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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1341040
異議申立番号 異議2017-700524  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-26 
確定日 2018-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6038410号発明「水酸化物イオン伝導緻密膜及び複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6038410号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-22〕につい訂正することを認める。 特許第6038410号の請求項9?22に係る特許を維持する。 特許第6038410号の請求項1?8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6038410号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、2015年10月9日(優先権主張 平成27年1月28日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成28年11月11日に特許権の設定登録がなされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、特許異議申立人 竹口美穂(以下「異議申立人」という。)により、平成29年5月26日に特許異議の申立てがされ、同年7月18日付けで特許権者に取消理由が通知され、その指定期間内の同年9月13日付けで特許権者より意見書が提出され、同年9月29日付けで特許権者に取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の同年12月1日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求がされ、同年12月12日付けで訂正請求があった旨が異議申立人に通知され、その指定期間内に異議申立人から意見書が提出されなかったものである。


第2 本件訂正の適否についての判断
本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、本件訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

1. 請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?22について訂正することを求める。


2. 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?18のとおりである。なお、訂正箇所には下線を付した。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9) 訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項1を引用するものについて、独立形式に改めるにあたり、
当該請求項1に「亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる水酸化物イオン伝導緻密膜であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記水酸化物イオン伝導緻密膜の一方の面にHeガスを供給して前記水酸化物イオン伝導緻密膜にHeガスを透過させ、」とあるのを、
「亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、前記複合材料は単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、」にして、
請求項9を、
「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、前記複合材料は単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出される値である、複合材料。」に訂正し、その結果として、請求項9を引用する請求項10?13も訂正する。

(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜又は請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。」とあるのを、
「請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。」に訂正する。

(11) 訂正事項11
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項2を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9により訂正される請求項9?13のいずれか一項を引用する請求項15に係る発明として、
「【請求項15】
前記He透過度が1.0cm/min・atm以下である、請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料。」に訂正する。

(12) 訂正事項12
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項3を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9、11により訂正される請求項9?13及び15のいずれか一項を引用する請求項16に係る発明として、
「【請求項16】
水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m^(-2)・h^(-1)以下であり、前記Zn透過割合は、前記複合材料にZnを透過させ、Zn透過割合を算出することにより決定されるものであり、前記複合材料へのZnの透過は、前記複合材料の一方の面にZnを含有する第一の水溶液を接触させ、かつ、前記複合材料の他方の面にZnを含有しない第二の水溶液又は水を接触させることにより行われるものであり、前記Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C_(1)(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V_(1)(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水のZn濃度C_(2)(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水の液量V_(2)(ml)、Znの透過時間t(h)、及びZnが透過する膜面積S(m^(2))を用いて、(C_(2)×V_(2))/(C_(1)×V_(1)×t×S)の式により算出される値である、請求項9?13及び15のいずれか一項に記載の複合材料。」に訂正する。

(13) 訂正事項13
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項4を引用するものについて、訂正事項12により訂正される請求項16を引用する請求項17に係る発明として、
「【請求項17】
前記Zn透過割合が1.0m^(-2)・h^(-1)以下である、請求項16に記載の複合材料。」に訂正する。

(14) 訂正事項14
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項5を引用するものについて、訂正事項9、11?13により訂正される請求項9?13及び15?17のいずれか一項を引用する請求項18に係る発明として、
「【請求項18】
前記層状複水酸化物が、一般式:M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O(式中、M^(2+)は2価の陽イオン、M^(3+)は3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1?0.4であり、mは0以上である)で表される、請求項9?13及び15?17のいずれか一項に記載の複合材料。」に訂正する。

(15) 訂正事項15
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項6を引用するものについて、訂正事項14により訂正される請求項18引用する請求項19に係る発明として、
「【請求項19】
前記一般式において、少なくともM^(2+)にMg^(2+)を、M^(3+)にAl^(3+)を含み、A^(n-)にOH^(-)及び/又はCO_(3)^(2-)を含む、請求項18に記載の複合材料。」に訂正する。

(16) 訂正事項16
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項7を引用するものについて、訂正事項9、11?15により訂正される請求項9?13及び15?19のいずれか一項を引用する請求項20に係る発明として、
「【請求項20】
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記緻密層と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項9?13及び15?20のいずれか一項に記載の複合材料。」に訂正する。

(17) 訂正事項17
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料。」とあるうち、訂正前の請求項8を引用するものについて、訂正事項9、11?16により訂正される請求項9?13及び15?20のいずれか一項を引用する請求項21に係る発明として、
「【請求項21】
前記水酸化物イオン伝導緻密膜が100μm以下の厚さを有する、請求項9?13及び15?20のいずれか一項に記載の複合材料。」に訂正する。

(18) 訂正事項18
訂正前の特許請求の範囲の請求項14に「請求項1?8のいずれか一項に記載の水酸化物イオン伝導緻密膜又は請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。」とあるうち、請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料であって、訂正事項11?17により訂正される請求項15?21のいずれか一項に記載の発明特定事項をも備える複合材料をセパレータとして備えるものについて、請求項22に係る発明として、
「【請求項22】
請求項15?21のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。」に訂正する。


3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1?8
訂正事項1?8は、訂正前の請求項1?8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項1の記載を引用するものについて、当該請求項1を引用しないものとするにあたって、単位面積あたりのHe透過度は、多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜を備えた複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させることによって、測定する旨の本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載(【0062】?【0073】)、及び、図面(【図1A】?【図1B】)の図示との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明と他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることとを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項14が請求項1?13のいずれか一項を引用していたところ、訂正事項1?9に伴って、請求項9?13のいずれか一項を引用する請求項とするものであり、請求項14の引用請求項数を減少するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項2の記載を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9により訂正される請求項9?13のいずれか一項を引用する請求項15に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項12
訂正事項12は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項3の記載を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9、11により訂正される請求項9?13及び15のいずれか一項を引用する請求項16に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項13
訂正事項13は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項4の記載を引用するものについて、訂正事項12により訂正される請求項16を引用する請求項17に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(7) 訂正事項14
訂正事項14は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項5の記載を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9、11?13により訂正される請求項9?13及び15?17のいずれか一項を引用する請求項18に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(8) 訂正事項15
訂正事項15は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項6の記載を引用するものについて、訂正事項14により訂正される請求項18を引用する請求項19に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(9) 訂正事項16
訂正事項16は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項7の記載を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9、11?15により訂正される請求項9?13及び15?19のいずれか一項を引用する請求項20に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(10) 訂正事項17
訂正事項17は、訂正前の請求項9が、請求項1?8のいずれかの記載を引用するものであったところ、請求項8の記載を引用するもの、及び、その請求項9を引用する請求項10?13について、訂正事項9、11?16により訂正される請求項9?13及び15?20のいずれか一項を引用する請求項21に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(11) 訂正事項18
訂正事項18は、訂正前の請求項14の電池に係る発明であって、請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料のうち、請求項2?8のいずれか一項に記載の発明特定事項をも備える複合材料をセパレータとして備える、電池に係る発明について、訂正事項11?17により訂正される請求項15?21のいずれか一項を引用する請求項22に係る発明として訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(12) 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?18には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。

(13) 一群の請求項について
訂正前の請求項2?14は、訂正前の請求項1を引用する請求項であり、訂正前の請求項1?14に対応する訂正後の請求項1?22は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法120条の5第4項に適合する。また、訂正後の請求項9に係る訂正事項9は、請求項1?8との引用関係の解消を目的とする訂正を含んでおり、さらに、訂正後の請求項10?22に係る訂正事項10?18は、訂正後の請求項10?22を訂正後の請求項9を引用する請求項とする訂正を含んでいるため、訂正後の請求項9?22は一群の請求項を形成することとなるところ、それらの訂正事項は、上記の検討のとおり、適法なものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項9?22について訂正が認められるときは請求項1とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項9?22は、請求項1?8の一群の請求項とは別途訂正する一群の請求項であると認める。


4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕、〔9-22〕について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項9?22に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明9」?「本件訂正発明22」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項9?22に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、訂正前の請求項1?8に係る発明は存在しないものとなった。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、前記複合材料は単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出される値である、複合材料。
【請求項10】
前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記多孔質基材が、セラミックス材料で構成され、該セラミックス材料が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記多孔質基材が、0.001?1.5μmの平均気孔径を有する、請求項9?11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記多孔質基材の表面が、10?60%の気孔率を有する、請求項9?12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。
【請求項15】
前記He透過度が1.0cm/min・atm以下である、請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項16】
水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m^(-2)・h^(-1)以下であり、前記Zn透過割合は、前記複合材料にZnを透過させ、Zn透過割合を算出することにより決定されるものであり、前記複合材料へのZnの透過は、前記複合材料の一方の面にZnを含有する第一の水溶液を接触させ、かつ、前記複合材料の他方の面にZnを含有しない第二の水溶液又は水を接触させることにより行われるものであり、前記Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C_(1)(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V_(1)(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水のZn濃度C_(2)(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水の液量V_(2)(ml)、Znの透過時間t(h)、及びZnが透過する膜面積S(m^(2))を用いて、(C_(2)×V_(2))/(C_(1)×V_(1)×t×S)の式により算出される値である、請求項9?13及び15のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項17】
前記Zn透過割合が1.0m^(-2)・h^(-1)以下である、請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
前記層状複水酸化物が、一般式:M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O(式中、M^(2+)は2価の陽イオン、M^(3+)は3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1?0.4であり、mは0以上である)で表される、請求項9?13及び15?17のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項19】
前記一般式において、少なくともM^(2+)にMg^(2+)を、M^(3+)にAl^(3+)を含み、A^(n-)にOH^(-)及び/又はCO_(3)^(2-)を含む、請求項18に記載の複合材料。
【請求項20】
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記緻密層と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項9?13及び15?19のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項21】
前記水酸化イオン伝導緻密膜が100μm以下の厚さを有する、請求項9?13及び15?20のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項22】
請求項15?21のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。」


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第7号証を提出して、以下の申立理由1?8によって、訂正前の請求項1?14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1
訂正前の請求項1?14に係る発明は、主たる証拠である甲第1号証に記載された発明と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(2) 申立理由2
訂正前の請求項1?14に係る発明は、次の理由のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

(2-1) 訂正前の請求項1?14に係る発明は、本件特許権者によって平成26年12月16日に出願され、平成27年10月16日に特許登録された、甲第7号証に記載される、層状複水酸化物を含む機能層が透水性を有しないものに特定されている、層状複水酸化物含有複合材料に係る発明とは異なり、透水性を有さない膜には特定されていないことから、透水性を有する膜も含んでいるのに対し、本件特許明細書において、発明の課題を解決することができることが示されているのは透水性を有しない膜のみであり、本件特許明細書の記載からでは、透水性を有する膜である場合にどのようにすれば発明の課題を解決することができるのかを当業者が理解することができない。

(2-2) 本件特許明細書の実施例に記載の複合材料試料A1?A6の作製における水熱条件について、本件特許明細書の段落番号【0069】には「水熱処理条件を適宜変更することにより、様々な緻密性を有する…配向膜を作製した。」(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)との記載があるだけで、試料A1?A6それぞれの具体的な水熱処理の条件が記載されていないことから、当業者が本件特許明細書をみても、どのような水熱処理条件とすれば、訂正前の請求項1?14に係る膜が得られるかを理解することができない。

(3) 申立理由3
訂正前の請求項1?14に係る発明は、本件特許権者によって平成26年12月16日に出願され、平成27年10月16日に特許登録された、甲第7号証に記載される、層状複水酸化物を含む機能層が透水性を有しないものに特定されている、層状複水酸化物含有複合材料に係る発明とは異なり、透水性を有さない膜には特定されていないものであるから、透水性を有する膜も含んでいるのに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題を解決することができることが示されているのは透水性を有しない膜のみであるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2013/118561号
甲第2号証:特開平11-86827号公報
甲第3号証:フィムル物性値一覧表(三洋グラビア株式会社 ウエブサイト
掲載資料(http://www.sanyo-gravure.co.jp/lami/film/))
甲第4号証:特開平5-343095号公報
甲第5号証:国際公開第02/058177号
甲第6号証:特開2006-35224号公報
甲第7号証:特許第5824186号公報


2. 取消理由の概要
訂正前の請求項1?14に係る発明に対して、平成29年7月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

(2) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。


3. 取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?14に係る発明に対して、平成29年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

(2) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。


4. 当審の判断
4A 上記3.の(1)?(2)の取消理由(決定の予告)について
(4A-1) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「本件特許の発明の詳細な説明」ということがある。)には、以下の記載があり、また、図面の図示からは、以下の事項を把握することができる。

1ア. 「【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide)(以下、LDHともいう)は、水酸化物の層と層の間に交換可能な陰イオンを有する物質群であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。特に、近年、水酸化物イオンを伝導する材料として注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。
【0003】
…アルカリ形燃料電池などの水酸化物イオン伝導性を活かした電解質への応用を考えた場合、燃料ガスの混合を防ぎ、十分な起電力を得るためにも高い緻密性のLDH膜が望まれる。

【0005】
ところで、ニッケル亜鉛二次電池や亜鉛空気二次電池等の亜鉛二次電池は古くから開発及び検討がなされてきたものの、未だ実用化に至っていない。これは、充電時に負極を構成する亜鉛がデンドライトという樹枝状結晶を生成し、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と短絡を引き起こすという問題があるためである。したがって、ニッケル亜鉛二次電池や亜鉛空気二次電池等の亜鉛二次電池において、亜鉛デンドライトによる短絡を防止する技術が強く望まれている。

【0008】
本発明者らは、LDHの緻密なバルク体(以下、LDH緻密体という)の作製に先だって成功している。また、LDH緻密体について水酸化物イオン伝導度の評価を実施する中で、LDH粒子の層方向にイオンを伝導させることで高い伝導度を示すことを知見している。しかしながら、亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池等のアルカリ二次電池へ固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、LDH緻密体が高抵抗であるとの問題がある。したがって、LDHの実用化のためには薄膜化による低抵抗化が望まれる。…特に、固体電解質セパレータとしてLDH緻密膜の適用を考えた場合、電解液中の水酸化物イオンがLDH緻密膜を通して移動しなければならない一方、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnや亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素)を極力透過させないといった高度な緻密性が望まれる。また、このような高度な緻密性はLDH緻密膜に限らず、有機材料及び無機材料を問わず、水酸化物イオン伝導性を有する他の材質の緻密膜にも同様に望まれるのはいうまでもない。

【0010】
したがって、本発明の目的は、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途(特に亜鉛デンドライト成長が問題となる亜鉛二次電池用途)に特に適した、緻密性の極めて高い水酸化物イオン伝導緻密膜を提供することにある。

【0012】
本発明の他の一態様によれば、多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる上記態様の水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料が提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、上記水酸化物イオン伝導緻密膜又は上記複合材料をセパレータとして備えた、電池が提供される。」

1イ. 「【実施例】
【0061】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0062】
例A1
本例では、多孔質基材上に層状複水酸化物(LDH)膜を形成したLDH含有複合材料試料として試料A1?A10を以下のようにして作製した。
【0063】
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4-80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。

【0066】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0067】
(3)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
試料A1?A6についてのみ、以下の手順により多孔質基材に対してポリスチレンスピンコート及びスルホン化を行った。すなわち、ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlを多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0068】
(4)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO_(3))_(2)・6H_(2)O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO_(3))_(3)・9H_(2)O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH_(2))_(2)CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg^(2+)/Al^(3+))が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg^(2+)+Al^(3+))が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO_(3)^(-)=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0069】
(5)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(4)で作製した原料水溶液と上記(3)でスルホン化した多孔質基材(試料A1?A6)又は上記(2)で洗浄した多孔質基材(試料A7?A10)を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70?75℃で168?504時間水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。このとき、水熱処理の条件を適宜変更することにより、様々な緻密性を有する10種類の配向膜を作製した。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.0?2.0μmであった。こうして、LDH含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)として試料A1?A10を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0070】
例A2:膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10?70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定してXRDプロファイルを得る。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35-0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、膜試料A1?A10のいずれも層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
【0071】
例A3:He透過測定
He透過性の観点から膜試料A1?A10の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図1A及び図1Bに示されるHe透過度測定系10を構築した。He透過度測定系10は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計12及び流量計14(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ16に供給され、この試料ホルダ16に保持された緻密膜18の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0072】
試料ホルダ16は、ガス供給口16a、密閉空間16b及びガス排出口16cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、緻密膜18の外周に沿って接着剤22を塗布して、中央に開口部を有する治具24(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具24の上端及び下端に密封部材26a,26bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材26a,26bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材28a,28b(PTFE製)で挟持した。こうして、緻密膜18、治具24、密封部材26a及び支持部材28aにより密閉空間16bを区画した。なお、緻密膜18は多孔質基材20上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜18側がガス供給口16aに向くように配置した。支持部材28a,28bを、ガス排出口16c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段30で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ16のガス供給口16aに、継手32を介してガス供給管34を接続した。
【0073】
次いで、He透過度測定系10にガス供給管34を経てHeガスを供給し、試料ホルダ16内に保持された緻密膜18に透過させた。このとき、圧力計12及び流量計14によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1?30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm^(3)/min)は流量計14から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計12から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05?0.90atmの範囲内となるように供給された。得られた結果は表1及び図5に示されるとおりであった。
【0074】
例A4:Zn透過試験
Zn透過性の観点から膜試料A1?A10の緻密性を評価すべく、Zn透過試験を以下のとおり行った。まず、図2A及び図2Bに示されるZn透過測定装置40を構築した。Zn透過測定装置40は、L字状の開口管で構成される第一槽44にフランジ62aが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)と、L字状の管で構成される第二槽46にフランジ62bが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)とをフランジ62a,62bが対向するように配置し、その間に試料ホルダ42を配置し、試料ホルダ42に保持された緻密膜の一方の面から他方の面にZnが透過可能な構成とした。
【0075】
試料ホルダ42の組み立て及びその装置40への取り付けは、次のようにして行った。まず、緻密膜52の外周に沿って接着剤56を塗布して、中央に開口部を有する治具58(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具58の両側に図1Aに示されるように密封部材60a,60bとしてシリコーンゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材60a,60bの外側から、1対のフランジ付き開口管のフランジ62a,62bで挟持した。なお、緻密膜52は多孔質基材54上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜52側が(Znを含有する第一の水溶液48が注入されることになる)第一槽44に向くように配置した。フランジ62a,62bをその間で液漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段64で互いに堅く締め付けた。
【0076】
一方、第一槽44に入れるための第一の水溶液48として、Al(OH)_(3)を2.5mol/L、ZnOを0.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。第一の水溶液のZn濃度C1(mol/L)をICP発光分光分析法により測定したところ、表1に示される値であった。また、第二槽46に入れるための第二の水溶液50として、ZnOを溶解させることなく、Al(OH)_(3)を2.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。先に作製した試料ホルダ42が組み込まれた測定装置40において、第一槽44及び第二槽46にそれぞれ第一の水溶液48及び第二の水溶液50を注入し、試料ホルダ42に保持された緻密膜52にZnを透過させた。この状態でZn透過を表1に示される時間tで行った後、第二の水溶液の液量V_(2)(ml)を測定し、第二の水溶液50のZn濃度C_(2)(mol/L)をICP発光分光分析法により測定した。得られた値を用いてZn透過割合を算出した。Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C_(1)(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V_(1)(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液のZn濃度C_(2)(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液の液量V_(2)(ml)、Znの透過時間t(min)、及びZnが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、(C_(2)×V_(2))/(C_(1)×V_(1)×t×S)の式により算出した。得られた結果は表1及び図5に示されるとおりであった。
【0077】



1ウ.「


上記1イ.の【0071】?【0073】の記載を踏まえると、1ウ.の図示からは、He透過度の測定は、膜試料(緻密膜18)が多孔質基材20上に形成された複合材料の形態で行ったことを把握することができる。

1エ.「


上記1イ.の【0074】?【0076】の記載を踏まえると、1エ.の図示からは、Zn透過割合の試験は、膜試料(緻密膜52)が多孔質基材54上に形成された複合材料の形態で行ったことを把握することができる。

1オ.「


上記1ア.?1イ.の記載を踏まえると、1オ.からは、膜試料が多孔質基材上に形成された複合材料についての単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、膜試料A1?A6によると、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が顕著に抑制されること、すなわち、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途(特に亜鉛デンドライト成長が問題となる亜鉛二次電池用途)に特に適した、前記複合材料を提供できることを把握することができる。

1カ. 「【0015】
水酸化物イオン伝導緻密膜
本発明は、水酸化物イオン伝導緻密膜に関する。水酸化物イオン伝導緻密膜は、好ましくは層状複水酸化物緻密膜(LDH緻密膜)であるが、これに限定されず、水酸化物イオン伝導性を有するあらゆる緻密膜であってよく、例えば水酸化物イオン伝導性を有する無機材料及び/又は有機材料を含んでなる膜であることができる。…前述したとおり、電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、緻密膜の形態とすることで厚みを薄くして低抵抗化を図ることができる。…
【0016】
本発明の水酸化物イオン伝導緻密膜は、本来的に上記の如く緻密に構成されるべき緻密膜において、とりわけ高いレベルの緻密性を有するものである。具体的には、本発明の水酸化物イオン伝導緻密膜は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であ…る。He透過度が10cm/min・atm以下である緻密膜は、電解液中においてZnの透過を極めて効果的に抑制することができる。例えば、後述する図5に示されるように、He透過度が10cm/min・atm以下であると、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が著しく低下する。その意味で、10cm/min・atmというHe透過度の上限値は、水酸化物イオン伝導緻密膜におけるZnの透過抑制効果に関して臨界的意義を有するといえる。このように本発明の緻密膜は、Zn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池等の二次電池用水酸化物イオン伝導性セパレータの用途に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。その結果、本発明によれば、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途(特に亜鉛デンドライト成長が問題となる亜鉛二次電池用途)に特に適した、緻密性の極めて高い水酸化物イオン伝導緻密膜を提供することができる。
【0017】
また、本発明の水酸化物イオン伝導緻密膜は、上記のように緻密性が極めて高いことから、亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素の透過も顕著に低減できるものと解される。二酸化炭素ガスを構成するCO_(2)分子はHeガスを構成するHe原子よりも格段に大きいため、He透過度が上述のように低ければCO_(2)透過度も必然的に低くなる。それ故、本発明の緻密膜は、電解液中でのアルカリ炭酸塩の析出が問題となる亜鉛空気電池等の金属空気電池にも適しているといえる。…」

1キ. 「【0033】
複合材料
緻密膜(好ましくはLDH膜)は多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる上記水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料が提供される。…
【0034】
多孔質基材は、その表面にLDH膜を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。…」

1ク. 「【0018】
He透過度は、水酸化物イオン伝導緻密膜の一方の面にHeガスを供給して緻密膜にHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導緻密膜の緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnや亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH_(2)分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH_(2)ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、水酸化物イオン伝導緻密膜が電池用セパレータ等の所定の用途に適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。」

1ケ. 「【0019】
He透過度の測定においては、水酸化物イオン伝導緻密膜の一方の面にHeガスを供給して緻密膜にHeガスを透過させる。Heガスの供給は、後続の工程でHe透過度を算出できるように、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを特定できるような測定系で行われるのが好ましい。そのようなHe透過度測定系の一例が図1Aに示される。図1Aに示されるHe透過度測定系10は、圧力計12と、流量計14、緻密膜が保持された試料ホルダ16と備えてなる。この測定系10において、Heガスは、圧力計12及び流量計14を介して試料ホルダ16に供給され、この試料ホルダ16に保持された緻密膜の一方の面に供給され、この緻密膜を通過し他方の面から排出される。
【0020】
このように、緻密膜は、Heガスの供給に先立ち、試料ホルダ16に保持されるのが好ましい。試料ホルダ16の一例が図1A及び図1Bに示される。これらの図に示されるように、試料ホルダ16は、Heガスの試料ホルダ16内への導入を可能とするガス供給口16aと、緻密膜18の一方の面の所定領域へのHeガスの供給を可能とする密閉空間16bと、緻密膜18を透過したHeガスの排出を可能とするガス排出口16cとを備えてなる。このような構成によれば、ガス供給口16aから密閉空間16bに供給したHeガスを確実に緻密膜18に透過させてガス排出口16cから排出させることができる。したがって、単位時間あたりのHeガスの透過量Fを正確に把握することができる。しかも、この試料ホルダ16は容易に入手可能な部材を用いて簡便に構成することができる。例えば、図1Bに示される試料ホルダ16にあっては、緻密膜18(好ましくは多孔質基材20上に形成された複合材料の形態で供される)の外周に沿って接着剤22を介して、中央に開口部を有する治具24に取り付けられ、この治具24の上端及び下端にパッキン等の密封部材26a,26bを配設し、さらに密封部材26a,26bの外側から、フランジ等の開口部を有する支持部材28a,28bにより挟持された構成となっている。こうして、密閉空間16bが、緻密膜18、治具24、密封部材26a及び支持部材28aにより区画される。なお、緻密膜18が多孔質基材20上に形成された複合材料の形態で供される場合には、緻密膜18側をガス供給口16aに向けて配置するのが、Heガスの供給圧による緻密膜18の多孔質基材20からの剥離を防止する観点から好ましい。1対の支持部材28a,28bは、ガス排出口16c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジ等の締結手段30により互いに堅く締め付けるのが好ましい。また、ガス供給口16aには所望により継手32を介して、Heガスを供給するためのガス供給管34が接続されうる。このような構成によれば簡単に組み立て及び分解が行えるため、多数の緻密膜に対して効率良くHeガス透過性の評価を行うことができる。
【0021】
次いで、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導緻密膜の緻密性を評価する。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。F、P及びSの各パラメータの単位は特に限定されないが、単位時間あたりのHeガスの透過量Fの単位をcm^(3)/min、差圧Pの単位をatm、及び膜面積Sの単位をcm^(2)とするのが好ましい。差圧PはHeガスが緻密膜を透過するような値であればよい…。」

1コ. 「【0038】
製造方法
本発明によるLDH膜及びLDH含有複合材料は、(a)多孔質基材を用意し、(b)所望により、この多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、(c)多孔質基材に水熱処理を施してLDH膜を形成させることにより、好ましく製造することができる。
【0039】
(a)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。…

【0041】
(b)起点物質の付着
所望により、多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させてもよい。このように起点物質を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。このような起点の好ましい例としては、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種、LDHの構成要素となりうる陽イオンを与える化学種、又はLDHが挙げられる。
【0042】
(i)陰イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種であることができる。このような陰イオンの例としては、CO_(3)^(2-)、OH^(-)、SO_(3)^(-)、SO_(3)^(2-)、SO_(4)^(2-)、NO_(3)^(-)、Cl^(-)、Br^(-)、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。したがって、このような起点を与えうる起点物質を、起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質基材の表面に付着させればよい。…

【0045】
(ii)陽イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、層状複水酸化物の構成要素となりうる陽イオンを与える化学種であることができる。このような陽イオンの好ましい例としては、Al_(3)^(+)が挙げられる。…したがって、このような起点を与えうる起点物質を起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質部材の表面に付着させればよい。…

【0051】
(iii)起点としてのLDH
結晶成長の起点は、LDHであることができる。この場合、LDHの核を起点としてLDHの成長を促すことができる。そこで、このLDHの核を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。

【0054】
(c)水熱処理
LDHの構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材(所望により起点物質が付着されうる)に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。…

【0056】
多孔質基材は原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させればよい。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。…
【0057】
原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。この水熱処理は密閉容器(好ましくはオートクレーブ)の中、60?150℃で行われるのが好ましく、…水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。…水熱処理の時間はLDH膜の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0058】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0059】
上記のようにして製造されたLDH膜は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。…
【0060】
ところで、上記製造方法により得られるLDH膜は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH膜をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH膜が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。」


(4A-2) 判断
2ア. 上記3.の(1)の取消理由について
(ア) 上記1ア.によれば、本件訂正発明は、水酸化物イオンを伝導する材料である層状複水酸化物等の水酸化物イオン伝導膜のアルカリ二次電池のセパレータとしての適用を考えた場合に、前記膜を通して電解液中の水酸化物イオンが移動しなければならない一方、前記膜には、水酸化物イオン以外の物質を極力透過させない高度な緻密性が望まれていることから、「水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途(特に亜鉛デンドライト成長が問題となる亜鉛二次電池用途)に特に適した、緻密性の極めて高い水酸化物イオン伝導緻密膜を提供すること」を、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)にしていると認められる。

(イ) そして、上記1イ.および1オ.によれば、上記(ア)に示した課題は、膜試料A1?A6により解決し得ることが把握できる。

(ウ) ここで、膜試料A1?A6は、上記1イ.?1エ.によれば、いずれも、多孔質基材を用意し、この多孔質基材に対してポリスチレンスピンコート及びスルホン化する処理を行った後、水熱処理を施すことにより形成された、多孔質基材上の層状複水酸化物の緻密膜であって、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出した、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるとされており、また、膜試料A1?A6についてのZn透過割合の試験も、各々の膜試料が多孔質基材上に形成された複合材料の形態で行ったとされている。

(エ) 多孔質基材上の層状複水酸化物の緻密膜について、上記1カ.?1キ.によれば、多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、複合材料において、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は好ましくは層状複水酸化物緻密膜(LDH緻密膜)であるが、これに限定されず、水酸化物イオン伝導性を有するあらゆる緻密膜であってよいとされ、具体的には、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である水酸化物イオン伝導性緻密膜であるとされており、そして、He透過度が10cm/min・atm以下であると、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が顕著に抑制される結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途(特に亜鉛デンドライト成長が問題となる亜鉛二次電池用途)に特に適した、緻密性の極めて高い水酸化物イオン伝導緻密膜を提供することができ、また、電解液中でのアルカリ炭酸塩の析出が問題となる亜鉛空気電池等の金属空気電池にも適しているとされている、すなわち、上記(ア)に示した課題が解決できるとされている。

(オ) また、He透過度について、上記1ク.によれば、Heガスは、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いため、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる指標であるとされ、当該He透過度は、上記1ケ.によれば、上記1ウ.に示されるように、多孔質基材上に形成された複合材料の形態で供される緻密膜の一方の面にHeガスを供給して緻密膜にHeガスを透過させるところ、He透過度をF/(P×S)の式により算出できるように、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを特定できる測定系で行われるとされている。

(カ) また、緻密膜の製造方法について、上記1コ.によれば、多孔質基材を用意し、この多孔質基材に、層状複水酸化物の結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、水熱処理を施して層状複水酸化物膜を形成させることにより、製造することができるとされている。

(キ) 上記(イ)?(カ)の検討からすると、本件特許の発明の詳細な説明に、水酸化物イオン以外の物質の透過を顕著に低減でき、それにより電池用セパレータ等の所定の用途に特に適した、緻密性の極めて高い水酸化物イオン伝導緻密膜を提供するとの、上記(ア)に示した課題を解決し得る発明として記載されているのは、多孔質基材上に形成された水酸化物イオン伝導緻密膜であって、前記多孔質基材上に形成された複合材料の形態で供される前記緻密膜の一方の面にHeガスを供給して前記緻密膜にHeガスを透過させて、He透過度の測定を行ったときに、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを特定してF/(P×S)の式によって算出される、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下のものであると認められる。

(ク) 上記(キ)に示した、本件特許の発明の詳細な説明に記載されている発明に対して、本件訂正発明9は、上記第3に示したとおりのものであり、再掲すると、以下のとおりのものであって、本件訂正により本件特許の発明の詳細な説明に記載されている発明の範囲内のものとなったことは明らかである。
「 多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、前記複合材料は単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出される値である、複合材料。」

(ケ) してみると、本件訂正発明9は、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(コ) また、請求項9の記載を引用する本件訂正発明10?22についても、上記(ア)?(ク)に示した本件訂正発明9についての検討と同様にして、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。

(サ) 小括
したがって、上記3.の(1)の取消理由(決定の予告)によっては、本件訂正発明に係る特許を取り消すことができない。


2イ. 上記3.の(2)の取消理由について
上記(ア)?(ク)の検討を踏まえると、本件特許の発明の詳細な説明には、本件訂正発明9の複合材料について、製造方法が記載されているから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるし、また、請求項9の記載を引用する本件訂正発明10?22についても、本件訂正発明9と同様の理由で、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
したがって、上記3.の(2)の取消理由(決定の予告)によっても、本件訂正発明に係る特許を取り消すことができない。


4B 上記2.の(1)?(2)の取消理由について
上記2.の(1)?(2)の取消理由は、それぞれ、上記3.の(1)?(2)の取消理由(決定の予告)と同じ取消理由であるから、上記4Aでの検討と同様にして、上記2.の(1)?(2)の取消理由によっても、本件訂正発明に係る特許を取り消すことができない。


4C 申立理由について
事案に鑑み、上記1.に示した申立理由については、上記1.(3)の申立理由3、上記1.(2)の申立理由2、上記1.(1)の申立理由1の順に検討を行うこととする。
また、これらは、いずれも、訂正前の請求項1?14に係る発明に対する申立理由であるが、上記第3に示したとおり、訂正前の請求項1?8に係る発明は存在しないものとなったため、本件訂正発明9?22に係る発明に対する申立理由と読み替えて、以下に、検討する。

(4C-1) 上記1.(3)の申立理由3について
ア. 上記1.(3)の申立理由3は、本件訂正発明9?22に係る発明は、透水性を有さない膜には特定されていないものであるから、透水性を有する膜も含んでいるのに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題を解決することができることが示されているのは透水性を有さない膜のみであるため、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである旨の申立理由であって、本件訂正発明は、いずれも、「単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であ」るとの発明特定事項を備えたものであるにもかからず、透水性を有するものを含んでいることを前提とする申立理由であるが、異議申立人は、当該発明特定事項を備えたものが透水性を有する場合があることを裏付け得る具体的かつ客観的な証拠を提出していないから、前記の申立理由は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての、立証を伴わない主張にとどまる。

イ. ところで、本件訂正発明9の比較試料について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70?75℃で168?504時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された比較試料A7?A10を得、これらの試料の緻密性を単位面積当たりのHe透過度によって評価したところ、17?260cm/min・atmであったことが記載されている(【0062】?【0077】)。

ウ. 本件特許明細書の発明の詳細な説明における、原料水溶液中で多孔質基材に施す水熱処理の条件についての、特に好ましくは70?90℃であり、上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよく、水熱処理の時間は目的とする密度と厚さに応じて適宜選択すればよい旨の記載(【0057】)からして、70?90℃の範囲内の温度は、水熱処理条件として、同等の条件であり、水熱処理の時間によって、前記多孔質基材上の層状複水酸化物の膜の密度と厚さを調節でき、時間を長くするほど、密度が高まり、厚さが厚くなるため、前記多孔質基材上の層状複水酸化物の膜の緻密性が高まるという技術事項を把握することができる。

エ. 上記イ.?ウ.の技術事項を考慮すると、単位面積当たりのHe透過度が260cm/min・atmの比較試料A10は、比較試料のうちで、当該He透過度が最も高く、すなわち緻密性が最も低いことから、水熱処理の時間が最も短かい試料であって、具体的には、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70?75℃で168時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された試料であるし、また、単位面積当たりのHe透過度が17cm/min・atmの比較試料A7は、比較試料のうちで、当該He透過度が最も低く、すなわち緻密性が最も高いことから、水熱処理の時間が最も長かった試料であって、具体的には、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70?75℃で504時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された試料であると認められる。

オ. 上記エ.のような本件訂正発明9の比較試料に対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明9の参考試料について、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70℃で168時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された参考試料B2を得、この試料の緻密性を透水性によって評価したところ、透水性を有しなかったことが記載されている(【0078】?【0092】)。

カ. ここで、上記エ.の比較試料A10と上記オ.の参考試料B2は、いずれも、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70℃程度で168時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された試料であるから、上記エ.の比較試料A10は、上記オ.の参考試料B2と同様に、透水性を有しない試料であると認められる。

キ. そして、本件訂正発明9?22は、いずれも、「単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であ」るとの発明特定事項を備えたものであって、単位面積当たりのHe透過度が260cm/min・atmである、上記エ.の比較試料A10よりもHe透過性が低い、すなわち緻密性が高いことから、当然に、透水性を有しないと認められる。

ク. 上記ア.?キ.の検討を踏まえると、上記1.(3)の申立理由3は、前提において誤りがあり、合理性を欠く主張であるといえる。

ケ. また、上記4A(A-2)2ア.で検討したとおり、本件訂正発明9?22は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

コ. よって、上記1.(3)の申立理由3は採用し得ない。


(4C-2) 上記1.(2)の申立理由2について
(4C-2-1) 上記1.(2)の申立理由2のうち、本件特許明細書において、発明の課題を解決することができることが示されているのは透水性を有しない膜のみであり、本件特許明細書の記載からでは、透水性を有する膜である場合にどのようにすれば発明の課題を解決することができるのかを当業者が理解することができない旨の申立理由(2-1)は、上記1.(3)の申立理由3と同様、本件訂正発明9?22が透水性を有するものを含んでいることを前提とする申立理由であるが、上記(4C-1)ア.?キ.の検討を踏まえると、その前提において誤りがあり、合理性を欠く主張である。

(4C-2-2) 上記1.(2)の申立理由2のうちの申立理由(2-2)は、本件特許明細書の実施例に記載の複合材料試料A1?A6の作製における水熱条件について、試料A1?A6それぞれの具体的な水熱処理の条件が記載されていないことから、当業者が本件特許明細書をみても、どのような水熱処理条件とすれば、本件訂正発明9?22の物が得られるかを理解することができない旨の申立理由である。
しかしながら、上記(4C-1)イ.?エ.の検討と同様にして、本件特許明細書の記載からは、単位面積当たりのHe透過度が10cm/min・atmの試料A6は、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70℃程度で168時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された試料であり、また、単位面積当たりのHe透過度が0.1cm/min・atmの試料A1は、気孔率24.6%で、平均気孔径0.1μmのアルミナ製多孔質基材に対して、原料水溶液中で水熱温度70℃程度で504時間の水熱処理を施すことにより、前記多孔質基材上に層状複水酸化物の緻密膜が形成された試料であることを把握することができると認められる。
してみると、申立理由(2-2)も合理性を欠く主張である。

(4C-2-3) よって、上記1.(2)の申立理由2も採用し得ない。


(4C-3) 上記1.(1)の申立理由1について
(4C-3-1) 甲各号証の記載事項
(3-1a) 甲第1号証(国際公開第2013/118561号)
aア. 「[請求項1]
正極と、
亜鉛を含んでなる負極と、
前記正極及び前記負極が浸漬又は接触される、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液である電解液と
前記正極及び前記負極の間に配置されて前記正極及び前記負極を互いに隔離する、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータと
を備えた、亜鉛二次電池。

[請求項3]
前記無機固体電解質体が、一般式:
M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O
(式中、M^(2+)は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M^(3+)は少なくとも1種以上の3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1?0.4である)
の基本組成を有する層状複水酸化物からなる、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。

[請求項5]
前記無機固体電解質体が水熱固化法によって緻密化されたものである、請求項1?4のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。

[請求項11]
前記セパレータの片面又は両面に多孔質基材をさらに備えた、請求項1?10のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。」

aイ. 「[0009]
本発明者らは、今般、亜鉛二次電池において、セパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることにより、充電時における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を防止することができ、その結果、二次電池の信頼性を大いに高められるとの知見を得た。」

aウ. 「[0017]
セパレータ18は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体を含んでで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ18は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。」

aエ. 「[0020]
セパレータ18の形状は特に限定されず、緻密な板状及び膜状のいずれであってもよいが、板状に形成されてなるのが亜鉛デンドライトの貫通を効果的に阻止できる点で好ましい。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01?0.5mmであり、より好ましくは0.02?0.2mm、さらに好ましくは0.05?0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10^(-4)?10^(-1)S/mの伝導度を有する。
[0021]
セパレータ18上により安定に水酸化物イオンを保持するために、セパレータ18の片面又は両面に多孔質基材を設けてもよい。セパレータ18の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質体を成膜する手法が考えられる。一方、セパレータ18の両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。」

aオ. 「[0034]
例1:水熱固化による無機固体電解質体の作製
Mg(NO_(3))_(2)及びAl(NO_(3))_(3)をMg/Alのモル比が3/1となるように含む混合水溶液を用意した。この混合水溶液をNa_(2)CO_(3)水溶液中に滴下することによって沈殿物を得た。その際、水酸化ナトリウム溶液を添加することにより、溶液中のpHを約10で一定になるように制御した。得られた沈殿物を濾過し、清浄及び乾燥して、平均一次粒径が0.5μm以下で平均二次粒径が5μm以下の層状複水酸化物粉末を得た。
この層状複水酸化物粉末を一軸加圧成形法で加圧して板状の圧粉体とした。耐圧容器に、純水と板状の圧粉体とを入れ、200℃で4時間加熱して、板状の無機固体電解質体を得た。得られた無機固体電解質体の相対密度をアルキメデス法で測定したところ95%であった。
[0035]
例2:ニッケル亜鉛二次電池の作製
例1で作製された無機固体電解質体を用いて、図2に示される構成のコインセル型ニッケル亜鉛二次電池を以下に示される手順で作製する。図2に示されるニッケル亜鉛二次電池20は、電池缶21内に、ベータ型オキシ水酸化ニッケルを電解液と共に含む正極合材22、負極活物質としての亜鉛を電解液と共に含む負極合材24と、例1で作製された無機固体電解質体であるセパレータ28とを収容してなる。

[0039]
(3) 電池の作製
上記のとおり得られた正極合材及び負極合材を用いて、図2に示される構成のコインセル型ニッケル亜鉛二次電池を以下に示される手順で作製する。電池の外部正極端子となるように鉄にニッケルめっきが施されてなる電池缶21を用意する。電池缶21内の底部中央に、電池缶21の内側壁から離間させるように正極合材22を配置する。正極合材22上に例1で得られた固体電解質板をセパレータ28として配置した。セパレータ28上に負極合材24を配置し、その上に負極集電体24aを配置する。負極集電体24a上に負極端子板25を設けて外部負極端子にするとともに、電池缶21内の内壁と電池積層体との間を絶縁性樹脂からなる封口体29により封口する。こうしてコインセル型ニッケル亜鉛二次電池を得る。
[0040]
正極合材22及び負極合材24は共に電解質として水酸化カリウムを含有しているため、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータ28を経由した水酸化物イオンの伝導パスは確保されている。より確実には、正極合材22上に水酸化カリウム水溶液を滴下後、固体電解質板をセパレータ28として配置、セパレータ28上にも水酸化カリウム水溶液を滴下後、負極合材24を配置してもよい。さらに、セパレータ28上により安定に水酸化物イオンを保持するために、セパレータ28の片面又は両面に多孔体基材を設けて、水酸化カリウム水溶液を含ませてもよい。」

aカ. 「




(3-1b) 甲第2号証(特開平11-86827号公報)
bア. 「【請求項1】 セロファン膜が親水性化処理を施した化学繊維紙に含浸したビスコースを接合剤として複層接合または重合接合されたことを特徴とするセロファン膜セパレーター。」

bイ. 「【0004】…ニッケル亜鉛二次電池においては、セロファン膜のみをセパレーターとして利用してきた。本質的にセロファン膜は無孔性膜である。ニッケル亜鉛二次電池で微孔性セパレーターを使用すれば、後述の金属亜鉛のデンドライト結晶による電気的内部短絡事故が続発するから、それを避けるために無孔性のセパレーターを使用せざるを得ないからである。ニッケル亜鉛二次電池は、酸化ニッケルを正極に、金属亜鉛を負極とする電池であり、20?40%の濃厚な苛性カリ水溶液を電解液とする優れた放電特性を有する安価な二次電池である。」


(3-1c) 甲第3号証(フィルム物性値一覧表(三洋グラビア株式会社
ウエブサイト掲載資料(http://www.
sanyo-gravure.co.jp/lami/film/)))
cア. 「




(3-1d) 甲第4号証(特開平5-343095号公報)
dア. 「【請求項1】透気度が2 ?500sec/100ccである微孔性フィルムセパレーターを用いるニッケル-亜鉛電池において、電解液中のOH^(-)イオンの濃度を2 ?8mol/lとすることを特徴とするニッケル-亜鉛電池。」

dイ. 「【0005】一方、電池の短絡の防止を目的とするセパレーターとして、酸素透過性を持つ微孔性フィルムセパレーターの使用が提案されている(特願平2-305597)。このセパレーターは、従来の短絡防止用セパレーターとは異なり、酸素ガスを透過することができ、かつ、電池の短絡をある程度防止する事ができる。従って、このセパレーターの使用によって、従来からの課題であった亜鉛電池の密閉化が可能となる。しかしながら、短絡を防止する能力は、従来もちいられていたセロハン等に比べて低く、充分な電池寿命が得られないという問題があった。」


(3-1e) 甲第5号証(国際公開第02/058177号)
eア. 「1.フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン(H^(+))解離性の基を導入してなるフラーレン誘導体と、20重量%を超える含有量のポリビニルアルコールとを含有しているプロトン伝導体。

103.フラーレン誘導体を含むプロトン伝導体層と、
フラーレン誘導体に、ポリビニルアルコールを混合させた水素ガス遮断層と
を備えたことを特徴とする燃料電池のプロトン伝導体膜。
104.前記水素ガス遮断層が、フラーレン誘導体を含むプロトン伝導体層の少なくとも一方の面に形成されたことを特徴とする請求の範囲第103項記載の燃料電池のプロトン伝導体膜。」(請求の範囲)

eイ. 「発明の開示
本発明は、…その目的は、常温を含む広い温度域で用いることができ、その下限温度も特に高くはなく、しかも移動媒体であるとないとを問わず水分を必要としないという、雰囲気依存性が小さく、更に成膜性を有すると共に、強度が高く、ガス透過防止能を備えた、プロトン伝導体及びその製造方法、並びに電気化学デバイスを提供することにある。」(明細書第2頁第25行?第3頁第4行)

eウ. 「実施例2
…厚さ12μmの硫酸水素エステル化フラレノールとポリカーボネートを含むプロトン伝導体を形成した。
こうして形成されたプロトン伝導体膜の一方の面に、…厚さ1μmの硫酸水素エステル化フラレノールとポリビニルアルコールとの混合物層を形成した。
こうして得られたプロトン伝導体膜の積層体に、直接、ヒーターを圧着し、180℃で、10秒間にわたって加熱処理を施した。
次いで、プロトン伝導体膜の積層体に、硫酸水素エステル化フラレノールとポリビニルアルコールとの混合物層が形成されていない側から、0.03MPaの圧力の水素ガスを供給し、硫酸水素エステル化フラレノールとポリビニルアルコールとの混合物層が形成されている側の水素ガス濃度の時間的な変化を測定した。測定結果は、図18に示されている。」(明細書第29頁第3?22行)

eエ. 「


eウ.の記載を踏まえると、図18からは、実施例2のプロトン伝導体膜は、0.03MPaの圧力の水素ガスを100秒程度供給し続けると、10ppmを超える水素ガスが透過することを把握することができる。


(3-1f) 甲第6号証(特開2006-35224号公報)
fア. 「【請求項1】
多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材が接着層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成されたセラミック構造体であって、前記セラミックブロックの外周部が少なくとも無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子を含むシール材によりコーティングされていることを特徴とするセラミック構造体。」

fイ. 「【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去するフィルタとして用いられるセラミック構造体に関する。」

fウ. 「【0035】
本発明のセラミック構造部材は、セラミックブロック12の外周部が、シール材13aによりコーティングされているので、排気ガスの通路となる金属部材の内部に断熱材等を組み合わせて設置すると、金属部材とセラミック構造体との間に隙間が発生することはない。従って、排気ガスが発生した際も、この隙間から排気ガスが漏れることもなく、排気ガス中のパティキュレートを完全に捕集することができる。
また、上記シール材は、耐熱性に優れているので、高温の排気ガス等にさらされても変質したり、クラックが発生したりすることはなく、機密性を保持する。」


(4C-3-2) 甲第1号証に記載された発明
ア. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかな、甲第1号証には、上記(3-1a)aア.?aカ.によれば、セパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることにより、充電時における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を防止することができ、その結果、二次電池の信頼性を大いに高められるとの知見に基づく、「正極と、亜鉛を含んでなる負極と、前記正極及び前記負極が浸漬又は接触される、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液である電解液と、前記正極及び前記負極の間に配置されて前記正極及び前記負極を互いに隔離する、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータと、前記セパレータの片面又は両面に多孔質基材を備えた、亜鉛二次電池であって、前記無機固体電解質体が、一般式:
M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O
(式中、M^(2+)は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M^(3+)は少なくとも1種以上の3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1?0.4である)
の基本組成を有する層状複水酸化物からなり、水熱固化法によって緻密化されたものである、亜鉛二次電池。」が記載されていると認められる。

イ. 上記ア.の亜鉛二次電池における、片面又は両面に多孔質基材を備えたセパレータに注目すると、甲第1号証には、「一般式:
M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O
(式中、M^(2+)は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M^(3+)は少なくとも1種以上の3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1?0.4である)
の基本組成を有する層状複水酸化物からなり、水熱固化法によって緻密化された、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータであって、その片面又は両面に多孔質基材を備えた、亜鉛二次電池用のセパレータ」(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。

ウ. また、上記ア.?イ.からして、甲第1号証には、「正極と、亜鉛を含んでなる負極と、前記正極及び前記負極が浸漬又は接触される、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液である電解液と、前記正極及び前記負極の間に配置されて前記正極及び前記負極を互いに隔離する、甲1発明1のセパレータとを備えた亜鉛二次電池」(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。


(4C-3-3) 甲第2?6号証に記載された技術事項
ア. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかな、甲第2号証には、上記(3-1b)bア.?bイ.によれば、ニッケル亜鉛二次電池においては、金属亜鉛のデンドライト結晶による電気的内部短絡を避けるために、セロファン膜をセパレーターとして利用してきたことが記載されている。

イ. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかとはいえない、甲第3号証では、上記(3-1c)cア.によれば、セロファン膜は、水蒸気透過度が、7?8g/m^(2)・dであり、酸素透過度が9.9?306ml/m^(2)・d・MPaであるとされている。

ウ. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかな、甲第4号証には、上記(3-1d)dア.?dイ.によれば、ニッケル-亜鉛電池において、透気度が2 ?500sec/100ccである微孔性フィルムセパレーターを用いることが記載されている。

エ. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかな、甲第5号証には、上記(3-1e)eア.?eエ.によれば、フラーレン誘導体に、ポリビニルアルコールを混合させた水素ガス遮断層が、フラーレン誘導体を含むプロトン伝導体層の少なくとも一方の面に形成されたことを特徴とする燃料電池のプロトン伝導体膜に関し、0.03MPaの圧力の水素ガスを100秒程度供給し続けると、10ppmを超える水素ガスが透過することが記載されている。

オ. 本件特許の優先日前に公開されたことが明らかな、甲第6号証には、上記(3-1f)fア.?fエ.によれば、内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去するフィルタとして用いられるセラミック構造体に関し、そのセラミック構造体の外周を、少なくとも無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子を含むシール材によりコーティングすると、当該シール材は、耐熱性に優れているので、高温の排気ガス等にさらされても変質したり、クラックが発生したりすることはなく、機密性を保持できることが記載されている。


(4C-3-4) 本件訂正発明と甲1発明との対比・判断
(4C-3-4-1) 本件訂正発明9と甲1発明1との対比・判断
ア. 本件訂正発明9と、上記(4C-3-2)イ.に示した、甲1発明1とを対比するに、甲1発明1における「層状複水酸化物からなり、水熱固化法によって緻密化された、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体」は、本件訂正発明9における「水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有」することに相当し、また、甲1発明1における「水熱固化法によって緻密化された、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体からなるセパレータであって、その片面又は両面に多孔質基材を備えた、亜鉛二次電池用のセパレータ」は、本件訂正発明9における「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料」に相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有」する点。

<相違点>
相違点1:当該複合材料は、本件訂正発明9では、「単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出される値である」との発明特定事項を備えているのに対して、
甲1発明1では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。


イ. そこで、上記相違点1に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明9が、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討してみる。
なお、異議申立人は甲第3号証の記載事項の公知性を裏付け得る具体的かつ客観的証拠を提出していないが、一応、甲第3号証の記載事項を公知の事実と仮定して、すなわち、従たる証拠が甲第2?6号証であると仮定して、以下の検討を行うこととする。

甲1発明1は、上記ア.の検討のとおり、多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料に係る発明であるのに対し、
上記(4C-3-3)の検討のとおり、
甲第2号証には、セロファン膜がニッケル亜鉛二次電池においてはセパレーターとして利用されてきたことが記載されているだけであるし、
甲第3号証には、セロファン膜は水蒸気透過度が7?8g/m^(2)・dで、酸素透過度が9.9?306ml/m^(2)・d・MPaであること、すなわち、透水性を有し、酸素透過性を有することが記載されているだけであるし、
甲第4号証には、ニッケル-亜鉛電池においてセパレータとして用いられる、微孔性フィルムは、透気度が2 ?500sec/100ccであること、すなわち、透気性を有することが記載されているだけであるし、
甲第5号証には、0.03MPaの圧力の水素ガスを100秒程度供給し続けると、10ppmを超える水素ガスが透過する燃料電池のプロトン伝導体膜が記載されているだけであるし、
甲第6号証には、内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去するフィルタとして用いられるセラミック構造体の外周を、少なくとも無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子を含むシール材によりコーティングすると、当該シール材は、耐熱性に優れているので、高温の排気ガス等にさらされても変質したり、クラックが発生したりすることはなく、機密性を保持できることが記載されているだけであって、
甲1発明1のような、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料に関する技術事項は、甲第2?6号証には記載も示唆もされていないことから、甲1発明1に甲第2?6号証記載の発明を組み合わせることは合理性を欠くことといえる。
特に、亜鉛二次電池用セパレータである甲1発明1とは技術的関連性のない、甲第5号証記載の燃料電池のプロトン伝導体膜に関する発明や、甲第6号証記載の内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去するフィルタとして用いられるセラミック構造体の外周に用いられるシール材に関する発明は、合理的には、甲1発明1に適用できないものである。

ウ. また、甲第3?4号証に記載される、水蒸気透過度が7?8g/m^(2)・dで、酸素透過度が9.9?306ml/m^(2)・d・MPaであること、あるいは、透気度が2 ?500sec/100ccであることが、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料が備えるべき一般的な技術事項であることが、甲第2?6号証以外の具体的かつ客観的証拠により裏付けることができたというさらなる仮定をしてみても、以下の(ウ-1)?(ウ-5)の理由により、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件訂正発明9は、そのような技術事項と甲1発明1とを組み合わせることにより、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ-1) 本件訂正発明9が備える上記相違点1に係る発明特定事項の技術的意義に関し、本件特許の発明の詳細な説明の【0018】に、「He透過度は、…水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnや亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH_(2)分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。…上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、水酸化物イオン伝導緻密膜が電池用セパレータ等の所定の用途に適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。」との記載がある。
すなわち、本件特許の発明の詳細な説明によれば、Heは大きさが、水素分子よりも小さく、最小の構成単位であり、水蒸気透過度の評価に用いられる水分子や、酸素透過度の評価に用いられる酸素分子や、透気度の評価に用いられる空気の分子よりも、当然に、小さいことからして、He透過度という指標は、水蒸気透過度や酸素透過度や透気度という従来の指標よりも、高度な緻密性を客観的に評価することができる指標であるということが把握できる。

(ウ-2) そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0062】?【0077】の記載からは、上記相違点1に係る発明特定事項を備えない、比較試料A7?A10は、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnや亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素)の透過を抑制できないのに対し、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件訂正発明9である、膜試料A1?A6は、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnや亜鉛空気電池でアルカリ炭酸塩の析出を引き起こす二酸化炭素)の透過を顕著に低減できるという発明の効果を奏することが把握できる。

(ウ-3) ここで、甲第3号証に記載される、水蒸気透過度が7?8g/m^(2)・dで、酸素透過度が9.9?306ml/m^(2)・d・MPaであることが、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料が備えるべき一般的な技術事項であると仮定して、前記の一般的な技術事項を甲1発明1の複合材料に適用してみても、前記の一般的な技術事項は、水蒸気が7?8g/m^(2)・dの割合で透過することを意味している、すなわち、透水性を有することを意味するのに対し、上記(4C-1)イ.?カ.の検討のとおり、比較試料A10は透水性を有しない複合材料であるから、前記の一般的な技術事項を甲1発明1の複合材料に適用したのでは、比較試料A10が備える、He透過度が260cm/min・atmという緻密性に到達することができないことは明らかである。

(ウ-4) また、甲第4号証に記載される、透気度が2 ?500sec/100ccであることが、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料が備えるべき一般的な技術事項であると仮定してみても、透気度が2?500sec /100ccであるとは、100ccの空気が2?500secで亜鉛二次電池用セパレータを透過することを意味しているところ、そのような透気度は、甲第3号証に記載の酸素透過度が9.9?306ml/m^(2)・d・MPaである、すなわち1day=86400sec当たりに酸素が9.9?306cc透過するということによって表される緻密性よりも、相対的に緻密性が低いことは客観的に明らかであることから、当該透気度によってもたらされる水蒸気透過度は、甲第3号証に記載の7?8g/m^(2)・dよりも大きいということとなり、すなわち、透水性を有しないまでの緻密性を備えているとは、合理的には、いえないことからして、その一般的な技術事項を甲1発明1の複合材料に適用しても、比較試料A10が備える、He透過度が260cm/min・atmという緻密性に到達することはできないといえる。

(ウ-5) そして、上記(ウ-2)に示したとおり、比較試料A10によっては、水酸化物イオン以外の物質の透過を抑制できないのに対し、10cm/min・atm以下である旨の上記相違点1に係る発明特定事項を備えた本件訂正発明9は、水酸化物イオン以外の物質の透過を顕著に低減できるという発明の効果を奏するものである。

エ. 上記イ.?ウ.の検討を踏まえると、本件訂正発明9は、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(4C-3-4-2) 本件訂正発明10?13、15?21と甲1発明1
との対比・判断
本件訂正発明10?13、15?21の複合材料と、上記(4C-3-2)イ.に示した、甲1発明1とを対比するに、本件訂正発明10?13、15?21は請求項9を引用するものであるから、上記(4C-3-4-1)ア.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1の点で相違していることとなる。
そして、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件訂正発明10?13、15?21が、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討してみても、上記(4C-3-4-1)イ.?ウ.での検討と同様にして、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(4C-3-4-3) 本件訂正発明14、22と甲1発明2との対比・
判断
本件訂正発明14、22の電池と、上記(4C-3-2)ウ.に示した、甲1発明2とを対比するに、本件訂正発明14、22は請求項9を引用するものであるから、上記(4C-3-4-1)ア.での検討と同様にして、少なくとも上記相違点1の点で相違していることとなる。
そして、上記相違点1に係る発明特定事項を備える本件訂正発明14、22が、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを検討してみても、上記(4C-3-4-1)イ.?ウ.での検討と同様にして、主たる証拠である甲第1号証に記載された甲1発明1と、従たる証拠である甲第2?6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(4C-3-4-4) 小括
上記(4C-3-4-1)?(4C-3-4-3)の検討によれば、上記1.(1)の申立理由1も採用し得ない。


(4C-4) まとめ
以上のとおり、上記1.に示した申立理由によって、本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由(決定の予告)、取消理由、特許異議の申立理由、及び、証拠によっては、請求項9?22に係る特許を取り消すことができない。
さらに、他に請求項9?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?8に係る特許は存在しないものとなったため、請求項1?8に対して、異議申立人がした特許異議の申立ては却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の表面に設けられる水酸化物イオン伝導緻密膜とを備えた、亜鉛二次電池用セパレータとして用いられる複合材料であって、前記水酸化物イオン伝導緻密膜は、層状複水酸化物を含んでなり、水酸化物イオン伝導性を有し、かつ、前記複合材料は単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であり、前記He透過度は、前記複合材料の一方の面にHeガスを供給して前記複合材料にHeガスを透過させ、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm^(3)/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm^(2))を用いて、F/(P×S)の式により算出される値である、複合材料。
【請求項10】
前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記多孔質基材が、セラミックス材料で構成され、該セラミックス材料が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記多孔質基材が、0.001?1.5μmの平均気孔径を有する、請求項9?11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記多孔質基材の表面が、10?60%の気孔率を有する、請求項9?12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。
【請求項15】
前記He透過度が1.0cm/min・atm以下である、請求項9?13のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項16】
水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m^(-2)・h^(-1)以下であり、前記Zn透過割合は、前記複合材料にZnを透過させ、Zn透過割合を算出することにより決定されるものであり、前記複合材料へのZnの透過は、前記複合材料の一方の面にZnを含有する第一の水溶液を接触させ、かつ、前記複合材料の他方の面にZnを含有しない第二の水溶液又は水を接触させることにより行われるものであり、前記Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C_(1)(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V_(1)(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水のZn濃度C_(2)(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水の液量V_(2)(ml)、Znの透過時間t(h)、及びZnが透過する膜面積S(m^(2))を用いて、(C_(2)×V_(2))/(C_(1)×V_(1)×t×S)の式により算出される値である、請求項9?13及び15のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項17】
前記Zn透過割合が1.0m^(-2)・h^(-1)以下である、請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
前記層状複水酸化物が、一般式:M^(2+)_(1-x)M^(3+)_(x)(OH)_(2)A^(n-)_(x/n)・mH_(2)O(式中、M^(2+)は2価の陽イオン、M^(3+)は3価の陽イオンであり、A^(n-)はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1?0.4であり、mは0以上である)で表される、請求項9?13及び15?17のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項19】
前記一般式において、少なくともM^(2+)にMg^(2+)を、M^(3+)にAl^(3+)を含み、A^(n-)にOH^(-)及び/又はCO_(3)^(2-)を含む、請求項18に記載の複合材料。
【請求項20】
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記緻密層と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項9?13及び15?19のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項21】
前記水酸化物イオン伝導緻密膜が100μm以下の厚さを有する、請求項9?13及び15?20のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項22】
請求項15?21のいずれか一項に記載の複合材料をセパレータとして備えた、電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-26 
出願番号 特願2016-534267(P2016-534267)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真由  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
小川 進
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6038410号(P6038410)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 水酸化物イオン伝導緻密膜及び複合材料  
代理人 加島 広基  
代理人 高村 雅晴  
代理人 加島 広基  
代理人 武石 卓  
代理人 高村 雅晴  
代理人 武石 卓  

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