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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1341032
異議申立番号 異議2016-700577  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-24 
確定日 2018-03-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5837086号発明「スノータイヤトレッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5837086号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の[請求項1?9]について訂正することを認める。 特許第5837086号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5837086号(設定登録時の請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)は、平成23年11月24日(パリ条約による優先権主張 2010年11月26日 フランス共和国(FR))を国際出願日とする特願2013-540351号に係るものであって、平成27年11月13日に設定登録された。
特許異議申立人 鈴木説子(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成28年6月24日(受理日:同年6月27日)、本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成28年10月12日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、平成29年1月16日付け(受理日:同月17日)で、訂正請求書(この訂正請求は、後の訂正請求がなされたことによって取り下げられたものとみなされる。(特許法第120条の5第7項))及び意見書を提出したので、同年1月26日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人から、同年3月2日付け(受理日:同月6日)で意見書が提出され、同年4月26日付けで取消理由<決定の予告>を通知したところ、特許権者は、同年8月7日付け(受理日:同月8日)で、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、同年8月21日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、同年9月25日付け(受理日:同月27日)で異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1ないし6のとおりである。なお、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするスノータイヤ:
・少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持する20?100phrの第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?80phrの第2ジエンエラストマー:
・100?160phrの補強用無機充填材;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bの液体可塑剤;
・50phrよりも多い総含有量A+B。」
とあるのを
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするスノータイヤ:
・少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む、40?100phrの第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?60phrの第2ジエンエラストマー:
・補強用無機充填材として、105?140phrのシリカ;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bの液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤;
・50phrよりも多い総含有量A+B。」
に訂正する。

訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記第1エラストマーが、ビニル芳香族単位、好ましくはスチレン単位も含む、請求項1記載のタイヤ。」
とあるのを
「前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、前記第1ジエンエラストマーの含有量が40?60phrであり、前記第2ジエンエラストマーの含有量が60?40phrである、請求項1記載のタイヤ。」
に訂正する。

訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記第1エラストマーが、ブタジエン単位を含む、請求項1または2記載のタイヤ。」
とあるのを
「前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、MESオイル、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1または2記載のタイヤ。」
に訂正する。

訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「前記第2ジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれる、請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。」
とあるのを
「前記第2ジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれ、前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。」
に訂正する。

訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「補強用無機充填剤の含有量が、100?150phrの範囲内にある、請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。」
とあるのを
「補強用無機充填剤の含有量が、105?140phrの範囲内にあり、
前記組成物が硫酸マグネシウム微粒子を含む場合を除く、
請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。」
に訂正する。

訂正事項6
明細書の段落【0049】の
「補強用無機充填剤の含有量は、105?150phr、さらに有利には110?140phrの範囲である。」を
「補強用無機充填剤の含有量は、100?150phr、さらに有利には105?140phrの範囲である。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項等

(1) 訂正事項1について

ア この訂正のうち、訂正前の請求項1の第1ジエンエラストマーとして、「少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持する20?100phrの第1ジエンエラストマー」との特定であったものを、訂正後の請求項1において「スチレン単位及びブタジエン単位を含む、」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項1に係る発明における第1ジエンエラストマーをより具体的に特定し、更に限定するものである。

イ この訂正のうち、訂正前の請求項1における第1ジエンエラストマーの内容量が「20?100phr」との特定であったものを、訂正後の請求項1において「40?100phr」とする訂正部分は、第1ジエンエラストマーの内容量を減縮するものである。

ウ この訂正のうち、訂正前の請求項1における第2ジエンエラストマーの内容量が「0?80phr」との特定であったものを、訂正後の請求項1において「0?60phr」とする訂正部分は、第2ジエンエラストマーの内容量を減縮するものである。

エ この訂正のうち、訂正前の請求項1における補強用無機充填材の内容量が「100?160phr」との特定であったものを、訂正後の請求項1において「105?140phr」としている訂正部分は、補強用無機充填材の内容量を減縮するものである。

オ この訂正のうち、訂正前の請求項1における補強用無機充填材は種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項1において「補強用無機充填材として」「シリカ」としている訂正部分は、補強用無機充填材の種類を具体的に特定し、更に限定するものである。

カ この訂正のうち、訂正前の請求項1において「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項1において「シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項1に係る発明における「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

キ この訂正のうち、訂正前の請求項1において「液体可塑剤」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項1において「液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項1に係る発明における「液体可塑剤」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

ク 以上のことから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、しかも、この点については、願書に添付した明細書の段落【0033】、【0037】、【0038】、【0046】、【0049】、【0068】、【0074】に記載がある。そして、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

ケ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 訂正事項2について

ア この訂正のうち、訂正前の請求項2における「第1エラストマー」との記載を「第1ジエンエラストマー」とする訂正部分は、誤記の訂正を目的とするものである。

イ この訂正のうち、訂正前の請求項2における第1エラストマーが、「ビニル芳香族単位、好ましくはスチレン単位も含む」であったものを、訂正後の請求項2において「スチレン単位及びブタジエン単位を含み」とする訂正部分は、訂正後の請求項2において、第1ジエンエラストマーをより具体的に特定し、更に限定するものである。

ウ この訂正のうち、訂正前には第1ジエンエラストマー及び第2ジエンエラストマーの配合量は特定していなかったものを、訂正後の請求項2において「前記第1ジエンエラストマーの含有量が40?60phrであり、前記第2ジエンエラストマーの含有量が60?40phrである」点を特定した訂正部分は、第1ジエンエラストマー及び第2ジエンエラストマーの配合量を減縮するものである。

エ そうすると、訂正事項2は、誤記の訂正及び特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、しかも、この点については、願書に添付した明細書の段落【0033】、【0037】、【0038】、【0103】に記載がある。そして、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

オ よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3) 訂正事項3について

ア この訂正のうち、訂正前の請求項3における「第1エラストマー」との記載を「第1ジエンエラストマー」とする訂正部分は、誤記の訂正を目的とするものである。

イ この訂正のうち、訂正前の請求項3における第1エラストマーが、「ビニル芳香族単位、好ましくはスチレン単位も含む」であったものを、訂正後の請求項3において「スチレン単位及びブタジエン単位を含み」とする訂正部分は、訂正後の請求項3において、第1ジエンエラストマーをより具体的に特定し、更に限定するものである。

ウ この訂正のうち、訂正前には請求項3において「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項3において「前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項3に係る発明における「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

エ この訂正のうち、訂正前には請求項3において「液体可塑剤」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項3において「前記液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、MESオイル、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項3に係る発明における「液体可塑剤」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

オ そうすると、訂正事項3は、誤記の訂正及び特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、しかも、この点については、願書に添付した明細書の段落【0033】、【0068】、【0074】に記載がある。そして、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

カ よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4) 訂正事項4について

ア この訂正のうち、訂正前の請求項7において「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項7において「前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項7に係る発明における「20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

イ この訂正のうち、訂正前の請求項7において「液体可塑剤」の種類について何も特定していなかったものを、訂正後の請求項7において「前記液体可塑剤が、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、」との記載を加えた訂正部分は、訂正後の請求項7に係る発明における「液体可塑剤」をより具体的に特定し、更に限定するものである。

ウ そうすると、訂正事項4は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、しかも、この点については、願書に添付した明細書の段落【0068】【0074】に記載がある。そして、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

エ よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(5) 訂正事項5について

ア この訂正のうち、訂正前の請求項9において、補強用無機充填材の内容量が「100?150phr」であることを特定したものを、訂正後の請求項9は、より限定された範囲である「105?140phr」とした訂正部分は、訂正後の請求項9に係る発明における補強用無機充填材の内容量を減縮するものである。

イ この訂正のうち、訂正前の請求項9において、硫酸マグネシウム微粒子を含む組成物を除外していなかったものを、訂正後の請求項9において「前記組成物が硫酸マグネシウム微粒子を含む場合を除く、」との記載を加えた訂正部分は、組成物について、硫酸マグネシウム微粒子を含むものを除外することで、特許請求の範囲を減縮するものであり、新たな技術的事項を導入するものでもない。

ウ そうすると、訂正事項5は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、しかも、この点については、願書に添付した明細書の段落【0049】に記載がある。そして、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

エ よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(6) 訂正事項6について

ア 訂正事項6は、明細書の段落【0049】の「有利には、補強用無機充填剤の含有量は、105?150phr、さらに有利には110?140phrの範囲である。」との誤訳を「有利には、補強用無機充填剤の含有量は、100?150phr、さらに有利には105?140phrの範囲である。」に訂正するものであるから、誤記または誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、当該訂正事項6は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
加えて、補強用無機充填材の含有量は、請求項1に記載されている事項であることから、全ての請求項を対象とする訂正であり、訂正事項6は、全ての請求項について行われている。

イ よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項に適合するものである。

(7) 一群の請求項について

訂正事項1は、訂正前の独立請求項である請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2ないし9は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものである。そして、訂正事項2は、訂正前の請求項2を訂正し、訂正事項3は、訂正前の請求項3を訂正し、訂正事項4は、訂正前の請求項7を訂正し、訂正事項5は、訂正前の請求項9を訂正するものであって、訂正事項6は訂正前の請求項1の記載に関係する記載であるから、訂正事項1ないし6は、訂正前の請求項1ないし9という一群の請求項ごとに請求されており、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?9]について、訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、平成29年8月7日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするスノータイヤ:
・少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む、40?100phrの第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?60phrの第2ジエンエラストマー:
・補強用無機充填材として、105?140phrのシリカ;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bの液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤;
・50phrよりも多い総含有量A+B。
【請求項2】
前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、前記第1ジエンエラストマーの含有量が40?60phrであり、前記第2ジエンエラストマーの含有量が60?40phrである、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、MESオイル、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
Rが水素である、請求項1?3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項5】
Rがアルキルである、請求項1?3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第1ジエンエラストマーが、少なくとも1個のアミン官能基も含む、請求項1?5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第2ジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれ、前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第2ジエンエラストマーが、少なくとも1個のスズ官能基を担持する、請求項1?7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
補強用無機充填剤の含有量が、105?140phrの範囲内にあり、
前記組成物が硫酸マグネシウム微粒子を含む場合を除く、
請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。」

第4 取消理由<決定の予告>の概要

平成29年4月26日付けで通知した取消理由<決定の予告>は、次の2つである。

【理由1】本件特許の請求項1?9についての特許は、同各項の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(取消理由1)
【理由2】本件特許の請求項1?9についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(取消理由2)

第5 当審の判断

当審は、以下述べるように、上記取消理由1及び2には、依然として理由があると判断する。

1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について

(1) 本件特許明細書の記載

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

ア 「【0001】
・・・
【背景技術】
【0002】
白地(white ground)と称する積雪地面は、低摩擦係数を有するという特徴を有し、低ガラス転移温度(Tg)を有するジエンゴム組成物をベースとするトレッドを含むスノータイヤの開発に至っている。しかしながら、そのようなトレッドを含むこれらタイヤの湿潤地面上でのグリップ性能は、タイヤトレッドが、一般に、異なる配合を有し、特に高めのTgを有するゴム組成物をベースとする車道タイヤの性能よりも一般的に劣っている。
【0003】
上記から、冬季タイヤの湿潤地面上でのグリップ性能をさらに改良するが、一方では、積雪上でのグリップ性能を悪化させないことが、タイヤ製造業者の不変の目的である。
【発明の概要】
【0004】
研究の継続中に、本出願人等は、予期に反して、ある種の官能性ジエンエラストマー、補強用無機充填剤および特定の可塑化系の組合せ使用がスノータイヤの湿潤地面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性を低下させることなくさらに改良することを可能にすることを見出した。」

イ 「【0010】
I‐1. ジエンエラストマー
“ジエン”エラストマー(または“ゴム”、2つの用語は同義であるとみなす)は、ジエンモノマー(共役型であってもまたはなくてもよい2個の炭素‐炭素二重結合を担持するモノマー)に少なくとも一部由来する1種以上のエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきである。
【0011】
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー、即ち、“本質的に不飽和”または“本質的に飽和”に分類し得る。一般に、“本質的に不飽和”なる表現は、15%(モル%)よりも多いジエン由来(共役ジエン)の単位含有量を有する、共役ジエンモノマーに少なくとも一部由来するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい;従って、ブチルゴム、またはEPDMタイプのジエンとα‐オレフィンとのコポリマーのようなジエンエラストマーは、上記の定義に属さず、特に、“本質的に飽和”のジエンエラストマー(低いまたは極めて低い、常に15%よりも低いジエン由来の単位含有量)として説明し得る。“本質的に不飽和”のジエンエラストマーのカテゴリーにおいては、“高不飽和”のジエンエラストマーなる表現は、特に、50%よりも多いジエン由来(共役ジエン)の単位含有量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0012】
本発明は任意のタイプのジエンエラストマーに当てはまるけれども、タイヤ技術における熟練者であれば、本発明は、好ましくは、本質的に不飽和のジエンエラストマーでもって使用することを理解されたい。
これらの定義を考慮すれば、本発明に従う組成物において使用することのできるジエンエラストマーなる表現は、特に、下記を意味するものと理解されたい:
(a) 好ましくは4?12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー;
(b) 1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは好ましくは8?20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマー。
【0013】
以下は、共役ジエン類として特に適している:1,3‐ブタジエン;2‐メチル‐1,3‐ブタジエン;例えば、2,3‐ジメチル‐1,3-ブタジエン、2,3‐ジエチル‐1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐3‐エチル‐1,3‐ブタジエンまたは2‐メチル‐3‐イソプロピル‐1,3‐ブタジエンのような2,3‐ジ(C1?C5アルキル)‐1,3‐ブタジエン;アリール‐1,3‐ブタジエン;1,3‐ペンタジエンまたは2,4‐ヘキサジエン。以下は、例えば、ビニル芳香族化合物として適している:スチレン;オルソ‐、メタ‐またはパラ‐メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレン。
【0014】
上記コポリマーは、99?20質量%のジエン単位と1?80質量%のビニル芳香族単位を含み得る。
さらに好ましくは、ポリブタジエン(BR) (特に、90%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエン)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマーおよびこれらエラストマーのブレンドからなる群から選ばれる第1ジエンエラストマーを使用する;そのようなコポリマーは、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)およびそのようなコポリマーのブレンドからなる群から選ばれる。
【0015】
以下が適している:ポリブタジエン、特に、4%と80%の間の1,2‐単位含有量(モル%)を有するポリブジエンまたは80%よりも多いシス‐1,4‐単位含有量(モル%)を有するポリブタジエン;ポリイソプレン;ブタジエン/スチレンコポリマー、特に、0℃と-80℃の間の間のTg (ガラス転移温度(Tg)、ASTM D3418に従い測定)、5質量%と60質量%の間、特に10質量%と50質量%の間のスチレン含有量、4%と75%の間のブタジエン成分1,2‐結合含有量(モル%)および10%と80%の間のトランス‐1,4‐結合含有量(モル%)を有するコポリマー。
【0016】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、-80℃?-35℃、好ましくは-70℃?-40℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
上記第1ジエンエラストマーは、使用する重合条件、特に、変性剤および/またはランダム化剤の存在または不存在並びに使用する変性剤および/またはランダム化剤の量に依存する任意のミクロ構造を有し得る。このエラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、分散液中または溶液中で調製し得る。
【0017】
本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物の本質的特徴は、少なくとも1個(即ち、1個以上)のSiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーを含むことである;Rは、水素、または炭化水素基、特に、好ましくは1?12個の炭素原子を有するアルキル、特に、メチルまたはエチルである。
【0018】
“炭化水素基”なる表現は、炭素および水素原子から本質的になる1価の基を意味する;そのような基は、少なくとも1個のヘテロ原子を含むことは可能であり、炭素および水素原子によって形成される集合体が炭化水素基内で主要な数的画分を示すことが判明している。
【0019】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、上記炭化水素基は、1?12個の炭素原子を有する、より好ましくは1?6個の炭素原子を有する、さらにより好ましくは1?4個の炭素原子を有する枝分れ、線状または環状アルキル、特に、メチルまたはエチルである。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、基Rは、特に2?8個の炭素原子を有するアルコキシアルキルである。
本出願においては、“SiOR官能基”なる表現は、少なくとも1個のSiOR官能基、即ち、1個以上のSiOR官能基を示すのに使用する。
【0020】
一般に、エラストマーが担持する官能基は、3つの可能性ある形態に従って、即ち、エラストマー鎖に沿ってペンダント基として、エラストマー鎖の1末端に或いは実際のエラストマー鎖内(即ち、末端ではない)に位置し得る。後者の例は、特に、エラストマーを、当該官能基を付与するカップリング剤または星型枝分れ化剤を使用して官能化する場合に生じる。
【0021】
特に、上記第1ジエンエラストマーが担持するSiOR官能基は、エラストマー鎖に沿ってペンダント基として、エラストマー鎖の1末端に或いは実際のエラストマー鎖内に位置し得る。上記エラストマーが複数のSiOR官能基を担持する場合、これらの基は、上記の形態のどれかを占める。
【0022】
上記第1ジエンエラストマーは、線状、星型枝分れまたは枝分れポリマーであり得る。上記第1ジエンエラストマーは、線状ポリマーである場合、カップリングさせてもまたはさせなくてもよい。このエラストマーは、単峰性、二峰性または多峰性分子量分布を有し得る。
【0023】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、主として、線状形である、即ち、第1ジエンエラストマーが星型枝分れまたは枝分れ鎖を含む場合、これらの鎖は、このエラストマーにおいては少量質量画分を示す。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、アニオン重合によって調製する。
【0024】
1つの特に好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、式SiOH (Rが水素である)を有する“シラノール”官能基と称する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する。
そのような定義に相応するジエンエラストマーは、周知であり、例えば、文献EP 0 778 311 B1号、WO 2008/141702号、WO 2006/050486号、EP 0 877 047 B1号またはEP 1 400 559 B1号に記載されている。シラノール官能基SiOHは、好ましくは、ジエンエラストマー鎖の末端に、特にジメチルシラノール基‐SiMe_(2)SiOHの形で位置する。
【0025】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、シラノール官能基は、例えば特許EP 0 778 311 B1号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリシロキサンに結合させ得る。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、シラノール官能基は、例えば出願2009/000750号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリエーテルに結合させ得る。
【0026】
もう1つの特に好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、式SiOR (式中、Rは炭化水素基である)を有する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する。
また、そのような定義に相応するジエンエラストマーも、周知であり、例えば、文献JP 63‐215701号、JP 62‐227908号、US 5 409 969号またはWO 2006/050486号に記載されている。
【0027】
1つの特定の実施態様によれば、SiOR官能基(Rは炭化水素基である)、特に、アルコキシシラン官能基は、例えば出願2009/000750号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリエーテルに結合させ得る。
【0028】
もう1つの特に好ましい実施態様によれば、式SiOR (式中、Rは、水素または炭化水素基である)を有する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する第1ジエンエラストマーは、SiOR官能基とは異なる少なくとも1個(即ち、1個以上)の他の官能基も担持する。この他の官能基は、好ましくは、エポキシ、スズまたはアミン官能基からなる群から選ばれ、アミンは、第一級、第二級または第三級アミンであり得る。アミン官能基は、特に好ましい。
【0029】
SiOR官能基とエポキシ官能基の双方を担持するエラストマーは、例えば、特許EP 0 890 607 B1号およびEP 0 692 492 B1号に記載されている。SiOR官能基とスズ官能基の双方を担持するエラストマーは、例えば、特許EP 1 000 970 B1号に記載されている。
【0030】
より好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーが担持するこの他の官能基は、アミン官能基、さらに好ましくは第三級アミンである。
アミン官能基は、エラストマー鎖のSiOR官能基と同じ末端(または複数の同じ末端)上に位置し得る。同じ鎖末端上にSiOR官能基とアミン官能基を有するエラストマーは、例えば、特許または特許出願EP 1 457 501 B1号、WO 2006/076629号、EP 0 341 496 B1号またはWO 2009/133068号に或いはWO 2004/111094号に記載されている。
【0031】
アルコキシシラン官能基とアミン官能基を担持するエラストマーの合成を生じさせる官能化剤としては、例えば、N,N‐ジアルキルアミノプロピルトリアルコキシシラン;N‐アルキル‐アザ‐ジアルコキシシラシクロアルカンのような環状アザジアルコキシシラン;2‐ピリジルエチルトリアルコキシシラン;3‐カルバゾールエチルトリアルコキシシラン;3‐アルキリデンアミノプロピルトリアルコキシシラン;N‐トリアルコキシシリルプロピルモルホリン、特に、3‐(N,N‐ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3‐(1,3‐ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐n‐ブチル‐アザ‐2,2‐ジメトキシシラシクロペンタン、2‐(4‐ピリジルエチル)トリエトキシシランおよび2‐(トリメトキシシリル)ピリジンを挙げることができる。
【0032】
もう1つの実施態様によれば、アミン官能基は、SiOR官能基を担持していないエラストマー鎖の末端上に存在し得る。そのような形態は、例えば、アミン官能基を担持する開始剤を使用することによって、特に、リチウムピロリジドまたはリチウムヘキサメチレンイミドのようなリチウムアミド或いはジメチルアミノプロピルリチウムおよび3‐ピロリジノプロピルリチウムのようなアミン官能基を担持する有機リチウム化合物である開始剤を使用することによって生じさせ得る。そのような開始剤は、例えば、特許EP 0 590 490 B1号およびEP 0 626 278 B1号に記載されている。その異なる鎖末端にSiOR官能基とアミン官能基を担持するそのようなエラストマーは、例えば、特許EP 0 778 311 B1号およびUS 5 508 333号に記載されている。
【0033】
上述した実施態様の各々に適用することのできるもう1つの特に好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、ジエン単位以外に、ビニル芳香族単位、特に、スチレン単位を含む。好ましくは、ジエン単位は、好ましくはスチレン単位と組合せたブタジエン単位である。有利には、第1ジエンエラストマーは、スチレンとブタジエンのコポリマー、即ち、SBR、好ましくは溶液SBR (SSBR)である。
本発明の最も特に好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーとしての上記SBRは、-80℃?-35℃、好ましくは-70℃?-40℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
【0034】
従って、本発明の1つの有利な実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、好ましくはエラストマー鎖の末端に位置した少なくとも1個のシラノール官能基を担持するSBR、好ましくはSSBRである。
本発明のさらにより好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、好ましくは鎖末端に位置した1個のシラノール官能基を担持するSBR、好ましくはSSBRである。
【0035】
本発明のもう1つの有利な実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、少なくとも1個のSiOR官能基(Rは炭化水素基である)、特にアルコキシシラン官能基と、少なくとも1個のアミン官能基、好ましくは第三級アミン官能基とを担持し、好ましくは、これら官能基の双方が鎖内に、さらにより好ましくはエラストマー鎖内に位置するSBR、好ましくはSSBRである。
本発明のさらにより好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、1個のアルコキシシラン官能基と1個のアミン官能基、好ましくは第三級アミン官能基とを担持し、好ましくは、これら官能基の双方が鎖内に、さらにより好ましくはエラストマー鎖内に位置するSBR、好ましくはSSBRである。
【0036】
SiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーは、SiOR官能基の化学的性質によって、エラストマー鎖内のその位置によって、SiOR以外のさらなる官能基の存在によって、そのミクロ構造によって或いはそのマクロ構造によって互いに異なるエラストマーの混合物によっても調製し得ることを理解されたい。
【0037】
第1ジエンエラストマーの含有量は、20?100phr、好ましくは40?100phr、さらにより好ましくは50?100phrの範囲内にある。
【0038】
本発明に従うタイヤのトレッドの組成物が任意構成成分としての第2ジエンエラストマーを含む場合、このエラストマーは、SiOR官能基を担持しない限りにおいて第1エラストマーと異なる。にもかかわらず、この第2エラストマーは、第1ジエンエラストマーのミクロ構造またはマクロ構造と同一または異なり得るミクロ構造またはマクロ構造を有し得る。第2ジエンエラストマーは、0?80phr、好ましくは0?60phr、さらにより好ましくは0?50phrの範囲の割合で使用する。
【0039】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれる。
【0040】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ポリブタジエンである。ポリブタジエンは、好ましくは、シス‐1,4‐ポリブタジエン、即ち、90%(モル%)よりも多い、好ましくは96%(モル%)以上のシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエンである。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ブタジエンコポリマー、特に、SBR、好ましくは溶液SBRである。
【0041】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、少なくとも1個の官能基(勿論、SiOR官能基以外の)、特に、スズ官能基を担持し得る。この第2エラストマーは、有利には、スズにカップリングさせたまたは星型枝分れさせたジエンエラストマーである。
【0042】
第2ジエンエラストマーは、そのミクロ構造によって、そのマクロ構造によってまたは官能基の存在によって、エラストマー鎖上の官能基の性質または位置によって互いに異なるジエンエラストマーの混合物によっても調製し得ることを理解されたい。
【0043】
上記スズ以外の官能基としては、例えば、例えばベンゾフェノンのようなアミノ官能基、カルボン酸基(例えば、WO 01/92402号またはUS 6 815 473号、WO 2004/096865号またはUS 2006/0089445号に記載されているような)、ポリエーテル基(例えば、EP 1 127 909号またはUS 6 503 973号に記載されているような)またはエポキシ基を挙げることができる。」

ウ 「【0044】
I‐2. 補強用充填剤
もう1つの本質的な特徴として、本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物は、補強用無機充填剤を、特定の量で、即ち、100?160phrの範囲の割合で含む。
【0045】
“補強用無機充填剤”なる表現は、この場合、カーボンブラックと対比して“白色充填剤”、“透明充填剤”ともまたは“非黒色充填剤”とさえも称し、それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、空気式タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強し得る、換言すれば、その補強役割において、通常のタイヤ級カーボンブラックと置換わり得る、その色合およびその由来(天然または合成)の如何にかかわらない任意の無機または鉱質充填剤を意味するものと理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られているとおり、その表面でのヒドロキシル(‐OH)基の存在に特徴を有する。
【0046】
シリカ質タイプの鉱質充填剤、好ましくはシリカ(SiO_(2))は、補強用無機充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m^(2)/g未満、好ましくは30?400m^(2)/g、特に60m^(2)/gと300m^(2)/gの間にあるBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性沈降シリカ(“HDS”)としては、例えば、Degussa社からのUltrasil 7000およびUltrasil 7005シリカ類;Rhodia 社からのZeosil 1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からのHi‐Sil EZ150Gシリカ;Huber社からのZeopol 8715、8745または8755シリカ類;または、出願WO 03/16387号に記載されているような高比表面積を有するシリカ類が挙げられる。
【0047】
また、補強用無機充填剤としては、アルミニウム質タイプの鉱質充填剤、特に、アルミナ(Al_(2)O_(3))または(酸化)水酸化アルミニウム、或いは補強用酸化チタンが挙げられる。
【0048】
当業者であれば、もう1つの性質、特に、有機性を有する、カーボンブラックのような補強用充填剤を、この補強用充填剤がシリカのような無機層によって被覆されているか或いはその表面に、官能部位、特にヒドロキシルを含み、該充填剤と上記エラストマー間の結合を形成させるためのカップリング剤の使用を必要とすることを条件として、この項で説明する補強用無機充填剤と等価の充填剤として使用し得ることを理解されたい。例としては、例えば、例えば特許文献WO 96/37547号およびWO 99/28380号に記載されているような、タイヤ用のカーボンブラックを挙げることできる。
【0049】
有利には、補強用無機充填剤の含有量は、100?150phr、さらに有利には105?140phrの範囲である。
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記補強用無機充填剤は、50質量%?100質量%のシリカを含む。
【0050】
もう1つの有利な実施態様によれば、本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物は、カーボンブラックを含み得る。カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20phrも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば、0.5phrと20phrの間、特に2phrと10phrの間の)含有量で使用する。上記の範囲内では、カーボンブラックの着色特性(黒色着色剤)およびUV安定化特性の利益を、尚且つ補強用無機充填剤が付与する典型的な性能に悪影響を及ぼすことなく享受し得る。」

エ 「 I‐3. 可塑化系
本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物のもう1つの本質的特徴は、一方の10phrと60phrの間の含有量Aの、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂と、他方の10phrと60phrの含有量Bの液体可塑剤とを含む特定の可塑化系を含むことである;総含有量A+Bは、50phrよりも多いことを理解されたい。
【0060】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、炭化水素樹脂の含有量Aは10phrと50phrの間の量であり、液体可塑剤の含有量Bは10phrと50phrの間の量である。
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量A+Bは、50phrと100phrの間、より好ましくは55phrと90phrの間、特に60phrと85phrの間の量である。
【0061】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、A対Bの比は、1:5と5:1の間(即ち、0.2と5.0の間)、好ましくは1:4と4:1の間(即ち、0.25と4.0の間)の比である。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、(A+B)対補強用無機充填剤、特にシリカの質量の質量比は、50%と80%の間、好ましくは55%?75%の範囲内である。
【0062】
当業者にとっては知られている通り、“樹脂”なる名称は、本出願においては、定義によれば、オイルのような液体可塑化用化合物とは対照的に、周囲温度(23℃)において固体である化合物に対して使用される。
【0063】
炭化水素樹脂は、炭素と水素を本質的にベースとするが他のタイプの原子も含み得る、当業者にとって周知のポリマーであり、特に、ポリマーマトリックス中で可塑剤または粘着付与剤として使用し得る。炭化水素樹脂は、本来、使用する含有量において、真の希釈剤として作用するように、使用を意図するポリマー組成物と混和性(即ち、相溶性)である。炭化水素樹脂は、例えば、R. Mildenberg、M. ZanderおよびG. Collin (New York, VCH, 1997, ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にゴムタイヤの用途に当てられている(5.5. "Rubber Tires and Mechanical Goods")。炭化水素樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、水素化芳香族であり得、或いは脂肪族/芳香族タイプ、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、石油系(そうである場合、石油樹脂としても知られている)または石油系でない天然または合成樹脂であり得る。これら炭化水素樹脂のTgは、好ましくは0℃よりも高く、特に20℃よりも高い(通常は、30℃と95℃の間)。
【0064】
また、知られているとおり、これらの炭化水素樹脂は、これらの樹脂が加熱したときに軟化し、従って、成形することができる点で、熱可塑性樹脂とも称し得る。また、炭化水素樹脂は、軟化点または軟化温度によっても定義し得る。炭化水素樹脂の軟化点は、一般に、そのTg値よりも約50?60℃高い。軟化点は、規格ISO 4624 (環球法)に従って測定する。マクロ構造(Mw、MnおよびIp)は、以下に示すサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する。
【0065】
要するに、SEC分析は、例えば、溶液中の巨大分子を、それら分子のサイズに従い、多孔質ゲルを充填したカラムによって分離することからなる;巨大分子は、それら分子の流体力学的容積に従い分離し、最大嵩だか物が最初に溶出する。分析すべきサンプルを、前もって、適切な溶媒、即ち、テトラヒドロフラン中に、1g/リットルの濃度で単純に溶解する。その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルターにより、装置に注入する前に濾過する。使用する装置は、例えば、下記の条件に従う“Waters Alliance”クロマトグラフィー系である:
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン;
・温度:35℃;
・濃度:1g/リットル;
・流量:1ml/分;
・注入容量:100μl;
・ポリスチレン標準によるムーア較正;
・直列の3本“Waters”カラムセット(“Styragel HR4E”、“Styragel HR1”および“Styragel HR 0.5”);
操作用ソフトウェア(例えば、“Waters Millenium”)を備え得る示差屈折計(例えば、“Waters 2410”)による検出。
【0066】
ムーア較正は、低Ip (1.2よりも低い)を有し、既知のモル質量を有し、分析すべき質量範囲に亘る1連の市販ポリスチレン標準によって実施する。質量平均モル質量 (Mw)、数平均モル質量(Mn)および多分散性指数(Ip = Mw/Mn)を、記録したデータ(モル質量の質量による分布曲線)から推定する。
本出願において示されたモル質量についての全ての値を、ポリスチレン標準によって描いた較正曲線と対比する。
【0067】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくともいずれか1つ、さら好ましくは全てを有する:
・25℃よりも高い(特に、30℃と100℃の間の)、より好ましくは30℃よりも高い(特に、30℃と95℃の間の) Tg;
・50℃よりも高い(特に50℃と150℃の間の)軟化点;
・400g/モルと2000g/モルの間、好ましくは500g/モルと1500g/モルの間の数平均モル質量(Mn);
・3よりも低い、好ましくは2よりも低い多分散性指数(Ip) (注:Ip = Mw/Mn、Mwは質量平均モル質量である)。
【0068】
そのような炭化水素樹脂の例としては、シクロペンタジエン(CPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる炭化水素樹脂を挙げることができる。上記のコポリマー樹脂のうちでは、さらに詳細には、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、C_(5)留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれるコポリマーを挙げることができる。
【0069】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、アルファ‐ピネンモノマー、ベータ‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する。好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形にある:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D‐リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン(右旋性鏡像体と左旋性鏡像体のラセミ体混合物)。適切なビニル芳香族モノマーは、例えば、スチレン;α‐メチルスチレン;オルソ‐メチルスチレン、メタ‐メチルスチレンおよびパラ‐メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ヒドロキシスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンおよびC_(9)留分(または、より一般的にはC_(8)?C_(10)留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーである。
【0070】
さら具体的には、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる樹脂を挙げることができる。
【0071】
上記樹脂は、全て当業者にとって周知であって、商業的に入手可能であり、例えば、ポリリモネン樹脂に関しては、DRT社から品名“Dercolyte”として販売されており;C_(5)留分/スチレン樹脂またはC_(5)留分/C_(9)留分樹脂に関しては、Neville Chemical Company社から品名“Super Nevtac”として、Kolon社から品名“Hikorez”として、またはExxon Mobil社から品名“Escorez”として販売されており;或いは、Struktol社から品名“40 MS”または“40 NS”(芳香族および/または脂肪族樹脂のブレンドである)として販売されている。
【0072】
本発明のタイヤのトレッドのゴム組成物は、10phrと60phrの間の量の液体可塑剤(23℃において液体である)を含むというもう1つの特徴を有する;この可塑剤の役割は、上記エラストマーと補強用充填剤を希釈することによってマトリックスを軟質化させることである;そのTgは、好ましくは-20℃よりも低く、より好ましくは-40℃よりも低い。
【0073】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の増量剤オイル、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。周囲温度(23℃)において、これらの可塑剤またはこれらのオイルは、おおよそ粘稠であり、特に周囲温度において本来固体である可塑化用炭化水素樹脂と対比して液体(即ち、注釈すれば、最終的にその容器の形を取る能力を有する物質)である。
【0074】
液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MES (中度抽出溶媒和物(medium extracted solvate))オイル、TDAE (処理留出物芳香族系抽出物(treated distillate aromatic extract))オイル、RAE (残留芳香族抽出物(Residual Aromatic Extract))オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物(Treated Residual Aromatic Extract))オイルおよびSRAE (安全残留芳香族抽出物(Safety Residual Aromatic Extract))オイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤は、特に適している。より好ましい実施態様によれば、液体可塑剤は、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル、植物油およびこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれる。
【0075】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、石油、好ましくは非芳香族石油である。
液体可塑剤は、その液体可塑剤が、可塑剤の総質量に対して、3質量%未満の多環式芳香族化合物の含有量(IP 346法に従うDMSO中での抽出物によって測定した)を有する場合に、非芳香族として説明される。
【0076】
従って、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有し、特に、水素化または非水素化物)、パラフィン系オイルおよびこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤を使用し得る。
また、石油としては、低含有量の多環式化合物を含むRAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイルまたはこれらのオイルの混合物も適している。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、テルペン誘導体である。例えば、Yasuhara社からの製品Dimaroneを挙げることができる。
【0077】
また、オレフィン類またはジエン類の重合から得られる液体ポリマー、例えば、ポリブテン類、ポリジエン類、特に、ポリブタジエン、ポリイソプレン(品名LIRとしても知られている)、ブタジエンとイソプレンのコポリマー、ブタジエンまたはイソプレンとスチレンのコポリマー或いはこれらの液体ポリマーのブレンドも適している。そのような液体ポリマーの数平均モル質量は、好ましくは500g/モル?50000g/モル、より好ましくは1000g/モル?10000g/モルの範囲内である。例えば、SARTOMER社からのRICON製品を挙げることができる。
【0078】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は植物油である。例えば、アマニ油、ベニバナ油、ダイズ油、コーン油、綿実油、ナタネ(turnip seed)油、ヒマシ油、キリ油、マツ油、ヒマワリ油、ヤシ油、オリーブ油、ココナツ油、ラッカセイ油およびグレープシードオイル、並びにこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれるオイルを挙げることができる。植物油は、好ましくはオレイン酸リッチである、即ち、その植物油に由来する脂肪酸(数種存在する場合は、脂肪酸全体)は、オレイン酸を、少なくとも60%に等しい質量画分で、さらにより好ましくは少なくとも70%に等しい質量画分で含む。植物油としては、有利には、ヒマワリ油を使用する;ヒマワリ油は、ヒマワリ油に由来する脂肪酸全体が、オレイン酸を、60%以上、好ましくは70%以上の質量画分で、本発明の1つの特に有利な実施態様によれば、80%以上の質量画分で含むような油である。
【0079】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、カルボン酸トリエステル、リン酸トリエステル、スルホン酸トリエステルおよびこれらのトリエステルの混合物からなる群から選ばれるトリエステルである。
特に適しているのは、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤である。
ホスフェート可塑剤としては、例えば、12個と30個の間の炭素原子を含むホスフェート可塑剤、例えば、リン酸トリオクチルを挙げることができる。
【0080】
カルボン酸エステル可塑剤の例としては、特に、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリントリエステルおよびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を挙げることができる。これらのトリエステルのうちでは、特に、好ましくは不飽和C_(18)脂肪酸、即ち、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらの酸の混合物からなる群から選ばれる脂肪酸から主として(50質量%よりも多く、より好ましくは80質量%よりも多くにおいて)なるグリセリントリエステルを挙げることができる。このグリセリントリエステルは好ましい。さらに好ましくは、合成由来または天然由来(例えば、ヒマワリまたはナタネ植物油の場合)のいずれであれ、使用する脂肪酸は、50質量%よりも多くの、さらにより好ましくは80質量%よりも多くのオレイン酸からなる。高含有量のオレイン酸を含むそのようなトリエステル(トリオレート)は、周知である;そのようなトリエステルは、例えば出願WO 02/088238号において、タイヤトレッドにおける可塑剤として説明されている。
【0081】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤はエーテルである。従って、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを挙げることができる。」

オ 「【0082】
I‐4. 各種添加剤
また、本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物は、例えば、上述した充填剤以外の充填剤、例えば、チョークのような非補強用充填剤またはカオリンおよびタルクのような板状充填剤;顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤、酸化防止剤のような保護剤;補強用樹脂(レゾルシノールまたはビスマレイミド);例えば出願WO 02/10269号に記載されているような、メチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドをベースとする架橋系;加硫促進剤または加硫遅延剤;および加硫活性化剤のような、タイヤ、特に冬季タイヤ用のトレッドの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的に使用する標準の添加剤の全部または1部も含み得る。
【0083】
また、これらの組成物は、カップリング剤を使用する場合のカップリング活性化剤、無機充填剤の被覆用の薬剤、或いは、知られている通り、ゴムマトリックス中での充填剤の分散性を改良し且つ組成物の粘度を低下させることによって、未硬化状態における組成物の加工されるべき能力を改良することのできるより一般的な加工助剤も含有し得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン;ポリオール;ポリエーテル;アミン;または、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサンである。」

カ 「【0093】
II‐本発明の典型的な実施態様
II‐1. 組成物の製造
以下の試験を、以下の方法で実施する:エラストマー、シリカ、カップリング剤、可塑剤、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度が約60℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填比:約70容量%)。その後、熱機械的加工(非生産段階)を1工程で実施する;この段階は、165℃の最高“落下”温度に達するまで合計で約5分間続く。
【0094】
そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、その後、イオウとスルフェンアミドタイプの促進剤を23℃のミキサー(ホモ・フィニッシャー)内で混入し、全てを適切な時間(例えば、5?12分間)混合する(生産段階)。
【0095】
そのようにして得られる組成物T1、C1およびC2は、下記の表1に示している(phrで)。
組成物T1は、ポリブタジエンとSBRコポリマーをベースとする冬季タイヤ用のトレッドを作成するのに使用することのできる通常の組成物である。
この対照組成物においては、使用する上記2種のエラストマーはSiOR官能基を欠いており、補強用無機充填剤の含有量は100phrよりも低く、そして、可塑化用樹脂(ポリリモネン、20phr)と液体可塑剤としてのヒマワリ植物油(15phr)およびMESオイル(5phr)とからなる可塑化系の含有量A+Bは50phrよりも低い。
【0096】
本発明に従う組成物C1およびC2は、少なくとも20phrの、シラノール官能基を担持するジエンエラストマー;少なくとも100phrの補強用無機充填剤;および、50phrよりも多い、それぞれ10phrと60phrの間の含有量の可塑化用樹脂(ポリリモネン)と液体可塑剤(ヒマワリ植物油)からなる可塑化系の存在に特徴を有する。組成物C1のエラストマーSBR3は、ジメチルシラノール官能基を1つの鎖末端において担持しており、特許EP 0 778 311 B1号に記載されている方法に従って調製した。組成物C2のエラストマーSBR4は、ジメチルシラノール官能基を1つの鎖末端において担持しているSBR (SBR4A)とスズに対して星型枝分れさせ且つSBR4Aと同じミクロ構造を有するSBR(SBR4B)との85%対15%の混合物を含む。
【0097】
これら3通りの組成物をトレッドの形に押出加工して、下記のパラグラフにおいて示すようにして試験した。
【0098】
II‐2. タイヤにおける試験
その後、組成物T1、C1およびC2を、225/45R17の寸法を有し、通常通りに製造し、それらトレッドの構成ゴム組成物は別として全ての点で同一である、それぞれPT1 (対照タイヤ)並びにP1およびP2 (本発明に従うタイヤ)で表示するラジアルカーカス乗用車冬季タイヤ用のトレッドとして使用する。
各タイヤを、下記で説明するようにして、湿潤地面上および積雪地面上での制動試験に供した。
【0099】
湿潤地面上での制動性を試験するに当っては、各タイヤを、ABSブレーキシステムを備えたAudi型式で且つA4モデルの自動車に装着し、噴霧地面(アスファルトコンクリート)上での急ブレーキ操作中に80km/時から10kg/時に至るのに必要な距離を測定する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い制動距離を示す。
【0100】
積雪地面上での制動性を試験するに当っては、タイヤを、ABSブレーキシステムを備えたVolkswagen型式で且つGolfモデルの自動車に装着し、積雪上での緊急ブレーキ操作中に50km/時から5kg/時に至るのに必要な距離を測定する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い制動距離を示す。
走行試験の結果は、下記の表2に相対単位で示している;基本点100は、対照タイヤPT1において使用している。
【0101】
本発明に従うスノータイヤP1およびP2は、驚くべきことに対照スノータイヤPT1のグリップ性能値よりもはるかに高いそれぞれの112および107の湿潤地面上でのグリップ性能値を有することが観察されている。また、これらの結果は、積雪地面上での性能を犠牲にすることなく得られており、スノータイヤP2 (106)の場合は改良さえされていることにも注目される。
【0102】
結論として、本発明に従うスノータイヤは、大いに改良された湿潤地面上でのグリップ性を有し、積雪地面上でのグリップ性を損なうことなく或いは改良さえしている。
【0103】
表1

(1) 4%の1,2‐単位および93%のシス‐1,4‐単位を含むBR (Tg = -106℃);
(2) SBR1:27%のスチレン単位および57%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR (Tg = -24℃);
(3) SBR2:16%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR (Tg = -65℃);
(4) SBR3:シラノール官能基をエラストマー鎖末端に担持する、16%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR (Tg = -65℃);
(5) SBR4:シラノール官能基をエラストマー鎖末端に担持する、27%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR (Sn星型枝分れ化) (Tg = -48℃);
(6) ASTM級N234 (Cabot社);
(7) HDSタイプのRhodia社からの“Zeosil 1165MP”シリカ;
(8) TESPT (Degussa社からの“Si69”);
(9) MESオイル(Shell社からの“Catenex SNR”);
(10) 85質量%のオレイン酸を含有するヒマワリ油、Novance社からの“Lubrirob Tod 1880”;
(11) DRT社からのポリリモネン樹脂“Dercolyte L120”;
(12) Flexsys社からのN‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N'‐フェニル‐p‐フェニレンジアミン;
(13) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からのPerkacit DPG);
(14) N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からの“Santocure CBS”)。
【0104】
表2



(2) 本件請求項1の記載についてのサポート要件の判断

ア 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合することを要するとされるのは、特許を受けようとする発明の技術内容を一般的に開示すると共に、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという明細書の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと、明細書の発明の詳細な説明が、出願時の当業者の技術常識を参酌することにより、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要である。

イ これを本件について検討する。
上記(1)ア?オの記載から、本件発明1は、「冬季タイヤの湿潤地面上でのグリップ性能をさらに改良するが、一方では、積雪上でのグリップ性能を悪化させないこと」を発明が解決しようとする課題としており、「ある種の官能性ジエンエラストマー、補強用無機充填剤および特定の可塑化系の組合せ使用がスノータイヤの湿潤地面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性を低下させることなくさらに改良することを可能にすることを見出した」(上記(1)ア)ことにより発明されたものであって、ある種の官能性ジエンエラストマーに相当する「1-1.ジエン系エラストマー」として上記(1)イのとおり記載があり、「補強用無機充填材」に関しては、上記(1)ウのとおり記載され、「可塑剤」に関しては、上記(1)エのとおり記載されている。

ウ 本件特許明細書の上記(1)アないしオの記載は、特定の実施態様に関するものではない一般的な記載であるが、その一般記載においては、ある種の官能性ジエンエラストマー、補強用無機充填剤および特定の可塑化系(特定の炭化水素樹脂と特定の液状可塑剤)の組合せ使用がスノータイヤの湿潤地面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性を低下させることなくさらに改良することができたとされていて、ある種の官能性ジエン系エラストマー、補強用無機充填材、特定の可塑剤系においての好ましい範囲のものとして、それぞれ、本件発明1における「少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む、40?100phrの第1ジエンエラストマー;・任意構成成分としての0?60phrの第2ジエンエラストマー:」と「補強用無機充填材としてシリカ質タイプの鉱質充填材を105?140phr」と「・下記を含む可塑化系:・10phrと60phrの間の含有量Aの、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;・10phrと60phrの間の含有量Bの液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤;・50phrよりも多い総含有量A+B。」が記載されているが、それぞれを選択することの技術的意義、ある種の官能性ジエン系エラストマーの配合量についての技術的な意義、可塑剤系の選択とその配合量の技術的意義、選択された可塑剤の技術的なまとまりの技術的意義、これらを選択することに関する発明が解決しようとする課題を解決できる作用機序についての記載は存在していない。

エ 一方で、異議申立人が特許異議申立書に添付した甲第1号証ないし甲第5号証(甲第1号証:特開2009-263587号公報、甲第2号証:特開平11-228647号公報、甲第3号証:特開2001-11240号公報、甲第4号証:特開2002-114874号公報、甲第5号証:特開2007-262206号公報)をみれば、タイヤのトレッドに利用するゴム組成物として、SiOR官能基を有する変性共役ジエン共重合体をゴム成分中の一定量(甲第1号証では、ゴム成分中10?60質量%、甲第2号証では3ゴム成分中30-90重量%、甲第3号証ではゴム成分中10重量%以上、甲第4号証ではゴム成分中5?20重量%、甲第5号証ではゴム成分中5?70質量%)配合することで、湿潤路面でのグリップ性能を含む氷雪性能が向上することが記載されているから、当業者は、発明が解決しようとする課題である「湿潤路面でのグリップ性能」が、少なくとも1個のSiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーのゴム成分中の配合量によって大きく変化することを理解していたといえる。
また、異議申立人が特許異議申立書に添付した甲第29号証(甲第29号証:特開2008-184505号公報)及び平成29年3月2日付け(受理日:同月6日)意見書に添付した参考資料1ないし4(参考資料1:特開2007-262292号公報、参考資料2:特開2008-174664号公報、参考資料3:特開2008-169296号公報、参考資料4:特開2006-249188号公報)並びに平成29年9月25日付け(受理日:同月27日)意見書に添付した参考資料23ないし25(参考資料23:「ポリブタジエン/タッキファイヤー系粘着剤の相溶性と粘着物性」日本ゴム協会誌、Vol.69(1996)No.7、465?474頁、参考資料24:特許第2562337号の実施例2及び比較例4、参考資料25:特開2003-213039号公報の実施例3)をみれば、当業者は、タイヤ用のトレッドゴム組成物に配合する熱可塑性樹脂(本件発明1における20℃より高いTgを有する炭化水素樹脂)の具体的な種類の違いによって、発明が解決しようとする課題であるタイヤの「湿潤路面でのグリップ性能」が大きく影響を受けると理解していたといえる。
さらに、異議申立人が特許異議申立書に添付した甲第23号証、甲第24号証及び甲第30号証をみれば、タイヤトレッドゴム用組成物にプロセスオイル(液体可塑剤)とp-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂(炭化水素樹脂)を配合することでグリップ性能を向上できること(甲第23号証)、タイヤのトレッドに利用するゴム組成物に、凝固点が-50℃以下の可塑剤(液体可塑剤)と軟化点が70℃以上の樹脂を配合することでウエットグリップ性が向上すること(甲第24号証、甲第30号証)、タイヤトレッド用ゴム組成物に炭化水素樹脂と液体可塑剤を添加することで(ウエット)グリップ性の向上が図れることが周知といえるが、甲第23号証、甲第24号証及び甲第30号証において用いられている炭化水素樹脂と液体可塑剤がそれぞれ異なっていることから、当業者において、炭化水素樹脂の種類と液体可塑剤の種類は、発明が解決しようとする課題に大きく影響を与えるものと理解していたといえる。
加えて、平成29年3月2日付け(受理日:同月6日)意見書に添付した参考資料5、6、11、12、15、18ないし19(参考資料5:特表2006-528253号公報、参考資料6:特開2003-213039号公報、参考資料11:特開2009-1721号公報、参考資料12:特表2010-526924号公報、参考資料15:特表2010-514860号公報、参考資料18:特開2005-213415号公報、参考資料19:特開2009-298920号公報)をみれば、当業者は、トレッドに利用するゴム組成物に配合される液体可塑剤の具体的な種類の違いによって、発明が解決しようとする課題であるタイヤの「湿潤路面でのグリップ性能」が大きく影響を受けると理解していたといえる。

オ そうすると、本件特許明細書には、本件発明1の第1ジエンエラストマー、シリカ、可塑剤系について上記イのとおりの記載があるが、上記エのとおり当業者が理解していた事項を踏まえれば、少なくとも1個のSiOR官能基を担持する第1ジェンエラストマーの配合量が40?100phrという広範な範囲であるゴム組成物において、なぜ、発明が解決しようとする課題が解決できるのかが理解できないし、配合される可塑剤系の20℃より高いTgを有する炭化水素樹脂においても、配合することで湿潤グリップ性が変化することが明らかな複数の炭化水素樹脂を並列的に包含していて、さらに、配合される可塑剤系の液体可塑剤においても、配合することで湿潤グリップ性が変化することが明らかな複数の液体可塑剤を並列的に包含していることから、本件発明1で特定されるゴム組成物が、発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することができるものではない。

カ 一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている具体的な実施例である、組成物C1及び組成物C2で作られたトレッドを有するタイヤ(P1、P2)は、対象となる組成物T1で作られたトレッドを有するタイヤPT1に比較して、積雪状でのグリップ制動性が同等又は優れると共に、湿潤地面状でのグリップ制動性に優れたものが得られているので、これを、上記本件特許明細書の記載に即して検討する。
当業者は、本件特許明細書の詳細な説明の上記(1)カの記載から、第1ジエンエラストマーとして例示されている「少なくとも1個のSiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマー」、補強用無機充填材として特に適しているとされる「シリカ」、可塑剤系における「20℃より高いTgを有する炭化水素樹脂」として多数例示されているものの一つであるリモネン樹脂と、「液体可塑剤」として多数例示されているなかの一つであるヒマワリ油を利用し、これらを所定の配合量で配合したゴム組成物で作られたトレッドを有するタイヤは、発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるが、上記エに記載の事項を認識している当業者は、少なくとも1個のSiOR官能基を担持する第1ジェンエラストマーの配合量が40?100phrという広範な範囲であり、湿潤路面でのウエットグリップ性がリモネン油と異なることになる多数の20℃より高いTgを有する炭化水素樹脂を含み、同じく湿潤路面でのウエットグリップ性がヒマワリ油とは異なることになる多種多様にわたる液状可塑剤を含むゴム組成物が、実施例の場合と同様な効果を奏し、発明が解決しようとする課題が解決できると当業者が認識することはできない。

よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において当業者が発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。

(3) 本件発明2ないし9についてのサポート要件の判断

本件発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(2)での検討と同様に、 本件発明2ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。

(4) 特許権者の平成29年8月7日付け(受理日:同月8日)意見書の主張について

特許権者は、平成29年8月7日付け(受理日:同月8日)意見書において、当審が通知した取消理由通知書<決定の予告>における取消理由1に関して、概略以下の主張1ないし3を行っている。
主張1:「イ.エラストマー成分について
・・・(略)・・・特許権者は第1ジエンエラストマーの配合量を「40?100phr」に限定した。従って訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものでなく、エラストマー成分に関する理由1は解消したものと思料する。・・・当業者が本件特許明細書の記載に接すれば、本件訂正発明の特徴が『SiOR官能基を有するジエンエラストマー、補強用無機充填材としてのシリカおよび特定の可塑剤系の組合せ使用』にあることを理解するものと思料する。そして本件特許出願時の知識を有する当業者は、本件訂正発明におけるSiOR官能基を有する第1ジエンエラストマーが、そのシリカへの高い親和性により、シリカの使用により損なわれてしまうゴム組成物の特性を改善するために用いられることを理解すると思料する。そして本件訂正発明1に規定されるような『105?140phr』という高濃度シリカを使用する場合では、本件訂正発明における必須の成分であるSiOR官能基を有する第1ジエンエラストマーを多量に用いてよいことを理解するものと思料する。つまり、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正発明におけるエラストマー成分についての技術的意義や本件特許発明の解決課題を解決できる作用機序について理解する。
(ii)公知文献の記載について
取消理由通知において合議体は、・・・当業者は、本件特許の課題である『湿潤路面でのグリップ性能』が、少なくとも1個のSiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーのゴム成分中の配合量によって大きく変化することを理解していた」と指摘している。・・・しかしながら、そもそも各甲号証には、様々な工夫により湿潤路面でのグリップ性能が向上したゴム組成物が一定量の変性共役ジエン共重合体を含むことが開示されているに過ぎず、特定量の変性共役ジエン共重合体を『配合すること』で『湿潤路面でのグリップ性能を含む氷雪性能が向上する』ことが開示されているわけではないと思料する。・・・『変性共役ジエン共重合体』の含有量が一致しておらず、しかも広範な含有量が規定されていることから、スノータイヤのトレッドに使用するゴム組成物において、『変性共役ジエン共重合体』の含有量が格別に重要な要素といえないことを示唆していると言えよう。・・・むしろ、各甲号証に接した当業者は、各甲号証において広い範囲の配合量が規定されていることから、スノータイヤのトレッドに使用するゴム組成物において『変性共役ジエン共重合体』の含有量は比較的広い範囲で許容される場合もあるものと理解する方が自然であると思料する。
(iii)効果について
・・・本件実施例には第1ジエンエラストマーであるSBR3を50phr含む組成物C1とSBR4を60phr含む組成物C2が開示され、・・・これらの組成物を使用して製造されたタイヤP1及びP2はいずれも第1ジエンエラストマーを全く含まない対照タイヤPT1と比較してスノータイヤの湿潤路面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性能を低下させることなくさらに改良することができることを有している。・・・従って訂正発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。」(意見書第6?10ページ)
主張2:「ウ 可塑剤成分について
特許権者は、可塑剤成分に関して・・・(略)・・・段落0068、段落0072に記載された、具体的な炭化水素樹脂及び液体可塑剤の種類が特定されており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。可塑剤成分に関する理由1は解消したものと思料する。
(i)技術的意義について
本件特許明細書には・・・課題としており・・・「ある種の官能性ジエンエラストマー、補強用無機充填剤および特定の可塑剤系の組合せ使用がスノータイヤの湿潤路面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性を低下させることなくさらに改良することを可能にすることを見出した」こと・・・が記載されている。その上で、発明を解決するための手段として、本件明細書段落0059?0081には可塑剤系成分についての記載があり、また本件明細書段落0068において及び0072にはそれぞれ「20度よりも高いTGを有する炭化水素樹脂」、「液体可塑剤」について具体的なものが列挙されている。これらの記載から、当業者は具体的にどのような可塑剤系を使用すれば本件発明の課題を解決できるかを十分に理解できると思料する。
(ii)公知文献の記載について
・・・しかしながら、異議申立人によって示された文献に開示される発明は特定の可塑剤系を使用することに特徴のあるものであるものの、当業者であれば、タイヤ用ゴム組成物の各種特性には、エラストマー、可塑剤系、充填剤等の各成分が複合的に寄与するものであることを理解し、また種類の異なる液体可塑剤又は樹脂を使用しても同様の効果が得られる場合も多く存在することを理解するから、どのようなタイヤ用ゴム組成物においても、液体可塑剤又は樹脂の種類が変化することによって直ちに『湿潤路面でのグリップ性能』が大きく影響を受けるとは考えることはないと思料する。・・・
(iii)効果について
・・・実施例では、具体的に列挙されたもののうち、液体可塑剤としてヒマワリ油を、炭化水素樹脂としてポリリモネン樹脂を使用した本件発明の組成物C1及びC2が開示されており・・・従って当業者であれば、本件明細書の記載及び実施例から、ヒマワリ油以外の液体可塑剤又はポリリモネン樹脂以外の炭化水素樹脂を使用した場合についても本願明細書の実施例に開示されるものと同様にスノータイヤの湿潤路面上でのグリップ性能をさらに改良する一方で、積雪上でのグリップ性能を低下させることなくさらに改良することが出来ることを理解できると思料する。」(意見書の第11?13ページ)
主張3:実験成績証明書に基づく主張について
特許権者は、実験成績証明書(乙4号証)において本件特許明細書で使用するヒマワリ油以外の液体可塑剤又はポリリモネン樹脂以外の炭化水素樹脂を使用した場合にも、本件特許明細書の実施例に開示されるものと同様にヒマワリ油以外の液体可塑剤又はポリリモネン樹脂以外の炭化水素樹脂を使用した場合についても本件特許明細書の実施例に開示されるものと同様にスノータイヤの湿潤路面上でのグリップ性能をさらに改良する一方で、積雪上でのグリップ性能を低下させることなくさらに改良することが出来ることを示すことで、本件発明において液体可塑剤又は樹脂の種類が異なっても同様に「湿潤路面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性能を低下させることなく改善する」という本件発明の効果を示す事が示されたと主張する。(意見書の第13?14ページ)

以下、当該主張について検討する。
主張1について
本件特許明細書の一般記載からは、特許権者も主張するように、当業者は「本件訂正発明の特徴が『SiOR官能基を有するジエンエラストマー、補強用無機充填材としてのシリカおよび特定の可塑剤系の組合せ使用』にあること」を理解するが、その作用規序については理解できないことは上記(3)において指摘したとおりである。
そして、本件特許明細書においては、特定量のSiOR官能基を有するジエンエラストマーを用いることによってどのような効果が奏されるかの記載はないし、ましてや、特定量のSiOR官能基を有するジエンエラストマーを用いることによって発明が解決しようとする課題が解決できる旨の記載はない。
そうすると、具体的な効果が確認されている本件特許明細書の実施例を踏まえても、主張1は失当であって、採用できない。
主張2について
主張1での検討のとおり、本件特許明細書の一般記載からは、当業者は「本件訂正発明の特徴が『SiOR官能基を有するジエンエラストマー、補強用無機充填材としてのシリカおよび特定の可塑剤系の組合せ使用』にあること」を理解するが、その作用規序については理解できない。そして、上記(2)で指摘した当業者の技術常識、及び、特許権者も主張する「タイヤ用ゴム組成物の各種特性には、エラストマー、可塑剤系、充填剤等の各成分が複合的に寄与するものであること」を踏まえれば、本件特許明細書の具体的な実施例であるC1及びC2という組成物が、発明が解決しようとする課題を解決するものと理解できても、実施例のもの以外の可塑剤系で同様な効果が奏されるとは理解できないから、主張2も失当であって、採用できない。
主張3について
まず、サポート要件違反について、当初明細書に記載のない実験成績証明書の内容によりそれを治癒することは許されない。(参考:知財高判平成17 年11 月11 日(平成17 年(行ケ)10042 号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決)
仮に、当該主張が許されるとしても、当該実験成績証明書には、本件特許発明1において特定されている「20度よりも高いTGを有する炭化水素樹脂」及び「液体可塑剤」のすべてについて行われてはいないから、実験成績証明書において実証されていないものについては、依然として、同様な効果が奏されるとはいえない。
さらに、当該実験成績証明書において、具体的に効果を確認している評価手段が本件特許明細書において行っている評価と異なることから、本件特許明細書において示されている効果と同等であるとは直ちには確認できない。
以上のことから、主張3も失当であって、採用できない。

(5) まとめ

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9に係る特許についての取消理由1には理由がある。

2 取消理由2(特許法第29条第2項:進歩性)について

(1) 刊行物

国際公開第2010/009850号(特許異議申立書の証拠方法である甲第22号証。以下、「甲22」という。)
特開2009-263587号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第1号証、以下、「甲1」という。)

(2) 甲22に記載された事項

甲22には、以下の事項が記載されている。下線は当審において付与した。(なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。日本語訳は、甲22のパテントファミリーである特表2011-528735号公報による。)

ア 「【請求項1】
冬季タイヤ用のトレッドとして有用であり且つジエンエラストマー、30phrよりも多い液体可塑剤および50phrと150phrとの間の補強用充填剤を少なくとも含むゴム組成物であって、5phrと40phrとの間の硫酸マグネシウム微小粒子を含むことを特徴とする前記ゴム組成物。
・・・
【請求項5】
前記ジエンエラストマーが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項1?4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記ジエンエラストマーが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、90%よりも多いシス‐1,4結合含有量を有するポリブタジエン、ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項5項記載の組成物。
・・・
【請求項13】
前記補強用無機充填剤がシリカである、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記補強用充填剤が、カーボンブラックとシリカとのブレンドを含む、請求項1?13のいずれか1項記載の組成物。
・・・
【請求項16】
前記液体可塑剤が、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、請求項1?15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
液体可塑剤の含有量が、40phrよりも多く、好ましくは50?100phrの範囲内で含ませる、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
20℃よりも高いTgを示す炭化水素樹脂を含む、請求項1?17のいずれか1項記載の組成物。
【請求項19】
前記炭化水素樹脂が、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
炭化水素樹脂の含有量が、3phrと60phrの間である、請求項18または19記載の組成物。
・・・
【請求項22】
請求項1?20のいずれか1項記載の組成物を含む冬季タイヤ用のトレッド。
【請求項23】
請求項22記載のトレッドを含む冬季タイヤ。」(特許請求の範囲の請求項1、5、6、13、14、16?20、22、23)

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドを装着することなしに氷または薄氷(black ice)で覆われた地面上を回転することのできる“冬季タイヤ”(スタッドレスタイヤとしても知られている)用のトレッドとして特に使用することのできるゴム組成物に関する。
・・・
【発明の概要】
【0006】
研究の継続中に、本出願法人は、特定の水溶性微小粒子によって有効な微細表面粗さを生成させることができ且つこれら微小粒子を含むトレッドおよびタイヤの融氷条件下における氷上でのグリップ性を改良することを可能にし、補強およびヒステリシスの特性に対して不利益にならない新規なゴム組成物を見出した。」(明細書第1頁3行?第2頁11行;対応公表公報の段落【0001】?【0006】)

ウ 「【0022】
II‐1 ジエンエラストマー
“ジエン”エラストマーまたはゴムは、ジエンモノマー(共役型であり得るまたはあり得ない2個の炭素‐炭素二重結合を担持するモノマー)に少なくとも一部由来するエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきであることを思い起すべきである。
【0023】
ジエンエラストマーは、知られている通り、2つのカテゴリー、即ち、“本質的に不飽和”のエラストマーまたは“本質的に飽和”のエラストマーに分類し得る。例えば、EPDMタイプのジエン類とα‐オレフィン類とのコポリマーのようなブチルゴムは、低いまたは極めて低い常に15%(モル%)未満であるジエン起原単位含有量を有する本質的に飽和のジエンエラストマーのカテゴリーに属する。対照的に、本質的に不飽和のジエンエラストマーは、15%(モル%)よりも多いジエン起源(共役ジエン類)の単位含有量を有する共役ジエンモノマー類に少なくとも一部由来するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。“本質的に不飽和”のジエンエラストマーのカテゴリーにおいては、“高不飽和”ジエンエラストマーは、特に、50%よりも多いジエン起源(共役ジエン類)の単位量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0024】
好ましくは、少なくとも1種の高不飽和タイプのジエンエラストマー、特に、ポリブタジエン(BR)類、合成ポリイソプレン(IR)類、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー類、イソプレンコポリマー類(IIR以外の)およびこれらエラストマーの混合物からなる群から選ばれるジエンエラストマーを使用する。そのようなコポリマー類は、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)類、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)類、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)類およびイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)類およびそのようなコポリマーの混合物からなる群から選択する。
【0025】
これらのエラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、分散液または溶液中で調製し得る;これらのエラストマーは、カップリング剤および/または星型枝分れ化剤(star‐branching agent)或いは官能化剤によってカップリングおよび/または星型枝分れ化或いは官能化し得る。カーボンブラックとのカップリングにおいては、例えば、C‐Sn結合を含む官能基または、例えば、ベンゾフェノンのようなアミン化官能基を挙げることができる;シリカのような補強用無機充填剤とのカップリングにおいては、例えば、シラノール官能基またはシラノール末端を有するポリシロキサン官能基(例えば、US 6 013 718号に記載されているような)、アルコキシシラン基(例えば、US 5 977 238号に記載されているような)、カルボキシル基(例えば、US 6 815 473号またはUS 2006/0089445号に記載されているような)、或いはポリエーテル基(例えば、US 6 503 973号に記載されているような)を挙げることができる。また、そのような官能化エラストマーの他の例として、エポキシ化タイプのエラストマー(SBR、BR、NRまたはIRのような)を挙げることができる。
【0026】
以下は、好ましく適している:ポリブタジエン類、特に、4%と80%の間の1,2‐単位含有量を有するポリブジエン類または80%よりも多いシス‐1,4‐単位含有量を有するポリブタジエン類;ポリイソプレン類;ブタジエン/スチレンコポリマー類、特に、5質量%と50質量%の間特に20質量%と40質量%の間のスチレン含有量、4%と65%の間のブタジエン成分1,2‐結合含有量および20%と80%の間のトランス‐1,4‐結合含有量を有するコポリマー類;ブタジエン/イソプレンコポリマー類、特に、5質量%と90質量%の間のイソプレン含有量および-40℃?-80℃のガラス転移温度(“Tg”、ASTM D3418‐82に従って測定)を有するコポリマー類;または、イソプレン/スチレンコポリマー類、特に、5質量%と50質量%の間のスチレン含有量および-25℃と-50℃の間のTgを有するコポリマー類。
【0027】
ブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマー類の場合は、5質量%と50質量%の間特に10質量%と40質量%の間のスチレン含有量、15質量%と60質量%の間特に20質量%と50質量%の間のイソプレン含有量、5質量%と50質量%の間特に20質量%と40質量%の間のブタジエン含有量、4%と85%の間のブタジエン成分1,2‐単位含有量、6%と80%の間のブタジエン成分トランス‐1,4‐単位含有量、5%と70%の間のイソプレン成分1,2‐+3,4‐単位含有量および10%と50%の間のイソプレン成分トランス‐1,4‐単位含有量を有するコポリマー類、さらに一般的には、-20℃と-70℃の間のTgを有する任意のブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマーが、特に適している。
【0028】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、ジエンエラストマーは、天然ゴム、合成ポリイソプレン、90%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエン、ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選択する。
【0029】
もう1つの特定的で好ましい実施態様によれば、使用するジエンエラストマーは、主として、即ち、50phrよりも多くにおいて(“phr”は、エラストマー100部当りの質量部を意味することを思い起すべきである)、天然ゴム(NR)または合成ポリイソプレン(IR)である。さらに好ましくは、上記天然ゴムまたは合成ポリイソプレンは、その場合、好ましくは90%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエン(BR)とのブレンドとして使用する。
【0030】
もう1つの特定的で好ましい実施態様によれば、使用するジエンエラストマーは、主として、即ち、50phrよりも多くにおいて、90%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエン(BR)である。さらに好ましくは、上記ポリブタジエンは、その場合、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンとのブレンドとして使用する。
【0031】
もう1つの特定的で好ましい実施態様によれば、使用するジエンエラストマーは、NR(またはIR)とBRとの二成分ブレンド(混合物)、或いはNR(またはIR)、BRおよびSBRの三成分ブレンドである。好ましくは、そのようなブレンドの場合、上記組成物は、25phrと75phrの間のNR(またはIR)および75phrと25phrの間のBRを含み、これに、30phrよりも低い特に20phrよりも低い含有量の第3エラストマーを加えてもよく(三成分ブレンド)或いは加えなくてもよい。この第3エラストマーは、好ましくは、SBRエラストマー、特に、溶液SBR (“SSBR”)である。さらに好ましくは、そのようなブレンドの場合、上記組成物は、35?65phrのNR(またはIR)および65?35phrのBRを含む。使用するBRは、好ましくは90%よりも多い、より好ましくは95%よりも多いシス‐1,4結合含有量を有するBRである。
ジエンエラストマー以外の合成エラストマーを、実際にはエラストマー以外のポリマー、例えば、熱可塑性ポリマーでさえも、本発明の組成物のジエンエラストマーと少量で組合せ得る。」(明細書第5頁第28行?第7頁第40行;対応公表公報の段落【0022】?【0031】)

エ 「【0032】
II‐2. 可塑化系
本発明のゴム組成物は、他の本質的な特徴として、少なくとも30phrの液体である可塑剤(23℃において)を含むという特徴を有し、この可塑剤の役割は、上記エラストマーと補強用充填剤を希釈することにより、マトリックスを軟質化させることである;そのTgは、定義によれば、-20℃よりも低く、好ましくは-40℃よりも低い。
【0033】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の増量剤オイル、即ち、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。周囲温度(23℃)においては、これらの可塑剤またはこれらのオイルは、多かれ少なかれ粘稠であり、特に周囲温度で本来固体である可塑化用炭化水素樹脂とは対照的に、液体(即ち、注釈としては、最終的にはその容器の形を取る能力を有する物質)である。
ナフテン系オイル(低または高粘度、特に、水素化型またはその他)、パラフィン系オイル、MES(中度抽出溶媒和物)オイル、TDAEオイル(処理留出油芳香族抽出物)、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれら化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤が、特に適している。
【0034】
ホスフェート可塑剤としては、例えば、12個と30個の間の炭素原子を含有するホスフェート可塑剤、例えば、トリオクチルホスフェートを挙げることができる。エステル可塑剤としては、特に、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリンのトリエステル、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を挙げることができる。上記のトリエステルのうちでは、不飽和C18脂肪酸、即ち、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらの酸の混合物からなる群から選ばれる不飽和脂肪酸から主として(50質量%よりも多く、より好ましくは80質量%よりも多くにおいて)なるグリセリントリエステルを挙げることができる。さらに好ましくは、合成起原または天然起原(この場合は、例えば、ヒマワリまたはナタネ植物油)のいずれであれ、使用する脂肪酸は、50質量%よりも多くの、さらにより好ましくは80質量%のオレイン酸からなる。高含有量のオレイン酸を含むそのようなトリエステル(トリオレート)は、周知である;例えば、そのようなトリエステルは、出願WO 02/088238号において、タイヤ用のトレッドにおける可塑剤として説明されている。
本発明の組成物中の液体可塑剤の含有量は、好ましくは40phrよりも多く、より好ましくは50?100phrの範囲内に含ませる。
【0035】
また、もう1つの好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、固形である可塑剤(23℃において)として、例えば出願WO 2005/087859号、WO 2006/061064号およびWO 2007/017060号に記載されているような、+20℃よりも高い、好ましくは+30℃よりも高いTgを示す炭化水素樹脂も含み得る。
【0036】
炭化水素樹脂は、当業者にとって周知のポリマーであり、本質的に炭素と水素をベースとし、従って、“可塑化用”であるとして付加的に説明される場合、ジエンエラストマー組成物中で本来混和性である。炭化水素樹脂は、例えば、R. Mildenberg、M. ZanderおよびG. Collin (New York, VCH, 1997, ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にタイヤゴム分野の用途に充てられている(5.5. “Rubber Tires and Mechanical Goods”)。炭化水素樹脂は、脂肪族または芳香族或いは脂肪族/芳香族タイプでもあり得る、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、天然または合成であり得、オイル系であっても或いはなくてもよい(その場合、石油樹脂の名称でも知られている)。炭化水素樹脂は、好ましくは、専ら炭化水素である、即ち、炭化水素樹脂は、炭素および水素原子のみを含む。
【0037】
好ましくは、可塑化用炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも1つ、より好ましくは全部を示す:
・20℃よりも高い(より好ましくは40℃と100℃の間の)Tg;
・400g/モルと2000g/モルの間(より好ましくは500g/モルと1500g/モルの間)の数平均分子量(Mn);
・3よりも低い、より好ましくは2よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn;Mwは質量平均分子量)。
【0038】
Tgは、規格ASTM D3418 (1999年)に従い、DSC (示唆走査熱量測定法)により既知の方法で測定する。上記炭化水素樹脂のマクロ構造(Mw、MnおよびPI)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する:溶媒 テトラヒドロフラン;温度 35℃;濃度 1g/l;流量 1ml/分;注入前に0.45μmの有孔度を有するフィルターにより濾過した溶液;ポリスチレン標準によるムーア(Moore)較正;直列の3本“Waters”カラムセット(“Styragel”HR4E、HR1およびHR0.5);示差屈折計(“Waters 2410”)およびその関連操作ソフトウェア(“Waters Empower”)による検出。
【0039】
特に好ましい実施態様によれば、上記可塑化用炭化水素樹脂は、シクロペンタジエン(CPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー、ジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる。さらに好ましくは、上記のコポリマー樹脂のうちでは、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、C_(5)留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、C_(9)留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれるコポリマー樹脂を使用する。
【0040】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、α‐ピネンモノマー、β‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する;好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形で存在する:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D‐リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン、即ち、右旋性鏡像体および左旋性鏡像体のラセミ体。スチレン;α‐メチルスチレン;オルソ‐、メタ‐またはパラ‐メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン類;クロロスチレン類;ヒドロキシルスチレン類;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン;ビニルナフタレン;または、C_(9)留分(または、より一般的にはC_(8)?C_(10)留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーは、例えば、ビニル芳香族モノマーとして適切である。好ましくは、ビニル芳香族化合物は、スチレンまたはC_(9)留分(または、より一般的にはC_(8)?C_(10)留分)に由来するビニル芳香族モノマーである。好ましくは、ビニル芳香族化合物は、当該コポリマー中では、モル画分として表して少量モノマーである。
【0041】
炭化水素樹脂の含有量は、好ましくは、3phrと60phrの間、より好ましくは3phrと40phrの間、特に5phrと30phrの間である。
可塑剤全体(即ち、液体可塑剤+必要に応じての固形炭化水素樹脂)の含有量は、好ましくは40phrと100phrの間であり、より好ましくは50?80phrの範囲内で含ませる。」(明細書第8頁第2行?第10頁第30行;対応公表公報の段落【0032】?【0041】)

オ 「【0042】
II‐3. 補強用充填剤
タイヤの製造において使用することのできるゴム組成物を補強するその能力について知られている任意のタイプの補強用充填剤、例えば、カーボンブラックのような有機充填剤、カップリング剤と既知の方法で一緒に組合せるシリカのような補強用無機充填剤を使用することができる。
そのような補強用充填剤は、典型的には、ナノ粒子からなり、その平均粒度(質量による)は、500nmよりも低く、一般に20nmと200nmの間、特に好ましくは20nmと150nmの間である。
【0043】
タイヤ用のトレッドにおいて通常使用する全てのカーボンブラック類、特に、HAF、ISAFまたはSAFタイプのブラック類(“タイヤ級”ブラック類)が、カーボンブラックとして適している。さらに詳細には、後者のうちでは、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347またはN375ブラック類のような100、200または300シリーズの補強用カーボンブラック類(ASTM級)が挙げられる。カーボンブラックは、例えば、マスターバッチの形で、イソプレンエラストマー中に既に混入させていてもよい(例えば、出願 WO 97/36724号またはWO 99/16600号を参照されたい)。
カーボンブラック以外の有機充填剤の例としては、出願 WO 2006/069792号、WO 2006/069793号、WO 2008/003434号およびWO 2008/003435号に記載されているような官能化ポリビニル芳香族有機充填剤を挙げることができる。
【0044】
用語“補強用無機充填剤”とは、この場合、カーボンブラックに対比して“白色充填剤”または“透明充填剤”としても知られており、それ自体で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強し得、換言すれば、通常のタイヤ級カーボンブラックとその補強役割において置換わり得る、その色合およびその起源(天然または合成)の如何にかかわらない任意の無機または鉱質充填剤を意味するものと理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られているとおり、その表面でのヒドロキシル(‐OH)基の存在に特徴を有する。
【0045】
シリカ質タイプの鉱質充填剤、特にシリカ(SiO_(2))、またはアルミナ質タイプの鉱質充填剤、特にアルミナ(Al_(2)O_(3))は、補強用無機充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m^(2)/g未満、好ましくは30?400m^(2)/g、特に60m^(2)/gと300m^(2)/gの間にあるBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性(“HD沈降シリカ”)としては、例えば、Degussa社からのUltrasil 7000およびUltrasil 7005シリカ類;Rhodia 社からのZeosil 1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からのHi‐Sil EZ150Gシリカ;Huber社からのZeopol 8715、8745または8755シリカ類が挙げられる。補強用アルミナ類の例としては、Baikowski社からの“Baikalox A125”または“Baikalox CR125”アルミナ類、Condea社からの“APA‐100RDX”アルミナ、Degussa社からの“Aluminoxid C”アルミナまたはSumitomo Chemicals社からの“AKP‐G015”アルミナを挙げることができる。
【0046】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/または補強用無機充填剤)の含有量は、60phrと120phrの間、特に70phrと100phrの間である。
特定の実施態様によれば、補強用充填剤は、主として、カーボンブラックを含む;そのような場合、カーボンブラックは、少量のシリカのような補強用無機充填剤と組合せてまたは組合せないで、好ましくは60phrよりも多い含有量で存在する。
もう1つの特定の実施態様によれば、補強用充填剤は、主として、無機充填剤、特にシリカを含む;そのような場合、無機充填剤、特にシリカは、少量のカーボンブラックと組合わせてまたは組合せないで、好ましくは70phrよりも多い含有量で存在する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20phrよりも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば、0.1phrと10phrの間の)含有量で使用する。」(明細書第10頁第32行?第12頁第12行;対応公表公報の段落【0042】?【0046】)

(3) 甲22に記載された発明

甲22の上記(2)アないしオの記載から、特許請求の範囲の請求項1、5、6、12、13、16、17、18、19、20及び22を直列的に引用する請求項23として、以下の発明が記載されていると認める。

「天然ゴム、合成ポリイソプレン、90%よりも多いシス‐1,4結合含有量を有するポリブタジエン、ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれるジエンエラストマー、30phrよりも多いナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤、50phrと150phrとの間の補強用充填剤、5phrと40phrとの間の硫酸マグネシウム微小粒子、3phrと60phrとの間のシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる20℃よりも高いTgを示す炭化水素樹脂を含むゴム組成物を含むトレッドを含む冬季タイヤ。」(以下、「甲22発明」という。)

(4) 甲1に記載の事項

甲1には、以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
ゴム成分、熱可塑性樹脂及び充填材を含有するゴム組成物であって、該ゴム成分中、(A)変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体を10?60質量%及び(B)共役ジエン重合体を90質量%以下含み、(A)成分の重合開始剤がリチウムアミド化合物であるか又は(A)成分の活性末端に用いられる変性剤が(C)窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物もしくは(D)珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であるゴム組成物をトレッドに用いることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記(A)成分の一つの原料モノマーとして用いられる共役ジエン化合物が、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン及び2-フェニル-1,3-ブタジエンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記(B)成分の共役ジエン重合体のガラス転移温度Tgが、-80?-50℃である請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記(B)成分の共役ジエン重合体が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムである請求項7又は8に記載のタイヤ。」(特許請求の範囲の請求項1、2、8、9)

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のゴム組成物をトレッド用いることにより、湿潤路面での操縦安定性に優れ、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好であるタイヤ、特に空気入りタイヤに関するものである。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好であり、湿潤路面での操縦安定性に優れ、且つ加工性の良好なタイヤ、特に空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゴム成分、熱可塑性樹脂及び充填材を含有し、ゴム成分が特定の変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体と特定の共役ジエン重合体とを含み、前記共重合体に用いられる重合開始剤を特定のものとするか又は前記共重合体に用いられる変性剤が特定の窒素原子及び珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物、又は特定の珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であって、変性前の共役ジエン-芳香族ビニル共重合体と各変性剤を特定の組み合わせにすることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。」

エ 「【0074】
[他のゴム成分]
本発明に係るゴム成分は、(A)変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体及び(B)共役ジエン重合体以外に、本発明の目的に合致する範囲内で、種々のゴム成分、特にジエン系ゴムを含むことができる。
例えば、未変性の共役ジエン-芳香族ビニル共重合体、例えば、乳化重合スチレン-ブタジエンゴム、未変性の溶液重合スチレン-ブタジエンゴム、(A)成分又は(B)成分からガラス転移温度Tg範囲が外れるポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム等の外、エチレン-α-オレフィン共重合ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム及びハロゲン化メチル基を持つスチレンとイソブチレンの共重合体等が挙げられる。
これらのジエン系ゴムの一部又は全てが多官能型変性剤、例えば四塩化スズのような変性剤を用いることにより分岐構造を有しているジエン系変性ゴムであることがより好ましい。
・・・
【0091】製造例1 第一アミン変性スチレン-ブタジエンゴムの製造
<変性剤の合成>
合成例1:N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランの合成
窒素雰囲気下、撹拌機を備えたガラスフラスコ中のジクロロメタン溶媒400mL中にアミノシラン部位として36gの3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン(Gelest社製)を加えた後、更に保護部位として塩化トリメチルシラン(Aldrich社製)48mL、トリエチルアミン53mLを溶液中に加え、17時間室温下で撹拌し、その後反応溶液をエバポレーターにかけることにより溶媒を取り除き、反応混合物を得、更に得られた反応混合物を圧力665Pa条件下で減圧蒸留することにより、130?135℃留分としてN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを40g得た。
<第一アミン変性スチレン-ブタジエンゴムの合成>
窒素置換された内容積5L(リットル)のオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン2,750g、テトラヒドロフラン16.8mmol、スチレン125g、1,3-ブタジエン375gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、n-ブチルリチウム1.2mmolを添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は85℃に達した。
重合転化率が99%に達した時点で、ブタジエン10gを追加し、更に5分重合させた。リアクターからポリマー溶液を、メタノール1gを添加したシクロヘキサン溶液30g中に少量サンプリングした後、合成例1で得られたN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1.1mmolを加えて、変性反応を15分間行った。この後、テトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン0.6mmolを加え、更に15分間撹拌した。最後に反応後の重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第一アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熟ロールによりゴムを乾燥し、第一アミン変性スチレン-ブタジエンゴムを得た。得られた第一アミン変性スチレン-ブタジエンゴムのガラス転移温度Tgが-38℃、結合スチレン量24.5質量%、共役ジエン部のビニル含有量は56モル%、ムーニー粘度は32、変性前の重量平均分子量は158,000、変性前の分子量分布は1.05であった。また、第一アミノ基含有量は6.3mmol/kgであった。」

(5) 甲1に記載の技術事項

甲1の上記(4)ア?エの記載からみて、甲1には以下の技術事項が記載されていると認める。

「湿潤路面での操縦安定性に優れ、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性が良好であるタイヤを得るために、ゴム成分として、熱可塑性樹脂及び充填材を含有し、ゴム成分が珪素原子を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物で変性された変性共役ジエン-芳香族ビニル共重合体を10?60質量%と共役ジエン重合体を90質量%以下含むものを利用すること。」

(6) 本件発明1と甲22発明との対比・判断

ア 甲22発明の「ジエンエラストマー」、「冬季タイヤ」は、それぞれ、本件発明1における「第1ジエンエラストマー」、「スノータイヤ」に相当する。
甲22発明の「補強用充填材」は、上記(2)オの記載から、本件発明1の「シリカ」を含む上位概念を意味している。
甲22発明の「補強用充填剤」の配合量である「50phrと150phrとの間」は、本件発明1におけるシリカの配合量と「105?140phr」の範囲において重複一致する。
甲22発明の「シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる20℃より高いTgを示す炭化水素樹脂」は、本件発明1における「シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂」に相当し、その配合量である「3phrと60phrとの間」は、本件発明1における「10phrと60phrの間」と重複一致する。
甲22発明の「ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤」は、本件発明1における「液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤」に相当し、その配合量である「30phrより多い」は、本件発明1における「10phrと60phrの間」と30phrと60phrの間で重複一致する。

そうすると、本件発明1と甲22発明とは、
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むスノータイヤ:
・第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?60phrの第2ジエンエラストマー:
・105?140phrの補強用充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・30phrと60phrの間の含有量Bの液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、SRAEオイルおよびSRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤」

の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
第1ジエンエラストマーに関し、本件発明1は「少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む」と特定し、その配合量として「40?100phr」と特定するのに対し、甲22発明は、この点を特定しない点。

<相違点2>
補強用充填材として、本件発明1は「105?140phrのシリカ」と特定するのに対して、甲22発明は、この点を特定していない点。

<相違点3>
可塑剤系に関し、本件発明1は「50phrよりも多い総含有量A+B」と特定するのに対し、甲22発明は、この点を特定しない点。

<相違点4>
硫酸マグネシウム微小粒子について、甲22発明は、必須の構成としているが、本件発明1は、硫酸マグネシウムは必須の構成でない点。

イ 相違点1について検討する。
まず、甲22発明は、「天然ゴム、合成ポリイソプレン、90%よりも多いシス‐1,4結合含有量を有するポリブタジエン、ブタジエン/スチレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれるジエンエラストマー」であるから、スチレン単位及びブタジエン単位を含むジエンエラストマーを包含する発明である。
そして、甲22には「 II‐1 ジエンエラストマー ・・・これらのエラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、分散液または溶液中で調製し得る;これらのエラストマーは、カップリング剤および/または星型枝分れ化剤(star‐branching agent)或いは官能化剤によってカップリングおよび/または星型枝分れ化或いは官能化し得る。カーボンブラックとのカップリングにおいては、例えば、C‐Sn結合を含む官能基または、例えば、ベンゾフェノンのようなアミン化官能基を挙げることができる;シリカのような補強用無機充填剤とのカップリングにおいては、例えば、シラノール官能基またはシラノール末端を有するポリシロキサン官能基(例えば、US 6 013 718号に記載されているような)、アルコキシシラン基(例えば、US 5 977 238号に記載されているような)、カルボキシル基(例えば、US 6 815 473号またはUS 2006/0089445号に記載されているような)、或いはポリエーテル基(例えば、US 6 503 973号に記載されているような)を挙げることができる。また、そのような官能化エラストマーの他の例として、エポキシ化タイプのエラストマー(SBR、BR、NRまたはIRのような)を挙げることができる。」(上記(3)ウの下線部)との記載があるから、ジエンエラストマーとしてシラノール官能基を有する官能化エラストマーを利用することが示唆されている。
一方、甲1には、上記(5)に記載の技術事項が記載されているから、当業者が、甲22発明のジエンエラストマーとして、シラノール末端を有するシラノール官能基を有するジエンエラストマーであって、スチレン単位及びブタジエン単位を含むもの、すなわち、「少なくとも1個のSiOR官能基 (Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む」ジエンエラストマーを10?60phrと共役ジエン重合体を90質量%以下含むものを利用するようにして、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、想到容易である。

ウ 相違点2について検討すると、甲22の上記(2)オには、
「II‐3. 補強用充填剤
タイヤの製造において使用することのできるゴム組成物を補強するその能力について知られている任意のタイプの補強用充填剤、例えば、カーボンブラックのような有機充填剤、カップリング剤と既知の方法で一緒に組合せるシリカのような補強用無機充填剤を使用することができる。
・・・
シリカ質タイプの鉱質充填剤、特にシリカ(SiO_(2))、またはアルミナ質タイプの鉱質充填剤、特にアルミナ(Al_(2)O_(3))は、補強用無機充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m^(2)/g未満、好ましくは30?400m^(2)/g、特に60m^(2)/gと300m^(2)/gの間にあるBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性(“HD沈降シリカ”)としては、例えば、Degussa社からのUltrasil 7000およびUltrasil 7005シリカ類;Rhodia 社からのZeosil 1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からのHi‐Sil EZ150Gシリカ;Huber社からのZeopol 8715、8745または8755シリカ類が挙げられる。
・・・
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/または補強用無機充填剤)の含有量は、60phrと120phrの間、・・・
もう1つの特定の実施態様によれば、補強用充填剤は、主として、無機充填剤、特にシリカを含む;そのような場合、無機充填剤、特にシリカは、少量のカーボンブラックと組合わせてまたは組合せないで、好ましくは70phrよりも多い含有量で存在する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20phrよりも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば、0.1phrと10phrの間の)含有量で使用する。」と記載されている。
そうすると、甲22発明には、補強用充填材としてシリカを60?120phr配合するものが示唆されているから、当業者が補強用無機充填材として、「105?140phrのシリカ」に含まれる105?120phrのシリカを選択することは想到容易である。

エ 相違点3について検討すると、甲22発明の可塑剤系の20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂Aは3phrと60phrの間の含有量であり、液体可塑剤Bは、30phrよりも多い含有量であって、具体的に両者を配合している甲22の実施例C-4においては、エラストマー成分100質量部に対して液体可塑剤として非芳香族オイル(7)を45質量部、炭化水素樹脂(11)を10質量部配合したものが示されているから、甲22発明においても、50phrよりも多い総含有量A+Bである蓋然性が高い。
してみれば、相違点3は実質上の相違点とはいえない。
仮に、相違点3が実質的な相違点であったとしても、甲22発明が「30phrより多い液体可塑剤」との特定であることから、求めるタイヤの性能等に応じて、「A+B」を50phrよりも多い総重量とすることは当業者において想到容易である。

オ 相違点4について検討すると、本件発明1は、「少なくとも下記を含む組成物」とあるから、他の成分を含むことを包含するものであって、本件特許明細書の「I‐4. 各種添加剤 また、本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物は、例えば、上述した充填剤以外の充填剤、例えば、チョークのような非補強用充填剤またはカオリンおよびタルクのような板状充填剤;顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤、酸化防止剤のような保護剤;補強用樹脂(レゾルシノールまたはビスマレイミド);例えば出願WO 02/10269号に記載されているような、メチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドをベースとする架橋系;加硫促進剤または加硫遅延剤;および加硫活性化剤のような、タイヤ、特に冬季タイヤ用のトレッドの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的に使用する標準の添加剤の全部または1部も含み得る。」(段落【0082】)との記載からみても、本件発明1は、「硫酸マグネシウム微小粒子」を配合することを排除していないから、相違点4は実質上の相違点とはいえない。

カ 相違点に係る効果について検討する。
本件特許明細書に記載の具体的な実施例において奏されている効果は、特定の配合量の第1ジエンエラストマーと特定の可塑剤系において奏される効果であって、膨大な組み合わせを包含する可塑剤系及び広い範囲の第1ジエンエラストマーの配合量を包含するゴム組成物からなる本件発明1全体が奏する効果とはいえないから、相違点により格別の効果が奏されるとはいえない。

キ したがって、本件発明1は、甲22発明及び甲1に記載の技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本件発明2?8と甲22発明との対比・判断

本件発明2?8において特定する事項のうち、可塑剤系に係る事項については、甲22の上記(2)エに記載されているから、新たな相違点となるものではなく、スノータイヤ用のゴム組成物のジエンエラストマーに係る特定事項については、甲1の上記(4)エに記載されているから、上記(6)においての検討のとおりであって、本件発明2?8は、甲22発明及び甲1に記載の技術事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8) 本件発明9と甲22発明との対比・判断

本件発明9は、「硫酸マグネシウム微小粒子を含む場合を除く」組成物を含むタイヤであって、甲22発明が硫酸マグネシウム微小粒子を含む組成物からなることを前提としている以上、甲22発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(9) まとめ

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許についての取消理由2には理由がある。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。また、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スノータイヤトレッド
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、タイヤのトレッド用のゴム組成物、さらに詳細には、積雪地面を走行することのできるスノータイヤまたは冬季タイヤ用のゴム組成物の分野である。知られている通り、タイヤ側壁上にマークされた銘刻文字M+SまたはM.S或いはM&Sによって識別されるこれらのスノータイヤは、泥雪および新雪或いは半解け雪において、無積雪地面上を走行するように設計されている車道タイプのタイヤの挙動よりも良好な挙動を何にもまして確保することを意図するトレッド設計および構造に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
白地(white ground)と称する積雪地面は、低摩擦係数を有するという特徴を有し、低ガラス転移温度(Tg)を有するジエンゴム組成物をベースとするトレッドを含むスノータイヤの開発に至っている。しかしながら、そのようなトレッドを含むこれらタイヤの湿潤地面上でのグリップ性能は、タイヤトレッドが、一般に、異なる配合を有し、特に高めのTgを有するゴム組成物をベースとする車道タイヤの性能よりも一般的に劣っている。
【0003】
上記から、冬季タイヤの湿潤地面上でのグリップ性能をさらに改良するが、一方では、積雪上でのグリップ性能を悪化させないことが、タイヤ製造業者の不変の目的である。
【発明の概要】
【0004】
研究の継続中に、本出願人等は、予期に反して、ある種の官能性ジエンエラストマー、補強用無機充填剤および特定の可塑化系の組合せ使用がスノータイヤの湿潤地面上でのグリップ性能を、積雪上でのグリップ性を低下させることなくさらに改良することを可能にすることを見出した。
【0005】
従って、本発明の1つの主題は、トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするスノータイヤである:
・少なくとも1個のSIOR官能基(Rは水素または炭化水素基である)を担持する20?100phrの第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?80phrの第2ジエンエラストマー:
・100?160phrの補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bの液体可塑剤;
・50phrよりも多い総含有量A+B。
【0006】
本発明のタイヤは、特に、4×4(四輪駆動)車およびSUV車(スポーツ用多目的車)のような乗用車タイプの自動車;さらにまた、特に、バン類および重量物運搬車(即ち、バス並びにトラックのような重量道路輸送車)から選ばれる産業用車両に装着することを意図する。
【0007】
本発明およびその利点は、以下の説明および典型的な実施態様に照らせば容易に理解し得るであろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
I‐発明の詳細な説明
本説明においては、特に明確に断らない限り、示す百分率(%)は、全て質量%である。略号“phr”は、エラストマー(複数のエラストマーが存在する場合、エラストマーの総量)の100質量部当りの質量部を意味する。ガラス転移温度“Tg”の値は、全て、規格ASTM D3418(1999年)の従うDSC(示差走査熱量法)によって既知の方法で測定する。
【0009】
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでの範囲の値の領域を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a?b”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aからbまでの範囲の値の領域を意味する(即ち、厳格な限界値aおよびbを含む)。
【0010】
I‐1.ジエンエラストマー
“ジエン”エラストマー(または“ゴム”、2つの用語は同義であるとみなす)は、ジエンモノマー(共役型であってもまたはなくてもよい2個の炭素‐炭素二重結合を担持するモノマー)に少なくとも一部由来する1種以上のエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきである。
【0011】
これらのジエンエラストマーは、2つのカテゴリー、即ち、“本質的に不飽和”または“本質的に飽和”に分類し得る。一般に、“本質的に不飽和”なる表現は、15%(モル%)よりも多いジエン由来(共役ジエン)の単位含有量を有する、共役ジエンモノマーに少なくとも一部由来するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい;従って、ブチルゴム、またはEPDMタイプのジエンとα‐オレフィンとのコポリマーのようなジエンエラストマーは、上記の定義に属さず、特に、“本質的に飽和”のジエンエラストマー(低いまたは極めて低い、常に15%よりも低いジエン由来の単位含有量)として説明し得る。“本質的に不飽和”のジエンエラストマーのカテゴリーにおいては、“高不飽和”のジエンエラストマーなる表現は、特に、50%よりも多いジエン由来(共役ジエン)の単位含有量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0012】
本発明は任意のタイプのジエンエラストマーに当てはまるけれども、タイヤ技術における熟練者であれば、本発明は、好ましくは、本質的に不飽和のジエンエラストマーでもって使用することを理解されたい。
これらの定義を考慮すれば、本発明に従う組成物において使用することのできるジエンエラストマーなる表現は、特に、下記を意味するものと理解されたい:
(a)好ましくは4?12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー;
(b)1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは好ましくは8?20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマー。
【0013】
以下は、共役ジエン類として特に適している:1,3‐ブタジエン;2‐メチル‐1,3‐ブタジエン;例えば、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、2,3‐ジエチル‐1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐3‐エチル‐1,3‐ブタジエンまたは2‐メチル‐3‐イソプロピル‐1,3‐ブタジエンのような2,3‐ジ(C_(1)?C_(5)アルキル)‐1,3‐ブタジエン;アリール‐1,3‐ブタジエン;1,3‐ペンタジエンまたは2,4‐ヘキサジエン。以下は、例えば、ビニル芳香族化合物として適している:スチレン;オルソ‐、メタ‐またはパラ‐メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレン。
【0014】
上記コポリマーは、99?20質量%のジエン単位と1?80質量%のビニル芳香族単位を含み得る。
さらに好ましくは、ポリブタジエン(BR)(特に、90%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエン)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマーおよびこれらエラストマーのブレンドからなる群から選ばれる第1ジエンエラストマーを使用する;そのようなコポリマーは、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)およびそのようなコポリマーのブレンドからなる群から選ばれる。
【0015】
以下が適している:ポリブタジエン、特に、4%と80%の間の1,2‐単位含有量(モル%)を有するポリブジエンまたは80%よりも多いシス‐1,4‐単位含有量(モル%)を有するポリブタジエン;ポリイソプレン;ブタジエン/スチレンコポリマー、特に、0℃と-80℃の間の間のTg(ガラス転移温度(Tg)、ASTM D3418に従い測定)、5質量%と60質量%の間、特に10質量%と50質量%の間のスチレン含有量、4%と75%の間のブタジエン成分1,2‐結合含有量(モル%)および10%と80%の間のトランス‐1,4‐結合含有量(モル%)を有するコポリマー。
【0016】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、-80℃?-35℃、好ましくは-70℃?-40℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
上記第1ジエンエラストマーは、使用する重合条件、特に、変性剤および/またはランダム化剤の存在または不存在並びに使用する変性剤および/またはランダム化剤の量に依存する任意のミクロ構造を有し得る。このエラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、分散液中または溶液中で調製し得る。
【0017】
本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物の本質的特徴は、少なくとも1個(即ち、1個以上)のSiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーを含むことである;Rは、水素、または炭化水素基、特に、好ましくは1?12個の炭素原子を有するアルキル、特に、メチルまたはエチルである。
【0018】
“炭化水素基”なる表現は、炭素および水素原子から本質的になる1価の基を意味する;そのような基は、少なくとも1個のヘテロ原子を含むことは可能であり、炭素および水素原子によって形成される集合体が炭化水素基内で主要な数的画分を示すことが判明している。
【0019】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、上記炭化水素基は、1?12個の炭素原子を有する、より好ましくは1?6個の炭素原子を有する、さらにより好ましくは1?4個の炭素原子を有する枝分れ、線状または環状アルキル、特に、メチルまたはエチルである。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、基Rは、特に2?8個の炭素原子を有するアルコキシアルキルである。
本出願においては、“SiOR官能基”なる表現は、少なくとも1個のSiOR官能基、即ち、1個以上のSiOR官能基を示すのに使用する。
【0020】
一般に、エラストマーが担持する官能基は、3つの可能性ある形態に従って、即ち、エラストマー鎖に沿ってペンダント基として、エラストマー鎖の1末端に或いは実際のエラストマー鎖内(即ち、末端ではない)に位置し得る。後者の例は、特に、エラストマーを、当該官能基を付与するカップリング剤または星型枝分れ化剤を使用して官能化する場合に生じる。
【0021】
特に、上記第1ジエンエラストマーが担持するSiOR官能基は、エラストマー鎖に沿ってペンダント基として、エラストマー鎖の1末端に或いは実際のエラストマー鎖内に位置し得る。上記エラストマーが複数のSiOR官能基を担持する場合、これらの基は、上記の形態のどれかを占める。
【0022】
上記第1ジエンエラストマーは、線状、星型枝分れまたは枝分れポリマーであり得る。
上記第1ジエンエラストマーは、線状ポリマーである場合、カップリングさせてもまたはさせなくてもよい。このエラストマーは、単峰性、二峰性または多峰性分子量分布を有し得る。
【0023】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、主として、線状形である、即ち、第1ジエンエラストマーが星型枝分れまたは枝分れ鎖を含む場合、これらの鎖は、このエラストマーにおいては少量質量画分を示す。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、アニオン重合によって調製する。
【0024】
1つの特に好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、式SiOH(Rが水素である)を有する“シラノール”官能基と称する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する。
そのような定義に相応するジエンエラストマーは、周知であり、例えば、文献EP 0 778 311 B1号、WO 2008/141702号、WO 2006/050486号、EP 0 877 047 B1号またはEP 1 400 559 B1号に記載されている。シラノール官能基SiOHは、好ましくは、ジエンエラストマー鎖の末端に、特にジメチルシラノール基‐SiMe_(2)SiOHの形で位置する。
【0025】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、シラノール官能基は、例えば特許EP 0 778 311 B1号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリシロキサンに結合させ得る。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、シラノール官能基は、例えば出願2009/000750号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリエーテルに結合させ得る。
【0026】
もう1つの特に好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーは、式SiOR(式中、Rは炭化水素基である)を有する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する。
また、そのような定義に相応するジエンエラストマーも、周知であり、例えば、文献JP 63‐215701号、JP 62‐227908号、US 5 409 969号またはWO 2006/050486号に記載されている。
【0027】
1つの特定の実施態様によれば、SiOR官能基(Rは炭化水素基である)、特に、アルコキシシラン官能基は、例えば出願2009/000750号に記載されているように、ポリジエンブロックをも含むブロックコポリマーの1つのブロックを構成するポリエーテルに結合させ得る。
【0028】
もう1つの特に好ましい実施態様によれば、式SiOR(式中、Rは、水素または炭化水素基である)を有する少なくとも1個(即ち、1個以上)の官能基を担持する第1ジエンエラストマーは、SiOR官能基とは異なる少なくとも1個(即ち、1個以上)の他の官能基も担持する。この他の官能基は、好ましくは、エポキシ、スズまたはアミン官能基からなる群から選ばれ、アミンは、第一級、第二級または第三級アミンであり得る。アミン官能基は、特に好ましい。
【0029】
SiOR官能基とエポキシ官能基の双方を担持するエラストマーは、例えば、特許EP 0 890 607 B1号およびEP 0 692 492 B1号に記載されている。SiOR官能基とスズ官能基の双方を担持するエラストマーは、例えば、特許EP 1 000 970 B1号に記載されている。
【0030】
より好ましい実施態様によれば、上記第1ジエンエラストマーが担持するこの他の官能基は、アミン官能基、さらに好ましくは第三級アミンである。
アミン官能基は、エラストマー鎖のSiOR官能基と同じ末端(または複数の同じ末端)上に位置し得る。同じ鎖末端上にSiOR官能基とアミン官能基を有するエラストマーは、例えば、特許または特許出願EP 1 457 501 B1号、WO 2006/076629号、EP 0 341 496 B1号またはWO 2009/133068号に或いはWO 2004/111094号に記載されている。
【0031】
アルコキシシラン官能基とアミン官能基を担持するエラストマーの合成を生じさせる官能化剤としては、例えば、N,N‐ジアルキルアミノプロピルトリアルコキシシラン;N‐アルキル‐アザ‐ジアルコキシシラシクロアルカンのような環状アザジアルコキシシラン;
2‐ピリジルエチルトリアルコキシシラン;3‐カルバゾールエチルトリアルコキシシラン;3‐アルキリデンアミノプロピルトリアルコキシシラン;N‐トリアルコキシシリルプロピルモルホリン、特に、3‐(N,N‐ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3‐(1,3‐ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシラン、N‐n‐ブチル‐アザ‐2,2‐ジメトキシシラシクロペンタン、2‐(4‐ピリジルエチル)トリエトキシシランおよび2‐(トリメトキシシリル)ピリジンを挙げることができる。
【0032】
もう1つの実施態様によれば、アミン官能基は、SiOR官能基を担持していないエラストマー鎖の末端上に存在し得る。そのような形態は、例えば、アミン官能基を担持する開始剤を使用することによって、特に、リチウムピロリジドまたはリチウムヘキサメチレンイミドのようなリチウムアミド或いはジメチルアミノプロピルリチウムおよび3‐ピロリジノプロピルリチウムのようなアミン官能基を担持する有機リチウム化合物である開始剤を使用することによって生じさせ得る。そのような開始剤は、例えば、特許EP 0 590 490 B1号およびEP 0 626 278 B1号に記載されている。その異なる鎖末端にSiOR官能基とアミン官能基を担持するそのようなエラストマーは、例えば、特許EP 0 778 311 B1号およびUS 5 508 333号に記載されている。
【0033】
上述した実施態様の各々に適用することのできるもう1つの特に好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、ジエン単位以外に、ビニル芳香族単位、特に、スチレン単位を含む。好ましくは、ジエン単位は、好ましくはスチレン単位と組合せたブタジエン単位である。有利には、第1ジエンエラストマーは、スチレンとブタジエンのコポリマー、即ち、SBR、好ましくは溶液SBR(SSBR)である。
本発明の最も特に好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーとしての上記SBRは、-80℃?-35℃、好ましくは-70℃?-40℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
【0034】
従って、本発明の1つの有利な実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、好ましくはエラストマー鎖の末端に位置した少なくとも1個のシラノール官能基を担持するSBR、好ましくはSSBRである。
本発明のさらにより好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、好ましくは鎖末端に位置した1個のシラノール官能基を担持するSBR、好ましくはSSBRである。
【0035】
本発明のもう1つの有利な実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、少なくとも1個のSiOR官能基(Rは炭化水素基である)、特にアルコキシシラン官能基と、少なくとも1個のアミン官能基、好ましくは第三級アミン官能基とを担持し、好ましくは、これら官能基の双方が鎖内に、さらにより好ましくはエラストマー鎖内に位置するSBR、好ましくはSSBRである。
本発明のさらにより好ましい実施態様によれば、第1ジエンエラストマーは、1個のアルコキシシラン官能基と1個のアミン官能基、好ましくは第三級アミン官能基とを担持し、好ましくは、これら官能基の双方が鎖内に、さらにより好ましくはエラストマー鎖内に位置するSBR、好ましくはSSBRである。
【0036】
SiOR官能基を担持する第1ジエンエラストマーは、SiOR官能基の化学的性質によって、エラストマー鎖内のその位置によって、SiOR以外のさらなる官能基の存在によって、そのミクロ構造によって或いはそのマクロ構造によって互いに異なるエラストマーの混合物によっても調製し得ることを理解されたい。
【0037】
第1ジエンエラストマーの含有量は、20?100phr、好ましくは40?100phr、さらにより好ましくは50?100phrの範囲内にある。
【0038】
本発明に従うタイヤのトレッドの組成物が任意構成成分としての第2ジエンエラストマーを含む場合、このエラストマーは、SiOR官能基を担持しない限りにおいて第1エラストマーと異なる。にもかかわらず、この第2エラストマーは、第1ジエンエラストマーのミクロ構造またはマクロ構造と同一または異なり得るミクロ構造またはマクロ構造を有し得る。第2ジエンエラストマーは、0?80phr、好ましくは0?60phr、さらにより好ましくは0?50phrの範囲の割合で使用する。
【0039】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれる。
【0040】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ポリブタジエンである。ポリブタジエンは、好ましくは、シス‐1,4‐ポリブタジエン、即ち、90%(モル%)よりも多い、好ましくは96%(モル%)以上のシス‐1,4‐結合含有量を有するポリブタジエンである。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、ブタジエンコポリマー、特に、SBR、好ましくは溶液SBRである。
【0041】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、この第2ジエンエラストマーは、少なくとも1個の官能基(勿論、SiOR官能基以外の)、特に、スズ官能基を担持し得る。この第2エラストマーは、有利には、スズにカップリングさせたまたは星型枝分れさせたジエンエラストマーである。
【0042】
第2ジエンエラストマーは、そのミクロ構造によって、そのマクロ構造によってまたは官能基の存在によって、エラストマー鎖上の官能基の性質または位置によって互いに異なるジエンエラストマーの混合物によっても調製し得ることを理解されたい。
【0043】
上記スズ以外の官能基としては、例えば、例えばベンゾフェノンのようなアミノ官能基、カルボン酸基(例えば、WO 01/92402号またはUS 6 815 473号、WO 2004/096865号またはUS 2006/0089445号に記載されているような)、ポリエーテル基(例えば、EP 1 127 909号またはUS 6 503 973号に記載されているような)またはエポキシ基を挙げることができる。
【0044】
I‐2.補強用充填剤
もう1つの本質的な特徴として、本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物は、補強用無機充填剤を、特定の量で、即ち、100?160phrの範囲の割合で含む。
【0045】
“補強用無機充填剤”なる表現は、この場合、カーボンブラックと対比して“白色充填剤”、“透明充填剤”ともまたは“非黒色充填剤”とさえも称し、それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、空気式タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強し得る、換言すれば、その補強役割において、通常のタイヤ級カーボンブラックと置換わり得る、その色合およびその由来(天然または合成)の如何にかかわらない任意の無機または鉱質充填剤を意味するものと理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られているとおり、その表面でのヒドロキシル(‐OH)基の存在に特徴を有する。
【0046】
シリカ質タイプの鉱質充填剤、好ましくはシリカ(SiO_(2))は、補強用無機充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m^(2)/g未満、好ましくは30?400m^(2)/g、特に60m^(2)/gと300m^(2)/gの間にあるBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性沈降シリカ(“HDS”)としては、例えば、Degussa社からのUltrasil 7000およびUltrasil 7005シリカ類;Rhodia社からのZeosil 1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からのHi‐Sil EZ150Gシリカ;Huber社からのZeopol 8715、8745または8755シリカ類;または、出願WO 03/16387号に記載されているような高比表面積を有するシリカ類が挙げられる。
【0047】
また、補強用無機充填剤としては、アルミニウム質タイプの鉱質充填剤、特に、アルミナ(Al_(2)O_(3))または(酸化)水酸化アルミニウム、或いは補強用酸化チタンが挙げられる。
【0048】
当業者であれば、もう1つの性質、特に、有機性を有する、カーボンブラックのような補強用充填剤を、この補強用充填剤がシリカのような無機層によって被覆されているか或いはその表面に、官能部位、特にヒドロキシルを含み、該充填剤と上記エラストマー間の結合を形成させるためのカップリング剤の使用を必要とすることを条件として、この項で説明する補強用無機充填剤と等価の充填剤として使用し得ることを理解されたい。例としては、例えば、例えば特許文献WO 96/37547号およびWO 99/28380号に記載されているような、タイヤ用のカーボンブラックを挙げることできる。
【0049】
有利には、補強用無機充填剤の含有量は、100?150phr、さらに有利には105?140phrの範囲である。
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記補強用無機充填剤は、50質量%?100質量%のシリカを含む。
【0050】
もう1つの有利な実施態様によれば、本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物は、カーボンブラックを含み得る。カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20phrも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば、0.5phrと20phrの間、特に2phrと10phrの間の)含有量で使用する。上記の範囲内では、カーボンブラックの着色特性(黒色着色剤)およびUV安定化特性の利益を、尚且つ補強用無機充填剤が付与する典型的な性能に悪影響を及ぼすことなく享受し得る。
【0051】
補強用無機充填剤をジエンエラストマーにカップリングさせるためには、知られている通り、無機充填剤(その粒子表面)とジエンエラストマー間に化学的および/または物理的性質の十分な結合をもたらすことを意図するカップリング剤(または結合剤)を使用する。このカップリング剤は、少なくとも二官能性である。特に、少なくとも二官能性のオルガノシランまたはポリオルガノシロキサン類を使用する。
【0052】
特に、例えば出願WO 03/002648号(またはUS 2005/016651号)およびWO 03/002649号(またはUS 2005/016650号)に記載されているような、その特定の構造によって“対称形”または“非対称形”と称するシランポリスルフィドを使用する。
【0053】
下記の一般式(I)に相応するシランポリスルフィドは、以下の定義に限定されることなく、特に適している:
(I) Z ‐ A ‐ S_(x) ‐ A ‐ Z
[式中、xは、2?8(好ましくは2?5)の整数であり;
A符号は、同一または異なるものであって、2価の炭化水素系基(好ましくはC_(1)?C_(18)アルキレン基またはC_(6)?C_(12)アリーレン基、特にC_(1)?C_(10)、特にC_(1)?C_(4)アルキレン、特にプロピレン)であり;
Z符号は、同一または異なるものであって、下記の式の1つに相応する:
【化1】

(式中、R^(1)基、置換されているかまたは置換されてなく、互いに同一または異なるものであって、C_(1)?C_(18)アルキル、C_(5)?C_(18)シクロアルキルまたはC_(6)?C_(18)アリール基(好ましくはC_(1)?C_(6)アルキル、シクロヘキシルまたはフェニル基、特にC_(1)?C_(4)アルキル基、特にメチルおよび/またはエチル)を示し;
R^(2)基は、置換されているかまたは置換されてなく、互いに同一または異なるものであって、C_(1)?C_(18)アルコキシルまたはC_(5)?C_(18)シクロアルコキシル基(好ましくは、C_(1)?C_(8)アルコキシルおよびC_(5)?C_(8)シクロアルコキシルから選ばれる基、さらにより好ましくはC_(1)?C_(4)アルコキシルから選ばれる基、特にメトキシルおよびエトキシル)を示す)]。
【0054】
上記式(I)に相応するアルコキシシランポリスルフィド類の混合物、特に、標準の商業的に入手可能な混合物の場合、“x”指数の平均値は、好ましくは2と5の間の、より好ましくは4に近い分数である。しかしながら、本発明は、例えば、アルコキシシランジスルフィド(x=2)によっても有利に実施し得る。
【0055】
さらに詳細には、シランポリスルフィドの例としては、特に、例えば、ビス(3‐トリメトキシシリルプロピル)またはビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドのような、ビス((C_(1)?C_(4))アルコキシル(C_(1)?C_(4))アルキルシリル(C_(1)?C_(4))アルキル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)が挙げられる。特に、これらの化合物のうちでは、式[(C_(2)H_(5)O)_(3)Si(CH_(2))_(3)S_(2)]_(2)を有するTESPTと略称されるビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、または式[(C_(2)H_(5)O)_(3)Si(CH_(2))_(3)S]_(2)を有するTESPDと略称されるビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを使用する。また、好ましい例としては、上記の特許出願WO 02/083782号(またはUS 7 217 751号)に記載されているような、ビス(モノ(C_(1)?C_(4))アルコキシルジ(C_(1)?C_(4))アルキルシリルプロピル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)、特に、ビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドも挙げられる。
【0056】
アルコキシシランポリスルフィド類以外のカップリング剤としては、特に、例えば特許出願WO 02/30939号(またはUS 6 774 255号)、WO 02/31041号(またはUS 2004/051210号)およびWO 2007/061550号に記載されているような、二官能性POS(ポリオルガノシロキサン)類またはヒドロキシシランポリスルフィド類(上記式Iにおいて、R^(2)=OH)、或いは、例えば、特許出願WO 2006/125532号、WO 2006/125533号およびWO 2006/125534号に記載されているような、アゾジカルボニル官能基を担持するシランまたはPOS類が挙げられる。
【0057】
他のシランスルフィドの例としては、例えば、例えば特許または特許出願US 6 849 754号、WO 99/09036号、WO 2006/023815号、WO 2007/098080号、WO 2008/055986号およびWO 2010/072685号に記載されているような、少なくとも1個のチオール(‐SH)官能基および/または少なくとも1個のマスクトチオール官能基を担持するシラン(メルカプトシランと称する)類が挙げられる。
【0058】
勿論、特に上記出願WO 2006/125534号に記載されているような、上記のカップリング剤の混合物も使用し得る。
カップリング剤の含有量は、好ましくは2phrと20phrの間、より好ましくは3phrと15phrの間の量である。
【0059】
I‐3.可塑化系
本発明に従うスノータイヤのトレッドのゴム組成物のもう1つの本質的特徴は、一方の10phrと60phrの間の含有量Aの、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂と、他方の10phrと60phrの含有量Bの液体可塑剤とを含む特定の可塑化系を含むことである;総含有量A+Bは、50phrよりも多いことを理解されたい。
【0060】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、炭化水素樹脂の含有量Aは10phrと50phrの間の量であり、液体可塑剤の含有量Bは10phrと50phrの間の量である。
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量A+Bは、50phrと100phrの間、より好ましくは55phrと90phrの間、特に60phrと85phrの間の量である。
【0061】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、A対Bの比は、1:5と5:1の間(即ち、0.2と5.0の間)、好ましくは1:4と4:1の間(即ち、0.25と4.0の間)の比である。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、(A+B)対補強用無機充填剤、特にシリカの質量の質量比は、50%と80%の間、好ましくは55%?75%の範囲内である。
【0062】
当業者にとっては知られている通り、“樹脂”なる名称は、本出願においては、定義によれば、オイルのような液体可塑化用化合物とは対照的に、周囲温度(23℃)において固体である化合物に対して使用される。
【0063】
炭化水素樹脂は、炭素と水素を本質的にベースとするが他のタイプの原子も含み得る、当業者にとって周知のポリマーであり、特に、ポリマーマトリックス中で可塑剤または粘着付与剤として使用し得る。炭化水素樹脂は、本来、使用する含有量において、真の希釈剤として作用するように、使用を意図するポリマー組成物と混和性(即ち、相溶性)である。炭化水素樹脂は、例えば、R.Mildenberg、M.ZanderおよびG.Collin(New York,VCH,1997,ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にゴムタイヤの用途に当てられている(5.5.″Rubber Tires and Mechanical Goods″)。炭化水素樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、水素化芳香族であり得、或いは脂肪族/芳香族タイプ、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、石油系(そうである場合、石油樹脂としても知られている)または石油系でない天然または合成樹脂であり得る。これら炭化水素樹脂のTgは、好ましくは0℃よりも高く、特に20℃よりも高い(通常は、30℃と95℃の間)。
【0064】
また、知られているとおり、これらの炭化水素樹脂は、これらの樹脂が加熱したときに軟化し、従って、成形することができる点で、熱可塑性樹脂とも称し得る。また、炭化水素樹脂は、軟化点または軟化温度によっても定義し得る。炭化水素樹脂の軟化点は、一般に、そのTg値よりも約50?60℃高い。軟化点は、規格ISO 4624(環球法)に従って測定する。マクロ構造(Mw、MnおよびIp)は、以下に示すサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する。
【0065】
要するに、SEC分析は、例えば、溶液中の巨大分子を、それら分子のサイズに従い、多孔質ゲルを充填したカラムによって分離することからなる;巨大分子は、それら分子の流体力学的容積に従い分離し、最大嵩だか物が最初に溶出する。分析すべきサンプルを、前もって、適切な溶媒、即ち、テトラヒドロフラン中に、1g/リットルの濃度で単純に溶解する。その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルターにより、装置に注入する前に濾過する。使用する装置は、例えば、下記の条件に従う“Waters Alliance”クロマトグラフィー系である:
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン;
・温度:35℃;
・濃度:1g/リットル;
・流量:1ml/分;
・注入容量:100μl;
・ポリスチレン標準によるムーア較正;
・直列の3本“Waters”カラムセット(“Styragel HR4E”、“Styragel HR1”および“Styragel HR 0.5”);
操作用ソフトウェア(例えば、“Waters Millenium”)を備え得る示差屈折計(例えば、“Waters 2410”)による検出。
【0066】
ムーア較正は、低Ip(1.2よりも低い)を有し、既知のモル質量を有し、分析すべき質量範囲に亘る1連の市販ポリスチレン標準によって実施する。質量平均モル質量(Mw)、数平均モル質量(Mn)および多分散性指数(Ip=Mw/Mn)を、記録したデータ(モル質量の質量による分布曲線)から推定する。
本出願において示されたモル質量についての全ての値を、ポリスチレン標準によって描いた較正曲線と対比する。
【0067】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくともいずれか1つ、さら好ましくは全てを有する:
・25℃よりも高い(特に、30℃と100℃の間の)、より好ましくは30℃よりも高い(特に、30℃と95℃の間の)Tg;
・50℃よりも高い(特に50℃と150℃の間の)軟化点;
・400g/モルと2000g/モルの間、好ましくは500g/モルと1500g/モルの間の数平均モル質量(Mn);
・3よりも低い、好ましくは2よりも低い多分散性指数(Ip)(注:Ip=Mw/Mn、Mwは質量平均モル質量である)。
【0068】
そのような炭化水素樹脂の例としては、シクロペンタジエン(CPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる炭化水素樹脂を挙げることができる。上記のコポリマー樹脂のうちでは、さらに詳細には、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、C_(5)留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれるコポリマーを挙げることができる。
【0069】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、アルファ‐ピネンモノマー、ベータ‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する。好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形にある:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D‐リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン(右旋性鏡像体と左旋性鏡像体のラセミ体混合物)。適切なビニル芳香族モノマーは、例えば、スチレン;α‐メチルスチレン;オルソ‐メチルスチレン、メタ‐メチルスチレンおよびパラ‐メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ヒドロキシスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンおよびC_(9)留分(または、より一般的にはC_(8)?C_(10)留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーである。
【0070】
さら具体的には、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる樹脂を挙げることができる。
【0071】
上記樹脂は、全て当業者にとって周知であって、商業的に入手可能であり、例えば、ポリリモネン樹脂に関しては、DRT社から品名“Dercolyte”として販売されており;C_(5)留分/スチレン樹脂またはC_(5)留分/C_(9)留分樹脂に関しては、Neville Chemical Company社から品名“Super Nevtac”として、Kolon社から品名“Hikorez”として、またはExxon Mobil社から品名“Escorez”として販売されており;或いは、Struktol社から品名“40 MS”または“40 NS”(芳香族および/または脂肪族樹脂のブレンドである)として販売されている。
【0072】
本発明のタイヤのトレッドのゴム組成物は、10phrと60phrの間の量の液体可塑剤(23℃において液体である)を含むというもう1つの特徴を有する;この可塑剤の役割は、上記エラストマーと補強用充填剤を希釈することによってマトリックスを軟質化させることである;そのTgは、好ましくは-20℃よりも低く、より好ましくは-40℃よりも低い。
【0073】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の増量剤オイル、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。周囲温度(23℃)において、これらの可塑剤またはこれらのオイルは、おおよそ粘稠であり、特に周囲温度において本来固体である可塑化用炭化水素樹脂と対比して液体(即ち、注釈すれば、最終的にその容器の形を取る能力を有する物質)である。
【0074】
液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MES(中度抽出溶媒和物(medium extracted solvate))オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物(treated distillate aromatic extract))オイル、RAE(残留芳香族抽出物(Residual Aromatic Extract))オイル、TRAE(処理残留芳香族抽出物(Treated Residual Aromatic Extract))オイルおよびSRAE(安全残留芳香族抽出物(Safety Residual Aromatic Extract))オイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤は、特に適している。より好ましい実施態様によれば、液体可塑剤は、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル、植物油およびこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれる。
【0075】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、石油、好ましくは非芳香族石油である。
液体可塑剤は、その液体可塑剤が、可塑剤の総質量に対して、3質量%未満の多環式芳香族化合物の含有量(IP 346法に従うDMSO中での抽出物によって測定した)を有する場合に、非芳香族として説明される。
【0076】
従って、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有し、特に、水素化または非水素化物)、パラフィン系オイルおよびこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤を使用し得る。
また、石油としては、低含有量の多環式化合物を含むRAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイルまたはこれらのオイルの混合物も適している。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、テルペン誘導体である。
例えば、Yasuhara社からの製品Dimaroneを挙げることができる。
【0077】
また、オレフィン類またはジエン類の重合から得られる液体ポリマー、例えば、ポリブテン類、ポリジエン類、特に、ポリブタジエン、ポリイソプレン(品名LIRとしても知られている)、ブタジエンとイソプレンのコポリマー、ブタジエンまたはイソプレンとスチレンのコポリマー或いはこれらの液体ポリマーのブレンドも適している。そのような液体ポリマーの数平均モル質量は、好ましくは500g/モル?50000g/モル、より好ましくは1000g/モル?10000g/モルの範囲内である。例えば、SARTOMER社からのRICON製品を挙げることができる。
【0078】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は植物油である。例えば、アマニ油、ベニバナ油、ダイズ油、コーン油、綿実油、ナタネ(turnip seed)油、ヒマシ油、キリ油、マツ油、ヒマワリ油、ヤシ油、オリーブ油、ココナツ油、ラッカセイ油およびグレープシードオイル、並びにこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれるオイルを挙げることができる。植物油は、好ましくはオレイン酸リッチである、即ち、その植物油に由来する脂肪酸(数種存在する場合は、脂肪酸全体)は、オレイン酸を、少なくとも60%に等しい質量画分で、さらにより好ましくは少なくとも70%に等しい質量画分で含む。植物油としては、有利には、ヒマワリ油を使用する;ヒマワリ油は、ヒマワリ油に由来する脂肪酸全体が、オレイン酸を、60%以上、好ましくは70%以上の質量画分で、本発明の1つの特に有利な実施態様によれば、80%以上の質量画分で含むような油である。
【0079】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、カルボン酸トリエステル、リン酸トリエステル、スルホン酸トリエステルおよびこれらのトリエステルの混合物からなる群から選ばれるトリエステルである。
特に適しているのは、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤である。
ホスフェート可塑剤としては、例えば、12個と30個の間の炭素原子を含むホスフェート可塑剤、例えば、リン酸トリオクチルを挙げることができる。
【0080】
カルボン酸エステル可塑剤の例としては、特に、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリントリエステルおよびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を挙げることができる。これらのトリエステルのうちでは、特に、好ましくは不飽和C_(18)脂肪酸、即ち、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらの酸の混合物からなる群から選ばれる脂肪酸から主として(50質量%よりも多く、より好ましくは80質量%よりも多くにおいて)なるグリセリントリエステルを挙げることができる。このグリセリントリエステルは好ましい。さらに好ましくは、合成由来または天然由来(例えば、ヒマワリまたはナタネ植物油の場合)のいずれであれ、使用する脂肪酸は、50質量%よりも多くの、さらにより好ましくは80質量%よりも多くのオレイン酸からなる。高含有量のオレイン酸を含むそのようなトリエステル(トリオレート)は、周知である;そのようなトリエステルは、例えば出願WO 02/088238号において、タイヤトレッドにおける可塑剤として説明されている。
【0081】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤はエーテルである。従って、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを挙げることができる。
【0082】
I‐4.各種添加剤
また、本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物は、例えば、上述した充填剤以外の充填剤、例えば、チョークのような非補強用充填剤またはカオリンおよびタルクのような板状充填剤;顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤、酸化防止剤のような保護剤;補強用樹脂(レゾルシノールまたはビスマレイミド);例えば出願WO 02/10269号に記載されているような、メチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドをベースとする架橋系;加硫促進剤または加硫遅延剤;および加硫活性化剤のような、タイヤ、特に冬季タイヤ用のトレッドの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的に使用する標準の添加剤の全部または1部も含み得る。
【0083】
また、これらの組成物は、カップリング剤を使用する場合のカップリング活性化剤、無機充填剤の被覆用の薬剤、或いは、知られている通り、ゴムマトリックス中での充填剤の分散性を改良し且つ組成物の粘度を低下させることによって、未硬化状態における組成物の加工されるべき能力を改良することのできるより一般的な加工助剤も含有し得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン;ポリオール;ポリエーテル;アミン;または、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサンである。
【0084】
I‐5.ゴム組成物の製造
本発明に従うタイヤのトレッドにおいて使用するゴム組成物は、適切なミキサー内で、当業者にとって周知の2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度までの高温で熱機械的に加工または混練する第1段階(“非生産”段階と称する)、並びに、その後の典型的には110℃よりも低い、例えば、40℃と100℃の間の低めの温度で機械加工する第2段階(“生産”段階と称する)を使用して製造し、この仕上げ段階において架橋系を混入する。
【0085】
そのような組成物の製造方法は、例えば、下記の段階を含む:
・ジエンエラストマー(1種以上)を、補強用無機充填剤、カップリング剤、必要に応じてのカーボンブラックおよび可塑化系と一緒に、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混練する段階(例えば、1回以上の工程で)(“非生産”段階と称する);
・混ぜ合せた混合物を100℃よりも低い温度に冷却する段階;
・その後、第2段階(“生産”段階と称する)において、架橋系を混入する段階;
・全てを、110℃よりも低い最高温度まで混練する段階。
【0086】
例えば、上記非生産段階は、1回の熱機械段階で実施し、その間に、最初の工程において、全てのベース成分(ジエンエラストマー(1種以上)、可塑化系、補強用無機充填剤およびカップリング剤)を標準の密閉ミキサーのような適切なミキサー内に導入し、その後、第2工程において、例えば1?2分間混練した後、架橋系を除いた他の添加剤、任意構成成分としてのさらなる充填剤被覆用の薬剤または加工助剤を導入する。この非生産段階における総混練時間は、好ましくは、1分と15分の間の時間である。
【0087】
そのようにして得られた混合物を冷却した後、架橋系を、この場合、低温(例えば、40℃と100℃の間の温度)に維持したオープンミルのような開放ミキサー内で混入する;その後、混ぜ合せた混合物を、数分間、例えば、5?15分間混合する(生産段階)。
【0088】
架橋系自体は、好ましくは、イオウと、一次加硫促進剤、特にスルフェンアミドタイプの促進剤とをベースとする。この加硫系に、各種既知の二次促進剤または加硫活性化剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、グアニジン誘導体(特に、ジフェニルグアニジン)等を添加し、上記第1非生産段階中および/または上記生産段階中に混入する。イオウ含有量は、好ましくは0.5phrと3.0phrの間の量であり、また、一次促進剤の含有量は、好ましくは0.5phrと5.0phrの間の量である。
【0089】
促進剤(一次または二次)としては、イオウの存在下にジエンエラストマーの加硫促進剤として作用し得る任意の化合物、特に、チアゾールタイプおよびその誘導体の促進剤、チウラムおよびジチオカルバミン酸亜鉛タイプの促進剤を使用することができる。これらの促進剤は、さらに好ましくは、2‐メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(“MBTS”と略記する)、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“CBS”と略記する)、N,N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“DCBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“TBBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンイミド(“TBSI”と略記する)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(“ZBEC”と略記する)およびこれらの化合物の混合物からなる群から選択する。好ましくは、スルフェンアミドタイプの一次促進剤を使用する。
【0090】
その後、そのようにして得られた最終組成物は、例えば、特に実験室での特性決定のためのシートまたはスラブの形にカレンダー加工してもよく、或いは、押出加工して、例えば、スノータイヤトレッドの製造において使用するゴム形状要素を成形する。
【0091】
1つの特定の実施態様によれば、本発明に従うゴム組成物のショアA硬度は、50?70、特に55?65の範囲内にある。硬化後の組成物のショアA硬度は、規格ASTM D 2240‐86に従って評価する。
本発明は、未硬化状態(即ち、硬化前)および硬化状態(即ち、架橋または加硫後)双方の上記タイヤに関する。
【0092】
また、本発明は、上記のゴム組成物が、複合体またはハイブリッドタイプのトレッド、特に、異なる配合を有する2枚の半径方向重ね合せ層(“キャップベース”構造と称する)からなり、共にパターン化され、タイヤの稼動寿命中は、タイヤが回転するときに道路と接触することを意図するトレッドの1部のみを構成する場合にも該当する。上記配合のベース部分は、その場合、新品タイヤが回転を開始する時点から地面と接触することを意図するトレッドの半径方向外側層か、または、他方の、後の段階で地面と接触することを意図するトレッドの半径方向内側層を構成し得る。
【0093】
II‐本発明の典型的な実施態様
II‐1.組成物の製造
以下の試験を、以下の方法で実施する:エラストマー、シリカ、カップリング剤、可塑剤、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度が約60℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填比:約70容量%)。その後、熱機械的加工(非生産段階)を1工程で実施する;この段階は、165℃の最高“落下”温度に達するまで合計で約5分間続く。
【0094】
そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、その後、イオウとスルフェンアミドタイプの促進剤を23℃のミキサー(ホモ・フィニッシャー)内で混入し、全てを適切な時間(例えば、5?12分間)混合する(生産段階)。
【0095】
そのようにして得られる組成物T1、C1およびC2は、下記の表1に示している(phrで)。
組成物T1は、ポリブタジエンとSBRコポリマーをベースとする冬季タイヤ用のトレッドを作成するのに使用することのできる通常の組成物である。
この対照組成物においては、使用する上記2種のエラストマーはSiOR官能基を欠いており、補強用無機充填剤の含有量は100phrよりも低く、そして、可塑化用樹脂(ポリリモネン、20phr)と液体可塑剤としてのヒマワリ植物油(15phr)およびMESオイル(5phr)とからなる可塑化系の含有量A+Bは50phrよりも低い。
【0096】
本発明に従う組成物C1およびC2は、少なくとも20phrの、シラノール官能基を担持するジエンエラストマー;少なくとも100phrの補強用無機充填剤;および、50phrよりも多い、それぞれ10phrと60phrの間の含有量の可塑化用樹脂(ポリリモネン)と液体可塑剤(ヒマワリ植物油)からなる可塑化系の存在に特徴を有する。組成物C1のエラストマーSBR3は、ジメチルシラノール官能基を1つの鎖末端において担持しており、特許EP 0 778 311 B1号に記載されている方法に従って調製した。組成物C2のエラストマーSBR4は、ジメチルシラノール官能基を1つの鎖末端において担持しているSBR(SBR4A)とスズに対して星型枝分れさせ且つSBR4Aと同じミクロ構造を有するSBR(SBR4B)との85%対15%の混合物を含む。
【0097】
これら3通りの組成物をトレッドの形に押出加工して、下記のパラグラフにおいて示すようにして試験した。
【0098】
II‐2.タイヤにおける試験
その後、組成物T1、C1およびC2を、225/45R17の寸法を有し、通常通りに製造し、それらトレッドの構成ゴム組成物は別として全ての点で同一である、それぞれPT1(対照タイヤ)並びにP1およびP2(本発明に従うタイヤ)で表示するラジアルカーカス乗用車冬季タイヤ用のトレッドとして使用する。
各タイヤを、下記で説明するようにして、湿潤地面上および積雪地面上での制動試験に供した。
【0099】
湿潤地面上での制動性を試験するに当っては、各タイヤを、ABSブレーキシステムを備えたAudi型式で且つA4モデルの自動車に装着し、噴霧地面(アスファルトコンクリート)上での急ブレーキ操作中に80km/時から10kg/時に至るのに必要な距離を測定する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い制動距離を示す。
【0100】
積雪地面上での制動性を試験するに当っては、タイヤを、ABSブレーキシステムを備えたVolkswagen型式で且つGolfモデルの自動車に装着し、積雪上での緊急ブレーキ操作中に50km/時から5kg/時に至るのに必要な距離を測定する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い制動距離を示す。
走行試験の結果は、下記の表2に相対単位で示している;基本点100は、対照タイヤPT1において使用している。
【0101】
本発明に従うスノータイヤP1およびP2は、驚くべきことに対照スノータイヤPT1のグリップ性能値よりもはるかに高いそれぞれの112および107の湿潤地面上でのグリップ性能値を有することが観察されている。また、これらの結果は、積雪地面上での性能を犠牲にすることなく得られており、スノータイヤP2(106)の場合は改良さえされていることにも注目される。
【0102】
結論として、本発明に従うスノータイヤは、大いに改良された湿潤地面上でのグリップ性を有し、積雪地面上でのグリップ性を損なうことなく或いは改良さえしている。
【0103】
表1

(1)4%の1,2‐単位および93%のシス‐1,4‐単位を含むBR(Tg=-106℃);
(2)SBR1:27%のスチレン単位および57%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR(Tg=-24℃);
(3)SBR2:16%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR(Tg=-65℃);
(4)SBR3:シラノール官能基をエラストマー鎖末端に担持する、16%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR(Tg=-65℃);
(5)SBR4:シラノール官能基をエラストマー鎖末端に担持する、27%のスチレン単位および24%のブタジエン成分1,2‐単位を含むSBR(Sn星型枝分れ化)(Tg=-48℃);
(6)ASTM級 N234(Cabot社);
(7)HDSタイプのRhodia社からの“Zeosil 1165MP”シリカ;
(8)TESPT(Degussa社からの“Si69”);
(9)MESオイル(Shell社からの“Catenex SNR”);
(10)85質量%のオレイン酸を含有するヒマワリ油、Novance社からの“Lubrirob Tod 1880”;
(11)DRT社からのポリリモネン樹脂“Dercolyte L120”;
(12)Flexsys社からのN‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N’‐フェニル‐p‐フェニレンジアミン;
(13)ジフェニルグアニジン(Flexsys社からのPerkacit DPG);
(14)N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド(Flexsys社からの“Santocure CBS”)。
【0104】
表2

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするスノータイヤ
: ・少なくとも1個のSiOR官能基(Rは水素または炭化水素基である)を担持し、スチレン単位及びブタジエン単位を含む、40?100phrの第1ジエンエラストマー;
・任意構成成分としての0?60phrの第2ジエンエラストマー:
・補強用無機充填剤として、105?140phrのシリカ;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aの、シクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる、20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂;
・10Phrと60phrの間の含有量Bの、液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、液体可塑剤;
・50phrよりも多い総含有量A+B。
【請求項2】
前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、
前記第1ジエンエラストマーの含有量が40?60phrであり、前記第2ジエンエラストマーの含有量が60?40phrである、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第1ジエンエラストマーが、スチレン単位及びブタジエン単位を含み、
前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、ジシクロペンタジエンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、MESオイル、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
Rが水素である、請求項1?3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項5】
Rがアルキルである、請求項1?3のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第1ジエンエラストマーが、少なくとも1個のアミン官能基も含む、請求項1?5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第2ジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーのブレンドからなる群から選ばれ、前記20℃よりも高いTgを有する炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、植物油、エステル可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第2ジエンエラストマーが、少なくとも1個のスズ官能基を担持する、請求項1?7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
補強用無機充填剤の含有量が、105?140phrの範囲内にあり、
前記組成物が硫酸マグネシウム微粒子を含む場合を除く、
請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-20 
出願番号 特願2013-540351(P2013-540351)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C08L)
P 1 651・ 537- ZAA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
橋本 栄和
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5837086号(P5837086)
権利者 コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
発明の名称 スノータイヤトレッド  
代理人 西島 孝喜  
代理人 西島 孝喜  
代理人 西島 孝喜  
代理人 秋澤 慈  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 箱田 篤  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 箱田 篤  
代理人 秋澤 慈  
代理人 浅井 賢治  
代理人 竹口 美穂  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 市川 さつき  
代理人 弟子丸 健  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 箱田 篤  
代理人 秋澤 慈  

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