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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1340872
審判番号 不服2017-9267  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-26 
確定日 2018-06-19 
事件の表示 特願2012-264524「電流センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日出願公開、特開2014-109518、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月3日の出願であって、平成27年9月29日付けで手続補正がなされ、平成28年6月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月28日付けで手続補正がなされ、平成28年11月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年1月23日付けで手続補正がなされたが、平成29年4月27日付けで、平成29年1月23日付けの手続補正についての補正却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年6月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において、平成30年2月28日付けで拒絶理由が通知され、平成30年4月10日付けで手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
1.(新規事項)平成28年7月28日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

・請求項1-3
補正後の請求項1に記載のシールド部は、U字状に構成されたもの以外にも、例えば、放射状に構成されたものなども包含するが、本願の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)には、U字状に構成されたシールド部については記載されているが、それ以外の形状について記載も示唆もされていない。
よって、上記手続補正は、当初明細書等に記載の事項の範囲内においてしたものではない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-3
・引用文献1-2
引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1:スイス国特許出願公開第705027号明細書(パテント・ファミリーとして、特開2012-247420号公報がある。)
引用文献2:特開2010-8050号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
理由1
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1
・引用文献1-3
引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1:特開2012-154831号公報
引用文献2:スイス国特許出願公開第705027号明細書(パテント・ファミリーとして、特開2012-247420号公報がある。)
引用文献3:特開平9-304447号公報

理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項2に記載された、「矩形状の内側シールド」と「コ字状の外側シールド」とによって構成される「コア部」は、請求項1に記載された、「平行に立ち上がる一対のシールド部を有」する「矩形状」の「コア部」を備えておらず、請求項1を技術的に限定したものとなっていない。

よって、請求項2に係る発明は明確でない。

第4 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年4月10日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置される互いに平行に延在する複数の電流路と、
前記電流路から放射される磁気を検出する、前記電流路毎に1つだけ配置された磁気検出素子と、
前記電流路を周回するよう配置されるコア部と、前記コア部の一部を切り欠くことで形成されて前記磁気検出素子が配置されるギャップ部と、を有する、前記電流路毎に配置された磁気シールドコアと、
を備え、
各前記電流路は、前記電流路の延在方向に直交する上下方向の寸法が前記延在方向及び前記上下方向に直交する幅方向の寸法より小さい平板状の形状を有し、
各前記コア部は、前記上下方向に延びる一対の側壁と、前記幅方向に延びる上壁及び下壁と、からなり上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さい矩形状を有し、
各前記ギャップ部は、前記コア部の前記上壁における前記幅方向の中央部に形成され、
各前記磁気検出素子は、前記ギャップ部に臨むと共に前記幅方向に対向する前記上壁の一対の端面の間の空間を遮るように配置され、
前記磁気シールドコアとして、第1の磁気シールドコアと、該第1の磁気シールドコアに隣り合うように配置される第2の磁気シールドコアと、を有し、
前記第1の磁気シールドコアと前記第2の磁気シールドコアの少なくとも一方は、前記コア部の前記上壁の前記幅方向の両端部における前記電流路の延在方向の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部を有し、前記一対のシールド部のうちの一方が、前記第1の磁気シールドコアの前記コア部が周回する第1の電流路と前記第2の磁気シールドコアの前記コア部が周回する前記第1の電流路に隣り合う第2の電流路との間に配置される、
ことを特徴とする電流センサ。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
当審における拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-154831号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0002】
回転電機を駆動源とするいわゆるハイブリッド車両や電気自動車等には、電力源となるバッテリやインバータ等の電力変換器が搭載されている。また、電力変換器から回転電機に電流を供給する電流路として、従来からバスバー(Bus Bar)と呼ばれる金属板が使用されている。バスバーは細長い平板形状の金属板であり、ケーブル等の被覆電線に比べて導体の断面積が大きく、また導体が露出しており放熱効果が高いことから、大電流供給に適している。
【0003】
回転電機に供給される電流量を測定するため、従来はバスバーに電流センサが配置されている。この電流センサとして磁気比例(オープンループ)式のものが広く使用されている。磁気比例式の電流センサは、バスバーの周りを囲むコアと、コアのギャップ部(切り欠き部)に配置される磁気センサとを含んで構成される。
【0004】
バスバーに電流が流れると電流の向きに対して右回りの磁界が発生し(いわゆる右ねじの法則)、この磁界はコアの磁路に収束される。さらにコアのギャップ部に配置された磁気センサが磁界の強さを検出し、検出された磁界の強さに基づいて電流量が算出される。
【0005】
図9に従来の電流センサ100を示す。図9においては電流の供給先となる回転電機が三相交流式のものであり、これに伴い3本のバスバー101が平行に配置されている。それぞれのバスバー101に磁性体コア102が挟み込まれ、磁性体コア102のギャップ部104に磁気センサ105が配置される。また、ワイヤハーネスやピン等の接続配線107を介して磁気センサ105と基板110の増幅回路106とが電気的に接続される。基板110には増幅回路106や増幅後の信号を演算処理する演算回路108等が実装されている。」


「【0009】
すなわち、図10に示すように、バスバー101にはその長手方向L1に沿って電流が流れており、この電流方向L1に対する垂直面上に磁界が発生する。したがって磁性体コアの磁路はバスバー101の長手方向L1に対して垂直となるように配置されなければならない。さらに磁気センサの検出面(感磁面)112は磁性体コアの磁路111に対して垂直となるように配置しなければならない。このことから、磁気センサの検出面112はバスバー101の長手方向L1と平行に配置されなければならない。また、磁気センサを基板に実装する場合は磁気センサの検出面112が基板の実装面と平行となるように磁気センサを基板に配置する。これに伴い、磁気センサが実装された基板もバスバー101の長手方向L1と平行となるように設置する必要がある。
【0010】
磁気センサ105を基板110に実装した従来の電流センサユニット100’A?100’Cをバスバー101A?101Cに配置した様子を図11に示す。各バスバー101A?101Cは平行に配置されており、各電流センサユニット100’A?100’Cを1枚の基板に統合するにはバスバー101の長手方向L1に対して基板110を非平行に配置する必要がある。しかし、上述した制約により基板110はバスバー101の長手方向L1と平行でなければならず、この設置角度は変更することができない。この結果、それぞれの基板110を一枚の基板に統合することができなくなってしまう。
【0011】
そこで本発明は、磁気センサを基板に実装しても隣接する基板との統合が可能な電流センサを提供することを目的とする。」


また、引用文献1の図11には、コアが矩形状であって、その形状は、(バスバー101の平板形状を水平面とした場合に)上下方向に延びる一対の側壁と、幅方向(バスバー101の長手方向に対し、直角に平板形状を横切る方向)に延びる上壁及び下壁とからなり、上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さく、矩形状のコアの上壁の幅方向の中央部にはギャップ部(すなわち「切り欠き部」)が形成され、磁気センサ105が、該ギャップ部(すなわち「切り欠き部」)における一対の端面の間の空間を遮るように配置されていることが記載されている。

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「3本のバスバー101が平行に配置され、それぞれのバスバー101に磁性体コア102が挟み込まれ、磁性体コア102のギャップ部104に磁気センサ105が配置される電流センサ100であって(段落【0005】より。以下同様。)、
電流路として、バスバー(Bus Bar)が使用され、バスバーは細長い平板形状の金属板であり(【0002】)、
コアは、バスバーの周りを囲み、コアのギャップ部は切り欠き部であり(【0003】)、
コアは矩形状であって、その形状は、(バスバー101の平板形状を水平面とした場合に)上下方向に延びる一対の側壁と、幅方向(バスバー101の長手方向に対し、直角に平板形状を横切る方向)に延びる上壁及び下壁とからなり、上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さく、矩形状のコアの上壁の幅方向の中央部にはギャップ部が形成され、磁気センサ105が、該ギャップ部(すなわち「切り欠き部」)に配置され(図11より)、
バスバーに電流が流れると電流の向きに対して右回りの磁界が発生し(いわゆる右ねじの法則)、この磁界はコアの磁路に収束され、さらにコアのギャップ部に配置された磁気センサが磁界の強さを検出し、検出された磁界の強さに基づいて電流量が算出され(【0004】)、
電流センサユニット100’A?100’Cをバスバー101A?101Cに配置した(【0010】)、
電流センサ100(【0005】)。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(スイス国特許出願公開第705027号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。なお、翻訳は、パテント・ファミリーである、特開2012-247420号公報に基づくものであって、段落番号としては、便宜のため、当該特開2012-247420号公報のものを記載した。)。


(当審訳:【請求項2】
前記強磁性構成部品(4)は、U字形状に曲げられた、1枚の金属薄板もしくは数枚の金属薄板からできた積層板であり、またはフェライトから成り、そして中央部(7)および2つの脚部(6A、6B)を形成し、前記舌状部(9A、9B)は、前記脚部(6A、6B)から離れるように曲げられていることと、前記中央部(7)および前記舌状部(9A、9B)は、前記電線(1)のための前記開口部(13)を囲むこととを特徴とする、請求項1に記載の装置。)



(当審訳:【0001】
本発明は、電線を流れる電流を測定するための装置、すなわち電流センサに関するものであり、電流によって発生する磁界の強度を測定する磁界センサを備えるものである。)



(当審訳:【0004】
本発明は、電線を流れる電流を測定するための電流センサを開発する目的に基づき、このセンサは外部の干渉場を効果的に遮蔽し、簡単な方法で取り付けることができる。)



(当審訳:【0013】
図1は、電線1を流れる電流を測定するための、本発明による装置の第1の実施形態の断面図を示す。このような電線1の断面は、通常は円形である。装置は、プリント回路基板2、磁界センサ3および強磁性構成部品4を備える。この図に示すような磁界センサ3の構成については、図3を参照して以下で詳細に記述する。磁界センサ3は、プリント回路基板2の表面5上に配置され、プリント回路基盤2の表面5に平行に延在する磁界の成分を感知する。この成分の方向は、図中でX方向として示される。強磁性構成部品4は、U字形に曲げられた1枚の金属薄板(図2も参照のこと)から作られている。「金属薄板」という用語は、積み重ねられた薄板からできた積層板も含むように常に理解されるものとする。それゆえ、U字形に曲げられた構成部品4は、継ぎ目なく中央部7に集まる2つのまっすぐな脚部6Aおよび6Bを有し、ほぼ半円形に曲げられている。構成部分4の2つの脚部6Aおよび6Bは、互いに対してほぼ平行に延在しており、少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8を有す一方で、2つの舌状部9Aおよび9Bも有するように形成されている。舌状部9Aおよび9Bは、「U」字の脚部6から離れるように曲げられている。舌状部9と脚部6との間の角度はほぼ90度である。それゆえ、舌状部9Aおよび9Bの2つの自由端、すなわち舌状部9Aおよび9Bの前側10は、向かい合って配置され、幅Wの空隙で互いに隔てられている。プリント回路基盤2は、磁界センサ3に隣接した溝11または孔を有し、その溝11または孔に強磁性構成部品4の足部8を挿入できる。足部8には、好ましくはストッパ12が設けられており、そのストッパーは、プリント回路基盤2の溝11へ足部8を挿入する際、プリント回路基盤2の表面5上に位置するようになり、そのため、舌状部9は、プリント回路基板2の表面5に平行に、定められた距離Dだけ離れた位置に延在することになる。舌状部9が、磁界センサ3の筐体に、過度な圧力を作用させることなく載り、もしくは磁界センサ3からわずかな距離に配置されるように、距離Dは都合よく決められている。すなわち、距離Dは、磁界センサ3をプリント回路基板2上に取り付けたときの、その筐体の高さにほぼ相当する。強磁性構成部品4の中央部7および舌状部9Aおよび9Bは、電線1が案内される開口部13の境界を決める。
【0014】
図2は、金属薄板の上面図を示す。金属薄板がU字形状に曲げられる前に、金属薄板から強磁性構成部品4は形成されるのが好ましい。線14は曲角部を示す。すなわち、線14の周辺の角部で、舌状部9は、「U」字の脚部6から離れるように曲げられる。)



(当審訳:【0018】
図示された実施形態で、強磁性構成部品4は、1枚の金属薄板または金属薄板の積層板からできており、打抜加工および曲げ加工によって成形されている。さらに、強磁性構成部品4は、すべての実施形態においてフェライトから成り、焼結プロセスで製造することができる。
【0019】
強磁性構成部品4は、2つの磁気回路、すなわち第1の磁気回路と第2の磁気回路を含み、その第1の磁気回路は、電線1を実質的に取り囲み、そして舌状部9を有しており、第2の磁気回路は、足部8を有しており、中央部7、および脚部6の隣接部は両方の磁気回路に属している。強磁性構成部品4および磁界コンセントレータ18は、空隙を有する第1の磁気回路を形成しており、その空隙内には、磁界を感知するセンサ素子(たとえば、上記のようなホール素子、AMRセンサ、GMRセンサ、フラックスゲートセンサ)が配置されている。電線を流れる電流に対しての装置の感度は、この第1の磁気回路の構成、特にその空隙の幾何形状と大きさに依存する。装置の感度は、強磁性構成部品4の舌状部9と磁界センサ3(特に磁界コンセントレータ18)との間の垂直距離を大きくするか、それとも強磁性構成部品4の、舌状部9および磁界センサ3が重なり合わないようにするかで下げることができる。以上は、舌状部9Aおよび9Bの前面10間の距離Wが、半導体チップ15上の磁界コンセントレータ18の全体の長さより大きく、その結果舌状部9および磁界コンセントレータ18が横方向の空隙によってそれぞれ隔てられるということを随意的に意味する。この方法で、装置の感度は、測定される最大電流に合わせて調整することができる。
【0020】
外部磁気干渉場は、一方の側の足部8で強磁性構成部品4に入り、中央部7を通って導かれ、他方の足部8で強磁性構成部品4から出て行く。それゆえ、外部磁気干渉場は、磁界センサ3の周囲を導かれる。外部磁気干渉場に対する強磁性構成部品4の遮蔽度は、足部8の端部のアライメント、すなわち、足部8がプリント回路基板2の表面5に垂直(たとえば、図1に示すように)であるか、あるいは平行(たとえば、図8に示すように)であるか、そして足部8の長さ、更に幅で適切に管理することができる。)

したがって、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「電線1を流れる電流を測定するための装置であって、電線1の断面は、通常は円形であり、装置は、プリント回路基板2、磁界センサ3および強磁性構成部品4を備え、強磁性構成部品4は、U字形に曲げられ、U字形に曲げられた構成部品4は、継ぎ目なく中央部7に集まる2つのまっすぐな脚部6Aおよび6Bを有し、ほぼ半円形に曲げられ、構成部分4の2つの脚部6Aおよび6Bは、互いに対してほぼ平行に延在しており、少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8を有す一方で、2つの舌状部9Aおよび9Bも有するように形成され、舌状部9Aおよび9Bは、「U」字の脚部6から離れるように曲げられており、舌状部9と脚部6との間の角度はほぼ90度であり、それゆえ、舌状部9Aおよび9Bの2つの自由端、すなわち舌状部9Aおよび9Bの前側10は、向かい合って配置され、空隙で互いに隔てられ、舌状部9が、磁界センサ3の筐体に、過度な圧力を作用させることなく載り、もしくは磁界センサ3からわずかな距離に配置され、強磁性構成部品4の中央部7および舌状部9Aおよび9Bは、電線1が案内される開口部13の境界を決め(段落【0013】より、以下同様。)、
中央部および舌状部は電線のための開口部を囲んでおり(【請求項2】)、
外部磁気干渉場は、一方の側の足部8で強磁性構成部品4に入り、中央部7を通って導かれ、他方の足部8で強磁性構成部品4から出て行き、外部磁気干渉場に対する強磁性構成部品4の遮蔽度は、足部8の長さ、更に幅で適切に管理することができ(【0020】る、
装置(【0013】)。」

3.引用文献3(特開平9-304447号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した)。
「【0071】最後に、図4を参照して、こうした電流検出装置80の組み立て構造について説明する。この図4に示されるように、同電流検出装置80は、非磁性で且つ絶縁性のセンサケース810内に一体に組み込まれるようになる。また、このセンサケース810は、その取付足810a及び810bを通じてインバータ筺体(図示せず)に固定されるようになる。
【0072】一方、同センサケース810には、上記バスバー(電流供給線)31a?31cが貫通される3つの開口部819a?819cが設けられており、それら貫通されるバスバー31a?31cを各々取り囲むかたちで、磁性体からなる略コの字形状のコア811a?811cが配設される。これら各コア811a?811cの間隙部には、それぞれ磁界検出素子としてのホール素子が装着されるようになる(図4においては図示を割愛)。そして、図2に示したそれらホール素子の給電回路80Sをはじめ、分岐回路80Bや過電流検出部82、出力バッファ83a?83c等々の各回路は、同図4に示されるプリント基板815上に共通に形成されている。同プリント基板815は、基板固定ネジ816a?816hによって上記センサケース810に固定されるようになる。」


第6 当審拒絶理由についての判断
1.理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「平行に配置され」た「細長い平板形状」の「3本のバスバー101」は「電流路」としてとして使用されているから、本願発明1における「互いに平行に延在する複数の電流路」に相当する。

(イ)引用発明1では、「それぞれのバスバー101に磁性体コア102が挟み込まれ」、「バスバーに電流が流れると電流の向きに対して右回りの磁界が発生し(いわゆる右ねじの法則)、この磁界はコアの磁路に収束され、さらにコアのギャップ部に配置された磁気センサが磁界の強さを検出し、検出された磁界の強さに基づいて電流量が算出される」ようになっている。よって、引用発明1における「磁気センサ105」は、「それぞれの」「バスバー」に「流れた」「電流」によって「発生し」た「磁界の強さを検出し」ているから、本願発明1における「前記電流路から放射される磁気を検出する、前記電流路毎に1つだけ配置された磁気検出素子」に相当する。

(ウ) 引用発明1における「コア」は、「バスバーの周りを囲」んでいるから、本願発明1における「前記電流路を周回するよう配置されるコア部」に相当する。

(エ)引用発明1における、「磁気センサ」が「配置された」「コアのギャップ部」は、「切り欠き部であ」るから、本願発明1における「前記コア部の一部を切り欠くことで形成されて前記磁気検出素子が配置されるギャップ部」に相当する。

(オ)引用発明1では、「電流センサユニット100’A?100’Cをバスバー101A?101Cに配置」し、「それぞれのバスバー101に磁性体コア102が挟み込まれ」ている。よって、上記「(ア)」より、引用発明1における「それぞれのバスバー101」に「挟み込まれ」た「磁性体コア102」と、本願発明1における「前記電流路毎に配置された磁気シールドコア」とは、「前記電流路毎に配置されたコア」の点で共通する。

(カ)上記「(ア)」より、引用発明1における「バスバーは細長い平板形状の金属板であ」ることが、本願発明1における「各前記電流路は、前記電流路の延在方向に直交する上下方向の寸法が前記延在方向及び前記上下方向に直交する幅方向の寸法より小さい平板状の形状を有」することに相当する。

(キ)引用発明1における、それぞれの「コア」が「矩形状であって、その形状は、(バスバー101の平板形状を水平面とした場合に)上下方向に延びる一対の側壁と、幅方向(バスバー101の長手方向に対し、直角に平板形状を横切る方向)に延びる上壁及び下壁とからなり、上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さ」いことが、本願発明1における「各前記コア部は、前記上下方向に延びる一対の側壁と、前記幅方向に延びる上壁及び下壁と、からなり上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さい矩形状を有」することに相当する。

(ク)上記「(キ)」を踏まえれば、引用発明1における「矩形状のコアの上壁の幅方向の中央部にはギャップ部(すなわち「切り欠き部」)が形成され」ることが、本願発明1における「各前記ギャップ部は、前記コア部の前記上壁における前記幅方向の中央部に形成され」ることに相当する。


(ケ)引用発明1における「磁気センサ105」は、「該ギャップ部(すなわち「切り欠き部」)における一対の端面の間の空間を遮るように配置され」、「磁界はコアの磁路に収束され、さらにコアのギャップ部に配置された磁気センサが磁界の強さを検出し」ていることが、本願発明1における「各前記磁気検出素子は、前記ギャップ部に臨むと共に前記幅方向に対向する前記上壁の一対の端面の間の空間を遮るように配置され」ていることに相当する。

(コ)引用発明1において、「電流センサユニット100’A?100’Cをバスバー101A?101Cに配置」し、「それぞれのバスバー101に磁性体コア102が挟み込まれ」、「コアは、バスバーの周りを囲」んでいることと、本願発明1における「前記磁気シールドコアとして、第1の磁気シールドコアと、該第1の磁気シールドコアに隣り合うように配置される第2の磁気シールドコアと、を有」することとは、「前記コアとして、第1のコアと、該第1のコアに隣り合うように配置される第2のコアと、を有」する点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
互いに平行に延在する複数の電流路と、
前記電流路から放射される磁気を検出する、前記電流路毎に1つだけ配置された磁気検出素子と、
前記電流路を周回するよう配置されるコア部と、前記コア部の一部を切り欠くことで形成されて前記磁気検出素子が配置されるギャップ部と、を有する、前記電流路毎に配置されたコアと、
を備え、
各前記電流路は、前記電流路の延在方向に直交する上下方向の寸法が前記延在方向及び前記上下方向に直交する幅方向の寸法より小さい平板状の形状を有し、
各前記コア部は、前記上下方向に延びる一対の側壁と、前記幅方向に延びる上壁及び下壁と、からなり上下方向の寸法が幅方向の寸法より小さい矩形状を有し、
各前記ギャップ部は、前記コア部の前記上壁における前記幅方向の中央部に形成され、
各前記磁気検出素子は、前記ギャップ部に臨むと共に前記幅方向に対向する前記上壁の一対の端面の間の空間を遮るように配置され、
前記コアとして、第1のコアと、該第1のコアに隣り合うように配置される第2のコアと、を有することを特徴とする電流センサ。」

(相違点1)
本願発明1では、「ハウジング」を有し、互いに平行に延在する複数の電流路が「前記ハウジング内に配置される」のに対し、引用発明1では、ハウジングが示されていない点。

(相違点2)
本願発明1では、コアが「磁気シールドコア」であって、「前記第1の磁気シールドコアと前記第2の磁気シールドコアの少なくとも一方は、前記コア部の前記上壁の前記幅方向の両端部における前記電流路の延在方向の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部を有し、前記一対のシールド部のうちの一方が、前記第1の磁気シールドコアの前記コア部が周回する第1の電流路と前記第2の磁気シールドコアの前記コア部が周回する前記第1の電流路に隣り合う第2の電流路との間に配置される」のに対し、引用発明1では、磁性体コア102が、コア部の上壁における幅方向の両端部から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部を有しておらず、したがって、磁気シールドコアを構成しているか、明らかでない点。

イ 判断
(ア)相違点2について
事案に鑑みて、まず、相違点2について検討する。
引用文献2には、「電線1を流れる電流を測定するための装置であって」、「強磁性構成部品4は、U字形に曲げられ、U字形に曲げられた構成部品4は、継ぎ目なく中央部7に集まる2つのまっすぐな脚部6Aおよび6Bを有し、ほぼ半円形に曲げられ、構成部分4の2つの脚部6Aおよび6Bは、互いに対してほぼ平行に延在しており、少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8を有」し、「舌状部9Aおよび9Bは、「U」字の脚部6から離れるように曲げられており、舌状部9と脚部6との間の角度はほぼ90度であり」、「外部磁気干渉場は、一方の側の足部8で強磁性構成部品4に入り、中央部7を通って導かれ、他方の足部8で強磁性構成部品4から出て行き、外部磁気干渉場に対する強磁性構成部品4の遮蔽度は、足部8の長さ、更に幅で適切に管理することができ」る技術が記載されている。
すると、引用文献2に記載された、「U」字の脚部6から離れるように曲げられ」た「舌状部9Aおよび9B」が、本願発明1における「コア部」の「上壁」に対応し、引用文献2に記載された「少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8」が本願発明1における「平行に立ち上がる一対のシールド部」に対応するところ、引用文献2における「構成部分4の2つの脚部6Aおよび6Bは、互いに対してほぼ平行に延在しており、少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8を有す一方で、2つの舌状部9Aおよび9Bも有するように形成され」ているから、引用文献2における「少なくとも2つ、好ましくは4つの足部8」(本願発明1における「平行に立ち上がる一対のシールド部」に対応する。)は、「2つの舌状部9Aおよび9B」(本願発明1における「コア部」の「上壁」に対応する。)の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がるものではないことは明らかである。
よって、引用文献2には、本願発明1における「前記第1の磁気シールドコアと前記第2の磁気シールドコアの少なくとも一方は、前記コア部の前記上壁の前記幅方向の両端部における前記電流路の延在方向の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部を有」する構成に対応する構成が記載されていない。
また、引用文献3にも、本願発明1における上記構成は、記載されておらず、また、本出願日前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明1は、相違点1について検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.理由2(特許法第36条6項第2号)について
平成30年4月10日付けに手続補正により、補正前の請求項2は削除された。
よって、理由2は解消した。

第7 原査定についての判断
1.(新規事項の追加)
平成30年4月10日付けの手続補正により、請求項1の「シールド部」については、「前記コア部の前記上壁の前記幅方向の両端部における前記電流路の延在方向の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部」と補正された。
これにより、請求項1の「シールド部」の形状が特定されたので、原査定の理由は解消した。

2.(進歩性)
平成30年4月10日付けの手続補正により、補正後の請求項1は、「前記第1の磁気シールドコアと前記第2の磁気シールドコアの少なくとも一方は、前記コア部の前記上壁の前記幅方向の両端部における前記電流路の延在方向の全域から上側に向けて互いに平行に立ち上がる一対のシールド部を有」する構成を有するものとなった。原査定における引用文献2には「空隙付きの磁気シールド体を用いた、コアレス電流センサ」が記載されているに過ぎないから、補正後の請求項1における前記構成は、原査定における引用文献1(当審拒絶理由における引用文献2に同じ。)にも、引用文献2にも記載されておらず、本出願前における周知技術でもない。
よって、本願発明1は、当業者であっても、原査定における引用文献1-2に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2012-264524(P2012-264524)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
P 1 8・ 537- WY (G01R)
P 1 8・ 55- WY (G01R)
P 1 8・ 575- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 仁之川瀬 正巳  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 清水 稔
須原 宏光
発明の名称 電流センサ  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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