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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
管理番号 1341107
異議申立番号 異議2017-700794  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-15 
確定日 2018-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6080986号発明「C型複合繊維、それによるC型中空繊維、それを含む生地及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6080986号の請求項1?15に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6080986号の請求項1?15に係る特許についての出願は、平成26年8月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年8月2日、韓国(KR)、2013年11月8日、韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成29年1月27日にその特許権の設定登録がされた。
その後、請求項1?15に係る特許について、特許異議申立人安部さおり(以下、「申立人」という。)により、平成29年8月15日付けで特許異議の申立てがなされ、平成29年11月28日付けで取消理由が通知され、平成30年2月28日付けで意見書が提出された。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1?15に係る発明(以下「本件発明1?15」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
芯部及び前記芯部を覆う鞘部を含み、前記鞘部の横断面がC字状であり、前記芯部が鞘部の一側から外部に露出され、下記条件(1)?(4)を全部満たすC型複合繊維:
【数1】

但し、前記スリット角度(θ)は、芯部の中心と鞘部の不連続した両位置をそれぞれ連結した直線の間の角であり、
前記スリット間隔(d)は、鞘部の不連続した両位置間の距離(μm)であり、
偏心距離(s)は、C型複合繊維断面全体の中心と芯部中心間の距離(μm)であり、
R_(1)は、C型複合繊維の断面全体の直径(μm)であり、
R_(2)は、C型複合繊維の中芯部断面の直径(μm)を意味する。
【請求項2】
前記鞘部は、ポリエステル系及びポリアミド系のいずれか一つ以上の繊維形成成分を含み、
前記芯部は、テレフタル酸(TPA)を含む酸性分、エチレングリコール(EG)を含むジオール成分及びスルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩(DMSIP)を含むエステル化反応物とポリアルキレングリコールを縮・重合させた共重合体を含むポリエステル系溶出成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のC型複合繊維。
【請求項3】
前記芯部のポリエステル系溶出成分は、
1-1)テレフタル酸を含む酸性分及びエチレングリコールを含むジオール成分が、1:1.1?2.0のモル比で含まれ、前記テレフタル酸を含む酸性分及びスルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩の総モル数に対して、スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩を0.1?3.0モル%で含んでエステル化反応物を製造するステップと、
1-2)前記エステル化反応物100重量部に対して、ポリアルキレングリコールを7?14重量部を混合して、縮・重合を通して共重合体を製造するステップと、を含んで製造されることを特徴とする請求項2に記載のC型複合繊維。
【請求項4】
前記C型複合繊維は、下記条件(5)をさらに満たすことを特徴とする請求項1に記載のC型複合繊維。
【数2】

【請求項5】
C型中空繊維であって、前記中空繊維の横断面が開放されたスリットを含むC字状であり、下記条件(1)?(4)を全部満たすC型中空繊維:
【数3】

但し、前記スリット角度(θ)は、中空の中心と鞘部の不連続した両位置をそれぞれ連結した直線の間の角であり、
前記スリット間隔(d)は、鞘部の不連続した両位置間の距離(μm)であり、
偏心距離(s)は、C型中空繊維断面全体の中心と中空断面の中心間の距離(μm)であり、
R_(1)は、C型中空繊維の断面全体の直径(μm)であり、
R_(2)は、C型中空繊維の中空断面の直径(μm)を意味する。
【請求項6】
前記中空繊維は、ポリエステル系及びポリアミド系のいずれか一つ以上の成分を含むことを特徴とする請求項5に記載のC型中空繊維。
【請求項7】
前記中空繊維は、下記条件(5)をさらに満たすことを特徴とする請求項5に記載のC型中空繊維:
【数4】

【請求項8】
前記C型中空繊維は、半延伸糸(POY)、延伸糸(SDY)、仮撚糸(DTY)、エア加工糸(ATY)、エッジ捲縮糸(Edge Crimped yarn)及びインターレス糸(ITY)よりなる群から選ばれたいずれか一つであることを特徴とする請求項5に記載のC型中空繊維。
【請求項9】
請求項1に記載のC型複合繊維から芯部を溶出するステップを含むC型中空繊維製造方法。
【請求項10】
前記芯部を溶出するステップは、
1-1)糸染用ボビンに、C型複合繊維を1?10本合糸して、ソフト巻き(soft winding)するステップと、
1-2)前記糸染用ボビンに巻かれたC型複合繊維に対して、80?100℃で1?5重量%の水酸化ナトリウム水溶液を処理して、芯部を溶出するステップと、
を含んでなることを特徴とする請求項9に記載のC型中空繊維製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のC型複合繊維を含むC型複合繊維を含む生地。
【請求項12】
請求項5に記載のC型中空繊維を含むC型中空繊維を含む生地。
【請求項13】
(1)請求項1に記載のC型複合繊維を製造するステップと、
(2)前記複合繊維から芯部を溶出するステップと、
(3)前記芯部が溶出された中空繊維を含み、製織(weaving)または編成(knitting)して、生地を製造するステップと、
を含むC型中空繊維を含む生地の製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(3)は、中空繊維と異種の原糸が交織(mixed weaving)または交編(mixed knitting)されたことを特徴とする請求項13に記載のC型中空繊維を含む生地の製造方法。
【請求項15】
(1)請求項1に記載のC型複合繊維を製造するステップと、
(2)前記複合繊維を含み、製織(weaving)または編成(knitting)して、生地を製造するステップと、を含むC型複合繊維を含む生地の製造方法。

3.特許異議の申立てについて
(1)取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

《理由1》
本件発明1、4?9、11、12及び15は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
《理由2》
本件発明1?15は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《理由3》
本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


《刊行物》
1.野口章一郎,「最新の繊維技術レビュー」新快適軽量素材「キラット”丸R”」(合議体注:丸内に文字が記載されているものを”丸”書きで代用表記する。)シリーズ,繊維学会誌,繊維学会,平成7年4月10日,Vol.51,No.4,p.37-40
2.特開2003-27336号公報
3.特開平5-331737号公報
4.特開昭64-52839号公報
5.特開平7-278947号公報
6.特開昭57-95307号公報
7.特開昭57-82525号公報

刊行物1、2、3、4、5、6、7は、各々、特許異議申立書に添付された甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第1号証である。
刊行物1に記載された発明を、刊行物1発明といい、刊行物1?7に記載された事項を、各々、刊行物1記載事項?刊行物7記載事項という。

ア.理由1について
本件発明1、4?9、11、12及び15は刊行物1発明である。

イ.理由2について
本件発明1?15は、刊行物1発明、刊行物1記載事項?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.理由3について
(ア)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)違反及び同法第4項第1号(実施可能要件)違反に関して
特許請求の範囲における「芯部の中心」及び「芯部中心」、「C型複合繊維断面全体の中心」、「中芯部断面の直径」、「中空の中心」、「C型中空繊維断面全体の中心」、「中空断面の直径」、「中空断面の中心」及び「中空断面中心」なる語句について、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面には、その定義が記載されていない。
ゆえに、これらの語句が特定しようとする事項が不明確であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、これらの語句を発明特定事項とする本件特許の各請求項に係る発明を正確に理解し実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(イ)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反に関して
本件発明1?15は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、所望する効果を奏さないとされた比較例1?4を含むものであるところ、本件特許明細書の段落【0017】?【0019】に記載された課題を解決できないものをも含むものと解されるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)判断
ア.刊行物の記載事項
(ア)刊行物1
刊行物1には以下の事項が記載されている。
(a)「当社では,ポリエステル並びにナイロン長繊維でその中空率が30%を超える新原繊を開発し,この原繊を利用した新感性織編物を「キラット”丸R”」の名称で平成4年7月に’93春夏向けに発表した。」(第37頁左欄第18?21行)
(b)「「キラット”丸R”」用中空原糸製造の技術特徴
”丸1”紡糸時に中空を形作る方式では無く,溶出方式により染色加工工程で構成する繊維一本一本の中心部分を溶かし出す方式である、又,通常の染色・加工設備で容易に加工出来る(写真1)
”丸2”複合紡糸の芯鞘部の接合比率と形状を調整する事で,商品用途に応じた中空率並びに中空形状の設計が可能である。30%を超える大きな中空率が容易に得られる。
”丸3”中空化する前の原糸は通常のナイロン長繊維並びにポリエステルの物性と殆ど同じである為,POY-DYT等の仮撚加工が可能で,伸縮性・嵩高性を持った中空糸が得られる。」(第38頁左欄第3?14行)
(c)「「キラット”丸R”-N」原糸の中空化前後の断面写真」と題された写真1(第37頁「写真1」)における「中空化後」と題された右側写真と、上記(b)の記載事項から、中空化後の原糸の横断面がC字状であること、及び当該中空化後の原糸の中空率が30%を超えることが把握される。
(d)上記(b)の記載事項を踏まえると、上記写真1における「中空化前」と題された左側写真にある断面が略円形状の原糸は、中空化前の原糸であって、芯部及び前記芯部を覆う鞘部を含むことが把握される。
また、中空化後の原糸の横断面がC字状であること、上記(b)の「溶出方式により染色加工工程で構成する繊維一本一本の中心部分を溶かし出す方式である」及び「複合紡糸の芯鞘部の接合比率と形状を調整する事で,商品用途に応じた中空率並びに中空形状の設計が可能である。30%を超える大きな中空率が容易に得られる。」との記載事項及びからみて、上記中空化前の原糸の鞘部の断面形状がC字状であり、芯部の断面積率が30%を超えることが把握される。

上記(a)?(d)の記載事項を整理すると、刊行物1には、以下の刊行物1-1発明及び刊行物1-2発明が記載されているといえる。
《刊行物1-1発明》
「芯部及び前記芯部を覆う鞘部を含み、前記鞘部の断面形状がC字状であり、前記芯部が鞘部の一側から外部に露出され、芯部の断面積率が30%を超える、中空化前の原糸」

《刊行物1-2発明》
「原糸の横断面がC字状であり、中空率が30%を超える、中空化後の原糸」

(イ)刊行物2
刊行物2の段落【0014】、【0029】、【0030】、【0035】、【0036】、【0040】、【符号の説明】の記載事項及び【図4】より「5 アルカリ水易溶成分B」である芯部分と、「6 アルカリ減量処理後に残留する成分A」である鞘部分がC型である複合型繊維が把握されることを踏まえると、刊行物2には、鞘部が、ポリエステル系及びポリアミド系いずれか一つ以上の繊維形成成分を含み、芯部が、テレフタル酸(TPA)を含む酸性分、エチレングリコール(EG)を含むジオール成分及びスルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩(DMSIP)を含むエステル化反応物とポリアルキレングリコールを縮・重合させた共重合体を含むポリエステル系溶出成分を含む、C型複合繊維が記載されている。

(ウ)刊行物3
刊行物3の【請求項2】、段落【0004】、【0010】、【0022】?【0024】、【0025】、【0035】、【0037】【図2】及び【図3】の記載事項を踏まえると、刊行物3には、鞘部が、実質的にC字状の横断面形状を有する、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリウレタン系等の繊維形成性のポリマーであり、芯部が、テレフタル酸、ポリエチレングリコール及び5-スルホイソフタル酸ナトリウムの共重合ポリエチレンテレフタレート等の繊維形成性ポリエステル及び共重合体、変性体を含む、芯鞘型複合フィラメントが記載されている。

(エ)刊行物4
刊行物4の第2頁右上欄第6行?右下欄第10行、第3頁右下欄第1行?第4頁右上欄第13行及び第1図?第4図の記載事項を踏まえると、刊行物4には、鞘部が、C型横断面形状を有し、ポリエステルを鞘成分としており、芯部が、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコール及び3,5-ジ(カルボメトキシ)-ベンゼンスルホン酸Naを含むエステル化反応物の共重合体を含む、上記鞘成分よりもアルカリ溶解速度恒吸数が大きい熱可塑性重合体を芯成分とする、複合繊維が記載されている。

(オ)刊行物5
刊行物5の【請求項2】、段落【0014】及び【0035】等の記載からみて、刊行物5には、耐アルカリ性のポリマーを鞘成分とし、易アルカリ溶解ポリエステルを芯成分とする芯鞘複合繊維を、通常の方法で製織、製編して布帛とし、ついでアルカリ水溶液中に浸漬して複合繊維の芯成分であるポリエステルをほぼ100%分解溶出させ中空繊維となる中空繊維の製造方法が記載されている。

(カ)刊行物6
刊行物6の第1頁左下欄第18行?右下欄第4行及び第5頁右下欄第2?5行等の記載からみて、刊行物6には、繊維形成性のポリマーの鞘部と、それと溶解性または分解性の異なる芯部とよりなる複合繊維を、編織物や不織布などの織編構造物とした後で芯成分を少なくとも一部除去することが記載されている。

(キ)刊行物7
刊行物7の第1頁左下欄第5?17行、第2頁左下欄第4?14行、同頁右下欄第15?18行、第3頁右下欄第2?5行、第4頁左上欄第8?15行、同頁右下欄第12?15行、第5頁左下欄第14?16行、第6頁左下欄第4?17行、同頁右下欄の第1表、第7頁左上欄第1?8行、第1図?第6図、第9図?第12図及び第14図等の記載からみて、刊行物7には、ポリアクリルニトリル系、ポリアミド系及びポリエステル系等の繊維形成性成分からなる第1成分と、複合紡糸可能で第1成分とは溶解性又は分解性が異なる第2成分とよりなり、第2成分は、少なくとも10%の横断面積占有率(A)、20%以下の表面占有率(B)を有し、且つA/Bが2.5以上で、第1成分に対し凸部状に接合されることで、第1成分部分の横断面がC字状である複合繊維を、編物、織物、不織布、フェルト状等の繊維構造物の状態で処理して、第2成分の少なくとも1部を溶解又は分解除去し、繊維内部に空隙を生じせしめるようにして、吸水性繊維を製造することが記載されている。

イ.理由1について
(ア)本件発明1について
a.刊行物1-1発明
刊行物1-1発明は、上記3.(2)ア.(ア)に示したとおりである。

b.本件発明1と刊行物1-1発明との対比
本件発明1と刊行物1-1発明を対比すると、刊行物1-1発明の「中空化前の原糸」は、本件発明1の「C型複合繊維」に相当するから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明1は、以下の【数1】の条件(1)?(4)を全部満たすのに対し、刊行物1-1発明は、芯部の断面積率が30%を超えるものの上記条件(1)?(4)を満たすかが不明である点。
【数1】


c.相違点の検討
上記相違点1は、芯部と鞘部の関係を特定するものであり、単なる表現の差異等の形式的なものではなく、実質的な相違点であるから、本件発明1は、刊行物1-1発明であるとはいえない。
なお、申立人は、刊行物1-1発明に関して、「図として記載された複合形状から上記【数1】の条件(1)?(4)を満たすものであることが算出できる」旨を主張する(特許異議申立書の第12頁第5?7行及び第31頁下から5行?32頁末行を参照。)が、当該主張は、算出根拠の詳細、すなわち、写真2の矢印で示された繊維において、繊維断面全体の中心及び芯部の中心をどこと定めた上で、全体の直径(R_(1))、中芯部断面の直径(R_(2))、偏心距離(s)、スリット間隔(d)を算出したのかといった点が不明であるから、採用できない。

d.まとめ
よって、本件発明1は、刊行物1-1発明であるとはいえない。

(イ)本件発明4、9、11及び15について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4、9、11及び15は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。
したがって、本件発明4、9、11及び15は、上記3.(2)イ.(ア)で示した理由を踏まえると、刊行物1-1発明であるとはいえない。

(ウ)本件発明5について
a.刊行物1-2発明
刊行物1-2発明は、上記3.(2)ア.(ア)に示したとおりである。

b.本件発明5と刊行物1-2発明との対比
本件発明5と刊行物1-2発明を対比すると、刊行物1-2発明の「中空化後の原糸」は、本件発明5の「C型中空繊維」に相当するから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点2》
本件発明5は、以下の【数3】の条件(1)?(4)を全部満たすのに対し、刊行物1-2発明は、中空率が30%を超えるものの上記条件(1)?(4)を満たすかが不明である点。
【数3】


c.相違点の検討
上記相違点2は、中空繊維の横断面の形状を特定するものであり、単なる表現の差異等の形式的なものではなく、実質的な相違点であるから、本件発明5は、刊行物1-2発明であるとはいえない。
なお、申立人は、刊行物1-2発明に関して、「図として記載された複合形状から上記【数3】の(1)?(4)を満たすものであることが算出できる」旨を主張する(特許異議申立書の第12頁第5?7行、第31頁下から5行?32頁末行及び第34頁第11行?第35頁第1行を参照。)が、当該主張は、上記3.(2)イ.(ア)c.でも示したように、算出根拠の詳細が不明であるから、採用できない。

d.まとめ
よって、本件発明5は、刊行物1-2発明であるとはいえない。

(エ)本件発明6?8及び12について
本件発明5を直接又は間接的に引用する本件発明6?8及び12は、本件発明5の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。
したがって、本件発明6?8及び12は、上記3.(2)イ.(ウ)で示した理由を踏まえると、刊行物1-2発明であるとはいえない。

ウ.理由2について
(ア)本件発明1について
a.刊行物1-1発明
刊行物1-1発明は、上記3.(2)ア.(ア)に示したとおりである。

b.本件発明1と刊行物1-1発明との対比
本件発明1と刊行物1-1発明とは、少なくとも、上記3.(2)イ.(ア)b.で示した相違点1で相違する。

c.相違点の検討
刊行物1には、刊行物1-1発明の「中空化前の原糸」が上記【数1】の条件(1)?(4)を満たすべきとする示唆や動機付けとなる事項が記載されていない。
また、刊行物2?7には、C字状の鞘部分を有する芯鞘型の複合繊維について、上記【数1】の条件(1)?(4)を満たすべきことが記載されていないし、これを示唆する記載もない。
さらに、刊行物1?7及び特許異議申立書に添付され、取消理由で引用しなかった甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、参考資料1、参考資料2からみて、上記【数1】の(1)?(4)の条件を満たすC字状の鞘部分を有する芯鞘型の複合繊維が、本件特許の優先日前に周知であったとはいえない。
したがって、刊行物1-1発明の「中空化前の原糸」が上記【数1】の条件(1)?(4)を満たすようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
なお、申立人は、刊行物7(甲第1号証)の記載事項に関し、「図として記載された複合形状から上記【数1】の(1)?(4)を満たすものであることが算出できる」旨を主張する(特許異議申立書の第12頁第5?7行及び第23頁下から第12行?25頁第2行を参照。)が、当該主張の根拠とされる図14について、刊行物7には、第7頁左上欄第1?2行に「第14図、第15図及び第16図に夫々糸Y_(5)、Y_(7)及びY_(8)の横断面を示す。」と記載されているのみであり、同図をもとに前記Y_(5)、Y_(7)及びY_(8)の横断面の寸法等について記載されているわけではないことを踏まえると、刊行物7の記載からは、第14図が糸Y_(5)の横断面の第1成分部分1と第2成分部分2の寸法や位置関係を正確に記載したものと解すべき理由を見いだせないから、上記主張は採用できない。

d.まとめ
よって、本件発明1は、刊行物1-1発明及び刊行物1記載事項?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2?4、9?11、13?15について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?4、9?11、13?15は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。
したがって、本件発明2?4、9?11、13?15は、上記3.(2)ウ.(ア)で示した理由を踏まえると、刊行物1-1発明及び刊行物1記載事項?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明5について
a.刊行物1-2発明
刊行物1-2発明は、上記3.(2)ア.(ア)に示したとおりである。

b.本件発明5と刊行物1-2発明との対比
本件発明5と刊行物1-2発明とは、少なくとも、上記3.(2)イ.(ウ)b.で示した相違点2で相違する。

c.相違点の検討
刊行物1には、刊行物1-2発明の「中空化後の原糸」が上記【数3】の条件(1)?(4)を満たすべきとする示唆や動機付けとなる事項が記載されていない。
また、刊行物2?7には、C字状の中空繊維について、上記【数3】の条件(1)?(4)を満たすべきことが記載されていないし、これを示唆する記載もない。
さらに、刊行物1?7及び特許異議申立書に添付され、取消理由で引用しなかった甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、参考資料1、参考資料2からみて、上記【数3】の(1)?(4)の条件を満たすC字状の中空繊維が、本件特許の優先日前に周知であったとはいえない。
したがって、刊行物1-2発明の「中空化後の原糸」が上記【数3】の条件(1)?(4)を満たすようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
なお、申立人は、刊行物7(甲第1号証)の記載事項に関し、「図として記載された複合形状から上記【数3】の(1)?(4)を満たすものであることが算出できる」旨を主張する(特許異議申立書の第12頁第5?7行及び第23頁下から第12行?25頁第2行を参照。)が、上記3.(2)ウ.(ア)c.でも示したように、第14図が糸Y5の横断面の第1成分部分1と第2成分部分2の寸法や位置関係を正確に記載したものと解すべき理由を見いだせないから、上記主張は採用できない。

d.まとめ
よって、本件発明5は、刊行物1-2発明及び刊行物1記載事項?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明6?8及び12について
本件発明5を直接又は間接的に引用する本件発明6?8及び12は、本件発明5の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている。
したがって、本件発明6?8及び12は、上記3.(2)ウ.(ウ)で示した理由を踏まえると、刊行物1-2発明及び刊行物1記載事項?刊行物7記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ.理由3について
(ア)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)違反及び同法第4項第1号(実施可能要件)違反に関して
特許請求の範囲の請求項1及び5における「芯部の中心」及び「芯部中心」、「C型複合繊維断面全体の中心」、「中芯部断面の直径」、「中空の中心」、「C型中空繊維断面全体の中心」、「中空断面の直径」、「中空断面の中心」及び「中空断面中心」なる語句について、明細書、特許請求の範囲及び図面には、その定義が記載されていない。
しかし、一般に「直径」とは、「円、楕円、双曲線の中心を通り両端がその曲線上にある線分」(デジタル大辞泉)を意味することを踏まえると、上記「中芯部断面の直径」及び「中空断面の直径」は、「中心部」の「断面」及び「中空」部の「断面」が「円」または「楕円」とみなして差し支えない程度の形状を有し、各々の「断面」を「円」または「楕円」とみなした際のその「直径」を意味すると解するのが自然であり、また、上記「芯部」及び「中空」部分の「中心」とは、各々の「断面」を「円」または「楕円」とみなした際のその「中心」を意味すると解するのが自然である。
同様に、請求項1及び5において、「断面全体の直径」が発明特定事項とされている上記「C型複合繊維」、「C型中空繊維」についても、その断面が「円」または「楕円」とみなして差し支えない程度の形状を有するものと解すことができ、各々の「中心」とは、各々の「断面」を「円」または「楕円」とみなした際のその「中心」を意味すると解するのが自然である。
してみると、上記語句についての定義が明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されていないからといって、これらの語句が特定しようとする事項が不明確であり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、これらの語句を発明特定事項とする本件発明1?15を正確に理解し実施をすることができないとまではいえない。
したがって、上記語句についての定義が明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されていないことを理由として、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号の規定に違反するとはいえない。

(イ)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反に関して
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0205】の「<比較例1?4> 実施例1?4と同様に実施して製造しており、芯部をテレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)及びスルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩(DMSIP)を含むエステル化反応物とポリアルキレングリコールを縮重合させた共重合体を含むポリエステル系溶出成分の代りにKB SEIREN社製のBellpureを275℃で溶融して、複合紡糸を通してC型複合繊維、中空繊維及び生地を製造した。」との記載からみて、比較例1?4は、本件発明2の発明特定事項である「前記芯部は、テレフタル酸(TPA)を含む酸性分、エチレングリコール(EG)を含むジオール成分及びスルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩(DMSIP)を含むエステル化反応物とポリアルキレングリコールを縮・重合させた共重合体を含むポリエステル系溶出成分を含む」ものではないが、その余については、本件発明1及び5の実施例と解される実施例1?4と同様に製造されるものである。
そして、【0219】には「具体的に、下記表4?7を示されるように、実施例に比べて比較例の場合、紡糸途中、糸切れが生じる場合が多く発生した。特に、中空率(%)が本発明の条件(1)を満たしていない比較例6、スリット角度が本発明の条件(2)を満たしていない比較例7及び本発明の条件(4)を満たしていない比較例9の場合、紡糸容易性が良くないことが分かる。」と記載され、【0224】には「同じ中空率で比較した時、強度などに優れた実施例(実施例1?4参照)が比較例(比較例1?4参照)より製織性に優れていることを確認することができた。」と記載されている。
さらに、【表4】、【表6】及び【表7】の「紡糸容易性」及び「製織性」の欄からは、以下が看取される。
a.「紡糸容易性」の評価が〇であり、「製織性」の評価が1ないし2である比較例1?4は、「紡糸容易性」の評価が◎であり、「製織性」の評価が0である実施例1?4と比した場合、紡糸容易性及び製織性に劣ること。
b.比較例6、7及び9は、【0206】?【0209】の記載からみて、本件発明1及び5の実施例ではなく、「紡糸容易性」の評価が×であり、「製織性」の評価が「-」(製織不能)である例であるところ、上記比較例1?4は、上記比較例6、7及び9に比して紡糸容易性及び製織性に優れていること。
これらの事項をまとめると、比較例1?4は、本件発明1及び5の実施例といえるものであるとともに、本件発明2の奏する作用効果を評価するための比較例であるといえる。
一方、段落【0017】?【0019】には、本件発明1が解決すべき課題の一つとして「優れた強度を保持して、製造工程で複合繊維の変形、破壊がなく」、「従来の中空繊維に比べて向上された強度を有し、中空の変形、破壊が最小化され」ること(「以下、「課題A」という。」)が記載されているが、上記したように、本件発明1及び5の実施例といえる比較例1?4は、本件発明1及び5の実施例ではない比較例6、7及び9に比して紡糸容易性及び製織性に優れていることを踏まえると、比較例1?4が、「比較例」とされていることのみを理由に、本件発明1及び5が上記「課題A」を解決し得ないものを含むとはいえない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?4、9?11、13?15及び本件発明5を直接又は間接的に引用する本件発明6?8及び12についても、同様の理由により、上記「課題A」を解決し得ないものを含むとはいえない。
したがって、本件特許の各請求項に係る発明が比較例1?4を含むものであることを理由として、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するとはいえない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書第22頁下から5行?第31頁18行及び同書第37頁第15行?第41頁第6行において、以下を主張している。
ア.本件発明1、4?9、11、12及び15は、刊行物7に記載された発明であるか、刊行物7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.本件発明2は、刊行物7に記載された発明及び刊行物2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ.本件発明3は、刊行物7に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ.本件発明10、13及び14は、刊行物7に記載された発明及び刊行物5、6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ.本件発明1?15は、刊行物1?4、刊行物7,甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証に記載された周知技術と同一であるか、当該周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
しかしながら、上記3.(2)ウ.の(ア)c.及び(ウ)c.で示したように、刊行物1?7には、C字状の鞘部分を有する芯鞘型の複合繊維について、上記【数1】の条件(1)?(4)及び【数3】の条件(1)?(4)を満たすべきことが記載されていないし、これを示唆する記載もないし、刊行物1?7及び特許異議申立書に添付された甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証、参考資料1、参考資料2からみて、上記【数1】の条件(1)?(4)及び【数3】の条件(1)?(4)を満たすC字状の鞘部分を有する芯鞘型の複合繊維が、本件特許の優先日前に周知であったとはいえない。
また、甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証にも、C字状の鞘部分を有する芯鞘型の複合繊維について、上記【数1】の条件(1)?(4)及び【数3】の条件(1)?(4)を満たすべきことが記載されていないし、これを示唆する記載がない。
したがって、上記主張ア.?オ.は、いずれもその根拠を欠くものであり、採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、4?9、11、12及び15は、特許法第29第1項3号に該当せず、また、本件発明1?15は、同条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、それらの特許は、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。
また、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないとはいえず、さらに、特許請求の範囲の記載は、同法第6項第1号及び第2号の要件を満たしていないとはいえないから、それらの特許は、同法第113条第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件発明1?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-31 
出願番号 特願2015-561290(P2015-561290)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D01F)
P 1 651・ 537- Y (D01F)
P 1 651・ 121- Y (D01F)
P 1 651・ 536- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也平井 裕彰久保田 葵  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 渡邊 豊英
蓮井 雅之
登録日 2017-01-27 
登録番号 特許第6080986号(P6080986)
権利者 トーレ・ケミカル・コリア・インコーポレイテッド
発明の名称 C型複合繊維、それによるC型中空繊維、それを含む生地及びその製造方法  
代理人 岩池 満  
代理人 林 一好  
代理人 芝 哲央  
代理人 渡辺 仁  

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