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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 一部申し立て 特29条の2  C08G
管理番号 1340144
異議申立番号 異議2017-701055  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-10 
確定日 2018-04-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6123939号発明「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6123939号の請求項1ないし3、5ないし18、20ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6123939号の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成28年7月13日(優先権主張 平成27年7月31日 同年9月14日 同年10月30日)に特許出願され、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、同年5月10日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年11月10日に信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1?3、5?18、20?22に対してそれぞれ特許異議の申立てがされ、平成30年1月10日付けで当審より特許異議申立人に対し審尋がされ、それに対し平成30年3月15日に回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6123939号の請求項1?22の特許に係る発明(以下「本件発明1?22」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
式(1a):
【化1】

[式中:
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
-(OC_(4)F_(8))_(a)-(OC_(3)F_(6))_(b)-(OC_(2)F_(4))_(c)-(OCF_(2))_(d)-(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0?200の整数であって、a、b、cおよびdの和は5以上であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。また、式(1a)において、PFPE基は、上記式の左末端の酸素原子がRf基に結合し、右末端の炭素原子がX基に結合する。)
で表される基であり;
Xは、それぞれ独立して、下記の2価の有機基:
-C_(1-6)アルキレン基、または
-R^(31)-X^(c)-R^(31)-
[式中:
R^(31)は、それぞれ独立して、単結合または-(CH_(2))_(s’)-(式中、s’は、1?6の整数である。)を表し、ただし、R^(31)が両方同時に単結合である場合は除く;
X^(c)は、
-O-、
-CONR^(34)-、または
-O-CONR^(34)-、
(式中:
R^(34)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはC_(1-6)アルキル基を表す。)
である。]
で表される基
を表し;
αは、1であり;
βは、1であり;
R^(b)は、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR^(5)_(n)R^(6)_(3-n)を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、C_(1-6)アルキレン基、または-(CH_(2))_(g’)-O-(CH_(2))_(h’)-(式中、g’は0?6の整数であり、h’は1?6の整数である。)を表し;
R^(5)は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または-OR、-OCOR、-O-N=C(R)_(2)、-N(R)_(2)、-NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1?4のアルキル基を示す)を表し;
R^(6)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1?20のアルキル基を表し;
nは、(-Y-SiR^(5)_(n)R^(6)_(3-n))単位毎に独立して、1?3の整数を表し;
kは、0であり;
lは、3であり;
mは、0である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項2】
Rfが、炭素数1?16のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項3】
PFPEが、以下の式(i)?(iv)のいずれか:
-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))_(b)- (i)
[式中、bは5?200の整数である。]
-(OCF(CF_(3))CF_(2))_(b)- (ii)
[式中、bは5?200の整数である。]
-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2))_(a)-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))_(b)-(OCF_(2)CF_(2))_(c)-(OCF_(2))_(d)- (iii)
[式中、aおよびbは、それぞれ独立して、0?30の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して、1?200の整数であり、a、b、cおよびdの和は5以上であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
または
-(OC_(2)F_(4)-R^(8))_(n”)- (iv)
[式中、R^(8)は、OC_(2)F_(4)、OC_(3)F_(6)およびOC_(4)F_(8)から選択される基であるか、
あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせであり;
n”は、2?100の整数であり、
各繰り返し単位であるOC_(2)F_(4)、OC_(3)F_(6)およびOC_(4)F_(8)の合計は、5以上である。]
で表される基である、請求項1または2に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項4】
Xが、それぞれ独立して:
-CH_(2)O(CH_(2))_(2)-、
-CH_(2)O(CH_(2))_(3)-、
-CH_(2)O(CH_(2))_(6)-、
-(CH_(2))_(2)-、
-(CH_(2))_(3)-、
-(CH_(2))_(4)-、
-(CH_(2))_(5)-、
-(CH_(2))_(6)-、
-CONH-(CH_(2))_(3)-、
-CON(CH_(3))-(CH_(2))_(3)-、
-CONH-(CH_(2))_(6)-、
-CON(CH_(3))-(CH_(2))_(6)-、
-CH_(2)O-CONH-(CH_(2))_(3)-、
-CH_(2)O-CONH-(CH_(2))_(6)-、
-OCH_(2)-、および
-O(CH_(2))_(3)-、
からなる群から選択される、請求項1?3のいずれかに記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項5】
Rf-PFPE部の数平均分子量が、500?30,000である、請求項1?4のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項6】
2,000?32,000の数平均分子量を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の式(1a)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する、表面処理剤。
【請求項8】
含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒から選択される1種またはそれ以上の他の成分をさらに含有する、請求項7に記載の表面処理剤。
【請求項9】
含フッ素オイルが、式(3):
R^(21)-(OC_(4)F_(8))_(a’)-(OC_(3)F_(6))_(b’)-(OC_(2)F_(4))_(c’)-(OCF_(2))_(d’)-R^(22)
・・・(3)
[式中:
R^(21)は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基を表し;
R^(22)は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項8に記載の表面処理剤。
【請求項10】
含フッ素オイルが、式(3a)または(3b):
R^(21)-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))_(b’’)-R^(22) ・・・(3a)
R^(21)-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2))_(a’’)-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))b’’-(OCF_(2)CF_(2))_(c’’)-(OCF_(2))_(d’’)-R^(22) ・・・(3b)
[式中:
R^(21)は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基を表し;
R^(22)は、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基、フッ素原子または水素原子を表し;
式(3a)において、b’’は1以上100以下の整数であり;
式(3b)において、a’’およびb’’は、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、c’’およびd’’は、それぞれ独立して1以上300以下の整数であり;
添字a’’、b’’、c’’またはd’’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項8または9に記載の表面処理剤。
【請求項11】
少なくとも式(3b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む、請求項10に記載の表面処理剤。
【請求項12】
請求項1?6のいずれか1項に記載の式(1a)で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と、式(3b)で表される化合物との質量比が、4:1?1:4である、請求項10または11に記載の表面処理剤。
【請求項13】
式(3a)で表される化合物が、2,000?8,000の数平均分子量を有する、請求項10?12のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項14】
式(3b)で表される化合物が、2,000?30,000の数平均分子量を有する、請求項10?13のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項15】
式(3b)で表される化合物が、8,000?30,000の数平均分子量を有する、請求項10?14のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項16】
さらに溶媒を含む、請求項7?15のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項17】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項7?16のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項18】
真空蒸着用である、請求項7?17のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項19】
請求項7?18のいずれか1項に記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項20】
基材と、該基材の表面に、請求項1?6のいずれか1項に記載の化合物または請求項7?18のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項21】
前記物品が光学部材である、請求項20に記載の物品。
【請求項22】
前記物品がディスプレイである、請求項20に記載の物品。」

第3 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立書に記載された特許異議申立理由の概要は次のとおりである。

理由1 特許法第29条の2について
本件発明1?3、5?12、16?18及び20?22は、本件発明に係る特許出願の日前の下記の他の特許出願であって、当該特許出願後に出願公開されたものとみなされたものについて、当該他の特許出願を基礎として特許法第41条第1項の規定による優先権の主張がされた下記特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明のうち、当該他の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、また、当該発明を発明した者が本件発明の発明者と同一の者ではなく、本件発明に係る特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願の出願人とが同一の者でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1?3、5?12、16?18及び20?22の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

他の特許出願:特願2015-85708号
他の特許出願を基礎として特許法第41条第1項の規定による優先権の主張がされた特許出願:特願2016-82843号

理由2 特許法第36条第6項第2号について
a 本件発明1のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を表す式(1a)において、「X基はフッ素原子、C_(1-3)アルキル基及びC_(1-3)フルオロアルキル基(好ましくは、C_(1-3)パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい」とすると、PTPE基が次式
-(OC_(4)F_(8))_(a)-(OC_(3)F_(6))_(b)-(OC_(2)F_(4))_(c)-(OCF_(2))_(d)-
であることから、X基が例えばC_(1-3)フルオロアルキレン基である場合、PFPE基にこのC_(1-3)フルオロアルキレン基の一部又は全部が含まれるとも捉えることができ、化合物の構造として確定することができないから、本件発明1の範囲が不明確である。

b 本件特許明細書に記載の「実施例」は、本件発明1を実施した例であるところ、実施例3で用いているパーフルオロポリエーテル含有シラン化合物は本件発明1の基Xが単結合である点で本件発明1の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載とが一致しておらず、本件発明1の範囲が不明確である。

c 本件発明8?12の「含フッ素オイル」、本件発明16の「溶媒」はいずれも「パーフルオロブチルエーテル(C_(4)F_(9)OC_(2)H_(5))」であり得るところ、本件発明8?12の「含フッ素オイル」と本件発明16の「溶媒」とは、互いに構造が同じ化合物を含んでいるから発明の構成が不明確であり、本件特許明細書の実施例1?5に記載された「ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)」が本件発明8?12の「含フッ素オイル」と本件発明16の「溶媒」のいずれに該当するか不明である。

したがって、本件発明1、8?12及び16の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由3 特許法第36条第6項第1号について
a 本件特許明細書において、表面処理剤としての本件発明の作用効果が実証されているのは、合成例3、5、6、7で得たパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物をそれぞれハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)単独に溶解させて調製した表面処理剤を用いた実施例1?5だけであるところ、該ハイドロフルオロエーテルが本件発明8?12の「含フッ素オイル」に該当する場合は、「溶媒」を配合した表面処理剤については本件発明の作用効果が実証されていないため本件発明16はサポート要件違反に該当し、該ハイドロフルオロエーテルが本件発明16の「溶媒」に該当する場合は、「含フッ素オイル」を配合した表面処理剤については本件発明の作用効果が実証されていないため、本件発明8?12はサポート要件違反に該当する。

b 本件特許明細書に記載の実施例1?5では、パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物に低分子量のハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)(分子量264.09)が単独で添加された表面処理剤しか開示されていないところ、本件発明13?15で規定されるような非常に大きな分子量を有する化合物である「含フッ素オイル」を配合した表面処理剤については、実施例としての具体的な開示はなく、その作用効果も確認されていない。また、上記実施例1?5の結果から本件発明13?15の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないしは一般化できるものではない。

したがって、本件発明8?16の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1 理由1について
(1)引用出願及びその記載事項
特願2015-85708号(以下「先願」という。)
(先願を優先権主張の基礎とする特許出願:特願2016-82843号(以下「優先出願」という。)

先願及び優先出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲には、以下の事項が共通して記載されている。

「【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rfは1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基であり、Yは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1?3の整数であり、aは1?5の整数であり、mは1?5の整数であり、αは1又は2である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
【請求項2】
前記式(1)のαが1であり、Rf基が下記一般式(2)で表される基であることを特徴とする請求項1記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
【化2】

(式中、p、q、r、sはそれぞれ0?200の整数で、p+q+r+s=3?200であり、各繰り返し単位は直鎖状でも分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、dは1?3の整数であり、該単位は直鎖状でも分岐状であってもよい。)」

「【0011】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、官能性基の数が多いことから基材密着性が向上し、これにより該シラン及び/又はその部分(加水分解)縮合物を含有する表面処理剤により表面処理された物品は、撥水撥油性及び耐摩耗性に優れる。」

「【0013】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランは、1価のフルオロオキシアルキル基又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基(Rf)と、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基あるいは水酸基含有シリル基(-Si(R)_(3-n)(X)_(n))が、炭化水素鎖(Y)及び(W)を介して結合した構造であり、ポリマー内に反応性官能基を3個以上有することで基材密着性が向上し、耐摩耗性に優れることを特徴としている。
【0014】
上記Rfとして、αが1の場合、下記一般式(2)で表される1価のフルオロオキシアルキル基が好ましい。
【化10】

(式中、p、q、r、sはそれぞれ0?200の整数で、p+q+r+s=3?200であり、各繰り返し単位は直鎖状でも分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、dは1?3の整数であり、該単位は直鎖状でも分岐状であってもよい。)」

「【0018】
Rfとして、具体的には、下記のものを例示することができる。
【化12】

(式中、p’、q’、r’、s’はそれぞれ1以上の整数であり、その上限は上記p、q、r、sの上限と同じである。uは1?24、vは1?24の整数である。各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)」

「【0102】
本発明は、更に上記フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランを含有する表面処理剤を提供する。該表面処理剤は、該フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランの水酸基、又は該フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランの末端加水分解性基を予め公知の方法により部分的に加水分解した水酸基を縮合させて得られる部分(加水分解)縮合物を含んでいてもよい。
【0103】
表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn-ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、フッ素変性カルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn-ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫、フッ素変性カルボン酸などが望ましい。
加水分解縮合触媒の添加量は触媒量であり、通常、フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン及び/又はその部分(加水分解)縮合物100質量部に対して0.01?5質量部、特に0.1?1質量部である。
【0104】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン、エチルパーフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0105】
上記溶剤はその2種以上を混合してもよく、フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン及びその部分(加水分解)縮合物を均一に溶解させることが好ましい。なお、溶剤に溶解させるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン及びその部分(加水分解)縮合物の最適濃度は、処理方法により異なり、秤量し易い量であればよいが、直接塗工する場合は、溶剤及びフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン(及びその部分(加水分解)縮合物)の合計100質量部に対して0.01?10質量部、特に0.05?5質量部であることが好ましく、蒸着処理をする場合は、溶剤及びフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン(及びその部分(加水分解)縮合物)の合計100質量部に対して1?100質量部、特に3?30質量部であることが好ましい。
【0106】
本発明の表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。蒸着処理時の加熱方法は、抵抗加熱方式でも、電子ビーム加熱方式のどちらでもよく、特に限定されるものではない。また、硬化温度は、硬化方法によって異なるが、例えば、直接塗工(刷毛塗り、ディッピング、スプレー等)の場合は、25?200℃、特に25?80℃にて30分?36時間、特に1?24時間とすることが好ましい。また、蒸着処理で施与する場合は、20?200℃の範囲が望ましい。また、加湿下で硬化させてもよい。硬化被膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1?100nm、特に1?20nmである。また、例えばスプレー塗工では予め水分を添加したフッ素系溶剤に希釈し、加水分解、つまりSi-OHを生成させた後にスプレー塗工すると塗工後の硬化が速い。
【0107】
本発明の表面処理剤で処理される基材は特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミック、石英など各種材質のものであってよい。本発明の表面処理剤は、前記基材に撥水撥油性を付与することができる。特に、SiO_(2)処理されたガラスやフイルムの表面処理剤として好適に使用することができる。
【0108】
本発明の表面処理剤で処理される物品としては、カーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品が挙げられる。本発明の表面処理剤は、前記物品に指紋及び皮脂が付着するのを防止し、更に傷つき防止性を付与することができるため、特にタッチパネルディスプレイ、反射防止フイルムなどの撥水撥油層として有用である。
【0109】
また、本発明の表面処理剤は、浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の防汚コーティング、自動車、電車、航空機などの窓ガラス又は強化ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング、外壁用建材の撥水撥油コーティング、台所用建材の油汚れ防止用コーティング、電話ボックスの防汚及び貼り紙・落書き防止コーティング、美術品などの指紋付着防止付与のコーティング、コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング、金型用に離型剤あるいは塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性改質剤又は分散性改質剤、テープ、フイルムなどの潤滑性向上剤としても有用である。」

「【0111】
[実施例1]
反応容器に、下記式(A)
【化52】

で表される化合物300g(8.3×10^(-2)mol)、臭化アリル50g(4.2×10^(-1)mol)、テトラブチルアンモニウムヨージド0.6g(1.7×10^(-3)mol)を混合した。続いて、水酸化カリウム23g(4.2×10^(-1)mol)を添加した後、70℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去した。上記操作を再度行うことで、下記式(B)
【化53】

で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー270gを得た。
【0112】
^(1)H-NMR
δ2.4-2.6(C-CH_(2)CH=CH_(2))4H
δ4.0-4.1(O-CH_(2)CH=CH_(2))2H
δ4.9-5.2(-CH_(2)CH=CH_(2))6H
δ5.7-5.9(-CH_(2)CH=CH_(2))3H
【0113】
反応容器に、上記で得られた下記式(B)
【化54】

で表される化合物200g(5.5×10^(-2)mol)、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン200g、トリメトキシシラン40g(3.3×10^(-1)mol)、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液2.0×10^(-1)g(Pt単体として6.0×10^(-7)molを含有)を混合し、80℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去し、液状の生成物210gを得た。
【0114】
得られた化合物は、NMRにより下記式(C)で表される構造であることが確認された。
【化55】

【0115】
^(1)H-NMR
δ0.5-0.7(-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-Si)6H
δ1.4-1.9(-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-Si)12H
δ3.3-3.7(-Si(OCH_(3))_(3))27H」

「【0131】
[実施例5]
反応容器に、下記式(X)
【化68】

で表される化合物100g(5.0×10^(-2)mol)、臭化アリル30g(2.5×10^(-1)mol)、テトラブチルアンモニウムヨージド0.36g(1.0×10^(-3)mol)を混合した。続いて、水酸化カリウム14g(2.5×10^(-1)mol)を添加した後、70℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去した。上記操作を再度行うことで、下記式(Y)
【化69】

で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー98gを得た。
【0132】
^(1)H-NMR
δ2.1-2.5(C-CH_(2)CH=CH_(2))4H
δ4.0-4.1(O-CH_(2)CH=CH_(2))2H
δ4.7-5.1(-CH_(2)CH=CH_(2))6H
δ5.5-5.8(-CH_(2)CH=CH_(2))3H
【0133】
反応容器に、上記で得られた下記式(Y)
【化70】

で表される化合物90g(2.3×10^(-2)mol)、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン90g、トリメトキシシラン17g(1.4×10^(-1)mol)、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液9.1×10^(-1)g(Pt単体として2.8×10^(-7)molを含有)を混合し、80℃で24時間熟成させた。その後、溶剤及び未反応物を減圧留去し、液状の生成物95gを得た。
【0134】
得られた化合物は、NMRにより下記式(Z)で表される構造であることが確認された。
【化71】

【0135】
^(1)H-NMR
δ0.4-0.7(-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-Si)6H
δ1.4-1.8(-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-Si)12H
δ3.2-3.6(-Si(OCH_(3))_(3))27H」

「【0144】
表面処理剤の調製及び硬化被膜の形成
実施例1?6で得られたフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン及び比較例1?3のポリマーを、濃度0.1質量%になるようにNovec 7200(3M社製、エチルパーフルオロブチルエーテル)に溶解させて表面処理剤を調製した。ガラス(コーニング社製 GorillaIII)に、各表面処理剤を8.5×10^(-3)g/m^(2)の塗工量でスプレー塗工し(処理条件は、運転速度:360mm/秒、送りピッチ:12mm)、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間硬化させて膜厚8nmの硬化被膜を形成した。」

(2)引用発明
上記(1)で摘示した事項、特に請求項1及び2の記載からみて、先願及び優先出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「下記一般式(1)

(式中、Rfは下記一般式(2)で表される基であり

(式中、p、q、r、sはそれぞれ0?200の整数で、p+q+r+s=3?200であり、各繰り返し単位は直鎖状でも分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、dは1?3の整数であり、該単位は直鎖状でも分岐状であってもよい。)、Yは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1?3の整数であり、aは1?5の整数であり、mは1?5の整数であり、αは1である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明において、Rfはパーフルオロ(ポリ)エーテル基であるといえるから、本件発明1と引用発明とは、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物である点で共通する。
したがって、本件発明1と引用発明とは、
「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」である点で一致し、
該化合物の化学構造について、本件発明1が
「式(1a):
【化1】

[式中:
Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1?16のアルキル基を表し;
PFPEは、各出現においてそれぞれ独立して、式:
-(OC_(4)F_(8))_(a)-(OC_(3)F_(6))_(b)-(OC_(2)F_(4))_(c)-(OCF_(2))_(d)-(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0?200の整数であって、a、b、cおよびdの和は5以上であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。また、式(1a)において、PFPE基は、上記式の左末端の酸素原子がRf基に結合し、右末端の炭素原子がX基に結合する。)
で表される基であり;
Xは、それぞれ独立して、下記の2価の有機基:
-C_(1-6)アルキレン基、または
-R^(31)-X^(c)-R^(31)-
[式中:
R^(31)は、それぞれ独立して、単結合または-(CH_(2))_(s’)-(式中、s’は、1?6の整数である。)を表し、ただし、R^(31)が両方同時に単結合である場合は除く;
X^(c)は、
-O-、
-CONR^(34)-、または
-O-CONR^(34)-、
(式中:
R^(34)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはC_(1-6)アルキル基を表す。)
である。]
で表される基
を表し;
αは、1であり;
βは、1であり;
R^(b)は、各出現においてそれぞれ独立して、-Y-SiR^(5)_(n)R^(6)_(3-n)を表し;
Yは、各出現においてそれぞれ独立して、C_(1-6)アルキレン基、または-(CH_(2))_(g’)-O-(CH_(2))_(h’)-(式中、g’は0?6の整数であり、h’は1?6の整数である。)を表し;
R^(5)は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または-OR、-OCOR、-O-N=C(R)_(2)、-N(R)_(2)、-NHR、ハロゲン(これら式中、Rは、置換または非置換の炭素数1?4のアルキル基を示す)を表し;
R^(6)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1?20のアルキル基を表し;
nは、(-Y-SiR^(5)_(n)R^(6)_(3-n))単位毎に独立して、1?3の整数を表し;
kは、0であり;
lは、3であり;
mは、0である。]」であるのに対し、引用発明は、
「下記一般式(1)

(式中、Rfは下記一般式(2)で表される基であり

(式中、p、q、r、sはそれぞれ0?200の整数で、p+q+r+s=3?200であり、各繰り返し単位は直鎖状でも分岐状であってもよく、各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよく、dは1?3の整数であり、該単位は直鎖状でも分岐状であってもよい。)、Yは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Wは2?6価の炭化水素基であって、ケイ素原子及び/又はシロキサン結合を有してもよく、Rは独立に炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基であり、Xは独立に水酸基又は加水分解性基であり、nは1?3の整数であり、aは1?5の整数であり、mは1?5の整数であり、αは1である。)」である点で相違する。

上記相違点について検討する。
本件発明1のXについて、本件発明1は、「Xは、それぞれ独立して、下記の2価の有機基:
-C_(1-6)アルキレン基、または
-R^(31)-X^(c)-R^(31)-
[式中:
R^(31)は、それぞれ独立して、単結合または-(CH_(2))_(s’)-(式中、s’は、1?6の整数である。)を表し、ただし、R^(31)が両方同時に単結合である場合は除く;
X^(c)は、
-O-、
-CONR^(34)-、または
-O-CONR^(34)-、
(式中:
R^(34)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはC_(1-6)アルキル基を表す。)
である。]
で表される基」」としており、この定義からみて、X中には水素原子が結合する炭素原子が必ず存在する。一方、引用発明において当該Xに相当する基は、フルオロポリエーテル基Rfの化学構造からみて、-C_(d)F_(2d)-(d=1?3)における右端の、結合、-CF_(2)-、-C_(2)F_(4)-のいずれかであるといえるところ、Xに相当する基の中の炭素原子は必ずフッ素原子と結合しており、水素原子とは結合していないから、いずれも本件発明1のXには該当しないものである。
そして、引用発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランにおいて、上記結合、-CF_(2)-、-C_(2)F_(4)-のいずれかを本件発明1で特定されるXとすることが、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるともいえない。
したがって、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は引用発明と同一であるということはできない。

イ 本件発明2、3、5?12、16?18及び20?22について
本件発明2、3、5?12、16?18及び20?22はいずれも本件発明1を技術的に限定するものであるか、それら発明を発明特定事項とする発明であるということができ、Xの定義についても本件発明1と同じか技術的に限定しているといえるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1がXの点において、引用発明と同一であるということができない以上、本件発明1と同様に本件発明2、3、5?12、16?18及び20?22は引用発明と同一であるということはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明に係る特許出願の拒絶査定不服審判の審判請求書においてX基である「C_(1-6)アルキレン基」についてフッ素原子等の置換基で置換することを明確に否定した記載は認められず、本件特許明細書の段落[0034]では、「C_(1-20)アルキレン基」を含めX基の例が示されており、段落[0041]において、これらのX基がフッ素原子等の置換基で置換されていてもよいことが示されているから、X基は例えば「CF_(2)-」等のC_(1-6)フルオロアルキレン基等を含みうるものと思料すると主張するが(審判請求書29?30頁)、特許請求の範囲の請求項1の
「Xは、それぞれ独立して、下記の2価の有機基:
-C_(1-6)アルキレン基、または
-R^(31)-X^(c)-R^(31)-
[式中:
R^(31)は、それぞれ独立して、単結合または-(CH_(2))_(s’)-(式中、s’は、1?6の整数である。)を表し、ただし、R^(31)が両方同時に単結合である場合は除く;
X^(c)は、
-O-、
-CONR^(34)-、または
-O-CONR^(34)-、
(式中:
R^(34)は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはC_(1-6)アルキル基を表す。)
である。]
で表される基
を表し」
との記載によりXは明確に特定されており、この記載からはXがフッ素原子等の置換基で置換されていてもよいと解する余地はなく、また、このように請求項において明確に特定されているXについて、発明の詳細な説明の記載及び拒絶査定不服審判の審判請求書の記載を参酌してその意味を請求項に記載されたものとは異なるものに解する理由もないから、上記異議申立人の主張を採用することはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5?12、16?18及び20?22は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということはできず、本件発明1?3、5?12、16?18及び20?22の特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

2 理由2について
(1)aについて
この理由は、本件発明1のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を表す式(1a)において、「X基はフッ素原子、C_(1-3)アルキル基及びC_(1-3)フルオロアルキル基(好ましくは、C_(1-3)パーフルオロアルキル基)から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい」とすることが前提となるものであるところ、上記1(3)ウで述べたとおり、Xがフッ素原子等の置換基で置換されていてもよいと解する余地はなく、前提が成り立たないから、この理由により、本件発明1が明確でないとすることはできない。

(2)bについて
この理由は、本件特許明細書に記載の「実施例」は、本件発明1を実施した例であり、実施例3で用いているパーフルオロポリエーテル含有シラン化合物は本件発明1の基Xが単結合である点で本件発明1の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載とが一致していないことを理由に本件発明1が不明確であるとするものであるところ、一般に、発明の詳細な説明に記載の「実施例」が特許請求の範囲に記載された発明に該当しないことを根拠として当該特許請求の範囲に記載された発明が明確でないとする理由はなく、本件発明1においても、上記1(3)ウで述べたとおり、本件発明1は特許請求の範囲における記載で明確であって、発明の詳細な説明に記載の「実施例」が本件発明1に該当しない(一致しない)ことを理由に本件発明1が明確でないとする理由はない。したがって、この理由により本件発明1が明確でないとすることはできない。

(3)cについて
この理由は、本件発明8?12の「含フッ素オイル」と本件発明16の「溶媒」とは、互いに構造が同じ化合物を含んでいることを理由に本件発明8?12及び16が不明確であるとするものであるところ、たとえ「含フッ素オイル」と「溶媒」に同じ化合物が含まれるとしても、そう解釈することに特段の不合理がなければ、当該化合物は「含フッ素オイル」と「溶媒」の両方又はいずれかに該当すると解釈すればよいのであって、そのことによって、「含フッ素オイル」又は「溶媒」について特定されている本件発明8?12及び16が明確でないとする理由はない。また、本件発明8?12及び16について、実施例1?5に記載された各成分が当該発明のどの成分に該当するか明らかでないことのみを根拠に、当該発明が明確でないとする理由はなく、実施例1?5に記載された「ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)」は「含フッ素オイル」及び「溶媒」のいずれか又は両方に該当すると解すればよいのであって、そのように解することに何ら不合理な点はないから、本件発明8?12及び16が明確でないとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、8?12及び16の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、本件発明1、8?12及び16の特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

3 理由3について
(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
a)「【0007】
本発明は、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する表面処理剤を提供することを目的とする。」

b)「【0085】
上記表面処理剤は、式(1a)または式(1b)で表される化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0086】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。・・・
【0087】
上記一般式(3)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(3a)および(3b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。・・・
【0088】
上記含フッ素オイルは、1,000?30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
・・・
【0090】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1?1:30が好ましく、1:1?1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
・・・
【0092】
一の好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))_(b)-(bは1?200の整数である)である式(1a)または式(1b)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着法により表面処理層を形成することにより、優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0093】
一のより好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OC_(4)F_(8))_(a)-(OC_(3)F_(6))_(b)-(OC_(2)F_(4))_(c)-(OCF_(2))_(d)-(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下、好ましくは0以上10以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cおよびdの和は、10以上200以下の整数である。添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着により表面処理層を形成することにより、より優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0094】
これらの態様において、式(3a)で表される化合物の数平均分子量は、2,000?8,000であることが好ましい。
【0095】
これらの態様において、式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、2,000?30,000であることが好ましい。式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、乾燥被覆法、例えば真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、8,000?30,000であることが好ましく、湿潤被覆法、例えばスプレー処理により表面処理層を形成する場合には、2,000?10,000、特に3,000?5,000であることが好ましい。」

c)【0137】?【0152】に実施例として、各種パーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の合成例、該化合物を用いた表面処理剤等の実施例、比較例が記載され、【0153】?【0156】に実施例及び比較例にて基材表面に形成された表面処理層についての水の表面接触角の測定方法、測定結果、該結果に対する考察等が記載されている。

(3)判断
ア 発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明8?16の解決しようとする課題は、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含有する表面処理剤を提供することにあると認める。

イ aについて
この理由は、実施例1?5で用いられるハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)が本件発明8?12の「含フッ素オイル」に該当する場合は、「溶媒」を配合した表面処理剤については本件発明の作用効果が実証されていないため、本件発明16はサポート要件違反に該当し、該ハイドロフルオロエーテルが本件発明16の「溶媒」に該当する場合は、「含フッ素オイル」を配合した表面処理剤については本件発明の作用効果が実証されていないため、本件発明8?12はサポート要件違反に該当するというものであり、これは、言い換えれば、「含フッ素オイル」を含有する表面処理剤においてさらに「溶媒」を配合した場合の作用効果が実証されておらず、また、「溶媒」を含有する表面処理剤においてさらに「含フッ素オイル」と配合した場合の作用効果が実証されていないため、サポート要件に違反するという理由であると解されるところ、「含フッ素オイル」又は「溶媒」を含有する表面処理剤において、それぞれさらに「溶媒」又は「含フッ素オイル」を配合した場合に本件発明の作用効果が得られないとする理由は何ら見出せず、そのような出願時の技術常識も認められない。また、実施例1?5で用いられるハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)が本件発明8?12の「含フッ素オイル」、本件発明16の「溶媒」のいずれに該当するとしても、実施例1?5の表面処理剤を用いて形成された表面処理層が高い接触角を維持していることが示されている(摘示c)ことからみて、「含フッ素オイル」及び「溶媒」のいずれにも該当する上記ハイドロフルオロエーテルを配合した場合の作用効果は実証されているといえ、したがって、「含フッ素オイル」を含有する表面処理剤においてさらに「溶媒」を配合した場合、「溶媒」を含有する表面処理剤においてさらに「含フッ素オイル」と配合した場合に本件発明の作用効果が得られるといえる。
したがって、本件発明8?12、16は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるから、本件発明8?12、16はサポート要件を満たすといえる。

ウ bについて
この理由は、本件発明13?15で規定されるような非常に大きな分子量を有する化合物である「含フッ素オイル」を配合した表面処理剤については、実施例としての具体的な開示はなく、その作用効果も確認されていないこと、また、上記実施例1?5の結果から本件発明13?15の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないしは一般化できるものではないことを根拠とし、サポート要件を満たさないとするものである。
本件発明13?15で特定される式(3a)及び式(3b)で表される化合物について、発明の詳細な説明には
「【0088】
上記含フッ素オイルは、1,000?30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。
・・・
【0090】
一般式(3a)で示される化合物および一般式(3b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(3a)で示される化合物よりも、一般式(3b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(3a)で表される化合物と、一般式(3b)で表される化合物との質量比は、1:1?1:30が好ましく、1:1?1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
・・・
【0092】
一の好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OCF_(2)CF_(2)CF_(2))_(b)-(bは1?200の整数である)である式(1a)または式(1b)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着法により表面処理層を形成することにより、優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0093】
一のより好ましい態様において、本発明の表面処理剤は、PFPEが-(OC_(4)F_(8))_(a)-(OC_(3)F_(6))_(b)-(OC_(2)F_(4))_(c)-(OCF_(2))_(d)-(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下、好ましくは0以上10以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cおよびdの和は、10以上200以下の整数である。添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)で表される化合物、および式(3b)で表される化合物を含む。かかる表面処理剤を用いて、湿潤被覆法または真空蒸着法、好ましくは真空蒸着により表面処理層を形成することにより、より優れた表面滑り性と摩擦耐久性を得ることができる。
【0094】
これらの態様において、式(3a)で表される化合物の数平均分子量は、2,000?8,000であることが好ましい。
【0095】
これらの態様において、式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、2,000?30,000であることが好ましい。式(3b)で表される化合物の数平均分子量は、乾燥被覆法、例えば真空蒸着法により表面処理層を形成する場合には、8,000?30,000であることが好ましく、湿潤被覆法、例えばスプレー処理により表面処理層を形成する場合には、2,000?10,000、特に3,000?5,000であることが好ましい。」との記載があり(摘示b)、発明の詳細な説明には、本件発明13?15で特定される分子量を有する化合物が好ましく、該化合物を用いた表面処理剤を用いて形成された表面処理層は表面滑り性及び摩擦耐久性に優れることが記載されているといえる。そして、かかる分子量を有する式(3a)又は式(3b)で表される化合物を表面処理剤に配合した場合に、本件発明の作用効果が得られないとする技術的な理由は見出せず、また、得られないとする出願時の技術常識もない。さらに、本件発明13?15が間接的に引用する本件発明7の表面処理剤は、本件発明7で明示的に特定される成分以外の成分を配合することができるものであると解されるところ、本件発明13?15で特定される分子量を有する含フッ素オイルは摩擦耐久性等を有する表面処理層の形成に用いられる表面処理剤に配合される成分として公知の成分であると認められ(特開2013-241569号、特開2013-256643号、特開2014-15609号公報参照)、また、発明の詳細な説明の【0153】?【0156】の摩擦耐久性評価の結果等からみて、本件発明7は上記課題を解決することができるものであるということができ、発明の詳細な説明の一般記載を合わせれば、実施例における直接的な記載がなくても、本件発明13?15は発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化した範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明13?15は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるから、本件発明13?15はサポート要件を満たすといえる。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明8?16の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、本件発明8?16の特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものであるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5?18及び20?22に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことができない。
また、他に本件発明1?3、5?18及び20?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-19 
出願番号 特願2016-138192(P2016-138192)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (C08G)
P 1 652・ 16- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒川 美陶  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 守安 智
冨永 保
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6123939号(P6123939)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  

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