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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1340845
審判番号 不服2017-2346  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-17 
確定日 2018-05-31 
事件の表示 特願2012-121241「粘着剤、偏光板並びに液晶表示装置及び複屈折値定量的測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開,特開2012-233901〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2011年5月10日(優先権主張2010年5月10日,日本国)を国際出願日とする日本語特許出願(特願2011-530315号。以下,「原出願」という。)の一部を平成24年5月28日に新たな特許出願としたものであって,平成26年5月9日に手続補正書が提出され,平成27年3月20日付けで拒絶理由が通知され,同年5月29日に意見書及び手続補正書が提出され,同年10月29日付けで拒絶理由が通知され,平成28年1月2日に意見書及び手続補正書が提出され,同年6月24日付けで拒絶理由が通知され,同年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月21日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年2月17日に請求されたものであって,当審において,同年12月18日付けで拒絶理由が通知され,平成30年2月19日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし14に係る発明は,平成30年2月19日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「複屈折値定量的測定方法において熱延伸を,延伸温度102℃,延伸速度400%/分,延伸倍率2倍で行ったときに測定される複屈折の絶対値が4×10^(-4)以下であり,ゲル分率が0.1%以上80%未満であり,ガラス転移温度が23℃に比べて低く,正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーと負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーとの共重合体である粘着剤であって,
前記複屈折値定量的測定方法は,
固有複屈折が絶対値で1×10^(-3)以下であるポリマーフィルムを支持体として,該支持体に厚さ25μmの粘着剤を付与した積層フィルムを熱延伸する工程と,
熱延伸した後の積層フィルムのリタデーションを測定する工程と,
前記粘着剤の層の厚さを測定する工程と,
を有し,前記リタデーションを前記厚さで割った値を前記粘着剤の複屈折とする粘着剤。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


3 当審において通知した拒絶理由の概要
当審において平成29年12月18日付けで請求項1(平成30年2月19日提出の手続補正書による補正前の請求項1)に係る発明に関して通知された拒絶理由は,概略次の理由を含んでいる(請求項1に係る発明に関して通知した拒絶理由のうちサポート要件違反を「当審拒絶理由1」といい,実施可能要件違反を「当審拒絶理由2」といい,新規性進歩性欠如を「当審拒絶理由3」といい,これらを総称して「当審拒絶理由」という。)。
(1)当審拒絶理由1(サポート要件違反)
本件出願の出願当時の技術常識に照らしても,請求項1に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでない。
したがって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由2(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

(3)当審拒絶理由3(新規性進歩性欠如)
本件出願の請求項1に係る発明は,引用文献1(特開2008-144126号公報)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,当該発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。


4 当審拒絶理由1(サポート要件違反)についての判断
(1)本願発明の発明特定事項
本願発明の発明特定事項を整理すると,次のとおりである。

発明特定事項1:
粘着剤である。

発明特定事項2:
「複屈折値定量的測定方法」により測定される(粘着剤の)複屈折の絶対値が4×10^(-4)以下である。(測定時の熱延伸の条件:延伸温度102℃,延伸速度400%/分,延伸倍率2倍。「複屈折値定量的測定方法」の定義:「固有複屈折が絶対値で1×10^(-3)以下であるポリマーフィルムを支持体として,該支持体に厚さ25μmの粘着剤を付与した積層フィルムを熱延伸する工程と,熱延伸した後の積層フィルムのリタデーションを測定する工程と,前記粘着剤の層の厚さを測定する工程と,を有し,前記リタデーションを前記厚さで割った値を前記粘着剤の複屈折とする」。)

発明特定事項3:
(粘着剤の)ゲル分率が0.1%以上80%未満である。

発明特定事項4:
(粘着剤の)ガラス転移温度が23℃に比べて低い。

発明特定事項5:
(粘着剤ポリマーが)正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーと負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーとの共重合体である。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
ア 本願発明が解決しようとする課題に関して,本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0003】
これらの液晶テレビには透過型の液晶パネルが用いられており,液晶パネルには通常2枚の偏光板が貼合されている(図8参照)。そしてこれらを背面側からバックライトにより照らす構造となっている。
・・・(中略)・・・
【0005】
ここで,偏光板の中心部分に用いられている,高度に配向したポリビニルアルコールを主成分としヨウ素を含むフィルムは,液晶ディスプレイ使用中に徐々に収縮することが知られている。偏光板(ここでは,位相差フィルムを用いた構成の場合はこれを含めて偏光板と呼ぶこととする)は,前述のようにガラス基板と貼合されている。
【0006】
一方で,ガラス基板は液晶ディスプレイ使用中にもほとんど収縮しないため,ガラス基板と偏光板に用いるフィルムとを接着する粘着剤は,収縮率の異なる材料の間に挟持されて使用されることになり,粘着剤において応力が生じる。また使用しているフィルムのそれぞれの収縮率も異なるため,それらの間に使用されている粘着剤にも応力が生じていると考えられる。
【0007】
これらの応力が原因となり,粘着剤が複屈折を生じ,粘着剤層を通過するバックライトからの偏光の偏光状態が乱される。その結果,例えば図9のように黒表示時に光が漏れ,黒を表示すべきところがグレーから白に表示され,コントラストが著しく低下し,その程度が大きい場合は画像が正しく表示できないため,ディスプレイとしては深刻な問題となる。この現象を本明細書では「光漏れ」と呼び,光漏れの結果,図9に示すように画面内にむらが生じることを「ムラ現象」と呼ぶ。・・・(中略)・・・
【0008】
ムラ現象を改善するために,より複屈折が生じ難い低複屈折性の粘着剤を開発する試みはいくつか行われてきている。しかしながら,一般に粘着剤を構成するポリマーの複屈折性を評価することが難しく,低複屈折化のための材料設計が充分に行われていないのが現状である。
【0009】
ポリマーの複屈折性を評価する方法は,一般に次の3つの方法が知られている。
【0010】
第一の方法は,ポリマーの種類に固有の「応力光学係数(stress optical coefficient)」を求める方法である。・・・(中略)・・・
【0011】
第二の方法は,ポリマーの種類に固有の「固有複屈折(intrinsic birefringence)」を求める方法である。・・・(中略)・・・
【0012】
第三の方法は,ポリマーの種類に固有の「光弾性定数(photoelastic coefficient)」を求める方法である。・・・(中略)・・・
【0013】
これらの方法によって複屈折に関するポリマーの物性値が測定される。これらの複屈折の物性値に着目してムラ現象を改善する技術はこれまでに幾つか報告されている。
【0014】
例えば,特許文献1には,正の光弾性係数を有する成分を含むことを特徴とする偏光板用アクリル系感圧接着剤組成物およびこれを適用して製造された偏光板が開示されている。
【0015】
特許文献1では,大部分のアクリル系感圧接着剤(=粘着剤)の架橋した線状高分子構造は負の光弾性係数(stress optical coefficient)を示すため,正の光弾性係数を有する比較的低分子量(好ましくは2000未満)の成分を添加し,偏光板の収縮によって応力が作用している場合にだけ複屈折補償作用を発現させようという技術思想である。
【0016】
特許文献2には,粘着剤層を有する偏光板であって,該粘着剤層の光弾性定数の絶対値が500×10^(-12)(1/Pa)以下であることを特徴とする偏光板に関する発明が開示されている。粘着剤の種類としては,アクリル系粘着剤が挙げられ,更に光弾性定数が正であるアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルをモノマーとして用いることが開示されている。
【0017】
特許文献3には,23℃,測定波長400nmにおける光弾性定数の絶対値が5×10^(-11)(1/Pa)以下であり,かつ損失正接(tanδ)の極大値を示す温度が-20℃以下であることを特徴とする光学用粘着シートに関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2004-516359号公報
【特許文献2】特開2006-259664号公報
【特許文献3】特開2009-242633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記特許文献により提供される技術についてはいくつかの課題があり,これらの技術を活用しても十分に前述の光漏れによるムラ現像を根本的に解決することが困難であった。これは,粘着剤の複屈折を上記方法によって測定することが一般に困難であるという事実に起因する。
【0020】
具体的には,前述の第一の評価方法における応力光学係数を測定しようとしたときに,粘着剤としての基本特性として当然のことながら粘着性が高く,且つ通常は架橋構造を含んでいるため,溶融紡糸をすることが困難であり,測定試料を準備することが非常に難しい。
【0021】
また前記第二の評価方法においてポリマーの配向度を測定するためには,一般的には赤外線による特定波長の吸収の二色比を測定するが,そのためには数ミクロンから数十ミクロン程度の薄膜を作製する必要がある。粘着剤は,通常非常に柔らかいため,それ単体で形状を保持できず,延伸も難しい。さらに粘着剤は通常ガラス転移温度が室温より低いため,延伸したのちに応力を開放して室温で放置すると,時間と共にポリマー分子の配向度が変化する。これらの理由により,固有複屈折の測定も困難である。
【0022】
前記第三の評価方法における光弾性定数についても,粘着剤が非常に柔らかく,粘弾性体であり,自らの形状を保持することも困難なものであるため,応力を印加した際に基本的に弾性的な挙動を示さず,応力を印加すれば歪みが増大し続け,測定が困難である。仮に測定できるとすれば,粘着剤の中でもかなり硬いタイプのものに限定され,これに周期的な応力を印加し,微少なひずみの範囲で複屈折を測定し,応力との関係を求める方法となると考えられる。
【0023】
この方法の問題点としては,形状が保持できる程度の硬さを有する粘着剤は,粘着力が非常に低く,それゆえ実用的な粘着剤の範疇から外れていることが多いという点が挙げられる。またこのような微少変形下の複屈折は,ポリマー分子の挙動から考えても,前述の「光漏れ」および「ムラ現象」の原因とは本質的に異なり,このような複屈折評価方法に基づいて設計した粘着剤では,光漏れの根本的な解決には至らないと考えられる。・・・(中略)・・・
【0045】
そこで,本発明では,液晶ディスプレイに用いる粘着剤が引き起こす光漏れの抑制,及び光漏れを抑制するためにこれまでに報告されている従来技術の困難性を鋭意検討し,新しい粘着剤の複屈折性評価方法を提供し,さらにその評価方法を用いた粘着剤の設計方法及び製造方法を提供することを課題とする。またこの設計方法又は製造方法を用いて実際に光漏れを抑制することができる粘着剤の提供を課題とする。そして,この粘着剤を用いた偏光板及び液晶表示装置,及びこれらの製造方法を提供することを課題とする。」

イ 【0003】ないし【0007】の記載から,液晶ディスプレイに用いられている偏光板は,液晶ディスプレイの使用中に収縮するため,当該偏光板をガラス基板に貼合する粘着剤に,偏光板の収縮に起因する応力が生じて,当該粘着剤に複屈折が生じ,粘着剤層を通過する偏光の偏光状態が乱されてしまうため,黒を表示すべきところがグレーから白に表示されてしまう「光漏れ」が発生し,その結果,画面内にむらが生じてしまう「ムラ現象」が発生する問題があったことが把握される。
また,【0008】ないし【0023】の記載から,複屈折が生じ難い低複屈折性の粘着剤を開発するには,粘着剤を構成するポリマーの複屈折性を評価することが必要になるが,ポリマーの複屈折性を評価する方法としては,従来,「応力光学係数(stress optical coefficient)」を求める方法と,「固有複屈折(intrinsic birefringence)」を求める方法と,「光弾性定数(photoelastic coefficient)」を求める方法とがあり,これらの方法で測定される複屈折を示す物性値(以下,「複屈折パラメータ」という。)を用いて「ムラ現象」を改善しようとした従来技術が存在していたことが把握される。
さらに,【0019】ないし【0023】の記載から,粘着剤において,「応力光学係数(stress optical coefficient)」,「固有複屈折(intrinsic birefringence)」及び「光弾性定数(photoelastic coefficient)」を測定することには,いずれにも,粘着剤の物性等に起因する困難性があることが把握される。
そして,【0045】の記載から,本願発明(「粘着剤」という物の発明である。)が解決しようとする課題は,「光漏れ」を抑制することができる粘着剤を提供することにあると把握されるところ,【0019】ないし【0023】に記載された従来の複屈折性の評価方法における問題点や,本願発明の各発明特定事項や,【0231】の記載(後述するウ(イ)の記載を参照。)等を参酌すると,前記課題を解決するための手段として,本願発明は,専ら,粘着剤を対象として測定することに困難性のない新しい複屈折評価方法(本願発明の「複屈折値定量的測定方法」)によって測定される「複屈折パラメータ」の絶対値を小さな値(「4×10^(-4)以下」)にするという発明特定事項2を採用したものであって,当該発明特定事項2を実現するためのより具体的な手段として,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーと負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーとの共重合体」を用いるという発明特定事項5を採用したものと理解される。

ウ そこで,発明特定事項2及び5について,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,次の記載がある。
(ア) 「【図面の簡単な説明】
【0101】
・・・(中略)・・・
【図5】ブチルアクリレート/フェノキシエチルアクリレートの比率を変えて合成したポリマーの複屈折の測定結果を示すグラフである。
・・・(中略)・・・
【図10】実施例7の場合におけるAAc濃度と粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。
【図11】実施例8の場合における可塑剤(ベンジルベンゾエート)と粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。
【図12】実施例9の場合におけるtrans-stilbeneと粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。
【図13】実施例10の場合における硬化剤量と粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。」

(イ) 「【0197】
2.これまでの複屈折の定義について
これまでの複屈折の定義およびそれを適用することの難しさについては,背景技術の欄にて説明したとおりである。これらから導かれる結論は,粘着剤の複屈折の定量的な評価はこれまで非常に困難であり,実質的に不可能であったこと,さらに液晶ディスプレイ用の粘着剤の設計に活用できるような測定方法・設計方法はこれまで報告されていないことである。
【0198】
本明細書中で言及した,複屈折の定義に基づく複屈折評価を行った先行文献等は,本明細書中で展開したものと同様な論理で退けられると考える。したがって,本明細書中で提供する粘着剤の複屈折測定方法により測定された複屈折を新たな複屈折(粘着剤固有複屈折)と定義する」ことにより,大変有意義な物性値を知ることができる。
【0199】
3.新しい複屈折の定義について
下記に述べる方法により測定される複屈折を,「粘着剤固有複屈折」と定義する。
【0200】
〔測定方法〕
ガラス転移温度が70℃以上110℃以下程度,厚さは20μm以上100μm以下程度の配向複屈折と光弾性複屈折をほとんど発現しないポリマーフィルムを作製する。
【0201】
このフィルムの貼り合わせる面に被測定試料である粘着剤を塗布する。その後,もう1枚の上記のほとんど複屈折を発現しないポリマーフィルムを貼り合せる。粘着剤層の厚さは20μm以上50μm以下程度とする。
【0202】
次に上記の粘着剤を2枚のポリマーフィルムで挟んだ試料を一軸熱延伸するために,をダンベル状に加工する。
【0203】
ダンベル形状に加工した評価用試料を2枚のポリマーフィルムのガラス転移温度以上(ガラス転移温度+5℃?30℃)に加熱し,延伸速度400%/分,延伸倍率2.0倍で,一軸延伸する。延伸後に直ちに装置より延伸したフィルムを取り出し,室温下に放置して冷却する。約24時間室温下で放置後にフィルム面内のリタデーション(=[複屈折]×[厚さ])を測定する。リタデーション測定後に,評価用試料の被測定部分の粘着剤層の厚さを測定する。先に測定したリタデーションを厚さで割ることにより,複屈折を求める。
【0204】
本明細書中では,上記測定方法により測定された複屈折を粘着剤固有複屈折,上記測定方法を粘着剤固有複屈折測定方法(又は粘着剤固有複屈折測定法)と呼ぶ。」

(ウ) 「【0208】
(諸条件への依存性)
【0209】
■硬化剤(架橋剤という呼び方もあるが,以下,硬化剤という。)の種類
使用する硬化剤によって複屈折効果が異なる。それは硬化剤が形成する架橋構造が種類によって異なり,複屈折性(分極率異方性)が異なること,配向挙動与える影響が異なることなどに起因する。ある組成の粘着剤の粘着剤固有複屈折測定方法における測定値は,その組成の粘着剤の複屈折性を端的に表すものであるため,特に換算する必要はない。しかし,実施例1で述べるような複屈折がほぼゼロの粘着剤を設計するためには,同一の種類の硬化剤を用いて,一連の組成の粘着剤の複屈折を測定する必要がある。
【0210】
■硬化剤濃度
硬化剤濃度によって複屈折効果が異なる。一般に硬化剤濃度が高くなるほど,架橋点の密度が高くなるため,粘着剤固有複屈折の絶対値が大きくなる傾向がある。これらについてもその組成の粘着剤固有複屈折を端的に表すものであるため,特に換算する必要はない。
しかし,実施例1で述べるような複屈折がほぼゼロの粘着剤を設計するためには,同一の濃度の硬化剤を用いて,一連の組成の粘着剤の複屈折を測定する,あるいは粘着剤固有複屈折の硬化剤濃度依存性を解析した上で,比較できるように換算する必要がある。
・・・(中略)・・・
【0227】
2.粘着剤の複屈折に対する設計方法
本発明者らの研究により複屈折の測定方法が確立されたことで,粘着剤を設計する上での各種要素により粘着剤固有複屈折が変化することが分かった。
【0228】
(1)共重合組成
粘着剤ポリマーを構成する繰り返し単位(モノマー)の種類により,粘着剤固有複屈折は異なる。これら複屈折のことなる2種類以上の繰り返し単位(モノマー)の種類と比率を調整することで複屈折が調整できる。これら,粘着剤固有複屈折とモノマーの比率は1次の相関関係にあることが分かった。
・・・(中略)・・・
【0231】
さらに,正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーと負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマーを共重合することで粘着剤固有複屈折がゼロになる粘着剤ポリマーを設計することが出来る。
【0232】
(2)添加剤(添加物)の影響
粘着剤は主ポリマーに各種添加剤(分子中に少なくとも2個の芳香環を有する化合物)を添加して設計するが,この添加剤の種類と量により粘着剤固有複屈折を調整できることが判明した。さらに添加物の添加量に対して粘着剤固有複屈折は1次の相関があることが分かった。
【0233】
図11は,実施例8の場合における可塑剤(ベンジルベンゾエート)と粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。図12は,実施例9の場合におけるtrans-stilbeneと粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。
【0234】
さらに,正または負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーに逆の複屈折を示す化合物を配合することで粘着剤固有複屈折をゼロにすることが出来る。
【0235】
(3)硬化剤の影響
粘着剤固有複屈折は,硬化剤の種類と量によって調整できることが分かった。
【0236】
図13は,実施例10の場合における硬化剤量と粘着剤固有複屈折との関係を示す図である。
さらに,正または負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーに各種硬化剤を配合することで粘着剤固有複屈折をゼロにすることが出来る。」

(エ) 「【0274】
<各種実施例の物性値>
以下,各種実施例の物性値を示す表である。表にある物性値は適宜図示した。
【表B】

【表C】

・・・(中略)・・・
【表E】

【表F】

【表G】

・・・(中略)・・・
【表I】



(オ) 「【0276】
[実施例1]
・・・(中略)・・・
【0284】
<本発明の複屈折評価方法を用いた粘着剤の設計>
【0285】
一般的な粘着剤に用いられるアクリレートの内,ブチルアクリレート(BA),エチルアクリレート(EA),メチルアクリレート(MA),フェノキシエチルアクリレート(PHEA)について,これらの複屈折性を評価した。
【0286】
具体的には,攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中に,BA,EA,MA又はPHEAのいずれかをモノマーとして100質量部,酢酸エチル100質量部,アクリル酸(AAc)とヒドロキシエチルアクリレート(HEA)をモノマー100に対して質量比でそれぞれ1.5および1の比率で添加した。
【0287】
これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,60℃で8時間反応させ,重量平均分子量150万のアクリルポリマーの溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分15質量%のポリマー溶液を得た。更に,下記硬化剤A又は硬化剤Bを配合して粘着剤前駆体溶液とした。
【0288】
(硬化剤)
-硬化剤Aの配合処方-
コロネートL(日本ポリウレタン工業製) :1質量部
アルミキレートA(川研ファインケミカル製) :0.5質量部
KBM-803(信越化学工業社製) :0.1質量部
【0289】
-硬化剤Bの配合処方-
コロネートL :0.1質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学製):0.1質量部
KBM-803 :0.1質量部
【0290】
得られた粘着剤前駆体溶液を,PETで構成されたフィルムセパレータ上に塗布し,そして乾燥し,その後室温で1週間置いて硬化させた。この硬化膜を先に作製したゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムに貼付した。そしてフィルムセパレータを剥がし,剥がした面の前記硬化膜にもう一枚のゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムを貼付した。
【0291】
粘着剤層の厚さは約30μm,それぞれのゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムの厚さは約35μm,全体の厚さは約100μmとした。
【0292】
この積層フィルムを図3に示すダンベル状に加工し,テンシロン汎用試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)により一軸延伸を行った。延伸温度102℃,延伸速度400%/分,延伸倍率2.0倍とした。
【0293】
延伸後の積層フィルムは室温まで冷却し,24時間室温で放置した後に,フィルムに生じたリタデーションを自動複屈折測定装置ABR-10A(ユニオプト(株))を用いて測定した。
【0294】
延伸後のフィルムの中心部分(図3に示した2本のゲージラインで挟まれた領域の中心部分)をエポキシ系接着剤に埋め込んで固めた後,切断・研磨することによってフィルムの断面を出し,粘着剤層の厚さを測定した。測定された複屈折の結果を表1に示す。
【0295】
【表1】

【0296】
表1から,ポリマーの示す複屈折の符号(正負)および絶対値は,硬化剤の種類にも依存することが分かる。また同一延伸条件下における複屈折の大きさは,硬化剤の濃度にも依存することが分かる。
硬化剤Bを用いた場合には,複屈折性が正のアクリレートと負のアクリレートが得られた。よって,正負を組み合わせれば複屈折性を相殺できることが分かる。
【0297】
なお,別途,上記得られた粘着剤のゲル分率を上述の方法によって測定したところ,いずれも65%であった。
【0298】
<BA/PHEAポリマーの合成>
複屈折性が負のブチルアクリレート(BA)と正のフェノキシエチルアクリレート(PHEA)の共重合体を下記方法により合成した。
【0299】
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中に,ブチルアクリレート80質量部,フェノキシエチルアクリレート20質量部,アクリル酸1質量部,アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部および酢酸エチル100質量部を加えた。
【0300】
これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,60℃で8時間反応させ,重量平均分子量150万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分15質量%の共重合体溶液を得た。
【0301】
また,BAとPHEAの配合比を80:20から図5に示す比率に変えて,共重合体溶液を調製した。なお,図5の横軸はBA濃度(質量%)であり,これはBAとPHEAの総量を100質量%としたときの値である。
【0302】
<BA/PHEAポリマーの複屈折の測定>
得られた共重合体溶液に上記処方の硬化剤Bを配合したものを,上記複屈折評価方法で複屈折を測定した。得られた結果を図5に示す。
【0303】
図5から,BA/PHEA=80/20(質量比)において,複屈折がほぼゼロとなっていることがわかる。表1の複屈折値から推定される複屈折がゼロとなる組成比はBA/PHEA=79/21(質量比)であり(-0.54X+1.98(1-X)=0の方程式により,X=約0.79と算出される),本発明の複屈折評価方法を用いた粘着剤の設計値とほぼ同じであった。よって,本発明の複屈折評価方法および低複屈折粘着剤の設計方法・製造方法の有効性が確認された。
【0304】
なお,BA/PHEAポリマーの粘着剤のゲル分率を上述の方法で測定したところ,いずれの配合比率でも,約65%であった。
【0305】
<光漏れの評価>
これらのBA/PHEA共重合系粘着剤の光漏れ抑制効果を以下に述べるような加速試験を行い,評価した。
【0306】
図6に示すように,偏光板とガラス基板との間を,調製したBA/PHEA共重合系粘着剤により貼り合せた。これを恒温槽中で80℃,120時間放置し,続いて23℃で3時間放置した後に,図6のように偏光板が直交位となるように組み合わせ,光漏れを評価した。偏光板は9インチのサイズのものを用いた。
【0307】
図7に光漏れの様子を撮影した写真を示す。共重合組成比に応じて光漏れの様子が異なり,図5に示す複屈折値がゼロに近い組成ほど光漏れが少なかった。本実験が加速試験であることを鑑みると,図5のグラフで示す全範囲において実用上の使用は可能であると思われるが,図7の写真の結果を参酌したより厳しい光漏れ評価においては,BA/PHEA(質量比)=90/10?70/30が好適であり,より好適には85/15?75/25である。特に複屈折がほぼゼロとなったBA/PHEA=80/20(質量比)の時に,最も光漏れが低減した。このことから,本発明の複屈折評価方法および低複屈折粘着剤の設計方法により得られた低複屈折性粘着剤を用いることにより,効果的に光漏れが抑制できることが確認された。
【0308】
これらの結果から実用的に「光漏れ」を抑制するには,ゲル分率が65%の粘着剤の場合には,上記熱延伸の条件で評価して算出した複屈折の絶対値を2×10^(-4)以下とすることが有効であり,厳しい評価条件下では0.5×10^(-4)以下とすることがより有効であり,更には0.3×10^(-4)以下とすることがより有効であることが分かる。
【0309】
[実施例2]
<ゲル分率92%のゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムの作製>
ブチルアクリレート(BA)とメチルアクリレート(MA)の共重合体を下記方法により合成した。
【0310】
攪拌機,温度計,還流冷却機および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中にブチルアクリレート80質量部,メチルアクリレート20質量部,アクリル酸3質量部,アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部および酢酸エチル120質量部を加えた。これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,65℃7時間反応させ,重量平均分子量80万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分30質量%の共重合体溶液を得た。その後,硬化剤Cを配合して粘着剤前駆体溶液143とした。
【0311】
-硬化剤Cの配合処方‐
コロネートL(日本ポリウレタン工業) 2質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学) 0.5質量部
アルミキレートA(川研ファインケミカル) 0.5質量部
KBM-403(信越化学工業製) 0.1質量部
【0312】
また共重合組成および分子量を下記表2に示す比率(質量比)および分子量に変えて粘着剤前駆体溶液149,150及び151を調整した。
【0313】
【表2】
・・・(中略)・・・
【0314】
なお,上記粘着剤のポリマーのゲル分率を上述の方法で測定したところ,いずれの比率,分子量でも92%であった。
【0315】
[実施例3]
<ゲル分率30%のゼロ・ゼロ複屈折ポリマーの合成>
【0316】
攪拌機,温度計,還流冷却機および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中にブチルアクリレート80質量部,メチルアクリレート20質量部,ヒドロキシエチルアクリレート1質量部,アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部および酢酸エチル130質量部を加えた。これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,68℃7時間反応させ,重量平均分子量60万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分35質量%の共重合体溶液を得た。その後,硬化剤Dを配合して粘着剤前駆体溶液とした。
【0317】
-硬化剤Dの配合処方-
タケネートD-110N(三井化学製) 0.1質量部
KBM-803(信越化学工業製) 0.1質量部
【0318】
なお,この粘着剤ポリマーのゲル分率を上述の方法で測定したところ,30%であった。
【0319】
[実施例4]
<ゲル分率2%のゼロ・ゼロ複屈折ポリマーの合成>
【0320】
攪拌機,温度計,還流冷却機および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中にブチルアクリレート100質量部,4ヒドロキシブチルアクリレート0.1質量部,アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部および酢酸エチル150質量部を加えた。これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,68℃5時間反応させ,重量平均分子量40万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分40質量%の共重合体溶液を得た。その後,硬化剤Eを配合して粘着剤前駆体溶液154とした。
【0321】
-硬化剤Eの配合処方-
タケネートD-120N(三井化学製) 0.01質量部
KBM-803(信越化学工業製) 0.1質量部
【0322】
なお,この粘着剤ポリマーのゲル分率を上述の方法で測定したところ,0.2%であった。さらにこの粘着剤ポリマーの複屈折を上述の方法で測定したところ,0.27×10^(-4)であった。
【0323】
[実施例11]
これは,UV硬化粘着剤を利用する実施例である。
【0324】
[共重合体溶液1]
攪拌機,温度計,還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に,窒素ガスを導入して,この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後,この反応装置中に,ブチルアクリレート80部,メチルアクリレート10部,アクリル酸1.5部,N,N-ジメチルメタクリルアミド5部,ヒドロキシエチルアクリレート1部,アゾビスイソブチロニトリル0.1部および酢酸エチル100部を加えた。これを攪拌させながら,窒素ガス気流中において,68℃で8時間反応させ,重量平均分子量150万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分20%の共重合体溶液1を得た。
【0325】
<粘着剤組成物,偏光板の作製および評価>
【0326】
共重合体1の固形分100部に対して,2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(単官能アクリレート)10部,ジ(トリ)アクリロキシエチルイソシアヌレート(多官能アクリレート)20部,β-カルボキシエチルアクリレート(単官能アクリレート)2.9部,2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフォスフィノキサイド(光重合開始剤)0.64部,トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート) 2.7部およびシランカップリング剤(メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー)0.1部を混合した溶液をシリコーン樹脂コートされたPETフィルム上に塗布後,90℃で乾燥することによって溶媒を除去し,厚さ25μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を形成した面に,下記の条件で紫外線架橋させて,厚さ180μmの偏光板(EWV)を貼り合わせた。紫外線硬化条件は,フュージョン社製無電極ランプDバルブ使用して,光量200mJ/cm^(2)の条件で照射を行った。照度,光量計はEIT社製「UVパワーパック」を使用した。
【0327】
上記の方法で得られた実施例粘着剤組成物のゲル分は76%,屈折率は1.483,粘着剤固有複屈折は1.7×10^(-4),変形時の偏光歪は良好であった(○)。」

(カ) 「【図5】

・・・(中略)・・・
【図10】

【図11】

【図12】

【図13】



エ 前記ウ(イ)及び(ウ)で摘記した記載から,次の事項(記載事項1ないし4)が把握される。

記載事項1:発明特定事項5における「粘着剤固有複屈折」とは,従来の複屈折パラメータとは異なる,新しい複屈折パラメータであって,概略,複屈折をほとんど発現しないポリマーフィルム上に測定対象物の層を形成し,これを一軸延伸してリタデーションを測定し,その値を測定対象物の層の厚さで除算することにより得られる数値であること,及び,発明特定事項2における「『複屈折値定量的測定方法』により測定された複屈折」は,当該「粘着剤固有複屈折」において,延伸温度の値,ポリマーフィルムの固有複屈折の値,及び測定対象物の層厚を特定の値に限定したものであること。(【0199】ないし【0204】)

記載事項2:モノマーの種類により「粘着剤固有複屈折」が異なることから,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と,「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」とを適宜の比率で組み合わせて共重合することによって,粘着剤固有複屈折の絶対値が小さい粘着剤ポリマーを得ることができること。(【0228】,【0231】)

記載事項3:粘着剤の粘着剤固有複屈折が,硬化剤の種類及び濃度に依存することから,粘着剤固有複屈折の絶対値が小さい粘着剤を得るためには,同一の種類の硬化剤を用いて,一連の組成の粘着剤の複屈折を測定する必要があり,かつ,同一の濃度の硬化剤を用いて,一連の組成の複屈折を測定するか,粘着剤固有複屈折の濃度依存性を解析した上で,比較できるように換算する必要があること。(【0209】,【0210】,【0235】)

記載事項4:粘着剤ポリマーの「粘着剤固有複屈折」の正負とは逆の複屈折を示す添加剤を適宜の量配合することで,粘着剤の「粘着剤固有複屈折」の絶対値を小さくできること。(【0232】,【0234】)

ここで,記載事項2に関して,主成分となるポリマーが1種類のみの粘着剤は,一般に,架橋点(硬化剤と反応するカルボキシル基やヒドロキシ基等の官能基。本件明細書と同様に「架橋点」と表現する。)を有していないモノマーと,ごく少量の架橋点を有するモノマー(前記ウ(オ)に記載された各実施例ではアクリル酸(AAc)やヒドロキシエチルアクリレート(HEA)等)とを共重合して得られたポリマー(以下,便宜上「架橋前ポリマー」という。)を,さらに硬化剤によって架橋することによって粘着剤の主成分となるポリマー(以下,便宜上「架橋後ポリマー」という。)とし,これに各種添加剤を配合することによって得られるものであり,前記ウ(オ)に記載された各実施例等からみて,記載事項2もそのような粘着剤を想定していると解されるところ,当該記載事項2における「粘着剤ポリマー」が「架橋前ポリマー」及び「架橋後ポリマー」のどちらを指しているのかは,本件明細書の記載からは必ずしも定かでない。しかしながら,請求項1において,粘着剤が発明特定事項2に対応する共重合体である旨の表現を用いていることや,記載事項3からみて「架橋前ポリマー」の「粘着剤固有複屈折」の絶対値を規定することの技術上の意義がさしてないと考えられること等を考慮すると,「粘着剤ポリマー」とは「架橋後ポリマー」を指していると解するのが相当である。また,記載事項2や発明特定事項5における「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」及び「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」中の「ポリマー」についても,これが架橋前ポリマーを指しているのだとすると,たとえ架橋前ポリマーの粘着剤固有複屈折が正(又は負)であったとしても,硬化剤の種類や濃度によっては架橋後に負(又は正)の構造単位として作用することもあって(後述するオの記載事項5を参照。),粘着剤固有複屈折が正の架橋前ポリマーになるモノマーと,負の架橋前ポリマーになるモノマーとを組み合わせることの技術上の意義がさしてないと考えられること等を考慮すると,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」及び「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」は,それぞれ,当該モノマーに,粘着剤において用いる「架橋点を有するモノマー」を粘着剤において配合する量と同一の量配合して共重合し,さらに,粘着剤において用いる硬化剤と同一の硬化剤を,粘着剤における濃度と同一の濃度で用いて,架橋して,架橋後ポリマーとした場合に,当該架橋後ポリマーの「粘着剤固有複屈折」(以下,便宜上当該架橋後ポリマーの粘着剤固有複屈折を「モノマー粘着剤固有複屈折」という。)が正及び負の値となるようなモノマーを指していると解するのが相当である。
しかるに,前記記載事項1ないし4からは,概略,「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度とに対応する各種モノマーにおける「モノマー粘着剤固有複屈折」の正負に基づいて,架橋前ポリマーを構成するモノマー(架橋点を有していないモノマー)の組合せと,用いる「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と,用いる硬化剤の種類及び濃度とを選択し,各架橋点を有していないモノマーにおける「モノマー粘着剤固有複屈折」の絶対値に基づいて,共重合体(架橋前ポリマー)における各モノマーの組成比を決定し,選択した架橋点を有していないモノマーと選択した「架橋点を有するモノマー」とを決定した組成比及び選択した配合量で共重合して,架橋前ポリマーを得,これに選択した硬化剤を選択した濃度で用いて架橋して,架橋後ポリマーとし,さらに,必要に応じて,適宜の添加剤を適宜の量含有させることで「粘着剤固有複屈折」の値を調整するという,「粘着剤固有複屈折」の絶対値の小さな粘着剤の設計方法を理解することができるが,当該設計方法において基礎となる,「『架橋点を有するモノマー』の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度とに対応する各種モノマーにおける『モノマー粘着剤固有複屈折』の正負及び絶対値」や,「各種添加剤の種類や含有量に対応する『粘着剤固有複屈折』の変化の程度」は,記載事項1ないし4自体には開示されておらず,かつ,これらのパラメータが,本件出願の出願時(特許法44条2項の規定により,本件出願は,原出願の出願の時にしたものとみなされる。)に技術常識であったとも認められないから,記載事項1ないし4のみによって,発明特定事項2及び5を具備する粘着剤が実質的に開示されているということはできない。

オ 一方,前記ウ(エ)ないし(カ)で摘記した記載から,次の事項(記載事項5ないし17)が把握される。(なお,【0274】の表Cに示された「実施例3」の硬化剤の種類と,【0315】ないし【0317】に記載されている「実施例3」の硬化剤の種類との間には,齟齬があるが,「硬化剤D」を用いた他の実施例が存在しないことから,表Cに示された「実施例3」の硬化剤の種類は誤記で,正しくは「硬化剤D」であると解しておく。)

記載事項5:粘着剤ポリマー(架橋後ポリマー)の「粘着剤固有複屈折」の絶対値は硬化剤の種類及び濃度に依存して変化し,硬化剤の種類又は濃度が変われば正負の符号が変化することもあること。(【0274】の表G(実施例10-1ないし10-5),【0295】の表1,【0296】,図13)

記載事項6:架橋点を有していないモノマーを100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤Aを用いた場合,ブチルアクリレート(BA),フェノキシエチルアクリレート(PHEA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」はそれぞれ2.17×10^(-4),16.70×10^(-4),3.32×10^(-4)及び6.38×10^(-4)であって,いずれも「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表B(実施例1-1ないし1-4),【0284】ないし【0295】。なお,実施例1-1ないし1-4は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)
【硬化剤Aの配合処方】
コロネートL(日本ポリウレタン工業製) :1質量部
アルミキレートA(川研ファインケミカル製) :0.5質量部
KBM-803(信越化学工業社製) :0.1質量部

記載事項7:架橋点を有していないモノマーを100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤Bを用いた場合,ブチルアクリレート(BA),フェノキシエチルアクリレート(PHEA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」はそれぞれ-0.54×10^(-4),1.98×10^(-4),-0.65×10^(-4)及び-1.06×10^(-4)であって,ブチルアクリレート(BA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)はいずれも「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当し,フェノキシエチルアクリレート(PHEA)は「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表B(実施例1-5ないし1-7,1-13),【0284】ないし【0295】。なお,実施例1-5ないし1-7,1-13は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)
【硬化剤Bの配合処方】
コロネートL :0.1質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学製) :0.1質量部
KBM-803 :0.1質量部

記載事項8:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)及びフェノキシエチルアクリレート(PHEA)を質量比40:60,50:50,60:40,70:30,80:20の合計100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として前記記載事項7の硬化剤Bを用いた場合,各粘着剤の「粘着剤固有複屈折」の値が,【0274】の表Bに示された実施例1-8ないし1-12及び図5に示すとおりであって,いずれも,発明特定事項2を満足しており,かつ,BAとPHEAの質量比が80:20のときに「粘着剤固有複屈折」の値が略ゼロとなること,及び,前記粘着剤は,その「粘着剤固有複屈折」の絶対値が小さいほど,加速試験による光漏れ抑制効果の評価結果が良好であること。(【0274】の表B(実施例1-8ないし1-12),【0298】ないし【0308】,図5。なお,記載事項7によれば,ブチルアクリレート(BA)は「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当し,フェノキシエチルアクリレート(PHEA)は「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すると認められるから,実施例1-8ないし1-12は,本願発明の実施例に該当する。)

記載事項9:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)及びメチルアクリレート(MA)又はブチルアクリレート(BA)及びフェノキシエチルアクリレート(PHEA)を合計100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)3質量部用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤Cを用いた実施例2-1ないし2-4は,いずれも,その「粘着剤固有複屈折」が発明特定事項2を満足していないこと。(【0274】の表C(実施例2-1ないし2-4),【0309】ないし【0314】。なお,実施例2-1ないし2-4は,発明特定事項3についても満足していない。)
【硬化剤Cの配合処方】
コロネートL(日本ポリウレタン工業) :2質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学) :0.5質量部
アルミキレートA(川研ファインケミカル) :0.5質量部
KBM-403(信越化学工業製) :0.1質量部

記載事項10:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)80質量部及びメチルアクリレート(MA)20質量部の合計100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」として4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)1質量部を用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤Dを用いた場合,当該粘着剤の「粘着剤固有複屈折」の値が0.4×10^(-4)であって,発明特定事項2を満足していること。(【0274】の表C(実施例3),【0315】ないし【0318】。なお,ブチルアクリレート(BA)及びメチルアクリレート(MA)が,それぞれ「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」及び「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」のどちらに該当するのかが不明であるから,発明特定事項5を満足するのか否かは不明である。)
【硬化剤Dの配合処方】
タケネートD-110N(三井化学製) :0.1質量部
KBM-803(信越化学工業製) :0.1質量部

記載事項11:架橋点を有していないモノマーを100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」として4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)0.1質量部を用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤Eを用いた場合,ブチルアクリレート(BA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」は0.27×10^(-4)であって,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表C(実施例4),【0319】ないし【0322】。実施例4は,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)
【硬化剤Eの配合処方】
タケネートD-120N(三井化学製) :0.01質量部
KBM-803(信越化学工業製) :0.1質量部

記載事項12:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)90質量部及びメチルアクリレート(MA)10質量部の合計100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)0,0.5,0.8,1,1.18,1.5,2.5又は4質量部用い,硬化剤として記載事項6の硬化剤Aを用いた場合,各粘着剤の「粘着剤固有複屈折」の値がそれぞれ0.09×10^(-4),0.46×10^(-4),0.62×10^(-4),0.69×10^(-4),0.77×10^(-4),1.06×10^(-4),1.69×10^(-4),2.25×10^(-4)であって,いずれも発明特定事項2を満足しており,「架橋点を有するモノマー」であるアクリル酸(AAc)の配合量が大きくなるにつれて「粘着剤固有複屈折」も大きくなること。(【0274】の表E(実施例7-1ないし7-8),図10。なお,ブチルアクリレート(BA)及びメチルアクリレート(MA)が,それぞれ「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」及び「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」のどちらに該当するのかが不明である(記載事項6からは,どちらも「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当する可能性が高い。)から,発明特定事項5を満足するのか否かは不明である。)

記載事項13:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)を100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として記載事項7の硬化剤Bを用いた場合,添加剤としてベンジルベンゾエート又はtrance-stilbeneを配合すると,「粘着剤固有複屈折」の値が,添加剤の配合量を大きくするにつれて大きくなること。(【0274】の表F(実施例8-1ないし8-4,9-1ないし9-4),図11,図12。なお,実施例8-1ないし8-4,9-1ないし9-4は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)

記載事項14:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)を100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)を1.5質量部用い,硬化剤としてコロネートLを10又は20質量部用いた場合,ブチルアクリレート(BA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」はそれぞれ1.06×10^(-4)及び10.5×10^(-4)であって,ブチルアクリレート(BA)はいずれも「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表G(実施例10-1及び10-2),図13。なお,実施例10-1及び10-2は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)

記載事項15:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)を100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)を1.5質量部用い,硬化剤としてK-187を10質量部用いた場合,ブチルアクリレート(BA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」は-0.38×10^(-4)であって,ブチルアクリレート(BA)は「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当し,K-187を20質量部用いた場合,ブチルアクリレート(BA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」は0.76×10^(-4)であって,ブチルアクリレート(BA)は「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表G(実施例10-3及び10-4),図13。なお,実施例10-3及び10-4は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)

記載事項16:ブチルアクリレート80部,メチルアクリレート10部,アクリル酸1.5部,N,N-ジメチルメタクリルアミド5部,ヒドロキシエチルアクリレート1部を共重合して得られる重量平均分子量150万のアクリル共重合体100部に対して,2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート(単官能アクリレート)10部,ジ(トリ)アクリロキシエチルイソシアヌレート(多官能アクリレート)20部,β-カルボキシエチルアクリレート(単官能アクリレート)2.9部,2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフォスフィノキサイド(光重合開始剤)0.64部,トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート) 2.7部およびシランカップリング剤(メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー)0.1部を用いて紫外線架橋して得られる実施例11のUV硬化粘着剤の「粘着剤固有複屈折」が1.7×10^(-4)であって,発明特定事項2を満足すること。(【0323】ないし【0327】。ブチルアクリレート(BA)やメチルアクリレート(MA)が,それぞれ「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」及び「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」のどちらに該当するのかが不明であるから,発明特定事項5を満足するのか否かは不明である。)

記載事項17:架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)を100質量部用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として下記配合処方の硬化剤1ないし3をそれぞれ用いた場合,ブチルアクリレート(BA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」はそれぞれ2.3×10^(-4),8×10^(-4)及び13×10^(-4),であって,ブチルアクリレート(BA)はいずれも「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すること。(【0274】の表I(実施例12-1ないし12-3)。なお,実施例12-1ないし12-3は,いずれも,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体ではないから,本願発明の実施例とはいえない。)
【硬化剤1の配合処方】
コロネートL(日本ポリウレタン工業) :0.64質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学) :0.3質量部
KBM-403(信越化学工業製) :0.06質量部
【硬化剤2の配合処方】
コロネートL(日本ポリウレタン工業) :1質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学) :0.5質量部
KBM-403(信越化学工業製) :0.1質量部
【硬化剤3の配合処方】
コロネートL(日本ポリウレタン工業) :1.3質量部
テトラッドX(三菱瓦斯化学) :0.6質量部
KBM-403(信越化学工業製) :0.13質量部

前記記載事項7及び8からは,架橋点を有していないモノマー100質量部に対して,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として硬化剤Bを用いる場合に,架橋点を有していないモノマーとして,「モノマー粘着剤固有複屈折」が正となるフェノキシエチルアクリレート(PHEA)と,「モノマー粘着剤固有複屈折」が負となるブチルアクリレート(BA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)のうちの少なくともいずれかとを選択し,その配合量を「モノマー粘着剤固有複屈折」から計算される特定の値の近傍に調整することによって得られる,発明特定事項2及び5を満足する粘着剤を把握することができる。
しかしながら,前記記載事項7及び8が開示する「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度以外の場合における,「モノマー粘着剤固有複屈折」が正となるモノマーと,「モノマー粘着剤固有複屈折」が負となるモノマーとの組合せを,前記記載事項5ないし17や本件明細書の発明の詳細な説明の他の記載等から把握することはできないし,当該モノマーの組合せが,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていなくとも,本件出願の出願時の技術常識等に基づいて当業者が把握できる事項であったとも認められない。
そうすると,発明特定事項2及び5を満足する粘着剤について,本件明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されているといえるのは,架橋点を有していないモノマー100質量部に対して,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として硬化剤Bを用いたものであって,架橋点を有していないモノマーとして,フェノキシエチルアクリレート(PHEA)と,ブチルアクリレート(BA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)のうちの少なくともいずれかとを選択した,記載事項8に係る粘着剤,及び当該粘着剤から自明の範囲のものに限られるというべきである。(なお,もし仮に,記載事項10における実施例3や,記載事項12における実施例7-2ないし7-8や,記載事項16における実施例11のブチルアクリレート(BA)及びメチルアクリレート(MA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」の正負の符号が逆であるのだとしても,発明特定事項2及び5を満足する粘着剤について,本件明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されているといえるのは,記載事項8の場合に加えて,これらの記載事項における「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度の場合において,架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)とメチルアクリレート(MA)とを用いた粘着剤,及びこれら粘着剤から自明の範囲のものに止まる。)

(3) 請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載の対比
前記(1)で述べたように,本願発明は発明特定事項1ないし5からなるものであって,「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量,硬化剤の種類及び濃度,並びに,架橋点を有していないモノマーの種類については,何らの限定もされていないところ,前記(2)エ及びオで述べた事項に照らせば,このような本願発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって,本願発明が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。

(4)小括
以上のとおりであるから,特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。


5 当審拒絶理由2(実施可能要件違反)についての判断
本件明細書の発明の詳細な説明の記載から把握できる事項については,前記4(2)エ及びオで認定した記載事項1ないし17のとおりである。
しかるに,発明特定事項2及び5を満足する粘着剤に関して,同一の「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度における「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」の組合せが開示された記載事項8(実施例1-8ないし1-12)に係る粘着剤については,当業者が実施することができると認められる。(なお,もし仮に,記載事項10における実施例3や,記載事項12における実施例7-2ないし7-8や,記載事項16における実施例11のブチルアクリレート(BA)及びメチルアクリレート(MA)の「モノマー粘着剤固有複屈折」の正負の符号が逆であるのだとしても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,当業者が実施することができるのは,記載事項8の場合に加えて,これらの記載事項における「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度の場合において,架橋点を有していないモノマーとして,ブチルアクリレート(BA)とメチルアクリレート(MA)とを用いた粘着剤,及びこれら粘着剤から自明の範囲のものに止まる。)
しかしながら,それ以外の粘着剤について,発明特定事項2及び5を満足させるためには,ゲル分率が発明特定事項3及び4を満足させることが可能な「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と硬化剤の種類及び濃度の候補を選定した上で,これらの条件下での各種モノマーの「モノマー粘着剤固有複屈折」の値を測定して,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」とが存在するかどうかを確認し,存在した場合に,当該「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と,硬化剤の種類及び濃度と,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」の組合せとを用いて,前記4(2)エで述べた設計方法によって,粘着剤を設計するといった,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等が必要となることは明らかである。
すなわち,本願発明のうちごく一部の範囲である,架橋点を有していないモノマー100質量部に対して,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸(AAc)1.5質量部及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA)1質量部を用い,硬化剤として硬化剤Bを用いたものであって,架橋点を有していないモノマーとして,フェノキシエチルアクリレート(PHEA)と,ブチルアクリレート(BA),エチルアクリレート(EA)及びメチルアクリレート(MA)の少なくともいずれかとを選択した粘着剤,及び当該粘着剤から自明の範囲のものについては,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,当業者が実施をすることができるとしても,本願発明のうちの大半の部分である前記以外の粘着剤については,たとえ当業者といえども,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や本件出願の出願時の技術常識に基づいて,当業者が実施をすることができるとはいえない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと認めることはできない。
以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


6 当審拒絶理由3(新規性進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由3で引用された引用文献1(特開2008-144126号公報)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線部は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項1】
アクリレート系高分子を少なくとも一種,および正の固有複屈折を有する架橋剤を少なくとも一種含有する粘着剤であって,前記正の固有複屈折を有する架橋剤が,前記アクリレート系高分子に対し,2?30質量%含まれていることを特徴するアクリレート系粘着剤。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
更に,正の固有複屈折を有する化合物を少なくとも一種含有する請求項1?6のうちいずれか一項に記載のアクリレート系粘着剤。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
前記アクリレート系高分子の少なくとも一種が,単独で正の固有複屈折を有するモノマーを少なくとも一種と,単独で負の固有複屈折を有するアクリレート系モノマーを少なくとも一種と,架橋部位を有するモノマーを少なくとも一種と,を含有する組成物から形成されている請求項1?8のうちいずれか一項に記載のアクリレート系粘着剤。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,アクリレート系粘着剤ならびにそれを用いた偏光板および液晶表示装置に関し,詳しくは,偏光板等に用いた際に,偏光板等の光学特性を経時的に安定に保つことができるアクリレート系粘着剤およびこれを使用して製造された偏光板および液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近,液晶表示装置(以下,LCD)が,薄型で,軽量であり,また消費電力が小さいことからCRTの代わりに広く使用されるようになっている。偏光板は,LCDの普及に伴いその需要が急増している。・・・(中略)・・・表示装置は,常時長時間に亘って使用状態にあることが多いので,偏光板は,長期使用でもLCDの画像品質が劣化しないような,長期の耐久性が要求されるようになってきた。
【0003】
・・・(中略)・・・このような液晶セルに用いられる偏光板は,高温高湿条件下で処理すると,偏光板に生ずる内部応力によって偏光板周縁部の吸収軸にゆがみが生じ,光の透過率が変化し,光漏れ現象が発生しやすい。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
・・・(中略)・・・
【0007】
そこで,本発明の目的は,温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れ,および偏光板の剥離を改善することが可能な粘着剤,ならびにそれを用いた偏光板および液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記課題を解決すべく鋭意検討した結果,アクリレート系粘着剤に,ベースポリマーに対し,正の固有複屈折を有する架橋剤を2?30質量%添加することにより,粘着剤の歪により発生するレタデーションを経時的にコントロールし,かつ,偏光板の剥離も抑制できることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)アクリレート系高分子を少なくとも一種,および正の固有複屈折を有する架橋剤を少なくとも一種含有する粘着剤であって,前記正の固有複屈折を有する架橋剤が,前記アクリレート系高分子に対し,2?30質量%含まれていることを特徴するアクリレート系粘着剤。
・・・(中略)・・・
(7)更に,正の固有複屈折を有する化合物を少なくとも一種含有する(1)?(6)のうちいずれか一項に記載のアクリレート系粘着剤。
・・・(中略)・・・
(9)前記アクリレート系高分子の少なくとも一種が,単独で正の固有複屈折を有するモノマーを少なくとも一種と,単独で負の固有複屈折を有するアクリレート系モノマーを少なくとも一種と,架橋部位を有するモノマーを少なくとも一種と,を含有する組成物から形成されている(1)?(8)のうちいずれか一項に記載のアクリレート系粘着剤。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着剤を用い,粘着剤層を形成することにより,所望の光弾性係数を有する粘着剤層を得ることができ,また,当該粘着剤層を有する本発明の偏光板は経時的に光漏れを防止し,かつ,偏光板の剥がれを抑制することができる。」


(ウ) 「【0011】
本発明のアクリレート系粘着剤は,アクリレート系高分子を少なくとも一種,および正の固有複屈折を有する架橋剤を少なくとも一種含有する粘着剤であって,前記正の固有複屈折を有する架橋剤が,前記アクリレート系高分子に対し,2?30質量%含まれていることを特徴するものである。従来のアクリレート系接着剤のベースポリマーであるアクリレート共重合体は負の光弾性係数を有する。これにより,粘着剤層の歪みが生じた際にレタデーションが発生し,光漏れ等が生じる。本発明は,ベースポリマーに対し,少なくとも一種の正の固有複屈折を有する架橋剤を2?30質量%含有させることにより,粘着剤層の歪により発生するレタデーションを,コントロールし,かつ,光漏れを防止するものである。なお,架橋剤により発生するレタデーションをコントロールするために,特許文献2に記載されているように,別途,正の固有複屈折を有する化合物を添加した際に生じる偏光板の剥がれを防止することができる。従来のアクリレート系粘着剤には,耐久性および接着力等の性能を保つため1%以上の架橋剤は添加されていない。また,粘着剤の光弾性係数をコントロールするという考え方はこれまで一般的でなかったため,粘着剤層の光弾性係数をコントロールする添加物をして,架橋剤を使用することはまったくこれまでの通常の理論の範疇から外れていた。
【0012】
粘着剤としては,光学的透明性に優れ,適宜な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して,耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく使用される。このような特徴を示すものとしてアクリレート系粘着剤が知られおり,本発明の粘着剤は,アクリレート系粘着剤であり,アクリレート系高分子(アクリレート系モノマーを含有する組成物から形成された共重合体)を必須の成分とするものである。アクリレート系高分子は,(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマーユニットを主骨格とするアクリレート系ポリマーをベースポリマーとするものである。なお,(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルをいい,本発明の(メタ)とは同様の意味である。なお,一般的に使用されているアクリレート系高分子であれば,特に制限されるものではなく,アクリレート系ポリマーの主骨格を構成する,(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては,例えば,(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸ブチル等を例示できる。これらは,一般的にアクリレート系粘着剤に使用されており,これらのモノマーは通常,25℃60%において,負の固有複屈折を有しており,それらモノマーから形成されるアクリレート系高分子は,負の光弾性係数を有する。
【0013】
本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤の種類,および量を調整することにより,接着剤層の光弾性係数を所望のものとすることができる。例えば,粘着剤層の光弾性係数の数値を大きくする場合には,正の固有複屈折を有する架橋剤の固有複屈折の絶対値が大きいものを使用する,または,添加量を増やす等により調整可能であり,逆に,粘着剤層の光弾性係数の数値を小さくする場合には,正の固有複屈折を有する架橋剤の固有複屈折の絶対が小さいものを使用する,またはて添加量を減らす等により調整可能である。
【0014】
なお,固有複屈折とは,分子構造に依存した固有の複屈折であり,分子内の分極率の異方性により生ずる。また,マクロな複屈折の大きさは固有の複屈折と分子の配向に支配される。配向が全くランダムであれば単一分子の固有複屈折が大きい場合にも巨視的な複屈折はゼロとなる。正の固有複屈折とは分子の延伸方向(液晶等の場合にはラビング方向)に対して同じ方向に遅相軸ができるものであり,負の固有複屈折とは垂直方向に遅相軸ができるものである。測定方法は,各組成物単独のサンプルを,環境温湿度25℃60%において偏光顕微鏡を用い鋭敏色板を通して観察した時の色変化に遅相軸の決定を行い,ポリマーの場合には延伸またはせん断力を加えた時の遅相軸方向,低分子の液晶等の場合にはポリビニルアルコール表面をアクリル毛でラビングしその上に配向させた場合の遅相軸方向より決定できる。なお,本発明において,本発明に係る単独で正の固有複屈折を有するモノマーおよび単独で負の固有複屈折を有するアクリレート系モノマー,それぞれの固有複屈の数値は厳密に特定しなくとも,適宜,上記記載の方法により,粘着剤層を所望の光弾性係数に調整することができる。
【0015】
また,光弾性係数とは,応力(σ)をかけたときに発生する複屈折(Δn)で定義され,以下のように表すことができる。
【0016】
光弾性係数(C)=Δn/σ 式(1-1)
厚み方向の光弾性係数(Cth)=Δnth/σ 式(1-2)
【0017】
なお,本明細書において,別途説明がある場合を除き,面内方向の光弾性係数の測定法は以下のように行われたものである。25℃60%の環境において日本分光製エリプソメーターM-220を用い,2cm角のサンプルに0?10Nの範囲で引っ張り力をかけることにより(測定波長は630nm),測定を行う。サンプルが変形により荷重面積が変化した場合には面積の補正を行い正確な応力を算出する。
・・・(中略)・・・
【0023】
本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤は,特に制限されるものではなく,粘着剤に配合できる多官能化合物としては,有機系架橋剤や多官能性金属キレートがあげられる。有機系架橋剤としては,エポキシ系架橋剤,イソシアネート系架橋剤,イミン系架橋剤,過酸化物系架橋剤,などがあげられる。これら架橋剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。・・・(中略)・・・
【0024】
本発明では,これら架橋剤の少なくとも1種が正の固有複屈折を持つ事を特徴とする。
架橋剤は正の固有複屈折を持てばどのようなものでもかまわないが,芳香族系であることが少量添加で効果を発揮することが出来るため好ましい。なお,芳香環は,芳香族炭化水素を好適に使用することができる。また,該芳香族系化合物のπ共役系が大きい,または多いものが好ましい。後者の観点より,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤は芳香環を2つ以上持つことが好ましい。例えば,ナフタレン環,アントラセン環を持つものやベンゼン環を多く持つものが好ましい。ここで,ベンゼン環等の芳香環を複数有する場合には,該複数の芳香環が,直接連結または縮合されていることが,好ましい。当該観点より,ナフタレン環またはビフェニル構造を有するものが好ましい。更に,芳香族系の場合には,芳香族性が高いものが好ましい。芳香族性の目安としてはトポロジカル共鳴エネルギー(TRE)があり,このエネルギーが高いほど芳香族性が高いことを示す。TREの計算方法はJ.Aihara,J.Am.Chem.Soc.,2048,99(7)(1999)に記載されている。この観点より,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤は,ベンゼン環,ナフタレン環またはビフェニル構造を有するものが好ましく,ベンゼン,ナフタレン,ビフェニルのTRE値はそれぞれ0.273,0.389,0.502であり,この順に芳香族性が高いことになる。効果の観点からは,ナフタレン環またはビフェニル構造を有するものが好ましく,コストの面からはベンゼン環を有するものが好ましい。好ましい架橋剤としては,1,6‐ナフタレンジイルジイソシアナート,(1,3,5‐ベンゼントリイル)トリス(4,1‐フェニレン)トリスイソシアナート,トリレンジイソシアネート,またはこれらのポリマーがあげられる。更にまた,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤は,液晶性であることが好ましい。液晶性を有することにより,正の固有複屈折を有する架橋剤の配向性が向上し,効率的に粘着剤層の光弾性係数を大きくすることができると推定される。
【0025】
本発明の粘着剤において,アクリレート系高分子(ベースポリマー)の総量に対し,正の固有複屈折を有する架橋剤(二種以上ある場合にはその総量)を2?30質量%添加するものであるが,好ましくは,3?20質量%,より好ましくは,5?20質量%である。本発明に係る架橋剤は,芳香環を二つ以上含んだものが好ましい。例えば,日本ウレタン製コロネートL,ミリオネートMR,ミリオネートMTなどが好ましく用いられる。また,架橋剤が高分子であることも好ましい。
【0026】
本発明では,架橋剤を多量に添加するため,架橋反応が進みすぎて粘着剤の緩和性の低減を防止することが好ましい。この方法としては,後に詳述する本発明に係るアクリレート系高分子の少なくとも一種が,架橋部位を有するモノマー成分を含有する組成物から形成され,該組成物中,該架橋部位を有するモノマー成分が,モノマー成分全体に対して,好ましくは0.1?5質量%,より好ましくは0.1?2質量%,更に好ましくは0.1?1質量%と設定することにより達成することができる。・・・(中略)・・・
【0027】
本発明に係るアクリレート系高分子の少なくとも一種が,単独で正の固有複屈折を有するモノマーを少なくとも一種と,単独で負の固有複屈折を有するアクリレート系モノマーを少なくとも一種と,架橋部位を有するモノマーを少なくとも一種と,を含有する組成物から形成されていることが好ましい。なお,単独で負の固有複屈折を有するアクリレート系モノマーとは,従来のアクリレート系高分子に使用されているモノマーが該当し,好適なものも前記したものと同様である。更に,単独で正の固有複屈折を有するモノマーを使用することにより,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤と同様に,粘着剤層の光弾性係数を調整することが可能となる。また,共重合させることにより,特許文献2に記載されているように,別途,正の固有複屈折を有する化合物を添加した際に生じる偏光板の剥がれを防止することもできる。
【0028】
また,単独で正の固有複屈折を有するモノマーとしては,特に制限をされるものではないが,負の固有複屈折と有するモノマーと同様に,アクリレート系モノマーが好ましい。当該アクリレート系モノマーとしてはエステルのアルコール成分部分にフッ素原子を含む側鎖を有する化合物等を好適に挙げることができる。例えば,メタクリル酸フルオロヘキシルが挙げられる。また,主鎖に共役系等の動きやすい電子を持つことが好ましい。また,液晶性であったり,芳香環を少なくとも1つ有することが好ましい。当該置換基を有する場合には,高分子とした際に,主鎖に対し直接ではなく,sp3結合等の結合軸周りの回転の許された結合を介して芳香環が結合される化合物が好ましく用いられる。芳香環としては,特に制限されるものではないが,ベンゼン,ナフタレン等を挙げることができる。芳香族系の場合には,芳香族性が高いものが好ましい。たとえば,ベンジルアクリレート,フェキシエチルアクリレート,N-置換マレイミド(シクロヘキシルマレイミド等)および下記に示した様な化合物があげられる。
・・・(中略)・・・
【0035】
架橋部位を有するモノマーの架橋部位は,架橋剤との反応点となる。架橋部位を有するモノマーは,特に制限されるものではなく,従来のアクリレート系粘着剤のベースポリマーに使用されるものを好適に使用することができる。光学フィルム用途として液晶セルへの接着性,耐久性の点から,α,β-不飽和カルボン酸含有モノマーを好適に挙げられる。例えば,アクリル酸が好適に用いられる。・・・(中略)・・・
【0036】
なお,組成物中,単独で正の固有複屈折を有するモノマーと,単独で負の固有複屈折を有するモノマーとの比は,用いるモノマーの種類および所望の光弾性係数により,適宜,選択することになるが,単独で正の固有複屈折を有するモノマーの総量は,前記単独で負の固有複屈折を有するモノマーの総量に対し,好ましくは,0.5?30質量%,より好ましくは1?20質量%,更に好ましくは1?10質量%である。また,架橋部位を有するモノマーの含有量は特に制限されるものではないが,モノマー成分全体に対して,好ましくは0.1?5質量%,より好ましくは0.1?2質量%,更に好ましくは0.1?1質量%である。0.01未満となると接着力向上効果が低下するおそれがある。
【0037】
アクリレート系高分子の平均分子量は特に制限されないが,重量平均分子量は,30万?250万程度であるのが好ましい。前記アクリレート系ポリマーの製造は,各種公知の手法により製造でき,たとえば,バルク重合法,溶液重合法,懸濁重合法等のラジカル重合法を適宜選択できる。ラジカル重合開始剤としては,アゾ系,過酸化物系の各種公知のものを使用できる。反応温度は通常50?80℃程度,反応時間は1?8時間とされる。また,前記製造法の中でも溶液重合法が好ましく,アクリレート系ポリマーの溶媒としては一般に酢酸エチル,トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20?80重量%程度とされる。
【0038】
また,粘着剤層の光弾性係数を調整する際に,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤および上記共重合体だけでなく,アクリレート系粘着剤に,更に,正の固有複屈折を有する化合物を少なくとも一種含有させることによって行うこともできる。また,更に,負の固有複屈折を有する化合物を少なくとも一種含有させることによって行うこともできる。なお,単独で正の固有複屈折を有する化合物を添加し調整することが好ましい。これにより,粘着剤層を所望の光弾性係数の調整を容易に行うことができる。例えば,本発明に係る正の固有複屈折を有する架橋剤(適宜,上記共重合体も使用する)により,粘着剤層の光弾性係数を所望の値に大まかに近づけ,更に,固有複屈折を有する化合物を添加し微調整を行う方法等を挙げることができる。これにより,例えば,正の固有複屈折を有する化合物の添加量は,少量ですみ,偏光板の剥離も抑制することが可能となる。
【0039】
単独で正の固有複屈折を有する化合物としては,特に制限されるものではないが,棒状液晶化合物等が有効である。さらに,芳香族系の場合には,芳香族性が高いものが好ましい。また,上記正の固有複屈折を有するモノマーを単独で正の固有複屈折を有する化合物として使用こともできる。なお,固有複屈折を有する化合物は,有機分子である必要はなく,無機物,有機無機複合体であっても問題ない。以下,単独で正の固有複屈折を有する化合物に関し,具体例を以下に示す。下記化合物は液晶性化合物であり,LC-1およびLC-2は,前記正の固有複屈折を有するモノマーとしても使用することができる。
【0040】
【化3】

・・・(中略)・・・
【0044】
さらには,本発明の粘着剤には,必要に応じて,粘着付与剤,可塑剤,ガラス繊維,ガラスビーズ,金属粉,その他の無機粉末等からなる充填剤,顔料,着色剤,充填剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,シランカップリング剤等を,本発明の目的を逸脱しない範囲で各種の添加剤を適宜に使用することもできる。また,微粒子を含有して光拡散性を示す粘着剤層などとしてもよい。
【0045】
添加剤としては,シランカップリング剤が好適であり,ベースポリマー(固形分)100重量部に対して,シランカップリング剤(固形分)0.001?10重量部程度が好ましく,さらには0.005?5重量部程度を配合するのが好ましい。シランカップリング剤としては,従来から知られているものを特に制限なく使用できる。たとえば,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・(中略)・・・を例示できる。
・・・(中略)・・・
【0047】
本発明の粘着剤のゲル分率は,好ましくは,70%以上90%以下,より好ましくは,80%以上90%以下である。ゲル分率が当該範囲より小さいと,耐久性試験後の偏光板のズレ量が大きくなり光漏れも大きくなるおそれがあり,一方,当該範囲を超えると適当な緩和性および接着性が得られなくなるおそれがある。架橋部位を有さないアクリレート系ポリマーを添加することにより,ゲル分率を下げることができ,ゲル分率の調整が可能となる。なお,ゲル分率の測定方法は,粘着剤バルクを取り出して重量(w1)を測定し,酢酸エチル中に1日放置する。次いで,酢酸エチルに不溶のポリマー(ゲル分)を取り出し,100℃のオーブンで2時間乾燥させ,残った固形分の重量(w2)を測定し,下記式により算出することができる。
ゲル分率(%)=(w2/w1)×100
・・・(中略)・・・
【0052】
粘着剤層のTgは,-40℃≦Tg≦-10℃が好ましい。-40℃以下であると耐久性試験後の偏光板のズレ量が大きくなり光漏れも大きくなるおそれがあり,一方,-10℃以上であるとヒートショック等の耐久性試験での剥がれ等の原因となる。」

(エ) 「【実施例】
【0090】
以下の手順に従い,本発明に係るアクリレート系ポリマーを調整した。
冷却管,窒素導入管,温度計及び撹拌装置を備えた反応容器に,アクリル酸ブチル100部,アクリル酸3部,2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて固形分濃度30%とし窒素ガス気流下,60℃で4時間反応させ,アクリレート系重合体(A1)溶液を得た。また,A1と同様の操作にて,下記表1に示すアクリレート系ポリマー(A2?A8)を調整した。また,得られたアクリレート系ポリマーの固有複屈折は以下の方法により測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0091】
(アクリレート系ポリマーの固有複屈折の測定)
それぞれの単独膜を作成し,それぞれの膜に25℃60%で延伸力(アクリル酸の場合)またはガラス板に挟みせん断(ブチルアクリレート,ベンジルアクリレート,2-ヒドロキエチルメタクリレート)を加えたサンプルを用い,クロスニコルに設定した偏光顕微鏡で5倍の倍率で観察し,顕微鏡備え付けの鋭敏色板を通して観察し,その色変化より固有複屈折の正負を決定した。
【0092】
【表1】

【0093】
次に得られたアクリレート系ポリマーを,以下の手順に従い,本発明のアクリレート系粘着剤を作製した。
アクリレート系ポリマー固形分100部あたり2部のトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,コロネートL),3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1部,を加えシリコーン系剥離剤で表面処理したセパレートフィルムにダイコーターを用いて塗布し150℃で3時間乾燥させ,アクリレート系粘着剤を得た。アクリレート系粘着剤の組成を下記表2に示す。また,架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン)は,二つ以上の芳香環を持つ架橋剤であり,ALCH-TR(川研)はアルミキレートであり,コロネート1130(日本ポリウレタン)は高分子系架橋剤である。
【0094】
コロネートL
【0095】
【化5】

【0096】
ゲル分率,固有複屈折および光弾性係数を以下の方法により測定した。表2に併せて示す。
(ゲル分率の測定)
粘着剤バルクを取り出して重量(w1)を測定し,酢酸エチル中に1日放置する。次いで,酢酸エチルに不溶のポリマー(ゲル分)を取り出し,100℃のオーブンで2時間乾燥させ,残った固形分の重量(w2)を測定する。ゲル分率は,次の式で算出する。
ゲル分率(%)=(w2/w1)×100
(LC3の固有複屈折の測定)
LC3の場合にはアクリル毛でラビングしたPVA上に配向させたサンプルをクロスニコルに設定した偏光顕微鏡で5倍の倍率で観察し,顕微鏡備え付けの鋭敏色板を通して観察し,その色変化より固有複屈折の正負を決定した。
(光弾性係数の測定)
25℃60%の環境温湿度において日本分光製エリプソメーターM-220を用い厚み0.5μm,2cm角の粘着剤サンプルに両端部より0?10Nの範囲で引っ張り力をかけることにより波長630nmにおいて測定した。サンプルが変形により荷重面積が変化した場合には変形量をメジャーで測定し面積の補正を行い正確な応力を算出した。
【0097】
【表2】

【0098】
以下の手順に従い,本発明の液晶表示装置(評価用TV)を作製した。
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部,沃化カリウム2質量部,ホウ酸4質量部を含む水溶液に浸漬し,50℃で4倍に延伸し,偏光子を作製した。また,偏光板保護フィルムには,市販のWVフィルム(富士フイルム(株)製),WVBZ438フィルム(富士フイルム(株)製),Z-TACフィルム(富士フイルム(株)製),TD80(富士フイルム(株)製),TF80(富士フイルム(株)製)を使用した。
VAモードについてはLC-26GD3(シャープ(株)製),IPSモードについては32LC100(東芝(株)製),TNモードについてはMRT-191S(三菱電機(株)製)を購入し,それぞれの偏光板を剥離し評価用TVとした。
【0099】
(VAモード評価用偏光板の作製)
TD80を,濃度1.5モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後,水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後,濃度0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後,水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。TF80についても同様の処理を行った。得られた鹸化処理を行ったタックフィルムを,偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せ光学フィルムを作製した。次いで,粘着剤を光学フィルムの表面に,TD80/偏光子/TF80/粘着剤/セパレーターの順になるよう粘着剤層を貼合した後25℃,60%RHで7日間熟成させ偏光板を作製した。得られた偏光板をフロント偏光板として用いた。リア偏光板は,TF80をWVBZ438に変更したこと以外は,フロント偏光板と同様にして偏光板を作製した。使用した粘着剤を下記表3に示す。
【0100】
(IPSモード評価用偏光板の作製)
フロント偏光板の作製は,TF80に代えてZ-TACフィルムを使用したこと以外はVAモードと同様にして行い,リア偏光板の作製は,WVBZ438に代えてZ-TACフィルムを使用したこと以外はVAモードのと同様にして行った。
【0101】
(TNモード評価用偏光板の作製)
フロント偏光板の作製は,TF80に代えてWVフィルムを使用したこと以外はVAモードと同様にして行い,リア偏光板の作製は,WVBZ438に代えてWVフィルムを使用したこと以外はVAモードのと同様にして行った。
【0102】
得られた評価用偏光板を用い,以下の方法により,光漏れの評価を行った。
作製した偏光板をそれぞれの画面サイズにカットし,パネル周辺に対して偏光板の透過軸がTNモードについてはフロントが45°,リアが135°,VAモードとIPSモードについてはフロントが0°,リアが90°となるように,偏光板の吸収軸が裏表で直交するようパネルの両面に貼り付け,50℃ ,0.5MPaの圧力で30分間オートクレーブ処理を行った。表3には偏光板貼り付け位置をパネル周辺4辺(a,b,c,d:図2と同義)よりの距離および中心ズレ位置を示した。その後,80℃dryまたは60℃90%RHにて,1000時間処理評価用サンプルを得た。サンプルを25℃60%に24時間保管した後,周辺の光漏れの有無を目視にて観察評価した。評価基準を以下に示す。また,湿熱処理後の偏光板の剥がれ状態を観察した。得られた結果を下記表3に示す。なお,湿熱処理前の光漏れはどのサンプルも問題なく評価は「5」のレベルであった。
【0103】
(評価基準)
5:光漏れの発生が認められなかった場合
4:光漏れの発生がわずかに認められるが実用上問題のない場合
3:光漏れの発生が弱く認められるが実用上問題のない場合
2:光漏れの発生が強く認められるが実用上問題のない場合
1:実用上問題のあるレベルで光漏れの発生が認められた場合
【0104】
【表3】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(エ)で摘記した記載中の【0097】の表2に,「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」の項目は存在しないものの,各粘着剤を得るに際して,アクリレート系重合体溶液に,前記表2に示された各架橋剤とともに,シランカップリング剤として固形分100質量部あたり0.1質量部の「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」を0.1質量部添加していることは,【0093】の記載から明らかであるから,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載を含む引用文献1の全記載から,引用文献1に,実施例6に係る粘着剤6として,次の発明が記載されていると認められる。

「単独で正の固有複屈折を有するモノマーであるベンジルアクリレート0.5質量部と,単独で負の固有複屈折を有するモノマーであるブチルアクリレート100質量部と,架橋部位を有するとともに単独で負の固有複屈折を有するモノマーであるアクリル酸2.0質量部と,ラジカル重合開始剤である2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.3質量部とを酢酸エチルと共に加えて固形分濃度30%とし,窒素ガス気流下60℃で4時間反応させて,アクリレート系重合体(A2)溶液を得,
当該アクリレート系重合体(A2)溶液に,正の固有複屈折を有する架橋剤として固形分100質量部あたり2質量部のトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,コロネートL)と,シランカップリング剤として固形分100質量部あたり0.1質量部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと,単独で正の固有複屈折を有する液晶性化合物として固形分100質量部あたり2質量部の下記構造式で表されるLC-3とを加え,シリコーン系剥離剤で表面処理したセパレートフィルムにダイコーターを用いて塗布し,150℃で3時間乾燥させることによって得られる粘着剤6であって,
ゲル分率が80%であり,光弾性係数がゼロ(10^(-12)×Pa^(-1))であり,当該粘着剤6を用いて,偏光板をその吸収軸が裏表で直交するようパネルの両面に貼り付け,50℃ ,0.5MPaの圧力で30分間オートクレーブ処理を行い,その後,80℃dry又は60℃90%RHにて1000時間処理を行い,25℃60%に24時間保管した後,周辺の光漏れの有無を目視にて観察評価した結果が,いずれも,光漏れの発生が認められないと評価される,
粘着剤6。

【LC-3の構造式】

」(以下,当該発明を「引用発明」という。)

(2)対比
引用発明のアクリレート系重合体(A2)は,単独で正の固有複屈折を有するモノマーであるベンジルアクリレートと,単独で負の固有複屈折を有するモノマーであるブチルアクリレートと,架橋部位(本件明細書に記載された「架橋点」と同義である。)を有するとともに単独で負の固有複屈折を有するモノマーであるアクリル酸とを共重合したものであり,引用発明の粘着剤6は,これを架橋剤(本件明細書に記載された「硬化剤」と同義である。)であるトリメチロールプロパントリレンジイソシアネートによって架橋したものであるから,引用発明は,本願発明と,「複数のモノマーの共重合体である粘着剤」である点で共通する。
したがって,本願発明と引用発明は,
「複数のモノマーの共重合体である粘着剤。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本願発明が,「固有複屈折が絶対値で1×10^(-3)以下であるポリマーフィルムを支持体として,該支持体に厚さ25μmの粘着剤を付与した積層フィルムを熱延伸する工程と,熱延伸した後の積層フィルムのリタデーションを測定する工程と,前記粘着剤の層の厚さを測定する工程と,を有し,前記リタデーションを前記厚さで割った値を前記粘着剤の複屈折とする」という「複屈折値定量的測定方法」において熱延伸を,延伸温度102℃,延伸速度400%/分,延伸倍率2倍で行ったときに測定される複屈折の絶対値が4×10^(-4)以下であるのに対して,
引用発明は,光弾性係数がゼロ(10^(-12)×Pa^(-1))であるものの,本願発明における熱延伸条件での「複屈折値定量的測定方法」により測定される複屈折の値は定かでない点。

相違点2:
本願発明のゲル分率が,0.1%以上80%未満であるのに対して,
引用発明のゲル分率は,80%である点。

相違点3:
本願発明のガラス転移温度が,23℃に比べて低いのに対して,
引用発明のガラス転移温度は,定かでない点。

相違点4:
本願発明が,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」との共重合体であるのに対して,
引用発明は,「単独で正の固有複屈折を有するモノマー」であるベンジルアクリレートと,「単独で負の固有複屈折を有するモノマー」であるブチルアクリレートの共重合体であるものの,ベンジルアクリレートとブチルアクリレートの組合せが,「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」と「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」の組合せに該当するのか否かが定かでない点。

(3)相違点1について
引用発明は,光弾性係数がゼロ(10^(-12)×Pa^(-1))であって,当該引用発明を用いて,偏光板をその吸収軸が裏表で直交するようパネルの両面に貼り付け,50℃ ,0.5MPaの圧力で30分間オートクレーブ処理を行い,その後,80℃dry又は60℃90%RHにて1000時間処理を行い,25℃60%に24時間保管した後,周辺の光漏れの有無を目視にて観察評価した結果が,いずれも,光漏れの発生が認められないと評価されるような粘着剤である。
しかるに,光弾性係数がゼロ(10^(-12)×Pa^(-1))であるとは,応力が加わっても,複屈折が生じないことを表しており,光漏れの評価結果もそれを示しているところ,このような引用発明において,相違点1に係る本願発明の「複屈折値定量的測定方法」において熱延伸を,延伸温度102℃,延伸速度400%/分,延伸倍率2倍で行ったときに測定される複屈折の値が,略ゼロとなることは明らかであって,その絶対値が4×10^(-4)を超えることなど技術常識からみて考えられない。
したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。

(4)相違点2について
引用文献1の【0047】には,ゲル分率の好ましい範囲として,70%以上90%以下という範囲が記載され,【0097】の表2には,ゲル分率がそれぞれ70%及び75%である実施例2に係る粘着剤2及び実施例3に係る粘着剤3が示されている。
そうすると,引用発明において,そのゲル分率を70%以上80%未満という範囲内に調整することは,当業者が適宜行う設計変更にすぎないというべきである。
したがって,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,単なる設計変更にすぎない。

(5)相違点3について
引用文献1の【0052】には,粘着剤層のTgの好ましい範囲として,-40℃≦Tg≦-10℃という範囲が記載されており,引用文献1には,Tgについての他の範囲は記載も示唆もないところ,引用発明のTgは,当該好ましいとされた-40℃以上-10℃以下という範囲内に調整されていると解するのが自然である。
また,仮にそうとまで断定できないとした場合でも,少なくとも,引用発明のTgを,前記好ましいとされた-40℃以上-10℃以下という範囲内に調整することは,引用文献1の記載に基づいて,当業者が適宜なし得た設計上の事項というべきである。
したがって,相違点3は,実質的な相違点でないか,少なくとも,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,単なる設計上の事項にすぎない。

(6)相違点4について
本件明細書の発明の詳細な説明における表現(前記4(2)で用いた表現)に則して表現すると,引用発明の「粘着剤ポリマー」は,「架橋点を有していないモノマー」としてベンジルアクリレート0.5質量部とブチルアクリレート100質量部とを用い,「架橋点を有するモノマー」としてアクリル酸を2.0質量部用い,これらを共重合して,アクリレート系重合体(A2)とし,当該アクリレート系重合体(A2)100質量部あたり「硬化剤」としてコロネートLを2質量部用いて架橋することにより,得られるものであるところ,当該「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と「硬化剤」の種類及び濃度を,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例10-1及び10-2(前記4(2)オの記載事項14を参照。)における「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と「硬化剤」の種類及び濃度と対比すると,「架橋点を有するモノマー」の種類及び「硬化剤」の種類は同一であり,「架橋点を有するモノマー」の配合量を1.5質量部から約2.0(≒2.0/100.5)質量部に,「硬化剤」の濃度を共重合体100質量部に対して約9.9(≒10/101.5)質量部又は約20(≒20/101.5)質量部から2.0質量部に変えたものである。
ここで,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例7-1ないし7-8の「粘着剤固有複屈折」の変化(図10も参照。)を参酌すれば,「架橋点を有するモノマー」の配合量の違いによる「粘着剤固有複屈折」への影響はさして大きくないと解されるから,本件出願の図13に示された「芳香族硬化剤」(「芳香族硬化剤」が実施例10-1及び10-2で用いているコロネートLを指していることは,コロネートLの構造式から自明である。)における硬化剤量と粘着剤固有複屈折の関係に基づいて,引用発明における「架橋点を有するモノマー」の種類及び配合量と「硬化剤」の種類及び濃度の場合のブチルアクリレートの「モノマー粘着剤固有複屈折」の正負について考察すると,負の値であるものと推認される。このことは,引用文献1の【0097】の表2によれば,アクリル酸の配合量が粘着剤6より若干多いものの,ブチルアクリレートとアクリル酸のみの共重合体であるアクリル系ポリマーA1の100質量部を,2質量部のコロネートLを用いて架橋したものに,単独で正の固有複屈折を有する液晶性化合物であるLC-3を1質量部添加して得られる「粘着剤1」の光弾性係数が-400(10^(-12)×Pa^(-1))という負の値を有している(LC-3を添加しなければ,さらに小さな値となる。)ことからも裏付けられる。したがって,引用発明において,ブチルアクリレートは「負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すると推認される。
一方,ベンジルアクリレートについては,そもそも「単独で正の固有複屈折を有するモノマー」であるところ,当該ベンジルアクリレート100質量部に対して2.0質量部の「単独で負の固有複屈折を有するモノマー」であるアクリル酸を共重合させたとしても,これを「正の固有複屈折を有する架橋剤」であるコロネートLで架橋して得られる架橋後ポリマーが,負の粘着剤固有複屈折を示すポリマーになるとは,組成比からみておよそ考え難いから,引用発明において,ベンジルアクリレートは「正の粘着剤固有複屈折を示すポリマーとなるモノマー」に該当すると推認される。
以上によれば,相違点4は,実質的な相違点ではない。

(7)効果について
本願発明が有する効果は,引用文献1の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(8)小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


7 むすび
本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず,かつ,発明の詳細な説明の記載が同条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2012-121241(P2012-121241)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 貴之渡▲辺▼ 純也清水 裕勝  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 粘着剤、偏光板並びに液晶表示装置及び複屈折値定量的測定方法  
代理人 立石 琢也  
代理人 立石 琢也  

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