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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1340768
審判番号 不服2017-8788  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-15 
確定日 2018-06-19 
事件の表示 特願2016- 96014「定着装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-139161、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月23日に出願した特願2012-68063号の一部を平成28年5月12日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月9日付けで手続補正がされ、同年3月22日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がされ、平成30年2月21日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月18日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1、及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、及び「本願発明2」という。)は、平成30年4月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「記録媒体上のトナーを加熱して定着する定着部材と、
前記定着部材に対向されて配置され、該記録媒体を前記定着部材に加圧する加圧部材と、
前記定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する金属製かつ平板状の面を有する捕集部材と、を有し、前記捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の前記面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突後に特定方向に導くための形状を有し、
前記定着部材と前記加圧部材との間に形成されるニップ部を通過した直後における前記記録媒体の搬送方向の延長線上に前記捕集部材が設けられていることを特徴とする定着装置。」

なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の分割原出願日前の平成19年9月27日に頒布された引用文献1(特開2007-248811号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着装置の下流側の用紙搬送過程において気体を捕集する装置を設けたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記気体捕集装置の内部が定着装置とその周囲よりも負圧であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記気体捕集装置に定着装置で発生する気体を移送する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記気体捕集装置に、気体の捕集剤を配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記捕集剤が、通気性を有するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項6】
捕集剤が多孔性の成形体であることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記気体捕集装置に光触媒性作用を有する物質を配置したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
光照射手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載の画像形成装置。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やレーザープリンター等の画像形成装置に関し、コピー用紙の加熱定着に際して発生する水蒸気等の気体を効率よく除去する気体捕集装置に関するものである。」
(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、加熱定着時にコピー用紙から発生する水蒸気やトナーの臭気物や蒸発物を効率よく捕集しかつ除去する技術に関し、具体的には機内のこれら発生源となる熱定着装置の下流に新規な気体捕集装置を設けて、これらを効率よく捕集することで、機内での結露を防止して画像品質を安定させるとともに、臭気をトラップして解消防止することである。」
(4)「【0011】
以下、実施例によって説明する。
図1は、本発明の画像形成装置における、定着装置、本発明の気体捕集装置及び用紙搬送系の概略を示す図である。
図1の装置においては、加熱ローラと加圧ローラからなる定着装置の下流に気体捕集装置が設けられ、コピー用紙は用紙搬送手段により、定着装置を出た直後に、気体捕集装置に移送され、さらに該装置から排出されるように構成されている。
コピー用紙は図の右の方からガイド板に沿って搬送され、定着装置の加熱ローラと加圧ローラ間を通過し熱定着される。定着温度は機種や線速に応じて様々であるが、通常約150℃位であり、このローラ間を通過する際に、コピー用紙中の水分が蒸発して水蒸気が発生したり、トナーの樹脂や成分が蒸発して臭気を発生する。発生した蒸気等の気体は、定着装置の下流側に設けた気体捕集装置に捕集される。
【0012】
図2は本気体捕集装置の別な設置レイアウトを示す図である。この設置レイアウトによれば、気体捕集装置は定着装置のすぐ後方に配置されている。
なお、本発明においては、発生する気体が効率よく捕集される配置であれば、そのレイアウトは本実施例に限定されるものではない。
【0013】
図3は、本発明の気体捕集装置に吸引装置を設けた例を示す図である。これによれば、気流捕集装置の一端からファンや小型吸引ポンプを使って空気を吸引することにより、捕集装置内部は装置周囲よりも負圧にされている。これによって気体捕集装置には吸込み気流が発生して水蒸気やその他気体を逃がさず捕集できる。ポンプの場合には、捕集装置からチューブ自由に配管でき、捕集装置と必ずしも一体ではなくてよい。
【0014】
図4は、定着装置と気体捕集装置間にさらに空気移送用のダクトを設けた例を示す図である。これによれば、定着装置の加熱ローラから用紙が排出された時から気体捕集装置に移送される間が移送ダクトにより覆われているため、発生する水蒸気等の気体の殆どが移送ダクトを介して、気体捕集装置に吸引される。したがって、この装置によれば捕集効果の向上が図れる。
【0015】
図5は、気体捕集装置に配置する捕集剤をシート状にして、該シート状物を縦に配置してその背面から吸引する例を、また、図6は、捕集剤と気体を接触させるためのエアポンプを用いた吸引システムの例を示す。捕集剤のシート状物は通気可能なように設けられており、吸引された水蒸気等の気体は、シート状物内部に拡散し、吸着される。シート状物の成型法としては、例えば、繊維状物に捕集剤を坦持させたもの、粒状の捕集剤をバインダー樹脂を介して通気性を有するよう集合結着させたもの等が挙げられる。またシート状物でなくとも通気性を有する容器、包装体あるいはネットに粒状、あるいは粉状の捕集剤を収容したもの等も用いることが出来る。
捕集剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭等の種々の吸水性と吸着性材料が挙げられる。また、光触媒作用を有する物質としては、例えば酸化チタン等が用いられる。この光触媒作用を有する物質も、上記捕集剤と同様に例えばシート状物の形態で用いることができる。上記捕集剤及び光触媒作用を有する物質は、例えば、各シート状物を積層する等の方法で、併用することがより効果的である。
図7は、気体捕集装置に、光触媒作用を有する物質をシート状にして配置する例を示す。気体は該シート状物背面の吸引手段により吸引され、またその前面には、光触媒作用を活性化させるための光源が設けられている。光によって吸着気体の分子を分解する作用のある酸化チタンなどは、光活性作用があり光の波長にもよるが、捕集した気体の一部を分解し、清浄化させることができる。光源としてはLED等、種々の形状のものが利用できる。
この図の例においては新たに光源を設けたが、スキャナー光や除電光を導光して光源として用いても良い。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「加熱ローラと加圧ローラからなる定着装置であって、その下流に気体捕集装置が設けられ、コピー用紙は用紙搬送手段により、ガイド板に沿って搬送され、定着装置の加熱ローラと加圧ローラ間を通過し熱定着され、定着温度は、通常約150℃位であり、このローラ間を通過する際に、コピー用紙中の水分が蒸発して水蒸気が発生したり、トナーの樹脂や成分が蒸発して臭気を発生し、定着装置を出た直後に、気体捕集装置に移送され、さらに該装置から排出されるように構成され、発生した蒸気等の気体は、定着装置の下流側に設けた気体捕集装置に捕集される定着装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の分割原出願日前の平成24年3月22日に頒布された引用文献2(特開2012-58658号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体にトナー像を形成する画像形成部と,
トナー像を前記像担持体からシートに転写する転写部と,
トナー像をそのシートに定着させる定着装置と,
各部を制御する制御部とを有する画像形成装置であって,
前記定着装置は,
トナー像を転写されたシートに接触した状態でそのシートを加熱する加熱部材と,前記加熱部材を支持する加熱部材側弾性層とを備える定着回転体と,
前記加熱部材とともにニップを形成する加圧部材と,前記加圧部材を支持する加圧部材側弾性層とを備える加圧回転体と,
前記加熱部材を加熱する熱源と,
前記加熱部材の温度を測定する温度センサとを有するものであり,
前記制御部は,
前記加熱部材の温度を予め定めた定着上限温度と定着下限温度との範囲内に保持する通常の定着温度制御モードと,
前記加熱部材の温度を前記定着上限温度より10℃以上高い超微粒子制御上限温度に保持する加熱状態と,前記加熱部材の加熱を停止する加熱停止状態とを有する超微粒子発生温度制御モードとを有することを特徴とする画像形成装置。

【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の画像形成装置であって,
前記定着装置の周りを覆うダクトと,
前記ダクトと連通している排気口と,
前記ダクトから前記排気口までの間に配置されているとともに超微粒子を吸着する静電フィルタとを有するものであることを特徴とする画像形成装置。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は,画像形成装置とその製造方法に関する。さらに詳細には,装置内部で超微粒子の発生しにくい画像形成装置とその製造方法に関するものである。」
(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,近年,環境問題に対する意識の高まりから,さらに超微粒子(UFP:Ultra Fine Particle)の発生をも抑制することが望まれてきている。超微粒子(UFP)とは,浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)のうち,直径が100nm以下の粒子のことをいう。この超微粒子(UFP)は,定着装置の弾性部材として用いられるシリコーンゴムから主に発生することがわかってきている。シリコーンゴムが加熱されると,低分子シロキサンが発生する。この低分子シロキサンが超微粒子(UFP)の発生する大きな原因であることがわかってきている。
【0007】
しかし,揮発性有機化合物(VOC)を除去する揮発性有機化合物除去装置では,超微粒子(UFP)の回収はやや困難である。超微粒子(UFP)の発生原因と揮発性有機化合物(VOC)の発生原因とは異なっており,それらの発生箇所も当然異なっているからである。特許文献1に記載の揮発性有機化合物除去装置では,定着装置近傍全体からエアの吸引を行っており,質量の軽い超微粒子(UFP)を除去するには効率が悪い(特許文献1の図3等参照)。また,特許文献1に記載の超微粒子(UFP)の除去装置を設けるよりも,超微粒子(UFP)の発生そのものを抑制することが好ましい。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,製品としての使用時における定着装置からの超微粒子(UFP)の発生の抑制を図った画像形成装置およびその製造方法を提供することである。」
(4)「【0069】
7-3.超微粒子除去装置
また,図14に示すような超微粒子除去装置300を画像形成装置の内部に設けることとしてもよい。超微粒子除去装置300は,定着装置10の周囲を覆っている。そして,超微粒子除去装置300は,ダクト310と,静電フィルタ320とを有している。超微粒子除去装置300は,ダクト310と,静電フィルタ320と,排気口330とを有している。ダクト310と排気口330とは連通している。静電フィルタ320は,ダクト310から排気口330までの間に配置されている。超微粒子(UFP)は,静電フィルタ320に吸着されることにより除去される。そのため,超微粒子(UFP)が画像形成装置の外部に漏れ出るおそれはほとんどない。また,超微粒子除去装置300があることにより,超微粒子発生温度制御の際にも,通常の使用時においても,画像形成装置から超微粒子(UFP)が外部に漏れ出るおそれはほとんどない。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「像担持体にトナー像を形成する画像形成部と,
トナー像を前記像担持体からシートに転写する転写部と,
トナー像をそのシートに定着させる定着装置と,
各部を制御する制御部とを有する画像形成装置であって,
前記定着装置は,
トナー像を転写されたシートに接触した状態でそのシートを加熱する加熱部材と,前記加熱部材を支持する加熱部材側弾性層とを備える定着回転体と,
前記加熱部材とともにニップを形成する加圧部材と,前記加圧部材を支持する加圧部材側弾性層とを備える加圧回転体と,
前記加熱部材を加熱する熱源と,
前記加熱部材の温度を測定する温度センサとを有するものであり,
前記制御部は,
前記加熱部材の温度を予め定めた定着上限温度と定着下限温度との範囲内に保持する通常の定着温度制御モードと,
前記加熱部材の温度を前記定着上限温度より10℃以上高い超微粒子制御上限温度に保持する加熱状態と,前記加熱部材の加熱を停止する加熱停止状態とを有する超微粒子発生温度制御モードとを有し、
前記定着装置の周りを覆うダクトと,
前記ダクトと連通している排気口と,
前記ダクトから前記排気口までの間に配置されているとともに超微粒子を吸着する静電フィルタとを有するものである画像形成装置。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の分割原出願日前の平成14年9月27日に頒布された引用文献3(特開2002-278341号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 転写紙上に転写されたトナー像を定着させる定着装置で発生するシリコンオイル等の気化物質を含んだ空気を、フィルターを介して機外に排気する排気装置において、
該フィルターを薄い金属板を積層した構造とし、
該フィルターを金属製の本体構造体に接触させて排熱することを特徴とする排気装置。
【請求項2】 請求項1に記載の排気装置において、
前記フィルターの排熱によりフィルターに凝集した物質を回収するための液化凝集体回収部材を、前記フィルター下部に着脱可能に配したことを特徴とする排気装置。
【請求項3】 請求項2に記載の排気装置において、
前記凝集物質回収部材によって回収されたシリコンオイルを定着部のタンクに戻す機構を設けたことを特徴とする排気装置。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複写機、プリンター等の画像形成装置における定着装置の排気装置に関する。」
(3)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、上記問題点に鑑み、排気装置内の風量の低下を防ぎ、長期間に渡って気化物質の除去性能を維持することができる排気装置を提供することを課題とする。」
(4)「【0005】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第一の実施形態である排気装置の概略構成図である。(a)は、転写紙搬送方向から見た図、(b)は、転写紙搬送方向に対して横方向から見た図である。排気装置2の入口に、薄い金属板を積層した金属板積層フィルター4を設置している。また、金属板積層フィルター4の周囲は、金属製の本体構造体5に接触させている。このような構成により、金属板積層フィルター4の排熱ができ、定着装置1内で発生する気化物質8を金属板積層フィルター4に凝集させ、液化凝集体9とすることができるので、排気装置内の風量の低下を防ぎ、長期間に渡って、気化物質の高い除去性能を維持することが出来る。」

したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「転写紙上に転写されたトナー像を定着させる定着装置で発生するシリコンオイル等の気化物質を含んだ空気を、フィルターを介して機外に排気する排気装置において、
該フィルターを薄い金属板を積層した構造とし、
該フィルターを金属製の本体構造体に接触させて排熱する排気装置。」


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
(1-1)本願発明1と引用発明1とを対比すると、
後者の「コピー用紙」、「トナー」、「加熱ローラ」、「加圧ローラ」、「気体捕集装置」、及び「定着装置」は、それぞれ、前者の「記録媒体」、「トナー」、「加熱して定着する定着部材」、「加圧部材」、「捕集部材」、及び「定着装置」に相当する。
後者の「加圧ローラ」は、コピー用紙を、定着装置の加熱ローラとの間を通過し熱定着するものであるから、「定着部材に対向されて配置され、記録媒体を前記定着部材に加圧する」といえる。
後者の「気体捕集装置」は、定着温度が、通常約150℃位である、ローラ間を通過する際に、コピー用紙中の水分が蒸発して水蒸気が発生したり、トナーの樹脂や成分が蒸発して臭気を発生し、発生した蒸気等の気体を、捕集するものであるから、「定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する捕集部材」といえる。

したがって、両者は、
「記録媒体上のトナーを加熱して定着する定着部材と、
前記定着部材に対向されて配置され、該記録媒体を前記定着部材に加圧する加圧部材と、
前記定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する捕集部材、を有する定着装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1が、「金属製かつ平板状の面を有する捕集部材と、を有し、前記捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の前記面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突後に特定方向に導くための形状を有し、前記定着部材と前記加圧部材との間に形成されるニップ部を通過した直後における前記記録媒体の搬送方向の延長線上に前記捕集部材が設けられている」のに対し、引用発明1は、そのようなものでない点。

(1-2)本願発明1と引用発明2とを対比すると、
後者の「シート」、「トナー(像)」、「トナー像を転写されたシートに接触した状態でそのシートを加熱する加熱部材」、「加熱部材とともにニップを形成する加圧部材」、「超微粒子を吸着する静電フィルタ」、及び「定着装置」は、それぞれ、前者の「記録媒体」、「トナー」、「トナーを加熱して定着する定着部材」、「定着部材に対向されて配置され、該記録媒体を前記定着部材に加圧する加圧部材」、「トナーの揮発成分を捕集する捕集部材」、及び「定着装置」に相当する。
後者の「静電フィルタ」は、定着装置の周りにあって、画像形成装置を構成するものであるから、実質的に、定着装置の構成要素とみなし得る。

したがって、両者は、
「記録媒体上のトナーを加熱して定着する定着部材と、
前記定着部材に対向されて配置され、該記録媒体を前記定着部材に加圧する加圧部材と、
前記定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する捕集部材、を有する定着装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点2]
本願発明1が、「金属製かつ平板状の面を有する捕集部材と、を有し、前記捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の前記面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突後に特定方向に導くための形状を有し、前記定着部材と前記加圧部材との間に形成されるニップ部を通過した直後における前記記録媒体の搬送方向の延長線上に前記捕集部材が設けられている」のに対し、引用発明2は、そのようなものでない点。
そして、上記相違点1と上記相違点2とは実質的に同じものである。

(2)判断
(2-1)引用発明1を主引用発明とした進歩性について
上記相違点1について検討する。
引用文献1に、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を示唆する記載もない。さらに、引用発明1の、「気体捕集装置」の具体的構成が定かでなく、発生した蒸気等の気体を捕集する構成及びその構成の配置は明らかでないから、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を設計的事項といえる理由もない。

そして、本願発明1は、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項により、「定着部材と加圧部材との間に形成されるニップ部を通過した後における記録媒体の搬送方向に、トナーの揮発成分を捕集する捕集部材が設けられていない場合に比べ、揮発成分の捕集効率が向上する。」(【0019】参照。)という作用効果を奏するものである。

また、原査定で提示されたいずれの引用文献にも、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

したがって、本願発明1は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)引用発明2を主引用発明とした進歩性について
上記相違点2(相違点1)について検討する。
引用文献2に、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を示唆する記載もない。さらに、引用発明2の、「ダクト」は、定着装置の周りを覆うだけであって、ニップ部を通過した直後における記録媒体の搬送方向の延長線上とはいえないから、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を設計的事項といえる理由もない。

そして、本願発明1は、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項により、「定着部材と加圧部材との間に形成されるニップ部を通過した後における記録媒体の搬送方向に、トナーの揮発成分を捕集する捕集部材が設けられていない場合に比べ、揮発成分の捕集効率が向上する。」(【0019】参照。)という作用効果を奏するものである。

また、原査定で提示されたいずれの引用文献にも、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

したがって、本願発明1は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項にさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本願発明2は、上記「1. (2) (2-1) 又は (2-2)」と同様の理由により、引用文献1乃至3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その分割原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その分割原出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-3
・引用文献1-3

<引用文献等一覧>
1.特開2007-248811号公報
2.特開2012-58658号公報
3.特開2002-278341号公報」
というものである。

しかしながら、平成30年4月18日付け手続補正により補正された請求項1は、「前記定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する金属製かつ平板状の面を有する捕集部材と、を有し、前記捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の前記面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突後に特定方向に導くための形状を有し」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1は、上記引用文献1乃至3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願請求項1及び2に係る発明において、捕集部材は「金属製かつ板状の」、及び「捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突の前後で変化させるための形状を有し」と特定されているが、上記特定だけでは、例えば、表面が波形の板状であって、トナーの揮発成分を含む気流の進行方向が捕集部材への衝突の後に、拡散するものも包含する。
そして、上記のような捕集部材だと、1台の排気ファンだけで特定の気流を形成することができるのか否か定かでないし、排気効率が悪くなることも明らかであって、ひいては、揮発成分の捕集効率の低下につながる虞がある。
そうすると、本願発明の課題である「揮発成分の捕集効率が高い定着装置を提供すること」(【0013】参照。)を解決するための手段を記載したものとはならない。」
との拒絶の理由を通知しているが、平成30年4月18日付けの補正において、上記指摘に対して、請求項1は、「前記定着部材により加熱されたトナーの揮発成分を捕集する金属製かつ平板状の面を有する捕集部材と、を有し、前記捕集部材の前記揮発成分を捕集する側の前記面が前記トナーの揮発成分を含む気流の進行方向を前記捕集部材への衝突後に特定方向に導くための形状を有し」との補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2016-96014(P2016-96014)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 孝幸  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 森次 顕
藤本 義仁
発明の名称 定着装置及び画像形成装置  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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