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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  D05B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  D05B
管理番号 1340612
審判番号 無効2017-800054  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-04-20 
確定日 2018-05-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第5945050号発明「複数枚の布の縫合及びその縫合用ミシン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第5945050号についての主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 9月28日 本件出願(優先権主張 平成27年3月24日)
平成28年 6月 3日 設定登録(特許第5945050号)
平成28年12月15日 特許異議申立(異議2016-701148)
平成29年 2月21日 異議の決定
平成29年 4月20日 審判請求書
平成29年 7月11日 審判事件答弁書
平成29年 8月 4日 審理事項通知(1)
平成29年 9月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成29年 9月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成29年 9月12日 補正許否の決定
平成29年 9月13日 審理事項通知(2)
平成29年 9月29日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成29年 9月29日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成29年10月 2日 審理事項通知(3)
平成29年10月13日 口頭審理陳述要領書(3)(請求人)
平成29年10月13日 口頭審理陳述要領書(3)(被請求人)
平成29年10月13日 口頭審理

以下、審判請求書を「請求書」、審判事件答弁書を「答弁書」、請求人あるいは被請求人が提出した口頭審理陳述要領書を提出順に「請求人要領書(1)」等と、口頭審理調書を「調書」と略記する。
また、本件特許の請求項1に係る発明等を「本件発明1」等と、甲第1号証等を「甲1」等と、甲第1号証に記載された事項及び発明等を「甲1事項」及び「甲1発明」等と略記する。
さらに、本審決において、記載箇所を行数により特定する場合、行番号が付されているときはそれに従い、付されていないときは空白行を含まない行数による。


第2.本件発明
本件発明1?7は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
複数枚の布(1a、1b)を重ね、その重ねた布(1a、1b)の縫合箇所に毛糸(2)を載せ、その毛糸(2)も含めて前記複数枚の布(1a、1b)を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸(2)の繊維(2a)を前記複数枚の布(1a、1b)の繊維に絡ませてその複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシンであって、
上記複数枚の布(1a、1b)を重ねて載置する縫合台(16)と、フェルティング針(3)と、そのフェルティング針(3)を覆う安全カバー(12、12’)の下端の毛糸ガイド(13、13’)と、前記重ねられた複数枚の布(1a、1b)に向かって前記フェルティング針(3)を昇降する手段と、を有し、ボビン又は毛糸玉(B)から上記毛糸(2)を前記毛糸ガイド(13、13’)によって上記縫合個所に導き、前記フェルティング針(3)を昇降させることにより、上記ニードルフェルティングを行って前記複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシン。
【請求項2】
請求項1に記載のミシン(A2)において、そのミシンハウジング(10a、10b、10c)は、基台(110)の一端上面から立ち上がる脚部(120)と、その脚部(120)の上部から前記基台(110)の他端方向に延びる水平方向のアーム部(130)と、そのアーム部(130)の先端部から下方に延びる頭部(140)とから成り、
上記フェルティング針(3)を昇降する手段は、電動機(123)により回転する水平方向の駆動軸(131)と、その駆動軸(131)の直交方向所要位置に駆動軸(131)と一体に設けられた水平方向の駆動ピン(136)と、上記フェルティング針(3)を有して上下に移動する昇降体(141)とからなり、
上記駆動軸(131)及び昇降体(141)は上記ミシンハウジング(10b、10c)内に設けられており、
上記昇降体(141)は、上記駆動ピン(136)が摺動自在に嵌った水平方向の摺動溝(145)を有して、駆動軸(131)の回転によってその駆動ピン(136)及び摺動溝(145)を介して昇降し、
上記頭部(140)のミシンハウジング(10c)下部に上記安全カバー(12’)が設けられているミシン。
【請求項3】
上記駆動軸(131)に同一軸心で設けられたパルサーリング(134)と、そのパルサーリング(134)の回転数を検出する回転センサ(135)とを、さらに有して、そのパルサーリング(134)と回転センサ(135)は上記ミシンハウジング(10b、10c)内に設けられている請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
上記フェルティング針(3)を有する昇降体(141)は、上記ミシンハウジング(10b)に取り外し可能のブロック(142)に設けられ、そのブロック(142)は、上下方向のガイド軸(143)を介して前記昇降体(141)を昇降自在に支持している請求項2又は3に記載のミシン。
【請求項5】
毛糸玉(C)から引き出した毛糸(2)を案内するガイド溝(138)がミシンハウジング(10a、10b、10c)のアーム部(130)の先端部上面に設けられ、毛糸玉(C)からの毛糸(2)は前記ガイド溝(138)から上記安全カバー(12’)下端の毛糸ガイド(13’)に導かれる請求項2?4の何れか一つに記載のミシン。
【請求項6】
上記縫合台(16)は、上記基台(110)に上下方向に移動可能に設けられるとともに、弾性体(111)によって昇降可能に支持されている請求項2?5の何れか一つに記載のミシン。
【請求項7】
上記アーム部(130)の後部にハンドル(124)が上記駆動軸(131)の軸心回りに回転自在に設けられており、そのハンドル(124)は、前記駆動軸(131)にクラッチ継手(126)を介して連結されているとともにその軸心方向に移動自在になって弾性体(127)により連結離反方向に付勢されて前記クラッチ継手(126)により連結が切り離されるようになっており、
上記弾性体(127)に抗してハンドル(124)を駆動軸(131)側に押し込むことによって、クラッチ継手(126)を介してハンドル(124)と駆動軸(131)が連結されて一体に回転するようになっている請求項2?6の何れか一つに記載のミシン。」


第3.請求人の主張
請求人は、本件発明1?7についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めており、その主張の概要、証拠方法は以下のとおりである。
1.無効理由
本件発明1は、甲1発明である、若しくは、甲1発明に、甲2事項又は甲3事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

本件発明2?4は、甲1発明に、甲4事項を適用することにより、若しくは、甲1発明に、甲2事項又は甲3事項、並びに、甲4事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明2?4は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

本件発明5は、甲1発明に、甲4事項及び甲5事項を適用することにより、若しくは、甲1発明に、甲2事項又は甲3事項、甲4事項、並びに、甲5事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明5は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

本件発明6?7は、甲1発明に、甲4事項ないし甲6事項を適用することにより、若しくは、甲1発明に、甲2事項又は甲3事項、甲4事項、甲5事項、並びに甲6事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明6?7は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(請求書12頁11?20行、調書の「請求人」の2)

2.縫製用の縫針と釜機構を有するか否かに係る相違点について
甲1に記載されたミシンでは、通常縫製と、刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工とが、同時に行われることはないから、甲1の「ひとまとまりの構成及び技術的思想」として、通常縫製に係る構成を抽出する必要はなく、ニードルパンチング加工に係る構成を抽出すれば足りるのであって、縫製用の縫針と釜機構を有するか否かに係る相違点は、実質的な相違点とはなりえない。(請求人要領書(1)7頁16?末行、同10頁10?12行)

3.フェルティング針の加工布が複数枚であるか否かに係る相違点について
(1)フェルティング針の加工布が複数枚である旨の本件発明1の発明特定事項は、使い方に属するものであって、物の発明としての構成を何ら特定するものではなく、物の特定に実質的に役立っていない。さらに、甲1発明において、加工布を複数枚としてニードルフェルティングを行うことが、甲1発明の構成上不可能である理由もない。
また、発明の効果についてみると、本件発明1の効果は「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得る」(本件特許明細書の段落【0012】)ものであり、縫合線がニードルフェルティングによる刺繍と同形状であれば、布の縫合と刺繍を同時に行い得るとの効果が明示されている。一方、甲1発明の効果は、装飾用とされる毛糸と加工布に対してニードルフェルティングを行うことで刺繍を施すことができる(甲1の段落【0019】)から、甲1発明においても、本件発明1と同様に、布の種類に関わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、布の縫合と刺繍を同時に行うことができるとの効果を奏するといえる。(請求書27頁16行?28頁9行、請求人要領書(1)10頁14?16行)

(2)仮に実質的な相違点だとしても、複数枚の布と毛糸を合わせてニードルフェルティングを行うことは、甲2及び甲3に開示されている。そして、甲1発明と甲2及び甲3とは技術分野が同一であるから、本件発明1は、甲2事項又は甲3事項を甲1発明に適用することにより、当業者が容易に推考し得る発明である。(請求書28頁13?22行)

(3)甲1の「ニードルパンチング加工用の装飾材としては、前記実施の形態の毛糸81の他、綿、不織布、フェルト等、種々の材料を使用することができる。」(段落【0060】)との記載から、甲1発明も、例えば不織布やフェルトを装飾材として加工布80の上に載置し、毛糸を布押え48の案内穴48fに通すようにすれば、複数枚の布に対して毛糸と共にニードルパンチング加工を行うことができるから、甲1発明のミシンが複数枚の布を毛糸で縫合することができるといえる。(請求人要領書(1)9頁18?25行)

(4)ア.甲10の1から裏付けられるように、フェルティングは、フェルティングを行う者により様々なものを創造して作ることができるものであり、その中には、例えばリボンや星形に切り抜いた布を被服やバックに載置して、毛糸と共に刺繍的に取り付けることもあることは普通に考えられることである。このように、例えばベースとなる被服やバックと、リボンや星形に切り抜いた布と、毛糸と、のように、フェルティングを行う者が3つ以上の被加工物を加工したい場合には、甲1発明のミシンを用いることが可能であることから、甲1発明のミシンでニードルパンチング加工により複数枚の布を縫合するものに換えることがあるといえる。(請求人要領書(1)9頁28行?10頁8行、請求人要領書(2)3頁4?28行)

イ.甲10の1には、ウール生地のベストにウール生地のアップリケが毛糸と共にフェルティングされる旨が記載される。特に、81頁の6.には、「毛糸は重ね合わせたアップリケと基布の両方を完全に突き刺し、ベストの裏側に小さなループが見えるようにします。」とあるように、複数枚の布である「アップリケと基布」を、葉脈を形成する「毛糸」により縫合することが説明されている。以上より、複数枚の布を毛糸とフェルティングして縫合する旨は技術常識であるといえる。(請求人要領書(2)4頁1?15行)

ウ.甲10の1の手順6による毛糸の状態は、甲6の図3?図5の状態とは異なるが甲1の図13とも異なり、毛糸の一部が布に押し込まれており、他の一部が布の裏側に小さなループを形成していると考えられ、「毛糸の繊維を複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合する」といえる。(請求人要領書(3)3頁11?24行)

4.毛糸ガイドに係る相違点について
(1)毛糸ガイドが、安全カバーの下端に設けられるのか、下方に設けられるのかは、毛糸を前後方向に案内するという機能が同じである以上、実質的な相違点とはなりえない。また仮に、実質的な相違点であるとしても、毛糸ガイドと安全カバーが、甲1のように別体とされるものを、本件発明1のように一体とすることは、単なる設計事項であり、容易想到である。(請求人要領書(1)10頁18?22行)

(2)ア.甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」を一体化する際に、甲6の「毛糸ガイド用の横孔9が下端近傍に形成される筒体6」又は甲14の「毛糸ガイド用の切欠き6が下部に形成される筒体5」を甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」に適用して置換すれば、毛糸ガイドが形成される位置が「下端」か「下端近傍」、「下部」である点を除けば、本件発明1における「そのフェルティング針(3)を覆う安全カバー(12、12’)の(下端の)毛糸ガイド(13、13’)」と同じ構成となり、さらに、糸を孔でガイドするか溝でガイドするかは、何れも公知技術(甲15)であり、何れの方式でガイドするかは設計事項といえるから、孔を溝として毛糸ガイドが形成される位置を「下端近傍」、「下部」から「下端」に変更することは容易である。(請求人要領書(3)3頁下から5行?5頁3行)

イ.甲15の第1図及び第2図の刺しゅう用ミシン1には、本件発明1の「安全カバー(12、12’)」に相当する「保護筒22」が開示されている。そして、この「保護筒22」には、糸のガイドとしては機能しないが、「保護筒22」の前面から下面に亘って形成される溝が開示される。このように、本件特許における図2、図5等の「ガイド溝13、13’」と同一の形態が甲15に開示されている。(請求人要領書(3)5頁4?9行)

5.証拠方法
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、甲1ないし15の成立について争いはない(被請求人要領書(1)2頁下から3行、被請求人要領書(3)2頁4行、調書の「被請求人」の2)。
甲1 特開2004-222895号公報
甲2 米国特許出願公開第2013/0255047号明細書
甲3 特開平10-168735号公報
甲4の1 商品名「フェルティミシン」に係る通販サイトの写し
甲4の2 商品名「フェルティミシン」の分解写真
甲5 特開2006-274471号公報
甲6 実公昭58-4556号公報
甲7の1 株式会社タカラトミーの連結管理本部 法務部 知的財産課 課長 新藤 剛氏による2017年8月31日付け陳述書(原本)
甲7の2 スピン・マスター・リミテッドの社内の電子メールの写し
甲7の3 3D-CADデータの内容を示す書面
甲7の4 甲7の2で示す電子メールに記載されるメンバーの所属部署及び所在地の一覧
甲8 本件特許の実施品である「毛糸ミシンHug」の取扱説明書の写し
甲9 知財高判平18.11.27 平成18年(行ケ)10207 判決書の写し
甲10の1 Linda Turner Griepentrog and Pauline Wilde Richards、「Needle Felting by Hand or Machine」、krause publications、2007年 の写し
甲10の2 甲10の1が平成19年6月20日に発行された旨を証するネット通販サイト(アマゾン)の写し
甲10の3 甲10の1の翻訳文(一部)
甲11 甲7の2で示す電子メールの翻訳文
甲12 スピン・マスター・リミテッドのコンシューマープロダクツ部門 デザイン・ディレクター ステファニー レモン氏による2017年9月19日付け陳述書の写し
甲13 甲10の1の80頁の翻訳文の写し
甲14 実願昭55-72993号(実全昭56-173399号)のマイクロフィルム
甲15 実願昭58-72192号(実全昭59-177496号)のマイクロフィルム


第4.被請求人の主張
被請求人は、本審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めており、その主張の概要、証拠方法は以下のとおりである。
1.縫製用の縫針と釜機構を有するか否かに係る相違点について
(1)甲1発明において縫製用の第1の針と糸捕捉手段は、甲1の段落【0006】、【0022】より、甲1発明の課題解決のためには必須の構成であり、省略できるものではない。一方、本件発明1は、糸捕捉手段を有しないから、甲1発明に比べて構造が簡単である。(答弁書6頁12?21行)

(2)甲1発明では、縫合には第1の針(縫針13)を用いることが想定されているから、あえて、パンチング針により縫合する動機付けはない。
一方、本件発明1は、複数枚の布を、毛糸を縫合用糸としてニードルフェルティングによって縫合することで、「布の種類に拘わらず、複数枚の加工布を容易かつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる。」という作用効果を発揮する。(答弁書7頁4?16行)

(3)甲1発明は、釜機構10等からなる複数の布を縫合する機構と、パンチング針14等からなる毛糸による刺繍機構と、をそれぞれ有し、その縫合と刺繍の各作用を別々に行い得るものであり、刺繍機構は、複数の布を毛糸でもって縫合する必要はない。このように、別に「複数の布を縫合する機構」を有するのであるから、刺繍機構によって複数の布を縫い合わせようとする動機は生じない。よって、甲1発明において、毛糸による刺繍機構によって、複数の布を縫合する考えは生じない。この様なミシンにおいて、本件発明1との対比において、本件発明1に相当しない縫合機構を捨象し、同相当するそのミシンの構成のみを抽出することは妥当ではない。甲1のミシンは、縫合機構と刺繍機構を有機的に一体に有するものであって、恣意的に他方(縫合機構)を省略して抽出すべきではない。(被請求人要領書(1)5頁11?23行)

2.フェルティング針の加工布が複数枚であるか否かに係る相違点について
(1)甲2及び3に記載されたものは、「複数の布にニードルフェルティングを行い、そのニードルフェルティングによる各布自身の繊維の絡み合いによって布同士を一体化する」ものであって、「複数枚の布を、毛糸を縫合用糸としてニードルフェルティングによって縫合する」ものではない。(答弁書5頁18?22行)

(2)甲10の1の手順6は、針を1/2インチ前進、1/4インチ後進を繰り返して、毛糸によって葉脈を刺繍として形成するものであり、その葉脈の刺繍形成に伴ってアップリケが基布に縫い合わされるのであって、アップリケを基布に積極的に縫合するものではない。
また、通常、この種のフェルティングミシンにおいて、毛糸でもって刺繍する際、布を動かし、針を前後進することはない。手順6は、手によるフェルティングと考える。
さらに、甲10の1の記載内容は、技術常識ではない。(被請求人要領書(3)2頁下から6行?3頁2行、同3頁下から10行?4頁下から9行、同5頁下から8行?6頁13行)

3.毛糸ガイドに係る相違点について
安全カバーの下端は、布に対向するため、その下端のガイドも、毛糸をガイドから下方の布に載置する(押し出す)必要があることから、その方向に開口する下向き開口の溝状とならざるを得ない。すなわち、本件発明1のガイドは、段落【0017】に記載の「布1の縫合線に沿うように毛糸2を導くもの」であって、段落【0029】、【0033】に記載のように、「溝状」であって、図2、図12等に示すように、下向き開口の溝状とならざるを得ない。このようなガイドは、子供であっても毛糸を嵌め易いものであるとともに、ガイドによって毛糸が縫合方向に導かれるため、フィルティング針が毛糸に確実に突き刺さって布にも突き刺さるものとなる。
甲1発明は、保護カバー46を有するにもかかわらず、従来の縫合ミシンと同様に、毛糸を案内する布押え48を押え棒44にわざわざ設けており、その布押え48の毛糸案内(毛糸ガイド穴48f等)に代えて、保護カバー46の下端に(布1の縫合線に沿うように毛糸2を導く下向き開口の溝状)毛糸ガイド(13、13’)を設けることは、当業者であっても容易ではなく、ましてや設計事項ではない。(被請求人要領書(2)2頁17行?3頁9行、被請求人要領書(3)7頁4?18行)

4.証拠方法
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、乙1の成立について争いはない(調書の「請求人」の4)。
乙1 本件特許に対する特許異議申立における「異議の決定」(異議2016-701148)


第5.当審の判断
1.甲号証に記載された事項及び発明
(1)甲1
ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ミシン本体に上下動自在に配設された針棒と、この針棒の下端部に縫製用の目孔付きの第1の針を固定する為の針抱きと、前記第1の針を用いて縫製する際に針棒の下方において糸を捕捉する糸捕捉手段とを備えたミシンにおいて、
前記針棒から水平方向に所定距離離隔して位置する第2の針と、
前記針棒を挟持可能な第1の挟持部と第2の針を挟持可能な第2の挟持部とを有し第2の針を針棒に取付ける為の針取付具と、
前記第2の針が通過する針穴を有する針板とを備え、
前記針取付具に、前記針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着され、
締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒と第2の針とを挟持するように構成したことを特徴とするミシン。」

「【0017】
このミシンは、加工布等の上に戴置された毛糸や綿等の装飾材等の一部を、複数の針本体部を有する第2の針により加工布の中に上から押し込んで、加工布等に刺繍的な装飾模様を施す、いわゆるニードルパンチング加工を可能に構成されている。即ち、針板上に加工布及び装飾材などからなる2つの被加工物が上下に重ねて戴置された状態で、針取付具を介して針棒から所定距離離れた位置に取付けられた第2の針を上下動させると、第2の針の複数の針本体部に形成された複数の引掛け爪が上側の被加工物の一部を引っ掛け、その状態で第2の針を2つの被加工物に貫通させることで、下側の被加工物に装飾模様が施される。」

「【0020】
…このミシンMにおいては、図3、図4に鎖線で示すように、ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の目孔13a(図8参照)付きの縫針13(第1の針に相当する)を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布に縫目を形成する通常縫製を行うことができる。
【0021】
一方、図1?図4に実線で示すように、針棒30から水平方向左方に所定距離離隔した位置に後述のパンチング針14(フェルティングニードルともいい、第2の針に相当する)を装着した状態では、図12、図13に示すように、パンチング針14により、ベッド部1上の加工布80(下側の被加工物)の上に重ねた装飾材としての毛糸81(上側の被加工物)を加工布80に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができる。
【0022】
図2、図4に示すように、ベッド部1の内部には、縫針13を用いて通常縫製を行う際に針棒30の下方において上糸を捕捉する釜機構10(糸捕捉手段)が設けられており、ベッド部1において釜機構10の上側には通常縫製用の針板11とニードルパンチング加工用の針板12の何れか一方が装着される。即ち、図5、図6(ベッド部1側から針板11,12を見た図)に示すように、ミシンMには、釜機構10の上側に位置し縫針13が通過する針穴11aを備えた針板11と、この釜機構10よりも左方に位置しパンチング針14が通過する針穴12aを備えた針板12の、2種類の針板11,12が付属しており、通常縫製あるいはニードルパンチング加工を行う際に、これら2種類の針板11,12のうち一方を選択してベッド部1に装着するように構成されている。」

「【0025】
図2?図4に示すように、ヘッド部4には、ミシン本体としてのミシン機枠18に上下動自在に配設された針棒30と、この針棒30を上下に駆動する針棒上下動機構31と、ミシン機枠18に上下揺動自在に配設された天秤32と、針棒30の下端部に縫針13を固定する為の針抱き33と、針抱き33に縫針13を装着して通常縫製を行う際に天秤32から縫針13の目孔13aへ延びる上糸を案内するワイヤ状の針棒糸案内34などを備えている。さらに、ヘッド部4には、糸調子器35、糸案内36等も設けられている。」

「【0030】
図2?図4に示すように、ニードルパンチング加工を行う場合には、押え棒44の下端部にはニードルパンチング用の保護カバーホルダ45が連結される。この保護カバーホルダ45には、透明な合成樹脂製の保護カバー46が取付けられており、この保護カバー46により、針棒30の下端部付近の前方が覆われている。
【0031】
さらに、保護カバーホルダ45の左端部には、取付金具47を介して平面視略矩形状で且つ透明な合成樹脂製の布押え48が取付けられている。図9に示すように、布押え48は、平面状に形成されパンチング針14が通過する針穴12a付近の加工布80を押える押え部48aと、この押え部48aの前端部、左端部、及び右端部に夫々押え部48aから上方へ延びる鉛直壁状に形成された前壁部48b、左壁部48c及び右壁部48dとを有する。押え部48aの中央部には、パンチング針14が通過する円形穴48eが形成されている。
【0032】
さらに、前壁部48bには、加工布80の上に重ねられた毛糸81を前後方向に案内する案内穴48fも形成されている。従って、毛糸81は、案内穴48fにより後方へ案内され、さらに、押え部48aの上側から円形穴48eを通って押え部48aの下側に出て、加工布80の上に重ねて戴置される。ここで、毛糸81が案内穴48fを通過する際には、前壁部48bに前後方向の力が作用することになるが、前壁部48bは、左壁部48c及び右壁部48dと一体形成されているため、前壁部48bは左壁部48c及び右壁部48dにより前後方向に支えられており、前壁部48bが破損することがない。」

「【0035】
ところで、前述したように、ミシンMは、目孔13a付きの縫針13で針板11上の加工布に通常の縫製を行う他に、針板12上の加工布80の上に毛糸81を重ねて加工布80にニードルパンチング加工を施すことが可能に構成されており、ミシンMは、針棒30から水平方向左方に所定距離離隔して位置するニードルパンチング用のパンチング針14と、針棒30を挟持可能な第1挟持部51とパンチング針14を挟持可能な第2挟持部52とを有しパンチング針14を針棒30に取付ける為の針取付具50とを有する。
【0036】
図10、図11に示すように、パンチング針14は、複数(例えば、5本)の針本体部14aと、これら複数の針本体部14aを保持し且つ針取付具50の第2挟持部52に挟持される針保持部14bとを有する。図11に示すように、複数の針本体部14aには夫々複数の引掛け爪14cが形成されている。そして、針板12上の加工布80の上に毛糸81を重ね合わせて布押え48で上方から押えた状態で、針棒上下動機構31により針棒30を上下に駆動して、図4の実線に示す位置から鎖線に示す位置に亙ってパンチング針14を上下動させると、図12、図13に示すように、複数の引掛け爪14cにより毛糸81の一部を引っ掛けて加工布80に押し込みながら複数の針本体部14aが加工布80と毛糸81とを貫通するように構成されている。針保持部14bは、上半部の小径部と下半部の大径部とからなり、小径部が針取付具50の第2挟持部52に挟持される。」

「【0039】
この針取付具50には、前後方向(針棒30とパンチング針14とを挟持する方向)に、ネジ径の異なる3本のビス55?57が装着される。即ち、前側の挟持部材53には、3本のビス55?57のネジ径よりも僅かに大きい3つの穴が夫々形成されており、一方、後側の挟持部材54には、3本のビス55?57のネジ径と一致する雌ネジが切られた3つの穴が夫々形成されている。そして、3本のビス55?57は、前側の挟持部材53の3つの穴に夫々挿通されて、後側の挟持部材54の3つの穴に夫々螺合可能である。3本のビス55?57を緩めた状態(締結状態を解除した状態)では、1対の挟持部材53,54は互いに分離可能に構成されている。そして、3本のビス55?57を締結することにより第1、第2挟持部51,52で針棒30とパンチング針14とを挟持するように構成されている。尚、図3に示すように、1対の挟持部材53,54が、針抱き33の上端面に当接して上下方向に位置決めされた状態で、第1挟持部51により針棒30が挟持される。」

図2?4から、保護カバー46が、パンチング針14を覆うことが看取される。
図2?4、9から、案内穴48fが、保護カバー46の下方にあることが看取される。

イ.甲1に記載された発明
(ア)上記ア.に示した甲1の摘記から、甲1には、「ミシン本体に上下動自在に配設された針棒30と、この針棒30の下端部に縫製用の目孔13a付きの縫針13を固定する為の針抱き33と、前記縫針13を用いて縫製する際に針棒30の下方において糸を捕捉する釜機構10とを備えたミシン」(請求項1、【0020】、【0022】、【0025】)において、「針棒30から水平方向に所定距離離隔して位置するパンチング針14」(【0021】)と、「針棒30を挟持可能な第1の挟持部51とパンチング針14を挟持可能な第2の挟持部52とを有しパンチング針14を針棒30に取付ける為の針取付具50」(【0035】)を備え、「ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の縫針13を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布80に縫目を形成する通常縫製を行うことができ」(【0020】)るものが記載されている。

(イ)また、甲1のミシンは、「針棒30から水平方向左方に所定距離離隔した位置にパンチング針14を装着した状態では、ベッド部1上の加工布80の上に重ねた装飾材としての毛糸81を加工布80に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができ」(【0021】)るものである。

(ウ)この甲1の「ニードルパンチング加工」のために、甲1のミシンは、「パンチング針14が通過する針穴12aを有するニードルパンチング加工用の針板12」(【0022】)と、「重ねられた加工布80及び毛糸81に向かってパンチング針14を上下動する針棒上下動機構31」(【0036】)を備え、「針取付具50に、針棒30とパンチング針14とを挟持する方向にビス55?57が装着され、ビス55?57を締結することにより第1、第2の挟持部51、52で針棒30とパンチング針14とを挟持するように構成」(【0039】)されている。そして、ニードルパンチング加工用の針板12は、「加工布80及び毛糸81を重ねて戴置する」(【0017】、【0021】、【0022】)ためのものである。

(エ)甲1のミシンは、「ニードルパンチング用の保護カバーホルダ45に取付けられ、そのパンチング針14を覆う透明な合成樹脂製の保護カバー46」を有する(【0030】、図2?4)。そして、保護カバー46の下方には、「保護カバーホルダ45の左端部に取付金具47を介して取付けられた布押え48の前壁部48bに形成された、毛糸81を前後方向に案内する案内穴48f」(【0031】、【0032】、図2?4、9)を有する。

(オ)甲1のミシンは、「毛糸81を案内穴48fによって後方へ案内し、さらに、押え部48aの上側から円形穴48eを通って押え部48aの下側に出し、加工布80の上に重ねて、パンチング針14を上下動させることにより、ニードルパンチング加工を施して加工布80に刺繍的な装飾模様を形成する」(【0017】、【0032】、【0036】)ものである。

(カ)上記(ア)?(オ)の事項を整理すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
「ミシン本体に上下動自在に配設された針棒30と、この針棒30の下端部に縫製用の目孔13a付きの縫針13を固定する為の針抱き33と、前記縫針13を用いて縫製する際に針棒30の下方において糸を捕捉する釜機構10とを備えたミシンにおいて、
前記針棒30から水平方向に所定距離離隔して位置するパンチング針14と、
前記針棒30を挟持可能な第1の挟持部51とパンチング針14を挟持可能な第2の挟持部52とを有しパンチング針14を針棒30に取付ける為の針取付具50と、
前記パンチング針14が通過する針穴12aを有し、加工布80及び毛糸81を重ねて戴置するニードルパンチング加工用の針板12とを備え、
前記針取付具50に、前記針棒30とパンチング針14とを挟持する方向にビス55?57が装着され、
ビス55?57を締結することにより第1、第2の挟持部51、52で針棒30とパンチング針14とを挟持するように構成し、
ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の縫針13を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布80に縫目を形成する通常縫製を行うことができ、
針棒30から水平方向左方に所定距離離隔した位置にパンチング針14を装着した状態では、ベッド部1上の加工布80の上に重ねた装飾材としての毛糸81を加工布80に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができ、
ニードルパンチング用の保護カバーホルダ45に取付けられ、そのパンチング針14を覆う透明な合成樹脂製の保護カバー46の下方の、保護カバーホルダ45の左端部に取付金具47を介して取付けられた布押え48の前壁部48bに形成された、毛糸81を前後方向に案内する案内穴48fと、
重ねられた加工布80及び毛糸81に向かってパンチング針14を上下動する針棒上下動機構31と、を有し、
毛糸81を案内穴48fによって後方へ案内し、さらに、押え部48aの上側から円形穴48eを通って押え部48aの下側に出し、加工布80の上に重ねて、パンチング針14を上下動させることにより、ニードルパンチング加工を施して加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するミシン。」

(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「[0022] The hand held felting device of the present disclosure is designed to felt two or more materials together, such as, but not limited to, yarn, cotton, silk, satin, felt, wool, and canvas.…」
(日本語訳(訳は、請求人提出の甲2の翻訳を参考に当審が作成した。以下同様。))
「[0022]開示に係る手持ち式フェルティング装置は、糸、綿、絹、サテン、フェルト、羊毛や帆布のような、しかしこれらに限定されない2あるいはそれより多くの材料を、もつれた固まりに結合するように作られている。…」

(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0020】
【発明の実施の形態】この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。図1および図2に示すように、この発明の第1実施形態は、シート状のレーヨン不織布1、2、3、4を平織りのポリプロピレン糸製の基布5に4枚重ね、ニードルパンチングによって一体化した吸水性タフテッドカーペット用生地aに、タフティングによってアクリル繊維製の疎水性パイル糸6を刺し込んで基布5の表面にカットパイルを形成した吸水性タフテッドカーペットAである。」

「【0024】この発明に用いる基布5は、それを構成する糸の繊維の材料および織り組織を特に限定採用したものではなく、たとえば、ポリプロピレン、アクリル、ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維の他、綿、羊毛、麻などの紡糸品を採用できる。基布の組織の織り目は、後工程のタフティングによってパイルを形成し易くするために、平織り、朱子織り等の目の粗い組織を採用することが好ましい。」

(4)甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「また、筒体6の下端近傍の側面には横孔9が形成されており、この横孔9は筒体6の内部空間に連通されている。
この横孔9中にはアーム3の側面に回転自在に軸承されたボビン10に巻回された毛糸11が挿入され、筒体6の下端へと導かれる。」(1頁2欄23?28行)

「まず、筒体6の横孔9から透孔6aに毛糸11を通してから、厚紙等からなる板材20を筒体6の下端とベースよりわずかに突出したストツパー16との間に挿入する。この状態で把手12を下方に押すと、押圧軸7が下降し、筒体6の透孔6aの下端付近に位置する毛糸11は押圧軸7の凹部8中に嵌入した状態で斜壁6bに沿つてしごかれつつ、板材20を貫通してストツパー16の受孔17中に押し込まれ、この動作中毛糸11はストツパー16の上端と筒体6の下端との間で挟持されるため、板材20の上面側にはたるみができず、縫われた側の糸は引つ張られず、ストツパー16の受孔17中に押し込まれた毛糸11のみがたるむ。」(2頁3欄21行?同4欄4行)

(5)甲10の1
ア.甲10の1には、以下の事項が記載されている。
「Free-Form Felting
Keep in mind that many needle felting creations can be done without any clearly defined plan-free-form design can "just happen" as you let the fibers and fabrics speak to you! These abstract arrangements are great fun to create and a good way to practice needle felting techniques. They're useful for small projects like pin cushions, purse flaps, collars, cuffs, etc. or they can be framed as art on their own.」(28頁左欄1?9行)
(日本語訳)
「フリーフォーム・フェルティング
ニードルフェルティングの作品は、前もってはっきりと細かいところまで決めずに、繊維や布地が語りかける声に耳を傾け「突然ひらめいた」デザインで作ることができます。このようにざっくりとした準備で製作できるのはニードルフェルティングの醍醐味であり、技術の習得にも大変役に立ちます。ニードルフェルティングは、針山、バッグのフラップ、襟、袖口などの小さな作品に最適で、それ自身がアートとして成り立ちます。」

「Felting
1 Gently pull apart the slubby yarn and untwist it to form gauzy fibers. Position the open yarn meandering along the vest front, up and over the shoulder area and about 6” down the back. Feather the yarn at both ends to finish.

Note: The design details will depend on the vest style and size; use the photograph as a guide and adapt the techniques to your vest

2 Using a felting tool or felting machine, lightly "baste" the yarns in place.

3 Pin the leaves in place as desired, varying the colors for interest.

4 Using a single needle, "baste" the leaves in place. Try on the vest and adjust the placement of yarn and/or leaves if desired.

5 Thoroughly felt the yarn and leaves in place from both sides using a multi-needle tool or a felting machine. The leaf edges may be left unfelted for dimension, if desired.

6 To create the leaf vein detailing, use needle punch yarn. Position the yarn down the leaf center and use a single felting needle to push it into the fabric. Move the needle forward 1/2" and insert the needle's barbed tip into the yarn to grab it. Gently pull the yarn back 1/4" toward the first stitch. Push the yarn through the applique(当審注:eはアキュート・アクセントが付されたものである) and into the base fabric forming a visible "stitch." The yarn should be pushed completely through both fabric layers and a small loop should be visible on the vest underside. Repeat the process to detail the leaf veins.

7 When all the detail stitching is complete, turn the vest over and use a multi-needle tool or a felting machine to felt from the backside. Turn over again and repeat the felting process from the right side.

8 Back the vest applique(当審注:eはアキュート・アクセントが付されたものである) areas with fusible interfacing to secure them and the detail stitching in place.

9 Sew the decorative button on the vest overlap and stitch a snap underneath it for closing.」(80頁1行?81頁末行)
(日本語訳)
「フェルティング
1 スラブ糸をそっとさいてほぐし、ガーゼのような繊維にします。ほぐした糸をベストの前部、上部、肩の部分、背中の方に6インチ下に下がったところまでくねらせながら置いていきます。最後に糸の両端をほぐします。

注)デザインの細かい部分はベストのスタイルやサイズによって異なります。写真を参考にして、それぞれのベストにあった技法を施してください。

2 フェルティングの道具やフェルティング機を使い、軽く糸の「仮縫い」をします。

3 好きな位置に葉っぱを針で留めます。何色かの葉っぱを使うのもいいでしょう。

4 1本針を使い、葉っぱの「仮縫い」をします。ベストを着てみて、糸や葉っぱの位置を必要に応じて調整してください。

5 複数本針の道具かフェルティング機で、表と裏の両面からしっかりと糸と葉っぱを適所にフェルティングします。葉っぱの端の部分は立体感を出すために、お好みでフェルティングを施さなくてもいいでしょう。

6 葉脈の飾りを作るには、ニードルパンチ用の毛糸を使います。毛糸を葉っぱの中央に置き、1本針のフェルティングニードルで布地に刺します。針を1/2インチ前に動かし、ギザギザした針の先端を刺して毛糸を引っかけます。毛糸を1/4インチほどゆっくりと最初に作った針目に引き戻します。毛糸をアップリケ、基布の順に刺し込み、「縫い目」をしっかり見えるように作っていきます。毛糸は重ね合わせたアップリケと基布の両方を完全に突き刺し、ベストの裏側に小さなループが見えるようにします。この手順を繰り返し、葉脈の飾り縫いを作ります。

7 すべての飾り縫いを終えたら、ベストを裏返し、複数本針の道具かフェルティング機を使い、裏側からフェルティングをします。再度、ベストを裏返して表側からフェルティングを繰り返します。

8 アップリケがある部分の裏側に可溶性の芯生地をあて、アップリケやアップリケに施された飾り縫いをしっかりと固定します。

9 ベストの重なり合う部分に飾りボタンを縫い付け、前を閉じられるようにその下にスナップボタンも付けます。」

表紙の上部に、「Needle Felting by Hand or Machine」と記載されている。
表紙の下部に、「Linda Turner Griepentrog and Pauline Wilde Richards」と記載されている。
裏表紙の右下に、バーコードと共に「ISBN 978-0-89689-485-3」と記載されている。

イ.甲10の2はネット通販サイト(アマゾン)の写しであって、「Needle Felting by Hand or Machine」という書籍について、以下の事項が記載されている。
「Needle Felting by Hand or Machine
(英語)ペーパーバック-2007/6/20
Linda Turner Griepentrog(著)、Pauline Wilde Richards(著)」

「登録情報

ISBN-13:987-0896894853
発売日:2007/6/20」

甲10の1は、甲10の2に掲載された書籍と、書名、著者名、ISBNのいずれも一致し、同一の書籍と認められる。したがって、甲10の1の発売日は、甲10の2に記載された2007年6月20日と認められる。

(6)甲14
甲14には、以下の事項が記載されている。
「2. 実用新案登録請求の範囲
基台の一側に固定し、端部を同基台上に所要間隔をおいて逆L字状に張出した腕部材と、同腕部材の端部に装着し下端を基台上に若干の間隙をおいて対向した筒体と、該筒体の下部に形成し、側方から糸を受入れ略水平に支承するための切欠きと、上記腕部材、筒体、基台を貫通して上下に摺動自在に装設した押圧軸と、同押圧軸上方に復帰させるためのスプリングと、同押圧軸の上部に設けた把手と、同押圧軸の下端に形成し糸を保持する凹溝と、その両側に板材に切込むための刃部を設けてなる玩具ミシン。」(1頁4?末行)

(7)甲15
甲15には、以下の事項が記載されている。
「前記ヘツド3は左右に分割されており、一方の上面端部に糸6のガイド筒7を突設するとともに、中間部には糸かけ8を立設している。」(4頁7?9行)

「…そして、該半円筒21の下面には、透明な保護筒22を垂設している。」(6頁3?5行)

第1?2図から、ガイド筒7の上端、及び、保護筒22の前面から下面に亘り、溝が看取される。

2.本件発明1についての判断
(1)本件発明1と甲1発明の技術的意義について
ア.(ア)本件特許明細書によれば、従来より、ニードルフェルティングには「羊毛等のフェルティング用生地(糸)を特殊な針先をしたフェルティング針で刺し、フェルティング用生地内の繊維同士を絡ませることによって刺繍」するものや「複数枚の不織布(フェルト類)に限り縫合したりするもの」(【0002】)があったが、「ニードルフェルティングによる刺繍は、羊毛等のフェルティング用生地(フェルト生地)によって各種の模様を衣服等に形成するものであり、複数枚の布を縫合するものではない。一方、ニードルフェルティングによる複数枚の布の縫合は、不織布同士を積層縫合するものであり、その不織布の繊維同士を絡ませることによって縫合する。このため、不織布以外の複数の布を縫合することはできない」(【0004】)ものであった。
(イ)そこで、本件発明1は、「不織布以外の布においても、その複数枚を縫合し得て、かつ強固に縫合することを課題」(【0005】)として、「複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合する」ことにより、「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる」(【0012】)ようにしたものである。

イ.(ア)一方、甲1によれば、従来より、針棒の下端部に複数の針を装着可能なミシンには、「針棒の下端部に設けられた針止め金具に、水平方向に所定距離離隔した位置において2つの針取付穴が形成され、これら2つの針取付穴に水平方向に装着されたビスにより夫々2本の針が固着される」ものや「針棒の下端部に、2つの針抱きが水平方向に装着されたビスで夫々固定されており、これら2つの針抱きに夫々2本の針が取付ビスで固着される」(【0002】)ものがあったが、前者では「2つの針取付穴の離隔距離が大きい場合には、針棒の下端部に固定される針止め金具の水平方向の長さが長くなり、縫製時に針棒を上下動させる際のミシンモータの負荷が大きくなってしまう」(【0004】)、後者では「2つの針抱きが夫々水平方向に装着された2つのビスで直接針棒に固定されているため、縫製中に針棒を上下動させる駆動力がこれら2つのビスにも繰り返し作用することになる。特に、2つの針の離隔距離が大きい場合には、2つのビスに大きな力が繰り返し作用するため、ビスのネジ部が劣化したり破損したりして、針棒から針抱きを取り外すことが困難になる虞がある」(【0005】)との課題があった。
(イ)そこで、甲1発明は「縫製用の第1の針と針棒の下端部から水平方向に所定距離離隔した第2の針とを容易に着脱可能に構成すること」(【0006】)で、「針取付具に、前記針棒と第2の針とを挟持する方向に締結部材が装着され、締結部材を締結することにより第1、第2の挟持部で針棒と第2の針とを挟持するように構成したので、針棒の下端部に固定された針抱きに第1の針を固定するビス等の取付具に針棒が上下動する際の駆動力が作用せず、取付具が破損したりあるいは劣化したりするのを防止でき、常に第1の針を針抱きから容易に取り外すことができる。また、第2の針を針取付具を介して針棒に装着するため、その際に、針抱きを針棒から取り外す必要がなく、第2の針の取付け作業が容易になる」(【0062】)ようにしたものである。
そうすると、甲1発明は、複数枚の布を縫針により縫合する通常縫製のための構成と、加工布に刺繍的な装飾模様をパンチング針で形成するニードルパンチング加工のための構成の両方を備えることを前提として、針棒の下端部に固定された針抱きに縫針13を固定することで、常に縫針13を針抱きから容易に取り外すことができるようにし、また、パンチング針14を針取付具を介して針棒に装着することで、上記課題を解決するものである。
(ウ)ここで、縫製用の第1の針に対して、第2の針を「パンチング針14(フェルティングニードルともいい、第2の針に相当する)」(【0021】)とすることにより、「縫針13(第1の針に相当する)を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布に縫目を形成する通常縫製を行うことができ」(【0020】)、「パンチング針14(フェルティングニードルともいい、第2の針に相当する)を装着した状態では…上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができる」(【0021】)。そして、「針棒上下動機構31により針棒30を上下動させると、縫針13の目孔13aから下方へ延びる上糸が、針板11の下側に位置する釜機構10の剣先により捕捉された状態で天秤32により上方に引き上げられて、加工布に縫目が形成されていく」(【0044】)という通常縫製に係る構成は、複数枚の布を縫針により縫合する通常のミシンの構成と共通するから、この通常縫製が、複数枚の布を縫針により縫合するような、通常のミシンで行われる縫製を意味することは、当業者にとって明らかである。

(2)本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「パンチング針14」は、本件発明1の「フェルティング針」に相当する。同様に、「加工布80」は「布」に、「保護カバー46」は「安全カバー」に、「毛糸81を前後方向に案内する案内穴48f」は「毛糸ガイド」に、「上下動」は「昇降」に、「針棒上下動機構31」は「昇降する手段」に、「案内し」は「導き」に、「施して」は「行って」に、それぞれ相当する。
また、「針板12」と「縫合台」とは、布を載置する台という限りにおいて一致する。「円形穴48e」の個所と「縫合個所」とは、ニードルフェルティングが行われる個所という限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点 、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
ミシンであって、布を載置する台と、フェルティング針と、そのフェルティング針を覆う安全カバーと、毛糸ガイドと、布に向かってフェルティング針を昇降する手段と、を有し、毛糸を毛糸ガイドによってニードルフェルティングが行われる個所に導き、フェルティング針を昇降させることにより、ニードルフェルティングを行うミシン。

<相違点1>
本件発明1は、「複数枚の布(1a、1b)を重ね、その重ねた布(1a、1b)の縫合箇所に毛糸(2)を載せ、その毛糸(2)も含めて前記複数枚の布(1a、1b)を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸(2)の繊維(2a)を前記複数枚の布(1a、1b)の繊維に絡ませてその複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシン」であって、「上記複数枚の布(1a、1b)を重ねて載置する縫合台(16)」を備えるのに対して、甲1発明は、「ミシン本体に上下動自在に配設された針棒30と、この針棒30の下端部に縫製用の目孔13a付きの縫針13を固定する為の針抱き33と、前記縫針13を用いて縫製する際に針棒30の下方において糸を捕捉する釜機構10とを備えたミシン」であって、「前記針棒30から水平方向に所定距離離隔して位置するパンチング針14と、前記針棒30を挟持可能な第1の挟持部51とパンチング針14を挟持可能な第2の挟持部52とを有しパンチング針14を針棒30に取付ける為の針取付具50と、前記パンチング針14が通過する針穴12aを有し、加工布80及び毛糸81を重ねて戴置するニードルパンチング加工用の針板12とを備え、前記針取付具50に、前記針棒30とパンチング針14とを挟持する方向にビス55?57が装着され、ビス55?57を締結することにより第1、第2の挟持部51、52で針棒30とパンチング針14とを挟持するように構成し、ヘッド部4の針棒30の下端部に縫製用の縫針13を装着した状態では、上糸と下糸を交絡させてベッド部1に戴置された加工布80に縫目を形成する通常縫製を行うことができ、針棒30から水平方向左方に所定距離離隔した位置にパンチング針14を装着した状態では、ベッド部1上の加工布80の上に重ねた装飾材としての毛糸81を加工布80に押し込んで、上糸や下糸を用いずに加工布80に刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工を加工布80に施すことができ」る点
<相違点2>
毛糸ガイドが、本件発明1では「フェルティング針(3)を覆う安全カバー(12、12’)の下端」に設けられているのに対して、甲1発明では「ニードルパンチング用の保護カバーホルダ45に取付けられ、そのパンチング針14を覆う透明な合成樹脂製の保護カバー46の下方の、保護カバーホルダ45の左端部に取付金具47を介して取付けられた布押え48の前壁部48bに形成」されている点
<相違点3>
毛糸を、本件発明1では「ボビン又は毛糸玉(B)から上記毛糸(2)を前記毛糸ガイド(13、13’)によって上記縫合個所に導」くのに対して、甲1発明では「毛糸81を案内穴48fによって後方へ案内し、さらに、押え部48aの上側から円形穴48eを通って押え部48aの下側に出し」ている点

(3)相違点1について
ア.本件発明1は、第5.2.(1)ア.で述べたように、「複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合する」ことにより、「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる。」(本件特許明細書【0012】)という効果を奏するものであるから、複数枚の布を縫合する場合は、ニードルフェルティングにより行うことになる。
一方、甲1発明は、第5.2.(1)イ.で述べたように、複数枚の布を縫合する場合には縫針で縫製し、パンチング針では加工布に刺繍的な装飾模様を形成することを前提として、針棒の下端部に固定された針抱きに縫針13を固定することで、常に縫針13を針抱きから容易に取り外すことができるようにし、また、パンチング針14を針取付具を介して針棒に装着することで、パンチング針14の取付け作業が容易になるようにしたものである。そのため、甲1発明において、複数枚の布を縫合する場合には、縫製用の縫針13を用いることが想定されているのであり、パンチング針14により複数枚の布を縫合することは、通常の使用方法では想定されるものではないから、パンチング針14によりあえて毛糸で複数枚の布を縫合しようとする動機がない。そのため、甲2や甲3に、複数の材料を重ね、その重ねた複数の材料を突き通すニードルフェルティングを行い、材料の繊維を他の材料の繊維に絡ませることが記載されているとしても、甲1発明のミシンにおいてパンチング針14により毛糸で複数枚の布を縫合しようとする動機がない以上、本件発明1のように「複数枚の布(1a、1b)を重ね、その重ねた布(1a、1b)の縫合箇所に毛糸(2)を載せ、その毛糸(2)も含めて前記複数枚の布(1a、1b)を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸(2)の繊維(2a)を前記複数枚の布(1a、1b)の繊維に絡ませてその複数枚の布(1a、1b)を縫合するミシン」とすることはできない。
請求人は、「複数枚の布を重ね、その重ねた布の縫合箇所に毛糸を載せ、その毛糸も含めて前記複数枚の布を突き通すニードルフェルティングを行い、前記毛糸の繊維を前記複数枚の布の繊維に絡ませてその複数枚の布を縫合する」ことは、甲2事項又は甲3事項から容易であると主張する(第3.3.(2))。しかし、甲2は複数の材料をフェルティングによってもつれた固まりに結合することを、甲3は複数の基布をニードルパンチングによって一体化することを、それぞれ開示するにとどまり、どちらも、複数枚の布と毛糸という組合せではないから、相違点1に係る縫合を開示しているとはいえない。

イ.請求人は、フェルティングは、フェルティングを行う者により様々なものを創造して作ることができるものであり、その中には、例えばリボンや星形に切り抜いた布を被服やバックに載置して、毛糸と共に刺繍的に取り付けることもあることは普通に考えられることであると主張し、その証拠として甲10の1を提出している。そして、このように、例えばベースとなる被服やバックと、リボンや星形に切り抜いた布と、毛糸と、のような3つ以上の被加工物を加工したい場合には、甲1発明のミシンを用いることが可能であることから、甲1発明のミシンでニードルパンチング加工により複数枚の布を縫合するものに換えることがあると主張する(第3.3.(4)ア.)。
しかし、甲10の1事項によれば、手順6は、以下の(ア)?(ウ)を繰り返すものである(なお、手順6の解釈に当事者間の争いはない(請求人要領書(3)3頁6?7行、被請求人要領書(3)2頁21?23行)。
「(ア) 針を1/2インチ前に動かし、ギザギザした針の先端に毛糸を引っ掛ける。
(イ) 毛糸を1/4インチ引き戻す。
(ウ) (差し引き1/4インチ分の)毛糸をアップリケ、基布(ベスト)の順に差し込み、基布(ベスト)の裏側に小さなループが見えるようにする。」
ここで、甲1発明のパンチング針14は複数本のニードル(甲1【0036】「パンチング針14は、複数(例えば、5本)の針本体部14aと、これら複数の針本体部14aを保持し且つ針取付具50の第2挟持部52に挟持される針保持部14bとを有する。」)であって、甲10の1の手順6で用いられているような1本針のニードルではない。さらに、甲1発明のミシンには、パンチング針14を1/2インチ前に動かし、ギザギザした針の先端に毛糸を引っ掛け、引っ掛けた毛糸を1/4インチ引き戻すというような動作をさせる機構もない。そうすると、甲1発明のニードルパンチング加工に係る構成により甲10の1の手順6に係る刺繍を行い得るとは解せないから、そのような甲1発明において甲10の1の手順6に係る刺繍を行おうとする動機がなく、また、そのようにすることには阻害要因があるというべきである。
また、請求人は、複数枚の布を毛糸とフェルティングして縫合することは技術常識であるとも主張する(第3.3.(4)イ.)。しかし、当該主張の証拠として提出された甲10の1では、手順4で複数枚の布(ベスト、葉っぱのアップリケ)を仮縫いし、手順5で複数枚の布をしっかりとフェルティングし、手順6ではこの一体化された複数枚の布に対して後述のように毛糸で刺繍している。そうすると、手順4で仮縫いをしていることからすれば、手順6は、複数枚の布を縫合しようとするものではなく、単に、葉脈の飾りを刺繍するものというべきであり、このような証拠のみから、複数枚の布を毛糸とフェルティングして縫合することが技術常識であったということはできない。
また、仮に甲1発明のニードルパンチング加工に係る構成により甲10の1の手順6に係る刺繍を行ったとしても、縫合としてではなく刺繍として行うのであるから、甲1発明において、ニードルパンチング加工により、複数枚の布を縫合するものに換えることにはならない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

ウ.請求人は、甲1に記載されたミシンでは、通常縫製と、刺繍的な装飾模様を形成するニードルパンチング加工とが、同時に行われることはないから、甲1の「ひとまとまりの構成及び技術的思想」として、通常縫製に係る構成を抽出する必要はなく、ニードルパンチング加工に係る構成を抽出すれば足りる旨を主張する(第3.2.)。
しかし、上記(1)イ.で述べたように、甲1発明は、通常縫製のための構成と、ニードルパンチング加工を行うための構成の両方を備えたものを前提とするものであり、甲1発明の糸による縫合は通常縫製に係る構成により行うところ、毛糸による縫合に係る本件発明1との対比において、そのような通常縫製に係る構成を省いて甲1発明を認定すべきではなく、請求人の主張は採用できない。

エ.相違点1の縫合枚数の相違に関し、請求人は、複数枚の布を縫合することは使い方に属するものであって、物の発明としての構成を何ら特定するものではない旨を主張する(第3.3.(1))。しかし、相違点1は、複数枚の布の縫合を縫針による通常縫製により行うのか、ニードルフェルティングにより行うのかに係る相違であって、単に使い方に属するものであって物の発明としての構成を何ら特定するものではないとすることはできない。
また、請求人は、甲1発明でも、ニードルフェルティングにより複数枚の布を毛糸で縫合できるとも主張する(第3.3.(1)、(3))。しかし、そのような縫合は甲1に記載されておらず、上記ア?ウのとおりそのように縫合する動機もない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

オ.また、提出された他の証拠にも、上記相違点1に係る縫合は開示されていない。
そうすると、甲1発明において、縫製用の縫針13による縫合に代えて、刺繍用のパンチング針14により相違点1に係る縫合を行うことは、提出された全証拠をもってしても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(4)相違点2について
ア.本件発明1の毛糸ガイドは、安全カバーの下端に設けられているから、「安全カバーの下端の毛糸ガイドから縫合糸となる毛糸を縫合部に導き、布の送りに伴って前記毛糸を縫合部に繰り出すこと」(【0007】)となり、安全カバーの下端において「各布1の縫合線に沿うように…ガイド13により導」(【0017】)かれた毛糸に、安全カバーに覆われて上下動するフェルティング針を確実かつ安全に突き刺すことができるものである。
一方、甲1発明の案内穴48fは、毛糸81を、布押え48の前壁部48bの外側から内側へと通過させ、押え部48aの上側に送る「穴」であり、これを、安全カバーの下端に設けられた毛糸ガイドに換える動機は見当たらない。また、仮に、甲1発明の案内穴48fを備える布押え48と保護カバー46とを一体化して「安全カバー」とし、案内穴48fの位置を、該安全カバーの下端すなわち押え部48aに変更したとすると、加工布80を押える押え部48aの案内穴は加工布80で塞がれているのだから、毛糸81を、押え部48aの外側から内側へと通過させることができないことになる。したがって、このように変更することには阻害要因があるというべきである。

イ.請求人は、毛糸ガイドが、安全カバーの下端に設けられるのか、下方に設けられるのかは、毛糸を前後方向に案内するという機能が同じである以上、実質的な相違点とはなりえず、また仮に、実質的な相違点であるとしても、毛糸ガイドと安全カバーが、甲1のように別体とされるものを、本件発明1のように一体とすることは、単なる設計事項であると主張する(第3.4.(1))。しかし、本件発明1の毛糸ガイドと甲1発明の案内穴48fとでは設けられている位置が明確に相違しており、また、この点は、上記ア.のとおり、単なる設計事項ということはできない。

ウ.請求人は、甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」を一体化する際に、甲6の「毛糸ガイド用の横孔9が下端近傍に形成される筒体6」又は甲14の「毛糸ガイド用の切欠き6が下部に形成される筒体5」を甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」に適用して置換すれば、毛糸ガイドが形成される位置が「下端」か「下端近傍」、「下部」である点を除けば、本件発明1における「そのフェルティング針(3)を覆う安全カバー(12、12’)の(下端の)毛糸ガイド(13、13’)」と同じ構成となり、さらに、糸を孔でガイドするか溝でガイドするかは、何れも公知技術(甲15)であり、何れの方式でガイドするかは設計事項といえるから、孔を溝として毛糸ガイドが形成される位置を「下端近傍」、「下部」から「下端」に変更することは容易である旨を主張する(第3.4.(2)ア.)。
しかし、甲6の横孔9は、「まず、筒体6の横孔9から透孔6aに毛糸11を通してから、厚紙等からなる板材20を筒体6の下端とベースよりわずかに突出したストツパー16との間に挿入する。この状態で把手12を下方に押すと、押圧軸7が下降し、筒体6の透孔6aの下端付近に位置する毛糸11は押圧軸7の凹部8中に嵌入した状態で斜壁6bに沿つてしごかれつつ、板材20を貫通してストツパー16の受孔17中に押し込まれ、この動作中毛糸11はストツパー16の上端と筒体6の下端との間で挟持されるため、板材20の上面側にはたるみができず、縫われた側の糸は引つ張られず、ストツパー16の受孔17中に押し込まれた毛糸11のみがたるむ。」(甲6の2頁左欄21行?同右欄4行)とあるように、筒体6の下端に対して斜壁6bを挟んだ上方に位置することを要するから、その位置を筒体6の下端に変更し得るものではない。
また、甲14の切欠きは、「側方から糸を受入れ略水平に支承するための切欠き」(甲14の実用新案登録請求の範囲)とあるように、糸を(下から)略水平に支承するものであり、筒体の下端に対して支承する部分(切欠きの下側)を挟んだ上方に位置することを要するから、その位置を筒体の下端に変更し得るものではない。
そうしてみると、仮に甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」を一体化する際に、甲6の「毛糸ガイド用の横孔9が下端近傍に形成される筒体6」又は甲14の「毛糸ガイド用の切欠き6が下部に形成される筒体5」を甲1発明の「案内穴48fを備える布押え48」及び「保護カバー46」に適用して置換したとしても、その状態から更に、毛糸ガイドが形成される位置を安全カバーの下端へと変更することに動機がなく、また、そのようにすることには阻害要因があるというべきである。

エ.請求人は、甲15の第1?2図に、保護筒22の前面から下面に亘って形成される溝が開示されていると指摘する(第3.4.(2)イ.)。しかし、甲15の第1?2図から看取される溝については、甲15の考案の詳細な説明では何の説明もされておらず、この溝がどのように糸6を導くのか不明であるから、「糸のガイド」であるということはできない。このような、毛糸ガイドの構成や配置を開示又は示唆していない甲15事項に基いて、甲1発明の毛糸ガイドの構成や配置を設計変更することが、当業者にとって容易であったということはできない。

オ.よって、甲1発明において、相違点2に係る構成を備えることが、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。

(5)本件発明1の効果について
そして本件発明1は、相違点1、2に係る発明特定事項を備えることで、安全カバーの下端において「各布1の縫合線に沿うように…ガイド13により導」(【0017】)かれた毛糸に、安全カバーに覆われて上下動するフェルティング針を確実かつ安全に突き刺して、「布の種類に拘わらず、複数枚の布を容易にかつ強固に縫合することができるとともに、その縫合線はニードルフェルティングによる刺繍と同形状となり、布の縫合と刺繍を同時に行い得るものとなる」(【0012】)という格別な効果を奏するものである。

(6)小括
上記(3)、(4)のとおり、本件発明1と甲1発明とは少なくとも相違点1、2で相違するから、本件発明1は甲1発明ではなく、また、相違点1、2は当業者が容易に想到することができたものとはいえず、上記(5)のとおり本件発明1は格別な効果を奏するから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当しない。

3.本件発明2?7についての判断
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項をすべて包含するものであるから、上記2.と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明2?7は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当しない。


第6.むすび
以上のとおり、本件発明1?7に係る特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-12 
結審通知日 2017-12-14 
審決日 2018-01-17 
出願番号 特願2015-189692(P2015-189692)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (D05B)
P 1 113・ 113- Y (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人田中 尋  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
小野田 達志
登録日 2016-06-03 
登録番号 特許第5945050号(P5945050)
発明の名称 複数枚の布の縫合及びその縫合用ミシン  
代理人 鎌田 文二  
代理人 田川 孝由  
代理人 特許業務法人コスモ国際特許事務所  
代理人 鎌田 直也  
代理人 中谷 弥一郎  
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