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審決分類 審判 全部無効 特39条先願  B01F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01F
管理番号 1340650
審判番号 無効2016-800035  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-03-24 
確定日 2018-06-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第5865560号発明「気体溶解装置及び気体溶解方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
両当事者の主張の全趣旨から見て,請求人は,特許第5865560号の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は,請求人の負担とする,との審決を求めている。

第2.主な手続の経緯
平成27年 5月26日 本件特許出願
(特願2015-529952号
優先日平成26年5月27日)
平成28年 1月 8日 特許権の設定登録
(特許第5865560号)
平成28年 3月24日付け 審判請求書
平成28年 6月14日付け 答弁書
平成28年 8月 1日付け 弁駁書
平成28年 8月18日付け 審理事項通知
平成28年10月11日付け 請求人による口頭審理陳述要領書
平成28年10月11日付け 被請求人による口頭審理陳述要領書
平成28年10月21日付け 被請求人による上申書
平成28年10月25日 口頭審理
平成28年11月 8日付け 被請求人による上申書
平成28年11月22日付け 請求人による上申書

第3.本件発明
本件特許に係る発明は,明細書及び図面の記載からみて,特許第5865560号の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであるところ,これを,請求人が請求書で示す符号を付して分説して記載すると,次のとおりである(以下,本件特許に係る発明を「本件発明」といい,その内の各請求項に係る発明を「特許発明1」などという。)。

【請求項1】
A 水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解装置であって,
B 固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させる水素発生手段と,
C 前記水素発生手段からの水素を水素バブルとして水に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と,
D 前記加圧型気体溶解手段で生成した水素水を導いて貯留する溶存槽と,
E 前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と,を含み,
F 前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供することを特徴とする気体溶解装置。

【請求項2】
前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水することを特徴とする請求項1記載の気体溶解装置。

【請求項3】
前記溶存槽は前記加圧型気体溶解手段からの前記水素水を加圧貯留することを特徴とする請求項2記載の気体溶解装置。

【請求項4】
前記溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えて前記水素バブルを維持することを特徴とする請求項3記載の気体溶解装置。

【請求項5】
前記加圧型気体溶解手段はダイヤフラムポンプを含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の気体溶解装置。
【請求項6】
前記管状路は前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段を含むことを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の気体溶解装置。

【請求項7】
前記降圧移送手段は前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大若しくはより小とするテーパーを与えた圧力調整部を含むことを特徴とする請求項6記載の気体溶解装置。

【請求項8】
水に水素を溶解させて水素水を生成し取出口から吐出させる気体溶解方法であって,
固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させる水素発生手段と,
前記水素発生手段からの水素を水素バブルとして水に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と,
前記加圧型気体溶解手段で生成した水素水を導いて貯留する溶存槽と,
前記溶存槽及び前記取出口を接続する管状路と,において,
前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供することを特徴とする気体溶解方法。

【請求項9】
前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水することを特徴とする請求項8記載の気体溶解方法。

【請求項10】
前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを与えることを特徴とする請求項9記載の気体溶解方法。

第4.当事者の主張及び証拠方法
以下において,甲第2号証等を甲2等といい,甲2の実用新案登録請求の範囲に記載された考案を甲2考案といい,その請求項1等に記載された考案を甲2考案1等という・・・・

1.請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
ア 無効理由1
請求人は,特許発明1,特許発明3,特許発明5,特許発明6および特許発明8は,先願に係る甲第1号証及び甲第2号証の実用新案登録請求の範囲に記載された考案と実質的に同一であり,特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものであると主張している。

イ 無効理由2
請求人は,本件特許は,特許法第36条第6項第1号および第2号に規定された要件を満たしていないから,特許法第123条第1項第4号の規定により,本件特許は無効とされるべきものであると主張している。

ウ 無効理由3
請求人は,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定された要件を満たしていないから,特許法第123条第1項第4号の規定により,本件特許は無効とされるべきものであると主張している。

(2)証拠
請求人が提出した証拠は,以下のとおりである。
甲1:実用新案登録第3190824号公報
甲2:実用新案登録第3190824号についての実用新案法第14条の2第1項の訂正に係る訂正書

(3)主張の要点
請求人の主張の要点は,以下のとおりである。
以下においては,行数は,空白行を含まない。

ア 無効理由1
(ア)特許発明1について
a 甲2考案1には,「前記気体が水素であり,前記気体発生機構が,水素発生機構である」と記載されており,甲2考案の「気体」を「水素」または「水素ガス」と読み替える。
甲2考案1には,「気体を加圧して液体に溶解させる」と記載されているが,甲2の【0038】には「本考案において,液体としては,特に限定されない」が,「特に水が好ましい」と記載されており,甲2考案の「液体」を「水」と読み替える。(審判請求書第7頁第7-19行)

b 要件A
甲2考案1には「前記気体(水素)を加圧して液体(水)に溶解させる加圧型気体溶解機構」と記載されているから,甲2考案1の気体溶解装置が水に水素を溶解させて水素水を生成するものであることは明らかである。
また,甲2考案1には「前記気体(水素)を溶解している前記液体(水)を溶存する溶存機構」と記載され,気体(水素)が溶解されている液体(水)が,内径が1.0mmより大きく5.0mm以下である細管を流れることで降圧する降圧機構が記載されている。
したがって,甲2考案1においては,「溶存機構」内の水素水は,細管を介して,取り出されるから,甲2考案1の気体溶解装置は,水に水素を溶解させて水素水を生成し,細管を介して,取出口から吐出させるように構成されている。
よって,甲2考案1は特許発明1の要件Aを備えている。(審判請求書第7頁第24-39行)

c 要件B
甲2考案1には「気体(水素)発生機構」が電気分解によって水素を発生させるものである旨の限定はないが,水素を発生させる手段として,水の電気分解は周知であるから,甲2考案1には実質的に「電気分解によって水素を発生する水素発生機構」が記載されていると解される。
万一仮に,理解することができないとしても,甲2考案2には「前記水素発生機構が,電気分解により水素を発生させるものである」と記載されている。
また,甲2考案には,水素発生手段が固体高分子膜(PEM)を挟んだ電気分解により水素を発生させるものである旨の記載はないが,本件特許明細書(審判請求人は「特許公報」という用語を用いているが,「特許明細書」を意味していることは明らかであるので,以下では「特許明細書」と記載する。)の【0032】に,「水素発生手段21が,電気分解により水素を発生させるもので,例えば,固体高分子膜(PEM)方式として知られる公知の装置であっても良い」と記載されているように,電気分解装置として,固体高分子膜(PEM)方式の電気分解装置は公知であるから,固体高分子膜(PEM)方式の電気分解装置を選択することは,当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。
よって,甲2考案2は特許発明1の要件Bを備えている。(審判請求書第8頁第6-26行)

d 要件C
甲2考案1には,気体溶解装置が「前記気体(水素)を加圧して液体(水)に溶解させる加圧型気体溶解機構」を備えている旨が記載されている。
ここに,水素を加圧して水に溶解させる際に,水素は必然的にバブル状になるから,甲2考案1は特許発明1の要件Cを備えている。(審判請求書第8頁第31-36行)

e 要件D
甲2考案1には,気体溶解装置が「前記気体(水素)を溶解している前記液体(水)を溶存する溶存機構」を備えている旨が記載されている。
したがって,甲2考案1は特許発明1の要件Dを備えている。(審判請求書第9頁第1-5行)

f 要件E
甲2考案1には,気体溶解装置が「前記気体(水素)が溶解されている液体(水)が,内径が1.0mmより大きく5.0mm以下である細管を流れることで降圧する降圧機構」を備えている旨が記載されている。
ここに,甲2考案1の降圧機構を構成する細管が溶存機構(溶存槽)および水素水を取り出す取出口を接続する「管状路」に該当することは疑いがない。
よって,甲2考案1は特許発明1の要件Eを備えている。(審判請求書第9頁第9-17行)

g 要件F
甲2考案1には,気体溶解装置が溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む水素水を加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させるように構成されているとの記載はない。
しかしながら,水に含まれる気体濃度を高めるために,気体を溶解した水を循環(リサイクル)させることは,気体を高濃度で液体に含有させる上での常套手段であり,水素水中の水素濃度を高めるために,かかる手段を用いることは,当業者にとって当然になし得る設計事項であるから,かかる差異に基づいて,特許発明1が甲2考案1と同一ではないとは言い得ない。
のみならず,甲1の【0034】には「過飽和の水素水をウォーターサーバー100中に保存できるとともに,循環のできるので,常に過飽和の水素水を供給することができる。」と記載されている。
そして,甲1の図2には,電気分解によって水素を発生させる水素発生機構21およびイオン交換機構22を備えた気体発生機構2と,水素発生機構21により発生され,水素供給管24によって供給された水素を加圧し,ウォーターサーバー100から供給された水に加圧溶解し,水素水を生成する加圧型気体溶解機構3と,加圧型気体溶解機構3により生成された水素水を過飽和の状態で貯留する溶存槽4と,溶存槽4から過飽和状態体の水素水が供給され,水素水が溶解された水を気体発生機構2に供給するウォーターサーバー100を備えた装置が開示され,甲1及び甲2の【0034】には「ウォーターサーバー100に気体溶解装置1を取付けることで,ウォーターサーバー100中の水を用いて,水素ガスを発生させ,さらにそれを用いて過飽和の水素水を供給することができる」と記載されているから,溶存槽4から過飽和状態体の水素水が供給されるウォーターサーバー100から,水素発生機構21に水が供給され,電気分解に供されていることが認められる。
このように,ウォーターサーバー100に気体溶解装置1を取付けた装置において,ウォーターサーバー100中の過飽和の水素水が溶解した水を水素発生機構21に供給して,電気分解に供し,リサイクルする技術は,甲1に記載されており,したがって,甲1のかかる記載は「溶存槽4に貯留された水素を飽和状態で含む水素水を加圧型気体溶解手段3に送出し加圧送水して循環させる」ように構成することは,当業者にとって単なる設計事項に過ぎないことの証左である。

甲2考案には,水素バブルをナノバブルとする旨の記載はない。
しかしながら,本件特許明細書の【発明の詳細な説明】において,「ナノバブル」に言及しているのは,【0045】のみで,それは,ウォーターサーバー100に気体溶解装置1’を取付けた装置に関してであり,本件特許明細書には,その他に水素ガスのナノバブルに言及した箇所はない。
本件特許明細書の【0045】には,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された」と記載されているところ,「かかる装置」とは,図3に示されるように,気体溶解装置1’をウォーターサーバー100に取り付けた装置であり(【0043】),本件特許明細書の図3は甲2の図2と同一である。
さらに,甲1の【0034】の記載は,本件特許明細書の記載と実質的に同一であるから,本件特許明細書の図3に示された装置を「約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された」というのであれば,甲第1号証の図2の装置を「約30分間稼動させ」れば,「500nm以下のナノバブルが光学的に観察され」,「引き続き3日間稼動させ」れば,「200nm程度のナノバブルが光学的に観察され」るはずである。
よって,甲2には「水素バブル」,「ナノバブル」についての言及はないが,甲2の気体溶解装置においても,「水素バブルをナノバブルとする」現象が発生していることは,自然法則上,自明である。
すなわち,「水素バブルをナノバブルとする」現象は特定の構成を採用したことによって生ずるものであるところ,特許発明1の要件Fには,「水素バブルをナノバブルとする」のに必要な構成としては,「水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ」ることしか記載がない。
そうであれば,上述のように,「溶存槽4に貯留された水素を飽和状態で含む水素水を加圧型気体溶解手段3に送出し加圧送水して循環させる」ように構成することは当業者にとって単なる設計事項に過ぎないから,要件Fを備えているという理由で,特許発明1が甲2考案2と実質的に同一でないと解することは,2以上の同一発明ないし考案につき,ダブルパテントを付与することになるところ,甲2考案の実用新案権者は本件特許の特許権者と同一であることに鑑みれば,要件Fを備えているという理由で,特許発明1が甲2考案2と実質的に同一でないと解することは不当に保護期間を延長することに他ならず,明らかに誤りである。
よって,甲2考案1は特許発明1の要件Fを備えている。(審判請求書第9頁第24行-第11頁第25行,弁駁書第6頁第3行-第8頁第3行)

h 甲2の図1に示された気体溶解装置の「液体吸入口7」および「水素水吐出口10」には当然に「冷水タンク」が接続されていると解すると,甲2考案は,本件発明と全く同様に,図1の気体溶解装置をクレームしたものだから,甲2考案は本件発明と同一である。(平成28年11月22日付け上申書)

i 以上のとおり,特許発明1は,甲2考案1と同一,少なくとも甲2考案2と同一であり,甲1にかかる出願は,本件特許にかかる出願の先願に該るから,特許発明1は特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第11頁第26-31行)

(イ)特許発明3について
甲2考案1に記載された気体溶解装置は,水素を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構と,「前記水素を溶解している前記液体を溶存する溶存機構」を備えており,加圧型気体溶解機構によって,水素を加圧して水に溶解させることによって得られる液体は水素水に他ならないから,特許発明3のうち,特許発明1に従属する発明は,甲2考案1と同一で,特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであり,したがって,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第11頁第36行-第12頁第5行)

(ウ)特許発明5について
甲2考案6には,「前記加圧型気体溶解機構が,ダイヤフラムポンプである請求項5記載の気体溶解装置」と記載されている。
したがって,特許発明5のうち,特許発明1に従属する発明は,甲2考案6と同一で,特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであり,したがって,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第12頁第10-17行)

(エ)特許発明6について
甲2考案には,特許発明6の記載に類する記載はない。
しかしながら,本件特許明細書の【0035】には,「本発明の気体溶解装置1は,降圧移送手段5である細管5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく,1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで,特開平8-89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧することができるとともに,管内に層流を形成し得る」と記載されている。
したがって,この記載から,甲1の降圧機構5である細管の内径を1.0mmより大きく5.0mm以下にすれば,その細管内に層流を形成することができるということが認められるところ,甲2考案1には,「前記細管の内径が,1.0mmより大きく5.0mm以下」であることが記載されている。
よって,甲2考案1は,特許発明6の「降圧移送手段」と実質的に同一で,特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであり,したがって,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第12頁第23行-第13頁第4行)

(オ)特許発明8について
特許発明8と特許発明1との差異は,単に,特許発明1が「気体溶解装置」をクレームしているのに対し,特許発明8は「気体溶解方法」で,そのカテゴリを異にしているのみである。
したがって,特許発明8は,特許発明1と同様に,少なくとも甲2考案2と同一で,特許法第39条第3項の規定によって特許を受けることができないものであり,したがって,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第13頁第6-15行)

イ 無効理由2
(ア)特許発明1及び8について
a 本件特許明細書【0034】には,「水素を加圧溶解した水は,加圧型気体溶解手段3の吐出口9から吐出され,溶存槽4に過飽和の状態で溶存される(S5)。溶存槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)」と記載されているのみで,溶存槽4に貯留された水素を飽和状態で含む水素水を加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させる実施形態は記載されていない。
本件特許明細書の【0037】には,「本発明の気体溶解装置1は,加圧型気体溶解手段3で加圧して気体を溶解した液体を,排出せずに循環して加圧型気体溶解手段3に送り,循環した後に,降圧移送手段5に送ることが好ましい。これにより,より気体の溶解濃度を高めることができる」と記載されているが,この記載は,加圧型気体溶解手段3で加圧して気体を溶解した液体を循環して加圧型気体溶解手段3に送る旨が記載されているにすぎず,溶存槽4に貯留された水素水については全く言及がない。
また,図1に示された気体溶解装置1において,本件特許明細書の【0037】の記載にしたがって,気体を溶解した液体を循環させようとしても,加圧型気体溶解手段3で加圧して水素を溶解した水素水は,溶存槽4に送られ,降圧移送手段5の細管5aを流れて,取出口10から取り出されるから,図1に示された気体溶解装置1においては,加圧型気体溶解手段3で加圧して気体を溶解した液体を加圧型気体溶解手段3に循環させることはできない。
また,本件特許明細書の実施例2には,「図1に示す気体分解装置1を水道に接続して,4回循環して,水素水を生成した」ことが記載されているが,図1に示す気体分解装置1の液体吸入口7を水道に接続しても,水素水を循環させることはできない。
したがって,特許発明1の「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ」るという要件は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。(審判請求書第13頁第18-40行,弁駁書第8頁第13行-第9頁第8行,請求人口頭審理陳述要領書第2頁第20行-第13頁第16行)

b 本件特許明細書において,「ナノバブル」に言及しているのは,【0045】のみで,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された」と記載されているに過ぎない。
ここで,「かかる装置」とは図3に示された装置であるから,【0045】の記載は,図3に示された装置を用い,【0044】記載の,ウォーターサーバー100から水,気体発生手段2から水素を同時に加圧型気体溶解手段3のダイヤフラムポンプ3aに導き,これで加圧しながらバブリングし水素水を得,かかる水素水をダイヤフラムポンプ3aでの加圧状態を維持しながら,多孔質体などからなるマイクロフィルター(溶存タンク)41,活性炭フィルター(溶存タンク)42を通じて,降圧移送手段5の細管5aを経て再び,ウォーターサーバー100に導くとともに,ダイヤフラムポンプ3aを出た水素水の一部を,イオン交換手段22を介して水素発生手段21に送り,電気分解をさせて水素を発生させ,発生した水素を気体溶解装置3のダイヤフラムポンプ3aに送るという操作を約30分間続けると,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察されたというものである。
しかしながら,特許発明1には「ウォーターサーバー」についての言及はなく,特許発明1の構成は図3に示された装置の構成と一致していない。 (審判請求書第14頁第1-25行,弁駁書第9頁第9行-第12頁第34行,請求人口頭審理陳述要領書第5頁第27行-第6頁第5行)

c 本件特許明細書【0045】の「かかる装置」が図3に示された装置を指していることは明らかであり,したがって,本願出願当初明細書【0043】,【0045】及び【0053】の記載はいずれも,ウォーターサーバー100に気体溶解装置1’を取付けた装置に関するものである。
「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする」という要件を追加する補正をおこなうにあたり,意見書において,かかる補正は,本願出願当初明細書【0053】の記載に基づいていると述べているところ,【0053】に記載されているのは「実施例1」であって,「実施例2」ではない。
したがって,出願人は,補正するにあたり,「ウォーターサーバー」が必須要件と考えていたことは明白である。
よって,特許発明1及び8は,「ウォーターサーバー」を必要不可欠な要件としていることは明らかである。(請求人口頭審理陳述要領書第5頁第27行-第6頁第5行)

d このように,特許発明1の構成は図3に示された装置の構成と一致していないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,請求項1に記載された発明に対応する記載はなく,したがって,特許発明1は発明の詳細な説明に記載されていないから,請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず,特許発明1は不明確であるから,請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。(審判請求書第14頁第31-39行,同第18頁第28-37行),弁駁書第8頁第13行-第13頁第6行)

e 請求項1に記載された発明をサポートしているのは,図3に示されたウォーターサーバー100に記載溶解装置1’が取り付けられた装置のみであるから,ウォーターサーバーが必須の要件であるが,現請求項1は「ウォーターサーバー」を要件として備えていないから,現請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。(請求人上申書第2頁第6-10行)

f 本件特許明細書の段落【0034】は,水を吸入する部分を「液体吸入口7」と称し,水素水が吐出される部分を「水素水吐出口10」と称しており,「吸入口7」から吸入されるのは「水」で,「吐出口10」から吐出されるのは「水素水」であると,「水」と「水素水」とを明確に区別しているから,「液体吸入口7」と「水素水吐出口10」には当然に「冷却タンク」が接続され,「水素水吐出口10」から,水素水が「冷却タンク」に吐出され,「冷却タンク」内の水素水が「液体吸入口7」から吸入され,リサイクルされていると解することはできない(請求人上申書第2頁第14-20行)

(イ)特許発明2及び9について
特許発明2及び9には,「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」ことが規定されている。
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,特許発明2及び9に対応する記載は全くなく,したがって,特許発明2及び9は発明の詳細な説明に記載されていないから,請求項2及び9の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず,また,特許発明2及び9は不明確であるから,請求項2及び9の記載は特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。(審判請求書第15頁第4-13行,第19頁第1-7行)

(ウ)特許発明4について
特許発明4は,「前記溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えて前記水素バブルを維持することを特徴とする請求項3記載の気体溶解装置」をクレームしている。
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には「水素バブル」についての言及が全くないから,請求項4の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず,また,特許発明4は不明確であるから,請求項4の記載は特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。(審判請求書第15頁第33行-第16頁第6行)

(エ)特許発明6について
特許発明6には「前記管状路は前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段を含むことを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の気体溶解装置」と記載されている。
上述のように,本件特許明細書の段落【0035】には,「本発明の気体溶解装置1は,降圧移送手段5である細管5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく,1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで,特開平8-89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧することができるとともに,管内に層流を形成し得る」と記載されており,「管内に層流を形成し得る」ためには,降圧移送手段5である細管5aの内径を特定の値にしなければならないことが記載されている。
したがって,請求項6には,どのようにすれば「前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ことができるのかについての記載がない。
よって,特許発明6は不明確であって,請求項6の記載は特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書第17頁第1-19行)

(オ)特許発明7について
請求項7には「管径をより大若しくはより小とするテーパー」という択一的な記載が含まれており,特許発明7は不明確であって,特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書第18頁第5-8行)

(カ)特許発明10について
特許発明10は,「前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを与えることを特徴とする請求項9記載の気体溶解方法」をクレームしている。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を水槽中に導き,前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい」(段落【0026】),「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された」(段落【0045】)と記載されている。
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,200nm以下の平均径の水素バブルが好ましい旨の記載はないから,特許発明10は発明の詳細な説明に記載されてはおらず,したがって,請求項10の記載は特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず,したがって,当然に,特許発明10は不明確であるから,請求項10の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。(審判請求書第19頁第13-29行)

(キ)上記,各特許発明を引用する他の特許発明も同様である。(審判請求書第15頁第19-25行,第16頁第7-10行,第21-32行,第17頁第20-24行,第18頁第18-21行,第19頁第1-7行,第37-40行)

(ク)よって,本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により,無効とされるべきものである。

ウ 無効理由3
(ア)特許発明1及び8について
本件特許明細書の段落【0044】および【0045】には,水素発生量,水の流量,温度などの実験条件ないし実施条件が全く特定されておらず,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする」ことができる程度に明確かつ十分に記載されていない。(審判請求書第14頁第26-31行,第18頁第23-27行)

(イ)特許発明2及び9について
特許発明2には,「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」ことが規定されている。
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,特許発明2に対応する記載は全くない。(審判請求書第15頁第4-9行,第19頁第1-5行)

(ウ)特許発明4について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には「水素バブル」についての言及が全くない。(審判請求書第15頁第36-37行)

(エ)特許発明7について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,どのような場合に「前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大」とし,どのような場合に「前記管状路の前記取出口近傍に管径をより小」とするかにつき,全く記載がない。(審判請求書第18頁第9-12行)

(オ)特許発明10について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,どのようにすれば,200nm以下の平均径の水素バブルを生成することができるかについての記載が全くない。(審判請求書第19頁第30-32行)

(カ)上記の特許発明を引用する他の特許発明も同様であり,したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。
よって,本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により,無効とされるべきものである。(審判請求書第14頁第40行-第15頁第2行,第14-17行,第28-31行,第16頁第3-10行,第33-39行,第17頁第25-32行,第18頁第13-17行,第34-37行,第19頁第7-11行,第32-36行)

2.被請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
被請求人は,本件無効審判の請求は成り立たないと主張している。

(2)証拠
被請求人が提出した証拠は,以下のとおりである。
なお,答弁書に添付された参考文献1及び2は,公開が本件特許出願日以降であるので採用しないこととなった。(調書 被請求人欄1)
参考文献3:特開2013-199320号公報
参考文献4:特開2008-180453号公報

(3)主張の要点
被請求人の主張の要点は,以下のとおりである。
ア 無効理由1
本件の特許査定の経緯についてみると,平成27年10月5日の拒絶理由通知書に対する応答として,同月20日に手続補正書を提出し請求項1及び8を補正したことで同年12月11日に特許査定となっている。つまり,「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供すること」(要件F)の下線部を補正して特許査定されたものであって,かかる水素水の循環等についての要件Fが審査過程で発明特定事項として認定された部分である。
一方,甲2考案1では,「気体を加圧して溶解させた液体を細管中を流して降圧することで,前記目的を達成し得る」(甲1考案明細書第【0016】欄)との記載に対応させ,この細管について,請求項1では,「前記細管の内径が,1.0mmより大きく5.0mm以下であり,」としている。つまりかかる箇所が発明特定事項である。なお,平成27年9月3日の訂正で独立請求項に加えられた事項でもある。
本件発明及び甲2考案ともにその明細書第【0015】欄に課題を記載しており,(1)気体を過飽和の状態で液体に溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持させること,(2)ウォーターサーバー等へ容易に取付けることができるようにすること,で課題を共通にしている。
他方,上記したように,甲2考案1の発明特定事項は細管の内径を特定範囲にすることであり,特許発明1及び8における水素水の循環等の発明特定事項とは全く異なる。少なくとも,本件発明1及び8では,管状路(要件E)がこの細管に対応するとしても,かかる管状路の内径を特定範囲にすることを一切含んでいない。
また,本件発明及び甲2考案とも課題を共通にするが,この課題解決のための具体化手段が,前者は水素水の循環等であり,後者は管状路(細管)の内径を特定範囲にすることであって,具体化手段の特定しようとする部位も異なるのであるから,互いに微差でなどあり得ない。(答弁書第4頁第10-最下行)

特許発明1は「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供する」との「構成要件F」を備えるのに対して,甲2考案1は,当該構成要件Fに対応する構成要件を備えておりません。
また,甲2考案1に従属する甲2考案2?8についても,上記構成要件Fすなち水素を含む水素水を循環させるための構成要件が記載又は示唆されていません。
この点について検討すると,特許発明1の「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする」との特定事項は,「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持しこれを提供でき」(本件特許明細書の段落0015参照)との本件発明の課題を解決するための本件発明のポイントであり,これにより,過飽和の状態を安定に維持できるという従来にない効果を奏するものです。
したがいまして,上記点は,審査基準にいう「課題解決のための具体化手段における微差」には該当しません。
また,甲2考案1?8には,水素水が細管を流れる点が記載されていますが,当該細管を仮に「循環させる」構成としたとしても,単なる細管を循環系路とすることは,細管の機能を追加する下位概念化であって,審査基準にいう「先願発明の発明特定事項を上位概念として表現したことによる差異」には該当しません。
さらに,特許発明1と甲2考案とは,いずれも「気体溶解装置」の同一のカテゴリーに属する発明であるため,審査基準にいう「単なるカテゴリー表現上の差異」にも該当しません。
また,特許発明8と甲2考案との関係についても,特許発明8が「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとするとともにこの一部を前記水素発生手段に導き電気分解に供する」構成要件を備えるのに対して,甲2考案は,当該構成要件に対応する構成要件を備えておりません。
したがいまして,特許発明1と同様に,特許発明8と甲2考案とは,実質同一には該当しません。(平成28年11月8日付け被請求人上申書第1頁下から7行-第2頁34行)

イ 無効理由2
(ア)特許発明1について
a 本件特許の請求項1の「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記バブルをナノバブルとする」の記載に関し,少なくとも,本件特許図面の図3や図4を参照すると,溶存槽41,42に貯留された水素水を加圧型気体溶解手段3に送出し加圧送水して溶存槽41,42に循環させている。この図3に関して,本件特許明細書では,「過飽和の水素水をウォーターサーバー100中に保存できるとともに,循環できるので,常に過飽和の水素水を供給することができる。」(本件特許明細書第【0043】欄)と過飽和の水素水を循環させることを説明し,更に,図3及び図4に関して,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」(本件特許明細書第【0045】欄)として,バブルをナノバブルとし得ることも説明している。
以上のことから,「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記バブルをナノバブルとする」という要件は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。その他の要件A?Eについても同様であって,すなわち,請求項1の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。

b 請求人の主張について
請求人は,「本件特許の請求項1に記載された『前記溶存槽に貯留された水素水を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させるという』要件は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。」(審判請求書第13頁第37?40行目)とするが,上記したように,本件特許図面の図3及び図4,本件特許明細書の第【0043】欄に記載されている。
また,「本件特許の請求項1に記載された装置の構成は図3に示された装置の構成と一致していないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,請求項1に記載された発明に対応する記載はなく」(審判請求書第14頁第33?35)ともする。この根拠として,審判請求書第14頁第23,24行目では,請求項1には「ウォーターサーバー」についての言及がないことを挙げている。しかしながら,本件特許図面の図3及び図4には「ウォーターサーバー」が含まれている一方,「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持しこれを提供」(本件特許明細書第【0015】欄)する本件特許発明の課題の達成のために,特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを抽出し,請求項1に「ウォーターサーバー」を記載しなかったものである。すなわち,本件特許図面及び明細書に記載された発明にかかる装置の構成要素から発明特定事項を抽出して記載された本件特許発明1が本件特許図面及び明細書に記載されていることは明白である。そして,請求項1に「ウォーターサーバー」が含まれなくても,本件特許図面及び明細書に記載されている装置であるのだから,本件特許発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとならないことも明白である。
以上のように,請求項1で特許を受けようとする発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり,請求人の説明は誤っており,失当である。
なお,審判請求人は,本件特許の特許請求の範囲の記載について,特許を受けようとする発明が明確でないことを具体的に述べていない。すなわち,特許法第36条6項1号に規定される要件を満たしていないことが,直ちに,同2号の発明の記載が不明確であるとするが,論理が飛躍しており,明確でないとする根拠を具体的に示すべきである。(答弁書第6頁第3行-第7頁第12行)

本件図3は,この一般的なウォーターサーバーが備える一時貯留用の水槽に気体溶解装置1を接続した状態を想定した図である。つまり,一般的なウォーターサーバーが備える一時貯留用の水槽を利用している状態である。本件図3では,この一般的なウォーターサーバーが備える一時貯留用の水槽を「ウォーターサーバー100」と表現しているにすぎない。
もっとも,理論的には,水槽を接続する必要はない。例えば,吐出口10と吸入口7を直接接続しても,溶存槽に保存された水素水が循環させられて最終的に加圧型気体溶解手段に送出されるなら,ナノバブルの水素水を得られることに変わりはない。だからこそ,本件図1では,何も接続されていない気体溶解装置1を挙げている。
以上より,本件発明においては,ウォーターサーバー100は必須ではない。
ちなみに,実施例1,3?13では,このように,一般的なウォーターサーバーが備える一時貯留用の水槽に気体溶解装置1を接続した状態を例としたもので,実施例2で説明している例では,この水槽に水道水を与えたものである。
そして,実施例の水素濃度等は,一般的なウォーターサーバーの一時貯留タンクに対応する本件図3の「ウォーターサーバー100」の中の飲料水を測定したものである。(被請求人による口頭審理陳述要領書第3頁下から5行-第4頁12行)

(イ)特許発明2について
a 「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」の記載に関し,少なくとも,本件特許図面の図3や図4を参照すると,溶存槽41,42からウォーターサーバー100,加圧型気体溶解手段3を経て溶存槽41,42への循環経路において,矢印が示すように加圧型気体溶解手段3が加圧送水している。そして,この図3及び図4に関して,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」(本件特許明細書第【0045】欄)として,装置を稼動,つまり,加圧型気体溶解手段を稼動させると,少なくとも,約30分間のときよりも3日間のときの方がバブルを小さくできたことを述べて,加圧型気体溶解手段は生成した水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水することも説明している。また,加圧型気体溶解手段や溶存槽については,ア-1で述べたように,当業者が実施できる程度に具体的に説明している。
以上のことから,「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」という要件,すなわち,請求項2の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。
b 請求人の主張について
請求人は,本件特許発明2に対応する記載は全くないとするが,上述したように誤りであり,本件特許発明2は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり,請求人の説明は誤っており,失当である。
なお,審判請求人は,上でも述べたように,ここでも本件特許の特許請求の範囲の記載について,特許を受けようとする発明が明確でないとする根拠を具体的に述べておらず,特許法第36条6項2号の発明の記載が不明確とするための論理が飛躍しており,根拠を具体的に示すべきである。(答弁書第7頁第14行-第8頁第2行)

(ウ)特許発明3について
請求人は,請求項3が,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項2を引用することを根拠として,同号違背であると説明するが,上記したように,請求項2に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第8頁第4-6行)

(エ)特許発明4について
a 「前記溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えて前記水素バブルを維持する」の記載に関し,「多孔質体などからなるマイクロフィルターを内部に含む溶存タンク41と活性炭フィルターを内部に含む溶存タンク42を有しており,これにより過飽和の状態をより安定に維持することができる」(本件特許明細書第【0041】欄)として,溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えられて過飽和の状態をより安定に維持させることを説明している。ここで,水素水から水素バブルが抜けてしまうと過飽和の状態から水素濃度を低下させてしまうため,過飽和の状態を保つよう水素バブルを含む水素水のままに維持することが必要であって,溶存槽は水素バブルを維持した水素バブルを含む水素水で加圧貯留することになる(本件特許明細書第【0026】欄参照)。
以上のことから,「前記溶存槽は少なくともその一部にフィルターを与えて前記水素バブルを維持する」という要件,すなわち,請求項4の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。
b 請求人の主張について
請求人は,本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には「水素バブル」についての言及が全くないとするが,上述したように誤りである。つまり,本件特許発明4は発明の詳細な説明に記載されたものであり,請求人の説明は誤っており,失当である。
また,審判請求人は,ここでも特許請求の範囲の記載について,特許を受けようとする発明が明確でないとする根拠を具体的に述べておらず,特許法第36条6項2号の発明の記載が不明確であるとする論理が飛躍しており,根拠を具体的に示すべきである。
更に,請求人は,請求項4が,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項2,3を引用することを根拠として,同号違背であると説明するが,上記したように,請求項2,3に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第8頁第8-34行)

(オ)特許発明5について
請求人は,請求項5が,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項1?4を引用することを根拠として,同号違背であると説明するが,上記したように,請求項1?4に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第8頁第36行-第9頁第2行)

(カ)特許発明6について
a 「前記管状路は前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段を含む」の記載に関し,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。」(本件特許明細書第【0030】欄)として管状路5aは取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止し層流を形成させることを説明している。そして,「例えば,降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径の小さいことが好ましく,管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。」(本件特許明細書第【0030】欄)として,管状路5a内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段5の具体例を挙げ,当業者が実施できる程度に構成要素についても具体的に説明している。
以上のことから,「前記管状路は前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる降圧移送手段を含む」という要件,すなわち請求項6の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。
b 請求人の主張について
請求人は,「したがって,請求項6には,どのようにすれば『前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる』ことができるのかについての記載がない」とするが,この『前記取出口からの…(中略)…層流を形成させる』のは,降圧移送手段の機能である。かかる機能を有する降圧移送手段の実施例が本件特許明細書の第【0035】欄に記載されているのである。つまり,請求人の主張は誤りである。(答弁書第9頁第4-27行)

(キ)特許発明7について
a 「前記降圧移送手段は前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大若しくはより小とするテーパーを与えた圧力調整部を含む」の記載に関し,本件特許の明細書第【0030】欄では,「降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。」として,その具体例として,「管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。」と説明している。つまり,管状路の取出口近傍にテーパーを与えることで圧力変動を防止しこの中に層流を形成させ得るのである。ここで,例えば,同じ体積の液体を内部に保持するには,管径を絞れば長さを大きくすることになるし,管径を拡げれば逆に長さを小さくでき,テーパーの付与で管状路内の圧力(流速)を調整できる。そして,管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させるのにどちらが適するかは設計的に決定され得るのである。
以上のことから,「前記降圧移送手段は前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大若しくはより小とするテーパーを与えた圧力調整部を含む」という要件,すなわち請求項7の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。
b 請求人の主張について
請求人は,「請求項7には『管径をより大若しくはより小とするテーパー』という択一的な記載が含まれており,請求項7に記載された発明(本件特許発明7)は不明確」と述べる。
しかしながら,請求項7の記載において,管径をより大若しくはより小とする選択自体が発明であるとする記載ではないし,そもそもテーパーとは管径を絞った若しくは拡げたものである。引用する請求項6の「管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ために,テーパーを与えた圧力調整部を与えることが不明確になるものではない。つまり,請求人の主張は誤りである。(答弁書第9頁第29行-第10頁第16行)

(ク)特許発明8について
請求人は,請求項8の「前記溶存槽に貯留された…(中略)…電気分解に供する」の記載は請求項1と同一であり,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項1と同一の記載を含むことを根拠として,請求項8も同号違背であると説明するが,上記したように,請求項1に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第10頁第12-16行)

(ケ)特許発明9について
請求人は,請求項9の「前記溶存槽から…(中略)…加圧送水する」の記載は請求項2と同一であり,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項2と同一の記載を含むことを根拠として,請求項8も同号違背であると説明するが,上記したように,請求項2に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第10頁第18-22行)

(コ)特許発明10について
a 「前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを与えること」の記載に関し,「500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」(本件特許明細書第【0045】欄)として,水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水でき,少なくとも500nm,そして200nmまで小さくでき得ることを説明している。ここで,当業者であれば,溶存槽4から減圧後のウォーターサーバー100において得られるバブル径はより小さくなることはないから,ウォーターサーバー100で200nm程度のナノバブルを得るのに溶存槽4では少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを与えなければならないことは当然である。
以上のことから,「前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを与えること」という要件,すなわち請求項10の記載は,その発明を本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載され,明確である。
b 請求人の主張について
請求人は,「本件特許明細書の発明の詳細な説明には,200nm以下の平均径の水素バブルが好ましい旨の記載はない」(審判請求書第19頁第24,25行目)から請求項10とは対応しないことを根拠に,請求項10に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されておらず,当然に,特許法第36条6項1,2号違背と帰結する。
しかしながら,少なくとも,200nm以下の平均径の水素バブルが好ましくないとした否定的な記載はなく,請求項10の記載と本件特許明細書の記載とは矛盾せず,請求項10に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されていないとの請求人の説明は根拠を失しており失当である。
その上,本件特許発明10が発明の詳細な説明に記載されていないとするなら,当然に,特許法第36条6項1,2号違背と帰結させており,具体的なことを述べていない。特許法第36条4項1号に規定される要件を満たしていないことが,直ちに,同条6項1,2号違背となるものではなく,論理が飛躍しており,根拠を具体的に示すべきである。
更に,請求人は,請求項10が,特許法第36条6項1,2号違背とする請求項9を引用することを根拠として,同号違背であると説明するが,上記したように,請求項9に同号の違背はなく,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第10頁第24行-第11頁第24行)

ウ 無効理由3
(ア)特許発明1について
請求人は,「さらに,本件特許明細書の段落【0044】および【0045】には水素発生量,水の流量,温度などの実験条件ないし実施条件が全く特定されておらず本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が『前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする』ことができる程度に明確かつ十分に記載されていない」(審判請求書第14頁第26?31行目)とする。
しかしながら,上記したように,「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記バブルをナノバブルとする」という要件に対して,本件特許図面の図3や図4,本件特許明細書第【0043】欄,第【0045】欄に記載され,更に,「水素を同時に加圧型気体溶解手段3のダイヤフラムポンプ3aに導かれ,これで加圧しながらバブリング」する(本件特許明細書第【0044】欄)として加圧型気体溶解手段にダイヤフラムポンプを選択し得ること,「溶存槽4としては,気体を溶解した状態で加圧下で溶存できれば,特に形状等は限定されず,…(中略)…溶存タンク41中の上部に気体が溜まることで液体と気体を分離出来,気体が溶存した液体のみが降圧移送手段5へと送ることができる」(本件特許明細書第【0042】欄)など,当業者が実施できる程度に構成要素についても具体的に説明している。
なお,請求人は,水素発生量,水の流量,温度などの実験条件ないし実施条件が特定されていないことを根拠に,当業者が『前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする』ことができないとする。しかしながら,本件特許明細書第【0045】欄では,図3の装置を引き続き稼動させることでバブル径をより小さくナノバブルとできることを述べており,少なくとも,循環させる稼動時間によって水素バブルをナノバブルとできることを明らかにしている。つまり,請求人の述べるように,水素発生量等の実験条件ないし実施条件が特定されなければ,発明を実施できないものではない。
つまり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と導いた請求人の説明は,根拠がなく,失当である。(答弁書第11頁第27行-第12頁第18行)

(イ)特許発明2について
上記したように,本件特許発明2は本件特許の明細書第【0045】欄に記載されている。つまり,「本件特許明細書の発明の詳細な説明には,請求項2に記載された発明に対応する記載は全くなく」(審判請求書第15頁第8,9行目)というのは誤りであり,これを根拠として,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と導いた請求人の説明も,根拠が誤っており,失当である。(答弁書第12頁第20-26行)

(ウ)特許発明3について
請求項3は請求項2を引用することを根拠として,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と請求人は説明する。しかしながら,上記したように,本件特許発明2は,少なくとも請求人の説明する点に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第12頁第28-33行)

(エ)特許発明4について
上記したように,本件特許発明4の水素バブルは,少なくとも本件特許の明細書第【0026】欄に記載されている。つまり,「本件特許明細書の発明の詳細な説明には『水素バブル』についての言及が全くないから」(審判請求書第15頁第36,37行目)というのは誤りであり,これを根拠として,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と導いた請求人の説明も,根拠が誤っており,失当である。(答弁書第12頁第35-第13頁第4行)

(オ)特許発明5について
請求項5は請求項1?4を引用することを根拠として,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と請求人は説明する(審判請求書第16頁第33?39行目)。しかしながら,上記したように,本件特許発明1?4は,少なくとも請求人の説明する点に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第13頁第6-12行)

(カ)特許発明6について
請求項6は請求項1?5を引用することを根拠として,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と請求人は説明する(審判請求書第17頁第25?32行目)。しかしながら,上記したように,本件特許発明1?5は,少なくとも請求人の説明する点に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第13頁第14-20行)

(キ)特許発明7について
請求人は,本件特許発明7の管径をより大又はより小とするのはどのような場合かについて本件特許明細書の発明の詳細な説明に全く記載がないから,本件特許発明7を本件特許明細書の発明の詳細な説明に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないことは明らかとする。しかしながら,上記したように,本件特許発明7は,本件特許の明細書第【0030】欄に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第13頁第22-28行)

(ク)特許発明8について
請求人は,請求項8の「前記溶存槽に貯留された…(中略)…電気分解に供する」の記載が請求項1の記載と同一であることを根拠に,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と説明する(審判請求書第18頁第36?39行目)。しかしながら,上記したように,本件特許発明1は,少なくとも請求人の説明する点に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第13頁第30行-第14頁第1行)

(ケ)特許発明9について
請求人は,請求項9の「前記溶存槽から…(中略)…加圧送水する」の記載が請求項2の記載と同一であることを根拠に,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない,と説明する(審判請求書第18頁第34?37行目)。しかしながら,上記したように,本件特許発明2は,少なくとも請求人の説明する点に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第14頁第3-10行)

(コ)特許発明10について
請求人は,「どのようにすれば,200nm以下の平均径の水素バブルを生成することができるかについての記載がない」(審判請求書第19頁第30?32行目)とするが,本件特許発明1の装置において,引き続き稼動させ,つまり,「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ」る(請求項1)ことで200nm以下の平均径の水素バブルを生成し得ることは,本件特許の明細書第【0045】欄などに記載したところであり,請求人の説明は根拠を失しており失当である。(答弁書第14頁第12-19行)

第5.当審の判断
1.無効理由1について
(1)甲2の請求項に係る考案
甲2の甲2考案1及び2は次のとおりである。
「【請求項1】
気体を発生する気体発生機構と,
前記気体を加圧して液体に溶解させる加圧型気体溶解機構と,
前記気体を溶解している前記液体を溶存する溶存機構と,
前記液体が細管を流れることで降圧する降圧機構と,を有し,
前記細管の内径が,1.0mmより大きく5.0mm以下であり,
前記気体が水素であり,前記気体発生機構が,水素発生機構であることを特徴とする気体溶解装置。
【請求項2】
前記水素発生機構が,電気分解により水素を発生させるものである請求項1記載の気体溶解装置。」

この甲2考案2を,特許発明1に倣って,記載の順序を入れ替えると,甲2考案2は次のとおりである。

液体に水素を溶解させて水素を溶解している液体を生成する気体溶解装置であって,
電気分解により水素を発生させる水素発生機構と,
前記水素発生機構からの水素を液体に与えて加圧送水する加圧型気体溶解機構と,
前記加圧型気体溶解機構で生成した水素を溶解している液体を導いて貯留する溶存機構と,
前記液体が内径が,1.0mmより大きく5.0mm以下の細管を流れることで降圧する降圧機構と,を含むことを特徴とする気体溶解装置。

(2)特許発明1と甲2考案2との対比
甲2考案2の「水素発生機構」,「加圧型気体溶解機構」,「溶存機構」は,それぞれ,特許発明1の「水素発生手段」,「加圧型気体溶解手段」,「溶存槽」に相当する。
また,甲2考案2の「細管」は,その文言からして,「管状路」である。
してみると,特許発明1と甲2考案2との一致点,相違点は以下のとおりである。

【一致点】
液体に水素を溶解させて水素を溶解している液体を生成する気体溶解装置であって,
電気分解により水素を発生させる水素発生手段と,
前記水素発生手段からの水素を液体に与えて加圧送水する加圧型気体溶解手段と,
前記加圧型気体溶解手段で生成した水素を溶解している液体を導いて貯留する溶存槽と,
管状路と,を含む気体溶解装置。

【相違点1】
甲2考案2は,水素を溶解させる対象が「液体」であるのに対し,特許発明1では「水」と特定されている点。

【相違点2】
甲2考案2は,「吐出口」の有無が特定されていないのに対し,特許発明1では「吐出口」が特定されている点。

【相違点3】
甲2考案2は,「水素発生手段」の具体的構成が特定されていないのに対し,特許発明1では「固体高分子膜(PEM)を挟んだ」手段に特定されている点。

【相違点4】
甲2考案2は,「加圧型気体溶解手段」において,水素をどのような形態で液体に与えているのか特定されていないのに対し,特許発明1では「水素バブル」とすることが特定されている点。

【相違点5】
甲2考案2は,「循環させ」るかどうか特定されていないのに対し,特許発明1では「循環させ」ることが特定されている点。

【相違点6】
甲2考案2は,「水素バブルをナノバブルとする」ことが特定されていないのに対し,特許発明1では「水素バブルをナノバブルとする」ことが特定されている点。

【相違点7】
甲2考案2は,「水素発生手段」に導く水に特段の定めがされていないのに対し,特許発明1では循環する水の「一部を前記水素発生手段に導」くことが特定されている点。

(3)特許発明1と甲2考案2との相違点の検討
上記第4.2.(3)アのとおり,被請求人は専ら相違点5についての主張をしている。よって,まず相違点5について検討する。

特許発明1と甲2考案2との間に相違点がある場合であっても,両者が実質同一である場合には,特許発明1と甲2考案2は同一となる。
そして,実質同一とは,相違点が次のアないしウのいずれかに該当する場合である。
ア 課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないもの)である場合
イ 先願発明の発明特定事項を,本願発明において上位概念として表現したことによる差異である場合
ウ 単なるカテゴリー表現上の差異である場合

ここで,相違点5とした「循環させ」る点について検討すると,特許発明1は「循環させ」ることにより,段落【0015】に記載された「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持しこれを提供でき」との課題を解決するものと認められる。
したがって,相違点5に係る「循環させ」る点は,「気体を過飽和の状態に液体へ溶解させ,かかる過飽和の状態を安定に維持しこれを提供でき」るとの甲2考案2では求められていない課題を解決して新たな効果を奏するものであるから,相違点5が,課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
また,特許発明1は甲2考案2に対して,「循環させ」る構成が付加されているのであるから,上位概念として表現したものとも認められない。
さらに,特許発明1と甲2考案2とが,単なるカテゴリー表現上の差異ということもできない。

よって,当該相違点5は実質同一とできず,その結果,他の相違点を検討するまでもなく,特許発明1と甲2考案2とが,実質同一であるとすることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は,相違点5について,第4.1.(3)ア(ア)gにおいて「水に含まれる気体濃度を高めるために,気体を溶解した水を循環(リサイクル)させることは,気体を高濃度で液体に含有させる上での常套手段であり,水素水中の水素濃度を高めるために,かかる手段を用いることは,当業者にとって当然になし得る設計事項である」と主張している。
しかしながら,上記のとおり,特許発明1は甲2考案2では求められていない新たな課題を解決するものであるから,常套手段(慣用手段)であるとはいえず,請求人の主張は採用することができない。
さらに,常套手段(慣用手段)ではないから,「ダブルパテント」であるともいえない。

(5)特許発明2ないし10について
特許発明1を引用する特許発明2-7及び,特許発明1とカテゴリーを異にする特許発明8及び8を引用する特許発明9及び10も,上記と同様に相違点5を含むものであるから,特許発明1と同様に,甲2考案2と同一であるとすることはできない。

(6)小括
以上のとおりであって,特許発明1ないし10は,甲2考案2と同一であるとすることはできない。
したがって,特許発明1ないし10に係る特許は,特許法第39条第3項の規定に違反してなされたものではないから,請求人が主張する無効理由1により,特許発明1ないし10に係る特許を無効にすることはできない。

2.無効理由2について
(1)特許発明1及び8について
ア 請求人の主張
請求人は,特許発明1及び8の「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする」という要件は,発明の詳細な説明に明確に記載されていない旨主張し,さらに,特許発明1及び8は,「ウォーターサーバー」を必要不可欠な要件としていることは明らかであるにもかかわらず,本件特許の請求項1および請求項8には「ウォーターサーバー」についての記載がないから,特許発明1及び8はいずれも発明の詳細な説明に記載されておらず,また,本件特許の請求項1の記載よび請求項8の記載は明確ではない旨主張している。

イ 判断
本件特許明細書には,次の記載がある。
(ア)「【0021】
上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を再度,前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。
【0022】
上記発明において,前記溶存槽に加圧貯留された水素水を水槽中に導き,前記水槽中の水を前記加圧型気体溶解手段に送出し水素バブルと同時に加圧送水することを特徴としてもよい。」

(イ)「【0033】
図1では,今回,液体として水を使用している。図2を併せて参照すると,液体吸入口7から水を吸入し(S1),加圧型気体溶解手段3の吸入口8を経由してポンプ3aで吸入し後述する水素発生手段21からの水素を配管内にて合流させ混合し(S2’),加圧溶解(S2)後,この吐出口9から水を吐出する。吐出された水の一部を分離し(S2’’),イオン交換手段22でイオン交換し(S3)水素発生手段用取入口23を経由して水素発生手段21に送られる。水素発生手段21では,イオン交換された水を用いて電気分解(S4)により水素を発生させ水素供給管24を通して加圧型気体溶解手段3の吸入口8へと送られる。また,電気分解により発生した酸素は,酸素排出口25を通して気体溶解装置1の外へと排出される。
【0034】
電気分解により発生した水素は加圧型気体溶解手段3の吸入口8へと送られ,そのポンプ3aにより加圧されることで,液体吸入口7から吸入した水に加圧溶解される。水素を加圧溶解した水は,加圧型気体溶解手段3の吐出口9から吐出され,溶存槽4に過飽和の状態で溶存される(S5)。溶存槽4に溶存された液体は,降圧移送手段5である細管5a内で層流状態を維持して流れることで降圧され(S6),水素水吐出口10から外部へ吐出される(S7)。」

(ウ)「【0043】
図3は,本発明の気体溶解装置の使用の一例を示す図である。図中,100はウォーターサーバーである。ウォーターサーバー100に気体溶解装置1’を取付けることで,ウォーターサーバー100中の水を用いて,水素ガスを発生させ,さらにそれを用いて過飽和の水素水を供給することできる。また,過飽和の水素水をウォーターサーバー100中に保存できるとともに,循環できるので,常に過飽和の水素水を供給することができる。」

(エ)「【0045】
かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」

(オ)「【0053】
(実施例1)
図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して,4回循環して,水素水を生成した。降圧移送手段5の細管5aは,内径2mmで長さ1.6mのポリプロピレン製のものを使用した。圧力を0.41MPa,水素発生量を21cm3/min,水の流量を730cm3/minで行った。30分運転後の水中の水素濃度は,7℃で6.5ppmの水素水となり,過飽和の状態を維持していた。」

まず,上記(イ)の記載から,図1に示される気体溶解装置1として,液体吸入口7から水を吸入し,水素水を水素水吐出口10から外部へ吐出する装置が理解される
そして,実施例1に関する上記(オ)の「図1に示す気体溶解装置1を図3に示すように市販のウォーターサーバー100に接続して」との記載から,図3の装置が実施例であり,図3の装置の「気体溶解装置1’」は,図1の「気体溶解装置1」と同一であり,図面上は構成の一部を省略して記載されているものと当業者であれば当然に理解するところである。
してみると,図3に示された「ウォーターサーバー100」に「気体溶解装置」の「吐出口10」が接続されていることは引用符号で示されているところ,図1と比較すれば,「液体吸入口7」も接続されていることは当然に理解できるところである。
そうすると,「気体溶解装置」の「吐出口10」から吐出された水素水は,「液体吸入口7」から「気体溶解装置」に戻ることも当然に認識できるものである。すなわち,溶存槽4に貯留された水素を飽和状態で含む水素水を加圧型気体溶解手段3に送出し加圧送水して循環させる構成が示されている。
一方,図3の実施例1としては循環させる経路に「ウォーターサーバー100」が存在するものの,上記(ア)の記載からすると,「ウォーターサーバー」というほどの装置を経由しなくても,単なる「水槽」等を用いて循環できることを当業者であれば認識でき,請求項1において「溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む水素水」が何らかの経路を経由して「加圧型気体溶解手段」に至ることを「循環」としていることと整合する。よって,「循環」する経路を「ウォーターサーバー100」に限定することが必須の構成であるとは認められない。

さらに,上記(エ)に記載されているように,図3の装置で「ナノバブルが光学的に観察さ」れたのであるから,「水素バブルをナノバブルとする」ことも明細書に記載されている。
また,特許法第36条第6項第1号が求める要件と,同法同条同項第2号が求める要件とは,対象及び観点を異にするものであるから,上記の事情が直ちに特許請求の範囲の記載が明確でないとすることにはならないため,特許発明1及び8の記載が明確でないとする理由もない。

(2)特許発明2について
ア 請求人の主張
請求人は,特許発明2には,「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」ことが規定されている。
しかしながら,発明の詳細な説明には,特許発明2に対応する記載は全くなく,また,本件特許の請求項2の記載は明確ではない旨主張している。

イ 判断
上記(1)イ(エ)のとおり,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」のであるから,時間が経過すればより小さい水素バブルが観察されたことが理解できるので,「水素バブルを時間とともに平均径を小さくする」ことは明細書に記載されたに等しいといえる。
また,上記(1)と同様に,特許発明2の記載が明確でないとする理由もない。

(3)特許発明4について
ア 請求人の主張
発明の詳細な説明には,「水素バブル」についての言及が全くなく,また,本件特許の請求項4の記載は明確ではない旨主張している。

イ 判断
本件特許明細書には,次の記載がある。
(ア)「【0026】
上記発明において,前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを含む水素水を加圧貯留させることを特徴としてもよい。」

(イ)「【0041】
さらに,本発明の気体溶解装置1は,流量に対して1/3の容量の溶存槽4となるように,溶存槽4を1個または2個以上複数有することが好ましく,特に2個以上有することが好ましい。2個以上とすることで,より効率よく短時間で気体を高濃度に溶解できる。図1では,多孔質体などからなるマイクロフィルターを内部に含む溶存タンク41と活性炭フィルターを内部に含む溶存タンク42を有しており,これにより過飽和の状態をより安定に維持することができる。」

上記(ア)の記載から,「水素バブル」については言及されており,発明の詳細な説明には「水素バブル」についての言及が全くなくということはできない。
また,上記(1)と同様に,特許発明4の記載が明確でないとする理由もない。

(4)特許発明6について
ア 請求人の主張
どのようにすれば「前記取出口からの水素水の吐出動作による前記管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ことができるのかについての記載がなく,本件特許の請求項6の記載は明確ではない旨主張している。

イ 判断
本件特許明細書には,次の記載がある。
(ア)「【0030】
ここで,降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば,降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径の小さいことが好ましく,管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。」

(イ)「【0035】
また,本発明の気体溶解装置1は,降圧移送手段5である細管5aの内径Xが,1.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく,1.0mmより大きく3.0mm以下であることがより好ましく,2.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。かかる範囲とすることで,特開平8-89771号公報記載の技術のように,降圧するために10本以上の細管を設置する必要が無く,細管5aを1本有することで降圧することができるとともに,管内に層流を形成し得る。また,ウォーターサーバー等に容易に取付けることができ,さらに,製造や故障時の修理が容易になり,ウォーターサーバー等への取付けがより容易になる。なお,本発明において,細管の内径Xとは,単管の場合の内径だけではなく,例えば,二重管中の細管の内径X等も含むものであり,形状は問わない。」

これらの記載からすると,「管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ための具体的構成は,発明の詳細な説明に記載されており,その具体的構成を含む概念として「管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ことは明確に認識できるものであるから,「管状路内の圧力変動を防止し層流を形成させる」ことが,発明の詳細な説明に記載されていないということはできず,また,上記(1)と同様に,特許発明6の記載が明確でないということもできない。

(5)特許発明7について
ア 請求人の主張
請求項7には「管径をより大若しくはより小とするテーパー」という択一的な記載が含まれており,特許発明7は明確でない旨主張している。

イ 判断
上記(4)イ(ア)に「管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。」と記載されているように「管径を絞った」「テーパー」と,「管径を」「拡げたテーパー」の両方の構成が発明の詳細な説明に記載されている。そして,「管径をより大若しくはより小とするテーパー」という記載からは,これら両方の構成を意味していると明確に理解できるのであって,なんら矛盾が生じることもなく,記載が明確でないということはできない。また「択一的」であることをもって,ただちに明確でないとはそもそもいえない。

(6)特許発明10について
ア 請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,200nm以下の平均径の水素バブルが好ましい旨の記載はないから,特許発明10は発明の詳細な説明に記載されてはおらず,また,特許発明10は明確でない旨主張している。

イ 判断
上記(3)イ(ア)に「前記溶存槽には少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを含む水素水を加圧貯留させることを特徴としてもよい。」と記載され,上記(1)イ(エ)のとおり,「かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」のであるから,加圧された状態ではより小さいバブルであることは技術常識から明らかであり,溶存槽に少なくとも200nm以下の平均径の水素バブルを含む水素水を加圧貯留させることは,発明の詳細な説明の当該記載から当然に認識できることであるため,特許発明10は,発明の詳細な説明に記載されているということができる。また,上記(1)と同様に,記載自体も明確でないということはできない。

(7)小括
以上のとおりであって,引用する請求項を含めて,特許発明1ないし10は,発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。また,明確でないとすることもできない。
よって,特許発明1ないし10に係る特許は,特許法第36条第6項第1号または第2号の規定に違反してなされたものではないから,請求人が主張する無効理由2により,特許発明1ないし10に係る特許を無効にすることはできない。

3.無効理由3について
(1)特許発明1及び8について
ア 請求人の主張
本件特許明細書の段落【0044】および【0045】には,水素発生量,水の流量,温度などの実験条件ないし実施条件が全く特定されておらず,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が「前記溶存槽に貯留された水素を飽和状態で含む前記水素水を前記加圧型気体溶解手段に送出し加圧送水して循環させ前記水素バブルをナノバブルとする」ことができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 判断
上記2(1)イに記載したように,図3に示された装置が実施例である。そして,【0053】以下に複数の実施例として,実施条件が示されている。【0044】及び【0045】は,実施条件は特定されていないものの,本件特許明細書【0052】の記載からすれば,【0044】及び【0045】にて「本発明」とされるものの具体的な実施例が,【0053】以下であることは明らかであるから,本件特許明細書を見た当業者は,当然に【0053】以下の条件を参照することになり,【0044】及び【0045】に実施条件が記載されていないからといって,当業者が特許発明1及び8を実施することができないとまではいうことはできない。

(2)特許発明2及び9について
ア 請求人の主張
特許発明2には,「前記溶存槽から前記加圧型気体溶解手段を経て前記溶存槽への循環経路において,前記加圧型気体溶解手段は生成した前記水素バブルを時間とともに平均径を小さくするように加圧送水する」ことが規定されている。
しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,特許発明2に対応する記載は全くない。

イ 判断
上記2(2)イのとおり,特許発明2及び9に対応する記載は,【0045】に記載されている。

(3)特許発明4について
ア 請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には「水素バブル」についての言及が全くない。(審判請求書第15頁第36-37行)

イ 判断
上記2(3)イ(ア)のとおり,発明の詳細な説明には「水素バブル」が記載されている。

(4)特許発明7について
ア 請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,どのような場合に「前記管状路の前記取出口近傍に管径をより大」とし,どのような場合に「前記管状路の前記取出口近傍に管径をより小」とするかにつき,全く記載がない。(審判請求書第18頁第9-12行)

イ 判断
本件特許明細書には,次の記載がある。
「【0030】
ここで,降圧移送手段5は,溶存槽4及び取出口10を接続する管状路5aにおいて,取出口10からの水素水の吐出動作による管状路5a内の圧力変動を防止しこの中に層流を形成させる。例えば,降圧移送手段5の管状路5aは,内部を流れる液体の圧力にもよるが比較的長尺であり径の小さいことが好ましく,管状路5aの取出口近傍に管径を絞った若しくは拡げたテーパーを与えた圧力調整部を含むものであってもよい。」

「管径を絞った若しくは拡げたテーパー」との記載からすると,「絞った」場合と「拡げた」場合の何れでも良いと理解できるものであり,どのような場合にどちらを選ぶかが記載されていないからといって特許発明7を実施できないものとは認められない。

(5)特許発明10について
ア 請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,どのようにすれば,200nm以下の平均径の水素バブルを生成することができるかについての記載が全くない。(審判請求書第19頁第30-32行)

イ 判断
本件特許明細書には,次の記載がある。
「【0045】
かかる装置で,約30分間稼動させたところ,500nm以下のナノバブルが光学的に観察され,引き続き3日間稼動させたところ,200nm程度のナノバブルが光学的に観察された。」

この記載から,実施例の装置を3日間稼動させればよいことは理解でき,特許発明10を実施することができないということはできない。

(6)小括
以上のとおりであって,当業者であれば,明細書等の記載に基づいて,引用する請求項を含めて,特許発明1ないし10を実施することができると認められる。
よって,特許発明1ないし10に係る特許は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものではないから,請求人が主張する無効理由3により,特許発明1ないし10に係る特許を無効にすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由によっては,特許発明1ないし10に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-13 
結審通知日 2017-02-16 
審決日 2017-02-28 
出願番号 特願2015-529952(P2015-529952)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (B01F)
P 1 113・ 4- Y (B01F)
P 1 113・ 537- Y (B01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西山 真二  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
渡邊 真
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5865560号(P5865560)
発明の名称 気体溶解装置及び気体溶解方法  
復代理人 大石 皓一  
復代理人 牧 哲郎  
代理人 溝田 宗司  
代理人 細矢 眞史  
代理人 特許業務法人むつきパートナーズ  

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