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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C11D
管理番号 1340678
審判番号 不服2017-19166  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2018-06-12 
事件の表示 特願2013-272691「洗浄剤用液状増粘剤とそれを用いた洗浄剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-127360、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年12月27日 :特許出願
平成29年 7月19日付け:拒絶理由の通知
平成29年 9月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月28日付け:拒絶査定
平成29年12月25日 :審判請求書の提出
平成29年12月26日 :手続補足書(実験成績証明書の原本)の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年9月28日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。

理由2.(進歩性)本願の請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
2.特開昭59-1600号公報

第3 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。まとめて、「本願発明」ということもある。)は、平成29年9月21日に提出された手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
アニオン性界面活性剤および両性界面活性剤を含む界面活性剤の配合量が10?35質量%、25℃の粘度が1100mPa・s以上である、香粧品として使用される洗浄剤組成物に1?5質量%配合される液状増粘剤であって、次式(I):
【化1】

(式中、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に炭素数7?11の直鎖もしくは分岐のアルキル基又はアルケニル基を示し、AOは炭素数2又は3のオキシアルキレン基を示し、x、y、zは1以上の整数でx+y+z=3?30の範囲である。)で表わされるポリオキシアルキレン脂肪酸グリセリンを含有する洗浄剤用液状増粘剤。
【請求項2】
香粧品として使用される洗浄剤組成物であって、請求項1に記載の洗浄剤用液状増粘剤と、アニオン性界面活性剤および両性界面活性剤を含む界面活性剤とを含有し、前記洗浄剤用液状増粘剤の配合量が1?5質量%、アニオン性界面活性剤および両性界面活性剤を含む前記界面活性剤の配合量が10?35質量%であり、25℃の粘度が1100mPa・s以上である洗浄剤組成物。」

第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1.引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開昭59-1600号公報)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「2特許請求の範囲
炭素数が8?24の脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩と、グリセリン、ヒマシ油または硬化ヒマシ油のいずれかのトリオ-ルであって各水酸基には少なくとも1分子以上のエチレンオキサイドが付加されかつこの付加されたエチレンオキサイド分子の総和が60以下であり、エチレンオキサイド結合末端には炭素数が12?24の脂肪酸がエステル結合されているポリオキシエチレントリオ-ル ジまたはトリ脂肪酸エステルを含有してなる洗剤」(第1頁左下欄「2特許請求の範囲」)

(2-2)「本発明は脂肪酸ナトリウム石ケンあるいは脂肪酸カリウム石ケンの物性を改良するものである。
石ケンは適切な洗浄力を有する必要があることはいうまでもないが、石ケンの商品価値は洗浄力に限られるものではなく、そのほか種々の物性を具有することが石ケンに要求される。洗浄力以外の物性の例としては、泡質がクリ-ミ-であること、泡立ちが消えにくいこと、水すすぎ性がよいこと、使用後にぬめり感が残らず一方つっぱった感じにならないこと、などがあり、さらに、固型石ケンの場合には水溶けしにくく型くずれしないこととか、透明石ケンの場合には透明性が維持向上されること、また液状あるいはクリ-ム状石ケンの場合には季節による粘度変化が少ないことなどがある。これらの物性を石ケンに具有させるべく、石ケンメ-カ-を中心として多くの研究者が・・・多種多様の添加剤を配合させるなど種々の研究を行なってきた。しかしながら、これらの物性を石ケンに具有させることは容易ではなく、簡便かつ適切な方法が見出されていない。
本発明者らはこれらの物性を具有した使用感のよい石ケンを容易に製造する方法を開発すべく種種検討の結果、たまたま特定のポリオキシエチレントリオ-ル脂肪酸エステルを脂肪酸のナトリウムあるいはカリウム塩に添加することによって前記の各種物性を具有するすぐれた石ケンが得られることを見出し、これに基いて本発明を完成するに至った。」(第1頁左下欄15行?第2頁左上欄7行)

(2-3)「ポリオキシエチレントリオ-ルジまたはトリ脂肪酸エステルの基本骨格になるトリオ-ルはグリセリン、ヒマシ油または硬化ヒマシ油のいずれかである。そして、このトリオ-ルの各水酸基にはいずれにも少なくとも1分子のエチレンオキサイドが結合しており、かつこの水酸基に鎖状に結合しているエチレンオキサイド分子の総和は60以下、好ましくは20?40である。こうして形成される3つのエチレンオキサイド鎖のうち少なくとも2つにはその末端に炭素数が12?24の脂肪酸がエステル結合されている必要がある。この脂肪酸は飽和であると不飽和であるとを問わず、また分岐の有無を問わない。脂肪酸の例としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ラノリン酸、ベヘニン酸などを挙げることができる。
本発明の化合物のひとつであるポリオキシエチレングリセロ-ルトリ脂肪酸エステルの一般式を次に示す。

」(第2頁右上欄7行?左下欄下から10行)

(2-4)「上記以外の成分については必要により、脂肪酸ナトリウム塩石ケンあるいは脂肪酸カリウム塩石ケン用として公知の添加剤のなかから適宜選択すればよく、例えば、香料、色素、顔料、保湿剤、ビルダ-、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、脂肪酸エタノ-ルアミド等を適宜選択して添加すればよい。
このほか、他の脂肪酸ナトリウム塩系あるいはカリウム塩系の石ケンと同様、液状石ケンはむろんのこと固型石ケンにおいても水あるいは水と親水性有機溶媒との混合物を含有せしめるのがよい。親水性有機溶媒は化粧料用として慣用されているエタノ-ル、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、グリセリン等を使用するのがよい。」(第2頁右下欄6?19行)

(2-5)「一方、液状あるいはクリ-ム状石ケンの場合には、脂肪酸ナトリウム塩およびカリウム塩が5?60重量%程度、通常15?50重量%程度であり、ポリオキンエチレントリオ-ルジおよびトリ脂肪酸エステルが3?20重量%程度、そして水と親水性有機溶媒との和が20?90重量%程度である。」(第3頁左上欄12?18行)

(2-6)「本発明の洗剤は従来の脂肪酸ナトリウム石ケンおよびカリ石ケンのあらゆる用途に使用することができ、従来のこの脂肪酸塩石ケンの商品価値を大きく高めるものである。」(第3頁右上欄末行?左下欄4行)

(2-7)「実施例3
ヤシ油カリ石ケン33重量%を含む液体石ケンにエチレンオキサイド付加分子数の異なる各種ポリオキシエチレングリセロ-ルトリイソステアレ-ト(GWIS-3)、ポリオキシエチレングリセロ-ルジイソステアレ-ト(GWIS-2)、ポリオキエチレングリセロ-ルトリラウレ-ト(GWL-3)、ポリオキシエチレングリセロ-ルトリベへニネ-ト(GWB-3)、ポリオキシエチレンヒマシ油トリイソステアレ-ト(CWIS-3)、およびポリオキシエチレン硬化ヒマン油トリイソステアレ-ト(RWIS-3)のいずれかを7.5重量%になるように加えた。得られた各液体石ケンについて各種物性を測定した結果を第3表に示す。
尚、各評価はいずれも肉眼観察で行なったものであり、数字は一番よいものを1とし悪いものを5として表示されている。従って、発泡性は一番泡の立ちやすいものが1であり、泡持続性は持続するものが1である。そして、泡質は一番クリ-ミ-なものが1として表示されている。」(第4頁左下欄下から11行?右下欄9行)

(2-8)「第3表

」(第5頁左上欄第3表)

2.引用文献2に記載された発明
引用文献2には、「炭素数が8?24の脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩と、グリセリン、ヒマシ油または硬化ヒマシ油のいずれかのトリオールであって各水酸基には少なくとも1分子以上のエチレンオキサイドが付加されかつこの付加されたエチレンオキサイド分子の総和が60以下であり、エチレンオキサイド結合末端には炭素数が12?24の脂肪酸がエステル結合されているポリオキシエチレントリオール ジまたはトリ脂肪酸エステルを含有してなる洗剤」(摘記2-1)が記載されており、「脂肪酸ナトリウム石ケンあるいは脂肪酸カリウム石ケンの物性を改良する」目的で、「多くの研究者が・・・多種多様の添加剤を配合させるなど種々の研究を行なってきた」こと(摘記2-2)が記載されている。また、上記の化合物の一つである「ポリオキシエチレングリセロールトリ脂肪酸エステル」の一般式(摘記2-3)が記載されており、洗剤の組成については、「液状あるいはクリ-ム状石ケンの場合には、脂肪酸ナトリウム塩およびカリウム塩が5?60重量%程度、通常15?50重量%程度であり、ポリオキンエチレントリオ-ルジおよびトリ脂肪酸エステルが3?20重量%程度、そして水と親水性有機溶媒との和が20?90重量%程度であ」ることが記載されている(摘記2-5)。そして、その具体例として、ヤシ油カリ石ケン33重量%を含む液体石ケンにポリオキシエチレングリセロールトリラウレート(GWL-3)を7.5重量%になるように加えた液体石ケン、及びその各種物性の測定結果が記載されているところ(摘記2-7、2-8)、第3表の「GWL-3」の項目には、「EO数」が「10」であることが記載されていることから、上記具体例で用いられた「GWL-3」は、上記一般式(摘記2-3)におけるa+b+c=10、右末端基がいずれもラウリル酸の残基(R_(1)?R_(3)がいずれも炭素数11の直鎖アルキル基)を表す場合に相当するものと認められる。
そうすると、引用文献2には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「炭素数が8?24の脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩を含む液体石ケンに配合される添加剤であって、下記の一般式

(式中、R_(1)?R_(3)はいずれも炭素数11の直鎖アルキル基を表し、a、b、cは1以上の整数でa+b+c=10である。)で表されるポリオキシエチレングリセロールトリ脂肪酸エステルを含有するものであり、液体石ケンにおける配合量が、上記脂肪酸のナトリウム塩及びカリウム塩は33重量%であり、ポリオキシエチレングリセロールトリ脂肪酸エステルは7.5重量%である、液体石ケン用添加剤。」(以下、「引用発明」という。)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者における「炭素数が8?24の脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩」、「液体石ケン」は、それぞれ前者における「アニオン性界面活性剤」、「洗浄剤組成物」に相当し、後者における「炭素数が8?24の脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩」の配合割合である「33重量%」は、前者における界面活性剤の配合割合である「10?35質量%」と重複している。
また、後者における「ポリオキシエチレングリセロールトリ脂肪酸エステル」は、前者における「ポリオキシアルキレン脂肪酸グリセリン」の定義において、R^(1)?R^(3)がいずれも「炭素数11の直鎖アルキル基」を示し、AOが「炭素数2のオキシアルキレン基」を示し、x、y、zが「1以上の整数でx+y+z=10である」場合と定義が重複するものである。
そうすると、両者は、
「アニオン性界面活性剤を含む界面活性剤の配合量が33質量%である洗浄剤組成物に配合される添加剤であって、次式(I):

(式中、R^(1)?R^(3)はいずれも炭素数11の直鎖アルキル基を示し、AOは炭素数2のオキシアルキレン基を示し、x、y、zは1以上の整数でx+y+z=10である。)で表わされるポリオキシアルキレン脂肪酸グリセリンを含有する洗浄剤用添加剤。」
の点で一致し、
相違点1:洗浄剤組成物が、本願発明1においては、両性界面活性剤を含むものであることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのようなことが明らかでない点、
相違点2:洗浄剤組成物が、本願発明1においては、「25℃の粘度が1100mPa・s以上である」ことが特定されているのに対し、引用発明においてはそのようなことが明らかでない点、
相違点3:洗浄剤組成物が、本願発明1においては「香粧品として使用される」ものであることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのようなことが明らかでない点、
相違点4:洗浄剤組成物における「液状増粘剤」の配合量が、本願発明1においては「1?5質量%」と特定されているのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点、
相違点5:本願発明1における式(I)で表されるポリオキシアルキレン脂肪酸グリセリンを含有する成分が「液状増粘剤」と特定されているのに対し、引用発明の添加剤は、そのような性状及び機能を有するものであることが明らかでない点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(2)相違点2、4について
事案に鑑み、最初に相違点2及び4について検討する。
引用文献2に記載された実施例3においては、「ポリオキシエチレングリセロールトリラウレート(GWL-3)」は、液体石ケンに対し7.5重量%の割合で加えられているから、相違点4に係る本願発明1に規定される割合(「1?5質量%」)よりも高い割合で配合されている。また、引用文献2の第3表(摘記2-8)の「粘度(常温)」の欄には、「液状」、「少し粘度ある液状」、「ソフト油状」、「油状」、「ソフト乳液状」及び「コンク油状」の6段階の評価が記載されているところ、上記GWL-3が添加された組成物は「ソフト油状」と評価されており、当該「ソフト油状」の意味する具体的な粘度値は明らかでないものの、「油状」よりも粘度の低い液状であったことが読み取れる。
ここで、相違点2に係る「25℃の粘度が1100mPa・s以上である」点について、請求人は、平成29年9月21日に提出した意見書において、「官能的な対比の参考として、20℃程度においてサラダ油の粘度は例えば65mPa・s、ひまし油の粘度は例えば1000mPa・s、はちみつの粘度は例えば1300mPa・sです。サラダ油はさらっとした感触で平板に線状に流下してもその線の痕跡は水のように瞬時に消失するのに対し、ひまし油やはちみつはどろっとした濃厚な感触で、官能的、目視的に水とは区別され、平板に線状に流下すると流下時の速度は緩くなり平板上でその線の痕跡が残ります。本願発明の増粘剤による増粘効果は、これらのひまし油やはちみつに対比し得るものであります」(「3-1.引用文献1に記載の発明との対比」)、「前述したように、油状物の中でも、サラダ油の粘度はさらっとした外観であり、ナタネ油、コーン油等の食用油も同様です。このような範疇の油状物は、引用文献2の表3では、油状物の中でも粘度が低いものとして“ソフト油状”、あるいは“油状”に対応すると推認されます。これに対して本願発明の液状増粘剤を用いた洗浄剤組成物は、粘度1100mPa・s以上で、ひまし油やはちみつのようなどろっとした濃厚な感触であることは前述したとおりです。」(「3-2.引用文献2に記載の発明との対比」)と主張しているところ、これらの主張を参酌すると、引用文献2の第3表に記載された「ソフト油状」は、「粘度1100mPa・s以上」の要件を満たさない、低粘度である蓋然性が高い。
そうすると、仮に当業者が「油状」、「ソフト乳液状」、「コンク油状」というより高い粘度の組成物を得ることが動機付けられるとしても、その場合、増粘剤として機能するGWL-3の配合量は、実施例3の「7.5重量%」よりもさらに高い割合に変更しようとすると考えられるから、相違点4に係る「1?5質量%」という配合割合を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
また、引用文献2には、洗剤の組成について、「液状あるいはクリ-ム状石ケンの場合には・・・ポリオキンエチレントリオ-ルジおよびトリ脂肪酸エステルが3?20重量%程度・・・である」(摘記2-5)ことが記載されていることから、仮に当業者が上記GWL-3の配合量を「7.5重量%」よりも少ない「3?5質量%」に変更することが動機付けられるとしても、その場合の洗剤組成物の粘度は「ソフト油状」以下の低粘度にとどまると予想されるから、相違点2に係る「25℃の粘度が1100mPa・s以上である」という構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
よって、引用文献2の記載に基づいて、相違点2及び4に係る構成を同時に採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(3)本願発明1の効果について
仮に、引用文献2に記載された「ソフト油状」が、相違点2に係る「25℃の粘度が1100mPa・s以上である」場合を包含する場合があるものと想定して、本願発明の効果について、念のためさらに検討する。
本願明細書には、本願発明が解決しようとする課題が、「混合が容易な室温液状で、加水分解による洗浄剤溶液の粘度低下が抑制された増粘剤とそれを用いた洗浄剤組成物を提供すること」([0011])にあることが記載されており、本願発明の効果として、「液状であるためハンドリングが容易で、加水分解性が低いため安定性が良好で、安全性が高く、不快な臭気もなく、洗浄剤に用いることによって従来品と同等程度もしくはそれ以上の増粘作用を発揮する。」([0016])ことが記載されている。
そして、本願発明の具体例として、[0045]?[0052]表2には、本願発明1に規定される式(I)の定義を満たす増粘剤1?7及び定義外の増粘剤8?12を製造したことが記載され、[0062]?[0065]表5には、増粘剤1?12、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステルの加水分解安定性を測定したところ、増粘剤1?9は加水分解性が低かったことが記載されている。また、[0055]及び[0061]表3には、アニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)を10質量%、両性界面活性剤(ラウラミドプロピルベタイン)を4質量%、カチオン化セルロースを0.5質量%、増粘剤1?7をそれぞれ3質量%、残余を水とし、pH6に調整した実施例1?7の組成物が、25℃において1300?2700mPa・sの粘度を示し、透明な外観を示したこと、増粘剤を増粘剤8?12に変更した比較例1?5は、25℃において100?450mPa・sの粘度しか示さず、比較例2、3、5については外観が白濁したこと、増粘剤を「ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド」又は「PEG脂肪酸モノエステル」に変更した比較例6及び7は、25℃において1280mPa・s又は5200mPa・sの粘度を示し、透明な外観を示したことが記載され、さらに、[0056]及び[0062]表4には、アニオン界面活性(カリウム石鹸)を15質量%、両性界面活性剤(ラウラミドプロピルベタイン)を5質量%、表3と同様の増粘剤をいずれも3質量%、残余を水とし、pH9.5に調整した実施例8?14及び比較例8?14が、表3と同様の傾向を示したことが記載されている。よって、本願明細書には、本願発明1の式(I)の定義を満たす化合物を含有し、本願発明1に規定されるとおりの条件で洗浄剤組成物に配合される液状増粘剤が、実際に上記課題を解決し得るものであり、上記のとおりの好ましい効果を奏するものであることが記載されているとともに、本願発明1の式(I)の定義を満たさない化合物を用いた比較例の増粘剤では、上記課題を解決することができず、好ましい効果を奏しないことが記載されていたといえる。
これに対して、引用文献2には、引用発明の課題について、「本発明は脂肪酸ナトリウム石ケンあるいは脂肪酸カリウム石ケンの物性を改良するものである。石ケンは適切な洗浄力を有する必要があることはいうまでもないが・・・洗浄力以外の物性の例としては、泡質がクリ-ミ-であること、泡立ちが消えにくいこと、水すすぎ性がよいこと、使用後にぬめり感が残らず一方つっぱった感じにならないこと、・・・液状あるいはクリ-ム状石ケンの場合には季節による粘度変化が少ないことなどがある。・・・本発明者らはこれらの物性を具有した使用感のよい石ケンを容易に製造する方法を開発すべく種種検討の結果、たまたま特定のポリオキシエチレントリオ-ル脂肪酸エステルを脂肪酸のナトリウムあるいはカリウム塩に添加することによって前記の各種物性を具有するすぐれた石ケンが得られることを見出し、これに基いて本発明を完成するに至った。」と記載されているが(摘記2-2)、本願発明の課題及び効果と必ずしも一致するものではなく、また、引用文献2に記載されている「ポリオキシエチレントリオール脂肪酸エステル」の中でも、特に本願発明1に記載された式(I)の定義を満たす化合物を選択して用いた場合に、本願明細書に記載されたような好ましい効果が得られることが、引用文献2に具体的に記載されていたとはいえない。
さらに、請求人は、平成29年12月25日に提出した審判請求書に実験成績証明書を添付するとともに、同年12月26日に手続補足書により同実験成績証明書の原本を提出し、当該実験成績証明書において、引用文献2の第3表におけるGWL-3を配合した処方の追試結果(対比試験1)、本願明細書の表3に記載された実施例4における増粘剤4の配合量を3質量%から7.5質量%に変更した対比試験2の実験結果を示して、本願発明1における液状増粘剤の配合割合の上限値に関する臨界的意義を示し、さらに、界面活性剤としてアニオン性界面活性剤(SLES又はカリウム石鹸)のみ、又は両性界面活性剤のみを配合した対比試験6?12の実験結果を示して、「アニオン性界面活性剤もしくは両性界面活性剤のいずれかを単独で用いた配合では、基本的に増粘効果を示さず、また界面活性剤量を多くするとロウ状やゲル状になる傾向がある。これに対して、アニオン性界面活性剤と両性界面活性剤を併用する本願発明では、実施例8、11のように界面活性剤が合計20質量%でもシャンプー、ハンドソープ、洗顔料等の香粧品に適した粘度に増粘することを示しているとおり、本願請求項1に規定する液状増粘剤の配合量の範囲内で効果を示す。」と主張しており、実際にそのような傾向が読み取れるところ、これらの対比試験の実験結果は、本願発明1が、本願明細書に記載されていた上記好ましい効果を奏するものであることを間接的に支持するものである。これに対して、引用文献2の記載からは上記のような実験結果を予測することは困難といえる。
よって、本願発明1は引用文献2の記載からは予測し得ない好ましい効果を奏するものである。

(4)小括
以上のことから、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の洗浄剤用液状増粘剤を引用して記載されており、当該液状増粘剤を本願発明1に規定されているとおりの条件で含有する洗浄剤組成物に関する発明であるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、いずれも引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2013-272691(P2013-272691)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C11D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 建二  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
発明の名称 洗浄剤用液状増粘剤とそれを用いた洗浄剤組成物  
代理人 安藤 拓  
代理人 西澤 利夫  

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