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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01S
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01S
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01S
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01S
管理番号 1340109
異議申立番号 異議2017-700329  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-04 
確定日 2018-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6002453号発明「希土類添加ダブルクラッドファイバ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6002453号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3]について訂正することを認める。 特許第6002453号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6002453号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成24年6月6日の出願であって、平成28年9月9日にその特許権の設定登録がされ、同年10月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年4月4日に特許異議申立人一條淳により特許異議の申立てがされたものである。
以後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 6月 7日:一回目の取消理由通知(6月12日発送)
同年 7月28日:訂正請求書・意見書
同年 8月14日:通知書(8月16日発送)
同年 9月14日:意見書(特許異議申立人)
同年10月 4日:二回目の取消理由通知(10月10日発送)
同年12月 5日:訂正請求書・意見書
同年12月25日:通知書(平成30年1月4日発送)
平成30年 2月 2日:意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
平成29年12月5日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第6002453号の明細書及び特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(なお、下線は、当審で付した。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「上記一部領域は、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上2.1倍以下である」と記載されているのを、

「上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許明細書の段落[0014]に記載された「上記一部領域は、上記コア中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.11倍以上2.1倍以下である。」を、

「上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コア中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許明細書の段落[0016]に記載された「Yb添加領域がコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード(基本モード)径の0.55倍よりも小さいと、Yb吸収係数を高めるためにYb添加濃度を高くする必要があり、Ybイオンのクラスタ化によってフォトダークニング耐性が低下する傾向になり、2.1よりも大きいと、低励起状態で高次モードの反転分布が低く、過飽和吸収体になるために自己パルスが起こる。しかし、本発明では、0.55倍以上2.1倍以下であるので、フォトダークニング耐性が高く、且つ、自己パルスが起こらないファイバが得られる。」を、

「Yb添加領域がコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード(基本モード)径の0.55倍よりも小さいと、Yb吸収係数を高めるためにYb添加濃度を高くする必要があり、Ybイオンのクラスタ化によってフォトダークニング耐性が低下する傾向になり、1.8よりも大きいと、低励起状態で高次モードの反転分布が低く、過飽和吸収体になるために自己パルスが起こる。しかし、本発明では、0.55倍以上1.8倍以下であるので、フォトダークニング耐性が高く、且つ、自己パルスが起こらないファイバが得られる。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許明細書の段落[0021]に記載された「このYb添加領域をコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード径の0.55倍以上2.1倍以下としたことにより、希土類添加ダブルクラッドファイバを高い変換効率及び高い信頼性を持つものとすることができる。」を、

「このYb添加領域をコアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、コア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下としたことにより、希土類添加ダブルクラッドファイバを高い変換効率及び高い信頼性を持つものとすることができる。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許明細書の段落[0025]に記載された「Yb添加領域は、コア2の中心から第1クラッド3に向かって、コア2のLP01モード(基本モード)径の0.55倍以上2.1倍以下である。」を、

「Yb添加領域は、コア2の中心から第1クラッド3に向かって、コア2のLP01モード(基本モード)径の0.55倍以上1.8倍以下である。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
ア 訂正事項1
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「一部領域」について、「コアの直径の40%以上70%以下」との限定を付すとともに、「2.1倍以下」を「1.8倍以下」に訂正するものである。

(イ)願書に添付した明細書及び図面には、以下の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、第1の発明では、
Ybが添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドと、
上記第1クラッドを囲む第2クラッドとを有する希土類添加ダブルクラッドファイバを対象とし、
上記希土類添加ダブルクラッドファイバでは、
上記コアの開口数は、0.06以上0.15以下であり、
上記コアの直径は、20μm以上100μm以下であり、
上記Ybは、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって一部領域でのみ添加され、
上記一部領域は、上記コア中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.11倍以上2.1倍以下である。
【0015】
ここで、コアの開口数NAが0.06よりも小さくなると光の閉じ込めが弱く光変換効率が低下するためにコアNAを0.06以上に上げる必要があり、0.15よりも大きくなると、ビーム品質が低下する。しかし、NAを0.06以上0.15以下にすることで、閉じ込めが強く且つ高いビーム品質の実現が可能である。
【0016】
…Yb添加領域がコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード(基本モード)径の0.55倍よりも小さいと、Yb吸収係数を高めるためにYb添加濃度を高くする必要があり、Ybイオンのクラスタ化によってフォトダークニング耐性が低下する傾向になり、2.1よりも大きいと、低励起状態で高次モードの反転分布が低く、過飽和吸収体になるために自己パルスが起こる。しかし、本発明では、0.55倍以上2.1倍以下であるので、フォトダークニング耐性が高く、且つ、自己パルスが起こらないファイバが得られる。このように、希土類元素であるYbをコア中心の一部領域のみに添加することにより、低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生が抑制される。」

「【発明の効果】
【0021】
……このYb添加領域をコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP
01モード径の0.55倍以上2.1倍以下としたことにより、希土類添加ダブルクラッドファイバを高い変換効率及び高い信頼性を持つものとすることができる。」

「【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
……
【0025】
……Yb添加領域は、コア2の中心から第1クラッド3に向かって、コア2のLP01モード(基本モード)径の0.55倍以上2.1倍以下である。
【0026】
……
【0043】
コア径D0及びYb添加径を変化させ、出射ビームの形状変化をシミュレーションした。図11によると、コアNAが0.06以上0.15以下、コア径D0が20μm以上100μm以下の範囲において、Yb添加領域がコアの70%以下ではLP01などの低モード出射ビームの強度がコア周辺の高次モードの出射ビーム強度よりも高いことが判った。この結果より、Yb添加領域はコア径D0の70%まで自己パルスが抑制可能であると判断される。
【0044】
図12によると、LP01(基本モード)モードフィルド径(非特許文献5)は、コアNA及びコア径D0に大きく依存し、コア径D0が大きいほどLP01のモードフィルド径MFDも大きくなることが判った。……中心添加40%に対するLP01モードフィルド径の比率は0.68、中心添加80%に対するLP01モードフィルド径の比率は1.4であり、Yb添加径をLP01モード径の関数で表現可能となる。」

「【実施例】
【0049】
(実施例)
実施例では、希土類元素としてYbを採用したYb添加光ファイバをMCVD装置により作製した。希土類元素供給源にYb(DPM)3を用いた。石英管としては、無水石英を採用した。
【0050】
……
【0064】
……Yb添加をコア直径の40%以上70%以下の範囲で行うことが好ましい。Yb中心添加が40%以下になるとYb濃度を上げなければいけないのでYbクラスタリングが増え、フォトダークニング耐性の悪化や変換効率が悪化する恐れがある。また、70%以上になると高次モード効果が顕著に現れ、自己パルスが発生し、ファイバが破壊される。」

「図12



a 上記【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】の欄の記載からして、
希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、希土類元素であるYbをコア中心の一部領域のみに添加することにより、低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生が抑制されることが理解できる。

b 【発明を実施するための形態】の欄の記載からして、
Yb添加径をLP01モード径の関数で表現可能であることが理解できる。

c 【実施例】の欄の記載からして、
Yb添加をコア直径の40%以上70%以下の範囲で行うことが理解できる。

d 【課題を解決するための手段】、【発明の効果】及び【実施例】の欄の記載を踏まえて、図12を見ると、
LP01モード径は、開口係数とコア径に依存し、「中心70%ドープ径/LP01の倍率」を、(2.1×0.7/0.8)等として計算すると、その最大値が「1.8」であることが理解できる。

e 上記aないしdより、
「Yb添加領域を、コア中心から第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.11倍以上1.8倍以下」とするには、「Yb添加領域を、コア直径の40%以上70%以下」とすればよいものと解される。

f 以上のことから、本件特許明細書には、
「Ybが添加されたコアと、コアを囲む第1クラッドと、第1クラッドを囲む第2クラッドを有し、コアNAが0.06以上0.15以下、コア径D0が20μm以上100μm以下の範囲である希土類添加ダブルクラッドファイバ」において、
Yb添加領域を、コア中心から第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.11倍以上1.8倍以下、具体的には、Yb添加領域を、コア直径の40%以上70%以下とすることにより、
「低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生が抑制される希土類添加ダブルクラッドファイバ」が記載されているものと認められる。

g そうすると、訂正前の「一部領域」について、「コアの直径の40%以上70%以下」との限定を付すとともに、「2.1倍以下」を「1.8倍以下」に訂正することは、技術的に整合していなかった記載を技術的に整合するように正すものであるから、上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものと認められ、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2ないし訂正事項5
訂正事項2ないし訂正事項5は、訂正事項1により特許請求の範囲を訂正したことに伴い、特許請求の範囲と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 一群の請求項
(ア)訂正前の請求項2及び請求項3は、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前において「一群の請求項」に該当するものであるから、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(イ)訂正事項2ないし訂正事項5は、訂正事項1に伴って本件特許明細書に記載されている請求項1に対応する部分について訂正するものであって、訂正後の請求項2及び訂正後の請求項2の記載を引用する請求項3を含めた一群の請求項2及び請求項3の全てに関係することから、訂正事項2ないし訂正事項5は、特許法第126条第4項の規定に適合する。

(2)訂正の適否のまとめ
訂正事項1ないし訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号、同条第4項及び同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合することから、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正は、上記「第1 訂正の適否」で検討したように認められるものであるから、本件訂正により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
Ybが添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドと、
上記第1クラッドを囲む第2クラッドとを有する希土類添加ダブルクラッドファイバであって、
上記コアの開口数は、0.06以上0.15以下であり、
上記コアの直径は、20μm以上100μm以下であり、
上記Ybは、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって一部領域でのみ添加され、
上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である
ことを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載されている希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、
上記第2クラッドの外径は、上記コア径の10倍以上40倍以下である
ことを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されている希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、
915nm波長帯域の上記コアの吸収係数は、50dB/m以上300dB/m以下であることを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。」

2 二回目の取消理由通知における取消理由
(1)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1ないし3に係る発明の特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

「本件発明1ないし本件発明3は、当業者が甲1発明、甲第1号証に記載された事項、甲第2号証に記載された技術事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特許第3990034号公報
甲第2号証:米国特許第7576909号明細書

本件発明2及び本件発明3について、周知技術であることを示すために提示した文献
甲第3号証:特開2005-84386号公報
甲第4号証:特開2002-151764号公報
甲第5号証:特開2010-163329号公報 」

(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、図とともに、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
回折限界に近いモードを持つ入力ビ-ムを発生させるレーザー源と、
多重モード・ファイバー増幅器と、
該入力ビームを受け、該多重モード・ファイバー増幅器の基本モードに整合するように該入力ビームのモードを変換し、該多重モードファイバー増幅器に入力するモード変換された入力ビームを作り出すモード変換器と、
該多重モード・ファイバー増幅器に結合され、該多重モード・ファイバー増幅器を光学的にポンピングして本質的に基本モードでの増幅されたビームを生成するポンプ源と、
を有することを特徴とする光学増幅装置。
【請求項2】
……
【請求項5】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、ファイバー・コアをもち、ドーパントが全ファイバー・コア領域より小さい中心部の断面に局在している、
請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項6】
……
【請求項10】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、希土類イオンをドープされている、
請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項11】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、Er,Er/Yb,Yb,Nd,Tm,PrまたはHoのイオンのうち少なくとも一つによってドープされている、
請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項12】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、二重クラッディング構造を持つ、請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項13】
……
【請求項27】
前記多重モード・ファイバー増幅器内の伝播モード数は、3ないし3000である、請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項28】
……
【請求項31】
前記多重モード・ファイバーは、ステップ状に変化する屈折率プロファイルを持つ、
請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項32】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、MCVD、OVD、VADおよびPCVDの製法技術のうち一つによって作られている、
請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項46】
前記多重モード・ファイバー増幅器のM^(2)値は、10より小さい、請求項1記載の光学増幅装置。
【請求項47】
……
【請求項49】
前記多重モード・ファイバー増幅器は、125μmより大きい外径のクラッディングをもつ、請求項1記載の光学増幅装置。」

(イ)「【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、好ましくない非線形性と利得飽和とが始まる前に、光ファイバー増幅器にエネルギーを蓄積する能力を大きくし、単一モード(SM)ファイバーで達成できるより大きいピーク強度およびパルスエネルギーを発生させることである。
【0020】
本発明の他の目的は、増幅された自然発光(ASE)を減少させるときに、多重モード(MM)ファイバーの中で基本モードの増幅をすることである。
本発明の更なる目的は、基本モードの安定性を改善するためMMファイバーに利得ガイドを用いることである。
それに加えて、本発明の目的は、回折限界に近い出力を保持しながら、ピーク強度が大きいパルスを数ピコ秒からフェムト秒の範囲に圧縮することである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明では光学増幅装置に多重モード光ファイバーを用いる。本発明に従えば、MM光ファイバー、すなわち約2.5より大きいV値を持ったファイバーは基本モードの出力を出すことが出来る。このことにより、好ましからざる非線形性と利得飽和を修正する前に、SMファイバーより大きいピーク強度とパルス・エネルギーを発生することが出来る。ファイバーの断面積を増すことは、光ファイバー増幅器におけるエネルギー蓄積能力を非常に大きくすることと等しい。本発明の増幅システムは超高速で高強度のパルスの発生源が必要な場合に役に立つものである。
【0022】
本発明の一つの視点に立てば、利得媒質はMMファイバーの中心にあるから、基本モードが選択的に増幅され、自然発光が減少する。さらに利得を制限することにより、利得ガイドによって大きな断面積を持つファイバー中の基本モードを安定にする。
本発明の一つの実施例によれば、自己位相変調と、(希土類を)ドープした、またはドープしないMMファイバーにおける非線形性とを利用することにより、近似的な回折制限出力を保存しつつ、大きいピーク強度のパルスを数ヘムト秒の範囲まで圧縮することが出来る。
【0023】
本発明の他の実施例によれば、縮小されたモード結合を持ったMM光ファイバーにチャープ・ファイバー格子を書き込むことにより、高強度光パルスの線形パルス圧縮に対する強度限界は著しく大きくなる。さらに二重クラッドMMファイバー増幅器を利用することにより、比較的大面積の高出力半導体レーザーでポンピングすることが可能になる。
【0024】
本発明の更なる他の実施例によれば、完全なモードフィルターを組み込むことにより、(希土類を)ドープしたMM光ファイバーから得られる、回折限界に近い単一モードの中の連続波を消すことが出来る。
本発明の更なる他の実施例によれば、MM光ファイバーはファイバー光再生増幅器と高出力のQスイッチレーザーを構成することができる。さらに、MM光ファイバーを用いて、比較的弱い吸収断面積を持つドーパントを使ったクラッド-ポンプファイバー・レーザーを設計することができる。」

(ウ)「【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の光学増幅装置の実施の形態については、当業者に実施可能な理解が得られるよう、以下の実施例で明確かつ十分に説明する。
[実施例1]
図1に、本発明の実施例1としての光学増幅装置の構成を示す。図1に示される例では、エルビュウム・ファイバー発振器のようなフェムト秒単一モード(SM)ファイバー発振器10は、エルビウム/イッテルビウム・ファイバー増幅器のような多重モード(MM)ファイバー増幅器12に結合されている。これに適合するMMファイバー増幅器の他の例には、Er,Yb,Nd,Tm,PrまたはHoイオンをドープされたものが含まれる。このシステムに利用するのに適合する発振器は、上に述べたFermannらの米国特許出願第08/789,995号に記載されている。
【0027】
二つのレンズを持つ望遠鏡14(L1,L2)は、発振器10のモードをMM増幅器12の基本モードに合わせるために使われる。更に、ポンプされたMMファイバー12の出力は、レンズL3,L4を使って、第二のSMファイバー(図1におけるモード・フィルター(MF)ファイバー16)に移される。レンズL3,L5およびビーム分離器18は、以下に述べるように、ポンプ源20から発生するポンプ光を増幅器ファイバーに結合するために使われる。
【0028】
図1にしたがったシステムの配置の例では、その発振器10は出力レベル14mW、波長1.56μm繰り返し周波数100MHzで、300フェムト秒の近似的にバンド幅が限定されたパルスを射出する。
増幅ファイバー12は、例えば、コア直径約28μm、コアの開口数NA=0.19の二重クラッドMMエルビウム/イッテルビウム増幅器であり得る。この例での内側クラッドは直径約220μmで開口数NA=0.24である。そのコアは内部クラッドの中心に位置する。増幅器の長さは1.10mである。
【0029】
……
【0031】
【数1】
V=(2πa/λ)NA, モード数N=(1/2)V^(2)
ここで、aはコア直径であり、λは信号の波長である。また、1.55μmにおけるV値はV≒10.8であり、かくして上の例では、モード数は約58と計算される。典型的には、V値が2.41を超えるとき、すなわち基本モードに付加するモードが光ファイバー中を伝播できるとき、ファイバーはMMであると考えられる。
【0032】

【0034】
【数3】
η(z)=θ_(0)^(2)/(4Dz+θ_(0)^(2))
ここで、DはGlogeによって定義されたモード結合係数である。かくしてη(z)を測定すれば、モード結合係数Dが求まる。同様にηを測定すれば、上記数2からMMファイバーの励起モードの近似的な数が求まる。回折限界に近い光ビームの質を特徴づけるために使われるM^(2 )値に対して、Nを関係づけることが役に立つ。すなわち、N≒√M^(2) であることが示される。
【0035】
本発明にしたがえば、MMファイバー増幅器12の出力である増幅されたビームが本質的に基本モードであるような、低レベルのモード結合が好ましい。したがって、10以下のM^(2)値が好ましく、4以下であればさらに好ましく、2以下であればもっと好ましい。更に、モード数は3?3000の範囲にあることが好ましく、3?1000の範囲にあればなお好ましい。」
【0036】
モード結合は、上記エルビウム/イッテルビウム・ファイバー(表1中のファイバー1)と三つの市販MMファイバー(表1中のファイバー2,3,4)に対して、1.1mのドープされていない増幅ファイバーで測定された。これらのファイバーのファイバー・パラメーターとモード結合係数D(m-1の単位)は、次の表1に示されている。表1中のファイバー1,3,4は、MCVD法で作られたものである。一方、表1中のファイバー2は、ロッド・イン・チューブ法で作られたものである。
【0037】
【表1】

【0038】
……
【0039】
一般的に、高レベルのモード結合は、大きな散乱損失を持つファイバーから得られると期待される。このことから、小さい散乱損失を持つファイバー中の長い波長においては、モード結合係数は小さいことが予測される。表1から解るように、ファイバー1の波長が大きくなると、モード結合は著しく減少する。モード結合の受容できるレベルは、ファイバー1においては、790nm程度に短い波長で達成される。光ファイバーのモード数はa/λにのみに依存するので、56μmほどの大きさのコア直径を持ったファイバーと同様なファイバーによって、1m長さにおけるモード結合を実現できる。より長い波長における散乱を減少させるために、より長い波長ではより大きなコア直径がよい。例えば、Tavernerらによれば、コア直径60μmのMMファイバーはSM増幅器よりも16倍にパルスピーク強度を増幅することができる。表1から解るように、また次に説明することにより、モード結合の許容できるレベルは特別に設計された50μmのコア直径を持つファイバーで得られる。
【0040】
さらに、勾配指数(グレーデッド・インデックス)MMファイバー中の伝播定数はよく似ており、モード結合への感度が著しく増加するので、モード結合を最小にするためには、段階指数(ステップ・インデックス)MMファイバーの方が勾配指数を持つMMファイバーより実用的である。モード結合を最小にするためには、ファイバー・モード間の伝播定数の差を最大にすることが好ましい。
【0041】
上記表1中のファイバー2は、ロッド・イン・チューブ法で製作されたものであって、本質的に散乱損失が大きく、MCVD成長法による上記表1中のファイバー1,3,4に比べて、より大きなモード結合係数を持っている。また、ファイバー2で測定されたモード結合係数は、GamblingらやGriebnerらによって得られた結果と同じである。彼らはロッド・イン・チューブ法で作られた段階指数をもつ固体コアファイバーを用いている。その結果、直接成長技術、例えばMCVD、OVD、PCVDまたはVADなどのファイバー製作技術によるMMファイバーを用いた場合は、モード結合の縮小が期待できる。
【0042】
上記表1に示すように、1.55μmにおいてファイバー4で得られたモード結合係数は、ファイバー3のそれの1/11である。この差は、ファイバー3の外径が125μmであるのに対し、ファイバー4の外径が250μmであることで説明がつく。表1で明らかなように、一般に厚いファイバーは硬く、モード結合を誘発する曲りや微少曲りに対して強い。
【0043】
発明者が行った実験では、最も小さいモード結合係数は縦方向に延ばされた光ファイバーによって得られる。例えば、ファイバー2,3のモード散乱係数は、ファイバーを引っ張り真直に保持して測定された。短い長さのファイバーに張力を加えることは、もっとも良い質のモードを得るのに利用できる。
モード結合は、再び図1に示すように、増幅ファイバー(ファイバー1)がポンプされるような配置で測定した。増幅器は980nmの波長で、ブロード・ストライプの半導体レーザー(活性領域:1×500μm)から出射する3W以上の信号に対して反対方向にポンプされた。ここでは、MM増幅ファイバーの内部コアへのパワー結合を最大にするために脱磁をした。見かけのフィードバックを除くために、増幅器を約8°傾けて固定した。
1.55μmで、100mW以上の信号出力を増幅システムから取り出した。」

(エ)図1は、以下のものである。


(オ)上記記載からして、甲第1号証には、表1中の「ファイバー4」に関する次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ポンプ源を有する、基本モードの増幅をする光学増幅装置に用いられる、M^(2)値が10より小さい、多重モード・ファイバー増幅器であって、
コアに希土類イオンがドープされ、前記コアの開口係数が0.13、コア直径が50μm、クラッディング直径が250μmであり、
レンズ及びビームスプリッタを介して、ポンプ源から発生するポンプ光が結合される、多重モード・ファイバー増幅器。」

イ 甲第2号証には、以下の記載がある。
(ア)「1. An optical amplifier, comprising:
a single mode light source; and
a multimode fiber amplifier having a dopant concentration area within a core thereof which is smaller than a diameter of said core, such that said amplifier preferentially propagates single mode light. 」(第11欄)
(翻訳
光増幅器であって、
単一モード光源と、
多モードファイバー増幅器であって、そのコア内に、前記コアの直径よりも小さいドーパント濃度領域を有し、それにより単一モード光を優先的に伝搬する、多モードファイバー増幅器とを備える光増幅器。)

(イ)「The miniature laser is coupled to a doped fiber gain medium. In the invention this medium is a Yb:fiber.
In order to reach higher peak powers, the invention utilizes a multi-mode fiber to propagate single mode pulses as described in U.S. Pat. No. 5,818,630. As described above a mode converter is used to convert the single mode input to excite the fundamental mode of the multimode fiber. The mode converter 102 used in this case is a combination of lenses which mode-matches the output of the microchip laser to the beam diameter for single mode excitation of the multimode fiber. In addition to the lenses for mode-conversion, gain guiding in the Yb:fiber can be used to relax the tolerances on mode matching. Without gain in the Yb fiber, robust fundamental-mode excitation becomes increasingly difficult to achieve for the increasing core size of a fiber amplifier. We found experimentally that it is particularly advantageous to employ specially designed fibers in which Yb-doping in the center of the core has a significantly smaller diameter than the core itself. In this case, the fundamental mode light experiences significantly higher gain than multimode light. In our experimental configuration, we used 50μm diameter core with 25μm diameter doped region in the center, which exhibited a significantly more robust performance compared to 25μm homogeneously doped core. Besides relaxing the alignment tolerances, the beam parameters of the source are also relaxed. As the microchip laser may not have a perfect diffraction limited beam output, gain guiding can be used to correct for this. Also, gain guiding can correct the distortion expected from DiGiovanni pump couplers.(第9欄ないし第10欄)
(翻訳
小型レーザは、ドープファイバ増幅媒体に結合される。本発明において、この媒体はYb:ファイバである。
より高いピーク出力を達するために、本発明は、米国特許第5818630号に説明されるようにマルチモードファイバを使用して、シングルモードパルスを伝播させる。上述したように、モード変換器を使用して単一モード入力を変換して、マルチモードファイバの基本モードを励起する。この場合に使用されるモード変換器102は、マルチモードファイバのシングルモード励起のためのビーム径にマイクロチップレーザの出力をモード整合するレンズの組合せである。モード変換用のレンズに加えて、Yb:ファイバのゲインガイドを使用して、モードマッチングの許容度を緩和することができる。Ybファィバが利得を持たないと、ファイバ増幅器のコアサイズが大きくなるので、堅牢な基本モードを励起を達成することがますます困難になる。コアの中心部のYbドーピングがコア自体よりも著しく小さい直径を有する特別に設計されたファイバを用いることが特に要理であることが実験的に分かった。この場合、基本モードは、マルチモード光よりも著しく高い利得を受ける。我々の実験では、中央に25μmの直径のドープ領域を有する50μmの直径のコアを使用した。これは25μmの均一にドープされたコアと比較して著しく強固な性能を示した。……。)

(ウ)上記記載からして、甲第2号証には、以下の技術事項(以下「甲第2号証に記載された技術事項」という。)が記載されているものとみとめられる。

「光増幅器に用いられる、多モードファイバー増幅器において、
直径50μmのコアの中心部に、直径25μmのYbドープ領域を設けることで、基本モードがマルチモード光よりも著しく高い利得を受けること。」

3 当審の判断
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「多重モード・ファイバー増幅器」は、「コア直径が50μm」の「コアに希土類イオンがドープされ」たものであることから、
本件訂正発明1と甲1発明とは、
「希土類が添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドを有する希土類添加ファイバ」である点で一致する。

(イ)甲1発明の「多重モード・ファイバー増幅器」は、甲第1号証の記載によれば(【0021】)、「基本モードを出力する」ものであるから、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「希土類は、コアに添加され、
上記添加領域は、コアの直径の所定割合であって、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の所定倍である」点で一致する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「希土類が添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドを有する希土類添加ファイバであって、
上記コアの開口数は、0.06以上0.15以下であり、
上記コアの直径は、20μm以上100μm以下であり、
上記希土類は、上記コアに添加され、
上記添加領域は、コアの直径の所定割合であって、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の所定倍である、
希土類添加ファイバ。」

(エ)一方、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
希土類添加ファイバに関して、
本件訂正発明1は、「第1クラッドを囲む第2クラッドを有する」「希土類添加ダブルクラッドファイバ」であるのに対して、
甲1発明は、第2クラッドを有するか否か不明である点。

<相違点2>
添加領域に関して、
本件訂正発明1は、希土類が「Yb」であり、
「Ybは、コアの中心から第1クラッドに向かって一部領域でのみ添加され、上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である」のに対して、
甲1発明は、希土類イオンがYbであるか否か不明であり、かつ、添加領域がコアの一部であるか否か不明である点。

イ 判断
(ア)まず、上記<相違点2>について検討する。
a 甲1発明の「多重モード・ファイバー増幅器」に係る「ファイバー4」は、甲第1号証の【0036】ないし【0043】等の記載によれば、実施例の「ファイバー1」との特性を比較するための「市販MMファイバー」、すなわち、「市販品」であって、いわゆる、比較例に相当するものであると認められる。

b してみると、甲第2号証に「甲第2号証に記載された技術事項」が記載されているとしても、あえて、その「市販品(比較例)」に基づいて、希土類イオンをコアの中心部のみにドープした「多重モード・ファイバー増幅器」を作製する動機があるとはいえない。

c よって、上記<相違点1>について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者が甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

d また、本件発明2及び本件発明3について、周知技術であることを示すために提示した文献である甲第3号証ないし甲第5号証の記載を見ても、甲1発明の「多重モード・ファイバー増幅器」において、希土類イオンとして「Yb」を選択し、コアの中心部のみにドープする動機があるとはいえない。

(2)本件訂正発明2ない本件訂正発明3について
本件訂正発明2ないし本件訂正発明3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、本件訂正発明2ないし本件訂正発明3は、当業者が甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人一條淳は、平成30年2月2日に提出した意見書において、以下のように主張することから、この点について検討する。

新規事項の追加
Ybが添加される領域を、「コアの直径の40%以上70%以下」、かつ「LP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下」とすることは、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲であるとはいえない(第3頁上段)。

しかしながら、前記「第2 2(1)ア(ア)」で検討したとおり、訂正前の「2.1倍」は「中心80%ドープ径/LP01の倍率」に対応する数値であって、「中心70%ドープ径/LP01の倍率」に対応する数値は「1.8倍」であると解される。
そして、図12の記載に基づいて、「Yb添加領域をコア直径の40%以上70%以下」、かつ「LP01モード径の0.11倍以上1.8倍以下」と訂正しても、新たな技術的意義が導入されるものでもない。

進歩性欠如
ファイバー4の開口数NAの値を0.13に維持して、コアにYbを加えて、…当業者が容易に想到できたことである(第3頁下段ないし第4頁上段)。

しかしながら、甲第1号証の表1の「ファイバー3」又は「ファイバー4」は、いわゆる、比較例であり、あえて、「ファイバー3」又は「ファイバー4」に着目する動機がない。
また、上記表1には、「ファイバー2」ないし「ファイバー4」に関しては、「1.55μmでのモード数」しか記載されていないことから、増幅する波長帯は「1.55μm」であると解され、開口数を維持したまま、さらに、Ybを添加する動機付けもない。

ウ サポート要件違反
明細書に記載されている比較例1又は比較例2は、唯一の実施例である「63%中心ドープ」と作用効果が比較できないので、本件訂正発明1の作用効果は明細書にサポートされているとはいえない。

しかしながら、図18ないし図23を比較すれば、比較例のファイバ(長さ9.6M、ファイバ総吸収9.4dB)では自己パルスが観察されるのに対して、実施例のファイバ(長さ15M、ファイバ総吸収12.6dB)では、自己パルスの観察されないことが理解できる。
つまり、本件訂正発明1の作用効果を確認することができないとまではいえない。

明確性要件違反
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3において、「LP01モード径」が、どの定義により算出されるのか不明であるから、「LP01モード径」の値により特定されるYbの添加領域は明確でない(第11頁下段ないし第12頁上段)。

しかしながら、本件特許明細書の【0016】に「LP01モード(基本モード)」、【0035】に「基本モードであるLP01、高次モードであるLP11、LP21、LP02、LP31になる。」及び【0044】に「LP01(基本モード)モードフィルド径(非特許文献5)」等と記載されていることからして、
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3における「LP01モード径」とは、当該技術分野においてよく知られる「基本モード」の径であって、その大きさは、非特許文献5に示されている式によっても求めることができるものと解される。
そして、本件訂正発明1ないし本件訂正発明3におけYb添加領域は、「LP01モード径」の値だけではなく、「コア直径の40%以上70%以下」であると特定されるようになったことから、Ybの添加領域は明確でないとはいえない。

オ 委任省令違反
明細書には、「LP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下」、かつ「コア直径の40%以上70%以下」とする技術的意義が理解できる程度に記載されていない(第13頁下段)。

しかしながら、図12を見れば、
Yb添加領域を、「LP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下」とすることは、具体的には「コア直径の40%以上70%以下」とすることであると解される。
そして、本件特許明細書の【0016】には、「…このように、希土類元素であるYbをコア中心の一部領域のみに添加することにより、低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生が抑制される。」と記載され、その技術的意義についても言及されている。

(4)二回目の取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、「サポート要件違反」、「明確性要件違反」及び「委任省令違反」である。

しかしながら、本件訂正発明1ないし本件訂正発明3が、「サポート要件違反」、「明確性要件違反」及び「委任省令違反」に該当しないことは、上記「(3)特許異議申立人の意見について」で指摘したとおりである。

4 まとめ
本件訂正発明1ないし本件訂正発明3の特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1ないし本件訂正発明3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1ないし本件訂正発明3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
希土類添加ダブルクラッドファイバ
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加ダブルクラッドファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Er(エルビウム)、Yb(イッテルビウム)などの希土類元素をドープ(添加)した希土類添加光ファイバは、光通信信号の増幅器として幅広く利用されている。特に、Ybを添加した光ファイバを用いたファイバレーザや光ファイバ増幅器は、高い光変換効率や優れたビーム品質が得られることから、切断、溶接、マーキング等の加工技術分野に幅広く応用されている。
【0003】
近年、こうした加工技術分野では、高出力、高品質、高信頼性を持つレーザが求められている。高出力化のためには、大強度のレーザ光を光ファイバに入力することが考えられる。高い強度のレーザ光を光ファイバに入力可能なファイバとして、エアホール型ダブルクラッドファイバやポリマー型ダブルクラッドファイバが提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
一方、Yb添加ファイバを用いたレーザ共振器を構成した場合、ファイバレーザから高出力を発振させるためには、低励起パワーから高励起パワーまで変化させる必要がある。しかし、低励起パワーではYb添加ファイバの一部が過飽和吸収体になることによって過飽和吸収体による再吸収が起こり、自己パルスが生じてしまう。この自己パルスは、数kWから数百kWの範囲で発生し、僅かな端面損傷を起こし、ファイバ端面を破壊してしまう。
【0005】
非特許文献2では、外部回路を構成し、励起パワーにオフセットをかけ、自己パルスを抑制する方法が記載されているが、自己パルスの抑制効果は完全ではなく、改善が必要である。
【0006】
また、非特許文献3では、手動ファイバをYb添加ファイバの間に挟み込み、発振光の共振往復距離を長くし、キャリア緩和時間を調整することによって自己パルスを抑制可能であると記載されているが、別途ファイバを用意することや、Yb添加ファイバとアラインメントを合わせる必要があり、余分なコストがかかる。
【0007】
また、非特許文献4では、希土類添加ファイバの変換効率を向上させる方法として中心添加方法が記載されているが、この方法は、シングルモードファイバ、Er添加ファイバに関するものであり、自己パルス抑制方法としては記載されていない。
【0008】
さらに、Yb添加光ファイバから信頼性を高めるためには、高いフォトダークニング耐性が要求される。ここで、カラーセンター形成のメカニズムによって起こるフォトダークニングは、光ファイバの出力を劣化させる主な原因となっており、励起反転分布又はYbイオンの励起濃度の約7乗に比例して起こることが知られている(例えば、非特許文献6参照)。フォトダークニングは、添加されたYbイオンのクラスタ化が原因で起きることが一般に知られている。Ybイオンのクラスタ化は、添加されたYbイオンが十分な拡散(分離)ができず、酸素欠陥によって起因する現象であり、Yb添加を高濃度化すると、顕著に現れる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Kim et al.,Fiber Design For High-Power Low-Cost Yb:Al-Doped Fiber Laser Operating at 980 nm,IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS,Vol.13(No.3),2007
【非特許文献2】V.Mizrahi et al.,J.Lightwave Technol.Vol.11,p2021(1993)
【非特許文献3】Elimination of Self-Pulsations in Dual-Clad Ytterbium-Doped Fiber Lasers,LLE Review,Vol.115
【非特許文献4】Modeling Erbium-Doped Fiber Amplifiers,C.Randy Giles eral.,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY.Vol.9(No.2),1991
【非特許文献5】Ajoy Ghatak et al.,Introduction to Fiber Optics,Cambridge University Press,p435-437
【非特許文献6】Joona Koponen.et al.,”Photodarkening Measurements in Large-Mode-Area Fibers”,SPIE Photonics West 2007,2007,Vol.6453-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、高い非線形耐性及び高ビーム品質ファイバを実現させるためには、コアNA(開口数)を低減させ、有効コア面積を広げる必要がある。
【0011】
しかし、コア径が20μm以上且つ100μm以下となる高次マルチモードを有するダブルクラッドファイバにおいては、コア面積が広いために低励起状態での高次モードは十分に励起されず、過飽和吸収体として働くためにQスイッチング状態となる。自己パルスのピーク強度は、Yb添加ファイバ長及びファイバのYb総吸収によって異なるが、数10kWまで達する場合があり、ファイバの端面破壊は勿論のこと、ファイバレーザシステムを壊す深刻な問題になる。
【0012】
したがって、ファイバレーザ共振器が擬似連続発振に至る前の低励起状態で自己パルスが起こり、ファイバを破壊させるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、希土類添加ダブルクラッドファイバを高い変換効率及び高い信頼性を持つものにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、第1の発明では、
Ybが添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドと、
上記第1クラッドを囲む第2クラッドとを有する希土類添加ダブルクラッドファイバを対象とし、
上記希土類添加ダブルクラッドファイバでは、
上記コアの開口数は、0.06以上0.15以下であり、
上記コアの直径は、20μm以上100μm以下であり、
上記Ybは、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって一部領域でのみ添加され、
上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コア中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である。
【0015】
ここで、コアの開口数NAが0.06よりも小さくなると光の閉じ込めが弱く光変換効率が低下するためにコアNAを0.06以上に上げる必要があり、0.15よりも大きくなると、ビーム品質が低下する。しかし、NAを0.06以上0.15以下にすることで、閉じ込めが強く且つ高いビーム品質の実現が可能である。
【0016】
また、コア径は、20μmよりも小さいと、高出力化が難しくなり、100μmよりも大きいとポンプガイド径を太くする必要があるのでファイバが硬くなって曲げられないために、装置の小型化及び軽量化が困難になり、また、ファイバ冷却効果が低下するためにレーザ発振特性及び信頼性が低下する。しかし、本発明では、コア径は、20μm以上100μm以下なので、高出力化及び装置の小型化が可能になる。Yb添加領域がコア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード(基本モード)径の0.55倍よりも小さいと、Yb吸収係数を高めるためにYb添加濃度を高くする必要があり、Ybイオンのクラスタ化によってフォトダークニング耐性が低下する傾向になり、1.8よりも大きいと、低励起状態で高次モードの反転分布が低く、過飽和吸収体になるために自己パルスが起こる。しかし、本発明では、0.55倍以上1.8倍以下であるので、フォトダークニング耐性が高く、且つ、自己パルスが起こらないファイバが得られる。このように、希土類元素であるYbをコア中心の一部領域のみに添加することにより、低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生が抑制される。
【0017】
第2の発明では、第1の発明において、
上記第2クラッドの外径は、上記コア径の10倍以上40倍以下である。
【0018】
例えば、第2クラッドの外径は、コア径の10倍よいも小さいとき、ファイバに入力される励起光パワーが制限されるために高出力レーザが困難になる。逆に40倍よりも大きいと、ポンプガイドの吸収係数を高めるためにコアに添加されるYb濃度を高くする必要があり、フォトダークニング耐性が悪化する恐れがある。しかし、上記の構成によると、10倍以上40倍以下であるため、ファイバレーザの高出力化及び高いフォトダークニング耐性の実現が可能になる。
【0019】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
915nm波長帯域の上記コアの吸収係数は、50dB/m以上300dB/m以下である。
【0020】
例えば、コアの吸収係数が50dB/mよりも小さいとき、ポンプガードの吸収係数が低くなるためにファイバを長くする必要があり、非線形耐性が低下される他、自己パルスは発生がしやすくなる。逆に300dB/mよりも大きいと、コア中にYb添加濃度を高める必要があり、フォトダークニング耐性を低下させる恐れがある。しかし、上記の構成によると、50dB/m以上300dB/m以下であるため、非線形特性の低下及び低いフォトダークニング耐性を招かず、高出力ファイバレーザの実現が可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、コアの開口数を0.06以上0.15以下とし、コア直径を20μm以上100μm以下とし、Ybをコアから第1クラッドに向かって一部領域で添加し、このYb添加領域をコア直径の40%以上70%以下であって、かつ、コア中心から第1クラッドに向かってコアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下としたことにより、希土類添加ダブルクラッドファイバを高い変換効率及び高い信頼性を持つものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シミュレーションで用いたファイバの概略構成を示す正面図である。
【図2】100%のYb添加に対する平均反転分布を示すグラフである。
【図3】100%のYb添加に対するASE後方出力を示すグラフである。
【図4】100%のYb添加に対する各モードのASE出力割合を示すグラフである。
【図5】63%のYb中心添加に対する平均反転分布を示すグラフである。
【図6】63%のYb中心添加に対する各モードのASE出力割合を示すグラフである。
【図7】47%のYb環状添加の添加プロファイルを示すグラフである。
【図8】47%のYb環状添加に対する平均反転分布を示すグラフである。
【図9】47%のYb環状添加の励起パワーに対する各モードのASE出力割合を示すグラフである。
【図10】Yb添加プロファイルに依存する出射ビームパタンを示すグラフである。
【図11】コア径及びYb添加プロファイルに依存する出射ビームパタンを示すグラフである。
【図12】コア径とLP01のモードフィルド径の相関関係を示す表である。
【図13】Yb中心添加割合変化に対するレーザ出力変化をシミュレーションするためのファイバ構成図である。
【図14】Yb中心添加割合に対するファイバレーザの出力を示す表である。
【図15】63%のYb中心添加ファイバに関するレーザ評価結果を示す表である。
【図16】47%のYb環状添加ファイバのレーザ評価結果を示す表である。
【図17】100%のYb添加ファイバのレーザ評価結果を示す表である。
【図18】実施例及び比較例のパルス波形及び発振スペクトルを示す図である。
【図19】図18のXIX部を拡大して示すグラフである。
【図20】図18のIIX部を拡大して示すグラフである。
【図21】図18のIIXI部を拡大して示すグラフである。
【図22】図18のIIXII部を拡大して示すグラフである。
【図23】図18のIIXIII部を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の希土類添加ダブルクラッドファイバ1は、Ybが添加されたコア2を有する。コア2の開口数(NA:Numerical Aperture)は0.06以上0.15以下(0.06≦NA≦0.15)であり、コア径D0は20μm以上100μm以下(20μm≦D0≦100μm)である。
【0025】
コア2は、第1クラッド3で囲まれている。Ybは、コア2から第1クラッド3に向かって一部領域で添加されている。Yb添加領域は、コア2の中心から第1クラッド3に向かって、コア2のLP01モード(基本モード)径の0.55倍以上1.8倍以下である。
【0026】
さらに第1クラッド3は、第2クラッド4で囲まれている。第2クラッド4の外径(ファイバ径)D2は、コア径D0の10倍以上40倍以下(10D0≦D2≦40D0)である。
【0027】
また、915nm波長帯域のコアの吸収係数は、50dB/m以上300dB/m以下である。
【0028】
そして、本実施形態の希土類添加ダブルクラッドファイバ1は、希土類元素をコア2の中心付近にのみ添加し、低励起状態でも擬似連続発振を起こすような反転分布状態を作り、自己パルス発生を抑制するように構成されている。
【0029】
<シミュレーション1>
Ybが添加されたマルチモードファイバの低励起状態において自己パルスの影響を調べるために、コア全体(100%)にYb添加ファイバにおいて、各モードのASE後方出力割合及び各モードの反転分布割合を算出した。反転分布とは、励起光(Pump Laser Diode=PLD)をファイバに入力すると、基底準位(N1)の電子が励起準位(N2)へ励起されるが、基底準位(N1)から、励起準位(N2)までどの位のキャリアが励起されたかを数値で表したものであり、以下の式(1)に現れる。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、N=N1+N2になる。Yb添加ファイバの反転分布は、励起波長、励起パワー、コア径D0、ファイバ長、ファイバ構造、Yb添加濃度などに影響されるために各パラメーターの状況を判断しなければならない。
【0032】
図1に示すように、コアNAは0.06、コア径D0は30μm、第1クラッド3の外径であるポンプガイド径D1は260μm、ファイバ長は6.5m、Yb濃度は1wt%(重量比の百分率)になる希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、励起パワーに対する各モードのASE(amplitude stimulated emission)後方出力割合及び平均反転分布を計算した。ここで、平均反転分布の計算には、(式1)によって計算された反転分布値をファイバの長さで割った。Ybはコア全体に添加されており、励起(PLD)波長は976nmを用いた。
【0033】
図2によると、Yb添加ファイバの平均反転分布は励起パワーを上げると共に増加しており、励起パワーが約12Wから反転分布は飽和した。自己パルスがなくなると予測される4%の平均反転分布は、5Wの励起パワーで得られた。
【0034】
図3によると、ASE出力は励起パワー増加と共に上がっており、その傾向は、励起パワーに対する反転分布の変化と類似である。したがって、ファイバレーザの出力は反転分布の増加と比例し、強くなると考えられる。
【0035】
励起パワーに対する各モードのASE出力割合を示す図4によると、30μmコア径D0に対する体表的なモードは五つであり、基本モードであるLP01、高次モードであるLP11、LP21、LP02、LP31になる。発振閾値付近である低励起パワーの5W基準に対するLP01の出力割合は30.3%、LP11は19.9%、LP21は9.8%、LP02は5.7%、LP31は2.1%であった。ここで、LP11、LP21、LP31は前方及び後方に向かって伝播されるために計算結果に2倍した。なお、図4のLP11/2、LP21/2、LP31/2はLP11、LP21、LP31のASEパワーの半分であることを意味する。5Wの励起パワーに対する平均反転分布は3.9%であることから各モードの平均反転分布は、1.18%、0.78%、0.38%、0.22%、0.08%であり、LP01以外は1.0%を下回るために不安定な反転分布を持ち、低励起状態では自己パルスを起こす可能性が高い。したがって、平均反転分布が1.0%を下回るLP11、LP21、LP02、LP31は十分に励起されず、過飽和吸収体及び再吸収損失となり、自己パルスを起こす要因であると考えられる。
【0036】
<シミュレーション2>
コア63%のYb中心添加に対するシミュレーションでは、コアNAは0.06、コア径D0は30μm、ポンプガイド径D1は260μm、ファイバ長は6.5m、Yb濃度は2.0wt%になる希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、励起パワーに対する各モードのASE後方出力割合及び平均反転分布を算出した。中心添加63%に対する平均反転分布を示す図5によると、100%中心添加の平均反転分布と異なり、5Wの低励起パワーでも平均反転分布は4.3%を超えており、十分に全モードが励起されていると考えられる。
【0037】
図6によると、コア30μmに対する体表的なモードは五つがあり、LP01、LP11、LP21、LP02、LP31になる。発振閾値付近である5Wの低励起パワーで、基準に対するLP01の出力割合は96.8%、LP11は1.1%、LP21は0.049%、LP02は0.67%、LP31は0.005%になり、ASE出力に寄与するのはLP01のみであった。励起パワー5Wに対する平均反転分布は4.3%であることから各モードの平均反転分布は、4.1%、0.05%、0.002%、0.02%、0.0002%であり、LP01はかなり反転分布が高い。LP11、LP21、LP02、LP31の反転分布は1.0%を下回るが、コア外周にはYbが添加されないために過飽和吸収体にはならず、自己パルスを起こさない。ここで、LP11、LP21、LP31は前方及び後方に向かって伝播されるために計算結果に2倍した。
【0038】
<シミュレーション3>
コア47%のYb環状添加に対するシミュレーションでは、コアNAは0.06、コア径D0は30μm、ポンプガイド径D1は260μm、ファイバ長は6.5m、Yb濃度は1.5wt%になる希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、励起パワーに対する各モードの出力割合及び平均反転分布を算出した。
【0039】
図7によると、中心から63%まではYbが添加されておらず、9.4μmから第1クラッド3界面の15μmまで添加されている。
【0040】
図8に示すように、47%の環状添加に対する平均反転分布は、63%中心添加の平均反転分布と異なり、5Wの低励起パワーでの平均反転分布は1.5%であり、中心添加よりもかなり低い値を示す。したがって、47%環状添加よりも63%中心添加の方が高い光-光変換効率になると予測される。
【0041】
励起パワーに対する各モードのASE後方出力割合を示す図9によると、コア30μmに対するモードは五つであり、LP01、LP11、LP21、LP02、LP31になる。発振閾値付近の低励起パワーの5Wで、LP01の出力割合は33.1%、LP11は5.0%、LP21は29.5%、LP02は7.08%、LP31は15%であった。5Wの励起パワーに対する平均反転分布は1.5%であることから各モードの平均反転分布は、0.48%、0.67%、0.42%、0.10%、0.20%であり、全モードの反転分布は1.0%以下であった。ここで、LP11、LP21、LP31は前方及び後方に向かって伝播されるために計算結果に2倍した。特に、LP01、LP11の反転分布は比較的に高いが、LP01、LP11領域にはYbが添加されていないので自己パルスと関係ない。1.0%を下回る、LP21、LP02、LP31は過飽和吸収体及び再吸収損失となり、自己パルスを起こす要因になる。また、環状添加プロファイルの特徴から、LP01、LP11のASE割合が高くてもYb添加プロファイルと伝播モードが結合しないために誘導放出には寄与しない。したがって、反転分布が低いLP21、LP02、LP31などの高次モードがレーザ発振に寄与することとなり、発振に不安定な過飽和吸収体となり、自己パルスを起こす他、光-光変換効率が低下される。
【0042】
Yb添加プロファイルに対する出射ビームパタンを示す図10の添加プロファイルに対するシミュレーション結果から判るように出射ビームパタンは添加プロファイルに大きく依存した。コア全体に添加した場合は、LP01の基本モード及びコア周辺に高次モードに関する出射ビームが見られる。47%環状添加の場合は、LP01の基本モードは観測されず、高次モードに関する出射ビームのみ見られる。しかしながら、63%の中心添加に関しては、コア中心にLP01の基本モードが顕著に現れる他、高次モード出射ビームが全く見られない。この結果からも中心添加することによって低励起状態での高次モード領域での過飽和吸収領域をなくすことにより、自己パルス化を抑制することが判る。
【0043】
コア径D0及びYb添加径を変化させ、出射ビームの形状変化をシミュレーションした。図11によると、コアNAが0.06以上0.15以下、コア径D0が20μm以上100μm以下の範囲において、Yb添加領域がコアの70%以下ではLP01などの低モード出射ビームの強度がコア周辺の高次モードの出射ビーム強度よりも高いことが判った。この結果より、Yb添加領域はコア径D0の70%まで自己パルスが抑制可能であると判断される。
【0044】
図12によると、LP01(基本モード)モードフィルド径(非特許文献5)は、コアNA及びコア径D0に大きく依存し、コア径D0が大きいほどLP01のモードフィルド径MFDも大きくなることが判った。また、LP01のモードフィルド径(MFD;Mode Field Diameter)は、コア径D0が小さいほど大きくなり、例えば、コアNAは0.08、コア径D0は20μmの場合、LP01のモードフィルド径は14.5μmとなり、コアNAが0.15、コア径D0が40μmの場合、LP01のモードフィルド径は19.7μmになる。さらに、コアNAが0.08、コア径D0が40μmの場合、中心添加40%に対するLP01モードフィルド径の比率は0.68、中心添加80%に対するLP01モードフィルド径の比率は1.4であり、Yb添加径をLP01モード径の関数で表現可能となる。
【0045】
<シミュレーション4>
図13はYb中心添加割合変化に対するレーザ出力変化をシミュレーションするためのファイバ構成図である。コアNAは0.08、コア径D0は40μm、ポンプガイド径D1は260μm、ファイバ長は6.5m、Yb濃度は0.5wt%以上1.5wt%以下になる希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて励起パワーに対する各モードの出力割合及び平均反転分布の計算を行った。励起波長は976nmを用いた。
【0046】
図14によると、Yb中心添加割合に対するファイバレーザの出力は低励起状態と高励起状態で多少異なるが、基本的には類似である。Yb中心添加割合に対するファイバの発振出力は、Yb中心添加割合の低減とともに下がるように見られるが、添加濃度を最適化すれば類似な差を示す。しかし、Yb添加濃度を上げることによってYbイオンクラスタ化が起こり、フォトダークニング耐性の低下及び損失増大の問題を起こすためにYb添加濃度は限界がある。現実的には、約2wt%以下が好ましく、1.5wt%以下がより好ましい。
【0047】
また、ファイバ長は、5.0m以上20.0m以下が好ましい。
【0048】
加えて、光ファイバの端面には、必要に応じて、HRコート、ARコートを施してもよく、HRコートは、HR分光が、1010?1100nm範囲で99%以上の反射率を有する光学薄膜を適用することが好ましい。ARコートは、AR分光が、800?1000nmまで97%以上の透過率を有する光学薄膜を適用することが好ましい。
【実施例】
【0049】
(実施例)
実施例では、希土類元素としてYbを採用したYb添加光ファイバをMCVD装置により作製した。希土類元素供給源にYb(DPM)3を用いた。石英管としては、無水石英を採用した。
【0050】
線引工程を経て得られた希土類添加ダブルクラッドファイバ1は、コア径D0が40±3μm、ポンプガイド径D1が600±10μm、ファイバ径D2が1000±20μm、コア開口数NAが0.07?0.075であった。
【0051】
線引された希土類添加ダブルクラッドファイバ1を用いてファイバレーザ評価を行った。ファイバレーザ評価構成は図13と同様な構成であった。
【0052】
ファイバ長は15mであり、ファイバの一方の端面にはHR/ARコート、他方の端面はフラット端面加工を行った。HR分光は1010?1100nm範囲で97%反射率になるようにAR分光は800?1010nmまで95%以上の透過率になるようにした。励起波長は975nmを用いた。
【0053】
図15によると、PLD印加電流90Aで、最大の光-光変換効率は70%、最大内部変換効率である発振パワー/(励起パワー-漏れパワー)×100%は、74.3%が得られた。特に、評価領域の励起パワーでのパルスは全く観測されず、シミュレーション結果と同様で、中心添加が自己パルス抑制に効果があることが判った。
【0054】
(比較例1)
中心添加有効性を確認するために47%環状添加ファイバに関して、ファイバ作製及びレーザ評価を行った。コア作製及びファイバ化は実施例1と似ているが、コア作製においてコア外周付近にはYbを添加し、コア中心にはYb添加を実施しなかった。
【0055】
線引工程を経て得られた光ファイバは、コア径D0が40±3μm、ポンプガイド径D1が600±10μm、ファイバ径D2が1000±20μm、コア開口数NAが0.07?0.075であった。コア形成部の915nm帯域の吸収係数は、80?120dB/mであった。
【0056】
線引されたファイバを用いファイバレーザ評価を行った。ファイバレーザ評価構成は図13と同様な構成であった。ファイバ長は15mであり、ファイバの一方の端面にはHR/ARコート、他方の端面はフラット端面加工を行った。HR分光は1010?1100nm範囲で97%反射率になるようにAR分光は800?1010nmまで95%以上の透過率になるようにした。励起波長は975nmを用いた。
【0057】
図16によると、PLD印加電流90Aで、最大の光-光変換効率は64.8%、内部変換効率は72.3%であり、実施例1の70%の最大光?光変換効率、74.3%の最大内部変換効率よりも低かった。特に、自己パルスは評価された励起パワーの全領域で観測された。このように自己パルスの起源は、マルチモードコアにおけるコア外周の添加領域によるものであることが、シミュレーション結果からも判る。
【0058】
(比較例2)
中心添加有効性を確認するためにコア全体に添加(100中心添加)ファイバに関してレーザ評価を行った。コア作製及びファイバ化は実施例と似ているが、コア作製においてYbをコア全体に添加した。
【0059】
線引工程を経て得られた希土類添加ダブルクラッドファイバは、コア径D0が40±3μm、ポンプガイド径D1が600±10μm、ファイバ径D2が1000±20μm、コア開口数NAが0.07?0.075であった。コア形成部の915nm帯域の吸収係数は、100?120dB/mであった。
【0060】
線引された希土類添加ダブルクラッドファイバを用いファイバレーザ評価を行った。ファイバレーザ評価構成は図13と同様な構成であった。ファイバ長は9.6mであり、ファイバの一方の端面にはHR/ARコート、他方の端面はフラット端面加工を行った。HR分光は1010?1100nm範囲で97%反射率になるようにAR分光は800?1010nmまで95%以上の透過率になるようにした。励起波長は975nmを用いた。
【0061】
図17によると、PLD印加電流90Aで、最大の光-光変換効率は62.8%、内部変換効率は71.2%であり、実施例1の70%の最大光?光変換効率、74.3%の最大内部変換効率よりも低かった。特に、自己パルスは57Wの励起パワーまで観測されたが、その以降は観測されなかった。これは、低励起パワーではコアの高次モード(コアの外周部分)の反転分布が低く、過飽和吸収体になるが、高励起パワーではコア中心且つコア外周部分まで反転分布が高くなり、過飽和吸収領域が完全になくなったためである。このように、自己パルスの起源は、マルチモードコアにおいてコア外周の添加によるものであることが、シミュレーション結果からも判る。
【0062】
図18によると、実施例の中心添加ファイバのファイバ総吸収が12.6dB、比較例1のファイバ総吸収は9.4dB、比較例2のファイバ総吸収は9.4dBであり、実施例のファイバ総吸収は比較例よりも高い。ファイバの自己パルスはファイバ総吸収が高いほど顕著に現れることから、実施例の方がより自己パルスが発生しやすいはずだが、自己パルスは観測されなかった。しかし、ファイバの総吸収係数が低い比較例1及び2は、既に低励起状態からパルスが観測される他、特に比較例2から自己パルス発生が顕著であった。
【0063】
62Wの励起パワーでの発振スペクトルは、実施例よりも比較例1及び2の方が広いことから、自己パルスは高次モードの発振によるものであると考えられた。
【0064】
以上の観点から、915nm波長帯域でのコアのYb吸収係数が50?300dB/m、コア径D0が20?100μmのマルチモードのコア2を有し、コアNAが0.06?0.15である希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、Yb添加をコア直径の40%以上70%以下の範囲で行うことが好ましい。Yb中心添加が40%以下になるとYb濃度を上げなければいけないのでYbクラスタリングが増え、フォトダークニング耐性の悪化や変換効率が悪化する恐れがある。また、70%以上になると高次モード効果が顕著に現れ、自己パルスが発生し、ファイバが破壊される。
【0065】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明は、コアを囲む第1クラッドと、第1クラッドを囲む第2クラッドとを有する希土類添加ダブルクラッドファイバについて有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 希土類添加ダブルクラッドファイバ
2 コア
3 第1クラッド
4 第2クラッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ybが添加されたコアと、
上記コアを囲む第1クラッドと、
上記第1クラッドを囲む第2クラッドとを有する希土類添加ダブルクラッドファイバであって、
上記コアの開口数は、0.06以上0.15以下であり、
上記コアの直径は、20μm以上100μm以下であり、
上記Ybは、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって一部領域でのみ添加され、
上記一部領域は、上記コアの直径の40%以上70%以下であって、かつ、上記コアの中心から上記第1クラッドに向かって該コアのLP01モード径の0.55倍以上1.8倍以下である
ことを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載されている希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、
上記第2クラッドの外径は、上記コア径の10倍以上40倍以下である
ことを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されている希土類添加ダブルクラッドファイバにおいて、
915nm波長帯域の上記コアの吸収係数は、50dB/m以上300dB/m以下であることを特徴とする希土類添加ダブルクラッドファイバ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-22 
出願番号 特願2012-129112(P2012-129112)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01S)
P 1 651・ 841- YAA (H01S)
P 1 651・ 121- YAA (H01S)
P 1 651・ 537- YAA (H01S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 林 祥恵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 近藤 幸浩
星野 浩一
登録日 2016-09-09 
登録番号 特許第6002453号(P6002453)
権利者 三菱電線工業株式会社
発明の名称 希土類添加ダブルクラッドファイバ  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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