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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1340125 |
異議申立番号 | 異議2017-700810 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-08-30 |
確定日 | 2018-04-10 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6087583号発明「急結剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6087583号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6087583号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6087583号の請求項1?3に係る特許についての出願(特願2012-240058号)は、平成24年10月31日に出願したものであって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所より請求項1?3に係る特許に対して平成29年8月30日付けの特許異議の申立てがされ、また、特許異議申立人南沢和美より請求項1?3に係る特許に対して平成29年8月31日付けの特許異議の申立てがされたものである。 その後、平成29年11月14日付けで取消理由が通知され、平成30年1月16日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年2月23日付けで特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所から意見書が提出され、また、平成30年2月23日付けで特許異議申立人南沢和美から意見書が提出されたものである。 2 訂正の適否 (1) 訂正の内容 平成30年1月16日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下訂正事項1?3のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比(CaO/Al_(2)O_(3))が1.7?2.5」とあるのを、 「CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比(CaO/Al_(2)O_(3))が2.0?2.3」と訂正する。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、「Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比(Al_(2)O_(3)/MgO)が18?60」とあるのを、 「Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比(Al_(2)O_(3)/MgO)が18?25.4」と訂正する。 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に、「SiO_(2)とMgOの含有モル比(SiO_(2)/MgO)が2.5?7.5」とあるのを、 「SiO_(2)とMgOの含有モル比(SiO_(2)/MgO)が2.5?5.0」と訂正する。 (2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項 ア 訂正の目的について 訂正事項1?3は、いずれも請求項1に記載の急結剤について、成分比の数値範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 イ 新規事項の有無について 訂正事項1?3は、いずれも訂正後の成分比が、訂正前の成分比内のものであって、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当しない。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1?3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 一群の請求項について 訂正前の請求項1を請求項2?3が直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (3) 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。 3 特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、平成30年1月16日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載される以下の事項により特定されるとおりのものであると認める。 【請求項1】 化学成分としてのCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比(CaO/Al_(2)O_(3))が2.0?2.3のカルシウムアルミネート中に化学成分としてSiO_(2)とMgOを含有し、化学成分としてのAl_(2)O_(3)とMgOの含有モル比(Al_(2)O_(3)/MgO)が18?25.4、且つ化学成分としてのSiO_(2)とMgOの含有モル比(SiO_(2)/MgO)が2.5?5.0である前記カルシウムアルミネート100質量部、アルカリ金属アルミン酸塩10?50質量部及びアルカリ金属炭酸塩10?50質量部を含有することを特徴とする急結剤。 【請求項2】 さらに、石膏類を含有する請求項1記載の急結剤。 【請求項3】 請求項1又は2記載の急結剤とセメントを含有する吹付用セメント組成物。 (2)証拠 特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所、及び、特許異議申立人南沢和美から提出された証拠は以下のものである。 引用例1 特開2002-37656号公報 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第1号証) (特許異議申立人南沢和美提出の甲第1号証) 引用例2 特開2002-293594号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第2号証) 引用例3 特開2003-267762号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第3号証) 引用例4 平野健吉、「急結混和材の材料設計と商品開発」、Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan、2005年、Vol.12、P.352-362 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第4号証) 引用例5 中川晃次、「非晶質カルシウムアルミネート -無水セッコウ- ポルトランドセメント系の水和と急硬機構」、石膏と石灰、No.218(1989)、pp.12-17 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第5号証) 引用例6 特開2000-233955号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第6号証) 引用例7 社団法人窯業協会編、「窯業工学ハンドブック(新版)」、株式会社技報堂、昭和41年12月25日発行、1503頁、1504頁、1518頁 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第7号証) 引用例8 特開2006-342027号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第8号証) 引用例9 特開2009-270282号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第9号証) 引用例10 特開2002-29800号公報 (特許異議申立人南沢和美提出の甲第10号証) 引用例11 中川晃次、「非晶質カルシウムアルミネートの初期水和におよぼす結晶化率と化学組成の影響」、石膏と石灰、1991(231)、pp.82-87 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第2号証) 証拠文献12 細川佳史、「水和を考慮したモデルによる急結剤特性の定量評価と吹付けコンクリートの性能照査」、土木学会論文集、2005(781)、pp.1-20 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第3号証) 証拠文献13 「吹付けコンクリートに関する指針について」、寒地土木研究所月報第645号、pp.58-66、2007年2月10日 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第4号証) 証拠文献14 吉田行、「高炉セメントを用いた吹付けコンクリートの強度発現に及ぼす諸要因の影響」、土木学会第60回年次学術講演会講演概要集、2005年 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第5号証) 証拠文献15 武広実、「カルシウムアルミネートを基材とした急結剤を含むポルトランドセメントの急結性能と水和反応」、秩父小野田研究報告、第46巻第1冊第129号、1995年、pp.67-80 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第6号証) 証拠文献16 特開平1-298050号公報 (特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所提出の甲第7号証) (3)取消理由及び申立理由の概要 ア 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、平成29年11月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (ア) 発明の詳細な説明に記載された本発明品1?5のAl_(2)O_(3)とMgOの含有モル比は、18.5?29.6の範囲であり、請求項1に規定されている18?60という範囲へ、拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。 (イ) 発明の詳細な説明に記載された本発明品1?5のカルシウムアルミネート中のAl_(2)O_(3)の配合量は、42.1?45.1質量%であり、同MgOの配合量は、0.6?0.9質量%であり、同SiO_(2)の配合量は、3.5?6.5質量%であるから、含有モル比という相対的なパラメータを用いて規定され、上記の範囲に配合量が特定されない請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。 (ウ) 本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例及び比較例を検討すると、カルシウムアルミネート中のMgOの化学成分配合量(質量%)が、0.3以下である場合と、1.0以上である場合には、発明の課題を解決できないと認められるところ、請求項1?3に係る発明は、その含有モル比から計算して、カルシウムアルミネート中のMgOの化学成分配合量が、約0.268質量%である場合や、約1.077質量%である場合を含むから、発明の詳細な説明の記載により課題を解決することを認識できる発明であるとはいえない。 したがって、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。 (エ) 請求項1?3に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。 また、請求項2に係る発明は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、取り消すべきものである。 (オ) 請求項1?3に係る発明は、引用例2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。 また、請求項2に係る発明は、引用例2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、取り消すべきものである。 (カ) 請求項1?3に係る発明は、引用例1?7に記載される技術常識を踏まえれば、引用例8、9に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消されるべきものである。 また、請求項1?3に係る発明は、引用例8に記載された発明、または、引用例9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消すべきものである。 (キ) 請求項1?3に係る発明は、引用例1に記載された発明と、引用例11に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消すべきものである。 (ク) 請求項1?3に係る発明は、引用例4に記載された発明と、引用例8、9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消すべきものである。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 (ア) 請求項1?3に係る発明は、引用例1に記載された発明と、引用例11及び証拠文献12?16に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?3に係る特許は、取り消すべきものである。(特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所、特許異議申立書3(4)ウ(イ)?(オ)) (イ) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。(特許異議申立人南沢和美、特許異議申立書別紙第4、3.、3-2.) (ウ) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願にされたものであり、取り消すべきものである。(特許異議申立人南沢和美、特許異議申立書別紙第4、3.、3-4.) (4)判断 事案に鑑み、上記(3)のイ(イ)、(ウ)、ア(ア)?(ク)、イ(ア)の順に検討する。 ア 上記(3)イ(イ)について (ア) 特許異議申立人南沢和美は、本件特許発明1?3は、含有モル比という相対的なパラメータで規定されていることにより、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)のカルシウムアルミネート全体に対する配合量がどの範囲のものを規定しているのか、その外延が当業者にとって不明確であると主張する。 しかしながら、当該含有モル比は、その数値限定の範囲内外を明確に区分するものであるから、その発明が、不明確であるとはいえない。 また、本件特許発明1?3は、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)のカルシウムアルミネート全体に対する配合量の上下限値を規定するものではないことが文言上明らかであり、さらに、本件特許発明1?3の許容するそれらの配合量は、当該含有モル比から自ずと導かれる範囲であることも明らかである。 (イ) 特許異議申立人南沢和美は、本件特許発明1?3は、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)以外の化学成分(不純物)がどの程度配合されているか不明確であると主張する。 しかし、各引用例に記載された具体的なカルシウムアルミネートと同程度に不純物を含み得ることは、当業者にとって技術常識と認められ、また、カルシウムアルミネートとは呼べない程に極端な量の不純物を含まないものであることも、明らかである。 (ウ) してみると、本件特許発明1?3は、明確である。 イ 上記(3)イ(ウ)について 特許異議申立人南沢和美は、特許異議申立書において、請求項1?3に係る発明は、カルシウムアルミネート中の化学成分CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)を含有モル比という相対的なパラメータを用いて規定しており、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)の配合量をどのように設定すればいいのか、当業者は理解できないと主張している。 しかしながら、本件特許発明1?3のカルシウムアルミネート中のAl_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)の配合量を、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)の含有モル比から算出することに、特殊な知識を要するとはいえない。 また、特許異議申立人南沢和美は、平成30年2月23日付けの意見書において、カルシウムアルミネート中にどの程度の不純物を含有した場合に、本件発明の効果を奏するか、あるいは奏しなくなるか等は、当業者であっても理解することができず、過度の試行錯誤が求められるとして、実施可能要件違反を主張する。 しかしながら、技術常識(各引用例等参照。)から理解される不純物の量で発明の実施が妨げられることは想定し得ないし、さらに、不純物を減らして効果を確認することも、当業者にとって困難ではないから、上記主張は採用できない。 ウ 上記(3)ア(ア)について 本件訂正請求により、本件特許発明1?3のAl_(2)O_(3)とMgOの含有モル比は、18?25.4となった。 そして、本件特許明細書には、当該比が18.5?25.4の範囲にある実施例において、本件特許発明1?3の課題を解決することが記載されているし、また本件特許明細書の【0010】の記載及び技術常識を踏まえれば、当該比が18?18.5である場合にも、課題を解決することができると当業者は認識できる。 エ 上記(3)ア(イ)について 本件特許明細書の【0010】、【0011】、【0013】には、各含有モル比によって、急結性、低温での付着性、ないし、施行不良等を所望の水準にするという作用効果を奏することが記載されている。 一方で、本件特許明細書には、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)のカルシウムアルミネート全体に対する個別の配合量による作用効果があることは示されていない。 また、モル比を満たしていても、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)のカルシウムアルミネート全体に対する配合量が、所定の範囲を外れた場合に、本件特許発明1?3の課題解決を妨げることを示す証拠は提出されていないし、また、技術常識ともいえない。 してみると、それら配合量が、課題解決手段であるとはいえない。 したがって、本件特許発明1?3は、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)のカルシウムアルミネート全体に対する配合量が特定されていないからといって、その課題を解決することが認識できる範囲を超えるものではない。 なお、実施例を基準に、何らかのパラメータの最小値?最大値の範囲を導けば、その範囲外に実施例が存在しないことは当然のことで、そこに比較例だけが存在するとしても何ら不合理ではない。そして、一部の比較例の当該パラメータが、実施例の最小値?最大値の範囲を外れることのみを根拠にして、そのパラメータが課題解決手段であるとはいえない。 オ 上記(3)ア(ウ)について 訂正後の請求項1?3に特定される含有モル比から自ずと導かれるMgOの配合量を検討すれば、CaO、Al_(2)O_(3)、MgO及びSiO_(2)の合計量を基準として、最小値が約0.649質量%であり、最大値が約0.996質量%であるから、課題を解決しないとはいえない。 なお、特許異議申立人南沢和美は、平成30年2月23日付けの意見書において、0.996質量%は、有効数字2桁で示すと、1.0質量%となるから、本件特許発明1?3は、依然としてサポート要件を満たさない旨主張している。 しかしながら、実施例及び比較例から、MgOの配合量と本件特許発明1?3の課題解決との相関関係が推認されるとしても、丁度1.0質量%において、その課題を解決することができなくなるとまではいえない。 また、特許異議申立人南沢和美は、平成30年2月23日付けの意見書において、本件特許発明1?3は、MgOが0.3質量%のもののみならず、それを下まわるものについても含まれていると主張しているが、当該主張は、不純物がカルシウムアルミネートの70%近くを占める場合を前提としているところ、本件特許発明1?3は、上記ア(イ)に記載のとおり、極端な量の不純物を含まないものであるから、上記主張は採用できない。 カ 上記(3)ア(エ)について 引用例1には、カルシウムアルミネートのCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比が、1.7であり、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が、38.7であり、SiO_(2)とMgOの含有モル比が、3.6である急結剤が記載されていると認める。 すると、本件特許発明1?3と引用例1に記載された発明とは、CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比、及び、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が相違するから、本件特許発明1?3は、引用例1に記載された発明であるといえない。 また、引用例1は、上記相違点を解消することについて、何らの開示も示唆もしないから、奏する効果について検討するまでもなく、本件特許発明1?3は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 なお、特許異議申立人南沢和美は、平成30年2月23日付けの意見書において、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比を25.4以下とすることは、設計事項であると主張する。 しかしながら、引用例1に記載された発明は、不純物としてMgOを0.5%含んでいるに過ぎず、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比を設計する思想がそもそもない。また仮に、引用例1に記載された発明において、MgOを1.5倍強入れることを設計したと仮定しても、その場合には、SiO_(2)とMgOの含有モル比が、2.5を下まわることとなるので、本件特許発明1?3にはならない。 キ 上記(3)ア(オ)について 引用例2には、11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)固溶体において、CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比が、2.0であり、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が、45.4であり、SiO_(2)とMgOの含有モル比が、7.0である急結剤が記載されていると認める。 してみると、引用例2に記載された発明は、カルシウムアルミネートを含有するものでないから、本件特許発明1?3は、引用例2に記載された発明であるといえない。 また、引用例2に記載された発明は、11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)固溶体を必須成分とするものであって、これをカルシウムアルミネートに変更することについて、阻害要因があるから、本件特許発明1?3は、引用例2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 ク 上記(3)ア(カ)について 引用例8、9には、カルシウムアルミネートのCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比が、1.7であり、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比は不明であり、SiO_(2)とMgOの含有モル比は不明である急結剤が記載されていると認める。 すると、本件特許発明1?3と引用例8、9に記載された発明とは、CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比、及び、SiO_(2)とMgOの含有モル比が相違するから、本件特許発明1?3は、引用例8、9に記載された発明であるといえない。 なお、特許異議申立人南沢和美は、平成30年2月23日付けの意見書において、引用例8の【0012】、及び、引用例9の【0024】に、「C_(2)A」が記載されており、また、カルシウムアルミネート中に工業原料由来の不純物として、MgO、SiO_(2)等が不可避的に一定のばらつきをもって含まれるから、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比、及び、SiO_(2)とMgOの含有モル比は相違点ではないと主張している。 しかしながら、引用例1?7に記載された事項を検討しても、CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比が2.0?2.3であり、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が18?25.4であり、且つ、SiO_(2)とMgOの含有モル比が2.5?5.0であるような、カルシウムアルミネートが、ばらつきの範囲内のものであるといえないから、引用例8、9に、「C_(2)A」が記載されているとしても、上記主張は採用できない。 また、引用例1?10のいずれにも、CaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比が2.0?2.3であり、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が18?25.4であり、且つ、SiO_(2)とMgOの含有モル比が2.5?5.0であるような、カルシウムアルミネートとする動機付けとなる記載がないから、奏する効果について検討するまでもなく、本件特許発明1?3は、引用例8に記載された発明、または、引用例9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 ケ 上記(3)ア(キ)について 引用例11に記載された技術的事項を踏まえても、本件特許発明1?3と引用例1に記載された発明との相違点である、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比の点を解消することについて、何らの開示も示唆もしないから、奏する効果について検討するまでもなく、本件特許発明1?3は、引用例1に記載された発明と、引用例11に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 なお、特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所は、平成30年2月23日付けの意見書において、施工性を良好にすることを目的として、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比を調整することは当業者が容易になしうることであると主張する。 しかしながら、引用例1、11、及び、証拠文献12?16の何れを検討しても、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比の調整により、施工性を良好にすることの着想を得ることはできないから、上記主張は採用できない。 コ 上記(3)ア(ク)について 引用例4には、「化学成分としてのCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比(CaO/Al_(2)O_(3))が2.1のカルシウムアルミネート中に化学成分としてSiO_(2)とMgOを含有し、化学成分としてのAl_(2)O_(3)とMgOの含有モル比(Al_(2)O_(3)/MgO)が28.9、且つ化学成分としてのSiO_(2)とMgOの含有モル比(SiO_(2)/MgO)が4.4である前記カルシウムアルミネートを含有することを特徴とする急結剤。」が記載されているといえる。 すると、本件特許発明1?3と引用例4に記載された発明とは、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比が相違するが、引用例4、8、9は、上記相違点を解消することについて、何らの開示も示唆もしないから、奏する効果について検討するまでもなく、本件特許発明1?3は、引用例4に記載された発明と、引用例8、9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 サ 上記(3)イ(ア)について 特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所は、特許異議申立書において、請求項1?3に係るは、引用例1に記載された発明と、引用例11及び証拠文献12?16に記載された周知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。 しかしながら、上記ケに記載のとおり、引用例11及び証拠文献12?16の何れを検討しても、Al_(2)O_(3)とMgOの含有モル比の調整により、施工性を良好にすることの着想を得ることはできないから、本件訂正請求により訂正された本件特許発明1?3は、引用例1に記載された発明と、引用例11及び証拠文献12?16に記載された周知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。 4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 化学成分としてのCaOとAl_(2)O_(3)の含有モル比(CaO/Al_(2)O_(3))が2.0?2.3のカルシウムアルミネート中に化学成分としてSiO_(2)とMgOを含有し、化学成分としてのAl_(2)O_(3)とMgOの含有モル比(Al_(2)O_(3)/MgO)が18?25.4、且つ化学成分としてのSiO_(2)とMgOの含有モル比(SiO_(2)/MgO)が2.5?5.0である前記カルシウムアルミネート100質量部、アルカリ金属アルミン酸塩10?50質量部及びアルカリ金属炭酸塩10?50質量部を含有することを特徴とする急結剤。 【請求項2】 さらに、石膏類を含有する請求項1記載の急結剤。 【請求項3】 請求項1又は2記載の急結剤とセメントを含有する吹付用セメント組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-29 |
出願番号 | 特願2012-240058(P2012-240058) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B) P 1 651・ 537- YAA (C04B) P 1 651・ 113- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 瀧口 博史 |
登録日 | 2017-02-10 |
登録番号 | 特許第6087583号(P6087583) |
権利者 | 太平洋マテリアル株式会社 |
発明の名称 | 急結剤 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 村田 正樹 |