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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1340161
異議申立番号 異議2017-701136  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-30 
確定日 2018-05-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6138317号発明「皮膚外用剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6138317号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 理由
1 主な手続の経緯等
特許第6138317号(請求項の数は1。以下「本件特許」という。)は、平成24年10月10日を出願日とする特許出願(特願2012-224699号)の一部を平成28年5月10日に新たな特許出願としたものに係るものであって、平成29年5月12日にその特許権が設定登録されたものである。
その後、平成29年11月30日に特許異議申立人中嶋美奈子(以下、単に「異議申立人」という。)より本件特許の請求項1に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てがされ、平成30年1月18日付けで取消理由(以下、「当審取消理由」という。)が通知され、同年3月20日に特許権者より意見書が提出された。

2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
アルテアと、カンゾウ葉抽出物を含有する皮膚外用剤。

3 当審取消理由の概要
当審取消理由の概要は、本件発明は甲1に記載された発明に基いて当業者が容易になしうるものであり、法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 異議申立人の主張に係る取消理由の概要
異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。
(1) 本件発明は、甲1又は甲2に記載された主たる引用発明に対し、甲5及び甲6に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下「取消理由1」という)。
(2) 本件発明は、甲3?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、法29条2項の規定により特許を受けることができない(以下「取消理由2」という)。
(3) 本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は、法36条4項1号に規定する要件に適合しない(以下「取消理由3」という。なお、当該要件を「実施可能要件」という場合がある)。
(4) 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、法36条6項1号に規定する要件に適合しない(以下「取消理由4」という。なお、当該要件を「サポート要件」という場合がある)。
(5) そして、上記取消理由1?4にはいずれも理由があるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、法113条2号及び4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6) また、証拠方法として書証を申出、以下の文書(甲1?7)を提出する。
・甲1: 特開2001-302438号公報
・甲2: 特開2002-212052号公報
・甲3: 特開2012-56933号公報
・甲4: 特開2005-206568号公報
・甲5: 特開2009-256271号公報
・甲6: 特開2009-256270号公報
・甲7: MARUZEN PRODUCT LIST専用CD-ROM(2002年)の「甘草(甘草葉)」のページ

5 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、当審取消理由、及び、取消理由1?4にはいずれも理由はないと判断する。
(1) 当審取消理由について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、特に特許請求の範囲及び実施例4、16、21、23、26、28の記載から、次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「植物抽出混合物3又はビロウドアオイ抽出物と、カンゾウ根抽出物を含有する皮膚外用剤」
イ 本件発明と甲1発明との対比、並びに、その相違点など
本件明細書の【0018】には、「本発明において用いるアルテア(ビロウドアオイ)(Althaea officinalis L.)はアオイ科(Malvaceae)に属する多年草で、葉,茎,花,根等の各部位、全草等を用いることができるが、葉及び/又は根を用いることが好ましい。アルテアとして市販の、アルテア抽出液B(製造元:池田糖化工業)、EXTRAIT HG GUIMAUVE(池田物産)、VEGETOL MARSH MALLOW MCF 770 HY-DRO(池田物産)、ファルコレックス アルテア(製造元:一丸ファルコス)、フィトデセンシタイザーABBA(製造元:一丸ファルコス)、アルテア抽出液製造元:香栄興業)、オーガニックアルテアエキス BG-50(製造元:香栄興業)、アルテア抽出液-SH(製造元:丸善製薬)等を用いることもできる。」と記載されていること、及び、実施例1、3-6においても「アルテアエキス」あるいは「アルテア抽出物」が使用されていることからみて、本件発明における「アルテア」(すなわち、ビロウドアオイ)には抽出物の形態のものが含まれると認められる。一方、甲1発明における「植物抽出混合物3」は、甲1の【0058】の記載からみて、原料であるビロウドアオイの抽出物を当然含むものと認められる。したがって、甲1発明における「植物抽出混合物3」及び「ビロウドアオイ抽出物」は、本件発明における「アルテア」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明とは、
「アルテアと、カンゾウ抽出物を含有する皮膚外用剤」
の点で一致し、次の点で相違する。
相違点:カンゾウ抽出物について、本件発明は「カンゾウ葉抽出物」であるのに対し、甲1発明は「カンゾウ根抽出物」である点。
ウ 相違点についての判断
甲1の【0034】には「カンゾウ・・・はマメ科(Leguminosae)に属する多年草で、・・・抽出には、葉,茎,花,根等の各部位及び全草を用いることができるが、根を用いることが好ましい。」と記載されているから、甲1発明におけるカンゾウ根抽出物に代えて、カンゾウ葉抽出物を採用することは、一見すると、当業者が容易になしうるようにもとれる。
しかしながら、特にカンゾウ葉抽出物を採用することによる効果について、平成30年3月20日提出の意見書に乙第1号証として添付された実験成績証明書によれば、カンゾウ根抽出物を使用する場合と比較して皮膚の「弾力」及び「ハリ」に対する改善効果がより優れていることが認められ、そして、このような効果は、甲1の記載からは予測しえない顕著なものであるといえる。
エ 小括
以上のとおりであるから、当審取消理由には理由がない。

(2) 取消理由1について
ア 異議申立人は、甲1又は甲2に記載された発明に使用するカンゾウ抽出物として、甲1及び甲2にカンゾウ根抽出物と共に並記され、かつ甲5及び甲6で皮膚症状の予防・改善効果が知られてもいるカンゾウ葉抽出物を使用することは、当業者が容易になしえたことであり、特に根抽出物に代えて葉抽出物を採用することによる格別の効果も、本件特許明細書の記載からは理解できないと主張する。
イ しかしながら、カンゾウ葉抽出物を採用することで、カンゾウ根抽出物を使用するよりも優れた「弾力」、「ハリ」改善効果を奏すること(上記(1)ウ参照。)は、甲1、甲2、甲5及び甲6の記載からは予測しえない顕著な効果であるといえる。(なお、異議申立人は、甲2にカンゾウ根抽出物とカンゾウ葉抽出物が並記されていることの根拠として【0015】の記載を挙げるが、【0015】はカンゾウ抽出物についての記載ではない。よって、異議申立人の甲2についての上記主張は、その前提において採用できない。)
ウ したがって、本件発明は甲1、甲2、甲5、甲6から想到容易とはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。

(3) 取消理由2について
ア 異議申立人は、甲3及び甲4にはアルテア抽出物が皮膚改善効果を有し、皮膚外用剤として用いるのが好ましい旨記載され、甲5及び甲6にはカンゾウ葉抽出物による皮膚症状の改善効果が記載されているから、皮膚改善のためアルテア抽出物とカンゾウ葉抽出物とを併用した皮膚外用剤とすることは当業者が容易になしうることであると主張する。
イ しかしながら、本件特許明細書には、アルテアとカンゾウ葉抽出物とを0.5%ずつ併用した実施例1が、各々を1%単独使用した参考例1及び比較例2よりも優れた皮膚改善効果を有することが示されているところ、そのような事項は甲3?甲6の記載からは予測しえない顕著な効果であるといえる。
ウ したがって、本件発明は甲3?甲6から想到容易とはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。

(4) 取消理由3について
ア 異議申立人は、以下の(ア)、(イ)を理由に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。
(ア)本件特許明細書の実施例1にアルテアエキス0.5%とカンゾウ葉抽出物0.5%を含有する外用剤についての評価が記載されているところ、甲7に記載のとおり、丸善製薬から販売されるカンゾウ葉抽出物にはカンゾウ葉エキス含有量が10倍も異なる「甘草葉抽出液BG」、「甘草葉抽出液LA」といった複数の製品が存在するため、実施例1の記載からは、カンゾウ葉抽出物としてどのようなものを使用した場合に前記評価が得られるのかを当業者が理解できない。
(イ)明細書【0050】、【0051】に記載された各抽出物の配合濃度は、植物体そのもの又は溶媒を含まない抽出物そのものの濃度を意味すると考えられる一方、実施例1で用いられている「甘草葉抽出物」等は抽出物のほかに溶媒を含む製品であり、仮に「甘草葉抽出液LA」のほうを用いた場合には美容液中のカンゾウ葉エキスの含有量は【0051】の好ましい配合量を下回ることになる。したがって、【0050】、【0051】の配合濃度の意味と実施例での配合濃度との関係が不明である。
イ しかしながら、そもそも実施可能要件は、物の発明においてはその物を作ることができかつ使用できるように発明の詳細な説明を記載しなければならないことを規定するものであるところ、請求項1に上記評価に係る記載がされているのであればさておき、そのような記載のない請求項1の実施可能要件を検討するにあたり、上記評価が得られるか否か、あるいは、カンゾウ葉エキスの配合濃度が好ましいか否かといった点は、請求項1に記載の「皮膚外用剤」を製造及び使用できるかについての判断に影響を与えるものではない。
ウ したがって、実施例1で使用された「甘草葉抽出物」がいずれの製品であるか明らかでないこと、及び、明細書の記載と実施例における配合濃度の関係が不明であることを理由として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとする異議申立人の上記主張は採用できない。
エ なお、明細書の実施例(特に【表3】、【表4】)によれば、アルテアエキスのみを1%含む参考例1と比較して、前記アルテアエキスのうち半量(0.5%)がカンゾウ葉抽出物に置換された上記実施例1は「弾力」、「肌荒れ」の改善効果の点でより高い評価であったことから、カンゾウ葉抽出物自体が当該効果を有していることは明らかである。
そうすると、少なくともカンゾウ葉抽出物を使用すれば、その含有量の違いにより発揮される効果の程度に差が生じる可能性はあるものの、実施例1と同様の皮膚改善効果を得られると解するのが妥当であるところ、本件発明においては特定の含有量でない限り効果をまったく発揮しないといった特段の事情が存在するとも認められない。
したがって、この点からも、異議申立人の上記主張は採用できない。

(5) 取消理由4について
ア 異議申立人は、以下の(ア)、(イ)を理由に、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。
(ア) 本件発明はアルテア及びカンゾウ葉抽出物の含有量、含有比率を特定しないものであるところ、当該発明について具体的効果を伴って明細書に記載されているのは、アルテアエキス0.5%とカンゾウ葉抽出物0.5%を含有する実施例1のみであって、いかなる濃度及び比率で含有する場合であっても本件発明の効果が奏されるとは考えられない。
(イ) 本件発明は「アルテア」の使用形態について、植物そのものと抽出物を選択可能であるところ、植物体から得られる成分はその形態や抽出方法・溶媒等によって大きく異なるから、特定の抽出溶媒を使用して得たと考えられる「ファルコレックス アルテア(製造元:一丸ファルコス)」を用いる例で得られた効果について、他の形態のものや他の方法・溶媒で得たものを用いた場合にも同様の効果が得られるという技術常識は存在しない。
イ そこで検討するに、本願明細書【0009】によれば、本件発明が解決しようとする課題は、黄ぐすみ、ハリ、弾力の低下、肌荒れを総合的に防止、改善する皮膚外用剤を提供することであると認められる。
そうであるところ、明細書の実施例1の記載から、アルテア抽出物とカンゾウ葉抽出物の併用により「くすみ」、「弾力の低下」、「ハリの低下」、「肌荒れ」の改善効果が奏されることは明らかである。そうすると、少なくともこれら二種の抽出物を使用すれば、各抽出物自体の含有量及び含有比率、あるいはそれらに含まれる各成分の含有量及び含有比率の違いにより発揮される効果の程度に差が生じる可能性はあるものの、実施例1と同様の皮膚改善効果を得られると解するのが妥当である。そして、本件発明においては特定の含有量及び含有比率等のもの、あるいは特定の植物体の形態、抽出方法・溶媒で得たものしか効果を発揮しないといった特段の事情が存在するとも認められない。
エ したがって、請求項1には、本件発明の課題を解決しうると当業者が認識できる範囲のものが記載されているといえるから、サポート要件を満たさないという異議申立人の上記主張は採用できない。

6 むすび
したがって、当審取消理由及び異議申立人の主張する取消理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-24 
出願番号 特願2016-94496(P2016-94496)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 長谷川 茜
関 美祝
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6138317号(P6138317)
権利者 株式会社ノエビア
発明の名称 皮膚外用剤  

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