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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1341010 |
審判番号 | 不服2017-8415 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-09 |
確定日 | 2018-06-08 |
事件の表示 | 特願2014-510915「受動的な熱放散を用いるマトリクス超音波プローブ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日国際公開、WO2012/156886、平成26年 7月17日国内公表、特表2014-516686〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)5月11日(パリ条約による優先権主張 2011年5月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月14日付けで拒絶査定されたところ、同年6月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成29年6月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の結論] 平成29年6月9日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を示す。以下、本件補正後の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。)。 「 【請求項1】 超音波トランスデューサアレイプローブであって、 トランスデューサ要素のアレイ、及び前記トランスデューサ要素のアレイのためのASICを有するトランスデューサスタックであって、前記トランスデューサ要素のアレイは前記ASICに結合される、トランスデューサスタックと、 前記トランスデューサスタックに熱的に結合され、前記プローブの遠位端部から更に離れて熱を伝導するために黒鉛支持ブロックの背部に熱的に結合される、熱伝導フレームと、 プローブハンドルを形成し、少なくとも前記フレームの部分を囲む筐体と、 前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダであって、前記筐体におけるホットスポットの生成を防止するため、前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたらし、前記筐体の内側表面領域と位置合わせされ、これに熱的に結合される外側表面領域を示し、対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され、前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする、熱伝導性のヒートスプレッダと を有する、超音波トランスデューサアレイプローブ。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成28年9月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 超音波トランスデューサアレイプローブであって、 トランスデューサアレイに関するASICに結合されるトランスデューサ要素のアレイを持つ、トランスデューサスタックと、 前記トランスデューサスタックに熱的に結合される熱伝導フレームと、 プローブハンドルを形成し、少なくとも前記フレームの部分を囲む筐体と、 前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダであって、前記筐体におけるホットスポットの生成を防止するため、前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたらし、前記筐体の内側表面領域と位置合わせされ、これに熱的に結合される外側表面領域を示す、熱伝導性のヒートスプレッダとを有する、超音波トランスデューサアレイプローブ。」 2 補正の適否 (1) 本件補正の補正事項について 本件補正の補正事項は、以下のとおりである。 (補正事項1)「トランスデューサスタック」について、「トランスデューサアレイに関するASICに結合されるトランスデューサ要素のアレイを持つ」を「トランスデューサ要素のアレイ、及び前記トランスデューサ要素のアレイのためのASICを有するトランスデューサスタックであって、前記トランスデューサ要素のアレイは前記ASICに結合される」に補正する。 (補正事項2)「熱伝導フレーム」について、「前記プローブの遠位端部から更に離れて熱を伝導するために黒鉛支持ブロックの背部に熱的に結合される」ことを追加する。 (補正事項3)「熱伝導性のヒートスプレッダ」について、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され、前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」ことを追加する。 以下において、補正事項3について、本願の国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討する。 (2) 本願の翻訳文等に記載された事項 上記補正事項3に関連する記載として、翻訳文等には、以下の記載がある。 ア 「【0009】 図5は、ヒートスプレッダ20の1つの実現を示す。この実現において、ヒートスプレッダは、対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフとして形成される。図5に示されるハーフは、背部及び上部で筐体22のハンドル部分の内部を囲み、その嵌合するハーフは、ハンドル内部の前面及び底部を囲む。この図で見えるのは、2つの穴である。この穴を通して、ネジがフレーム16の1つの側面に対してヒートスプレッダを固定するために挿入される。 【0010】 図7は、ヒートスプレッダの別の実現を示す。ここで、筐体22は、金属ヒートスプレッダの周りに成形される。この実現において、ハンドル部分22及び筒先24は、ヒートスプレッダ20'の周りに形成される単一の筐体22'として成形される。その結果、ヒートスプレッダ20'は、ハンドル内部のボリュームだけを囲むのではなく、筐体の遠位端部におけるトランスデューサスタックを囲むよう前方に延在する。ヒートスプレッダ20'は、マトリクスアレイ及びASIC12から離れて熱を搬送する黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする。プローブの遠位端部における熱は、従って、プローブの後部に搬送され、プローブフレーム16及びヒートスプレッダ20'の両方により発散される。」 イ 図5は、以下のようなものである。 ウ 図7は、以下のようなものである。 (3) 判断 ア 上記記載事項について (ア) 補正事項3の「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され」ることについて、翻訳文等には、上記(2)アで摘記した【0009】段落に記載されているが、【0009】段落及び図5に記載された「ヒートスプレッダ20」が、トランスデューサスタックの黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝統接触を行なうことについて、翻訳文等に記載されていない。 (イ) 補正事項3の「前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」ことについて、翻訳文等には、上記(2)アで摘記した【0010】段落に記載されているが、図7に開示された「ヒートスプレッダ20’」は、明らかに「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフ」の形状ではなく、【0010】段落及び図7に開示された「ヒートスプレッダ20'」の形状が、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフ」であることについて、翻訳文等に記載されていない。 (ウ) そもそも、【0009】段落及び図5の「ヒートスプレッダ20」と【0010】段落及び図7の「ヒートスプレッダ20'」とは、前者に「図5は、ヒートスプレッダ20の1の実現を示す」、「筐体22」、後者に「図7は、ヒートスプレッダの別の実現を示す。」、「筐体22'」と明記されており、それらの部品符号も異なり、別個の実施形態として記載されている。 したがって、翻訳文等において、「前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」【0010】段落及び図7の「ヒートスプレッダの別の実現」における「ヒートスプレッダ20'」と、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され」る【0009】段落及び図5に記載された「ヒートスプレッダ20」とは、それぞれ別個の実施形態として明確に区別して記載されていることは明らかである。 (エ) 上記(ア)-(ウ)から、翻訳文等には、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され」ることと「前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」こととの両方の特徴を備えるヒートスプレッダは記載されていない。 イ 技術的事項との関係について 加えて、以下において、【0010】段落及び図7に記載された「マトリクスアレイ及びASIC12から離れて熱を搬送する黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」「ヒートスプレッダ20'」を、【0009】段落及び図5に記載された「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有す」る形状とすること、又は、【0009】段落及び図5に記載された「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有す」る「ヒートスプレッダ20」を、【0010】段落及び図7に記載された「前記ハンドル部分内部で前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝達接触をする」ものとすることが、翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるのかどうかについて、技術的観点から検討する。 (ア)【0010】段落及び図7における「ヒートスプレッダ20'」は、「ハンドル部分22及び筒先24」を「ヒートスプレッダ20'の周りに形成される単一の筐体22'」として成形した結果、「ハンドル内部のボリュームだけを囲むのではなく、筐体の遠位端部におけるトランスデューサスタックを囲むよう前方に延在」して「マトリクスアレイ及びASIC12から離れて熱を搬送する黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」ように形成されることから、その形状は「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフ」となることはない。 (イ) また、図5のようなクラムシェルハーフの形状である「ヒートスプレッダ20」を、【0010】段落及び図7のような「ハンドル内部のボリュームだけを囲むのではなく、筐体の遠位端部におけるトランスデューサスタックを囲むよう前方に延在」して「マトリクスアレイ及びASIC12から離れて熱を搬送する黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」ためには、「ハンドル部分22及び筒先24」を「ヒートスプレッダ20'の周りに形成される単一の筐体22'」として成形する必要があるが、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフ」の形状を維持したまま、そのような「単一の筐体22'」とすることはできない。 してみれば、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフ」の形状である「ヒートスプレッダ20」を、「ハンドル内部のボリュームだけを囲むのではなく、筐体の遠位端部におけるトランスデューサスタックを囲むよう前方に延在」して「マトリクスアレイ及びASIC12から離れて熱を搬送する黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」ようにすることはない。 ウ 小括 上記ア-イから、「対角線的に配置されたエッジで一緒にフィットする2つのクラムシェルハーフを有し、前記ハンドル部分内部で前記フレームを囲むように配置され、前記アレイ及び前記ASICから離れて熱を搬送する前記黒鉛支持ブロックと直接的な熱伝導接触をする」という事項を追加する上記補正事項3を含む本件補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 したがって、当該補正事項3を含む本件補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成29年6月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-13に係る発明は、平成28年9月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものであり、以下のとおり、当審にて分節しA)?F)の見出しを付けた。 「 【請求項1】 A)超音波トランスデューサアレイプローブであって、 B)トランスデューサアレイに関するASICに結合されるトランスデューサ要素のアレイを持つ、トランスデューサスタックと、 C)前記トランスデューサスタックに熱的に結合される熱伝導フレームと、 D)プローブハンドルを形成し、少なくとも前記フレームの部分を囲む筐体と、 E)前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダであって、前記筐体におけるホットスポットの生成を防止するため、前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたらし、前記筐体の内側表面領域と位置合わせされ、これに熱的に結合される外側表面領域を示す、熱伝導性のヒートスプレッダと F)を有する、超音波トランスデューサアレイプローブ。」 2 引用文献・引用発明等 (1)引用文献1 ア 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2004-329495号公報)には、以下の記載がある(下線は当審にて付与した。以下同様。)。 (引1a)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、超音波診断装置に用いる超音波探触子に関し、具体的には超音波探触子の温度上昇を抑制するものに関する。 ・・・ 【0004】 このような超音波探触子において、例えば、深い部位を診断する場合、反射エコー信号のSN比を向上させるため、振動子に供給する駆動信号のエネルギを増大して被検体に超音波を送波するようにしている。したがって、浅い部位を診断する場合に比べ、超音波探触子内で減衰する超音波のエネルギが増加し、その超音波のエネルギが熱的エネルギに変わることで超音波探触子の温度が上昇することがある。 【0005】 このような温度上昇を防止するため、従来、バッキング材に熱伝導体を熱的に接続し、この熱伝導体により探触子本体に生じた熱をバッキング材からハウジングに伝熱させ、この熱をハウジングの外表面から外気へ放熱するすることにより、超音波探触子を冷却することが行われている(例えば、特許文献1参照)。 ・・・ 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、一般に、超音波探触子は、探触子本体の超音波射出面側を被検体に当接させて用いることから、使い勝手を考慮して、その超音波射出面を先端に位置させた矩形または長方形の縦長の角筒状に形成される。したがって、探触子本体で生じた熱をバッキング材からハウジングに伝熱する熱伝導体は、探触子本体に配設されたバッキング材の超音波射出方向に対し反対側に位置する背面に延在して配設される。」 (引1b)「【0020】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。 (実施形態1) 超音波探触子のハウジング内に板バネを設けた第1の実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。図1は、本発明を適用してなる超音波探触子の断面図、図2は、超音波探触子の図1のII?II線から見た断面図、図3は、超音波探触子を用いた超音波診断装置のブロック図を示している。 ・・・ 【0022】 本実施形態の超音波探触子2は、図1に示すように、探触子本体28、ハウジング30、熱伝導体32、電気回路基板34、弾性部材である板バネ36などを有して構成されている。 【0023】 探触子本体28は、振動子22と、音響整合層24と、バッキング材26とを有して構成されている。振動子22は、圧電セラミックスなどの圧電材料からなる短冊状の振動子素子が複数配列されて形成されている。なお、振動子22の超音波射出方向側に位置した面の長辺に沿う方向を振動子22の長軸方向と称し、短辺に沿う方向を振動子22の短軸方向と称する。また、各振動子素子は、電気的及び機械的に独立して超音波信号と電気信号を相互に変換するものである。その各振動子素子の超音波射出面に音響整合層24が接合して配設されている。この音響整合層24は、振動子22からの超音波を被検体へ効率よく伝達するものであり、ポリウレタンやエポキシなどの樹脂、または、その樹脂と金属粉との混合物、あるいは、ガラスやセラミックスなどの材料から作製されている。また、振動子22の振動子素子の超音波射出面の反対面つまり背面にバッキング材26が接合して配設されている。このバッキング材26は、ゴム又は金属粉などが混入されたゴムなどの超音波減衰率の比較的大きな材料から作製されており、振動子素子の背面から放射された不必要な超音波を吸収して減衰するとともに、振動子22の振動を抑えるものである。 【0024】 ハウジング30は、縦長の角筒状に形成されている。このハウジング30の先端部に開口31が形成される一方、他端部は湾曲形状に封止されて形成されている。開口31の縁部に沿って超音波窓となるレンズ25が取り付けられている。このレンズ25は、シリコンゴムなどから作製されており、超音波射出面を曲率させて形成されている。このハウジング30の開口31に、探触子本体28の音響整合層24の部分がはめ込まれて支持されている。すなわち、探触子本体28は、ハウジング30の先端部分に内包して収納されており、電気的、機械的、または耐薬品的に保護されている。 【0025】 熱伝導体32は、熱伝導物質である銅やアルミニウムなどの金属により形成されており、伝熱された熱を効率よく全体に拡散するものである。この熱伝導体32は、バッキング材26の背面つまり振動子22が配設された面の反対面に接着剤などにより接合され、この接合面から超音波射出方向の反対方向(以下、背面方向と称する。)に延在して設けられている。この熱伝導体32は、一方の側面32aがハウジング30の内側面30aの一部と接触可能に形成され、かつ、その側面32aの反対側に位置する側面32bは、ハウジング30の内側面30bに対峙して形成されている。また、熱伝導体32の側面32bに、電気回路基板34などを収納する収納空間42が形成されている。この収納空間42は、熱伝導体32の側面32bの延在方向に位置する部分が切削されることで形成されている。」 (引1c)「【0034】 ・・・ (実施形態2) 次に、熱伝導体がハウジングに接触する部分に熱伝導性物質を設けた第2の実施形態について図4を参照して説明する。図4は、第2の実施形態における超音波探触子の断面図を示している。図4に示すように、本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、熱伝導体32と熱伝導体32に接触するハウジング30の内側面30aとの間に、空気に比べて熱伝導率が高い物質からなる熱伝導性物質46を介在させたことにある。したがって、第1の実施形態と同様の機能及び構成を有する部品には同一の符号を付して説明を省略する。なお、熱伝導性物質46は、例えば、銀、銅、アルミニウムなどの金属粉を樹脂などに混入することによってグリース状に作製されたものである。 ・・・ 【0037】 ここで、熱伝導性物質46を設けることに加えて、ハウジング30の内面全体に渡って伝熱層47を設けるようにしてもよい。この伝熱層47は、銅やアルミニウムなどの熱伝導性を有する物質から形成されている。これにより、熱伝導体32の熱は、伝熱層47を介してハウジング30の内面全体に分散される結果、超音波探触子3aを効率よく冷却することができる。」 (引1d)「【0053】 ・・・ 【図面の簡単な説明】 ・・・ 【図4】第2の実施形態における超音波探触子の断面図である。 【図5】第2の実施形態における超音波探触子の他の構成例を示している。」 (引1e)図4は、以下のようなものである。 (引1f)図5は、以下のようなものである。 イ 引用文献1に記載された発明 上記(引1b)ないし(引1c)の下線部の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。 「探触子本体28、ハウジング30、熱伝導体32などを有して構成されている超音波探触子であって(【0022】段落)、 探触子本体28は、振動子22と、音響整合層24と、バッキング材26とを有して構成され、振動子22は、短冊状の振動子素子が複数配列されて形成され、その各振動子素子の超音波射出面に音響整合層24が接合して配設され、振動子22の振動子素子の超音波射出面の反対面つまり背面にバッキング材26が接合して配設され(【0023】段落)、 熱伝導体32は、バッキング材26の背面に接着剤などにより接合され(【0025】段落)、 ハウジング30は、縦長の角筒状に形成され(【0024】段落)、 熱伝導体32の一方の側面32aがハウジング30の内側面30aの一部と接触可能に形成され(【0025】段落)、 ハウジング30の内面全体に渡って伝熱層47を設けることにより、熱伝導体32の熱は、伝熱層47を介してハウジング30の内面全体に分散され、超音波探触子を効率よく冷却することができ、この伝熱層47は、銅やアルミニウムなどの熱伝導性を有する物質から形成される(【0037】段落)、 超音波探触子。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(国際公開第2009/083896号)には、以下の記載がある(日本語訳は、当審にて作成した。)。 (引2a)「Current transducer probes generally consist of a row of transducer elements, each of which is connected to a terminal of a transducer control assembly or application specific integrated circuit (ASIC) that processes signals transmitted to and received from the acoustic elements.」(第1頁17-20行目) (日本語訳)「現在のトランシュデューサプローブは、一般的に、トランスデューサ要素の列からなり、それぞれのトランスデューサ要素は、音響素子から発信又は受信された信号を処理するトランスデューサ制御アセンブリ又は特定用途用集積回路(ASIC)の端子に接続されています。」 (引2b)「An interposer consisting of a block of backing material with parallel signal tracks disposed therein could be used to interconnect terminals of the ASIC and signal lines connected to individual transducer elements.・・・ Using the previously disclosed interposer, a standardized ASIC could be used for different transducer array geometries.」(第2頁6-14行目) (日本語訳)「パラレル信号トラックがその中に配置されたバッキング材のブロックからなるインターポーザーを、別個のトランスデューサ要素に接続された信号線とASICの端子との内部接続に用いることができます。・・・上述のインターポーザーを用いることで、標準化されたASICを、異なるトランスデューサアレイの形状に対して適用することができます。」 3 対比・判断 (1)対比 ア A)、F)について 引用発明の「超音波探触子」は、本願発明の「超音波トランスデューサアレイプローブ」に相当する。 イ B)について 引用発明の「探触子本体28」における「短冊状の振動子素子」は、本願発明の「トランスデューサ要素」に相当するから、引用発明の「短冊状の振動子素子が複数配列されて形成され」る「振動子22」は、本願発明の「トランスデューサ要素のアレイ」に相当する。 そして、引用発明の「探触子本体28」は、「振動子22」「の各振動子素子の超音波射出面に音響整合層24が接合して配設され、振動子22の振動子素子の超音波射出面の反対面つまり背面にバッキング材26が接合して配設され」たものであるから、積層体すなわち「スタック」であるといえる。 したがって、引用発明の「振動子22と、音響整合層24と、バッキング材26とを有して構成され、振動子22は、短冊状の振動子素子が複数配列されて形成され、その各振動子素子の超音波射出面に音響整合層24が接合して配設され、振動子22の振動子素子の超音波射出面の反対面つまり背面にバッキング材26が接合して配設され」た「探触子本体28」と、本願発明の「トランスデューサアレイに関するASICに結合されるトランスデューサ要素のアレイを持つ、トランスデューサスタック」とは、「トランスデューサ要素のアレイを持つ、トランスデューサスタック」である点で共通する。 ウ C)について 引用発明における「熱伝導体32」は、「振動子22」の「バッキング材26の背面に接着剤などにより接合され」るものであり、当該「接着剤など」による「接合」が熱的な結合であることは、上記(引1a)で摘記した引用文献1における【0005】及び【0007】段落の下線部の記載等を参酌すれば、明らかである。 したがって、引用発明における「振動子22」の「バッキング材26の背面つまり振動子22が配設された面の反対面に接着剤などにより接合され」た「熱伝導体32」は、本願発明の「前記トランスデューサスタックに熱的に結合される熱伝導フレーム」に相当する。 エ D)について 引用発明の「ハウジング30」は、「縦長の角筒状に形成され」、その「内側面30aの一部」に「熱伝導体32の一方の側面32aが」「接触可能に形成され」るものであるから、「少なくとも前記フレームの部分を囲む」ことは明らかである。 また、引用発明の「ハウジング30」が、超音波検査時に手で持つためのハンドル部を有していることは明らかである。 したがって、引用発明のその「内側面30aの一部」に「熱伝導体32の一方の側面32aが」「接触可能に形成され」、「縦長の角筒状に形成され」た「ハウジング30」は、本願発明の「プローブハンドルを形成し、少なくとも前記フレームの部分を囲む筐体」に相当する。 オ E)について (ア)引用発明の「伝熱層47」は、「銅やアルミニウムなどの熱伝導性を有する物質から形成」されており、また、「熱伝導体32の熱」を「ハウジング30の内面全体に分散」するものであるので「熱伝導体32」及び「ハウジング30の内面」に対して熱的に結合していることは明らかであるから、本願発明の「前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダ」であって、「筐体の内側表面領域」に「熱的に結合される外側表面領域を示す」ものに相当する。 (イ)引用発明において「ハウジング30の内面全体に分散され」た熱が、ハウジングの外表面から外気へ放熱されることによって、「超音波探触子3aを」「冷却する」ものであることは、上記(引1a)で摘記した引用文献1の【0005】段落の下線部の記載を参酌すれば、明らかである。 したがって、引用発明の「熱伝導体32の熱は、伝熱層47を介してハウジング30の内面全体に分散され、超音波探触子3aを効率よく冷却することができる」ことは、本願発明の「前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたら」すことに相当する。 (ウ)引用発明の「伝熱層47」は、「ハウジング30の内面全体に渡って」「設け」られていることから、本願発明の「筐体の内側表面領域と位置合わせされ」「る外側表面領域を示す」ものであるといえる。 (エ)引用発明の「伝熱層47」は、「熱伝導体32の熱」を「ハウジング30の内面全体に分散」するものであって、熱を「ハウジング30の内面全体に分散」させることにより、「ハウジング30」の特定箇所が局所的に加熱されてできる高温の領域、すなわちホットスポット、が生成されないことは明らかである。 したがって、引用発明の「伝熱層47」は、本願発明の「前記筐体におけるホットスポットの生成を防止する」ことができるものである。 (オ)上記(ア)-(エ)から、引用発明の「銅やアルミニウムなどの熱伝導性を有する物質から形成され」、「熱伝導体32の熱は、伝熱層47を介してハウジング30の内面全体に分散され、超音波探触子を効率よく冷却することができ」る、「ハウジング30の内面全体に渡って」設けられた「伝熱層47」は、本願発明の「前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダであって、前記筐体におけるホットスポットの生成を防止するため、前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたらし、前記筐体の内側表面領域と位置合わせされ、これに熱的に結合される外側表面領域を示す、熱伝導性のヒートスプレッダ」に相当する。 カ 上記ア-オから、引用発明と本願発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 「 超音波トランスデューサアレイプローブであって、 トランスデューサ要素のアレイを持つ、トランスデューサスタックと、 前記トランスデューサスタックに熱的に結合される熱伝導フレームと、 プローブハンドルを形成し、少なくとも前記フレームの部分を囲む筐体と、 前記フレームに対して熱的に結合される熱伝導性のヒートスプレッダであって、前記筐体におけるホットスポットの生成を防止するため、前記ヒートスプレッダから前記筐体、それから前記筐体を通り空気への主要な熱伝導をもたらし、前記筐体の内側表面領域と位置合わせされ、これに熱的に結合される外側表面領域を示す、熱伝導性のヒートスプレッダと を有する、超音波トランスデューサアレイプローブ。」 <相違点> 「トランスデューサスタック」の「トランスデューサ要素のアレイ」について、本願発明は、「トランスデューサアレイに関するASICに結合される」ものであるのに対して、引用発明は、ASICを用いているか否かに関する特定がない点。 (2)判断 ア 相違点について 引用文献2にみられるように、超音波トランスデューサアレイプローブにおいて、トランスデューサアレイに関連するASICの端子をインターポーザーのブロックを介して個々のトランスデューサ要素に電気的に結合すること、及び標準化されたASICを異なるトランスデューサアレイの形状に対して適用することは、当業者に周知のものである。 引用発明における振動子素子の駆動に、上記周知のASICを採用することを阻害する要因はなく、また、標準化された部品を用いることで、製造コストの削減等の作用効果を期待できることは、当業者に自明のことであるから、引用発明においても、製造コストの削減等のために、標準化されたASICを用いることには、十分な動機があるといえる。 イ 本願発明の効果について 本願発明の効果は、引用発明及び周知のASICに関する技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。 ウ 小括 上記ア-イから、本願発明は、引用発明及び周知のASICに関する技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明及び原査定における他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-01-15 |
結審通知日 | 2018-01-16 |
審決日 | 2018-01-29 |
出願番号 | 特願2014-510915(P2014-510915) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門田 宏 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
▲高▼見 重雄 松岡 智也 |
発明の名称 | 受動的な熱放散を用いるマトリクス超音波プローブ |
代理人 | 笛田 秀仙 |
代理人 | 五十嵐 貴裕 |