)に記載された甲第1号証?甲第6号証である。以下、異議申立1の甲第1号証?甲第6号証を、異議申立2の各甲号証と区別するため、それぞれ、以下のとおり、甲第1-1号証?甲第1-6号証という。

甲第1-1号証 国際公開第2011/102434号
甲第1-2号証 国際公開第01/11100号
甲第1-3号証 国際公開第2014/019020号
甲第1-4号証 Z.Chen et.al.,A new quaternary phase observed in a laser treated
Zn-Al-Mg-Si coating,Journal of
Alloys and Compounds 589(2014)pp.226-229及びその翻訳文
甲第1-5号証 特表2012-520391号公報
甲第1-6号証 山口伸一ら,溶融Al-Si-Mg合金めっき鋼板のめっき組成と腐食挙動,鉄と鋼 Tetsu-To-Hagane Vol.99(2013)No.10,pp.617-624,平成25年10月 1日発行

ア 甲第1-1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-1号証(国際公開第2011/102434号)には、以下の記載がある(当審注:「・・・・」は省略を表す。)。
(1-A)「[請求項1]鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層がめっきされてなる溶融めっき鋼材であって、
前記アルミニウム・亜鉛合金めっき層が構成元素としてAl、Zn、Si及びMgを含み、且つMg含有量が0.1?10質量%であり、前記アルミニウム・亜鉛合金めっき層が0.2?15体積%のSi?Mg相を含み、
前記Si?Mg相中のMgの、Mg全量に対する質量比率が3%以上であることを特徴とする溶融めっき鋼材。」(請求の範囲)

(1-B)「[請求項10]溶融めっき鋼材の製造方法であって、
下記組成を含む溶融めっき浴を準備し、
25?75質量%のAl、
0.1?10質量%のMg、
0.02?1.0質量%のCr、
Alに対して0.5?10質量%のSi、
1?1000質量ppmのSr、
0.1?1.0質量%のFe、
残部がZn、
且つ
Si:Mgの質量比が100:50?100:300
鋼材をこの溶融めっき浴に通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させ、
この溶融めっき金属を凝固させて前記鋼材の表面にアルミニウム・亜鉛合金めっき層を形成することを特徴とする溶融めっき鋼材の製造方法。」(請求の範囲)

(1-C)「[0033]めっき層は0.2?15体積%のSi-Mg相を含む。Si-Mg相はSiとMgとの金属間化合物で構成される相であり、めっき層中に分散して存在する。」

(1-D)「[0036]めっき層はSi-Mg相と、それ以外のZnとAlを含有する相により構成される。ZnとAlを含有する相は、主としてα-Al相(デンドライト組織)及びZn-Al-Mg共晶相(インターデンドライト組織)で構成される。ZnとAlを含有する相は、めっき層の組成に応じて更にMg-Zn_(2)から構成される相(Mg-Zn_(2)相)、Siから構成される相(Si相)、Fe-Al金属間化合物から構成される相(Fe-Al相)等、各種の相を含み得る。ZnとAlを含有する相は、めっき層中のSi-Mg相を除いた部分を占める。従って、めっき層におけるZnとAlを含有する相の体積割合は99.9?60%の範囲、好ましくは99.9?80%の範囲、更に好ましくは99.8?90%の範囲、特に好ましくは99.6?95%の範囲である。」

(1-E)「[0038]めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率は、Si-Mg相がMg_(2)Siの化学量論組成を有しているとみなされた上で算出され得る。尚、実際にはSi-Mg相はSi及びMg以外のAl、Zn、Cr、Fe等の元素を少量含む可能性が有り、Si-Mg相中のSiとMgとの組成比も化学量論組成から若干変動している可能性があるが、これらを考慮してSi-Mg相中のMg量を厳密に決定することは非常に困難である。このため、本発明においては、めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率が決定される際には、前記の通り、Si-Mg相がMg_(2)Siの化学量論組成を有しているとみなされる。
[0039]めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率は、次の式(1)により算出され得る。
[0040]R=A/(M×CMG/100)×100 …(1)
Rはめっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率(質量%)を、Aはめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層中のSi-Mg相に含まれるMg含有量(g/m^(2))を、Mはめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層の質量(g/m^(2))を、CMGはめっき層中の全Mgの含有量(質量%)を、それぞれ示す。
[0041]Aは、次の式(2)から算出され得る。
[0042]A=V_(2)×ρ_(2)×α …(2)
V_(2)はめっき層の平面視単位面積当たりの、めっき層中のSi-Mg相の体積(m^(3)/m^(2))を示す。ρ_(2)はSi-Mg相の密度を示し、その値は1.94×10^(6)(g/m^(3))である。αはSi-Mg相中のMgの含有質量比率を示し、その値は0.63である。
[0043]V_(2)は、次の式(3)から算出され得る。
[0044]V_(2)=V_(1)×R_(2)/100 …(3)
V_(1)はめっき層の平面視単位面積あたりの、めっき層の全体体積(m^(3)/m^(2))を、R_(2)はめっき層中のSi-Mg相の体積比率(体積%)を、それぞれ示す。
[0045]V_(1)は、次の式(4)から算出され得る。
[0046]V_(1)=M/ρ_(1) …(4)
ρ_(1)は、めっき層全体の密度(g/m^(3))を示す。ρ_(1)の値は、めっき層の組成に基づいてめっき層の構成元素の常温での密度を加重平均することで算出され得る。」

(1-F)「[0055]めっき層は、構成元素として更にCrを含有することが好ましい。この場合、Crによってめっき層中のSi-Mg相の成長が促進され、めっき層中のSi-Mg相の体積割合が高くなると共に、めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの割合が高くなる。これにより、めっき層のしわが更に抑制される。めっき層におけるCrの含有量は0.02?1.0質量%の範囲であることが好ましい。・・・・」

(1-G)「[0057]めっき層と鋼材との間にはAlとCrとを含有する合金層が介在することが好ましい。本発明では、合金層はめっき層とは異なる層とみなされる。・・・・
[0058]合金層の厚みは0.05?5μmの範囲であることが好ましい。この厚みが0.05μm以上であれば、合金層による上記作用が効果的に発揮される。この厚みが5μm以下であれば、合金層によって溶融めっき鋼材の加工性が損なわれにくくなる。」

(1-H)「[0060]めっき層は構成元素として更にSrを含有することが好ましい。この場合、Srによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Srによって、めっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制される。これは、Mg系酸化皮膜よりもSrの酸化膜の方が優先的に形成されやすくなることで、Mg系酸化皮膜の形成が阻害されるためであると考えられる。これにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。めっき層中のSrの含有量は1?1000質量ppmの範囲であることが好ましい。・・・・
[0061]めっき層は構成元素として更にFeを含有することが好ましい。この場合、Feによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Feはめっき層のミクロ組織及びスパングル組織の微細化にも寄与し、これによりめっき層の外観及び加工性が向上する。めっき層におけるFeの含有量は0.1?0.6質量%の範囲であることが好ましい。・・・・」

(1-I)「[0069]本実施形態では、例えば25?75質量%のAl、0.5?10質量%のMg、0.02?1.0質量%のCr、Alに対して0.5?10質量%のSi、1?1000質量ppmのSr、0.1?1.0質量%のFe、及びZnを含有する溶融めっき浴が準備される。Znは、溶融めっき浴中の成分全体のうち、Zn以外の成分を除いた残部を占める。溶融めっき浴中のSi:Mgの質量比は、100:50?100:300の範囲であることが好ましい。」

(1-J)「[0078]鋼材1の表面上に付着した溶融めっき金属が冷却されて凝固する過程で、まずα-Al相が初晶として析出し、デンドライト状に成長する。このようにAlリッチなα-Al相の凝固が進行すると、残部の溶融めっき金属中(すなわち、溶融めっき金属の未だ凝固していない成分中)のMgとSi濃度が除々に高くなる。次に鋼材1が冷却されてその温度が更に低下すると、残部の溶融めっき金属の中からSiを含有するSi含有相(Si-Mg相)が凝固析出する。このSi-Mg相は、上述の通りMgとSiとの合金で構成される相である。このSi-Mg相の析出・成長がCr、Fe及びSrによって促進される。このSi-Mg相に溶融めっき金属中のMgが取り込まれることで、溶融めっき金属の表層へのMgの移動が阻害され、この溶融めっき金属の表層でのMgの濃化が抑制される。」

(1-K)「[0120]冷却装置10によって冷却されることにより溶融めっき金属の凝固が完全に終了するためには、鋼板1a上が冷却装置10により、溶融めっき金属(或いはめっき層)の表面温度が300℃以下になるまで冷却されることが好ましい。溶融めっき金属の表面温度は、例えば放射温度計などで測定される。このようにめっき層が形成されるためには、この鋼板1aがめっき浴2より引き出されてから鋼板1a上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が5?100℃/secの範囲であることが好ましい。鋼板1aの冷却速度を制御するために、冷却装置10が、鋼板1aの温度をその搬送方向及び板幅方向に沿って調節するための温度制御機能を備えることが好ましい。・・・・
鋼板1aが冷却される過程では、鋼板1a上の溶融めっき金属の表面温度が500℃以上である間の溶融めっき金属の表面の冷却速度が50℃/sec以下であることが好ましい。この場合、めっき層の表面におけるSi-Mg相の析出が特に抑制され、このためタレの発生が抑制される。この温度域での冷却速度がSi-Mg相の析出挙動に影響する理由は現時点で必ずしも明確ではないが、この温度域での冷却速度が速いと溶融めっき金属における厚み方向の温度勾配が大きくなり、このため温度がより低い溶融めっき金属の表面で優先的にMg-Si層の析出が促進されてしまい、その結果、めっき最表面でのSi-Mg相の析出量が多くなってしまうと考えられる。この温度域での冷却速度は、40℃/sec以下であれば更に好ましく、35℃/sec以下であれば特に好ましい。」

(1-L)「[0151]この鋼板1aに対し、図1に示す溶融めっき処理装置を用いて、溶融めっき処理を施した。処理条件は表1?4に示すとおりである。表1?3に示される凝固開始温度は、Zn-Al二元系の浴の状態図の液相曲線から導き出した値であり、表1?3に示す各溶融めっき浴組成におけるAlの含有量に対応する値である。
[0152]鋼板1aの溶融めっき浴2への侵入時の温度は580℃とした。
[0153]鋼板1aを溶融めっき浴2から引き出す際には空気雰囲気中に引き出し、ガスワイピングも空気雰囲気中で施した。但し、実施例65については、溶融めっき浴2より上流側の鋼板1aの搬送経路をシールボックス(中空の部材22)で囲むと共に、このシールボックスの内部に噴射ノズル9を配置し、このシールボックスの内部を窒素雰囲気とすると共に、中空の部材22の内側で窒素ガスによるガスワイピングをおこなった。
[0154]冷却装置10では、鋼板1aを、溶融めっき金属(めっき層)の表面温度が300℃になるまで冷却した。冷却時の冷却速度は45℃/secとした。但し、実施例70,71については溶融めっき金属の表面温度が500℃以上である温度域での冷却速度を変更し、この過程における、実施例70での冷却速度を38℃/sec、実施例71での冷却速度を28℃/secとした。」

(1-M)「[0156]
[表1]



(1-N)「[0158]
[表3]



(1-O)「[0173]
[表5]



(1-P)「[0175]
[表7]



(ア)上記(1-A)?(1-H)によれば、甲第1-1号証には、鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層がめっきされてなる溶融めっき鋼材に係る発明が記載されており、上記(1-M)の実施例12の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.9%、Cr:0.2%、Si:1.4%、Mg:2.4%、Fe:0.44%、Sr:36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものといえる。
また、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.4/(1.4-0.6)=3.0
となるものである。
同様に、上記(1-N)の実施例42の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0%、Cr:0.13%、Si:3.9%、Mg:6.5%、Fe:0.42%、Sr:36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものといえ、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=6.5/(3.9-0.6)=2.0
となるものであり、実施例43の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55.0%、Cr:0.19%、Si:4.2%、Mg:10.0%、Fe:0.43%、Sr:42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものといえ、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=10.0/(4.2-0.6)=2.8
となるものである。
更に、上記(1-C)、(1-E)によれば、上記実施例12、43、43のめっき層の主層は、Mg_(2)Siを含有するものである。

(イ)そうすると、上記甲第1-1号証には、
「鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層がめっきされてなる溶融めっき鋼材であって、前記めっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0?55.0%、Cr:0.13?0.2%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、めっき層中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融めっき鋼材。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?3.0 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」(以下、「甲1-1-1発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、上記(1-B)、(1-K)、(1-L)、(1-M)によれば、上記甲第1-1号証には、溶融めっき鋼材の製造方法に係る発明が記載されており、当該溶融めっき鋼材の製造方法は、質量%でAl:53.0?55.0%、Cr:0.13?0.2%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させた後、めっき後の鋼材を、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secの範囲で冷却するものといえる。

(エ)そうすると、上記甲第1-1号証には、
「質量%でAl:53.0?55.0%、Cr:0.13?0.2%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させた後、めっき後の鋼材を、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secの範囲で冷却する、溶融めっき鋼材の製造方法。」(以下、「甲1-1-2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第1-2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-2号証(国際公開第01/11100号)には、以下の記載がある。
(2-A)「1.質量%で
A1:45%以上70%以下
Mg:3%以上10%未満
Si:3%以上10%未満
を含有し、 残部がZnおよび不可避不純物からなり、かつ、Al/Zn:0.89?2.75満たし、さらに、めっき層中に塊状Mg_(2)Si相を含むことを特徴とする耐食性に優れたZn?A1?Mg?S i合金めっき鋼材。
2. 質量%で
A1:45%以上70%以下
Mg:1%以上5%未満
Si:0.5%以上3%未満
を含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなり、かつ、Al/Zn :0.89?2.75を満たし、さらに、めっき層中に鱗片状Mg_(2)Si相を含むことを特徴とする耐食性に優れたZn?Al? Mg? Si合金めっき鋼材。」(請求の範囲)

(2-B)「6.めっき層中における塊状と鱗片状のMg_(2)Si相の合計含有率が5°の断面傾斜研磨で観察したときの面積率で10?30%であり、Mg_(2)Si相全体に対する塊状Mg_(2)Siの面積率が1%以上であることを特徴とする請求項1,3または4に記載の耐食性に優れた Zn?A 1?Mg?Si合金めっき鋼材。」(請求の範囲)

(2-C)「8.Ni,Co,Zn,Sn,Fe,Cuの1種以上を含有するプレめっき層、および、Ni, Co, Zn, Sn,Fe,Cuの2種以上からなる金属間化合物相の、一方もしくは両方を、めっき層と鋼材の界面に有することを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の耐食性に優れたZn?A1?Mg?Si合金めっき鋼材。」(請求の範囲)

(2-D)「10.請求項1?9記載のZn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材を製造する方法において、めっき浴の浴温を500?650℃とし、めっき後の冷却速度を10℃/秒以上に制御することを特徴とする耐食性に優れたZn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材の製造方法。」(請求の範囲)

(2-E)「また、上記先行例で開示された組成以外の範囲においても、析出するMg_(2)Si相の含有率を一定値以上に保てば、従来のZn?A1めっき鋼板と比較すると耐食性が大幅に向上する範囲が存在することが明らかになった。」(2頁下から8行?下から5行。)

(2-F)「次にめっき相のSiに関してであるが、添加量が0.5%未満であると地鉄とめっき相との界面にFe?A1系合金層が厚く生成し、加工時のめっき割れを誘発するため十分な加工性が得られない。これはMgの添加量によらず生じる現象であり、Siの添加量は0.5%以上必要である。」(6頁下から6行?下から2行。)

(2-G)「次にめっき層の金属組織に関してであるが、図1並びに図2に本発明に従うめっき層をめっき面に対して5°傾斜した面で研磨し観察した場合の組織を模式的に示す。図1が請求項1に従う場合で、ここで、A1富有樹枝状相1は、図中で白く樹枝状に成長した相であり、実際には少量のZn、Mg、S、Feを固溶している。また、Zn富有樹枝状相2は、図中で斑点を打つた領域で樹枝状に成長した相であり、実際には少量のA1、Mg、S、Feを固溶している。また、塊状Mg_(2)Si相3は、図中で多角形状に析出した数10μm程度の析出相であり、めっき凝固初期過程に生成した相である。またこれらの相の隙間を埋める形で参照数字4で示すZn-Mg系金属間化合物であるMgZn_(2)あるいはMg_(2)Zn_(11)組織、さらには参照数字5で示す鱗片状Mg_(2)Si相が分散して析出している。
図 2 は、請求項2に従う場合で、図1との違いは塊状 Mg_(2)Si相3の有無である。
一方、同一試料をめっき表面に対し垂直に研磨し組織観察した結果を図3および図4 に示す。図中の番号に対応する析出相は図1および図2と同様である。参照数字6はFe-Al系合金層であり、参照数字7は地鉄鋼板である。塊状Mg_(2)Si相が析出している図3に関しては、その大きさが水平方向に対して5°の角度で研磨し観察した図1と比べると小さく、また局所的な形態しか把握できていない。これは塊状Mg_(2)Si相は初期凝固相として多角形の板状としてめっき水平方向に広がった状態で析出するが、これを垂直研磨では垂直方向に切断したごく一部分した観察できないためである。場合によっては5°傾斜研磨で確認することができる大きさは垂直研磨で確認できる大きさの10倍以上に達することもある。同様に鱗片状に析出するMg_(2)Si相に関しても研磨角度により観察される大きさが著しく異なってくる。これは、鱗片状Mg_(2)Si相は初晶として樹枝状に析出するA1並びにZn富有樹枝状相の隙間に不連続に析出するためである。
このように析出物の形態、大きさを正確に求めるためには、なるベくめっき面に対して水平に近い角度で研磨することが必要で、このようにして正確に求めたMg_(2)Si相の大きさがめっき特性を決定していることを突き止めたことが本発明の重要な点である。
研磨する角度に関しては本発明者が種々検討した結果、水平方向に対して5°に保つことで水平研磨で確認できる析出物の大きさとほぼ同等となり、まためっき表層から地鉄部分まで連続的に確認できることが判明した。
以下ではこの方法で測定されるMg_(2)Si相の形態、大きさに関して規定する。」(7頁17行?9頁1行。)

(2-H)「塊状Mg_(2)Si相の大きさに関しては長径の平均値が50μmを越えるとクラック発生の起点となり、加工性を低下させる。特に100μmを越えるものが析出するとめっき剥離を誘発することもあり、析出した塊状Mg_(2)Si相のうち100μmを越えるものの比率が10%以下に制御することが重要である。また鱗片状Mg_(2)Si相に関しても長径の平均値を50μm以下に制御し加工性を確保する必要がある。鱗片状Mg_(2)Si相は100μmを越えるものが析出してもめっき剥離まで誘発することはなく、平均値で50μm以下に制御すれば十分な加工性が確保できる。
析出するMg_(2)Si相の大きさに関しては溶融めっき後の冷却速度が最も大きな影響を与え、塊状、鱗片状のいずれの場合にも冷却速度を10℃/秒以上に確保することで、長径の平均値を50μm以下に制御することが可能である。冷却速度を上昇させるためにはめっき後ワイピングノズルで付着量を制御した後、空気あるいは窒素等の不活性ガスを強制的に吹きつけ冷却することで達成できる。さらに冷却速度を上昇させたい場合には気水を吹きつけることも可能である。またMg_(2)Si相の大きさの下限については特に限定するものではないが、通常操業での上限冷却速度50℃/秒で製造した場合には、数μm程度の大きさで析出するのが一般的であるので、下限を3μmとした。
耐食性を十分向上させるためには鱗片状Mg_(2)Si相を5°傾斜研磨で観察した場合の面積率で3%以上含有することが必要である。」(9頁12行?10頁6行)

(2-I)「めっきの前処理としてプレめっきを施すことも可能で、このときにはめっき層と地鉄の界面にNi,Co,Zn,Sn,Fe,Cuの1種以上を含有するプレめっき相が生成されることになる。また、プレめっき層と地鉄、めっき金属が反応して金属間化合物相が形成されることもありうる。また、プレめっき相と金属間化合物相の混合相となることもありうるが、いずれの状態となってもよく、本発明の趣旨を損なうものではない。プレめっきがめっき浴中に溶解し、あるいは拡散によりめっき層中にプレめっき成分が含有されることもあるが、これにより本発明の趣旨を損なうものではない。特に、熱延鋼板等に本めっきを適用する際の、めっき密着性向上を目的とする場合にはN iを0.5?1g/m^(2)程度プレめっきすると効果的である。」(11頁1行?11行。)

(2-J)「実施例
(実施例1及び比較例1)
通常の熱延、冷延工程を経た冷延鋼板(板厚0.8mm)を材料として、溶融Zn?A1?Mg?Siめっきを行った。めっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し、めっき後ガスワイピング法でめっき付着量を調節し、その後冷却し、ゼロスパングル処理を施した。めっき浴の組成を種々変えて試料を製造し、その特性を調査した。なお、浴中には浴中のめっき機器やストリップから供給される不可避的不純物として、Feが1?2%程度含有されていた。浴温は600?650℃とした。得られためっき鋼板はめっき剥離し化学分析法でめっき組成と付着量を測定すると同時に、5°傾斜研磨後、光学顕微鏡でめっき組織を観察した。同時に下記方法にて耐食性、加工性、溶接性を評価した。その結果を表1に示す」(12頁13行?25行。)

(2-K)「



(2-L)「



(ア)上記(2-A)?(2-C)、(2-I)?(2-L)によれば、甲第1-2号証にはZn?A1?Mg?S i合金めっき鋼材に係る発明が記載されており、上記(2-K)の実施例5の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%、Fe:1%を含むものであるが、上記(2-J)によればFeは不可避的不純物といえるので、上記めっき層は、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有するものといえる。
また、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=7.8/(4.8-0.6)=1.9
となるものである。
更に、上記(2-G)、(2-L)によれば、上記実施例5のめっき層の主層は、Mg_(2)Siを含有するものであり、上記(2-H)、(2-J)、(2-K)によれば、その含有量は、5°傾斜研磨で測定した面積率で15.1%となるものである(当審注:上記(2-K)の「表1」における「容量(%)」は、上記(2-H)によれば、「面積率(%)」の誤記と認められる。)。

(イ)そうすると、上記甲第1-2号証には、
「Zn?A1?Mg?S i合金めっき鋼材であって、めっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、めっき層中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が、5°傾斜研磨で測定した面積率で15.1%である、Zn?A1?Mg?S i合金めっき鋼材。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=1.9 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」(以下、「甲1-2-1発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、上記(2-D)、(2-J)、(2-K)によれば、上記甲第1-2号証には、Zn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材の製造方法に係る発明が記載されており、当該Zn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材の製造方法は、上記実施例5についてみれば、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させた後、めっき後の冷却速度を20℃/秒に制御するものといえる。

(エ)そうすると、上記甲第1-2号証には、
「質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させてその表面に溶融めっき金属を付着させた後、めっき後の冷却速度を20℃/秒に制御する、Zn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材の製造方法。」(以下、「甲1-2-2発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 甲第1-3号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-3号証(国際公開第2014/019020号)には、以下の記載がある。
(3-A)「1.A metallic coated steel strip that includes a steel strip and a metallic coating on at least one side of the strip, with the metallic coating including an Al-Zn- Mg-Si overlay alloy layer and an intermediate alloy layer between the steel strip and the overlay alloy layer, and wherein the intermediate alloy layer has a composition of, by weight,4.0-12.0%Zn,6.0-17.0%Si,20.0-40.0%Fe,0.02- 0.50%Mg,and balance Al and unavoidable impurities.」(CLAIMS)
(当審訳:「1.スチールストリップと、前記スチールストリップの少なくとも一つの面上の金属めっきとを含む金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきは、Al-Zn-Mg-Si上張り合金層、および前記スチールストリップと前記上張り合金層との間の中間合金層を含み、前記中間合金層は、重量で、Znが4.0?12.0%、Siが6.0?17.0%、Feが20.0?40.0%、Mgが0.02?0.50%、およびAlならびに不可避不純物が残部である組成を有する金属めっき鋼帯。」(特許請求の範囲))

(3-B)「24.The strip defined in any one of the preceding claims wherein a molten Al-Zn-Si-Mg alloy for forming the metallic coating includes the following ranges in % by weight of the elements Al,Zn,Si,and Mg:
Zn:30 to 60%
Si:0.3 to 3%
Mg:0.3 to 10%
balance Al and unavoidable impurities」(CLAIMS)
(当審訳:「24.請求項1?23のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯であって、前記金属めっきを形成するための溶融Al-Zn-Si-Mg合金が、重量%で以下の範囲の元素Al、Zn、SiおよびMgを含む金属めっき鋼帯。
Zn:30?60%
Si:0.3?3%
Mg:0.3?10%
残部 Alおよび不可避不純物」(特許請求の範囲))

(3-C)「26.A method of forming a metallic coating on a steel strip to form the metallic coated steel strip defined in any one of the preceding claims,the method including dipping steel strip into a bath of a molten Al-Zn-Si-Mg alloy and forming a metallic coating of the alloy on exposed surfaces of the steel strip, and the method including controlling any one or more of the composition of the molten alloy bath, the temperature of the molten alloy bath,and the immersion time of the steel strip in the molten alloy bath to form the intermediate alloy layer between the steel strip and the Al-Zn-Mg-Si overlay alloy layer.」(CLAIMS)
(当審訳:「26.スチールストリップ上に金属めっきを形成して、請求項1?25のいずれか1項に記載の金属めっき鋼帯を形成する方法であって、前記方法は、溶融Al-Zn-Si-Mg合金浴にスチールストリップを浸漬することと、前記スチールストリップの露出面上に合金の金属めっきを形成することとを含み、そして前記方法は、前記溶融合金浴の組成、前記溶融合金浴の温度、および前記溶融合金浴への前記スチールストリップの浸漬時間の何れか1つ以上を制御して、前記スチールストリップと前記Al-Zn-Mg-Si上張り合金層との間に前記中間合金層を形成することを含む方法。」(特許請求の範囲))

(3-D)「The composition of the molten Al-Zn-Si-Mg alloy may contain other elements that are present in the molten alloy as deliberate alloying additions or as unavoidable impurities.Hence, the phrase "Al-Zn-Si-Mg alloy" is understood herein to cover alloys that contain such other elements as deliberate alloying additions or as unavoidable impurities.The other elements may include by way of example any one or more of Fe,Sr,Cr,and V.」(1頁33行?2頁3行)
(当審訳:「溶融Al-Zn-Si-Mg合金の組成は、計画的な合金添加物または不可避不純物として溶融合金中に存在する他の元素を含んでもよい。したがって、「Al-Zn-Si-Mg合金」という句は、他の元素、例えば計画的な合金添加物または不可避不純物を含む合金を網羅すると本明細書では理解される。他の元素は、例えば、Fe、Sr、CrおよびVの任意の1種以上を含んでもよい。」)

(3-E)「The intermediate alloy layer may include,by weight,5.0-10.0%Zn,7.0-14.0%Si(typically 6.5-14.0%Si),25.0-37.0%Fe,0.03-0.25%Mg,balance Al and unavoidable impurities.」(5頁9行?11行)
(当審訳:「中間合金層は、めっきの厚さを通る横断面で測定して0.5?1.0μmの厚さを有してもよい。」)

(3-F)「The coated strip is then passed through a cooling section 7 and subjected to forced cooling.」(10頁17行?18行)
(当審訳:「次いで、めっきされたストリップは冷却部7を通過し、強制冷却に供される。」)

(3-G)「The research and development work included work carried out by hot dip coating steel strip samples with the following molten alloy compositions:(a)a known Al-Zn-Si alloy(hereinafter referred to as "AZ"),(b)an Al-Zn-Si-Mg alloy(hereinafter referred to as "MAZ")in accordance with the invention and(c)a MAZ alloy plus 0.1 wt.% Cr in accordance with the invention,having the following molten alloy compositions,in wt.%:
・AZ: 55Al-43Zn-l.5Si-0.45Fe-incidental impurities.
・MAZ: 53Al-43Zn-2Mg-l .5Si-0.45Fe-incidental impurities.
・MAZ + 0.1 wt.% Cr-incidental impurities.」(11頁1行?15行)
(当審訳:「研究および開発業務は、スチールストリップ試料を、以下の溶融合金組成(重量%):
・ AZ:55Al-43Zn-1.5Si-0.45Fe-付随的不純物
・ MAZ:53Al-43Zn-2Mg-1.5Si-0.45Fe-付随的不純物
・ MAZ+0.1重量%のCr-付随的不純物
を有する、以下の溶融合金組成:(a)既知のAl-Zn-Si合金(以下、「AZ」と呼ぶ)、(b)本発明によるAl-Zn-Si-Mg合金(以下、「MAZ」と呼ぶ)、および(c)本発明によるMAZ合金+0.1重量%のCrで溶融めっきすることにより行われる研究を含んでいた。」)

(3-H)「The left hand side of Figure 3 is two SEM back scattered electron images of sections through the thickness of both samples.The right side of Figure 3 is a graph of Q-Fog life(time in hours to 5% surface red rust)for the samples.Both samples were produced on the same metal coating line.The SEM images show that the samples have different coating microstructures due to the presence of Mg in the MAZ alloy.The SEM images also show that the coating of both samples includes an overlay alloy layer 11 and an intermediate alloy layer 12(referred to as an "Alloy layer" in this and other Figures)between the steel strip 13(referred to as "Base steel" in the Figures)and the overlay layers 11.The intermediate alloy layer is an intermetallic layer formed from elements in the molten alloy bath and the steel strip.The graph shows that the MAZ alloy coating sample had a significantly longer Q-Fog life and therefore significantly better corrosion resistance than the AZ alloy coating sample, possibly attributed to the presence of Al/Zn/MgZn_(2)eutectic and Mg_(2)Si phases in the microstructure of the MAZ alloy coating overlay,although the intermediate layer may have also contributed to the difference in corrosion performance.」(13頁12行?34行)
(当審訳:「図3の左側は、両試料の厚さを通る断面の2つのSEM後方散乱電子像である。図3の右側は、試料についてのQ-Fog寿命(5%表面赤錆までの時間(時間))のグラフである。両試料を同一の金属めっきラインで製造した。SEM像は、試料がMAZ合金中のMgの存在により異なるめっき微細構造を有することを示している。SEM像はまた、両試料のめっきが、上張り合金層11と、スチールストリップ13(図では「ベース鋼」と呼ぶ)と上張り層11との間の中間合金層12(この図および他の図では「合金層」と呼ぶ)とを含むことを示している。中間合金層は、溶融合金浴中の元素およびスチールストリップから形成された金属間層である。グラフは、中間層も腐食性能の差に寄与したかもしれないが、MAZ合金めっき試料が、おそらくはMAZ合金めっき上張りの微細構造中のAl/Zn/MgZn_(2)共晶およびMg_(2)Si相の存在に起因する、AZ合金めっき試料よりも有意に長いQ-Fog寿命、それゆえ有意に優れた耐食性を有したことを示している。」)

(ア)上記(3-A)、(3-B)、(3-E)、(3-H)によれば、甲第1-3号証には金属めっき鋼帯に係る発明が記載されており、上記(3-G)のMAZのめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%、Fe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有するものといえる。
また、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2/(1.5-0.6)=2.2
となるものである。
更に、上記(3-H)によれば、上記MAZのめっき層の主層は、Mg_(2)Siを含有するものである。

(イ)そうすると、上記甲第1-3号証には、
「金属めっき鋼帯であって、めっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%、Fe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、めっき層中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する、金属めっき鋼帯。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.2 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」(以下、「甲1-3-1発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、上記(3-C)、(3-F)によれば、上記甲第1-3号証には、金属めっき鋼帯を形成する方法に係る発明が記載されており、当該金属めっき鋼帯を形成する方法は、上記MAZについてみれば、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%、Fe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中にスチールストリップを浸漬することと、前記スチールストリップの露出面上に合金の金属めっきを形成することとを含み、めっき後、強制冷却に供されるものである。

(エ)そうすると、上記甲第1-3号証には、
「質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%、Fe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中にスチールストリップを浸漬することと、前記スチールストリップの露出面上に合金の金属めっきを形成することとを含み、めっき後、強制冷却に供される、金属めっき鋼帯を形成する方法。」(以下、「甲1-3-2発明」という。)が記載されているといえる。

エ 甲第1-4号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-4号証(Z.Chen et.al.,A new quaternary phase observed in a laser treated Zn-Al-Mg-Si coating,Journal of Alloys and Compounds 589(2014)pp.226-229)には、以下の記載がある。
(4-A)「1.Introduction
The GALVALUME steel coating system(nominally Zn-55Al-1.5Si in wt%),developed by Bethlehem Steel in the 1960s,exhibits a greater corrosion resistance than the conventional galvanised coating[1],but challenges remain in certain applications[2].There is a need to develop a new coating which can demonstrate even better corrosion resistance.Recently,a second generation of GALVALUME and ZINCALUME steel coating with the composition of Zn-55Al-2Mg-1.5Si(in wt.%)was developed and patented by Bluescope Steel Limited.It is claimed that this coating has even better corrosion resistance than the original coating[3].The addition of 2% Mg results in the formation of Mg_(2)Si and MgZn_(2) phases predominantly in the interdendritic regions of the coating and the enhanced corrosion resistance depends on the specific phases present in the coating and their distribution.The enhanced performance of the Zn-55Al-2Mg-1.5Si coating is achieved by activating the α-Al dendritic phase and blocking the corrosion paths along the interdendritic channels[4].Therefore, the amount and distribution of these Mg containing phases are important to the corrosion performance of the final coated product.」(1頁左欄1行?下から4行))
(当審訳:「1.序論
ベツレヘム・スティールによって1960年代に開発されたGALVALUME(登録商標)鋼皮膜系(質量%で公称Zn-55Al-1.5Si)は、従来の亜鉛めっき皮膜よりも大きな耐食性を示すが[1]、幾つかの用途では課題が残されている[2]。より一層優れた耐食性を示すことができる新たな皮膜を開発することが求められている。最近、Zn-55Al-2Mg-1.5Si(質量%)の組成を有する第二世代のGALVALUME(登録商標)及びZINCALUME(登録商標)鋼皮膜が開発され、ブルースコープ・スティール社によって特許化された。この皮膜は初代の皮膜よりもはるかに優れた耐食性を有すると主張されている[3]。2%のMgを添加することで皮膜のインターデンドライト領域に主としてMg_(2)Si相とMgZn_(2)相が形成され、そしてこの耐食性の向上は、皮膜中に存在するこれらの特定の相とその分布に依存する。Zn-55Al-2Mg-1.5Si皮膜の性能の向上は、α-Alデンドライト相を活性化してインターデンドライトチャネルに沿った腐食経路をブロックすることによって達成される[4]。したがってこれらMg含有相の量と分布が、最終的な皮膜製品の耐食性能にとって重要である。」)

(4-B)「2. Experimental
In this investigation which is a part of a much larger research program on microstructure and phase equilibria of laser treated Zn-Al-Mg-Si coatings,a Zn-55Al-2Mg-1.5Si coating(wt.%)was produced on a hot-dip process simulator(HDPS)and then resurfaced with a diode laser operating at 5.5 kW.」(1頁右欄4行?8行)
(当審訳:「2.実験
レーザー処理したZn-Al-Mg-Si皮膜のミクロ組織及び相平衡に関するはるかに大きな研究プログラムの一部である本研究では、Zn-55Al-2Mg-1.5Si皮膜(質量%)を溶融めっきプロセス・シミュレータ(HDPS)で製造し、次いで5.5kWで作動するダイオード・レーザーで再構成した。」)

(4-C)「3. Results and discussion
Fig.1a shows a backscattered electron image of a cross section of the HDPS Zn-55Al-2Mg-1.5Si coating and Fig.1b-e shows the X-ray maps of Al K,Mg K,Zn K and Si K of the same area.Clearly Zn, Si and Mg are segregated in the interdendritic areas and Si can be present either as pure Si or as Mg_(2)Si(Fig. 1c and e).The microstructure of the interdendritic area of the laser treated Zn-55Al-2Mg-1.5Si coating is too fine to be resolved in SEM and thus was studied mainly in TEM.Fig.2 shows the TEM microstructure of the overlay of the laser treated Zn-55Al-2Mg-1.5Si coating.It consists of dendritic α-Al matrix,large angular particles and eutectic features in the interdendritic areas.」(1頁右欄15行?2頁左欄1行)
(当審訳:「3.結果と考察
図1aは、HDPSによるZn-55Al-2Mg-1.5Si皮膜の断面の後方散乱電子像を示し、図1b?図1eは、同じ領域のAlK、MgK、ZnK及びSiKのX線マップを示している。明らかに、Zn、Si及びMgはインターデンドライト領域に偏析しており、Siは純Si又はMg_(2)Siとして存在することができる(図1c及び図1e)。レーザー処理したZn-55Al-2Mg-1.5Si皮膜のインターデントライト領域のミクロ組織は微細すぎてSEMで解像することができないため、主にTEMで調べた。図2は、レーザー処理したZn-55Al-2Mg-1.5Si皮膜のオーバーレイのTEMによるミクロ組織を示している。それは、デントライト状α-Alマトリックス、大きくて角張った粒子、及びインターデントライト領域中の共晶の特徴からなる。」)

オ 甲第1-5号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-5号証(特表2012-520391号公報)には、以下の記載がある。
(5-A)「【請求項3】
酸性雨や汚染環境等に適したAl-Zn-Si-Mg合金の被膜を片面または両面上に有する金属ストリップであって、該被膜がAlリッチアルファー相のデンドライトおよびZnリッチ共晶相混合のインターデンドライトチャンネルを含有し、金属ストリップから延びて、インターデンドライト状チャンネル中にMg_(2)Si相の粒子を有するミクロ構造を有し、該被膜がOT:SDAS比(比中、OTは被膜厚さであり、SDASは被膜のAlリッチアルファー相デンドライトの第2デンドライトアーム空間である。)0.5:1以上を有することを特徴とするAl-Zn-Si-Mg合金被膜を有する金属ストリップ。」(特許請求の範囲)

(5-B)「【請求項8】
Al-Zn-Si-Mg合金がAl20?95%、Si5%まで、Mg10%までおよび残りZnで、かつ少量の他の元素、典型的には他の元素各々0.5%未満を有する請求項3?7いずれかに記載の被覆金属ストリップ。」(特許請求の範囲)

(5-C)「【0022】
出願人は「酸性雨」または「汚染」環境におけるAl/Znベース合金被覆スチールストリップの赤さびしみが被膜をAl-Zn-Si-Mg合金被膜として形成し、被膜のOT:SDAS比(比中、OTはストリップ表面上の被膜厚さであり、SDASは被膜中のAlリッチアルファー相デンドライトの第2デンドライトアーム空間である。)0.5:1以上を有することを確保することにより防止若しくは減少できることを見出した。」

(5-D)「【0029】
OT:SDAS比が1:1より大きくても良い。
OT:SDAS比が2:1より大きくても良い。」

(5-E)「【0040】
デンドライト状構造を有するAl/Znベースの被膜において、Siはフレーク状形態を有する粒子として存在し、それ自体は腐食しないが、それはインターデンドライト状チャンネルを満たさず、スチールストリップへのインターデンドライト状腐食から前記チャンネルをブロックしない。出願人は、Siを含有するAl/Znベース被膜に添加したMgはSiと組み合わせるとAlリッチアルファー相デンドライトのアームの間にインターデンドライト状チャンネル中にMg_(2)Si相粒子を形成し、それが適当な大きさでかつ形状であり、それが別にスチールストリップに直接の腐食経路であるべきものをブロックし、その下のスチール基材カソードを隔離するのを助長する。適当な大きさと形態の粒子は固化の制御、即ち被膜の冷却速度を制御することにより形成される。」

(5-F)「【0051】
出願人はまた、本発明で可能な改良された保護がOT:SDAS比0.5:1を有する粗いデンドライト構造からOT:SDAS比6:1を有する微細なデンドライト構造までの微細構造範囲に適用される。
【0052】
一般にこれらの導通に沿う腐食、および特に「酸性雨」や「汚染」環境におけるこれらの導通を経由する赤さびしみが遅くなる。
【0053】
Al/Zn合金被膜において、インターデンドライトチャンネルに沿う腐食は、米国特許3,782,909に記載されているように、固化時に冷却速度を増大し、それにより被膜のSDASを減少することの結果としてチャンネルの大きさを減少して制限してもよい。しかしながら、このことが(しばしば質量損失テストで決定されるように)被膜の表面腐食を遅くするかもしれないが、スチール基材のための犠牲保護を提供する亜鉛リッチ相混合の存在を制限する。したがって、スチール基材の腐食はより容易に起こる。」

(5-G)「【0080】
図5のテストパネルの写真は、促進テスト条件における本発明によるAl-Zn-Si-Mg被膜の例の腐食性能の改善を示す。特に、図5は塩霧サイクル腐食およびテストにおいて、粗いまたは細かい構造を有する従来のAl/Zn被膜と比べて、本発明によるAl-Zn-Si-Mg被膜の表面耐候性および犠牲保護の改善を示す。」

(5-H)「【図5】



カ 甲第1-6号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第1-6号証(山口伸一ら,溶融Al-Si-Mg合金めっき鋼板のめっき組成と腐食挙動,鉄と鋼 Tetsu-To-Hagane Vol.99(2013)No.10,pp.617-624,平成25年10月 1日発行)には、以下の記載がある。
(6-A)「

」(620頁左欄)

(1-2)甲第1-1号証を主引用例とする場合について
(1-2-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲1-1-1発明と本件特許発明1とを対比すると、甲1-1-1発明における「鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層がめっきされてなる溶融めっき鋼材」は、本件特許発明1の「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板」に相当し、甲1-1-1発明と本件特許発明1は、前記めっき被膜が、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0?55.0%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%を含む組成を有し、めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する点で重複している。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?3.0 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)

(イ)そうすると、甲1-1-1発明と本件特許発明1とは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0?55.0%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?3.0 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1 本件特許発明1のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点1-2 本件特許発明1のめっき被膜は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.13?0.2%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点1-3 本件特許発明1のめっき被膜は、主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜におけるMg_(2)Siの含有量は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2について検討すると、上記(1-F)?(1-H)によれば、上記甲1-1-1発明のめっき被膜は、Crにより、めっき層のしわやタレが更に抑制されるものであり、Srにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制されるものであり、Feにより、めっき層の外観及び加工性が向上するものである。
そして、そのようなCr、Fe、Srの作用からすれば、上記めっき被膜におけるCr、Fe、Srは不可避的不純物とはいえないので、これらの元素の含有の有無は実質的な相違点といえるから、上記相違点1-2は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえない。

(イ)また、上記甲1-1-1発明においてめっき層をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわやタレを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲1-1-1発明の特性を損なうものとなるから、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲1-1-1発明において上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、上記相違点1-1、1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(1-2-2)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)上記(1-2-1)アと同様に、甲1-1-1発明と本件特許発明2とを対比すると、これらは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0?55.0%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?3.0 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1’ 本件特許発明2のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点1-2’ 本件特許発明2のめっき被膜は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.13?0.2%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点1-4 本件特許発明2のめっき被膜は、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であるのに対して、甲1-1-1発明のめっき被膜における主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2’について検討する。上記(1-2-1)ア(イ)に示した相違点1-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえないこと、甲1-1-1発明において上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(1-2-1)イ(ア)?(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、上記相違点1-2’は上記相違点1-2と同じものであるから、上記(1-2-1)イ(ア)?(ウ)と同様の理由により、本件特許発明2が甲1-1-1発明であるとはいえないし、甲1-1-1発明において上記相違点1-2’に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るともいえないので、上記相違点1-1’、1-4について検討するまでもなく、本件特許発明2を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(1-2-3)本件特許発明3?6について
(ア)本件特許発明3?6は、請求項1又は請求項2を引用するものである。そして、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえないし、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、及び、本件特許発明2が甲1-1-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(1-2-1)イ(ア)?(ウ)、(1-2-2)イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、同様の理由により、本件特許発明3?6も、甲1-1-1発明であるとはいえないし、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(1-2-4)本件特許発明7について
ア 対比
(ア)甲1-1-2発明と本件特許発明7とを対比すると、甲1-1-2発明における「溶融めっき鋼材の製造方法」は、本件特許発明7における「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」に相当し、これらは、「質量%でAl:53.0?55.0%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施」す点で重複している。

(イ)そうすると、甲1-1-2発明と本件特許発明7とは、
「質量%でAl:53.0?55.0%、Si:1.4?4.2%、Mg:2.4?10.0%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-2’’ 本件特許発明7のめっき浴は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなるのに対して、甲1-1-2発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.13?0.2%、Fe:0.42?0.44%、Sr:36?42ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる点。

相違点1-5 本件特許発明7においては、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するのに対して、甲1-1-2発明においては、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secで冷却する点。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2’’について検討すると、上記(1-F)?(1-H)によれば、上記甲1-1-2発明のめっき浴は、Crにより、めっき層のしわやタレが更に抑制されるものであり、Srにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制されるものであり、Feにより、めっき層の外観及び加工性が向上するものである。
そして、そのようなCr、Fe、Srの作用からすれば、上記めっき浴におけるCr、Fe、Srは不可避的不純物とはいえないので、これらの元素の含有の有無は実質的な相違点といえるから、上記相違点1-2’’は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明7が甲1-1-2発明であるとはいえない。

(イ)また、上記甲1-1-2発明においてめっき浴をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわやタレを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲1-1-2発明の特性を損なうものとなるから、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲1-1-2発明において上記相違点1-2’’に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(エ)次に上記相違点1-5について検討すると、上記甲1-1-2発明は、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secで冷却するものであるから、少なくとも、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却するものではない。
このため、上記甲1-1-2発明が、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するものではないことは明らかであるから、上記相違点1-5は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲1-1-2発明であるとはいえない。

(オ)上記1の(g)によれば、本件特許発明7は、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となるものである。
これに対して、甲第1-2号証?甲第1-6号証には、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散するとか、優れた加工部耐食性が得られることまでは記載されていないから、甲1-1-2発明において、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを、当業者が容易になし得るとはいえない。
このため、上記甲1-1-2発明において上記相違点1-5に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、本件特許発明7を、上記甲1-1-2発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-3)甲第1-2号証を主引用例とする場合について
(1-3-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲1-2-1発明と本件特許発明1とを対比すると、甲1-2-1発明における「Zn?A1?Mg?S i合金めっき鋼材」は、本件特許発明1の「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板」に相当する。
また、甲1-2-1発明と本件特許発明1は、前記めっき被膜が、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する点で重複している。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=1.9 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)

(イ)そうすると、甲1-2-1発明と本件特許発明1とは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=1.9 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1 本件特許発明1のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-2-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点2-2 本件特許発明1のめっき被膜は、主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるのに対して、甲1-2-1発明のめっき被膜におけるMg_(2)Siの含有量は、5°傾斜研磨で測定した面積率で15.1%である点。

イ 判断
(ア)上記相違点2-2について検討すると、上記1の(e)によれば、本件特許発明においては、Mg_(2)Siの含有量は、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜を酸に溶解させた後、ICP分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)でSi及びMgの量(g/m^(2))を測定し、Si量から、界面合金層含有分(界面合金層1μmあたり、0.45g/m^(2))を引き、2.7を乗じてMg_(2)Siの量(g/m^(2))に換算し、めっき量(g/m^(2))で除して、Mg_(2)Siの質量%を算出する方法が用いられるものである。
また、主層におけるMg_(2)Siの面積率が、該主層の断面で見て1%以上であることが好ましいものであり、上記Mg_(2)Siの面積率については、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜の断面を、SEM-EDXでマッピングし、1つの視野中でMgとSiが重なって検出される部分(Mg_(2)Siが存在する部分)の面積率(%)を、画像処理によって導出する方法が用いられるものである。

(イ)そして、上記Mg_(2)Siの含有量とMg_(2)Siの面積率は、申立書1の48頁図C、図Dの関係を有するものである。




(ウ)一方、上記(2-G)によれば、甲1-2-1発明は、めっき層の金属組織に関して、めっき層をめっき面に対して5°傾斜した面で研磨し観察したものであり、これは、塊状Mg_(2)Si相は初期凝固相として多角形の板状としてめっき水平方向に広がった状態で析出するが、これを垂直研磨では垂直方向に切断したごく一部分した観察できないためであり、場合によっては5°傾斜研磨で確認することができる大きさは垂直研磨で確認できる大きさの10倍以上に達することもあるものであり、同様に、鱗片状に析出するMg_(2)Si相に関しても研磨角度により観察される大きさが著しく異なってくるから、このように析出物の形態、大きさを正確に求めるためには、なるベくめっき面に対して水平に近い角度で研磨することが必要であるものである。

(エ)上記(ア)、(ウ)によれば、本件特許発明においては、Mg_(2)Siの面積率をめっき主層の断面を観察して測定しているのに対して、甲1-2-1発明においてはめっき面に対して5°傾斜研磨で測定しているから、本件特許発明1と甲1-2-1発明とは、Mg_(2)Siの面積率の測定方法が相違する。

(オ)そして、技術常識からみれば、本件特許発明における上記主層の断面の観察は垂直研磨による測定といえるが、その場合、上記(ウ)によれば、Mg_(2)Siの面積率として5°傾斜研磨で確認することができる大きさは垂直研磨で確認できる大きさの10倍以上に達することもあるのであり、このとき具体的にどの程度の差が生じるかは不明である。

(カ)そうすると、5°傾斜研磨で測定した甲1-2-1発明におけるMg_(2)Siの面積率を、主層の断面の観察による本件特許発明の測定方法で測定した場合、その測定値は10分の1以下ともなり得るのであって、かつ、実際にどのような測定値が得られるかは不明であるから、上記5°傾斜研磨で測定した甲1-2-1発明におけるMg_(2)Siの面積率の測定値が、上記(イ)に示される関係において、Mg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上となる範囲にあると直ちにいうことはできない。

(キ)したがって、本件特許発明において、Mg_(2)Siの面積率とMg_(2)Siの含有量に上記(イ)の関係があり、甲1-2-1発明の5°傾斜研磨で測定したMg_(2)Siの面積率が15.1%であるとしても、このことから直ちに、甲1-2-1発明において、Mg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるということはできないから、上記相違点2-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-2-1発明であるとはいえない。

(ク)上記1の(c)、(e)によれば、本件特許発明においては、インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましいものであり、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
更にめっき被膜の主層のMg_(2)Siの含有量が、1.0質量%以上であることが好ましいものであり、これは、より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できるからである。

(ケ)一方、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証には、めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、上記式(1)を満足することに加えて、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量を1.0%以上とすることにより、より確実にMg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できることまでは記載されていないから、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、上記甲1-2-1発明において、主層におけるMg_(2)Siの含有量を1.0質量%以上とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、甲1-2-1発明において上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(コ)したがって、上記相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明1を、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-3-2)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)上記(1-3-1)アと同様に、甲1-2-1発明と本件特許発明2とを対比すると、これらは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=1.9 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1’ 本件特許発明1のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-2-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点2-3 本件特許発明2のめっき被膜は、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であるのに対して、甲1-2-1発明のめっき被膜における主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比は記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点2-3について検討すると、本件特許発明においては、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量と、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比は、申立書1の37頁?38頁の図A、図Bの関係を有するものである。




(イ)ところが、本件特許発明において、Mg_(2)Siの面積率とMg_(2)Siの含有量に上記(1-3-1)イ(イ)の関係があり、甲1-2-1発明の5°傾斜研磨で測定したMg_(2)Siの面積率が15.1%であるとしても、このことから直ちに、甲1-2-1発明において、Mg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるはいえないことは、上記(1-3-1)イ(キ)に記載のとおりである。
そうすると、本件特許発明において、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量と、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比に、上記(ア)に示される関係があるとしても、甲1-2-1発明において、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が0.01以上となっていると直ちにいうこともできない。
このため、上記相違点2-3は実質的な相違点であるので、本件特許発明2が甲1-2-1発明であるとはいえない。

(ウ)上記1の(c)、(e)によれば、本件特許発明においては、インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましいものであり、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
更にめっき被膜の主層に含まれるMg_(2)Siについては、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることが好ましいものであり、これは、より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できるからである。

(エ)一方、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証には、めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、上記式(1)を満足することに加えて、めっき被膜の主層に含まれるMg_(2)Siについて、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比を0.01以上とすることにより、より確実にMg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できることまでは記載されていないから、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、上記甲1-2-1発明において、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比を0.01以上とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、甲1-2-1発明において上記相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(オ)したがって、上記相違点2-1’について検討するまでもなく、本件特許発明2を、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-3-3)本件特許発明3?6について
(ア)本件特許発明3?6は、請求項1又は請求項2を引用するものである。そして、本件特許発明1が甲1-2-1発明であるとはいえないし、本件特許発明1を、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、及び、本件特許発明2が甲1-2-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2を、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(1-3-1)イ(キ)?(コ)、(1-3-2)イ(イ)?(オ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、同様の理由により、本件特許発明3?6も、甲1-2-1発明であるとはいえないし、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(1-3-4)本件特許発明7について
ア 対比
(ア)甲1-2-2発明と本件特許発明7とを対比すると、甲1-2-2発明における「Zn?Al?Mg?Si合金めっき鋼材の製造方法」は、本件特許発明7における「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」に相当する。
また、甲1-2-2発明と本件特許発明7は、「質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施」す点で重複している。

(イ)そうすると、甲1-2-2発明と本件特許発明7とは、
「質量%でAl:55%、Zn:31.7%、Mg:7.5%、Si:4.8%を含み、残部が不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-4 本件特許発明7においては、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するのに対して、甲1-2-2発明においては、めっき後の冷却速度を20℃/秒に制御する点。

イ 判断
(ア)上記相違点2-4について検討すると、上記1-2-2発明は、めっき後の冷却速度を20℃/秒に制御するものであるから、少なくとも、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却するものではない。
このため、上記甲1-2-2発明が、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するものではないことは明らかであるから、上記相違点2-4は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲1-2-2発明であるとはいえない。

(イ)上記(2-H)によれば、上記甲1-2-2発明においては、塊状Mg_(2)Si相の長径の平均値が50μmを越えるとクラック発生の起点となり、加工性を低下させ、鱗片状Mg_(2)Si相に関しても長径の平均値を50μm以下に制御し加工性を確保する必要があることから、めっき後の冷却速度を10℃/秒以上に確保することで、析出するMg_(2)Si相の長径の平均値を50μm以下に制御することが可能なものである。
そして、上記甲1-2-2発明においてめっき後の冷却速度を10℃/sec未満とすると、析出するMg_(2)Si相の長径の平均値を50μm以下に制御して加工性を確保する、という上記甲1-2-2発明の特性を損なうものとなるから、上記甲1-2-2発明において、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することとする合理的な動機付けは存在しない。

(ウ)してみれば、甲1-2-2発明において相違点2-4に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件特許発明7を、甲1-2-2発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-4)甲第1-3号証を主引用例とする場合について
(1-4-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲1-3-1発明と本件特許発明1とを対比すると、甲1-3-1発明における「金属めっき鋼帯」は、本件特許発明1の「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板」に相当し、甲1-3-1発明と本件特許発明1は、前記めっき被膜が、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%を含む組成を有し、めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する点で重複している。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.2 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)

(イ)そうすると、甲1-3-1発明と本件特許発明1とは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.2 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点3-1 本件特許発明1のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点3-2 本件特許発明1のめっき被膜は、Feを含まず、残部が不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜は、質量%でFe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点3-3 本件特許発明1のめっき被膜は、主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜におけるMg_(2)Siの含有量は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点3-2について検討すると、上記(3-D)によれば、甲第1-3号証に記載される溶融Al-Zn-Si-Mg合金は、計画的な合金添加物または不可避不純物として溶融合金中に存在する他の元素を含んでもよいものであり、他の元素は、例えば、Fe、Sr、CrおよびVの任意の1種以上を含んでもよいものであるが、上記(3-G)によれば、甲1-3-1発明は、めっき被膜が不可避不純物とは別にFeを質量%で0.45%含むものである。
してみれば、甲1-3-1発明におけるFeは、計画的な合金添加物として含有されるものであり、不可避的不純物とはいえないから、上記相違点3-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-3-1発明であるとはいえない。

(イ)そして、甲1-3-1発明において、めっき被膜を、計画的な合金添加物として含有されるFeを含まないものとする合理的な動機付けは存在しないから、甲1-3-1発明において上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)次に上記相違点3-3について検討すると、上記(ア)の検討によれば、甲1-3-1発明におけるめっき被膜は計画的な合金添加物としてFeを含有するから、組成が本件特許発明1と同じであるとはいえないので、甲1-3-1発明において、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であると直ちにいうことはできない。
したがって、上記相違点3-3も実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-3-1発明であるとはいえない。

(エ)上記1の(c)、(e)によれば、本件特許発明においては、インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましいものであり、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
更にめっき被膜の主層のMg_(2)Siの含有量が、1.0質量%以上であることが好ましいものであり、これは、より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できるからである。

(オ)一方、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証には、めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、上記式(1)を満足することに加えて、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量を1.0%以上とすることにより、より確実にMg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できることまでは記載されていないから、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、上記甲1-3-1発明において、主層におけるMg_(2)Siの含有量を1.0質量%以上とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、甲1-3-1発明において上記相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、上記相違点3-1について検討するまでもなく、本件特許発明1を、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-4-2)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)上記(1-4-1)アと同様に、甲1-3-1発明と本件特許発明2とを対比すると、これらは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点3-1’ 本件特許発明2のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点3-2’ 本件特許発明2のめっき被膜は、Feを含まず、残部が不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜は、質量%でFe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点3-4 本件特許発明2のめっき被膜は、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であるのに対して、甲1-3-1発明のめっき被膜における主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点3-2’について検討する。上記(1-4-1)ア(イ)で示した相違点3-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-3-1発明であるとはいえないこと、甲1-3-1発明において上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、上記(1-4-1)イ(ア)?(イ)に記載のとおりである。

(イ)そして、上記相違点3-2’は上記相違点3-2と同じものであるから、上記(1-4-1)イ(ア)?(イ)と同様の理由により、本件特許発明2が甲1-3-1発明であるとはいえないし、甲1-3-1発明において上記相違点3-2’に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るともいえない。

(ウ)次に上記相違点3-4について検討すると、甲1-3-1発明において、めっき被膜の主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるということはできないことは、上記(1-4-1)イ(ウ)に記載のとおりである。

(エ)すると、本件特許発明において、めっき被膜の主層のMg_(2)Siの含有量とMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比に上記(1-3-2)イ(ア)に示される関係があるとしても、甲1-3-1発明において、めっき被膜の主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が0.01以上であるということもできない。
したがって、上記相違点3-4も実質的な相違点であるので、本件特許発明2が甲1-3-1発明であるとはいえない。

(オ)上記1の(c)、(e)によれば、本件特許発明においては、インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましいものであり、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
更にめっき被膜の主層に含まれるMg_(2)Siについては、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることが好ましいものであり、これは、より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できるからである。

(カ)一方、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証には、めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、上記式(1)を満足することに加えて、めっき被膜の主層に含まれるMg_(2)Siについて、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比を0.01以上とすることにより、より確実にMg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できることまでは記載されていないから、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載を参酌したとしても、上記甲1-3-1発明において、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比を0.01以上とすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、甲1-3-1発明において上記相違点3-4に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、上記相違点3-1’について検討するまでもなく、本件特許発明2を、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-4-3)本件特許発明3?6について
(ア)本件特許発明3?6は、請求項1又は請求項2を引用するものである。そして、本件特許発明1が甲1-3-1発明であるとはいえないし、本件特許発明1を、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないこと、及び、本件特許発明2が甲1-3-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2を、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(1-4-1)イ(ア)?(カ)、(1-4-2)イ(ア)?(カ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、同様の理由により、本件特許発明3?6も、甲1-3-1発明であるとはいえないし、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(1-4-4)本件特許発明7について
ア 対比
(ア)甲1-3-2発明と本件特許発明7とを対比すると、甲1-3-2発明における「金属めっき鋼帯を形成する方法」は、本件特許発明7における「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」に相当し、これらは、「質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施」す点で合致している。

(イ)そうすると、甲1-3-2発明と本件特許発明7とは、
「質量%でAl:53%、Zn:43%、Mg:2%、Si:1.5%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点3-2’’ 本件特許発明7のめっき浴は、Feを含まず、残部が不可避的不純物からなるのに対して、甲1-3-2発明のめっき被膜は、質量%でFe:0.45%を含み、残部が不可避的不純物からなる点。

相違点3-5 本件特許発明7においては、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するのに対して、甲1-3-2発明においては、めっき後の冷却速度が不明である点。

イ 判断
(ア)上記相違点3-2’’について検討すると、上記(3-D)によれば、甲第1-3号証に記載される溶融Al-Zn-Si-Mg合金は、計画的な合金添加物または不可避不純物として溶融合金中に存在する他の元素を含んでもよいものであり、他の元素は、例えば、Fe、Sr、CrおよびVの任意の1種以上を含んでもよいものであるが、上記(3-G)によれば、甲1-3-2発明は、めっき被膜が不可避不純物とは別にFeを質量%で0.45%含むものである。
してみれば、甲1-3-2発明におけるFeは、計画的な合金添加物として含有されるものであり、不可避的不純物とはいえないから、上記相違点3-2’’は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲1-3-2発明であるとはいえない。

(イ)そして、甲1-3-2発明において、めっき被膜を計画的な合金添加物として含有されるFeを含まないものとする合理的な動機付けは存在しないから、甲1-3-2発明において上記相違点3-2’’に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(ウ)次に上記相違点3-5について検討すると、甲第1-3号証には溶融めっき後の鋼板の冷却速度については何ら記載されていないから、甲1-3-2発明が、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するものであると直ちにいうことはできない。
したがって、上記相違点3-5も実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲1-3-2発明であるとはいえない。

(エ)上記1の(g)によれば、本件特許発明7は、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となるものである。
これに対して、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証には、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散するとか、優れた加工部耐食性が得られることまでは記載されていないから、甲1-3-2発明において、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを、当業者が容易になし得るとはいえない。
このため、甲1-3-2発明において上記相違点3-5に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(オ)したがって、本件特許発明7を、甲1-3-2発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)異議申立2について
(2-1)各甲号証の記載事項
(ア)異議申立2の各甲号証は、上記第4の4(2)(2-1)に記載された甲第1号証?甲第5号証及び参考資料1である。以下、異議申立2の甲第1号証?甲第5号証を、異議申立1の各甲号証と区別するために、それぞれ以下のとおり、甲第2-1号証?甲第2-5号証という。

甲第2-1号証 国際公開第2011/102434号
甲第2-2号証 特開2013-44024号公報
甲第2-3号証 特表2012-520391号公報
甲第2-4号証 加茂 祐一、“平成24年度 学位論文 Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究”、[online]、[印刷日2017年 7月 3日] p.103-109、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/1>、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/2>
甲第2-5号証 岩波 理化学辞典 第5版、発行者 山口昭夫、発行所 株式会社岩波書店、2012年12月 5日 第5版第12刷発行
参考資料1 東京工業大学付属図書館蔵書検索(OPAC)、“Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究/加茂祐一”、インターネット
(イ)ここで、甲第2-1号証は、異議申立1の甲第1-1号証と同じものであり、甲第2-3号証は、異議申立1の甲第1-5号証と同じものであって、甲第1-1号証の記載事項は、上記(1)(1-1)アに記載のとおりであり、甲第1-5号証の記載事項は、上記(1)(1-1)オに記載のとおりであるので、以下、甲第2-2号証、甲第2-4号証、甲第2-5号証の記載事項を摘記する。

ア 甲第2-2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2-2号証(特開2013-44024号公報)には、以下の記載がある。
(2-a)「【請求項1】
鋼材の表面上にアルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)がめっきされ、更にその上層にチタン化合物およびジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)を造膜成分とする皮膜(β)が被覆されている表面処理溶融めっき鋼材であって、
前記アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)が構成元素としてAl、Zn、Si及びMgを含み、且つAl含有量が25?75質量%、Mg含有量が0.1?10質量%であり、
前記アルミニウム・亜鉛合金めっき層(α)が0.2?15体積%のSi-Mg相を含み、
前記Si-Mg相中のMgの、めっき層中のMg全量に対する質量比率が3%以上であることを特徴とする表面処理溶融めっき鋼材。」(特許請求の範囲)

(2-b)「【0019】
めっき層は0.2?15体積%のSi-Mg相を含む。Si-Mg相はSiとMgとの金属間化合物で構成される相であり、めっき層中に分散して存在する。」

(2-c)「【0024】
めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率は、Si-Mg相がMg_(2)Siの化学量論組成を有しているとみなされた上で算出され得る。尚、実際にはSi-Mg相はSi及びMg以外のAl、Zn、Cr、Fe等の元素を少量含む可能性が有り、Si-Mg相中のSiとMgとの組成比も化学量論組成から若干変動している可能性があるが、これらを考慮してSi-Mg相中のMg量を厳密に決定することは非常に困難である。このため、本発明においては、めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの質量比率が決定される際には、前記の通り、Si-Mg相がMg_(2)Siの化学量論組成を有しているとみなされる。」

(2-d)「【0037】
めっき層は、構成元素として更にCrを含有することが好ましい。この場合、Crによってめっき層中のSi-Mg相の成長が促進され、めっき層中のSi-Mg相の体積割合が高くなると共に、めっき層中のMg全量に対するSi-Mg相中のMgの割合が高くなる。これにより、めっき層のしわが更に抑制される。めっき層におけるCrの含有量は0.02?1.0質量%の範囲であることが好ましい。・・・・」

(2-e)「【0040】
合金層の厚みは0.05?5μmの範囲であることが好ましい。この厚みが0.05μm以上であれば、合金層による上記作用が効果的に発揮される。この厚みが5μm以下であれば、合金層によって溶融めっき鋼材の加工性が損なわれにくくなる。」

(2-f)「【0042】
めっき層は構成元素として更にSrを含有することが好ましい。この場合、Srによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Srによって、めっき層の表層におけるMg系酸化皮膜の形成が抑制される。これは、Mg系酸化皮膜よりもSrの酸化膜の方が優先的に形成されやすくなることで、Mg系酸化皮膜の形成が阻害されるためであると考えられる。これにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。めっき層中のSrの含有量は1?1000質量ppmの範囲であることが好ましい。・・・
【0043】
めっき層は構成元素として更にFeを含有することが好ましい。この場合、Feによってめっき層中のSi-Mg層の形成が特に促進される。更に、Feはめっき層のミクロ組織及びスパングル組織の微細化にも寄与し、これによりめっき層の外観及び加工性が向上する。めっき層におけるFeの含有量は0.1?0.6質量%の範囲であることが好ましい。・・・・」

(2-g)「【0075】
本実施形態では、例えば25?75質量%のAl、0.5?10質量%のMg、0.02?1.0質量%のCr、Alに対して0.5?10質量%のSi、1?1000質量ppmのSr、0.1?1.0質量%のFe、及びZnを含有する溶融めっき浴が準備される。Znは、溶融めっき浴中の成分全体のうち、Zn以外の成分を除いた残部を占める。溶融めっき浴中のSi:Mgの質量比は、100:50?100:300の範囲であることが好ましい。」

(2-h)「【0084】
鋼材1の表面上に付着した溶融めっき金属が冷却されて凝固する過程で、まずα-Al相が初晶として析出し、デンドライト状に成長する。このようにAlリッチなα-Al相の凝固が進行すると、残部の溶融めっき金属中(すなわち、溶融めっき金属の未だ凝固していない成分中)のMgとSi濃度が除々に高くなる。次に鋼材1が冷却されてその温度が更に低下すると、残部の溶融めっき金属の中からSiを含有するSi含有相(Si-Mg相)が凝固析出する。このSi-Mg相は、上述の通りMgとSiとの合金で構成される相である。このSi-Mg相の析出・成長がCr、Fe及びSrによって促進される。このSi-Mg相に溶融めっき金属中のMgが取り込まれることで、溶融めっき金属の表層へのMgの移動が阻害され、この溶融めっき金属の表層でのMgの濃化が抑制される。」

(2-i)「【0126】
冷却装置10によって冷却されることにより溶融めっき金属の凝固が完全に終了するためには、鋼板1a上が冷却装置10により、溶融めっき金属(或いはめっき層)の表面温度が300℃以下になるまで冷却されることが好ましい。溶融めっき金属の表面温度は、例えば放射温度計などで測定される。このようにめっき層が形成されるためには、この鋼板1aがめっき浴2より引き出されてから鋼板1a上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が5?100℃/secの範囲であることが好ましい。鋼板1aの冷却速度を制御するために、冷却装置10が、鋼板1aの温度をその搬送方向及び板幅方向に沿って調節するための温度制御機能を備えることが好ましい。・・・・
【0127】
鋼板1aが冷却される過程では、鋼板1a上の溶融めっき金属の表面温度が500℃以上である間の溶融めっき金属の表面の冷却速度が50℃/sec以下であることが好ましい。この場合、めっき層の表面におけるSi-Mg相の析出が特に抑制され、このためタレの発生が抑制される。この温度域での冷却速度がSi-Mg相の析出挙動に影響する理由は現時点で必ずしも明確ではないが、この温度域での冷却速度が速いと溶融めっき金属における厚み方向の温度勾配が大きくなり、このため温度がより低い溶融めっき金属の表面で優先的にMg-Si層の析出が促進されてしまい、その結果、めっき最表面でのSi-Mg相の析出量が多くなってしまうと考えられる。この温度域での冷却速度は、40℃/sec以下であれば更に好ましく、35℃/sec以下であれば特に好ましい。」

(2-j)「【0150】
冷却装置10では、鋼板1aを、溶融めっき金属(めっき層)の表面温度が300℃になるまで冷却した。冷却時の冷却速度は45℃/secとした。但し、水準M76、M77については溶融めっき金属の表面温度が500℃以上である温度域での冷却速度を変更し、この過程における、水準M76での冷却速度を38℃/sec、水準M77での冷却速度を28℃/secとした。
【0151】
調質圧延時の圧下率は1%、形状矯正時の鋼板1aの伸び率は1%とした。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】



(2-k)「【0174】
【表4】

【0175】
【表5】



(ア)上記(2-a)?(2-c)、(2-e)、(2-j)、(2-k)によれば、甲第2-2号証には表面処理溶融めっき鋼材に係る発明が記載されており、上記(2-j)の水準M2の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:25.2%、Cr:0.07%、Mg:1.8%、Si:1.3%、Fe:0.18%、Sr:33ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものといえる。
また、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=1.8/(1.3-0.6)=2.6
となるものである。
同様に、上記(2-j)の水準M47の鋼材のめっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:53.0%、Cr:0.13%、Mg:6.5%、Si:3.9%、Fe:0.42%、Sr:36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものといえ、上記Mg及びSiの含有量からみれば、
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=6.5/(3.9-0.6)=2.0
となるものである。
更に、上記めっき層の主層は、Mg_(2)Siを含有するものである。

(イ)そうすると、上記甲第2-2号証には、
「表面処理溶融めっき鋼材であって、めっき層は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:25.2?53.0%、Cr:0.07?0.13%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、めっき層中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する、表面処理溶融めっき鋼材。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?2.6 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」(以下、「甲2-2-1発明」という。)が記載されているといえる。

(ウ)また、上記(2-h)、(2-i)によれば、上記甲第2-2号証には、表面処理溶融めっき鋼材の製造方法に係る発明が記載されており、当該表面処理溶融めっき鋼材の製造方法は、上記水準M2、M47についてみれば、質量%でAl:25.2?53.0%、Cr:0.07?0.13%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させて鋼材の表面上に溶融めっき金属を付着させた後、めっき浴より引き出されてから鋼板上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secであるものである。

(エ)そうすると、上記甲第2-2号証には、
「質量%でAl:25.2?53.0%、Cr:0.07?0.13%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に鋼材を通過させて鋼材の表面上に溶融めっき金属を付着させた後、めっき浴より引き出されてから鋼板上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃である、表面処理溶融めっき鋼材の製造方法。」(以下、「甲2-2-2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第2-4号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2-4号証(加茂 祐一、“平成24年度 学位論文 Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究”、[online]、[印刷日2017年 7月 3日] p.103-109、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/1>、インターネット<http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/300382967/2> )には、以下の記載がある。
(4-a)「

」(108頁下欄)

ウ 甲第2-5号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に公知となった甲第2-5号証(岩波 理化学辞典 第5版、発行者 山口昭夫、発行所 株式会社岩波書店、2012年12月 5日 第5版第12刷発行)には、以下の記載がある(当審注:「・・・・」は省略を表す。)。
(5-a)「亜鉛 ・・・・密度7.13g/cm^(3)(25℃).」(4頁右欄?5頁左欄)

(5-b)「アルミニウム ・・・・密度2.70g/cm^(3)(20℃).」(52頁左欄?右欄)

(5-c)「ケイ素 ・・・・密度2.33g/cm^(3)(25℃).」(405頁右欄)

(5-d)「マグネシウム ・・・・密度1.74g/cm^(3)(20℃).」(1336頁左欄)

エ 参考資料1の記載事項
参考資料1(東京工業大学付属図書館蔵書検索(OPAC)、“Al-Mg-Si系合金の連続溶融めっきにおける鋼板の酸化・還元前処理と初期めっき反応に関する研究/加茂祐一”、インターネット (参-a)「



(2-2)甲第2-1号証を主引用例とする場合について
(2-2-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲第2-1号証が異議申立1の甲第1-1号証と同じものであることは上記(2-1)(イ)に記載のとおりであるので、上記甲第2-1号証を主引用例とする場合、上記(1-2)(1-2-1)ア(ア)に準じて甲1-1-1発明と本件特許発明1とを対比すると、これらは、上記(1-2)(1-2-1)ア(イ)に示したとおりの一致点及び相違点1-1?1-3を有する。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2について検討すると、上記相違点1-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえないことは、上記(1-2)(1-2-1)イ(ア)に記載のとおりである。

(イ)また、上記甲1-1-1発明においてめっき層をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわやタレを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲1-1-1発明の特性を損なうものとなるから、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲1-1-1発明において上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、上記相違点1-1、1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2-2)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)上記(2-2-1)ア(ア)と同様に、上記(1-2)(1-2-2)ア(ア)に準じて甲1-1-1発明と本件特許発明2とを対比すると、これらは、上記(1-2)(1-2-2)ア(ア)に示したとおりの一致点及び相違点1-1’、1-2’、1-4を有する。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2’について検討すると、上記相違点1-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえないこと、甲1-1-1発明において相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(2-2-1)イ(ア)?(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、上記相違点1-2’は上記相違点1-2と同じものであるから、上記(2-2-1)イ(ア)?(ウ)と同様の理由により、本件特許発明2が甲1-1-1発明であるとはいえないし、甲1-1-1発明において相違点1-2’に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることを、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るともいえないので、上記相違点1-1’、1-4について検討するまでもなく、本件特許発明2を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2-2-3)本件特許発明3?6について
(ア)本件特許発明3?6は、請求項1又は請求項2を引用するものである。そして、本件特許発明1が甲1-1-1発明であるとはいえないし、本件特許発明1を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、及び、本件特許発明2が甲1-1-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(2-2-1)イ(ア)?(ウ)、(2-2-2)イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、同様の理由により、本件特許発明3?6も、甲1-1-1発明であるとはいえないし、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2-2-4)本件特許発明7について
ア 対比
(ア)甲第2-1号証が異議申立1の甲第1-1号証と同じものであることは上記(2-1)(イ)に記載のとおりであるので、上記甲第2-1号証を主引用例とする場合、上記(1-2)(1-2-4)ア(ア)に準じて甲1-1-2発明と本件特許発明7とを対比すると、これらは、上記(1-2)(1-2-4)ア(イ)に示したとおりの一致点及び相違点1-2’’、1-5を有する。

イ 判断
(ア)上記相違点1-2’’について検討すると、上記相違点1-2’’は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲1-1-2発明であるとはいえないことは、上記(1-2)(1-2-4)イ(ア)に記載のとおりである。

(イ)また、上記甲1-1-2発明においてめっき浴をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわやタレを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲1-1-2発明の特性を損なうものとなるから、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲1-1-2発明において相違点1-2’’に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(エ)次に上記相違点1-5について検討すると、上記相違点1-5は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲1-1-2発明であるとはいえないことは、上記(1-2)(1-2-4)イ(エ)に記載のとおりである。

(オ)そして、上記(1-2)(1-2-4)イ(オ)で検討したのと同様に、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1には、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散するとか、優れた加工部耐食性が得られることまでは記載されていないから、甲1-1-2発明において上記相違点1-5に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、本件特許発明7を、甲1-1-2発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)甲第2-2号証を主引用例とする場合について
(2-3-1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)甲2-2-1発明と本件特許発明1とを対比すると、甲2-2-1発明における「表面処理溶融めっき鋼材」は、本件特許発明1の「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板」に相当し、甲2-2-1発明と本件特許発明1は、前記めっき被膜が、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:25.2?53.0%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%を含む組成を有し、めっき被膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、前記主層がMg_(2)Siを含有する点で重複している。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?2.6 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)

(イ)そうすると、甲2-2-1発明と本件特許発明1とは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:25.2?53.0%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?2.6 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点II-1 本件特許発明1のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点II-2 本件特許発明1のめっき被膜は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.07?0.13%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点II-3 本件特許発明1のめっき被膜は、主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であるのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜におけるMg_(2)Siの含有量は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点II-2について検討すると、上記(2-d)、(2-f)によれば、上記甲2-2-1発明のめっき被膜は、Crにより、めっき層のしわが更に抑制されるものであり、Srにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制されるものであり、Feにより、めっき層の外観及び加工性が向上するものである。
そして、そのようなCr、Fe、Srの作用からすれば、上記めっき被膜におけるCr、Fe、Srは不可避的不純物とはいえないので、これらの元素の含有の有無は実質的な相違点といえるから、上記相違点II-2は実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1が甲2-2-1発明であるとはいえない。

(イ)また、上記甲2-2-1発明においてめっき層をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲2-2-1発明の特性を損なうものとなるから、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲2-2-1発明において相違点II-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、上記相違点II-1、II-3について検討するまでもなく、本件特許発明1を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2-3-2)本件特許発明2について
ア 対比
(ア)上記(2-3-1)アと同様に、甲2-2-1発明と本件特許発明2とを対比すると、これらは、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、質量%でAl:25.2?53.0%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%を含む組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有する、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)=2.0?2.6 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点II-1’ 本件特許発明2のめっき被膜は、膜厚が27μm以下であるのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜の膜厚は不明である点。

相違点II-2’ 本件特許発明2のめっき被膜は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.07?0.13%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する点。

相違点II-4 本件特許発明2のめっき被膜は、主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であるのに対して、甲2-2-1発明のめっき被膜における主層におけるX線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比は直接記載されていない点。

イ 判断
(ア)上記相違点II-2’について検討する。上記(2-3-1)ア(イ)に示した相違点II-2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1が甲2-2-1発明であるとはいえないこと、甲2-2-1発明において相違点II-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることを、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件特許発明1を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(2-3-1)イ(ア)?(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、上記相違点II-2’は上記相違点II-2と同じものであるから、上記(2-3-1)イ(ア)?(ウ)と同様の理由により、本件特許発明2が甲2-2-1発明であるとはいえないし、甲2-2-1発明において相違点II-2’に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることを、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るともいえないので、上記相違点II-1’、II-4について検討するまでもなく、本件特許発明2を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3-3)本件特許発明3?6について
(ア)本件特許発明3?6は、請求項1又は請求項2を引用するものである。そして、本件特許発明1が甲2-2-1発明であるとはいえないし、本件特許発明1を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、及び、本件特許発明2が甲2-2-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記(2-3-1)イ(ア)?(ウ)、(2-3-2)イ(イ)に記載のとおりである。

(イ)したがって、同様の理由により、本件特許発明3?6も、甲2-2-1発明であるとはいえないし、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

(2-3-4)本件特許発明7について
ア 対比
(ア)甲2-2-2発明と本件特許発明7とを対比すると、甲2-2-2発明における「表面処理溶融めっき鋼材の製造方法」は、本件特許発明7における「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」に相当し、両者は、「質量%でAl:25.2?53.0%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施」す点で重複している。

(イ)そうすると、甲2-2-2発明と本件特許発明7とは、
「質量%でAl:25.2?53.0%、Mg:1.8?6.5%、Si:1.3?3.9%を含むめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点II-2’’ 本件特許発明7のめっき浴は、Cr、Fe、Srを含まず、残部がZn及び不可避的不純物からなるのに対して、甲2-2-2発明のめっき被膜は、質量%でCr:0.07?0.13%、Fe:0.18?0.42%、Sr:33?36ppmを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる点。

相違点II-5 本件特許発明7においては、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するのに対して、甲2-2-2発明においては、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secの範囲で冷却する点。

イ 判断
(ア)上記相違点II-2’’について検討すると、上記(2-d)、(2-f)によれば、上記甲2-2-2発明のめっき浴は、Crにより、めっき層のしわが更に抑制されるものであり、Srにより、めっき層におけるしわの発生が更に抑制されるものであり、Feにより、めっき層の外観及び加工性が向上するものである。
そして、そのようなCr、Fe、Srの作用からすれば、上記めっき浴におけるCr、Fe、Srは不可避的不純物とはいえないので、これらの元素含有の有無は実質的な相違点といえるから、上記相違点II-2’’は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲2-2-2発明であるとはいえない。

(イ)また、上記甲2-2-2発明においてめっき浴をCr、Fe、Srを含まないものとすることは、めっき層のしわを更に抑制するとか、めっき層の外観及び加工性が向上する、といった上記甲2-2-2発明の特性を損なうものとなるから、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載を参酌したとしても、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)してみれば、甲2-2-2発明において相違点II-2’’に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(エ)次に上記相違点II-5について検討すると、甲2-2-2発明は、めっき浴より引き出されてから鋼材上の溶融めっき金属の表面が300℃に冷却されるまでの間の冷却速度が45℃/secで冷却するものであるから、特に、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却するものではない。
このため、甲2-2-2発明が、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却するものではないことは明らかであるから、上記相違点II-5は実質的な相違点であるので、本件特許発明7が甲2-2-2発明であるとはいえない。

(オ)上記1の(g)によれば、本件特許発明7は、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となるものである。
これに対して、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1には、めっき後の鋼板を、めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却することにより、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散するとか、優れた加工部耐食性が得られることまでは記載されていないから、甲2-2-2発明において、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを、当業者が容易になし得るとはいえない。
このため、甲2-2-2発明において上記相違点II-5に係る本件特許発明7の発明特定事項とすることを、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(カ)したがって、本件特許発明7を、甲2-2-2発明及び甲第2-1号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6 意見書1及び意見書2の主張について
(1)意見書1における主張の概要
(1-1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(2頁下から5行?10頁下から3行)
(ア)特許権者の主張を考慮してもなお、本件特許発明1、2及び7において、めっき被膜が僅かな量、具体的には1%を十分に下回るような値から最大4.9質量%未満又は最大2質量%までのZn含有量を有する場合がある点に変わりはなく、Feに対して犠牲防食作用を持つZnをこのような僅かな量でしか含有しないめっき被膜を含む場合においても、本件訂正特許明細書の表1におけるNo.56のめっき被膜を使用した場合と同様に、本件特許発明の課題を解決できるとは認められない。

(イ)甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第2-1号証、甲第2-3号証の記載においては、Znの含有量は、本件特許発明1、2及び7において可能性のある下限値よりも高いか、又は請求項が技術的に正しくない記載を含んでいるために不明となっており、上記甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第2-1号証、甲第2-3号証の記載があるからといって、本件特許発明1、2及び7が、発明の詳細な説明に開示された範囲に含まれるものとはいえない。

(ウ)以下、異議申立2について、特許権者の意見書における主張は、No.36?41とは異なるめっき組成において、当該めっき組成を変化させずに平均冷却速度だけを変化させた実施例が開示されていない、という異議申立2及び取消理由通知の指摘に対する回答を構成していないので、本件特許明細書の【0053】及び実施例の記載を参酌しても、申立書2の36頁6行?14行の取消理由が解消していない。

(エ)特許権者がその意見書7頁で主張する本件特許明細書の【0053】及び実施例の記載を参酌してもなお、申立書2の37頁2行?12行の取消理由が解消していない。

(オ)出願時の技術常識に照らしても、0μmに限りなく近い膜厚や15μm未満の膜厚を有するめっき被膜を含む溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板をも包含する本件特許発明1及び2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された事項を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(1-2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について(10頁下から2行?13頁20行)
(ア)本件訂正の訂正事項4により、本件特許明細書の【0059】【表1】のNo.5、8、12、16、17、26?28、43?46、49?52、54?56、65、66についても、本件特許発明7の構成要件を満たさなくなっているにもかかわらず、本発明例とされており、齟齬が生じているので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(イ)一方、これらの例は本件特許発明1の構成要件は満たしているから本発明例であるともいえ、物の発明に係る本件特許発明1と製造方法の発明に係る本件特許発明7との間でも齟齬が生じている。
これらの事実を考慮すれば、訂正事項4に係る訂正は、異議申立2で指摘された本件特許発明7における不備を、本来、本件特許発明1及び7の両方においてMg含有量を訂正すると共に、上記【表1】のサンプルの「本発明例」なる表現を「参考例」等に訂正することによって治癒すべきであったところ、本件特許発明7のMg含有量のみを訂正することによって形式的に治癒しようとしたことで、本件特許発明7に係る発明例と比較例との間で新たな不整合を生じさせ、さらには本件特許発明1と本件特許発明7との間でも同様に新たな不整合を生じさせたのであり、本件特許発明7の構成要件が結局のところいかなるものであるのかが不明確となっている。
してみれば、本件特許明細書の記載は、当業者が本件特許発明1?7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(1-3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について(13頁21行?14頁13行)
(ア)本件特許発明1及び2では「膜厚が27μm以下であり」とのみ規定され、膜厚下限値が規定されていないから、「上限又は下限だけを示すような数値範囲限定がある結果、発明の範囲が不明確となる場合」(特許・実用新案審査基準第II部第2章第3節2.2(5)b)に該当するので、本件特許発明1及び2は明確ではない。

(イ)本件訂正の訂正事項4に係る訂正により、本件特許発明7における不備を形式的に治癒しようとしたことで、本件特許発明7に係る発明例と比較例との間で新たな不整合を生じさせ、さらには本件特許発明1と本件特許発明7との間でも同様に新たな不整合を生じさせたのであり、本件特許発明7の構成要件が結局のところいかなるものであるのかが不明確となっているので、本件特許発明7は明確でない。

(1-4)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について(14頁14行?83頁14行)
(ア)申立人小園が新たに引用した甲号証
甲第7号証:特開平10-265901号公報
以下、上記甲第7号証を甲第1-7号証という。

(イ)異議申立1について、甲第1-1号証を主引用例とした場合、本件特許発明1?3、5、6は、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明4は、甲第1-4号証、甲第1-5号証、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明7は、甲第1-1号証の教示を参酌することにより、甲第1-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(ウ)異議申立1について、甲第1-2号証を主引用例とした場合、本件特許発明1、2、5、6は、甲第1-2号証に記載された発明であるか、又は、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明3は、甲第1-1号証、甲第1-3号証、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明4は、甲第1-4号証、甲第1-5号証、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明7は、甲第1-1号証の教示を参酌することにより、甲第1-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(エ)異議申立1について、甲第1-3号証を主引用例とした場合、本件特許発明1、2は、甲第1-7号証の教示、必要に応じて甲第1-2号証、甲第1-4号証に記載される周知の技術事項を参酌することにより、甲第1-3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明3、5、6は、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第1-3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明7は、甲第1-1号証の教示を参酌することにより、甲第1-3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(オ)異議申立2について、甲第2-1号証を主引用例とした場合、本件特許発明1?3、5、6は、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明4は、甲第2-3号証、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明7は、甲第2-1号証の教示を参酌することにより、甲第2-1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(カ)異議申立2について、甲第2-2号証を主引用例とした場合、本件特許発明1?3、5、6は、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第2-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明4は、甲第2-3号証、甲第1-7号証の教示を参酌することにより、甲第2-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
本件特許発明7は、甲第2-2号証の教示を参酌することにより、甲第2-2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(2)意見書1の主張についての判断
(2-1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)本件特許発明1、2、7は、いずれも、Al、Si、Mg及びZn以外のほかの任意の添加元素を、全ての元素の合計含有量が100質量%を超えない範囲内の任意の量において含有するめっき被膜を含む溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板及びその製造方法を包含するものとはいえないこと、及び、上記1の(b)の記載に接した当業者は、本件特許発明1、2、7におけるめっき被膜は、本件特許発明の特性を損なわない程度の量のZnを含有するものと理解できるから、本件特許発明1、2、7の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえないことは、上記2の(1)(ア)?(イ)に記載のとおりである。

(イ)そして、上記(ア)の検討事項は、上記甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第2-1号証、甲第2-3号証の記載事項に左右されるものでもない。

(ウ)申立人小園は、もともと異議申立2の主張を行っていないが、以下、検討しておくと、上記1の(a)によれば、本件特許発明は、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供することを課題とするものである。
そして、上記1の(g)によれば、本件特許発明7においては、第1冷却温度までの冷却速度を平均10℃/sec未満とすることよって、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となる一方、第1冷却温度?380℃までの温度域では、単相Siが析出しやすいことがわかっており、第1冷却温度から380℃までを平均10℃/sec以上の冷却速度とすることで、単相Siの析出を抑制することが可能となるものであって、更に上記1の(h)の実施例No.38?40の記載に接した当業者は、本件特許発明7の発明特定事項を満たすことにより、本件特許発明の上記課題を解決できることを理解できるものである。
してみれば、上記実施例とは異なるめっき組成で冷却速度を変化させた実施例が記載されていないとか、めっき組成を変化させずに平均冷却速度だけを変化させた実施例が開示されていないからといって、本件特許明細書の記載を、本件特許発明7まで拡張ないし一般化することができないとまではいえない。

(エ)上記1の(g)の記載及び上記1の(h)の実施例No.38?40の記載に接した当業者は、めっき後の鋼板の平均冷却速度についても、本件特許発明7の発明特定事項を満たすことにより本件特許発明の上記課題を解決できることを理解できるものである。
してみれば、上記実施例において、第一冷却速度までの平均冷却速度が5℃/sec、第一冷却速度以降の平均冷却速度が23?38℃/secのものしか開示されていないからといって、本件特許明細書の記載を、本件特許発明7まで拡張ないし一般化することができないとまではいえない。

(オ)上記1の(f)によれば、本件特許発明におけるめっき皮膜の膜厚は、15μm以上27μm以下であることが好ましいものであり、これは、一般的に、前記めっき皮膜が薄いほど、耐食性が悪化する傾向にあり、厚いほど、加工性が劣化する傾向があるためである。
そして、上記記載に接した当業者は、本件特許発明におけるめっき皮膜の膜厚が、本件特許発明の特性を損なわない程度の厚さを有することを理解できるから、めっき被膜の膜厚について、発明の詳細な説明に開示された事項を本件特許発明1、2の範囲まで拡張ないし一般化できないとまではいえない。

(カ)したがって、申立人小園の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての上記(1-1)に示す主張はいずれも採用できない。

(2-2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(ア)上記1の(h)には、本件特許発明7の発明特定事項を満たすことにより本件特許発明の課題を解決できる実施例(例えばNo.38?40)が記載されているから、No.5、8、12、16、17、26?28、43?46、49?52、54?56、65、66が本件特許発明7の発明特定事項を満たさないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(イ)また、No.5、8、12、16、17、26?28、43?46、49?52、54?56、65、66は本件特許発明1、2の発明特定事項を満たすものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明1、2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
そして、本件特許発明7は請求項1?2を引用するものではないから、本件特許発明1、2の発明特定事項を満足する実施例と、本件特許発明7の発明特定事項を満足する実施例が異なるからといって、本件特許発明1、2、7、実施例及び比較例の間で不整合が生じているともいえないので、本件特許明細書の記載が、当業者が本件特許発明1?7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(ウ)したがって、申立人小園の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての上記(1-2)に示す主張はいずれも採用できない。

(2-3)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)申立人小園は、そもそも異議申立1において特許法第36条第6項第2号(明確性)についての主張を行っていないが、以下、検討しておくと、本件特許発明1、2におけるめっき被膜の膜厚は27μm以下である点で明確である。
また、訂正前の本件特許発明1、2においてはめっき被膜の膜厚は何ら特定されていなかったのであるが、上記1の(f)の記載に接した当業者は、本件特許発明におけるめっき皮膜の膜厚が、耐食性や加工性といった本件特許発明の特性を損なわない範囲の厚さを有することを理解できるから、本件特許明細書の記載並びに出願時の技術常識を考慮すれば、本件特許発明1、2のめっき被膜の膜厚の範囲を当業者が理解できないとまではいえないので、膜厚下限値が特定されていないからといって、直ちに本件特許発明1及び2が明確でないとまではいえない。

(イ)本件特許発明1、2の発明特定事項を満足する実施例と、本件特許発明7の発明特定事項を満足する実施例が異なるからといって、本件特許発明1、2、7、実施例及び比較例の間で特段の不整合が生じているともいえないことは上記(2-2)(イ)のとおりであるから、本件特許発明7が明確でないとまではいえない。

(ウ)したがって、申立人小園の特許法第36条第6項第2号(実施可能要件)についての上記(1-3)に示す主張はいずれも採用できない。

(2-4)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について
(ア)甲第1-7号証には、以下の事項が記載されている。
(7-A)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%において、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.020%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007?0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板の表面に、Al:0.1?75質量%を含むZn-Al系溶融めっき層を形成した加工性に優れた鋼板であって、200?500℃の高温環境で使用される耐熱部材用Zn-Al系溶融めっき鋼板。
【請求項2】 質量%において、C:0.01%以下,Si:0.05%以下,Mn:0.5%以下,P:0.030%以下,N:0.0040%以下であり、B:0.0007?0.0050%を含有し、さらにTi,Nb,Zrのうち1種以上を合計でC+N(質量%)の4倍以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる母材鋼板の表面に、Al:0.1?75質量%を含むZn-Al系溶融めっき層を形成した加工性に優れた鋼板であって、200?500℃の高温環境で使用される耐熱部材用Zn-Al系溶融めっき鋼板。
【請求項3】 母材鋼板のB含有量は0.0013?0.0050質量%である請求項1または請求項2に記載の耐熱部材用Zn-Al系溶融めっき鋼板。
【請求項4】 溶融めっき層は、質量%において、Al:0.1?75%を含み、さらにSi:5%以下,Mg:3%以下,Ti:1%以下,Cr:1%以下のうち1種以上を含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるZn-Al系溶融めっき層である請求項1?請求項3に記載の耐熱部材用Zn-Al系溶融めっき鋼板。」

(7-B)「【0028】なお、Zn-Al系溶融めっき層の厚さは、耐食性等の優れた特性を維持するために5?60μmとすることが望ましい。」

(イ)ところが、本件特許発明1?6は、甲1-1-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲1-1-1発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲1-1-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲1-1-2発明及び甲第1-2号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(1)(1-2)に記載のとおりであり、本件特許発明1?6は、甲1-2-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲1-2-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲1-2-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲1-2-2発明及び甲第1-1号証、甲第1-3号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(1)(1-3)に記載のとおりであり、本件特許発明1?6は、甲1-3-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲1-3-1発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲1-3-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲1-3-2発明及び甲第1-1号証、甲第1-2号証、甲第1-4号証?甲第1-6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(1)(1-4)に記載のとおりである。

(ウ)そして、上記(7-A)、(7-B)によれば、甲第1-7号証には、耐熱部材用Zn-Al系溶融めっき鋼板における溶融めっき層が、質量%において、Al:0.1?75%を含み、さらにSi:5%以下,Mg:3%以下,Ti:1%以下,Cr:1%以下のうち1種以上を含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなるZn-Al系溶融めっき層であること、Zn-Al系溶融めっき層の厚さは、耐食性等の優れた特性を維持するために5?60μmとすることが望ましいことが記載されているに過ぎないから、上記甲第1-7号証の記載により、上記(イ)の検討事項が左右されるものでもない。

(エ)申立人小園は、そもそも異議申立2に係る新規性及び進歩性についての主張を行っていないが、以下、検討しておくと、本件特許発明1?6は、甲1-1-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲1-1-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲1-1-2発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(2)(2-2)に記載のとおりであり、本件特許発明1?6は、甲2-2-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲2-2-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲2-2-2発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(2)(2-3)に記載のとおりである。

(オ)そして、上記(ウ)に記載したのと同様の理由により、上記甲第1-7号証の記載により上記(エ)の検討事項が左右されるものでもないから、申立人小園の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)についての上記(1-4)に示す主張はいずれも採用できない。

(3)意見書2における主張の概要
(3-1)本件訂正の適否について(2頁4行?6頁4行)
(ア)本件特許明細書の【0059】、【0063】、【0067】、【0071】の表1、2、3、4には本件特許明細書の記載と整合していない記載及び意味不明な記載が存在するが、表1、2、3、4の記載が本件特許明細書の記載と整合していないからといって、直ちに表1、2、3、4に誤記があるとは認められないから、訂正事項6、7、8、9によって削除されたサンプルに誤記があるとは認められない。
仮に削除されたサンプルに誤記があるとしても、その誤記が、訂正事項6、7、8、9によって削除された第1冷却温度、第1冷却温度から380℃までの冷却速度、めっき被膜の状態や評価結果にあることを、客観的に示す根拠は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からは見いだせない。また、誤記が、表1のNo.24、33、36、37、41、67、表2のNo.15、20、21、22、表3のNo.15、20、21、22、表4のNo.67といった多数のサンプルにあるのならば、本件特許明細書と整合するサンプルには誤記がないとは考え難い。

(イ)訂正事項6、7、8、9では、表1、2、3、4に記載されたサンプルを正すことなく削除しており、訂正事項6、7、8、9では、誤記を正すことを行っていない。

(ウ)訂正事項6、7、8、9で削除されたサンプルは、請求項1?7に係る発明を具現化した具体例であるから、これらのサンプルの記載は、請求項1?7に係る発明の技術的範囲を解釈するにあたって参酌されるが、訂正事項6、7、8、9はこのようなサンプルを削除するものであり、このことは、訂正前において発明の技術的範囲を解釈するための参酌の対象であった具体例を、訂正後においては参酌の対象から外すことにほかならないので、訂正前の記載が、サンプルを削除した訂正後の記載と同一の意味を表示するものとは認められない。

(エ)上記(ア)?(ウ)から、訂正事項6、7、8、9は、誤記の訂正を目的とする訂正の要件を満たさず、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正とは認められない。

(オ)訂正事項6、7、8、9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、第4号のいずれにも該当しない。
すなわち、訂正事項6、7、8、9は、特許請求の範囲の訂正を行うものではないから、特許請求の範囲の減縮にも、請求項間の引用関係の解消にも該当せず、訂正により本件特許明細書中の明瞭でない記載の本来の意味を明らかにしていないから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもない。

(カ)訂正事項6、7、8は、サンプルを削除することで、訂正前において発明の技術的範囲を解釈するための参酌の対象であった具体例を、訂正後においては参酌の対象から外すことにほかならないから、特許請求の範囲を変更するものであるので、特許法第126条第6項で規定される要件を充足しない。

(3-2)特許法第29条第2項(進歩性)について(6頁5行?15頁17行、16頁15行?19頁下から4行)
(ア)甲第2-1号証を主引用例とした場合、本件特許発明1?3、5?7は、甲第2-1号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明4は、甲第2-1号証に記載される発明及び甲第2-3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)甲第2-2号証を主引用例とした場合、本件特許発明1?3、5?7は、甲第2-2号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明4は、甲第2-1号証に記載される発明及び甲第2-3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3)本件特許発明4の記載不備について(15頁18行?16頁14行)
(ア)アルファ-Alリッチ相のデンドライトでは、凝固中心から6方向に延びる一次アーム、その一次アームから枝分かれして延びる二次アーム、更には、その二次アームから枝分かれして延びる三次アームと、次々に枝分かれ成長し複雑な樹脂模様を形成することから、本件特許発明4において「平均デンドライト径(隣接するデンドライトアームの中心距離)と特定したとしても、そのデンドライトが何次アームを指すのか特定されていない限り、平均デンドライト径の文言がいかなる意味なのか理解できず、本件特許発明4は明確でない。

(4)意見書2の主張についての判断
(4-1)本件訂正の適否について
(ア)訂正事項6、7、8、9は、特許請求の範囲の記載事項や本件特許明細書の記載事項と整合していないサンプル及び技術的に意味が不明瞭なサンプルを削除するものである。
そして、そのような訂正は、上記サンプルが記載されていることで特許請求の範囲及び本件特許明細書の記載が明瞭でないものとなっていたものを、当該サンプルを削除することで、特許請求の範囲及び本件特許明細書の記載の本来の意味を明らかにするものといえるから、明瞭でない記載の釈明といえるものである。

(イ)また、訂正事項6、7、8、9により削除されたサンプルは、もともと、特許請求の範囲の記載事項や本件特許明細書の記載事項と整合していなかったり、技術的に意味が不明瞭だったりしたものであるから、これらを削除したからといって、訂正の前と後で記載が同一の意味を表示していないとはいえないし、特許請求の範囲を実質的に変更するものともいえない。

(ウ)したがって、訂正事項6、7、8、9は、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるので、申立人日鉄住金鋼板の本件訂正の適否についての上記(3-1)に示す主張はいずれも採用できない。

(4-2)特許法第29条第2項(進歩性)について
(ア)本件特許発明1?6は、甲1-1-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲1-1-1発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲1-1-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲1-1-2発明及び甲第2-2号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(2)(2-2)に記載のとおりであり、本件特許発明1?6は、甲2-2-1発明であるとはいえず、本件特許発明1?6を、甲2-2-1発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないこと、本件特許発明7は、甲2-2-2発明であるとはいえず、本件特許発明7を、甲2-2-2発明及び甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-5号証及び参考資料1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないことは、上記5の(2)(2-3)に記載のとおりである。

(イ)特に、甲1-1-1発明、甲1-1-2発明、甲2-2-1発明、甲2-2-2発明におけるCr、Fe、Srは、いずれも、めっき層の特性を向上させる元素であるから、甲第1-1号証(甲第2-1号証)、甲第2-2号証に、「めっき層は、構成元素として更にCrを含有することが好ましい。」といった記載があり、他にCrを含有しない実施例が記載されているとしても、既にCr、Fe、Srを含有している甲1-1-1発明、甲1-1-2発明、甲2-2-1発明、甲2-2-2発明において、各発明の特性を損なうものとなる、Cr、Fe、Srを含有しないものとする合理的な動機付けは存在しないので、上記甲第1-1号証(甲第2-1号証)、甲第2-2号証の記載は、上記(ア)の結論を左右しない。

(ウ)したがって、申立人日鉄住金鋼板の特許法第29条第2項(進歩性)についての上記(3-2)に示す主張はいずれも採用できない。

(4-3)本件特許発明4の記載不備について
(ア)上記1の(c)によれば、デンドライト径とは、隣接するデンドライトアーム間の中心距離(デンドライトアームスペーシング)のことを意味するのであって、本件特許発明では、前記デンドライト径を、2次枝法([軽金属学会 鋳造・凝固部会、「軽金属」38巻、P54、1988年]を参照。)に従って測定するのであるから、デンドライトの二次アーム若しくは二次アームと判断されるアームについて測定することは明らかであるので、本件特許発明における平均デンドライト径の文言がいかなる意味なのか理解できないとはいえない。

(イ)したがって、申立人日鉄住金鋼板の本件特許発明4の記載不備についての上記(3-3)に示す主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板とその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部の耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示す。例えば、特許文献1には、めっき皮膜中にAlを25?75質量%含有する溶融Al-Zn系めっき鋼板が開示されている。そして、溶融Al-Znめっき鋼板は、その優れた耐食性から、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野を中心に近年需要が伸びている。
【0003】
溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、主層及び下地鋼板と主層との界面に存在する合金層からなり、主層は、主としてZnを過飽和に含有しAlがデンドライト凝固した部分(α-Al相のデンドライト部分)と、残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト)とから構成され、α-Al相がめっき皮膜の膜厚方向に複数積層した構造を有する。このような特徴的な皮膜構造により、表面からの腐食進行経路が複雑になるため、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなり、溶融Al-Zn系めっき鋼板はめっき皮膜厚が同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を実現できる。
【0004】
また、溶融Al-Zn系めっきのめっき皮膜中にMgを含有することで、耐食性のさらなる向上を目的とした技術が知られている。
Mgを含有する溶融Al-Zn系めっき鋼板(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板)に関する技術として、例えば特許文献2には、めっき皮膜にMgを含むAl-Zn-Si合金を含み、該Al-Zn-Si合金が、45?60重量%の元素アルミニウム、37?46重量%の元素亜鉛及び1.2?2.3重量%の元素ケイ素を含有する合金であり、該Mgの濃度が1?5重量%である、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板が開示されている。
また、特許文献3には、質量%で、Mg:2?10%、Ca:0.01?10%、Si:3?15%を含有し、残部Al及び不可避的不純物であり、且つMg/Siの質量比特定の範囲にしたAl系めっき系表面処理鋼材が開示されている。
【0005】
また、溶融Al-Zn系めっき鋼板を自動車分野、特に外板パネルに用いようとした場合、該めっき鋼板は連続式溶融めっき設備でめっきまで施した状態で自動車メーカー等に供され、そこでパネル部品形状に加工された後に化成処理、さらに電着塗装、中塗り塗装、上塗り塗装の自動車用総合塗装が施されることが一般的である。しかしながら、溶融Al-Zn系めっき鋼板を用いた外板パネルは、塗膜に損傷が生じた際、傷部を起点に塗膜/めっき界面におけるZnを多く含むインターデンドライトの選択腐食が起こる結果、溶融Znめっきに比べて著しく大きな塗膜膨れを生じ、十分な耐食性(塗装後耐食性)を確保できない場合があった。そのため、例えば特許文献4には、めっき組成にMg又はSn等を添加し、めっき層中にMg_(2)Si、MgZn_(2)、Mg_(2)Sn等のMg化合物を形成させることで、鋼板端面からの赤錆発生を改善した溶融Al-Zn系めっき鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭46-7161号公報
【特許文献2】特許5020228号公報
【特許文献3】特許5000039号公報
【特許文献4】特開2002-12959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、溶融Al-Zn系めっき鋼板については、上述したように、その優れた耐食性から長期間屋外に曝される屋根や壁などの建材分野に使用されることが多い。そのため、近年の省資源・省エネルギーについての要求から、製品の長寿命化を図るべく、より耐食性に優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の開発が望まれていた。
また、引用文献2及び3に開示された溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板については、めっき皮膜の主層が硬質化しているため、曲げ加工を行った際にめっき皮膜が割れてクラックを生じ、結果として加工部の耐食性(加工部耐食性)が劣るという問題があった。そのため、加工部耐食性の改善についても望まれていた。なお、引用文献2では、Mg添加による延性低下を、「小さい」スパングルサイズとすることで延性低下を改良しているが、この目的を達成するためには引用文献2では実質的にはめっき層にTiBを有することが必須とされており、本質的な解決策が開示されているとはいえなかった。
さらに、特許文献4に開示された溶融Al-Zn系めっき鋼板に塗装を施した場合でも、塗装後耐食性の問題は、依然として解消されておらず、溶融Al-Zn系めっき鋼板の用途によっては、塗装後耐食性についてもさらなる向上が望まれていた。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の腐食時、めっき皮膜の主層中のインターデンドライトに存在するMg_(2)Siが初期に溶解し、腐食生成物の表面にMgを濃化させることによって耐食性の向上に寄与すること、また、前記主層中に存在する単相Siはカソードサイトとなり、周囲のめっき皮膜の溶解を招くため、単相Siはなくす必要があることに着目した。そして、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ね、前記めっき皮膜の主層中に存在するAl、Mg及びSi成分の含有量を規定すると共に、めっき皮膜中のMg及びSiの含有量を特定範囲に制御することによって、インターデンドライト中にMg_(2)Siを微細且つ均一に分散させることができるため、加工部耐食性を大幅に向上できることを見出し、また、Mg_(2)Siの微細且つ均一な生成によって単相Siをめっき皮膜主層中からなくすことができるため、平板部及び端部の耐食性についても向上できることを見出した。
また、上記に加え、めっき皮膜中のMg含有量を特定の範囲に制御することで、優れた塗装後耐食性を得ることも見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【0011】
2.前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であることを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【0012】
3.前記主層がMg_(2)Siを含有し、該主層の断面におけるMg_(2)Siの面積率が1%以上であることを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【0013】
4.前記主層がMg_(2)Siを含有し、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることを特徴とする、前記1に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【0014】
5.前記界面合金層の厚さが、1μm以下であることを特徴とする、前記1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【0015】
6.前記主層がα-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(2)を満足することを特徴とする、前記1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
t/d≧1.5 ・・・(2)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(μm)
【0016】
7.前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、2.3超え?5質量%のSi及び3?10質量%のMgを含有することを特徴とする、前記1?6のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
8.前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び5超え?10質量%のMgを含有することを特徴とする、前記1?6のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【0017】
9.25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は、本発明による溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部について腐食前後の状態を示した図であり、(b)は、従来のAl-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部について腐食前後の状態を示した図である。
【図2】本発明による溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部が腐食した際の、各元素の状態を走査電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により示したものである。
【図3】従来の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の、各元素の状態をSEM.EDXにより示したものである。
【図4】デンドライト径の測定方法を説明するための図である。
【図5】めっき皮膜中のSiの含有量とMgの含有量との関係、及び、めっき皮膜の主層中に生成する相の状態を示した図である。
【図6】日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)の流れを説明するための図である。
【図7】塗装後耐食性の評価用サンプルを示した図である。
【図8】腐食促進試験(SAE J 2334)のサイクルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板)
本発明の対象とする溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜を有し、該めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層からなる。そして、前記めっき皮膜は、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0021】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、25?80質量%とし、好ましくは35?65質量%である。めっき主層のAl含有量が25質量%以上であれば、Alのデンドライト凝固が起こる。これにより、主層は主としてZnを過飽和に含有し、Alがデンドライト凝固した部分(α-Al相のデンドライト部分)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト部分)からなり、且つ該デンドライト部分がめっき皮膜の膜厚方向に積層した耐食性に優れる構造を確保できる。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上する。極めて高い耐食性を得るためには、主層のAl含有量を35質量%以上とすることがより好ましい。一方、主層のAl含有量が80質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、主層のAl含有量は80質量%以下とする。また、主層のAl含有量が65質量%以下であれば、めっきの付着量が少なくなり、鋼素地が露出しやすくなった場合にもFeに対して犠牲防食作用を有し、十分な耐食性が得られる。よって、めっき主層のAl含有量は65質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
また、Siは下地鋼板との界面に生成する界面合金層の成長を抑制する目的で、耐食性や加工性の向上を目的にめっき浴中に添加され、必然的にめっき主層に含有される。具体的には、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の場合、めっき浴中にSiを含有させめっき処理を行うと、鋼板がめっき浴中に浸漬されると同時に鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物を生成する。このFe-Al-Si系界面合金層の生成により、界面合金層の成長が抑制される。めっき皮膜のSi含有量が0.6質量%を越える場合に界面合金層の十分な成長抑制が可能となる。一方、めっき皮膜のSi含有量が、15%を超えた場合、めっき皮膜においてクラックの伝播経路となるため、加工性を低下させ、カソードサイトとなるSi相が析出し易くなる。Si相の析出は、Mg含有量を増やすことで抑制できるが、この方法は製造コストの上昇を招き、まためっき浴の組成管理をより困難にしてしまう。このため、めっき皮膜中のSi含有量は15%以下とする。さらにまた、より高いレベルで、界面合金層の成長及びSi相の析出を抑制できる点からは、めっき皮膜中のSi含有量を2.3超え?5%とすることが好ましく、2.3超え?3.5%とすることが特に好ましい。
【0023】
さらに、前記めっき皮膜は、Mgを0.1超え?25質量%含有する。前記めっき皮膜の主層が腐食した際、腐食生成物中にMgが含まれることとなり、腐食生成物の安定性が向上し、腐食の進行が遅延する結果、耐食性が向上するという効果がある。より具体的には、前記めっき皮膜の主層のMgは、上述したSiと結合し、Mg_(2)Siを生成する。このMg_(2)Siは、めっき鋼板が腐食した際、初期に溶解するためMgが腐食生成物に含まれる。Mgは腐食生成物の表面に濃化して、腐食生成物を緻密化させる効果があり、腐食生成物の安定性及び外来腐食因子に対するバリア性を向上できる。
ここで、前記めっき皮膜のMg含有量を0.1質量%超えとしたのは、0.1質量%超えとすることで、Mg_(2)Siを生成できるようになり、腐食遅延効果を得ることができるからである。一方、前記Mgの含有量を25質量%以下としたのは、Mgの含有量が25%を超える場合、耐食性の向上効果の飽和に加え、製造コストの上昇とめっき浴の組成管理が難しくなるためである。また、より高いレベルで、製造コストの低減を向上させつつ、より優れた腐食遅延効果を実現する点からは、めっき皮膜中のMg含有量を3?10%とすることが好ましく、4?6%とすることがより好ましい。
【0024】
また、めっき皮膜中にMgを5%以上含有することで、本発明で課題とする塗装後耐食性の改善が可能となる。Mgを含まない従来の溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層が大気に触れると、α-Al相の周囲に緻密、且つ安定なAl_(2)O_(3)の酸化膜が直ぐに形成され、この酸化膜による保護作用によってα-Al相の溶解性はインターデンドライト中のZnリッチ相の溶解性に比べ非常に低くなる。この結果、従来のAl-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板は、塗膜に損傷が生じた場合、傷部を起点に塗膜/めっき界面でZnリッチ相の選択腐食を起こし、塗装健全部の奥深くに向けて進行して大きな塗膜膨れを起こすことから、塗装後耐食性が劣る。一方、Mgを含有した溶融Al-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板の場合、インターデンドライト中に析出するMg_(2)Si相やMg-Zn化合物(MgZn_(2)、Mg_(32)(Al,Zn)_(49)等)が腐食の初期段階で溶け出し、腐食生成物中にMgが取込まれる。Mgを含有した腐食生成物は非常に安定であり、これにより腐食が初期段階で抑制されるため、従来のAl-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板の場合に問題となるZnリッチ相の選択腐食による大きな塗膜膨れを抑制できる。その結果、めっき層にMgを含有させた溶融Al-Zn系めっき鋼板は優れた塗装後耐食性を示す。Mgが5%以下の場合には、腐食時に溶け出すMgの量が少なく、上記に示した安定な腐食生成物が十分に生成されないことから、塗装後耐食性が向上しないおそれがある。逆に、Mgが10%超えの場合には、効果が飽和するだけでなく、Mg化合物の腐食が激しく起こり、めっき層全体の溶解性が過度に上昇する結果、腐食生成物を安定化させても、その溶解速度が大きくなるため、大きな膨れ幅を生じ、塗装後耐食性が劣化するおそれがある。よって、優れた塗装後耐食性を安定的に得るためには、Mgを5越え?10%の範囲で含有させることが好ましい。
【0025】
そして本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、前記インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、前記単相Siが生成する可能性を低減し、より優れた加工部耐食性を実現する観点から、前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足することが好ましい。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【0026】
Mg_(2)Siの微細且つ均一な分散によって、鋼板の腐食時にMg_(2)Siがめっき表面及び加工部に入ったクラック破面の全面でZnとともに徐々に溶解し、腐食生成物にMgが多量に取り込まれ、腐食生成物表面の全面にMg濃化部が厚く生成して腐食の進行を抑えることができるため、加工部耐食性を飛躍的に向上できる。また、Mg_(2)Siを偏在することなく、めっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることによって、カソードサイトとなる単相Siについても前記主層からなくすことができるため、平板部及び端部の耐食性についても向上できる。
これに対し、従来技術では、例えば上述した特許文献3に述べられているように、Mg_(2)Siがある一定量以上の大きさの塊状(具体的には長径が10μm以上、短径の長径に対する比率が0.4以上)となっている。それによって、Mg_(2)Siが大きく且つ分布も不均一になるため、腐食初期のMg_(2)Siの溶解速度がZnに比べて著しく速く、Mg_(2)Siが優先的に溶解して流出する結果、腐食生成物にMgが有効に取り込まれず、腐食生成物表面のMg濃化部も少なく局所的になり、所望の耐食性向上効果が得られない。
【0027】
ここで、図5は、前記めっき皮膜中のSiの含有量とMgの含有量との関係、及び、めっき皮膜の主層中に生成する相の状態を示したものである。図5から、本発明の組成の範囲内(図5の破線で囲まれた部分)では、上記式(1)を満足することで、確実に主層から単相Siをなくすことができていることがわかる。
【0028】
また、前記めっき皮膜の主層が、α-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(1)を満足することを特徴とする。
t/d≧1.5 ・・・(1)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(μm)
上記(1)式を満足することで、上述したα-Al相からなるデンドライト部分のアーム(平均デンドライト径)を相対的に小さくでき、前記インターデンドライト中にMg_(2)Siを効果的に分散させ、めっき主層全体にMg_(2)Siが偏在することなく微細且つ均一に分散した状態を得ることが可能となる。
【0029】
ここで、図1は、本発明及び従来技術の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部が腐食した際のめっき皮膜主層の状態変化を模式的に示したものである。
図1(a)に示すように、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板では、めっき皮膜の厚さtに対してデンドライトが小さいため、Mg_(2)Siが微細且つ均一に分散しやすいことがわかる。そして、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部(加工部は、複数のクラックを有している。)が腐食した際、前記めっき皮膜の加工部に入ったクラック破面にあるMg_(2)Siが溶解し、Mgが腐食生成物の表面に濃化することとなる。
一方、図1(b)に示すように、従来の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板では、めっき皮膜の厚さtに対してデンドライトが大きいため、Mg_(2)Siが微細且つ均一に分散しにくいことがわかる。そして、従来の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の加工部が腐食した際、前記加工部に入ったクラック破面にあったMg_(2)Siは溶解し、Mgが腐食生成物の表面の一部に濃化しているものの、めっき主層全体のMg_(2)Siの分散度が本願発明に比べて劣るため、前記腐食生成物の表面を覆うMg濃化部分が少なくなる。その結果、加工部の腐食が進行し易く、加工部耐食性が十分でないことが考えられる。
【0030】
また、図2は、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板について、加工部が腐食した際の各元素の状態を、走査電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)により示したものである。図2から、本願発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板では、加工部が腐食した際、めっき皮膜主層の表面にMgが濃化していることがわかる(図2中のMgの写真を参照。)。
また、図3は、めっき皮膜の組成が本発明の範囲に含まれるものの(Al:55%、Si:1.6%、Mg:2.5%)、主層のデンドライト部分の平均デンドライト径と、めっき皮膜の厚さとが、式(1)を満たさない溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板について、各元素の状態をSEM-EDSにより示したものである。観察の結果、少量ではあるがSi単相が析出していることが確認でき、耐食性の低下が推測される(図3中のSiの写真を参照。)。
【0031】
なお、前記デンドライト径とは、隣接するデンドライトアーム間の中心距離(デンドライトアームスペーシング)のことを意味する。本発明では、前記デンドライト径を、2次枝法([軽金属学会鋳造・凝固部会、「軽金属」38巻、P54、1988年]を参照。)に従って測定する。本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜主層におけるデンドイト部分は、配向性が高く、アームが整列している部分が多いためである。
具体的には、図4に示すように、研磨及び/又はエッチングしためっき皮膜主層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて拡大観察し(例えば200倍で観察し)、無作為に選択した視野の中で、デンドライトアームが3本以上整列している部分を選択し(図4では、A-B間の3本を選択している。)、アームが整列している方向に沿って距離(図4では、距離L)を測定する。その後、測定した距離をデンドライトアームの本数で除して(図4では、L/3)、デンドライト径を算出する。当該デンドライト径は、1つの視野の中で、3箇所以上測定し、それぞれ得られたデンドライト径の平均を算出したものを平均デンドライト径とする。
【0032】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、上述したように前記主層がMg_(2)Siを含有しているが、該主層におけるMg_(2)Siの含有量が、1.0質量%以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明でのMg_(2)Siの含有量については、例えばAl-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜を酸に溶解させた後、ICP分析(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析)でSi及びMgの量(g/m^(2))を測定する。そして、Si量から、界面合金層含有分(界面合金層1μmあたり、0.45g/m^(2))を引き、2.7を乗じてMg_(2)Siの量(g/m^(2))に換算し、めっき量(g/m^(2))で除して、Mg_(2)Siの質量%を算出する方法が用いられるが、Mg_(2)Siの含有量がわかればどのような分析方法を用いても良い。
【0033】
また、前記主層における主層におけるMg_(2)Siの面積率が、該主層の断面で見て1%以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明でのMg_(2)Siの面積率については、例えば、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜の断面を、SEM-EDXでマッピングし、1つの視野中でMgとSiが重なって検出される部分(Mg_(2)Siが存在する部分)の面積率(%)を、画像処理によって導出する方法が用いられるが、Mg_(2)Siが存在する部分の面積率が把握することができる方法であれば、特に限定されない。
【0034】
さらに、前記主層に含まれるMg_(2)Siについては、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることが好ましい。より確実に、Mg_(2)Siをめっき皮膜主層全体に微細且つ均一に分散させることができ、所望の耐食性を実現できる。
ここで、本発明での強度比の算出については、X線回折パターンを、例えば管電圧:30kV、管電流:10mA、Cu Kα管球(波長λ=0.154nm)、測定角度2θ=10°?90°の条件で取得し、Alを示す(200)面(面間隔d=0.2024nm)及びMg_(2)Siを示す(111)面(面間隔d=0.367nm)の強度をそれぞれ測定し、後者を前者で除することによって行うが、X線回折の条件は特に限定するものではない。
【0035】
また、前記インターデンドライト中に微細且つ均一に分散するMg_(2)Siの粒子については、長径に対する短径の比が0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。
従来技術では、例えば上述した特許文献3に述べられているように、Mg_(2)Siの粒子については、短径の長径に対する比率で0.4以上としている。この場合Mg_(2)Siが大きく且つ分布も不均一になるため、腐食初期のMg_(2)Siの溶解速度がZnに比べて著しく速く、Mg_(2)Siが優先的に溶解して流出することから、腐食生成物にMgが有効に取り込まれず、腐食生成物表面のMg濃化部も少なく局所的になり、耐食性向上効果は得られない。
一方、本発明技術では、長径と短径との差(アスペクト比)を大きくすることで、前記めっき皮膜の表面及び加工部に入ったクラック破面に存在するMg_(2)Siの粒子が微細且つ均一な分散に寄与する。その結果、腐食時にMg_(2)SiがZnとともに徐々に溶解し、腐食生成物にMgが多量に取り込まれ、腐食生成物表面の全面にMg濃化部が厚く生成して腐食の進行を抑え、加工部耐食性を飛躍的に向上できる。
ここで、前記Mg_(2)Siの長径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も長い径のことであり、前記Mg_(2)Siの短径とは、Mg_(2)Siの粒子の中で最も短い径のことを意味する。
【0036】
また、より優れた耐食性を得る点からは、前記めっき皮膜にCaをさらに含有することが好ましい。さらに、前記めっき皮膜がCaをさらに含有する場合には、合計含有量が0.2?25質量%であることが好ましい。上記合計含有量とすることで、十分な腐食遅延効果を得ることができ、効果が飽和することもないためである。
【0037】
さらに、前記MgやCaと同様に、腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することから、前記主層は、さらにMn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01?10質量%含有することが好ましい。
【0038】
なお、前記界面合金層は、下地鋼板との界面に存在するものであり、前述の通り、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応して必然的に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物である。この界面合金層は、硬くて脆いため、厚く成長すると加工時のクラック発生の起点となることから可能な限り薄いことが好ましい。
【0039】
ここで、界面合金層及び主層は、研磨及び/又はエッチングしためっき皮膜の断面を、走査型電子顕微鏡等を用いることによって観察できる。断面の研磨方法やエッチング方法はいくつか種類があるが、一般的にめっき皮膜断面を観察する際に用いられる方法であれば特に限定はされない。また、走査型電子顕微鏡での観察条件は、例えば加速電圧15kVで、反射電子像にて1000倍以上の倍率であれば、合金層及び主層を明確に観察することが可能である。
また、主層中に、Mgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が存在するか否かについては、例えばグロー放電発光分析装置でめっき皮膜を貫通分析することにより確認することができる。ただし、グロー放電発光分析装置を用いるのはあくまでも一例であり、めっき主層中のMgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBの有無・分布を調べることができる方法であれば、他の方法を用いることも可能である。
【0040】
また、上述したCa、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上は、前記めっき主層中において、Zn、Al及びSiから選択される一種又は二種以上と金属間化合物を生成していることが好ましい。めっき皮膜を設ける過程において、α-Al相がZnリッチ相より先に凝固するため、めっき主層において金属間化合物は凝固過程でα-Al相から排出されてZnリッチ相に集まる。Znリッチ相はα-Al相より先に腐食するため、腐食生成物中にCa、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が取り込まれることになる。この結果、より効果的に腐食の初期段階における腐食生成物の安定化を図れる。また、前記金属間化合物がSiを含む場合には、金属間化合物がめっき皮膜中のSiを吸収して、めっき主層中の余剰Siが減少する結果、非固溶Si(Si相)がめっき主層に生成することによる曲げ加工性の低下を防止できるため、さらに好ましい。
【0041】
なお、前記Mgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が、Zn、Al及びSiから選択される一種又は二種以上と金属間化合物を生成しているか否かを確認する方法としては、次の方法がある。めっき鋼板の表面から広角X線回折によってこれらの金属間化合物を検出する方法、若しくは、めっき皮膜の断面を透過電子顕微鏡中で電子線回折によって検出するなどの方法等が用いられる。また、これら以外の方法でも、前記金属間化合物を検出できる方法であれば、いずれの方法を用いても構わない。
【0042】
なお、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のめっき皮膜の膜厚は、15μm以上27μm以下であることが好ましい。一般的に、前記めっき皮膜が薄いほど、耐食性が悪化する傾向にあり、厚いほど、加工性が劣化する傾向があるためである。
また、前記界面合金層の厚さは、1μm以下であることが好ましい。界面合金層の厚さを1μm以下とすることで、高い加工性が実現でき、より優れた加工部耐食性が得られるからである。例えば、前述したように、めっき皮膜中のSi含有量を0.6質量%超えとすることで、界面合金層の成長を抑制できるので、界面合金層の厚みを1μm以下とすることが可能になる。
ここで、前記めっき皮膜及び前記界面合金層の厚さを得る方法は、正確に把握できる方法であれば特に限定はされない。例えば、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の断面をSEMにより観察し、1視野ごとに3か所の厚さを測定し、3視野で測定した9か所の厚さの平均を算出することで把握することができる。
【0043】
さらに、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、その表面に、化成処理皮膜及び/又は塗膜をさらに備える表面処理鋼板とすることもできる。
【0044】
なお、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板に用いられる素地鋼板については特に限定されず、通常の溶融Al-Zn系めっき鋼板に用いられる鋼板と同様の鋼板のみならず高張力鋼板等についても用いることができる。
【0045】
(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法)
次に、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法は、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする。
かかる製造方法によって、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板を製造できる。
【0046】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法では、特に限定はされないが、連続式溶融めっき設備において製造を行う方法が通常採用される。
【0047】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板に用いられる下地鋼板の種類については、特に限定はされない。例えば、酸洗脱スケールした熱延鋼板若しくは鋼帯、又は、それらを冷間圧延して得られた冷延鋼板若しくは鋼帯を用いることができる。
また、前記前処理工程及び焼鈍工程の条件についても特に限定はされず、任意の方法を採用することができる。
【0048】
前記溶融めっきの条件については、前記下地鋼板にAl-Zn系めっき皮膜を形成できれば特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、前記下地鋼板を還元焼鈍した後、めっき浴温近傍まで冷却し、めっき浴に浸漬させ、その後、ワイピングを行うことによって所望の膜厚のめっき皮膜を得ることができる。
【0049】
前記溶融めっきのめっき浴は、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる。
また、前記めっき浴は、さらなる耐食性の向上を目的として、Caをさらに含むこともできる。
【0050】
さらに、前記めっき浴には、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01?10質量%含有することもできる。このような組成のめっき浴とすることにより、前記めっき皮膜を得ることが可能となる。
【0051】
なお、前記めっき浴の温度については、めっき浴が凝固せずに溶融Al-Zn-Mg-Siめっきを施すことができるものであれば特に限定はされず、公知のめっき浴温度を採用することができる。例えば、Al濃度が55質量%であるめっき浴の温度は、575?620℃が好ましく、580?605℃がより好ましい。
【0052】
また、上述したように、Al-Zn系めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該界面合金層の上に存在する主層からなる。該主層の組成は界面合金層側でAlとSiがやや低くなるものの、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。よって、めっき主層の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0053】
そして、本発明の製造方法は、前記溶融めっき後の鋼板について、前記第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却する。本発明者らの研究の結果、Mg_(2)Siについては、めっき浴の浴温?浴温-50℃程度(第1冷却温度)の温度域までに生成しやすいことがわかっており、該第1冷却温度までの冷却速度を平均10℃/sec未満とすることよって、めっき主層中でMg_(2)Siが生成する時間が長くなって生成量が最大化し、Mg_(2)Siがめっき主層全体に偏在することなく微細且つ均一に分散する結果、優れた加工部耐食性を得ることが可能となる。一方、第1冷却温度?380℃までの温度域では、単相Siが析出しやすいことがわかっており、第1冷却温度から380℃までを平均10℃/sec以上の冷却速度とすることで、単相Siの析出を抑制することが可能となる。
また、より確実に単相Siの析出を防ぐ点からは、第1冷却温度から380℃までの平均冷却速度を、20℃/sec以上とすることが好ましく、40℃/sec以上とすることがより好ましい。
【0054】
なお、本発明の製造方法において前記溶融めっき時及び溶融めっき後の冷却条件以外については、特に限定はされず、常法に従って溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板を製造することができる。
例えば、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板表面に、化成処理皮膜を設けること(化成処理工程)や、別途塗装設備において塗膜を設けること(塗膜形成工程)もできる。
【0055】
前記化成処理皮膜については、例えば、クロメート処理液又はクロムフリー化成処理液を塗布し、水洗することなく、鋼板温度として80?300℃となる乾燥処理を行うクロメート処理又はクロムフリー化成処理により設けることが可能である。これら化成処理皮膜は単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の化成処理を順次行えばよい。
また、前記塗膜の形成方法としては、ロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を設けることが可能である。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
常法で製造した板厚0.5mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、連続式溶融めっき設備において、サンプル1?57の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造を行った。
製造条件(めっき浴温、第1冷却温度、冷却速度)、さらに、めっき皮膜の条件(組成、Mg_(2)Siの長径、Mg_(2)Siの短径/長径、めっき皮膜の厚さ、上述した式(1)及び式(2)の左辺、主層中のMg_(2)Siの含有量、主層断面におけるMg_(2)Siの面積率、Mg_(2)SiのAlに対する強度比、界面合金層の膜厚)については、表1に示す。
なお、サンプルとなる全ての溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造では、めっき浴の浴温は590℃とした。
また、サンプル10については、めっき後に200℃で30分保持する処理を実施した。さらに、サンプル11?13、20及び21については、めっき皮膜の組成が特許文献2に開示された発明と同様の範囲であり、サンプル28、29及び32については、めっき皮膜の組成が特許文献3に開示された発明と同様の範囲であった。
【0057】
○Mg_(2)Siの短径及び長径
なお、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、光学顕微鏡(100倍)でめっき表面を撮影し、無作為に5個のMg_(2)Siを選択してそれぞれの長径及び短径を測定し、測定した全ての長径及び短径の平均を算出することで、Mg_(2)Siの長径及び短径を導出した。得られたMg_(2)Siの長径(μm)、及び、長径に対する短径の比を、表1に示す。
○デンドライト径
また、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、研磨しためっき主層表面を、SEMを用いて200倍で観察し、無作為に選択した視野の中で、デンドライトアームが3本以上整列している部分を選択し、アームが整列している方向に沿って距離を測定した後、測定した距離をデンドライトアームの本数で除すことによって、デンドライト径を算出する。デンドライト径は、1つの視野の中で、3箇所測定し、それぞれ得られたデンドライト径の平均を算出したものを平均デンドライト径とした。得られたデンドライト径を表1に示す。
【0058】
(めっき耐食性の評価)
(1)平板部及び端部耐食性評価
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図6に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの平板部及び端部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:赤錆発生サイクル数≧600サイクル
○:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<600サイクル
△:300サイクル≦赤錆発生サイクル数<400サイクル
×:赤錆発生サイクル数<300サイクル
(2)曲げ加工部耐食性評価
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げの外側に日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図6に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの加工部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:赤錆発生サイクル数≧600サイクル
○:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<600サイクル
△:300サイクル≦赤錆発生サイクル数<400サイクル
×:赤錆発生サイクル数<300サイクル
【0059】
【表1】

【0060】
表1から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、平板部、端部及び加工部のいずれの耐食性についても優れることがわかる。
【0061】
(実施例2)
実施例1において製造した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のうち、複数のサンプル(サンプル番号については表2を参照。)について、ウレタン樹脂系ベースの化成皮膜(日本パーカライジング(株)製 CT-E-364)を施した。なお、化成皮膜の付着量は1g/m^(2)である。
製造条件(めっき浴温、第1冷却温度、冷却速度)、さらに、めっき皮膜の条件(組成、Mg_(2)Siの長径、Mg_(2)Siの短径/長径、めっき皮膜の厚さ、上述した式(1)及び式(2)の左辺、主層中のMg_(2)Siの含有量、主層断面におけるMg_(2)Siの面積率、Mg_(2)SiのAlに対する強度比、界面合金層の膜厚)については、表2に示す。
【0062】
(化成耐食性の評価)
(1)平板部及び端部耐食性評価
化成皮膜を形成した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図6に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの平板部及び端部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:赤錆発生サイクル数≧700サイクル
○:500サイクル≦赤錆発生サイクル数<700サイクル
△:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<500サイクル
×:赤錆発生サイクル数<400サイクル
(2)曲げ加工部耐食性評価
化成皮膜を形成した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げの外側に、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図6に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの加工部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:赤錆発生サイクル数≧700サイクル
○:500サイクル≦赤錆発生サイクル数<700サイクル
△:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<500サイクル
×:赤錆発生サイクル数<400サイクル
【0063】
【表2】

【0064】
表2から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、平板部、端部及び加工部のいずれの耐食性についても優れることがわかる。
【0065】
(実施例3)
実施例2において製造した化成皮膜を施した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のサンプルについて、エポキシ樹脂系のプライマー(日本ファインコーティングス(株)社製 JT-25)を5μm、メラミン硬化ポリエステル系の上塗り(日本ファインコーティングス(株)社製 NT-GLT)を15μm、順次塗布し、乾燥させることで、塗装鋼板のサンプルを製造した。
製造条件(めっき浴温、第1冷却温度、冷却速度)、さらに、めっき皮膜の条件(組成、Mg_(2)Siの長径、Mg_(2)Siの短径/長径、めっき皮膜の厚さ、上述した式(1)及び式(2)の左辺、主層中のMg_(2)Siの含有量、主層断面におけるMg_(2)Siの面積率、Mg_(2)SiのAlに対する強度比、界面合金層の膜厚)については、については表3に示す。
【0066】
(塗装耐食性の評価)
(1)曲げ加工部耐食性評価
塗装鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げの外側に、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図6に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの加工部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:赤錆発生サイクル数≧600サイクル
○:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<600サイクル
△:300サイクル≦赤錆発生サイクル数<400サイクル
×:赤錆発生サイクル数<300サイクル
【0067】
【表3】

【0068】
表3から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、加工部の耐食性について優れることがわかる。
【0069】
(実施例4)
実施例1において製造した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のうち、複数のサンプル(サンプル番号については表4を参照。)について、それぞれ90mm×70mmのサイズに剪断後、自動車外板用塗装処理と同様に、化成処理としてリン酸亜鉛処理を行った後、電着塗装、中塗り、及び上塗り塗装を施した。
リン酸亜鉛処理:日本パーカライジング社製の脱脂剤であるFC-E2001、日本パーカライジング社製の表面調整剤であるPL-X、及び、日本パーカライジング社製のリン酸亜鉛処理剤であるPB-AX35M(温度:35℃)を用いて、リン酸亜鉛処理液のフリーフッ素濃度を200ppm、リン酸亜鉛処理液の浸漬時間を120秒の条件で行った。
電着塗装:関西ペイント社製の電着塗料であるGT-100を用いて、膜厚が15μmとなるように電着塗装を施した。
中塗り塗装:関西ペイント社製の中塗り塗料であるTP-65-Pを用いて、膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装を施した。
上塗り塗装:関西ペイント社製の中塗り塗料であるNeo6000を用いて、膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装を施した。
製造条件(めっき浴温、第1冷却温度、冷却速度)、さらに、めっき皮膜の条件(組成、Mg_(2)Siの長径、Mg_(2)Siの短径/長径、めっき皮膜の厚さ、上述した式(1)及び式(2)の左辺、主層中のMg_(2)Siの含有量、主層断面におけるMg_(2)Siの面積率、Mg_(2)SiのAlに対する強度比、界面合金層の膜厚)については、については表4に示す。
【0070】
(塗装耐食性の評価)
塗装処理を施した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、図7に示すとおり、評価面の端部5mm、及び非評価面(背面)を、テープでシール処理を行った後、評価面の中央にカッターナイフでめっき鋼板の地鉄に到達する深さまで、長さ60mm、中心角90°のクロスカット傷を加えたものを塗装後耐食性の評価用サンプルとした。
上記評価用サンプルを用いて図8に示すサイクルで腐食促進試験(SAE J 2334)を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、30サイクル後まで行った後、傷部からの塗膜膨れが最大である部分の塗膜膨れ幅(最大塗膜膨れ幅)を測定し、塗装後耐食性を下記の基準で評価した。評価結果を表4に示す。
◎:最大塗膜膨れ幅≦2.5mm
○:2.5mm<最大塗膜膨れ幅≦3.0mm
×:3.0mm<最大塗膜膨れ幅
【0071】
【表4】

【0072】
表4より、Mgの含有量が5質量%越えのサンプルでは、5質量%以下のサンプルとは異なって、最大塗膜膨れ幅が2.5mm以下抑えられており、塗装後耐食性に優れた溶融Al-Zn系めっき鋼板が得られたことがわかる。
そのため、本発明例のサンプルの中において、めっき層中のMg含有量をそれぞれ適切な範囲に制御することで、優れた塗装後耐食性を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、前記主層におけるMg_(2)Siの含有量が1.0質量%以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【請求項2】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、膜厚が27μm以下であり、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び0.1超え?25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のMg及びSiの含有量が、以下の式(1)を満足し、
前記主層がMg_(2)Siを含有し、X線回折によるMg_(2)Siの(111)面(面間隔d=0.367nm)のAlの(200)面(面間隔d=0.202nm)に対する強度比が、0.01以上であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
M_(Mg)/(M_(Si)-0.6)>1.7 ・・・(1)
M_(Mg):Mgの含有量(質量%)、M_(Si):Siの含有量(質量%)
【請求項3】
前記界面合金層の厚さが、1μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項4】
前記主層がα-Al相のデンドライト部分を有し、該デンドライト部分の平均デンドライト径と、前記めっき皮膜の厚さとが、以下の式(2)を満足することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
t/d≧1.5 ・・・(2)
t:めっき皮膜の厚さ(μm)、d:平均デンドライト径(隣接するデンドライトアーム間の中心距離)(μm)
【請求項5】
前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、2.3超え?5質量%のSi及び3?10質量%のMgを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項6】
前記めっき皮膜が、25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び5超え?10質量%のMgを含有することを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項7】
25?80質量%のAl、0.6超え?15質量%のSi及び3?10質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施した後、めっき後の鋼板を、前記めっき浴の浴温?浴温-50℃である第1冷却温度までは10℃/sec未満の平均冷却速度で冷却し、該第1冷却温度から380℃までは10℃/sec以上の平均冷却速度で冷却することを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-20 
出願番号 特願2016-540699(P2016-540699)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C23C)
P 1 651・ 536- YAA (C23C)
P 1 651・ 537- YAA (C23C)
P 1 651・ 121- YAA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮本 靖史  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 宮本 純
金 公彦
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6059408号(P6059408)
権利者 JFEスチール株式会社 JFE鋼板株式会社
発明の名称 溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板とその製造方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 齋藤 恭一  

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