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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1340725
審判番号 不服2017-4025  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-21 
確定日 2018-05-24 
事件の表示 特願2015-131897「帯電防止性ハードコートフィルム,その製造方法,偏光板及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日出願公開,特開2016- 6508〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-131897号(以下,「本件出願」という。)は,2011年(平成23年)9月6日(優先権主張平成22年9月21日)を国際出願日として出願された特願2012-534988号の一部を,平成27年6月30日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 4月28日付け:拒絶理由通知書
平成28年 7月11日差出:意見書,手続補正書
平成28年12月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成29年 3月21日差出:審判請求書,手続補正書
平成29年12月20日付け:拒絶理由通知書(以下,この拒絶理由通知書による拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)
平成30年 3月12日差出:意見書,手続補正書

第2 本願発明について
1 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に係る発明は,平成30年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「トリアセチルセルロース基材と,該トリアセチルセルロース基材の上に形成されたハードコート層とを有する帯電防止性ハードコートフィルムであって,
前記ハードコート層は,帯電防止剤,(メタ)アクリレート系樹脂及び(メタ)アクリレート系モノマーの重合体を含有し,
前記トリアセチルセルロース基材は,前記ハードコート層側界面から該ハードコート層と反対側に,前記(メタ)アクリレート系モノマーが浸透して形成された浸透層を有し,
前記浸透層及びハードコート層の合計の厚さをT(μm)とし,前記浸透層の厚さをt(μm)としたとき,前記(T)及び(t)が,下記式(1),(2)及び(3)を満たし,
前記ハードコート層の前記トリアセチルセルロース基材と反対側表面に前記帯電防止剤がブリードアウトしており,
前記浸透層の厚さ(t)が,2?8μmである
ことを特徴とする帯電防止性ハードコートフィルム。
3μm≦T≦18μm (式1)
0.3T≦t≦0.9T (式2)
2μm≦T-t≦11μm (式3)」

2 当審拒絶理由
平成29年12月20日付け拒絶理由通知書による拒絶の理由の1つは,概略,本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である以下の引用例1?引用例3に記載された発明から,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用例1:特開2009-86660号公報
引用例2:特開2008-12675号公報
引用例3:特開2009-198545号公報

第3 引用例
1 引用例1の記載
(1)引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学積層体,その製造方法,偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極線管表示装置(CRT),液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),フィールドエミッションディスプレイ(FED)等の画像表示装置においては,一般に最表面には反射防止性,ハード性や帯電防止性等の種々の機能を有する層からなる光学積層体が設けられている。
【0003】
このような光学積層体の機能層の一つとして,帯電防止性を付与するための帯電防止層が知られている。この帯電防止層は,アンチモンドープした酸化錫(ATO)やスズをドープした酸化インジウム(ITO)等の金属酸化物系の導電性超微粒子,有機導電ポリマーや4級アンモニウム塩系導電材等の帯電防止剤を添加することにより形成されている(特許文献1?5)。ここで,4級アンモニウム塩は,塗布型の帯電防止剤としてしばしば使用されており,例えば,特許文献6には疎水性溶剤や樹脂への溶解性に優れる4級アンモニウム塩基を有するカチオン性共重合体が開示されている。
これらの帯電防止剤を使用する場合は,所望の帯電防止性と光学特性(低ヘイズ,高全光線透過率)を両立させるために,帯電防止剤を含有する1μm程度の薄膜層を形成することによって所望の機能を付与することが行われていた。
【0004】
一方,別の機能層として,光学積層体としてある程度の強度を付与するためのハードコート層が知られている(特許文献7)。上記ハードコート層は,一般に,JIS K5600-5-4(1999)で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものであり,膜厚が0.1?100μm程度の層である。
【0005】
しかしながら,これらの層は,それぞれの機能を有する層として別個に形成されていたため,例えば,基材上に,帯電防止層,ハードコート層,低屈折率層を順に形成した場合,光学積層体の強度やヘイズは良好である(つまり,低ヘイズであり,全光線透過率が高く良好なこと)が,帯電防止性が不十分となり,一方,基材上にハードコート層,帯電防止層,低屈折率層を順に形成した場合は,帯電防止性やヘイズは良好であるが強度が不充分であるといった問題があった。このように,帯電防止性,硬度及びヘイズや全光線透過率等の光学特性のすべての特性について良好な光学積層体が望まれていた。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上記現状に鑑みて,製造コストが低く,帯電防止性,硬度,及び,ヘイズや全光線透過率等の光学特性の全てにおいて優れた光学積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,光透過性基材及び上記光透過性基材上に設けられたハードコート層を有する光学積層体であって,上記ハードコート層は,重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成された樹脂層であり,かつ,上記ハードコート層における上記4級アンモニウム塩の含有量が,0.5?18質量%であることを特徴とする光学積層体である。
本発明はまた,光透過性基材,帯電防止層及びハードコート層を有する光学積層体であって,上記ハードコート層は,重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成された樹脂層であり,かつ
上記ハードコート層における上記4級アンモニウム塩の含有量は,0.1?10質量%であることを特徴とする光学積層体である。
【0008】
上記4級アンモニウム塩は,光反応性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。
上記ハードコート層形成用組成物は,更に,重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含むことが好ましい。
上記重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物は,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。
上記重量平均分子量1000以上である6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物と,上記重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物との混合比は,固形分質量比で5/95?90/10であることが好ましい。
上記光透過性基材は,トリアセチルセルロースであることが好ましい。
上記浸透性溶剤は,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の光学積層体は,更に低屈折率層を有することが好ましい。
本発明の光学積層体は,更に防汚層を有することが好ましい。
・・・(略)・・・
【0011】
第一の本発明は,光透過性基材及び上記光透過性基材の上に設けられたハードコート層を有する光学積層体であって,上記ハードコート層は,重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成された樹脂層であり,かつ,上記ハードコート層における上記4級アンモニウム塩の含有量は,0.5?18質量%であることを特徴とする光学積層体である。このため,一層で帯電防止性,硬度及び光学特性のすべての特性において優れる光学積層体とすることができる。
【0012】
すなわち,ハードコート層に,樹脂成分からなる帯電防止剤を使用することによって,ハードコート性に影響を与えることがなく,光学積層体に効率良く帯電防止性能を付与することができる。
更に,樹脂として低分子量の(メタ)アクリレート系化合物を浸透性溶剤と共に使用することで,上記低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透し,これによって1回の塗装である程度帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層を形成することができる。このため効率良く帯電防止性能を付与することができる。
【0013】
第一の本発明の光学積層体は,特定の4級アンモニウム塩,特定の分子量及び官能基数を有する(メタ)アクリレート,並びに,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成されるハードコート層を有するものである。
【0014】
第一の本発明の光学積層体におけるハードコート層は,帯電防止剤として,特定の範囲の分子量を有する4級アンモニウム塩を含むものである。
従来,帯電防止性及びハードコート性を付与するために,帯電防止層とハードコート層をそれぞれ別の層として形成していた。そのため光学積層体におけるこれらの層構成によって,優れた帯電防止性とハードコート性を同時に得ることは困難であった。
そこで,本発明では,1層において,帯電防止性とハードコート性を有する帯電防止性ハードコート層を形成することにより,上述した問題を生じることなく,所望の効果を得ることができるものとしたのである。
【0015】
ここで,帯電防止性ハードコート層を形成する方法として,ハードコート層形成用組成物に帯電防止剤を添加して形成する方法が考えられるが,従来公知の帯電防止剤を添加した場合は,ハードコート層全体に帯電防止剤が存在するため,帯電防止性能(表面抵抗値)を良化させ満足する光学積層体を得るためには,帯電防止剤の添加量を増やす必要があった。しかし,帯電防止剤の添加量を増やした場合,硬度の低下,ヘイズの上昇,光透過率の低下が起こるという問題があった。本発明では,帯電防止剤として,特定の分子量を有する4級アンモニウム塩と,特定のバインダー樹脂及び溶剤とを使用することにより,初めて,従来の導電性超微粒子を用いる場合や,導電性有機高分子材料を用いる場合よりも少量の添加量で良好な帯電防止性能(表面抵抗値)を有する光学積層体を得ることができたものである。また,この光学積層体は,硬度の低下,ヘイズの上昇,光透過率の低下もないものである。
【0016】
第一の本発明の光学積層体のハードコート層はまた,特定の分子量と官能基数を有する(メタ)アクリレート,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物からなるものであるため,基材との層間密着性が良好で,かつ層界面において干渉縞が発生しないものである。
【0017】
本発明はまた,良好な帯電防止性,ハードコート性及び光学特性を兼ね備えた樹脂層を一層で形成することができるものであるため,光学積層体の製造工程を簡略化することができ,製造コストを低減することもできるものである。
【0018】
第一の本発明の光学積層体は,重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成されたハードコート層を有する。
【0019】
上記4級アンモニウム塩は,重量平均分子量が1000?5万である。1000未満であると,4級アンモニウム塩自身が基材中へ浸透してしまい,効率良くハードコートの表面に存在しないため,帯電防止性能(特に,表面抵抗)が満足できないものとなる。5万を超えると,粘度が高くなり塗工性が悪化する。
・・・(略)・・・
【0022】
上記重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩の市販品としては,例えば,H6100(三菱化学社製),ユニレジンAS-10/M,ユニレジンAS-12/M,ユニレジンAS-15/M,ユニレジンASH26(いずれも新中村化学社製)等を挙げることができる。
【0023】
上記ハードコート層における上記4級アンモニウム塩の含有量は,0.5?18質量%である。0.5質量%未満であると,帯電防止性能が発現されない。18質量%を超えると,ハードコート層の硬度が低下する。また,コストの面でも劣る。上記含有量は,下限が2.0質量%,上限が13質量%であることが好ましく,下限が5.0質量%,上限が11質量%であることがより好ましい。
【0024】
上記ハードコート層形成用組成物は,バインダー樹脂として,3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含む。なお,本明細書において,「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」を包含する。また,本発明において,「樹脂」とは,モノマー,オリゴマー,プレポリマー等,反応性を有するもの全てを意味する。
上記3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物としては,例えば,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また,これら(メタ)アクリレートは,分子骨格の一部を変性しているものでもよく,エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド,カプロラクトン,イソシアヌル酸,アルキル,環状アルキル,芳香族,ビスフェノール等による変性がなされたものも使用することができる。
【0025】
また,上記(メタ)アクリレート系化合物は,エポキシ(メタ)アクリレート,ウレタン(メタ)アクリレート,ポリエステル(メタ)アクリレート,ポリブタジエン(メタ)アクリレート,シリコン(メタ)アクリレート等のオリゴマーであってもよい。
これらは,2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記(メタ)アクリレート系化合物は,重量平均分子量が700以下である。700を超えると,基材との密着性が悪化するだけでなく,干渉縞が消えないおそれがある。上記重量平均分子量は,280以上600以下であることがより好ましい。
・・・(略)・・・
【0028】
上記ハードコート層形成用組成物は,バインダー樹脂として更に,6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含むことが好ましい。上記6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含むことで,後述するように所望のハードコート性を付与することができ,鉛筆硬度性に優れた光学積層体とすることができる。上記6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物は,10官能以上であることがより好ましい。
上記6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物としては,ウレタン系,エーテル系,エポキシ系,エステル系又はシリコン系等の(メタ)アクリレート系化合物(モノマー,オリゴマー,プレポリマー)等を挙げることができる。なかでも,ウレタン系(メタ)アクリレート系化合物であることがより好ましい。
【0029】
上記6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物は,重量平均分子量が1000以上であることが好ましい。1000未満であると,基材への浸透性が増し,充分な硬度が得られないおそれがある。上記重量平均分子量は,1000以上5万以下であることがより好ましい。更に好ましくは,1000以上1万5千以下であり,最も好ましくは,1000以上6500未満である。5万を超えると,粘度が高すぎて,好適な塗工をすることができないおそれがある。
・・・(略)・・・
【0033】
本発明においては,上記バインダー樹脂として,上記(メタ)アクリレート系化合物に加え,上述した官能基数及び重量平均分子量を満たす(メタ)アクリレート系化合物,特にウレタン(メタ)アクリレート系化合物を含むことにより,ハードコート層形成用組成物を基材上に塗布した場合,低分子量である上記(メタ)アクリレート系化合物が,後述する浸透性溶剤とともに基材に浸透し,高分子量である上記6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物は,ハードコート層の表面側に偏在するようになると考えられる。このため,これらを硬化させて樹脂層を形成することにより,基材とハードコート層との層間密着性が良好となり,また層の界面が形成されないため干渉縞の発生を防ぐことができる。また,ハードコート層の表面側に高分子の6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物が偏在することにより,形成される樹脂層に所望のハードコート性を好適に付与することができる。
【0034】
上記6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物を併用する場合,上記6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物と上記(メタ)アクリレート系化合物との混合比(ウレタン(メタ)アクリレート系化合物/(メタ)アクリレート系化合物)は,固形分質量比で5/95?90/10であることが好ましい。6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物の割合が5未満であると,(メタ)アクリレート系化合物の割合が多くなるため,ハードコート層の上層に積層する層(例えば,ハードコート層,高屈折率層,防汚層,低屈折率層)との密着性が悪化するおそれがある。また(メタ)アクリレート系化合物が,5官能又は6官能である場合,その割合が多くなると,硬化熱が大量に発生するために,基材が熱によってダメージを受け,シワが入るおそれもある。6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物の割合が90を超えると,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の割合が多くなるため,干渉縞が発生するおそれがあるだけでなく,基材との密着性が悪化するおそれがある。
上記混合比は,30/70?70/30であることがより好ましい。
【0035】
上記ハードコート層形成用組成物は,浸透性溶剤を含む。
上記浸透性溶剤とは,その溶剤を含む組成物を塗工する基材に対して,湿潤性,膨潤性を発現できる溶剤や,更に,基材の中に浸透することのできる溶剤をいう。上記浸透性溶剤を使用することにより,基材とハードコート層との層間密着性を良好にし,また干渉縞の発生を防ぐことができる。
上記浸透性溶剤としては,例えば,アセトン,メチルエチルケトン,シクロヘキサノン,メチルイソブチルケトン,ジアセトンアルコール等のケトン類;蟻酸メチル,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,乳酸エチル等のエステル類;ニトロメタン,アセトニトリル,N-メチルピロリドン,N,N-ジメチルホルムアミド等の含窒素化合物;メチルグリコール,メチルグリコールアセテート等のグリコール類;テトラヒドロフラン,1,4?ジオキサン,ジオキソラン,ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;塩化メチレン,クロロホルム,テトラクロルエタン等のハロゲン化炭化水素;メチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,セロソルブアセテート等のグリコールエーテル類;その他,ジメチルスルホキシド,炭酸プロピレンが挙げられ,又は,これらの混合物が挙げられる。なかでも,酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸ブチル,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
上記浸透性溶剤の添加量は,上記ハードコート層形成用組成物中において,バインダー樹脂固形分100質量部に対して,30?500質量部であることが好ましい。30質量部未満であると,塗工が困難となり,塗工面が悪化し品質的に問題となるおそれがある。また,干渉縞が発生するおそれがある。500質量部を超えると,浸透性溶剤が,光透過性基材を溶解または膨潤させる程度が大になり,硬度が悪化するおそれがある。またバインダー樹脂も光透過性基材に浸透するために,十分な架橋反応が起こりにくく,十分な硬度が得られなくなるおそれがある。
・・・(略)・・・
【0048】
上記ハードコート層の層厚みは,0.5?30μmであることが好ましい。0.5μm未満であると,塗工斑が出て外観が悪くなるだけでなく,硬度がでないおそれがある。また30μmを超えると,フィルム自身にクラックが入ったり,巻き取りも困難なだけでなく,コスト的にも高くなってしまう。またヘイズ上昇,光透過率も下がる危険性がある。上記層厚みは,1?20μmであることがより好ましい。
上記層厚みは,断面を電子顕微鏡(SEM,TEM,STEM)で観察し,測定した値である。
【0049】
第一の本発明の光学積層体は,光透過性基材を有するものである。上記光透過性基材は,平滑性,耐熱性を備え,機械的強度に優れたものが好ましい。上記光透過性基材を形成する材料の具体例としては,トリアセチルセルロース,セルロースジアセテート,セルロースアセテートブチレート等のセルロース系化合物を挙げることができる。なかでも,トリアセチルセルロースであることが好ましい。
【0050】
上記光透過性基材の厚さは,20?300μmであることが好ましく,より好ましくは下限が30μmであり,上限が200μmである。上記光透過性基材には,その上にハードコート層を形成するのに際して,接着性向上のために,コロナ放電処理,酸化処理等の物理的な処理のほか,アンカー剤もしくはプライマーと呼ばれる塗料の塗布を予め行ってもよい。
・・・(略)・・・
【0091】
第一の本発明の光学積層体の表面抵抗値は,10^(11)Ω/□以下であることが好ましい。
10^(11)Ω/□を超えると,目的とする帯電防止性能が発現しなくなるおそれがある。上記表面抵抗値は,10^(9)Ω/□以下であることがより好ましい。
上記表面抵抗値は,表面抵抗値測定器(三菱化学社製,製品番号;Hiresta IP MCP-HT260)にて測定することができる。
・・・(略)・・・
【0095】
第一の本発明の光学積層体の一態様について,図を用いて説明する。図1は,上から順にハードコート層1及び光透過性基材2を備えてなる光学積層体を示す。本発明の光学積層体は,このような態様の他に,目的に応じて任意の層を有するものであってもよく,また,上述した態様に限定されないものである。
【0096】
第一の本発明の光学積層体を製造する方法は,光透過性基材上に,上記ハードコート層形成用組成物を塗布してハードコート層を形成する工程を有する。
上記ハードコート層形成用組成物は,重量平均分子量1000?5万の4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むものである。
上記ハードコート層形成用組成物は,上述したものと同様のものを挙げることができる。上記ハードコート層を形成する方法については,上述した形成方法と同様の方法を挙げることができる。このような第一の本発明の光学積層体を製造する方法もまた,本発明の一つである。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0112】
本発明の光学積層体は,上述した構成からなるものであるため,帯電防止性能,硬度,ヘイズ等の光学特性の全てにおいて優れたものとなる。このため,本発明の光学積層体は,陰極線管表示装置(CRT),液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),フィールドエミッションディスプレイ(FED)等に好適に適用することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0113】
本発明の内容を下記の実施例により説明するが,本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。特別に断りの無い限り,「部」及び「%」は質量基準である。
【0114】
以下の製造例1?22に示した配合によってハードコート層形成用組成物1?22を調製した。
<製造例1 ハードコート層形成用組成物1>
ウレタンアクリレート(UV1700B;日本合成社製,10官能,重量平均分子量2000) 4質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA;日本化薬社製,6官能,重量平均分子量524) 3質量部
帯電防止剤(H6100;三菱化学社製,重量平均分子量1500,固形分50%,4級アンモニウム塩成分は固形分中21%) 6質量部
重合開始剤(イルガキュア184;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.4質量部
メチルエチルケトン 7質量部
(※4級アンモニウム塩成分は固形分中に6.1%存在する)
・・・(略)・・・
【0136】
実施例1 光学積層体の製造
透明基材(厚み80μmトリアセチルセルロース樹脂フィルム(富士写真フィルム社製,TF80UL)を準備し,フィルムの片面に,ハードコート層形成用組成物1を塗布し,温度50℃の熱オーブン中で60秒間乾燥し,塗膜中の溶剤を蒸発させ,紫外線を積算光量が50mJになるように照射して塗膜を硬化させることにより,15g/cm^(2)(乾燥時)の帯電防止性ハードコート層を形成させて,光学積層体を調製した。
【0137】
実施例2?11
ハードコート層形成用組成物1の代わりに組成物2?11を使用し,表1に示す塗布量で帯電防止性ハードコート層を形成した以外は,実施例1と同様にして光学積層体を製造した。
・・・(略)・・・
【0152】
実施例,比較例で得られた光学積層体を以下の方法により評価した。結果を表1に示した。
(評価1:表面抵抗値)
表面抵抗値(Ω/□)は,表面抵抗値測定器(三菱化学社製,製品番号;Hiresta IP MCP-HT260)にて印加電圧1000Vで測定した。
・・・(略)・・・
【0154】
(評価3:干渉縞の発生の有無)
光学積層体のハードコート層と逆の面に,裏面反射を防止するための黒色テープを貼り,ハードコート層の面から光学積層体を目視により観察し,干渉縞の発生の有無を評価した。
評価は,干渉縞がなく良好な場合を「なし」,干渉縞が発生した場合を「あり」とした。
・・・(略)・・・
【0160】
【表1】


【0161】
表1より,実施例の光学積層体は,干渉縞が発生せず,帯電防止性能,硬度,光学特性(光透過率及びヘイズ)の全てにおいて優れるものであった。一方,比較例の光学積層体は,上記評価のすべてにおいて優れるものはなかった。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】第一の本発明の光学積層体の断面の概略図の一例である。
・・・(略)・・・
【符号の説明】
【0189】
1 ハードコート層
2 光透過性基材
・・・(略)・・・
【図1】



(2)引用発明
引用例1には,帯電防止性能,硬度及び光学特性の全ての特性について良好な光学積層体であって,その組成や組成比,及び,光透過性基材の材料について好ましいとされる構成を具備した光学積層体として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「光透過性基材及び上記光透過性基材上に設けられたハードコート層を有する光学積層体であって,
上記ハードコート層は,重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩,重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物,及び,浸透性溶剤を含むハードコート層形成用組成物によって形成された樹脂層であり,
上記ハードコート層における上記4級アンモニウム塩の含有量が,0.5?18質量%であり,
上記ハードコート層形成用組成物は,更に,重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含み,
上記重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物は,ウレタン(メタ)アクリレート系化合物であり,
上記重量平均分子量1000以上である6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物と,上記重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物との混合比は,固形分質量比で5/95?90/10であり,
上記光透過性基材は,トリアセチルセルロースであり,
上記ハードコート層は,帯電防止剤として,特定の範囲の分子量を有する4級アンモニウム塩を含むものであり,
ハードコート層に,樹脂成分からなる帯電防止剤を使用することによって,ハードコート性に影響を与えることがなく,光学積層体に効率良く帯電防止性能を付与することができ,
更に,樹脂として低分子量の(メタ)アクリレート系化合物を浸透性溶剤と共に使用することで,上記低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透し,これによって1回の塗装である程度帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層を形成することができる,
光学積層体。」

2 引用例2の記載
引用例2には,以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は,ディスプレイ,例えば,液晶ディスプレイ,CRTディスプレイ,プロジェクションディスプレイ,プラズマディスプレイ,エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表面を保護する目的等で使用される,基材フィルム上にハードコート層を設けた光学積層体,及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)又は陰極管表示装置(CRT)等の画像表示装置における画像表示面は,取り扱い時に傷がつかないように,耐擦傷性を付与することが要求される。これに対して,基材フィルムにハードコート(HC)層を形成させた光学積層体(光学フィルム)を利用することにより,画像表示装置の画像表示面の耐擦傷性を向上させることが一般になされている。
【0003】
しかしながら,屈折率の差が大きい層を積層させた光学積層体にあっては,互いに重なり合った層の界面において,界面反射及び干渉縞が生じることがしばしば見受けられる。特に,画像表示装置の画像表示面において黒色を再現した際に,干渉縞が顕著に発生し,その結果,画像の視認性を低下させ,また画像表示面の美観を損ねるとの指摘がなされている。とりわけ,基材フィルムの屈折率とハードコート層の屈折率が相違する場合,干渉縞の発生が生じ易いとされている。
【0004】
また,ハードコート層は,通常,熱硬化型樹脂,或いは紫外線硬化型樹脂等の光重合性樹脂を用いて,基材フィルム上に塗膜を形成してなるが,その塗膜厚みが薄い場合,下地の基材の変形による影響で機械的強度(鉛筆硬度)が十分ではないという問題がある。一方,ハードコート層の厚みを厚くすれば,硬度は向上するものの,ハードコート層の割れや剥がれが生じやすくなると同時に,ハードコート層の成分の硬化収縮による積層体全体の反り(所謂カール)が発生し,該積層体をディスプレイに貼り付ける際に作業性を著しく損なうという問題がある。カールの発生は光透過性樹脂基材の厚みを薄くすると(例えばトリアセチルセルロースフィルムでは80μmが40μmになった際に)更に顕著となる。
【0005】
これらの問題に対して,特許文献1によれば,ハードコート層の干渉ムラ(干渉縞)の発生を抑制するために,透明樹脂からなる支持体と,少なくとも一層の電離放射線硬化性樹脂からなるハードコート層と,最外層に位置する低屈折率層とをこの順で有する反射防止フィルムであって,該支持体と該ハードコート層の間に,該支持体の透明樹脂と該ハードコート層の電離放射線硬化性樹脂とが混合した混合領域を有する,特定の反射防止フィルムが開示されている。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,上記特許文献1に開示されている当該反射防止フィルムの製造方法によれば,透明樹脂からなる支持体とハードコート層の間に混合領域を有することにより,干渉縞の発生を防ぐことはできるものの,重合性単量体として主に低分子量の重合性単量体からなるハードコート層用塗工組成物を用いる場合,ハードコート層用塗工組成物の多くが支持体へ浸透してしまい,十分な硬度を持つハードコート層が得られないおそれがある。上記特許文献1の実施例において用られている重合性単量体は,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートのみであり,いずれも分子量1000未満の低分子モノマーである。
このような場合,ハードコート層用塗工組成物が支持体へ浸透する前に,十分に乾燥させることにより,ハードコート層の厚みを増加させる方法が考えられるが,支持体の面内の異なる場所において,上記組成物の浸透速度が一定にはならないため,得られる反射防止フィルムのハードコート層の面内に部分的に薄い領域,すなわち軟らかい領域が形成され,均一な硬度分布を有するハードコート層が得られない場合がある。また,低分子量の重合性単量体の硬化物を主成分とするハードコート層は,弾性が小さく脆いためフィルム等の柔らかい基材上に形成した場合,変形せずに傷付きやすいうえに,硬化収縮率が大きいため,著しいカールを発生させるという欠点がある。
本発明は,干渉縞が防止されることにより視認性が向上し,十分な耐擦傷性を有し,且つ,カールが抑制された光学積層体,及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は,鋭意検討の結果,特定の基材フィルム,特定の樹脂からなるハードコート層,及び当該基材フィルムと当該ハードコート層の間に,基材フィルムにハードコート層を形成する樹脂が浸透した層(境界層)を有する光学積層体について,ハードコート層が特定の復元性を有する場合に,十分な硬度を有し,干渉縞,及びカールが発生しないという知見を見出し,本発明を完成させるに至った。
すなわち,本発明に係る光学積層体は,(1)セルロースアシレート系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルム,(2)アクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂からなるハードコート層,及び,(3)基材フィルムとハードコート層の間に,基材フィルムを形成する樹脂と,ハードコート層を形成する樹脂とが混合した境界層を有し,当該ハードコート層が以下に示す条件(I),(II)又は(III)のいずれかを満たしていることを特徴とする。
(I)当該ハードコート層について,3Hの鉛筆を用いて,500g荷重で当該ハードコート層の表面に,約1cmの線を50点引いたとき,当該50点のうち,全てについて目視で傷が認められないこと。
(II)前記50点のうち25点以上について目視で傷が認められる場合において,傷が発生した光学積層体を90℃で1分間加熱した後に,加熱前に傷が認められた点について,傷の有無を確認した結果,当該傷の半数以上について目視で認められなくなったこと。
(III)前記50点のうち,25点未満に目視で傷が認められる場合において,当該ハードコート層の表面の別の場所に,25点以上の傷がつく鉛筆のうち最も硬度が低いものを用いて,500g荷重で,1cmの線を引いて発生が認められた傷について,傷が発生した光学積層体を90℃で1分間加熱した後に,加熱前に傷が認められた点について,傷の有無を確認した結果,当該傷の半数以上について目視で認められなくなったこと。
【0009】
後述の浸透性評価試験の結果から,セルロースアシレート系フィルム及び環状ポリオレフィン系フィルムに対する(メタ)アクリル系モノマーの浸透性は,(メタ)アクリル系モノマーの分子量がおよそ1000を境に変わることが,明らかになった。上記フィルムは,分子量およそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーを選択的に浸透させ,分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーは浸透しないので,境界層は,基材フィルムを形成する樹脂と,分子量がおよそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物を含み構成される。
一方,後述のハードコート層の復元試験において,分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物は復元性を有し,十分に高い表面硬度であるのに対し,分子量1000未満の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物は復元せず,表面硬度が不十分であることが分かった。
浸透性評価試験及び復元試験の結果から,本発明に係る光学積層体に含まれるハードコート層は,主として分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物であって,分子量およそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーの硬化物ではないことが明らかになり,十分に高い表面硬度,及び非カール性を有していることが分かった。
分子量を有する樹脂が前記基材フィルムに浸透して硬化しているので,基材フィルムとハードコート層間において両方の材料を含む領域が存在するため,急激な屈折率の変化がなくなり,屈折率差に起因する干渉縞の発生を防止することができる。更に,当該特定の樹脂が前記基材フィルムに浸透して硬化しているので,基材フィルム-ハードコート層間の密着性が優れたものになる。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,基材フィルムとハードコート層の層間の屈折率差に起因する干渉縞が防止されることにより視認性が向上し,十分な耐擦傷性を有し,カールが防止され,且つ,基材フィルム-ハードコート層間の密着性が優れた光学積層体,及びその製造方法を提供することができる。」

(3)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
・・・(略)・・・
【0016】
図1は,本発明の光学積層体の一例を示す断面図である。図1に示す例では,基材フィルム1の一方の表面側に,ハードコート層2を備えてなり,基材フィルム1中のハードコート層2との境界領域に基材フィルムに主に分子量およそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーが浸透して硬化している領域3を有する。
【0017】
上記ハードコート層と上記境界層は,平均分子量がおよそ1000以上のアクリル系及び/又はメタクリル系重合性単量体と,平均分子量がおよそ1000未満のアクリル系及び/又はメタクリル系重合性単量体を含有するハードコート層用塗工組成物を基材上に塗布し,塗工組成物中の比較的小分子領域のモノマー成分を基材内に浸透させてから,硬化して形成したもので,明瞭な境界がない連続した層である。
従来も浸透に着眼した技術は存在したが,浸透性の高い比較的低分子量の重合性単量体を用いることしか開示されておらず,塗工組成物中に含まれる重合性単量体の分子量と,当該重合性単量体の浸透性の関係に着眼した例はこれまで存在しなかった。
【0018】
重合性単量体の基材フィルムに対する浸透性評価試験の結果から,セルロースアシレート系フィルム及び環状ポリオレフィン系フィルムに対する(メタ)アクリル系モノマーの浸透性は,(メタ)アクリル系モノマーの数平均分子量がおよそ1000を境に変わることが,明らかである。上記フィルムは,数平均分子量およそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーを選択的に浸透させ,数平均分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーは浸透しないので,境界層は,基材フィルムを形成する樹脂と,数平均分子量がおよそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物を含み構成される。
【0019】
上記特定の分子量を有する樹脂が基材フィルムに浸透して硬化し,境界層を形成しているので,基材フィルムとハードコート層間において両方の材料を含む領域が存在するため,急激な屈折率の変化がなくなり,屈折率差に起因する干渉縞の発生を防止することができる。更に,当該特定の樹脂が前記基材フィルムに浸透して硬化しているので,基材フィルム-ハードコート層間の密着性が優れたものになる。
【0020】
尚,数平均分子量およそ1000とは,厳密に数平均分子量1000を境に浸透性が変わるのではなく,800?1,200程度の幅を有するものである。
【0021】
重合性単量体の基材フィルムに対する浸透性評価試験は,以下のようにして行う。まず,光学積層体のハードコート層の反対側の面に,裏面反射を防止するための黒テープを貼る。そして,ハードコート層の面から光学積層体を目視で観察する。観察の結果,干渉縞の発生が認められない場合は,重合性単量体が基材フィルムへ十分浸透し境界層の厚さが十分であると判断することができ,一方,干渉縞の発生が認められない場合は,重合性単量体が基材フィルムへ十分浸透しておらず,境界層の厚さが不十分であると判断することができる。
【0022】
一方,ハードコート層の復元試験において,数平均分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物は復元性を有し,十分に高い表面硬度であるのに対し,数平均分子量1000未満の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物は復元せず,表面硬度が不十分であることが分かった。
【0023】
浸透性評価試験及び復元試験の結果から,本発明に係る光学積層体に含まれるハードコート層は,主として数平均分子量およそ1000以上の(メタ)アクリル系モノマーからの硬化物であって,数平均分子量およそ1000未満の(メタ)アクリル系モノマーの硬化物でないことが明らかであり,十分に高い表面硬度,及び非カール性を有している。
ハードコート層が数平均分子量1000未満のモノマーを硬化させて形成したものである場合には,弾性が小さく脆いので,脆い表面硬度を持ち,カール性を有しているである。また,数平均分子量1000未満のモノマーでもハードコート層を厚く形成すれば十分な硬さが得られるが,厚く形成するのは手間がかかり,しかも,カールの問題,更には,浸透が不均一で表面の硬さも不均一になりやすい。
【0024】
以下,本発明に係る光学積層体の層構成について説明する。
(1)基材フィルム
基材フィルムとして,セルロースアシレート系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルムを用いる。これらの基材フィルムは,ハードコート層形成用組成物に含まれる溶媒及び分子量1000未満の(メタ)アクリル系モノマーを選択的に浸透する性質を有しているため,基材フィルムとハードコート層とを積層する過程において,後述の境界層を形成することができる。
また,通常,光学積層体に用いられる基材フィルムには,透明,半透明,無色または有色を問わないが,光透過性が要求される。上記基材フィルムは,可視光域380?780nmにおいて,平均光透過率を50%以上とすることが可能な光透過性基材である。基材フィルムの平均光透過率は70%以上,更に85%以上であることが好ましい。
なお,光透過率の測定は,紫外可視分光光度計(例えば,(株)島津製作所製 UV-3100PC)を用い,室温,大気中で測定した値を用いる。
【0025】
セルロースアシレート系樹脂としては,例えば,トリアセテートセルロース(TAC),ジアセチルセルロース,アセテートプロピオネートセルロース,アセテートブチレートセルロース等が挙げられる。環状ポリオレフィン系樹脂としては,例えば,ポリノルボルネン系透明樹脂の製品名アートン(JSR(株)製)やゼオノア(日本ゼオン(株)製)等が挙げられる。
セルロースアシレート系樹脂及び環状ポリオレフィン系樹脂は,光学的等方性を有するため,液晶ディスプレイ用途の場合においても好ましく用いることができる。
・・・(略)・・・
【0030】
ハードコート層の膜厚(硬化時)は1?100μm,更に5?30μmの範囲にあることが好ましい。
・・・(略)・・・
【0032】
本発明に係るハードコート層は,更に帯電防止剤,防眩剤,その他添加剤を含有していても良い。
・・・(略)・・・
【0044】
(帯電防止剤(導電剤))
帯電防止層を形成する帯電防止剤の具体例としては,第4級アンモニウム塩,ピリジニウム塩,第1?第3アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物,スルホン酸塩基,硫酸エステル塩基,リン酸エステル塩基,ホスホン酸塩基などのアニオン性基を有するアニオン性化合物,アミノ酸系,アミノ硫酸エステル系などの両性化合物,アミノアルコール系,グリセリン系,ポリエチレングリコール系などのノニオン性化合物,スズ及びチタンのアルコキシドのような有機金属化合物及びそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられ,さらに上記に列記した化合物を高分子量化した化合物が挙げられる。また,第3級アミノ基,第4級アンモニウム基,または金属キレート部を有し,且つ,電離放射線により重合可能なモノマーまたはオリゴマー,或いは電離放射線により重合可能な重合可能な官能基を有するカップリング剤のような有機金属化合物等の重合性化合物もまた帯電防止剤として使用できる。
・・・(略)・・・
【0048】
(3)境界層
本発明の光学積層体は,基材フィルムとハードコート層の間に,基材フィルムを形成する樹脂と,ハードコート層を形成する樹脂とが混合した境界層を有する。
本発明に係る光学積層体によれば,ハードコート層に用いられている上記重合性単量体(2)が前記基材フィルムに浸透して硬化しているので,基材フィルムとハードコート層の間に両方の材料を含む領域が存在するため,基材フィルムとハードコート層間の界面が実質的に存在しなくなり,急激な屈折率の変化がなくなって,界面反射及び干渉縞の発生を防止することができる。更に,上記重合性単量体(2)が前記基材フィルムに浸透して硬化しているので,基材フィルム-ハードコート層間の密着性が非常に優れたものになる。本発明においては,基材からのハードコート層の剥離といった問題が生じないため耐熱性や耐水性等の信頼性が高くなるという利点を有する。
【0049】
前記基材フィルム中に,前記重合性単量体(2)が浸透して硬化している領域の厚みは,1?15μmの範囲内,特に,4?12μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば,有効に界面反射及び干渉縞の発生を防止し,且つ基材フィルム-ハードコート層間の密着性を向上させることができるからである。
当該領域の存在は,例えば,塗膜の断面から顕微IRによるマッピングやTOF-SIMS法によって,確認することができる。
・・・(略)・・・
【0085】
本発明に係る製造方法おいて,数平均分子量が1000以上の重合性単量体(1)と,数平均分子量が1000未満の重合性単量体(2)を含む塗工組成物を用いることにより,基材フィルム上にハードコート層用塗工組成物を塗布した後,分子量が1000未満の重合性単量体(2)が基材フィルムに選択的に浸透し,基材フィルム-ハードコート層間に,基材フィルムを形成する樹脂と,重合性単量体組成物(2)が硬化した樹脂とが混合した境界層を形成することができるため,基材フィルム-ハードコート層間の屈折率差を小さくして,干渉縞の発生を防ぐことより視認性を向上させることができる。
一方,ハードコート層には,基材フィルム上にハードコート層用塗工組成物を塗布した後,主に分子量1000以上の重合性単量体(1)が基材フィルムに浸透することなく残るため,十分な硬度を持ち,カールが小さいハードコート層を形成することができる。また,乾燥条件をそれほど詳細にコントロールしなくても,ハードコート層の厚さ,及び境界層の厚さを均一にすることができ,且つ,両者の配合比を調節することで,ハードコート層,境界層それぞれの厚さを容易にコントロールすることができる。
ここで本発明における数平均分子量は,分子量分布を有しないものについては,分子量そのものをいい,分子量分布を有するものについては,ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定したポリスチレン換算値をいう。また,分子量は,重合前の分子量である。
【0086】
ハードコート層用塗工組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合性単量体のうち,重合性単量体(1)の占める割合は30?80%であり,重合性単量体(2)の占める割合は20?70%,更に,重合性単量体(1)の占める割合が40?60%であり,重合性単量体(2)の占める割合が40?60%であることが,硬度及び非カール性の点から好ましい。
重合性単量体(2)の割合が70%を超える場合,重合性単量体の多くが基材フィルムに浸透することにより,境界層の厚さが大きくなるため干渉縞の発生は防止され,密着性も十分である一方で,ハードコート層の硬度が不十分になるおそれがある。また,重合性単量体組成物(2)の割合が20%未満の場合,フィルムに浸透するハードコート層用塗工組成物の量が少ないため,ハードコート層の硬度は十分であるが,カールが発生するおそれがあり,また,境界層の厚さが薄すぎるため,干渉縞の発生を防止することができないおそれがある。
・・・(略)・・・
【0102】
(E)溶剤
【0103】
ハードコート層用塗工組成物に用いられる溶剤は特に限定されるものではないが,セルロースアシレート系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルムに対して浸透性を有する溶剤(浸透性溶剤)であることが好ましい。
浸透性溶剤の「浸透性」とは,基材フィルムに対して浸透性,膨潤性,湿潤性等のすべての概念を包含する意である。基材フィルムを十分に膨潤等させることが可能であり,かつ上記重合性単量体(1)及び上記重合性単量体(2)を溶解もしくは分散させることができる溶媒であれば特に限定されるものではない。
【0104】
浸透性溶剤を用いることにより,基材フィルム上に,ハードコート層用塗工組成物が塗布された後,ハードコート層用塗工成物中の浸透性溶剤が基材を膨潤させ,分子量の小さい重合性単量体(2)を基材中に浸透させることにより,容易に上記基材1とハードコート層中の材料を含有する領域を形成することができる。」

(4)「【実施例】
【0115】
以下,実施例を挙げて,本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚,実施例中,部は特に特定しない限り重量部を表す。
【0116】
<実施例>
(光学積層体の調製)
下記表1のハードコート層用塗工組成物を,セルロースアシレート系基材であるTAC(商品名「フジタック」,富士写真フィルム社製)の表面にバーコーターを用いてWET重量20g/m^(2)(乾燥重量10g/m^(2),基材フィルムへの浸透がなければ乾燥膜厚10μm)となるように,バーコーターを用いて塗布した。50℃にて30秒乾燥し,紫外線100mJ/cm^(2)を照射して実施例の光学積層体を調製し光学積層体を用いて,評価試験をおこなった。
・・・(略)・・・
【0123】
【表1】


【0124】
なお,HDP-M20は根上工業株式会社製,DPHAは日本化薬社製,UV-1700Bは日本合成化学社製,M-9050は東亞合成化学製,M215は東亜合成化学社製である。
また,各重合性単量体の平均分子量は東ソー株式会社製HLC-8020でカラムに東ソー株式会社製TSK-GELαシリーズ,展開溶剤にTHFを用いて測定を行った。
【0125】
<結果のまとめ>
評価1の干渉縞の観察の結果,及び評価4の境界層の膜厚の測定結果から,干渉縞の発生が認められない場合は,重合性単量体が基材フィルムへ十分浸透し境界層の厚さが十分であると判断することができ,一方,干渉縞の発生が認められない場合は,重合性単量体が基材フィルムへ十分浸透しておらず,境界層の厚さが不十分であると判断することができる。
実施例1?3の本発明に係る光学積層体は,境界層を有し,浸透性,鉛筆硬度評価,硬度のばらつき評価,復元試験のいずれについても良好な結果が得られた。
一方,比較例1の光学積層体は,数平均分子量1000未満の重合性単量体のみを用いているため,ハードコート層の復元性がなかった。また,当該重合性単量体の浸透性が高く,境界層の膜厚が厚く,ハードコート層の膜厚が薄い光学積層体が得られた。その結果,ハードコート層の硬度が不十分となり,また,ハードコード層表面の硬度のばらつきが大きくなった。
【0126】
比較例2の光学積層体は,数平均分子量1000以上の重合性単量体を用いているが,数平均分子量1000以上の重合性単量体の官能基数が低いため,硬化が不十分であり,硬度が不十分だった。
比較例3?5の光学積層体は,浸透性基材を用いていないため,境界層が存在せず,干渉縞が発生した。」

(5)「【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の光学積層体の一例を示す断面図である。
・・・(略)・・・
【符号の説明】
【0128】
1 基材フィルム
2 ハードコート層
3 境界層(樹脂が浸透して硬化している領域)
・・・(略)・・・
10 光学積層体
【図1】



第4 対比・判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
ア トリアセチルセルロース基材
引用発明の「光透過性基材」は「トリアセチルセルロースであ」る。したがって,本願発明の「トリアセチルセルロース基材」に対応付けられるものである。また,引用発明の「光透過性基材」は,その上に「ハードコート層」が「設けられ」ている点においても,本願発明の「トリアセチルセルロース基材」と共通する。
更に,引用発明は,「樹脂として低分子量の(メタ)アクリレート系化合物を浸透性溶剤と共に使用することで,上記低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透し」ている。すなわち,引用発明の「光透過性基材」には,「ハードコート層」を構成する樹脂の成分が浸透した領域が形成されている。そして,「ハードコート層」は「光透過性基材上に設けられ」ている「層」であるから,そこから「基材に浸透し」てなる領域も,層状であると解される。また,当該浸透してなる層が,「光透過性基材」の「ハードコート層」側界面から,「ハードコート層と反対側に」存在することは,その形成機序からして自明である。
以上を踏まえると,本願発明の「トリアセチルセルロース基材」と引用発明の「光透過性基材」は,「トリアセチルセルロース基材」であり,その上に「ハードコート層」が形成され,「前記ハードコート層側界面から該ハードコート層と反対側に」,「ハードコート層」を構成する成分が「浸透して形成された浸透層を有」する点で一致する。

イ ハードコート層
引用発明の「ハードコート層」は,上記アにおいて,本願発明の「トリアセチルセルロース基材」と対応付けられた「光透過性基材」の上に形成されている点で,本願発明の「ハードコート層」と一致する。また,両発明の「ハードコート層」は,下記ウ?オのように,それらが含有する成分においても一致する。

ウ 帯電防止剤
引用発明の「重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩」は,「帯電防止剤として」「ハードコート層」に含まれるものである。したがって,本願発明の「ハードコート層」と引用発明の「ハードコート層」は,「帯電防止剤」を含有する点で一致する。

エ (メタ)アクリレート系樹脂
引用発明の「ハードコート層形成用組成物」は,「重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含」む。ここで,当該「(メタ)アクリレート系化合物」は,「重量平均分子量1000以上である」から,樹脂である。
また,本件出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0028】には,「上記(メタ)アクリレート系樹脂は,上述した(メタ)アクリレート系モノマーや反応性の官能基を持つ化合物などの重合体又は共重合体である重量平均分子量が1000以上のオリゴマーやポリマーである。」と記載されている。当該定義に基づいても,引用発明の「重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物」は,本願発明の「(メタ)アクリレート系樹脂」に該当するものである。

オ (メタ)アクリレート系モノマー
本願明細書の段落【0027】には,「また,本明細書において,「モノマー」とは,重量平均分子量が1000未満の化合物を意味する。」と記載されている。そうしてみると,引用発明の「重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物」は,「重量平均分子量700以下である」から,本件出願が定義するところの「(メタ)アクリレート系モノマー」に相当するものである。
また,引用発明は,「樹脂として低分子量の(メタ)アクリレート系化合物を浸透性溶剤と共に使用することで,上記低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透し」ているところ,「低分子量の(メタ)アクリレート系化合物」とは,「重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物」を指すものと解される。そして,当該化合物が「基材に浸透し」ているのであるから,上述の相当関係を踏まえると,上記アで指摘した,浸透層を形成するハードコート層の成分について,本願発明と引用発明は,それが「(メタ)アクリレート系モノマー」である点で一致する。

カ 帯電防止性ハードコートフィルム
以上ア?オを踏まえると,引用発明の「光学積層体」と本願発明の「帯電防止性ハードコートフィルム」は,「トリアセチルセルロース基材」及びその上に形成された「ハードコート層」を有し,帯電防止性能を有する点で一致する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)を踏まえると,本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「トリアセチルセルロース基材と,該トリアセチルセルロース基材の上に形成されたハードコート層とを有する帯電防止性ハードコートフィルムであって,
前記ハードコート層は,帯電防止剤,(メタ)アクリレート系樹脂及び(メタ)アクリレート系モノマーの重合体を含有し,
前記トリアセチルセルロース基材は,前記ハードコート層側界面から該ハードコート層と反対側に,前記(メタ)アクリレート系モノマーが浸透して形成された浸透層を有する
帯電防止性ハードコートフィルム。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点1)
本願発明は,「前記ハードコート層の前記トリアセチルセルロース基材と反対側表面に前記帯電防止剤がブリードアウトしており」という構成を具備するのに対して,引用発明は,「1回の塗装である程度帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層を形成する」ものであるが,帯電防止剤がブリードアウトしているかは,不明である点。

(相違点2)
本願発明は,「前記浸透層及びハードコート層の合計の厚さをT(μm)とし,前記浸透層の厚さをt(μm)としたとき,前記(T)及び(t)が,下記式(1),(2)及び(3)を満たし」,「前記浸透層の厚さ(t)が,2?8μmである」のに対して,引用発明は,「低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透し」てなる層と「ハードコート層」の厚さについて,特定されていない点。
(当合議体注:本願発明の「式(1),(2)及び(3)」は,以下のとおりである。
3μm≦T≦18μm (式1)
0.3T≦t≦0.9T (式2)
2μm≦T-t≦11μm (式3))

2 判断
(1)相違点1について判断する。
ア 引用発明は,「帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層」が形成されている「光学積層体」である。ここで,「帯電防止剤が表面付近に偏在した」とは,帯電防止剤の一部が表面に露出した状態,すなわち,ブリードアウトした状態も含みうる構成である。

イ 本願発明及び引用発明のハードコート層は,上記1(1)ウ?オで述べたように,それを構成する成分において共通している。また,引用発明に係る実施例において具体的に用いられている原材料として,例えば実施例1に係るハードコート層形成用組成物1は,「重量平均分子量が1000?5万である4級アンモニウム塩」として「帯電防止剤(H6100;三菱化学社製,重量平均分子量1500,固形分50%,4級アンモニウム塩成分は固形分中21%)」を,「重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物」として「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA;日本化薬社製,6官能,重量平均分子量524)」を,「重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物」として「ウレタンアクリレート(UV1700B;日本合成社製,10官能,重量平均分子量2000)」を有しているところ(引用例1の段落【0114】を参照。),これらの化合物はそれぞれ,本願明細書において,本願発明の「帯電防止剤」,「(メタ)アクリレート系モノマー」,「(メタ)アクリレート系樹脂」の具体例として挙げられているものである(本願明細書の段落【0025】,【0027】,【0029】を参照。)。また,上記(1)オで述べたように,本願発明と引用発明は,低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透させて,ハードコート層を形成する点で共通する。そうしてみると,同じ原材料を用い,同様の現象を利用して形成した両発明のハードコート層においては,その形成過程において,成分間で同様の相互作用が生じ,ハードコート層の内部構造も同様のものとなる蓋然性が高い。
そして,本願発明では「前記ハードコート層の前記トリアセチルセルロース基材と反対側表面に前記帯電防止剤がブリードアウトして」いるから,「ある程度帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層を形成する」引用発明においても,帯電防止剤がブリードアウトしていると考えるのが妥当である。

ウ 引用発明において,ハードコート層における4級アンモニウム塩の含有量は,0.5?18質量%である。当該含有量や,引用例1に記載の各製造例に係るハードコート層形成用組成物における4級アンモニウム塩の含有量(例えば,前述のハードコート層形成用組成物1では,6.1%である(段落【0114】を参照。)。)は,本願発明の実施例におけるそれよりも高い(このことは,平成30年3月12日付け意見書中で本件請求人も主張する点である。なお,同意見書では,本願明細書の段落【0026】の記載は誤記であると主張されている。)。
樹脂層に含まれる成分のブリードアウトは,当該成分の含有量が増大するほど生じやすい現象であることは,証拠を挙げるまでもない技術常識である。そうしてみると,上記イで指摘したように同様の成分からなる組成物を用いている点も踏まえると,本願発明に係る実施例において,4級アンモニウム塩がブリードアウトするのであれば,4級アンモニウム塩の含有量がより多い引用例1に記載の実施例においても,4級アンモニウム塩がブリードアウトしているというべきである。そして,引用発明は,こうした実施例に基づいて,「帯電防止剤が表面付近に偏在したハードコート層を形成することができる」とするものであるから,引用発明の帯電防止剤は,ハードコート層の表面にブリードアウトしているものと解される。

エ 本願明細書には,ハードコート層の表面に帯電防止剤がブリードアウトしていることに関して,表面抵抗値が評価手段として用いられ,それ以外にブリードアウトを実証した記載はない。そして,表面抵抗値に関して,「1×10^(11)Ω/□以下であることが好ましい」と記載され(段落【0046】を参照。「1011」は「10^(11)」の誤記である。),その実施例において,表面抵抗は10^(9)Ω/□?10^(10)Ω/□である(段落【0074】を参照。)。一方,引用例1には,引用発明に期待される表面抵抗値として同様の値が示され(段落【0091】を参照。),実施例においても同様である(段落【0160】を参照。)。そうしてみると,本願発明では帯電防止剤がブリードアウトしているのに対して,それと同程度の表面抵抗値を実現している引用発明においては,帯電防止剤がブリードアウトしていないと認めるに足る具体的な根拠があるとはいえない。

オ 以上ア?エから,引用発明は,ハードコート層の光透過性基材と反対側表面に帯電防止剤がブリードアウトしているものと解される。
したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。

カ なお,ハードコート層における帯電防止剤のブリードアウトの有無及びその程度は,ハードコート層の厚さ及び低分子量の(メタ)アクリレート系化合物の浸透の程度にも依存する。この点については,下記(2)において検討する。

(2)相違点2について判断する。
ア 引用例2には,トリアセテートセルロース(TAC)からなる基材フィルム(段落【0024】,【0025】を参照。)上に,ハードコート層を設けた光学積層体において,干渉縞の防止,十分な耐擦傷性かつカールの抑制を課題として(段落【0007】を参照。),数平均分子量が1000以上の重量性単量体(1)と,数平均分子量が1000未満の重合性単量体(2)を含むハードコート層用塗工組成物を基材フィルム上に塗布して,分子量が1000未満の重合性単量体(2)を基材フィルムに選択的に浸透させ,基材フィルムとハードコート層間に境界層を形成することにより,干渉縞の発生を防ぎ,一方,ハードコート層に分子量が1000以上の重合性単量体(1)が残るために,十分な硬度を持ちカールが小さいハードコート層を形成できることが記載されている(段落【0085】を参照。)。そして,上述の手段により,上記課題を良好に解決できた実施例として,実施例2及び実施例3が開示されているところ,これら実施例では,ハードコート層用塗工組成物が,基材フィルムへの浸透がなければ乾燥膜厚10μmとなるように塗布されて光学積層体が調整され(段落【0116】),測定された境界層の膜厚(本願発明の定義による厚さt)が5μmとされる(段落【0123】)。ここで,重合性単量体(2)の基材フィルムへの浸透の分だけ,ハードコート層の膜厚は10μmより減少していることを踏まえると,本願発明の定義による厚さTは,15μmまでは大きくなく,一方,10μmを下回ることはないものと理解される(仮に,乾燥膜厚10μmのうち5μmに相当する部分が境界層を構成したとした場合に,T=10μmである。しかし,境界層は重合性単量体(2)とTACの混合物から構成されるのであるから,5μmの境界層が形成される際に,ハードコート層の膜厚の減少分が5μmにまで及ぶとは考えられない。)。そうしてみると,引用例2には,上記課題を解決できる厚さt及び厚さTとして,相違点2に係る本願発明の条件を満足する値が開示されている(t=5μmを,本願発明の式(2)及び式(3)に代入すると,7≦T≦16であれば,両式を満足することが理解される。)。

イ 引用発明と引用例2に記載された事項とは,ハードコート層形成用組成物の成分に関して,後者が帯電防止剤を欠いている点を除いて,同様の化合物が使用されている。上記アで引用した実施例2及び実施例3で使用されている重合性単量体(1)(引用例2の段落【0123】?【0124】を参照。)は,引用例1において,重量平均分子量1000以上である6官能以上の(メタ)アクリレート系化合物として,好ましい化合物として例示されているものであり(引用例1の段落【0032】を参照。),また,引用例2の実施例2及び実施例3で使用されている重合性単量体(2)(引用例2の段落【0123】?【0124】を参照。)は,引用例1の実施例においても多用されているものである(例えば,引用例1の段落【0119】の製造例6を参照。)。
また,引用例2には,そこに開示された技術的思想を,4級アンモニウム塩からなる帯電防止剤を含有するハードコート層に適用できることの示唆もある(段落【0032】,【0044】を参照。)。
そして,引用発明と引用例2に記載された事項は,硬度と光学特性の良好な光学積層体を提供することを課題として(上記ア並びに引用例1の段落【0005】,【0016】を参照。),低分子量の重合性単量体を基材に浸透させて境界層を形成しつつ,高分子量の重合性単量体を含む組成物によってハードコート層を形成するという機序により課題を解決しようとする点で一致する。
以上を踏まえると,引用発明において,前記課題を解決できるように,ハードコート層及び境界層の膜厚として,引用例2に開示された値を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
また,上記膜厚は,組成物の塗布量や,分子量が異なる重合性単量体の配合比を調節することによって制御可能である(引用例2の段落【0085】を参照。)ところ,上記アで指摘した引用例2の実施例2及び実施例3における「分子量1000未満の割合」(引用例2の段落【0123】を参照。)は,引用発明の「上記重量平均分子量1000以上である6官能以上のウレタン(メタ)アクリレート系化合物と,上記重量平均分子量700以下である3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物との混合比は,固形分質量比で5/95?90/10であり」なる範囲に含まれるものである。したがって,引用発明において,干渉縞を防止し,十分な硬度を持ちカールが小さい光学積層体となるよう,ハードコート層及び境界層の膜厚を好適な値にするために,引用例2に開示されるような塗布量や配合比を選択することが,当業者にとって困難であったということもできない。


ウ 以上のとおりであるから,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を具備させることは,当業者が容易になし得たことである。

エ 上記(1)カで述べたことに関して,上記ア?ウのようにして容易に想到し得る,所定の膜厚を具備する引用発明における,帯電防止剤のブリードアウトの有無について検討する。
上記(1)ア?オで検討したように,引用発明は,帯電防止剤をハードコート層の表面付近に偏在させるような条件で光学積層体を形成することによって,所望の表面抵抗値を有する帯電防止性能を実現するものである。そうしてみると,上記ア?ウのようにして,2種類の(メタ)アクリレート系化合物の混合比等を調整することによって,相違点2に係る本願発明の膜厚に関する構成を具備させる場合においても,帯電防止剤の含有量を随意に選択して,所望の表面抵抗値が維持されるようにすることは,当業者であれば当然に選択する設計である。そして,本願明細書によれば,相違点2に係る本願発明の膜厚に関する構成は,帯電防止剤のブリードアウトが生じるための条件とされるから(段落【0016】,【0021】を参照。),上記ア?ウのようにして当業者が容易に想到し得る,所定の膜厚を具備する引用発明においても,帯電防止剤はハードコート層表面にブリードアウトしている。

(3)本願発明の効果について
ア 本願発明は,白化防止性能と帯電防止性能とを極めて高いレベルで達成することができ,また,界面での干渉縞が発生することを好適に防止することができるという効果を有する(本願明細書の段落【0058】を参照。)。しかし,帯電防止性能については,上記(1)エで述べたように,引用発明も同程度で実現している効果である。また,白化防止性能と干渉縞の防止については,相違点2に係る本願発明の膜厚に関する構成によって実現される効果であるから,引用例2に記載された事項が備える効果である。したがって,本願発明が有する上記効果は,引用発明及び引用例2に記載された事項が有する効果の和から,当業者であれば予測し得た範囲のものである。

イ 本願明細書には,白化が生じる原因として,浸透層が厚すぎる場合が記載され(段落【0030】を参照。),当該原因への対処として,本願発明では,上記アで言及した膜厚に関する構成が採用されている。一方,本願明細書の段落【0026】には,帯電防止剤であるところの4級アンモニウム塩オリゴマーの含有量が高すぎると,白化防止性能が低下するおそれがある旨記載されている。また,平成30年3月12日付け意見書中では,引用例1に記載の発明で帯電防止剤の含有量を増やした場合,白化防止性能に劣るものとなると主張されている((4)(ロ)(ii))。そうしてみると,本件請求人は,本願発明が有する効果として,帯電防止剤の含有量が多すぎないために白化を防止できることを主張しているものと解される。しかし,本願発明は,発明特定事項として,帯電防止剤の含有量に関する構成を有しないし,また,帯電防止剤のブリードアウトについても,その程度については何ら規定されていない。したがって,帯電防止剤の過多による白化を防止することを,本願発明の効果として採用することはできない。
また,帯電防止剤のような添加物があまりに大量に存在すると,著しいブリードアウトが生じて,表面の均一性が損なわれ白化することは,当業者には明らかであり,光学装置に用いるハードコートフィルムについて白化が問題となることは,当然の課題である。そうしてみると,十分な帯電防止性を維持しつつも,白化を抑制できるように帯電防止剤の含有量を調節することは,当業者が当然になし得たことであり,上記効果はこのようにして設計されたハードコートフィルムが備える効果にすぎない。

(4)請求人の主張について
平成30年3月12日付け意見書中で本件請求人は,「引用例1に記載の発明が補正後の本願発明(請求項1)と同程度の表面抵抗値を示しているのは,ハードコート層中の帯電防止剤の含有量が極めて多く,また,ハードコート層形成用組成物の塗布量が極めて少ないからであり,審判官殿がご指摘のようにハードコート層の表面に帯電防止剤がブリードアウトしているからではありません。」と主張する((4)(ロ)(iv))。しかし,上記(1)イ?ウで指摘したように,同様の成分からなる組成物によって形成された,本願発明と引用発明のハードコート層において,引用発明のハードコート層の方が,帯電防止剤の含有量が多いのであれば,そのブリードアウトは,より生じやすい。また,塗布量が少ないのであれば,低分子量の(メタ)アクリレート系化合物が基材に浸透することによる影響が,より大きくなるものと解されるから,その結果である帯電防止剤のブリードアウトは,やはり,より生じやすくなる。すなわち,本願発明において帯電防止剤がブリードアウトしていて,本願発明と比較して引用例1では帯電防止剤の含有量が多く,ハードコート層形成用組成物の塗布量が少ないのであれば,引用例1に記載された発明においても,帯電防止剤はブリードアウトしていると考えるのが妥当である。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-26 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-11 
出願番号 特願2015-131897(P2015-131897)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 貴之廣田 健介  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
佐藤 秀樹
発明の名称 帯電防止性ハードコートフィルム、その製造方法、偏光板及び画像表示装置  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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