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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A61K 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61K 審判 全部申し立て 発明同一 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1340139 |
異議申立番号 | 異議2017-700454 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-08 |
確定日 | 2018-04-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6023086号発明「ヒアルロン酸組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6023086号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-22〕、〔23-24〕について訂正することを認める。 特許第6023086号の請求項1、3ないし8、10ないし20、23に係る特許を維持する。 特許第6023086号の請求項2、9、21-22、24に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6023086号の請求項1-24に係る特許についての出願は、平成24年2月3日(パリ条約による優先権主張 2011年2月3日(欧州))を国際出願日とする特許出願である特願2013-552219号であって、平成28年10月14日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成29年5月8日に特許異議申立人 アラーガン、インコーポレイテッドから特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 平成29年 8月17日付け:取消理由の通知 同年11月20日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 平成30年 2月 9日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 平成29年11月20日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1-7、8-22、23-24は、それぞれ一群の請求項である。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に記載の「り、その濃度は、好ましくは1?5mg/mlの範囲にあ」を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に記載の「、好ましくはアスコルビルグリコシド、より好ましくはアスコルビルグルコシドであ」を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に記載の「、好ましくは0.01?0.5mg/mlの範囲」を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7に記載の「、好ましくは0.01?0.8mg/mlの範囲、より好ましくは0.05?0.4mg/mlの範囲」を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項3-5中の請求項の引用を下記のとおり訂正する。 【請求項3】 「請求項1又は2」を「請求項1」に訂正する。 【請求項4】 「請求項1?3のいずれか1項」を「請求項1又は3」に訂正する。 【請求項5】 「請求項1?4のいずれか1項」を「請求項1、3又は4」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項10に記載の「り、その濃度は、好ましくは1?5mg/mlの範囲にあ」を削除する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項11に記載の「、好ましくはアスコルビルグリコシド、より好ましくはアスコルビルグルコシドであ」を削除する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項13に記載の「、好ましくは0.01?0.5mg/mlの範囲」を削除する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項14に記載の「、好ましくは0.01?0.8mg/mlの範囲、より好ましくは0.05?0.4mg/mlの範囲」を削除する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項16に記載の「、例えば乾癬及び皮脂欠乏性湿疹」を削除する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項10-12及び15-18中の請求項の引用を下記のとおり訂正する。 【請求項10】 「請求項8又は9」を「請求項8」に訂正する。 【請求項11】 「請求項8?10のいずれか1項」を「請求項8又は10」に訂正する。 【請求項12】 「請求項8?11のいずれか1項」を「請求項8、10又は11」に訂正する。 【請求項15】 「請求項8?14」を「請求項8及び10?14」に訂正する。 【請求項16】 「請求項8?14」を「請求項8及び10?14」に訂正する。 【請求項17】 「請求項8?14」を「請求項8及び10?14」に訂正する。 【請求項18】 「請求項8?14」を「請求項8及び10?14」に訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項21及び22を削除する。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項23の 「a)ヒアルロン酸ゲル、アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される局所麻酔薬、並びに熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’に対する影響を阻止又は低減させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を混合し、」 を 「a)ヒアルロン酸ゲル、アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される局所麻酔薬、並びに熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’に対する影響を阻止又は低減させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を混合し、ここで、該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にあり、」 に訂正する。 (16)訂正事項16 特許請求の範囲の請求項24を削除する。 2 訂正の可否について (1)訂正事項1、7、14、16 これらの訂正は、請求項の記載を削除する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、これらの訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (2)訂正事項2-5、8-12 これらの訂正は、「好ましくは」あるいは「例えば」との文言が付されていたために不明瞭であった規定について、これを削除することで明瞭にするものである。このため、これらの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、これらの訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (3)訂正事項6、13 これらの訂正は、訂正事項1、7、14、16により削除された請求項の引用を解消するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、これらの訂正が新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (4)訂正事項15 この訂正は、請求項23に係る発明である「滅菌されたヒアルロン酸組成物を製造する方法」を特定するための事項として、「該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にあり、」との要件を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、上記要件は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、8、及び同明細書【0084】に記載されており、この訂正は新規事項の追加に該当しない。そして、この訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件の請求項1、3-8、10-20、23に係る発明(以下、本件特許の請求項1等に係る発明を「本件発明1」等という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、平成29年11月20日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3-8、10-20、23に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 【請求項1】 「-ヒアルロン酸、及び -アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、治療的に関連した濃度の局所麻酔薬 をさらに含む注射可能なヒアルロン酸組成物の製造における、熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるための、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体の使用であって、該組成物中のアスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にある使用。」 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 「前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項1に記載の使用。」 【請求項4】 「前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシド又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は3に記載の使用。」 【請求項5】 「前記アスコルビン酸誘導体の濃度が、0.01?0.5mg/mlの範囲にある、請求項1、3又は4に記載の使用。」 【請求項6】 「前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)及びリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)からなる群から選択され、該リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)又はリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)の濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項4に記載の使用。」 【請求項7】 「前記アスコルビン酸誘導体が、アスコルビルグルコシドであり、該アスコルビルグルコシドの濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項4に記載の使用。」 【請求項8】 「-ヒアルロン酸ゲル、 -アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、治療的に関連した濃度の局所麻酔薬、及び -熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’における影響を阻止又は減少させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体、ここで、該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にある を含む、滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項9】 (削除) 【請求項10】 「前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項8に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項11】 「前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシド又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8又は10に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項12】 「前記アスコルビン酸誘導体の濃度が、0.01?0.5mg/mlの範囲にある、請求項8、10又は11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項13】 「前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)及びリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)からなる群から選択され、該リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)又はリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)の濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項14】 「前記アスコルビン酸誘導体が、アスコルビルグルコシドであり、該アスコルビルグルコシドの濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項15】 「薬剤として使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項16】 「創傷治癒、乾燥皮膚状態及び日焼けで痛んだ皮膚の治療、沈着過度障害の治療、脱毛の治療及び予防、並びに疾患経過の要因として炎症を有する状態の治療からなる群から選択される皮膚科的治療において使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項17】 「関節内投与による関節障害の治療において使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。」 【請求項18】 「皮膚の外見の改善、脱毛の治療及び/又は予防、対象の皺のばし又は顔若しくは体の輪郭調整のための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物を含む医薬組成物。」 【請求項19】 「対象の皮膚の外見を改善するための、請求項18に記載の医薬組成物。」 【請求項20】 「対象の皺のばしのための、請求項18に記載の医薬組成物。」 【請求項21】 (削除) 【請求項22】 (削除) 【請求項23】 「a)ヒアルロン酸ゲル、アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される局所麻酔薬、並びに熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’に対する影響を阻止又は低減させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を混合し、ここで、該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にあり、 及び b)該混合物をF_(0)値≧4でのオートクレーブによって滅菌に供する ことを含む、滅菌されたヒアルロン酸組成物を製造する方法。」 【請求項24】 (削除) 第4 異議申立ての理由及び取消理由についての検討 1 異議申立ての理由について (1)異議申立ての理由の概要 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 ・申立ての理由1 本件請求項1-24に係る特許は、国際出願PCT/IB2011/000052号の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲1明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(決定注:同法第184条の13の規定で読み替える場合をいうと解される。)から、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。 ・申立ての理由2 本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件請求項2、9及び24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。 ・申立ての理由3 本件特許の特許請求の範囲の記載には不備があり、本件請求項2-4、6、7、9-11、13、14、16、23及び24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:国際公開第2011/086458号 (国際出願PCT/IB2011/000052号の国際公開 公報) 参考資料1:大阪府病院薬剤師会編、「医薬品要覧 第5版」、 薬業時報社、平成4年3月、128頁 (2)申立ての理由1について ア 甲1明細書等に記載された事項 甲1明細書等は英文であるところ、下記は甲1に添付されたその抄訳による。 (ア)「現在の皮膚充填剤は、種々の副作用を伴い得る。例えば、個人への皮膚充填剤の投与は、典型的には、注射器または針を用いて実施される。このような投与は、1つ以上の望ましくない副作用、例えば個人に対する疼痛および不快感、投与部位の中および下の出血、ならびに皮膚充填剤の投与の最中および後の投与部位の周辺の掻痒、炎症および刺激を生じ得る。本明細書中に開示される皮膚充填剤は、これらの副作用のうちの1つ以上を低減し、止め、または防止する作用物質を含むヒドロゲル組成物を提供することにより、これらのおよび他の望ましくない副作用に対処する。 さらに、皮膚充填製剤は、製品が販売され得る前に厳しい要件である滅菌に耐えることができなければならない(製品は、滅菌性でなければならない)。滅菌は、蒸気滅菌、濾過、精密濾過、ガンマ線照射、ETO光により、あるいはこれらの方法の組合せにより実行され得る。…本明細書中に開示される皮膚充填剤は、熱処理により完全に滅菌される皮膚充填剤を開発することにより、この問題に取り組み、すなわち、本発明のいくつかの実施形態では、単一で非熱処理、例えば濾過を用いて滅菌される構成成分はない。 本明細書は、組成物を滅菌するために用いられる熱処理後に依然として安定である皮膚症状を処置するのに有用な新規の皮膚充填剤を提供する。開示される皮膚充填剤の一態様、ならびに既知の皮膚充填剤を上回る有意の区別は、本明細書中に開示される皮膚充填剤が、以下の:1)グリコサミノグリカンポリマーおよび本明細書中に開示される追加の作用物質(単数または複数)を混合し、そして;(2)皮膚充填剤組成物を少なくとも100℃に熱処理すること(いかなる構成成分の濾過滅菌もなし)により調製され;この場合、(3)このような処理が、ヒドロゲル組成物の所望の特性を保持するというものである。開示されるヒドロゲル組成物は、前および後オートクレーブ処理試験により示されるように、任意の有意の分解を示さない。開示ヒドロゲル組成物は、滅菌後の以下の特質のうちの1つ以上の保持により確定されるように実質的に熱安定性である:清澄性(透明性および半透明性)、均質性、押出し力、凝集力、ヒアルロナン濃度、作用物質(単数または複数)濃度、浸透性、pH、または熱処理前にヒドロゲルにより望まれるその他の流動学的特質。」([007]-[009]) (イ)「本明細書に従って、製剤中の「%」は、重量単位の重量(すなわちw/w)パーセンテージと定義される。一例として、1%(w/w)は10mg/gの濃度を意味する。」([030]) (ウ)「一実施形態では、本明細書中に開示される組成物は、グリコサミノグリカンポリマーの分解を低減するかまたは防止するのに十分な量で、酸化防止剤を含む。この実施形態の態様では、本明細書中に開示される組成物は、ポリオール、フラボノイド、フィトアレキシン、アスコルビン酸剤、トコフェロール、トコトリエノール、リポ酸、メラトニン、カロテノイド、その類似体または誘導体、あるいはその任意の組合せを含む。 この実施形態の他の態様では、本明細書中に開示される組成物は、総組成物の重量の、例えば約0.01%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約2.0%、約3.0%、約4.0%、約5.0%、約6.0%、約7.0%、約8.0%、約9.0%または約10%の量で、酸化防止剤を含む。…」([078]-[079]) (エ)「本明細書の態様は、一部は、複素弾性率、弾性率、粘性率および/またはタンジェントデルタ(tan δ)を示す本明細書中に開示されるヒドロゲル組成物を提供する。本明細書中に開示される組成物は、力が適用された(応力、変形)場合、弾性構成成分(固体様、例えば架橋グリコサミノグリカンポリマー)および粘性構成成分(液体様、例えば非架橋グリコサミノグリカンポリマーまたは担体相)を有するという点で、粘弾性である。この特性を説明する流動学的属性は複素弾性率(G*)であり、これは、変形に対する組成物の総抵抗を定義する。複素弾性率は、実数および虚数部分を有する複合数値である:G*=G’+iG”。G*の絶対値は、Abs(G*)=Sqrt(G’2+G”2)である。複素弾性率は、弾性率(G’)および粘性率(G”)の和であると定義される…。 … 粘性率は、粘性消散として失われるエネルギーを記述するため、損失弾性率としても知られている。tanδは、粘性率と弾性率の比である:tanδ=G”/G’…。本明細書中に開示されるtanδ値に関しては、tanδは、1Hzの周波数での動的弾性率から得られる。tanδが低いほど、組成物はより堅く、より硬く、またはより弾性である。」([0105]-[0107]) (オ)「本明細書中に開示されるヒドロゲル組成物の安定性は、ヒドロゲル組成物を、正常圧での、または圧力下(例えばオートクレーブ処理)で、熱処理、例えば蒸気滅菌に付すことにより確定され得る。好ましくは熱処理は、約1分?約10分間、少なくとも約100℃の温度で実行される。本明細書中に開示されるヒドロゲル組成物の実質的安定性は、1)滅菌後の本明細書中に開示されるヒドロゲル組成物の押出力の変化(ΔF)を確定することにより(この場合、(特定添加物を有するヒドロゲル組成物の押出力)-(付加添加物を有さないヒドロゲル組成物の押出力)により測定して、2Nより低い押出力の変化が、実質的に安定なヒドロゲル組成物を示す);および/または2)滅菌後の本明細書中に開示されるヒドロゲル組成物の流動学的特性の変化を確定することにより(この場合、(添加物を有するゲル製剤のtanδ1Hz)-(添加物を有さないゲル製剤のtanδ1Hz)により測定して、0.1未満のtanδ1Hzの変化が、実質的に安定なヒドロゲル組成物を示す)、評価され得る。したがって、本明細書中に開示される実質的安定ヒドロゲル組成物は、滅菌後に以下の特質のうちの1つ以上を保持する:均質性、押出力、凝集性、ヒアルロナン濃度、作用物質(単数または複数)濃度、浸透圧、pH、または熱処理前にヒドロゲルにより所望されるその他の流動学的特質。」([0126]) (カ)「実施例3 HAベースのゲル製剤押出可能性および安定性に及ぼすビタミンC誘導体の作用 アスコルビン酸を、1%(w/w)の濃度で、HAベースのゲルマトリックス中に混入し、ゲルのpHを約7に調整して、次に、約130℃?約135℃の温度で、約1分?約10分間、蒸気滅菌によりオートクレーブ処理した。オートクレーブ処理前は透明で無色であったが、ゲルは、オートクレーブ処理後は、透明であるがしかし黄色になり、このことは、試験ゲルが分解されたことを示している。」(実施例3) (キ)「実施例12 HAベースのゲル製剤の押出可能性および安定性に及ぼすビタミンC誘導体、ビタミンE誘導体および麻酔剤の作用 リドカインを、0.3%(w/w)の濃度で、0.6%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))または0.6%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))および1.5%(w/w)TPGSを含むHAベースのゲルマトリックス中に混入し、ゲルを実施例3と同様にオートクレーブ処理した。オートクレーブ処理の前および後の両方で、ゲルは透明で無色であった。流動学的分析は、試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し、そして試験ゲルは対照に比して分解を示さず、これはゲルが安定であったことを示している、ということを示した(表9)。 」(実施例12) (ク)「実施例15 ビタミンC誘導体はHAベースのゲル製剤を酸化的分解から保護する HAベースのゲルマトリックス酸化的分解に及ぼすアスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))の作用を試験した。フリーラジカルに対するHAベースのゲルマトリックスの抵抗性の試験を可能にするので、酸化試験を用いた。以下の方法に従って、制御応力レオメーターで測定される拡散ゲルの表面の1/7比のH_(2)O_(2)30%の付加により、フリーラジカルによる分解を、レオメーター(Haake Rheostress 600)でシミュレートした:35℃で3600sの間、0.8%制御歪みで1Hzの周波数。時間値は5Pa/sで得る。 さらに、HAベースのゲルマトリックス+0.3(決定注:甲1明細書に記載の「%」が脱落。)(w/w)リドカインおよび0.06%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))(15800s)対HAベースのゲルマトリックス+0.3%(w/w)リドカイン(4942s)に関する酸化防止特性の比較は、アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))およびリドカインを含有するゲルが、フリーラジカル活性に関して、より安定である、ということを示した(図7)。アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G(商標))は、酸化的分解から3倍強く保護した。」(実施例15) (ケ)「41.ヒアルロン酸、ならびにAA2Gおよびデクスパンテノールからなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分を含む蒸気滅菌安定皮膚充填製剤であって、皮膚充填製剤の安定性が追加の成分の付加により有意に増大される製剤。」(請求項41) イ 対比・判断 (ア)甲1明細書等に記載された発明 a 甲1明細書等には、酸化的分解からの保護を試験するための「HAベースのゲルマトリックス+0.3%(w/w)リドカインおよび0.06%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))」(上記ア(ク))が記載されている。 ここで、ゲルマトリックスはゲル製剤と解される。 また、甲1明細書等における「HA」とは、ヒアルロン酸のことである(例えば、[003]参照。)。 そうすると、甲1明細書等には以下の「甲1発明1」が記載されている。 「ヒアルロン酸、0.3%(w/w)リドカイン、及び0.06%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシドを含むゲル製剤」 b また、甲1明細書等には、「ヒアルロン酸、ならびにAA2Gおよびデクスパンテノールからなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分を含む蒸気滅菌安定皮膚充填製剤であって、皮膚充填製剤の安定性が追加の成分の付加により有意に増大される製剤」(上記ア(ケ))が記載されている。「AA2G」は、上記ア(ク)にもあるとおり、アスコルビン酸2-グルコシドである。 そうすると、甲1明細書等には以下の「甲1発明2」が記載されている。 「ヒアルロン酸、並びにアスコルビン酸2-グルコシド及びデクスパンテノールからなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分を含む蒸気滅菌安定皮膚充填製剤であって、皮膚充填製剤の安定性が追加の成分の付加により有意に増大される製剤」 c 更に、甲1明細書等には、「リドカインを、0.3%(w/w)の濃度で、0.6%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G^(TM))…を含むHAベースのゲルマトリックス中に混入し、ゲルを実施例3と同様にオートクレーブ処理した」点(上記ア(キ))、そして、「オートクレーブ処理の前および後の両方で、ゲルは透明で無色であった。流動学的分析は、試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し、そして試験ゲルは対照に比して分解を示さず、これはゲルが安定であったことを示している。」(上記ア(キ))との点が記載されている。 そうすると、甲1明細書等には以下の「甲1発明3」が記載されている。 「ヒアルロン酸、0.3%(w/w)リドカイン、0.6%(w/w)アスコルビン酸2-グルコシドを含む、オートクレーブ処理の前及び後の両方で、ゲルは透明で無色であり、流動学的分析では、試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し、試験ゲルは対照に比して分解を示さず、ゲルが安定であったことを示すゲル製剤」 (イ)本件発明1と甲1発明1との対比及び判断 a 対比 甲1発明1のアスコルビン酸2-グルコシドの濃度は、0.06%(w/w)であり、これは、上記ア(イ)を参照すると、0.6mg/gとなるところ、ゲル製剤の比重が1g/mlから一桁程度異なるとは通常考えられないことを併せて考慮すると、上記濃度は、本件発明1の「0.01?5mg/ml」の範囲にあるものと認められる。 また、アスコルビン酸2-グルコシドは、アスコルビルグリコシドであり、アスコルビン酸誘導体である。 さらに、リドカインは、アミド型の局所麻酔薬であり、0.3%(w/w)という濃度は、本件発明1でいう「治療的に関連した濃度」といえる。 そして、甲1発明1は、ゲル製剤の製造のために、ヒアルロン酸、アミド型の局所麻酔薬である治療的に関連した濃度の局所麻酔薬、及びアスコルビン酸誘導体を使用するものといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「ヒアルロン酸及びアミド型の局所麻酔薬である治療的に関連した濃度の局所麻酔薬を含む、ヒアルロン酸組成物の製造におけるリン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体の使用であって、該組成物中のアスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にある使用。」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、「注射可能な」組成物であるのに対し、甲1発明1は、これについて明らかでない点。 相違点2:本件発明1は、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を「熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるため」に使用するものであるのに対し、甲1発明1は、これについて明らかでない点。 b 判断 相違点2について検討する。 甲1明細書等の実施例15には、濃度が0.01?5mg/mlの範囲にあるアスコルビン酸誘導体を用いて、局所麻酔薬を含むヒアルロン酸ベースのゲル製剤を酸化的分解から保護することが記載されている(上記ア(ク))。しかし、この実施例では、熱による滅菌を実施することは記載されておらず、また、示唆もない。このため、この実施例は、アスコルビン酸誘導体を用いて該ゲル製剤の酸化的分解からの保護について確認するにとどまり、熱による滅菌を施したゲル製剤について、粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響、とりわけ、該影響の阻止又は減少について検討したものとはいえない。 そうすると、甲1発明1は、アスコルビン酸誘導体を「熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるため」に使用するものとの認識を有するものとはいえないので、本件発明1と甲1発明1とは、相違点2において相違する。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1と同一であるとはいえず、甲1発明1からは特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 (ウ)本件発明1と甲1発明2との対比及び判断 a 対比 甲1発明2における「皮膚充填製剤」は、「個人への皮膚充填剤の投与は、典型的には、注射器または針を用いて実施される。」(上記ア(ア))との記載からみて、注射可能なものを意図していると認められる。また、アスコルビン酸2-グルコシドは、アスコルビルグリコシドであり、アスコルビン酸誘導体である。 そして、デクスパンテノールは薬剤であるから、甲1発明2は、皮膚充填製剤の製造のために、ヒアルロン酸、薬剤、及びアスコルビン酸誘導体を使用するものといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明2とは、 「ヒアルロン酸、薬剤、及びアスコルビン酸誘導体を含む注射可能なヒアルロン酸組成物の製造における、アスコルビン酸誘導体の使用。」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点3:本件発明1は、薬剤が「アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、治療的に関連した濃度の局所麻酔薬」であるのに対し、甲1発明2は「デクスパンテノール」である点。 相違点4:本件発明1は、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を「熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるため」に使用するものであるのに対し、甲1発明2は、ヒアルロン酸、アスコルビン酸2-グルコシド、及びデクスパンテノールからなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分を、皮膚充填製剤が受ける蒸気滅菌に対する安定性を有意に増大するのに使用するものである点。 b 判断 相違点3について検討する。 甲1発明2は、薬剤としてデクスパンテノールを含有するのみであり、その他の薬剤の使用を意図したものと解することができない。甲1明細書等の実施例において、局所麻酔薬を用いたものが記載されているとしても、それは、甲1発明2の実施態様とはいえない。 このため、本件発明1と甲1発明2とは、相違点3において相違する。 したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明2と同一であるとはいえず、甲1発明2からは特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 (エ)本件発明1と甲1発明3との対比及び判断 a 対比 甲1発明3のアスコルビン酸2-グルコシドの濃度は、0.6%(w/w)であり、これは、上記ア(イ)を参照すると、6mg/gとなる。また、アスコルビン酸2-グルコシドは、アスコルビルグリコシドであり、アスコルビン酸誘導体である。 リドカインは、アミド型の局所麻酔薬である。0.3%(w/w)という濃度は、本件発明1でいう「治療的に関連した濃度」といえる。 そして、甲1発明3は、ゲル製剤の製造のために、ヒアルロン酸、アミド型の局所麻酔薬である治療的に関連した濃度の局所麻酔薬、及びアスコルビン酸誘導体を使用するものであり、甲1発明3における「試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し」との特徴は、甲1発明3に係るゲル製剤が「注射可能な」ものであることを意味するといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明3とは、 「ヒアルロン酸、アミド型の局所麻酔薬である治療的に関連した濃度の局所麻酔薬、及びアスコルビン酸誘導体を含む、注射可能なヒアルロン酸組成物の製造における、該組成物中のアスコルビン酸誘導体の使用。」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点5:本件発明1は、アスコルビン酸誘導体の濃度は「0.01?5mg/mlの範囲」にあるのに対し、甲1発明3は、「6mg/g」である点。 相違点6:本件発明1は、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を「熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるため」に使用するものであるのに対し、甲1発明3は、「オートクレーブ処理の前及び後の両方で、ゲルは透明で無色であり、流動学的分析では、試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し、試験ゲルは対照に比して分解を示さず、ゲルが安定であったことを示す」ものである点。 b 判断 相違点5及び6について検討する。 甲1発明3におけるアスコルビン酸誘導体の濃度は、6mg/gである。甲1発明3は、「ヒドロゲル」に係るものである(上記ア(ア)、(エ)、(オ))ことに鑑みると、この濃度は、組成物中において「0.01?5mg/mlの範囲」外と解される。そして、甲1発明3に係る実施例12において確認された「オートクレーブ処理の前及び後の両方で、ゲルは透明で無色」であり、「流動学的分析では、試験ゲルが許容可能な押出力特性を有し、試験ゲルは対照に比して分解を示さず、ゲルが安定」という状態を示すものが、アスコルビン酸誘導体の濃度を「0.01?5mg/mlの範囲」としたものであり、「熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるため」としたものとして記載されているに等しいということはできない。 このため、本件発明1と甲1発明3とは、相違点5及び6において相違する。 したがって、本件発明1は甲1発明3と同一であるとはいえず、甲1発明3からは特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 (オ)本件発明3-8、10-20及び23と、甲1発明1、2及び3との対比及び判断 本件発明8と甲1発明1、2及び3との間には、上記(イ)-(エ)で検討したとおりの相違点が存在し、そして、同様の理由により、本件発明8と甲1発明1、2又は3のいずれとも同一であるとはいえない。 本件発明23と甲1発明1、2及び3との間には、少なくとも上記(イ)-(エ)で検討した相違点2-6が存在し、そして、同様の理由により、本件発明23と甲1発明1、2又は3のいずれとも同一であるとはいえない。 そして、本件発明3-7及び10-20は、本件発明1又は8のいずれか一つを引用するものであるから、同様の理由により、甲1発明1、2又は3のいずれとも同一であるとはいえない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1、3-8、10-20及び23に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、申立人からの異議申立ての理由1には理由がない。 (3)申立ての理由2及び3について ア 本件発明2、9及び24について 申立人は、本件請求項2、9及び24についての不備を主張する。 しかし、これらの請求項は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 なお、申立人は、平成30年2月9日付けの意見書において、少なくとも本件特許発明1、8及び23は、発明の詳細な説明に充分に開示しているとはいえない旨主張するが、この主張は、申立書に記載されていなかった新たな取消理由を主張するものであり、しかも、本件訂正によって生じた理由であるとも認められず、よって申立人の当該主張は採用できない。 イ 本件発明3及び10について 申立人は、本件請求項3及び10には、「好ましくは1?5mg/ml」との記載があるため、局所麻酔薬であるリドカインの濃度の範囲が不明瞭である旨主張する。 しかし、この文言は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 ウ 本件発明4及び11について 申立人は、本件請求項4及び11には、「好ましくはアスコルビルグリコシド、より好ましくはアスコルビルグルコシドである」との記載があるため、アスコルビン酸誘導体の範囲が不明瞭である旨主張する。 しかし、この文言は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 エ 本件発明6及び13について 申立人は、本件請求項6及び13には、「好ましくは0.01?0.5mg/mlの範囲にある」との記載があるため、リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)又はリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)の濃度の範囲が不明瞭である旨主張する。 しかし、この文言は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 オ 本件発明7及び14について 申立人は、本件請求項7及び14には、「好ましくは0.01?0.8mg/mlの範囲、より好ましくは0.05?0.4mg/mlの範囲にある」との記載があるため、アスコルビルグルコシドの濃度の範囲が不明瞭である旨主張する。 しかし、この文言は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 カ 本件発明16について 申立人は、本件請求項16には、「例えば乾癬及び皮脂欠乏性湿疹」との記載があるため、「疾患経過の要因として炎症を有する状態」がこの文言に限定されるのか否か不明瞭である旨主張する。 しかし、この文言は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 キ 本件発明23について 申立人は、本件請求項23に記載された「熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’に対する影響を阻止又は低減させる量」とは如何なる量であるのか不明であり、本件発明23の範囲が不明瞭である旨主張する。 しかし、この請求項は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、上記主張は成り立たない。 ク まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1、3-8、10-20及び23に係る特許は、特許法第36条第6項第1号ないし同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、申立人からの異議申立ての理由2及び3には理由がない。 2 当審からの取消理由についての検討 (1)本件発明21及び22について 合議体は、平成29年8月17日付けの取消理由通知において、申立人からの異議申立理由と併せ、本件発明21及び22に対し、以下の取消理由を通知した。 「C 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 … (2)本件発明21には 『a)請求項8?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物を用意し;及び b)該滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物を対象の皮膚に注射する ことを含む、皮膚の外見の改善、脱毛の予防及び/又は治療、対象の顔又は体の皺のばし又は輪郭調整のための医薬組成物。』と、 本件発明22には 『前記滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物が、真皮及び/又は皮下組織に注射される、請求項21に記載の医薬組成物。』と、それぞれ規定されているとおり、本件発明21、22は『医薬組成物』という物の発明である。 しかし、『…ヒアルロン酸組成物を用意し』、『…皮膚に注射する』、『…真皮及び/又は皮下組織に注射される』との規定は、『医薬組成物』という物自体を具体的にどのように構成することを意味するのか、皆目見当が付かない。 このため、本件発明21、22は明確でない。」 これに対し、本件請求項21及び22は、上記のとおり本件訂正が認められることにより削除された。このため、この取消の理由は解消した。 3 まとめ 以上のことから、本件発明1、3-8、10-20及び23に係る特許は、特許法第184条の13の規定で読み替える同法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえず、また、同法第36条第6項第1号ないし同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものともいえず、本件発明に係る特許は、取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 -ヒアルロン酸、及び -アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、治療的に関連した濃度の局所麻酔薬 をさらに含む注射可能なヒアルロン酸組成物の製造における、熱による滅菌に起因した該組成物の粘度及び/又は弾性係数G’への該局所麻酔薬の影響を阻止又は減少させるための、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体の使用であって、該組成物中のアスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にある使用。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項1に記載の使用。 【請求項4】 前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシド又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は3に記載の使用。 【請求項5】 前記アスコルビン酸誘導体の濃度が、0.01?0.5mg/mlの範囲にある、請求項1、3又は4に記載の使用。 【請求項6】 前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)及びリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)からなる群から選択され、該リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)又はリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)の濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項4に記載の使用。 【請求項7】 前記アスコルビン酸誘導体が、アスコルビルグルコシドであり、該アスコルビルグルコシドの濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項4に記載の使用。 【請求項8】 -ヒアルロン酸ゲル、 -アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、治療的に関連した濃度の局所麻酔薬、及び -熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’における影響を阻止又は減少させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体、ここで、該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にある を含む、滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項9】(削除) 【請求項10】 前記局所麻酔薬がリドカインである、請求項8に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項11】 前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシド又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8又は10に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項12】 前記アスコルビン酸誘導体の濃度が、0.01?0.5mg/mlの範囲にある、請求項8、10又は11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項13】 前記アスコルビン酸誘導体が、リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)及びリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)からなる群から選択され、該リン酸アスコルビルナトリウム(SAP)又はリン酸アスコルビルマグネシウム(MAP)の濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項14】 前記アスコルビン酸誘導体が、アスコルビルグルコシドであり、該アスコルビルグルコシドの濃度が、0.01?1mg/mlの範囲にある、請求項11に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項15】 薬剤として使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項16】 創傷治癒、乾燥皮膚状態及び日焼けで痛んだ皮膚の治療、沈着過度障害の治療、脱毛の治療及び予防、並びに疾患経過の要因として炎症を有する状態の治療からなる群から選択される皮膚科的治療において使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項17】 関節内投与による関節障害の治療において使用するための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物。 【請求項18】 皮膚の外見の改善、脱毛の治療及び/又は予防、対象の皺のばし又は顔若しくは体の輪郭調整のための、請求項8及び10?14のいずれか1項に記載の滅菌された注射可能なヒアルロン酸組成物を含む医薬組成物。 【請求項19】 対象の皮膚の外見を改善するための、請求項18に記載の医薬組成物。 【請求項20】 対象の皺のばしのための、請求項18に記載の医薬組成物。 【請求項21】(削除) 【請求項22】(削除) 【請求項23】 a)ヒアルロン酸ゲル、アミド型及びエステル型の局所麻酔薬又はそれらの組み合わせからなる群から選択される局所麻酔薬、並びに熱による滅菌時に局所麻酔薬によって生じる組成物の粘度及び/又は弾性係数G’に対する影響を阻止又は低減させる量の、リン酸アスコルビル、硫酸アスコルビル及びアスコルビルグリコシドからなる群から選択されるアスコルビン酸誘導体を混合し、ここで、該アスコルビン酸誘導体の濃度は0.01?5mg/mlの範囲にあり、 及び b)該混合物をF_(0)値≧4でのオートクレーブによって滅菌に供する ことを含む、滅菌されたヒアルロン酸組成物を製造する方法。 【請求項24】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-03-26 |
出願番号 | 特願2013-552219(P2013-552219) |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 853- YAA (A61K) P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 851- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 常見 優、田村 直寛 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 関 美祝 |
登録日 | 2016-10-14 |
登録番号 | 特許第6023086号(P6023086) |
権利者 | キュー-メド アクティエボラーグ |
発明の名称 | ヒアルロン酸組成物 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 落合 康 |
代理人 | 松谷 道子 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 青山 葆 |