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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1340170
異議申立番号 異議2018-700182  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-27 
確定日 2018-05-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6188845号発明「偏光板及び画像表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6188845号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
特許第6188845号の請求項1?請求項9に係る特許についての特許出願(特願2016-31293号)は,平成28年2月22日に出願され,平成29年8月10日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,平成29年8月30日に特許掲載公報の発行がされたところ,特許掲載公報の発行の日から6月以内である平成30年2月27日に,特許異議申立人 山崎英男から,全請求項に対して特許異議の申立て(異議2018-700182号)がされた。
以下,特許第6188845号の請求項1?請求項9に係る特許を,「本件特許」と総称する。また,請求項1?請求項9に係る発明を,それぞれ,「本件特許発明1」?「本件特許発明9」といい,総称して「本件特許発明」という。

2 本件特許発明
本件特許発明1?本件特許発明9は,それぞれ,特許請求の範囲の請求項1?請求項9に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと,を備える偏光板であって,
前記偏光板を貫通する穴の鉛直度が,0.00以上0.32未満であり,
前記穴の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である,
偏光板。

【請求項2】
前記穴の周囲における亀裂の数が,単位長さ1mmあたり,0以上3以下である,
請求項1に記載の偏光板。

【請求項3】
前記穴の周囲における亀裂の長さが,0μm以上50μm未満である,
請求項1又は2に記載の偏光板。

【請求項4】
前記偏光子を挟む一対の前記光学フィルムのうち少なくとも一方の光学フィルムが,トリアセチルセルロースを含む,
請求項1?3のいずれか一項に記載の偏光板。

【請求項5】
前記偏光子を挟む一対の前記光学フィルムのうち少なくとも一方の光学フィルムが,環状オレフィンポリマーを含む,
請求項1?4のいずれか一項に記載の偏光板。

【請求項6】
前記偏光子を挟む一対の前記光学フィルムのうち少なくとも一方の光学フィルムが,(メタ)アクリル系樹脂を含む,
請求項1?5のいずれか一項に記載の偏光板。

【請求項7】
前記偏光子がポリビニルアルコール系樹脂を含み,
少なくとも一つの前記光学フィルムが熱可塑性樹脂を含む,
請求項1?6のいずれか一項に記載の偏光板。

【請求項8】
画像表示装置に用いられる,
請求項1?7のいずれか一項に記載の偏光板。

【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の偏光板を含む,
画像表示装置。」

3 特許異議の申立てについて
(1) 証拠について
特許異議申立人が提出した証拠は,以下のとおりである。
甲1:特開2014-226671号公報
甲2:特開2015-194776号公報
甲3:特開2010-277018号公報

(2) 特許異議の申立ての理由
特許異議の申立ての理由の概要は,以下のとおりである。
ア 特許法29条2項
本件特許発明は,甲1?甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条1項2号に該当し,取り消されるべきものである。
(当合議体注:主引用発明が記載された文献は,甲1とされている。)

イ 特許法36条6項1号
本件特許発明は,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。したがって,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条1項4号に該当し,取り消されるべきものである。

第2 当合議体の判断
1 特許法29条2項について
(1) 甲1の記載
甲1には,以下の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,…(省略)…ガラス基板上に樹脂製の偏光板が貼り付けられた液晶表示パネル(LCD)において,偏光板をレーザビームで切断する際の切断方法として利用される。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板の片面あるいは両面にPET樹脂などからなる偏光板(偏光フイルム)を貼り付けた液晶表示パネルは従来から知られている。…(省略)…特許文献1で示された方法では,まず,複数の単位パネルがパターン形成された大面積の液晶マザー基板から個々の単位パネルを切り出し,この単位パネルに,別途作成された偏光板が一枚ずつ貼り付けられている。
【0003】
上記の方法では,単位パネル毎に偏光板を貼り付けなければならないので,その工程に時間がかかる。
…(省略)…
【0004】
そこで出願人は,大面積の液晶マザー基板の全面に偏光板を先に貼り付けておき,その後,切断予定ラインに沿ってレーザビームで偏光板を切断するようにした方法を特許文献2で開示している。
…(省略)…
【0005】
【特許文献1】特開2002-023151号公報
【特許文献2】特開2011-178636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に,レーザビームを走査して偏光板を切断する場合,レーザビームは,所定の強度分布で走査するようにしている。…(省略)…しかしながら,分断された単位パネルを製品としてみた場合には,傾斜領域の幅L1はできるだけ小さい方が望ましい。すなわち,偏光板12の端はできるだけガラス基板11の端に近い位置で分断できることが望ましい。…(省略)…高品質の単位パネルを得るためには,ガラス基板に熱的ダメージをもたらすことなく,上記傾斜領域の幅L1をできるだけ小さく,具体的にはL1を50μm以下にすることが望ましい。
…(省略)…
【0014】
図1(a)に示すように,ガラス基板1への熱的ダメージを抑えるべくレーザビームBの焦点Pを液晶マザー基板Aの上方(あるいは下方)にずらしたデフォーカス状態となるよう,レーザ光学系(図示外)を切断予定ラインSの上方に配置する。…(省略)…使用されるレーザビームBとしては,偏光板2に対して吸収効率のよい波長,例えば9.4μmや10.6μmの波長を有するCO_(2)レーザを用いるのがよい。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


イ 「【0016】
本発明では,図3(a)に示すように,遮蔽板3(遮蔽部材)を,切断予定ラインSの近傍部分を露出させた状態で切断予定ラインSに沿って配置し,光強度分布における光軸中心近傍のピーク部分B1の光のみを切断予定ラインSに照射するようにして,他のテール部分B2を遮蔽板3でカットするようにした。
…(省略)…
【0017】
上記のようにしてレーザビームを切断予定ラインSに沿って移動させることにより,図3(b)に示すような溝Cを偏光板2に形成する。…(省略)…照射面では,レーザビームの光強度分布のテール部分B2が遮蔽板3によってカットされており,光強度が略一定であるピーク部分B1の光が偏光板2に照射されるので,照射部分は略均一な光エネルギーによる均一な加工(アブレーションまたは溶融)がなされるようになり,加工後の溝Cは図3(c)に示すように左右側壁が切り立った急峻な傾斜面が形成される。
…(省略)…
【0018】
ここで,本発明を用いた具体的な加工例について説明する。ガラス基板1の板厚が0.7mm,樹脂製の偏光板2の板厚が0.2mmの液晶マザー基板に,板厚が0.5mmの遮蔽板3を取り付け,遮蔽板3の端面と切断予定ラインSとの間隔Lを50μmとし,レーザの焦点Pと偏光板2の上面とのデフォーカスの距離Hを2mmに設定し,CO_(2)レーザで偏光板2をカットした。
その結果,傾斜領域の幅L1を目標の50μmよりも小さい38μmまで改善することができた。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)


ウ 「【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は,液晶表示パネルの偏光板のようなガラス基板に貼り付けられた樹脂板を切断する際に利用される。」

(2) 甲1発明
甲1には,【0018】に記載の加工例によってカットされてなる,次の偏光板2が開示されている(以下「甲1発明」という。)。
「 樹脂製の偏光板2であって,
ガラス基板1の板厚が0.7mm,樹脂製の偏光板2の板厚が0.2mmの液晶マザー基板に,板厚が0.5mmの遮蔽板3を取り付け,遮蔽板3の端面と切断予定ラインSとの間隔Lを50μmとし,レーザの焦点Pと偏光板2の上面とのデフォーカスの距離Hを2mmに設定し,CO_(2)レーザでカットされてなる,
傾斜領域の幅L1を目標の50μmよりも小さい38μmまで改善することができた,
樹脂製の偏光板2。」

(3) 甲2の記載
甲2には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板およびその製造方法に関する。
…(省略)…
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光板は,偏光子と,該偏光子の少なくとも片側に配置された保護層とを有し,少なくとも対向する端辺に沿って偏光解消部が形成されている。
好ましい実施形態においては,上記偏光解消部の幅が1μm以上である。
…(省略)…
好ましい実施形態においては,上記偏光解消部が他部より厚い厚肉部である。
…(省略)…
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,少なくとも対向する端辺に沿って厚肉部を形成することにより,優れた耐クラック性を有する偏光板を提供することができる。」

イ 「【0026】
レーザーとしては,厚肉部が形成され得る限り,任意の適切なレーザーを採用し得る。好ましくは,少なくとも200nm?11μmの範囲内の波長の光を放射するレーザーが用いられる。…(省略)…1つの実施形態においては,好ましくは,半導体レーザーが用いられる。偏光子を選択的に膨出させて,上記の好ましい厚みの関係を良好に満足させ得るからである。…(省略)…別の実施形態においては,好ましくは,CO_(2)レーザーが用いられる。偏光板シートの切断と厚肉部の形成とを実質的に同時に行い得るからである。」

ウ 「【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように,本発明の偏光板は優れた耐クラック性を有しているので,液晶表示装置に用いた場合に,クラックの発生による表示品質の低下が抑えられるという点で非常に有用である。」

(4) 甲3の記載
甲3には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,…(省略)…急激な温度変化に対する耐久性に優れた薄型偏光板,及びそれを用いた画像表示装置に関するものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は,…(省略)…急激な温度変化を受けた後も,偏光子に実質的に亀裂がない,急激な温度変化に対する耐久性に優れた偏光板の提供を目的とする。本発明のもう一つの目的は,この偏光板を画像表示装置に適用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため,本発明は,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の片面に透明保護層が形成され,偏光子の他面には,粘着剤層が形成されているか,又は粘着剤層,透明高分子フィルム及び粘着剤層の順に形成されており,所望形状に切断加工された後,最も外側の粘着剤層を介して画像表示素子に貼り合わされて使用される偏光板であって,最も外側の粘着剤層をガラスに貼った状態で,温度-45℃で30分冷却し,次いで温度85℃で30分加熱する連続動作を1サイクルとして100サイクルの耐久試験を行ったとき,偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板を提供するにある。
【0015】
また,上記において本発明は,所望とする偏光板形状への切断加工がレーザーを用いることを特徴とする偏光板を提供するものである。
【0016】
また,上記において本発明は,切断加工に用いるレーザー波長が9.4μmであることを特徴とする偏光板を提供するものである。」

ウ 「【0070】
このようにして得た偏光板をレーザー波長10.6μmと9.4μmの炭酸ガスレーザーを用い,偏光板吸収軸が長辺に対して時計回り83度となるように対角2.5インチ(50mm×40mm)に切断加工し,試験片A(レーザー波長10.6μmで加工)と試験片B(レーザー波長9.4μmで加工)を得た。
…(省略)…
【0071】
上記実施例1で得た試験片A,B,Cを用い,偏光板のヒートサイクル試験を行った。その結果,レーザーを用いた試験片はA,Bとも偏光板を形成する偏光子に全く亀裂や割れはなかった。」

エ 「【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の偏光板は,薄型軽量化された構成で,かつ急激な温度変化における耐久性にも優れたものである。特に,モジュール自体の薄型軽量化及び耐久性の向上を図ったモバイル用途の各種画像表示装置に有用である。」

(5) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明は,「樹脂製の偏光板2」である。また,樹脂製の偏光板が,フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムを備える偏光板であることは,技術常識である(当合議体注:この点は,甲1発明の背景技術に関して,甲1の【0005】に記載された特許文献1(特開2002-023151号公報)に記載された次の図3からも,看取される事項である。なお,本件特許の明細書の【0018】等の記載からみて,本件特許発明1でいう「光学フィルム」には,保護フィルムのように,光学的には単に光を透過するだけのフィルムも含まれる。

)。
したがって,甲1発明の「偏光板2」は,本件特許発明1の「偏光板」に相当する。また,甲1発明の「偏光板2」は,本件特許発明1の「偏光板」における,「フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと,を備える」という要件を満たすものである。

(6) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと,を備える偏光板。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,次の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1は,「前記偏光板を貫通する穴の鉛直度が,0.00以上0.32未満であり」,「前記穴の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である」のに対して,甲1発明は,「偏光板を貫通する穴」を具備しない点。

(7) 判断
甲1の【0004】の記載からみて,甲1発明は,大面積の液晶マザー基板の全面に貼り付けた偏光板を,単位パネルに切断することを背景技術とした発明であり,甲1には,偏光板に貫通穴を設けることについて,記載がない。また,当業者の技術常識によると,偏光板に貫通穴を設けることは,通常,ありえないことである。
そうしてみると,当業者が甲1発明に接したとしても,「偏光板を貫通する穴」を想起することはないといえる。また,「偏光板を貫通する穴」を想起しないからには,当業者が,「前記偏光板を貫通する穴の鉛直度が,0.00以上0.32未満であり」,「前記穴の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である」という構成に到ることもないといえる。
なお,特許異議申立人は,甲1に加えて,甲2及び甲3を提出している。しかしながら,甲2及び甲3にも,偏光板に貫通穴を設けることについて,記載も示唆もない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲1発明(,並びに,甲2及び甲3に記載された技術)に基づいて容易に発明できたものであるということができない。

(8) 特許異議申立人の主張について
偏光板を貫通する穴に関して,特許異議申立人は,概略,レーザー加工によって形成する対象を,溝にするか,あるいは貫通穴にするかは,当業者が適宜選択しうる設計的事項であると主張する。
確かに,レーザー加工は,その原理上,偏光板に,溝を形成することも貫通穴を形成することも,自在である。しかしながら,偏光板に,貫通穴を設ける必要がなければ,当業者は,レーザー加工によって偏光板に貫通穴を設けることをしない。また,当業者の技術常識によると,偏光板に貫通穴を設けることは,通常,ありえない。したがって,偏光板に貫通穴を設けることが,当業者における設計的事項であるということはできない。

ところで,甲1に接した当業者が想起するか否かは別論であるが,本件特許の明細書の【0004】に記載のとおり,車載メーターに用いられる液晶表示装置等のような特殊用途においては,指針の回転軸が貫通するための穴を形成する場合がある。
しかしながら,液晶表示装置に穴を形成する場合,液晶パネルに設けられた貫通穴の周囲には,液晶を封止するための封止領域が予め設けられる。また,封止領域の幅は,通常,32μmを優に超える。そうしてみると,車載メーターに用いられる液晶表示装置等のような特殊用途に関与する当業者を想定しても,「偏光板を貫通する穴…の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である」という構成を採用することに,動機付けがあるとはいえない。

さらにすすんで検討すると,仮に,甲1発明のCO_(2)レーザによるカットをレーザーアブレーションによるものと理解しても,それは,赤外線による加熱・蒸発現象によるものである。これに対して,甲1発明は「樹脂製の偏光板2」であるから,前記(5)で述べたとおり,フィルム状の偏光子と,前記偏光子に重なる複数の光学フィルムを備えるものである。そして,これら偏光子及び光学フィルムが,赤外線により均一に加熱・蒸発するとはいえないから,「偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満」となるかは判らない。

以上のとおりであるから,たとえ甲2及び甲3の記載,並びに,車載メーターに関する技術等を考慮するとしても,本件特許発明1は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明できたものであるということはできない。
したがって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(9) 本件特許発明2?本件特許発明9について
本件特許発明2?本件特許発明8は,いずれも,前記相違点に係る本件特許発明1の構成を具備する偏光板の発明である。また,本件特許発明9は,前記相違点に係る本件特許発明1の構成を具備する偏光板を含む,画像表示装置の発明である。
したがって,本件特許発明1と同様の理由により,本件特許発明2?本件特許発明9は,当業者が甲1発明(,並びに,甲2及び甲3に記載された技術)に基づいて容易に発明できたものであるということができない。

2 特許法36条6項1号について
(1) 発明の詳細な説明について
本件特許の明細書には,以下の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板及び画像表示装置に関する。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テレビ又はスマートフォン等の一般的な画像表示装置の殆どは,四角形状の画面を有するので,画像表示装置に搭載される従来の偏光板も四角形であり,その全体が一様に偏光能を有する。一方,…(省略)…スマートウォッチ又は車載メーターに用いられる画像表示装置には,指針の回転軸が貫通するための穴を形成しなければならないことがある。
…(省略)…
【0005】
しかしながら,…(省略)…機械的方法によって,貫通穴を偏光板に形成する場合,貫通穴が斜いたり,貫通穴の近傍に亀裂が形成され…(省略)…貫通穴の近傍における偏光能を損ない,光漏れを引き起こす。
…(省略)…
【0006】
上記のような機械的方法の代わりに,CO_(2)レーザー等を用いたレーザー加工…(省略)…では,貫通穴が形成される部分がレーザーで加熱されるため,偏光子の化学的な変質により偏光能が損なわれ易い。…(省略)…以下では,偏光子の化学的な変質により偏光機能が損なわれた部分を,偏光板の「偏光解消部」と呼ぶ。…(省略)…エキシマレーザーを用いた加工(例えば,アブレーション加工)の場合であっても,貫通穴の形成に伴う上記の技術的問題が起こり得ることがわかった。
【0007】
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,光漏れを抑制することができる偏光板,及び当該偏光板を含む画像表示装置を提供することを目的とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る偏光板は,フィルム状の偏光子と,偏光子に重なる複数の光学フィルムと,を備え,偏光板を貫通する穴の鉛直度が,0.00以上0.32未満であり,穴の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である。
…(省略)…
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,光漏れを抑制することができる偏光板,及び当該偏光板を含む画像表示装置が提供される。」

ウ 「【0018】
図1に示すように,…(省略)…偏光板1は,偏光子7,第一保護フィルム5,第二保護フィルム9,第三保護フィルム3,及び離型フィルム13を備える。偏光板1は,第二保護フィルム9と離型フィルム13との間に位置する粘着層11も備える。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


エ 「【0022】
図2に示す偏光板1の断面は,偏光板1の表面に垂直であり,且つ円形の貫通穴21の中心軸を含む。…(省略)…偏光板1の表面に平行な方向(XY平面方向)における,第一端部3eと第二端部13eとの距離を,aと定義する。偏光板1の厚み(例えば,厚みの平均値)を,bと定義する。鉛直度は,a/bと定義される。
…(省略)…
【0023】
貫通穴21の鉛直度a/bが,0.32未満であることにより,光漏れが抑制される。貫通穴21の鉛直度a/bが0.32以上である場合,貫通穴21内に露出する偏光子7の断面(端面)において,光の屈折等に起因する光漏れが顕著になる。」
(当合議体注:図2は以下の図である。)


オ 「【0027】
偏光板1の貫通穴21の周囲における偏光解消部23の幅Wは,0.00μm以上32μm未満である。図3に示すように,偏光解消部23の幅Wとは,偏光板1の表面に平行な方向における偏光解消部23の幅である。
…(省略)…
【0028】
偏光解消部23の幅Wが32μm未満であることにより,光漏れが抑制される。偏光解消部23の幅Wが32μm以上である場合,偏光解消部23における光漏れが顕著になる。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)


カ 「【0033】
本実施形態に係る偏光板1の製造方法は,
フィルム状の偏光子と,複数の光学フィルムと,を重ねて,積層体を形成する工程と,
積層体にエキシマレーザーのパルス波を照射して,積層体を貫通する穴(貫通穴21)を形成する工程と,を備え,
エキシマレーザーの出力が,20W未満であり,
エキシマレーザーのスポットの外周部分の強度が,スポットの強度の極大値の80%より大きく,
エキシマレーザーの集光径が,50μmよりも大きく,
エキシマレーザーの繰り返し周波数が,1000Hz未満である。
…(省略)…
【0036】
エキシマレーザーの発振波長は,他のレーザーの発振波長よりもはるかに短い。例えば,CO_(2)レーザーの発振波長は,9.4μm又は10.6μmである。波長が短いエキシマレーザーを積層体に照射する場合,偏光子7及び各光学フィルム(3,5,9,13)を構成する高分子が瞬時に分解・昇華し易く,エキシマレーザーの照射に伴う積層体の加熱が抑制される。したがって,鉛直度が小さい貫通穴21が瞬時に形成され易く,熱に起因する偏光子7及び各光学フィルム(3,5,9,13)の化学的な変質も抑制される。一方,波長が長いレーザーを積層体に照射する場合,レーザーが照射された部分において,温度は上昇し易いが,偏光子7及び各光学フィルム(3,5,9,13)を構成する高分子の分解・昇華は起き難い。つまり,レーザーの照射により加熱された部分が溶融・変形することによりはじめて,貫通穴が形成される。したがって,仮にエキシマレーザーよりも波長が長いレーザーを用いる場合,貫通穴の鉛直度を制御し難く,偏光子7及び各光学フィルム(3,5,9,13)の化学的な変質によって偏光解消部が形成され易い。」

キ 「【0080】
(実施例1)
図1に示すような偏光子7及び光学フィルム(3,5,9,13)から構成される板状の積層体を形成した。…(省略)…積層体全体の厚み(偏光板1の厚みbに相当する厚み)は,185μmであった。積層体全体の縦幅は,110mmであった。積層体全体の横幅は,60mmであった。
【0081】
エキシマレーザーのパルス波を,積層体の第三保護フィルム3側の表面に照射して,図1及び2に示すような貫通穴21を積層体に形成した。以上の諸工程により,実施例1の偏光板1を得た。エキシマレーザーとしては,発振波長が193nmであるArFレーザーを用いた。…(省略)…エキシマレーザーの集光径は,1000μmに設定した。エキシマレーザーの繰り返し周波数は,100Hzに設定した。
【0082】
図3に示すように,偏光板1の表面に平行な方向(XY平面方向)における貫通穴21の形状は,円であった。…(省略)…実施例1の鉛直度は,0.06であった。
【0083】
エキシマレーザーが照射された第三保護フィルム3側の貫通穴21の周囲を,光学顕微鏡で観察した。…(省略)…観察の結果,実施例1の偏光板1の貫通穴21の周囲には,長さlが50μm未満である亀裂がなかった。また,実施例1の偏光板1の貫通穴21の周囲には,長さlが50μm以上である亀裂もなかった。
【0084】
光学顕微鏡を用いた上記観察により,貫通穴21の周囲における偏光解消部23(変色部)の幅Wの測定を試みた。しかし,偏光板1の貫通穴21の周囲において,偏光解消部23はなかった。
…(省略)…
【0089】
実施例2?7及び比較例1?4では,エキシマレーザーの出力,密度分布,集光径及び繰り返し周波数を下記表1に示す値に設定した。
…(省略)…
【0095】
【表1】



(2) 判断
本件特許の明細書の【0007】又は【0015】の記載からみて,本件特許発明の発明が解決しようとする課題は,「光漏れを抑制することができる偏光板,及び当該偏光板を含む画像表示装置を提供すること」にある。
これに対して,本件特許発明の偏光板は,「偏光板を貫通する穴の鉛直度が,0.00以上0.32未満であり」,「前記穴の周囲における偏光解消部の幅が,0.00μm以上32μm未満である」。
そして,明細書の【0023】及び【0028】,並びに,【0095】の【表1】の記載に接した当業者ならば,偏光板が上記の鉛直度及び偏光解消部の要件を満たす場合には,本件特許発明の発明が解決しようとする課題が解決できることが理解できる。
そうしてみると,本件特許発明は,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものである。
したがって,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載したものである。

(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,概略,本件特許発明は,【0033】に記載された条件のエキシマレーザーを用いて製造される結果物を規定したものであり,出願時の技術常識に照らしても,特定のエキシマレーザーを用いることを構成要件としない本件特許発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。
確かに,本件特許の発明の詳細な説明の記載からみて,本件特許発明は,【0033】に記載された製造方法によって裏付けられるものである。
しかしながら,本件特許発明は,物の発明である。これに対して,特許異議申立人が指摘する【0033】の記載は,物の製造方法に関する記載である。ここで,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に,その物の製造方法が記載されることが許されるのは,[A]一般的には,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られるというべきである。あるいは,[B]上記一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から一義的に明らかなときには,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲に,その物の製造方法を記載することが,許されるというべきである。
しかしながら,本件特許発明は,上記[A]及び[B]のいずれにも該当しない。したがって,物の発明に関する本件特許の特許請求の範囲には,【0033】に記載にされた条件のエキシマレーザーを用いて製造された結果物の構成について,特許権者が本件特許発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載するしかないといえる。そして,本件特許発明が,発明の詳細な説明において,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものであることは,前記(2)で述べたとおりであるから,その記載に何ら不足はない。
したがって,特許異議申立人の主張は採用できない。

特許異議申立人は,概略,本件特許発明には,【0033】に記載の条件以外の条件で製造した偏光板及び画像表示装置も含まれることになり,公開されてない発明について特許権が発生することになっているため,公開の代償として一定期間の特許権を付与する特許制度の趣旨に反するものであるとも主張する。
しかしながら,本件特許発明は,物としてみて,新しい発明を公開するものである。すなわち,例えば,本件特許発明と甲1発明を対比すると,前記1(6)イで述べたとおりの相違点が見いだされる。
そうしてみると,本件特許を付与しても,特許制度の趣旨に反することにはならない。
したがって,特許異議申立人の主張は,採用できない。

3 小括
本件特許発明は,甲1?甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
また,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであるから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもない。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-07 
出願番号 特願2016-31293(P2016-31293)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
登録日 2017-08-10 
登録番号 特許第6188845号(P6188845)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 偏光板及び画像表示装置  
代理人 三上 敬史  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
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