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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1341056
異議申立番号 異議2017-700127  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-10 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5966011号発明「眼鏡レンズおよびその製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5966011号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲,訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。 特許第5966011号の請求項1,2,4ないし15に係る特許を維持する。 特許第5966011号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5966011号の請求項1?請求項15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願(特願2014-538574号)は,2013年9月26日(優先権主張 平成24年9月28日)を国際出願日とする出願であって,平成28年7月8日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,同年8月10日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成29年2月10日に,特許異議申立人 実川栄一郎から特許異議の申立てがされた(異議2017-700127号)。
その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 4月21日付け:取消理由通知書
平成29年 6月23日付け:訂正請求書
平成29年 6月23日付け:意見書(特許権者)
平成29年 8月 2日付け:意見書(特許異議申立人)
平成29年 8月16日付け:訂正拒絶理由通知書
平成29年 9月19日付け:意見書(特許権者)
平成29年11月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年 2月 1日付け:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。なお,平成29年6月23日付け訂正請求書による訂正の請求は,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。)
平成30年 2月 1日付け:意見書(特許権者)
平成30年 3月 9日付け:意見書(特許異議申立人)
(この意見書を,以下「特許異議申立人意見書」という。)

第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第5966011号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付した,訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?15について訂正することを求める,というものである。

2 訂正事項
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,以下のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正前後の特許請求の範囲及び訂正前後の明細書から理解される訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲に極大値を有し,
前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。」と記載されているのを,
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し,
前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2,請求項4?請求項15についても,同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に,「請求項1?3のいずれか一項」と記載されているのを,「請求項1?2のいずれか一項」に訂正する。
請求項4の記載を引用して記載された請求項5?請求項15についても,同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に,「請求項1?4のいずれか一項」と記載されているのを,「請求項1,2,4のいずれか一項」に訂正する。
請求項5の記載を引用して記載された請求項6?請求項15についても,同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に,「請求項1?6のいずれか一項」と記載されているのを,「請求項1,2,4?6のいずれか一項」に訂正する。
請求項7の記載を引用して記載された請求項8?請求項15についても,同様に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に,「請求項1?7のいずれか一項」と記載されているのを,「請求項1,2,4?7のいずれか一項」に訂正する。
請求項8の記載を引用して記載された請求項9?請求項15についても,同様に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に,「請求項1?8のいずれか一項」と記載されているのを,「請求項1,2,4?8のいずれか一項」に訂正する。
請求項9の記載を引用して記載された請求項10?請求項15についても,同様に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に,
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって,
前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,
前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と,を有するとともに,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲に極大値を有するようにし,
前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする請求項1?10のいずれかの一項に記載の眼鏡レンズの製造方法。」と記載されているのを,
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって,
前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,
前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と,を有するとともに,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有するようにし,
前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする請求項1,2,4?10のいずれかの一項に記載の眼鏡レンズの製造方法。」に訂正する。
請求項11の記載を引用して記載された請求項12?請求項15についても,同様に訂正する。

(9) 訂正事項9
明細書の段落【0009】に,
「 本発明の一態様に係る眼鏡レンズは,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって,波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲に極大値を有し,前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする。」と記載されているのを,
「 本発明の一態様に係る眼鏡レンズは,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって,波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し,前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする。」に訂正する。

(10) 訂正事項10
明細書の段落【0010】に,
「 また,本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法は,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって,前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と,を有するとともに,波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲に極大値を有するようにし,前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする。」と記載されているのを,
「 また,本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法は,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって,前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と,を有するとともに,波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値と有するようにし,前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする。」に訂正する。

3 当合議体の判断
(1) 特許法120条の5第4項について
特許請求の範囲の請求項1?請求項15の引用関係からみて,本件訂正請求は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である,〔請求項1?請求項15〕ごとにされたものである。

(2) 訂正事項1について
ア 判断
訂正事項1による訂正は,本件特許の願書に添付した明細書及び図面に記載された実施例4,実施例5及び実施例7(【0081】,【0082】及び【0084】?【0086】,並びに,【図10A】,【図10B】,【図11A】,【図11B】,【図12A】及び【図12B】)に基づいて,「波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線」を,「380?780nmの波長範囲に極大値を有」するものから「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有」するものに限定する訂正である。また,請求項1の記載を引用して記載された請求項2及び請求項4?請求項15についても,同じことがいえる。
したがって,訂正事項1による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は,特許異議申立人意見書において,概略,明細書の【0035】及び【0034】の記載を引用して,[A]380?780nmの波長範囲にある極大値が同波長範囲の最大値であるとする訂正,及び[B]280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値があるとする訂正は,いずれも,新規事項違反であると主張する。
しかしながら,本件特許の明細書の【0011】には,「本発明の一態様に係る光学部品によれば,良好な視認性を維持したまま充分な防眩効果が得られ,かつ眼球内に入射される紫外線を低減させることができる」と記載されている。そして,この記載を勘案した当業者ならば,防眩効果との関係において,[A]380?780nmの波長範囲にある極大値が同波長範囲の最大値であるという事項を,実施例4,実施例5及び実施例7の分光特性図から自然に理解することができる。また,上記【0011】の記載を勘案した当業者ならば,防眩効果と紫外線の低減効果の両立を図るべく多層膜を設計した結果として,[B]280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有する分光特性になったと,実施例4,実施例5及び実施例7の分光特性図から自然に理解することができる。
したがって,特許異議申立人の主張は採用できない。

(3) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は,請求項3を削除する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項3?訂正事項7について
訂正事項3?訂正事項7による訂正は,前記訂正事項2に伴い,請求項3の記載を引用して記載されていた請求項4,請求項5及び請求項7?請求項9の記載が明瞭でないものとなることを回避することを目的としたものであるから,特許法120条項5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項8について
訂正事項8による訂正は,訂正事項1による訂正と同様の訂正,及び訂正事項3による訂正と同様の訂正を,併せた訂正である。
したがって,訂正事項8による訂正は,特許法120条項5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同法同条同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項9及び訂正事項10について
訂正事項9及び訂正事項10による訂正は,それぞれ明細書の【0009】及び【0010】の記載が訂正事項1による訂正後の請求項1及び訂正事項8による訂正後の請求項11と対応しなくなることを回避することを目的としたものであるから,特許法120条項5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。また,訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。
訂正事項9及び訂正事項10による訂正に係る一群の請求項は,請求項1?請求項15であり,訂正事項9及び訂正事項10による訂正は,請求項1?請求項15について行われたものである。

4 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書,同法同条第9項において準用する同法126条4項?6項の規定に適合する。また,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定に適合する。
よって,結論のとおり訂正することを認める。

第3 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は,認められた。
したがって,本件特許の請求項1?請求項15に係る発明は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項からみて,以下のものであると認める(以下「本件特許発明1」から「本件特許発明15」といい,総称して「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,
280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し,
前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。

【請求項2】
前記プラスチック基材の表面に配設された前記多層膜の280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が,前記プラスチック基材の後面に配設された前記多層膜の反射率の平均値よりも大きい請求項1記載の眼鏡レンズ。

【請求項3】(削除)

【請求項4】
前記プラスチック基材が,紫外線を吸収する機能を有する請求項1?2のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。

【請求項5】
前記プラスチック基材から最も遠い,前記多層膜の少なくとも一方の最外層の上に,フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜を更に備える請求項1,2,4のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。

【請求項6】
前記フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物は,下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中,Rfは炭素数1?16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し,Yはヨウ素又は水素を表し,Y’は水素または炭素数1?5の低級アルキル基を表し,Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し,R^(1)は加水分解可能な基を表し,R^(2)は水素又は不活性な一価の有機基を表し,a,b,c,dはそれぞれ0?200の整数を表し,eは0又は1を表し,sおよびtはそれぞれ0?2の整数を表し,wは1?10の整数を表す。)及び下記一般式(2)?(5):
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式(2)?(5)中,Xは酸素又は二価の有機基を表し,X’は加水分解可能な基を表し,X”は二価の有機シリコーン基を表し,R^(3)は炭素数1?22の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し,qは1?3の整数を表し,m,n,oはそれぞれ0?200の整数を表し,pは1又は2を表し,rは2?20の整数を表し,kは0?2の整数を表し,zはkが0又は1である場合に0?10の整数を表す。)及び下記一般式(6):
【化6】

(式(6)中,Rf2は2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し,R^(4)は炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基を表し,R^(5)は加水分解可能な基を表し,iは0?2の整数を表し,jは1?5の整数を表し,uは2又は3を表す。)の中から選択される1種類以上のフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である請求項5に記載の眼鏡レンズ。

【請求項7】
前記多層膜は,4層以上の多層膜である請求項1,2,4?6のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。

【請求項8】
前記プラスチック基材と前記多層膜との間に,機能性薄膜を備えた請求項1,2,4?7のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。

【請求項9】
前記多層膜を構成する高屈折率材料と低屈折率材料との間に,厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を備えた請求項1,2,4?8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。

【請求項10】
前記高屈折率材料は,二酸化ジルコニウムを含み,前記低屈折率材料は,二酸化珪素を含む請求項9に記載の眼鏡レンズ。

【請求項11】
プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって,
前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,
前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と,を有するとともに,
波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有するようにし,
前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする請求項1,2,4?10のいずれかの一項に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【請求項12】
前記多層膜を真空蒸着法を用いて形成する工程を含む請求項11に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【請求項13】
前記多層膜を形成する工程は,前記多層膜を構成する層のうちの少なくとも一層を,イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含む請求項11又は12に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【請求項14】
前記イオンビームアシストは,不活性ガス,酸素ガス,及び不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスのうちから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる請求項13に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【請求項15】
前記不活性ガスはアルゴンである請求項14に記載の眼鏡レンズの製造方法。」

第4 取消の理由について
1 証拠について
特許異議申立人が提出した証拠は,以下のとおりである。
甲1:特開2002-31701号公報
甲2:国際公開第2012/076714号
甲3:特開2005-215038号公報
甲4:特開2012-93689号公報
甲5:特開2009-237509号公報
甲6:Karl Citek著「Anti-reflective coatings reflect ultraviolet radiation」,Optometry Vol 79,No 3,2008年3月,143?148頁
甲7:国際公開第2008/053712号
甲8:特開2004-126532号公報

2 当合議体が通知した取消の理由の概要
平成29年11月29日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消の理由は,概略,以下のとおりである。
(1) 特許法29条1項3号
本件特許発明1,本件特許発明3及び本件特許発明7?本件特許発明10は,甲2に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。

(2) 特許法29条2項
ア 甲1について
本件特許発明1?本件特許発明8及び本件特許発明11?本件特許発明15は,当業者が,甲1に記載された発明(及び周知技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

イ 甲2について
本件特許発明1?本件特許発明15は,当業者が,甲2に記載された発明(及び周知技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

ウ 甲3について
本件特許発明1?本件特許発明8及び本件特許発明11?本件特許発明15は,当業者が,甲3に記載された発明(及び周知技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

エ 甲4について
本件特許発明1?本件特許発明15は,当業者が,甲4に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

3 特許異議申立人が主張する取消の理由の概要
特許異議申立人は,取消の理由として,概略,以下のとおり主張している。
(1) 特許法29条1項3号
ア 甲1について
本件特許発明1?本件特許発明3及び本件特許発明7?本件特許発明12は,甲1に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。

イ 甲2について
本件特許発明1?本件特許発明3及び本件特許発明7?本件特許発明12は,甲2に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。

(2) 特許法29条2項
ア 甲1について
本件特許発明1?本件特許発明15は,当業者が,甲1に記載された発明(,並びに,甲2,甲4,甲7及び甲8に記載された技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

イ 甲2について
本件特許発明2,本件特許発明4?本件特許発明6,本件特許発明9,本件特許発明11?本件特許発明15は,当業者が,甲2に記載された発明(,並びに,甲4,甲7及び甲8に記載された技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

ウ 甲3について
本件特許発明1?本件特許発明15は,当業者が,甲3に記載された発明(,並びに,甲1,甲2,甲4,甲7及び甲8に記載された技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

エ 甲4について
本件特許発明1?本件特許発明15は,当業者が,甲4に記載された発明(及び甲1?甲3に記載された技術)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許受けることができない。

(3) 特許法36条6項1号
本件特許発明の実施例において装用評価が行われているのは実施例1のみであり,本件特許発明全体において発明の課題が解決できるとは認められない。

(4) 特許法36条6項2号
多層膜について規定されている分光特性が,両面の分光特性なのか,後面の分光特性なのか,不明確である。

第5 特許法29条の取消の理由について
前記「第4」に記載のとおり,当合議体と特許異議申立人の29条の取消の理由が,甲号証と請求項の組み合わせにおいて錯綜していることに鑑みて,以下,まとめて判断を示す。
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 甲1の記載
本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲1(特開2002-31701号公報)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,いわゆる反射防止膜を有する光学素子および眼鏡用レンズに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に,紫外線は強い化学作用を持ち,様々な物質,あるいは素子の耐久性を劣化させ,その機能を損なわせることがあることはよく知られている。また,大気を透過して地表面に到達する太陽紫外線は,「UV-B」と称される280?315nmの波長領域の遠紫外線と,「UV-A」と称される315?400nmの波長領域の近紫外線とに大別され,これらの紫外線は,人間の目に障害を引き起こす可能性が高いとされている。現在,これらの紫外線が人間の眼内に侵入することを防ぐ手段として,使用の簡便さからサングラス(眼鏡を含む。)が広く利用されている。また,サングラス以外のものであっても,最近の眼鏡用レンズにおいては,レンズ本体に紫外線吸収剤を含有させているものや,紫外線カットコーティングが施されているものが多くなってきている。
【0003】このような眼鏡用レンズによれば,視線方向前方からの紫外線を遮蔽または抑制することが可能であるが,最近,視線方向以外の方向からの紫外線,例えば顔面により反射された紫外線あるいはレンズ後面により反射された紫外線などが,人間の目にもたらす悪影響が予想以上に大きいことが判明した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって,その目的は,特定の波長領域の光線に対して反射防止効果が得られる膜を有し,表面で反射される光線による影響を低減させることができる光学素子を提供することにある。本発明の他の目的は,眼内に侵入する紫外線の光量を低減することができ,目を紫外線から有効に保護することができる眼鏡用レンズを提供することにある。」

イ 「【0006】
【作用】上記の光学素子によれば,膜が形成された表面における,特定の波長領域の光線に対する反射率が,基材自身の表面における反射率より小さいことにより,当該光学素子は,その表面での反射光による影響が低減されたものとなる。そして,眼鏡用レンズの場合には,視線方向後方よりの紫外線,特に遠紫外線がレンズの後面で反射することが確実に防止され,これにより,眼内に侵入する紫外線の光量が低減される。
…(省略)…
【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明について詳細に説明する。図1は,本発明の光学素子の構成の一例を示す説明用断面図である。この光学素子10は,光透過性を有する平板状の基材11と,この基材11の一方の面に形成された膜12により構成されている。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


ウ 「【0011】膜12は,光学素子10の像側の面10Aとなる一面に形成されていることが好ましい。ここに,「像側の面」とは,光学素子10における,例えばセンサーやCCD,あるいは目などの撮像系に最も近い側に位置する面をいい,例えば眼鏡用レンズにおいては,眼球側に位置するレンズ後面をいう。一方,像側から像側の面に入射し,当該像側の面を透過する光線が入射する面(図1では10Bで示す。)を「物体側の面」といい,例えば眼鏡用レンズにおいては,眼球側の面とは反対側に位置するレンズ前面に相当する。光学素子10の像側の面10Aとなる一面に膜12が形成されていることにより,像側に配置される他の光学要素または受光素子などに対する,当該像側の面10Aでの反射光による悪影響を低減させることができる。
…(省略)…
【0014】この光学素子10の膜12は,それが形成された表面における,280?315nmの波長領域および420?680nmの波長領域のすべての光線に対する反射率が,基材11自身の表面における反射率より小さくなるものである。すなわち,この膜12は,これが基材11に形成されることにより,特定の波長領域の光線に対して反射防止機能を発揮するものとなる。以下においては,このような膜を「反射防止膜」という。
【0015】反射防止膜12が形成された光学素子10では,その像側の面10Aにおける反射率が十分に小さいので,当該光学素子10の像側からの光線の,像側の面10Aでの反射光の光量が十分に小さいものとなる。従って,光学素子10の像側に配置される光学要素あるいは受光素子に対する,当該像側の面10Aでの反射光による悪影響が低減される。
…(省略)…
【0018】反射防止膜12を構成する無機物質としては,特に限定されるものではないが,例えば,シリコン,チタン,タンタル,ジルコニウム,セリウム,ハフニウム,イットリウム,アルミニウム,マグネシウム,プラセオジム,ネオジムなどの金属の酸化物,マグネシウム,ランタン,ネオジム,カルシウム,セリウム,アルミニウム,ナトリウム,鉛,イットリウムなどの金属のフッ化物,亜鉛の硫化物,またはこれらの混合物や化合物,あるいはこれらと金属との混合物などが挙げられる。
【0019】反射防止膜12を構成する各層の形成手段は,特に限定されるものではないが,実際上,蒸着法などの気相堆積法が好ましく,例えば,真空蒸着法,イオンプレーティング法,スパッタリング法,CVD法などを挙げることができる。
【0020】光学素子10の基材11としては,280?400nmの波長領域(紫外域)の少なくとも一部の光線に対する吸収率が30%以上のものであることが好ましい。これにより,光学素子10の像側よりの紫外線が,光学素子10の物体側の面10Bで反射して像側の面10Aから出射されることを確実に防止することができ,従って,反射防止膜12による紫外線反射防止機能に加え,基材11による紫外線吸収機能が発揮され,光学素子10の像側に配置される光学要素等に対する紫外線による悪影響を確実に低減することができる。
…(省略)…
【0024】反射防止膜12は,それ自体における視感透過率が90%以上であることが好ましく,これにより,反射防止膜12が視感上,十分な明るさを確保することに有効に作用し,また色再現性に悪影響を与えることが有効に防止することができる。さらに,それ自体における波長400nm?700nmの光線(可視光線)に対する分光透過率が98%以上のものであることが好ましい。これにより,反射防止膜12が十分に高い光透過性を有するものとなり,色再現性に優れた光学素子を提供することが可能である。
【0025】反射防止膜12は,波長280nm?400nmの光線(紫外線)に対して吸収性を有する層を少なくとも1つ含む層構成とすることができる。この場合には,光学素子10の像側からの紫外線が,物体側の面10Bで反射した場合であっても,反射防止膜12において紫外線が吸収され,これにより,光学素子10の像側の面10Aから出射される紫外線の光量が低減されるので,光学素子10の像側に配置される光学要素等に対する悪影響を低減することができる。
【0026】反射防止膜12は,金属層を少なくとも1つ含む層構成とすることができる。金属層を構成する金属材料としては,例えば,アルミニウム,クロム,白金,銀もしくはこれらの混合物が挙げられる。金属層の光学膜厚は,例えば1?10nmであることが好ましい。反射防止膜12が金属層を含む層構成である場合には,当該反射防止膜12に帯電防止機能や電磁波低減機能が得られる。
【0027】反射防止膜12は,光透過性を有すると共に導電性を有する透明導電性層を少なくとも1つ含む層構成とすることができる。
…(省略)…
【0031】本発明の光学素子においては,基材の物体側の面(図1の構成では10B)に,280?400nmの波長領域(紫外域)のすべての光線に対する反射率が,基材自身の表面における反射率より大きくなる紫外線反射膜が形成された構成とすることができる。この場合には,光学素子の物体側からの紫外線が光学素子に進入することが防止される。
…(省略)…
【0033】本発明の光学素子においては,反射防止膜の付着力または表面硬度を向上させるという理由から,基材の表面に,例えばシリコーン系熱硬化樹脂,アクリル系紫外線硬化樹脂に代表されるハードコート層や,通常知られている下地層を設けることができる。更に,反射防止膜の表面に防曇処理,撥水処理あるいは親水処理を施すこともできる。また,使用される基材は,光透過性を損なわない範囲で着色したものとすることもでき,また,板やフィルムを重ねて積層することもできる。」

エ 「【0041】<膜の形成方法>本実施例においては,以下に示すように,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して膜の形成を行った。
【0042】下記表1に示す材料からなる層を形成する場合は,真空蒸着法を利用して,当該材料を蒸着材料とし,形成される層が所望の物性を有するものとなるよう,中央欄のガス圧で酸素ガスを導入し,右欄の蒸着速度に調整して行った。ここに,蒸着を開始する際の蒸着開始真空度を1×10^(-3)Paとし,基材の加熱温度を,ガラスの場合には350℃,プラスチックの場合には70℃にそれぞれ設定した。また,金属層を形成する場合には,ガスの導入は行わなかった。
【0043】
【表1】

【0044】透明導電性層は,インジウム金属とスズ金属との混合物を蒸着材料として真空中で蒸発させて,例えば下記の条件の下で高周波放電イオンプレーティングにより形成した。ここに,形成される透明導電性層中のスズ金属の含有割合が3?10質量%となるよう蒸着材料の調製を行った。
酸素導入ガス圧:25×10^(-2)Pa
蒸着速度 :3Å/sec
RF放電電力 :500W
なお,上記の「RF」は,1GHz以下の高周波である。
【0045】<測定方法>
…(省略)…
(2)分光反射率
分光光度計「U-4000」(日立製作所製)の5゜正反射装置を用いて測定した。また,例えばレンズなどの曲率を有するサンプルについての測定は,測定しようとする表面に焦点を結び,他の面からの反射光をカットする絞りを備えた顕微分光光度計「USPM」(オリンパス光学製)を用いて測定した。
…(省略)…
【0054】<実施例4>ノルボルネン系樹脂A上にアクリル系紫外線硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,下記表5に示すような,ITOからなる透明導電層を含む6層構造からなる多層膜を形成し,光学素子を作製した。この光学素子における反射率を測定したところ,図5に示す分光反射曲線が得られ,当該多層膜は,紫外域から可視域にわたる広い範囲で反射防止効果を有することがわかった。また,当該多層膜の表面抵抗値は15kΩ/cm^(2)であり,優れた帯電防止効果を有することがわかった。
【0055】
【表5】

【0056】<実施例5>波長280?400nmの紫外線を100%吸収するような紫外線吸収剤を含有するウレタン系樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系熱硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,下記表6に示すような,ITOからなる透明導電層を含む5層構造からなる多層膜を形成した。さらに,当該多層膜を形成した面とは反対側の物体側の面となる面に,下記表7に示すような,5層構造からなる多層膜を形成し,眼鏡用レンズを作製した。この眼鏡用レンズの像側の面(眼球側の面)における反射率を測定したところ,図6に示す分光反射曲線が得られ,当該多層膜は,紫外域から可視域に至る広い範囲で反射防止効果を有することがわかった。また,当該多層膜の表面抵抗値は60Ω/cm^(2)であり,優れた帯電防止効果および電磁波低減効果を有することがわかった。また,この光学素子の物体側の面における反射率を測定したところ,図7に示す分光反射曲線が得られ,当該多層膜は,紫外域,特に遠紫外域(UV-B領域)において高い反射効果を有することがわかった。
【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】<実施例6>紫外線吸収材を有するウレタン系熱硬化樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系紫外線硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,下記表8に示すような,ITO層(透明導電層)を含む5層構造からなる多層膜を形成した。さらに,当該多層膜を形成した面とは反対側の物体側の面となる面に,実施例5と同様に表7に示す5層構造からなる多層膜を形成し,眼鏡用レンズを作製した。この眼鏡用レンズの像側の面(眼球側の面)における反射率を測定したところ,図8に示す分光反射曲線が得られ,当該多層膜は,紫外域から可視域に至る広い範囲で反射防止効果を有することがわかった。また,当該多層膜の表面抵抗値は45Ω/cm^(2)であり,優れた帯電防止効果および電磁波低減効果を有することがわかった。また,この光学素子の物体側の面における反射率を測定したところ,当該多層膜は,紫外域,特に遠紫外域(UV-B領域)において高い反射効果を有することがわかった。
【0060】
【表8】

…(省略)…
【0063】実施例5で作製された光学素子は,像側の面となる表面における,280?700nmの波長領域のすべての光線に対する反射率が2%以下であると共に,物体側の面の表面における,紫外線に対する反射率が十分に高いものであり,当該光学素子の像側の面から入射する光線に対して優れた反射防止機能を有すると共に,物体側の面から入射する紫外線に対して優れた反射機能を有するものであることが確認された。さらに,この光学素子を,例えば眼鏡レンズとして使用した場合には,基材が高い紫外線吸収機能を有しているので,上述の膜の紫外線反射防止機能および紫外線反射機能と組み合わせることで,紫外線の眼内への侵入をきわめて高いレベルで防ぐことができる。すなわち,眼球側とは反対側の面(レンズ前面)に入射する紫外線については,高い反射機能により人間の眼内に侵入することを防止することができ,また,大気側から眼球側の面(レンズ後面)に入射する紫外線については,膜の反射防止機能により当該眼球側の面で反射して眼内に侵入することを防止することができ,さらに,レンズ基材による紫外線吸収機能により,眼球側の面から入射する紫外線が,眼球側とは反対側の面(レンズ前面)で反射して眼球側の面から出射されることが確実に防止され,人間の眼内に侵入することを防止することができる。
【0064】実施例6で作製された光学素子は,多層膜が形成された表面における,280?700nmの波長領域の一部の光線に対する反射率が高くなっているが,この現象は,人間の目に障害を引き起こす可能性が高いとされる,より短波長の波長領域の紫外線に対する反射を低減させると共に,実観を向上させるために青色の光に対しての反射をやや増加させたために生じた現象である。また,この光学素子は,優れた電磁波低減機能を有するものであることが確認された。」
(当合議体注:【0059】の「下記表8に示すような,ITO層(透明導電層)を含む5層構造からなる多層膜を形成した」は,「下記表8に示すような,ITO層(透明導電層)を含む6層構造からなる多層膜を形成した」の誤記である。)

オ 「【図6】


【図7】


【図8】



(2) 甲1に記載された発明
ア 甲1実施例5発明
甲1には,実施例5(【0056】?【0058】)として,次の発明が記載されている(以下「甲1実施例5発明」という。)。
「 紫外線吸収剤を含有するウレタン系樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系熱硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,表6に示す5層構造からなる多層膜を形成し,
さらに,物体側の面となる面に,表7に示す5層構造からなる多層膜を形成してなり,
像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線は図6であり,
物体側の面における分光反射曲線は図7である,
眼鏡用レンズ。
表6:


表7:


図6:


図7:



イ 甲1実施例5方法発明
甲1の【0041】及び【0042】の記載も併せて考えると,甲1には,実施例5として,次の発明も記載されている(以下「甲1実施例5方法発明」という。)。
「 紫外線吸収材を有するウレタン系熱硬化樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系紫外線硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成し,
眼鏡用レンズ用基材の加熱温度を70℃に設定し,前記下地層の上に,表6に示す5層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成し,
さらに,物体側の面となる面に,表7に示す5層構造からなる多層膜を形成してなり,
像側の面(眼球側の面)における反射率を測定したところ,図6に示す分光反射曲線が得られ,
物体側の面における反射率を測定したところ,図7に示す分光反射曲線が得られた,
眼鏡用レンズの製造方法。
表6:


表7:


図6:


図7:



ウ 甲1実施例6発明
甲1には,実施例6(【0059】?【0060】)として,次の発明が記載されている(以下「甲1実施例6発明」という。)。なお,【0059】には,物体側の面における分光反射曲線は明示されていないが,【0045】記載の分光反射率の測定方法を考慮すると,実施例5のもの(図7)と同等と考えられる。
「 紫外線吸収材を有するウレタン系熱硬化樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系紫外線硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,表8に示す6層構造からなる多層膜を形成し,
さらに,物体側の面となる面に,表7に示す5層構造からなる多層膜を形成してなり,
像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線は図8であり,
物体側の面における分光反射曲線は図7である,
眼鏡用レンズ。
表8:


表7:


図8:


図7:



エ 甲1実施例6方法発明
甲1の【0041】及び【0042】の記載も併せて考えると,甲1には,実施例6として,次の発明も記載されている(以下「甲1実施例6方法発明」という。)。
「 紫外線吸収材を有するウレタン系熱硬化樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系紫外線硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成し,
眼鏡用レンズ用基材の加熱温度を70℃に設定し,前記下地層の上に,表8に示す6層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成し,
さらに,物体側の面となる面に,表7に示す5層構造からなる多層膜を形成してなり,
像側の面(眼球側の面)における反射率を測定したところ,図8に示す分光反射曲線が得られ,
物体側の面における反射率を測定したところ,図7に示す分光反射曲線が得られた,
眼鏡用レンズの製造方法。
表8:


表7:


図8:


図7:



(3) 甲2の記載
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された甲2(国際公開第2012/076714号)には,以下の記載がある。なお,行数は,各頁左側に併記された行番号に基づくものである。また,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す(甲2に付されていた下線は消去した。)。
ア 1頁4?7行
「 The present invention relates to an optical article comprising on its rear face, and optionally on its front face, an antireflective coating which strongly reduce reflection in the UVA- and UVB-radiation range, and in the visible region. The optical article may especially be an ophthalmic lens, especially a tinted solar lens.
The solar spectrum comprises electromagnetic radiations having various wavelengths, especially ultraviolet radiation (UV). The UV spectrum has many bands, especially UVA, UVB and UVC bands. Amongst those UV bands which do reach the earth surface, UVA band, ranging from 315 nm to 380, and UVB band, ranging from 280 nm to 315 nm, are particularly harmful to the retina.」
(翻訳: 本発明は,その後面,及び必要に応じてその前面に,UVA及びUVB発光領域と,可視領域とにおいて,反射を強力に減少させる反射防止膜を有する光学部品に関する。この光学部品は,とりわけ,眼鏡レンズ,特に,着色ソーラーレンズである。
太陽スペクトルは,様々な波長をもつ電磁放射線,特に,紫外線(UV)を有する。このUVスペクトルは,多くの帯域,特に,UVA,UVB及びUVC帯域を持つ。地表に到達するこれらのUV帯域の中で,UVA帯域,315nm?380nmの範囲,及びUVB帯域,280nm?315nmの範囲が,特に,網膜に有害である。)

イ 1頁22?25行
「It is not problematic on the front face of the lens, since the major part of the UV radiation which comes from the front of the wearer and might attain the wearer's eye (normal incidence, 0 to 15°) generally get absorbed by the ophthalmic lens substrate.」
(翻訳:装着者の前面から来て,装着者の目(垂直入射,0?15°)に到達する紫外線の大部分は,眼鏡レンズ基材によって吸収されるので,レンズの前面においては問題がない。)

ウ 1頁29?32行
「 On the other hand, the UV radiation resulting from light sources located behind the wearer may reflect on the lens rear face and reach the wearer's eye if the lens is not provided with an antireflective coating which is efficient in the ultraviolet region, thus potentially affecting the wearer's health.」
(翻訳: 他方,装着者の後に置かれている光源に起因する紫外線は,もし,レンズに紫外線に有効である反射防止膜が設けられていないならば,レンズ後面で反射し,装着者の目に達し,その結果,装着者の健康に影響を与える可能性がある。)

エ 2頁36行?3頁2行
「 It is therefore an object of the present invention to provide a transparent optical article, especially an ophthalmic lens, comprising a substrate in mineral or organic glass comprising on its rear face an anti-UV, antireflective coating possessing very good antireflective performances in the visible region, and which is at the same time capable of significantly reducing the UV radiation reflection, especially ultraviolet A- and ultraviolet B-rays, as compared to a bare substrate or to a substrate comprising a traditional antireflective coating, and which production is easy at industrial scale.」
(翻訳: そのため,本発明の目的は,その後面に,可視領域において極めて良好な反射防止性能を持ち,同時に,素の基材又は従来の反射防止膜を有する基材と比較して,紫外線,特に紫外-A光線及び紫外-B光線の反射を著しく減少させることができ,その製造が工業的規模で容易である紫外線防止,反射防止膜を有する無機又は有機ガラスの基材を備える透明な光学部品,特に眼用レンズを提供することにある。)

オ 11頁36?39行
「 The various layers of the antireflective coating and the optional sub-layer are preferably deposited by chemical vapor deposition, under vacuum, according to any of the following methods: i) by optionally ion-beam assisted, evaporation; ii) by ion-beam sputtering; iii) by cathode sputtering; iv) by plasma-assisted chemical vapor deposition.」
(翻訳: 反射防止膜の色々な層及び必要に応じた副層は,真空下で,以下の方法:i)必要に応じたイオンビームアシスト蒸着によって,ii)イオンビームスパッタリングによって,iii)カソードスパッタリングによって,iv)プラズマアシスト化学蒸着によって,のいずれかに従って,化学蒸着によって堆積されるのが好ましい。)

カ 12頁32行?13頁3行
「 In a preferred embodiment of the invention, the front face of the optical article of the invention is also coated with a conventional antireflective coating, different from the one provided on its rear face.
…(省略)…
Still preferably, the mean reflection factor R_(UV) between 280 nm and 380 nm, weighted by the function W(λ) as defined according to the ISO 13666: 1998 Standard, is higher on the front face (preferably > 5%) than on the rear face of the optical article.」
(翻訳: 本発明の好適実施形態では,本発明の光学部品の前面もまた,その後面に設けられているものとは異なる通常の反射防止膜で被覆されている。
…(省略)…
さらに好ましくは,ISO 13666:1998 規格に従って定義された重み関数W(λ)によって重み付けされた,280nmと380nmとの間の平均光反射率R_(UV)は,光学部品の後面においてよりも前面においての方が高い(好ましくは,5%より大きい)。)

キ 13頁9?12行
「 The mean reflection factor R_(UV) between 280 and 380 nm for the front face (convex) of the optical article and for an angle of incidence of 45°, weighted by the function W(λ) defined according to the ISO 13666:1998 Standard, may preferably have values higher than 15%, more preferably higher than 20%, even more preferably higher than 30%.」
(翻訳: ISO 13666:1998 規格に従って定義された重み関数W(λ)によって重み付けされた,光学部品の前面(凸側)に対する,45°の入射角に対しての280nmと380nmとの間の平均反射率R_(UV)は,好ましくは,15%超の値,より好ましくは20%超の値,さらにより好ましくは30%超の値を持っても良い。)

ク 15頁20?22行
「 The optical article according to the invention may also comprise coatings formed on the antireflective coating and capable of modifying the surface properties thereof, such as hydrophobic and/or oleophobic coatings (antifouling top coat).」
(翻訳: 本発明に係る光学部品は,また,反射防止膜上に形成された被膜を有していてもよく,撥水性及び/又は撥油性被膜(防汚トップコート)のように,その表面性能を改変可能であってもよい。)

ケ 16頁36行?17頁5行
「EXAMPLES
1. General procedures
The optical articles used in the examples comprise an ORMA ^((R)) lens substrate from ESSILOR, having a 65 mm diameter, a refractive index of 1.50, and a power of -2,00 diopters and a thickness of 1.2 mm, coated on its rear face with the anti-abrasion and scratch-resistant coating (hard coat) disclosed in Example 3 of the patent EP 0 614 957 (refractive index equal to 1.47 and thickness of 3.5 μm), based on a hydrolyzate composed of GLYMO and DMDES, of colloidal silica and aluminium acetylacetonate, and thereafter with an antireflective coating according to the present invention.」
(当合議体注:登録商標を示す丸囲いのRを「(R)」で代用表記する。なお,「GLYMO」及び「DMDES」は,それぞれ「γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」及び「ジメチルジエトキシシラン」の略称である。)
(翻訳: 実施例
1.一般的な手順
本実施例において使用された光学部品は,エシロール社のORMA^((R))レンズ基材を有し,このレンズ基材は,直径65mm,屈折率1.50,屈折力-2.00ジオプトリ,及び厚さ1.2mmであり,その後面上に,EP特許第0614957号の実施例3(屈折率1.47,厚さ3.5μm)に開示された,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られる耐摩擦性,耐引っ掻き性被膜(ハードコート)が被覆され,その後,本発明に係る反射防止膜が被覆されたものである。)

コ 17頁12?13行
「 The layers of the antireflective coating were deposited without heating the substrates by evaporation under vacuum (evaporation source: electron gun).」
(翻訳: 反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着(蒸着源及び電子銃)によって堆積された。)

サ 17頁31?32行
「 The structural characteristics and the optical performances of the ophthalmic lenses obtained in the Examples 1 to 26 are detailed hereunder.」
(翻訳: 実施例1?26において得られた眼鏡レンズの構造的特徴及び光学的性能は,以下に詳細に説明される。)

シ 21頁4?7行
「 Moreover, the lenses obtained in Examples 1 to 26 have outstanding transparency properties, a good resistance to abrasion and to scratches, and a good resistance to a hot water dip-treatment, followed with a mechanical stress on the surface. The adhesion of the coatings to the substrate was also very satisfactory.」
(翻訳: さらに,実施例1?26において得られた眼鏡レンズは,卓越した透明特性,摩擦及び引っ掻きに対する良好な耐性,及び表面への機械的なストレスが続く,熱水滴下処理に対する良好な耐性を持つ。基材に対する被膜の接着も,また,極めて満足できるものである。)

ス 19?20頁に示された表のうち,Example 16,Example 20,Example 21,Example 23,Example 25に関する部分


セ Figure 2のうち,Example 16に関する部分



ソ Figure 3






タ Figure 4


(4) 甲2に記載された発明
ア 甲2実施例16発明
甲2には,「Example 16」として,次の発明が記載されている(以下「甲2実施例16発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートが被覆され,
その後,反射防止膜が被覆され,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,35nmの二酸化ジルコニウム,16nmの二酸化ケイ素,62nmの二酸化チタン,23nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,64nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズ。
光学的性能のグラフ:



イ 甲2実施例16方法発明
甲2には,甲2実施例16発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲2実施例16方法発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートを被覆し,
その後,反射防止膜を被覆し,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,35nmの二酸化ジルコニウム,16nmの二酸化ケイ素,62nmの二酸化チタン,23nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,64nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズの製造方法。
光学的性能のグラフ:



ウ 甲2実施例20発明
甲2には,「Example 20」として,次の発明が記載されている(以下「甲2実施例20発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートが被覆され,
その後,反射防止膜が被覆され,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,40nmの二酸化ジルコニウム,11nmの二酸化ケイ素,65nmの二酸化チタン,25nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,66nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズ。
光学的性能のグラフ:



エ 甲2実施例20方法発明
甲2には,甲2実施例20発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲2実施例20方法発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートを被覆し,
その後,反射防止膜を被覆し,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,40nmの二酸化ジルコニウム,11nmの二酸化ケイ素,65nmの二酸化チタン,25nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,66nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズの製造方法。
光学的性能のグラフ:



オ 甲2実施例21発明
甲2には,「Example 21」として,次の発明が記載されている(以下「甲2実施例21発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートが被覆され,
その後,反射防止膜が被覆され,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,33nmの二酸化ジルコニウム,14nmの二酸化ケイ素,62nmの二酸化チタン,28nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,72nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズ。
光学的性能のグラフ:



カ 甲2実施例21方法発明
甲2には,甲2実施例21発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲2実施例21方法発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートを被覆し,
その後,反射防止膜を被覆し,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,33nmの二酸化ジルコニウム,14nmの二酸化ケイ素,62nmの二酸化チタン,28nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,72nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズの製造方法。
光学的性能のグラフ:



キ 甲2実施例23発明
甲2には,「Example 23」として,次の発明が記載されている(以下「甲2実施例23発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートが被覆され,
その後,反射防止膜が被覆され,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,38nmの二酸化ジルコニウム,14nmの二酸化ケイ素,70nmの二酸化チタン,30nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,75nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズ。
光学的性能のグラフ:



ク 甲2実施例23方法発明
甲2には,甲2実施例23発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲2実施例23方法発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートを被覆し,
その後,反射防止膜を被覆し,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,38nmの二酸化ジルコニウム,14nmの二酸化ケイ素,70nmの二酸化チタン,30nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,75nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズの製造方法。
光学的性能のグラフ:



ケ 甲2実施例25発明
甲2には,「Example 25」として,次の発明が記載されている(以下「甲2実施例25発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートが被覆され,
その後,反射防止膜が被覆され,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,62nmの酸化イットリウム,74nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,77nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズ。
光学的性能のグラフ:



コ 甲2実施例25方法発明
甲2には,甲2実施例25発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲2実施例25方法発明」という。)。
「 エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランの加水分解物,コロイダルシリカ及びアルミニウムアセチルアセトネートの組成物から得られるハードコートを被覆し,
その後,反射防止膜を被覆し,
反射防止膜の複数の層は,基材を加熱することなく,真空下での蒸着によって堆積され,基板側から順に,150nmの二酸化ケイ素,62nmの酸化イットリウム,74nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,77nmの二酸化ケイ素であり,
得られた眼鏡レンズの光学的性能は,以下のグラフのとおりである,
眼鏡レンズの製造方法。
光学的性能のグラフ:



(5) 甲3の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲3(特開2005-215038号公報)には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,反射防止膜を設けた眼鏡レンズに関する物である。
【背景技術】
【0002】
近年,眼鏡レンズはガラス製のものよりもプラスチック製のものが広く使用されている。
…(省略)…
【0003】
一方で,基材と硬化膜の高屈折率化は,必然的にレンズ表面における光の反射率の増大を起こすため,反射防止膜を成膜して可視光域の反射率を低減させる技術が広く導入されている。
…(省略)…
【0004】
また,紫外線の眼球への悪影響についても認識が高まっていることから,眼鏡レンズにおいて紫外線をカット出来るような工夫がなされてきている。プラスチック基材やハードコート層に,紫外線吸収剤を添加することで,眼鏡レンズを透過する紫外線の量を大幅に減少させることが出来るのである。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常眼鏡レンズに装備されるような,層数が4層から7層程度の反射防止膜では,反射防止帯域は可視光領域のみである。よって波長範囲350nmから400nmの近紫外線や近赤外線の反射率は高くなってしまっている。図1に眼鏡レンズ着用時の眼球とレンズの位置関係,及び光の入射する方向とレンズ面の呼称を示す。前方から来る光1に関しては,近紫外線や近赤外線の反射率増加は眼球への侵入を防ぐ性能という観点で良い性能と言えるが,斜め後方から来る光2に関しては,眼球へ反射光として近紫外線や近赤外線が侵入するため,目に悪影響を及ぼすことになる。
…(省略)…
【0007】
本発明は,眼鏡を着用したときの斜め後方からの近紫外線が,眼鏡レンズの眼球側の面で反射されて眼球内に入る量を減らし,前方からの近紫外線が眼鏡レンズを透過して眼球内に入る量を減らした,眼鏡レンズを提供することを目的としている。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


イ 「【課題を解決するための手段】
…(省略)…
【0009】
第1に示す発明は,透明な基材からなる眼鏡レンズの眼球側の面,及び外側の面の表面に形成される被膜であって,前記眼鏡レンズの外側の面には,波長範囲350nmから400nmの近紫外線を反射もしくは吸収する被膜が形成され,前記眼鏡レンズの眼球側の面には,前記近紫外線を透過する反射防止膜が形成されていることを特徴とする眼鏡レンズに関するものである。
…(省略)…
【0016】
第5に示す発明は,第1から第3の発明の眼鏡レンズにおいて,眼鏡レンズの外側の面に波長範囲350nmから400nmの近紫外線を吸収する被膜と波長範囲350nmから400nmの近紫外線を5%以上反射するような反射防止膜を形成していることを特徴とする。
【0017】
第5の発明によれば,眼鏡レンズの外側の面に近紫外線を吸収する被膜だけでなく,反射する被膜も併せ持つことで,更に眼球への前方からの近紫外線の侵入を防ぐことが可能である。
【0018】
第6に示す発明は,第1から第3および第5の発明の眼鏡レンズにおいて,眼鏡レンズ基材上に金属酸化物微粒子を含む層を成膜して,その上に反射防止膜を成膜することを特徴とする。
【0019】
第6の発明によれば,眼鏡レンズ基材と反射防止膜との密着性を向上させ,耐久性の高い反射防止膜付きの眼鏡レンズを実現できる。
【発明の効果】
【0020】
眼鏡レンズの眼球側の面に成膜される反射防止膜を,350nmから400nmの範囲の反射率を0.1%以上1%以下にすることで,眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすことが出来た。眼鏡レンズの外側の面に近紫外線を吸収あるいは反射する被膜を成膜することで,前方から来る近紫外線を高い確率で遮断することが出来た。また同時に,眼鏡として使用するために求められる,可視光線の反射防止も実現した眼鏡レンズを提供することが出来た。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔実施例1〕
図2-(1)に,プラスチック眼鏡レンズのモデルを示す。図2-(2)に,プラスチック眼鏡レンズの眼球側の面に成膜された被膜のモデルを示す。図2-(3)に,プラスチック眼鏡レンズの外側の面に成膜された被膜のモデルを示す。なお,図2-(1),(2),(3)は説明の便宜上,誇張して描かれている。
【0022】
眼球側の面には7層からなる反射防止膜を成膜した。その設計主波長λ0は470nmであり,各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目21に,0.090λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目22に,0.094λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層(屈折率2.40),
第3層目23に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目24に,0.221λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第5層目25に,0.051λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目26に,0.148λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第7層目27に,0.266λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層
を順次積層してなる反射防止膜を成膜した。成膜した反射防止膜の厚みは,240nmから250nm程度である。
【0023】
眼鏡レンズの外側の面には,スピンコート法により,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層28を成膜した。成膜したハードコート層の厚みは,2μmから3μm程度である。プラスチック眼鏡レンズ基材とハードコート層の屈折率は,どちらも1.67である。
【0024】
図3に,眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルを曲線31で示す。」
(当合議体注:図2及び図3は以下の図である。)
【図2】


【図3】



エ 「【0025】
〔比較例1〕
…(省略)…
【0026】
眼球側の面には,実施例1と物質と積層順序が同じで各層の光学的膜厚のみが異なる,7層からなる反射防止膜を成膜した。
…(省略)…
【0028】
図3に,眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルを曲線32で示す。」

オ 「【0032】
〔実施例2〕
図6-(1)にプラスチック眼鏡レンズのモデルを示す。図6-(2)に,プラスチック眼鏡レンズの眼球側の面に成膜された被膜のモデルを示す。図6-(3)に,プラスチック眼鏡レンズの外側の面に成膜された被膜のモデルを示す。なお,図6-(1),(2),(3)は説明の便宜上,誇張して描かれている。
【0033】
プラスチック眼鏡レンズ基材上に,ディッピング法によって,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層601と602を成膜した。ハードコート層は眼球側の面と外側の面の両方に成膜され,その厚みは2μmから3μm程度である。プラスチック眼鏡レンズ基材とハードコート層の屈折率は,どちらも1.60である。
【0034】
眼球側の面には9層からなる反射防止膜を成膜した。その設計主波長λ0は500nmであり,各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目611に,0.100λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目612に,0.068λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層(屈折率2.26),
第3層目613に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目614に,0.090λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第5層目615に,0.013λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目616に,0.110λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第7層目617に0.055λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第8層目618に,0.123λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第9層目619に,0.250λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層
を順次積層してなる反射防止膜を成膜した。成膜した反射防止膜の厚みは,255nmから265nm程度である。
【0035】
外側の面には5層からなる反射防止膜を成膜した。その設計主波長λ0は520nmであり,各層はプラスチック基材側から数えて,
第1層目621に,0.088λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目622に,0.160λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層(屈折率2.05),
第3層目623に,0.050λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目624に,0.270λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層,
第5層目625に,0.265λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層
を順次積層してなる反射防止膜を成膜した。成膜した反射防止膜の厚みは,240nmから250nm程度である。
【0036】
図7に眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルを曲線71で示す。図8に外側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルを曲線81で示す。」
(当合議体注:図6?図8は以下の図である。)
【図6】


【図7】


【図8】


カ 「【0037】
〔比較例2〕
…(省略)…
【0039】
眼球側の面と外側の面の両方に,7層からなる同一構成の反射防止膜を成膜した。
…(省略)…
【0040】
図7と図8に,成膜した反射防止膜の反射率スペクトルを,それぞれ曲線72と曲線82で示す。」

(6) 甲3に記載された発明
ア 甲3実施例1発明
甲3には,実施例1として,次の発明が記載されている(以下「甲3実施例1発明」という。)。
「 プラスチック眼鏡レンズであって,
眼球側の面には7層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目21に,0.090λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目22に,0.094λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層(屈折率2.40),
第3層目23に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目24に,0.221λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第5層目25に,0.051λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目26に,0.148λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第7層目27に,0.266λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
プラスチック眼鏡レンズの外側の面には,スピンコート法により,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層28を成膜し,
眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図3の曲線31で示され,
350nmから400nmの範囲の反射率を0.1%以上1%以下にすることで,眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすことができた,
プラスチック眼鏡レンズ。
図3の曲線31:



イ 甲3実施例1方法発明
甲3には,甲3実施例1発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲3実施例1方法発明」という。)。
「 プラスチック眼鏡レンズの製造方法であって,
眼球側の面には7層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目21に,0.090λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目22に,0.094λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層(屈折率2.40),
第3層目23に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目24に,0.221λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第5層目25に,0.051λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目26に,0.148λ0の光学的膜厚を持つTiO_(2)層,
第7層目27に,0.266λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
プラスチック眼鏡レンズの外側の面には,スピンコート法により,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層28を成膜し,
眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図3の曲線31で示され,
350nmから400nmの範囲の反射率を0.1%以上1%以下にすることで,眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすことができた,
プラスチック眼鏡レンズの製造方法。
図3の曲線31:



ウ 甲3実施例2発明
甲3には,実施例2として,次の発明が記載されている(以下「甲3実施例2発明」という。)。
「 プラスチック眼鏡レンズであって,
プラスチック眼鏡レンズ基材上に,ディッピング法によって,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層601と602を成膜し,
眼球側の面には9層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目611に,0.100λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目612に,0.068λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層(屈折率2.26),
第3層目613に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目614に,0.090λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第5層目615に,0.013λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目616に,0.110λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第7層目617に,0.055λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第8層目618に,0.123λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第9層目619に,0.250λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
外側の面には5層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック基材側から数えて,
第1層目621に,0.088λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目622に,0.160λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層(屈折率2.05),
第3層目623に,0.050λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目624に,0.270λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層,
第5層目625に,0.265λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図7の曲線71で示され,
外側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図8の曲線81で示され,
350nmから400nmの範囲の反射率を0.1%以上1%以下にすることで,眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすことができた,
プラスチック眼鏡レンズ。
図7の曲線71:


図8の曲線81:



エ 甲3実施例2方法発明
甲3には,甲3実施例2発明に対応する,次の製造方法の発明も記載されている(以下「甲3実施例2方法発明」という。)
甲3には,実施例2として,以下の発明が記載されている(以下「甲3実施例2発明」という。)。
「 プラスチック眼鏡レンズの製造方法であって,
プラスチック眼鏡レンズ基材上に,ディッピング法によって,紫外線吸収剤を添加した金属酸化物微粒子と有機珪素化合物を主成分とするハードコート層601と602を成膜し,
眼球側の面には9層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック眼鏡レンズ基材側から数えて,
第1層目611に,0.100λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目612に,0.068λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層(屈折率2.26),
第3層目613に,0.085λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目614に,0.090λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第5層目615に,0.013λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第6層目616に,0.110λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第7層目617に,0.055λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第8層目618に,0.123λ0の光学的膜厚を持つNb_(2)O_(5)層,
第9層目619に,0.250λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
外側の面には5層からなる反射防止膜を成膜し,その各層はプラスチック基材側から数えて,
第1層目621に,0.088λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層(屈折率1.46),
第2層目622に,0.160λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層(屈折率2.05),
第3層目623に,0.050λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層,
第4層目624に,0.270λ0の光学的膜厚を持つZrO_(2)層,
第5層目625に,0.265λ0の光学的膜厚を持つSiO_(2)層であり,
眼球側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図7の曲線71で示され,
外側の面に成膜した反射防止膜の反射率スペクトルは図8の曲線81で示され,
350nmから400nmの範囲の反射率を0.1%以上1%以下にすることで,眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすことができた,
プラスチック眼鏡レンズの製造方法。
図7の曲線71:


図8の曲線81:



(7) 甲4の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲4(特開2012-93689号公報)には,以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と,前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品であって,
前記多層膜は,400?500nmの波長範囲における平均反射率が2?10%であることを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記多層膜は,580?780nmの波長範囲における反射率が1.5%以下である請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記プラスチック基材の凹面上に380?780nmの波長範囲における平均反射率が1.5%以下の反射防止膜が配設された請求項1又は2に記載の光学部品。
【請求項4】
前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400?500nmの波長範囲における平均反射率は,前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400?500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きい請求項1?3のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項5】
前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜は,400?500nmの波長範囲における平均反射率が5?10%であり,前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜は,400?500nmの波長範囲における平均反射率が2?4%である請求項4に記載の光学部品。
…(省略)…
【請求項7】
前記プラスチック基材から最も遠い前記多層膜の最外層の上に,フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜を更に備える請求項1?6のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項8】
前記フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物は,下記一般式(1):
【化1】


(式(1)中,Rfは炭素数1?16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し,Yはヨウ素又は水素を表し,Y’は水素または炭素数1?5の低級アルキル基を表し,Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し,R^(1)は加水分解可能な基を表し,R^(2)は水素又は不活性な一価の有機基を表し,a,b,c,dはそれぞれ0?200の整数を表し,eは0又は1を表し,sおよびtはそれぞれ0?2の整数を表し,wは1?10の整数を表す。)
及び下記一般式(2)?(5):
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


(式(2)?(5)中,Xは酸素又は二価の有機基を表し,X’は加水分解可能な基を表し,X”は二価の有機シリコーン基を表し,R^(3)は炭素数1?22の直鎖状又は分岐上アルキレン基を表し,qは1?3の整数を表し,m,n,oはそれぞれ0?200の整数を表し,pは1又は2を表し,rは2?20の整数を表し,kは0?2の整数を表し,zはkが0又は1である場合に0?10の整数を表す。)
及び下記一般式(6):
【化6】


(式(6)中,Rf^(2)は2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し,R^(4)は炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基を表し,R^(5)は加水分解可能な基を表し,iは0?2の整数を表し,jは1?5の整数を表し,uは2又は3を表す。)
の中から選択される1種類以上のフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である請求項7に記載の光学部品。
【請求項9】
前記多層膜は,4層以上の多層膜である請求項1?8のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項10】
前記プラスチック基材と前記多層膜との間に,機能性薄膜を備えたことを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項11】
前記多層膜を構成する高屈折率材料と低屈折率材料との間に,厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を備えたことを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項12】
前記高屈折率材料は,二酸化ジルコニウムを含み,前記低屈折率材料は,二酸化珪素を含むことを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項13】
眼鏡レンズ用である請求項1?12のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項14】
プラスチック基材と,前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品の製造方法であって,
前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,
前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層上に,この高屈折率層より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を形成する処理と,を有するとともに,
前記多層膜の400?500nmの波長範囲における平均反射率を2?10%にすることを特徴とする請求項1?13のいずれかの一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記多層膜を真空蒸着法を用いて形成する工程を含む請求項14に記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
前記多層膜を形成する工程は,前記多層膜を構成する層のうちの少なくとも一層を,イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含む請求項14又は15に記載の光学部品の製造方法。
【請求項17】
前記イオンビームアシストは,不活性ガスと,酸素ガス,不活性ガス及び酸素ガスの混合ガスとのうちから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる請求項16に記載の光学部品の製造方法。
【請求項18】
前記不活性ガスはアルゴンである請求項17に記載の光学部品の製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,眼鏡レンズでは,軽量で耐衝撃性に優れ,かつ染色しやすいとの利点からプラスチックレンズが多用されている。眼鏡レンズに使用されるプラスチックレンズには,表面反射を防止する目的で,その両面に反射防止膜が通常施されている。眼鏡レンズ用反射防止膜は,一般的に400nm?700nmの可視領域全域にわたって,低い反射特性(広帯域低反射特性)特性を有する。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし,最近の研究より,必ずしも可視領域全域にわたって低い反射特性を有することが視認性及び目の健康に対して望ましいことではないことがわかってきた。可視光線の青色領域(380?500nm)をカットすることにより,眩しさが低減され視認性,コントラストが向上する。
また,目の健康に対して,可視光線の青色領域(380?500nm)はエネルギーが強いため,網膜などの損傷の原因になると言われている。青色光による損傷を「ブルーライトハザード」といい,特に435?440nm近辺が最も危険であり,この領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
…(省略)…
【0007】
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,防眩効果を有し,疲労感の低減,眼病予防にも効果的で,かつ,視認性が良好な光学部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部品は,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品であって,前記多層膜は,400?500nmの波長範囲における平均反射率が2?10%であることを特徴とする。
【0009】
また,本発明の光学部品の製造方法は,プラスチック基材と,前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品の製造方法であって,前記プラスチック基材を加熱する工程と,前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後,前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え,前記多層膜を形成する工程は,高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と,前記高屈折率層上に,この高屈折率層より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を形成する処理と,を有するとともに,前記多層膜の400?500nmの波長範囲における平均反射率を2?10%にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学部品によれば,良好な視認性を維持したまま充分な防眩効果が得られる。
また,本発明の光学部品の製造方法によれば,眩しさが低減され,見え易く,疲労,眼病予防にも効果的な光学特性を有した光学部品を提供することが可能となる。」

ウ 「【0013】
(1) 第一の実施形態
図1は,本発明の光学部品の第一の実施形態を模式的に示す側断面図であり,図1において符号1は眼鏡レンズ用の光学部品である。
この光学部品1は,プラスチック基材2と,プラスチック基材2の凸面上に配設された無機多層膜3とを備えて構成されている。プラスチック基材2の凸面と無機多層膜3との間には,本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は,本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


エ 「【0041】
(2) 第二の実施形態
図2は,本発明の光学部品の第二の実施形態を模式的に示す側断面図であり,図1において符号1’は眼鏡レンズ用の光学部品である(当合議体注:「図1」は「図2」の誤記である。)。図2において,図1に示した光学部品1と同じ構成要素には,同一の符号を付して説明を省略する。
この光学部品1’は,第一の実施形態の光学部品1の構造に加えて,プラスチック基材2の凹面上に配設された無機多層膜3’を備えて構成されている。プラスチック基材2の凹面と無機多層膜3’との間には,本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は,本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。」
(当合議体注:図2は以下の図である。)


オ 「【0077】
≪実験3≫
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0078】
<実施例5>
凸面,凹面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.10λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.205λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.335λで積層した。尚,λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例5における分光特性を図10に示す。」
(当合議体注:図10は以下の図である。)


【0079】
<実施例6>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.21λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層した。尚,λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.105λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.23λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層した。尚,λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例6における凸面の分光特性を図11に示し,凹面の分光特性を図12に示す。」
(当合議体注:図11及び図12は以下の図である。)
【図11】


【図12】


カ 「【0080】
<実施例7>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.19λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層した。尚,λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.11λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.09λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.22λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層した。尚,λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例7における凸面の分光特性を図13に示し,凹面の分光特性を図14に示す。」
(当合議体注:図13及び図14は以下の図である。)
【図13】


【図14】


キ 「【0081】
実施例5?7における各成膜層の詳細を表5に示す。
【0082】
【表5】



(8) 甲4に記載された発明
ア 甲4実施例5発明
甲4には,凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品(【0041】及び【図2】)の具体的な実施例(【0078】の実施例5)として,次の発明が記載されている(以下「甲4実施例5発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面及び凹面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.10λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.205λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.335λで積層してなる,
凸面及び凹面の分光特性が,図10のとおりである,眼鏡レンズ用光学部品。
図10:



イ 甲4実施例5方法発明
甲4には,甲4実施例5発明に対応する,次の製造方法の発明が記載されている(以下「甲4実施例5方法発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品の製造方法であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面及び凹面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.10λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.205λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.335λで積層し,
凸面及び凹面の分光特性が,図10のとおりとなる,眼鏡レンズ用光学部品の製造方法。
図10:



ウ 甲4実施例6発明
甲4【0079】には,実施例6として,次の発明が記載されている(以下「甲4実施例6発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.21λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層し,
凹面について,凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.105λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.23λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層し,
凸面の分光特性が図11,凹面の分光特性が図12のとおりである,眼鏡レンズ用光学部品。
図11:


図12:



エ 甲4実施例6方法発明
甲4【0079】には,甲4実施例6発明に対応する,次の製造方法の発明が記載されている(以下「甲4実施例6方法発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品の製造方法であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.21λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層し,
凹面について,凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.105λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.23λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層し,
凸面の分光特性が図11,凹面の分光特性が図12のとおりとなる,眼鏡レンズ用光学部品の製造方法。
図11:


図12:



オ 甲4実施例7発明
甲4【0080】には,実施例7として,次の発明が記載されている(以下「甲4実施例6発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.19λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層し,
凹面について,凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.11λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.09λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.22λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層し,
凸面の分光特性が図13,凹面の分光特性が図14のとおりである,眼鏡レンズ用光学部品。
図13:


図14:



カ 甲4実施例7方法発明
甲4【0080】には,甲4実施例7発明に対応する,次の製造方法の発明が記載されている(以下「甲4実施例7方法発明」という。)。
「 凸面上に配設された無機多層膜3及び凹面上に配設された無機多層膜3’を備えた眼鏡レンズ用光学部品の製造方法であって,
ウレタン系合成樹脂基板上に,屈折率1.67のシリコン系ハードコート,及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し,
凸面について,レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし,真空槽内の温度を70度に加熱し,圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し,加速電圧500V,加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.19λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層し,
凹面について,凸面と同様の装置,加工雰囲気,前処理後,プラスチック基材側から順次,第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.11λ,第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.09λ,第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.22λ,第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ,第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ,第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層し,
凸面の分光特性が図13,凹面の分光特性が図14のとおりである,眼鏡レンズ用光学部品の製造方法。
図13:


図14:



2 甲1による取消理由
(1) 甲1実施例5発明について
ア 対比
甲1実施例5発明と本件特許発明1を対比すると,以下のとおりとなる。
(ア)眼鏡レンズ
甲1実施例5発明の「眼鏡用レンズ」は,「紫外線吸収剤を含有するウレタン系樹脂Bからなる眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に,シリコーン系熱硬化樹脂からなる下地層(ハードコート層)を形成した後,この下地層の上に,表6に示す5層構造からなる多層膜を形成し」たものである。
ここで,甲1実施例5発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜」は,「眼鏡用レンズ用基材の像側の面(眼球側の面)となる一面上に」形成したものであるから,眼鏡用レンズ用基材の両面のうち,後面に配設された多層膜ということができる。また,甲1実施例5発明の「眼鏡用レンズ用基材」は,「ウレタン系樹脂Bからなる」から,プラスチック基材ということができる。
そうしてみると,甲1実施例5発明の「眼鏡用レンズ用基材」,「表6に示す5層構造からなる多層膜」及び「眼鏡用レンズ」は,それぞれ本件特許発明1の「プラスチック基材」,「後面に配設された多層膜」及び「眼鏡レンズ」に相当する。また,甲1実施例5発明の「眼鏡用レンズ」は,本件特許発明1の「眼鏡レンズ」の「プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた」という要件を満たすものといえる。

(イ)多層膜
甲1実施例5発明の「像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線」は,380?700nmの波長範囲における反射率の最大値が2%未満である。また,700?780nmの波長範囲における反射率の最大値は不明である。
したがって,甲1実施例5発明の「像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線」は,本件特許発明1の「波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が,380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し,前記多層膜は,380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下である」(以下「本件特許分光特性」という。)のうち,少なくとも「380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり」という分光特性を満たすものとはいえない。

ここで,多層膜の分光特性曲線は,多層膜を構成する各層の誘電率及び層厚の組み合わせによってもたらされるものである。そうしてみると,分光特性曲線が一致するとはいえない場合には,その分光特性曲線をもたらす多層膜の構成が一致しないものと理解するのが相当である。また,多層膜においては,その構成の一部を変更しただけで,全波長範囲の分光特性曲線が変化するという性質がある。したがって,分光特性曲線との関係においては,多層膜を構成する各層の誘電率及び層厚の組み合わせは一体不可分のものであり,また,分光特性曲線も,波長領域全体の曲線形状において一体不可分のものである。

イ 一致点及び相違点
以上の対比結果を踏まえると,本件特許発明1と甲1実施例5発明は,次の構成で一致する。
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズ。」

本件特許発明1と甲1実施例5発明は,次の点で相違する。
(甲1相違点1)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲1実施例5発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

ウ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記イのとおりであるから,本件特許発明1と甲1実施例5発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲1の【0063】には,「実施例5で作製された光学素子は,像側の面となる表面における,280?700nmの波長領域のすべての光線に対する反射率が2%以下…であり,当該光学素子の像側の面から入射する光線に対して優れた反射防止機能を有する…ものであることが確認された。」と記載されている。
したがって,甲1実施例5発明に接した当業者が,甲1実施例5発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜」を,上記【0063】の記載に反して280?700nmの波長範囲における反射率が2%を越えるように設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲2?甲8)を考慮しても,変わらない。
また,上記【0063】の記載からみて,甲1実施例5発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜」は,280?700nmの反射率を考慮して設計されたものである。したがって,甲1実施例5発明に接した当業者が,甲1実施例5発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜」を,700?780nmの波長範囲における反射率が3%を越えるように設計変更する動機が存在するとはいえない。さらに加えて,当業者が,700?780nmの波長範囲において,反射率が3%を越え,かつ,極大値を取るように設計変更する(本件特許発明1の「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」及び「380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%」の要件を満たすように設計変更する)動機が存在するともいえない。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,当業者が,甲1実施例5発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲1相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲1実施例5発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲1実施例5発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2) 甲1実施例5方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲1実施例5方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲1相違点2)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲1実施例5方法発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲1実施例5方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(1)ウ(イ)と同様の理由により,甲1実施例5方法発明に接した当業者が,甲1実施例5方法発明の「表6に示す5層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成」という工程を,前記甲1相違点2に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲1実施例5方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲1相違点2に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲1実施例5方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲1実施例5方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3) 甲1実施例6発明について
ア 相違点
本件特許発明1と甲1実施例6発明を対比すると,両者は,次の点で相違する。
(甲1相違点3)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲1実施例6発明の「表8に示す6層構造からなる多層膜」は,280?380nmの波長範囲に極大値を有さない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲1実施例6発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲1実施例6発明の「像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線」からは,280nmから250nmにかけて(短波長側に向かって)反射率が漸増傾向にある様子が看取される。
ここで,当業者が,仮に,280nmから250nmにかけての反射率の漸増傾向を好ましくないものと理解し,280nmから250nmにかけての反射率が減少傾向となるように甲1実施例6発明の多層膜を設計変更するとしたならば,甲1実施例6発明の「像側の面(眼球側の面)における分光反射曲線」は,280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有するもの(甲1相違点3に係る本件特許発明1の構成を具備したもの)になると考えられる。
しかしながら,280nmから250nmにかけての反射率の漸増傾向は,甲1の図2?図6からも看取されるところである。また,甲1の【0002】?【0004】の記載からみて,甲1実施例発明6が反射防止の対象とする紫外線波長領域は,UV-B(280?315nm)及びUV-A(315?400nm)と解される。
このような甲1実施例6発明の分光反射曲線及び甲1の記載を考慮すると,当業者が,280nmから250nmにかけての反射率が減少傾向となるように甲1実施例6発明の「表8に示す6層構造からなる多層膜」を設計変更する動機が存在するとはいえない。そして,この点は,他の証拠(甲2?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲1実施例6発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲1相違点3に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲1実施例6発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲1実施例6発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4) 甲1実施例6方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲1実施例6方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲1相違点4)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲1実施例6方法発明の「表8に示す6層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲1実施例6方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(3)イ(イ)と同様の理由により,甲1実施例6方法発明に接した当業者が,甲1実施例6方法発明の「表8に示す6層構造からなる多層膜を,真空蒸着法とイオンプレーティング法とを併用して形成」する工程を,前記甲1相違点4に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲1実施例6方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲1相違点4に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲1実施例6方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲1実施例6方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

3 甲2による取消理由について
(1) 甲2実施例16発明について
ア 対比
本件特許発明1と甲2実施例16発明を対比する。
甲2実施例16発明の「眼鏡レンズ」は,「エシロール社のORMAレンズ基材の後面上に…反射防止膜が被覆された」ものである。また,「エシロール社のORMAレンズ基材」がプラスチック(CR-39)からなることは,技術常識である。そして,甲2実施例16発明の「後面」とは,眼鏡レンズの装着者側の面のことであるから,本件特許発明1の「後面」に相当する。また,甲2実施例16発明の「反射防止膜」は,「150nmの二酸化ケイ素,35nmの二酸化ジルコニウム,16nmの二酸化ケイ素,62nmの二酸化チタン,23nmの二酸化ジルコニウム,6.5nmのITO,64nmの二酸化ケイ素」からなるから,本件特許発明1の「多層膜」に相当する。
したがって,甲2実施例16発明の「眼鏡レンズ」は,本件特許発明1の「眼鏡レンズ」に相当するとともに,「プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた」という構成を具備するものである。

イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲2実施例16発明は,次の構成で一致する。
「 プラスチック基材と,前記プラスチック基材の両面のうち,少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズ。」

本件特許発明1と甲2実施例16発明は,次の点で相違する。
(甲2相違点1)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲2実施例16発明の「反射防止膜」は,380?780nmの波長範囲の最大値が極大値ではない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

ウ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記イのとおりであるから,本件特許発明1と甲2実施例16発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲2実施例16発明の380?780nmの波長範囲の極大値は,僅かに看取される小さなものにすぎない。
そうしてみると,甲2実施例16発明に接した当業者が,このような僅かな極大値に関心を寄せるとはいえず,少なくとも,意図して設計された極大値であると理解するとはいえない。したがって,甲2実施例16発明に接した当業者が,この極大値を,「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」となるように,甲2実施例16発明の反射防止膜を設計変更する動機が存在するとはいえない。そして,この点は,他の証拠(甲1及び甲3?甲8)を考慮しても,変わらない。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,当業者が,甲2実施例16発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲2相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,これら発明は,いずれも,甲2実施例16発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例16発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2) 甲2実施例16方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲2実施例16方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲2相違点2)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲2実施例16方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲2実施例16方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(1)ウ(イ)と同様の理由により,甲2実施例16方法発明に接した当業者が,甲2実施例16方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程を,前記甲2相違点2に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲2実施例16方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2相違点2に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2実施例16方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例16方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3) 甲2実施例20発明について
ア 相違点
本件特許発明1と甲2実施例20発明は,次の点で相違する。
(甲2相違点3)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲2実施例20発明の「反射防止膜」は,380?780nmの波長範囲の最大値が極大値ではない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲2実施例20発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲2実施例20発明の光学的性能のグラフからは,480?530nmの波長範囲に,なだらかな極大値が看取される。そして,仮に,当業者がこの極大値が大きくなるように甲2実施例20発明の反射防止膜を設計変更した場合には,「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」という構成に到る可能性があるといえる。
しかしながら,甲2の21頁4?7行(前記1(3)シ)の記載からみて,甲2実施例20発明の「反射防止膜」は,「卓越した透明特性」を持つ眼鏡レンズのために設計されたものといえる。
そうしてみると,当業者が,甲2の21頁4?7行の記載に反して可視光波長範囲にある前記極大値が大きくなるように,甲2実施例20発明の反射防止膜を設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1及び甲3?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲2実施例20発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲2相違点3に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,これら発明は,いずれも,甲2実施例20発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例20発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(4) 甲2実施例20方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲2実施例20方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲2相違点4)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲2実施例20方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲2実施例20方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(3)イ(イ)と同様の理由により,甲2実施例20方法発明に接した当業者が,甲2実施例20方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程を,前記甲2相違点4に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲2実施例20方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2相違点4に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2実施例20方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例20方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(5) 甲2実施例21発明について
ア 相違点
本件特許発明1と甲2実施例21発明は,次の点で相違する。
(甲2相違点5)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲2実施例21発明の「反射防止膜」は,380?780nmの波長範囲の最大値が極大値ではない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。
(当合議体注:380nm近傍の極大は,僅かではあるが,380nmよりも短波長側にある。)

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲2実施例21発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲2実施例21発明の光学的性能のグラフからは,380nm近傍に明瞭な極大値が看取される。そして,仮に,当業者がこの極大値の位置を,380nmよりも長波長側に動かし,かつ,大きくなるように甲2実施例21発明の反射防止膜を設計変更した場合には,「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」という構成に到る可能性があるといえる。
しかしながら,甲2の21頁4?7行(前記1(3)シ)の記載からみて,甲2実施例21発明の「反射防止膜」は,「卓越した透明特性」を持つ眼鏡レンズのために設計されたものといえる。
そうしてみると,当業者が,甲2の21頁4?7行の記載に反して可視光波長範囲外にある前記極大値を可視光波長範囲側に,かつ,大きくなるように,甲2実施例21発明の反射防止膜を設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1及び甲3?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲2実施例21発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲2相違点5に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,これら発明は,いずれも,甲2実施例21発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例21発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(6) 甲2実施例21方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲2実施例21方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲2相違点6)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲2実施例21方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲2実施例21方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(3)イ(イ)と同様の理由により,甲2実施例21方法発明に接した当業者が,甲2実施例21方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程を,前記甲2相違点6に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲2実施例21方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2相違点6に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2実施例21方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例21方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(7) 甲2実施例23発明について
ア 相違点
本件特許発明1と甲2実施例23発明は,次の点で相違する。
(甲2相違点7)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲2実施例23発明の「反射防止膜」は,280?380nmの波長範囲の極小値の数が2つである点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲2実施例23発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲2実施例23発明の光学的性能のグラフからは,280?330nmの間及び330?380nmの間に,反射率が0%に達する,明瞭な2つの極小値を看取することができる。また,甲2の2頁36行?3頁2行(前記1(3)エ)の記載からみて,甲2実施例23発明の「反射防止膜」における上記2つの極小値は,それぞれ,紫外-B光線及び紫外-A光線の反射を著しく減少させることを目的として,意図して設計されたものと理解できる。
(当合議体注:紫外-B光線は,280nm?315nmの帯域の光線であり,紫外-A光線は,315nm?380nmの帯域の光線である。)
そうしてみると,当業者が,甲2の2頁36行?3頁2行の記載に反して,上記2つの極小値の一方(例:280?330nmの間に看取される極小値)を省くように(280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有するように),甲2実施例23発明の反射防止膜を設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1及び甲3?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲2実施例23発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲2相違点7に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,これら発明は,いずれも,甲2実施例23発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例23発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(8) 甲2実施例23方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲2実施例23方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲2相違点8)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲2実施例23方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲2実施例23方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(7)イ(イ)と同様の理由により,甲2実施例23方法発明に接した当業者が,甲2実施例23方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程を,前記甲2相違点8に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲2実施例23方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2相違点8に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2実施例23方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例23方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(9) 甲2実施例25発明について
ア 相違点
本件特許発明1と甲2実施例25発明は,次の点で相違する。
(甲2相違点9)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲2実施例25発明の「反射防止膜」は,380?780nmの波長範囲の最大値が極大値ではない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲2実施例25発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲2実施例25発明の光学的性能のグラフからは,430?530nmの波長範囲に,なだらかな極大値が看取される。そして,仮に,当業者がこの極大値が大きくなるように甲2実施例25発明の反射防止膜を設計変更した場合には,「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」という構成に到る可能性があるといえる。
しかしながら,甲2の21頁4?7行(前記1(3)シ)の記載からみて,甲2実施例25発明の「反射防止膜」は,「卓越した透明特性」を持つ眼鏡レンズのために設計されたものといえる。
そうしてみると,当業者が,甲2の21頁4?7行の記載に反して可視光波長範囲にある前記極大値が大きくなるように,甲2実施例25発明の反射防止膜を設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1及び甲3?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲2実施例25発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲2相違点9に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,これら発明は,いずれも,甲2実施例25発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例25発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(10) 甲2実施例25方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲2実施例25方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲2相違点10)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲2実施例25方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲2実施例25方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(3)イ(イ)と同様の理由により,甲2実施例25方法発明に接した当業者が,甲2実施例25方法発明の「反射防止膜を被覆」する工程を,前記甲2相違点10に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲2実施例25方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2相違点10に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲2実施例25方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲2実施例25方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

4 甲3による取消理由について
(1) 本件特許発明1について
ア 相違点
本件特許発明1と甲3実施例1発明を対比すると,両者は,次の点で相違する。
(甲3相違点1)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲3実施例1発明の「7層からなる反射防止膜」は,380?780nmの波長範囲の最大値が極大値ではない点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲3実施例1発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲3実施例1発明の光学的性能のグラフからは,500nm近傍に,極大値が看取される。そして,仮に,当業者がこの極大値が大きくなるように甲3実施例1発明の反射防止膜を設計変更した場合には,「380?780nmの波長範囲の最大値である極大値」という構成に到る可能性があるといえる。
しかしながら,甲3の【0020】の記載からみて,甲3実施例1発明の「7層からなる反射防止膜」は,「眼鏡レンズ着用時に,斜め後方から来る近紫外線が,眼球に入ることを大幅に減らすこと」及び「眼鏡として使用するために求められる,可視光線の反射防止も実現した眼鏡レンズを提供すること」を両立した「プラスチック眼鏡レンズ」のために設計されたものといえる。
そうしてみると,当業者が,甲3の【0020】の記載に反して可視光波長範囲にある前記極大値が大きくなるように,甲3実施例1発明の反射防止膜を設計変更することはないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1,甲2及び甲4?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲3実施例1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲3相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲3実施例1発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲3実施例1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2) 甲3実施例1方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲3実施例1方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲3相違点2)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲3実施例1方法発明の「7層からなる反射防止膜を成膜」する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲3実施例1方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(1)イ(イ)と同様の理由により,甲3実施例1方法発明に接した当業者が,甲3実施例1方法発明の「7層からなる反射防止膜を成膜」する工程を,前記甲3相違点2に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲3実施例1方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲3相違点2に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲3実施例1方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲3実施例1方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3) 甲3実施例2発明及び甲3実施例2方法発明について
甲3実施例1発明及び甲3実施例1方法発明に替えて,甲2実施例2発明及び甲3実施例2方法発明に基づいて検討しても,同様である。


5 甲4による取消理由について
(1) 本件特許発明1について
ア 相違点
本件特許発明1と甲4実施例5発明を対比すると,両者は,次の点で相違する。
(甲4相違点1)
本件特許発明1の「後面に配設された多層膜」は,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるのに対して,甲4実施例5発明の「凹面上に配設された無機多層膜3’」は,280?380nmの波長範囲の分光特性が不明である点で,本件特許分光特性をもたらす多層膜であるとはいえない点。

イ 判断
(ア)特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明1と甲4実施例5発明は,同一であるということができない。

(イ)特許法29条2項について
甲4の【0005】,【0007】,【0008】及び【0010】の記載からみて,甲4実施例5発明の「凹面上に配設された無機多層膜3’」は,「可視光線の青色領域(380?500nm)をカットすることにより,眩しさが低減され視認性,コントラストが向上する」こと,及び「目の健康に対して,可視光線の青色領域(380?500nm)はエネルギーが強いため,網膜などの損傷の原因になると言われている」ことを考慮して,青色領域の反射率が他の可視光線領域の反射率よりも高くなるように設計されたものといえる。
ところで,当業者ならば,紫外線についても,目の健康との関係においてカットする必要があることを,技術常識として心得ていると考えられる。そして,甲4に開示された課題解決手段に倣うならば,当業者は,紫外線波長領域の反射率が高くなるように,甲4実施例5発明の「凹面上に配設された無機多層膜3’」を設計するといえる。しかしながら,この場合においては,単に280?380nmの反射率が短波長側に向かって増大するように設計すれば良いから,「280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有」する構成には到らないといえる。そして,この点は,他の証拠(甲1?甲3及び甲5?甲8)を考慮しても,変わらない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が,甲4実施例5発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲4相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する眼鏡レンズの発明である。
したがって,本件特許発明1と同じ理由により,本件特許発明2?本件特許発明10は,いずれも,甲4実施例5発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲4実施例5発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(2) 甲4実施例5方法発明について
ア 相違点
本件特許発明11と甲4実施例5方法発明を対比すると,両者は,以下の点で相違する。
(甲4相違点2)
本件特許発明11の「前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程」は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるのに対して,甲4実施例5方法発明の「凹面上に配設された無機多層膜3’」を積層する工程は,本件特許分光特性が得られるように多層膜の各層の材料及び層厚が制御される工程であるとはいえない点。

イ 特許法29条1項3号について
前記アのとおりであるから,本件特許発明11と甲4実施例5方法発明は,同一であるということができない。

ウ 特許法29条2項について
前記(1)イ(イ)と同様の理由により,甲4実施例5方法発明に接した当業者が,甲4実施例5方法発明の「凹面上に配設された無機多層膜3’」する工程を,前記甲4相違点2に係る本件特許発明11の構成を満たすように設計変更する動機が存在するとはいえない。
したがって,本件特許発明11は,当業者が,甲4実施例5方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件特許発明12?本件特許発明15について
本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲4相違点2に係る本件特許発明11の構成を具備する眼鏡レンズの製造方法の発明である。
したがって,本件特許発明11と同じ理由により,本件特許発明12?本件特許発明15は,いずれも,甲4実施例5方法発明と同一であるということができず,また,当業者が,甲4実施例5方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3) 甲4実施例6発明,甲4実施例6方法発明,甲4実施例7発明及び甲4実施例7方法発明について
甲4実施例5発明及び甲4実施例5方法発明に替えて,甲4実施例6発明,甲4実施例6方法発明,甲4実施例7発明及び甲4実施例7方法発明に基づいて検討しても,同様である。

6 小括
本件特許発明は,甲1?甲4に記載された発明であるということができないから,特許法29条1項3号に該当するということができない。また,本件特許発明は,甲1?甲4に記載された発明(及び甲5?甲8に記載された事項)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるということができないから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものということもできない。

第6 特許法36条の取消の理由について
1 特許法36条6項1号
特許異議申立人は,本件特許発明の実施例において装用評価が行われているのは実施例1のみであり,本件特許発明全体において発明の課題が解決できるとは認められない,と主張する。
確かに,本件特許の発明の詳細な説明に記載された装用評価(【0077】?【0079】)は,実施例1?実施例3を比較例1と比較したものである。そして,本件特許発明に対応する実施例である,実施例4,実施例5及び実施例7については,装用評価の結果が,発明の詳細な説明に記載されていない。
しかしながら,装用評価に関して,【0079】には,「このような装用比較評価を行った結果,視認性,及び疲労感については実施例1?3と比較例1とで差がないことが確認された。380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下である多層膜を,少なくとも後面に配設することにより,入射光によるわずらわしさがなく,視認性が向上することが確認され,さらに眼鏡レンズ装用者後方からの紫外線も約70?80%カットされていることが確認された。」と記載されている。そして,本件特許発明1?本件特許発明10の眼鏡レンズの「後面に配設された多層膜」の分光特性曲線は,「380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり,かつ,280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下」である。
そうしてみると,【0079】に記載された事項と本件特許発明1?本件特許発明10の構成を照らし合わせた当業者ならば,たとえ本件特許の発明の詳細な説明に実施例4,実施例5及び実施例7に関する総評評価の結果が記載されていなくとも,本件特許発明1?本件特許発明10の眼鏡レンズについて「入射光によるわずらわしさがなく,視認性が向上することが確認され,さらに眼鏡レンズ装用者後方からの紫外線も約70?80%カットされている」という装用評価の結果が得られることを理解することができる。この点は,本件特許発明11?本件特許発明15の眼鏡レンズの製造方法についても,同様である。
したがって,本件特許発明は,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

2 特許法36条6項2号
特許異議申立人は,多層膜について規定されている分光特性が,両面の分光特性なのか,後面の分光特性なのか,不明確であると主張する。
しかしながら,本件特許の発明の詳細な説明において測定されている分光特性曲線は,いずれも,眼鏡レンズの片面(前面又は後面)のものであり,両面のものではない。
このような発明の詳細な説明の記載からみて,本件特許発明の「波長範囲と,前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線」における「前記多層膜」が「後面に配設された多層膜」のことであることは,明らかである。
したがって,本件特許発明は明確である。

3 小括
本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たすものである。

第7 まとめ
以上のとおりであるから,当合議体が通知した取消の理由,及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては,請求項1,2,4ないし15に係る特許を取り消すことはできない。
また,請求項3は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項3に対して特許異議申立人 実川栄一郎がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
眼鏡レンズおよびその製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品およびその製造方法に関する。
本願は、2012年9月28日に出願された特願2012-216234号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズでは、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ染色しやすいとの利点からプラスチックレンズが多用されている。眼鏡レンズに使用されるプラスチックレンズには、表面反射を防止する目的で、その両面に反射防止膜が通常施されている。眼鏡レンズ用反射防止膜は、一般的に400nm?700nmの可視領域全域にわたって、低い反射特性(広帯域低反射特性)を有する。
【0003】
眼鏡レンズ等の光学部品において、例えば特許文献1?3に開示されているようなプラスチックの基材と、その基材上に配置される反射防止膜とを備えた光学部品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-30703号公報
【特許文献2】特開2006-251760号公報
【特許文献3】特開2007-127681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、最近の研究より、必ずしも可視領域全域にわたって低い反射特性を有することが視認性及び目の健康に対して望ましいことではないことがわかってきた。可視光線の青色領域(380?500nm)をカットすることにより、眩しさが低減され視認性、コントラストが向上する。
また、目の健康に対して、可視光線の青色領域(380?500nm)はエネルギーが強いため、網膜などに好ましくない影響を与える原因になると言われている。青色光による影響を「ブルーライトハザード」といい、特に435?440nm近辺が好ましくない波長帯域であり、この領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
【0006】
昨今、ディスプレイの主流となっている液晶画面や、LED照明では、450nm付近の光が多く出ているため、このような青色領域の光線の制御が注目されている。
また、紫外線も眼球に対する暴露が網膜などに好ましくない影響を与える原因になる。屋外での長時間の紫外線暴露が角膜炎や白内障の原因となるので、紫外領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
【0007】
可視光線の青色領域(380?500nm)をカットする手段としては、サングラスなどの染色レンズが知られている。しかし、染色レンズでは全可視領域をカットするため、光量低下により視認性が悪くなることがある。
また、従来の眼鏡レンズにおいては、眼鏡レンズの後面で反射された紫外光がそのまま眼球に入射されてしまう可能性がある。
【0008】
本発明の態様は、防眩効果を有し、疲労感の低減、眼病予防にも効果的で、かつ、視認性が良好な光学部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズは、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の両面のうち、少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって、波長範囲と、前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が、380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と、280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し、前記多層膜は、380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る眼鏡レンズの製造方法は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の両面のうち、少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって、前記プラスチック基材を加熱する工程と、前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後、前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え、前記多層膜を形成する工程は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と、前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と、を有するとともに、波長範囲と、前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が、380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と、280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値と有するようにし、前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る光学部品によれば、良好な視認性を維持したまま充分な防眩効果が得られ、かつ眼球内に入射される紫外線を低減させることができる。
また、本発明の一態様に係る光学部品の製造方法によれば、眼球内に入射される紫外線が低減され、眩しさを低減し、見え易く、疲労、眼病予防にも効果的な光学特性を有した光学部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る光学部品の一例を示す模式図である。
【図2】第2実施形態に係る光学部品の一例を示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る蒸着装置の一例を示す模式図である。
【図4】第1実施形態に係る成膜装置の一例を示す模式図である。
【図5A】実施例1のレンズの後面における分光特性図である。
【図5B】図5Aの分光特性の数値データである。
【図6A】実施例2のレンズの後面における分光特性図である。
【図6B】図6Aの分光特性の数値データである。
【図7A】実施例3のレンズの後面における分光特性図である。
【図7B】図7Aの分光特性の数値データである。
【図8A】比較例1のレンズの後面における分光特性図である。
【図8B】図8Aの分光特性の数値データである。
【図9A】実施例1?3のレンズの表面、及び比較例1のレンズの表面における分光特性図である。
【図9B】図9Aの分光特性の数値データである。
【図10A】実施例4のレンズの後面における分光特性図である。
【図10B】図10Aの分光特性の数値データである。
【図11A】実施例5のレンズの後面における分光特性図である。
【図11B】図11Aの分光特性の数値データである。
【図12A】参考例6のレンズの後面における分光特性図である。
【図12B】図12Aの分光特性の数値データである。
【図13A】実施例7のレンズの後面における分光特性図である。
【図13B】図13Aの分光特性の数値データである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態によって詳しく説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
(1) 第一の実施形態
図1は、本発明の光学部品の第一の実施形態を模式的に示す側断面図であり、図1において符号1は眼鏡レンズ用の光学部品である。
この光学部品1は、プラスチック基材2と、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3とを備えて構成されている。プラスチック基材2の後面と無機多層膜3との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。
【0015】
本実施形態において、プラスチック基材2の表面にも、無機多層膜3及び機能性薄膜4に相当する任意の膜が形成されているが、この膜の図示及び説明を省略する。
【0016】
プラスチック基材2は、例えば透明なプラスチックであるアクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエ-テルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)、ポリ塩化ビニル樹脂、ハロゲン含有共重合体、及びイオウ含有共重合体等によって形成されたものである。
また、本実施形態では、プラスチック基材2の屈折率(nd)としては、例えば1.50、1.60、1.67、及び1.74のうちから選択されたものが用いられる。なお、プラスチック基材2の屈折率を1.6以上にする場合、プラスチック基材2としては、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、及びチオウレタン系樹脂等を使用することができる。
また、プラスチック基材2は、紫外線を吸収する機能を有することができる。即ち、プラスチック基材2を構成する樹脂は、紫外線吸収剤を含むことができる。
または、プラスチック基材2の面に配設される機能性薄膜4中に、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。この場合には、機能性薄膜4中の紫外線吸収剤成分がプラスチック基材2に含浸する。
更に、プラスチック基材2は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。着色されたプラスチック基材2の透過率は、5?85%とすることができる。
【0017】
機能性薄膜4は、上述のようにプラスチック基材2と無機多層膜3との間に配置され、プラスチック基材2に接して配設されたプライマー層5と、このプライマー層5に接し、かつ無機多層膜3に接して配設されたハードコート層6とからなっている。
プライマー層5は、プラスチック基材2とハードコート層6との密着性を良好にするためのもので、密着層として機能するようになっている。また、光学部品1に対する衝撃を吸収するためのものでもあり、衝撃吸収層としても機能するようになっている。
【0018】
このプライマー層5は、ポリウレタン系樹脂を主成分とするもので、本実施形態では、ポリウレタン系樹脂に例えば無機材料の微粒子を含有させたものである。なお、プライマー層5は、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及び有機珪素系樹脂の少なくとも一種を含んでいてもよい。プライマー層5の厚み(実際の厚み)は、0.5μm以上1.0μm以下程度とすることができる。
【0019】
プライマー層5は、プライマー層5の形成材料液にプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上に所定の厚さで形成することができる。プライマー層5の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、上記のプライマー層5となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0020】
ハードコート層6は、プラスチック基材2を保護し、プラスチック基材2の損傷を抑制する機能を有するもので、耐擦傷性膜として機能するようになっている。
ハードコート層6は、例えばオルガノシロキサン系ハードコート層からなっている。オルガノシロキサン系ハードコート層は、オルガノシロキサン系樹脂に無機酸化物の微粒子を分散させたものである。無機酸化物としては、例えばルチル型の酸化チタンや、ケイ素、錫、ジルコニウム、及びアンチモンの酸化物が用いられる。また、ハードコート層6は、例えば特公平4-55615号公報に開示されているような、コロイド状シリカ含有の有機ケイ素系樹脂であってもよい。ハードコート層6の厚み(実際の厚み)は、2μm以上4μm以下程度とすることができる。
【0021】
ハードコート層6は、ハードコート層6の形成材料液に、プライマー層5を形成したプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上のプライマー層5上に所定の厚さで形成することができる。ハードコート層6の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、上記のハードコート層6となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0022】
プライマー層5及びハードコート層6を含む機能性薄膜4については、その屈折率と、プラスチック基材2の屈折率とが実質的に同じであれば、機能性薄膜4とプラスチック基材2との界面での反射で生じる干渉縞の発生及び透過率の低下を抑制することができる。したがって、プラスチック基材2の屈折率に応じて、機能性薄膜4の屈折率が調整される。機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)の屈折率の調整は、機能性薄膜4の主成分となる樹脂の種類(物性)を選択すること、あるいは、その主成分となる樹脂に添加する微粒子の種類(物性)を選択すること等によって行うことができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
【0024】
無機多層膜3は、プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7を有し、高屈折率層7上に、この高屈折率層7の屈折率より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を有した複層に構成されている。無機多層膜3は、入射した光の反射を防止する反射防止膜としての機能を有する。
無機多層膜3は、本実施形態では380?780nmの波長範囲(第1の波長範囲)における反射率の最大値が3?50%であるように設計されている。
第1の波長範囲における反射率の最大値は、3%以上であり、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。第1の波長範囲における反射率の最大値を3%未満に設定した場合、このような眼鏡をかけた者は、充分な防眩効果等のフィルター機能が得られず、無機多層膜3による疲労予防効果及び眼病予防効果を得ることが難しい。
換言すれば、無機多層膜3における第1の波長範囲での反射率の最大値が3%未満の場合、眼鏡レンズの前面(表面、顔面と反対側)に入射する可視光は、100%に近い高い透過率で無機多層膜3を透過し、眼鏡レンズの後面(顔面側)に出射する(つまり、フィルター機能が得られない)。このため、疲労予防効果、及び眼病予防効果を得ることが難しい。
第1の波長範囲における反射率の最大値は、50%以下であり、35%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。第1の波長範囲における反射率の最大値を50%を超えて設定した場合、透過光量が低下し視認性が悪くなってしまう。
換言すれば、無機多層膜3における第1の波長範囲での反射率の最大値が50%を超える場合、眼鏡レンズの前面(表面、顔面と反対側)に入射する可視光は、50%以下の低い透過率で無機多層膜3を透過し、眼鏡レンズの後面(顔面側)に出射する(つまり、透過光の量が低下する)。このため、視認性が悪化する。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0025】
更に、無機多層膜3は、本実施形態では280?380nmの波長範囲(第2の波長範囲)における反射率の平均値が20%以下であるように設計されている。第2の波長範囲における反射率の平均値は、15%以下であることが好ましい。
第2の波長範囲における平均反射率を20%以下に設定した場合、紫外領域の光を充分カットすることができる。
換言すれば、無機多層膜3における第2の波長範囲での平均反射率が20%以下の場合、眼鏡レンズの後面(顔面側)に入射する紫外光は、20%以下の低い反射率で無機多層膜3により反射され、眼鏡レンズの後面に(眼球に向かって)出射する。このため、眼球に入射する紫外領域の光の量を低減する(つまり、紫外領域の光をカットする)ことができる。
第2の波長範囲における平均反射率は、低いほどよいが、380?780nmの第1の波長範囲における反射率(可視領域の光のカット能力)との兼ね合いから、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。
【0026】
無機多層膜3の上記波長域における反射率の特性が、上記範囲内にあれば、眼鏡レンズとして使用した場合、良好な視認性を維持したまま、充分な防眩効果等のフィルター機能が得られ、かつ眼球内に入射される紫外線を低減させることができる。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0027】
更に、本実施形態において、プラスチック基材2の表面に(図示しない)無機多層膜を配設することができる。
プラスチック基材2の表面に配設された無機多層膜の280?380nmの波長範囲における平均反射率は、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3の280?380nmの波長範囲における平均反射率よりも大きくすることができる。例えば、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3は、280?380nmの波長範囲における平均反射率が3?15%であり、プラスチック基材2の表面に配設される無機多層膜は、280?380nmの波長範囲における平均反射率が20%以上となるように設計することができる。このような反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、紫外線の低減に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0028】
高屈折率層7は、本実施形態では、プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9と、第1層9上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10と、第2層10上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11と、からなる。
【0029】
第1層9は、ハードコート層6に接して設けられたもので、屈折率が2.0の二酸化ジルコニウム(ZrO_(2))からなっている。なお、第1層9を構成する高屈折率無機材料としては、ZrO_(2)以外にも、例えば二酸化チタン(TiO_(2))や二酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))を用いることもできる。さらには、ジルコニウム、チタン、タンタルの複数種からなる合金の酸化物によって形成することもできる。また、これら以外にも、例えば酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、二酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))、二酸化ハフニウム(HfO_(2))、Nb_(2)O_(5)(二酸化ニオブ)を用いることもできる。
【0030】
ここで、このように第1層9を高屈折率無機材料(ZrO_(2))で形成することにより、第1層9とハードコート層6との間の密着性を得ることができる。すなわち、高屈折率無機材料からなる層(ZrO_(2))とハードコート層6との密着性(密着力)のほうが、低屈折率無機材料からなる層(SiO_(2))とハードコート層6との密着性(密着力)よりも大きいためである。また、機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)が省略された場合においても、高屈折率層(ZrO_(2))とプラスチック基材2との密着性(密着力)のほうが、低屈折率層(SiO_(2))とプラスチック基材2との密着性(密着力)よりも大きいため、密着性についてより有利になる。
【0031】
第2層10は、第1層9に接して設けられたもので、屈折率が1.47の二酸化珪素(SiO_(2))からなっている。なお、第2層10を構成する低屈折率無機材料としては、SiO_(2)以外にも、例えば屈折率が1.36のMgF_(2)を用いることができる。
【0032】
第3層11は、第2層10に接して設けられたもので、第1層9と同様に二酸化ジルコニウム(ZrO_(2))からなっている。なお、この第3層11についても、第1層9と同様に、ZrO_(2)以外の高屈折率無機材料によって形成することもできる。
また、高屈折率層7については、上記のように第1層9、第2層10、第3層11の3層構造で形成することなく、上述した反射率についての条件を満たせば、2層、または4層以上で構成することもできる。
【0033】
低屈折率層8は、第3層11に接して設けられたもので、第2層10と同様に二酸化珪素(SiO_(2))からなっている。
【0034】
上記構成の無機多層膜3は、例えば、図6A、6B(後述する実施例2のレンズの後面)に示すように、光波長と、その光波長における無機多層膜3の反射率との関係を示す分光特性曲線において、280?380nmの波長範囲に少なくとも一つ(例えば、一つ)の極値を有することができる。極値としては、極小値、極大値が挙げられ、極大値が好ましい。
【0035】
更に、無機多層膜3は、例えば、図10A、10B(後述する実施例4のレンズの後面)に示すように、分光特性曲線において、380?780nmの波長範囲に少なくとも一つ(例えば、一つ)の極値を有することができる。極値としては、極小値、極大値が挙げられ、同様に、極大値が好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、無機多層膜3の上、すなわちプラスチック基材2から最も遠い無機多層膜3の最外層(低屈折率層8)の上に、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜12が設けられている。
撥水撥油膜12は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を主成分とするもので、撥液性(撥水性、撥油性)を有するものである。すなわち、撥水撥油膜12は、光学部品の表面エネルギーを低下させ、水やけ防止、汚れ防止の機能を発揮するとともに、光学部品表面のすべり性能を向上させ、その結果として、耐擦傷性を向上させることができる。
フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1):
【0037】
【化1】

【0038】
(式(1)中、Rfは炭素数1?16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し、Yはヨウ素又は水素を表し、Y’は水素または炭素数1?5の低級アルキル基を表し、Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し、R^(1)は加水分解可能な基を表し、R^(2)は水素又は不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0?200の整数を表し、eは0又は1を表し、sおよびtはそれぞれ0?2の整数を表し、wは1?10の整数を表す。)及び下記一般式(2)?(5):
【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
(式(2)?(5)中、Xは酸素又は二価の有機基を表し、X’は加水分解可能な基を表し、X”は二価の有機シリコーン基を表し、R^(3)は炭素数1?22の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、qは1?3の整数を表し、m、n、oはそれぞれ0?200の整数を表し、pは1又は2を表し、rは2?20の整数を表し、kは0?2の整数を表し、zはkが0又は1である場合に0?10の整数を表す。)及び下記一般式(6):
【0044】
【化6】

(式(6)中、Rf^(2)は2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し、R^(4)は炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基を表し、R^(5)は加水分解可能な基を表し、iは0?2の整数を表し、jは1?5の整数を表し、uは2又は3を表す。)の中から選択される。
【0045】
ここで、撥水撥油膜12に優れた耐久性を付与するために、一般式(1)?(5)の中から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物と、一般式(6)から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物とを組み合わせて用いることができる。
一般式(1)?(5)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、ダイキン工業株式会社製オプツール-DSX、オプツール-AES4などを用いることができる。また、一般式(6)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、信越化学工業株式会社製KY-130、KY-164などを用いることができる。
【0046】
(2) 第二の実施形態
図2は、本発明の光学部品の第二の実施形態を模式的に示す側断面図である。図2において符号1’は眼鏡レンズ用の光学部品である。図2において、図1に示した光学部品1と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
光学部品1’は、第一の実施形態の光学部品1の構造に加えて、プラスチック基材2の表面に配設された無機多層膜3’を備えて構成されている。プラスチック基材2の表面と無機多層膜3’との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなる。
【0047】
無機多層膜3’は、プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7’を有し、高屈折率層7’上に、この高屈折率層7’の屈折率より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8’を有した複層に構成されている。
【0048】
高屈折率層7’は、本実施形態では、プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9’と、第1層9’上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10’と、第2層10’上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11’と、からなる。
本実施形態における第1層9’、第2層10’、第3層11’に用いられる無機材料としては、第一の実施形態における第1層9、第2層10、第3層11に用いられる無機材料と同様のものが挙げられる。
高屈折率層7’については、第一の実施形態における高屈折率層7と同様に、三層構造で形成することなく、二層、または四層以上で構成することもできる。
【0049】
本実施形態において、無機多層膜3’は、第一の実施形態の無機多層膜3と同様に、380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計される。
プラスチック基材2の両面に、このような反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、防眩効果、視認性、及び紫外線の低減に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、第一の実施形態と同様に、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0051】
[光学部品の製造方法]
次に、光学部品1の実施形態に基づき、本発明の光学部品の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、プラスチック基材2に対して従来と同様の方法で機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)を形成する工程と、プラスチック基材2を加熱する工程と、加熱によってプラスチック基材2を所定温度(例えば70℃)に調整した後、このプラスチック基材2上に無機多層膜3を形成する工程と、無機多層膜3上に撥水撥油膜12を形成する工程と、を備える。
【0052】
無機多層膜3を形成する工程は、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とを交互に複数積層して多層構造の高屈折率層7を形成する処理と、この高屈折率層7上に、低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を形成する処理と、を有している。これら各層の形成には、例えば、真空蒸着法を用いることができる。
【0053】
図3は、無機多層膜3の各層を形成するための蒸着装置30の一例を示す図である。図3に示すように蒸着装置30は、第1成膜室31と第2成膜室32と第3成膜室33とを備えて構成されている。これら第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33は、それぞれの内部が実質的に真空に減圧され、その状態に保持されるようになっている。また、蒸着装置30は、図示しない温調手段により、第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33のそれぞれの内部温度が調整可能になっている。
【0054】
蒸着装置30は、第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33のそれぞれの内部空間に、保持部材34を備えている。保持部材34は、その上面(保持面)が曲面状になっており、かつ、回転可能に構成されており、この上面に複数のプラスチック基材2を保持するようになっている。
【0055】
蒸着装置30の蒸着源35は、第2成膜室32の内側の空間に配置されている。蒸着源35は、第1蒸着源35A及び第2蒸着源35Bからなる。また、第2成膜室32には、蒸着源35にビームを照射可能な光源装置36が配置されている。光源装置36は、蒸着源35に対して電子を照射して蒸着源35の構成粒子を叩き出すことができる。
光源装置36から射出された電子が蒸着源35に照射されることによって、蒸着源35から、無機多層膜3を形成するための材料(ガス)が放出される。
例えば、光源装置36が第1蒸着源35Aにビームを照射することにより、ZrO_(2)の蒸気を第1蒸着源35Aから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第1層9と第3層11を形成することができる。同様に、第2蒸着源35Bにビームを照射することにより、SiO_(2)の蒸気を第2蒸着源35Bから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第2層10と、低屈折率層8を形成することができる。
【0056】
すなわち、第1蒸着源35Aに対するビームの照射と第2蒸着源35Bに対するビームの照射とを交互に行うことにより、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に、高屈折率無機材料からなる層と低屈折率無機材料からなる層とを交互に形成し積層することができる。ただし、本発明では、無機多層膜3を380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計する。
なお、第1蒸着源35Aとして酸化ジルコニウム(ZrO)からなる蒸着源を用い、第2成膜室32の内部空間に酸素を導入しながら第1蒸着源35Aにビームを照射し、二酸化ジルコニウム(ZrO_(2))からなる高屈折率無機材料層を形成するようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態の光学部品の製造方法において、無機多層膜3を形成する工程は、無機多層膜3を構成する層のうちの少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含んでいてもよい。本実施形態の光学部品の製造方法が、このような工程を含むことにより、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、誘電体膜が配設される。
【0058】
図4は、イオンビームアシストを施すための成膜装置30’の一例を示す図である。成膜装置30’は、図3で示された蒸着装置30の第2成膜室にイオンガン37が備え付けられた構成となっている。図4において、図3に示した蒸着装置30と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態においては、無機多層膜3を構成する高屈折率層7と低屈折率層8との間に、ITO等の誘電体膜を配設する際に、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う。
なお、第2成膜室32内で無機多層膜3を構成する層のうち少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行えばよく、イオンビームアシストを施す対象は、誘電体膜に限定されない。
【0059】
本実施形態において、この成膜装置30’の第2成膜室は、プラスチック基材2上に高屈折率層7が成膜された基材を保持する保持部材34と、蒸着源35’と、蒸着源35’と離間して配置されたイオンガン37と、光源装置36を主体として構成されている。
また、成膜装置30’はその内部が実質的に真空に減圧され、プラスチック基材2の周囲を真空雰囲気に保持できるように構成されている。更に成膜装置30’には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、酸素ガス、アルゴンガス、またはその他の不活性ガス雰囲気、あるいは、酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるように構成されている。
【0060】
蒸着源35’は、例えばITOを含む。光源装置36が蒸着源35’にビームを照射することによって、ガス化されたITOがその蒸着源35’から放出され、保持部材34に保持されているプラスチック基材2に供給される。これにより、高屈折率層7の上にITOからなる誘電体膜を形成することができる。
【0061】
イオンガン37は、第2成膜室32の内部に、イオン化させるガスを導入するガス導入部と、正面に引き出し電極を備えて構成されている。イオンガン37は、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。
【0062】
光源装置36は、イオンガン37と同等の構成をなし、蒸着源35’に対して電子を照射して蒸着源35’の構成粒子を叩き出すことができる。なお、成膜装置30’においては、蒸着源35’の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、蒸着源35’に高周波コイル等で電圧を印加して蒸着源35’の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、光源装置36を省略しても良い。
【0063】
次に上記構成の成膜装置30’を用いてプラスチック基材2上の高屈折率層7上にITOの誘電体膜を形成する場合について説明する。ITOの誘電体膜を形成するには、ITOの蒸着源35’を用いるとともに、イオンガン37から照射されるイオンを保持部材34の上面に照射できるようにする。次にプラスチック基材2を収納している成膜室32の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン37と光源装置36を作動させる。
光源装置36から蒸着源35’に電子を照射すると、蒸着源35’の構成粒子が叩き出されて高屈折率層7上に飛来する。そして、高屈折率層7上に、蒸着源35’から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン37からアルゴンイオンをイオンビームとして照射する。
【0064】
本実施形態において、イオンビームアシストは、不活性ガス、酸素ガス、及び不活性ガスと酸素ガスの混合ガスから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる。不活性ガスとして、例えば、アルゴンを用いることができる。
【0065】
このようにして無機多層膜3を形成したら、これの上に撥水撥油膜12を形成する。
撥水撥油膜12の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの湿式法、あるいは真空蒸着法などの乾式法がある。
湿式法の中では、ディッピング法が一般的であり、よく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を有機溶剤に溶解した液中に、無機多層膜3まで形成した光学部品を浸漬し、一定条件で引き上げ、乾燥させて成膜する方法である。有機溶剤としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-4-メトキシブタン、パーフルオロ-4-エトキシブタン、メタキシレンヘキサフルオライドなどが使用される。
【0066】
有機溶剤による希釈濃度は、0.01?0.5重量%とすることができ、0.03?0.1重量%が好ましい。濃度が低すぎると十分な膜厚の撥水撥油層12が得られないことがあり、また、濃度が高すぎると塗布むらが発生しやすく、材料コストも高くなってしまうことがある。
乾式法の中では、真空蒸着法がよく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を真空槽内で加熱して蒸発させ、撥水撥油膜12を形成する方法である。
【0067】
このようにして形成された光学部品1にあっては、無機多層膜3を380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計したので、前述したように反射特性及び視認性について、共に良好な性能を確保することができる。
また、光学部品の製造方法にあっては、このようなバランスのとれた優れた光学部品を確実に提供することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
≪実験1≫
ウレタン系合成樹脂基板上に、屈折率1.67のシリコン系ハードコート、及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し、以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0070】
<実施例1>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.110λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.155λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.050λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.215λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.040λ、第7層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.080λ、第8層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.300λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例1のレンズの後面における分光特性を図5Aに示す。図5Aの分光特性の数値データを図5Bに示す。
【0071】
<実施例2>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.070λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.045λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.130λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.300λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の方法にて、下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例2のレンズの後面における分光特性を図6Aに示す。図6Aの分光特性の数値データを図6Bに示す。
【0072】
<実施例3>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.075λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.360λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.250λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例3のレンズの後面における分光特性を図7Aに示す。図7Aの分光特性の数値データを図7Bに示す。
【0073】
<比較例1>
後面(顔側):実施例と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.090λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.220λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.325λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
比較例1のレンズの後面における分光特性を図8Aに示す。図8Aの分光特性の数値データを図8Bに示す。
【0074】
また、実施例1?3のレンズの表面、及び比較例1のレンズの表面における分光特性を図9Aに示す。図9Aの分光特性の数値データを図9Bに示す。
実施例1?3、比較例1における各成膜層の詳細を表1に示す。尚、表1中に示す反射率の単位は%である。
【0075】
【表1】

【0076】
このようにして得られた光学部品の後面に関して、280?380nmの波長範囲の平均反射率を比較した。結果として、比較例1に比べて実施例1は68%、実施例2は70%、実施例3は81%の紫外線カット率を有している事が確認された。
さらに、これらの光学部品を用いて装用評価を行った。
【0077】
(装用評価)
実施例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡を装用し、パソコンによるデスクワーク時に装用し、比較例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡との比較評価を行った。評価時の条件及び、判定項目は以下の通りである。
モニタ人数 :10名
ディスプレイ:17インチ液晶ディスプレイ
作業時間 :1時間/日
装用期間 :1週間
判定項目 :1.眩しさ 2.表示文字等の見え易さ 3.疲労感
各評価項目において実施例1?3を比較例1と比較して、同等の効果を確認できたものを○と評価した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
このような装用比較評価を行った結果、視認性、及び疲労感については実施例1?3と比較例1とで差がないことが確認された。380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下である多層膜を、少なくとも後面に配設することにより、入射光によるわずらわしさがなく、視認性が向上することが確認され、さらに眼鏡レンズ装用者後方からの紫外線も約70?80%カットされていることが確認された。
【0080】
≪実験2≫
屈折率1.67のウレタン系合成樹脂基板上に、以下の多層膜を真空蒸着にて形成し、後面の反射特性を測定した。
【0081】
<実施例4>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.075λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.130λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.070λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.220λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第7層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.120λ、第8層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.260λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例4のレンズの後面における分光特性を図10Aに示す。図10Aの分光特性の数値データを図10Bに示す。
【0082】
<実施例5>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.130λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.065λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.195λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第7層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第8層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.290λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例5のレンズの後面における分光特性を図11Aに示す。図11Aの分光特性の数値データを図11Bに示す。
【0083】
<参考例6>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.140λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.125λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.065λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.050λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.170λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第7層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.090λ、第8層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
参考例6のレンズの後面における分光特性を図12Aに示す。図12Aの分光特性の数値データを図12Bに示す。
【0084】
<実施例7>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10^(-3)Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.260λ、第2層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.125λ、第3層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.020λ、第4層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.040λ、第5層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.215λ、第6層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第7層ZrO_(2)(屈折率2.00)を光学的膜厚0.045λ、第8層SiO_(2)(屈折率1.47)を光学的膜厚0.360λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例7のレンズの後面における分光特性を図13Aに示す。図13Aの分光特性の数値データを図13Bに示す。
また、実施例4?7における各成膜層の詳細を表3に示す。尚、表3中に示す反射率の単位は%である。
【0085】
【表3】

【0086】
図10A?13Bに示すように、380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下である多層膜は、紫外領域にて低い反射率を有し、可視領域にて特定の波長を反射する特性を有することが確認された。
【0087】
以上の結果から、本発明の態様によれば防眩効果を有し、視認性が良好で、かつ紫外領域の低い表面反射特性によって、後方から入射される紫外光の反射による眼球への入射を抑えることができる光学部品及びその製造方法を提供できることが明らかである。
【符号の説明】
【0088】
1,1’…光学部品、2…プラスチック基材、3,3’…無機多層膜、4…機能性薄膜、5…プライマー層(機能性薄膜)、6…ハードコート層(機能性薄膜)、7,7’…高屈折率層、8,8’…低屈折率層、9,9’…第1層、10,10’…第2層、11,11’…第3層、12…撥水撥油膜、30…蒸着装置、30’…成膜装置、31…第1成膜室、32…第2成膜室、33…第3成膜室、34…保持部材、35,35’…蒸着源、35A…第1蒸着源、35B…第2蒸着源、36…光源装置、37…イオンガン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、前記プラスチック基材の両面のうち、少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズであって、
波長範囲と、前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が、380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と、280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有し、
前記多層膜は、380?780nmの波長範囲における反射率の最大値が3?50%であり、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が10.7%以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記プラスチック基材の表面に配設された前記多層膜の280?380nmの波長範囲における反射率の平均値が、前記プラスチック基材の後面に配設された前記多層膜の反射率の平均値よりも大きい請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記プラスチック基材が、紫外線を吸収する機能を有する請求項1?2のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記プラスチック基材から最も遠い、前記多層膜の少なくとも一方の最外層の上に、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜を更に備える請求項1、2、4のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、Rfは炭素数1?16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し、Yはヨウ素又は水素を表し、Y’は水素または炭素数1?5の低級アルキル基を表し、Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し、R1は加水分解可能な基を表し、R2は水素又は不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0?200の整数を表し、eは0又は1を表し、sおよびtはそれぞれ0?2の整数を表し、wは1?10の整数を表す。)及び下記一般式(2)?(5):
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式(2)?(5)中、Xは酸素又は二価の有機基を表し、X’は加水分解可能な基を表し、X”は二価の有機シリコーン基を表し、R3は炭素数1?22の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、qは1?3の整数を表し、m、n、oはそれぞれ0?200の整数を表し、pは1又は2を表し、rは2?20の整数を表し、kは0?2の整数を表し、zはkが0又は1である場合に0?10の整数を表す。)及び下記一般式(6):
【化6】

(式(6)中、Rf2は2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し、R4は炭素数1?4のアルキル基又はフェニル基を表し、R5は加水分解可能な基を表し、iは0?2の整数を表し、jは1?5の整数を表し、uは2又は3を表す。)の中から選択される1種類以上のフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である請求項5に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記多層膜は、4層以上の多層膜である請求項1、2、4?6のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
前記プラスチック基材と前記多層膜との間に、機能性薄膜を備えた請求項1、2、4?7のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項9】
前記多層膜を構成する高屈折率材料と低屈折率材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を備えた請求項1、2、4?8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項10】
前記高屈折率材料は、二酸化ジルコニウムを含み、前記低屈折率材料は、二酸化珪素を含む請求項9に記載の眼鏡レンズ。
【請求項11】
プラスチック基材と、前記プラスチック基材の両面のうち、少なくとも後面に配設された多層膜とを備えた眼鏡レンズの製造方法であって、
前記プラスチック基材を加熱する工程と、前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後、前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え、
前記多層膜を形成する工程は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と、前記高屈折率層の屈折率より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を前記高屈折率層上に形成する処理と、を有するとともに、
波長範囲と、前記波長範囲における前記多層膜の反射率との関係を示す分光特性曲線が、380?780nmの波長範囲の最大値である極大値と、280?380nmの波長範囲に1つの極大値と1つの極小値とを有するようにし、
前記多層膜の380?780nmの波長範囲における反射率の最大値を3?50%となるようにし、かつ、280?380nmの波長範囲における反射率の平均値を10.7%以下となるようにすることを特徴とする請求項1、2、4?10のいずれかの一項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項12】
前記多層膜を真空蒸着法を用いて形成する工程を含む請求項11に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項13】
前記多層膜を形成する工程は、前記多層膜を構成する層のうちの少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含む請求項11又は12に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項14】
前記イオンビームアシストは、不活性ガス、酸素ガス、及び不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスのうちから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる請求項13に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項15】
前記不活性ガスはアルゴンである請求項14に記載の眼鏡レンズの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-09 
出願番号 特願2014-538574(P2014-538574)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B)
P 1 651・ 537- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
鉄 豊郎
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5966011号(P5966011)
権利者 株式会社ニコン・エシロール
発明の名称 眼鏡レンズおよびその製造方法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
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