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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04B
審判 一部申し立て 発明同一  H04B
管理番号 1341096
異議申立番号 異議2018-700160  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2018-05-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6183802号発明「可視光受信方法及びその装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6183802号の請求項1-3,5-9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6183802号の請求項1-16に係る特許についての出願は,平成25年9月6日(国内優先権主張 平成25年6月4日)に特許出願され,平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ,その後,その請求項1-3,5-9に係る特許に対し,特許異議申立人西林博(以下,「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6183802号の請求項1-3,5-9の特許に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」-「本件発明3」,「本件発明5」-「本件発明9」といい,総称して「本件発明」という。)は,それぞれその特許請求の範囲の請求項1-3,5-9に記載された,以下のとおりのものである。

【請求項1】
可視光通信用に照射される可視光を,撮像素子を有するカメラにより撮影し,該カメラが撮影した該撮像素子の画像データに基づき,該可視光に重畳して送信された情報信号を受信する可視光受信方法において,
前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,
該画素アンプ順次出力式撮像素子は,画素の行または列ごとのタイミングで該行の画素または該列の画素に電荷を蓄積し,該各画素に蓄積された電荷に基づく信号を,各画素の画素アンプから各画素ごとのタイミングで順に出力し,
該撮影された光拡散画像中に,情報信号に基づく縞模様を,該画素の行方向または列方向に生じさせ,該縞模様の発生状態に基づき該情報信号を抽出し,且つ,該情報信号をフレーム単位で画像処理し,1フレーム内で複数サンプルの該情報信号を抽出し復調することを特徴とする可視光受信方法。
【請求項2】
可視光通信用に照射される可視光を,撮像素子を有するカメラにより撮影し,該カメラが撮影した該撮像素子の画像データに基づき,該可視光に重畳して送信された情報信号を受信する可視光受信方法において,
前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,
該画素アンプ順次出力式撮像素子は,各画素ごとのタイミングで電荷を蓄積し,該各画素に蓄積された電荷に基づく信号を,各画素の画素アンプから各画素ごとのタイミングで順に出力し,
該撮影された光拡散画像中に,情報信号に基づき断続する断続模様を,該画素の行方向または列方向に生じさせ,該断続模様の発生状態に基づき該情報信号を抽出し,且つ,該情報信号をフレーム単位で画像処理し,1フレーム内で複数サンプルの該情報信号を抽出し復調することを特徴とする可視光受信方法。
【請求項3】
前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,光拡散フィルターを通して可視光を入射させ,該可視光の光拡散画像を撮影することを特徴とする請求項1または2記載の可視光受信方法。
【請求項5】
前記カメラは,可視光の光路から集光用の光学系を外して,該画素アンプ順次出力式撮像素子上に,光拡散画像を入射させて該画像を撮影することを特徴とする請求項1または2記載の可視光受信方法。
【請求項6】
前記カメラの前記画素アンプ順次出力式撮像素子として,CMOSイメージセンサーが使用されることを特徴とする請求項1または2記載の可視光受信方法。
【請求項7】
前記カメラで撮像され出力されるカラーの画像信号は,グレースケール変換を行ない,モノクロの画像信号に変換して輝度成分を抽出することを特徴とする請求項6記載の可視光受信方法。
【請求項8】
前記カメラで撮像され出力されるカラーの画像信号は,色信号毎に輝度成分が抽出されることを特徴とする請求項6記載の可視光受信方法。
【請求項9】
前記撮像素子の行方向に沿った各行線の画素から出力される輝度成分の平均値を算出して該各行線の輝度データを生成し,該輝度データを二値化して受信情報信号を抽出することを特徴とする請求項8記載の可視光受信方法。

第3 申立ての理由の概要
申立ての理由の概要は,特許異議申立書の「3 申立ての理由」の項中の「(3)申立ての根拠」の項に示されている,以下のとおりのものである。
1.申立理由1
特許法第36条第6項第2号違反について,請求項1,2に用いられている用語「光拡散画像」の技術的意義が不明である。(以下,「申立理由1」という。)
2.申立理由2
特許法第36条第6項第1号違反について,請求項1,2に用いられている用語「光拡散画像」は詳細な説明に記載されていない内容を含むものである。(以下,「申立理由2」)という。
3.申立理由3
特許法第36条第6項第1号,第2号違反について,請求項3に用いられている「光拡散フィルターを通して可視光を入射させ」との記載は,詳細な説明に記載されていない内容を含むものである。(以下,「申立理由3」という。)
4.申立理由4
特許法第29条の2の規定違反について,甲第1号証との関係で,本特許は取り消されるべきものである。(中略)甲第1号証の段落[0010]-[0018],[0454]-[1291](特に,段落[0454]-[0471],[0594]-[0597],[1222]-[1224])の記載及び関連する図面(特に,図311B)などに,本特許の請求項1-3,5-9の各々に記載の発明と同一の発明の開示がある。
よって,本特許の請求項1-3,5-9の各々に記載の発明は,甲第1号証との関係で,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものであり,そのため,本特許の請求項1-3,5-9の各々に記載の発明は,特許が取り消されるべきもの,である。(以下,「申立理由4」という。)

第4 申立ての理由についての判断
1.本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書(以下,「明細書」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,可視光通信に使用される可視光受信方法およびその装置に関し,特に,携帯情報端末,携帯電話機などのカメラ(デジタルカメラ或いはビデオカメラ)を備えた携帯端末などで好適に使用可能な可視光受信方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,可視光を通信媒体として用いる可視光通信が開発され,下記特許文献1などにおいて,照明光などの可視光を使用して可視光通信を行なう可視光通信装置が提案されている。(中略)
【0006】
そこで,従来,可視光通信を行なう可視光送信装置の光源となる照明用光源から照射される可視光,つまり送信される情報信号を重畳した可視光通信用の照明光を,携帯端末などのカメラで撮影し,その撮影された画像データを解析して,画像データに含まれるデータビット列を抽出し,データビット列から送信された情報信号データを復調する可視光通信装置が,下記特許文献2で提案されている。(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし,上記可視光通信装置は,例えば照明用光源を可視光源とする可視光通信装置の光源を,デジタルカメラ或いはビデオカメラで撮影し,照明用光源から照射される明るい可視光(光源の光)をカメラで直接撮影するため,必然的に,カメラの露光が画面全体で自動調整される。このために,撮影画像上の光源像は真っ白となり,白飛び状態となって撮影されてしまう。(中略)
【0010】
また,可視光を撮影したとき,撮影画像が白飛び状態とならない場合であっても,画像の輪郭線などが可視光送信データのノイズとして含まれるため,画像データから可視光送信データを正確に抽出することは困難である。(中略)
【0012】
このため,1/16秒から1/30秒という非常に時間軸の長い或いは長い時間間隔で画像データを撮影し,各フレーム毎の輝度値データに基づき,送信データのデータビット列を抽出することとなる。このため,仮に30フレーム/秒の速度で可視光画像を撮影した場合,1フレームに対し1サンプルのデータを取得し,1サンプルデータを約33m秒かけて抽出し,受信データの抽出は非常に低速となる。
【0013】
可視光通信装置は,通常,送信信号を,例えば4値PPM変調などの多値PPM変調を行なって送信信号を生成し,その送信信号をLEDが照射する可視光に重畳させて送信するが,この場合,PPM変調により生成される送信パルス信号の周波数は,例えばデータ転送速度が4.8kbpsの場合,約9.6KHzとなり,データビット列の単一のパルス幅は,約0.1ミリ秒という非常に短い時間軸の信号となる。このパルス幅は,カメラが撮影する画像の各フレーム時間に比して非常に短い時間である。
【0014】
このため,従来のカメラを使用した可視光受信装置では,カメラが撮影した被写体の輪郭線などを含む画像,或いは白飛び状態の画像データから画像処理により,受信データを抽出することが非常に難しいことに加え,可視光通信で送信される送信データ(例えばデータ転送速度4.8kbpsの場合,約9.6KHzの周波数信号)を,1フレーム対1サンプルの速度で取得するため,受信したデータを高速で抽出することはできない。
【0015】
本発明は,上述の課題を解決するものであり,汎用のカメラを備えた携帯端末等を使用して,可視光通信用の可視光を撮影し,可視光通信の情報信号を受信することができる可視光受信方法及び可視光受信装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0017】
なお,「結像しない画像」とは,カメラが捉える被写体の像がカメラの撮像素子上で結像しない,という意味であり,例えば,拡散フィルターを通る光の被写体画像,ピントをずらしたデフォーカス画像,集光用の光学系を通らない光の被写体画像などが「結像しない画像」である。また,カメラで拡散フィルターを通して或いは白色系のスクリーン状反射面を介して光源を撮影する場合,拡散フィルター或いはスクリーン状反射面に焦点が合った場合であっても,被写体となる光源は「結像しない画像」となる。また,カメラで拡散フィルターを通して或いは白色系のスクリーン状反射面を介して光源を撮影する場合,拡散フィルター或いはスクリーン状反射面に焦点が合った場合であっても,被写体となる光源は「結像しない画像」となる。
【0018】
この発明によれば,1フレームの画像データに含まれる情報信号の複数サンプルを1回の処理で抽出することができるので,従来に比べ,高速で送信データを受信することができる。また,撮像素子は光拡散画像を撮影するため,通常のカメラがレンズで被写体を結像して被写体画像を撮影する場合と比べ,結像画像の輪郭線などのノイズの影響を受けず,受信データを正確に抽出することができる。」

ウ 「【0041】
図1に示すように,カメラ10の光入射部に,結像用のレンズ13が配設され,レンズ13の内側に絞り機能を有するアイリス14が配置され,アイリス(虹彩絞り機構)14の内側に撮像素子11が配設され,レンズ13,アイリス14を通して撮影した画像の可視光を入射させる。アイリス14は,NDフィルター(減光フィルター)に代えて絞り機構とすることもできる。
【0042】
レンズ13の前には,可視光通信用に送信される可視光信号を受信するために,光拡散フィルター12が配置され,被写体からの光を拡散させてカメラ10に入射させ,拡散光でぼかした状態として可視光を撮影する。これにより,被写体の拡散光がカメラ10内に入射され,可視光通信用の可視光を投光する可視光送信機の投光器がスポットライトのような照明器具であったとしても,投光器の光源像が白飛びすることなく,さらに,被写体の明暗や輪郭線が縞模様の抽出に悪影響(ノイズ)を与えることなく,可視光通信用の可視光を撮影することができ,その画像中に縞模様,断続模様を明確に発生させることができる。
【0043】
光拡散フィルター12は,スリガラス或いは光拡散フィルム等の光拡散層を有する板ガラス或いはフィルムシートから構成され,可視光受信を行なう際,携帯端末1の外部に露出したレンズ13の外面に貼着して使用することができる。また,光拡散フィルター12は,携帯端末1内に移動可能に配設し,可視光受信を行なう際,スイッチ操作などにより,光拡散フィルター12が入射光路に入るように移動させ,カメラを通常の写真撮影に使用する際は,光拡散フィルター12を光路から外すように動かす構造とすることもできる。
【0044】
また,光拡散フィルター12は,印加電圧に応じて光拡散と光透過を切り替えるフィルム液晶から構成することもできる。フィルム液晶は,重ね合わせたフィルム内に例えばTN液晶を充填した薄く軽量化された液晶フィルターであり,通常時には,液晶を光透過状態とし,通常のカメラとしての使用を可能とし,可視光受信時には,印加電圧に応じて液晶を乳白色などの光拡散状態とする。このようなフィルム液晶は,光拡散と光透過を切り替え可能な光拡散フィルター12として,簡便に使用することができる。」

エ 「【0074】
携帯端末1の使用者は携帯端末1のカメラ10のレンズ13面に光拡散フィルター12を装着し,または光路内に光拡散フィルター12を位置させ,若しくは光拡散フィルター12を光透過状態から光拡散状態に変え,入射光を拡散させて撮像素子11に入射させるようにし,展示物を照明する可視光を撮影する(ステップ100)。このとき,可視光送信機の投光器つまり光源にカメラ10を向けて光源を撮影してもよく,カメラ10を投光器の光源により照明される展示物に向けて,或いは可視光が照射される壁面などにカメラを向けて撮影してもよい。この場合,投光器の光源はカメラ10の撮像素子11上に結像されず,撮像素子11は結像しない画像を撮影する。」

オ 「【0089】
なお,上記実施形態では,カメラ10に光拡散フィルター12を装着して,光拡散画像を画素アンプ順次出力式の撮像素子11により撮影したが,光拡散フィルターに代えて,フォーカスをずらした画像,つまり結像しないデフォーカス画像を撮影し,デフォーカス画像中に縞模様を生じさせることもできる。この場合,撮像素子11には,焦点がずれて結像しないデフォーカス画像を入射させて,そのデフォーカス画像を撮影し,撮像素子11上に生じたデフォーカス画像中に縞模様を発生させる。これによれば,デフォーカス画像であるため,被写体の輪郭線などが縞模様にノイズとして悪影響を与えることはなく,縞模様の発生状態に基づき情報信号を抽出し復調することができる。」

2.申立理由1について
(1)本件発明が解決しようとする技術課題について
本件発明は,明細書の記載からみて,可視光通信に使用される可視光受信方法に関し,特に,携帯情報端末,携帯電話機などのカメラを備えた携帯端末などで好適に使用可能な可視光受信方法に関し(上記アの段落【0001】),従来提案されている,可視光通信を行なう可視光送信装置の光源となる照明用光源から照射される可視光,つまり送信される情報信号を重畳した可視光通信用の照明光を,携帯端末などのカメラで撮影し,その撮影された画像データを解析して,画像データに含まれるデータビット列を抽出し,データビット列から送信された情報信号データを復調する可視光通信装置(同段落【0006】)において,上記可視光通信装置は,例えば照明用光源を可視光源とする可視光通信装置の光源を,デジタルカメラ或いはビデオカメラで撮影し,照明用光源から照射される明るい可視光(光源の光)をカメラで直接撮影するため,必然的に,カメラの露光が画面全体で自動調整され,このために,撮影画像上の光源像は真っ白となり,白飛び状態となって撮影されてしまう(同段落【0008】)という技術課題,及び,可視光を撮影したとき,撮影画像が白飛び状態とならない場合であっても,画像の輪郭線などが可視光送信データのノイズとして含まれるため,画像データから可視光送信データを正確に抽出することは困難である(同段落【0010】)という技術課題を解決し,汎用のカメラを備えた携帯端末等を使用して,可視光通信用の可視光を撮影し,可視光通信の情報信号を受信することができる可視光受信方法及び可視光受信装置を提供することを目的とする(同段落【0015】)発明であるといえる。
そして,上記技術課題を解決するために,本件発明1及び本件発明2は,「前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,」という構成を備え,これにより,本件発明は,被写体の拡散光がカメラ内に入射され,可視光通信用の可視光を投光する可視光送信機の投光器がスポットライトのような照明器具であったとしても,投光器の光源像が白飛びすることなく,さらに,被写体の明暗や輪郭線が縞模様の抽出に悪影響(ノイズ)を与えることなく,可視光通信用の可視光を撮影することができ,その画像中に縞模様,断続模様を明確に発生させることができ(上記ウの段落【0042】),受信データを正確に抽出することができる(上記イの段落【0018】)という効果を奏するものといえる。

(2)「光拡散画像」について
ここで,明細書に記載された実施形態における「光拡散画像」について検討すると,明細書には,以下の記載がある。(強調のため当審で下線を付与した。)
「「結像しない画像」とは,カメラが捉える被写体の像がカメラの撮像素子上で結像しない,という意味であり,例えば,拡散フィルターを通る光の被写体画像,ピントをずらしたデフォーカス画像,集光用の光学系を通らない光の被写体画像などが「結像しない画像」である。」(上記イの段落【0017】)
「レンズ13の前には,可視光通信用に送信される可視光信号を受信するために,光拡散フィルター12が配置され,被写体からの光を拡散させてカメラ10に入射させ,拡散光でぼかした状態として可視光を撮影する。」(上記ウの段落【0042】)
「光拡散フィルター12は,スリガラス或いは光拡散フィルム等の光拡散層を有する板ガラス或いはフィルムシートから構成され,可視光受信を行なう際,携帯端末1の外部に露出したレンズ13の外面に貼着して使用することができる。また,光拡散フィルター12は,携帯端末1内に移動可能に配設し,可視光受信を行なう際,スイッチ操作などにより,光拡散フィルター12が入射光路に入るように移動させ,カメラを通常の写真撮影に使用する際は,光拡散フィルター12を光路から外すように動かす構造とすることもできる。」(同段落【0043】)
「また,光拡散フィルター12は,印加電圧に応じて光拡散と光透過を切り替えるフィルム液晶から構成することもできる。」(同段落【0044】)
「携帯端末1の使用者は携帯端末1のカメラ10のレンズ13面に光拡散フィルター12を装着し,または光路内に光拡散フィルター12を位置させ,若しくは光拡散フィルター12を光透過状態から光拡散状態に変え,入射光を拡散させて撮像素子11に入射させるようにし,展示物を照明する可視光を撮影する(ステップ100)。」(上記エの段落【0074】)
「なお,上記実施形態では,カメラ10に光拡散フィルター12を装着して,光拡散画像を画素アンプ順次出力式の撮像素子11により撮影した…」(上記オの段落【0089】)
上記記載(特に,下線部)を総合すると,「光拡散画像」は,光拡散フィルターを用いて被写体からの光を拡散させ,拡散光でぼかした状態として被写体からの可視光を撮影した画像,すなわち上記イの段落【0017】に記載された「拡散フィルターを通る光の被写体画像」と解することができる。ここで,「拡散フィルター」は,実施形態の「光拡散フィルター」と同義である。

(3)「光拡散画像」と「デフォーカス画像」との関係について
明細書には,「光拡散画像を画素アンプ順次出力式の撮像素子11により撮影したが,光拡散フィルターに代えて,フォーカスをずらした画像,つまり結像しないデフォーカス画像を撮影し,デフォーカス画像中に縞模様を生じさせることもできる。」(上記オの【0089】)と記載されており,文章の構成上,撮影する画像として,「光拡散画像」と「デフォーカス画像」とがあり,「光拡散画像」は上記(2)で述べたとおり「拡散フィルターを通る光の被写体画像」であり,「デフォーカス画像」は「フォーカスをずらした画像」であることは明らかである。そして,異議申立人が主張するように,「「結像しない画像」は,上位概念に相当する用語として用いられ,この「結像しない画像」の中に,例えば,[1]光拡散フィルターを通る被写体画像,[2]ピントをずらしたデフォーカス画像,[3]集光用の光学系を通らない光の被写体画像,などが含まれる」(特許異議申立書5ページ最終段落。特許異議申立書に記載された「○」内に「1」等を配置した記号を「[1]」等と表す。以下同じ。)ことも明細書の記載(上記イの段落【0017】)から明らかであるから,[1]に対応する「光拡散画像」と[2]に対応する「デフォーカス画像」とは,明細書において「結像しない画像」の下位概念として,明確に区別されているといえる。
この解釈は,異議申立人が,審査経過を参酌した用語「光拡散画像」の解釈において,「この経緯からすると,用語「光拡散画像」は,上記(4-2-1)で述べた下位概念[2]「ピントをずらしたデフォーカス画像」を含まないと解釈されるべきものと考えられる」との主張とも整合する。

(4)申立理由1についての判断
申立理由1について検討するに,本件発明1及び本件発明2に用いられている用語「光拡散画像」は,上記(2)で述べたとおり「光拡散フィルターを通る光の被写体画像」のことであるから,「光拡散画像」の意味内容は明確であり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件に違反するものではない。

ここで,異議申立人は,申立ての理由の項中の「(4-2-1)明細書の記載に基づく用語「光拡散画像」の解釈」の項において,
「しかし,本件特許1,2の各々に用いられている用語「光拡散画像」が,上記の「下位概念[1]「光拡散フィルターを通る被写体画像」に相当するのか,また,上位概念「結像しない画像」に相当するのか,明細書の記載だけからは判然としない。そのため,用語「光拡散画像」が上位概念「結像しない画像」に相当すると解釈すれば,用語「光拡散画像」は下位概念[1]「光拡散フィルターを通る被写体画像」のみならず,下位概念[2]「ピントをずらしたデフォーカス画像」をも含むという解釈が成り立ち得る。」
と主張しているが,上記(2)で述べたとおり,「光拡散画像」は,[2]「光拡散フィルターを通る被写体画像」のことであり,上記(3)で述べたとおり,「結像しない画像」の下位概念であって,同じく「結像しない画像」の下位概念である[2]「ピントをずらしたデフォーカス画像」との違いは明確であるから,上記主張は採用できない。
同様の理由により,申立ての理由の項中の「(4-2-2)審査経過を参酌した用語「光拡散画像」の解釈」の項に記載した主張も採用できない。

よって,申立理由1によっては,本件発明1及び本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。

3.申立理由2について
申立理由2について検討するに,上記「2.(1)」の項で述べたとおり,本件発明1及び本件発明2は,「前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,」という構成を備えることで,同項で述べた技術課題を解決するものであり,発明の詳細な説明には,前記構成の態様として「光拡散フィルター」を用いる例(上記「2.(2)」の項の摘記事項を参照。)が記載されているから,本件発明1及び本件発明2は,発明の詳細な説明に記載された発明である。
よって,本件発明1及び本件発明2は,発明の詳細な説明に記載した発明であるから,特許法第36条第6項第1号の要件に違反するものではない。

ここで,異議申立人は,申立理由2について申立ての理由の項中の「(4-3)」の項において,請求項1及び2には,光拡散フィルター及び光拡散フィルターの設置位置が明記されていないため,本件発明1及び2には,明細書の発明の詳細な説明に記載していない,照明側に光拡散フィルターを設置する構成も含まれることになる旨主張している。
検討するに,本件発明1及び本件発明2には,上記技術課題を解決するための「前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,」という構成が反映されているから,「光拡散フィルター及び光拡散フィルターの設置位置が明記されていない」ことをもって,発明の詳細な説明に記載されていない発明であるということはできない。さらに,「光拡散画像」は,上記「2.(2)」の項で述べたとおり,「光拡散フィルターを通る光の被写体画像」であるから,前記「光拡散フィルター」が上記技術課題が解決できる位置に配置されていることは,当業者にとって自明のことである。

よって,申立理由2によっては,本件発明1及び本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。

4.申立理由3について
申立理由3について,本件発明3は,本件発明1又は本件発明2における「カメラ」を,さらに画素アンプ順次出力式撮像素子上に,「光拡散フィルターを通して」可視光を入射させ,該可視光の光拡散画像を撮影する点で,特定する発明であるから,上記「3.申立理由2について」の項と同様の理由により,発明の詳細な説明に記載した発明である。また,同項で述べたとおり,「光拡散フィルター」が上記技術課題が解決できる位置に配置されていることは,当業者にとって自明のことであるから,「光拡散フィルター」の設置位置が不明確であるとまではいえない。
したがって,本件発明3は,特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件に違反するものではない。

よって,申立理由3によっては,本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。

5.申立理由4について
申立理由4について,異議申立人は,本件発明1-3,5-9は,先願(特願2013-110446号(特開2014-212503号))の明細書及び図面(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり,かつ,本件特許に係る出願の発明者と先願の発明者が同一ではなく,本件特許に係る出願人が先願の出願人と同一でもないため,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである旨主張しているので,以下検討する。
まず,本件発明1について検討すると,異議申立人は,先願明細書等には,本件発明1に記載された各構成の記載順に以下の事項が記載され,そのうち下線部の事項が前記各構成に該当すると主張している。
「これにより,被写体の輝度変化によって送信される情報が,イメージセンサの露光ラインの露光によって取得されるため,例えば無線通信を行うための特別な通信デバイスを必要とすることなく,多様な機器間の通信を可能とすることができる。なお,露光ラインは,イメージセンサに含まれる,同時に露光する複数の画素からなる列または行である。また,輝線は,例えば後述の図79などによって示される撮像画像中に含まれる線である。」(段落【0014】)
「ステップ7340cで,前記輝線の明るい部分と暗い部分の差が大きくなるように受光素子の感度を設定する。次にステップ7340dでは,撮像モードをマクロ撮像モードにする。または,送信機に焦点を合わせるよりも焦点距離を短く設定する。これにより,送信機がぼやけて大きく撮像されることで,輝線が撮像される露光ラインを増やすことができる。」(段落【1222】)
「なお,発光部が大きく撮像されるほうが,伝送効率が高くなるため,送信装置は,図109のように,同期して発光する発光部を複数備えても良い。また,撮像素子の露光ラインと垂直の方向に大きく映るほど伝送効率は高くなるため,発光部は一列に並べて設置しても良い。また,受信装置を自然に構えた場合に露光ラインと垂直に発光部を並べても良い。また,複数の向きから撮像されることが予想される場合には,図110のように,十字形に発光部を配置しても良い。また,複数の向きから撮像されることが予想される場合には,図111のように,円形の発光部を用いたり,円形に発光部を配置したりしても良い。また,大きく撮像するほうが,伝送効率が高くなるため,送信装置は,図112のように,発光部に散光板をかぶせても良い。」(段落【0547】)
「本発明の受信方式では,受信機の撮像部に送信機の発光部が大きく撮像されるほど信号伝送効率が高いため,小さな電球や高い天井に備え付けられた照明を送信機の発光部とすると信号伝送効率が悪い。そこで,送信機7313aの照明光を,壁や,天井や,床や,照明の傘などに当て,その反射光7313bを受信機7313cで撮像することで,信号伝送の効率を高めることができる。」(段落【1248】)
「(発光部の輝度の観測) CMOSセンサ等の撮像素子は,1度に全ての画素の露光を行うのではなく,図78のように,ライン(露光ライン)ごとに時間差で露光を行い,1枚の撮像画像を完成させる。」(段落【0454】)
「これにより,被写体の輝度変化によって送信される情報が,イメージセンサの露光ラインの露光によって取得されるため,例えば無線通信を行うための特別な通信デバイスを必要とすることなく,多様な機器間の通信を可能とすることができる。なお,露光ラインは,イメージセンサに含まれる,同時に露光する複数の画素からなる列または行である。また,輝線は,例えば後述の図79などによって示される撮像画像中に含まれる線である。」(段落【0014】)
「これにより,ローリングシャッター方式の撮像が行われることによって生じる輝線が,画像内における各露光ラインに対応する位置に含まれるため,被写体から多くの情報を取得することができる。」(段落【0016】)
「ここで,前記情報取得ステップでは,前記輝線のパターンのうち,前記露光ラインに垂直な方向のパターンによって特定される前記データを復調してもよい。」(段落【0017】)
「この場合,1秒あたりのフレーム数(フレームレート)がf,1画像を構成する露光ライン数がlのとき,各露光ラインが一定以上の光を受光しているかどうかで情報を伝送すると,最大でflビット毎秒の速度で情報を伝送することができる。」(段落【0459】)

ここで,上記「2.(4)」の項で述べたとおり,本願明細書において,「光拡散画像」と「ピントをずらしたデフォーカス画像」とが明確に区別されているところ,本件発明1は,「前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,」という構成を備えている。
一方,先願明細書等の前記記載箇所により特定される発明(以下,「先願発明」という。)では,上記段落【1222】,及び,段落【0547】の記載からみて,「ピントをずらしたデフォーカス画像を撮影」していると認められるから,本件発明1とは,撮影する画像が異なる点で相違する。
したがって,本件発明1は先願発明と同一ではないから,本件発明1は,特許法29条の2の規定に違反するものではない。
なお,異議申立人は,申立理由4において,「CMOSイメージセンサ,64-67頁,コロナ社,発行日平成25年1月30日」(甲第2号証)を提示しているが,当該文献は「CMOSセンサの基本構成及び基本動作が出願前に周知であったこと。」(証拠説明書の「3 証拠の説明」の項)を示す文献であって,上記判断を左右するものではない。

同様に,本件発明2は,本件発明1と同様の「前記カメラは,画素アンプ順次出力式撮像素子上に,該可視光を入射させて,光拡散画像を撮影し,」という先願明細書等に記載されていない構成を備えている。
さらに,本件発明3,5-9は,前記本件発明1,2をさらに限定した発明であるから,同様の理由により,先願明細書等に記載されていない構成を備えている。

よって,周知の事項を勘案しても,本件発明1-3,5-9は,先願明細書等に記載された発明と同一ではないから,申立理由4並びに証拠である先願及び周知事項によっては,本件発明1-3,5-9に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1-3,5-9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1-3,5-9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-16 
出願番号 特願2013-185386(P2013-185386)
審決分類 P 1 652・ 161- Y (H04B)
P 1 652・ 537- Y (H04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後澤 瑞征  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6183802号(P6183802)
権利者 ユニバーリンク株式会社
発明の名称 可視光受信方法及びその装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
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