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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 産業上利用性  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1341113
異議申立番号 異議2018-700232  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-20 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6198346号発明「1回当たり100?200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6198346号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6198346号の請求項1及び2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成22年9月8日(優先権主張 平成21年9月9日)を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を平成27年5月25日に新たな特許出願としたものであって、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年3月20日に特許異議申立人櫻井洋(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。また、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)。

「【請求項1】
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。

【請求項2】
PTH(1-34)又はその塩がヒトPTH(1-34)酢酸塩である、請求項1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
申立人は、甲第1?17号証を提出し、本件特許は、以下の理由1?4により、取り消されるべきものである旨主張している。なお、以下では、各甲号証を指して、それぞれ、単に「甲1」?「甲17」という。

(1)申立理由1(進歩性)
(申立理由1-1)
・本件発明1及び2は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・本件発明1及び2は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(申立理由1-2)
・本件発明1及び2は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・本件発明1及び2は、甲2に記載された発明及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・本件発明1及び2は、甲2に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(産業上の利用可能性)
本件発明1及び2は、特許法第29条第1項柱書における「産業上利用することができる発明」に該当せず、特許を受けることができるものでない。
よって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(明確性)
本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由4(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及び2に記載の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:G.G.Crans et al.、Arthritis & Rheumatism、2004年、50巻、12号、4028?4034頁

(2)甲第2号証:Fujita T. et al.、Osteoporosis International、1999年、9巻、296?306頁

(3)甲第3号証:D.M.Black et al.、J.Clin.Endocrinol.Metab.、2008年、93巻、6号、2166?2172頁

(4)甲第4号証:太田博明著、日本産科婦人科学会雑誌、2007年、59巻、10号、N624?N632頁

(5)甲第5号証:FORTEO^(TM)teriparatide(rDNA origin)injection 750mcg/3mL、文章改訂2004年2月16日、Eli Lilly and Company(米国)

(6)甲第6号証:A.H.Tashjian Jr.and R.F.Gagel、Journal of Bone and Mineral Research、2006年、21巻、3号、354?365頁

(7)甲第7号証:折茂肇ら、日本骨代謝学会、日本骨代謝学会雑誌、2001年、18巻、3号、76?82頁

(8)甲第8号証:R.M.Neer et.al.、The New England Journal of Medicine、2001年、344巻、19号、1434?1441頁

(9)甲第9号証:本件特許成立前の拒絶査定に対する審判(不服2016-5667号)における平成29年7月13日付けの意見書

(10)甲第10号証:日本の薬事行政、第5章「医薬品の安全管理情報の提供・伝達」、日本製薬工業協会、2011年、123?137頁

(11)甲第11号証:「骨粗鬆症治療剤 テリボン(R) 皮下注用56.5μg(注射用テリパラチド酢酸塩)」添付文書、2017年改訂、旭化成ファーマ株式会社 (決定注:「(R)」は丸囲い文字のRである。)


(12)甲第12号証:「特許・実用新案審査基準」の特定技術分野への適用例の「第3章医薬発明」、特許庁、2015年、1?9頁

(13)甲第13号証:不服2000-6873号、特許審決公報

(14)甲第14号証:平成13年(行ケ)第422号 審決取消請求事件、東京高等裁判所判決

(15)甲第15号証:「特許・実用新案審査基準」の「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」の審査基準、特許庁、1?30頁

(16)甲第16号証:平成27年(行ケ)第10241号、審決取消請求事件、知的財産高等裁判所判決

(17)甲第17号証:平成21年(行ケ)第10238号、審決取消請求事件、知的財産高等裁判所判決

第4 甲号証の記載事項
甲1?8には、それぞれ以下の記載がある(下線は当合議体による。以下同様)。

なお、甲1?3、5、6、8は英文であるため、日本語訳文を記載する。

1.甲1
(1-1)(4028頁左欄1行?右欄19行)
「目的:椎体骨折の重篤度と健康に関連したクオリティーオブライフ(HRQOL)の関係を骨折予防試験における患者の部分集合体に関して調査した。我々は、椎体骨折の重篤度がHRQOLのスコアに関係するかどうか決定しようとした。このため、テリパラチド(ヒト組換えパラチロイドホルモン1-34)の、骨粗鬆症の閉経後の女性に強いインパクトを与える椎体骨折のグレードに与える効果を決定しようとした。
方法:椎体骨折の重篤度は、ビジュアル半定量(SQ)法により評価した。444人の患者の部分集合がベースラインのX線写真と共に骨粗鬆症評価アンケートを完成させた。ベースラインのHRQOLスコアは、年齢、骨密度、肥満指数、背痛の統制と同時に最大ベースライン椎体骨折グレードのモデルとした。
結果:ベースライン椎体骨折グレードのベースラインHRQOLに与える効果は統計的に有意であったが、椎体骨折グレードとその他の変数の間の相互作用は統計的に有意ではなかった。SQグレード3(SQ3)椎体骨折は、有意に低い全体のHRQOLスコア並びに有意に低い肉体機能、症候及び情動状態の次元スコアと関係していなかった。治療19か月の中間点以降、テリパラチド20μg/day投与群では444名中3名(0.7%)に新規又は増悪椎体骨折が生じたのに対して、プラセボ投与群では448名の患者中21名(4.7%)で生じた。新規又は増悪SQ3椎体骨折の発達リスクは、テリパラチド20μg/day投与処理の患者において、86%(p<0.001)減少した。
結論:重篤度の低い既存骨折と比べると、SQ3椎体骨折はHRQOLの低下と関連していた。テリパラチドによる処置は、新規又は増悪SQ3椎体骨折を有意に減少させた。これらの知見は、直接的に示したわけではないが、テリパラチドのHRQOLへの利点を示した。」

(1-2)(4029頁左欄31行?49行)
「試験グループ:骨折予防試験に用いた方法は既に報告した(23)。簡潔に記すと、閉経後5年以上経過した女性を無作為に、毎日カルシウム(1000mg)とビタミンD(400-1200IU)のサプリメントに加え、20μgのテリパラチド(n=541)、40μgのテリパラチド(n=552)及びプラセボ(n=544)を毎日皮下注射を受けるグループに振り分けた。処置期間の中央値は19か月であった。試験に際しては、患者は少なくとも2か所のマイルドな外傷が無く拡散している椎体骨折か1か所の緩和な外傷の無い椎体骨折を持つことを要件とした。試験の有効性のために、2か所より少ない緩和な椎体骨折を持つ患者は、尻又は腰椎の骨密度が少なくとも白人の閉経前女性(年齢範囲20?35才)の平均値より1SD低いことを要求された。除外基準には、骨又はカルシウム代謝に影響すると知られている疾患の患者、過去2年以内に尿路結石症を患った者、血清クレアチニンレベルが2mg/dl以上の患者、アルコール中毒者、薬物乱用者、骨代謝に変化を与えることが知られている医薬品の利用者が挙げられた。」

(1-3)(4029頁右欄3行?23行)
「椎体骨折評価:全ての参加者の椎骨のX線写真をベースライン時及び試験完結時に撮影した。X線写真による評価は、治療グループの割り当てには無関係で、一時的な配置ではないX線撮影技師によりカリフォルニア大学サンフランシスコ分校、骨粗鬆症、関節炎研究所を中心として行われた。椎骨はビジュアルな半定量(SQ)法を用いて0-3のスケールにグレード分けされた(SQグレード0[SQ0]=骨折無し、SQ1=軽度骨折、SQ2=中度骨折、SQ3=重度骨折)(24)。軽度骨折とは、椎骨の高さの前部、中間部又は後部における20?25%の減少と規定した。中度及び重度骨折は、椎骨の高さの25?40%又は40%以上の減少と各々規定した。新規椎体骨折は、ベースライン時にはグレード0であった椎骨が、ポストベースラインのSQグレードが1、2又は3になったものと定義した。一方、増悪椎体骨折は、ベースライン時にSQグレードが1又は2であったものが、椎骨のSQグレードがポストベースライン時に増加しているものと定義した。椎骨の円背、骨強直、その他異常症はグレード分けしなかった。」

(1-4)(4030頁表1)




上記表1のタイトル部分の訳
「ベースライン被験者集計、ベースライン椎体骨折グレードにより重層化したX線及びOPAQ HRQOL、評価を伴う骨折予防試験における試験集団のベースライン人口統計」

(1-5)(4030頁左欄15行?23行)
「骨折予防試験における患者グループのベースライン時のOPAQにおいて、SQ3椎体骨折は最もHRQOLにインパクトを与えると認められたため、我々は骨折予防試験でベースライン時から継続的なX線写真映像を評価することにより、プラセボ(n=448)、テリパラチド20μg/day(n=444)、テリパラチド40μg/day(n=434)処置群における、新規又は増悪SQ3椎体骨折の発生率を比較した。」

(1-6)(4032頁図3)




上記図3の説明部分の訳
「骨折予防試験において、20μg/dayテリパラチド(TPTD20)投与群、40μg/dayテリパラチド(TPTD40)投与群又はプラセボ投与群に無作為に割り振られた患者群における新規又は増悪半定量グレード3(重度)椎体骨折患者数。RRR=相対リスク減少。」

(1-7)(4032頁左欄8行?26行)
「プラセボ群(n=448)においては、14名の患者が新規SQ3骨折を経験し、8名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。なお、この中には1新規SQ3骨折と1増悪骨折を経験した患者が含まれる。20μg/dayテリパラチド投与群(n=444)においては、新規SQ骨折を経験した患者はおらず、3名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。40μg/dayテリパラチド投与群(n=434)においては、3名の患者が新規SQ3骨折を経験し、4名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。全般に、新規又は増悪SQ3椎体骨折は20μg/dayテリパラチド投与群では3名(0.7%)、40μg/dayテリパラチド投与群では7名(1.6%)生じることと比較して、プラセボ群においては21名(4.7%)も生じた(図3)。このように、プラセボと比較して、毎日テリパラチドを20μg又は40μg処置すると、新規又は増悪SQ3椎体骨折になるリスクが、各々86%(P<0.001)及び66%(P<0.001)と有意に減少した(図3)。」

(1-8)(4032頁右欄50行?4033頁左欄8行)
「全ての個体群における骨折予防試験において、新規椎体骨折になる相対リスクは患者への20μg/dayテリパラチド投与により65%減少する(P≦0.001)と報告されている(23)。HRQOLに与えるSQ3骨折のインパクトを理由として、我々は本試験においてプラセボ投与群とテリパラチド投与群における新規又は増悪SQ3椎体骨折の発生を分析した。テリパラチド20μg/day投与群、40μg/dayテリパラチド投与群は新規又は増悪SQ3椎体骨折の相対リスクを各々86%(P<0.001)及び66%(P<0.001)減少させた。」

2.甲2
(2-1)(296頁左欄1行?右欄7行)
「要約 骨粗鬆症治療における骨同化作用薬と考えられるヒトパラチロイドホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の効果を試験するために、71施設における骨粗鬆症患者220名を無作為にhPTH(1-34)の50単位投与群(L群)、100単位投与群(M群)又は200単位投与群(H群)の3群に分け、hPTH(1-34)を毎週皮下に注射する二重盲検試験を行った。二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で測定したところ、投与48週目には、腰椎骨密度(BMD)はL、M及びH群でそれぞれ、0.6%、3.6%及び8.1%増加した。また、M群とH群での薬物への応答はL群より有意に高かった(P<0.05、マン・ホイットニーのU検定)。腰椎測定の変動係数が1?2.5%にとどまることから、3.6%及び8.1%の増加は有意であると思われる。・・・試験期間中を通じて、重篤な副作用は見られなかった。hPTH(1-34)の間欠的毎週投与によって、骨粗鬆症で腰椎のBMDが増加し、骨粗鬆症治療に有用であることを示唆していた。」

(2-2)(297頁左欄27行?右欄5行)
「被験者
71施設が参加した多施設試験を実施した。試験は220人の年齢45歳から95歳までの厚生省により支援された委員会により提示された診断基準により、骨粗鬆症として定義された被験者に対して開始された。このシステムは、単に骨粗鬆症を非外傷性椎体骨折が存在する、または椎体骨折が2か所に存在するものとして定義するのではなく、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義するものである。この試験では総合スコアが4より高いこと(骨粗鬆症として決定)を被験者の選択基準とした。日本の多くの医療実務家が、未だに骨粗鬆症の唯一の評価方法として脊椎のX線写真を用いていることから、X線撮影は骨粗鬆症の診断基準として実施せざるを得なかった。X線上の骨減少は、腰椎の側面X線写真での骨梁の薄化、つまり(1)横骨梁の減少による縦骨梁の明瞭化、(2)縦骨梁の粗雑化、及び(3)縦骨梁の減少が認められる場合とした。X線上の骨減少は、BMDで若年成人の平均値から20%減少又は2.5SDの減少に相当する。本試験では、例えば、腰椎BMDの平均値がLunar社性DPXデンシトメーターで測定した時に0.736g/cm^(2)、Hologic社製QDRデンシトメーターで測定した時に0.694g/cm^(2)、Norland社製デンシトメーターで測定した時に0.624g/cm^(2)を示す者を試験対象とした。なお、この基準は現在用いられている他の基準と一致している。X線画像による骨萎縮がI度からIII度又はBMDが若年成人の平均値から2.5SD未満である者をスコア3、1か所の脊椎骨折をスコア1、2か所あるいはそれ以上の椎体骨折をスコア2、尻部骨折をスコア3、遠位ラジアル骨折をスコア1として総合スコアを算定した。」

(2-3)(297頁右欄43行?53行)
「hPTH(1-34)(テリパラチド酢酸塩)の調製と投与方法
旭化成工業株式会社により合成されたhPTH(1-34)の基準値と生物学的効果を、国際基準のウシPTH(1-84)に対するラット腎臓の皮質膜によるサイクリックAMPの生成を指標として評価したところ、3300単位/mgを得た。各バイアルは、50、100又は200単位のテリパラチド酢酸塩を含むものとした。なお、これは約15、30及び60μgのペプチドに相当した。1回のバッチから3個のロットを調製し、50、100及び200単位を含むバイアルを作成した。」

(2-4)(300頁左欄11行?右欄末行)
「骨測定
hPTH(1-34)の48週間投与試験による腰椎BMDの変化率を図1に示したが、腰椎BMDは投与開始時と異なり24週から48週の間に用量依存的にL群(0.6%)、M群(3.6%)、H群(8.1%)と増加し、24週、48週の増加率はM群とH群の方がL群より大きく、48週においてH群はM群より有意(P<0.05)に増加率が大きかった。また、効果は64才以下と65才以上のサブグループ、49kg以下と50kg以上のサブグループ、閉経後10年以下、10?20年、20年以上のサブグループ、椎体骨折0回、1回、2回以上のサブグループ間でも同じであった。第2中手骨(皮質骨からなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は何も認められず、皮質骨と各群のX線写真上の骨量減少が一定に保たれていることを示していた。L群では被験者3名、M群では5名及びH群で0名に椎体骨折が発生したが、各群間の差は有意ではなかった。」

(2-5)(300頁図1)





上記図1の説明部分の訳
「図1 腰椎BMD(平均値±SD)の治療週に対する変化率。点線で結ばれた□:50単位のPTHを投与した被験者(L群)のデータ、実線で結ばれた●:100単位のPTHを投与した被験者(M群)のデータ、破線で結ばれた○:200単位のPTHを投与した被験者(H群)のデータ。a:危険率p<0.05でのL群の値と比較した時の有意差、b:危険率p<0.05でのM群の値と比較した時の有意差、*:危険率p<0.05での基準値と比較して有意な増加(マン・ホイットニーのU検定による)。」

(2-6)(302頁右欄7行?16行)
「リンジーら[32]は、ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性17名を対象として、hPTH(1-34)25μgを連日皮下注射する3年の無作為対照試験を実施し、その結果をコントロールとしてホルモン補充療法単独を投与した女性17名と比較した、脊椎のBMDは投与群では13.0%増加したが、コントロール群では有意な増加はみられなかった。」

(2-7)(303頁右欄10行?23行)
「リンジーらの試験[32]では、例えば、hPTH(1-34)400単位(25μg)が使用されている。使用されている調剤の相違があるため、本試験の結果をhPTH(1-34)投与量の参考例として、従前の試験の結果と比較するのは難しいが、本試験で間欠的に毎週投与されたhPTH(1-34)の投与量はほとんどの従前行われた試験よりも少ない。hPTH(1-34)が中手骨(ほとんど皮質骨からなる)の骨密度を減少させることなく、腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を、48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから、骨粗鬆症におけるhPTH(1-34)の本治療価値はきわめて将来有望であると思われる。」

3.甲3
(3-1)(2166頁表題)
「骨密度とリモデリングにおける週1回の副甲状腺ホルモン(1-84)の無作為試験」

(3-2)(2166頁3?24行)
「目的:我々の目的は、PTHの投与頻度の減少が腰椎BMDを増加させる効果を持つかどうか決定することである。
参加者、デザイン、設定:45才?70才で大腿頸部BMDのTスコア-1.0から-2.0の閉経後の女性50名が二重盲検無作為化プラセボ比較試験をメイン州バンガローセントジョセフホスピタルで行った。
処置:被験者は1か月間毎日PTH(1-84)(100μg)又はプラセボの皮下注射を受けた後、11か月毎週1回PTH又はプラセボの投与を受けた。
・・・
結果:12か月目にPTHを投与した女性群はプラセボ投与群に対して、腰椎面積BMDが2.1%増加した(P=0.03)。PTHを投与した女性群はプラセボ投与群に対して、脊髄小柱状容積BMDが3.8%増加した(P=0.08)。・・・
結論:1か月間の毎日投与後の週1回のPTH投与は、閉経後女性の脊柱BMD、外側小柱骨及び骨形成マーカーを増加させた。・・・」

(3-4)(2171頁右欄36?46行)
「それにもかかわらず、我々は1か月間毎日初期投与の後に、毎週1回投与したPTHは骨格に対して同化作用を示すことを発見した。PTHの循環的使用に関する他の結果を勘案すると、これらの結果は、十分な同化効果の利益を受けるためには、拡張期間においてPTHを毎日使用する必要はない可能性を示すと共に、投与頻度を減らすか投与期間を短縮したPTHの使用が、骨を強化し、骨折リスクを減少させる点で、2年間にわたるPTHの毎日の使用よりも同等かあるいはそれ以上の好ましい結果を示すことを示唆している。将来の試験は、骨の強度を増加させ、究極的に骨折のリスクを減らすことができる、PTHの最適の投与頻度及び期間を決定するためのものであることの根拠となる。」

4.甲4
(4-1)(N-624頁図C-22-1)




5.甲5
(5-1)(1頁表題)
「フォルテオ^(TM)テリパラチド(rDNA由来)注射剤750mcg/3mL」

(5-2)(1頁1行?3行)
「フォルテオ^(TM)[テリパラチド(rDNA由来)注射剤]は、84アミノ酸残基からなるヒトパラチロイドホルモンの34アミノ酸残基からなるN末端アミノ酸配列(生物学的に活性な領域)と同じ配列を持つ組換えヒトパラチロイドホルモン(1-34)(rhPTH(1-34))を含有している。」

(5-3)(2頁1行?8行)
「作用のメカニズム
内因性の84アミノ酸残基を持つパラチロイド(PTH)の生理作用は、腎臓及び骨におけるカルシウムとリン酸の代謝の主要調節因子である。PTHの生理学的作用は骨代謝の調節、尿細管におけるカルシウムとリン酸の再吸収及び腸管カルシウム吸収である。PTHとテリパラチドの生物学的活性は、共に細胞表面の高親和性受容体への結合により媒介される。テリパラチドとPTHのN末アミノ酸34残基は同じ親和力でこれらの受容体に結合し、骨や腎臓に同じ生理作用を示す。」

(5-4)(11頁1行?11行)
「適応症と用法
フォルテオは、閉経後の女性であって、骨折リスクの高い骨粗鬆症患者の治療に用いられる。これらの女性には骨粗鬆症骨折歴のある者、骨折の複合的なリスクファクターを持つ者、従前の骨粗鬆症の治療に失敗又は効果のない者が医師の評価に基づき含まれる。閉経後の骨粗鬆症を持つ女性に対して、フォルテオはBMDを増加させ、椎体及び非椎体骨折リスクを低下させる。フォルテオは性機能低下性の骨粗鬆症で骨折のリスクの高い男性の骨密度を増加させる。この中には骨粗鬆症性骨折の履歴を持つ者、骨折の複合的なリスクファクターを持つ者、従前の骨粗鬆症の治療に失敗又は効果の無い者が医師の評価に基づき含まれる。」

(5-5)(17頁27行?38行)
「投薬と管理
・・・
フォルテオの安全性と効果は2年を超えて評価をしていない。その結果、2年以上の医薬品の使用は推薦できない。」

6.甲6
(6-1)(354頁左欄1行?4行)
「2002年11月に米国食品医薬品局(FDA)は、テリパラチド(フォルテオ)を骨粗鬆症の治療に対して承認した。テリパラチドはヒトPTHの最初の34アミノ酸を含むものである。」

(6-2)(355頁左欄9行?21行)
「2003年6月に欧州医薬品庁もテリパラチド(フォルテオ)を女性の骨粗鬆症の治療に用いることを承認している。現在、上市されてから2.5年以上経過した状況にある。2005年8月まで、テリパラチドで治療した患者は世界中で205,000人以上になると概算されている。米国中の15000件にのぼる開業薬局から集めたデータでは、90%にのぼる患者が女性で、平均年齢が68才(中央値71才)である。70才以上のグループは最も骨折リスクが高いことを表しており、最も恩恵を受けることが期待される。処方箋を査察した範囲では、テリパラチドを受ける患者の82%が1又は2か所の既存骨折を持っている。」

7.甲7
(7-1)(77頁表1)





8.甲8
(8-1)(1434頁の表題)
「骨粗鬆症を伴う閉経後女性における骨折と骨密度へのパラチロイドホルモン(1-34)の効果」

(8-2)(1434頁左欄第1行?末行)
「要約
・・・
方法 我々は無作為に指定した1637人の椎体骨折既往歴のある閉経後の女性に、パラチロイドホルモン(1-34)の20μg、40μg又はプラセボを毎日皮下注射した。我々は、ベースラインと試験終了時(平均的な観察期間は21か月)の脊柱X線画像を撮影し、二重エネルギーX線吸収測定法により連続的な骨量の測定を行った。
・・・
結論 閉経後女性のパラチロイドホルモン(1-34)による治療により、椎体又は非椎体の骨折リスクを減少させ、椎体、大腿及び全身の骨密度を増加させ、そして良好な耐用性を示した。40μg投与は20μg投与よりも骨密度を増加させたが、骨折リスクは同等の効果であり、副作用も同様であった。」

(8-3)(1435頁左欄8行?17行)
「我々は17か国の99か所のセンターで試験に参加できる閉経後の女性をスクリーンした。外来患者で、少なくとも閉経から5年を経過し、少なくとも1か所のモデレートな又は2か所の外傷性の無いマイルドな椎体骨折を胸郭、大腿部のX線撮影により確認されている女性を対象として有効とした。2か所以下のモデレートな骨折を持つ女性に関しては、付加的な参加の基準として、臀部又は大腿部の骨密度が通常の閉経前の白人女性(20才から35才)に対して1SD以下の者とした。」

(8-4)(1436頁表1)



上記表1のタイトル部分の訳
「脊柱X線写真が評価に適しているか否かに基づく閉経後女性1637人のベースライン特性」

(8-5)(1435頁右欄第46行?53行)
「試験治療の累積期間は、プラセボ群、1日20μgのパラチロイドホルモン(1-34)毎日投与群、及び、一日40μgパラチロイドホルモン(1-34)毎日投与群で各々798、779、及び774患者-年であり、各3群における治療の平均(±SD)期間は各々18±5、18±6、及び17±6月であった。」

(8-6)(1438頁図1)




上記図1の説明部分の訳
「図1 プラセボ又は、PTH(1-34)を毎日20μg又は40μg投与されるように割り当てられた、1以上の非椎体骨折を有する女性の累積割合(パネルA)、及び、試験中に1つ以上の非椎体脆弱骨折を有する女性の累積割合(パネルB)」

第5 当審の判断
1.申立理由1-1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、20μg又は40μgのテリパラチドを毎日皮下注射する骨折予防試験を行ったことが記載され、処置期間の中央値は19か月であり、投与対象の患者は、閉経後5年以上経過した女性であって、少なくとも、2か所のマイルドな外傷がなく拡散している椎体骨折か1か所の緩和な外傷のない椎体骨折を持つ者であることが記載されている(摘記事項(1-2))。また、増悪椎体骨折の判断基準として、SQグレードが1または2であったものが増加しているものと定義されているところ(摘記事項(1-3))、表1には、投与対象者の平均年齢は、グレード1は70.11±6.99才であること、グレード2は70.89±6.61才であることが記載され、腰椎BMDのT-スコアは、グレード1は-1.68±1.76であること、グレード2は-2.34±1.54であることが記載されている(摘記事項(1-4))。そして、前記試験の結果として、毎日テリパラチドを20μg又は40μg処置すると、増悪椎体骨折になるリスクが有意に減少したことが記載されている(摘記事項(1-7)、摘記事項(1-8))。

以上によれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「1回20μg又は40μgのテリパラチドを毎日投与する、テリパラチドを有効成分とする、骨折抑制効果のある、骨粗鬆症治療剤であって、平均76週間投与される、閉経後5年以上経過した平均年齢で70.11±6.99才及び70.89±6.61才の年齢の女性であって、少なくとも、2か所のマイルドな外傷がなく拡散している椎体骨折か1か所の緩和な外傷のない椎体骨折を持ち、腰椎BMDのT-スコアの平均が-1.68±1.76及び-2.34±1.54であることを要件とする患者に投与される、骨粗鬆症治療剤。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 対比及び判断
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
上記摘記事項(1-1)には、「テリパラチド(ヒト組換えパラチロイドホルモン1-34)」と記載されていることからみて、甲1発明の「テリパラチド」は本件発明1の「PTH(1-34)」に相当する。そうすると、両者は、「PTH(1-34)を有効成分として含有する、骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤」である点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点1-1)用法・用量が、本件発明1は「1回当たり200単位」を「週1回投与」であるのに対し、甲1発明は「1回20μg又は40μg」を「毎日投与」するものである点。

(相違点1-2)投与対象が、本件発明1は「下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65才以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」であるのに対し、甲1発明は「閉経後5年以上経過した平均年齢で70.11±6.99才及び70.89±6.61才の年齢の女性であって、少なくとも、2か所のマイルドな外傷がなく拡散している椎体骨折か1か所の緩和な外傷のない椎体骨折を持ち、腰椎BMDのT-スコアの平均が-1.68±1.76及び-2.34±1.54であることを要件とする患者」である点。

(相違点1-3)
本件発明1は「48週を超過して72週以上までの間投与される」ものであるのに対し、甲1発明は「平均76週間投与される」ものである点。

(イ)検討
a 申立人は、相違点1-1について、甲2には、テリパラチド200単位を毎週投与する試験を行ったところ、腰椎BMDを48週で有意に用量依存的に増加させたことが記載されていること、及び、甲3には、PTH(1-84)100μgを1か月間毎日投与した後、11か月間毎週1回投与した試験を行ったところ、脊柱BMD、外側小柱骨及び骨形成マーカーが増加したことが記載されていることから、甲1発明における「1回20μg又は40μgのテリパラチドを毎日投与する」との投与方法を、「1回当たり200単位のテリパラチドを週1回投与する」との投与方法に変更することは動機付けられる旨主張する。

また、本件発明1により奏される効果に関し、本件明細書には、実施例において、高リスク者の群に200単位のPTH(1-34)を投与したところ、24週以内、24週を超え48週以内、及び48週を超え72週以内のいずれの区間でも新規椎体骨折発生率がプラセボ群よりも低く、また、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったことが示されているところ(段落【0131】?【0133】、表35)、申立人は、甲5においては、既にテリパラチド40μgを104週間の間毎日投与することが認められ、甲8においては、テリパラチド1回20μg又は40μgを平均72±24、68±24週間毎日投与した結果、良好な効果が得られたことが報告されていたから、甲1においても平均76週間投与されている中で、テリパラチド200単位を週1回48週を超過して72週以上までの間投与されることを確認したとしても、当業者の技術常識として予想される効果である旨主張する。

b しかしながら、甲1の摘記事項(1-6)?(1-8)の記載によれば、PTH(1-34)の1回の投与量に関し、20μgの方がより用量の多い40μgよりも新規又は増悪椎体骨折になるリスクが減少していることからみて、甲1において示されているPTH(1-34)による骨折抑制効果は、用量依存的なものであるとはいえないことが理解できる。
このような甲1の記載を考慮すると、甲1発明において、1回の投与量を20μg又は40μgよりも多量となる200単位としてみること(甲2の摘記事項(2-3)によると、テリパラチド酢酸塩200単位は60μgに相当することが記載されているところ、テリパラチド酢酸塩の分子量は、4418であり(甲11 4頁右欄)、テリパラチドの分子量は4118であることから(甲5 1頁4行)、テリパラチド200単位は、約55μgに相当する。)、及びそうすることにより、本件明細書の表35に示される、「48週を超過して72週以上までの間投与され」た際に実質的に完全に骨折を抑制する効果が見込まれることまでは、甲5や甲8に記載された技術常識を参酌しても、当業者といえども具体的に想起し得たとはいえない。ましてや、投与頻度に関して、甲1発明は毎日投与であるところ、より少ない頻度である週1回投与としても、PTH(1-34)の有効血中濃度が維持されて、「48週を超過して72週以上までの間投与され」た際に実質的に完全に骨折を抑制する効果がもたらされることを推測することは、当業者といえども容易になし得なかったというほかはない。
また、甲3は、1回当たり100μgのPTH(1-84)を投与するものであり、甲1とは、使用する薬理成分及び用量が異なるものであるから、甲1発明において、甲3の週1回投与の用法を採用することも、当業者が通常行うこととはいえない。
したがって、甲2、甲3のいずれを参酌しても、甲1発明のテリパラチドの用法・用量に代えて、1回当たり200単位を週1回投与とすることにより、投与頻度が少ないにもかかわらず、「48週を超過して72週以上までの間投与され」た際に実質的に完全に骨折を抑制する効果がもたらされることを当業者が推測するに足りる記載を見出すことはできない。

(ウ)結論
以上のとおりであるから、相違点1-2及び相違点1-3については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1をさらに限定する発明であるから、本件発明2もまた、上記(1)で説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
よって、申立理由1-1について、本件発明1及び2が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

2.申立理由1-2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、ヒトパラチロイドホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために、骨粗鬆症患者220名を対象として、200単位(H群)を毎週皮下注射する二重盲検試験を行ったことが記載され(摘記事項(2-1))、前記試験は、厚生省により支援された委員会により提示された診断基準、すなわち、複数の因子をスコア化してスコアの計が4より高い場合を骨粗鬆症と定義する診断基準において骨粗鬆症とされた年齢が45才から95才の被験者を対象として実施したことが記載されている(摘記事項(2-2))。また、甲2には、腰椎BMDは、治療後24週と48週目に用量依存的に増加したことが記載されている(摘記事項(2-4))。さらに、甲2には、hPTH(1-34)の週1回の間欠的投与が、中手骨の骨密度を減少させることなく、腰椎BMDを48週という比較的短期間で有意に用量依存的に増加させたことから、hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われると記載されている(摘記事項(2-7))。

以上によれば、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「PTH(1-34)の200単位を48週にわたって毎週皮下注射する、PTH(1-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤であって、厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45才から95才の被験者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い場合の患者に投与される、骨粗鬆症治療剤。」(以下、「甲2発明」という。)

イ 対比及び判断
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
両者は、「1回当たり200単位のPTH(1-34)が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤」である点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点2-1)投与対象が、本件発明1は「下記(1)?(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65才以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」であるのに対し、甲2発明は「厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45才から95才の被験者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い場合の患者」である点。

(相違点2-2)「骨粗鬆症治療ないし予防剤」が、本件発明1では、「48週を超過して72週以上までの間投与される」ためのものであるのに対し、甲2発明では、「48週にわたって」投与されるものである点。

(相違点2-3)「骨粗鬆症治療剤ないし予防剤」の用途が、本件発明1は、「骨折抑制のための」ものであるのに対し、甲2発明にはそのような特定がなされていない点。

(イ)検討
a.本件発明1の「48週を超過して72週以上までの間投与される」ことにより奏される効果に関し、申立人は、甲5によると、テリパラチド1回20μg又は40μgを毎日、104週間投与することが認められていること、甲8では、本件発明1の投与対象者の3要件を充足する患者も含む患者に対してPTH(1-34)を1回20μg又は40μgを毎日、72±24週間投与する臨床試験を行った結果、良好な骨折抑制効果が得られた報告がされていること、甲1には、本件発明1の投与対象者の3要件を充足する患者に1回20μg又は40μgのテリパラチドを毎日、平均76週間投与したところ骨折抑制効果を示したことが記載されていることを考慮すれば、200単位のPTH(1-34)を週1回24?48週間投与した甲2の投与期間を延長して、「48週を超過して72週以上」まで延長する結果が得られたとしても、それは当業者が容易に予測できる効果である旨主張する。

しかしながら、甲1、甲5及び甲8は、いずれもテリパラチドを20μg又は40μgを毎日投与するものであって、本件発明1の200単位を週1回投与とは用法・用量が異なるものであるから、200単位のPTH(1-34)の週1回投与を48週以降継続投与した場合の骨折抑制効果は、実際に実験を行うことなく予測することはできないものである。

b.特に、本件発明1により奏される、200単位を週1回という用法・用量を採用した場合に、「48週を超過して72週以上までの間投与され」た際に実質的に完全に骨折を抑制する効果(表35)に関して、申立人は、甲8の図1Bには20μg又は40μgのPTH(1-34)を毎日投与した群は、非椎体脆弱骨折の発生率が12か月(48週)以降ではほぼ水平になっていることから、十分予期できる効果であること、及び、甲2にはhPTH(1-34)は48週で腰椎骨密度を増加させる効果を持つことが記載されているから、72週間で同じ効果を示したとしても、進歩性を示すものではない旨主張する。

しかしながら、甲8の図1Bをみると、48週以降も非椎体脆弱骨折の発生率が増加しており、ゼロとなっていないことが読み取れることから、本件発明1により奏される、200単位を週1回という用法・用量を採用した場合に、「48週を超過して72週以上までの間投与され」た際に実質的に完全に骨折を抑制する効果は、甲8の記載から予測できるものではない。また、甲2には、椎体骨折の発生数は、L群(50単位)、M群(100単位)、H群(200単位)の間で有意差がなかったと記載されており(摘記事項(2-4))、被験薬と対照薬との比較も記載されていないから、当業者は、甲2の記載から、甲2発明が「骨折抑制」の効能を有することを把握することはできない上に、甲2における投与期間は48週までであって、48週を超えての投与データは記載されていないから、48週を超えて投与した場合の骨折抑制効果については、実際に実験を行うことなく予測できるものではない。

(ウ)結論
以上のとおりであるから、相違点2-1及び相違点2-3については検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明並びに甲1、甲5及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は本件発明1をさらに限定する発明であるから、本件発明2もまた、上記(1)で説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲2発明並びに甲1、甲5及び甲8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
よって、申立理由1-2について、本件発明1及び2が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

3.申立理由2(産業上の利用可能性)について
(1)申立人は、概略、医薬発明において有効成分、効果効能、用法用量と無関係な要因で患者の特性を発明特定事項にすることは、実質上の治療方法の発明に該当し、産業上利用可能性がない旨主張する。

(2)しかしながら、本件発明1及び2は、「骨粗鬆症治療剤ないし予防剤」という医薬組成物に係る物の発明であるから、特許法第29条第1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に該当するものといえる。このことは患者の特性及び投与期間が発明特定事項に含まれることによって変わるものではないから、本件発明1及び2は人間を治療する方法の発明ではない。

(3)小括
よって、本件発明1及び2が特許法第29条第1項柱書の規定に違反するものであるとする申立理由2には理由がない。

4.申立理由3(明確性要件)について
(1)申立人は、本件発明1は、「48週を超過して72週以上まで投与される」という数値を曖昧にする表現がある結果、発明の範囲が不明確である旨主張する。

(2)しかしながら、本件発明1は、「1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって」、「48週を超過して72週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤」であるから、「48週を超過して72週以上まで投与される」という記載は、骨粗鬆症治療ないし予防剤の用法について、1週目の初回投与から72週以上継続することを特定したものと解することができるものであって、不明確なところはない。
したがって、本件発明1に記載された発明が不明確となっている旨の申立人の主張は採用できない。

(3)小括
よって、本件発明1、2が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由3には理由がない。

5.申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)申立人は、本件明細書の実施例において、骨折抑制効果を確認した期間は72週までであり、それ以上の期間は測定されていないから、本件発明1及び2は、実施可能な具体例に裏付けられていないため、実施可能要件違反である旨主張する。

(2)本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0098】
(実施例2)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、Takaiの方法(特許文献4?5、非特許文献11)により調製した被験薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞれ生理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与した。」

「【0131】
(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響
被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。
・・・
【表35】

【0132】
上記の表が示すように、半年ごとの新規椎体骨折発生率は、P群では、いずれの区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して、PTH200群では、投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかった。また、PTH200群の新規椎体骨折発生率は、24週以内、24週?48週、48週?72週のいずれの区間でもP群より低く、プラセボに対する相対リスク減少率(Relative Risk Reduction;RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように、本剤200単位の週1回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53,9%低下させた。また、本剤による骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた。」

(3)上記記載事項によれば、本件明細書の実施例2において、高リスク者の群に200単位のPTH(1-34)を投与したところ、24週以内、24週を超え48週以内、及び48週を超え72週以内のいずれの区間でも新規椎体骨折発生率がプラセボ群よりも低く、また、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったことが示されており、「1回当たり200単位のPTH(1-34)」「週1回投与」は、72週までの間の投与において、「骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤」として使用できることを把握することができる。そして、本件明細書の段落【0132】には、投与期間が長くなるにつれて、区間毎の発生率が低下すること、プラセボに対する相対リスク減少率は投与を継続するにつれて増加したこと、及び骨折抑制効果は投与とともに増強する傾向が認められたことが記載されていることを踏まえれば、72週以上に継続投与した場合にも、「骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤」として使用することができることは当業者が理解することができるものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度の明確かつ十分な記載がなされているといえる。

(4)また、本件発明2は、本件発明1において、「PTH(1-34)又はその塩」が「ヒトPTH(1-34)酢酸塩」であることを限定したものであるところ、本件明細書の実施例2で採用されている有効成分はヒトPTH(1-34)酢酸塩であるから、本件発明2についてもまた、本件発明1と同様、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されたものである。

(5)小括
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由4には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-30 
出願番号 特願2015-105266(P2015-105266)
審決分類 P 1 651・ 14- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 長谷川 茜
冨永 みどり
登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6198346号(P6198346)
権利者 旭化成ファーマ株式会社
発明の名称 1回当たり100?200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
代理人 細田 芳徳  

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