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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1341087 |
異議申立番号 | 異議2018-700217 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-12 |
確定日 | 2018-06-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6196522号発明「光透過性を有する硬化性シリコーン組成物及びそれを用いた光硬化性樹脂成型物の作製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6196522号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6196522号に係る発明は、平成25年10月18日に特許出願され、平成29年8月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年9月13日に特許公報への掲載がなされ、その後、平成30年3月12日に特許異議申立人 関和郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 本件の請求項1-4に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン、 成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、 成分(3)充填材、及び 成分(4)触媒、 を含む硬化性シリコーン組成物であって、 前記成分(3)充填剤の50%粒子径が1μm?30μmであり、 前記成分(3)充填剤の前記硬化性シリコーン組成物全体に対する含有量が30w%?96wt%であり、 前記成分(1)、前記成分(2)及び前記成分(3)を含み、複素粘度が10Pa・s?100000Pa・sである基材と、 前記成分(1)、前記成分(3)及び前記成分(4)を含み、複素粘度が10Pa・s?100000Pa・sである硬化材とを練和したものであり、 前記成分(1)?前記成分(3)のうち最も屈折率の高い成分と、最も屈折率の低い成分との屈折率差が0.1000以内であり、且つ、 いずれかの構成組成物における硬化前の複素粘度[測定条件 ステージ温度:23℃、ひずみ量:1%、周波数:0.1Hz?100Hz、測定方法:周波数分散測定、測定点:角周波数25rad/s]が10Pa・s?100000Pa・sであることを特徴とする硬化性シリコーン組成物。 【請求項2】 前記成分(1)?前記成分(4)の屈折率がそれぞれ1.400?1.500である請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。 【請求項3】 硬化後の470nmの波長光における光透過率が50%以上である請求項1または2に記載の硬化性シリコーン組成物。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の硬化性シリコーン組成物を調製する工程と、 調製した前記硬化性シリコーン組成物を形態を複写する対象物にし、これを硬化させて前記対象物の形態が複写された凹型を作製する工程と、 前記凹型に光硬化性樹脂を充填し、これを成型物を作製したい箇所に圧接し、光を照射して光硬化性樹脂を硬化させる工程とからなることを特徴とする成型物の作製方法。」 (なお、本件発明1(請求項1)の「30w%」との文言は、本願明細書並びにその余の本願特許請求の範囲の記載からみて「30wt%」を意味するものと認められる。本決定においては、「30w%」との文言をそのまま用いた。) 3 異議申立ての理由の概要 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 ・申立ての理由1 本件請求項1-4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び本件出願前の一般的技術に基づいて当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第1項あるいは第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 本件請求項1-4に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由3 本件請求項1-4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 ・申立ての理由4 本件請求項1-4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開平2-107667号公報 甲第2号証a:米国特許出願第14/497835号の米国特許商標庁に おける2017年11月3日付けの最初の拒絶理由通知 甲第2号証b:米国特許出願第14/497835号の米国特許商標庁に おける2018年2月2日付けの補正書 甲第2号証c:米国特許出願第14/497835号の米国特許商標庁に おける2017年6月27日付けの補正書 甲第3号証:大木道則他編、「化学大辞典」第1版、東京化学同人、 1989年10月20日発行、1248頁 甲第4号証:粉体工学会他編、「改訂増補粉体物性図説」第1版、 日経技術図書、昭和60年12月21日発行、221頁 甲第5号証:K.P.Menard, "Dynamic Mechanical Analysis: A Practical Introduction, Second Edition", CRC Press, P149 甲第6号証:特表2004-529135号公報 甲第7号証:田上順次他編、「日本歯科評論 別冊2012 コンポジット レジン修復のArt&Imagination-臨床に必須の知識と技術」、 ヒョーロン・パブリッシャーズ、 2012年5月17日発行、160-167頁 (以下、「甲第1号証」「甲第2号証a」…「甲第7号証」を、「甲1」「甲2a」…「甲7」という。) 4 異議申立ての理由についての判断 (1)理由1について ア 甲1に記載された事項 (ア)「2.特許請求の範囲 1.1) 1分子中にアルケニル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100重量部 2) 1分子中にけい素原子に直結した水素原子(≡SiH基)を少なくとも3個有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンが、1)成分中に含まれるアルケニル基に対し0.5?5倍モルになる≡SiH基を供する量 3) 触媒量の白金化合物 4) 無機質充填剤 20?600重量部 5) けい素原子に結合した全有機基のうち炭素数7個?30個のアルキル基を少なくとも5モル%有するオルガノポリシロキサン 5?60重量部 とからなることを特徴とするパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物。」 (イ)「(産業上の利用分野) 本発明はパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、硬化前に内部離型剤がブリードすることによりパテ状であって、硬化後その内部離型剤のブリードが少ないために外観を損なったり寸法精度が低下せず、印象材料などに有用とされるパテ状硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものである。」(1頁右下欄3-10行) (ウ)「また、この第3成分としての白金または白金化合物は付加反応触媒として公知のものでよく、これには白金黒または白金をシリカ、カーボンブラックなどに担持させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィン、ビニルシロキサンとの錯塩などが例示される。この添加量は第1成分と第2成分の合計量100重量部に対し通常0.0001?0.1重量部の範囲が好適に用いられる。」(3頁左上欄6-14行) (エ)「実施例1 粘度が2,500cSである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン油(以下ビニルシロキサン油と略記する)80重量部、粘度が1,000,000Piseである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、ビニル基量が0.012モル%であるジメチルポリシロキサン生ゴム(以下シロキサン生ゴムと略記する)20重量部、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金量1重量%、以下白金触媒と略記する)0.3重量部、平均粒径が4μmである石英粉末180重量部、平均粒径が2μmであるけいそう土20重量部、平均式が であるアルキル変性シロキサン油(以下変性シロキサン油と略記する)30重量部を混合攪拌機を用いて均一に混合攪拌してパテA_(0)を作った。一方、ビニルシロキサン油75重量部、シロキサン生ゴム20重量部、粘度が12cSである分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された、メチルハイドロジェンシロキサン単位を17モル%含有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(以下Hシロキサンと略記する)5重量部、石英粉末180重量部、けいそう土20重量部、変性シロキサン油30重量部を同様に混合攪拌機を用いて均一に混合攪拌してパテB_(0)を作った。 ついで、このパテA_(0)とパテB_(0)を等量手で混合し60℃において1時間硬化させた。硬化物は室温で1ヵ月放置したがオイルのにじみ出しは全く無かった。」(4頁左上欄1行-右上欄14行) イ 甲1に記載された発明 上記ア(エ)からみて、甲1には、次の甲1発明が記載されている。 「粘度が2,500cSである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン油155重量部と粘度が1,000,000Poiseである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、ビニル基量が0.012モル%であるジメチルポリシロキサン生ゴム40重量部、 粘度が12cSである分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された、メチルハイドロジェンシロキサン単位を17モル%含有するメチルハイドロジェンポリシロキサン5重量部、 平均粒径が4μmである石英粉末360重量部と平均粒径が2μmであるけいそう土40重量部、 塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液0.3重量部、及び、 アルキル変性シロキサン油60重量部 を含む硬化性シリコーン組成物であって、 上記ジメチルポリシロキサン油とジメチルポリシロキサン生ゴム、上記メチルハイドロジェンポリシロキサン、及び石英粉末とけいそう土を含むものと、 上記ジメチルポリシロキサン油とジメチルポリシロキサン生ゴム、石英粉末とけいそう土、及び塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液を含むものとを手で混合したものである、硬化性シリコーン組成物。」 ウ 本件発明1と甲1発明との対比・判断 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「粘度が2,500cSである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン油」と「粘度が1,000,000Piseである分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され、ビニル基量が0.012モル%であるジメチルポリシロキサン生ゴム」は、それぞれ分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたオルガノポリシロキサンであり、これらは本件発明1の成分(1)における「1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有する」との規定を満たす。 甲1発明の「粘度が12cSである分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖された、メチルハイドロジェンシロキサン単位を17モル%含有するメチルハイドロジェンポリシロキサン」は、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、これは本件発明1の成分(2)における「1分子内に少なくとも2個のSiH基を有する」との規定を満たす。 甲1発明の「石英粉末」と「けいそう土」は、本件発明1でいう「充填材」に相当し、これらはそれぞれ「平均粒径が4μm」、「平均粒径が2μm」であることに鑑みると、本件発明1の「充填剤の50%粒子径が1μm?30μm」との規定を満たすものと認められる。そして、甲1発明すなわち甲1実施例1における「石英粉末」と「けいそう土」の硬化性シリコーン組成物全体に対する含有量は、((360+40)÷660.3×100=)60.6重量%と求められ、これは本件発明1の「充填剤の前記硬化性シリコーン組成物全体に対する含有量が30w%?96wt%」との規定を満たす。 甲1発明の「塩化白金酸」は、「白金触媒」と略記されるように、本件発明1の「触媒」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは下記の点で一致する。 「成分(1)1分子内に少なくとも2個の不飽和基を有するオルガノポリシロキサン、 成分(2)1分子内に少なくとも2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、 成分(3)充填材、及び 成分(4)触媒、 を含む硬化性シリコーン組成物であって、 前記成分(3)充填剤の50%粒子径が1μm?30μmであり、 前記成分(3)充填剤の前記硬化性シリコーン組成物全体に対する含有量が30w%?96wt%であり、 前記成分(1)、前記成分(2)及び前記成分(3)を含む基材と、 前記成分(1)、前記成分(3)及び前記成分(4)を含む硬化材とを練和したものである、硬化性シリコーン組成物。」 そして、両者は下記の点で相違する。 相違点1: 本件発明1は、「前記成分(1)?前記成分(3)のうち最も屈折率の高い成分と、最も屈折率の低い成分との屈折率差が0.1000以内であ(る)」のに対し、甲1発明では、係る屈折率差は明らかでない点。 相違点2: 本件発明1は、「前記成分(1)、前記成分(2)及び前記成分(3)を含(む)」基材の複素粘度が「10Pa・s?100000Pa・s」、「前記成分(1)、前記成分(3)及び前記成分(4)を含(む)」硬化材の複素粘度が「10Pa・s?100000Pa・s」、「いずれかの構成組成物における硬化前の複素粘度[測定条件 ステージ温度:23℃、ひずみ量:1%、周波数:0.1Hz?100Hz、測定方法:周波数分散測定、測定点:角周波数25rad/s]が10Pa・s?100000Pa・s」と特定されているのに対し、甲1発明ではこれらは明らかでない点。 (イ)上記相違点について検討する。 相違点1に関し、申立人は異議申立書において、要するに「本件特許権者は、…甲1発明で使用する成分(a)及び成分(b)の屈折率が1.4であることを認めており」、「石英粉末とけいそう土の屈折率は甲3、甲4に記載されているとおり、それぞれ、1.458、及び1.46」であり、「そうすると、甲1発明においても、成分(a)?成分(c)のうち最も屈折率の高い成分と最も屈折率の低い成分との屈折率差が0.1000以内であるという要件を充足することになる。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。また、仮に相違する部分があるとしても、当業者であれば容易に想到する程度のものに過ぎない。」と主張する。 そこで、甲3及び甲4の記載について確認する。 甲4には、「ケイソウ土」(本件発明1の「けいそう土」と同意である。)の屈折率は、申立人が主張するとおり、「1.46」(【一般的性質】の項)と記載されている。 甲3には、「石英ガラス」の項(1248頁左欄51行-右欄4行)には、上記主張(1.458)に近似する「屈折率n_(D)1.4585」(1248頁右欄2行)と記載されている。 しかし、甲3には、「石英ガラス」は、「石英,水晶,ケイ石あるいはケイ砂を溶融したのち冷却し加工する.」(1248頁左欄54-55行)と記載されていることに鑑みると、「石英」とは異なるものと認められ、「石英ガラス」の屈折率をもって「石英」の屈折率と解することはできない。 そして、「石英」が、甲1発明のいずれかの成分との屈折率差が0.1000以内となり得る程度の屈折率、すなわち、ポリマーの屈折率が甲2bに記載されるように「1.40」とすると「1.36-1.50」の範囲内の屈折率を有するものと解される記載ないし示唆は何ら見いだすことができない。また、「石英」が「1.36-1.50」の範囲内の屈折率を有するという一般的な知識は確認できない。 そうすると、相違点2の如何に関わらず、本件発明1と甲1発明とは、相違点1において異なることは明らかである。 このため、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 また、甲1発明においては、各成分の屈折率差を小さくすることについての動機づけが存在しない。その他の甲各号証にも、各成分の屈折率差を小さくすることについての記載ないし示唆はない。 このため、本件発明1は、甲1に記載された発明及び本件出願前の一般的技術に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。 エ 本件発明2-4について 上記のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明及び本件出願前の一般的技術に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。 本件発明2-4は、いずれも本件発明1を引用し、更に限定を加えたものであるから、本件発明2-4も、本件発明1と同様、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明及び本件出願前の一般的技術に基づいて当業者が容易に想到したものとはいえない。 オ まとめ 以上のことから、申立ての理由1には理由がない。 (2)理由2について ア 本件明細書には以下の記載がある。 「【0042】 成分(4)は、触媒であり、成分(1)に含まれる不飽和基と、成分(2)に含まれるSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するためのヒドロシリル化触媒である。この触媒を具体的に例示すると白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金触媒の他に、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒、及びこれらの2種類以上の混合物等が挙げられる。特に好適には白金とシロキサンとの錯体が用いられる。 … 【0044】 成分(4)の分量は硬化性シリコーン組成物全体に対して0.005wt%?0.5wt%であることが好ましい。本成分の分量が0.005wt%未満になると、ヒドロシリル化反応が充分に進行せず、硬化性が悪くなることがある。また、本成分の分量が0.5wt%を超えるとヒドロシリル化反応が急速に進行し、操作可能な流動性を維持できる時間が極端に短くなってしまうことがある。」 イ そうすると、本件明細書の実施例において白金触媒の具体的化合物とこれを使用する重量が示されていないとしても、上記明細書の記載を参照することで、当業者は過度の試行錯誤をすることなく、本件発明を実施することができるといえる。 ウ 申立人は異議申立書において、「本件明細書の実施例の記載は白金触媒の具体的化合物とこれを使用する重量を開示するものでないので、本件発明を追試するにあたり当業者に過度の試行錯誤を要求するものである。」と主張するが、上記のとおりであるので、この主張には理由がない。 エ したがって、申立ての理由2には理由がない。 (3)理由3について ア 本件明細書には以下の記載がある。 「【0036】 成分(3)の充填材を具体的に例示するとアルミニウム、アルミナイト、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、無水シリカ、モルデンフッ石、斜プチロルフッ石、沸石、珪藻土、焼成珪藻土、活性白土、石英、溶融石英、合成シリカ、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、チタニアシリカガラス、水晶、軽灰、オパール、ポリビニリデンフルオタイド、メタクリル酸メチル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、酢酸ビニル樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン、ステアリン酸、ホワイトカーボン、シリコーンゴムパウダー、シリコーン樹脂パウダー、フュームドシリカ、及びこれらの2種類以上の混合物などが挙げられ、溶融石英や合成シリカ、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、チタニアシリカガラスなどの非晶質シリカ、及びこれらの2種類以上の混合物から選択されることが特に好ましい。このような成分(3)充填材を用いると、その他の構成成分との屈折率が近似し、高い光透過性を得ることができる。また、これらの成分(3)充填材は表面処理を行ったものを用いてもよい。 【0037】 成分(3)の充填材の粒子径においては特に制限はないが、50%粒子径が0.1μm以上であることが好ましく、0.1μm?100μmであればより好ましく、0.1μm?80μmであれば更に好ましい。本発明において50%粒子径とは、体積ベースのメディアン径とも呼ばれ、レーザー回折式粒度分布測定装置等によって測定された粒度分布に基づいて算出されたものである。本成分の50%粒子径が0.1μm未満になると、ペースト表面にベタツキが生じることや、ペースト粘度が高くなることなどによって、操作性が悪くなることがある。 【0038】 成分(3)の屈折率は、1.400?1.500であることが好ましく、1.450?1.480であればより好ましく、1.460?1.470であれば更に好ましい。成分(3)の屈折率が上記範囲外となると、本発明の硬化性シリコーン組成物に含有されるその他の成分との屈折率に著しい差が生じる場合があり、高い光透過性を維持できなくなることがある。 【0039】 成分(3)の分量は硬化性シリコーン組成物全体に対して10wt%?95wt%であることが好ましく、15wt%?90wt%であればより好ましく、50wt%?90wt%であれば更に好ましい。本成分の分量が10wt%未満になると、本発明の硬化性シリコーン組成物に含まれるその他の液状成分が相対的に増加することになり、手練和が可能なパテ状を維持することが難しくなることがある。また、本成分の分量が95wt%を超えると、得られる硬化性シリコーン組成物が非常に硬質となり、練和性や流動性に悪影響を与えることがあるだけでなく、硬化反応に関与する成分(1)と成分(2)の分量が相対的に減少することで、ヒドロシリル化反応が充分に進行せず、硬化性が悪くなることがある。 【0040】 このような成分(3)を用いると光透過性に優れ、容易に手練和が可能で、ペースト表面にベタツキがなく、硬化後の硬さなどにおいても適切な特性を有する硬化性シリコーン組成物を得ることができる。」 イ そして、本件明細書は、本件発明における「成分(3)充填材」が、「50%粒子径が1μm?30μm」かつ「硬化性シリコーン組成物全体に対する含有量が30w%?96wt%」であるものにおいて、「硬化後に高い光透過性を示す、手練和が可能なパテ状の硬化性シリコーン組成物」(本件明細書【0010】)が得られるという目的が達成できることを開示しており、また、実施例においても、この条件を満たすものは該目的が達成できることが示されている。 そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、該記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるものといえる。 ウ したがって、申立ての理由3には理由がない。 (4)理由4について ア 本件明細書には以下の記載がある。 「【0041】 なお、本発明の硬化性シリコーン組成物においては、例えばフュームドシリカなどを強化充填材や増粘材として含有することもでき、これらは表面処理を行ったものを用いても問題ない。また、強化充填材や増粘材は成分(3)充填材と同等の条件を持つことが好ましい。強化充填材及び増粘材の分量は、硬化性シリコーン組成物全体に対して0.1wt%?50wt%であることが好ましい。」 イ 上記(3)アで摘示したとおり、「成分(3)充填材」と「強化充填材や増粘材」の双方に「フュームドシリカ」が例示されており、申立人は異議申立書において、「この結果、成分(3)充填材の技術的な範囲が不明瞭になり、…したがって、特許請求の範囲の記載は明確ではない。」と主張する。 ウ しかし、上記【0041】において「強化充填材や増粘材は成分(3)充填材と同等の条件を持つことが好ましい。」とあるように、本件発明を実施する際に「強化充填材や増粘材」としてフュームドシリカを用いるとしても、そのフュームドシリカを「成分(3)充填材」としても認識し、それと併せて「成分(3)充填材」に関する要件に沿うように添加すると解しうるものと認められる。 そうすると、本件特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。 エ したがって、申立ての理由4には理由がない。 5 むすび 以上のとおりであるから、申立人が主張する異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1-4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1-4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-05-25 |
出願番号 | 特願2013-217288(P2013-217288) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L) P 1 651・ 537- Y (C08L) P 1 651・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
岡崎 美穂 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 大熊 幸治 |
登録日 | 2017-08-25 |
登録番号 | 特許第6196522号(P6196522) |
権利者 | 株式会社松風 |
発明の名称 | 光透過性を有する硬化性シリコーン組成物及びそれを用いた光硬化性樹脂成型物の作製方法 |
代理人 | 西浦 ▲嗣▼晴 |
代理人 | 出山 匡 |
代理人 | ▲高▼見 良貴 |