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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1341022
審判番号 不服2017-16343  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-02 
確定日 2018-07-02 
事件の表示 特願2015-545379「二次電池のパラメーター推定装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/088299、平成28年 3月 3日国内公表、特表2016-506497、請求項の数(23)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年12月3日、2013年12月3日、いずれも大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月4日付けで手続補正がされ、同年11月30日付けで最後の拒絶理由通知がされ、平成29年3月2日付けで手続補正がされ、同年6月29日付けで、同年3月2日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がされ(送達日:同年7月3日)、これに対し、同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-25に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1-8,10-17,19-25
・引用文献1-2

・請求項9,18
・引用文献1-3

引用文献等一覧
1.特開2001-223033号公報
2.特開2004-271445号公報
3.特開2011-43460号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1-23に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明23」という。)は、平成29年11月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-23に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、本願発明9、本願発明18及び本願発明21は、それぞれ、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
二次電池及び前記二次電池のパラメーターを推定する装置を含むシステムにおいて、
前記二次電池は、2つ以上の正極材が混合された混合正極材を含み、前記2つ以上の正極材の混合比率は、前記二次電池の充電状態毎に測定した放電抵抗プロファイルで頂点を前後にして変曲点があるコンベックス(convex)パターンが現れるように選択され、
前記二次電池のパラメーターを推定する装置は、
前記二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される過程で測定制御信号に従って、複数の電流-電圧データを測定するセンサー手段と、
前記充電電流の大きさがピーク値から減少する間のみに前記測定制御信号を前記センサー手段に出力して前記センサー手段から前記複数の電流-電圧データの入力を受けて、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出し、前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する制御手段と、を含む
ことを特徴とするシステム。」

「 【請求項9】
二次電池及び前記二次電池のパラメーターを推定する装置を含むシステムにおいて、
前記二次電池は、2つ以上の正極材が混合された混合正極材を含み、前記2つ以上の正極材の混合比率は、前記二次電池の充電状態毎に測定した放電抵抗プロファイルで頂点を前後にして変曲点があるコンベックス(convex)パターンが現れるように選択され、
前記二次電池のパラメーターを推定する装置は、
前記二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される間に、時間間隔を置いて電流-電圧データを繰り返して測定するセンサー手段と、
前記センサー手段から前記電流-電圧データの入力を受けて、前記充電電流の大きさが前記ピーク値から減少する間のみに測定された複数の電流-電圧データを識別し、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出し、前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する制御手段と、を含む
ことを特徴とするシステム。」

「 【請求項18】
二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される過程で、前記充電電流の大きさが前記ピーク値から減少する間のみにセンサー手段に測定制御信号を出力する段階と、
前記センサー手段から前記測定制御信号に従って測定された複数の電流-電圧データの入力を受け、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出する段階と、
前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する段階と、を含み、
前記二次電池は、2つ以上の正極材が混合された混合正極材を含み、前記2つ以上の正極材の混合比率は、前記二次電池の充電状態毎に測定した放電抵抗プロファイルでコンベックス(convex)パターン(頂点を前後にして変曲点がある)が現れるように選択される
ことを特徴とする二次電池のパラメーター推定方法。」

「 【請求項21】
二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される間に、センサー手段が時間間隔を置いて繰り返して測定する電流-電圧データの入力を受ける段階と、
前記入力された電流-電圧データの中から、前記充電電流の大きさが前記ピーク値から減少する間のみに測定された複数の電流-電圧データを識別する段階と、
前記識別された複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出する段階と、
前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する段階と、を含み、
前記二次電池は、2つ以上の正極材が混合された混合正極材を含み、前記2つ以上の正極材の混合比率は、前記二次電池の充電状態毎に測定した放電抵抗プロファイルでコンベックス(convex)パターン(頂点を前後にして変曲点がある)が現れるように選択される
ことを特徴とする二次電池のパラメーター推定方法。」

なお、本願発明2-8及び17は請求項1の従属項に係る発明であり、本願発明10-16は請求項9の従属項に係る発明であり、本願発明19-20は請求項18の従属項に係る発明であり、本願発明22-23は請求項21の従属項に係る発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る電池システムは、電池と、電池の充放電電流を検出する電流検出装置と、電池の電池電圧を検出する電圧検出装置と、電池の温度を検出する温度検出装置と、一定周期毎に充放電電流と電池電圧と電池温度をサンプルするサンプラーとを有する。さらに本システムは、サンプル時間又は回数と充放電電流と電池電圧と温度を変数とし電池の起電圧や内部抵抗等の状態を推定する演算式を記憶した記憶装置と、演算式を用いて電池の状態を演算する状態演算装置とを有する。」

「【0015】
【発明の実施の形態】図3は電池の等価回路を示す図である。
【0016】図3(a)は電池の簡略化した等価回路モデルである。V+端子335とV-端子336はそれぞれ電池の正,負極端子、Eは電池の起電圧、Rは内部抵抗、Cは寄生容量、Rcは寄生容量の放電抵抗である。これらのうち、Eは残量に、Rは劣化に対応する。V+端子335?V-端子336間の電池電圧Vと、電池を流れる電流I、電池の筐体外部の温度Tは直接測定可能な状態量である。また、VcはCの分極電圧、IRは内部抵抗Rと充放電電流Iにより発生する電圧で、E,R,C,Rc,Vc等は直接測定が困難な状態量である。
【0017】電池の容量に対して十分に小さい電流で電池を充放電させる場合、VcやIRがEに対して十分に小さいため、V≒Eと近似する事ができる。しかし、大電流の場合はVcやIRが大きく、V≠Eとなる。
【0018】そこで、EやRを求めるには、先ずVcを電流履歴から推定してVを補正する(V′=V?Vc)。次にV′=IR+Eと近似し、切片と傾きからEとRを推定する。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 電池システムは、電池と、電池の充放電電流を検出する電流検出装置と、電池の電池電圧を検出する電圧検出装置と、電池の温度を検出する温度検出装置と、一定周期毎に充放電電流と電池電圧と電池温度をサンプルするサンプラーと、サンプル時間又は回数と充放電電流と電池電圧と温度を変数とし電池の起電圧や内部抵抗等の状態を推定する演算式を記憶した記憶装置と、演算式を用いて電池の状態を演算する状態演算装置とを有し(【0007】より。以下同様。)、
電池の簡略化した等価回路モデルにおいて、V+端子335とV-端子336はそれぞれ電池の正,負極端子、Eは電池の起電圧、Rは内部抵抗、Cは寄生容量、Rcは寄生容量の放電抵抗であって、これらのうち、Eは残量に、Rは劣化に対応し、V+端子335?V-端子336間の電池電圧Vと、電池を流れる電流I、電池の筐体外部の温度Tは直接測定可能な状態量であり、VcはCの分極電圧、IRは内部抵抗Rと充放電電流Iにより発生する電圧で、E,R,C,Rc,Vc等は直接測定が困難な状態量であり(【0016】)、
EやRを求めるには、先ずVcを電流履歴から推定してVを補正し(V′=V?Vc)、次にV′=IR+Eと近似し、切片と傾きからEとRを推定する(【0018】)
電池システム(【0007】)。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)などに搭載されて車両を駆動する電動機に電力を供給する二次電池に関し、特に、二次電池の内部抵抗や劣化の状態を正確に検出する技術に関する。」

「【0003】
このような車両においては、回生制動、すなわち、車両制動時に電動機を発電機として機能させ、車両の運動エネルギを電気エネルギに変換することにより制動する機能を備えている。ここで変換された電気エネルギは二次電池に蓄えられ、加速する時などに再利用される。」

「【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、HVなどで市街地を走行すると、充電と放電との切替えの頻度が高く、充放電電流値が大きく変動する特性を有する。二次電池の電極近傍においては、電解液の濃度勾配に起因して分極電圧が発生する。この分極電圧が表われると、電流-電圧特性を正確に把握することができないので、電池の内部抵抗値や残存容量を正確に算出できない。充電時および放電時のいずれの場合においても、充放電電流値の絶対値が増加する場合に、この分極電圧の影響が顕著に表われる。」

「【0012】
【課題を解決するための手段】
第1の発明に係る二次電池の内部抵抗検出装置は、電流と電圧との特性に基づいて、二次電池の内部抵抗値を検出する。この検出装置は、二次電池の電流値および電圧値を測定するための測定手段と、測定手段により測定された電流値の時間変化率を算出するための第1の算出手段と、時間変化率に基づいて電流値が0に向かう変化を検知すると、測定手段により測定された電流値および電圧値に基づいて、二次電池の内部抵抗値を算出するための第2の算出手段とを含む。
【0013】
第1の発明によると、測定手段により測定された電流値の時間変化率に基づいて、測定された電流値が0に向かうと判断されると(充電時の電流値を正、放電時に電流値を負とすると、充電電流値が減少したり、放電電流値が増加したりすると)、電流値および電圧値に基づいて、二次電池の内部抵抗値が算出される。
二次電池においては、その電極近傍の電解液の濃度勾配に起因して分極電圧が発生する。この分極電圧の影響は、充放電電流値が0から離れるときよりも充放電電流値が0に向かうときの方が、小さくなる。すなわち、充放電電流値の絶対値が増加するときに分極電圧の影響がより大きく表われることを示す。このため、充電時および放電時のいずれにおいても、電流値が0に向かうときは、電流値が0から離れるとき(すなわち、充放電電流値の絶対値が大きくなるとき)よりも、分極電圧の影響を少なくなるので、電流値および電圧値に基づいて算出される内部抵抗値の精度が高い。その結果、分極電圧を考慮して、二次電池の内部抵抗を正確に検出する二次電池の内部抵抗検出装置を提供することができる。」

「【0016】
第3の発明に係る二次電池の内部抵抗検出装置においては、第2の発明の構成に加えて、条件は、測定手段により測定された電流値の絶対値が予め定められた電流値以上であるという条件である。
【0017】
第3の発明によると、電流値の絶対値が予め定められた電流値以上であると(ピーク電流値がしきい値以上であると)、分極状態が安定する。このため、そのような条件を満足しているときに測定された電流値および電圧値に基づいて内部抵抗値を算出するので、内部抵抗値を精度を高く算出することができる。」

「【0037】
図3を参照して、本実施の形態に係る電池ECUが搭載される車両の充放電パターンを説明する。図3(A)に市街地走行モードにおける実際の充放電パターンの経時的変化を示す。図3(B)に、図3(A)の一部を拡大した電流の経時的変化を示す。図3(A)および図3(B)に示すように、ハイブリッド車両においては、走行中に充電モードと放電モードとが繰返し切換えられる。このため、図3(B)に示すように、放電電流が増加する状態(以下、この状態を充放電パターン(1)と記す。)、放電電流が減少し充電側に向かう状態(以下、この状態を充放電パターン(2)と記す。)、充電電流が増加する状態(以下、この状態を充放電パターン(3)と記す。)、充電電流が減少して放電側に向かう状態(以下、この状態を充放電パターン(4)と記す。)の4つの状態に大きく分けることができる。
【0038】
すなわち、図3(C)に示すように、ハイブリッド車両がエンジン2100のトルクのみでの走行が困難になり、モータ2600によりエンジン2100のトルク不足をアシストするために、電池ユニット2400からインバータ2300を介してモータ2600に電力が供給され、車両が加速する。この状態が、前述の(1)の状態である。このような状態で車両の運転者がブレーキを踏むなどすると、モータ2600がジェネレータとして機能して回生制動が実行される。その結果、図3(C)に示すように、放電状態から充電状態に移行する。このように、図3(A)?(C)に示すように、ハイブリッド車両の市街地における走行においては、三角波形で充放電電流の状態を模擬することができる。」

(【図3】)

「【0039】
図4を参照して、本実施の形態に係る電池ECU2422において電池モジュール2412の内部抵抗値が算出されるタイミングについて説明する。
【0040】
図4に示すように、本実施の形態に係る電池ECU2422において電池モジュール2412の内部抵抗値が算出されるのは、充電時における電流値が充電電流しきい値(+Ith)よりも大きい状態から電流値が0に向かう状態(ΔI<0)または放電時の電流値が放電電流しきい値(-Ith)よりも小さい状態から電流値が0に向かう状態(ΔI>0)のいずれかの場合である。すなわち、本発明の実施の形態に係る電池ECU2422においては、充電時であっても放電時であっても、その電流値の絶対値がしきい値以上になって、その後電流値が0に向かう変化が継続して検知されると、電流-電圧特性に基づいて電池モジュール2412の内部抵抗値を算出するものである。
【0041】
充電時および放電時において、電池モジュール2412の内部抵抗値を算出するタイミングは、電流値の絶対値が予め定められたしきい値より大きいタイミングである理由について説明する。
【0042】
図5および図6に示すように、ピーク電流値と内部抵抗値との関係は、ピーク電流値が大きいほど内部抵抗値のばらつきが小さくなる傾向を有する。すなわち、ピーク電流値(内部抵抗値の算出時における最大電流値)によって、算出される内部抵抗値が変動するが、予め定められたしきい値以上の電流値ではこの変動が小さくなる。たとえば、図5に示すように、ピーク電流値がたとえば50A以上においては算出される電池モジュール2412の内部抵抗値は、電流変化速度(ΔI)によらずばらつきが小さくなる。また、図6に示すように、ピーク電流値が50A以上であると市街地、登坂路、高速道路および国道のいずれにおいても、算出された電池モジュール2412の内部抵抗値のばらつきが小さくなることがわかる。
【0043】
次に、図7を参照して、電流変化速度と内部抵抗値との関係について説明する。図7に示すように、電流変化速度の電流変化速度(ΔI)の絶対値の変化の影響は、電流値が0Aに向いて変化する場合の方が、電流が0Aから離れるように変化する場合に比べてその影響は小さい。すなわち、放電時において放電から充電に向かう場合、充電時において充電から放電に向かう場合のいずれの場合においても、電流値は0Aに向いて変化するが、その場合、図7の充放電パターン(2)および(4)に示すように、電流変化速度の変化に対する内部抵抗値のばらつきの度合いが小さい。一方、電流が0Aから離れるように変化する場合には、電流変化速度の変化に対して内部抵抗値が大きく変化する。
【0044】
すなわち、図5?図7に示したように、本実施の形態に係る電池ECU2422は、充電時であっても放電時であっても、その電流値の絶対値(ピーク電流値)が予め定められたしきい値以上になって、その後電流値が0に向かう変化が検知した場合に電池モジュール2412の内部抵抗値を算出する。その結果、図4に示すような丸印のタイミングで電池モジュール2412の内部抵抗値が算出される。」

「【0069】
以上のようにして、本実施の形態に係る電池ECUによると、電流検出回路により検出された電流値の時間変化率に基づいて、測定された電流値が0に向かうと判断されると(すなわち充電時の電流値を正とし放電時の電流値を負として、充電電流値が減少したり放電電流値が増加したりすると)、測定された電流値および電圧値に基づいて、電池モジュールの内部抵抗値が算出される。二次電池において、その電極近傍の電解液の濃度勾配に起因して分極電圧が発生するが、この分極電圧の影響が、充放電電流値が0から離れるときよりも充放電電流値が0に向かうときの方が小さくなる。さらに、充放電電流値の絶対値が予め定められた電流しきい値以上であると、電流変化速度ΔIの影響を受けにくくなる。その結果、充電時および放電時のいずれにおいても、ピーク電流値の絶対値が予め定められたしきい値以上であって、その後電流値が0に向かうときには、分極電圧の影響および電流変化速度の影響を少なくできるので、電流値および電圧値に基づいて算出される内部抵抗値の精度が高くなる。その結果、分極電圧や電流の変化速度を考慮して、二次電池の内部抵抗を正確に検出するとともに、正確に検出された内部抵抗値に基づいて電池の劣化を判定することができる。」

したがって、上記引用文献2には、「二次電池の内部抵抗や劣化の状態を正確に検出する技術に関し(【0001】より。以下同様。)、電池ECUが搭載される車両の充放電パターンにおいては、走行中に充電モードと放電モードとが繰返し切換えられ、放電電流が増加する状態、放電電流が減少し充電側に向かう状態、充電電流が増加する状態、充電電流が減少して放電側に向かう状態の4つの状態に大きく分けられ(【0037】)、充電時であっても放電時であっても、その電流値の絶対値がしきい値以上になって、その後電流値が0に向かう変化が継続して検知されると、電流-電圧特性に基づいて電池モジュール2412の内部抵抗値を算出する(【0040】)」という技術的事項(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、段落【0005】、【0042】より、概略、二次電池の正極に、Li-Ni-Mn-Co複合酸化物とコバルト酸リチウムとの混合物を用いたり、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等の混合物を用いたりする周知技術が記載されていると認められる。

4.周知例1について
また、補正の却下の決定において周知技術を示す文献として引用された周知例1(特開2011-018547号公報)には、以下のように記載されている。

「【0076】
本実施例1のリチウムイオン二次電池100では、正極活物質153の主成分(具体的には、80wt%)として、2相共存型の充放電を行う第1正極活物質を含み、正極活物質153の副成分(具体的には、20wt%)として、2相共存型の充放電を行う第2正極活物質を含んでいる。なお、本実施例1では、第1正極活物質としてLiMnPO_(4)を用い、第2正極活物質としてLiFePO_(4)を用いている。従って、正極活物質153は、80wt%のLiMnPO_(4)と20wt%のLiFePO_(4)により構成されている。
また、負極活物質154として、炭素材料(詳細には、天然黒鉛)を用いている。」

「【0083】
次に、本実施例1のリチウムイオン二次電池100を放電させたときの電池電圧変動曲線(放電深度と電池電圧値の関係を表す曲線)を、図10に示す。図10に示すように、リチウムイオン二次電池100では、放電させたときの電池電圧変動曲線において、第1放電フラット部FDA1と、第2放電フラット部FDB2と、第1放電フラット部FDA1から第2放電フラット部FDB2に至るまでの範囲にわたって電池電圧値が低下する電圧低下部DVとが現れる。」

(図10)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明では、「電池の充放電電流を検出する」とされており、「充放電」が行われる電池が二次電池であることは明らかといえるから、引用発明における「電池」は、本願発明1における「二次電池」に相当する。

イ 引用発明における「電池の充放電電流を検出する電流検出装置」及び「電池の電池電圧を検出する電圧検出装置」並びに「一定周期毎に充放電電流と電池電圧」「をサンプルするサンプラー」は、本願発明1における「電流-電圧データを測定するセンサー手段」に相当する。
そして、引用発明において「一定周期毎に」「サンプル」された「充放電電流と電池電圧」は、「複数の電流-電圧データ」であるといえる。
したがって、引用発明における「電池の充放電電流を検出する電流検出装置」及び「電池の電池電圧を検出する電圧検出装置」並びに「一定周期毎に充放電電流と電池電圧」「をサンプルするサンプラー」は、本願発明1における「前記二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される過程で測定制御信号に従って、複数の電流-電圧データを測定するセンサー手段」と、「複数の電流-電圧データを測定するセンサー手段」である点で共通する。

ウ 引用発明では、「サンプル時間又は回数と充放電電流と電池電圧と温度を変数とし電池の起電圧や内部抵抗等の状態を推定する演算式を記憶した記憶装置」及び「演算式を用いて電池の状態を演算する状態演算装置」における具体的な計算について、「Eは電池の起電圧、Rは内部抵抗、Cは寄生容量」、「電池電圧V」、「電池を流れる電流I」、「VcはCの分極電圧」、「IRは内部抵抗Rと充放電電流Iにより発生する電圧」として、「先ずVcを電流履歴から推定してVを補正し(V′=V?Vc)、次にV′=IR+Eと近似し、切片と傾きからEとRを推定する」とされているところ、引用発明において「V′=IR+Eと近似」することは、本願発明1における「電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出」することに相当する。
また、引用発明における「電池の起電圧」「E」は、本願発明1における「開放電圧」に相当し、引用発明における「V′=IR+Eと近似し、切片」「からE」「を推定する」ことは、本願発明1における「前記近似線形方程式のY切片を」「開放電圧として推定する」ことに相当する。
したがって、上記ア、イでの検討もふまえると、引用発明における、「電池の充放電電流を検出する電流検出装置」や「電池の電池電圧を検出する電圧検出装置」と協働して「一定周期毎に充放電電流と電池電圧」「をサンプルするサンプラー」によって「一定周期毎に」「サンプル」された「充放電電流と電池電圧」に対して、「V′=IR+Eと近似し、切片」「からE」「を推定する」「記憶装置」及び「状態演算装置」は、本願発明1における「前記充電電流の大きさがピーク値から減少する間のみに前記測定制御信号を前記センサー手段に出力して前記センサー手段から前記複数の電流-電圧データの入力を受けて、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出し、前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する制御手段」と、「前記センサー手段から前記複数の電流-電圧データの入力を受けて、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出し、前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する手段」である点で共通する。

エ 上記アでの検討をふまえると、引用発明における「電池の起電圧や内部抵抗等の状態」は本願発明1における「二次電池のパラメーター」に相当し、引用発明における「電池の起電圧や内部抵抗等の状態を推定する演算式」「を用いて電池の状態を演算する」ことは、本願発明1における「二次電池のパラメーターを推定する」ことに相当する。そして、引用発明において「電池の起電圧や内部抵抗等の状態を推定する演算式」「を用いて電池の状態を演算する」動作主体が、本願発明1における「二次電池のパラメーターを推定する装置」に相当する。
また、引用発明における「電池システム」は本願発明1における「システム」に相当する。

してみると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 二次電池及び前記二次電池のパラメーターを推定する装置を含むシステムにおいて、
前記二次電池のパラメーターを推定する装置は、
複数の電流-電圧データを測定するセンサー手段と、
前記センサー手段から前記複数の電流-電圧データの入力を受けて、前記複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出し、前記近似線形方程式のY切片を前記二次電池の開放電圧として推定する手段と、を含む
システム。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1では「前記二次電池は、2つ以上の正極材が混合された混合正極材を含み、前記2つ以上の正極材の混合比率は、前記二次電池の充電状態毎に測定した放電抵抗プロファイルで頂点を前後にして変曲点があるコンベックス(convex)パターンが現れるように選択され、」と特定されているのに対し、引用発明では電池の正極材について特定されていない点。
(相違点2)本願発明1では、「センサー手段」が「前記二次電池の動作モードが放電モードから充電モードに変更された後、充電電流の大きさがピーク値まで増加してから減少するパターンで前記二次電池が充電される過程で測定制御信号に従って、複数の電流-電圧データを測定する」のに対して、引用発明では「電流検出装置」及び「電圧検出装置」がどのような状況のときに充放電電流と電池電圧を検出するのか不明な点。
(相違点3)本願発明1では、「制御手段」が「前記充電電流の大きさがピーク値から減少する間のみに前記測定制御信号を前記センサー手段に出力」するのに対して、引用発明では「サンプラー」が「一定周期毎に充放電電流と電池電圧」「をサンプルする」と特定されるのみで、どのような状況のときにどのように制御が行われてデータが測定されるのか不明な点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3を検討する。
引用文献2、3には、上記相違点3に係る本願発明1の構成は記載も示唆もされていない。また、周知例1に関しても同様である。
引用文献2に記載された技術的事項は、「電流値の絶対値がしきい値以上になって、その後電流値が0に向かう変化が継続して検知されると、電流-電圧特性に基づいて電池モジュール2412の内部抵抗値を算出する」、というものであって、上記相違点3に係る本願発明1の構成と、「電流の大きさがピーク値から減少する間のみ」の電流-電圧データを用いる、という点で一部共通はするものの、引用文献2に記載された技術的事項は、「充電時であっても放電時であっても、その電流値の絶対値がしきい値以上になって、その後電流値が0に向かう変化が継続して検知されると、・・・内部抵抗値を算出する」というものであるから、上記相違点3に係る本願発明1の構成のように「充電電流の大きさがピーク値から減少する間のみに・・・出力」するものであるとまではいえない。
したがって、上記相違点1、2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明18について
本願発明18は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の上記相違点3に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明9、21について
本願発明9、21は、「複数の電流-電圧データから電流と電圧との間の相関関係を現す近似線形方程式を算出」するにあたって、「前記充電電流の大きさが前記ピーク値から減少する間のみに測定された複数の電流-電圧データを識別」する、という、本願発明1の上記相違点3に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明2-8、10-17、19-20、22-23について
本願発明2-8及び17は請求項1の従属項に係る発明であり、本願発明2-8及び17は、本願発明1の上記相違点3に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
また、本願発明19-20は請求項18の従属項に係る発明であり、本願発明19-20は、上記2.で示した本願発明1の上記相違点3に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
さらに、本願発明10-16は請求項9の従属項に係る発明であり、本願発明22-23は請求項21の従属項に係る発明であり、本願発明10-16、22-23は、上記3.で示した本願発明1の上記相違点3に係る構成に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
以上のとおりであって、本願発明1-23は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-15 
出願番号 特願2015-545379(P2015-545379)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 仁之川瀬 正巳  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 清水 稔
中村 説志
発明の名称 二次電池のパラメーター推定装置及び方法  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  
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