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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1340147
異議申立番号 異議2018-700083  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-01 
確定日 2018-04-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6172339号発明「フィルムインサート成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6172339号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6172339号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年2月10日を出願日とする特許出願(特願2016-23952号、以下、「原出願」という。)の一部を同年6月1日に新たな特許出願(特願2016-110361号)としたものであって、平成29年7月14日にその特許権の設定登録(設定登録時の請求項数7)がされ、その後、その特許に対し、平成30年2月1日に特許異議申立人 佐藤 義光(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
液晶表示装置の前面パネル用フィルムインサート成形品の製造方法であって、
基材フィルムの一部に加飾して加飾部と残部の透明部とを形成する加飾工程と、
加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うようにセラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段を配して予熱した後、賦形し、前記透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程と、
前記賦形フィルムを金型に配置し、溶融した熱可塑性樹脂を充填する射出成形工程と、
を有することを特徴とするフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項2】
前記断熱手段は、線膨張係数50ppm/K以上100ppm/K以下の断熱材である請求項1に記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項3】
前記賦形フィルムは、前記透明部の位相差が62.3nmを超える面積割合が14%以下である請求項1又は2に記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項4】
前記射出成形工程において、ゲート側に形成された張出部を切削加工する請求項1?3のいずれかに記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項5】
前記射出成形工程における成形温度が250℃?350℃である請求項1?4のいずれかに記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項6】
前記フィルムインサート成形品の波長540nmにおける平均位相差が49.3nm以下である請求項1?5のいずれかに記載のフィルムインサート成形品の製造方法。
【請求項7】
前記フィルムインサート成形品において、透明部の位相差が62.3nmを超える面積割合が40%以下である請求項1?6のいずれかに記載のフィルムインサート成形品の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、以下の甲第1ないし15号証を提出し、おおむね次の取消理由(以下、順に「取消理由1」のようにいう。)を主張している。
なお、甲第1ないし14号証は、原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、甲第15号証は、本件特許の特許公報である。

1 取消理由1(進歩性)
本件特許発明1ないし7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1ないし11、13及び14号証に記載された発明(甲第1号証が主引用文献、甲第2号証は副引用文献並びに甲第3ないし11、13及び14号証は技術常識を示す文献である。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(サポート要件)
本件特許発明1ないし7は、本件特許明細書によると、「立体形状を有する樹脂成形品において、歪みを小さくし、画像の表示を視認しやすく、さらには文字、模様などを正確に再現できるフィルムインサート成形品の製造方法を提供すること」を解決すべき課題(【0007】)としている。そして、当該課題を解決するために、「加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部を覆うように断熱手段を配」することを教示しており(【0007】)、「賦形フィルム形成工程において、断熱手段を用いて予熱するため、透明部の位相差が小さくなり、歪みが生じにくい賦形フィルムになり、また、それを用いて成形した成形品の位相差も小さくすることができ、歪みが小さい透明部を有する成形品を製造することができる。」と説明している(【0011】)。
ここで、本件特許明細書には、断熱手段として、熱伝導率が低い材質(具体的には0.20W/m・K以下の材質)を使用することが開示されており(【0025】)、実施例では、熱伝導率が0.08W/m・Kである繊維複合材料「ミスミ社製HIPAL」が、基材フィルムと接触しないように配置されて使用されている(【0054】)。
一方、本件特許発明1ないし7には、断熱手段として熱伝導率の高い金属を使用し、且つ当該断熱手段を基材フィルムに接触させて使用する実施形態が包含されている。たとえば、断熱手段の一例として挙げられているアルミニウムの熱伝導率は約236W/m・Kであり(甲第12号証の【0042】)、これは本件特許明細書に記載されている熱伝導率の基準(0.20W/m・K以下)をはるかに上回っている。このような実施形態では、予熱により加熱された断熱手段の熱が、高い熱伝導率のために、直接接触しているフィルムに伝わって歪みが生じることは明らかである。
そのため、本件特許発明1ないし7は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

3 取消理由3(実施可能要件)
本件特許発明1ないし7には、断熱手段として熱伝導率の高い金属を使用し、且つ当該断熱手段を基材フィルムに接触させて使用する実施形態が包含されている。このような実施形態では、予熱により加熱された断熱手段の熱が、高い熱伝導率のために、直接接触しているフィルムに伝わって歪みが生じることは明らかであるから、このような実施形態において、どのようにすれば本件特許発明1ないし7を実施できるのかを理解できない。
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:特開2014-133320号公報
甲第2号証:特開2000-52375号公報
甲第3号証:特開2003-80524号公報
甲第4号証:特開2011-104927号公報
甲第5号証:特開2011-232504号公報
甲第6号証:特開2013-195483号公報
甲第7号証:特開2007-64468号公報
甲第8号証:特開2014-2362号公報
甲第9号証:特開2001-232665号公報
甲第10号証:特開昭61-193825号公報
甲第11号証:特開平11-309749号公報
甲第12号証:特開2015-41680号公報
甲第13号証:「ディスプレイ用光学フィルムの開発動向」、監修 井手文雄、株式会社 シーエムシー出版、2008年11月23日発行、普及版、第40?43頁
甲第14号証:「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、本間精一編、日刊工業新聞社、1992年8月28日発行、初版第1刷、第430?439頁
甲第15号証:特許第6172339号公報
なお、甲第12号証は、取消理由2及び3のために提出された文献である。

第4 特許異議申立理由についての判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、次の記載(以下、総称して「甲第1号証に記載された事項」という。)がある。なお、下線は当審で付したものである。

・「【請求項7】
フィルム或いはシートを、赤外線加熱して空気圧成形にて成形品を製造し、前記成形品をそのまま或いは打ち抜きして金型に装着し、前記成形品の裏面に熱可塑性樹脂を射出一体化してなるシートインサート成形品の製造方法において、前記成形品が平面部を含むものであって、該平面部に相当する前記フィルム或いはシートの平面領域において加熱抑制領域を設け、前記加熱抑制領域において、前記加熱抑制領域の周辺領域よりも加熱を抑制することを特徴とする、シートインサート成形品の製造方法。」

・「【0001】
本発明は、フィルム或いはシート、例えば、加飾ハードコートシートを、加熱下に空気圧成形にて所望の立体形状に成形する方法に関する。より具体的には、本発明は、フィルム或いはシートが、実質的に賦形させない実質的に歪みのない平面領域を有していて、成形された賦形品、および成形品においても平面部を形成させる、加熱賦形品、およびシートインサート成形品の製造方法に関する。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
熱成形性の良好なシートとして芳香族ポリカーボネート樹脂(PC)/アクリル系樹脂(PMMA系)の共押出し品を選択し、そのPMMA系樹脂面にハードコートしたものを用いて、良好な熱成形品の得られるハードコートフィルムを見出すべく鋭意検討した結果、大きな伸び、例えば、30%以上を必要とする立体形状賦形品を得る方法を見出した。 ところが、このような大きな伸びを必要とする部分と、平面状の透明窓部のような歪みのないことが必須の部分とを含む場合に、この賦形させない部分に歪みを発生させない方法が望まれた。
この方法に関して鋭意検討した結果、通常条件(赤外線加熱、空気圧賦形条件)の適用では、赤外線遮蔽層等を用いた部分は、賦形されず、歪みが発生しないことを確認し、これに基づいて本発明を完成させた。」

・「【0017】
以下、本発明に関して構成などを説明する。
本発明は、下記に説明するフィルム或いはシート、例えば多層シート(以下、適宜、多層シート等と記す)を所望の立体形状を有する加熱賦形品を製造するにあたって、前記賦形品が歪みのない平面部分を含む場合に、該平面部分に相当するフィルム或いはシート部分に加熱抑制領域を設けることにより、実質的に歪み及び荒れのない平面部分を含む成形品を製造するものである。
【0018】
1.フィルム或いはシート(多層シート)
本発明の成形品等の製造に用いるシート或いは多層シート(以下、適宜、多層シート等と記す)としては、
(1)透明なプラスチック材料を用いた透明シート、
(2)耐衝撃性や適度の耐熱性を持つ樹脂を基材層とし、その片面あるいは両面に硬質樹脂層を形成した透明な多層シート、さらに
(3)前記(1)又は(2)のシートの片面或いは両面にハードコート層を形成した多層シート
が挙げられる。
【0019】
1-1.多層シートの材料
本発明において、多層シート等に用いる(1)の透明なプラスチック材料としては、芳香族ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン(代表例:脂環式ポリオレフィン)、ポリアクリレート、ポリスルフォン、アセチルセルロース、ポリスチレン、非晶性ポリエステル(代表例:PET-G)、透明ポリアミドなど、及びこれらの組成物からなる透明樹脂が挙げられる。これらの中で光学用として用いられている樹脂が好ましく、芳香族ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂、水添スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂(スチレン成分のベンゼン環を水素添加して一部脂環としたもの)、透明ポリアミドなどが例示される。」

・「【0023】
ポリアクリレートとしては、上述の(メタ)アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、水添スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂等が使用できる(同上)。そして(メタ)アクリル樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものでもよい。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の例として、アクリペット((商標)三菱レイヨン株式会社製)、デルペット((商標)旭化成ケミカルズ株式会社製)、パラペット((商標)株式会社クラレ製)があるが、これらに限定されない。」

・「【0025】
1-2.平面領域(平面部)
多層シート等には、歪みのない平面領域として、例えば、透明な表示用の窓部分や目盛などとして用いられる部分が含まれる。そして、多層シート等の平面領域は、空気圧成形により製造される賦形品、インサート成型品等においても、歪や凹凸のない平面部を形成することが必要である。このため、本発明では、多層シート等の平面領域、すなわち、賦形品等の平面部に相当する領域において、加熱抑制領域を設ける。これらの赤外線の反射層、または赤外線遮蔽断熱層を形成することにより、赤外線加熱時に、多層シート等の平面領域に赤外線が直接照射されることを防止し、平面領域の周辺の領域に比べて、平面領域に対する加熱を抑制、遅延させる効果が得られる。加熱抑制領域については、詳細を後述する。」

・「【0039】
1-5.多層シート等の意匠性
本発明に用いられる多層シート等は、通常、意匠が施されている。すなわち、多層シート等のハードコート面の反対側である裏面に、意匠性の印刷層や金属蒸着層を有する。本願明細書において、「意匠が施されている」とは、文字、数字、記号、模様等の装飾が、賦形品や成形品の外部から視認できるように、上記装飾を付した印刷層、蒸着層等の層が形成されていること、または上記装飾が多層シート等に印字されていることをいう。
本発明に用いられる多層シート等は、取り扱い性や裏面への印刷や金属蒸着の適性から、裏面にもハードコート層を有するものが好ましい。
0.5mm以上のシートであれば剛性も高いために、印刷層等をそのまま成形品や切削加工品に粘着剤等で貼り付けて使用する事も可能である。
0.5mm以下の場合、通常、射出成形材料と一体化して使用する。多層シート等の裏面側においては、基材樹脂上に、ハードコート層/印刷層あるいは金属蒸着層が形成されていて、この上に、射出成形樹脂が乗り、熱融着される。この点から、印刷インキは、ハードコート層に強固に接着し、かつ、射出樹脂とも強固に熱融着するものが好ましい。また、射出化樹脂との熱融着性が不十分な部分がある場合、例えば、印刷層のないハードコート層部分や金属蒸着層などが射出樹脂に接する場合など、成形条件を選択すること、例えば、樹脂温度を高くすることなどにより熱融着性は改善されるが、これらの熱融着性が不十分な層の上に、熱融着性のプライマー層を形成することが、通常は好ましい。なお、このプライマー層として印刷インクによるプライマー層(例えば帝国インキ製造株式会社製 IMBバインダー)を用いることができる。」

・「【0047】
2.多層シート等の成形
次に、前記多層シート等を熱成形して、所望の立体形状とする点について説明する。
本発明における熱成形の典型的方法は、多層シートの裏面に意匠模様などを施し、外表面のハードコート面、あるいは、例えばPMMA面を上面として金型上にセットし、赤外線加熱にて急速に多層シート基材層樹脂のガラス転位温度以上の熱成形温度まで加熱し、加圧空気にて、例えば、ポリカーボネート樹脂のガラス転位温度以下に設定された金型面に押し付け、所定の立体形状を形成する。」

・「【0049】
2-2.加熱抑制
上述の加熱抑制領域(1-2.欄参照)について以下に説明する。加熱抑制領域は、平滑な平面部を確実に形成するために、多層シート等の平面領域に対する加熱を抑制、遅延させる。加熱抑制領域としては、赤外線の反射層及び/又は赤外線遮蔽断熱層、具体的には、赤外線の反射性に優れた印刷層、通常、白色インキの印刷層、熱遮蔽可能な粘着テープ類などの貼り付けが例示される。より具体的には、ポリプロピレン等の樹脂層に印刷を付したもの、紙製のテープなどである。
【0050】
上述の粘着テープとしては、例えば、粘着性の樹脂層を離型フィルムなどの上に形成したもの、支持体に粘着成分を含浸付着させ、適宜、乾燥などして揮発性分を除いたものがある。
支持体としては均一なフィルムでも使用方法によっては使用できるが、紙、布、特に不織布が好ましく、ポリエステル、ポリイミドを用いた紙や布、特に不織布や紙が好ましい。
また、粘着剤としては、高温の樹脂と接触しても揮発成分にて発泡などしないものを選択し、また、そのまま成形品あるいはマスキングフィルム上に残るので、そのままで或いは変化(硬化など)する成分にて、劣化が促進されない成分を選択する。粘着剤の種類には、ゴム系、アクリル系、シリコーン系があり、これらは有機溶剤溶液、エマルジョン、ホットメルト、その他方法にて液状として基材に塗布、含浸され、過剰の有機溶剤、水などを適宜除いて、粘着シートとされる。本発明においては、アクリル系がより好ましく、また、揮発成分は高温に曝されるので無い或いは少ないものとする。
一般的に販売されている紙付きの両面テープであっても使用可能である。」

・「【実施例】
【0060】
実施例、比較例などに用いた原材料などは次の通りである。
PC :芳香族ポリカーボネート(製造元;三菱ガス化学株式会社、品番;E2000、ビスフェノールAから製造された分子量が約28000のもの)
PMMA :ポリメチルメタクリレート(製造元;菱晃株式会社、品番;VH001)
メチルメタクリレート/メチルアクリレート=95.6/4.4の共重合体
スチレンカラムGPCによる重量平均分子量(Mw)8.5万
HC1 :伸びるハードコート塗料
ユニディックEKC-578(DIC株式会社製)(ウレタンアクリレート系)
HC2 :伸びなくて硬いハードコート
商品名:XR39-5095モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0061】
実施例1?4 及び比較例1、2
上述の芳香族ポリカーボネート樹脂の押出機として、バレル直径65mm、スクリュウのL/D=35を用い、シリンダー温度270℃とした。
また、上述のPMMAの押出機として、バレル直径32mm、スクリュウのL/D=32を用い、シリンダー温度250℃とした。
【0062】
2種類の樹脂を同時に溶融押出し積層する際にはフィードブロックを使用し、芳香族ポリカーボネート樹脂のPC層12の片面に、上記のPMMAによるPMMA層14を積層した(図1参照)。
ダイヘッド内温度は260℃とし、ダイ内で積層一体化された樹脂は、鏡面仕上げされた3本のポリッシングロールに導かれ成形された。このとき、1番ロールの温度を110℃、2番ロールの温度を140℃、3番ロールの温度を180℃に、それぞれ設定した。 最初に流入するロール間隔にて、バンクを形成した後、2番、3番ロールを通過させる方法にて共押出シートを製造した(以下、RSシートと記す)。RSシートが冷却されながら送られる過程で、温度が90℃になる位置でマスキングフィルム(VLH-6 東セロ株式会社製)を該シートの両面に貼り付けた。製造された実施例1のRSシート10の厚さは、0.5mmであり、PC層12が0.46mm、PMMA層14が0.04mm、マスキングフィルム(図示せず)の厚さが0.02mmであった。
【0063】
マスキングフィルムを両面に添付した上述の0.5mm厚のRS共押出シート10(PMMA層厚み0.04mm)のPMMA層14の外表面14Sからマスキングフィルムを剥がした後、PMMA面14S上に、上記の伸びるハードコート塗料(HC1)にて塗膜をバーコーターにて塗布後、UV硬化させてハードコート層28を形成した(以下、このシートを実施例3のE-HCシート20と記す・図2参照。図2におけるPMMA層24、およびその外表面24Sは、図1のPMMA層14および外表面14Sにそれぞれ対応する)。再度、上記マスキングフィルムを、硬化後直ちに、ゴムロールを90℃に加熱したラミネーターにて貼り付けた。このHC膜は、厚み5μmで、鉛筆硬度2H、耐擦り傷性試験(ASTM D 2486-79に準拠、豚毛ブラシを用い荷重450gで200往復)において、生じる擦り傷が4本以下であった。
【0064】
上記の実施例1のRSシート10、及び実施例3のE-HCシート20のそれぞれのPC面12Sおよび22S(PC層12および22の表面)のマスキングを剥がして、該面(裏面)に印刷(インク;IPX?HF 帝国インキ製造株式会社製)を施した(中央50mm角のみ印刷なし)。
その上に透明バインダーインク(IMB006バインダー 帝国インキ製造株式会社製)を施した。透明バインダーインクの層(図示せず)の厚さは0.006mmであった。PMMA面(外表面14S)あるいはPMMA面(外表面24S)に積層されたハードコート層28のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープ(積水化学製)をそれぞれ貼り合わせ、熱線遮断層16および26を形成した。
このように、熱線遮断層16および26を有するサンプルをそれぞれ作製した(実施例1(RSシート10)および実施例3(E-HCシート20)、後述する表1、図1および図2参照)。さらに、上述の熱線遮断層16および26の代わりに、以下のように、熱線反射層を形成し、実施例2および4のシートを形成した。
1)実施例1のPMMA面(外表面14S)のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリア(65mmから68mmエリアはドット型グラデーション印刷とした)をスクリーン印刷にて印刷インク(白)(帝国インキ製造株式会社製 MRX)を塗布後、90℃、30分間硬化させて10μmの実施例2の熱線反射層36を設けた(図3参照)。実施例3のハードコート層28のマスキングフィルム上にも、同様に熱線反射層36を設けた。
このように、実施例1および3における熱線遮断層16および26の代わりに、熱線反射層36をそれぞれ有するサンプルを作製した(実施例2(RSシート)および実施例4(E-HCシート)、いずれも図示せず)。なお、実施例2においては、図3に示すように、熱線反射層36の外縁部にてドット型グラデーション印刷された65mmから68mmのエリアが移行領域37であり、この領域では、段階的、かつ連続的に、加熱抑制の度合が変化している。すなわち、移行領域37においては、加熱を抑制しない周辺領域38側から、平面領域側の画面中心点Cに向かって徐々にドット密度が高くなっていて、平面領域の中心側ほど加熱が抑制される(実施例4も同様)。
2)また、上述の1)の工程を実施せず、熱線遮断層および熱線反射層をいずれも有していないサンプルを作成した(比較例1(RSシート)および比較例2(E-HCシート)、いずれも図示せず)。
【0065】
ついでこれらのフィルムのサンプルを用いて圧空成形を実施した。
成形機;圧空成形機(有限会社エヌケイエンタープライズ製)。
IRヒーター;360℃設定 遠赤外ヒーター(2500nmにピーク波長)近赤外も発生。 温度測定;上側IRヒーターにて加熱。下側に赤外放射温度計を設置してフィルム温度を測定。
金型;70mm角、稜線1R、コア高さ4mmの凸型形状。
成形;画面部(平面領域)以外のフィルム温度が190℃に達したら、型締ゾーンに移動し、型締後、圧空を2MPaで5秒吹き込み、その後型開きして成形品を取りだした。尚、熱線遮蔽層と熱線反射層のある画面部位(平面領域)の温度は145℃であった。
PMMA面あるいはハードコートのマスキングを剥がし、PMMA面あるいはハードコート面の画面部外観および画面部表面粗さを評価した。
成形品表面状態(画面部外観)観察(目視);
○:表面が荒れる事がなく、歪み発生も確認されない。
×:表面が荒れるまたは歪み発生が確認される。
画面部表面粗さ測定;
ISO4288に準拠して表面粗さRaを測定した(使用機器:ミツトヨ株式会社製フォームトレーサーS-VC4500)。
【0066】
実施例5、6 及び比較例3
上述の実施例1、2、および比較例1で得られた圧空成形により賦形されたRSシートから、PMMA層14側のマスキングを剥がした後、スプレーコーティングでHC液(HC2)を塗布して、UVで硬化させた(以下、実施例5、および6のRS-HCシート)。
これらのRS-HCシートにおけるHC膜(例えば実施例5のRS-HCシート40を示す図4のハードコート層48)は、厚み5μmで、鉛筆硬度7H、耐擦り傷性試験(ASTM D 2486-79に準拠、豚毛ブラシを用い荷重450gで200往復)において、生じる擦り傷が0本であった。さらに、実施例5においては、実施例1の熱線遮断層16と同様の熱線遮断層46をハードコート層48上に形成し、実施例6においては、図3の実施例2の熱線反射層36と同様の熱線反射層を、それぞれハードコート層(実施例5については図4のハードコート層48参照、実施例6については図示せず)上に形成した。
【0067】
上記実施例5、および6のRS-HCシートを用いて、それぞれ射出金型形状(71mm角)にプレスで打ち抜いて、射出成形金型にインサートし、射出成形材料としてPMMA樹脂(アクリヘ゜ットVRL40 菱晃株式会社製)を用いて、射出成形装置(日本製鋼所製 J100AD)にて樹脂温度;290℃、金型温度;60℃で射出成形し、上記シート(印刷含む)と射出成形材料を一体化させたシートインサート成形品(実施例5、6、および比較例3)を得た(実施例5のシートインサート成形品50を示す図4参照)。シートインサート成形品50は、射出成形材料であるPMMA樹脂により形成された樹脂層52を含む。」

・「



イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に記載された事項、特に実施例5及び6に関する記載を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「芳香族ポリカーボネート樹脂のPC層の片面に、PMMA層を積層して製造した共押出シートの両面にマスキングフィルムを貼り付けて製造したRSシートのPMMA層の外表面からマスキングフィルムを剥がした後、PMMA面上に、ハードコート塗料(HC1)にて塗膜を塗布後、UV硬化させてハードコート層を形成し、PC層のマスキングを剥がして、該面に印刷を施し(中央50mm角のみ印刷なし)、その上に透明バインダーインクを施し、PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ、熱線遮断層を形成するか又は中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布後、90℃、30分間硬化させて10μmの熱線反射層を設け、ついで圧空成形機及びIRヒーターを用いて圧空成形により賦形し、賦形されたRSシートから、PMMA層側のマスキングを剥がした後、スプレーコーティングでHC液(HC2)を塗布して、UVで硬化させて得たRS-HCシートのハードコート層上に前記と同様の熱線遮断層又は熱線反射層を形成し、それらを用いて、それぞれ射出金型形状(71mm角)にプレスで打ち抜いて、射出成形金型にインサートし、射出成形材料としてPMMA樹脂を用いて、射出成形装置にて樹脂温度;290℃、金型温度;60℃で射出成形し、上記シートと射出成形材料を一体化させるシートインサート成形品の製造方法。」

なお、特許異議申立人は、平成30年2月1日提出の特許異議申立書において、甲第1号証の記載から、次の発明を「甲第1発明」として認定している。
「A’:シートインサート成形品の製造方法であって、
B’:透明なプラスチック材料である芳香族ポリカーボネートとポリメチルメタクリレート(PMMA)とからなるシートの裏面に印刷(意匠)を施すが、シートの中央50mm角には印刷(意匠)を施さない透明な平面領域のままとし、
C’:意匠を施したシートの中央50mm角に合わせるように、68mm角の加熱抑制領域(紙製ガムテープ又は印刷インク)を設け、赤外線加熱して空気圧成形にて成形品を製造し、成形品を射出成形金型形状(71mm角)に打ち抜き、
D’:打ち抜いた成形品を射出成形金型に装着し、前記成形品の裏面に熱可塑性樹脂を射出一体化してなる、
E’:シートインサート成形品の製造方法。」
しかし、甲第1号証に「加熱抑制領域」として具体的に記載されているのは、実施例5の「紙製ガムテープ」及び実施例6の「印刷インク(白)」であり、これらについては、明示的な記載はないものの、「印刷なし」の部分の全体を覆うこと及び「射出金型形状」の75%以上の大きさを覆うことが記載されているといえるが、「紙製ガムテープ」及び「印刷インク(白)」に限定されない「加熱抑制領域」が、「印刷なし」の部分の全体を覆うこと及び「射出金型形状」の75%以上の大きさを覆うことは記載されていない。
したがって、甲第1号証の記載から、上記「甲第1発明」を認定することは適切とはいえず、上記のとおり甲1発明を認定した。

(2)甲第2ないし11、13及び14号証に記載された事項
甲第2ないし11、13及び14号証には、おおむね次の事項が記載されている(以下、順に「甲第2号証に記載された事項」のようにいう。)。なお、下線は当審で付したものである。

ア 甲第2号証に記載された事項
・「【0040】
【実施例】厚さ125μmのアクリルフィルムを基体シートとし、グラビア印刷法にて木目柄と黒色柄とロゴマーク柄とから構成される図柄層と、接着層とを形成してインサート材を得た。
【0041】次いで、インサート材を、射出成形用金型のキャビティ型へ枠状のクランプ部材を用いて固定した。インサート材は、木目柄と黒色柄とロゴマーク柄が金型の所定の位置にくるように位置合わせして固定した。また、キャビティ型とインサート材との間には、シリコーンからなるシール材を設けておき、キャビティ型とインサート材との間に形成された空間を密閉状態にした。
【0042】次いで、熱遮蔽板と加熱手段とをインサート材の前に配置し、インサート材の表面を赤外線ヒーターからなる加熱手段で加熱した。ここで、熱遮蔽板を、木目柄と黒色柄の境界線を中心に左右10mmづつ、合計20mmの幅の範囲と、ロゴマーク柄10mm×30mmに対し20mm×50mmの範囲において覆うように配置した。熱遮蔽板は、厚さ2mmのアルミニウム板からなり、エアシリンダーの駆動によりヒーター加熱時のみキャビティ型内に導入され、加熱後は型外へ移動するように構成した。熱遮蔽板は、インサート材から10mm、加熱手段から20mm離れた位置にインサート材と平行に配置した。また、加熱手段による加熱は、インサート材の熱変形温度110℃に対し、インサート材の表面の温度が120℃になる状態で10秒間行った。
【0043】その後、キャビティ型の成形品外周パーティング面とキャビティ面に設けられた真空吸引孔から真空吸引を行った。熱遮蔽板により覆われて加熱手段からの加熱がされなかった部分では、インサート材の表面温度は50℃であり、熱変形温度である110℃には至らず、木目柄と黒色柄との境界線と、ロゴマーク柄は変形せず、その他の部分ではインサート材が伸ばされ、キャビティ面に沿うように立体成形された。
【0044】真空成形後、加熱手段および熱遮蔽板を型外へ移動させ、型締めし、ポリプロピレン樹脂を成形樹脂として射出成形した。
【0045】最後に型開きして、樹脂成形品の表面に位置合わせされた図柄を有する成形同時絵付成形品を得た。
【0046】
【発明の効果】この発明の成形同時絵付成形品の製造方法は、成形同時絵付シートをキャビティ型上に配置し、次いで加熱手段と成形同時絵付シートとの間に部分的に熱遮蔽板を配置して成形同時絵付シートを部分的に加熱し、次いで金型キャビティに沿うように成形同時絵付シートを真空成形または圧空成形し、次いで金型を閉じて金型内へ成形樹脂を射出し成形同時絵付シートと樹脂とを一体化させて成形同時絵付成形品を得るように構成されているので、次の効果を有する。
【0047】成形同時絵付シートの熱遮蔽板により覆われて加熱の程度が少ない部分は、その他の部分と比較して軟化の程度が低いため、成形同時絵付シートがキャビティ型に密着するように真空成形されて伸ばされる際に伸び率が低くなり、図柄の歪みが生じない。」

イ 甲第3号証に記載された事項
・「【0041】表示ムラ防止の点より、透明フィルムにおける面内の好ましい平均位相差は、20nm以下、就中15nm以下、特に10nm以下であり、その位相差の場所毎のバラツキが可及的に小さいものがより好ましい。さらに透明フィルムに発生する内部応力を抑制して、その内部応力による位相差の発生を防止する点よりは、光弾性係数の小さい材料からなる透明フィルムが好ましい。加えて透明フィルムの厚さ方向の平均位相差も50nm以下、就中30nm以下、特に20nm以下であることが表示ムラ防止等の点より好ましい。
【0042】斯かる低位相差の透明フィルムの形成は、例えば既成のフィルムを焼鈍処理する方式等にて、内部の光学歪みを除去する方式などの適宜な方式にて行いうる。好ましい形成方式は、キャスティング方式にて位相差の小さい透明フィルムを形成する方式である。透明フィルムにおける前記の位相差は、可視域の光、特に波長550nmの光に基づくものであることが好ましい。」

ウ 甲第4号証に記載された事項
・「【0021】
[本発明の光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、ポリプロピレン系樹脂から構成され、波長589.3nmの光を用い、入射角度40度で測定した位相差が20nm以下であることを特徴とする。位相差が小さいために、偏光板における偏光子の保護フィルムとして好適である。以上の点から、入射角度40度で測定した位相差は10nm以下であることがより好ましい。」

エ 甲第5号証に記載された事項
・「【請求項1】
アクリル樹脂層の両面にポリカーボネート樹脂層が積層されてなることを特徴とする液晶ディスプレイ保護用積層板。
【請求項2】
積層板の面内のリタデーション値が50nm以下である請求項1に記載の液晶ディスプレイ保護用積層板。」

オ 甲第6号証に記載された事項
・「【請求項1】
樹脂板の片面に、算術平均粗さ(Ra1)が0.1?0.3μmの凹凸面が存在し、
かつもう一方の面の算術平均粗さ(Ra2)とRa1の和が0.5μm未満であり、
かつ樹脂板のヘイズが7?30%、面内のリタデーション値が0?20nmであることを特徴とするディスプレイ保護用樹脂板。」

カ 甲第7号証に記載された事項
・「【請求項1】
糸状ガラス繊維(1)に、珪酸ナトリュウム(2)を溶着塗布した、ケイ酸カリュウム塗布含浸基材の断熱材。
【請求項2】
ガラス繊維不織布(3)に、ケイ酸カリュウム(2)が含浸塗布した、ケイ酸カリュウム塗布含浸基材の断熱材。
【請求項3】
ガラス繊維織布(4)に、ケイ酸カリュウム(2)が含浸塗布し、ケイ酸カリュウム塗布含浸基材の断熱材。
【請求項4】
ガラス繊維綿(5)に、ケイ酸カリュウム(2)が含浸塗布した、ケイ酸カリュウム塗布含浸基材の断熱材。
【請求項5】
ガラス繊維綿(5)に、ケイ酸カリュウム(2)を含浸塗布し、各種成型した、ケイ酸カリュウム塗布含浸基材の断熱材。」

キ 甲第8号証に記載された事項
・「【0031】
本実施形態に係るプラスチック光学部材の製造方法は、第三の実施形態とほぼ同じであるが、異なる部分について次に説明する。図9(d)において、部材1をプラスチック光学部材用金型180のキャビティにインサートする際、鍔部(鍔形状)をゲート184の位置に配置させておく。リブ187に第一の被覆部121、第二の被覆部122の流入口たるゲート184を設けておく。ゲート184から第二のプラスチックを流し込んだのち、第二のプラスチックを冷却し固化させ、プラスチック光学部材を成形する。その後、ゲート部分に固化した第二のプラスチックから、成形されたプラスチック光学部材を切り離す(ゲートカット)。この時、前記リブの少なくとも一部を一緒に切断する。そして、部材1の鍔部の一部を成形され固化されたプラスチック光学部材の表面に露出させる。この方法により簡単に、リブ915の少なくとも一部が切断され、第一のプラスチックによる部材の鍔部(鍔形状)の一部をリブから露出させることができる。」

ク 甲第9号証に記載された事項
・「【0020】この発明において、ゲートとは、金型内のキャビティに成形機のシリンダー内で溶融された樹脂がノズルより射出され直接または金型内のランナー、スプルーなどを経てキャビティに流入される口となる部分をいう。ゲートの種類としては、その形状や配置される位置によって、ピンポイントゲート、サイドゲート、フィルムゲートなどに分類される。ピンポイントゲートは、通常、円形であり、この場合ゲート径とはゲートの直径をさす。また、ピンポイントゲートであっても何らかの理由により楕円、その他の変形形状である場合、あるいは、サイドゲート、フィルムゲートなどのゲートの形状が円形でない場合は、ゲートの最小内径と最大外径の平均をもって径とする。また、ゲートの形状が長方形である場合は、対角線と短辺の平均をもって径とする。ゲートが多点の場合は、ゲート径の平均をもってゲート径とする。ピンポイントゲート場合、ゲート径は0.5?5.0mmの範囲であるのが好ましい。ゲート径が0.5mmに満たないと、溶融樹脂がゲート部分で固化してしまい、ほとんどのケースで成形樹脂が充填不足になる。また、ゲート径aが5.0mmを越えると、ゲートカット作業の労力が多大になる。特に、充填不足もなく、加飾シートを損傷させ難く、ゲートカットしやすいゲート径は、0.8?2.0mmである。」

ケ 甲第10号証に記載された事項
・「シート成形に使用する発泡シートを加熱軟化させる際に、発泡シートの両面に設置した加熱ヒーターと発泡シートとの間に、熱遮蔽部材を介在させて、加熱ヒーターからの熱輻射を遮断し、発泡シートの一部に、熱遮蔽部材に対応する形状の、非加熱部分を形成することを特徴とするシート成形における発泡シートの加熱方法。」(第1ページ左欄第5ないし13行)

・「熱遮蔽部材(5)は加熱ヒーター(10)から照射される遠赤外線の反射率の高い、アルミ材等から形成された薄い板状をなす」(第3ページ左上欄第12ないし14行)

コ 甲第11号証に記載された事項
・「【請求項1】 絵付シートを加熱軟化するための熱輻射面を有する面発熱体を備え、前記熱輻射面における特定領域に対面するように遮蔽板が設置され、この遮蔽板に、所定の開口面積比が得られるように、任意の寸法形状を持つ多数の透孔が適宜の配列形態をもって形成されていることを特徴とする射出成形同時絵付用熱盤。」

・「【0024】一方、前記遮蔽板としては、熱線反射性と耐熱性の良好な金属板等を用いる。その材質は、特に、アルミニウム、銀、銅、金等の金属が好ましい。あるいは、炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄系金属、チタニウム合金等も使用できる。金、銀等は高価なため、鉄系金属等の表面にメッキ、真空蒸着等により金、銀等の薄膜を形成してもよい。この遮蔽板の厚みは、0.3?2.0mm程度が好ましい。」

サ 甲第13号証に記載された事項
・「それぞれの方向での屈折率の差Δnが複屈折率とよばれている(式省略)。また,Δnとフィルムの厚みdの積が位相差δである(δ=Δn・d)。」(第40ページ第3及び4行)

シ 甲第14号証に記載された事項
・「配向ひずみが存在すると,複屈折を生じる.」(第432ページ下から3及び2行)

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

(ア)甲1発明における「芳香族ポリカーボネート樹脂のPC層の片面に、PMMA層を積層して製造した共押出シートの両面にマスキングフィルムを貼り付けて製造したRSシートのPMMA層の外表面からマスキングフィルムを剥がした後、PMMA面上に、ハードコート塗料(HC1)にて塗膜を塗布後、UV硬化させてハードコート層を形成し、PC層のマスキングを剥がし」た段階の「RSシート」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「基材フィルム」に相当し、以下同様に、「印刷を施」された部分及び「中央50mm角のみ印刷なし」の部分は、それぞれ「加飾部」及び「残部の透明部」に相当する。
したがって、甲1発明における「芳香族ポリカーボネート樹脂のPC層の片面に、PMMA層を積層して製造した共押出シートの両面にマスキングフィルムを貼り付けて製造したRSシートのPMMA層の外表面からマスキングフィルムを剥がした後、PMMA面上に、ハードコート塗料(HC1)にて塗膜を塗布後、UV硬化させてハードコート層を形成し、PC層のマスキングを剥がして、該面に印刷を施し(中央50mm角のみ印刷なし)」は、本件特許発明1における「基材フィルムの一部に加飾して加飾部と残部の透明部とを形成する加飾工程」に相当する。

(イ)甲1発明において、「中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ」ること及び「中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布」することによって、「中央50mm角のみ印刷なし」の部分の全体が覆われることは明らかである。
甲1発明における「PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ」て形成した「熱線遮断層」及び「中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布後、90℃、30分間硬化させて」設けた「10μm」の「熱線反射層」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「セラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段」と、「断熱手段」という限りにおいて一致する。
甲1発明において、「68mm角」の面積は「射出金型形状(71mm角)」の面積の約92%(61×61/(71×71)×100=92)、すなわち75%以上の大きさである。
甲1発明における「ついで圧空成形機及びIRヒーターを用いて圧空成形により賦形」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「予熱した後、賦形」に相当する。
したがって、甲1発明における「その上に透明バインダーインクを施し、PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ、熱線遮断層を形成するか又は中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布後、90℃、30分間硬化させて10μmの熱線反射層を設け、ついで圧空成形機及びIRヒーターを用いて圧空成形により賦形し」は、本件特許発明1における「加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うようにセラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段を配して予熱した後、賦形し、前記透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程」と、「加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うように断熱手段を配して予熱した後、賦形して賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程」という限りにおいて一致する。

(ウ)甲1発明における「賦形されたRSシートから、PMMA層側のマスキングを剥がした後、スプレーコーティングでHC液(HC2)を塗布して、UVで硬化させて得たRS-HCシートのハードコート層上に前記と同様の熱線遮断層又は熱線反射層を形成し、それらを用いて、それぞれ射出金型形状(71mm角)にプレスで打ち抜いて、射出成形金型にインサートし、射出成形材料としてPMMA樹脂を用いて、射出成形装置にて樹脂温度;290℃、金型温度;60℃で射出成形し、上記シートと射出成形材料を一体化させる」は、本件特許発明1における「前記賦形フィルムを金型に配置し、溶融した熱可塑性樹脂を充填する射出成形工程」に相当する。

(エ)したがって、両者は、次の点で一致する。
「フィルムインサート成形品の製造方法であって、
基材フィルムの一部に加飾して加飾部と残部の透明部とを形成する加飾工程と、
加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うように断熱手段を配して予熱した後、賦形し賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程と、
前記賦形フィルムを金型に配置し、溶融した熱可塑性樹脂を充填する射出成形工程と、
を有するフィルムインサート成形品の製造方法。」

(オ)そして、両者は、少なくとも次の点で相違する。
<相違点1>
「フィルムインサート成形品」に関して、本件特許発明1においては、「液晶表示装置の前面パネル用」とすることを特定しているのに対して、甲1発明においては、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
「断熱手段」に関して、本件特許発明1においては、「セラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段」を配しているのに対して、甲1発明においては、「PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ」て形成した「熱線遮断層」又は「PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布後、90℃、30分間硬化させて」設けた「10μm」の「熱線反射層」である点。

<相違点3>
「賦形フィルム」に関して、本件特許発明1においては、「透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である」ことを特定しているのに対して、甲1発明においては、そのような特定がされていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲1発明は、「PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角に打ち抜いた厚さ0.1mmの紙製ガムテープを貼り合わせ」て形成した「熱線遮断層」及び「(PMMA面に積層されたハードコート層のマスキングフィルム上に、)中央部の画面中心(平面領域)に合わせるように68mm角エリアを印刷インク(白)を塗布後、90℃、30分間硬化させて」設けた「10μm」の「熱線反射層」のように、基材フィルムにマスキングフィルムを介して貼り合わせて形成された「熱線遮断層」または基材フィルムにマスキングフィルムを介して塗布されて設けられた「熱線反射層」を用いるものである。そして、「熱線遮断層」や「熱線反射層」として、マスキングフィルムを介して形成された「紙製ガムテープ」やマスキングフィルムを介して設けられた「印刷インク(白)」以外に使用できるものは、甲第1号証の【0049】及び【0050】等に例示されているが、そこに示されているのは、「紙製ガムテープ」や「印刷インク(白)」と実質的に同様のものであって、セラミック、金属、繊維複合材料等を使用することは記載されていないし、示唆もない。
また、甲第2号証には、「成形同時絵付成形品の製造方法」において、図柄の歪みが生じないように、赤外線ヒーターとインサート材の間に、「熱遮蔽板」として「厚さ2mmのアルミニウム板」をインサート材から離して配置することが記載されているが、甲第2号証に記載された事項は、図柄の歪みを生じさせないようにするためのもの、すなわち図柄のある部分を対象とするものであって、甲1発明の「中央50mm角のみ印刷なし」のような図柄のない部分を対象とするものではなく、また、「アルミニウム板」が「紙製ガムテープ」や「印刷インク(白)」と代替可能で、しかも代替した場合に同等の効果を奏するものであることが記載されているわけでもない。したがって、甲1発明において、基材フィルムにマスキングフィルムを介して貼り合わせて形成された「熱線遮断層」又は基材フィルムにマスキングフィルムを介して塗布されて設けられた「熱線反射層」に代えて、「厚さ2mmのアルミニウム板」を使用することの動機付けがあるとはいえない。
さらに、特許異議申立人が技術常識を示す文献として提示した甲第3ないし11、13及び14号証にも、甲第2号証に記載された事項の甲1発明への適用の動機付けとなる記載はない。
よって、甲1発明において、甲第2ないし11、13及び14号証に記載された事項を適用して、相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許発明1は、相違点2に加えて、相違点1及び3に係る発明特定事項を有することにより、本件特許明細書の【0071】ないし【0076】等(下記第4 2(2)参照。)に記載されているように、「虹ムラ、シルバー共に発生せず、視認性に優れる」及び「賦型品にたわみが無く金型に固定する際、支障がない」という甲1発明並びに甲第2ないし11、13及び14号証に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。

以上のことから、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明並びに甲第2ないし11、13及び14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を引用し、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2ないし11、13及び14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)取消理由1(進歩性)についてのむすび
よって、取消理由1によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)検討
そこで、検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品等の前面パネルに好適に用いられるフィルムインサート成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、携帯電話、オーディオ機器などのディスプレイや自動券売機のタッチパネルスクリーンなどの液晶表示装置には、前面パネルとして樹脂成形品が用いられている。これら前面パネルの表面には文字や模様など加飾が施されていることがある。
従来、このような樹脂成形品を製造する方法としては、加飾フィルムをガラスやプラスチック板などの基材シートに貼り合わせる方法がある。
例えば、下記特許文献1には、タッチパネル前面板に、文字情報などを有する加飾フィルム(デザインシート)と基材シートとを貼り合せる方法が採用されている。
この方法は、平板状の基材シートには好適であるが、立体形状の基材シートには適用できないという問題がある。
【0003】
また、加飾フィルムをインサートフィルムとして金型に配置し、基材となる樹脂を射出するフィルムインサート成形法がある(例えば、下記特許文献2参照)。この方法は、立体形状を有する樹脂成形品などにも適用できるが、立体形状の成形・転写時に加飾フィルム(転写フィルム)が熱などにより伸び、模様などの歪みが生じてしまうという問題がある。
【0004】
下記特許文献3には、平面部に相当するフィルム或いはシートの平面領域において加熱抑制領域を設ける、賦形品の製造方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】WO06/095684号公報
【特許文献2】特開2000-309033号公報
【特許文献3】特開2014-133320号公報」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に係る発明は、マスキングフィルムを用いて賦形品に加熱抑制領域を設けるというものであるが、マスキングフィルムでは断熱機能として十分とはいえない。すなわち、特許文献3における賦形品の加熱抑制領域は、下記本願発明に示す位相差(具体的には、透明部の波長540nmにおける位相差が23.4nm以下)になり得ず、特許文献3に係る発明を用いても本願発明のような低歪のフィルムインサート成形品を達成できない。また、マスキングフィルムは剥がすときに、痕が残り、外観不良になる恐れがある。
特に、加飾部に文字を含む場合、注視される部分であるため、模様のみからなる加飾部に比べて歪みが認識されやすい。また、樹脂成形品を液晶表示装置の前面パネルとして用いる場合、画像の表示に歪みが生じていると視認しにくいため、より低歪化が要求されるものである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、立体形状を有する樹脂成形品において、歪みを小さくし、画像の表示を視認しやすく、さらには文字、模様などを正確に再現できるフィルムインサート成形品の製造方法を提供することにある。」

・「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の形態は、基材フィルムの一部に加飾して加飾部と残部の透明部とを形成する加飾工程と、加飾した基材フィルムの少なくとも前記透明部を覆うように断熱手段を配して、予熱した後、賦形し、前記透明部の波長540nmにおける位相差が23.4nm以下である賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程と、前記賦形フィルムを金型に配置し、溶融した熱可塑性樹脂を充填する射出成形工程と、を有することを特徴とするフィルムインサート成形品の製造方法である。」

・「【0010】
上記形態の製造方法は、前記断熱手段を、セラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなる厚さ500μm以上の断熱材であることが好ましい。断熱手段を、保護フィルムのような熱可塑性樹脂からなる断熱材とする場合と比較して、優れた耐熱性を有し、十分に断熱することができるためである。
【0011】
上記形態の製造方法は、賦形フィルム形成工程において、断熱手段を用いて予熱するため、透明部の位相差が小さくなり、歪みが生じにくい賦形フィルムになり、また、それを用いて成形した成形品の位相差も小さくすることができ、歪みが小さい透明部を有する成形品を製造することができる。透明部を窓部などにして画像の表示画面とすれば、視認しやすいものとなる。文字、模様などの加飾部を断熱した場合は、文字、模様などの歪みが小さくなり、輪郭がはっきりとした文字、模様などが表示できる。
【0012】
このように、賦形フィルム形成工程において、透明部の波長540nmにおける位相差が23.4nm以下である賦形フィルムを形成することにより、射出成形後のフィルムインサート成形品の位相差が小さくなり、成形品の透明部の歪みが小さくなる。」

・「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態のフィルムインサート成形品の製造方法を、図面に基づいて説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の一実施形態のフィルムインサート成形品の製造方法(以下、本製造方法ともいう。)は、基材フィルムに加飾する加飾工程と、加飾した基材フィルムを賦形して賦形フィルムを形成する賦形フィルム形成工程と、賦形フィルムを金型に配置して射出成形する射出成形工程と、を備え、図3に示すように、基材フィルム2を賦形する際に断熱手段8を用いて予熱する。
本製造方法により製造された一例のフィルムインサート成形品1は、図2(A)及び(B)に示すように、表面側の賦形フィルム2Aと裏面側の基材樹脂3との積層構成からなり、平面部4と立ち壁部5とを有する形状であり、加飾した加飾部6と残部の透明部7とを備えるものである。」

・「【0016】
(基材フィルム2)
本製造方法で用いられる基材フィルム2は、特に限定するものではないが、厚み1μm以上、10mm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以上、500μm以下、特には150μm以上、350μm以下が好ましい。賦形時の破れ防止や賦形後の剛性保持などの観点からこの範囲が好ましい。
【0017】
基材フィルム2は、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートなどの樹脂組成物からなる透明樹脂フィルムを用いることができる。
基材フィルム2としては、フィルムインサート成形品の耐熱性を向上させる観点から、ガラス転移温度が高い樹脂を選定することが好ましく、ガラス転移温度が100℃以上、170℃以下、さらには120℃以上、160℃以下、より好ましくは140℃以上、155℃以下の樹脂を選定することが好ましい。すなわち、本発明のフィルムインサート成形品が耐熱性を要求される前面パネルとして用いられる場合、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートなどを用いるのが好ましい。
【0018】
一方、賦形サイクルを向上させる観点からは、基材フィルム2として、ガラス転移温度が低い樹脂を選定することが好ましく、50℃以上、150℃以下、さらには上限値が140℃以下、130℃以下、100℃以下が好ましく、下限値が60℃以上であることが好ましい。すなわち、携帯電話,家電製品等の量産する前面パネルとして用いられる場合、例えば、ポリエチレンテレフタレートを用いるが好ましい。」

・「【0021】
(加飾工程)
加飾工程は、基材フィルム2に加飾した加飾部6と残部の透明部7を形成する。
加飾部6としては、どのような加飾を施してもよいが、ベタ塗り、文字、模様などからなるものを挙げることができる。加飾部6以外の部分は透明部7となる。本実施形態では、印刷を施さない長方形状の透明部7(フィルムインサート成形品1の窓部になる部分)を設け、その外側に丸隅長方形枠状に適宜色でベタ塗りした加飾部6を設けてある。加飾部6の一部箇所は、透明に抜いて文字が表出するようにしてある。」

・「【0023】
(賦形フィルム形成工程)
賦形フィルム形成工程は、断熱手段8を用いて基材フィルム2を予熱し、賦形して賦形フィルム2Aを形成する。
本製造方法では、賦形フィルム2Aは、基材フィルム2を賦形して、図2(A)及び(B)に示すように、長方形状の平面部4の周囲から垂下した立ち壁部5を有する形状にする。立体形状は、これに限定されるものではなく用途に応じて適宜立体形状に賦形することができる。
賦形は、特に限定するものではないが、圧空成形などにより施すことができ、より具体的には、基材フィルム2を、予熱後、フィルムのガラス転移温度付近まで昇温した賦形型に配置し、圧空により賦形型の形状に成形することができる。
【0024】
賦形フィルム2Aは、基材フィルム2の予熱工程において、適宜箇所を断熱することにより位相差を23.4nm(9/104π)以下に調整することができる。
断熱する方法としては、例えば、図1(b)又は図3などに示すように、断熱手段8として断熱材を使用する方法などが挙げられる。また、断熱する範囲を分割し、それぞれの範囲で加熱温度を変えてもよい。
【0025】
断熱手段8は、熱伝導率の低い材質を板状にした断熱板を用いることができ、断熱板は、特に限定するものではないが、熱伝導率が0.03W/m・K以上、0.20W/m・K以下、好ましくは0.04W/m・K以上、0.18W/m・K以下、さらに好ましくは0.05W/m・K以上、0.15W/m・K以下の材質を用いることができ、具体的には、耐熱性に優れているという観点から、セラミック、金属、繊維複合材料などが好ましい。金属は例えば、アルミニウム、金、銅、ステンレス、チタン、鉄、銀などがある。セラミックとしては、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素などがある。また、繊維複合材料としては、ガラス繊維/エポキシ樹脂、ガラス繊維/フェノール樹脂、ガラス繊維/ホウ酸塩、ガラス繊維/リン酸塩、ガラス繊維/ケイ酸塩などがあり、特に、ケイ酸化合物及びガラス繊維などの複合材が他材料に比較して切削加工が容易であり、かつ熱伝導係数が低いために、断熱効果が高く好ましい。断熱板の厚みは、500μm以上、特に1000μm以上であることが好ましい。
・・・(略)・・・
【0026】
断熱手段8を用いて予熱工程を行う場合、断熱手段8は、透明部全体を覆う。また、文字等の印刷がなされる場合は、文字部も覆うようにすることがフィルムインサート成形品1の歪を低減する観点から好ましい。また、断熱手段8のサイズは限定されないが、フィルムインサート成形品1を正面から見た時の投影面積に対して、75%以上、好ましくは78%以上、さらに好ましくは85%以上である。これによれば、賦形フィルムの透明部の位相差を抑えることができる。一方で、賦形フィルムを十分に予熱する観点から、断熱手段8のサイズは、フィルムインサート成形品1を正面から見た時の投影面積に対して、99%以下が好ましく、より好ましくは95%以下である。
・・・(略)・・・
【0027】
本製造方法では、図1(b)に示すように、印刷などにより加飾部6を設けた基材フィルム2に、平面部4になる部分(例えば、図1(b)の破線の範囲)に断熱板からなる断熱手段8を配置し、図3に示すように、表裏両面側からIRヒータなどのヒータ装置9で加熱して予熱した後に賦形して賦形フィルム2Aを形成する。
断熱手段8は、基材フィルム2上に直接配置せず、接触させない状態で配置してもよい。これによれば、断熱手段を接触させる方法と比較して、断熱手段を除くときに痕が残り外観不良になる恐れがないため、好ましい。接触させない状態で配置する方法としては、基材フィルム2を上下より挟み込むように設置された網目状の金具に断熱板を固定するなどの方法がある。」

・「【0031】
(射出成形工程)
射出成形工程は、賦形フィルム2Aを金型14に配置し、熱可塑性樹脂を充填する。
賦形フィルム2Aは、図4に示すように、適宜形状に裁断され、後述する射出成形のための金型14にセットされる。・・・(略)・・・
【0032】
基材樹脂3は、熱可塑性樹脂を射出成形することにより形成される。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(共重合体を含む)、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミドなどを挙げることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミドが高耐熱性の観点から好ましく、さらには、ポリカーボネートが高剛性、高耐熱性、高耐衝撃性の観点からより好ましい。」

・「【0046】
(フィルムインサート成形品1)
本製造方法により製造されたフィルムインサート成形品1は、透明部7における波長540nmにおける位相差の平均値が49.3nm(19/104π)以下、好ましくは44.1nm(17/104π)以下、さらに好ましくは38.9nm(15/104π)以下である。
本製造方法により製造されたフィルムインサート成形品1は、透明部における位相差が62.3nm(3/13π)を超える面積割合が40%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以下である。
この面積割合は、賦形フィルムと同様の方法で算出することができる。
本製造方法により製造されたフィルムインサート成形品1は、あらゆる分野の樹脂成形品として用いられるが、特に、立体形状を有し、且つ、高品質の美観や正確な模様の再現性が求められる用途に好ましく用いられる。中でも、金融機関のATMや鉄道駅・レストランなどの自動券売機に用いられるタッチパネルスクリーン、家電製品、携帯電話、オーディオ機器、車載機器等に搭載される前面パネルとして好適に用いられる。」

・「【実施例】
【0048】
以下、本発明の一実施例を示し、本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
図2に示すような形態のフィルムインサート成形品を作製するために、以下の手順で、各賦形フィルムを作製した。
【0050】
<賦形フィルムの作成>
(賦形フィルム1)
ポリカーボネートをTダイにより製膜したフィルムを用い、このフィルムにAR、AF、HC機能を付与したコート剤をロールコート法によりコーティングした。これを、枚葉にカット後、スクリーン印刷により加飾して加飾部と透明部とを有する基材フィルムとした(線膨張係数60ppm/K)。
次に、この基材フィルムを上下よりIRヒータで予熱した。予熱温度は、210℃とした。その後、予熱したフィルムを賦形型にセットし、280℃、8MPaの条件で圧空により賦形を行った。得られた賦形フィルムの透明部の位相差を測定し、平均値を算出したところ、93.5nm(9/26π)であった。また、得られた賦形フィルムの透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は65%であった。
【0051】
(賦形フィルム2)
上記フィルム1で用いた基材フィルムを用い、予熱工程において、文字部および透明部の温度を100?120℃、それ以外の部分の温度を200℃?220℃となるように調整した以外は、上記フィルム1と同じ手順で賦形フィルムを作成した。
【0052】
具体的には、予熱エリアを6×6のブロックに分けて、IRヒータの設定温度をブロックごとに変えて予熱し、各部分の温度が上記のように設定した。得られた賦形フィルムの透明部の位相差を測定し、平均値を算出したところ、46.7nm(9/52π)であった。
また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は32%であった。
【0053】
(賦形フィルム3)
上記フィルム1で用いた基材フィルムを用い、予熱工程において、フィルムインサート成形品の正面投影面積に対して70%を占める大きさ(252cm^(2);横12cm×縦21cm)とし、図6の2点鎖線8aで示すように断熱板を、配置した以外は、上記フィルム2と同じ手順で賦形フィルムを作成した。
【0054】
断熱板としては、ケイ酸化合物のバインダ及びガラス繊維からなる繊維複合材料「ミスミ社製HIPAL」(厚さ5mm、線膨張係数7.3×10^(-5)/℃、熱伝導率0.08W/m・K)を使用した。断熱板は、図3に示すように、基材フィルムの加飾部及び透明部の上下に接触しないよう配置して予熱を行い、当該箇所にIRヒータの熱が遮断されるようにした。断熱板の大きさは図6の2点鎖線8aで示すように透明部全体を覆う大きさとした。得られた賦形フィルムの透明部における位相差を測定し、平均値を算出したところ、26.0nm(5/52π)であった。
また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は15%であった。
【0055】
(賦形フィルム4)
予熱工程において使用する断熱板の大きさを、フィルムインサート成形品の正面投影面積に対して79%(加飾部全体を覆う大きさ(286cm^(2);横13cm×縦22cm)とし、図6の1点鎖線8bで示すように、透明部及び文字部の全周囲において約1cm以上外側に及ぶ領域が覆われるように配置し、加飾部を含む範囲が断熱されるようにした以外は、上記賦形フィルム3と同じ手順で賦形フィルムを作成した。得られた賦形フィルムの透明部の位相差を測定し、平均値を算出したところ、20.8nm(1/13π)であった。
また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は12%であった。
【0056】
(賦形フィルム5)
加飾を施さないフィルムを用いた以外は、上記賦形フィルム4と同じ手順で賦形フィルムを作成した。得られた賦形フィルムの位相差を測定し、平均値を算出したところ、51.9nm(5/26π)であり、立ち壁部における位相差を測定し、平均値を算出したところ93.5nm(9/26π)であった。また、フィルム投影面積全体のうち、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は35%であった。
【0057】
(測定)
上記フィルム1?5の位相差は以下のとおり測定した。また、賦形フィルム作成工程における、たわみの有無を以下のとおりに判定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0058】
<位相差>
賦形フィルムの位相差は、株式会社フォトニック・ラティス社製の二次元複屈折評価システムPA-110により測定した。より具体的には、該当部に透過前の入射光および透過後の透過光を、偏光子を通じた時の透過光量差を把握することにより面方向の位相差を見出した。また、面積割合は、上述のように、96区画に分割された各分割部分の位相差を測定し、波長540nmにおける位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合を算出した。
【0059】
<たわみ>
賦形フィルム作成工程における、たわみの有無は、目視で形状観察をし、賦形型のキャビティの形状に大きく追随していないものは、たわみ有りと判定した。
【0060】
【表1】

【0061】
<フィルムインサート成形品>
上記賦形フィルム3又は4を、金型のキャビティ面に配置して、溶融された熱可塑性樹脂を射出して、実施例1?5及び比較例1?3のフィルムインサート成形品を作製した。
基材樹脂を構成する樹脂組成物としては、ポリカーボネート樹脂(せん断速度250[1/s]、ガラス転移温度140℃、メルトフローレート(300℃、1.2kg)が30cm^(3)/10min、曲げ弾性率2.4GPa、全光透過率88%、線膨張係数70ppm/K)を使用した。
金型は、図5に示すように、樹脂射出口を下方に設けたものを使用した。
【0062】
<アニール>
フィルムインサート成形品を作製するにあたり、アニールを施した。アニールの条件としては、105℃×2時間とした。
【0063】
<切削加工>
切削加工は、樹脂組成物により金型のゲート部側に形成された張出部を切り落とした。
【0064】
(実施例1)
賦形フィルム4を、フィルムゲート部の面積が金型ゲート部の正面面積に対して50%となるように配置し、樹脂温度300℃、圧縮量1.83倍の設定で、熱可塑性樹脂を射出して、フィルムインサート成形を行った。次いで、上述の条件でアニールを経て、張出部を切削加工してフィルムインサート成形品を作製した。この透明部の位相差を測定したところ41.5nm(2/13π)であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は27%であった。
【0065】
(実施例2)
フィルムインサート成形を行った後、張出部の切削加工を経て、アニールを行った点以外は、実施例1と同じ手順でフィルムインサート成形品を得た。この透明部の位相差を測定したところ41.5nm(2/13π)であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は27%であった。
【0066】
(実施例3)
樹脂温度320℃の設定で、フィルムインサート成形を行った点以外は、実施例1と同じ手順でフィルムインサート成形品を得た。この透明部の位相差を測定したところ38.9nm(15/104π)であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は25%であった。
【0067】
(実施例4)
フィルムインサート成形時における金型の上下を逆にして樹脂射出口を上方にした以外は、実施例1と同じ手順でフィルムインサート成形品を得た。この透明部の位相差を測定したところ46.7nm(9/52π)であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は32%であった。
【0068】
(実施例5)
フィルムインサート成形時における圧縮量を約2倍にした点以外は、実施例1と同じ手順でフィルムインサート成形品を得た。この透明部の位相差を測定したところ36.3nm(7/52π)であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は23%であった。
【0069】
(比較例1)
賦形フィルム3を用いて、フィルムインサート成形を行った点以外は、実施例1と同じ手順でフィルムインサート成形品を得た。この透明部の位相差を測定したところ62.3nm(3/13π)以下であった。また、透明部中、位相差62.3nm(3/13π)を超える面積の割合は45%であった。
【0070】
(試験)
実施例1?5及び比較例1のフィルムインサート成形品を用いて、以下の試験を行った。なお、各フィルムインサート成形品の位相差は、上記賦形フィルムの位相差と同様に測定した。これらの結果を下記表2に示す。
【0071】
<外観>
外観の評価は、フィルムインサート成形品の透明部後方よりバックライトを当て、正面側より偏光板を通し、目視により虹ムラ、およびシルバーの発生有無について確認し、以下の指標で評価した。
◎:虹ムラ、シルバー共に発生せず、視認性に優れる
○:シルバーが少しみられるが、虹ムラはなく、視認性に優れる
×:虹ムラが発生しており、視認性が悪い
【0072】
<フィルムセット性>
フィルムセット性は、フィルムインサート成形における金型への賦形品固定の際、以下の指標で評価した。
○:賦形品にたわみが無く金型に固定する際、支障がない
×:金型への固定に支障をきたすほどのたわみが賦形品に発生している
【0073】
【表2】

【0074】
(試験結果)
表2に示すように、本発明の製造方法を用いて得られたフィルムインサート成形品である実施例1?5は、透明部における位相差が小さく、立体的に成形されたフィルムインサート成形品でありながら、歪み・虹ムラがなく、視認性に優れるものであった。また、実施例1?5は、賦形工程におけるフィルム予熱時の断熱板使用により過剰な加熱を防いで賦形品のたわみ量を抑制したものであるから、フィルムセット性に優れるものであることが示された。
【0075】
一方、比較例1は、透明部における位相差が高く、視認性に劣り、印刷に向かないものであった。特に位相差が高い比較例1は、フィルムセット性の点からもたわみ量が大きく、成形に支障をきたす状態であった。
【0076】
このように、本発明の製造方法により製造されたフィルムインサート成形品は、低歪化され、外観やフィルムのセット性に大きな違いが出ることが、上述の実施例及び比較例の効果から実証された。」

上記の本件特許明細書の発明の詳細な説明によると、本件特許発明の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、上記第3 2のとおり、「立体形状を有する樹脂成形品において、歪みを小さくし、画像の表示を視認しやすく、さらには文字、模様などを正確に再現できるフィルムインサート成形品の製造方法を提供すること」である。
そして、本件特許明細書の【0010】には、「断熱手段」として「セラミック、金属、繊維複合材料」が好ましいこと及び「断熱手段の厚み」は「500μm以上」が好ましいことが記載され、【0011】には、「断熱手段を用いて予熱する」ことにより、「透明部の位相差が小さくなり、歪みが生じにくい賦形フィルムになり、また、それを用いて成形した成形品の位相差も小さくすることができ、歪みが小さい透明部を有する成形品を製造することができる」ことが記載され、【0024】には、「断熱する範囲を分割し、それぞれの範囲で加熱温度を変えてもよい」ことが記載され、【0027】には、「断熱手段」を「基材フィルム」上に「直接配置せず、接触させない状態で配置してもよい」ことが記載され、【0048】ないし【0076】には、「加飾した基材フィルムの少なくとも透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うようにセラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段を配して予熱した後、賦形し、透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である賦形フィルム」を使用することにより、「透明部における位相差が小さく、立体的に成形されたフィルムインサート成形品でありながら、歪み・虹ムラがなく、視認性に優れる」「フィルムインサート成形品」が得られることが、具体的な実施例及び比較例によって示されている(特に【0060】の【表1】には、断熱手段がインサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うようなサイズの場合に、透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下となることが記載され、【0073】の【表2】には、透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である賦形フィルムを使用した場合に、そうでない場合と比べて、インサート成形品の透明部の位相差が49.3nm以下と小さくなり、外観及びフィルムセット性の点で優れるという効果を奏することが記載されている。)。
そうすると、発明の課題を解決するためには、本件特許発明1の発明特定事項である「加飾した基材フィルムの少なくとも透明部全体を覆い、かつ、インサート成形品の正面投影面積に対して75%以上の大きさを覆うようにセラミック、金属、繊維複合材料のいずれかからなり厚さ500μm以上の断熱手段を配して予熱した後、賦形し、透明部の波長540nmにおける平均位相差が23.4nm以下である賦形フィルム」を使用することに重要な技術的意味があると、当業者は理解する。また、発明の課題を解決するためには、「セラミック、金属、繊維複合材料」の種類に影響を受けることがあるとしても、適宜工夫(たとえば、断熱手段として熱伝導率の高いアルミニウム等の金属を使用した場合には、基材フィルム上に直接配置せず、接触させない状態で配置する又は加熱温度を変える等【0024】及び【0027】の記載から当業者が容易に考えつく条件の設定)を施すことによって、その影響を小さくし、所期の効果を奏することができる。

したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。

(3)取消理由2についてのむすび
よって、取消理由2によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件
物を生産する方法の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、または、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載を要する。

(2)検討
そこで、検討する。
上記2(2)によると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の発明特定事項である「液晶表示装置の前面パネル」、「フィルムインサート成形品」、「基材フィルム」、「加飾工程」、「賦形フィルム形成工程」、「断熱手段」、「射出成形工程」及び「熱可塑性樹脂」について、それぞれ、どのようなものであるか記載され、具体的な実施例も記載されている。
また、断熱手段として熱伝導率の高いアルミニウム等の金属を使用した場合でも、上記2(2)のとおり、過度の試行錯誤を要するものとはいえない。

したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、または、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。

(3)取消理由3についてのむすび
よって、取消理由3によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-17 
出願番号 特願2016-110361(P2016-110361)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷部 智寿  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
阪▲崎▼ 裕美
登録日 2017-07-14 
登録番号 特許第6172339号(P6172339)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 フィルムインサート成形品の製造方法  
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所  

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