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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D04H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D04H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D04H |
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管理番号 | 1340112 |
異議申立番号 | 異議2017-700651 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-26 |
確定日 | 2018-04-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6054502号発明「不織布、及び上記不織布を含む吸収性物品、並びに上記不織布の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6054502号の特許請求の範囲を平成29年12月11日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6054502号の請求項1、2、4ないし10に係る特許を維持する。 特許第6054502号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6054502号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成22年9月27日に出願した特願2010-215675号の一部を平成27年12月21日に新たな特許出願としたもので、平成28年12月9日にその特許権の設定登録がされた。 その後、平成29年6月26日に、請求項1ないし10に係る特許について、特許異議申立人柏木里実(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年10月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月11日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)があり、平成29年12月14日付けで申立人に対し訂正請求があった旨の通知がなされ、その指定期間内である平成30年1月17日に申立人より意見書が提出された。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 ア.訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された剥離部を形成するとともに、当該剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡及び/又は融着しており、」とあるのを、「第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するとともに、当該複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着しており、」に訂正する。 イ.訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ.訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、「第1の成分が、第2の成分の融点よりも、少なくとも20℃高い融点を有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の不織布。」とあるのを、「第1の成分が、第2の成分の融点よりも、少なくとも20℃高い融点を有する、請求項1又は2に記載の不織布。」に訂正する。 エ.訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、「第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含むエアスルー不織布を、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布が形成されるように不均一に延伸し、そして前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付けることにより形成された、請求項1?4のいずれか一項に記載の不織布。」とあるのを、「第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含むエアスルー不織布を、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布が形成されるように不均一に延伸し、そして前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付けることにより形成された、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の不織布。」に訂正する。 オ.訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に、「前記液透過性のトップシートが、請求項1?5のいずれか一項に記載の不織布であることを特徴とする、」とあるのを、「前記液透過性のトップシートが、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布であることを特徴とする、」に訂正する。 カ.訂正事項6 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、 「請求項1?5のいずれか一項に記載の不織布を形成する方法であって、 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を準備するステップ、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された剥離部を形成するように、前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を不均一に延伸して、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布を形成するステップ、そして 前記剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡及び/又は融着するように、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付け、請求項1?5のいずれか一項に記載の不織布を形成するステップ、 を含む前記方法。」とあるのを、 「請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成する方法であって、 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を準備するステップ、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するように、前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を不均一に延伸して、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布を形成するステップ、そして 前記複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡し、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着するように、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付け、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成するステップ、 を含む前記方法。」に訂正する。 (2)一群の請求項 本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1ないし6による訂正は当該一群の請求項1ないし10に対し請求されたものである。 (3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「剥離部」が「複数の剥離部」であること、及び「当該剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡及び/又は融着して」いることが「当該複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着して」いることとすることにより、「剥離部」が単数を含み得るものであったものを、複数に限定し、また、それらの「剥離部」が「交絡」のみ、「融着」のみ、あるいは「交絡」及び「融着」のいずれかであったものを、「交絡」及び「融着」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものである。 そして、訂正事項1による訂正は、本件特許明細書の段落【0099】の「不織布1の断面及び表面の走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ、図11及び図12に示す。・・・図12から、不織布1が、複数の、他の複合繊維と交絡及び/又は融着した剥離部2を有することが分かる。」との記載及び【図12】の記載から「剥離部2」が複数存在し、「剥離部2」には、他の複合繊維と交絡したものと、他の複合繊維と融着したものとが存在することが看取されることからみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ.訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ.訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1ないし3のいずれかを引用するものであったところ、訂正前の請求項3を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ.訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1ないし4のいずれかを引用するものであったところ、訂正前の請求項3を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 オ.訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項6が訂正前の請求項1ないし5のいずれかを引用するものであったところ、訂正前の請求項3を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 カ.訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項7が訂正前の請求項1ないし5のいずれかを引用するものであったところ、訂正前の請求項3を引用しないものとするとともに、訂正前の請求項7の「剥離部」が「複数の剥離部」であること、及び「当該剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡及び/又は融着して」いることが「当該複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着して」いることを、訂正事項1と同様に訂正するものであって、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件発明1ないし10」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 【請求項1】 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布であって、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するとともに、当該複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着しており、 前記複合繊維が、第1の成分を芯部とし且つ第2の成分を鞘部とする芯鞘型複合繊維であり、そして前記芯部の一部が、前記鞘部に覆われずに露出していることを特徴とする、 前記不織布。 【請求項2】 前記剥離部が、前記複合繊維の略長手軸方向に沿って、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された、請求項1に記載の不織布。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 第1の成分が、第2の成分の融点よりも、少なくとも20℃高い融点を有する、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項5】 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含むエアスルー不織布を、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布が形成されるように不均一に延伸し、そして前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付けることにより形成された、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の不織布。 【請求項6】 液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記液透過性のトップシート及び前記液不透過性のバックシートの間の吸収体とを含む吸収性物品であって、 前記液透過性のトップシートが、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布であることを特徴とする、 前記吸収性物品。 【請求項7】 請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成する方法であって、 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を準備するステップ、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するように、前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を不均一に延伸して、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布を形成するステップ、そして 前記複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡し、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着するように、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付け、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成するステップ、 を含む前記方法。 【請求項8】 前記噴出された流体を吹き付けるステップにおいて、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布の、流体を吹き付ける面と反対側の面に、あらかじめ定められた形状及び配列の突状部及び窪み部を有する支持体が配置される、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記流体が、加熱された空気、飽和水蒸気、又は過熱水蒸気である、請求項7又は8に記載の方法。 【請求項10】 前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維が、エアスルー不織布である、請求項7?9のいずれか一項に記載の方法。 (2)取消理由の概要 取消理由通知書に記載した本件発明1ないし10に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。 なお、異議申立人が申立てたすべての理由は通知された。 理由1 本件特許の下記の発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2 本件特許の下記の発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲1ないし甲9に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 甲1.特公昭63-5495号公報 甲2.特開2004-76178号公報 甲3.特開2003-73967号公報 甲4.再公表特許WO2005/042824号 甲5.日向明監修,「機能性不織布 -原料開発から産業利用まで-」,普及版第1刷,株式会社シーエムシー出版,2009年11月24日,p.69-71 甲6.日本繊維機械学会不織布研究会編,「不織布の基礎と応用」,社団法人日本繊維機械学会,平成5年8月25日,p.156-165 甲7.特開2006-2297号公報 甲8.特開2009-79329号公報 甲9.特開2009-79330号公報 甲1ないし9は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証ないし甲第9号証であり、甲1ないし9に記載された事項を、各々、甲1記載事項ないし甲9記載事項といい、甲1記載事項から把握される発明を甲1発明という。 ア.本件発明1及び2について (ア)理由1及び理由2 本件発明1及び2は、甲1発明であり、また、当該甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 イ.本件発明3について (ア)理由1及び理由2 本件発明3は、甲1発明であり、また、当該甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 (イ)理由3 本件特許の請求項3の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。 ウ.請求項4に係る発明について (ア)理由1及び理由2 本件発明4は、甲1発明であり、また、当該甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 (イ)理由3 本件特許の請求項3を引用する請求項4の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。 エ.本件発明5について (ア)理由2 本件発明5は、甲1発明及び甲2記載事項ないし甲4記載事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)理由3 本件特許の請求項3を引用する請求項5の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。 オ.本件発明6について (ア)理由1及び理由2 本件発明6は、甲1発明であり、また、当該甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。 (イ)理由3 本件特許の請求項3を引用する請求項6の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。 カ.本件発明7ないし10について (ア)理由2 本件発明7ないし10は、甲1発明及び甲2記載事項ないし甲9記載事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)判断 ア.理由1について (ア)本件発明1について a.甲1発明 甲1の1頁1欄1行ないし2欄5行、3欄31ないし35行、4欄27行ないし5欄7行、6欄40行ないし7欄14行、11欄1行ないし12欄末行の記載事項、及び図(1)から芯部である高融点成分2の一部が、鞘部である低融点成分1に覆われずに露出している状態が看取され、この状態は加熱処理後も維持されるものと解されることからみて、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 《甲1発明》 「高融点成分2と、高融点成分2よりも低い融点を有する低融点成分1とを含む複合繊維を含む不織布であって、 延伸により低融点成分1が、高融点成分2上にあって切断を生じることでフィブリル化した複合型熱接着繊維に対して加熱処理を施すことにより、繊維間が熱接着により結合され、 前記複合繊維が、高融点成分2を芯部とし且つ低融点成分1を鞘部とする芯鞘型複合繊維であり、そして前記芯部の一部が、前記鞘部に覆われずに露出している、 前記不織布。」 b.対比、一致点、相違点 甲1発明の「高融点成分2」、「低融点成分1」は、各々、本件発明1の「第1の成分」、「第2の成分」に相当する。 また、甲1発明において、フィブリル化、すなわち、毛羽立ち化は、低融点成分1の一部が、高融点成分1から剥離されることにより生じると解されることを踏まえると、甲1発明の「延伸されることで、低融点成分1が、高融点成分2上にあって切断を生じることでフィブリル化した複合型熱接着繊維」は、低融点成分1の一部が、高融点成分1から剥離されることにより形成された複数の剥離部を有することが明らかである。 してみると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。 《一致点》 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布であって、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するとともに、複合繊維間が結合されており、 前記複合繊維が、第1の成分を芯部とし且つ第2の成分を鞘部とする芯鞘型複合繊維であり、そして前記芯部の一部が、前記鞘部に覆われずに露出している、 前記不織布。 《相違点》 複合繊維間の結合が、本件発明1では、「複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着して」いることでなされているのに対し、甲1発明では、「延伸により低融点成分1が、高融点成分2上にあって切断を生じることでフィブリル化した複合型熱接着繊維に対して加熱処理を施すことにより、繊維間が熱接着により結合され」ることでなされている点。 c.相違点の判断 上記相違点は実質的な相違点であるか否か、すなわち、甲1発明において、「延伸により低融点成分1が、高融点成分2上にあって切断を生じることでフィブリル化した複合型熱接着繊維に対して加熱処理を施すことにより、繊維間が熱接着により結合され」ることで、複合繊維間の結合部分が、複数の剥離部の少なくとも一部は、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部は、他の複合繊維と融着していることとなっているか否かについて検討する。 この点、甲1には、その特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された製造方法によって得られる不織布における複合繊維間の結合構造に関する説明が記載されておらず、ましてや、「複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着して」いる構造であること示唆する記載はない。 特に、甲1には、「本発明の目的の一つは、この抄紙工程のトラブルの解決にあり、熱接着繊維としてフィブリル化した複合型熱接着繊維を用いることにより抄紙時の湿潤シートの紙力を高め、切断することなく抄紙することを可能とし」との記載(4欄27ないし33行を参照。)及び「かくして、フィブリル化した複合型熱接着繊維を用いることにより繊維間の絡み合いの効果を与え、化合繊繊維のみの構成であっても充分に連続抄紙が可能となり、製品不織布の繊維間の結合が複合型熱接着繊維の熱接着であるから湿潤時においても強度の低下が殆んどなく」との記載がある(7欄6ないし11行を参照。下線は当審にて付与。)ことから、この「繊維間の絡み合い」とは、抄紙性を向上するためのものと解されるところ、加熱処理後にも「繊維間の絡み合い」のみによる複合繊維間の結合構造が維持される旨の記載はないし、むしろ、熱接着による強度向上が記載されている。 そして、甲2ないし甲9には、申立書9頁14行ないし13頁9行に示される記載等があるものの、甲1発明における複合繊維間の結合部分が、複数の剥離部の少なくとも一部は、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部は、他の複合繊維と融着していることとなっていることを推認させる記載がない。 ゆえに、甲1発明における複合繊維間の結合部分が、複数の剥離部の少なくとも一部は、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部は、他の複合繊維と融着していることとなっているとはいえないから、上記相違点は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 なお、申立人は平成30年1月17日付け意見書で、甲1に記載された熱処理条件や風合い評価からみて、甲1発明においても交絡と融着が併存していることは明らかである旨を主張している。 しかし、申立人は、甲1記載の熱処理条件で風合い評価が「〇」(「〇」の定義については、7欄下から3行ないし8欄3行を参照。)であれば、なぜ「交絡と融着が併存していることは明らか」といえるのか、証拠等に基づく合理的説明をしておらず、上記主張は採用できない。 以上のとおり、理由1によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (イ)本件発明2、4及び6について 本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明2、4及び6は、上記3.(3)ア.(ア)で示した理由と同様の理由により、甲1発明であるとはいえない。 したがって、理由1によって、本件発明2、4及び6に係る特許を取り消すことはできない。 イ.理由2について (ア)本件発明1について a.甲1発明 甲1発明は、上記3.(3)ア.(ア)a.で示したとおりである。 b.対比、一致点、相違点 本件発明1と甲1発明との対比、一致点、相違点は、上記3.(3)ア.(ア)b.で示したとおりである。 c.相違点の判断 上記3.(3)ア.(ア)c.で示したとおり、甲1には、加熱処理後にも「繊維間の絡み合い」のみによる複合繊維間の結合構造が維持される旨の記載はなく、また、加熱処理後にも「繊維間の絡み合い」のみによる複合繊維間の結合構造を維持すべき旨の記載もない。 そして、甲2ないし甲9には、甲1発明における複合繊維間の結合部分が、複数の剥離部の少なくとも一部は、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部は、他の複合繊維と融着していることとなっていることを推認させる記載はなく、また、予め繊維間の絡み合いを生じさせる処理(いわゆる交絡処理)を施した複合繊維の加熱処理後にも「繊維間の絡み合い」のみによる複合繊維間の結合構造を維持すべきことについても記載されておらず、これを示唆する記載もない。 ゆえに、甲1発明において、複合繊維間の結合が、「複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着して」いることでなされるように、その構成を変更することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 したがって、理由2によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (イ)本件発明2、4ないし10について 本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明2、4及び6は、上記3.(3)イ.(ア)で示した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、本件発明5は、甲1発明及び甲2記載事項ないし甲4記載事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、さらに、本件発明7ないし10は、甲1発明及び甲2記載事項ないし甲9記載事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、理由2によって、本件発明2、4ないし10に係る特許を取り消すことはできない。 ウ.理由3について 上記2.で示したとおり本件訂正請求が認められたことにより、請求項3は削除されたため、理由3については、対象となる請求項及び当該対象となる請求項を引用する請求項が存在しないこととなり、理由のないものとなった。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1、2、4ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項3号、第2項及び第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号及び第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1、2、4ないし10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、2、4ないし10に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 そして、本件特許の請求項3は、本件訂正が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。 よって、本件特許の請求項3についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布であって、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するとともに、当該複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡しており、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着しており、 前記複合繊維が、第1の成分を芯部とし且つ第2の成分を鞘部とする芯鞘型複合繊維であり、そして前記芯部の一部が、前記鞘部に覆われずに露出していることを特徴とする、 前記不織布。 【請求項2】 前記剥離部が、前記複合繊維の略長手軸方向に沿って、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された、請求項1に記載の不織布。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 第1の成分が、第2の成分の融点よりも、少なくとも20℃高い融点を有する、請求項1又は2に記載の不織布。 【請求項5】 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含むエアスルー不織布を、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布が形成されるように不均一に延伸し、そして前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付けることにより形成された、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の不織布。 【請求項6】 液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、前記液透過性のトップシート及び前記液不透過性のバックシートの間の吸収体とを含む吸収性物品であって、 前記液透過性のトップシートが、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布であることを特徴とする、 前記吸収性物品。 【請求項7】 請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成する方法であって、 第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を準備するステップ、 第2の成分の少なくとも一部が、第1の成分及び/又は第2の成分の残余の部分から剥離されることにより形成された複数の剥離部を形成するように、前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維を含む不織布を不均一に延伸して、高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布を形成するステップ、そして 前記複数の剥離部の少なくとも一部が、他の複合繊維と交絡し、当該複数の剥離部の他の少なくとも一部が、他の複合繊維と融着するように、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布に、噴出された流体を吹き付け、請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載の不織布を形成するステップ、 を含む前記方法。 【請求項8】 前記噴出された流体を吹き付けるステップにおいて、前記高延伸領域と低延伸領域とを有する不織布の、流体を吹き付ける面と反対側の面に、あらかじめ定められた形状及び配列の突状部及び窪み部を有する支持体が配置される、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 前記流体が、加熱された空気、飽和水蒸気、又は過熱水蒸気である、請求項7又は8に記載の方法。 【請求項10】 前記第1の成分と、第1の成分よりも低い融点を有する第2の成分とを含む複合繊維が、エアスルー不織布である、請求項7?9のいずれか一項に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-28 |
出願番号 | 特願2015-249098(P2015-249098) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(D04H)
P 1 651・ 121- YAA (D04H) P 1 651・ 537- YAA (D04H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 斎藤 克也 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
渡邊 豊英 井上 茂夫 |
登録日 | 2016-12-09 |
登録番号 | 特許第6054502号(P6054502) |
権利者 | ユニ・チャーム株式会社 |
発明の名称 | 不織布、及び上記不織布を含む吸収性物品、並びに上記不織布の形成方法 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 藤本 健治 |
代理人 | 奥野 剛規 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 小野田 浩之 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 小野田 浩之 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 藤本 健治 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 奥野 剛規 |
代理人 | 三橋 真二 |