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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E06B
管理番号 1340703
審判番号 無効2016-800065  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-31 
確定日 2018-06-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第4839108号発明「引戸装置の改修方法及び改修引戸装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4839108号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし請求項6に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件特許は、特許法第41条により特願2002-64460号に基づいて優先権を主張して出願した特願2003-62183号(以下「原出願」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな出願とした特願2006-74123号(以下「本件特許出願」という。)に係るものであり、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。

平成14年 3月 8日 優先基礎出願(特願2002-64460号)
平成15年 3月 7日 原出願(特願2003-62183号)

平成18年 3月17日 本件特許出願(特願2006-74123号)
平成23年10月 7日 設定登録
平成28年 5月31日 本件審判請求
平成28年 8月12日 審判事件答弁書
平成28年10月11日 審理事項通知書
平成28年11月 9日 口頭審理陳述要領書、証拠説明書(請求人)
平成28年11月29日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年12月 7日 上申書、証拠説明書(2)(請求人)
平成28年12月 8日 口頭審理
平成28年12月22日 上申書(被請求人)
平成29年 1月12日 上申書、証拠説明書(3)(請求人)

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し、
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し、前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、
この後に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、前記既設引戸枠内に室外側から挿入し、その改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に、前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用下枠の前壁を、ビスによって既設下枠の前壁に固定することで、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項2】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し、
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し、前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、
この後に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有し、前記改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、前記改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着した改修用引戸枠を、前記既設引戸枠内に室外側から挿入し、その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、前記室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接し、前記改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に、前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用下枠の前壁を、ビスによって既設下枠の前壁に固定することで、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項3】
建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し、
前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去すると共に、室内側案内レールを切断して撤去し、前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、
この後に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、前記既設引戸枠内に室外側から挿入し、その改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に、前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用下枠の前壁を、ビスによって既設下枠の前壁に固定することで、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けることを特徴とする引戸装置の改修方法。
【請求項4】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され、その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に、前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。
【請求項5】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され、その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に、前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材が装着され、この室外側上枠シール材は建物の開口部の上縁部に接し、
前記改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材が装着され、この室外側竪枠シール材は建物の開口部の縦縁部に接し、
前記改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。
【請求項6】
建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去されていると共に、室内側案内レールは切断して撤去され、その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、
この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に、前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され、前記背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであり、
前記改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されていることを特徴とする改修引戸装置。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許発明1ないし6の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年11月9日付け口頭審理陳述要領書、平成28年12月7日付け上申書、平成29年1月12日付け上申書、第1回口頭審理調書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証を提出している。

(1)無効理由1
本件特許発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明、本件特許の原出願日前に公然知られた発明ないし公然実施された発明(甲第4号証の1ないし5)及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特許第4839108号公報(本件特許の特許公報)
甲第2号証:特開2002-285757号公報
甲第3号証:特開2001-227244号公報
甲第4号証の1:工事名「広電己斐寮浴室改修工事」の設計図面等
甲第4号証の2:甲第4号証の1の4/4頁に記載された改修サッシの縦断面図
甲第4号証の3:甲第4号証の1の4/4頁に記載された改修サッシの横断面図
甲第4号証の4:株式会社新和の代表取締役宇吹正樹による平成27年7月24日付け証明書
甲第4号証の5:株式会社新和の代表取締役宇吹正樹による平成28年2月1日付け証明書
甲第5号証:特許第3223993号公報
甲第6号証:特開昭61-229086号公報
甲第7号証:実公昭58-45431号公報
甲第8号証:実願昭57-63927号(実開昭58-167191号)のマイクロフィルム
甲第9号証:実願昭62-39866号(実開昭63-146085号)のマイクロフィルム
甲第10号証:特開平8-209262号公報
甲第11号証:特開平10-88906号公報
甲第12号証:特開平7-286439号公報
甲第13号証:特開平9-177437号公報
甲第14号証:特開平8-93325号公報
甲第15号証:本件特許に係る無効審判事件(無効2012-800031号)の審決
甲第16号証:本件特許の審査手続における平成21年7月10日付け拒絶理由通知書
甲第17号証:本件特許の審査手続における平成21年9月14日付け手続補正書
甲第18号証:本件特許の拒絶査定不服審判手続における平成23年6月21日付け拒絶理由通知書
甲第19号証:本件特許の拒絶査定不服審判手続における平成23年7月8日付け手続補正書
甲第20号証:本件特許に係る拒絶査定不服審判の平成23年9月2日付け審決
甲第21号証の1:工事名「広電己斐寮浴室出入口サッシ修繕工事」の納品書
甲第21号証の2:株式会社新和の代表取締役宇吹正樹による平成28年11月7日付け証明書
甲第22号証:三協立山株式会社法務知財部部長小栗裕一による平成28年10月31日付け写真撮影報告書
甲第23号証:株式会社新和の代表取締役宇吹正樹外1名による平成28年11月7日付け証明書
甲第24号証:知財高裁平成19年(行ケ)第10015号の判決
甲第25号証:特公昭62-45948号公報
甲第26号証:特開昭50-47434号公報

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 主引用例1及び2について
(ア)甲第2号証から、室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた新設下枠を有する新設の枠体を前記既存の金属枠体に装着して改修した建具及び建具の改修方法(以下、当該建具を「主引用例1」、当該建具の改修方法を「主引用例2」という。)を抽出することができるところ、これらの発明は、以下の構成を備えている。
【主引用例1】
建物の開口部に残存した金属枠体は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設縦枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され、
その既設下枠の室内外にわたって下地材を設け、その下地材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
この金属枠体内に、新設上枠、室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた新設下枠、新設縦枠を有する新設の引き違い窓の枠体がかぶせるように取り付けられており、
この新設の引き違い窓の枠体の新設下枠の室外寄りが、下地材に当接していると共に、前記新設下枠の室内寄りが、前記下地材で支持され、
前記新設下枠の前壁が、ビスによって下地材の前壁に固定されている
改修建具。
【主引用例2】(主引用例1を方法の発明として特定したもの)
建物躯体の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設縦枠を有する既存の金属枠体を残存し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去し、
前記下枠の室内外にわたって下地材を設け、この下地材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、
この後に、この金属枠体内に、新設上枠、室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた新設下枠、新設縦枠を有する新設の引き違い窓の枠体をかぶせるように取り付け、
この新設の引き違い窓の枠体の新設下枠の室外寄りが、下地材に当接していると共に、前記新設下枠の室内寄りを前記下地材で支持し、
新設の枠体を下地材を基準として取付ける
引戸装置の改修方法。
(審判請求書14頁7行ないし15頁19行)

(イ)「刊行物に記載された発明」が特許公報である場合に、必ず当該特許公報の請求項における発明特定事項を認定しなければならないものではないことは、被請求人らが提出した判決に説示されているとおりであり、甲第2号証には、下地材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けられ、下地材によって新設下枠が支持されている改修サッシが記載されていることは明らかであるから、甲第2号証の記載事項から、下地材による新設下枠の支持構造という「自然法則を利用した技術的思想の創作」として主引用例1を認定することに誤りはない。
(口頭審理陳述要領書16頁10ないし17行)

イ 副引用例1について
甲第3号証には、以下の構成が記載されている(以下、甲第3号証に記載された以下の構成の発明を「副引用例1」という。)。
(a)改装サッシ下枠2(改修用下枠)を既設下枠に取り付けるに際して、既設下枠の室内寄りに支持部材24(取付け補助部材)を設け、その支持部材24(取付け補助部材)を既設下枠の上板部12a(底部)の最も室内側の端部に連なる壁部(背後壁)の立面にビスで固着して取り付けており、かつ、既設下枠の室内寄りを支持部材24(取付け補助部材)で支持すること。
(b)既設下枠12の縦板部(既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁)の上端と改装サッシ下枠2の上端をほぼ同じ高さとすること。
(審判請求書16頁18行ないし17頁6行)

ウ 本件特許発明4について
(ア)本件特許発明4と主引用例1との相違点
(相違点1-1)
本件特許発明4は、取付け補助部材が既設下枠の室内寄りに設けられているのに対して、主引用例1は、取付け補助部材が既設下枠の室内外にわたって設けられている点。
(相違点1-2)
本件特許発明4は、改修用引戸枠の改修用上枠、改修用下枠及び改修用竪枠がアルミニウム合金の押出し形材から成るのに対して、主引用例1は、改修用引戸枠の材質や性能について何ら特定されるものではない点。
(相違点1-3)
本件特許発明4は、改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されているのに対して、主引用例1は、改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが取付け補助部材に当接して支持されている点。
(相違点1-4)
本件特許発明4は、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであるのに対して、主引用例1は、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端の高さが同じではない点。
(相違点1-5)
本件特許発明4は、改修用下枠の前壁がビスによって既設下枠の前壁に固定されているのに対して、主引用例1では、改修用下枠の前壁がビスによって取付け補助部材の前壁に固定されている点。
(審判請求書22頁1ないし末行)

(イ)相違点1-1についての検討
a 改修用下枠の室内側を支持するための取付け補助部材として、「既設下枠の室内寄りに設けられる」取付け補助部材で、既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで取り付けてある取付け補助部材が、副引用例1として公知となっている。そして、副引用例1の取付け補助部材は、大きさが小さくその形状が単純であって、支持する改修用下枠の高さ位置を低く抑えることができるという特徴を備えることは明らかである。
そうすると、主引用例1においても、取付け補助部材の構成は単純な方が好ましく、開口面積の減少を最小限にとどめるのは当然の要請であるから(甲9)、新設下枠の室内側を安定して支持するための取付け補助部材として、副引用例1に開示されている、構成が単純で、既設下枠の室内寄りに設けられ、改装サッシ下枠の室内寄りを支持することにより、既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の上端と改装サッシ下枠の上端をほぼ同じ高さとすることができ、開口面積の減少を最小限にすることのできる取付け補助部材を用いることは、当業者が容易に思い至ることである。
(審判請求書24頁4ないし18行)

b なお、本件各特許については、先に、甲第2号証を引用例の一つとする無効審判が請求されており、平成24年10月26日付け審決(甲15、26?27頁)において、甲第2号証の下地材を室内寄りのものにすることに阻害要因がある旨の判断がなされているが、当該審決の判断は以下の理由により誤っていることを、念のため指摘しておく。
……甲第2号証には、既設下枠の加工した穴にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填することなどにより、既設下枠の強度低下を補償することが開示されており(甲2、段落【0023】)、下地材による補強によらなくても穴を加工した既設下枠を補強することができるから、甲第2号証に記載された下地材12は、新設下枠の室内側を支持する下地材によって既設下枠の補強をすることができるとした一つの実施例にすぎない。このことは、既設枠に形成した穴に断熱材を注入充填するか断熱材の成形品を嵌め込むことによって補強する発明(請求項3)と、既存の金属枠体の穴よりも室内寄りの室内側部と穴よりも室外寄りの室外側部とに、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難い下地材の室内側部と室外側部をそれぞれ連結することにより補強する発明(請求項4)とが並列で記載されていることからも明らかである。
したがって、甲第2号証の特許請求の範囲に記載された発明において、下地材は、それによって必ずしも既設の下枠を補強するために室内外にわたる幅を備える必要は無い。
……甲第2号証の明細書の段落【0026】には、「室外の冷気は各枠の室外側部材25と下地材12の室外側部材14に伝わるが、これら室外側部材25、14に伝わった室外の冷気は下地材12の室内側部材13、既存の金属枠体3の室外側部に伝わり難い。」と記載されているが、これは、各枠の室外側部材25と下地材12の室外側部材14に伝わった冷気(冷熱)が部材を伝って室内側に伝わり難いことを説明しているのであって、下地材による冷気自体の室内側への流入の防止を説明しているわけではない。このことは、甲第2号証の明細書の段落【0024】に、「前記下地材12は各枠と略同一長さの長尺であるが、短尺の下地材12を各枠の長手方向に間隔を置いて複数取付けても良い。」と記載されているところ、「短尺の下地材12を各枠の長手方向に間隔を置いて複数取付け」た場合には、下地材によって下地材と新設枠体との間の空間に室外の冷気が流入することを防止できるものではないことからも分かる。しかも、単に新設枠体の下面への室外の冷気の侵入を防止するのであれば、新設枠体の室外側を既設の枠体の室外側に固定する、または、枠体の長手方向に伸びるスペーサを介して固定するなどすればすむことである。そこからすれば、甲第2号証の特許請求の範囲に係る発明は、前記審決において認定されているような、下地材の室外側部材14によって新設の下枠と下地材との間の空間へ冷気が流入するのを防止することを意図した発明ではないことは明らかであり、下地材が室内外にわたる幅を有することによって、当該発明の特徴である断熱構造を実現しているわけでもなく、当該下地材が甲第2号証の特許請求の範囲に係る発明の断熱構造の一端を担うものではないことから、下地材の室外側部分は、必須の部分ではない。
したがって、甲第2号証において、下地材を室内寄りに設けたものにすることは想到し得ないとした当該審決の判断には誤りがある。
(審判請求書24頁19ないし26頁下から3行)

(ウ)相違点1-2についての検討
主引用例1の改修用引戸枠の各枠を、どのような材料によるものとするかは、当業者が適宜決定すればよい設計事項である。そして、サッシにアルミニウム合金製の押出し形材を用いることは特開平8-209262号公報(甲10)及び特開平10-88906号公報(甲11)に記載されているように周知であり、主引用例1にアルミニウム合金の押出し形材からなる改修用引戸枠を採用することに、何ら阻害要因はなく、困難性はない。
(審判請求書27頁下から4行ないし28頁3行)

(エ)相違点1-3についての検討
主引用例1に対して副引用例1を適用することは当業者が容易になし得たものであるところ、それに伴って、主引用例1において、下地材によって支持していた改修用下枠の室外寄りを、既設下枠によって支持することは、当業者が当然考慮すべきことである。
そして、本件特許発明4の属する技術分野において、部材の組立誤差等を吸収し、部材間の間隔を埋めて部材同士をガタつきなく接合するために部材をスペーサを介して支持することは、特許第3223993号公報(甲5)、特開昭61-229086号公報(甲6)及び特開平7-286439号公報(甲12)にも開示されているように、サッシの改修の技術分野において周知である(そもそも部材をスペーサを介して支持すること自体が「スペーサ」というものが存在する意味である。)ことを考えると、主引用例1に副引用例1を適用することによって、改修用下枠の室外側がスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されるとの構成を採用することは、当業者が適宜なし得るものである。
(審判請求書28頁12ないし末行)

(オ)相違点1-5についての検討
主引用例1において、副引用例1を適用して、下地材を既設下枠の室内寄りに設けることは、当業者にとって容易になし得たことであるところ、それに伴って、改修用下枠の室外寄り部分を当業者に広く知られている方法で固定した方が好ましいことは、当業者にとって当然のことである。
そして、改修用下枠の前壁をビスによって既設下枠の前壁に固定することは、実公昭58-45431号公報(甲7)及び実願昭57-63927号(実開昭58-167191号)のマイクロフィルム(甲8)にも開示されているとおり、サッシの改修の技術分野において周知の技術である。
(審判請求書29頁10ないし17行)

(カ)相違点1-4についての検討
既設下枠の最も室内側の端部に連なる背後壁の上端と改修用下枠の上端とをほぼ同じ高さとすることは、副引用例1に開示されている。しかも、同様の構成は、本件各特許の原出願日前に行われた己斐寮浴室の浴室ドア改修工事でも用いられていた(甲4の1ないし甲4の5)。その上、改修を行うに際して、できる限り開口面積を減少させないようにすることは、甲第9号証の明細書5頁5?同頁16行にも記載されているとおり、当業者であれば当然に考慮することである。
そして、主引用例1において、改修用下枠の上端を既設下枠の背後壁の上端よりも上方に配置しなければならない理由はないから、主引用例1に副引用例1を適用して、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端とをほぼ同じ高さにすることは、当業者にとって容易になし得たことである。
(審判請求書30頁1ないし11行)

(キ)「取付け補助部材」について
本件発明4における「取付け補助部材」の請求項における限定事項は、「その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり」及び「前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され」との構成だけであって、その他何らかの構成が特定されているものではない。
そうすると、本件発明4における「取付け補助部材」とは、単に「既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面に」に取付けられて、「改修用下枠の室内寄り」を支持することによって、既設下枠に対する改修用下枠の取付けを補助する部材にすぎず、それ以上の技術的意味を備えるものではない。
本件発明4の取付け補助部材は、「形状、寸法が変更可能である」とか、「複数の取付け補助部材を備え、その中から適当な取付け補助部材を選択可能である」等の構成上の特定がなされているわけではなく、被請求人が主張する前記効果は、「既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いる」との条件のもと、「形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできる」だけであって、それはどのような取付け補助部材にも備わる当たり前の作用効果でしかない。
(口頭審理陳述要領書18頁12行ないし19頁6行)

エ 本件特許発明5について
(ア)本件特許発明5と主引用例1との相違点
本件特許発明5と主引用例1とを対比すると、本件発明4と主引用例1との一致点と同様の点で一致し、本件特許発明4と主引用例1との相違点と同様の点において相違すると共に、さらに、以下の点で相違している。
(相違点1-6)
本件特許発明5は、改修用引戸枠には、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着してあり、前記既設引戸枠内に室外側から挿入した際に、その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接するのに対して、主引用例1には、そのようなシール材がない点。
(審判請求書30頁下から3行ないし31頁7行)

(イ)相違点1-6についての検討
「改修用引戸枠には、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着してあり、前記既設引戸枠内に室外側から挿入した際に、その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接する」ことは、特開平9-177437号公報(甲13)や特開平8-93325号公報(甲14)に開示されているように、周知の技術である。
(審判請求書31頁13ないし18行)

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6と主引用例1とを対比すると、主引用例1においても、室内側案内レールに相当する内向突片は、切断して除去されているから、その点について、本件特許発明6と主引用例1とは一致している上に、本件特許発明4と主引用例1との一致点と同様の点で一致し、本件特許発明4と主引用例1との相違点と同様の点において相違している。
そして、本件特許発明4と主引用例1との相違点1-1ないし相違点1-5については、上記と同様の理由により、当業者が容易になし得たことである。
(審判請求書32頁4ないし11行)

カ 本件特許発明1ないし3について
本件特許発明1ないし3は、本件特許発明4ないし6の各改修引戸装置について、それぞれ引戸装置の改修方法として特定したものであって、実質的に本件特許発明4ないし6と変わるものではない。
そして、本件特許発明1ないし3と、主引用例1を方法の発明として特定した主引用例2との一致点及び相違点についても、本件特許発明4ないし6と主引用例1との一致点及び相違点と実質的に同様であり、各相違点について述べたところはカテゴリーが異なることによって変わるものでもない。
(審判請求書32頁17ないし末行)

(5)無効理由2について
ア 副引用例2について
(ア)平成12年11月24日に己斐寮浴室において行われた浴室ドア改修工事により設置された改修引戸装置若しくは当該引戸装置の改修方法(以下「副引用例2」という。)は以下の構成を備えている。
(c)実線L3で示される改修用下枠を点線L1で示される既設下枠に取り付けるに際して、既設下枠の脱衣側に逆L字状の部材s(取付け補助部材)を設け、その逆L字状の部材s(取付け補助部材)を既設下枠の底壁m1の最も脱衣側の端部に連なる壁部m5(背後壁)にビスで固着して取り付けており、かつ、既設下枠の脱衣側を逆L字状の部材s(取付け補助部材)で支持すること。
(d)点線L1で示される既設下枠の底壁m1の最も脱衣側の端部に連なる壁部m5(背後壁)の上端と実線L3で示される改修用下枠の上端をほぼ同じ高さとすること。
(審判請求書36頁12ないし末行)

(イ)甲第4号証の4に記載のとおり、己斐寮浴室の浴室ドア改修工事により設置された改修引戸装置は、甲第4号証の1の設計図面等に基づいて、当時三協アルミニウム工業株式会社の代理店であった有限会社新和建装により当該設計図面のとおりに施工され、本件各特許の原出願日前である平成12年11月24日に竣工されたものであり、当該設計図面等には己斐寮浴室の改修工事により設置された改修引戸装置(副引用例2)が記載されているところ、同社において当該設計図面等の内容について秘密に取り扱ったことはなく、また、当該設図面等の設計等を担当した同社従業員にも秘密保持義務を課していなかった。これらに加えて、己斐寮は会社独身寮として利用されており、多人数の独身従業員による利用がされていたことからすれば、副引用例2が本件各特許の原出願日前に日本国内において公然知られた発明(特許法29条1項1号)ないし本件各特許の原出願日前に日本国内において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)に当たることは明らかである。
(審判請求書37頁1ないし14行)

(ウ)納品書(甲21の1)には、「納入者名」欄に「有限会社 新和建装」、「品名・工事名」欄に「広電己斐寮浴室出入口サッシ修繕工事」、納入年月日に「12年11月22日」と記載されており、有限会社新和建装(有限会社新和建装の事業は、全て、株式会社新和に譲渡されている(甲4の4)。)が平成12年11月22日に(証明書(甲21の2)から、当該納品書では和暦が使用されていたことが分かる。)己斐寮浴室ドアのサッシ改修工事に関する取引が行われたことは明らかである。また、写真撮影報告書(甲22)から、甲第4号証の1ないし3の図面どおりに施工された己斐寮の浴室ドア改修工事により設置された改修引戸装置が現実に存在し、また、そのような改修引戸装置の改修方法が行われていたことが認められる。
これらの証拠や甲第4号証の4及び5の証明書から、副引用例2が公然知られた発明ないし公然実施された発明であるということができる。
(口頭審理陳述要領書4頁末行ないし5頁11行)

イ 本件特許発明4について
(ア)本件特許発明4と主引用例1との相違点
(相違点2-1)
本件特許発明4は、取付け補助部材が既設下枠の室内寄りに設けられているのに対して、主引用例1は、取付け補助部材が既設下枠の室内外にわたって設けられている点。
(相違点2-2)
本件特許発明4は、改修用引戸枠の改修用上枠、改修用下枠及び改修用竪枠が、アルミニウム合金の押出し形材から成るのに対して、主引用例1は、改修用引戸枠の材質や性能について何ら特定されるものではない点。
(相違点2-3)
本件特許発明4は、改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されているのに対して、主引用例1は、改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、取付け補助部材に当接して支持されている点。
(相違点2-4)
本件特許発明4は、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであるのに対して、主引用例1は、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端の高さが同じではない点。
(相違点2-5)
本件特許発明4は、改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されているのに対して、主引用例1では、改修用下枠の前壁は、ビスによって取付け補助部材の前壁に固定されている点。
(審判請求書38頁下から3行ないし39頁17行)

(イ)相違点2-1についての検討
改修用下枠の室内側を支持するための取付け補助部材として、「既設下枠の室内寄りに設けられる」取付け補助部材で、既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで取り付けてある取付け補助部材が、副引用例2として公知となっている。そして、副引用例2の取付け補助部材は、大きさが小さくその形状が単純であって、支持する改修用下枠の高さ位置を低く抑えることができるという特徴を備えることは明らかである。
そうすると、主引用例1においても、取付け補助部材の構成は単純な方が好ましく、開口面積の減少を最小限にとどめることは当然の要請であるから(甲9)、新設下枠の室内側を安定して支持するための取付け補助部材として、副引用例2に開示されている、構成が単純で、既設下枠の室内寄りに設けられ、改装サッシ下枠の室内寄りを支持することにより、既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の上端と改装サッシ下枠の上端をほぼ同じ高さとすることができ、開口面積の減少を最小限にすることのできる取付け補助部材を用いることは、当業者が容易に思い至ることである。
(審判請求書41頁2ないし16行)

(ウ)相違点2-2についての検討
主引用例1の改修用引戸枠の各枠を、どのような材料によるものとするかは、当業者が適宜決定すればよい設計事項である。そして、サッシにアルミニウム合金製の押出し形材を用いることは特開平8-209262号公報(甲10)及び特開平10-88906号公報(甲11)に記載されているように周知であり、主引用例1にアルミニウム合金の押出し形材からなる改修用引戸枠を採用することに、何ら阻害要因はなく、困難性はない。
(審判請求書42頁2ないし8行)

(エ)相違点2-3についての検討
主引用例1に対して副引用例2を適用することは当業者が容易になし得たものであるところ、それに伴って、主引用例1において、下地材によって支持していた改修用下枠の室外寄りを、既設下枠によって支持することは、当業者が当然考慮すべきことである。
そして、本件特許発明4の属する技術分野において、部材の組立誤差等を吸収し、部材間の間隔を埋めて部材同士をガタつきなく接合するために部材をスペーサを介して支持することは、特許第3223993号公報(甲5)、特開昭61-229086号公報(甲6)及び特開平7-286439号公報(甲12)にも開示されているように、サッシの改修の技術分野において周知である(そもそも部材をスペーサを介して支持すること自体が「スペーサ」というものが存在する意味である。)ことを考えると、主引用例1に副引用例2を適用することによって、改修用下枠の室外側がスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されるとの構成を採用することは、当業者が適宜なし得るものである。
(審判請求書42頁17行ないし43頁5行)

(オ)相違点2-5についての検討
主引用例1において、副引用例2を適用して、下地材を既設下枠の室内寄りに設けることは、当業者にとって容易になし得たことであるところ、それに伴って、改修用下枠の室外寄り部分を当業者に広く知られている方法で固定した方が好ましいことは、当業者にとって当然のことである。
そして、改修用下枠の前壁をビスによって既設下枠の前壁に固定することは、実公昭58-45431号公報(甲7)及び実願昭57-63927号(実開昭58-167191号)のマイクロフィルム(甲8)にも開示されているとおり、サッシの改修の技術分野において周知の技術である。
(審判請求書43頁14ないし21行)

(カ)相違点2-4についての検討
既設下枠の最も室内側の端部に連なる背後壁の上端と改修用下枠の上端とをほぼ同じ高さとすることは、副引用例2に開示されている。しかも、同様の構成は、副引用例1にも開示されている(甲3)。その上、改修を行うに際して、できる限り開口面積を減少させないようにすることは、甲第9号証の明細書5頁5?同頁16行にも記載されているように、当業者であれば当然に考慮することである。
そして、主引用例1において、改修用下枠の上端を既設下枠の背後壁の上端よりも上方に配置しなければならない理由はないから、主引用例1に副引用例2を適用して、既設下枠の背後壁の上端と改修用下枠の上端とをほぼ同じ高さにすることは、当業者にとって容易になし得たことである。
(審判請求書44頁5ないし14行)

ウ 本件特許発明5について
(ア)本件特許発明5と主引用例1との相違点
本件特許発明5と主引用例1とを対比すると、本件特許発明4と主引用例1との一致点と同様の点において一致し、本件特許発明4と主引用例1との相違点と同様の点で相違すると共に、さらに、以下の点で相違している。
(相違点2-6)
本件特許発明5は、改修用引戸枠には、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着してあり、前記既設引戸枠内に室外側から挿入した際に、その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接するのに対して、主引用例1には、そのようなシール材がない点。
(審判請求書44頁下から2行ないし45頁8行)

(イ)相違点2-6についての検討
「改修用引戸枠には、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着してあり、前記既設引戸枠内に室外側から挿入した際に、その室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接する」ことは、特開平9-177437号公報(甲13)や特開平8-93325号公報(甲14)に開示されているように、周知の技術である。
(審判請求書45頁14ないし19行)

エ 本件特許発明6について
本件特許発明6と主引用例1とを対比すると、主引用例1においても、室内側案内レールに相当する内向突片は、切断して除去されているから、その点について、本件特許発明6と主引用例1とは一致している上に、本件特許発明4と主引用例1との一致点と同様の点において一致し、本件特許発明4と主引用例1との相違点を同様の点において相違している。
そして、本件特許発明6と主引用例1との相違点2-1ないし相違点2-5については、上記と同様の理由により、当業者が容易になし得たことである。
(審判請求書46頁6ないし13行)

オ 本件特許発明1ないし3について
本件特許発明1ないし3は、本件特許発明4ないし6の各改修引戸装置について、それぞれ引戸装置の改修方法として特定したものであって、実質的に本件特許発明4ないし6と変わるものではない。
そして、本件特許発明1ないし3と、主引用例1を方法の発明として特定した主引用例2との一致点及び相違点についても、本件特許発明4ないし6と主引用例1との一致点及び相違点と実質的に同様であり、各相違点について述べたところはカテゴリーが異なることによって変わるものでもない。
(審判請求書46頁19行ないし47頁2行)

第5 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成28年8月12日付け審判事件答弁書、平成28年11月29日付け口頭審理陳述要領書、平成28年12月22日付け上申書を参照。)。

2 被請求人の具体的な主張
(1)甲第2号証に記載された発明の認定について
甲第2号証に記載された発明は、甲第2号証段落【0007】の課題を解決するためになされたものであって、「その目的は、室外の冷気が残存した既存の金属枠体を通して新設の断熱枠体の室内側部に伝わり難く、新設の断熱枠体の室内側部に結露が生じることがない建具の改修方法を提供すること」(段落【0008】)であり、段落【0033】?【0037】に記載の発明の効果を奏するものであるから、当該課題を解決し発明の効果を奏する構成として認定すべきであり、これら課題及び発明の効果を無視し、甲第2号証に記載された実施形態から、発明の効果を奏するための構成を除いた「枠体の構成」のみを抜き出して主引用発明として認定することは誤りである。しかも、請求人は、甲第2号証の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載ではなく、本件各発明の構成に準じた「枠体の構成」を抽出しており、このような主引用発明の認定は後知恵に基づく認定としても許されない。
(口頭審理陳述要領書3頁20行ないし4頁2行)

(2)無効理由1について
ア 本件特許発明4の「取付け補助部材」のように既設下枠に対する改修用下枠の取付けの基準でないばかりか、「既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いることで、形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修引戸枠を取付けできる」というように、既存の引戸枠に対して強度が低下するほどの形状等の変更をせずに、既設の引戸枠に同一の新設引戸枠を取付けできるとの効果を奏するというものではないため、主引用例1発明の下地材12は、本件特許発明4の「取付け補助部材」ではない。
(答弁書22頁4ないし11行)

イ 「取付け補助部材」が取付けの基準となるばかりか、「既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いることで、形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修引戸枠を取付けできる」との効果をも奏する部材であることは、原明細書にも実質的に記載されている。
(口頭審理陳述要領書5頁27ないし末行)

ウ 本件各特許発明の「取付け補助部材」は、改修用引戸枠を既設引戸枠に挿入して取り付ける場合に、取付けの基準となるばかりか、「既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いることで、形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修引戸枠を取付けできる」との効果をも奏する部材であることが認められるのである。
したがって、本件各特許発明の「取付け補助部材」が、「単に、その取付け位置と支持対象が特定されているだけの改修用下枠を取付ける際に補助となる部材にすぎ(ない)」との請求人の主張は誤りである。
(口頭審理陳述要領書6頁21ないし末行)

ウ 主引用例1(甲第2号証)の課題(目的)は「室外の冷気が残存した既存の金属枠体を通して新設の断熱枠体の室内側部に伝わり難く、新設の断熱枠体の室内側部に結露が生じることがない建具の改修方法を提供すること」(段落【0008】)であり、その作用効果も段落【0033】?【0037】に記載のように既存の金属建具を断熱建具に改修するものであるから、副引用例1(甲第3号証)のように断熱建具とは無関係であって、課題と作用効果にも共通性が認められない発明を組み合わせようとする動機付けなど無いことは明白である。
しかも、副引用例1は、主引用例1の下地材に相当するような結合部材を不要とすることを目的とした発明である(甲第3号証段落【0004】、【0005】)から、主引用例1に副引用例1を組み合わせる動機付けなどそもそも存在しないのである。
請求人は、「いずれも改修サッシという極めて狭い技術分野に属するものであるから、主引用例1に対して副引用例1を適用しようと考えることに何らの困難はない。」と主張するが、主引用例1(甲第2号証)と副引用例1(甲第3号証)とは改修の目的が異なり、しかも、副引用例1は「既設サッシ下枠と改装サッシ下枠とを連結する結合部材」(甲第3号証2頁右欄30行?31行)を「不要で、取付状態で室内の床面又は膳板の上面に対して略面一にできるような改装サッシ下枠と、この改装サッシ下枠を利用する改装工法を提供する」(同頁右欄下3行?3頁左欄1行)ことを目的とするものであるから、「改修サッシ」という抽象的な共通性を根拠として、両発明の組み合わせの容易性を主張するには無理がある。
しかも、答弁書24頁18行?25頁2行に記載したように、副引用例1の支持部材24では、主引用例1の既存の下枠5を補強することが出来ないのであるから、副引用例1の支持部材24を主引用例1に適用する際の阻害要因すら存在するのである。
(口頭審理陳述要領書11頁16行ないし12頁12行)

エ 下地材12は、「残存した既設の金属枠体における室内外側方向中間部に、穴を長手方向に間隔を置いて複数形成、又は長手方向全長に連続して形成する」(請求項2)ことで「残存した既存の金属枠体を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし」(請求項1)たことにより、強度が低下した既存の下枠(穴加工や切断によって強度が低下した既存の下枠5)を前記の段落【0024】、段落【0036】に記載のとおり補強するためのものであり、主引用例1発明では、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くしたために強度が低下した既存の下枠5と、強度を補強する下地材12は不可分一体の関係になっているのである。
したがって、主引用例1発明から出発して副引用例発明と組み合わせることにより本件各特許発明を想到できるか否かの判断においては、主引用例1発明の下地材12のみを副引用例発明の構成に代えることが出来るか否かを判断するのは誤りであり、下地材12と既存の下枠5を一体として代えることができるか否かとの観点から容易想到性を判断すべきことになる。
(口頭審理陳述要領書14頁3ないし16行)

(2)無効理由2について
ア 納品書(甲第21号証の1、2)には「品名・工事名」が記載されているのみで、当該「品名・工事名」の物が甲第4号証の1?3に示された構造の物か不明である。
また、写真撮影報告書(甲第22号証)も、納品書(甲第21号証の1)の日付の約15年後に撮影されたものであって、実施した時に構造を示すものではなく、しかも、当該報告書添付の写真を見ても、甲第4号証の1?3の構成を裏付けるものではない。
さらに、証明書(甲第23号証)は、最近になって、請求人と利害関係のある私人が、しかも、甲第4号証の1?3記載の構造を確認したのか否かすら不明な者が記載したものであるから、公然実施を裏付ける証拠とは認められない。特に、別紙の図2は、甲第4号証の1?3及び甲第23号証添付の図1と比較すれば明らかなように、これら証拠に示された図面とは別に誰かが作成したものであり、当該図面の存在からして甲第23号証の証明書に信用性がないことを示している。
したがって、納品書、写真撮影報告書及び証明書により甲第4号証の1?3の構成のものが公然実施されたものであることを証明したことには到底なり得ない。
(口頭審理陳述要領書7頁21行ないし8頁7行)

イ 甲第2号証発明の課題(目的)は「室外の冷気が残存した既存の金属枠体を通して新設の断熱枠体の室内側部に伝わり難く、新設の断熱枠体の室内側部に結露が生じることがない建具の改修方法を提供すること」(段落【0008】)であり、その作用効果も段落【0033】?【0037】に記載のように既存の金属建具を断熱建具に改修するものであるから、甲第4号証の1?3により示された副引用例2のように断熱建具とは無関係な、しかも、技術思想も作用効果も不明な公然実施品と組み合わせようとする動機付けなど無いことは明白である。
請求人は、「いずれも改修サッシという極めて狭い技術分野に属するものであるから、当業者が、主引用例1に対して副引用例2を適用しようと考えることに何らの困難はない。」と主張するが、主引用例1(甲第2号証)と副引用例2(甲第4号証の1?3)とは改修の目的が異なり、しかも、副引用例2には主引用例1と共通の課題、作用効果もないのであるから、「改修サッシ」という抽象的な共通性を根拠として、両発明の組み合わせの容易性を主張するには無理がある。
しかも、答弁書42頁14行?26行に記載したように、副引用例2の逆L字状の部材sでは、主引用例1の既存の下枠5を補強することが出来ないのであるから、逆L字状の部材sを主引用例1に適用する際の阻害要因すら存在するのである。
(口頭審理陳述要領書15頁22行ないし16頁11行)

第6 当審の判断
1 本件特許発明の進歩性判断の基準日について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された「取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け」ること、及び、請求項4ないし6に記載された「取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあ」ることは、原出願の出願当初の明細書には記載されているが、優先基礎出願の出願当初の明細書には記載されていない。
したがって、本件特許出願は、本件特許発明1ないし6についての特許法第29条第2項の規定の適用にあたっては、優先基礎出願の時にされたものとみなすことはできず、原出願の出願の時にされたものとみなされる。

2 各甲号証の記載
(1)甲第2号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、引き違い窓などの開き窓、引き違い戸などの引戸、玄関ドアなどのドア等の建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修する方法に関する。」

イ 「【0008】本発明は、前述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、室外の冷気が残存した既存の金属枠体を通して新設の断熱枠体の室内側部に伝わり難く、新設の断熱枠体の室内側部に結露が生じることがない建具の改修方法を提供することである。」

ウ 「【0009】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修する方法であって、前記既存の金属建具の金属枠体を建物躯体の開口部に残存させ、この残存した既存の金属枠体を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし、新設の断熱建具の断熱枠体を、前記建物躯体の開口部に取付けることを特徴とする建具の改修方法である。」

エ 「【0019】
【発明の実施の形態】図1と図2に示すように、建物躯体1、例えばコンクリート又はPC板の開口部2に金属建具、例えば金属引き違い窓が取付けてある。この金属引き違い窓は金属枠体3に図示しない障子戸を引き違いに装着してある。前記金属枠体3を形成する上枠4、下枠5、左右の縦枠6は、室内外側方向に連続した枠本体7と、この枠本体7の内面7aに一体的に設けた複数の内向突片8を有するアルミ押出形材である。……
【0020】前記既存の金属引き違い窓を新設の断熱引き違い窓に改修する手順を説明する。金属枠体3から障子戸を取り外して金属枠体3を残存させる。前述のように金属枠体3を残存させることで、その金属枠体3を建物躯体1から取り外す手間がはぶけ、改修作業効率が向上する。また、建物躯体1がコンクリート、PC板等の場合には残存した既存の金属枠体3に、後述するように下地材又は新設の断熱枠体をビス止めできるから、建物躯体1がコンクリート、PC板等のビスを直接的に螺合することが難しい場合に有利である。
【0021】前記残存した既存の金属枠体3における上枠4、下枠5、縦枠6の各内向突片8の図1、図2に斜線で示す部分を切断して除去する。前記上枠4、下枠5、縦枠6を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くする。例えば、各枠の枠本体7における室内外側方向中間で長手方向に間隔を置いた複数部分に穴11をそれぞれ加工する。この穴11は室内外側方向に短かく、長手方向に長いスリット状の穴である。……
【0022】これにより、上枠4、下枠5、縦枠6の室内側部と室外側部の連続する面積が減少し、残存した既存の金属枠体3の室外側部と室内側部とに亘って熱が伝わり難くなる。
【0023】前記スリット状の穴11にウレタン系樹脂などの断熱材11aを注入充填したり、樹脂、ゴムなどの断熱材の成形品を嵌め込んでスリット状の穴11による各枠の強度低下を補償するようにしても良い。
【0024】図3、図4に示すように、各枠の枠本体7に下地材12をそれぞれ取付けて穴11を形成した各枠を補強する。この四周の下地材12が新設の断熱引き違い窓の取付用開口部で、前記上枠4、下枠5、縦枠6の内向突片8が切断して除去してあるので、その取付用開口部が大きい。この下地材12は金属、例えばアルミ押出形材の室内側部材13とアルミ押出形材の室外側部材14を断熱材15で連結した断熱形材である。この下地材12は断熱形材に限ることはなく、樹脂、木材、合成木などでも良い。つまり下地材には室内側部と室外側部に熱が伝わり難いものであれば良い。前記下地材12は各枠と略同一長さの長尺であるが、短尺の下地材12を各枠の長手方向に間隔を置いて複数取付けても良い。前記下地材12の室内側部材13が枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りの室内側部にビス16で取付けられる。前記下地材12の室外側部材14が枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられる。これによって、各枠本体7(つまり、上枠4、下枠5、縦枠6)を補強すると共に、その室内側部と室外側部に下地材12を通して熱が伝わらないようにする。
【0025】この後に新設の引き違い窓の断熱枠体20を取付ける。前記新設の断熱枠体20は上枠21、下枠22、左右の縦枠23を枠組みしたもので、その各枠は、金属、例えばアルミ押出形材の室内側部材24と金属、例えばアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材である。前記各室内側部材24を下地材12の室内側部材13に、木、樹脂等の断熱材のスペーサ27を介してビス28で連結する。なお、下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めする。各室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接し、新設の断熱枠体20を既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付ける。前記上枠21、縦枠23における室外側部材25と下地材12の室外側部材14との当接部を水密材29で水密し、その当接部から雨水等が浸入しないようにする。
【0026】このようにすることで、室外の冷気は既存の金属枠体3の室内側部に伝わり難いから、室外の冷気が既存の金属枠体3を通って断熱枠体20の室内側部(室内側部材24)に伝わり難い。しかも、室外の冷気は各枠の室外側部材25と下地材12の室外側部材14に伝わるが、これら室外側部材25,14に伝わった室外の冷気は下地材12の室内側部材13、既存の金属枠体3の室外側部に伝わり難い。よって、断熱枠体20の室内側部(室内側部材24)に室外の冷気がより一層伝わり難い。
【0027】また、新設の断熱枠体20が下地材12を介して既存の金属枠体3に強固に取付けられる。前記スリット状の穴11と下地材12の断熱材15と新設の断熱枠体20の各枠の断熱材26は室内外方向に略同一位置である。これにより、輻射熱等で室内外部材と室外側部材とに熱が伝わり難い。」

オ 上記エの段落【0021】の記載を踏まえて図1をみると、下枠5の室内側及び室外側の内向突片8の付け根付近より上部に斜線が図示されていること、すなわち下枠5の室内側及び室外側の内向突片8は付け根付近から切断されることがみてとれる。

カ 上記エの段落【0024】の記載を踏まえて図3をみると、下枠22の下地材12は下枠5の室内外方向全体に渡って設けられること、及び下枠22の下地材12の室内側部材13が下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付けられることがみてとれる。

キ 図3をみると、下枠22は、室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えていることがみてとれる。

ク 上記アないしキによると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲2発明1
「建物躯体1の開口部2に取付けてある既存の金属引き違い窓を断熱引き違い窓に改修する方法であって、
上枠4、下枠5、左右の縦枠6は、室内外側方向に連続した枠本体7と、この枠本体7の内面7aに一体的に設けた複数の内向突片8を有するアルミ押出形材であり、上枠4、下枠5、左右の縦枠6から形成される金属引き違い窓の金属枠体3を建物躯体の開口部に残存させ、
下枠5の室内側及び室外側の内向突片8は付け根付近から切断し、
各枠の枠本体7における室内外側方向中間で長手方向に間隔を置いた複数部分にスリット状の穴11をそれぞれ加工することにより、残存した既存の金属枠体3を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし、
アルミ押出形材の室内側部材13とアルミ押出形材の室外側部材14を断熱材15で連結した断熱形材である、下枠22の下地材12を下枠5の室内外方向全体に渡って設け、
下枠22の下地材12の室内側部材13を下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りにて、下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付け、下枠22の下地材12の室外側部材14を下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付け、
上枠21、下枠22、左右の縦枠23を枠組みしたもので、その各枠は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材であり、下枠22は、室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている新設の断熱枠体20を、下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めし、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接し、既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付ける改修方法。」

(イ)甲2発明2
「建物躯体1の開口部2に残存した既存の金属引き違い窓の金属枠体3は、上枠4、下枠5、左右の縦枠6から形成され、
上枠4、下枠5、左右の縦枠6は、室内外側方向に連続した枠本体7と、この枠本体7の内面7aに一体的に設けた複数の内向突片8を有するアルミ押出形材であり、
下枠5の室内側及び室外側の内向突片8は付け根付近から切断され、
各枠の枠本体7における室内外側方向中間で長手方向に間隔を置いた複数部分にスリット状の穴11をそれぞれ加工することにより、残存した既存の金属枠体3を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし、
アルミ押出形材の室内側部材13とアルミ押出形材の室外側部材14を断熱材15で連結した断熱形材である、下枠22の下地材12を下枠5の室内外方向全体に渡って設け、
下枠22の下地材12の室内側部材13が下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りにて、下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付けられ、下枠22の下地材12の室外側部材14が下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられ、
上枠21、下枠22、左右の縦枠23を枠組みしたもので、その各枠は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材であり、下枠22は、室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている新設の断熱枠体20を、下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めし、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接し、既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付けた、既存の金属引き違い窓を改修した断熱引き違い窓。」

(2)甲第3号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 室の内外を仕切る躯体の出入口に介在する障子の戸車を受けるレールが、室内の床面又は該床面よりも一段高い位置にある膳板の上面よりも低い位置にある既設サッシ下枠の上に重ねて取り付ける改装サッシ下枠において、
障子の戸車を受けるレールを含む突設要素の上端が所定の略同じ高さで形成してある上板部と、この上板部から下方に伸長して前記既設サッシ下枠に固定される固定脚部と、を備え、固定脚部の高さ方向に沿う長さが、固定脚部を前記既設サッシ下枠に固定させた状態で、前記突設要素の上端に室内の床面又は膳板の上面と略同じ高さ位置を与える長さとして形成されていることを特徴とする改装サッシ下枠。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、既設サッシ下枠をそのまま残した状態でその上に重ねて設置する改装サッシ下枠と、この改装サッシ下枠を利用した所謂カバー工法による改装工法に関する。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】こうした背景に基づいてなされたのが本発明であって、その目的は、上述のような結合部材が不要で、取付状態で室内の床面又は膳板の上面に対して略面一にできるような改装サッシ下枠と、この改装サッシ下枠を利用する改装工法を提供することにある。さらに本発明は、室内の床面又は膳板の上面と、改装サッシ下枠の上端と、バルコニーの床面とを面一にしてバリアフリー化を実現する改装工法を提供することにもある。」

エ 「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明による改装サッシ下枠と、それを利用する改装工法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態では、引き違い戸用の改装サッシ枠を例示するが、片引き戸用の改装サッシ枠として構成することも可能である。
【0023】第1実施形態;先ず第1実施形態として、本発明の改装サッシ下枠と改装工法に基づいて、室内の床面からバルコニーにかけて段差をなくす改装例について説明する。
【0024】〔改装サッシ枠1の説明〕
【0025】図1で示すように、改装サッシ枠1は、改装下枠2、一対の改装縦枠3及び改装上枠4で構成され、室外側の障子Soと室内側の障子Siを引違い方向xで互いちがいに引き違えて開閉可能となっている。そして、後述するように改装サッシ枠1を構成する改装下枠2、改装縦枠3及び改装上枠4は、それぞれ既設サッシ枠の既設下枠12、既設縦枠13及び既設上枠14に被せて取り付けるようになっている。
【0026】改装下枠2の説明; 改装下枠2は、アルミ材の押し出し成形によって、図2及び図3に表れるような断面形状として形成されている。上板部21上には、室外側から室内側にかけて“突設要素”としての縁壁21aと、図示せぬ網戸の戸車を受けるレール21bと、障子So,Siの戸車を受ける二つのレール21cと、立壁21dが突設されており、これらの上端は所定の同じ高さとなっている。
【0027】縁壁21aは改装下枠2の室外側端部であることを示す部分である。その反対側の立壁21dは、主として改装下枠2に対する室内の水密性・気密性を与える機能を担っている。……」

オ 「【0034】排水受け室23の底壁23fには下向きに垂下させた固定片23hが形成されている。固定片23hにはネジ孔が穿孔してあり、ネジNによって既設下枠12の上板部12aに突設された室外側のレール12bに対して固定されている。そして、この固定片23hと排水受け室23を画成する壁とによって“固定脚部”が構成されている。これらの固定片23hと排水受け室23の高さ方向に沿う長さサイズは、固定片23hを既設下枠12のレール12bに固定した状態で、改装下枠2の“突設要素”としての縁壁21a、レール21b、21c、立壁21d、立壁部22dの各上端が、室内の床面Rfと略同じ高さ位置となるようなサイズで形成されている。従って、室内の床面Rfに対する改装下枠2の“バリアフリー化”が実現されている。
【0035】また、上板部21の室内側端部の裏面には逆L字状の支持部材24を備えていて、その横板部24aは上板部21に対してネジ固定されており、縦板部24bは室内の床に対してネジ固定されていて、上板部21に作用する荷重を支持するようになっている。なお、本例では支持部材24を改装下枠2と別体としてあるが、その理由は改装対象とする既設サッシ下枠の上板部12aの水平方向に対する傾斜の緩急がまちまちであるため、特定の長さで支持部材を改装サッシ下枠と一体成形すると、縦板部に相当する部分が長すぎて取り付けられないような場合があるからである。」

カ 「【0058】
【発明の効果】本発明の改装サッシ下枠によれば、室内の床面や膳板の上面に対して改装サッシ下枠の上端を略面一にすることができる。……さらに、本発明の改装サッシ下枠と改装工法によれば、従来の改装サッシ枠よりも改装サッシ枠の開口寸法を高さ方向で大きくすることができる。」

キ 上記オの記載を踏まえて図2をみると、逆L字状の支持部材24の縦板部24bが既設サッシ下枠12の上板部12aの最も室内側の端部に連なる縁壁にネジ固定されていること、及び既設サッシ下枠12の上板部12aの最も室内側の端部に連なる縁壁の上端と改装下枠2の上端が同じ高さであることがみてとれる。

ク 上記アないしキ(特にア、オ)によると、甲第3号証には、次の事項が記載されていると認められる。
「既設サッシ下枠の上に重ねて取り付ける改装サッシ下枠において、
改装サッシ下枠は、障子の戸車を受けるレールを含む突設要素の上端が所定の略同じ高さで形成してある上板部と、既設サッシ下枠に固定される固定脚部とを備え、
改装サッシ下枠の上板部の室内側端部の裏面には逆L字状の支持部材を備えており、その横板部は上板部に対してネジ固定され、逆L字状の支持部材の縦板部が既設サッシ下枠の上板部の最も室内側の端部に連なる縁壁にネジ固定されること。」

(3)甲第4号証の1ないし5、甲第21号証の1及び2、甲第22号証、甲第23号証
ア 公知公用について
甲第4号証の1は、その記載内容からみて、平成12年11月24日竣工の「広電己斐寮浴室改修工事」に係る設計図面等であると認められるところ、甲第4号証の4の証明書、甲第21号証の1の納品書、甲第21号証の2の証明書、甲第22号証の写真撮影報告書の記載をも踏まえると、本件特許の原出願日前の平成12年11月24日に当該設計図面等に記載されたとおりに「広電己斐寮浴室改修工事」が竣工されたものと一応推認できる。
そして、甲第4号証の4の証明書には、上記「広電己斐寮浴室改修工事」を施工した新和建装において、改修工事の内容や設計図面等内容について秘密に取り扱ったことはなく、担当した従業員にも秘密保持を課していないことが記載されている。また、施工にあたり施主である広島電鉄株式会社から問い合わせがあれば、新和建装は、当然、設計図面等に記載された事項を含め改修工事の内容を説明したであろうと認められるし、広島電鉄株式会社は、改修されたサッシを調査して、その構造や取付状態を知ることが可能である。
してみると、甲第4号証の1等の記載から把握される「広電己斐寮浴室改修工事」に係る下記イ(オ)の事項は、本件特許の原出願日前に公然知られたもの又は公然実施されたものであると一応推認できる。

イ 甲第4号証の1(甲第4号証の2、甲第4号証の3)、甲第4号証の5、甲第22号証、甲第23号証の記載
(ア)甲第4号証の1(甲第4号証の2、甲第4号証の3)
工事名「広電己斐寮浴室改修工事」の設計図面等が記載された甲第4号証の1には、以下の事項が記載されている。なお便宜上、甲第4号証の1の4/4頁の左図面(以下「縦断面図」という。)を拡大した甲第4号証の2、及び、同じく右図面(以下「横断面図」という。)を拡大した甲第4号証の3に付された記号を用いて記載する。

a 甲第4号証の2(縦断面図)は、次のものである。



b 甲第4号証の3(横断面図)は、次のものである。



c 縦断面図をみると、下方には、点線L1により、既設下枠が示されている。既設下枠には、脱衣側から浴室側に向かって段々に低くなる底壁部分m1、底壁部分m1より上方に向かって延びる脱衣側レールm2、浴室側レールm3が形成されており、底壁部分m1の最も浴室側の端部から上方に向かって延びる壁部m4が形成され、底壁部分m1の最も脱衣側の端部から立ち上がって浴室側面となる壁部m5が形成され、壁部m5の上端には脱衣側に屈曲して横向片の部分m6が形成されるとともに、横向片の部分m6の浴室側には浴室側に延びる延設部分m7が形成されていることがみてとれる。

d 縦断面図をみると、上方には、点線L2により、既設上枠が示されている。既設上枠には、脱衣側レールn2、浴室側レールn3が形成されている。また、実線L4で改修用上枠が示されており、改修用上枠は、既設上枠にビスによって固定されたクランク状の部材uに浴室側から当接し、ビスによって固定されていることがみてとれる。

e 縦断面図をみると、その右側に「既設サッシH=2,000」と寸法線l1とともに記載されており、寸法線l1の下端位置は、縦断面図の下方において点線L1で示される横向片の部分m6の上面と同一高さ位置であるとともに、寸法線l1の上端位置は、縦断面図の上方において点線L2で示される既設上枠の下端位置と略同一高さ位置であることがみてとれる。

f 縦断面図をみると、上壁s1を浴室側に延ばした逆L字状の部材sが、上壁s1を延設部分m7の下面に当接させるとともに、その縦壁s2を壁部m5の浴室側面にビスで固定されていることがみてとれ、L字状の部材sには、「AL L-15×12(三協)」との記載が付されている。

g 縦断面図をみると、点線L1により示される壁部m4には、逆L字状の部材tがビスで固定されていることがみてとれ、逆L字状の部材tには、「AL L-50×12×2.0(新和手配)」との記載が付されている。

h 縦断面図をみると、実線L3により、改修用下枠が示されている。実線L3で示される改修用下枠の底壁は、平坦で、浴室側と脱衣側の高さが同一であることがみてとれる。また、実線L3で示される改修用下枠は、その脱衣側端の水平部の上面と浴室側のレール及び脱衣側のレールの上端の高さが同一であり、既設下枠の上端である点線L1により示される壁部m5の上端(横向片の部分m6の上面)との高さの差が「3」(mm)であることがみてとれる。

i 縦断面図をみると、実線L3で示される改修用下枠は、その脱衣室側端が下方に屈曲して点線L1により示される横向片の部分m6の上面に当接されるとともに、延設部分m7のさらに浴室側において逆L字状の部材sの上壁s1に対してビスにより固定されていることがみてとれる。また、実線L3で示される改修用下枠は浴室側において、その底壁が逆L字状の部材tの上部にビスで固定されていることがみてとれる。

j 横断面図をみると、点線L5、L6により、既設縦枠が示されている。実線L7、L8で示される改修用竪枠の浴室側及び脱衣側が、それぞれ点線L5で示される壁部p3及び点線L6で示される壁部q3と、クランク状の部材wの内周片w1及び断面L字状の部材yの内周片y1とに浴室側から当接し、それぞれビスによって固定されていることがみてとれる。

k 縦断面図をみると、改修用上枠と改修用下枠のレールの間に引戸が設置されており、改修用上枠、改修用下枠及び改修用竪枠が引戸枠であることがみてとれる。また、既設上枠の脱衣側レールn2、浴室側レールn3と既設下枠の脱衣側レールm2、浴室側レールm3が対向して設けられており、既設上枠、既設下枠及び既設竪枠も引戸枠であることがみてとれる。

(イ)甲第4号証の5
甲第4号証の5は、株式会社新和の代表取締役宇吹正樹が請求人に宛てた平成28年2月1日付けの証明書であって、次の記載がある。

「弊社は、広島電鉄株式会社殿の広島電鉄己斐寮…において、弊社が作成した平成27年7月24日付け証明書別紙設計図面等に基づき、平成12年11月24日に竣工させた浴室ドア改修工事に関して、下記のとおり証明致します。
……
1.上記改修工事における既設サッシはアルミニウム合金製であったところ、……
2.改修用引戸枠を既設引戸枠内に取り付けるに際しては浴室側から挿入したこと。
3.上記改修工事において、広島電鉄株式会社殿から開口面積ができるだけ小さくならないようにとの要望があり、この点に配慮して設計をしたこと。」

(ウ)甲第22号証
甲第23号証は、請求人である三協立山株式会社法務知財部部長小栗裕一が作成した写真撮影報告書であって、平成27年6月5日に広島電鉄株式会社己斐寮の浴場内の脱衣室側と浴室側とを仕切る引違い戸を撮影したものと一応認められるところ、5頁ないし8頁の写真をみると、改修用サッシはアルミニウム合金からなるものと認められる。

(エ)甲第23号証
甲第23号証は、株式会社新和の代表取締役宇吹正樹が請求人に宛てた平成28年11月7日付けの証明書であって、以下の記載がある。

「弊社は、広島電鉄株式会社殿の広島電鉄己斐寮…において、弊社が作成した平成27年7月24日付け証明書別紙設計図面等に基づき、平成12年11月24日に竣工させた浴室ドア改修工事に関して、下記のとおり証明致します。
……
別紙の図1は、上記浴室ドア改修工事に関する改修用サッシの縦断面図……を拡大したものに、便宜上記号を付した図で、別紙の図2は、図1のうち下枠の脱衣側部分を拡大した図です。
この図2を見ると分かるとおり、横向片の部分m6の左側、すなわち、横向片の部分m6、改修用下枠、横向片の部分m7及び逆L字状の部材sの上壁s1で囲われた部分には、何らの部材も存在しません。また、改修用下枠及び逆L字状の部材sの上壁s1が直接ネジにより連結されているため、逆L字状の部材sに対して改修用下枠が上下左右にずれることはなく、改修用下枠は、ネジを介して、逆L字状の部材sの上壁s1で支持されています。」

(オ)「広電己斐寮浴室改修工事」に係る事項
上記(ア)ないし(エ)(特に(ア))によると、「広電己斐寮浴室改修工事」に係る浴室の引戸枠の改修に関し、次の事項が認められる。
「既設下枠の底壁部分m1の最も脱衣側の端部には、立ち上がって浴室側面となる壁部m5が形成され、
上壁s1を浴室側に延ばした逆L字状の部材sの縦壁s2を壁部m5の浴室側面にビスで固定し、
既設下枠の浴室側の壁部m4には、逆L字状の部材tをビスで固定し、
平坦で浴室側と脱衣側の高さが同一である底壁を備えた、改修用引戸枠の改修用下枠の浴室寄りを断面逆L字状の部材tの上部にビスで固定し、改修用下枠の脱衣寄りを逆L字状の部材sの上壁s1に対してビスで固定すること。」

(4)甲第5号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。

ア 「【0002】
【従来の技術】従来、旧窓枠を利用して、この窓枠に改装サッシを取り付ける場合、図10に示すように旧窓枠1Aに取付ねじ11Aを介して取付補助枠58Aを固着し、改装サッシの新窓枠21Aと取付補助枠58Aとの間の隙間に、図6に示す形状の従来のスペーサ13を数枚重ねて挿入して、このスペーサ13,新窓枠21A,取付補助枠58Aを旧窓枠1Aに取付ねじ100Aにより一体固定するようにしていた。」

イ 「【0006】
【実施例】次に、図面により本願の実施例について説明する。図2,3において、旧窓枠1は建物の開口部材3内面に周知の如く取付けられ、上枠4、下枠5および左右の竪枠6、7を枠組みして構成されている。旧窓枠1の上枠4,左右の竪枠6,7,下枠5の夫々には前後の取付ねじ11により取付補助枠56?59がねじ止めされている。下枠5と取付補助枠59との間には、複数枚の下枠用スペーサ13が差し込まれている。この下枠用スペーサ13は、図6に示すように長方形の板状に形成され、その前方にはねじ用切欠部14が形成されている。このねじ用切欠部14を介して下枠用スペーサ13,下枠5及び取付補助枠59が取付ねじ11により旧下枠5に一体固着されている。さらに、下枠用の取付補助枠59の室内側,室外側端部には、後述の新窓枠取付用の取付片15が形成されている(図3に示す)。」

ウ 「【0007】次に、上記旧窓枠1を改装する為の改装サッシ20の新窓枠21は、上枠22、下枠23および左、右の竪枠24,25を枠組みして構成されている。図3に示すように新窓枠21の上枠22には障子案内片27a,27bが、下枠23には障子案内レ-ル28a,28bが夫々形成され、これらの部分に周知の内、外障子29a,29bを嵌め込み得るようになっている。新窓枠21の室内側部分にはリベット31を介して化粧用のカバ-部材32が取付けられている。また、新窓枠21下枠23の室内側,室外側端部には、前記旧窓枠1下枠5の各取付片15に対して当接して、取付ねじ38により一体に固定される螺着片34が形成されている。」

エ 「【0009】次に、新窓枠21を旧窓枠1に取付ける作業手順について説明する。……また、旧窓枠1の下枠5には適宜枚数の下枠用スペーサ13を挾み込んで下枠用取付補助枠59を取付ねじ11によりねじ止めする。それから、新窓枠21を室外側より旧窓枠1内に嵌め込み、旧窓枠1の取付片15及び係止突片18に新窓枠21の螺着片34,36を当接させる。」

(5)甲第6号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。

「上記問題点を解決するために、本発明は、建造物躯体1より除去することなく残存せしめた古い窓枠2に新しい窓枠3を取付ける窓の改装法において、古い窓枠2の下枠2bに下枠用取付金物4bを固着して該下枠用取付金物4bに見込み及び見付け方向の取付基準片部6,7を設け、一方四周枠伏に枠組した新しい窓枠3のうち下枠3bを除いた上枠3a及び左右縦枠3c,3dに上枠及び左右縦枠用取付金物4a,4c,4dを固着したものを一体物5として、これを室内側より古い窓枠2に嵌入れて新しい窓枠3の下枠3bを前記下枠用取付金物4bの取付基準片部6,7に直接に、またはライナーなどの調整具8を介して間接に当てつけることによって新しい窓枠3の見込み及び見付け方向の取付面の心出しを行い、しかる後上枠及び左右縦枠用取付金物4a,4c,4dを古い窓枠2の上枠2a及び左右縦枠2c,2dに固着すると共に、新しい窓枠3の下枠3bを下枠用取付金物4bに固着してなる窓の改装法を採用するものである。」(2頁左上欄15行ないし同頁右上欄13行)

(6)甲第7号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。

ア 「(1)旧窓枠に新窓枠を取付ける改装サツシにおいて、新窓枠の外側フランジを旧窓枠にビス止めし、内側面の長手方向に形成したC形溝に新アンカー片の基板を係止するとともに、該基板から延出したフランジを旧窓枠にビス止めしたことを特徴とする新窓枠の取付構造。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「本考案は旧窓枠に新窓枠を取付けるとき、新窓枠の見込寸法が旧窓枠のそれより小なる場合の取付け構造に関する。
従来改装サツシに於て旧窓枠に対して見込寸法の小なる新窓枠を其のま丶利用して簡単に取付ける横取は無く極めて複雑な手法が採用されて来た。本考案は単純な形状のアンカー片を付加することにより見込寸法の異なる旧窓枠に順応して取付可能なる新窓枠の取付け構造を提供するものにして特に改装サツシの下枠に応用して効を奏するものである。」(1頁1欄31行ないし同頁2欄4行)

ウ 「図に於て1は既存のスチール製下枠にして室内側立上り壁より延出した先端は屈曲して逆U字形を形成し上表面1aは平面である。2は既存のスチール製水切板で先端の水切部は図示を略されており室内側の立上り壁2aは旧下枠の垂下フランジ1bに内装している。3は建造物壁体にして通常コンクリートである。4は内障子用の敷居材である。以上が既設スチールサツシ障子を取り除いた旧窓枠の状態である。5は新窓枠にして其の側面形状は階段状を呈して室外に向つて下り勾配を形成し、その側端に近接した位置より垂下したる外側フランジ5aを形成し、又内側面には縦長のC形溝5bを長手方向に形成しその上端より室内側へ水平フランジ5cを形成してる。6はアンカー片にして6aはその基板にして6bは基板と直交するフランジである。」(1頁2欄7ないし23行)

エ 「7は額縁にして実質的には膳板の役目を果しており、既設の構成に合致する如き寸法にてアンカー片6と既存の下枠1とを覆う化粧板であり一般には窓枠と同一材料の型材を使用すれば良い。本実施例にては型材はアルミニウム合金型材に表面処理を施した材料が使用されている。」(2頁3欄6ないし11行)

オ 「次に取付工法の一例を概説すると、アンカー6がC形溝5b内に挿入されて方形に組立てられた新窓枠を現地に運搬し新窓枠の外側フランジ5aを複数本のビス8にて新水切板2′を介して旧窓枠にビス止めする。この場合外側フランジ5aの内壁面に長手方向に装着されたるパツキンを介してビス止めされた状態を図示してる。一方アンカーのフランジ6bを上方より複数本のビス8にて旧窓枠にビス止めする。……なお図示の12はアルミニウム型材と旧スチール枠間にて腐食の発生を防止するための養生である電食防止テープである。」(2頁3欄12行ないし同頁4欄7行)

カ 「以上説明したとおり本考案によれば旧窓枠と新窓枠との見込寸法が異なる場合に、新窓枠の内側面の長手方向にC形溝を設けておき、アンカーと新しい額縁のみを準備すれば、寸法の異なる既設窓枠に新窓枠を簡単に装着可能にして、又C形溝を利用したので現場でのビス孔の穿孔手数も省け経済的見地より実用的価値の高いものである。」(2頁右欄8ないし14行)

(7)甲第8号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。

ア 「第1図及び第2図において、(A)は老朽化したアルミ製サッシ枠(以下単に旧サッシ枠という)を示し、上枠材(1)、下枠材(2)、左竪枠材(3)及び右竪枠材(図示せず)を連結して成るものである。
(B)は、新しく取付けられる改装用サッシ枠を示し、上枠材(4)、下枠材(5)、左竪枠材(6)及び右竪枠材(図示せず)を連結して成るものである。
この改装用サツシ枠(B)の各枠材室外側には旧サッシ枠(A)の各枠材室外側面に当接する支片(7)(8)(9)が設けられるが、下枠材(5)の支片(8)は、建物躯体を成す窓台(10)に固着されるものであるから、旧サッシ下枠材(2)の固着片(11)に当接するように、その下端は室内側へ屈折している。
又、改装用サッシ下枠材(5)の室内側には、旧サッシ下枠材(2)の室内側に添設された木部(12)上に載置固定される取付け片(13)が突設されている。
この取付け片(13)は改装用サッシ枠(5)を室外側から室内側へ向って嵌め込む際に、旧サッシ下枠材(2)の室内側立上り片(14)にぶつからないように、これより上方位置に突設されているので、木部(12)はこの取付け片(13)と窓台(10)の間を埋めるため、及び旧サッシ下枠材(2)を隠蔽するために必要としている。
……
新旧サッシ枠(A)(B)の間に介在する支持部材(C)は、改装用サッシ枠材(4)(5)(6)の取付け時の安定性をよくするために用いられ、……スチール材から成る。この支持部材(C)は各枠材の全長にわたって介在させてもよく、又所々に介在させてもよい。……下枠用の支持部材(C)については、浸水防止の観点から下枠を貫通する固定部材を使用しないので、第1図に示すように旧サッシ下枠(2)のレール(16)を利用してネジ止めされる。
而して、枠組み連結した改装用サッシ枠(B)を、旧サッシ枠(A)を取付けたままの窓開口部へ嵌め込み、改装用サッシ下枠材(5)を支持部材(C)上に載置するとともに、その取付け片(13)を木部(12)上に載置して、各枠材(4)(5)(6)の室外側当接用支片(7)(8)(9)を、対応する旧サッシ枠材(1)(2)(3)の室外面に当接する。
そして、改装用下枠材(5)については、上記取付け片(13)を木部(12)にネジ止めし、当接用支片(8)の下端を旧サッシ下枠(2)と重合状態で建物躯体を成す窓台(10)に釘打ち固定する。」(明細書4頁7行ないし6頁17行)

イ 第1図をみると、改装用下枠材(5)は、室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えていることがみてとれる。

(8)甲第9号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。

ア 「既設サッシの窓中心側に新設サツシを取付けるための、両サッシ間に介在させるサッシ取付け部材(3),(6)のうちの下側サツシ部分(1),(2)に介在させるサッシ取付け部材であつて、前記既設サッシの下側レール部(2a)の内外方向全幅に相当する幅を有する帯状部(3a)と該帯状部(3a)の室外側となるべき端部から下方に垂設された縁部(3b)とを有し、その断面形状が略L字状に形成され、前記縁部(3b)を既設サッシの下側レール部(2a)外縁の室外側垂直部(2c)に当て付けるとともにL字状取付け捨枠台(7)を介して既設サッシに固設する一方、前記帯状部(3a)を前記下側レール(2a)に支持させるべく構成してあるサッシ取付け部材。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「第3図は、既設サッシの下側サッシ部分(2)における突条レールを切除したレール部(2a)の上に取付け部材(3)を介して新設サッシの下側サッシ部分(1)を取付けた構造を示す。……この第3図の構造の場合は、既設サッシのレール部(2a)の突状レールを切除したので、その分新設サッシの窓枠を大きく形成することができる。」(明細書14頁8行ないし15頁8行)

ウ 第3図をみると、新設サッシの下側サッシ部分(1)は、室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えていることがみてとれる。

(9)甲第10号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】従来から、例えば建材に使われるアルミ合金は多種類にわたるが、玄関や雨戸等のサッシに適するものとしては、JIS規格に記号A6063で規定された合金がある。このA6063のアルミ合金はアルミニウム(Al)に少量のマグネシウム(Mg)と珪素(Si)を添加した押出性及び表面処理性に優れた合金であり、この合金を使った押出製品は、強度、可塑加工性、切削加工性ともに優れ、耐食性には特に優れた性能をもつ。」

(10)甲第11号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】窓、戸などの建具に使用されている形材は、いわゆる、アルミニウム・サッシが多く、このアルミニウム・サッシは、一般的に、アルミ合金の塊を押し出し機に入れて、トコロテン式に押し出し、ダイスを介在して、サッシを形成している。」

(11)甲第12号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、以下の記載がある。

ア 「【0011】
【実施例】図1,図2は、コンクリート造の建築物における窓の個所を示しており、外壁等の躯体2に開口部1が形成されている。また、開口部1の内周面に沿って開口部枠4(窓枠4)を取り付けるための上部捨て枠3a、下部捨て枠3b及び左右の側部捨て枠3cが配設されている。これら捨て枠3a,3b,3cは合成樹脂を素材とする押し出し形材であり、コンクリートの躯体2に埋設されていると共に、その内周面が開口部1を囲むように躯体2の表面に露出されている。
【0012】窓枠4は上枠4a,下枠4b及び左右の縦部4cで方形に形成されている。上部捨て枠3aの下面には上枠4a及び上部補助部材6aがスペーサ5を介してビス18aで取付けられている。上部捨て枠3aは、開口部1の左右幅方向に沿うと共に、上下面が水平面である中空部7を備え、中空部7の上面の室内寄りと室外寄りには、先端が互いに内向きに屈曲された断面L字状のコンクリート定着片8a,8aが形成されている。また、中空部7の室内側面及び室外側面には躯体2への定着性を増すために凹溝17,17が形成されている。」

イ 「【0015】下部捨て枠3bの上面には下枠4b及び下部補助部材6bがスペーサ5及び固定金具20を介して取付けられている。下部捨て枠3bの上方には、雨水を排出するために室外側下方に傾斜する水切部材14が装着されるので、下部捨て枠3bは、その水平面15の上面の室内寄りに最も高い第1の矩形中空部16が設けられ、室内外方向中間部にこれより低い第2の矩形中空部16´が設けられて、室内側が高い略階段状に形成されている。」

ウ 「【0017】固定金具20は下部捨て枠3bの上面に沿うように階段状に屈曲され、スペーサ5,5を介して第1の矩形中空部16及び第2の矩形中空部16´の上面に適宜間隔毎に載置され、ビス18bで固定される。固定金具20の第1の矩形中空部16上に載置される部分の上面には、断面逆L字形の下部補助部材6bがビスで取付けられている。下部補助部材6bの水平部上面の室内寄り及び室外寄りに下枠係止フック19,19が互いに外向きに形成され、下部補助部材6bの垂直部の室内側面に上下一対の額縁支持突起11b,11bが突設されている。
【0018】下部補助部材6bの水平部の上方には下枠4bが装着される。下枠4bの下面の室内寄り及び室外寄りにはフック片9b,9bが下方に向けて形成され、該フック片9b,9bが下部補助部材6bの下枠係止フック19,19に係合されている。また、室内寄りのフック片9bと下部補助部材6bの垂直部上端は重合されてビスで固定されている。さらに、下部補助部材6bの室内側面と下部補助部材6bの垂直部室内面に亘って適宜間隔毎に窓枠固定金具21が架設されると共にビスで固定されている。」

(12)甲第13号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、以下の記載がある。

「【0020】前記窓ユニット1の窓枠10の内、上枠10A、側枠10C、10Dの外周面に対しては、改装後状態で躯体開口面(モルタルMによる見込み面)に接触する舌片状タイト部材17、12…(以下、レインバリヤという。)が設けられ、外側からのシール施工なしに気密性、水密性が保たれるようになっている。」

(13)甲第14号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、以下の記載がある。

「【0012】このような下地枠30には、前記新設窓枠33が固定される。この新設窓枠33は、下地枠30の上枠部材30a、下枠部材30bおよび各縦枠部材30c,30dに対応してそれぞれ設けられる上枠部材33a、下枠部材33bおよび各縦枠部材33c,33dによって構成され、これらの上枠部材33a、下枠部材33bおよび各縦枠部材33c,33dはアルミニウム合金から成る押出し形材である。また上枠部材33a、下枠部材33bおよび各縦枠部材33c,33dには、その長手方向に延びる蟻溝39a?39dがそれぞれ形成され、これらの蟻溝39a?39dにはガスケット40a?40dが嵌着される。……このようなガスケット40a?40dによって水密性が達成される。」

(14)甲第25号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第25号証には、以下の記載がある。

「また、既設窓枠における突出部分を切除した枠の残存部材を基準として新設窓枠の枠を取付けるので、新設窓枠を既設窓枠の枠の一部を基準として正しく位置決めして取付けできる……」(8欄44行ないし9欄3行)

(15)甲第26号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第26号証には、以下の記載がある。

ア 「本発明を図面に示す実施例について説明すると、第1図に示すアルミニウム製窓枠1を工場で製造するに際し下枠2の下部に屈曲鋼板によるアンカー3をビス4,4によって固定するものである。このようにした窓枠1を室内に搬入し既設鋼製窓枠5に嵌装されている鋼製框によるガラス障子を取外し、直ちに既設鋼製下枠6の室内側突縁6’の上面に上記アンカー3の室内側下面3’を支持し、同支持部を支点としたアルミニウム製窓枠1を直立させると同窓枠1の上枠7および縦枠8、8が既設鋼製上枠9および縦枠10、10と対面するものである。」(1頁右下欄10行ないし2頁左上欄1行)

イ 「…22は同支持脚21と鋼製下枠6上面間に介在させた高低調節座金、23はアンカー3固定用ビス、……又アンカー3はアルミニウム製下枠2の下端に既設鋼製下枠6の室内側突縁6’に接する水平部分3’と同鋼製下枠6の低部33に高低調節座金22を介して接する支持脚21を有するものであり、……」(2頁左上欄12行ないし同頁右上欄3行)

3 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比する。

(ア)本件特許発明1の「建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存」すること及び「前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去」することと、甲2発明1の「上枠4、下枠5、左右の縦枠6は、室内外側方向に連続した枠本体7と、この枠本体7の内面7aに一体的に設けた複数の内向突片8を有するアルミ押出形材であり、上枠4、下枠5、左右の縦枠6から形成される」 、「建物躯体1の開口部2に取付けてある既存の」「金属引き違い窓の金属枠体3を建物躯体の開口部に残存させ」ること、及び「下枠5の室内側及び室外側の内向突片8は付け根付近から切断」することとを対比する。
甲2発明1の「建物躯体1の開口部2」及び「既存の金属引き違い窓の金属枠体3」は、本件特許発明1の「建物の開口部」及び「既設引戸枠」に、それぞれ相当する。
アルミ押出形材をアルミニウム合金で形成することは常套手段であるから、甲2発明1の「アルミ押出形材であ」る「金属枠体3」の「上枠4」、「下枠5」及び「縦枠6」は、本件特許発明1の「アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠」、「アルミニウム合金の押出し形材から成」る「既設下枠」及び「アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠」に、それぞれ相当する。
甲2発明1の「下枠5の室内側及び室外側の内向突片8」は、本件特許発明1の「既設下枠」の「室内側案内レールと室外側案内レール」に相当し、同様に「下枠5」の「室外側の内向突片8は付け根付近から切断」することは、「前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去」することに相当する。
してみると、両者は、「建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し」、「前記既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去」する点で共通する。

(イ)本件特許発明1の「前記既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け」ることと、甲2発明1の「各枠の枠本体7における室内外側方向中間で長手方向に間隔を置いた複数部分にスリット状の穴11をそれぞれ加工することにより、残存した既存の金属枠体3を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし、アルミ押出形材の室内側部材13とアルミ押出形材の室外側部材14を断熱材15で連結した断熱形材である、下枠22の下地材12を下枠5の室内外方向全体に渡って設け、下枠22の下地材12の室内側部材13を下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りにて、下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付け、下枠22の下地材12の室外側部材14を下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付け」ることとを対比する。
「補助」とは、「おぎない助けること。また、その助けになるもの。」(広辞苑第六版)を意味するところ、本件特許発明1の「取付け補助部材」は「既設下枠」に取り付けられ、「改修用下枠」の取付けにあたり、「改修用下枠の室内寄り」を「支持」するものであるから、改修用下枠の既設下枠への取付けを補い助ける部材であると認められる。
そして、甲2発明1の「下枠22の下地材12」は、「下枠5の枠本体7」に「ビス16」及び「ビス17」で取付けられ、「新設の断熱枠体20」を、その「室内側部材13に直接ビス止めし」、「室外側部材14に当接」するものであって、「下枠22」の「下枠5」への取付けを補い助ける部材であるといえるから、本件特許発明1の「取付け補助部材」に相当する。
また、甲2発明1の「下枠22の下地材12の室内側部材13」を「下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付け」ることは、本件特許発明1の「取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け」ることに相当する。
してみると、両者は、「既設下枠に取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付ける」点で共通する。

(ウ)本件特許発明1の「この後に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、前記既設引戸枠内に室外側から挿入し、その改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持すると共に、前記改修用下枠の室内寄りを前記取付け補助部材で支持し」、「前記改修用下枠の前壁を、ビスによって既設下枠の前壁に固定することで、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付けること」と、甲2発明1の「上枠21、下枠22、左右の縦枠23を枠組みしたもので、その各枠は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材であり、下枠22は、室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている新設の断熱枠体20を、下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めし、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接し、既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付ける」こととを対比する。
甲2発明1の「上枠21」、「縦枠23」及び「新設の断熱枠体20」は、本件特許発明1の「改修用上枠」、「改修用竪枠」及び「改修用引戸枠」にそれぞれ相当し、同様に「室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている」「下枠22」は、「室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠」に相当する。
甲2発明1において、「上枠21、下枠22、左右の縦枠23」が「アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材」であることと、本件特許発明1において、「改修用上枠」、「改修用下枠」及び「改修用竪枠」が「アルミニウム合金の押出し形材から成る」こととは、アルミ押出形材をアルミニウム合金で形成することは常套手段であることを踏まえると、「改修用上枠」、「改修用下枠」及び「改修用竪枠」が「「アルミニウム合金の押出し形材を用いた」ものである点で共通する。
甲2発明1は、「新設の断熱枠体20」を「既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付ける」から、「新設の断熱枠体20」を「既存の金属枠体3」内に挿入するものであることは明らかである。
甲2発明1の「下地材12」は、「下枠22の室内側部材24」を「室内側部材13に直接ビス止め」するものであるから、「改修用下枠の室外寄り」を「支持」するものといえる。
本件特許発明1は、「改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付ける」ものであるところ、「基準」とは、「物事の基礎となるよりどころ」(デジタル大辞泉)を意味すること、また本件特許の明細書には、「既設下枠に室内寄りに取付補助部材を設けるとともに、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、取付け補助部材を基準として改修用引戸枠を既設引戸枠に取付けるので、既設引戸枠の形状、寸法に応じた形状、寸法の取付け補助部材を用いることで、形状、寸法が異なる既設引戸枠に同一の改修用引戸枠を取付けできる。」(段落【0018】)と記載されていることに照らせば、「改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付ける」とは、取付け補助部材を既設引戸枠に対する改修用引戸枠の位置を決めるよりどころとして、改修用引戸枠を取付けることを意味するものと認められる。
これに対し、甲2発明1は、「下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めし」、「既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付ける」ものであって、下地材12を既存の金属枠体3に対する新設の断熱枠体20の位置を決めるよりどころとしていることは明らかであるから、甲2発明1は、新設の断熱枠体20を下地材12を基準として取付けるものである。
してみると、両者は、「この後に、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材を用い室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、既設引戸枠内に室外側から挿入し、改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し、改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付ける」点で共通する。

(エ)甲2発明1の「既存の金属引き違い窓を断熱引き違い窓に改修する方法」は、本件特許発明1の「引戸装置の改修方法」に相当する。

(オ)以上によれば、本件特許発明1と甲2発明1とは以下の点で一致する。
<一致点>
「建物の開口部に取付けてあるアルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有する既設引戸枠を残存し、
既設下枠の室外側案内レールを付け根付近から切断して撤去し、既設下枠に取付け補助部材を設け、この取付け補助部材を既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付け、
この後に、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用竪枠、アルミニウム合金の押出し形材を用い室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠を有する改修用引戸枠を、既設引戸枠内に挿入し、改修用下枠の室内寄りを取付け補助部材で支持し、
改修用引戸枠を取付け補助部材を基準として取付ける引戸装置の改修方法。」

(カ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
取付け補助部材に関し、本件特許発明1では、取付け補助部材は既設下枠の室内寄りに設けるのに対し、甲2発明1では、下枠22の下地材12は下枠5の室内外方向全体に渡って設ける点。

<相違点2>
改修用引戸枠の材質に関し、本件特許発明1では、改修用上枠、改修用竪枠及び改修用下枠はアルミニウム合金の押出し形材から成るのに対し、甲2発明1では、上枠21、下枠22及び縦枠23は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものである点。

<相違点3>
改修用引戸枠の既設引戸枠内への挿入方向に関し、本件特許発明1では、改修用引戸枠を既設引戸枠内に室外側から挿入するのに対し、甲2発明1では、新設の断熱枠体20を既存の金属枠体3に室外側及び室内側のいずれから挿入するか不明である点。

<相違点4>
本件特許発明1では、背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであるのに対し、甲2発明1では、そのような構成を有していない点。

<相違点5>
改修用引戸枠の既設引戸枠内への取付けに関し、本件特許発明1では、改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持し、改修用下枠の前壁をビスによって既設下枠の前壁に固定するのに対し、甲2発明1では、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接する点。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 甲第3号証には、「既設サッシ下枠の上に重ねて取り付ける改装サッシ下枠において、改装サッシ下枠は、障子の戸車を受けるレールを含む突設要素の上端が所定の略同じ高さで形成してある上板部と、既設サッシ下枠に固定される固定脚部とを備え、改装サッシ下枠の上板部の室内側端部の裏面には逆L字状の支持部材を備えており、その横板部は上板部に対してネジ固定され、逆L字状の支持部材の縦板部が既設サッシ下枠の上板部の最も室内側の端部に連なる縁壁にネジ固定されること。」(以下「甲3技術」という。上記2(2)を参照。)が記載されており、甲3技術の「既設サッシ下枠」、「改装サッシ下枠」、「逆L字状の支持部材」及び「既設サッシ下枠の上板部の最も室内側の端部に連なる縁壁」は、本件特許発明1の「既設下枠」、「改修用下枠」、「取付け補助部材」及び「既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面」にそれぞれ相当する。
b しかし、甲第2号証には、「各枠の枠本体7に下地材12をそれぞれ取付けて穴11を形成した各枠を補強する。……前記下地材12の室内側部材13が枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りの室内側部にビス16で取付けられる。前記下地材12の室外側部材14が枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられる。これによって、各枠本体7(つまり、上枠4、下枠5、縦枠6)を補強する……」(段落【0024】、上記2(1)エを参照。)と記載されており、甲2発明1の「下枠22の下地材12」は下枠5の室内外方向全体に渡って設けることにより、スリット状の穴11を形成した下枠5の枠本体7を補強する機能を有するものであること、及び、甲2発明1の「下枠22の下地材12の室外側部材14」は、既存の金属枠体3に新設の断熱枠体20を取り付けるにあたり、下枠22の室外側部材25が当接されるものであることに照らせば、甲2発明1において、「下枠22の下地材12」に代えて、そのような機能を有しない甲3技術の「逆L字状の支持部材」を適用する動機付けはない。
c 請求人は、甲第2号証には、既設下枠の加工した穴にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填することなどにより、既設下枠の強度低下を補償することが開示されており、下地材による補強によらなくても穴を加工した既設下枠を補強することができるから、甲2発明1において、下地材は必ずしも既設の下枠を補強するために室内外にわたる幅を備える必要はない旨主張し、その根拠として、特許請求の範囲の記載において、既設枠に形成した穴に断熱材を注入充填するか断熱材の成形品を嵌め込むことによって補強する発明(請求項3)と、既存の金属枠体の穴よりも室内寄りの室内側部と穴よりも室外寄りの室外側部とに、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難い下地材の室内側部と室外側部をそれぞれ連結することにより補強する発明(請求項4)とが並列で記載されていることを挙げている(上記第4、3(1)ウ(イ)bを参照。)。
しかし、甲第2号証の特許請求の範囲の請求項4、及び請求項4において引用する請求項1、2には、下枠の下地材について何ら記載されていない。また、甲第2号証の発明の詳細な説明には、下枠22の下地材12として、下枠5の室内外方向全体に渡って設けるものしか記載されておらず、スリット状の穴11にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填したものにおいては、下地材12の室外側部材14が不要であることは記載も示唆もされていない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
d なお、甲第5号証ないし甲第9号証は、建具の改修に用いられる取付け補助部材としては、様々な形状、構成を備えるものが、既設下枠の構造や改修用下枠の構造に応じて用いられていること等を示す証拠として、甲第10号証及び甲第11号証は、サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材を用いることが開示されている証拠として、甲第12号証及び甲第26号証は、部材をスペーサを介して支持することが開示されている証拠として、甲第13号証及び甲第14号証は、改修用上枠及び改修用竪枠にシール材を装着し、そのシール材を建物の開口部に接することが開示されている証拠として、甲第25号証は、改修用建具の技術分野において、改修サッシを取付ける際に補助部材等に対して「基準として」取り付けるという表現は何ら特別な表現ではないこと等を示す証拠として、それぞれ提出されたものであって、いずれも甲2発明1において上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることを教示するものではない。
e よって、甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けること、すなわち上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点2について
a サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることは、甲第10号証及び甲第11号証に記載のように周知である(上記2(9)、(10)を参照。)。
b 他方、甲2発明1は、建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修する方法に関するものであって、上枠21、下枠22及び縦枠23を、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものとすることにより、新設の断熱枠体20の室内側部材24に室外の冷気が伝わり難くしたものである。そして、甲2発明1において、新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23を、断熱材が介在することのないアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすると、断熱効果が低下することは明らかである。
そうすると、アルミサッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることが周知技術であったとしても、当業者にとって、断熱を目的とする甲2発明1において新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23をアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすることは想到し得ないものである。
c よって、甲2発明1において、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(ウ)相違点5について
a 上記(ア)のとおり、甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
そうすると、甲2発明1は、断熱枠体20の下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接するものであるから、断熱枠体20の下枠22のの室外寄りを、スペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持するとの構成、すなわち上記相違点5に係る本件特許発明1の構成は採用し得ない。
b 甲第5号証には、旧窓枠1の下枠5と取付補助枠59との間に複数枚の下枠用スペーサ13を差し込むことが記載されており(上記2(4)を参照。)、「下枠5」及び「下枠用スペーサ13」は、本件特許発明1の「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
甲第6号証には、古い窓枠2の下枠2bに下枠用取付金物4bを固着して、該下枠用取付金物4bの取付基準片部6、7にライナーなどの調整具8を介して当てつけることによって、新しい窓枠3の下枠3bを下枠用取付金物4bに固着することが記載されており(上記2(5)を参照。)、「下枠2b」、「調整具8」及び「下枠3b」は、本件特許発明1の「既設下枠」、「スペーサ」及び「改修用下枠」にそれぞれ相当する。
甲第12号証には、下部捨て枠3bの上面にスペーサ5及び固定金具20を介して下枠4b及び下部補助部材6bが取付けられることが記載されており(上記2(11)を参照。)、「スペーサ5」は、本件特許発明1の「スペーサ」に相当する。
甲第26号証には、下枠2の下部に固定されたアンカー3の支持脚21が既設鋼製下枠6の低部33と高低調節座金22を介して接することが記載されており(上記2(15)を参照。)、「下枠2」、「既設鋼製下枠6」及び「高低調節座金22」は、本件特許発明1の「改修用下枠」、「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
しかし、改修用下枠の室外寄りをスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持することは、いずれの証拠にも記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
してみると、仮に甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることが当業者にとって容易に想到し得ることであったとしても、その際に、下枠22のの室外寄りをスペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持することが当業者にとって容易になし得たとすることはできない。
c よって、甲2発明1において、上記相違点5に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、上記相違点3及び相違点4については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明1、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明1において、更に「改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着した」こと、及び、改修用引戸枠を既設引戸枠内に挿入する際に、「室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接」することを限定したものといえる。
よって、本件特許発明2と甲2発明1とを対比すると、上記相違点1ないし相違点5に加え、両者は以下の点で相違する。

<相違点6>
本件特許発明2では、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、前記改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着し、室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接するのに対し、甲2発明1では、そのような構成を有していない点。

イ 判断
甲2発明1において、上記相違点1、相違点2及び相違点5に係る本件特許発明2の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点3、相違点4及び相違点6については検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明1、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明1において、更に「室内側案内レールを切断して撤去」することを限定したものといえる。
そして、本件特許発明3と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1の「下枠5の室内側」の「内向突片8は付け根付近から切断」することは、本件特許発明3の「室内側案内レールを切断して撤去」することに相当するから、両者は、上記相違点1ないし相違点5で相違する。

イ 判断
甲2発明1において、上記相違点1、相違点2及び相違点5に係る本件特許発明3の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点3及び相違点4については検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2発明1、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と甲2発明2とを対比する。

(ア)本件特許発明4の「建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され」ることと、甲2発明2の「建物躯体1の開口部2に残存した既存の金属引き違い窓の金属枠体3は、上枠4、下枠5、左右の縦枠6から形成され、上枠4、下枠5、左右の縦枠6は、室内外側方向に連続した枠本体7と、この枠本体7の内面7aに一体的に設けた複数の内向突片8を有するアルミ押出形材であり、下枠5の室内側及び室外側の内向突片8は付け根付近から切断され」ることとを対比する。
甲2発明2の「建物躯体1の開口部2」及び「既存の金属引き違い窓の金属枠体3」は、本件特許発明4の「建物の開口部」及び「既設引戸枠」に、それぞれ相当する。
アルミ押出形材をアルミニウム合金で形成することは常套手段であるから、甲2発明2の「アルミ押出形材」である「金属枠体3」の「上枠4」、「下枠5」及び「縦枠6」は、本件特許発明4の「アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠」、「アルミニウム合金の押出し形材から成」る「既設下枠」及び「アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠」に、それぞれ相当する。
甲2発明2の「下枠5の室内側及び室外側の内向突片8」は、本件特許発明4の「既設下枠」の「室内側案内レールと室外側案内レール」に相当し、同様に「下枠5」の「室外側の内向突片8は付け根付近から切断」されることは、「前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去」されることに相当する。
してみると、両者は、「建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、前記既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され」る点で共通する。

(イ)本件特許発明4の「その既設下枠の室内寄りに取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあ」ることと、甲2発明2の「各枠の枠本体7における室内外側方向中間で長手方向に間隔を置いた複数部分にスリット状の穴11をそれぞれ加工することにより、残存した既存の金属枠体3を、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難くし、アルミ押出形材の室内側部材13とアルミ押出形材の室外側部材14を断熱材15で連結した断熱形材である、下枠22の下地材12を下枠5の室内外方向全体に渡って設け、下枠22の下地材12の室内側部材13が下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りにて、下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付けられ、下枠22の下地材12の室外側部材14が下枠5の枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられ」ることとを対比する。
「補助」とは、「おぎない助けること。また、その助けになるもの。」(広辞苑第六版)を意味するところ、本件特許発明4の「取付け補助部材」は「既設下枠」に取り付けられ、「改修用下枠」の取付けにあたり、「改修用下枠の室内寄り」を「支持」するものであるから、改修用下枠の既設下枠への取付けを補い助ける部材であると認められる。
そして、甲2発明2の「下枠22の下地材12」は、「下枠5の枠本体7」に「ビス16」及び「ビス17」で取付けられ、「新設の断熱枠体20」を、その「室内側部材13に直接ビス止めし」、「室外側部材14に当接」するものであって、「下枠22」の「下枠5」への取付けを補い助ける部材であるといえるから、本件特許発明4の「取付け補助部材」に相当する。
また、甲2発明2の「下枠22の下地材12の室内側部材13」が「下枠5の枠本体7の内面7aの最も室内側の立面にビス16で取付けられ」ることは、本件特許発明4の「取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあ」ることに相当する。
してみると、両者は、「既設下枠に取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてある」点で共通する。

(ウ)本件特許発明4の「この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、この改修用引戸枠の改修用下枠の室外寄りが、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持されると共に、前記改修用下枠の室内寄りが、前記取付け補助部材で支持され」、「前記改修用下枠の前壁が、ビスによって既設下枠の前壁に固定されていること」と、甲2発明2の「上枠21、下枠22、左右の縦枠23を枠組みしたもので、その各枠は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材であり、下枠22は、室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている新設の断熱枠体20を、下枠22の室内側部材24は下地材12の室内側部材13に直接ビス止めし、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接し、既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付けた」こととを対比する。
甲2発明2の「上枠21」、「縦枠23」及び「新設の断熱枠体20」は、本件特許発明4の「改修用上枠」、「改修用竪枠」及び「改修用引戸枠」にそれぞれ相当し、同様に「室外側から室内側に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えている」「下枠22」は、「室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠」に相当する。
甲2発明2において、「上枠21、下枠22、左右の縦枠23」が「アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結した断熱形材」であることと、本件特許発明4において、「改修用上枠」、「改修用下枠」及び「改修用竪枠」が「アルミニウム合金の押出し形材から成る」こととは、アルミ押出形材をアルミニウム合金で形成することは常套手段であることを踏まえると、「改修用上枠」、「改修用下枠」及び「改修用竪枠」が「「アルミニウム合金の押出し形材を用いた」ものである点で共通する。
甲2発明2は、「新設の断熱枠体20」を「既存の金属枠体3の上に下地材12を介してかぶせるようにして取付けた」から、「新設の断熱枠体20」を「既存の金属枠体3」内に挿入するものであることは明らかである。
甲2発明2の「下地材12」は、「下枠22の室内側部材24」を「室内側部材13に直接ビス止め」するものであるから、「改修用下枠の室外寄り」を「支持」するものといえる。
してみると、両者は、「この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材を用い室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、改修用下枠の室内寄りが、取付け補助部材で支持される」点で共通する。

(エ)甲2発明2の「既存の金属引き違い窓を改修した断熱引き違い窓」は、本件特許発明4の「改修引戸装置」に相当する。

(オ)以上によれば、本件特許発明4と甲2発明2とは以下の点で一致する。
<一致点>
「建物の開口部に残存した既設引戸枠は、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設上枠、アルミニウム合金の押出し形材から成り室内側案内レールと室外側案内レールを備えた既設下枠、アルミニウム合金の押出し形材から成る既設竪枠を有し、既設下枠の室外側案内レールは付け根付近から切断して撤去され、その既設下枠に取付け補助部材を設け、その取付け補助部材が既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面にビスで固着して取付けてあり、
この既設引戸枠内に、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用上枠、アルミニウム合金の押出し形材を用い室外から室内に向かって上方へ段差を成して傾斜し、室外寄りが低く、室内寄りが室外寄りよりも高い底壁を備えた改修用下枠、アルミニウム合金の押出し形材を用いた改修用竪枠を有する改修用引戸枠が挿入され、
この改修用下枠の室内寄りが、取付け補助部材で支持されている改修引戸装置。」

(カ)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点A>
取付け補助部材に関し、本件特許発明4では、取付け補助部材は既設下枠の室内寄りに設けるのに対し、甲2発明2では、下枠22の下地材12は下枠5の室内外方向全体に渡って設ける点。

<相違点B>
改修用引戸枠の材質に関し、本件特許発明4では、改修用上枠、改修用竪枠及び改修用下枠はアルミニウム合金の押出し形材から成るのに対し、甲2発明2では、上枠21、下枠22及び縦枠23は、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものである点。

<相違点C>
本件特許発明4では、背後壁の上端と改修用下枠の上端がほぼ同じ高さであるのに対し、甲2発明2では、そのような構成を有していない点。

<相違点D>
改修用引戸枠の既設引戸枠内への取付けに関し、本件特許発明4では、改修用下枠の室外寄りを、スペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持し、改修用下枠の前壁をビスによって既設下枠の前壁に固定するのに対し、甲2発明2では、下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接する点。

イ 判断
(ア)相違点Aについて
a 甲第3号証には、「既設サッシ下枠の上に重ねて取り付ける改装サッシ下枠において、改装サッシ下枠は、障子の戸車を受けるレールを含む突設要素の上端が所定の略同じ高さで形成してある上板部と、既設サッシ下枠に固定される固定脚部とを備え、改装サッシ下枠の上板部の室内側端部の裏面には逆L字状の支持部材を備えており、その横板部は上板部に対してネジ固定され、逆L字状の支持部材の縦板部が既設サッシ下枠の上板部の最も室内側の端部に連なる縁壁にネジ固定されること。」(以下「甲3技術」という。上記2(2)を参照。)が記載されており、甲3技術の「既設サッシ下枠」、「改装サッシ下枠」、「逆L字状の支持部材」及び「既設サッシ下枠の上板部の最も室内側の端部に連なる縁壁」は、本件特許発明4の「既設下枠」、「改修用下枠」、「取付け補助部材」及び「既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面」にそれぞれ相当する。
b しかし、甲第2号証には、「各枠の枠本体7に下地材12をそれぞれ取付けて穴11を形成した各枠を補強する。……前記下地材12の室内側部材13が枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りの室内側部にビス16で取付けられる。前記下地材12の室外側部材14が枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられる。これによって、各枠本体7(つまり、上枠4、下枠5、縦枠6)を補強する……」(段落【0024】、上記2(1)エを参照。)と記載されており、甲2発明2の「下枠22の下地材12」は下枠5の室内外方向全体に渡って設けることにより、スリット状の穴11を形成した下枠5の枠本体7を補強する機能を有するものであること、及び、甲2発明2の「下枠22の下地材12の室外側部材14」は、既存の金属枠体3に新設の断熱枠体20を取り付けるにあたり、下枠22の室外側部材25が当接されるものであることに照らせば、甲2発明2において、「下枠22の下地材12」に代えて、そのような機能を有しない甲3技術の「逆L字状の支持部材」を適用する動機付けはない。
c 請求人は、甲第2号証には、既設下枠の加工した穴にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填することなどにより、既設下枠の強度低下を補償することが開示されており、下地材による補強によらなくても穴を加工した既設下枠を補強することができるから、甲2発明2において、下地材は必ずしも既設の下枠を補強するために室内外にわたる幅を備える必要はない旨主張し、その根拠として、特許請求の範囲の記載において、既設枠に形成した穴に断熱材を注入充填するか断熱材の成形品を嵌め込むことによって補強する発明(請求項3)と、既存の金属枠体の穴よりも室内寄りの室内側部と穴よりも室外寄りの室外側部とに、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難い下地材の室内側部と室外側部をそれぞれ連結することにより補強する発明(請求項4)とが並列で記載されていることを挙げている(上記第4、3(1)ウ(イ)bを参照。)。
しかし、甲第2号証の特許請求の範囲の請求項4、及び請求項4において引用する請求項1、2には、下枠の下地材について何ら記載されていない。また、甲第2号証の発明の詳細な説明には、下枠22の下地材12として、下枠5の室内外方向全体に渡って設けるものしか記載されておらず、スリット状の穴11にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填したものにおいては、下地材12の室外側部材14が不要であることは記載も示唆もされていない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
d なお、甲第5号証ないし甲第9号証は、建具の改修に用いられる取付け補助部材としては、様々な形状、構成を備えるものが、既設下枠の構造や改修用下枠の構造に応じて用いられていること等を示す証拠として、甲第10号証及び甲第11号証は、サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材を用いることが開示されている証拠として、甲第12号証及び甲第26号証は、部材をスペーサを介して支持することが開示されている証拠として、甲第13号証及び甲第14号証は、改修用上枠及び改修用竪枠にシール材を装着し、そのシール材を建物の開口部に接することが開示されている証拠として、甲第25号証は、改修用建具の技術分野において、改修サッシを取付ける際に補助部材等に対して「基準として」取り付けるという表現は何ら特別な表現ではないこと等を示す証拠として、それぞれ提出されたものであって、いずれも甲2発明2において上記相違点Aに係る本件特許発明4の構成とすることを教示するものではない。
e よって、甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けること、すなわち上記相違点Aに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点Bについて
a サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることは、甲第10号証及び甲第11号証に記載のように周知である(上記2(9)、(10)を参照。)。
b 他方、甲2発明2は、建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修することに関するものであって、上枠21、下枠22及び縦枠23を、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものとすることにより、新設の断熱枠体20の室内側部材24に室外の冷気が伝わり難くしたものである。そして、甲2発明2において、新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23を、断熱材が介在することのないアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすると、断熱効果が低下することは明らかである。
そうすると、アルミサッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることが周知技術であったとしても、当業者にとって、断熱を目的とする甲2発明2において新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23をアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすることは想到し得ないものである。
c よって、甲2発明2において、上記相違点Bに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(ウ)相違点Dについて
a 上記(ア)のとおり、甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
そうすると、甲2発明2は、断熱枠体20の下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接するものであるから、断熱枠体20の下枠22のの室外寄りを、スペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持するとの構成、すなわち上記相違点Dに係る本件特許発明4の構成は採用し得ない。
b 甲第5号証には、旧窓枠1の下枠5と取付補助枠59との間に複数枚の下枠用スペーサ13を差し込むことが記載されており(上記2(4)を参照。)、「下枠5」及び「下枠用スペーサ13」は、本件特許発明4の「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
甲第6号証には、古い窓枠2の下枠2bに下枠用取付金物4bを固着して、該下枠用取付金物4bの取付基準片部6、7にライナーなどの調整具8を介して当てつけることによって、新しい窓枠3の下枠3bを下枠用取付金物4bに固着することが記載されており(上記2(5)を参照。)、「下枠2b」、「調整具8」及び「下枠3b」は、本件特許発明4の「既設下枠」、「スペーサ」及び「改修用下枠」にそれぞれ相当する。
甲第12号証には、下部捨て枠3bの上面にスペーサ5及び固定金具20を介して下枠4b及び下部補助部材6bが取付けられることが記載されており(上記2(11)を参照。)、「スペーサ5」は、本件特許発明4の「スペーサ」に相当する。
甲第26号証には、下枠2の下部に固定されたアンカー3の支持脚21が既設鋼製下枠6の低部33と高低調節座金22を介して接することが記載されており(上記2(15)を参照。)、「下枠2」、「既設鋼製下枠6」及び「高低調節座金22」は、本件特許発明4の「改修用下枠」、「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
しかし、改修用下枠の室外寄りをスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持することは、いずれの証拠にも記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
してみると、仮に甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることが当業者にとって容易に想到し得ることであったとしても、その際に、下枠22のの室外寄りをスペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持することが当業者にとって容易になし得たとすることはできない。
c よって、甲2発明2において、上記相違点Dに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、上記相違点Cについては検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明2、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明4において、更に「改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材が装着され、この室外側上枠シール材は建物の開口部の上縁部に接」すること、及び、「改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材が装着され、この室外側竪枠シール材は建物の開口部の縦縁部に接」することを限定したものといえる。
よって、本件特許発明5と甲2発明2とを対比すると、上記相違点AないしDに加え、両者は以下の点で相違する。

<相違点E>
本件特許発明5では、改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材が装着され、この室外側上枠シール材は建物の開口部の上縁部に接し、改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材が装着され、この室外側竪枠シール材は建物の開口部の縦縁部に接するのに対し、甲2発明2では、そのような構成を有していない点。

イ 判断
甲2発明2において、上記相違点A、相違点B及び相違点Dに係る本件特許発明5の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(4)イと同様である。
よって、上記相違点C及び相違点Eについては検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2発明2、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明4において、更に「室内側案内レールを切断して撤去」することを限定したものといえる。
そして、本件特許発明6と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2の「下枠5の室内側」の「内向突片8は付け根付近から切断され」ることは、本件特許発明6の「室内側案内レールは切断して撤去され」ることに相当するから、両者は、上記相違点Aないし相違点Dで相違する。

イ 判断
甲2発明2において、上記相違点A、相違点B及び相違点Dに係る本件特許発明6の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点Cについては検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲2発明2、甲3技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(7)小括
以上のとおり、本件特許発明1ないし3は、当業者が甲2発明1、甲3技術及び周知技術等に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明4ないし6は、当業者が甲2発明2、甲3技術及び周知技術等に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件特許発明1ないし6に係る特許は、請求人が主張する無効理由1により無効にすることはできない。

4 無効理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比すると、上記3(1)アのとおり、上記相違点1ないし相違点5で相違し、その余の点で一致する。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 甲第4号証の1等によると、「広電己斐寮浴室改修工事」に関し、「既設下枠の底壁部分m1の最も脱衣側の端部には、立ち上がって浴室側面となる壁部m5が形成され、上壁s1を浴室側に延ばした逆L字状の部材sの縦壁s2を壁部m5の浴室側面にビスで固定し、既設下枠の浴室側の壁部m4には、逆L字状の部材tをビスで固定し、平坦で浴室側と脱衣側の高さが同一である底壁を備えた、改修用引戸枠の改修用下枠の浴室寄りを断面逆L字状の部材tの上部にビスで固定し、改修用下枠の脱衣寄りを逆L字状の部材sの上壁s1に対してビスで固定すること。」(以下「甲4技術」という。上記2(3)を参照。)が本件特許の原出願日前に公然知られたもの又は公然実施されたものであると一応推認でき、甲4技術の「既設下枠」、「改修用下枠」及び「逆L字状の部材s」は、本件特許発明1の「既設下枠」、「改修用下枠」及び「取付け補助部材」にそれぞれ相当し、甲4技術の「既設下枠の底壁部分m1の最も脱衣側の端部」の「立ち上がって浴室側面となる壁部m5」と本件特許発明1の「既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面」とは「既設下枠の底壁の最も一方側の端部に連なる背後壁の立面」である点で共通する。
b しかし、甲第2号証には、「各枠の枠本体7に下地材12をそれぞれ取付けて穴11を形成した各枠を補強する。……前記下地材12の室内側部材13が枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りの室内側部にビス16で取付けられる。前記下地材12の室外側部材14が枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられる。これによって、各枠本体7(つまり、上枠4、下枠5、縦枠6)を補強する……」(段落【0024】、上記2(1)エを参照。)と記載されており、甲2発明1の「下枠22の下地材12」は下枠5の室内外方向全体に渡って設けることにより、スリット状の穴11を形成した下枠5の枠本体7を補強する機能を有するものであること、及び、甲2発明1の「下枠22の下地材12の室外側部材14」は、既存の金属枠体3に新設の断熱枠体20を取り付けるにあたり、下枠22の室外側部材25が当接されるものであることに照らせば、甲2発明1において、「下枠22の下地材12」に代えて、そのような機能を有しない甲4技術の「逆L字状の部材s」を適用する動機付けはない。
c 請求人は、甲第2号証には、既設下枠の加工した穴にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填することなどにより、既設下枠の強度低下を補償することが開示されており、下地材による補強によらなくても穴を加工した既設下枠を補強することができるから、甲2発明1において、下地材は必ずしも既設の下枠を補強するために室内外にわたる幅を備える必要はない旨主張し、その根拠として、特許請求の範囲の記載において、既設枠に形成した穴に断熱材を注入充填するか断熱材の成形品を嵌め込むことによって補強する発明(請求項3)と、既存の金属枠体の穴よりも室内寄りの室内側部と穴よりも室外寄りの室外側部とに、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難い下地材の室内側部と室外側部をそれぞれ連結することにより補強する発明(請求項4)とが並列で記載されていることを挙げている(上記第4、3(1)ウ(イ)bを参照。)。
しかし、甲第2号証の特許請求の範囲の請求項4、及び請求項4において引用する請求項1、2には、下枠の下地材について何ら記載されていない。また、甲第2号証の発明の詳細な説明には、下枠22の下地材12として、下枠5の室内外方向全体に渡って設けるものしか記載されておらず、スリット状の穴11にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填したものにおいては、下地材12の室外側部材14が不要であることは記載も示唆もされていない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
d なお、甲第5号証ないし甲第9号証は、建具の改修に用いられる取付け補助部材としては、様々な形状、構成を備えるものが、既設下枠の構造や改修用下枠の構造に応じて用いられていること等を示す証拠として、甲第10号証及び甲第11号証は、サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材を用いることが開示されている証拠として、甲第12号証及び甲第26号証は、部材をスペーサを介して支持することが開示されている証拠として、甲第13号証及び甲第14号証は、改修用上枠及び改修用竪枠にシール材を装着し、そのシール材を建物の開口部に接することが開示されている証拠として、甲第25号証は、改修用建具の技術分野において、改修サッシを取付ける際に補助部材等に対して「基準として」取り付けるという表現は何ら特別な表現ではないこと等を示す証拠として、それぞれ提出されたものであって、いずれも甲2発明1において上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることを教示するものではない。
e よって、甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けること、すなわち上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点2について
a サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることは、甲第10号証及び甲第11号証に記載のように周知である(上記2(9)、(10)を参照。)。
b 他方、甲2発明1は、建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修する方法に関するものであって、上枠21、下枠22及び縦枠23を、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものとすることにより、新設の断熱枠体20の室内側部材24に室外の冷気が伝わり難くしたものである。そして、甲2発明1において、新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23を、断熱材が介在することのないアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすると、断熱効果が低下することは明らかである。
そうすると、アルミサッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることが周知技術であったとしても、当業者にとって、断熱を目的とする甲2発明1において新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23をアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすることは想到し得ないものである。
c よって、甲2発明1において、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(ウ)相違点5について
a 上記(ア)のとおり、甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
そうすると、甲2発明1は、断熱枠体20の下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接するものであるから、断熱枠体20の下枠22のの室外寄りを、スペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持するとの構成、すなわち上記相違点5に係る本件特許発明1の構成は採用し得ない。
b 甲第5号証には、旧窓枠1の下枠5と取付補助枠59との間に複数枚の下枠用スペーサ13を差し込むことが記載されており(上記2(4)を参照。)、「下枠5」及び「下枠用スペーサ13」は、本件特許発明1の「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
甲第6号証には、古い窓枠2の下枠2bに下枠用取付金物4bを固着して、該下枠用取付金物4bの取付基準片部6、7にライナーなどの調整具8を介して当てつけることによって、新しい窓枠3の下枠3bを下枠用取付金物4bに固着することが記載されており(上記2(5)を参照。)、「下枠2b」、「調整具8」及び「下枠3b」は、本件特許発明1の「既設下枠」、「スペーサ」及び「改修用下枠」にそれぞれ相当する。
甲第12号証には、下部捨て枠3bの上面にスペーサ5及び固定金具20を介して下枠4b及び下部補助部材6bが取付けられることが記載されており(上記2(11)を参照。)、「スペーサ5」は、本件特許発明1の「スペーサ」に相当する。
甲第26号証には、下枠2の下部に固定されたアンカー3の支持脚21が既設鋼製下枠6の低部33と高低調節座金22を介して接することが記載されており(上記2(15)を参照。)、「下枠2」、「既設鋼製下枠6」及び「高低調節座金22」は、本件特許発明1の「改修用下枠」、「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
しかし、改修用下枠の室外寄りをスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持することは、いずれの証拠にも記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
してみると、仮に甲2発明1において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることが当業者にとって容易に想到し得ることであったとしても、その際に、下枠22のの室外寄りをスペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持することが当業者にとって容易になし得たとすることはできない。
c よって、甲2発明1において、上記相違点5に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、上記相違点3及び相違点4については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明1、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明1において、更に「改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材を装着すると共に、改修用引戸枠の改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材を装着した」こと、及び、改修用引戸枠を既設引戸枠内に挿入する際に、「室外側上枠シール材を建物の開口部の上縁部に接すると共に、室外側竪枠シール材を建物の開口部の縦縁部に接」することを限定したものといえる。
よって、本件特許発明2と甲2発明1とを対比すると、上記相違点1ないし相違点5に加え、上記3(2)アのとおり、両者は上記相違点6で相違する。

イ 判断
甲2発明1において、上記相違点1、相違点2及び相違点5に係る本件特許発明2の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点3、相違点4及び相違点6については検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲2発明1、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明1において、更に「室内側案内レールを切断して撤去」することを限定したものといえる。
そして、本件特許発明3と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1の「下枠5の室内側」の「内向突片8は付け根付近から切断」することは、本件特許発明3の「室内側案内レールを切断して撤去」することに相当するから、両者は、上記相違点1ないし相違点5で相違する。

イ 判断
甲2発明1において、上記相違点1、相違点2及び相違点5に係る本件特許発明3の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点3及び相違点4については検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲2発明1、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)本件特許発明4について
ア 対比
本件特許発明4と甲2発明2とを対比すると、上記3(4)アのとおり、上記相違点Aないし相違点Dで相違し、その余の点で一致する。

イ 判断
(ア)相違点Aについて
a 甲第4号証の1等によると、「広電己斐寮浴室改修工事」に関し、「既設下枠の底壁部分m1の最も脱衣側の端部には、立ち上がって浴室側面となる壁部m5が形成され、上壁s1を浴室側に延ばした逆L字状の部材sの縦壁s2を壁部m5の浴室側面にビスで固定し、既設下枠の浴室側の壁部m4には、逆L字状の部材tをビスで固定し、平坦で浴室側と脱衣側の高さが同一である底壁を備えた、改修用引戸枠の改修用下枠の浴室寄りを断面逆L字状の部材tの上部にビスで固定し、改修用下枠の脱衣寄りを逆L字状の部材sの上壁s1に対してビスで固定すること。」(以下「甲4技術」という。上記2(3)を参照。)が本件特許の原出願日前に公然知られたもの又は公然実施されたものであると一応推認でき、甲4技術の「既設下枠」、「改修用下枠」及び「逆L字状の部材s」は、本件特許発明4の「既設下枠」、「改修用下枠」及び「取付け補助部材」にそれぞれ相当し、甲4技術の「既設下枠の底壁部分m1の最も脱衣側の端部」の「立ち上がって浴室側面となる壁部m5」と本件特許発明4の「既設下枠の底壁の最も室内側の端部に連なる背後壁の立面」とは「既設下枠の底壁の最も一方側の端部に連なる背後壁の立面」である点で共通する。
b しかし、甲第2号証には、「各枠の枠本体7に下地材12をそれぞれ取付けて穴11を形成した各枠を補強する。……前記下地材12の室内側部材13が枠本体7のスリット状の穴11よりも室内寄りの室内側部にビス16で取付けられる。前記下地材12の室外側部材14が枠本体7のスリット状の穴11よりも室外寄りの室外側部にビス17で取付けられる。これによって、各枠本体7(つまり、上枠4、下枠5、縦枠6)を補強する……」(段落【0024】、上記2(1)エを参照。)と記載されており、甲2発明2の「下枠22の下地材12」は下枠5の室内外方向全体に渡って設けることにより、スリット状の穴11を形成した下枠5の枠本体7を補強する機能を有するものであること、及び、甲2発明2の「下枠22の下地材12の室外側部材14」は、既存の金属枠体3に新設の断熱枠体20を取り付けるにあたり、下枠22の室外側部材25が当接されるものであることに照らせば、甲2発明2において、「下枠22の下地材12」に代えて、そのような機能を有しない甲4技術の「逆L字状の部材s」を適用する動機付けはない。
c 請求人は、甲第2号証には、既設下枠の加工した穴にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填することなどにより、既設下枠の強度低下を補償することが開示されており、下地材による補強によらなくても穴を加工した既設下枠を補強することができるから、甲2発明2において、下地材は必ずしも既設の下枠を補強するために室内外にわたる幅を備える必要はない旨主張し、その根拠として、特許請求の範囲の記載において、既設枠に形成した穴に断熱材を注入充填するか断熱材の成形品を嵌め込むことによって補強する発明(請求項3)と、既存の金属枠体の穴よりも室内寄りの室内側部と穴よりも室外寄りの室外側部とに、室内側部と室外側部とに熱が伝わり難い下地材の室内側部と室外側部をそれぞれ連結することにより補強する発明(請求項4)とが並列で記載されていることを挙げている(上記第4、3(1)ウ(イ)bを参照。)。
しかし、甲第2号証の特許請求の範囲の請求項4、及び請求項4において引用する請求項1、2には、下枠の下地材について何ら記載されていない。また、甲第2号証の発明の詳細な説明には、下枠22の下地材12として、下枠5の室内外方向全体に渡って設けるものしか記載されておらず、スリット状の穴11にウレタン系樹脂などの断熱材を注入充填したものにおいては、下地材12の室外側部材14が不要であることは記載も示唆もされていない。よって、上記請求人の主張は採用できない。
d なお、甲第5号証ないし甲第9号証は、建具の改修に用いられる取付け補助部材としては、様々な形状、構成を備えるものが、既設下枠の構造や改修用下枠の構造に応じて用いられていること等を示す証拠として、甲第10号証及び甲第11号証は、サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材を用いることが開示されている証拠として、甲第12号証及び甲第26号証は、部材をスペーサを介して支持することが開示されている証拠として、甲第13号証及び甲第14号証は、改修用上枠及び改修用竪枠にシール材を装着し、そのシール材を建物の開口部に接することが開示されている証拠として、甲第25号証は、改修用建具の技術分野において、改修サッシを取付ける際に補助部材等に対して「基準として」取り付けるという表現は何ら特別な表現ではないこと等を示す証拠として、それぞれ提出されたものであって、いずれも甲2発明2において上記相違点Aに係る本件特許発明4の構成とすることを教示するものではない。
e よって、甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けること、すなわち上記相違点Aに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(イ)相違点Bについて
a サッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることは、甲第10号証及び甲第11号証に記載のように周知である(上記2(9)、(10)を参照。)。
b 他方、甲2発明2は、建物躯体の開口部に取付けてある既存の金属建具を断熱建具に改修することに関するものであって、上枠21、下枠22及び縦枠23を、アルミ押出形材の室内側部材24とアルミ押出形材の室外側部材25を断熱材26で連結したものとすることにより、新設の断熱枠体20の室内側部材24に室外の冷気が伝わり難くしたものである。そして、甲2発明2において、新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23を、断熱材が介在することのないアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすると、断熱効果が低下することは明らかである。
そうすると、アルミサッシの枠材としてアルミニウム合金製の押出し形材から成るものを用いることが周知技術であったとしても、当業者にとって、断熱を目的とする甲2発明2において新設の断熱枠体20の上枠21、下枠22、左右の縦枠23をアルミニウム合金の押出し形材から成るものとすることは想到し得ないものである。
c よって、甲2発明2において、上記相違点Bに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

(ウ)相違点Dについて
a 上記(ア)のとおり、甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
そうすると、甲2発明2は、断熱枠体20の下枠22の室外側部材25を下地材12の室外側部材14に当接するものであるから、断熱枠体20の下枠22のの室外寄りを、スペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持するとの構成、すなわち上記相違点Dに係る本件特許発明4の構成は採用し得ない。
b 甲第5号証には、旧窓枠1の下枠5と取付補助枠59との間に複数枚の下枠用スペーサ13を差し込むことが記載されており(上記2(4)を参照。)、「下枠5」及び「下枠用スペーサ13」は、本件特許発明4の「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
甲第6号証には、古い窓枠2の下枠2bに下枠用取付金物4bを固着して、該下枠用取付金物4bの取付基準片部6、7にライナーなどの調整具8を介して当てつけることによって、新しい窓枠3の下枠3bを下枠用取付金物4bに固着することが記載されており(上記2(5)を参照。)、「下枠2b」、「調整具8」及び「下枠3b」は、本件特許発明4の「既設下枠」、「スペーサ」及び「改修用下枠」にそれぞれ相当する。
甲第12号証には、下部捨て枠3bの上面にスペーサ5及び固定金具20を介して下枠4b及び下部補助部材6bが取付けられることが記載されており(上記2(11)を参照。)、「スペーサ5」は、本件特許発明4の「スペーサ」に相当する。
甲第26号証には、下枠2の下部に固定されたアンカー3の支持脚21が既設鋼製下枠6の低部33と高低調節座金22を介して接することが記載されており(上記2(15)を参照。)、「下枠2」、「既設鋼製下枠6」及び「高低調節座金22」は、本件特許発明4の「改修用下枠」、「既設下枠」及び「スペーサ」にそれぞれ相当する。
しかし、改修用下枠の室外寄りをスペーサを介して既設下枠の室外寄りに接して支持することは、いずれの証拠にも記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
してみると、仮に甲2発明2において、下枠22の下地材12を下枠5の室内寄りに設けることが当業者にとって容易に想到し得ることであったとしても、その際に、下枠22のの室外寄りをスペーサを介して金属枠体3の下枠5の室外寄りに接して支持することが当業者にとって容易になし得たとすることはできない。
c よって、甲2発明2において、上記相違点Dに係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、上記相違点Cについては検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明2、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)本件特許発明5について
ア 対比
本件特許発明5は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明4において、更に「改修用上枠の室外側部に室外側上枠シール材が装着され、この室外側上枠シール材は建物の開口部の上縁部に接」すること、及び、「改修用竪枠の室外側部に室外側竪枠シール材が装着され、この室外側竪枠シール材は建物の開口部の縦縁部に接」することを限定したものといえる。
よって、本件特許発明5と甲2発明2とを対比すると、上記相違点AないしDに加え、上記3(5)アのとおり、両者は上記相違点Eで相違する。

イ 判断
甲2発明2において、上記相違点A、相違点B及び相違点Dに係る本件特許発明5の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(4)イと同様である。
よって、上記相違点C及び相違点Eについては検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲2発明2、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6は独立請求項として記載されたものであるが、実質的に本件特許発明4において、更に「室内側案内レールを切断して撤去」することを限定したものといえる。
そして、本件特許発明6と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2の「下枠5の室内側」の「内向突片8は付け根付近から切断され」ることは、本件特許発明6の「室内側案内レールは切断して撤去され」ることに相当するから、両者は、上記相違点Aないし相違点Dで相違する。

イ 判断
甲2発明2において、上記相違点A、相違点B及び相違点Dに係る本件特許発明6の構成とすることが当業者にとって容易であるとすることができないことは、上記(1)イと同様である。
よって、上記相違点Cについては検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲2発明2、甲4技術及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(7)小括
以上のとおり、本件特許発明1ないし3は、当業者が甲2発明1、甲4技術及び周知技術等に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明4ないし6は、当業者が甲2発明2、甲4技術及び周知技術等に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、甲4技術が本件特許の原出願日前に公然知られたもの又は公然実施されたものであるか否かにかかわらず、本件特許発明1ないし6に係る特許は、請求人が主張する無効理由2により無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであって、本件特許発明1ないし6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、請求人の主張する無効理由1及び2によっては、本件特許発明1ないし6の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-27 
結審通知日 2017-03-02 
審決日 2017-03-16 
出願番号 特願2006-74123(P2006-74123)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 真理子伊藤 昌哉  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中田 誠
前川 慎喜
登録日 2011-10-07 
登録番号 特許第4839108号(P4839108)
発明の名称 引戸装置の改修方法及び改修引戸装置  
代理人 面山 結  
代理人 加治 信貴  
代理人 羽鳥 貴広  
代理人 加治 信貴  
代理人 根本 恵司  
代理人 三村 量一  
代理人 櫻井 彰人  
代理人 根本 恵司  
代理人 櫻井 彰人  
代理人 岩▲崎▼ 孝治  

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