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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1341109
異議申立番号 異議2017-701213  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2018-06-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6152458号発明「柑橘類果実様飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6152458号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6152458号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許は、平成28年8月12日に特許出願され、平成29年6月2日にその特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日:平成29年6月21日)がされ、その後、本件特許の請求項1ないし6に係る特許について、平成29年12月21日に特許異議申立人 末吉 直子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成30年2月28日付けで取消理由を通知し、平成30年5月7日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
柑橘類果実様飲料であって、
シトラールと、ノナナールとを含んでなり、
前記シトラールの含有量(mg/L)を「X」とし、
前記ノナナールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、以下の数式1及び数式2:
3≦X≦10 (数式1)
0.23≦Y≦0.43 (数式2)
である関係を満たすものである、柑橘類果実様飲料。
【請求項2】
前記数式1が、4.5≦X≦10であり、及び、
前記数式2が、0.23≦Y≦0.43である、請求項1に記載の柑橘類果実様飲料。
【請求項3】
劣化臭生成抑制剤又は劣化臭消臭剤をさらに含んでなる、請求項1又は2に記載の柑橘類果実様飲料。
【請求項4】
前記柑橘類果実様飲料のpHが、2以上7以下である、請求項1?3の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料。
【請求項5】
前記柑橘類果実様飲料が、アルコール飲料又はノンアルコール飲料である、請求項1?4の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料。
【請求項6】
柑橘類果実様飲料を製造する方法であって、
シトラールと、ノナナールとを混合してなり、
前記混合が、前記シトラールの含有量(mg/L)を「X」とし、
前記ノナナールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、以下の数式1及び数式2:
3≦X≦10 (数式1)
0.23≦Y≦0.43 (数式2)
である関係を満たすように行われる、柑橘類果実様飲料の製造方法。」

第3 証拠方法
1 申立人による証拠方法
申立人は、以下の証拠方法を提出している。
(1)甲第1号証:”Asahi SUPER REPORT 株主・投資家の皆様へ 2015年度の報告(2015.1.1?2015.12.31)”(アサヒスーパーレポート2016年春号)の印刷物,[online],アサヒグループホールディングス株式会社,[印刷日2017年12月12日],インターネット<URL:http://www.asahigroup-holdings.com/ir/pdf/busrep/2016/2016spring_all.pdf>
(2)甲第1号証の2:”株主通信”のウェブページの印刷物,[online],アサヒグループホールディングス株式会社,[印刷日2017年12月12日],インターネット<URL:http://www.asahigroup-holdings.com/ir/library/busrep.html>
(3)甲第2号証:個人投資家向け説明会資料「”企業価値向上経営”の深化を目指して」の印刷物,[online],2016年4月,アサヒグループホールディングス株式会社,[印刷日2017年12月12日],インターネット<URL:http://www.asahigroup-holdings.com/ir/event/pdf/presentation/160420.pdf>
(4)甲第2号証の2:”個人投資向け説明会”のウェブページの印刷物,[online],アサヒグループホールディングス株式会社,[印刷日2017年12月12日],インターネット<URL:http://www.asahigroup-holdings.com/ir/event/seminar2016.html>
(5)甲第3号証:ニュースリリース2016年,”「アサヒもぎたて」発売3週間で100万箱(※1)突破!”のウェブページの印刷物,[online],2016年4月26日,アサヒビール株式会社,[印刷日2017年11月24日],インターネット<URL:https://www.asahibeer.co.jp/news/2016/0426_1.html>
(6)甲第4号証:”缶チューハイのおいしさはどこで決まる?”のウェブページの印刷物,1ページ,[online],2016年4月5日,PRESIDENT Online,株式会社プレジデント社,[印刷日2017年12月15日],インターネット<URL:http://president.jp/articles/-/17753>
(7)甲第4号証の2:”缶チューハイのおいしさはどこで決まる?”のウェブページの印刷物,2ページ,[online],2016年4月5日,PRESIDENT Online,株式会社プレジデント社,[印刷日2017年12月15日],インターネット<URL:http://president.jp/articles/-/17753?page=2>
(8)甲第4号証の3:”缶チューハイのおいしさはどこで決まる?”のウェブページの印刷物,3ページ,[online],2016年4月5日,PRESIDENT Online,株式会社プレジデント社,[印刷日2017年12月15日],インターネット<URL:http://president.jp/articles/-/17753?page=3>
(9)甲第4号証の4:”缶チューハイのおいしさはどこで決まる?”のウェブページの印刷物,4ページ,[online],2016年4月5日,PRESIDENT Online,株式会社プレジデント社,[印刷日2017年12月15日],インターネット<URL:http://president.jp/articles/-/17753?page=4>
(10)甲第5号証:本件特許の平成28年10月18日付けで提出した特願2016-158817号の早期審査に関する事情説明書
(11)甲第6号証:特開2016-116493号公報
(12)甲第7号証:特開2007-39610号公報
(13)甲第8号証:特開2007-20433号公報
(14)甲第9号証:ニュースリリース2017,”新鮮の追求!「アサヒもぎたて」クオリティアップ!さらに”自然な果実感と飲み飽きない味わい”を実現”のウェブページの印刷物,[online],2017年1月6日,アサヒビール株式会社,[印刷日2017年12月12日],インターネット<URL:https://www.asahibeer.co.jp/news/2017/0106_4.html>
(15)甲第10号証:”アサヒグループ会社・事業所一覧”のウェブページの印刷物,[online],アサヒグループホールディングス株式会社,[印刷日2017年12月15日],インターネット<URL:http://www.asahigroup-holdings.com/company/group/>

2 特許権者による証拠方法
特許権者は、以下の証拠方法を提出している。
(1)乙第1号証:本件特許の平成28年9月12日付けで提出した新規性喪失の例外証明書提出書

第4 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし6に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 取消理由1(新規性)
本件発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4に係る発明であって、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(新規性)
本件発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた「アサヒもぎたて」に係る発明であって、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に該当するから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 取消理由3(進歩性)
本件発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4に係る発明並びに技術常識に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

5 取消理由5(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

6 取消理由6(明確性)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 甲各号証の記載
1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある。
ア 「アサヒもぎたて」、「発売予定2016年4月5日」、「収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用」、「作りたてのおいしさと新鮮な果実の味わいを実現」、「アルコール度数9%のしっかりした飲みごたえ」(いずれも10ページ中央上欄)

イ 缶の写真に表示された「もぎたて」、「24時間」、「レモン」(10ページ中央上欄)

ウ 「申込期限 平成28年3月31日(木)」(21ページ右枠内4ないし5行)

(2)甲1発明A
上記(1)によれば、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認める。
「収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用したアルコール度数9%の”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料。」

(3)甲1発明B
上記(1)によれば、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認める。
「”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料を製造する方法であって、収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用し、アルコール度数9%とする、”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料を製造する方法。」

2 甲第2号証について
(1)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の記載がある。
ア 「2016年4月」(表紙)

イ 「「アサヒもぎたて」4月5日(火)発売」、「収穫後24時間以内搾汁!」及び「高アルコール9%の飲みごたえ」(15ページ右上欄)

ウ 缶の写真に表示された「もぎたて」、「24時間」、「レモン」(15ページ右上欄)

(2)甲2発明A
上記(1)によれば、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲2発明A」という。)が記載されていると認める。
「収穫後24時間以内に搾汁した果汁を使用したアルコール度数9%の”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料。」

(3)甲2発明B
上記(1)によれば、甲第2号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲2発明B」という。)が記載されていると認める。
「”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料を製造する方法であって、収穫後24時間以内に搾汁した果汁を使用し、アルコール度数9%とする、”アサヒもぎたて”と称するレモン味の飲料を製造する方法。」

3 甲第3号証について
(1)甲第3号証の記載
甲第3号証には、以下の記載がある。
ア 「2016年4月26日」(右上)

イ 「アサヒビール株式会社(本社東京、社長平野伸一)が、4月5日(火)に発売したRTD^((※2))「アサヒもぎたて」ブランドの販売数量が、発売から3週間で100万箱を突破しました。」(2ないし3行)

ウ 「「アサヒもぎたて」は、収穫後24時間以内に搾汁された果汁のみを使用し、独自技術の「アサヒフレッシュキープ製法」^((※3))を採用することで、果実本来の香味成分の劣化を抑制し、つくりたてのおいしさと新鮮な果実の味わいを実現した缶チューハイです。」(6ないし8行)

エ 「(※3)果実本来の香味成分の劣化を抑制し、果実のフレッシュな味わいをキープする製法。特許出願中の独自技術を掛け合わせています。」(9行)

オ 「商品発売前に2万人のモニターを募集し、SNSによる情報拡散を活用」(11ないし12行)。

カ 「当社調べ^((※4))では、本商品のコアターゲットである30-40代のRTDユーザー層に加え、幅広い世代において、トライアルとリピートの双方を獲得しています。また、スッキリとした中にも甘味のある<ぶどう>フレーバーが、RTDに多様な味わいを求めるお客様のトライアルを獲得し、売上拡大に貢献しています。
(※4)発売2週における飲用経験率と継続購入意向率を調査。首都圏(1都3県)20-50代男女/n=1,000/調査期間:4月11-17日」(12ないし16行)

キ 缶の写真に表示された「もぎたて」、「24時間」、「レモン」

(2)甲3発明A
上記(1)によれば、甲第3号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲3発明A」という。)が記載されていると認める。
「収穫後24時間以内に搾汁された果汁のみを使用し、独自技術の「アサヒフレッシュキープ製法」を採用することで、果実本来の香味成分の劣化を抑制し、つくりたてのおいしさと新鮮な果実の味わいを実現した”アサヒもぎたて”と称するレモン味の缶チューハイ。」

(3)甲3発明B
上記(1)によれば、甲第3号証には、次の事項からなる発明(以下、「甲3発明B」という。)が記載されていると認める。
「”アサヒもぎたて”と称するレモン味の缶チューハイを製造する方法であって、収穫後24時間以内に搾汁された果汁のみを使用し、独自技術の「アサヒフレッシュキープ製法」を採用することで、果実本来の香味成分の劣化を抑制し、つくりたてのおいしさと新鮮な果実の味わいを実現する、”アサヒもぎたて”と称するレモン味の缶チューハイを製造する方法。」

4 甲第4号証ないし甲第4号証の4について
(1)甲第4号証ないし甲第4号証の4の記載
甲第4号証ないし甲第4号証の4には、以下の記載がある。
ア 「2016年4月5日(火)」(甲第4号証;右上)

イ 「アサヒビールがこの春発売する新ブランド「もぎたて」の商品開発チームリーダーに話を聞いた。」(甲第4号証;2ないし3行)

ウ 「2016年4月5日(火)」(甲第4号証の2;右上)

エ 「毎月3?4月は、各社からRTDの新商品が出そろう時期だ。2016年はキリンビールが「氷結プレミアム」、サントリースピリッツが「-196℃ 極キレ」とそれぞれの主力ブランドで新商品を発売する中、アサヒビールは缶チューハイの新ブランド「もぎたて」を投入する。」(甲第4号証の2;17ないし23行)

オ 「「もぎたて」は、レモン、グレープフルーツ、ぶどうの3種類。アルコール度数は9%と缶チューハイの中でもかなり高めで炭酸も強め、飲み応えのある仕上がりである。」(甲第4号証の3;2ないし5行)

カ 「「市場を牽引する高アルコールタイプのチューハイで、新鮮さを具現化した製品を作ろう」-そうしてできたのが「もぎたて」だ。」(甲第4号証の3;23ないし25行)

キ 「1つは、果実を収穫した後24時間以内に搾った果汁のみを使うこと。 ・・・中略・・・ レモンであれば48?72時間程度で搾汁するのが普通だが、「もぎたて」では収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用しているという。」(甲第4号証の4;4ないし14行)

ク 「もう1つのポイントは、製品を製造する工程での工夫である。天然素材のある素材を入れることで香味の劣化をできるだけ防ぐ「香味劣化抑制技術」と、通常よりも低温で殺菌することで果汁の香味成分をキープする低温殺菌技術を実現することにより、果汁の香味成分の劣化を最低限に抑制し、より新鮮な味わいを実現した。香味劣化抑制技術と低温殺菌技術については、何れも特許出願中で「もぎたて」にしか使われていない新技術だ。」(甲第4号証の4;15ないし23行)

ケ 「「もぎたて」は、宮广さんがおいしい缶チューハイの条件として挙げていた「後味にベタッと甘さが残らないことと、口に入れた瞬間の香りの強さ」という条件を満たしている。」(甲第4号証の4;24?25行)

コ 「「後味は工夫しました。あまりにもさっぱりしすぎると物足りないし、残しすぎるとベタッとした甘さになってしまうのです。もぎたてでは、果汁の香りはふんわり残して後味はスッときれるようなイメージにしました。また、口に入った瞬間の香りを強くするのはもちろん、缶を開けた瞬間に香りが広がります」(宮广さん)」(甲第4号証の4;26?29行)

サ 「「もぎたて」は4月5日に販売を開始する。」(甲第4号証の4;30行)

(2)甲4発明A
上記(1)によれば、甲第4号証ないし甲第4号証の4には、次の事項からなる発明(以下、「甲4発明A」という。)が記載されていると認める。
「収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用し、天然素材のある素材を入れることで香味の劣化をできるだけ防ぐ「香味劣化抑制技術」と、通常よりも低温で殺菌することで果汁の香味成分をキープする低温殺菌技術により、果汁の香味成分の劣化を最低限に抑制し、より新鮮な味わいを実現した、アルコール度数9%の”もぎたて”と称するレモン味の缶チューハイ。」

(3)甲4発明B
上記(1)によれば、甲第4号証ないし甲第4号証の4には、次の事項からなる発明(以下、「甲4発明B」という。)が記載されていると認める。
「”もぎたて”と称するレモン味の缶チューハイを製造する方法であって、収穫後24時間以内に搾汁した果汁のみを使用し、天然素材のある素材を入れることで香味の劣化をできるだけ防ぐ「香味劣化抑制技術」と、通常よりも低温で殺菌することで果汁の香味成分をキープする低温殺菌技術により、果汁の香味成分の劣化を最低限に抑制し、より新鮮な味わいを実現し、アルコール度数9%とする、”もぎたて”と称するレモン味の缶チューハイを製造する方法。」

5 甲第5号証について
甲第5号証には、以下の記載がある。
・「特許請求の範囲に記載された柑橘類果実様飲料(その製造方法で製造された柑橘類果実様飲料を含む)は、現在、製品名「アサヒもぎたて」(缶チューハイ)として製造され、販売されている。
よって、本願は、実施関連出願である。」(【早期審査に関する事情説明】の「1.事情」の欄)

6 甲第6号証について
甲第6号証には、以下の記載がある。
・「【0001】
本発明は、レモン果汁を含有する飲料に関し、より詳細には、果汁の含有率が少ないにもかかわらず、レモン果実らしいフレッシュさが感じられるレモン果汁含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
レモンをベースとする飲料は、レモン果実に特有の酸味や香りからくる爽快感により人気を博しており、様々な種類のレモンテイスト飲料が市販されている。レモン等の柑橘類果汁をベースとして容器詰飲料を製造する場合、保存性・衛生上の観点から、果汁は加熱殺菌処理せざるを得ないが、加熱殺菌及びその後の保存により、絞り立ての果汁が有していた本来のフレッシュな香気や香味は減少する。したがって、柑橘類果汁に特有の香気、香味を補うために、果汁に加えて、柑橘類果実のフレーバーを飲料に添加することが行われている。 ・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
柑橘類果実の中でも、レモンは、そのままで食することができないほどの強い酸味を有する果実であり、レモン果汁そのものを飲用することはできないから、レモンテイスト飲料を製造するに際しては、通常、レモン果汁のみではなく、レモン香料やレモンフレーバーを飲料に添加することにより、レモン果実の香味を再現することになる。しかしながら、少ないレモン果汁に従来のレモン香料やレモンフレーバーを加えたのみの場合には、フレッシュさや力強い香味が少ない、いわゆる「本物のレモンらしさ」に欠ける飲料になってしまうという問題があった。本発明は、果汁の含有率が少ないにもかかわらず、レモン果実らしい爽やかさや、レモン果皮を剥いたときのようなフレッシュな香気が感じられる、本格的なレモンらしさを有する飲料を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、果汁率が1?30%となる低濃度の果汁を含み、リナロール、ノナナール、及びデカナールからなる群から選択される1種以上の香気成分を含むレモン果汁含有飲料において、サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンからなる群より選択されるフェニルプロペン類物質のうちの少なくとも1種を1ppb以上含有させることにより、飲料のレモンらしさを向上させることができることを見出した。サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンは、シナモンやナツメグに含まれるようなややスパイシーな香気成分であり、いわゆるレモンに特徴的な香気成分ではない。このようなレモンとは異なる香気成分により、飲料の「レモンらしさ」が向上することは、意外な結果であった。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
[1](a)リナロール、ノナナール、及びデカナールからなる群から選択される1種以上の香気成分を含有し、
(b)サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンからなる群から選択されるフェニルプロペン類物質のうちの少なくとも1種を1ppb以上含有し、
果汁率が1%以上30%以下である、レモン果汁含有飲料。
[2]リナロール、ノナナール、及びデカナールの合計量を(a)とし、サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンの合計量を(b)としたときに、(b)/(a)(重量比)が10以下である、[1]に記載の飲料。
[3]さらにヌートカトンを含有する、[1]または[2]に記載の飲料。
[4]酸度(クエン酸換算)が0.6%以下である、[1]?[3]のいずれか1項に記載の飲料。
[5]糖酸比が10?40である、[1]?[4]のいずれか1項に記載の飲料。
[6]飲料の果汁率のうち、レモン果汁の果汁率の割合が50%以上である、[1]?[5]のいずれか1項に記載の飲料。
【発明の効果】
【0006】
1%以上30%以下の果汁率であり、リナロール、ノナナール、及びデカナールからなる群から選択される1種以上のレモンに代表される香気成分を含有するレモン果汁含有飲料において、サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンからなる群より選択されるフェニルプロペン類物質のうちの少なくとも1種を1ppb以上含有させることにより、レモン果実らしい爽やかさ、レモン果皮を剥いたときのフレッシュな香りといった本格的な「レモンらしさ」を飲料に付与することができる。上記のフェニルプロペン類物質は、シナモンやナツメグなどに含まれるややスパイシーな成分であり、いわゆるレモンに特徴的な香気成分ではないが、このようなレモンの香気成分とは異なる成分により、飲料の「レモンらしさ」が向上することは、意外な結果である。また、レモンなどの柑橘類果実に特徴的な香気成分は、加熱殺菌処理や保存中に減少及び変化してレトルト臭、イモ臭とも呼ばれる劣化臭や異風味が発現し、飲料の果実のフレッシュさが低下することが知られているところ(特許文献1)、本発明の飲料は、果汁の含有量が少ないため、柑橘類果汁の劣化による劣化臭が感じられにくく、また、スパイシーな香気成分であるフェニルプロペン類物質により飲料の爽やかさが維持されて、フレッシュさが感じられやすいという効果を有する。」(段落【0001】ないし【0006】)

・「【0008】
(レモン様の香気成分)
本発明の飲料は、リナロール、ノナナール、及びデカナールからなる群から選択される1種以上の香気成分を含む。リナロールは、分子式C_(10)H_(18)Oで表されるモノテルペンアルコールの一種であり、ローズウッドやラベンダーの精油に多く含まれる香気成分であるが、柑橘類果実にも含まれている。ノナナールは、分子式C_(9)H_(18)Oで表されるアルデヒドの一種であり、レモンやライムの精油に含まれるフローラルな香りを有する香気成分である。デカナールは、分子式C_(10)H_(20)Oで表されるアルデヒドの一種であり、グレープフルーツやレモングラスの精油に含まれる柑橘類果実の香りを有する香気成分である。リナロール、ノナナール、及びデカナールは、いずれも、レモンフレーバーを用いた市販の飲料中によく見られる成分である。」(段落【0008】)

7 甲第7号証について
甲第7号証には、以下の記載がある。
・「【0002】
レモンフレーバーは、例えば、炭酸飲料やチューハイにおいて、最も好まれる香りであり、炭酸飲料などの各種飲食品に柑橘類の風味を付与増強するために用いられている。
【0003】
シトラールは、柑橘系フレーバー、特にレモンフレーバー中の主要香気成分であり、レモン様のフレッシュな香気を付与するための重要な香気成分である。しかしながら、シトラールは不安定で、酸性条件下では酸触媒反応により環化または酸化反応を起こし、分解される。それに伴い、レモン様のフレッシュ感が消失するとともに、これらの環化、酸化生成物がオフフレーバーとなり、フレーバーとしての寿命が短くなることが知られている。」(段落【0002】及び【0003】)

・「【0014】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、レモンフレーバー、特にその主要香気成分であるシトラールからオフフレーバーの原因物質であるp-メチルアセトフェノン等が生成されるシトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止して、シトラール由来の劣化臭の発生を抑制することができる方法およびその飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、シトラールからオフフレーバーの原因物質であるp-メチルアセトフェノン等の生成を抑制するのではなく、シトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止することについて鋭意研究を行なった結果、クエン酸カリウムをレモンフレーバー含有飲料に添加して飲料のpHを上げることで該飲料の味覚を損ねることなく、シトラールの分解そのものを抑制することが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。
【0016】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0017】
(1) レモンフレーバーを含有する飲料にクエン酸カリウムを添加して、前記飲料のpHを調整することを特徴とするレモンフレーバーの香気劣化抑制方法。
【0018】
本発明によれば、レモンフレーバー含有飲料のpHが中性領域側に調整され、水溶液中の水素イオンが減少することになり、レモンフレーバーの香気成分であるシトラールの環化反応が阻止されて、その後の水和、酸化反応により生成されるp-サイメンやジメチルスチレン、p-メチルアセトフェノンの悪臭物質の発生が抑制される。これによって、レモンフレーバー含有飲料は、長期間レモン様のフレッシュ感が維持されて品質の低下が阻止される。」(段落【0014】ないし【0018】)

8 甲第8号証について
甲第8号証には、以下の記載がある。
・「【0001】
本発明は、飲料等に果実本来の香りを付与できる風味強化果汁およびその製造方法に関し、特に、チューハイ等の強い香り立ちが求められる飲料に好適に用いることができる風味強化果汁およびその製造方法に関する。」(段落【0001】)

・「【0010】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、合成香気成分を調合した合成香料にありがちな特徴香が突出したバランスの悪さを是正し、果実本来の調和のある香りを飲料等に付与することができる力価の高い風味強化果汁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、果汁に合成香気成分を調合してなる合成香料を添加し、これをホモジナイズして果汁中に均質分散させることで、柑橘系果実本来の調和のある香りを有し、また、添加量1/100以下と力価の高い風味強化果汁が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0010】及び【0011】)

・「【0031】
本発明の風味強化果汁は、果汁に合成香気成分やリモネンを添加し、ホモジナイズして果汁中に合成香気成分、リモネンを均質に分散させることによって得られる。
【0032】
本発明の風味強化果汁のベースとなる果汁は、柑橘類、リンゴ、梨、ブドウ、パイナップル等各種の果汁が適宜使用されるが、柑橘類の果汁がより好ましい。柑橘類としては、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、伊予柑、八朔、夏柑、甘夏柑、温州蜜柑、レモン、スダチ、キンカン、ザボン、オレンジ等が例挙される。」(段落【0031】及び【0032】)

・「【0033】
本発明において合成香気成分としては、柑橘類等の果実の香気成分を分析して、特徴的な香気成分を明らかにして、これらの香気成分をイソプレン、ベンゼン、スチレン、アセチレン、カテコール、テラピン油などの石油化学工業やパルプ工業などから安価で大量に得られる基礎的化学製品を原料として、科学的手段で合成した炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、フェノールエーテル類、ラクトン類、キノン類、各種有機酸等である。また、多くの成分の複雑な混合体である天然精油から蒸留、冷凍分離、化学処理などの方法で分離したもの(例えば、柑橘油(オレンジ油、みかん油)から得られるd-リモネン、薄荷油から得られるl-メントール、シトロネラ油から得られるシトロネラール等)や市販の着香料も適宜使用可能である。この合成香気成分は単用または併用して、柑橘類等の果実の香りと同じ香りを呈するように調合されて用いられる。例えば、柑橘類のグレープフルーツ様合成香料としては、αターピネオール、グレープフルーツメルカプタン、スチラリルイソブチレート、リナロールネロール、グラニオール、ゲラニアール、ノナナール、ネリルアセテート、ゲラニルアセテート等の合成香気成分を所定割合で配合して調製される。尚、合成香気性成分としては、天然香料の香気性成分と全く同じ化合物を化学的に合成したものや天然香料の成分中には見出されていないが、香りが非常によく似ている化合物の合成および独特の香気を持つ全く新しい有香物質の合成品も含むものとする。」(段落【0033】)

・「【0053】
<実施例1>
先ず、合成香気成分として、αターピネオール、グループフルーツメルカプタン、スチラリルイソブチレート、リナロールネロール、ゲラニオール、ゲラニアール、ノナナール、ネリルアセテート、ゲラニルアセテートを55%エタノール溶液に総量で2質量%添加して溶解し、力価1/10万のグレープフルーツ様の香りを呈するアルコール合成香料Aを作成する。
【0054】
次いで、グレープフルーツ6倍濃縮混濁果汁に、上記のアルコール合成香料Aを1質量%添加し、高速ホモミキサーを使用して3000rpmの条件で15分間、攪拌ホモジナイズしたあと、高圧ホモジナイザーで250kg/cm^(2)の圧力で、更に微細、均一化し、合成香気成分が果汁中に均質に分散され、安定化されたグレープフルーツ風味強化果汁を得た。」(段落【0053】及び【0054】)

・「【0056】
そして、得られた風味強化果汁をチューハイに1質量%加えることにより、フレッシュな香気のグレープフルーツ風味のチューハイを得ることができた。」(段落【0056】)

9 甲第9号証について
甲第9号証には、以下の記載がある。
・「ニュースリリース2017年」

・「2017年1月6日」、「アサヒビール株式会社」(右上)

・「アサヒビール株式会社(本社 東京、社長 平野伸一)はRTD(※1)の主力ブランド「アサヒもぎたて」の基幹4フレーバー<まるごと搾りレモン><まるごと搾りグレープフルーツ><まるごと搾りぶどう><まるごと搾りオレンジライム>(各缶500ml・缶350ml)の中味とパッケージをクオリティアップし、2017年4月4日(火)より全国で発売します。」(1ないし3行)

・「「アサヒもぎたて」は、2016年4月の発売以来、”自然な果実感が楽しめる高アルコールRTD”としてお客様に高く支持いただき、2016年の年間販売数量は約1.2倍となる700万箱(※2)でした。」(5及び6行)

10 甲第10号証について
甲第10号証には、以下の記載がある。
・「沖縄アサヒ販売(株)
沖縄県における種類の卸・販売を行っています。」(「酒類事業」の欄)

第6 判断
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明Aとの対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点A1」という。)で相違する。
[相違点A1]
本件発明1は、「シトラールと、ノナナールとを含んでなり、
前記シトラールの含有量(mg/L)を「X」とし、
前記ノナナールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、以下の数式1及び数式2:
3≦X≦10 (数式1)
0.23≦Y≦0.43 (数式2)
である関係を満たすものである」(この発明特定事項を、以下、「特定事項A」という。)のに対して、甲1発明Aは、そのような特定事項Aを有するか不明である点。

(イ)本件発明1と甲2発明Aとの対比
本件発明1と甲2発明Aとを対比すると、
本件発明1は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点A2」という。)で相違する。
[相違点A2]
本件発明1は、特定事項Aを有するのに対して、甲2発明Aは、そのような特定事項Aを有するか不明である点。

(ウ)本件発明1と甲3発明Aとの対比
本件発明1と甲3発明Aとを対比すると、
本件発明1は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点A3」という。)で相違する。
[相違点A3]
本件発明1は、特定事項Aを有するのに対して、甲3発明Aは、そのような特定事項Aを有するか不明である点。

(エ)本件発明1と甲4発明Aとの対比
本件発明1と甲4発明Aとを対比すると、
本件発明1は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点A4」という。)で相違する。
[相違点A4]
本件発明1は、特定事項Aを有するのに対して、甲4発明Aは、そのような特定事項Aを有するか不明である点。

イ 相違点A1ないしA4の検討
上記相違点A1ないしA4について検討する。
甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4には、シトラールとノナナールについて何ら記載されておらず、特定事項Aを示唆する記載はない。
そして、果汁にシトラール(レモン等)やノナナール(スターフルーツ等)が含まれているとしても、甲1発明Aないし甲4発明Aのいずれかにおいて、特定事項Aを有することが明らかであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明Aないし甲4発明Aのいずれかと同一であるとはいえず、特許法第29条第1項3号に掲げる発明に該当しない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由により、甲1発明Aないし甲4発明Aのいずれかと同一であるとはいえず、特許法第29条第1項3号に掲げる発明に該当しない。

(3)本件発明6について
ア 対比
(ア)本件発明6と甲1発明Bとの対比
本件発明6と甲1発明Bとを対比すると、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点B1」という。)で相違する。
[相違点B1]
本件発明6は、「シトラールと、ノナナールとを混合してなり、
前記混合が、前記シトラールの含有量(mg/L)を「X」とし、
前記ノナナールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、以下の数式1及び数式2:
3≦X≦10 (数式1)
0.23≦Y≦0.43 (数式2)
である関係を満たすように行われる」(この発明特定事項を、以下、「特定事項B」という。)のに対して、甲1発明Bは、そのような特定事項Bを有するか不明である点。

(イ)本件発明6と甲2発明Bとの対比
本件発明6と甲2発明Bとを対比すると、
本件発明6は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点B2」という。)で相違する。
[相違点B2]
本件発明6は、特定事項Bを有するのに対して、甲2発明Bは、そのような特定事項Bを有するか不明である点。

(ウ)本件発明6と甲3発明Bとの対比
本件発明6と甲3発明Bとを対比すると、
本件発明6は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点B3」という。)で相違する。
[相違点B3]
本件発明6は、特定事項Bを有するのに対して、甲3発明Bは、そのような特定事項Bを有するか不明である点。

(エ)本件発明6と甲4発明Bとの対比
本件発明6と甲4発明Bとを対比すると、
本件発明6は、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点B4」という。)で相違する。
[相違点B4]
本件発明6は、特定事項Bを有するのに対して、甲4発明Bは、そのような特定事項Bを有するか不明である点。

イ 相違点B1ないしB4の検討
上記相違点B1ないしB4について検討する。
甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4には、シトラールとノナナールについて何ら記載されておらず、特定事項Bを示唆する記載はない。
そして、果汁にシトラール(レモン等)やノナナール(スターフルーツ等)が含まれているとしても、甲1発明Bないし甲4発明Bのいずれかにおいて、特定事項Bを有することが明らかであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明6は、甲1発明Bないし甲4発明Bのいずれかと同一であるとはいえず、特許法第29条第1項3号に掲げる発明に該当しない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし6は、特許法第29条第1項3号に掲げる発明に該当しないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

2 取消理由2(特許法第29条第1項第2号)について
(1)具体的な取消理由
取消理由2は、概略、以下のとおりである。
ア 「甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証?甲第4号証の4に記載されている「アサヒもぎたて」の発明(引用発明)は、甲第5号証に記載されているとおり、「特許請求の範囲に記載された柑橘類果実様飲料(その製造方法で製造された柑橘類果実様飲料を含む)」であるから、引用発明と、本件発明1ないし5は同一である。
なお、甲第5号証は、本件特許の出願日(平成28年8月12日)後である平成28年10月18日に提出されたものであるが、甲第9号証に記載のとおり、「アサヒもぎたて」の販売後最初のリニューアルは2017年4月4日(発売日)であるので、甲第5号証で言及されている「アサヒもぎたて」と甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証?甲第4号証の4に記載されている「アサヒもぎたて」の内容は同一である。
また、「(2)手続の経緯」で記載した通り、甲第5号証の提出日後に特許請求の範囲に係る補正は行われていない。」(特許異議申立書12ページ11ないし23行)

イ 「すなわち、本件発明6は、シトラール及びノナナールの混合する順序は問わない発明である。」(特許異議申立書13ページ2及び3行)

ウ 「また、甲第3号証には、「アサヒもぎたて」について、「商品発売前に2万人のモニターを募集し、SNSによる情報拡散を活用」(甲第3号証11行?12行)したことが記載されている。上記の2万人のモニターは、特段の限定もなく募集されており、またSNSによる情報拡散を行い得る者であるから、秘密保持義務を有するものではない。よって、「アサヒもぎたて」は、甲第3号証が掲載された2016年4月26日の前には、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされていた(以下「実施事実1」ともいう。)。
さらに、甲第3号証には、「アサヒビール(株)は、・・・「アサヒもぎたて」を発売」(甲第3号証10行?11行)、「発売2週における飲用経験率と継続購入意向率を調査。首都圏(1都3県)20-50代男女/n=1,000/調査期間:4月11-17日」(甲第3号証16行)と記載されているため、「アサヒもぎたて」は、遅くとも4月11-17日には、首都圏で販売されており、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされていた(以下「実施事実2」ともいう。)。
したがって、「アサヒもぎたて」は、本件特許の出願日前に公然実施されていたものである。
そして、実施事実1及び実施事実2のある「アサヒもぎたて」の発明(引用発明)と、本件発明1ないし6は、上述したとおり同一であるので、本件発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(特許法第29条第1項第2号に掲げる発明)に該当し、新規性を有しない。」(特許異議申立書13ページ7ないし26行)

(2)公然実施された発明
甲第3号証に記載された事項により本件特許の出願前に販売されたと認められる甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4に係る「アサヒもぎたて」について、販売時の香気成分及びその含有量を具体的に示す証拠はなく、シトラールの含有量及びノナナールの含有量は不明である。
そして、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4の記載を総合すると、本件特許の出願前に公然実施された甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4に係る「アサヒもぎたて」の発明(以下、「実施発明1」という。)及び「アサヒもぎたて」を製造する方法の発明(以下、「実施発明2」という。)は、それぞれ以下の事項からなるものと認められる。
ア 実施発明1
「果汁を使用した、アルコール度数9%のレモン味の缶チューハイ。」

イ 実施発明2
「レモン味の缶チューハイを製造する方法であって、果汁を使用し、アルコール度数9%とする、レモン味の缶チューハイを製造する方法。」

(3)対比・検討
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と実施発明1とを対比すると、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点C」という。)で相違する。
[相違点C]
本件発明1は、特定事項Aを有するのに対して、実施発明1は、そのような特定事項Aを有するか不明である点。

(イ)相違点Cの検討
上記相違点Cについて検討する。
果汁にシトラール(レモン等)やノナナール(スターフルーツ等)が含まれているとしても、実施発明1において、特定事項Aを有することが明らかであるとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、実施発明1と同一であるとはいえず、特許法第29条第1項2号に掲げる発明に該当しない。

イ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由により、実施発明1と同一であるとはいえず、特許法第29条第1項2号に掲げる発明に該当しない。

ウ 本件発明6について
(ア)対比
本件発明6と実施発明2とを対比すると、両者は少なくとも次の点(以下、「相違点D」という。)で相違する。
[相違点D]
本件発明6は、特定事項Bを有するのに対して、実施発明2は、そのような特定事項Bを有するか不明である点。

(イ)相違点Dの検討
上記相違点Dについて検討する。
果汁にシトラール(レモン等)やノナナール(スターフルーツ等)が含まれているとしても、実施発明2において、特定事項Bを有することが明らかであるとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明6は、実施発明2と同一であるとはいえず、特許法第29条第1項2号に掲げる発明に該当しない。

エ 甲第5号証に記載された事項について
申立人は、上記(1)アに示すように、甲第5号証に記載された「特許請求の範囲に記載された柑橘類果実様飲料(その製造方法で製造された柑橘類果実様飲料を含む)は、現在、製品名「アサヒもぎたて」(缶チューハイ)として製造され、販売されている。」との事項(以下、「甲5記載事項」という。)に基づき、実施発明1と、本件発明1ないし5が同一であると主張するが、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証ないし甲第4号証の4に係る「アサヒもぎたて」について、販売時の香気成分及びその含有量を具体的に示す証拠はないのであるから、甲5記載事項から直ちに本件発明1ないし5と実施発明1が同一とはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1ないし6は、特許法第29条第1項2号に掲げる発明に該当しないから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

3 取消理由3(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明Aないし甲4発明Aとの対比については、上記1(1)アに示したとおりである。

イ 相違点A1ないしA4の検討
上記相違点A1ないしA4について検討するにあたり、技術常識の例証として挙げた甲第6号証ないし甲第8号証について、特定事項Aが記載されているか以下に検討する。
(ア)甲第6号証について
甲第6号証には、その段落【0008】において、「ノナナールは、分子式C_(9)H_(18)Oで表されるアルデヒドの一種であり、レモンやライムの精油に含まれるフローラルな香りを有する香気成分である。 ・・・中略・・・ リナロール、ノナナール、及びデカナールは、いずれも、レモンフレーバーを用いた市販の飲料中によく見られる成分である。」と記載されているように、ノナナールをレモンの香気成分を含有する飲料に用いることが示されている。
しかしながら、甲第6号証には、その段落【0005】において、「本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、果汁率が1?30%となる低濃度の果汁を含み、リナロール、ノナナール、及びデカナールからなる群から選択される1種以上の香気成分を含むレモン果汁含有飲料において、サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンからなる群より選択されるフェニルプロペン類物質のうちの少なくとも1種を1ppb以上含有させることにより、飲料のレモンらしさを向上させることができることを見出した。」と記載されているように、飲料のレモンらしさを向上させるために、レモン果汁含有飲料において、ノナナールを含むだけではなく、サフロール、メチルオイゲノール、及びミリスチシンからなる群より選択されるフェニルプロペン類物質のうちの少なくとも1種を1ppb以上含有させることが示されているのであって、シトラールの含有量とノナナールの含有量とが所定の関係となるようにした特定事項Aは記載も示唆もされていない。

(イ)甲第7号証について
甲第7号証には、その段落【0003】において、「シトラールは、柑橘系フレーバー、特にレモンフレーバー中の主要香気成分であり、レモン様のフレッシュな香気を付与するための重要な香気成分である。」と記載されている。
しかしながら、甲第7号証には、その段落【0015】において、「本発明者等は、シトラールからオフフレーバーの原因物質であるp-メチルアセトフェノン等の生成を抑制するのではなく、シトラールの分解そのもの、すなわちシラトールの環化反応を阻止することについて鋭意研究を行なった結果、クエン酸カリウムをレモンフレーバー含有飲料に添加して飲料のpHを上げることで該飲料の味覚を損ねることなく、シトラールの分解そのものを抑制することが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。」と記載されているように、飲料の味覚を損ねることなく、シトラールの分解そのものを抑制するために、クエン酸カリウムをレモンフレーバー含有飲料に添加して飲料のpHを上げることが示されているのであって、シトラールの含有量とノナナールの含有量とが所定の関係となるようにした特定事項Aは記載も示唆もされていない。

(ウ)甲第8号証について
甲第8号証には、その段落【0033】において、「例えば、柑橘類のグレープフルーツ様合成香料としては、αターピネオール、グレープフルーツメルカプタン、スチラリルイソブチレート、リナロールネロール、グラニオール、ゲラニアール、ノナナール、ネリルアセテート、ゲラニルアセテート等の合成香気成分を所定割合で配合して調製される。」と記載され、段落【0056】において、「そして、得られた風味強化果汁をチューハイに1質量%加えることにより、フレッシュな香気のグレープフルーツ風味のチューハイを得ることができた。」と記載されている。
しかしながら、甲第8号証には、その段落【0033】の記載によれば、ゲラニアールとノナナール以外の複数の合成香気成分も配合されることが示されており、また、その段落【0011】において、「本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、果汁に合成香気成分を調合してなる合成香料を添加し、これをホモジナイズして果汁中に均質分散させることで、柑橘系果実本来の調和のある香りを有し、また、添加量1/100以下と力価の高い風味強化果汁が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されているように、柑橘系果実本来の調和のある香りを有し、また、添加量1/100以下と力価の高い風味強化果汁を得るために、果汁に合成香気成分を調合してなる合成香料を添加し、これをホモジナイズして果汁中に均質分散させることが示されているのであって、シトラールの含有量とノナナールの含有量とが所定の関係となるようにした特定事項Aは記載も示唆もされていない。

上述のとおり、甲第6ないし8号証の何れにも、特定事項Aは記載も示唆もされておらず、柑橘類果実様飲料において、香気向上が自明の課題であり、また、甲第6ないし8号証に記載されているように、シトラールとノナナールが香気成分として知られていることが本件特許の出願前に技術常識であったとしても、シトラールの含有量とノナナールの含有量を、所定の関係を有するように調整することまでは着想し得ないから、甲1発明Aないし甲4発明Aにおいて、特定事項Aとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

ウ 効果について
そして、本件発明1は、上記相違点A1ないしA4のいずれかに係る本件発明1の発明特定事項(特定事項A)を備えることにより、本件特許に係る願書に添付された明細書に記載された「柑橘類果実様飲料に、シトラールによる柑橘類果実様香味感(特に、レモン果実様香味)、とりわけ、柑橘類果実(特に、レモン果実)をもぎたて搾り立てした際の果汁感、新鮮感及び爽快感を継続付与し、促進させることが可能となる。」(段落【0010】)という所期の効果(以下、「本件発明の効果」という。)を奏するものである。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明Aないし甲4発明A及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由により、甲1発明Aないし甲4発明A及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲1発明Bないし甲4発明Bとの対比については、上記1(3)アに示したとおりである。

イ 相違点B1ないしB4の検討
上記(1)イの相違点A1ないしA4についての検討を踏まえると、甲第6ないし8号証の何れにも、特定事項Bは記載も示唆もされておらず、柑橘類果実様飲料において、香気向上が自明の課題であり、また、甲第6ないし8号証に記載されているように、シトラールとノナナールが香気成分として知られていることが本件特許の出願前に技術常識であったとしても、シトラールの含有量とノナナールの含有量を、所定の関係を有するように調整することまでは着想し得ないから、甲1発明Bないし甲4発明Bにおいて、特定事項Bとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

ウ 効果について
そして、本件発明6は、上記相違点B1ないしB4のいずれかに係る本件発明6の発明特定事項(特定事項B)を備えることにより、本件発明の効果を奏するものである。

エ 小括
したがって、本件発明6は、甲1発明Bないし甲4発明B及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

4 取消理由4(特許法第36条第6項第1号)について
(1)具体的な取消理由
取消理由4は、概略、以下のとおりである。
ア 「本件発明は、「柑橘類果実香味感を促進増進させ、シトラールと併用され、シトラールによる柑橘類果実様香味感を促進増強することが可能な物質とを組み合わせた、柑橘類果実様飲料を開発する」(本件明細書【0005】)という課題を解決すべくなされたものである。
本件発明は、柑橘類果実様飲料中におけるシトラールの含有量(mg/L)を「X」とし、ノナナールの含有量(mg/L)を「Y」とした場合、以下の数式1及び数式2:
3≦X≦10 (数式1)
0.23≦Y≦0.43 (数式2)
である関係を満たす、という共通の構成を有している。」(特許異議申立書18ページ6ないし15行)

イ 「本件明細書の記載及び技術常識によれば、シトラールは、分解し、分解に伴って、好ましくない臭い及び味を付与する劣化化学物質に変化するものである(本件明細書【0010】、甲第7号証【0003】等)。そうすると、劣化化学物質の量が増えるにつれて、好ましくない臭い及び味が付与されることから、当業者であれば、数式1及び数式2である関係を満たす柑橘類果実様飲料であっても、劣化化学物質の量が多い場合には、本件発明が解決しようとする課題は解決できないと理解するのが自然である。
すなわち、上記数式1及び数式2である関係を満たす柑橘類果実様飲料には、本件発明が解決しようとする課題を解決できないものが明らかに含まれている。」(特許異議申立書18ページ16ないし24行)

ウ 「本件発明では、数式1及び数式2を満たすべき時点は特定されていない。例えば、 ・・・中略・・・ 製造直後は、シトラールの含有量が極めて多く、数式1及び数式2を満たさない飲料(以下「仮想サンプル1」ともいう。)であっても、時間が経つにつれてシトラールの環化乃至酸化による分解により、シトラール含有量が減少し、数式1及び数式2を満たす飲料になり得る。
この場合、仮想サンプル1はシトラールの分解によりレモン様のフレッシュ感が消失するとともに、シトラールの環化乃至酸化生成物によるオフフレーバーが増加しているため、「柑橘類果実様香味感、とりわけ、柑橘類果実をもぎたて搾り立てした際の果汁感及び爽やかな新鮮感を、付与し、促進させること」はできていないと理解される。
したがって、シトラール及びノナナールの含有量が数式1及び数式2を満たす柑橘類果実様飲料であれば、必ず本件発明が解決しようとする課題を解決できるとは理解されないので、単にシトラール及びノナナールの含有量が数式1及び数式2を満たすことを特定しているだけの本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、本件発明は、サポート要件を満たしていない。」(特許異議申立書20ページ6行ないし21ページ6行)

(2)検討
上記取消理由4について検討すると、本件特許明細書には、本件発明1ないし6のシトラールとノナナールの含有量の範囲のものが「柑橘類果実様飲料に、シトラールによる柑橘類果実様香味感(特に、レモン果実様香味)、とりわけ、柑橘類果実(特に、レモン果実)をもぎたて搾り立てした際の果汁感、新鮮感及び爽快感を継続付与し、促進させることが可能となる。」(段落【0010】)という本件発明の効果を奏し、上記(1)アの課題を解決できることが記載されている。
そして、一般に同成分の飲料は同じ風味のものとなるから、劣化の有無に関係なく本件発明1の柑橘類果実様飲料は課題が解決できると当業者は理解する。
また、本件発明1ないし6は、シトラールが変化した劣化化学物質による好ましくない臭い(悪臭)及び味の付与を抑制することまでを解決しようとするものではない。
そうすると、本件発明1ないし6は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものではない。

(3)まとめ
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

5 取消理由5(特許法第36条第4項第1号)について
(1)具体的な取消理由
取消理由5は、概略、以下のとおりである。
・「所望の効果を得るために当業者に期待し得る程度を超える過剰な試行錯誤が要求されるので、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、実施可能要件を満たしていない。」(特許異議申立書21ページ7ないし10行)

(2)検討
上記4(2)で検討したとおり、本件発明1ないし6は、柑橘類果実様飲料中におけるシトラール及びノナナールの含有量(mg/L)を、それぞれ本件特許の請求項1及び6に記載された数式1及び数式2を満たすことで本件発明の効果を奏するのであるから、当業者にとって過剰な試行錯誤が要求されるものとは認められない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1ないし6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。

(3)まとめ
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

6 取消理由6(特許法第36条第6項第2号)について
(1)具体的な取消理由
取消理由6は、概略、以下のとおりである。
・「本件特許の請求項1には、数式1及び数式2を満たすべき時期は記載されておらず、また、数式1及び数式2を満たすべき時点がどの時点であるかは、本件明細書に定義されておらず、そして、当業者の技術常識でもない。
一方で、シトラールが、分解し、分解に伴って、好ましくない臭い及び味を付与する劣化化学物質に変化するものであるのは当業者の技術常識である(甲第7号証【0003】等)。例えば、前述した通り、製造直後は、シトラールの含有量が極めて多く、数式1及び数式2を満たさない飲料であっても、時間が経つにつれてシトラールの環化乃至酸化による分解により、シトラール含有量が減少し、数式1及び数式2を満たす飲料になり得る。 この場合、シトラールの分解によりレモン様のフレッシュ感が消失するとともに、シトラールの環化乃至酸化生成物によるオフフレーバーが増加するため、「柑橘類果実様香味感、とりわけ、柑橘類果実をもぎたて搾り立てした際の果汁感及び爽やかな新鮮感を、付与し、促進させること」はできない。
そうすると、本件明細書の記載及び技術常識を参照しても、当業者には、本件特許の請求項1に記載された柑橘類果実用飲料が、どの時点で数式1及び数式2を満たすものであるのかが明確には理解できない。
また、シトラール及びノナナールの含有量が数式1及び数式2を満たす飲料であっても、所期の効果が得られない(発明を実施しているとはいえない)飲料も多数存在することになるが、本件発明の特許請求の範囲の記載では、このような飲料が本件発明の技術的範囲に属するのか属しないのか明らかではない。
したがって、本件発明は特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ないので、明確性要件を満たしていない」(特許異議申立書22ページ6行ないし23ページ1行)

(2)検討
上記4(2)で検討したとおり、本件発明1ないし5は、シトラール及びノナナールの含有量が数式1及び数式2を満たすことで、「柑橘類果実様飲料に、シトラールによる柑橘類果実様香味感(特に、レモン果実様香味)、とりわけ、柑橘類果実(特に、レモン果実)をもぎたて搾り立てした際の果汁感、新鮮感及び爽快感を継続付与し、促進させることが可能となる。」(段落【0010】)という本件発明の効果を奏するものである。
そうすると、シトラールは、分解すると他の物質になるのであるから、シトラールの劣化に関係なく、シトラール及びノナナールの含有量が数式1及び数式2を満たすことをもって、本件発明1ないし5の技術的範囲に属するのであるから、本件特許の特許請求の範囲における請求項1ないし5の記載は、明確である。
次に、本件発明6は、シトラールと、ノナナールとを混合し、シトラール及びノナナールの含有量を数式1及び数式2の範囲とするのであるから、数式1及び数式2で表される関係が、シトラールと、ノナナールとを混合する時点を指していることは、明らかである。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲における請求項6の記載は、明確である。

(3)まとめ
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件発明1ないし6が、本件特許の出願前に公然実施された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨の理由を申立てているので、以下に検討する。
(1)本件発明1について
ア 実施発明1
実施発明1は、上記2(2)アに示したとおりである。

イ 対比
本件発明1と実施発明1との対比については、上記2(3)ア(ア)に示したとおりである。

ウ 相違点Cの検討
上記3(1)イの検討を踏まえると、甲第6ないし8号証の何れにも、特定事項Aは記載も示唆もされておらず、柑橘類果実様飲料において、香気向上が自明の課題であり、また、甲第6ないし8号証に記載されているように、シトラールとノナナールが香気成分として知られていることが本件特許の出願前に技術常識であったとしても、シトラールの含有量とノナナールの含有量を、所定の関係を有するように調整することまでは着想し得ないから、実施発明1において、特定事項Aとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ 効果について
そして、本件発明1は、上記相違点Cに係る本件発明1の発明特定事項(特定事項A)を備えることにより、本件発明の効果を奏するものである。

オ 小括
したがって、本件発明1は、実施発明1及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由により、実施発明1及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6について
ア 実施発明6
実施発明2は、上記2(2)イに示したとおりである。

イ 対比
本件発明6と実施発明2との対比については、上記2(3)ウ(ア)に示したとおりである。

ウ 相違点Dの検討
上記3(1)イの検討を踏まえると、甲第6ないし8号証の何れにも、特定事項Bは記載も示唆もされておらず、柑橘類果実様飲料において、香気向上が自明の課題であり、また、甲第6ないし8号証に記載されているように、シトラールの含有量とノナナールが香気成分として知られていることが本件特許の出願前に技術常識であったとしても、シトラールとノナナールの含有量を、所定の関係を有するように調整することまでは着想し得ないから、実施発明2において、特定事項Bとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

エ 効果について
そして、本件発明6は、上記相違点Dに係る本件発明6の発明特定事項(特定事項B)を備えることにより、本件発明の効果を奏するものである。

オ 小括
したがって、本件発明6は、実施発明2及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第7 むすび
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由並びに証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-01 
出願番号 特願2016-158817(P2016-158817)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 112- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
佐々木 正章
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6152458号(P6152458)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 柑橘類果実様飲料及びその製造方法  
代理人 森田 裕  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 小林 英了  
代理人 大野 浩之  
代理人 堅田 健史  
代理人 野本 裕史  
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