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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1340419
審判番号 無効2017-800065  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-05-12 
確定日 2018-04-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5658177号発明「地盤の改良工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5658177号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 請求項1についての本件審判の請求を却下する。 請求項2についての本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5658177号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年 1月13日 本件出願(特願2012-4763号)
平成25年 7月25日 本件公開(特開2013-144871号)
平成26年12月 5日 設定登録(特許第5658177号)
平成29年 5月12日 本件無効審判請求
平成29年 8月 7日 被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成29年 8月30日 審理事項通知書(起案日)
平成29年 9月21日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年10月 5日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年10月19日 口頭審理
平成29年11月 2日 請求人及び被請求人よりそれぞれ上申書提出
平成29年11月16日 請求人及び被請求人よりそれぞれ上申書提出
(以下、請求人及び被請求人よりそれぞれ提出された上申書について、平成29年11月2日付け上申書を上申書(1)といい、また同年11月16日付け上申書を上申書(2)という。)

第2 訂正請求
1 訂正請求の内容
被請求人が平成29年8月7日に提出した訂正請求(以下「本件訂正」という。)は,本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2に訂正することを求めるものであって、次の事項を訂正内容とするものである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させることを特徴とする請求項1に記載の地盤の改良工法。」
と記載されているのを、
「地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することを特徴とする地盤の改良工法。」
と訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3) 訂正事項3
明細書の段落【0006】に、
「請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の地盤の改良工法であって、
前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「以上の課題を解決するため、請求項2に記載の発明は、
地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することを特徴とする。」
と訂正する。

(4) 訂正事項4
明細書の段落【0005】を削除する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件訂正前の請求項2が請求項1を引用していたところ、請求項1を引用しない独立形式の請求項に改めるものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするとともに、訂正前の「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させる」ことに係る構成を、「低下させた状態で、地下水を揚水する」と限定するものであるので、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、「これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。」(【0013】)との記載があるから、本件特許明細書には、「揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水すること」が記載されているものと認められるので、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものといえる。

ウ また、上記アで説示したように、訂正事項1は、訂正前に特定されていた「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させる」ことに係る構成についてより具体的に特定するものであって、発明のカテゴリー、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の整合を図るものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の整合を図るものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項4は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項1、2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号、又は第4号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり、本件訂正を認める。


第3 本件訂正発明
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(AないしEの分説は請求人(口頭審理陳述要領書3頁5から15行)及び被請求人(答弁書4頁23行から5頁6行)による分説に基づき、さらに末尾の「地盤の改良工法。」をFとした。以下、「構成A」などという。)。
なお、本件特許の請求項1は、本件訂正により削除された。

「【請求項2】
A 地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
B 前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、
C 前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、
D バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
E 前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することを特徴とする
F 地盤の改良工法。」


第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第12号証を提出して、以下の無効理由を主張した。
また、請求人が主張する無効理由1ないし3は、本件訂正発明に対しても主張される一方、本件訂正発明に対して新たに無効理由4が主張された(口頭審理陳述要領書10頁9行から12頁7行)。

請求人が求める口頭審理陳述要領書による請求の理由の補正(本件訂正により生じた新たな無効理由として、無効理由4の追加)については、第1回口頭審理において、許可すると決定した(特許法第131条の2第2項。第1回口頭審理調書。)。

(1)無効理由1(明確性要件違反)
本件訂正発明は、明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。

(2)無効理由2(新規性欠如)
本件訂正発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。

(3)無効理由3(進歩性欠如)
本件訂正発明は、その出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。

(4)無効理由4(実施可能要件違反)
本件訂正発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2006-341214号公報
甲第2号証:特開2007-162298号公報
甲第3号証:特開2011-256670号公報
甲第4号証:特許第3243501号公報
甲第5号証:地下水ハンドブック編集委員会、「地下水ハンドブック」、第7刷、株式会社建設産業調査会、平成元年11月15日、表紙、p.300-304、裏表紙
甲第6号証:「さく井・改修工事標準歩掛資料」、社団法人全国さく井協会、平成20年度版、表紙、p.40
甲第7号証:特開2013-144871号公報
甲第8号証:特願2012-4763号(本件出願)に係る平成26年8月21日付け拒絶理由通知書
甲第9号証:特願2012-4763号(本件出願)に係る平成26年10月9日付け面接記録
甲第10号証:特願2012-4763号(本件出願)に係る平成26年10月16日付け手続補正書
甲第11号証:特願2012-4763号(本件出願)に係る平成26年10月16日付け意見書
甲第12号証:特許第4114944号公報

3 請求人の具体的な主張
(1) 無効理由1(明確性要件違反)
請求人は、本件訂正発明は、構成Cにおける「井戸の吸水能力」の定義が不明であるため不明確であるとして、以下のように主張している。

ア 構成Cの「井戸の吸水能力」の意味及び湧水量の変動について
(ア) 「・・・構成Cに関して、本件明細書には、構成C中の「井戸の吸水能力」について定義されていない。
本件明細書には、段落【0013】において「揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・」ことが記載され、段落【0014】において「以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」と記載されているに過ぎず、「井戸の吸水能力」については、何らの規定も特定もなされていない。
仮に、「井戸の吸水能力」が、段落【0013】に記載された「井戸に入り込む湧水量(吸水量)」を意味する「井戸1の吸水量」であるならば、吸水量は、井戸の深さ、及び井戸内水位(地下水位)に応じて変化するので、特定できない。・・・一方、井戸内水位は、・・・揚水ポンプによる揚水によって時々刻々変化するので、揚水ポンプによる揚水中は、吸水量も時々刻々変化する。なお、井戸外水位は、揚水ポンプによる揚水が行われれば、吸水量と共に時々刻々変化する。・・・このため、「井戸の吸水能力」が、どの時点での吸水量であるのかを決めることができない。」(請求書8頁21行から9頁最下行)

(イ) 「井戸に入り込む湧水量は、・・・井戸内の状態に応じて変動するものである。
そして、井戸内の状態は、井戸内の水位のみならず、井戸外の地下水の水位の状態や、井戸内の水面上の負圧の状態などによっても変動するものである。
そのため、「バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点」での湧水量も、井戸外の地下水の水位の状態や、井戸内の水面上の負圧の状態などによって変動することは明らかである。例えば、一旦、井戸内の水位をポンプ吸水口まで低下させた後に、雨水等により井戸外の地盤の地下水位が上昇した場合には、湧水量は増加し、井戸内の水位は上昇するものと思われるが、この時、井戸内の水位をポンプ吸水口まで低下させていくと、再度、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点が存在することになり、「井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点における井戸に入り込む湧水量」は、複数存在することになり、一意的に決めることができない。
したがって、・・・「井戸の吸水能力」が、仮に、「バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点」での湧水量であったとしても、同時点での湧水量も一意的に決めることができない。」(口頭審理陳述要領書4頁10行から最下行)

イ 湧水量が最も大きくなる時点について
「被請求人は、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなる時点を「バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点」としておりますが、その根拠が不明となります。
ここで、・・・甲第4号証の図5にも記載されている通り、湧水量Qは、時間の経過とともに大幅に減少すると解されます。そのため、・・・訂正発明について、例えば、甲第9号証に記載されている通り、揚水ポンプを駆動し、定常状態Aおよび定常状態Bを経た後に、井戸管内の水位をポンプの吸水口まで低下させた状態を最終的な定常状態としたような場合にも、吸水口まで低下させた直後の時点が最大の湧水量になるとは考え難いと解されることに起因しております。」(上申書(1)2頁15行から最下行)

(2) 無効理由2(新規性欠如)
ア 甲第4号証の記載事項
「甲第4号証には、以下に示す[甲4-1発明]・・・が記載されている。
[甲4-1発明]
(4-a)下端にストレーナ管が接続されたケーシング管を地盤に埋設し、前記ストレーナ管を介して流入した地下水を揚水する地盤改良方法であって、
(4-b)前記ケーシング管の下端に接続された真空部に配置され、前記ストレーナ管を介して流入した地下水を汲み上げる水中ポンプとして、
(4-c)水位低下量を極めて大きくすることができる能力のポンプを用いた地下水の揚水と、
(4-d)前記真空部と連通して地上に設置された真空ポンプを用いた前記真空部内の空気の引き上げと、を行うことを特徴とする地盤の改良工法。」(請求書28頁1から11行)

イ 本件訂正発明と甲4-1発明との対比
(ア) 構成A、Dについて
「甲4-1発明における構成(4-a)・・・(4-d)は、・・・構成A・・・Dに相当する。」(請求書30頁26から27行)

(イ) 構成Bについて
「甲4-1発明における構成(4-b)は、・・・構成Bに相当する。」(請求書30頁26から27行)
「・・・甲4-1発明における構成(4-b)と、・・・構成Bとは、甲4-1発明において、水中ポンプ(揚水ポンプ)が地下水とともに「空気」を吸引することが明記されていない点で相違しているとも言える。
この点について、上述した通り、・・・構成Bにおいて揚水ポンプが吸引する対象として「空気」を積極的に明記している技術的意義は不明であるが、揚水ポンプが空気を吸引してしまうと揚水ポンプの故障の原因になることは明らかであるため、・・・構成Bは、地下水とともに吸引し得る不可避的な空気の存在を考慮した構成であると解される。
そして、甲第4号証の図7の地下水位低下装置10の構成では、集水孔55aによって内筒管55内への空気の侵入を阻止し得るが、集水孔55aは単なる開口であり、地下水に混入している空気の侵入を完全に阻止できるわけではないことは明らかである。」(請求書30頁最下行から31頁11行)

(ウ) 構成Cについて
a 「甲4-1発明における構成(4-c)は、・・・構成Cに相当する。」(請求書30頁26から27行)
「甲4-1発明における構成(4-c)と、・・・構成Cとは、甲4-1発明が有する水中ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力との関係を明示していない点で相違しているとも言える。
しかしながら、甲4-1発明が有する水中ポンプは、水位低下量を極めて大きくできることが規定されており、水位を上昇させるものではない以上、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を持つものであることは明らかである。」(請求書31頁12から17行)

b 「被請求人は、訂正発明と、甲第1号証等に記載の発明との対比において、「井戸からポンプによって揚水した上で、井戸の外部から井戸内に水が吸水されれば、井戸外の地下水位は必然的に低下する。したがって、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件ではない。」という主張を展開している。
しかしながら、井戸からポンプによって揚水することによって、井戸外の地下水位が低下している状態においては、瞬間的には、ポンプの揚水量よりも井戸の外部から井戸内への吸水量の方が多くなることがあっても、井戸外の地下水位が低下している状態全体では、ポンプの揚水量は、井戸の外部から井戸内への吸水量より大きいことは明らかである。
よって、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件の1つであることは明らかである。」(口頭審理陳述要領書15頁2から13行)

(エ) 構成Eについて
a 「訂正発明の構成E・・・は、以下に示す通り、甲第4号証に記載されているに等しい事項である。
まず、甲第4号証の段落【0029】には、「また、図6に示すように、従来の重力排水の場合(一点鎖線)に比べて、本発明の場合(実線)の初期段階での水位低下量が極めて大きく、また、水中ポンプ7の能力によっては、水中ポンプ7位置まで地下水位を低下させることが出来る。即ち、水中ポンプ7により強制的に地下水の排水がなされるので、初期段階での地下水位低下量が大きいことは無論のこと、前記内筒管6によって、地下水位がストレーナ管3の上端部よりも下方に下がった場合でも空気の流入がなく効率よく排水出来て、更に地下水位を下げることが出来る。」と記載されている。
ここで、甲第4号証の段落【0029】および【図6】においては、地下水位低下装置が図示されていないが、水中ポンプ7位置まで地下水位を低下させた具体的な態様として、【図2】には、・・・地下水面が地盤Aからストレーナ管3に向って低下し、ストレーナ管3内の水位が水中ポンプ7の位置まで低下している態様が開示されている。
ところで、訂正明細書の段落【0009】?【0012】、及び本件特許の願書に添付した図面の【図1】には、以下にも示す通り、ストレーナ2の内部に井戸1がある態様が開示されている。
そして、甲第4号証の【図2】においては、具体的に井戸を意味する構造物に参照符号が付されていないが、本件の訂正明細書の記載を参酌すると、甲第4号証の【図2】におけるストレーナ管3の内部は、井戸を構成するものとすることができるので、ストレーナ管3内の水位は、井戸内の水位ということもできる。
そのため、甲第4号証の【図2】には、水中ポンプ7位置まで井戸内の水位を低下させた態様が記載されていると言える。
また、甲第3号証の段落【0004】?【0006】には、甲第3号証の先行技術文献である特許文献1(特開2000-27170号公報)、すなわち、甲第4号証に対応する公開公報について言及されている。具体的には、甲第3号証の段落【0006】段落には、特許文献1、すなわち、甲第4号証の装置に関して、「排水ポンプの稼働に応じて井戸管内の水位が変動する。例えば、排水ポンプが盛んに排水している間は水位が下がり、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がって排水ポンプを一旦停止させると、井戸管内に地下水が流入して水位が上がる。」と記載されている。
そのため、甲第4号証の地下水低下装置は、排水ポンプを一旦停止させる前において、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がる態様まで排水ポンプを稼働させて地下水を揚水する態様を許容していると言える。
よって、甲第4号証には、地下水位のみならず、井戸内の水位を揚水ポンプの位置まで低下させ、更に揚水ポンプを一旦停止させる前に揚水ポンプの吸水口まで低下させる態様が記載されているに等しく、訂正発明の構成Eは、甲第4号証に記載されているに等しい事項である。」(口頭審理陳述要領書5頁12行から7頁21行)

b 「甲第4号証の図2には、井戸管内の水位を水中ポンプの位置まで低下させた態様が記載されております。ここで、図2について補足しますと、甲第4号証の【従来技術】および【発明が解決しようとする課題】の記載内容、すなわち、バキュームディープウェルエ法における問題点を課題としている点、【0009】および【0053】において「バキューム効果を減殺することがない」と記載されている点、ならびに、図2中のケーシング管2の上部に明記された上向きの矢印などを考慮すると、第1の実施形態を示す図2においても、真空ポンプを用いていることが前提であると解されます。
更に、構成Eについては、甲第3号証の【0006】において甲第4号証に関して言及している記載内容を参酌すると、甲第4号証には、井戸管内の水位を水中ポンプの吸入口まで低下させた状態で水中ポンプを稼働させ、地下水を揚水する態様が記載されているに等しいと言えます。」(上申書(1)3頁5から17行)

(3) 無効理由3(進歩性欠如)
ア 各甲号証の記載事項について
(ア) 甲第1号証の記載事項
「甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」と略す。)が記載されている。
[甲1発明]
(1-a)地盤の縦方向に掘削した井戸穴に井戸管を設置し、前記井戸管の下端位置に設けられたストレーナを介して地中の水と空気を吸引する、スーパーウエルポイント工法を用いた地盤の改良工法であって、
(1-b)前記井戸管に取り付けられた揚水管の下端に配置され、前記ストレーナを介して地中の水と空気を吸引する揚水用の水中ポンプとして、
(1-c)十分な揚水能力を有し、地下水位を大きく低下させることができるポンプを用いた地下水の揚水と、
(1-d)バキュームポンプを用いた前記井戸管の空気の吸引と、を行うことを特徴とする地盤の改良工法。」(請求書13頁6行から14頁6行)

(イ) 甲第2号証の記載事項
「甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」と略す。)が記載されている。
[甲2発明]
(2-a)下端に透水性のストレーナ部を有するストレーナ管を粘性土地盤に埋設し、真空ポンプの作動によって前記ストレーナ部を介して流入した地下水を揚水する粘性土地盤の改良工法であって、
(2-b)前記ストレーナ管の下部(排水管の下端)に配置され、前記ストレーナ部を介して流入した地下水を排水する排水ポンプとして、
(2-c)前記ストレーナ部から流入する地下水の量よりも排水される水量のほうが多くなる能力のポンプを用いた、前記ストレーナ管内の地下水の揚水と、
(2-d)真空ポンプを用いた前記ストレーナ管内の空気の排気と、を行うことを特徴とする粘性土地盤の改良工法。」(請求書17頁1行から18頁1行)

(ウ) 甲第3号証の記載事項
「甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」と略す。)が記載されている。
[甲3発明]
(3-a)下端部にストレーナーが設けられた井戸管を地盤に埋設し、前記ストレーナーの地下水流入部から流入した地下水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
(3-b)前記井戸管内の下端部に配置され、前記ストレーナーの地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる揚水ポンプとして、
(3-c)揚水により井戸管内の水位を低くすることができる能力のポンプを用いた、前記ストレーナ管内の地下水の汲み上げと、
(3-d)減圧ポンプを用いた前記井戸管の内側空間の空気の吸い出しと、を行うことを特徴とする地盤の改良工法。」(請求書23頁2から13行)

(エ) 甲第4号証の記載事項
上記(2)アに同じ。

イ 構成A、B、Dについて
「甲第1号証に記載されている甲1発明における構成(1-a)(1-b)及び(1-d)は、それぞれ、訂正発明における構成A、B及びDに相当する。
また、甲第3号証に記載されている甲3発明における構成(3-a)(3-b)及び(3-d)は、それぞれ、訂正発明における構成A、B及びDに相当する。
また、甲第4号証に記載されている甲4-1発明における構成(4-a)(4-b)及び(4-d)は、それぞれ、訂正発明における構成A、B及びDに相当する。」(口頭審理陳述要領書8頁2から10行)

ウ 構成Cについて
(ア) 「本件特許発明のような「地盤の改良方法」を実施する技術分野において、揚水のために用いられるポンプがどのように定められていたかを明らかにするために、甲第5号証・・・及び甲第6号証・・・を証拠として提出する。
当該技術分野においては、甲第5号証の第300頁に示されているように、地盤の改良方法」を実施する際には、(3)揚水試験の実施の項に、を実施していたことが記載されている。この際に、a)ポンプの項に、揚水のためにポンプは、楊程と計画揚水量から定められることが記載されている。また、b)計画揚水量の項には、計画揚水量を決定するためには、段階揚水試験として知られている方法を用いることが記載されている。
また、この段階揚水試験については、甲第6号証の第40頁に記載され、予備揚水試験で得られた最大揚水量を5段階以上等分して、揚水量と水位降下を測定し、測定結果を両対数グラフのX軸に揚水量(Q)、Y軸に水位降下(s)をとってプロットして、変曲点を限界揚水量として、限界揚水量の60%?80%を適正揚水量、即ち計画揚水量とすることが記載されている。即ち、水位降下についても、限界揚水量に対応する水位降下より小さく、限界揚水量の60%?80%の適正揚水量に対応する水位降下とすることになる。なお、水位降下は、当然のことながら、井戸の湧水量(吸水量)に依存する量であることから、水位降下を低下させても、井戸の湧水量に見合う揚水量となるように適正揚水量が決められていることが分かる。
このように、ポンプを決める適正(計画)揚水量についても、より安全側に設定することが当該技術分野の技術常識である。
このため、「地盤の改良方法」を実施する際に、ポンプが揚水できる揚水量についても安全を見越して、適正(計画)揚水量よりも大きい揚水量のポンプを決めることは当該技術分野の技術常識であると言える。
また、井戸、及びその周囲が雨に晒されて、井戸内に雨水が流れ込むことも考慮せざるを得ないので、ポンプに要求される揚水量は、適正(計画)揚水量よりも更に大きくすることが当該技術分野の技術常識であると言える。」(請求書34頁14行から35頁16行)

(イ) 「訂正発明の構成C・・・は、・・・甲第4号証から当業者が容易に推考できる発明特定事項である。
すなわち、甲第4号証の段落【0011】及び【0024】には、揚水手段である水中ポンプの揚水能力が、設計事項であり、井戸の深さや大きさ、或いは設置場所の地盤の状況等によって適宜変更してよい旨(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。
ここで、甲4記載事項は、地下水位を低下させる地下水位低下装置を用いた地盤改良方法に関する技術であり、訂正発明、甲1発明、甲3発明および甲4-1発明と技術分野を同一にし、地下水位を低下させるという作用・機能も共通している。
よって、構成Cについては、甲4記載事項を甲1発明、甲3発明及び甲4-1発明に適用することは、当業者が容易に推考し得るものである。」(口頭審理陳述要領書8頁12から24行)

(ウ) 「なお、訂正発明の構成Cは、・・・甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載されている事項または記載されているに等しい事項でもある。」(口頭審理陳述要領書8頁25行から最下行)
「甲1発明における構成(1-c)と、・・・構成Cとは、甲1発明が有する水中ポンプ(揚水ポンプ)の揚水能力が井戸の吸水能力との関係を明示していない点で相違しているとも言える。
しかしながら、甲1発明が有する水中ポンプは、十分な揚水能力を有し、地下水位を大きく低下させることができることが規定されており、地下水位を上昇させるものではない以上、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を持つポンプであることは明らかである。」(請求書28頁19行から最下行)
「甲3発明における構成(3-c)と、・・・構成Cとは、甲3発明が有する揚水ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力との関係を明示していない点で相違しているとも言える。
しかしながら、甲3発明が有する揚水ポンプは、揚水により井戸管内の水位を低下させることができることが規定されており、水位を上昇させるものではない以上、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を持つものであることは明らかである。」(請求書30頁14から20行)
「甲4-1発明における構成(4-c)と、・・・構成Cとは、甲4-1発明が有する水中ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力との関係を明示していない点で相違しているとも言える。
しかしながら、甲4-1発明が有する水中ポンプは、水位低下量を極めて大きくできることが規定されており、水位を上昇させるものではない以上、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を持つものであることは明らかである。」(請求書31頁12から17行)

(エ) 「被請求人は、「甲第4号証においてポンプの揚水能力が設計事項であるとされているのは、上記の通り、井戸からポンプによって揚水した上で、井戸の外部から井戸内に水が吸水されれば、ポンプの揚水能力を問わず地下水位は一応低下することから、訂正発明のように負圧伝播による揚水を目指すのでなければ、地下水位の低下のためにポンプの揚水能力を厳格に規定する必要がないということを意味するに過ぎない。」と主張している。
しかしながら、上記主張内容は、以下に示す理由から失当である。
まず、上述した通り、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」ことについては、本件明細書に記載も示唆もなされていないことは明らかであり、また、「ポンプの吸水口付近を負圧とすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」ことは、訂正発明の作用・効果とは認められないため、訂正発明のみが負圧伝播による揚水を目指しているとは言えない。
また、訂正発明においては、構成Dにおいて「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い」と規定しているのみであり、「負圧伝播」は、発明特定事項ではない。
そして、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号には、審判請求書に記載した通り、それぞれ、構成Dに相当する構成(1-d)、構成(3-d)及び構成(4-d)が記載されている。なお、上述したように、甲第12号証の段落【0020】には、「ここで、図8は地下水面1Cの低下の状態を現し、図面内の矢印は地下水及び空気の流れ方向を示している。且つ、同図の井戸2の下部において負圧が伝播している状態となる。」と記載されているが、甲第12号証の同段落には、この図8に示す揚水システムが、甲第12号証の特許文献1〔特開2000-27170(特許第3243501号)公報〕、すなわち、甲第4号証の揚水システムであることが明記されている。」(口頭審理陳述要領書15頁16行から16頁12行)

エ 構成Eについて
(ア) 「訂正発明の構成E・・・は、以下に示す理由から、設計事項であると言える。
ここで、「設計事項」について、「特許庁審判部 進歩性検討会報告書(平成19.3)」によれば、『文献による示唆や動機づけがなくても、技術の具体的適用に伴い当然考慮せざるを得ない事項であって、その構成自体に格別の技術的意義はない場合には「設計事項」といえる』とされている。
そして、揚水ポンプを用いた揚水を行う際に、井戸内の水位をどこに設定するかについては、甲第5号証及び甲第6号証に記載する揚水試験(計画揚水量の決定)や揚水ポンプの故障防止などの観点から、当業者が当然に考慮せざるを得ない事項であると言える。
また、井戸内の水位を吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することについては、・・・揚水ポンプの揚水能力の低下のリスクを伴う行為であり、何らかの技術的意義があるとは解されない。なお、この技術的意義に関して、被請求人は、答弁書において、負圧伝播に関する作用効果が「ポンプの吸水口付近の圧力が負圧になることを要する」と主張しているが、・・・本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)に記載された効果ではなく、また、その技術的根拠も不明であるため参酌できないことは明らかである。
よって、構成Eについては、甲1発明、甲3発明及び甲4-1発明からの設計事項であると言える。特に、甲第4号証においては、構成Eに関して、上述した通り、地下水位のみならず、井戸内の水位を揚水ポンプの位置まで低下させる態様(図2)が記載されているため、仮に、構成Eが甲第4-1発明との相違点に該当する場合であっても、井戸内の水位を「揚水ポンプ」の位置から「揚水ポンプの吸水口」の位置まで下げることに技術的意義があるとは解されないため、甲4-1発明からの設計事項であることはより明白である。」(口頭審理陳述要領書9頁2から27行)

(イ) 「被請求人は、「訂正発明においては、・・・構成Eを採用することよって、明細書の段落0014に記載されているように、負圧伝播による揚水によって確実な地下水の低下が実現されるという顕著な効果が生じる。」と主張し、「訂正発明において構成Eが採用されたのは、上記のように負圧伝播による地下水の揚水のためであり、負圧伝播による揚水を行う旨の記載のない甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に記載の発明において、構成Eを採用し、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水の揚水を行うことに対する動機づけは一切存しない。」と主張している。
しかしながら、上記主張内容は、以下に示す理由から失当である。
まず、上述した通り、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」ことについては、本件明細書に記載も示唆もなされていないことは明らかであり、また、「ポンプの吸水口付近を負圧とすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」ことは、訂正発明の作用・効果とは認められないため、訂正発明について、構成Eを採用することによって負圧伝播による揚水によって確実な地下水の低下が実現されるという顕著な効果は、到底参酌できないことは明らかである。
また、被請求人は、甲第1号証等において、負圧伝播による揚水を行う旨の記載がないと指摘しているが、上述した通り、訂正発明においては、構成Dにおいて「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い」と規定しているのみであり、「負圧伝播」は、発明特定事項ではない。」(口頭審理陳述要領書16頁17から17頁7行)

(ウ) 「構成Eについては、設計事項と言えます。この点について、陳述要領書では、井戸管内の水位は、揚水試験や揚水ポンプの故障防止などの観点から当然に考慮すると主張しておりますが、この点を補足させて頂くと、甲第5号証の第300頁右欄の「(3)揚水試験の実施」の項目に記載されている「揚程」は、揚水ポンプが水を吸い上げる高さをいい、当然ながら「井戸内の水位(水面)」からの距離が基準となり、また、同項目に記載されている「計画揚水量」を算定する際の各種計算式(例えば、甲第5号証の第304頁右欄に記載されたチーム法に基づいた平衡式など)においても、「井戸の水深」はパラメータとして登場しており、井戸管内の水位は、当然に考慮せざるを得ない事項となります。」(上申書(1)3頁24行から4頁4行)

出願経過に関して
出願経過を参酌すると、本件特許の特許性は、「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた」ことではなく、「揚水ポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行う」ことにあると判断されていたことは明らかである。
しかしながら、上述したように、「揚水ポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行う」ことは、甲第1号証?甲第4号証に明確に開示されている。」(請求書37頁24行から38頁3行)

カ 作用・効果に関して
(ア) 「被請求人は、訂正発明の作用・効果に関して、明細書の段落【0013】及び【0014】段落の記載内容に言及した上で、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要するところ、井戸の内部の水については、水深が深くなるほど水圧が漸増することから、仮に水面では負圧であったとしても、ポンプの吸水口が水面から離れれば、ポンプの吸水口付近は負圧とはならない。したがって、井戸内の空気を単に排出したのみでは、水面から離れたポンプの吸水口付近を負圧とすることはできず、負圧伝播は生じ得ない。」と指摘し、「訂正発明においては、バキュームを用いた空気の排出によって井戸内の空気を排出した状態において、さらに、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を有するポンプを用いた揚水によって、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させる。これによって、ポンプの吸水口付近を負圧にすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」と主張している。
しかしながら、上記指摘・主張内容は、以下に示す理由から、本件明細書に記載された効果ではなく、また、技術的根拠も不明であるため、失当である。
(ア)効果について
本件明細書の段落【0013】には、「ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。」と記載されているが、本件明細書の段落【0014】には、「以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」と記載されているに過ぎず、井戸内水位がポンプ吸水口まで低下していることが、負圧伝播が生じる条件にはなっていない。
(イ)技術的根拠について
本件明細書の段落【0002】には、本出願人、すなわち、被請求人が提案する特許文献1(特許第4114944号公報)に記載された地盤の改良工法について、「この工法は、SWP(スーパーウェルポイント)を用いて飽和地下水を負圧伝播で揚水することで、主に目的のエリアのみ集中してスポット的に水位低下が望め不飽和ゾーンを作り出す。」と記載されている。
そして、この特許文献1(特許第4114944号公報)である甲第12号証の段落【0020】には、「ここで、図8は地下水面1Cの低下の状態を現し、図面内の矢印は地下水及び空気の流れ方向を示している。且つ、同図の井戸2の下部において負圧が伝播している状態となる。」と記載されており、以下にも示す図8においては、地下水面(およびケーシング内の水面)が揚水ポンプよりも高い位置にある態様が図示されている。
(ウ)小括
したがって、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」ことについては、本件明細書に記載も示唆もなされておらず、また、その技術的根拠も欠如していることは明らかである。
よって、「ポンプの吸水口付近を負圧とすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」ことは、訂正発明の作用・効果であるとは到底言えない。」(口頭審理陳述要領書12頁10行から14頁7行)

(イ) 「被請求人の答弁書(第5頁の項目イにおける第9行目?第19行目)における主張は、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要するところ、・・・」との記載ぶりを考慮すると、楊水ポンプの吸水口まで低下させた状態で揚水することで、「初めて」負圧伝播なる作用・効果が生じているかのような主張になると解されます。
そのため、請求人は、陳述要領書において、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」ことについては、明細書に記載も示唆もなされていない点を主張しております。
具体的には、甲第12号証の図8に示す態様、すなわち、地下水面およびケーシング内の水面が揚水ポンプよりも高い位置にある態様でも「負圧が伝播している」と記載されており(【0020】)、また、本件明細書の図1においても、揚水ポンプの周囲に水と思われるハッチングがなされ、負圧と解されるマイナス記号が伝播している断面図が記載されており、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」とは到底言えないと考えます。
更に、補足しますと、甲第3号証の【0014】には、「揚水井戸に対する負圧の効果を高めることで、地下水の井戸管内への流入効率を高めることができる。」と記載されており、【0018】には、「揚水工程において、揚水時の負圧の作用の効果を高めることができるので、1台の揚水装置によって広い範囲の地盤から地下水を汲み上げることができ」と記載されており、負圧の作用により、効率よく、地下水位を低下させることができる効果が記載されております。
したがって、負圧伝播なる作用・効果については、井戸内の水位の位置に起因した作用・効果の程度が問題になると解されます。」(上申書(1)4頁10行から5頁4行)

(ウ) 「水深の浅いところであれば、水中においても負圧が伝播するという現象を前提にしているのか否かが不明となります。
なお、この点に関して、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた場合において、何に起因した負圧が、何処から何処に伝播(作用)し、地下水の確実な水位低下という効果に寄与しているのかが不明であり、・・・作用・効果の程度を判断することが困難であると解されます。」(上申書(1)5頁13から18行)

(4) 無効理由4(実施可能要件違反)
請求人は、本件訂正により本件訂正発明に追加された右下線部「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水すること」(構成E)について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとして、以下のように主張している。

ア 構成Eについて
(ア) 揚水ポンプの吸水口から水のみならず井戸内の空気も吸引されることについて
a 井戸内の水位を吸水口の(井戸の深さ方向の)中心位置まで低下させた場合について
「訂正発明の構成Eでは、上述した通り、「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水すること」と規定されており、訂正前の本件特許発明2の構成Eに対して、上記下線部の規定が追加されている。
ここで、「揚水ポンプの吸水口まで」との意味合いが明らかではないが、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口の(井戸の深さ方向の)中心位置まで低下させた場合には、揚水ポンプの吸水口は、井戸内の水の上の負圧に触れることになる。
そして、井戸内の水の上の状態に関して、訂正発明の構成Dでは、「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行(う)」ことを規定しているが、訂正明細書の段落【0012】には、「井戸1の水の上方の空気は、バキュームポンプ6により吸引されて、吸引管7を通して地上の大気中に排出される。」と記載されているのみであり、空気の排出の程度については記載がなく、井戸の水の上方の圧力についても全く記載がない。そのため、井戸内の水の上の状態は、完全な真空の状態ではない場合も当然に含まれており、その場合には、井戸内の水の上の空間には、空気が存在することになる。
そのため、揚水ポンプの吸水口からは、水のみならず、井戸内の空気も吸引されることになり、その結果、揚水ポンプの吸水口の吸水圧力は急激に低下し、揚水ポンプ内にいわゆるキャビテーションと同様な現象が生じることになり、揚水ポンプの揚水能力が著しく低下すると解され、場合によっては揚水ポンプの故障を引き起こすと考えられる。なお、訂正発明の構成Bでは、揚水ポンプが「空気」も吸引することを規定しているが、この空気は、地中に存在する空気であることが明記されているため、訂正発明で規定する揚水ポンプが、井戸内の水の上の空間に存在する空気を吸引しても揚水能力が落ちないポンプであるとは解されない。」(口頭審理陳述要領書10頁10行から11頁5行)

b 井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口の(井戸の深さ方向の)上端位置まで低下させた場合について
「一方、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口の(井戸の深さ方向の)上端位置まで低下させた場合であっても、揚水ポンプの稼動中は、揚水ポンプの吸水口からの水の吸引や井戸に入り込む湧水の影響によって、井戸内の水面は少なからず変動していると解される。
そのため、このような場合でも、揚水ポンプの吸水口からは、水のみならず、井戸内の空気も吸引される蓋然性が高いと解され、井戸内の空気を吸引した場合には、揚水ポンプの揚水能力が著しく低下すると解される。」(口頭審理陳述要領書11頁6から12行)

(イ) 井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態の維持が困難なことについて
「・・・出願時の技術常識を考慮しても、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態を維持するための何らかの特別な技術を用いない限り、揚水ポンプを用いた揚水によって井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することは極めて困難であると解される。なお、この点について、甲第3号証の段落【0006】段落には、「排水ポンプの稼働に応じて井戸管内の水位が変動する。例えば、排水ポンプが盛んに排水している間は水位が下がり、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がって排水ポンプを一旦停止させると、井戸管内に地下水が流入して水位が上がる。特許文献1の装置で、内筒管203内の水位を一定の高さに保つようにバランスを取ることは、非常に困難である。このため、水位面204に作用する負圧を安定的な大きさで周辺地下水に及ぼすことができず、地下水の井戸管内への流入量が不安定になるという問題があった。」と記載されている。」(口頭審理陳述要領書11頁18行から最下行)

(ウ) まとめ
「したがって、当業者が、訂正明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、訂正発明を実施しようとした場合に、どのように実施すれば構成Eを満たすことができるかが判然とせず、また、これらを判然とするために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があると解される。」(口頭審理陳述要領書12頁1から5行)

イ 被請求人が例示する手法について
「被請求人が提出した上申書(平成29年11月2日付け)には、揚水ポンプを用いた揚水によって井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する具体的な手法として、水位計、水位センサー、間隙水圧計、および、流量計を用いた手法が例示されております。
ここで、例示された手法のうち、水位計、水位センサー、および、間隙水圧計を用いた手法については、計測ないし算定した井戸内の水位と、事前に判明している揚水ポンプの吸水口の高さとを対比しつつ、揚水ポンプによる揚水量を調整する手法と解されますが、この手法は、一般的に、井戸内の水位を、例えば、揚水ポンプの吸水口よりも1m程度高い位置に調整する際に有効な手法であると解されます。なお、甲第2号証には、2つの水位計を用いた揚水装置が記載されておりますが(【請求項1】)、下部の水位計についても揚水(排水)ポンプよりも上方に設けることが記載されております。
また、流量計を用いた手法については、井戸内の水位が揚水ポンプの吸水口まで低下した場合に、必然的に吸引する空気の影響によって揚水ポンプで揚水する流量が一定でなくなる現象を利用する手法と解されますが、あくまでも、井戸内の水位が揚水ポンプの吸水口まで低下してしまったことを判断するための手法であると解されます。
そのため、被請求人が提出した上申書に記載された手法は、水位計、水位センサーおよび間隙水圧計などを用いて、揚程を低く(短く)する等の観点から、井戸内の水位を、例えば、揚水ポンプの吸水口よりも1m程度高い位置に維持し、また、安全性などの観点から、流量計を用いて、井戸内の水位が揚水ポンプの吸水口まで低下していないか否かも監視するという一般的な手法となります。
一方、請求人は、口頭審理陳述要領書(平成29年9月21日付け)の第10頁の項目〔6〕においても主張している通り、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水すると、揚水ポンプの吸水口からは、水のみならず、井戸内の空気も吸引されることになり、その結果、揚水ポンプの吸水口の吸水圧力は急激に低下し、揚水ポンプ内にいわゆるキャビテーションと同様な現象が生じることになり、揚水ポンプの揚水能力が著しく低下すると解され、場合によっては揚水ポンプの故障を引き起こすと考えております。なお、揚水ポンプの吸水口から空気も吸引されることは、上述した通り、被請求人が提出した上申書における「流量計」を用いた手法においても明記されております。
請求人の上述した主張に対して、被請求人は、口頭審理陳述要領書(平成29年10月5日付け)の第10頁の項目(5)の第11?17行目において、「勿論、・・・この場合、水面上の空気を多少吸引してしまう可能性かおるが、少量の空気の混入のみで、直ちに揚水ポンプによる吸引を維持できなくなるわけではない。したがって、当業者であれば、井戸内の水位の調整により、空気の混入を揚水ポンプによる吸引を継続することができる程度にとどめ、揚水ポンプの吸水口の位置に水位を維持しつつ、揚水を継続することに困難はない。」と主張しております。なお、上記で下線を付した「井戸内の水位の調整」との記載は、「揚水ポンプの吸水口の位置に水位を維持」することと矛盾していることは明らかとなります。
そして、被請求人が提出した上申書において例示された、水位計、水位センサー、間隙水圧計、および、流量計を用いた手法では、どのようにして、空気の混入を揚水ポンプによる吸引を継続することができる程度にとどめ、揚水ポンプの吸水口の位置に水位を維持しつつ、揚水を継続することができるのかが明らかにされておりません。
特に、流量計を用いた手法内容を参酌すると、井戸内の水位が揚水ポンプの吸水口の位置にあると、流量計によって計測される流量(揚水ポンプからの流量)が一定でなくなり、ぶれが生じるため、このような状態を維持した状態で、どのようにして、空気の混入を揚水ポンプによる吸引を継続することができる程度にとどめ、揚水を継続することができるのかは不明となります。
また、訂正発明では、バキュームを用いて井戸内の空気の排出を行った状態としているため、揚水量の調整だけでなく、空気の排出(負圧の程度)も井戸内の水位に影響を与えることは明らかとなります。この点に関して、甲第9号証においては、以下にも転記する添付図を参照して、井戸1の内部をバキュームすることにより、井戸内の水位がH2からH4に上昇することが記載されております。
よって、井戸内の空気の排出の程度(負圧の程度)を考慮せず、水位計および流量計などを利用した揚水量の調整のみで、空気の混入を揚水ポンプによる吸引を継続することができる程度にとどめ、揚水ポンプの吸水口の位置に水位を維持しつつ、揚水を継続することは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤等が必要となることは明らかであり、披請求人が提出した上申書の内容を参酌しても、当該揚水を継続することは困難となります。」(上申書(2)2頁5行から4頁12行)


第5 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。

(1) 無効理由1(明確性要件違反)
ア 構成Cの「井戸の吸水能力」の意味について
「本件特許の明細書の段落0013から、「井戸の吸水能力」が、井戸に入り込む湧水量を指すことは明白である。」(答弁書6頁2から3行)

イ 湧水量の変動について
(ア) 「井戸に入り込む湧水量は、確かに、井戸内の状態に応じて変動する。
しかし、本件特許の明細書には、段落0013において、「ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。……これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。」との記載がある。
したがって、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力」が、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させた上で、当該状態を維持しつつ地下水の揚水を行うことができる揚水能力を指すことは明らかである。そして、井戸内水位を低下させ、地下水を揚水していく過程で、常にポンプの揚水能力が井戸に入り込む湧水量より大きくなければ、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させた上で、当該状態を維持しつつ地下水の揚水を行うことはできない。
したがって、訂正発明における「井戸の吸水能力より大きい揚水能力」が、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させ、地下水を揚水していく過程で、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなった時点における井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を指すことは明白である。
そして、井戸に入り込む湧水量は、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行い、井戸内の水面上の空間が負圧となることによって増大し、かつ、井戸内の水位を低下させ、ポンプ吸水口へと近づけていく程に、井戸の外部と内部との水頭差が大きくなり、増大する。
また、井戸内の水位がポンプ吸水口まで低下した状態における井戸に入り込む湧水量は、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点において最も大きく、その後は、井戸の外部の水位の低下に伴って、井戸の内部と外部との水頭差が小さくなることから、減少していくこととなる。
上記のような関係が存することは当業者にとって技術常識であるから、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなる時点が、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点であることは明白である。
以上より、訂正発明における「井戸の吸水能力より大きい揚水能力」が、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させ、地下水を揚水していく過程で、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなった時点における井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を指すことが明白であり、かつ当該状態となる時点が、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点であることが明白・・・である。」(答弁書6頁4行から7頁12行)

(イ) 「答弁書において述べたとおり、訂正明細書の記載に鑑みれば、訂正発明の構成Cにおける「井戸の給水能力より大きい揚水能力」が、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた上で、当該状態を維持しつつ地下水の揚水を行うことができる揚水能力を指し、これが、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させ、地下水を揚水していく過程で、常に井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を指すことは明白である。
そして、このような揚水能力を満たすために、ポンプにいかなる揚水能力が必要であるかは、井戸の周囲の客観的状況から定まるものであるから、答弁書において述べたとおり、当業者であれば、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させた直後のものとして予想される井戸に入り込む湧水量を基準として、地盤の改良工法の実施前に、容易に定めることができる。
勿論、例えば突然の大雨等、想定外の事象が生じれば、当業者の想定が崩れ、結果として上記のようにして定めた揚水能力が、井戸に入り込む湧水量を下回る時点が生じ、一時的に井戸内水位が上昇してしまう可能性がないわけではないが、あらゆる事項において、想定外の事象は生じ得るものであり、このような想定外の事象の可能性が完全に排除されていないから発明が不明確であると解されるとすれば、およそ明確性要件を満たすことなど不可能となる。
訂正発明において問題となるのは、揚水に使用するポンプを定めた時点における客観的状況に鑑みて、当該事業者が使用することを決定したポンプが、地下水を揚水していく過程で、常に井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を有することとなるポンプであったといえるか否かであり、このようなポンプが当業者にとって明確である以上、その後の想定外の事象によってこれが崩れる可能性が皆無ではないとしても、そのことが明確性の判断に影響を与えることはない。
したがって、「前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」を行う旨の構成Cは明確・・・である。」(口頭審理陳述要領書4頁11行から5頁11行)

(ウ) 「被請求人の主張は、「井戸の給水能力より大きい揚水能力」が、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた上で、当該状態を維持しつつ地下水の揚水を行うことができる揚水能力を指し、これが、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させ、地下水を揚水していく過程で、常に井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力、すなわち、当該過程において、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなった時点における井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を指すことが明白であるというものである。
そして、効率的な揚水のためには、揚水開始時に一気に井戸内の水位を低下させ、訂正発明の想定する揚水状態、すなわち、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態を早急に作り出そうとすることが通常であり、そのような通常想定される場合においては、答弁書において述べた通り、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点が、井戸に入り込む揚水量が最も大きくなる時点となる。
なお、甲第9号証においては、井戸内をバキュームしていない状態における定常状態(状態A)、井戸内をバキュームした状態における定常状態(状態B)、及び井戸内をバキュームした上で、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態における定常状態(状態C)につき順次説明しているが、説明の便宜のためのものにすぎず、実際には、あえてこのような迂遠な過程を経て、訂正発明の想定する揚水状態(バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態)を作り出すことは考え難い。
そして、確かにこのような通常考え難い過程を経るのであれば、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点が、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなる時点ではなくなる場合も考え得るが、いずれにしても実際に用いられる揚水過程に対応して、常に井戸に入り込む湧水量よりも大きい揚水能力を有することとなるポンプが、「井戸の給水能力より大きい揚水能力のポンプ」であることが明確である点に変わりはない。」(上申書(2)2頁7行から3頁8行)

(2) 無効理由2(新規性欠如)
ア 構成A、B、Dについて
「甲第4号証には、訂正発明の構成A,B及びDに相当する構成についての記載は存する」(答弁書9頁9から10行)

イ 構成C、Eについて
(ア) 「井戸からポンプによって揚水した上で、井戸の外部から井戸内に水が吸水されれば、井戸外の地下水位は必然的に低下する。したがって、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件ではない。」(答弁書7頁22から25行)
「甲第4号証には、訂正発明の・・・構成C及びEに相当する構成についての記載はない。
なお、請求人は、甲第4号証の段落0029において地下水位の低下量が大きいとされていることをもって、甲第4号証に構成Cに相当する構成が記載されているとする。しかし、甲第1号証について述べたように、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件ではないから、地下水位の低下量が大きいことは、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことを意味せず、請求人の主張は明らかに失当である。
また、請求人は、訂正前請求項2における「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させる」という構成(以下、「訂正前構成E」という。)について、甲第4号証の段落0029において、「水中ポンプ7の能力によっては、水中ポンプ7位置まで地下水位を低下させることができる。」と記載されていることをもって、甲第4号証に記載されているとする。しかし、上記記載はあくまで、「地下水位」を水中ポンプ位置まで低下させることが可能であるという記載に過ぎない。これに対し、訂正前構成Eは「井戸内の水位」を揚水ポンプの吸水口まで低下させるというものである。
上記のように、井戸外の地下水位の低下と、井戸内の水位の低下は全く異なり、仮に井戸外の地下水位がポンプの吸水口の位置まで低下したとしても、空気の排出によって上部の空間が負圧となることで必然的に上昇する井戸内の水位が、ポンプの吸水口まで低下することにはならないから、この点を混同した請求人の主張は明らかに失当である。
また、訂正前構成Eについては、訂正発明においては、構成E、すなわち「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」という構成に訂正されている。
訂正発明における構成Eは、明細書の段落0013に記載されているように、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を有するポンプを用いた揚水によって、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた上で、当該状態を維持しつつ、さらに揚水ポンプを用いた揚水を行うことによって、井戸外の地下水を負圧伝播で揚水するというものである。
これに対し、上記の甲第4号証の記載は、あくまで地下水位低下装置による地下水位低下の最終的な結果として、地下水位を水中ポンプ位置まで低下させることが可能であるという記載に過ぎず、当該状態を利用して地下水の揚水を行うことを想定したものではない。
したがって、この点においても、構成Eと、甲第4号証に記載の発明とは決定的に異なっており、構成Eに相当する構成につき、甲第4号証に記載されていないことは明らかである。」(答弁書9頁9行から10頁20行)

(イ) 「請求人は、訂正発明につき甲第4号証に記載された発明であると主張するが、甲第4号証に記載されているのは、地下水位を低下させることができるポンプを用いて、最終的な結果として、地下水位を水中ポンプ位置まで低下させる点のみであり、甲第4号証には、訂正発明の構成C及びEに相当する構成についての記載はない。
・・・
請求人は、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことが、井戸外の地下水位低下のための条件である旨を述べるが、答弁書においても述べたとおり、このような主張は失当である。
ポンプが井戸の吸水能力を上回る揚水能力を有しない場合、訂正発明のように井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することはできないが、井戸内から揚水ポンプによって揚水がなされ、それに応じて井戸の外部から地下水が井戸内に流入し続ければ、揚水ポンプの能力を問わず、地下水位は一応低下する。
したがって、答弁書においても述べたとおり、甲第4号証に地下水位が低下するという記載があることをもって、構成Cに相当する構成が記載されているとする主張は、到底成り立ち得ない。
・・・
請求人が甲第4号証に構成Eについて記載されているとする根拠である甲第4号証の図2は、以下の理由で根拠とはなり得ない。
まず、そもそも甲第4号証の図2は、井戸内にあたる水面が斜めに記載されている点等から考えて、井戸内の水面につき厳密に記載したものではない単なるイメージに過ぎないことは明らかであるが、この図に従うとしても、井戸内に引かれた水面の線は、水中ポンプの吸水口よりも明らかに上にあり、当該図面をもって、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態について記載されているものとはいえない。
さらに、甲第4号証の図2は、甲第4号証における第1の実施の形態を説明するための図であるが(段落【0019】参照。)、甲第4号証における第1の実施の形態においては、バキュームポンプは設けられておらず、井戸内の空気の排出はなされていない。
答弁書においても述べたとおり、井戸内の空気をバキュームを用いて排出した場合、水面の上の空間が負圧となることから、井戸内の水位が上昇することとなる。
訂正発明における構成Eは、構成Dを採用し、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った状態においても、なお井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水するという構成であるから、甲第4号証における図2とは前提が全く異なり、この点からも、図2の記載をもって、甲第4号証に構成Eにつき記載されているということはできない。
したがって、甲第4号証における図2は、甲第4号証に構成Eが記載されているとする根拠とはなり得ず、甲第4号証に構成Eに相当する構成につき記載がないことは明らかである。
なお、請求人は、甲第3号証の記載についても根拠としているが、当然ながら、甲第3号証の記載は、いくら先行技術文献として甲第4号証に対応する公開公報に言及していたとしても、甲第4号証の記載ではない。甲第4号証と全く別個の文献における、正確性すら担保されていない甲第4号証記載の発明に対する評価を、新規性を否定するための根拠として用いることができるはずがなく、このような主張自体が失当であることは明白である。」(口頭審理陳述要領書5頁17行から7頁8行)

(ウ) 「請求人は甲第4号証における図2について繰り返し述べているが、同図は、そもそも井戸内の水面について厳密に記載した図であるとは解し難く、仮に同図に従うとしても、井戸内の水位は揚水ポンプの吸水口まで低下しておらず、かつ、真空ポンプが設けられていない甲第4号証における第1の実施の形態を説明するための図である点に鑑みれば、到底訂正発明における構成Eにつき記載されているということはできない。」(上申書(2)3頁15から20行)

(3) 無効理由3(進歩性欠如)
ア 構成A、B、Dについて
「甲第1ないし4号証には、訂正発明の構成A,B及びDに相当する構成についての記載は存する」(答弁書7頁15から16行、8頁5から6行及び21から22行、9頁9から10行)

イ 構成Cについて
(ア) 「請求人は、甲第1号証の段落0038において水中ポンプの能力が十分とされ、段落0012、0015において地下水位の低下が大きいとされていることをもって、甲第1号証に構成Cに相当する構成が記載されているとする。しかし、被請求人が甲第9号証の面接記録においても述べたように、井戸からポンプによって揚水した上で、井戸の外部から井戸内に水が吸水されれば、井戸外の地下水位は必然的に低下する。したがって、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件ではない。
甲第1号証においてポンプの能力が十分とされているのは、あくまで井戸外の地下水位の低下に十分な能力という意味に過ぎず、井戸内の水位をポンプの吸水口まで低下させるのに十分な能力であると述べているわけではない。したがって、これらの記載が、ポンプが井戸の吸水能力より大きい揚水能力を有することを意味しないことは明白であり、請求人の主張は明らかに失当である。」(答弁書7頁18行から8頁3行)
「請求人は、甲第2号証の段落0029の記載をもって、甲第2号証に構成Cに相当する構成が記載されているとする。しかしながら、上記記載は、ストレーナ管内の水位が、その上限である上部水位計35よりも上昇した位置にある時点において、ストレーナ部から浸透する地下水の量より、排水ポンプによって排水される水量の方が多いことを意味するに過ぎない。
これに対し、上記のように、訂正発明の構成Cは、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなる、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点においても、井戸に入り込む湧水量よりもポンプの揚水能力が大きいことを意味するから、上記記載をもって、甲第2号証に構成Cが記載されているものとすることはできない。」(答弁書8頁8から19行)
「請求人は、甲第3号証の段落0038における、井戸管内の水位が揚水に伴って低くなるとの記載をもって、甲第3号証に構成Cに相当する構成が記載されているとする。しかしながら、上記記載は、井戸管内からの揚水開始直後において、しかも井戸管内の減圧もなされていない状態において水位が低くなることを意味するに過ぎない。
これに対し、上記のように、訂正発明の構成Cは、井戸に入り込む湧水量が最も大きくなる、バキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った上で、井戸内水位をポンプの吸水口まで低下させた直後の時点においても、井戸に入り込む湧水量よりもポンプの揚水能力が大きいことを意味するから、上記記載をもって、甲第3号証に構成Cが記載されているものとすることはできない。」(答弁書8頁24行から9頁7行)
「請求人は、甲第4号証の段落0029において地下水位の低下量が大きいとされていることをもって、甲第4号証に構成Cに相当する構成が記載されているとする。しかし、甲第1号証について述べたように、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件ではないから、地下水位の低下量が大きいことは、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことを意味せず、請求人の主張は明らかに失当である。」(答弁書9頁12から18行)

(イ) 「a 甲第4号証の記載について
請求人は、まず、構成Cについて、甲第4号証の段落0011及び0024の記載を根拠として、甲第1号証、甲第3及び甲第4号証のいずれに記載の発明からも、当業者が容易に想到し得たものであるとする。
しかしながら、甲第4号証においてポンプの揚水能力が設計事項であるとされているのは、上記の通り、井戸からポンプによって揚水した上で、井戸の外部から井戸内に水が吸水されれば、ポンプの揚水能力を問わず地下水位は一応低下することから、訂正発明のように負圧伝播による揚水を目指すのでなければ、地下水位の低下のためにポンプの揚水能力を厳格に規定する必要がないということを意味するに過ぎない。
訂正発明においては、構成Cを採用することによって、初めて井戸内の水位をポンプの吸水口まで低下させることができ、これによって負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下が実現されるという顕著な効果が生じる。また、訂正発明において構成Cが採用されたのは、上記のように負圧伝播による地下水の揚水のためであり、負圧伝播による揚水を行う旨の記載のない甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明において、構成Cを採用し、井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いることに対する動機づけは一切存しない。
したがって、構成Cが単なる設計事項に該当する構成ではないことは明らかであり、甲第4号証の記載を根拠に、当業者が甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得た構成であるということはできない。
b 甲第5号証及び甲第6号証について
請求人が主張するように、甲第5号証には、揚水のためのポンプが揚程と計画揚水量から定められ、計画揚水量の決定方法として、段階揚水試験という試験方法が知られているということが記載され、甲第6号証には、段階揚水試験の試験方法が記載されている。
しかし、段階揚水試験は、井戸からの過度の揚水を防止するため、井戸に対する地下水の補給量と揚水量との釣り合いが取れなくなる点、すなわち限界揚水量を下回る揚水量を、適正揚水量として定めるための試験方法であり、むしろ井戸からの揚水量を抑制することを意図した試験方法である。したがって、仮に適正揚水量よりも若干大きい揚水能力を有するポンプを用いたとしても、これが「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプ」を意味しないことは明らかであり、甲第5号証及び甲第6号証から、当業者が構成Cに容易に想到し得ることを根拠づけるような技術常識など到底読み取ることはできない。
むしろ、甲第5号証及び甲第6号によれば、限界揚水量を下回る揚水量が、適正揚水量として定められるのであるから、井戸の吸水能力を超える揚水を行うことを目的として、構成Cを採用して井戸の吸水能力より大きい揚水能力を有するポンプを用いることが、通常取られる手法ではないと解することが自然である。この点は、甲第5号証において、301頁に「水位降下量が過大となることは避けねばならないから、解析に不都合が生じない限り、計画揚水量は少なめとし、むしろ、揚水計測時間(後述)を長くとるように考慮すべきである。」との記載がある点からも明らかである。」(答弁書11頁6行から12頁24行)

(ウ) 「答弁書においても述べたとおり、負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下を実現するという旨の記載がなく、また、ポンプの揚水能力を井戸の吸水能力との関係で定めることを示唆した記載さえ一切存しない甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明においては、構成Cを採用する動機づけは一切存しない。さらに、訂正発明において、構成Cによって、井戸内の水位をポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することが可能となり、これによって負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下が実現されるという顕著な効果が生じる点に鑑みれば、甲第4号証の段落【0011】及び【0024】の記載を考慮したとしても、構成Cが、当業者が甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得た構成ではないことは明らかである。
請求人は、負圧伝播が訂正発明の発明特定事項でない点について述べるが、構成Cが負圧伝播による揚水を意図した構成であることは訂正明細書から明白である。そして、ここで問題となるのは、負圧伝播による揚水を実現するための構成である構成Cを、各証拠に記載の発明において採用することが、当業者にとって容易であったか否かであり、負圧伝播という用語が訂正発明の特許請求の範囲に含まれているか否かは問題ではない。そして、各証拠において構成Cを採用することが容易ではなかった点は、上記の通りである。
また、請求人は甲第12号証において甲第4号証を引用している点についても指摘するが、甲第12号証において何が記載されていようと、それは甲第4号証の記載ではなく、全く無意味な主張である。甲第12号証に記載の発明が甲第4号証に記載の発明と類似の装置を用いているからといって、別個の文献である甲第4号証において甲第12号証と同様の効果を目指しているなどという主張が成り立ち得ないことは明白である。」(口頭審理陳述要領書7頁18行から8頁15行)

ウ 構成Eについて
(ア) 「請求人は、訂正前構成Eについても、甲第5号証及び甲第6号証から明らかとなる技術常識を考慮すれば、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証のいずれかに記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たとする。しかしながら、甲第5号証及び甲第6号証の記載は上記の通りであり、これらの証拠から、当業者が訂正前構成Eに容易に想到し得たことを根拠づけるような技術常識など到底読み取ることはできない。
そして、訂正発明においては、訂正前構成Eにつき、構成Eに訂正されており、構成Eを採用することによって、明細書の段落0014に記載されているように、負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下が実現されるという顕著な効果が生じる。また、訂正発明において構成Eが採用されたのは、上記のように負圧伝播による地下水の揚水のためであり、負圧伝播による揚水を行う旨の記載のない甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明において、構成Eを採用し、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水の揚水を行うことに対する動機づけは一切存しない。」(答弁書13頁2から17行)

(イ) 「まず、請求人は、「特許庁審判部 進歩性検討会報告書」における「そもそも,設計事項とは文献による示唆や動機づけがなくても,技術の具体的適用に伴い当然考慮せざるを得ない事項であって,その構成自体に格別の技術的意義はない場合には「設計事項」といえる」との記載について言及しているが、同報告書においては、当該部分に続いて、「逆に,単に技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能があるならば,「設計事項」とはいえない」とされている(同報告書第22頁)。
そして、答弁書においても述べたとおり、訂正発明においては、明細書の段落【0007】、【0013】及び【0014】に記載のとおり、構成Eを採用することによって、負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下が実現されるという顕著な効果が生じる。この点に鑑みれば、構成Eが単に技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能をもたらすものであり、設計事項に該当しないことは明らかである。
なお、この点について、請求人は、上記効果を参酌することができない等と述べるが、上述のとおり、上記効果は、明細書の段落【0007】、【0013】及び【0014】において、訂正発明の効果として明記されている効果であり、これを参酌できない理由など存在しない。
また、請求人は、負圧伝播が訂正発明の発明特定事項でない点についても述べるが、ここで問題となるのは、構成Eに技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能があるか否かであり、負圧伝播という用語が訂正発明の特許請求の範囲に含まれているか否かは問題ではない。そして、構成Eによって、このような作用や機能が実現される点は上記のとおりである。
また、請求人は、揚水ポンプを用いた揚水を行う際に井戸内の水位をどこに設定するかは、当然に考慮せざるを得ない事項であるとするが、答弁書においても述べた通り、甲第5号証に記載されているのは、揚水のためのポンプが揚程と計画揚水量から定められ、計画揚水量の決定方法として、段階揚水試験という試験方法が知られているというのみであり、甲第6号証には、段階揚水試験の試験方法が記載されているのみである。
したがって、どの証拠に鑑みても、揚水ポンプを用いた揚水を行う際に、揚水中の井戸内の水位を当然に考慮せざるを得ないとするような事情は見出せない。
なお、請求人は、甲第4号証の図2を根拠に、構成Eが甲第4号証からの設計事項であることはより明白であると述べるが、上記の通り甲第4号証の図2の記載は、構成Eとは全く異なるものであるから、このような主張が成り立ちえないことも明白である。」(口頭審理陳述要領書8頁17行から9頁23行)

(ウ) 「仮に井戸内の水位自体は一般的に考慮される場合があり得るとしても、訂正発明における構成Eのように、通常井戸内の水位が上昇してしまうバキュームを用いた井戸内の空気の排出を行った状態においても、なお井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させる点について示唆した証拠は一切存せず、かつ、これによって、負圧伝播による揚水によって確実な地下水位の低下が実現されるという顕著な効果が生じる点に鑑みれば、構成Eが、設計事項に該当しないことは明白である。」(上申書(2)3頁25行から4頁4行)

出願経過に関して
出願経過における審査官殿の見解が、審判段階において何らかの拘束力を有するわけではなく、何らの意味もない主張である。
また、・・・審査官殿が単に揚水ポンプによる揚水と、バキュームポンプによる吸気を行う点のみに、特許性を認めていたとは解しがたい。」(答弁書13頁24行から14頁12行)

オ 作用・効果に関して
(ア) 「訂正発明の作用・効果は、明細書の段落0013及び0014に記載されているように、SWPによる井戸の吸水量より大きい揚水能力の揚水ポンプを用いることで、井戸内水位をポンプ吸水口まで低下させ、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させるというものである。より具体的には、以下の通りである。
通常、井戸内の空気をバキュームを用いて排出した場合、水面の上の空間が負圧となることから、井戸の外部からの水の流入量が増加して、井戸内の水位が上昇してしまう。
負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要するところ、井戸の内部の水については、水深が深くなるほどに水圧が漸増することから、仮に水面では負圧であったとしても、ポンプの吸水口が水面から離れれば、ポンプの吸水口付近は負圧とはならない。したがって、井戸内の空気を単に排出したのみでは、水面から離れたポンプの吸水口周辺を負圧とすることはできず、負圧伝播は生じ得ない。
そこで、訂正発明においては、バキュームを用いた空気の排出によって井戸内の空気を排出した状態において、さらに、井戸の吸水能力より大きい揚水能力を有するポンプを用いた揚水によって、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させる。これによって、ポンプの吸水口付近を負圧とすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」(答弁書5頁8から26行)

(イ) 「まず、請求人は、負圧伝播による揚水のために、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要するという点について、明細書に記載も示唆もなされていないと主張するが、従前より主張しているように、これは、明細書における、「効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる」(段落【0007】及び【0014】)、「井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる」(【0013】)との記載について、メカニズムを説明しているのみであり、明細書の記載の範囲内の主張である。
また、請求人は本件の図1についても述べるが、図1における揚水ポンプの周囲のハッチングは、単にストレーナを表しており、揚水ポンプの周囲に水が存在することを表した図ではないことは明白である。
また、請求人は甲第12号証や甲第3号証の記載についても述べるが、従前より主張するように、揚水ポンプの揚水能力について規定せず、井戸内の水位を低下させることを意図していないこれらの証拠に記載の発明においては、バキュームを用いて井戸内の空気を排出すれば、それによって生じた負圧によって必然的に井戸内の水位が上昇してしまい、揚水ポンプの吸水口付近を負圧とすることはできない。したがって、確かに甲第12号証や甲第3号証においても、負圧によって何らの効果も生じないわけではないが、これらにおいて生じる効果は、負圧によって、井戸内と井戸周辺との間の動水勾配を若干大きくすることができるという程度にとどまる。
これに対して、訂正発明においては、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することで、揚水ポンプの吸水口付近に生じた負圧を、井戸外に波及させ、井戸周辺にまで負圧領域を形成することが可能となる。したがって、訂正発明と、揚水ポンプの揚水能力及び揚水中の井戸内の水位について規定していない従来の発明とでは、単なる程度の差に留まらない決定的な作用・効果の違いがある。」(上申書(2)4頁8行から5頁5行)

(4) 無効理由4(実施可能要件違反)
ア 具体的な手法の例示について
「当業者であれば、訂正明細書の記載を基に十分に実施可能なものである。具体的な手法としては、例えば以下の手法が挙げられる。

(1) 水位計
井戸上部から、電極間に流れる電流から水面に着いたか否かを判別するもの等の一般的な水位計を垂らし、当該水位計によって井戸内の水位を計測しつつ揚水する。井戸内における揚水ポンプの吸水口の高さは、揚水ポンプの設置状態によって事前に分かっていることから、計測した水位と、揚水ポンプの吸水口の高さとを対比しつつ、揚水ポンプによる揚水量を調整して揚水を継続することで、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することができる。
(2) 水位センサー
井戸上部に、音波やレーザー等の水面からの反射を利用して水位を計測する一般的な水位センサーを設置し、当該水位センサーによって井戸内の水位を計測しつつ揚水する。井戸内における揚水ポンプの吸水口の高さは、揚水ポンプの設置状態によって事前に分かっていることから、計測した水位と、揚水ポンプの吸水口の高さとを対比しつつ、揚水ポンプによる揚水量を調整して揚水を継続することで、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することができる。
(3) 間隙水圧計
一般的な間隙水圧計を井戸の底に沈め、当該間隙水圧計によって計測した水圧から井戸内の水位を算定しつつ揚水する。井戸内における揚水ポンプの吸水口の高さは、揚水ポンプの設置状態によって事前に分かっていることから、算定した水位と、揚水ポンプの吸水口の高さとを対比しつつ、揚水ポンプによる揚水量を調整して揚水を継続することで、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することができる。
(4) 流量計
揚水ポンプからの流量を、揚水ポンプの出口付近に備えられた流量計で
測しつつ、揚水を継続することで、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することができる。具体的には、井戸内の水位が揚水ポンプの吸水口まで低下した場合、必然的に一定量の空気が吸引されることから、流量計によって計測される流量が一定ではなくなり、ぶれが生じることとなる。当業者であれば、このような流量のぶれの状態から、井戸内の水面と揚水ポンプの吸水口との位置関係を判断することができる。

以上のように、訂正発明における構成Eは、当業者であれば、訂正明細書の記載を基に一般的な手法を用いることで、十分に実施可能なものである。」(上申書(1)2頁5行から3頁15行)


第6 無効理由についての当審の判断
1 甲各号証の記載
(1) 甲第1号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】大深度真空排水工法を用いて地盤中の汚染地下水を揚水し、且つ、汚染空気の吸引を同時に行ない、新に井戸周辺フィルター部に電気式水位センサーを取付け、水位制御盤にて地下水の水位をコントロールすることを特徴とする真空式AW工法。
【請求項2】
大深度真空排水工法による揚水では、重力排水とは異なり地下水位の低下勾配がLog曲線から直線勾配になることによって、地下水面を大きく低下させ、汚染された土壌を飽和帯から不飽和帯におくと共に、空気吸引によって不飽和帯中のVOCを回収し、同時に汚染された地下水も揚水して処理プラントで浄化して排水することを特徴とする真空式AW工法。
【請求項3】
有孔管内の上半部位に水位を計測する電気式水位センサーを信号ケーブルで吊下すると共に、下半部に略1m /mメッシュの網筒を嵌合すると共に、当該有孔管の底部を底蓋で塞いだことを特徴とする真空式AW工法。」

イ 「【0001】本発明は、地下水揚水と土壌ガス吸引を単一の設備で同時に行う真空式AW工法に関するもので、大深度真空排水工法(以下、「スーパーウエルポイント工法、略称=SWP工法」という)を用いて、地下水の揚水のみならず、真空に保つためにバキュームポンプを使って、常時空気を吸引し続けられるようにして地下水とガスの両方を同時に効率よく回収できるようにしたことを目的とする。」

ウ 「【0011】本発明の第1は、真空式AW工法において、大深度真空排水工法を用いて地盤中の汚染地下水を揚水し、且つ、汚染空気の吸引を同時に行ない、新に井戸周辺フィルター部に電気式水位センサーを取り付け、水位制御盤にて地下水の水位をコントロールするようにしたものである。【0012】本発明の第2は、真空式AW工法において、大深度真空排水工法による揚水では、重力排水とは異なり地下水位の低下勾配がLog曲線から直線勾配になることによって、地下水面を大きく低下させ、汚染された土壌を飽和帯から不飽和帯におくと共に、空気吸引によって不飽和帯中のVOCを回収し、同時に汚染された地下水も揚水して処理プラントで浄化して排水するようにしたものである。
【0013】本発明の第3は、真空式AW工法において、有孔管内の上半部位に水位を計測する2本の電気式水位センサーを信号ケーブルで吊下すると共に、下半部に略1m /mメッシュの網筒を嵌合すると共に、当該有孔管の底部を底蓋で塞いだものである。」

エ 「【0015】 本発明は上記の構成であるから、汚染地下水と汚染地下空気を1本の井戸で同時に回収することができる。また、従来の地下揚水法よりも多量に揚水し、地下水の集水能力が極めて高い。そして、従来のガス吸引よりも多量に空気を吸引することができる。さらに、地下水位の低下も大きく、不飽和帯も大きく拡大する。空気吸引による土壌中のVOCsを回収効率が極めて高い。しかも、地下水とガスを同時に回収するシステムであり、経済的効果も高くなる。
【0016】なお、揚水量と地下空気吸引のコントロールを行う場合は、目的が上記の「地盤改良をおこなう場合」と同様に地下水と空気を同時に回収するものであり、井戸管内の水位を2つの水位間にコントロールすることが必要である。
・・・
【0019】次に、請求項1にあっては、SWPの中に電気センサーを2本入れることで、井戸内の水位をコントロールすることができる。・・・」

オ 「【0025】本発明工法は、SWP工法を用いて、地下水の揚水のみならず、真空吸引に伴い常に井戸内を真空に保つためにバキュームポンプを用いて、常時空気を吸引し続けるものでである(Vair≒3.0m^(3)/min)。
この特長は、従来揮発性有機塩素化合物(以後VOCsと称する)の除去方法として、土壌ガス吸引法とエアースパージング法等が知られている。」

カ 「【0027】それに比べ、SWP工法では、二重管のスクリーンの最下端より地下水の揚水は元より、空気も下端より吸引してしまうことになる。
VOCの特長としては、帯水層の地下水面の上に堆積することが殆どで、濃度の高いVOCが効率的に除去される。」

キ 「【0029】次に、本発明の実施例を図面を以て説明する。図1において、1は地盤Gの縦方向に掘削した井戸穴、2はその井戸穴に挿入した井戸管、3は井戸管2の頂部に設けたSWP用上蓋、4は井戸管内に上蓋頂部から信号ケーブル5で吊下げた電気式水位センサーであり、地下水位を高水位と低水位の2つの水位間にコントロールする役割を果たしている。
図1にあっては、2本の電気式水位センサー4が吊り下げられている。これによって、井戸内の水位と井戸外の水位もコントロールするようになっている。
・・・
【0031】11は井戸管内に挿通して頂部を井戸管の上蓋3に取付けた揚水管、12はその揚水管の下端に設けた揚水用の水中ポンプ、13は当該水中ポンプの位置における井戸管の下端位置に設けたストレーナー、14は揚水管11の頂部に設けた排水管、14nは揚水管11の頂部に設けた排気管、15は前記の排水管14に接続する未処理プラント、15nは前記の排気管14nに設けた排気ガス処理プラント、16は井戸管2の上蓋頂部に設けたエアー吸引用バキュームポンプ、17は圧力ゲージ、18は上蓋3に取付けた自動バルブであり、外気を井戸管に取り込むために設けてある。19は制御盤、20は地盤G上に設置して井戸管2に連通するコンプレッサー、21は上蓋3の周面に設けたフランジ継ぎ手を示す。
【0032】「具体的な作業工程例」・・・
(2) ・・・地下水は、井戸管2のストレーナー13から当該管内に流入する。
(3)そして、水中ポンプ12を介して井戸管2内の地下水を揚水管11内を通って上方に汲み上げられる。・・・
(7)水位センサー4で地下水位をコントロールして揚水した場合、井戸2内には水があり、バキュームポンプ16でエアーを吸引すると井戸内の水は、ボイリング状況になる。」

ク 「【0038】本願出願人の既設処理プラントで水処理を実験を行ったが、その設計処理量に応じた量しか揚水できなかった。水中ポンプの能力は十分にあるため、地盤の集水能力の限界まで揚水できれば地下水位はさらに低下させ得る。これにより、不飽和帯が更に拡大して浄化がさらに進む可能性も考えられる。」

ケ 図1は次のものである。



コ 上記アないしケからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる(上記第3に記載した本件訂正発明の分説に合わせて分説した。以下同様。)
「1a 地盤Gの縦方向に掘削した井戸穴1に井戸管2を挿入し、井戸管2の下端位置に設けられたストレーナー13から井戸管2内に流入した地下水を吸引する、スーパーウエルポイント工法を用いた地盤の改良工法であって、
1b 井戸管2に取り付けられた揚水管11の下端に設けられ、ストレーナー13から井戸管2内に流入する地下水を吸引する揚水用の水中ポンプ12として、
1c 十分な揚水能力を有し、地下水位を低下させることができる水中ポンプ12を用いた地下水の揚水と、
1d バキュームポンプ16を用いた井戸管2の空気の吸引とを行い、
1e 井戸管2内に吊り下げた2本の水位センサー4で井戸内の水位を2つの水位間にコントロールして、水中ポンプ12を用いて地下水を揚水する、
1f 地盤の改良工法。」

(2) 甲第2号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】下端に透水性のストレーナ部を有し粘性土地盤に埋設されるストレーナ管と、
前記ストレーナ管の外周に形成されるフィルターと、
前記ストレーナ管内を排気することにより前記フィルターを透過して前記ストレーナ部から前記ストレーナ管内に地下水を流入させる真空ポンプと、
前記ストレーナ管内に配置された排水ポンプにより前記ストレーナ管内に流入した地下水を地上に排水する排水管と、
を備え、
前記ストレーナ管内には、下部水位計が前記排水ポンプよりも上方に設けられるとともに、上部水位計が前記下部水位計の上方に設けられ、
前記排水ポンプは前記ストレーナ管内の水位が前記上部水位計よりも上昇したときに駆動開始されるとともに、前記下部水位計よりも下降したときに駆動停止され、
前記排水管には逆止弁が設けられていることを特徴とする揚水装置。」

イ 「【0016】ストレーナ管30の上端には、吸引管32が設けられている。吸引管32には地上部において図1に図示しない真空ポンプ33(図2参照)と接続されている。真空ポンプ33は制御部50により駆動制御される。ストレーナ管30内部の空気は吸引管32を介して真空ポンプ33により排気される。」

ウ 「【0022】排水管40は、ストレーナ管30の上端を貫通して内部に挿入されており、下端に排水ポンプ41が設けられている。排水ポンプ41はストレーナ部31よりも上方かつ下部水位計34よりも下方に設けられている。排水ポンプ41は、例えば、ポンプ本体とモーター部が一体化されたものであり、排水管40の下端に接続されている。排水ポンプ41は、後述する制御部50により駆動制御される。」

エ 「【0025】次に、揚水装置10により粘性土地盤1から揚水する手順について説明する。
まず、制御部50が真空ポンプ33の駆動を開始し、ストレーナ管30内を減圧する。すると、ストレーナ管30内の気圧とフィルター20外部の間隙水圧との圧力差により、フィルター20内の地下水がストレーナ部31よりストレーナ管30内に浸透し始めるとともに、粘性土地盤1からフィルター20内に地下水が浸透し始める。ただし、粘性土地盤1の透水係数は低いため、その流量は少ない。」

オ 「【0028】ストレーナ管30内が減圧されていると、ストレーナ部31からフィルター20内の地下水がストレーナ管30内に浸透し、ストレーナ管30内の水位Wは圧力水頭Hに向かって徐々に上昇する。この地下水の浸透速度は圧力水頭Hと水位Wとの差に比例するため、水位Wはなるべく低く維持することが好ましい。
【0029】ストレーナ管30内の水位Wが上部水位計35の位置H2よりも上昇すると(図3)、上部水位計35は上限信号を制御部50に出力する。
上限信号を検出した制御部は、排水ポンプ41の駆動を開始し、ストレーナ管30内の排水を開始する。このときもフィルター20内外の圧力差により、粘性土地盤1内の地下水は引き続きフィルター20を透過しストレーナ部31よりストレーナ管30内に徐々に浸透している。しかし、ストレーナ部31から浸透する地下水の量よりも排水ポンプ41により排水される水量のほうが多いため、ストレーナ管30内の水位Wは低下し始める。
【0030】ストレーナ管30内の水位Wが下部水位計34の位置H1よりも下降すると(図1)、下部水位計34は下限信号を制御部50に出力する。下限信号を検出した制御部は、排水ポンプ41の駆動を停止し、ストレーナ管30内の排水を中断する。」

カ 「【0039】なお、以上の実施形態においては揚水装置10を粘性土地盤1の改良のために用いたが、例えば明瞭な帯水層がない地域で水を確保するために本発明を適用してもよい。」

キ 図1は次のものである。


ク 図3は次のものである。


ケ 上記アないしクからみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「2a 下端に透水性のストレーナ部31を有するストレーナ管30を粘性土地盤1に埋設し、ストレーナ部31に浸透した地下水を揚水する粘性土地盤の改良工法であって、
2b ストレーナ管30の内部に挿入された排水管40の下端に配置され、ストレーナ部31から浸透した地下水を排水する排水ポンプ41として、
2c ストレーナ部31から浸透する地下水の量よりも排水される水量のほうが多くなる能力のポンプを用いた、ストレーナ管30内の地下水の揚水と、
2d 真空ポンプ33を用いたストレーナ管30内の空気の排気とを行い、
2e ストレーナ管30内には、下部水位計34が排水ポンプ41よりも上方に設けられるとともに、上部水位計35が下部水位計34の上方に設けられ、排水ポンプ41はストレーナ管30内の水位が上部水位計35よりも上昇したときに駆動開始され、下部水位計34よりも下降したときに駆動停止される、
2f 粘性土地盤の改良工法。」

(3) 甲第3号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】下端部にストレーナーが設けられ、地盤に埋設される井戸管と、
前記井戸管の内側空間を気密状態で閉塞する閉塞蓋と、
前記閉塞蓋で閉塞された前記井戸管の内側空間を減圧する減圧部と、
上端が前記ストレーナーの地下水流入部よりも上方に位置するように高さが定められた筒状の側壁部材、及び、前記側壁部材の底面を区画する底部材を備えたポンプ収納部と、
前記ポンプ収納部の前記側壁部材の上端よりも低い位置に吸込口が設置された揚水ポンプと、
を有することを特徴とする揚水装置。
・・・
【請求項4】地盤における改良対象箇所に設置された、請求項1から3の何れか1項に記載の揚水装置によって地下水を汲み上げる揚水工程を含むことを特徴とする軟弱地盤改良工法。」

イ 「【0001】本発明は、井戸管内の下端部に設置された揚水ポンプ及び井戸管の内側空間を減圧する減圧部を備えた揚水装置、この揚水装置を用いた軟弱地盤改良工法及び地盤掘削工法、地盤中の地下水を汲み上げる揚水工程を行う汚染土壌浄化工法、並びに、注入時とは反対方向に地盤内の地下水を移動させることで、その後の水の注入を円滑にする回復工程を行う復水工法に関する。」

ウ 「【0004】例えば図15に示すように、特許文献1には、地下水を内部に流入させることが可能なストレーナー200を設けたストレーナー管201と、ストレーナー管201の内側に設けられ、このストレーナー管201の内壁から所定間隔離間して設けられ、下端部に通水孔202を有する内筒管203とを有する地下水位低下装置が提案されている。この装置では、周辺地盤の地下水位が、ストレーナー200における地下水が流入する上端より下がっても、内筒とストレーナー管201の間の水がシールとなるため、空気が流入しないで減圧効果を保つことができる。
・・・【0005】【特許文献1】特開2000-27170号公報
・・・【0006】しかし、特許文献1の装置では、排水ポンプの稼働に応じて井戸管内の水位が変動する。例えば、排水ポンプが盛んに排水している間は水位が下がり、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がって排水ポンプを一旦停止させると、井戸管内に地下水が流入して水位が上がる。特許文献1の装置で、内筒管203内の水位を一定の高さに保つようにバランスを取ることは、非常に困難である。このため、水位面204に作用する負圧を安定的な大きさで周辺地下水に及ぼすことができず、地下水の井戸管内への流入量が不安定になるという問題があった。」

エ 「【0014】本発明によれば、軟弱な粘性地盤の性状改善において、揚水井戸に対する負圧の効果を高めることで、地下水の井戸管内への流入効率を高めることができる。その結果、水の移動がし難い軟弱な粘性地盤であっても迅速に井戸管内に地下水を集めることができ、短い時間で地盤の性状を改善できる。」

オ 「【0018】本発明によれば、前記揚水工程において、揚水時の負圧の作用の効果を高めることができるので、1台の揚水装置によって広い範囲の地盤から地下水を汲み上げることができ、改良範囲を拡げることができる。また、地下水を汲み上げた後には、引き続き周囲の空気を吸引するので、揮発性の汚染物質が土壌内に残存していた場合の浄化にも適用できる。」

カ 「【0028】減圧ポンプ5は、吸気パイプ11を通じて井戸管3の内側空間から空気を吸い出し、この内側空間を減圧する装置である。吸気パイプ11は、減圧ポンプ5の吸気口と井戸管3の内側空間とを連通する部材である。前述の閉塞蓋4には、吸気パイプ11を挿入するための挿入口が板厚方向を貫通して設けられており(図示せず)、挿入口における吸気パイプ11との隙間がシール材で埋められている。減圧ポンプ5を運転すると、井戸管3内の空気は吸気パイプ11を通じて吸い出されて外へ放出され、内側空間が減圧される。従って、減圧ポンプ5と吸気パイプ11の組は、井戸管3の内側空間を減圧する減圧部に相当する。
【0029】揚水ポンプ6は、ストレーナー8を通じて井戸管3内に流入した地下水Wを汲み上げる装置である。本実施形態では、出力が3.7kwhのディープウェル用水中ポンプを用いている。図2及び図3に示すように、この揚水ポンプ6は、井戸管3の下端部に、ポンプ収納部7に収納された状態で設置されている。そして、揚水ポンプ6の周面下端部には、水を取り込むための取水口12が設けられている。この取水口12は地下水の吸込口に相当し、側壁部材22の上端22aよりも低い位置に配置されている。」

キ 「【0038】図4(a)に示す揚水前の状態から揚水ポンプ6の運転を開始すると、図4(b)に示すように、井戸管3内の水位WL1は、揚水に伴って低くなる。また、地盤G内の水位WL2も低くなる。この水位WL2は、フィルターFLの位置が最も低く、破線で示すように、この位置から半径方向に遠ざかるにつれて高くなる。」

ク 「【0041】図7は、本願発明における揚水部分の拡大図である。井戸管3内の水位WL1に関し、この水位WL1が側壁部材22の上端22aの高さまで低下すると、図7に示すように、それ以降は収納空間7aの水位面WL1aは下降するが、流入空間3a(井戸管3と側壁部材22の隙間)の水位面WL1bは下降しない。これは、側壁部材22によって、流入空間3aと収納空間7aとが仕切られていることによる。このことは、収納空間7aに溜められたほぼ全量の水が揚水ポンプ6で汲み上げられたとしても同様である。
【0042】また、地盤Gの地下水が井戸管3内に流入してきたとしても、流入空間3aの水位面WL1bは、側壁部材22の上端22aの高さに維持される。これは、流入空間3aに入った地下水は、井戸管3内の負圧により吸い上げられ、側壁部材22を越流して収納空間7aに流れ込み、揚水ポンプ6で汲み上げられるからである。
【0043】そして、地下水Wの吸引時には、流入空間3aの水位面WL1bに、地下水を吸引するための負圧が作用する。この水位面WL1bは高さが維持されるため、地下水Wの吸引力を安定化することができ、ひいては地下水Wの井戸管3内への流入を安定化させることができる。」

ケ 「【0045】すなわち、導水勾配のついた周囲の地下水が井戸管3内に流れ込んでくるため、この地下水が地盤G内の空気の浸入をブロックする。これにより、地下水Wの水位WL2がスリット8aの上端8cに達しても、井戸管3内の流入空間3aには、地盤G内の空気が時折気泡状になって浸入する程度で、多量の空気が連続して入り込むことがないのを、発明者らは実験により確認している。これにより、井戸管3内における急激な圧力変化を抑制でき、減圧状態を維持できる。これにより、地下水Wの井戸管3内への流入を安定的に行うことができる。」

コ 図1は次のものである。


サ 図4は次のものである。


シ 図7は次のものである。


ス 上記アないしシからみて、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「3a 下端部にストレーナー8が設けられた井戸管3を地盤Gに埋設し、ストレーナー8の地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる軟弱地盤の改良工法であって、
3b 井戸管3内の下端部に設置され、ストレーナー8の地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる揚水ポンプ6として、
3c 揚水により井戸管3内の水位WL1を低くすることができる能力のポンプを用いた、井戸管3内の地下水の汲み上げと、
3d 減圧ポンプ5を用いた前記井戸管3の内側空間の空気の吸い出しとを行い、
3e 揚水ポンプ6を用いて地下水を汲み上げる、
3f 軟弱地盤の改良工法。」

(4) 甲第4号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】ケーシング管と、前記ケーシング管の下端に接続されたストレーナ管とが地盤に埋設され、前記ストレーナ管の外周に形成されるフィルタ層から前記ストレーナ管内に流入した地下水を揚水手段により強制的に地上に排出することにより地下水位を低下させる地下水位低下装置であって、
前記ストレーナ管内に、前記ストレーナ管の内壁から所定間隔離間して配置され、前記ストレーナ管の上端より低位置に通水孔が穿設されてなる内筒管を備え、
前記ストレーナ管と前記内筒管との間に隙間が設けられ、
地下水位がストレーナ管の上端よりも下で前記通水孔よりも上に位置する場合に、前記内筒管内への空気の侵入が阻止されるように前記内筒管と前記ケーシング管とが繋がれてなることを特徴とする地下水位低下装置。
・・・
【請求項4】請求項1、請求項2又は請求項3記載の地下水位低下装置を用いた地盤改良工法であって、
地盤中に、一又は複数の前記地下水位低下装置を埋設し、
次いで、前記内筒管内に流入した地下水を前記揚水手段によって地上に排出することを特徴とする地盤改良方法。」

イ 「【0007】本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであって、ストレーナー部の上端部よりも地下水位が下がった場合でも、高い集水性能を有する地下水位低下装置、ストレーナ装置及びこの地下水位低下装置を利用した地盤改良方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【0011】ここで、揚水手段としては、例えば、ディープウエルポンプ、水中ポンプなどを用いる。揚水能力は設計事項であり、設置される地下水位低下装置の大きさや到達深さによって適宜変更可能である。ストレーナ管は、例えば、その外周に所定の間隔で隙間が形成されるように鋼線を巻き、該隙間から地下水を内部に流入させることが出来る管であるが、これに限らず、管の外周部に穴部が形成されたものなどでもよく、砂利などを混入させずに地下水を内部に取り入れることが出来るものであればよい。」

エ 「【0016】請求項4記載の発明によれば、請求項1、請求項2又は請求項3に記載した地下水位低下装置が所定の間隔で地盤内に埋設され、次いで、揚水手段によって内筒管内に流入した地下水が地上に排出されるので、地下水位を確実に低下させることが出来ることとなって、軟弱地盤を圧密化させて堅い地盤に改良することが出来る。・・・ 」

オ 「【0020】図1?4に示した地下水位低下装置1は、地盤Aに埋設されたケーシング管2と、このケーシング管2の下端に設けられたストレーナ管3と、このストレーナ管3の下端に設けられた砂溜まり管4と、前記ストレーナ管3の内側に配置され、前記ケーシング管2に同心レジュサー5を介して設けられた内筒管6と、前記内筒管6の内空間内に設けられ、地下水を地上に汲み上げるための水中ポンプ7(揚水手段)と、該水中ポンプ7に接続され、水中ポンプ7によって汲み上げられた地下水を地上に排水させる排水管8などにより構成されている。また、ストレーナ装置としてのストレーナ部11は、ストレーナ管3と、内筒管6とを備えている。
・・・
【0022】前記内筒管6は、例えば、鋼管等の非透水性のものから出来ていて、図3に示すように、その下端部に前記ストレーナ管3から流入した地下水を内部に取り入れる集水孔6a…が複数設けられている。」

カ 「【0024】なお、前記水中ポンプ7の揚水能力は、設計事項であり、井戸の深さや大きさ、或いは設置場所の地盤の状況等によって適宜変更してよい。」

キ 「【0025】続いて、前記地下水低下装置1により地下水位を低下させる動作説明を図1を用いて説明する。例えば、地下水位が前記ストレーナ管3の上端部よりも低い場合(図1の一点鎖線部)には、ストレーナ管3の一部が地下水位より上に位置する。
【0026】この場合に、地盤からストレーナ管3を介して隙間部aに流入された地下水は、前記集水孔6a…を通って前記内筒管6内の空間に流入することとなる。そして、この状態で前記水中ポンプ7により前記内筒管6内の地下水を吸い上げた場合には、空気が前記内筒管6内に混入することなく、地下水位を前記集水孔6a…の位置まで更に下げることが出来る。従って、効率よく経済的に地下水位を下げることが出来るとともに、より深い地下水位にすることが出来る。また、前記水中ポンプ7による揚水量は、例えば、地上部のゲートバルブ(図示省略)を開閉することにより調整することが出来るようになっている。このことによって、内筒管6近傍の地下水位を急激に下げてしまうことを防止することが出来、地下水位を集水孔6aの上部に維持するよう揚水量を調節することにより、内筒管6内への空気の吸い込みを防止しつつ、効率よく揚水することが出来る。
・・・
【0029】また、図6に示すように、従来の重力排水の場合(一点鎖線)に比べて、本発明の場合(実線)の初期段階での水位低下量が極めて大きく、また、水中ポンプ7の能力によっては、水中ポンプ7位置まで地下水位を低下させることが出来る。即ち、水中ポンプ7により強制的に地下水の排水がなされるので、初期段階での地下水位低下量が大きいことは無論のこと、前記内筒管6によって、地下水位がストレーナ管3の上端部よりも下方に下がった場合でも空気の流入がなく効率よく排水出来て、更に地下水位を下げることが出来る。」

ク 「【0030】[第2の実施の形態]図7は、本発明に係る第2の実施の形態の地下水位低下装置を説明するための地盤の縦断面図である。図7に示す地下水位低下装置50は、地盤Cに埋設されたケーシング管51と、このケーシング管51の下端に接続された真空部52と、この真空部52の下端に接続されたストレーナ管53と、前記ストレーナ管53の下端に接続された砂溜まり管54と、前記ストレーナ管53の内側に配置され、該ストレーナ管53の内空間を仕切る内筒管55と、前記真空部52内に配置され、地下水を汲み上げる水中ポンプ56などにより概略構成されている。
・・・
【0032】前記真空部52は、地上に設置された真空ポンプ60と連通していて、該真空ポンプ60により真空部52内の空気を引き上げ、これによって前記内筒管55内の排水がなされるようになっている。前記ストレーナ管53は、第1の実施の形態と同様のものからなり、地下水を内部に流入させることが出来るようになっている。前記ストレーナ管53と内筒管55の間には、隙間53aが設けられている。
【0033】前記内筒管55の下端には、集水孔55a・・・が設けられ、この集水孔55a・・・ら地下水が内筒管55の内部に流入するようになっている。・・・
【0034】前記水中ポンプ56は、例えば、ポンプ本体とモータ部とが一体化されたものからなり、前記内筒管55内に流入した地下水を排水管60を通して地上に排水することが出来るようになっている。前記排水管61の中途部には、逆流防止バルブ62が設けられていて、地上から地下に地下水が逆流しないようになっている。」

ケ 「【0039】以上説明した第2の実施の形態の地下水位低下装置50によれば、第1の実施の形態の地下水位低下装置1と同様の効果が得られることは無論のこと、特に、ケーシング管51は分割体51aを順次接合したものからなるので、必要に応じて増設すれば、ケーシング管51を最適な長さにすることが出来ることとなって、地下水位の低下を確実に達成することが可能となる。即ち、予め規定された長さのケーシング管51を使用して施工した場合、所望する地下水位低下が得られないといったケースもあり得るが、分割体51aを適宜接続することでケーシング管51の長さを調整出来るので、所望する地下水位が得られるまで長くすることが出来ることとなって、地下水位低下の効果を確実に得ることが出来る。」

コ 「【0045】・・・このとき、地下水位低下装置1のストレーナ管3に設けられた内筒管6によって、地下水位がストレーナ管3の上端部よりも下がったときでも空気が水中ポンプ(図示省略)内に混入して吸い上げ効果を減殺させてしまうことなく排水出来る・・・」

サ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態における地下水位低下装置の要部構成を示した図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態に係る地下水位低下装置を説明するための地盤の断面図である。」

シ 図1は次のものである。


ス 図2は次のものである。


セ 図5は次のものである。


ソ 図6は次のものである。


タ 図7は次のものである。


チ 上記アないしタからみて、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「4a 地盤Cに埋設されたケーシング管51と、このケーシング管51の下端に接続された真空部52と、この真空部52の下端に接続されたストレーナ管53とを有し、
ストレーナ管53の内空間を仕切る鋼管等の非透水性の内筒管55をストレーナ管53の内側にストレーナ管53との間に隙間53aを設けて配置し、
内筒管55の下端には集水孔55aが設けられ、
ストレーナ管53内に地下水が流入し、さらに集水孔55aから内筒管55内部に流入し、内筒管55内に流入した地下水を地上に排水する、
地盤改良方法であって、
4b 内筒管55の内空間内に設けられ、ストレーナ管53から内筒管55内に流入した地下水を排水する水中ポンプ56として、
4c 水中ポンプ56位置まで地盤Cの地下水位を低下させることが出来る能力の水中ポンプ56を用いた地下水の揚水と、
4d 真空部52と連通して地上に設置された真空ポンプ60を用いた真空部52内の空気の引き上げとを行い、
該空気の引き上げによって内筒管55内の排水がなされるようになっており、
4e 水中ポンプ56を用いた地下水の排水によって地盤Cの地下水位を下げ、集水孔55aの上部に維持して揚水する、
4f 地盤改良方法。」


(5) 甲第5号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「(3) 揚水試験の実施
揚水試験のために準備する資器材と取扱い上の手順はつぎのようなる。
a) ポンプ
揚水のためにもちいるポンプは、揚程と計画揚水量から定められる。・・・
b) 計画揚水量
揚水試験では、揚水量を一定にして維持、継続しなければならない。この揚水量(計画揚水量と呼ぶことにする。)を決定するためには、・・・とする方法が、一般に、段階揚水試験として知られている。」(300頁右欄9行から301頁左欄3行)

(6) 甲第6号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。

ア 「(2) 段階揚水試験
段階揚水試験は、・・・限界揚水量(転移揚水量とも言われる)及び適性揚水量(経済揚水量)を求めるものである。・・・予備揚水試験で得られた最大揚水量を5段階以上に等分して行う。測定結果を両対数グラフのX軸に揚水量(Q)、Y軸に水位降下(s)を取り、各段階の数値をプロットする。・・・変曲点を限界揚水量としている。適正揚水量は通常限界揚水量の60%?80%程度である・・・」(40頁7から19行)

(7) 甲第12号証
甲第12号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0004】・・・【特許文献1】特開2000- 27170(特許第3243501号)公報・・・
【0020】ここで、図8に示すように、井戸2(スーパーウェルポイント)は、ケーシング2a、気密蓋2b、ストレーナ2c、土砂ピット2d、揚水ポンプ2e、真空ポンプ2g、配管2h、2i、及び水槽2jを主要構成部材としてなる、井戸2内への真水機能と井戸2外への揚水機能とを独立した真空ポンプ2g及び揚水ポンプ2eで満足させる大容量且つ高揚程型の揚水システムであり、本出願人により提案されたものである(特許文献1参照)。
ここで、図8は地下水面1Cの低下の状態を現し、図面内の矢印は地下水及び空気の流れ方向を示している。且つ、同図の井戸2の下部において負圧が伝播している状態となる。
また、図2においては、図8に記載の地上設備を省略して記載している。」

イ 図8は次のものである。


ウ 図8から、井戸2(スーパーウェルポイント)において、揚水ポンプ2eが位置するケーシング2a内の水位が、ケーシング2a外の地下水面1cより高い位置にあることが看て取れる。

2 無効理由1について
(1) 無効理由1において明確性要件違反とされる記載
上記第4の3(1)に記載したように、請求人は、構成Cにおける「井戸の吸水能力」の定義が不明であるため本件訂正発明は不明確であるとして、明確性要件違反を主張している。

(2) 明確か否かについて
本件特許明細書の段落【0013】及び【0014】には、
「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。すなわち、井戸1の吸水量がQ1=1.0m^(3)/minならば、ポンプは揚水能力の大きいQ2=2.0m^(3)/minのポンプを用いる。これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」
と記載されており、この記載を参酌すると、構成Cにおける「井戸の吸水能力」とは、井戸に入り込む湧水量(吸水量)を指すものと解することができる。
以上のように構成Cは明確である。

(3) 請求人の主張について
請求人は、上記第4の3(1)アに記載したように、構成Cの「井戸の吸水能力」とは井戸に入り込む湧水量(吸水量)を意味するとした場合、変動する値であるので、一意的に決めることができない旨を主張している。
しかしながら、本件訂正発明の構成Cの記載は「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」を行うというものであり、すなわち、「井戸内の水の揚水」において、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことが記載されているのであって、井戸の吸水能力を一意的に決める必要性は必ずしもない。
つまり、上記(2)で摘記した本件特許明細書の記載を参酌すれば、構成Cでポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいということは、ポンプの揚水能力(Q2)が揚水中井戸に入り込む湧水量(吸水量)(Q1)より大きい、Q1<Q2が成り立つ関係を指すと解することができ、そしてQ1はある変動幅をもつ値だとしても、Q1<Q2すなわちその変動幅をもつQ1よりさらに大きいQ2を設定することは可能である。
このように、井戸に入り込む湧水量(吸水量)が変動するとしても構成Cの記載は不明確ではない。

また請求人は、上記第4の3(1)イに記載したように、井戸に入り込む湧水量(吸水量)の変動に関する被請求人の主張に対する反論の一つとして、水位を「吸水口まで低下させた直後の時点が最大の湧水量になるとは考え難い」との主張も行っているが、本件訂正発明は構成Cを特定するものであり、最大の湧水量になる時点を特定する必要性はなく、最大の湧水量になる時点が水位を吸水口まで低下させた直後の時点ではなかったとしても、そのことにより本件訂正発明の記載が不明確になる理由とはならない。

よって、請求人の主張は採用できない。

(4) 小括
以上のとおり、申立人が主張する無効理由1によっては、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

3 無効理由2について
(1) 対比
本件訂正発明と甲4発明とを対比する。

ア 甲4発明の「地盤C」は本件訂正発明の「地盤」に相当し、甲4発明の「地盤改良方法」は本件訂正発明の「地盤の改良工法」に相当する。
また、甲4発明において「ケーシング管51」を「地盤Cに埋設」し「地下水を揚水」している構造は、本件訂正発明の「井戸」に相当する。
さらに、甲4発明の「ストレーナ管53」は本件訂正発明の「ストレーナ」に相当し、甲4発明の「水中ポンプ56」は本件訂正発明の「揚水ポンプ」に相当する。

イ 本件訂正発明の構成A(及びB)における「地中の水と空気を吸引する」という点について、本件特許明細書の段落【0012】の「そして、ストレーナ2を介して井戸1に吸引された水とその中の気泡は、揚水ポンプ3により吸引されて、内管4を通り、地上の揚水管5に揚水されて、図示しない貯水槽等に排出される。」という記載を参酌すれば、「水と空気」とは「水とその中の気泡」と解される。
そして、甲4発明においても地下水を吸引すれば地下水のみならずその中の気泡も吸引されることは明らかである(なお、上記第4の3(2)イ(イ)で記載した請求人主張でも、「・・・地下水とともに吸引し得る不可避的な空気の存在を考慮した構成であると解される・・・」と述べられている。)。よって、甲4発明の構成4aの「地盤Cに埋設されたケーシング管51と、このケーシング管51の下端に接続された真空部52と、この真空部52の下端に接続されたストレーナ管53とを有し、ストレーナ管53の内空間を仕切る鋼管等の非透水性の内筒管55をストレーナ管53の内側にストレーナ管53との間に隙間53aを設けて配置し、内筒管55の下端には集水孔55aが設けられ、ストレーナ管53内に地下水が流入し、さらに集水孔55aから内筒管55内部に流入し、内筒管55内に流入した地下水を地上に排水する、地盤改良方法」は、本件訂正発明の構成Aの「地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法」に相当する。

ウ 甲4発明の構成4aにおいて「内筒管55」は、「ケーシング管51」の下端に接続された「真空部52」のさらに下端に接続された「ストレーナ管53」の内空間を仕切る位置にあるから、甲4発明の構成4bにおいて「水中ポンプ56」が「内筒管55の内空間内に設けられ」ることは、本件訂正発明の構成Bにおいて「揚水ポンプ」が「井戸の下部に配置され」ることに相当する。
また同じく甲4発明の構成4bにおいて「水中ポンプ56」が「ストレーナ管53から内筒管55内に流入した地下水を地上に排水する」ことは、本件訂正発明の構成Bにおいて「揚水ポンプ」が「前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する」ことに相当する。
以上より、甲4発明の構成4bの「内筒管55の内空間内に設けられ、ストレーナ管53から内筒管55内に流入した地下水を地上に排水する水中ポンプ56」は、本件訂正発明の構成Bの「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプ」に相当する。

エ 甲4発明の構成4cの「水中ポンプ56位置まで地盤Cの地下水位を低下させることが出来る能力の水中ポンプ56を用いた地下水の揚水」と、本件訂正発明の構成Cの「前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」とは、「一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」という点で共通する。

オ 甲4発明の構成4dの「真空部52と連通して地上に設置された真空ポンプ60を用いた真空部52内の空気の引き上げとを行い、該空気の引き上げによって内筒管55内の排水がなされるようになって」いることは、本件訂正発明の構成Dの「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出」に相当する。

カ 甲4発明の構成4eの「水中ポンプ56を用いた地下水の排水によって地盤Cの地下水位を下げ、集水孔55aの上部に維持して揚水する」ことと、本件訂正発明の構成Eの「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」こととは、「前記揚水ポンプを用いた揚水によって、地下水を揚水する」という点で共通する。

キ 前記アないしカから、本件訂正発明と甲4発明とは、次の一致点で一致し、相違点Aで相違する。

[一致点]
「A 地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
B 前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、
C’ 一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、
D バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
E’ 前記揚水ポンプを用いた揚水によって、地下水を揚水する、
F 地盤の改良工法。」

[相違点A] ポンプの揚水能力及び井戸内の水位制御について、本件訂正発明は、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」(構成C)によって「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)のに対し、甲4発明は「水中ポンプ56位置まで地盤Cの地下水位を低下させることが出来る能力の水中ポンプ56」(構成4c)「を用いた地下水の排水によって地盤Cの地下水位を下げ、集水孔55aの上部に維持して揚水する」(構成4e)ものであり、本件訂正発明の上記構成を有していない点。

(2) 判断
本件訂正発明の構成Eの「井戸内の水位」とは、構成Eの文言のとおり、揚水ポンプ(の吸水口)に対する「井戸内の水位」であるから、甲第4号証においては水中ポンプ(の吸水口)が設けられる内筒管の内空間(以下「内筒管内」という。)の水位がこれに相当する。
しかしながら、内筒管内の水位について、甲第4号証には、明示的な記載はなく、甲第4号証の明細書には、内筒管内の水位に関連して「地下水位」という記載があるのみである。この「地下水位」について、上記1(4)エで摘記した「【0016】請求項4記載の発明によれば、請求項1、請求項2又は請求項3に記載した地下水位低下装置が所定の間隔で地盤内に埋設され、次いで、揚水手段によって内筒管内に流入した地下水が地上に排出されるので、地下水位を確実に低下させることが出来ることとなって、軟弱地盤を圧密化させて堅い地盤に改良することが出来る。・・・ 」という記載、及び、上記1(4)キで摘記した「【0029】・・・即ち、水中ポンプ7により強制的に地下水の排水がなされるので、初期段階での地下水位低下量が大きいことは無論のこと、前記内筒管6によって、地下水位がストレーナ管3の上端部よりも下方に下がった場合でも空気の流入がなく効率よく排水出来て、更に地下水位を下げることが出来る。」という記載をみても、「地下水位」は、内筒管外の地盤の水位を指すものとしか解されず、さらに、「地下水位」と内筒管内の水位との関連についての記載はない。
次に甲第4号証の図面には、水位に関連して、上記1(4)シ、スのとおり図1、2に「地下水面」という記載がある。この「地下水面」は図1中では一点鎖線で示され、そして上記1(4)キで摘記した甲第4号証の明細書の記載「【0025】・・・地下水位が前記ストレーナ管3の上端部よりも低い場合(図1の一点鎖線部)・・・」において図1の一点鎖線は「地下水位」を指す旨が説明されていることから、「地下水面」とは明細書でいう「地下水位」を指すものと解される。そして図1では、該一点鎖線は地盤側からストレーナ管壁を通り内筒管壁まで引かれ、そこで途切れて内筒管内には及んでいない。すなわち図1の「地下水面」は、明細書における「地下水位」の記載と同様、内筒管外の水位を示すものである。
一方、図2においては、内筒管外の「地下水面」が内筒管壁に接する高さと同じ高さにおいて、内筒管内に横に直線が引かれているように見える。しかし、上記1(4)サに摘記したとおり、図1は「本発明に係る第1の実施の形態における地下水位低下装置の要部構成を示した図」で、図2は「本発明に係る第1の実施の形態に係る地下水位低下装置を説明するための地盤の断面図」であり、すなわち図1は図2と同じ「本発明に係る第1の実施の形態」について、要部構成を示す図である。よって、図1の「地下水面」は図2と同じ「第1の実施の形態」の「地下水面」を示すものであり、そして図2より要部を示す図1において「地下水面」が内筒管壁で途切れ、内筒管内には及ばない図が示されているところ、図2の上記の内筒管内に横に引かれた直線が内筒管内の水位を示すとは必ずしも看て取れない。さらに、図1、2の「第1の実施の形態」が、真空ポンプを用いた空気の引き上げによって内筒管内の排水がなされるようになっているものかどうか、甲第4号証には明記されていない。
加えて、井戸内の空気をバキュームすると井戸内に流入した地下水がその負圧により吸い上げられることは甲第3号証(上記1(3)クに摘記したように、流入した地下水が井戸管3内の負圧により吸い上げられることが記載されている。)に記載されているように出願時の技術常識であり、スーパーウェルポイントの内筒管内外の水位が異なり得ることも甲第12号証(上記1(7)のとおり、図8に、井戸2(スーパーウェルポイント)において、揚水ポンプ2eが位置するケーシング2a内の水位が、ケーシング2a外の地下水面1cより高い位置にある状態が図示されている。)に記載されているように出願時の技術常識であるので、甲第4号証の内筒管外の水位についての記載から、内筒管内の水位を直ちに導くこともできない。
以上のように、甲第4号証の明細書及び図面には内筒管内の水位について記載がされているとは認められず、さらに該水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することも記載も示唆もされていないから、甲第4号証に相違点Aに係る本件訂正発明の構成Eが記載されているとは認められない。
よって、その余の点について検討するまでもなく、上記(1)のとおり本件訂正発明は相違点Aにおいて甲第4号証記載の発明と相違するので、甲第4号証に記載された発明ではない。

(3) 請求人の主張について
ア 井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させることに関して
(ア) 上記第4の3(2)イ(エ)a、bに記載したように、請求人は、甲第4号証のとくに図2より、甲第4号証に、水中ポンプ位置まで井戸内の水位を低下させた態様が記載されているといえる旨主張している。
しかしながら、上記(2)で検討したように、甲第4号証に、水中ポンプ位置まで井戸内の水位を低下させた態様が記載されているとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(イ) 上記第4の3(2)イ(エ)aに記載したように、請求人は、「甲第4号証の【図2】におけるストレーナ管3の内部は、井戸を構成するものとすることができるので、ストレーナ管3内の水位は、井戸内の水位ということもできる。」と主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたように、本件訂正発明の構成Eの「井戸内の水位」とは揚水ポンプ(の吸水口)に対する「井戸内の水位」であるから、甲第4号証においては水中ポンプ(の吸水口)が設けられる内筒管内の水位がこれに相当すると解される。また、上記(2)で述べた技術常識に照らせば、内筒管内の水位は、同じストレーナ管の内にあっても、内筒管外の水位(ストレーナ管と内筒管間の隙間の水位)とは異なり得るものであるから、甲第4号証におけるストレーナ管内の水位が、内筒管内の水位と合致するとまではいえないし、本件訂正発明の構成Eの井戸内の水位に相当するともいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ウ) また、上記第4の3(2)イ(エ)aに記載したように、請求人は、甲第3号証の段落【0006】段落の記載を引用し、
「そのため、甲第4号証の地下水低下装置は、排水ポンプを一旦停止させる前において、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がる態様まで排水ポンプを稼働させて地下水を揚水する態様を許容していると言える。
よって、甲第4号証には、地下水位のみならず、井戸内の水位を揚水ポンプの位置まで低下させ、更に揚水ポンプを一旦停止させる前に揚水ポンプの吸水口まで低下させる態様が記載されているに等しく、訂正発明の構成Eは、甲第4号証に記載されているに等しい事項である。」
と主張している。
この主張について検討すると、まずそもそも甲第3号証は甲第4号証とは別の刊行物である上、請求人が引用する甲第3号証の段落【0006】の記載をみても、井戸管内の水位が変動することと、その例示として「例えば、排水ポンプが盛んに排水している間は水位が下がり、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がって排水ポンプを一旦停止させると、井戸管内に地下水が流入して水位が上がる。」ということが記載されているにとどまり、甲第4号証において本件訂正発明の構成Eの「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」という方法が採用されているとの記載はない。
よって、請求人の主張は採用できない。

イ ポンプの揚水能力に関して
上記第4の3(2)イ(ウ)bに記載したように、請求人は、「井戸外の地下水位が低下している状態全体では、ポンプの揚水量は、井戸の外部から井戸内への吸水量より大きいことは明らかである。よって、ポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいことは、井戸外の地下水位の低下のための条件の1つであることは明らかである。」という旨を主張している。
しかしながら、本件訂正発明は単にポンプの揚水能力が井戸の吸水能力より大きいという発明ではなく、そのようなポンプを用いた揚水によって井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水する地盤の改良工法という方法の発明である。
仮に請求人の主張のとおり甲第4号証記載の水中ポンプが井戸の吸水能力より大きい揚水能力を持つとしても、そのことで、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することが定まるものではないから、依然本件訂正発明は相違点Aにおいて甲第4号証記載の発明と相違する。

(4) 小括
以上のとおり、申立人が主張する取消理由2によっては、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

4 無効理由3について
(1) 甲第1号証を主引用例として
ア 対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。

(ア) 甲1発明の「地盤G」は本件訂正発明の「地盤」に相当し、甲1発明の「地盤の改良工法」は本件訂正発明の「地盤の改良工法」に相当する。
また、甲1発明において「地盤Gの縦方向に掘削した井戸穴1に井戸管2を挿入」し「地下水を吸引」している構造は、本件訂正発明の「井戸」に相当する。
さらに、甲1発明の「ストレーナー13」は本件訂正発明の「ストレーナ」に相当し、甲1発明の「水中ポンプ12」は本件訂正発明の「揚水ポンプ」に相当する。

(イ) 本件訂正発明の構成A(及びB)における「地中の水と空気を吸引する」という点について上記3(1)イで検討したとおりであるから、甲1発明の構成1aの「地盤Gの縦方向に掘削した井戸穴1に井戸管2を挿入し、井戸管2の下端位置に設けられたストレーナー13から井戸管2内に流入した地下水を吸引する、スーパーウエルポイント工法を用いた地盤の改良工法」は、本件訂正発明の構成Aの「地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法」に相当する。

(ウ) 甲1発明の構成1bにおいて「水中ポンプ12」が「井戸管2に取り付けられた揚水管11の下端に設けられ」ているということは、本件訂正発明の構成Bの「揚水ポンプ」が「井戸の下部に配置される」ことに相当する。
また同じく甲1発明の構成1bにおいて「水中ポンプ12」が「ストレーナー13から井戸管2内に流入する地下水を吸引する」ことは、本件訂正発明の構成Bにおいて「揚水ポンプ」が「前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する」ことに相当する。
以上より、甲1発明の構成1bの「井戸管2に取り付けられた揚水管11の下端に設けられ、ストレーナー13から井戸管2内に流入する地下水を吸引する揚水用の水中ポンプ12」は、本件訂正発明の構成Bの「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプ」に相当する。

(エ) 甲1発明の構成1cの「十分な揚水能力を有し、地下水位を低下させることができる水中ポンプ12を用いた地下水の揚水」と、本件訂正発明の構成Cの「前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」とは、「一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」という点で共通する。

(オ) 甲1発明の構成1dの「バキュームポンプ16を用いた井戸管2の空気の吸引」は、本件訂正発明の構成Dの「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出」に相当する。

(カ) 甲1発明の構成1eの「井戸管2内に吊り下げた2本の水位センサー4で井戸内の水位を2つの水位間にコントロールして、水中ポンプ12を用いて地下水を揚水する」ことと、本件訂正発明の構成Eの「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」こととは、「前記揚水ポンプを用いた揚水によって、前記井戸内の水位をコントロールして、地下水を揚水する」という点で共通する。

(キ) 前記(ア)ないし(カ)から、本件訂正発明と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。

[一致点]
「A 地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
B 前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、
C’ 一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、
D バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
E’ 前記揚水ポンプを用いた揚水によって、前記井戸内の水位をコントロールして、地下水を揚水する、
F 地盤の改良工法。」

[相違点1]
ポンプの揚水能力及び井戸内の水位制御について、本件訂正発明は、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」(構成C)によって「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)のに対し、甲1発明は「十分な揚水能力を有し、地下水位を低下させることができる水中ポンプ12を用いた地下水の揚水」(構成1c)を行い、「井戸管2内に吊り下げた2本の水位センサー4で井戸内の水位を2つの水位間にコントロールして、水中ポンプ12を用いて地下水を揚水する」(構成1e)ものであり、本件訂正発明の上記構成を有していない点。

イ 判断
甲第1号証には、「井戸内の水位」を「揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは記載されていない。また上記1(1)ケに記載した甲第1号証の図1で図示される水中ポンプ12と2本の水位センサー4の位置関係から見て、2本の水位センサー4は水中ポンプ12より上に配置するものであり、すなわち井戸内の水位を水中ポンプ12より上として揚水することを前提としていることから、甲第1号証の記載からは「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは導き出せず、当業者が適宜なし得る事項ともいえない。
さらに甲第2ないし第6号証をみても、相違点1に係る本件訂正発明の上記構成の記載あるいは示唆はない。
よって、相違点1に係る本件訂正発明の構成は、当業者が容易に想到できることではない。
そして、本件訂正発明は、相違点1に係る構成を備えることにより、本件特許明細書記載の「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」との効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、当業者が甲第1号証に記載の発明及び甲第2ないし6号証に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(2) 甲第2号証を主引用例として
ア 対比
本件訂正発明と甲2発明とを対比する。

(ア) 甲2発明の「粘性土地盤1」は本件訂正発明の「地盤」に相当し、甲2発明の「粘性土地盤の改良工法」は本件訂正発明の「地盤の改良工法」に相当する。
また、甲2発明において「ストレーナ管30」を「粘性土地盤1に埋設」し「地下水を揚水」している構造は、本件訂正発明の「井戸」に相当する。
さらに、甲2発明の「ストレーナ部31」は本件訂正発明の「ストレーナ」に相当し、甲2発明の「排水ポンプ41」は本件訂正発明の「揚水ポンプ」に相当する。

(イ) 本件訂正発明の構成A(及びB)における「地中の水と空気を吸引する」という点について上記3(1)イで検討したとおりであるから、甲2発明の構成2aの「下端に透水性のストレーナ部31を有するストレーナ管30を粘性土地盤1に埋設し、ストレーナ部31に浸透した地下水を揚水する粘性土地盤の改良工法」は、本件訂正発明の構成Aの「地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法」に相当する。

(ウ) 甲2発明の構成2bにおいて「排水ポンプ41」が「ストレーナ管30の内部に挿入された排水管40の下端に配置され」ているということは、本件訂正発明の構成Bの「揚水ポンプ」が「井戸の下部に配置される」ことに相当する。
また同じく甲2発明の構成2bにおいて「排水ポンプ41」が「ストレーナ部31から浸透した地下水を排水する」ことは、本件訂正発明の構成Bにおいて「揚水ポンプ」が「前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する」ことに相当する。
以上より、甲2発明の構成2bの「ストレーナ管30の内部に挿入された排水管40の下端に配置され、ストレーナ部31から浸透した地下水を排水する排水ポンプ41」は、本件訂正発明の構成Bの「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプ」に相当する。

(エ) 甲2発明の構成2cの「ストレーナ部31から浸透する地下水の量よりも排水される水量のほうが多くなる能力のポンプを用いた、ストレーナ管30内の地下水の揚水」と、本件訂正発明の構成Cの「前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」とは、「一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」という点で共通する。

(オ) 甲2発明の構成2dの「真空ポンプ33を用いたストレーナ管30内の空気の排気」は、本件訂正発明の構成Dの「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出」に相当する。

(カ) 甲2発明の構成2eの「ストレーナ管30内には、下部水位計34が排水ポンプ41よりも上方に設けられるとともに、上部水位計35が下部水位計34の上方に設けられ、排水ポンプ41はストレーナ管30内の水位が上部水位計35よりも上昇したときに駆動開始され、下部水位計34よりも下降したときに駆動停止される」ことと、本件訂正発明の構成Eの「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」こととは、「前記揚水ポンプを用いた揚水によって、前記井戸内の水位をコントロールして、地下水を揚水する」という点で共通する。

(キ) 前記(ア)ないし(カ)から、本件訂正発明と甲2発明とは、次の一致点で一致し、相違点2で相違する。

[一致点]
「A 地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
B 前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、
C’ 一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、
D バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
E’ 前記揚水ポンプを用いた揚水によって、前記井戸内の水位をコントロールして、地下水を揚水する、
F 地盤の改良工法。」

[相違点2]
ポンプの揚水能力及び井戸内の水位制御について、本件訂正発明は、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」(構成C)によって「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)のに対し、甲2発明は「ストレーナ部31から浸透する地下水の量よりも排水される水量のほうが多くなる能力のポンプを用いた、ストレーナ管30内の地下水の揚水」(構成2c)を行い、「ストレーナ管30内には、下部水位計34が排水ポンプ41よりも上方に設けられるとともに、上部水位計35が下部水位計34の上方に設けられ、排水ポンプ41はストレーナ管30内の水位が上部水位計35よりも上昇したときに駆動開始され、下部水位計34よりも下降したときに駆動停止される」(構成2e)ものであり、本件訂正発明の上記構成を有していない点。

イ 判断
甲2発明は「下部水位計34が排水ポンプ41よりも上方に設けられるとともに、上部水位計35が下部水位計34の上方に設けられ、排水ポンプ41はストレーナ管30内の水位が上部水位計35よりも上昇したときに駆動開始され、下部水位計34よりも下降したときに駆動停止される」(構成2e)ものであるから、ストレーナ管30内の水位を排水ポンプ41より上として揚水することが前提とされており、甲第2号証にはストレーナ管30内の水位を排水ポンプ41の吸水口まで低下させた状態で揚水することの記載あるいは示唆はない。よって、甲第2号証の記載からは「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは導き出せず、当業者が適宜なし得る事項ともいえない。

さらに甲第1、3、4、5及び6号証をみても、相違点2に係る本件訂正発明の上記構成の記載あるいは示唆はない。
よって、相違点2に係る本件訂正発明の構成は、当業者が容易に想到できることではない。
そして、本件訂正発明は、相違点2に係る構成を備えることにより、本件特許明細書記載の「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」との効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、当業者が甲第2号証に記載の発明及び甲第1、3、4、5及び6号証に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3) 甲第3号証を主引用例として
ア 対比
本件訂正発明と甲3発明とを対比する。

(ア) 甲3発明の「地盤G」は本件訂正発明の「地盤」に相当し、甲3発明の「軟弱地盤の改良工法」は本件訂正発明の「地盤の改良工法」に相当する。
また、甲3発明において「井戸管3を地盤Gに埋設」し「地下水を汲み上げる」構造は、本件訂正発明の「井戸」に相当する
さらに、甲3発明の「ストレーナー8」は本件訂正発明の「ストレーナ」に相当し、甲3発明の「揚水ポンプ6」は本件訂正発明の「揚水ポンプ」に相当する。

(イ) 本件訂正発明の構成A(及びB)における「地中の水と空気を吸引する」という点について上記3(1)イで検討したとおりであるから、甲3発明の構成3aの「下端部にストレーナー8が設けられた井戸管3を地盤Gに埋設し、ストレーナー8の地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる軟弱地盤の改良工法」は、本件訂正発明の構成Aの「地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法」に相当する。

(ウ) 甲3発明の構成3bにおいて「揚水ポンプ6」が「井戸管3内の下端部に設置され」ているということは、本件訂正発明の構成Bの「揚水ポンプ」が「井戸の下部に配置される」ことに相当する。
また同じく甲3発明の構成3bにおいて「揚水ポンプ6」が「ストレーナー8の地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる」ことは、本件訂正発明の構成Bにおいて「揚水ポンプ」が「前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する」ことに相当する。
以上より、甲3発明の構成3bの「井戸管3内の下端部に設置され、ストレーナー8の地下水流入部から流入した地下水を汲み上げる揚水ポンプ6」は、本件訂正発明の構成Bの「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプ」に相当する。

(エ) 甲3発明の構成3cの「揚水により井戸管3内の水位WL1を低くすることができる能力のポンプを用いた、井戸管3内の地下水の汲み上げ」と、本件訂正発明の構成Cの「前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」とは、「一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水」という点で共通する。

(オ) 甲3発明の構成3dの「減圧ポンプ5を用いた前記井戸管3の内側空間の空気の吸い出し」は、本件訂正発明の構成Dの「バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出」に相当する。

(カ) 甲3発明の構成3eの「揚水ポンプ6を用いて地下水を汲み上げる」ことと、本件訂正発明の構成Eの「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」こととは、「前記揚水ポンプを用いた揚水によって、地下水を揚水する」という点で共通する。

(キ) 前記(ア)ないし(カ)から、本件訂正発明と甲3発明とは、次の一致点で一致し、相違点3で相違する。

[一致点]
「A 地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
B 前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、
C’ 一定以上の揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、
D バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
E’ 前記揚水ポンプを用いた揚水によって、地下水を揚水する、
F 地盤の改良工法。」

[相違点3]
ポンプの揚水能力及び井戸内の水位制御について、本件訂正発明は、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」(構成C)によって「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)のに対し、甲3発明は「揚水により井戸管3内の水位WL1を低くすることができる能力のポンプを用いた、井戸管3内の地下水の汲み上げ」(構成3c)を行い、「揚水ポンプ6を用いて地下水を汲み上げる」(構成3e)ものであり、本件訂正発明の上記構成を有していない点。

イ 判断
甲第3号証には、「井戸内の水位」を「揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは記載されていない。甲3発明は「揚水により井戸管3内の水位WL1を低くすることができる能力のポンプを用いた、井戸管3内の地下水の汲み上げ」(構成3c)を行うものではあるが、上記1(3)シに記載した甲第3号証の図7で図示される井戸内の水位(側壁部材22内の水位)と揚水ポンプ6の位置関係から見て、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させるものではなく、井戸内の水位を揚水ポンプ6より上として揚水することを前提としていることから、甲第3号証の記載からは「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは導き出せず、当業者が適宜なし得る事項ともいえない。
さらに甲第1、2、4、5及び6号証をみても、相違点3に係る本件訂正発明の上記構成の記載あるいは示唆はない。
よって、相違点3に係る本件訂正発明の構成は、当業者が容易に想到できることではない。
そして、本件訂正発明は、相違点3に係る構成を備えることにより、本件特許明細書記載の「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」との効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、当業者が甲第3号証に記載の発明及び甲第1、2、4、5及び6号証に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(4) 甲第4号証を主引用例として
ア 対比
上記3(1)キのとおり、本件訂正発明と甲4発明とは相違点Aで相違する。

イ 判断
上記3で説示したとおり、甲第4号証には、本件訂正発明の「井戸内の水位」に相当する内筒管内の水位について記載されておらず、また甲第3号証段落【0006】の記載を参照しても、甲第4号証の記載からは「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことは導き出せず、当業者が適宜なし得る事項ともいえない。
さらに甲第1、2、3、5及び6号証をみても、相違点Aに係る本件訂正発明の上記構成の記載あるいは示唆はない。
よって、相違点Aに係る本件訂正発明の構成は、当業者が容易に想到できることではない。
そして、本件訂正発明は、相違点Aに係る構成を備えることにより、本件特許明細書記載の「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」との効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、当業者が甲第4号証に記載の発明及び甲第1、2、3、5及び6号証に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(5) 請求人の主張について
ア 井戸内の水位を吸水口まで低下させた状態で揚水することの技術的意義に関して
上記第4の3(3)エ(ア)、(ウ)に記載したように、請求人は、井戸内の水位は当業者が当然に考慮せざるを得ない事項であり、そして井戸内の水位を吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することは、揚水ポンプの揚水能力の低下のリスク(具体的には、揚水ポンプの吸水口から水のみならず井戸内の空気も吸引され、揚水ポンプの揚水能力の低下を起こすリスク)を伴う行為であり、また特に甲第4号証においては井戸内の水位を揚水ポンプの位置まで低下させる態様(図2)が記載されているため、技術的意義があるとは解されない旨を主張している。
この主張について検討する。
まず、上記(1)ないし(4)でも述べたように、本件訂正発明は、「井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた井戸内の水の揚水」(構成C)によって「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)ことにより、本件特許明細書記載の「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」との効果を奏するものであり、技術的に見てその意味していることは理解できるから、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することに技術的意義がないということはできない。

また、揚水ポンプの揚水能力の低下を起こすリスクがあるという点については、井戸内の空気が揚水ポンプに混入すると揚水能力が低下することは甲第4号証(上記1(4)コに摘記したように、空気が水中ポンプ内に混入すると吸い上げ効果を減殺させてしまうことが記載されている。)に記載されているように出願時に技術常識であり、上記リスクを回避するために、揚水ポンプの吸水口から井戸内の空気も吸引するような状態とならないよう制御して揚水することが技術的に可能であることは明らかであるから(後記5を参照。)、本件訂正発明が技術的な欠陥を有することにも課題を解決できないことにもならず、本件訂正発明に技術的意義がないとはいえるものではない。
また、甲第4号証に井戸内の水位を揚水ポンプの位置まで低下させる態様が記載されているとも主張しているが、上記3(2)で検討したように、甲第4号証にそのような態様が記載されているとは認められず、「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことについては何ら記載されていない。
よって、請求人の主張は採用できない。

イ 当業者が井戸内の水位の設定を当然に考慮することについて
上記第4の3(3)エ(ア)、(ウ)に記載したように、請求人は、井戸内の水位をどこに設定するかは当業者が当然に考慮せざるを得ない事項であり、「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」(構成E)ことは設計事項である旨を主張している。
しかしながら、請求人の主張のとおり、井戸内の水位をどこに設定するかは当業者が当然に考慮する事項であるとしても、構成Eは甲第5号証及び甲第6号証にも、またその他の甲号証にも記載されておらず、井戸内の水位の設定を考慮するからといって該水位を「揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」ことまで当業者が適宜なし得る設計事項とはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

ウ ポンプの揚水能力に関して
上記第4の3(3)ウに記載したように、請求人は、井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプは当業者が容易に想到し得るものである旨を主張している。
しかし、上記3(3)イでも述べたように、本件訂正発明は単にポンプが揚水能力が井戸の吸水能力より大きいという発明ではなく、そのようなポンプを用いた揚水によって井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水する地盤の改良工法という方法の発明である。
仮に請求人の主張のとおり井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプが当業者が容易に想到し得るものであったとしても、そのような物を用いて井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水するという方法は甲第1ないし第6号証には記載されておらず、やはり本件訂正発明は当業者が甲第1ないし第6号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

出願経過と「揚水ポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行う」点に関して
上記第4の3(3)オに記載したように、請求人は、「出願経過を参酌すると、本件特許の特許性は、「前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた」ことではなく、「揚水ポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行う」ことにあると判断されていたことは明らかである。」、そしてこの点は、甲第1号証?甲第4号証に明確に開示されていると主張している。
しかしながら、上記出願経過の状況は、上記(1)ないし(4)で説示した、相違点1ないし3、及びAに係る本件訂正発明の構成の容易想到性の判断に影響を何ら与えるものではなく、請求人の主張する「揚水ポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行う」点が甲各号証に開示されているかどうかにかかわらず、本件訂正発明は甲第1ないし第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 作用・効果に関して
上記第4の3(3)エ(イ)及びカに記載したように、請求人は、井戸内水位がポンプ吸水口まで低下していることは負圧伝播が生じる条件ではなく、「負圧伝播による揚水のためには、ポンプの吸水口付近の圧力が負圧となることを要する」ことは本件明細書に記載も示唆もなされておらず、「ポンプの吸水口付近を負圧とすることができ、負圧伝播による地下水の揚水を行うことが可能となる。」ことは、本件訂正発明の作用・効果であるとは認められない旨を主張している。
しかしながら、本件訂正発明は、本件特許明細書に記載の、
「【0013】ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。・・・これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。」
という作用効果を有するものであって、請求人が主張する上記作用効果の有無によって進歩性の判断が影響を受けるものではない。

(6) 小括
以上のとおり、申立人が主張する無効理由3によっては、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。

5 無効理由4について
(1) 無効理由4において実施可能要件違反とされる構成
上記第4の3(4)に記載したように、請求人は、本件訂正により本件訂正発明に追加された右下線部「前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水すること」(構成E)について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとして、実施可能要件違反を主張している。

(2) 実施可能か否かについて
井戸下部に配置した揚水ポンプを用いて地下水を揚水する地盤改良工法の技術分野においては、井戸内の水位を調節維持することは常とう手段であって、例えば、甲第1号証(上記1(1)エ、キ等に摘記したように、井戸内に2本の水位センサー4、4を設け、井戸内の水位を両水位センサー間にコントロールして揚水する技術が記載されている。)及び甲第2号証(上記1(2)ア、オに摘記したように、井戸内に下部水位計34及び上部水位計35の2つの水位計を設け、井戸内の水位を両水位計間に制御して揚水する技術が記載されている。)にも示されているように、水位センサーあるいは水位計を用いて水位を調節維持することは出願時の技術常識であるから、このような技術を用いれば、「井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水すること」は、実施可能であると解される。また、周知の間隙水圧計や流量計を用いることも、当業者にとって自明である。
よって、本件特許明細書及び図面の記載並びに上記技術常識に基づけば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤等をする必要なく、構成Eの井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することは実施可能といえる。
以上のように、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

(3) 請求人の主張について
ア 請求人は、上記第4の3(4)ア(ア)に記載したように、「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」と、揚水ポンプの吸水口から井戸内の水位より上の空間にある空気も吸引され、結果揚水ポンプの揚水能力が著しく低下すると主張している。
しかしながら、空気が揚水ポンプに混入すると揚水能力が低下することは甲第4号証(上記1(4)コに摘記したように、空気が水中ポンプ内に混入すると吸い上げ効果を減殺させてしまうことが記載されている。)に記載されているように出願時に技術常識であるから、この技術常識に照らせば、「井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水する」に際し、揚水ポンプの吸水口から空気が吸引されないよう水位を調節維持することは意図されていると解することが相当である。

イ また、請求人は、上記第4の3(4)ア(イ)に記載したように、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態の維持が困難であり、また、甲第3号証に「【0006】排水ポンプの稼働に応じて井戸管内の水位が変動する。例えば、排水ポンプが盛んに排水している間は水位が下がり、排水ポンプの吸入口よりも水位が下がって排水ポンプを一旦停止させると、井戸管内に地下水が流入して水位が上がる。特許文献1の装置で、内筒管203内の水位を一定の高さに保つようにバランスを取ることは、非常に困難である。このため、水位面204に作用する負圧を安定的な大きさで周辺地下水に及ぼすことができず、地下水の井戸管内への流入量が不安定になるという問題があった。」と記載されていると主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたように、水位センサーあるいは水位計等を用いて水位を調節維持することは出願時の技術常識であり、このような技術を用いれば、井戸内の水位を揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で地下水を揚水することは実施可能である。

ウ さらに請求人は、上記第4の3(4)イに記載したように、被請求人が例示した水位を保つ手法(水位計、水位センサー、間隙水圧計、および、流量計)に対し、どのようにすれば実施できるのか不明である旨を主張している。
しかしながら、上記(2)で述べたように、水位センサーあるいは水位計等を用いて井戸内の水位を調節維持することは出願時に技術常識であり、この技術常識に照らせば、当業者は本件訂正発明を実施でき、実施可能要件は満たされている。

よって、請求人の主張は採用できない。

(4) 小括
以上のとおり、申立人が主張する無効理由4によっては、本件訂正発明に
係る特許を取り消すことはできない。

6 請求項1についての審判請求について
上記第2のとおり、請求項1を削除する本件訂正が認められたので、請求項1に係る発明についての審判請求は、その対象が存在しないものとなる。
したがって、請求項1に係る発明の審判請求は、不適法な審判の請求であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定によって却下すべきものである。


第7 むすび
以上のとおり、請求項1についての本件審判の請求は、特許法第135条の規定により却下する。
また、本件特許の請求項2に係る発明、すなわち本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同条第2項、同法第36条第4項第1号、及び同条第6項第2号の規定に違反してなされたものではなく、審判請求人の主張する無効理由及び提出した証拠によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地盤の改良工法
【技術分野】
【0001】
本発明は、SWPによる軟弱地盤の改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は特許文献1において地盤の改良工法を提案した。
この工法は、SWP(スーパーウェルポイント)を用いて飽和地下水を負圧伝播で揚水することで、主に目的のエリアのみ集中してスポット的に水位低下が望め不飽和ゾーンを作り出す。その後、SWPのバキユームポンプや、ボルテックスポンプを用いて、不飽和ゾーンの範囲で真空気化を促進して水分の除去やVOCs(揮発性有機化合物)、油分など気化性のものを地中から除去し、地盤改良や土壌浄化を進める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-303095(特許第4114944号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】(削除)
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項2に記載の発明は、
地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を適用した実施形態の工法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(実施形態)
図1は本発明を適用した実施形態の工法を示すもので、1は井戸、2はストレーナ、3は揚水ポンプ、4は内管、5は揚水管、6はバキュームポンプ、7は吸引管である。
【0010】
図示のように、対象地盤には、SWPによる井戸1が設置されている。
【0011】
井戸1には、その底部に設置された揚水ポンプ3に接続した内管4に地上の揚水管5が接続されるとともに、地上のバキュームポンプ6に接続した吸引管7が接続されている。
この井戸1には、揚水ポンプ3とバキュームポンプ6により、下部のストレーナ2を介して地中の水と空気が吸引される。
【0012】
そして、ストレーナ2を介して井戸1に吸引された水とその中の気泡は、揚水ポンプ3により吸引されて、内管4を通り、地上の揚水管5に揚水されて、図示しない貯水槽等に排出される。
また、井戸1の水の上方の空気は、バキュームポンプ6により吸引されて、吸引管7を通して地上の大気中に排出される。
【0013】
ここで、揚水ポンプ3としては、井戸に入り込む湧水量(吸水量)よりも揚水能力の大きいポンプを用いる。
すなわち、井戸1の吸水量がQ1=1.0m^(3)/minならば、ポンプは揚水能力の大きいQ2=2.0m^(3)/minのポンプを用いる。
これにより、井戸1の井戸内水位はポンプ吸水口まで低下していて、井戸外の地下水に負圧伝播で揚水することができる。
【0014】
以上、実施形態によれば、SWPによる井戸1の吸水量Q1より大きい揚水能力Q2(Q1<Q2)の揚水ポンプ3を用いることで、SWPで飽和地下水を効率よく負圧伝播で揚水して、確実に水位低下させることができる。
【符号の説明】
【0015】
1 揚水吸気用の井戸
2 ストレーナ
3 揚水ポンプ
4 内管
5 揚水管
6 バキュームポンプ
7 吸引管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
地盤に井戸を設置し、その井戸から下部のストレーナを介して地中の水と空気を吸引する地盤の改良工法であって、
前記井戸の下部に配置され、前記ストレーナを介して前記地中の水と空気を吸引する揚水ポンプとして、前記井戸の吸水能力より大きい揚水能力のポンプを用いた前記井戸内の水の揚水と、バキュームを用いた前記井戸内の空気の排出と、を行い、
前記揚水ポンプを用いた揚水によって前記井戸内の水位を前記揚水ポンプの吸水口まで低下させた状態で、地下水を揚水することを特徴とする地盤の改良工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-01-31 
結審通知日 2018-02-02 
審決日 2018-02-23 
出願番号 特願2012-4763(P2012-4763)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (E02D)
P 1 113・ 121- YAA (E02D)
P 1 113・ 537- YAA (E02D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 前川 慎喜
小野 忠悦
登録日 2014-12-05 
登録番号 特許第5658177号(P5658177)
発明の名称 地盤の改良工法  
復代理人 井上 修一  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
復代理人 井上 修一  
復代理人 赤澤 高  
代理人 三和 晴子  
代理人 荒船 博司  
復代理人 赤澤 高  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  
代理人 荒船 良男  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 蜂谷 浩久  
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