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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B |
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管理番号 | 1340810 |
審判番号 | 不服2017-14670 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-03 |
確定日 | 2018-06-19 |
事件の表示 | 特願2012-197230「ゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日出願公開、特開2013- 78563、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年9月7日(優先権主張平成23年9月22日)の出願であって、平成28年9月12日付けで手続補正がされ、平成29年6月27日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成29年6月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項 :1-6 ・引用文献等:米国特許出願公開第2009/0203469号明細書 第3 平成29年10月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否 1 補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)から下記(2)へと補正することを含むものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 (A)(a-1)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a-2)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a-3)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a-4)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、 (B)下記式(1)で表される化合物とを含有するゴルフボール用樹脂組成物。 【化1】 (R^(1)は、炭素数8?30のアルキル基又はアルケニル基を表す。R^(2)及びR^(3)は、同一又は異なって、炭素数1?20のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。) 【請求項2】 樹脂成分100質量部に対して、前記(B)化合物を1?200質量部含有する請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。 【請求項3】 樹脂成分100質量部に対して、(C)塩基性無機金属化合物を100質量部以下含有する請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボール。 【請求項5】 少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボール。 【請求項6】 ゴルフボール本体が請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているワンピースゴルフボール。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 (A)(a-1)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体、(a-2)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物、(a-3)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、及び、(a-4)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなる群より選択される少なくとも1種と、 (B)ジメチルラウリルベタイン、ジメチルオレイルベタイン、ジメチルステアリルベタイン、ステアリルジヒドロキシメチルベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジヒドロキシメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ミリスチルジヒドロキシメチルベタイン、ベヘニルジヒドロキシメチルベタイン、パルミチルジヒドロキシエチルベタイン及びオレイルジヒドロキシメチルベタインからなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを含有するゴルフボール用樹脂組成物。 【請求項2】 樹脂成分100質量部に対して、前記(B)化合物を1?200質量部含有する請求項1記載のゴルフボール用樹脂組成物。 【請求項3】 樹脂成分100質量部に対して、(C)塩基性無機金属化合物を100質量部以下含有する請求項1又は2記載のゴルフボール用樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボール。 【請求項5】 少なくとも一層以上のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記コアの少なくとも一層が請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボール。 【請求項6】 ゴルフボール本体が請求項1?3のいずれかに記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されているワンピースゴルフボール。」(下線は平成29年10月3日付けの手続補正書のとおり。) 2 補正の適否 審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項乃至第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1乃至6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1乃至6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明6」という。)は、平成29年10月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項6に記載された事項により特定される、上記「第3 1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものと認める。 第5 引用刊行物等 1 引用文献について 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前の2009年8月13日に頒布された引用文献(米国特許出願公開第2009/0203469号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。以下同じ。) (1)「[0044] In another aspect of the present disclosure, the ionic plasticizer can be a zwitterionic compound. Suitable zwitterionic compounds can include at least one positive and one negative charge covalently bonded on a common charge center (e.g., an atom or group of atoms). One particular class of zwitterionic compounds has the formula: R_(1)R_(2)R_(3)-Y^(+)-R_(4)-X^(-) (formula 1) where R_(1), R_(2), and R_(3) independently denote an alkyl-, aryl-, alkaryl-, or aralkyl group having 1 to 30 carbon atoms. These groups can be un-substituted, or wholly or partially chlorinated or fluorinated, and can be optionally branched. Specific examples include phenol and un-branched, un-substituted alkyl group having 1 to 20 carbon atoms, such as phenyl, methyl or alkyl having 12 to 20 carbon atoms. R_(4) denotes a bivalent alkylene group having 1 to 30 carbon atoms and which can be un-substituted or wholly or partially chlorinated or fluorinated and optionally branched. Specific examples include un-branched, un-substituted α,α-alkylene group C_(1)-C_(5). Further, Y denotes nitrogen or phosphorus, and X denotes -SO_(3)^(-), -COO^(-), PO_(3)^(-), with -SO_(3)^(-), being particularly suitable. One specific example of a suitable zwitterionic compound is N,N-dimethyl-N-stearyl-N-(3-sulfopropyl)-ammonium betaine.」 ([0044] 本開示の別の態様では、イオン性可塑剤は両性イオン性化合物であってもよい。好適な両性イオン性化合物は、共通の電荷中心(例えば、原子または原子群)上に共有結合した少なくとも1つの正電荷および負電荷を含むことができる。両性イオン性化合物の1つの特定のクラスは、式: R_(1)R_(2)R_(3)-Y^(+)-R_(4)-X^(-) (式1) を含有し、R_(1)、R_(2)およびR_(3)は、独立して、炭素原子数1?30のアルキル基、アリール基、アルカリール基またはアラルキル基を表す。これらの基は、置換されていなくてもよく、または全部または部分的に塩素化されていてもフッ素化されていてもよく、必要に応じて分岐していてもよい。具体的には、炭素数12?20のフェニル基、メチル基、アルキル基等の炭素数1?20の分岐していない非置換のアルキル基が挙げられる。R_(4)は、1?30個の炭素原子を有する2価のアルキレン基を表し、置換されていなくてもよく、または全部または部分的に塩素化されていてもよく、フッ素化されていてもよい。具体的には、分岐していない置換されていないα、α-アルキレン基C_(1)-C_(5)が挙げられる。さらに、Yは窒素またはリンを表し、Xは-SO_(3)^(-)、-COO^(-)、PO_(3)^(-)および-SO_(3)^(-)を表し、特に好適である。適切な両性イオン性化合物の1つの具体例は、N、N-ジメチル-N-ステアリル-N-(3-スルホプロピル)-アンモニウムベタインである。 (2)「[0071] The compositions of the present invention can provide alternative routes to processable highly-neutralized polymers which can be effective and inexpensive. Furthermore, the present invention allows for a greater range of physical properties, e.g. flexibility, softer/faster combinations, improved toughness, increased scuff and shear resistance, and the like.」 (本発明の組成物は、有効で安価な加工可能な高中和ポリマーの代替経路を提供することができる。 さらに、本発明は、より広い範囲の物理的性質、例えば、柔軟性、より柔らかい/より速い組み合わせ、改良された靭性、増加した擦過およびせん断抵抗などが挙げられる。) (3)「What is claimed is: 1. A golf ball comprising a core and a cover layer, wherein at least one of the core and the cover layer includes a polymer composition, comprising: a highly-neutralized acid polymer having acid groups comprising at least 50 wt % of the polymer composition wherein 70% to 100% of the acid groups are neutralized; and an ionic plasticizer being selected from the group consisting of alcohol esters, montanic acids, montanic acid esters, alkylene bis-amines, zwitterionic compounds, salts thereof, and combinations thereof. … 6 . The golf ball of claim 1 , wherein the highly-neutralized acid polymer is a copolymer of a C_(3) to C_(8) α,β-ethylenically unsaturated carboxylic acid and a C_(2) to C_(6) α-olefin. … 16 . The golf ball of claim 1 , wherein the ionic plasticizer is a zwitterionic compound.」 (特許請求の範囲は: 1. コアとカバー層とを含むゴルフボールであって、コア及びカバー層の少なくとも一方がポリマー組成物を含み; 酸基の70%?100%が中和されたポリマー組成物を少なくとも50重量%含む酸基を有する高度に中和された酸ポリマー; および、 モンタン酸、モンタン酸エステル、アルキレンビス-アミン、両性イオン性化合物、それらの塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるイオン可塑剤とを含む、ポリマー組成物である。 … 6. 前記高度に中和された酸ポリマーが、C_(3)?C_(8)α、β-エチレン性不飽和カルボン酸とC_(2)?C_(6)α-オレフィンとのコポリマーである、請求項1に記載のゴルフボール。 … 16. 前記イオン性可塑剤が両性イオン性化合物である、請求項1に記載のゴルフボール。」 上記(1)、及び(3)の記載から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「コアとカバー層とを含むゴルフボールであって、コア及びカバー層の少なくとも一方がポリマー組成物を含み;酸基の70%?100%が中和されたポリマー組成物を少なくとも50重量%含む酸基を有する高度に中和された酸ポリマー;および、モンタン酸、モンタン酸エステル、アルキレンビス-アミン、両性イオン性化合物、それらの塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるイオン可塑剤とを含む、ポリマー組成物であり、 前記高度に中和された酸ポリマーが、C_(3)?C_(8)α、β-エチレン性不飽和カルボン酸とC_(2)?C_(6)α-オレフィンとのコポリマーであり、 上記選択される両性イオン性化合物の1つの特定のクラスは、式: R_(1)R_(2)R_(3)-Y^(+)-R_(4)-X^(-) (式1) を含有し、R_(1)、R_(2)およびR_(3)は、独立して、炭素原子数1?30のアルキル基、アリール基、アルカリール基またはアラルキル基を表す R_(4)は、1?30個の炭素原子を有する2価のアルキレン基を表し、 Yは窒素またはリンを表し、Xは-COO^(-)を表す、ゴルフボール。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、 ア 後者の「C_(2)?C_(6)α-オレフィン」は、前者の「オレフィン」に包含されるものである。 イ 後者の「C_(3)?C_(8)α、β-エチレン性不飽和カルボン酸」は、前者の「炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸」に包含されるものである。 ウ 後者の「コポリマー」は、前者の「二元共重合体」に対応するものであるから、上記ア、及びイより、後者の「C_(3)?C_(8)α、β-エチレン性不飽和カルボン酸とC_(2)?C_(6)α-オレフィンとのコポリマー」は、前者の「(a-1)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体」に包含されるものである。 エ 後者の「ゴルフボール」を構成する「ポリマー組成物」は、「ゴルフボール用樹脂組成物」といえる。 したがって、両者は、 「(A)(a-1)オレフィンと炭素数3?8個のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体、 を含有するゴルフボール用樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 本願発明1が、「(B)ジメチルラウリルベタイン、ジメチルオレイルベタイン、ジメチルステアリルベタイン、ステアリルジヒドロキシメチルベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジヒドロキシメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ミリスチルジヒドロキシメチルベタイン、ベヘニルジヒドロキシメチルベタイン、パルミチルジヒドロキシエチルベタイン及びオレイルジヒドロキシメチルベタインからなる群より選択される少なくとも1種の化合物とを含有する」ものであるのに対し、引用発明は、「両性イオン性化合物の1つの特定のクラスは、式: R_(1)R_(2)R_(3)-Y^(+)-R_(4)-X^(-) (式1) を含有し、R_(1)、R_(2)およびR_(3)は、独立して、炭素原子数1?30のアルキル基、アリール基、アルカリール基またはアラルキル基を表す R_(4)は、1?30個の炭素原子を有する2価のアルキレン基を表し、 Yは窒素またはリンを表し、Xは-COO^(-)を表す」ものである点。 (2)判断 引用文献に、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項である化合物を具体的に示唆する記載はない。そして、引用文献に具体例として示されている「N、N-ジメチル-N-ステアリル-N-(3-スルホプロピル)-アンモニウムベタイン」は、引用発明の(式1)のXが-SO_(3)^(-)であるアルキルスルホベタイン型両性界面活性剤であって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項として挙げられている化合物であるアルキルベタイン型両性界面活性剤とは異なるものである。 また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を設計的事項といえる理由もない。 そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項により、「反発性及び柔軟性に優れたゴルフボール用樹脂組成物を提供できる。」(【0012】参照。)という作用効果を奏するものである。 したがって、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 2 本願発明2乃至6について 本願発明2乃至6は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであり、上記「1 (2)」と同様の理由により、本願発明2乃至6は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 第7 原査定について 本願発明1は、上記「第6 1 (2)」のとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 本願発明2乃至6は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであり、上記「第6 1 (2)」と同様の理由により、本願発明2乃至6は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-06-01 |
出願番号 | 特願2012-197230(P2012-197230) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A63B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大澤 元成、青山 玲理 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 森次 顕 |
発明の名称 | ゴルフボール用樹脂組成物及びゴルフボール |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |