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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60Q
管理番号 1341117
異議申立番号 異議2018-700199  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-05 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6193928号発明「車両用灯具の制御装置および車両姿勢角度情報の算出方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6193928号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6193928号の請求項1?9に係る特許についての出願は、特願2011-153592号(平成23年7月12日出願。優先権主張 平成22年10月26日 日本国)の一部を平成27年7月28日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月18日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年3月5日に特許異議申立人 松岡 直之より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明及び本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
1 本件発明
特許第6193928号の請求項1?9に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記直線を最小二乗法により求める請求項3又は4に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出することを特徴とする車両姿勢角度情報の算出方法。
【請求項7】
車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出することを特徴とする車両姿勢角度情報の算出方法。
【請求項8】
車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出することを特徴とする車両姿勢角度情報の算出方法。
【請求項9】
車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出することを特徴とする車両姿勢角度情報の算出方法。」

2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「A」?「C」の記載事項は、それぞれ「記載事項A」?「記載事項C」という。以下同様。)。

A「【0005】
加速度センサを用いたオートレベリング制御において、加速度センサによって検出される傾斜角度は、水平面に対する路面の傾斜角度と路面に対する車両の傾斜角度とを含む、水平面に対する車両の傾斜角度である。一方、オートレベリング制御に必要な車両の傾斜角度は、路面に対する車両の傾斜角度である。そのため、加速度センサを用いたオートレベリング制御では、加速度センサによって得られた水平面に対する車両の傾斜角度から路面に対する車両の傾斜角度についての情報を抽出する必要がある。これに対し、本発明者らは、加速度センサの検出値から得られる水平面に対する車両の傾斜角度から、路面に対する車両の傾斜角度についての情報を抽出する新たな方法を想到するに至った。
【0006】
本発明は、発明者らによるこうした認識に基づいてなされたものであり、その目的は、加速度センサを用いた車両用灯具のオートレベリング制御において、加速度センサの検出値から路面に対する車両の傾斜角度についての情報を抽出する新たな技術を提供することにある。」

B「【0021】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る車両用灯具システムの内部構造を説明する概略鉛直断面図である。本実施形態の車両用灯具システム200は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された配光可変式前照灯システムである。左右に配置された前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明し、左側の前照灯ユニットの説明は適宜省略する。なお、左側の前照灯ユニットの各部材について記載する場合には、説明の便宜上、各部材に対して前照灯ユニット210Rの対応する部材と同一の符号を付す。
・・・
【0034】
続いて、上述の構成を備えた車両用灯具システム200によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3(A)および図3(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。図3(A)は、後述する車両姿勢角度θvが変化していない状態を示し、図3(B)は、車両姿勢角度θvが変化している状態を示している。また、図3(A)および図3(B)において、車両300が前進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速あるいは後進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。図4は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度の関係を表すグラフである。
【0035】
たとえば、車両後部の荷室に荷物を載せたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。灯具ユニット10の照射方向も車両300の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を経由して加速度センサ316の検出値を受信し、レベリング制御部236を介してレベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。このように、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで車両300の使用状況に応じて車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0036】
加速度センサ316は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ316は、センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている。加速度センサ316は、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを検出し、3軸方向における重力加速度ベクトルGの各軸成分の数値を出力する。すなわち、加速度センサ316は、水平面に対する路面の傾斜角度(第1角度)である路面角度θrと、路面に対する車両の傾斜角度(第2角度)である車両姿勢角度θvとが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度(合計角度)である合計角度θをベクトルとして検出することができる。また、加速度センサ316は、車両300の走行時、重力加速度ベクトルGと車両300の移動により生じる運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出し、3軸方向における合成加速度ベクトルβの各軸成分の数値を出力する。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θv、および合計角度θは、それぞれX軸の上下方向の角度、言い換えれば車両300のピッチ方向の角度である。また、以下の説明では加速度センサ316のY軸方向の成分、すなわち車両300のロール方向の角度は考慮しない。なお、加速度センサ316は、任意の姿勢で車両300に取り付けられてもよい。この場合、加速度センサ316から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、照射制御部228Rによって車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。
【0037】
オートレベリング制御は、車両のピッチ方向の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。すなわち、車両姿勢角度θvが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を調節し、路面角度θrが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を維持するように制御することが望まれる。これを実現するためには、加速度センサ316から得られる合計角度θから、車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
【0038】
ここで、車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢角度θvによらず路面に対して平行なベクトルとなる。また、図3(A)に示すように、車両300の車両姿勢角度θvが0°であった場合、理論上は加速度センサ316のX軸(あるいは車両300の前後軸)は路面に対して平行となるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に平行なベクトルとなる。よって、車両の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際に加速度センサ316によって検出される合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して平行な直線となる。一方、図3(B)に示すように、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316のX軸は路面に対して斜めにずれるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して傾いた直線となる。
【0039】
そこで、照射制御部228Rは、受信部228R1によって加速度センサ316から車両前後方向および車両上下方向の加速度を受信する。そして、制御部228R2において車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率を算出する。例えば、照射制御部228Rは、図4に示すように車両前後方向の加速度を第1軸(x軸)に設定し車両上下方向の加速度を第2軸(z軸)に設定した座標に、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサ316の検出値を経時的にプロットする。点t_(A1)?t_(An)は、図3(A)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。点t_(B1)?t_(Bn)は、図3(B)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。そして、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを上述した比率として算出する。本実施形態では、照射制御部228Rは、プロットされた複数点t_(A1)?t_(An),t_(B1)?t_(Bn)に対して最小二乗法などを用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを比率として算出する。
【0040】
車両姿勢角度θvが0°の場合、加速度センサ316の検出値から、x軸に平行な直線近似式Aが得られる。すなわち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。したがって、車両300の加減速時における車両前後方向および車両上下方向の加速度の時間変化量の比率の変化を計測することで、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvについての情報として車両姿勢角度θvの変化を知ることができる。そして、得られた車両姿勢角度θvの変化情報を利用することで、より高精度なオートレベリング制御を実現することができる。
【0041】
本実施形態に係る車両用灯具システム200は、上述した比率の変化を検出することで得られる車両姿勢角度θvについての情報を利用して、次のようなオートレベリング制御を実行する。すなわち、まず、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態では、車両300の運転席に1名乗車している状態、あるいは空車状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作、または照射制御部228Rと加速度センサ316とを車両制御部302を介して接続するCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、照射制御部228Rに初期化信号が送信される。照射制御部228Rに送信された初期化信号は、受信部228R1で受信されて制御部228R2に送られる。制御部228R2は、初期化信号を受けると、受信部228R1が受信した加速度センサ316の出力値を基準傾斜角度として用いて、初期エイミング調整を実施する。また、制御部228R2は、このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持する。
【0042】
車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。そこで、制御部228R2は、車両走行中に合計角度θが変化した場合、光軸調節を指示する制御信号の生成を回避する。なお、制御部228R2は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸位置の維持を指示する制御信号を生成し、送信部228R3からレベリング制御部236に送信するようにしてもよい。車両300が走行中であることは、例えば車速センサ312から得られる車速により判断することができる。前記「車両走行中」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときから、車速センサ312の検出値が0となるまでの間である。この「車両走行中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0043】
そして車両停止時に、制御部228R2は、加速度センサ316で検出された現在の合計角度θから、メモリ228R4から読み出した車両姿勢角度θvの基準値を減算して、車両停止時の路面角度θrを計算する。そして、この路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値としてメモリ228R4に記録する。前記「車両停止時」は、例えば車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ316の検出値が安定したときである。加速度センサ316の検出値が安定したときとするのは、車両300が停止してから車両姿勢が安定するまでに若干の時間を要し、車両姿勢が安定していない状態では正確な合計角度θを検出することが困難なためである。この「安定した時」は、加速度センサ316の検出値の単位時間あたりの変化量が所定量以下となったときとしてもよいし、車速センサ312の検出値が0になってから所定時間経過後としてもよい。前記「車両停止時」、「所定量」、および「所定時間」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0044】
一方、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。そこで、制御部228R2は、車両停止中に合計角度θが変化した場合、加速度センサ316の検出値とメモリ228R4から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θvを用いて、光軸調節を指示する制御信号を生成する。具体的には、制御部228R2は、車両停止中に所定のタイミングで繰り返し車両姿勢角度θvを計算する。車両姿勢角度θvは、加速度センサ316から受信した現在の合計角度θからメモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値を減じて得られる。そして、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvとメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、新たに得られた車両姿勢角度θvに基づいて制御信号を生成する。これにより、頻繁な光軸調節を回避でき、その結果、制御部228R2の制御負担を軽減することができ、またレベリングアクチュエータ226の長寿命化を図ることができる。生成された制御信号は、送信部228R3によってレベリング制御部236に送信され、制御信号に基づいた光軸調節が実行される。計算された車両姿勢角度θvは、新たな基準値としてメモリ228R4に記録される。
【0045】
前記「車両停止中」は、例えば加速度センサ316の検出値が安定したときから車両発進時までであり、この「車両発進時」は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときである。前記「車両停止中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0046】
車両の加速時および減速時の少なくとも一方、たとえば車両が発進したときあるいは停止するときの所定時間、制御部228R2は、加速度センサ316の出力値を記録する。制御部228R2は、車両上下方向の加速度を第1軸とし車両上下方向の加速度を第2軸とした座標に、記録した出力値をプロットし、最小二乗法により直線近似式を連続的、あるいは所定時間毎に算出する。そして、制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きの変化に基づいて灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成し、これにより光軸位置を補正する。また、あわせてメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を補正する。例えば、制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きと前回の計算で得られた直線近似式の傾きとを比較し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、当該傾きの変化に基づいて補正処理を実行する。
【0047】
また、例えば、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvがp°であり、直線近似式の傾きの変化の初回計算からの積算値がq°であったとする。あるいは、前回の車両停止中における車両姿勢角度θvの変化量、すなわち車両停止時に保持していた車両姿勢角度θvと車両発進時に保持していた車両姿勢角度θvとの差がp°であり、前回の発進時に算出した直線近似式と今回の発進時に算出した直線近似式との傾きの差がq°であったとする。この場合、制御部228R2は、車両姿勢角度θvの誤差(p-q)°だけ光軸位置を調節するための制御信号を生成し、送信部228R3が当該制御信号を送信する。また、制御部228R2は、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を(p-q)°だけ補正する。これにより、上述したように路面角度θrおよび車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し書き換えることで加速度センサ316の検出誤差等が積み重なって、オートレベリング制御の精度が低下してしまうことを回避することができる。あるいは、オートレベリング制御の精度低下を軽減することができる。
【0048】
あるいは、光軸位置および車両姿勢角度θvの基準値の補正方法は、次のようであってもよい。すなわち、車両300の加減速に起因した車両姿勢の傾きや、車両300の曲進に起因した車両姿勢の傾き等の外乱を除外できない場合、直線近似式の傾きの変化量が車両姿勢角度θvの変化量から大きくずれる可能性がある。この場合、直線近似式の傾きの変化量だけ光軸位置および車両姿勢角度θvの基準値を補正しても、実際の車両姿勢角度θvからずれてしまう。また、直線近似式の傾きが変化していることから実際の車両姿勢角度θvが保持している基準値からずれている可能性が高いため、保持している基準値を使用して光軸調節を実施しても高精度にオートレベリング制御を実施できない可能性がある。そこで、制御部228R2は、前記比率あるいは直線近似式の傾きの変化が検出された場合に、当該傾きの変化に基づく光軸位置の補正制御として、光軸位置を水平方向あるいは初期位置に近づけ、車両姿勢角度θvの基準値を0°に近づけるように補正する。これにより、灯具ユニット10の光軸位置を車両姿勢角度θvの変化に精度良く追従させることができなくなった場合でも、光軸位置を水平あるいは初期位置に近づけて運転者の視認性を確保するフェールセーフ機能を実現することができる。
【0049】
なお、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvと、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算された車両姿勢角度θvを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。同様に、制御部228R2は、計算された路面角度θrと、メモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算された路面角度θrを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。これにより、路面角度θrあるいは車両姿勢角度θvの基準値が頻繁に書き換えられることを回避できる。また、制御部228R2は、車両300の発進時の合計角度θと停止時の合計角度θとが異なる場合に路面角度θrを計算してもよい。これにより、制御部228R2の制御負担を軽減することができる。
【0050】
また、制御部228R2は、車両300の1回の発進から停止までの間における加減速時の加速度センサ316の検出値を記録しておき、車両停止時などに直線近似式を算出して、上述の補正処理を実行してもよい。
・・・
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用灯具システム200は、加速度センサ316で検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信し、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて灯具ユニット10の光軸を調節する。このように、本実施形態に係る車両用灯具システム200は、車両加減速時における車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化から車両姿勢角度θvの変化を取得するという新たな抽出方法を用いて、車両姿勢角度θvについての情報を取得している。すなわち、車両用灯具システム200は、加速度センサ316のプロット特性から車両姿勢角度θvについての情報を取得している。そのため、本実施形態に係る車両用灯具システム200によれば、加速度センサ316によって検出された合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する新たな技術を提供することができる。」

C 本件特許の願書には以下の図面が添付されている。


第3 申立理由の概要
1 特許異議申立人の主張の概要
本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?第4号証に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明1?9に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立人が提出した証拠方法
(1)甲第1号証
特開2006-47156号公報

(2)甲第2号証
特開2009-126268号公報

(3)甲第3号証
特開2006-27300号公報

(4)甲第4号証
特開2001-341578号公報

第4 当審の判断
1 各甲号証の記載等
(1)甲第1号証に記載された事項及び発明
本件特許の優先日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
第一の基準軸に対して感度軸を傾斜させた状態で配置される第一の加速度センサと、
前記第一の加速度センサの感度軸と直交する感度軸を有する第二の加速度センサと、
前記第一の基準軸の方向に検査用加速度を作用させたときに前記第一の加速度センサおよび前記第二の加速度センサで検出された加速度の値に基づいて、前記第一の加速度センサの感度軸の前記第一の基準軸に対する傾斜角度を演算する傾斜角度検出部と、
前記第一の加速度センサおよび前記第二の加速度センサで検出された加速度の値と前記傾斜角度検出部で演算された前記傾斜角度とに基づいて、前記第一の基準軸の方向に作用している加速度の値および前記第一の基準軸に直交する第二の基準軸の方向に作用している加速度の値の少なくとも一方を算出する制御部と、を備えることを特徴とする車載用装置。」

(1b)「【請求項3】
第一の基準軸に対して感度軸を傾斜させた状態で配置された第一の加速度センサと、
前記第一の加速度センサの感度軸と直交する感度軸を有する第二の加速度センサとを使用して、前記第一の加速度センサの感度軸の前記第一の基準軸に対する傾斜角度θを検出する加速度センサの傾斜角度検出方法であって、
前記第一の基準軸の方向に検査用加速度を作用させる工程と、
前記第一の加速度センサおよび前記第二の加速度センサのそれぞれにおいて前記検査用加速度に起因して発生した加速度を計測する工程と、
前記傾斜角度θを、
θ=tan^(-1)(A_(2)/A_(1))
ただし、A_(1):前記第一の加速度センサで検出された加速度の値
A_(2):前記第二の加速度センサで検出された加速度の値
により演算する工程と、を含むことを特徴とする加速度センサの傾斜角度検出方法。」

(1c)「【0001】
本発明は、加速度センサを備えた車載用装置に関し、さらには、基準軸に対する加速度センサの感度軸の傾斜角度を検出する加速度センサの傾斜角度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車においては、車体に発生する加速度を検出するための加速度センサが設けられており、この加速度センサで検出した加速度の値は、カーナビゲーションシステムやブレーキ液圧をコントロールするブレーキ制御装置(アンチロックブレーキシステムなど)といった各種機器において参照されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11-229919号公報(段落0002?0003、図1?図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の加速度センサでは、基準軸方向の加速度値そのものを加速度センサで検出させるために、その感度軸の方向(以下、適宜「感度方向」という。)と基準軸方向とを一致させておく必要があった。つまり、従来の加速度センサでは、その取付位置や取付角度を自由に選択することができず、場合によっては、他の機器の配置等に影響を及ぼすこともあった。なお、加速度センサの感度方向と基準軸方向とが一致していない場合には、加速度センサで検出された加速度の大きさと基準軸方向に実際に作用している加速度との間に差が生じてしまう。
【0004】
ここで、本明細書において、「基準軸」とは、各種機器を制御等する際に必要となる加速度の方向と平行な軸のことをいう。なお、基準軸としては、水平面内にある車体軸(車体前後方向の軸)、車体軸と直交する軸であって水平面内にある軸(車体左右方向の軸)、車体軸と直交する軸であって鉛直面内にある軸(車体上下方向の軸)が採用されることが多い。
【0005】
また、基準軸が二以上ある場合には、二以上の加速度センサのそれぞれについて、その感度方向を対応する基準軸方向と一致させなければならず、各加速度センサの取付位置や取付角度を自由に選択することは、より一層困難なものになってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、加速度センサを備えた車載用装置であって、その取付位置や取付角度を自由に選択しても基準軸方向の加速度を精度よく検出することが可能な車載用装置を提供することを課題とし、さらには、基準軸に対する加速度センサの感度軸の傾斜角度を検出する加速度センサの傾斜角度検出方法を提供することを課題とする。」

(1d)「【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る車載用装置10は、ブレーキに作用するブレーキ液圧の大きさを制御するブレーキ制御装置Bに内蔵されており、このブレーキ制御装置Bは、図2の(a)および(b)に示すように、車体20の前側に取り付けられている。
【0024】
ブレーキ制御装置Bは、図1に示すように、各種部材・機器の基体となるポンプボディ(基体)B1と、ポンプボディB1の第一取付面B11に一体に固着されるコントロールハウジングB2と、ポンプボディB1の第二取付面B12に一体に固着され、ブレーキ液を送る図示せぬポンプの動力となる電動モータB3とを主に備えている。また、コントロールハウジングB2は、電磁弁駆動用の図示せぬ電磁コイルが装着されるコントロールケースB21と、このコントロールケースB21の開口部を密閉するコントロールカバーB22とを備えており、その内部には、電磁弁等を制御する電子部品等が装着された基板B23などが収容される。
【0025】
なお、図2の(a)および(b)に示すように、本実施形態においては、水平面内にある車体前後方向の軸Yを第一の基準軸(以下、単に「基準軸Y」ということがある。)とし、水平面内において基準軸Yと直交する車体左右方向の軸Xを第二の基準軸(以下、単に「基準軸X」ということがある。)とする。また、基準軸Yは前向きを「正」とし、基準軸Xは右向きを「正」とし、基準軸Xから基準軸Yに向かう方向(図3において左回り)を「正」とする。
【0026】
車載用装置10は、図1に示すように、二つの加速度センサ11p,11qと、制御部12と、傾斜角度検出部13と、を備えて構成されている。なお、本実施形態では、二つの加速度センサ11p,11qのうち、加速度センサ11qを「第一の加速度センサ」と称し、加速度センサ11pを「第二の加速度センサ」と称することとする。
【0027】
第一の加速度センサ11qは、その感度軸qの方向が基準軸Y(図3参照)の方向とずれた状態でブレーキ制御装置Bの基板B23に取り付けられている。また、第二の加速度センサ11pは、その感度軸pが第一の加速度センサ11qの感度軸qと直交している。つまり、第二の加速度センサ11pは、その感度軸pの方向が基準軸X(図3参照)の方向とずれた状態で基板B23に取り付けられている。なお、本実施形態では、図3に示すように、感度軸p,qは、第一の基準軸Yおよび第二の基準軸Xを含む平面内またはこれと平行な平面内(すなわち、水平面内)にある。各加速度センサ11p,11qとしては、例えば、歪ゲージ型、静電容量型、ピエゾ抵抗型などの加速度センサを使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、図1に示すように、各加速度センサ11p,11qは、基板B23に形成された図示せぬプリント配線を介して制御部12および傾斜角度検出部13に接続されており、これによって各加速度センサ11p,11qで検出した信号が制御部12および傾斜角度検出部13に出力されるようになっている。
【0028】
制御部12は、図1に示すように、記憶手段12Aと、演算手段12Bとを備えて構成されている。
【0029】
記憶手段12Aは、後記する演算式(1)および(2)と、傾斜角度検出部13で演算された傾斜角度θ_(H)を記憶しておくものであり、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の不揮発性半導体メモリで構成されている。また、記憶手段12Aは、図示せぬプリント配線を介して演算手段12Bおよび傾斜角度検出部13に接続されている。これにより、傾斜角度検出部13で演算された傾斜角度θ_(H)を記憶手段12Aに書き込むことが可能になっており、さらに、記憶手段12Aで記憶した傾斜角度θ_(H)を演算手段12Bで読み出すことが可能になっている。ここで、EEPROMは、紫外線消去型のUV-EPROMを改良して、紫外線の代わりに電気的に消去できるようにしたEPROMである。また、このEEPROMは、UV-EPROMと違って、特別な消去装置が不要であり、システムに組み込んだまま簡単に消去や再書き込みができるといったメリットを有している。
【0030】
演算手段12Bは、図5に示すように、各加速度センサ11p,11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)と記憶手段12Aで記憶している傾斜角度θ_(H)とに基づいて、基準軸Y(図3参照)方向に作用している加速度の値A_(Y)および基準軸X(図3参照)方向に作用している加速度の値A_(X)を算出するものである。つまり、この演算手段12Bは、記憶手段12Aで記憶している傾斜角度θ_(H)および後記する演算式(1)および(2)を読み出す機能と、読み出した傾斜角度θ_(H)と加速度センサ11p,11qにて検出された加速度の値A_(p),A_(q)とを後記する演算式(1)および(2)に順次代入して基準軸Xおよび基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(X),A_(Y)を算出する機能とを少なくとも備えている。なお、制御部12には、図示は省略するが、加速度センサ11p,11qから出力された信号を加速度の値A_(p),A_(q)に変換する手段と、演算手段12Bで算出した加速度の値A_(X),A_(Y)をブレーキ制御装置B等に出力する手段とを備えている。
【0031】
演算式(1)および(2)を以下に示す。
A_(X)=A_(p)cosθ_(H)-A_(q)sinθ_(H) (1) (図3参照)
A_(Y)=A_(p)sinθ_(H)+A_(q)cosθ_(H) (2) (図3参照)
【0032】
なお、基準軸X,Y方向に作用している加速度の値A_(X),A_(Y)は、(1)および(2)に代えて、以下の演算式(1)’および(2)’により算出してもよい。つまり、第一の加速度センサ11qにて検出された加速度ベクトルA_(q)と第二の加速度センサ11pにて検出された加速度ベクトルA_(p)からこれらの合成ベクトルA_(pq)を算出し、算出した合成ベクトルA_(pq)を基準軸Y方向および基準軸X方向に分解することにより、基準軸Y方向および基準軸X方向に作用している加速度の値A_(Y),A_(X)を算出してもよい(図3参照)。
【0033】
演算式(1)’および(2)’を以下に示す。
A_(X)=A_(pq)cos(θ_(pq)+θ_(H)) (1)’ (図3参照)
A_(Y)=A_(pq)sin(θ_(pq)+θ_(H)) (2)’ (図3参照)
ただし、A_(pq)=(A_(p)^(2)+A_(q)^(2))^(0.5)
θ_(pq):合成ベクトルA_(pq)と加速度ベクトルA_(p)(感度軸p)とのなす角の大きさ(0°≦θ_(pq)<360°)であって、
A_(p)>0かつA_(q)≧0のとき θ_(pq)=tan^(-1)(|A_(q)|/|A_(p)|)
A_(p)<0かつA_(q)≧0のとき θ_(pq)=180°-tan^(-1)(|A_(q)|/|A_(p)|)
A_(p)<0かつA_(q)<0のとき θ_(pq)=180°+tan^(-1)(|A_(q)|/|A_(p)|)
A_(p)>0かつA_(q)<0のとき θ_(pq)=360°-tan^(-1)(|A_(q)|/|A_(p)|)
A_(p)=0かつA_(q)≧0のとき θ_(pq)=90°
A_(p)=0かつA_(q)<0のとき θ_(pq)=270°
【0034】
傾斜角度検出部13は、図5に示すように、基準軸Y方向に検査用加速度A_(0)(図4参照)を作用させたときに第一の加速度センサ11qで検出された加速度の値A_(1)(図4参照)および第二の加速度センサ11pで検出された加速度の値A_(2)(図4参照)に基づいて第一の加速度センサ11qの感度軸qの基準軸Yに対する傾斜角度θ_(H)を演算するものである。
ここで、傾斜角度θ_(H)(-90°<θ_(H)<90°)は、次式にて演算される(図4参照)。
θ_(H)=tan^(-1)(A_(2)/A_(1)) (3)
ただし、A_(1):第一の加速度センサ11qで検出された加速度の値
A_(2):第二の加速度センサ11pで検出された加速度の値
【0035】
なお、上記の式より明らかなように、傾斜角度θ_(H)を演算するに際しては、加速度の値A_(1),A_(2)の比とA_(2)の符号が分かればよいので、検査用加速度A_(0)の大きさは任意(未知)でよい。
【0036】
次に、第一の加速度センサ11qの感度軸qの第一の基準軸Yに対する傾斜角度θ_(H)を検出する方法を説明する。
傾斜角度θ_(H)を検出するには、まず、基準軸Y方向に任意の大きさ(未知でよい)の検査用加速度A_(0)(図4参照)を作用させ、次いで、第一の加速度センサ11qおよび第二の加速度センサ11p(図1参照)のそれぞれにおいて検査用加速度A_(0)に起因して発生した感度軸q,p方向の加速度A_(1),A_(2)(図4参照)を計測し、その後、傾斜角度検出部13(図1参照)において加速度A_(1),A_(2)を前記の演算式(3)に代入すればよい。なお、前記の演算式(3)で演算された傾斜角度θ_(H)は、制御部12の記憶手段12A(図1参照)に記憶される。
【0037】
ここで、検査用加速度A_(0)を基準軸Y方向に作用させるためには、例えば、車体20(図2(a),(b)参照)を基準軸Y方向に加速あるいは減速させればよい。この他、図6に示すように、車体20をその前後方向(基準軸Y方向)に傾斜する斜面Sに停車させれば、重力加速度gの斜面S方向の成分が検査用加速度A_(0)となって基準軸Y方向に作用することになる。このように、重力加速度gを利用して検査用加速度A_(0)を作用させると、より簡便に第一の加速度センサ11qの感度軸qの基準軸Yに対する実際の傾斜角度θ_(H)を知ることができる。なお、この場合、斜面Sの傾斜角度αが既知である必要はない。
【0038】
続いて、基準軸X,Y方向に作用している加速度の値A_(X),A_(Y)を算出する手順を説明する。車体20(図2参照)に加速度が加わると、まず、図3に示すように、各加速度センサ11p,11qによって、感度軸p,q方向の加速度の値A_(p),A_(q)が検出される。各加速度センサ11p,11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)は、図5に示すように、演算手段12Bに出力され、この演算手段12Bによって補正されて、ブレーキ制御装置Bに出力される。すなわち、各加速度センサ11p,11qにて加速度の値A_(p),A_(q)が検出されると、演算手段12Bは、記憶手段12Aに記憶しておいた傾斜角度θ_(H)および前記した演算式(1)および(2)を読み出すとともに、前記した演算式(1)および(2)に加速度の値A_(p),A_(q)および傾斜角度θ_(H)を代入することによって基準軸Y方向に作用している加速度の値A_(Y)および基準軸X方向に作用している加速度の値A_(X)を算出し、さらに、算出された加速度の値A_(X),A_(Y)をブレーキ制御装置Bに出力する。
【0039】
このように、車載用装置10によれば、各加速度センサ11p,11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)と記憶手段12Aに記憶されている傾斜角度θ_(H)とに基づいて基準軸Y方向に作用している加速度の値A_(Y)および基準軸X方向に作用している加速度の値A_(X)が算出されることになる。したがって、各加速度センサ11p,11qの感度方向と各基準軸X,Yの方向とが一致していない場合であっても、各基準軸X,Yの方向の加速度の値A_(X),A_(Y)を精度よく検出することが可能となる。つまり、この車載用装置10は、これを車体20の適所に設置する際に、各加速度センサ11p,11qの感度方向と各基準軸X,Y方向とを一致させる必要がないので、その取付位置や取付角度を自由に選択することが可能となる。」

(1e)「【0045】
(第二の実施形態)
図1に示す二つの加速度センサ11q,11rの互いに直交する感度軸q,rを、図8の(a)および(b)に示すように、車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置した場合であって、加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜している場合には、例えば、軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Yを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11qを「第二の加速度センサ」とすれば、前記した演算式(3)を利用して第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出することができる。なお、基準軸Yは前向きを「正」とし、基準軸Zは上向きを「正」とし、基準軸Zから基準軸Yに向かう方向(図8の(b)において左回り)を「正」とする。
【0046】
そして、前記した演算式(1),(2)または演算式(1)’,(2)’と同様の演算式に、傾斜角度θ_(V)と各加速度センサ11q,11rによって検出された感度軸q,r方向の加速度の値A_(q),A_(r)とを代入すると、基準軸Y,Z方向に作用している加速度の値A_(Y),A_(Z)を算出することができる。
【0047】
なお、図示は省略するが、二つの加速度センサ11p,11r(図1参照)を、それぞれの感度軸p,rが車体左右方向の軸Xおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置した場合であって、加速度センサ11pの感度軸pが軸Xに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜している場合には、例えば、軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Xを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11pを「第二の加速度センサ」とすれば、前記した演算式(3)を利用して第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出することができる。」

(1f)甲第1号証には以下の図が示されている。


また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(1g)【請求項1】の「第一の基準軸に対して感度軸を傾斜させた状態で配置される第一の加速度センサと、前記第一の加速度センサの感度軸と直交する感度軸を有する第二の加速度センサと、前記第一の基準軸の方向に検査用加速度を作用させたときに前記第一の加速度センサおよび前記第二の加速度センサで検出された加速度の値に基づいて、前記第一の加速度センサの感度軸の前記第一の基準軸に対する傾斜角度を演算する傾斜角度検出部と、前記第一の加速度センサおよび前記第二の加速度センサで検出された加速度の値と前記傾斜角度検出部で演算された前記傾斜角度とに基づいて、前記第一の基準軸の方向に作用している加速度の値および前記第一の基準軸に直交する第二の基準軸の方向に作用している加速度の値の少なくとも一方を算出する制御部と、を備える・・・車載用装置。」(記載事項(1a))という記載及び段落【0045】?【0046】の「二つの加速度センサ11q,11rの互いに直交する感度軸q,rを・・・車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置し・・・加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜し・・・軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Yを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11qを「第二の加速度センサ」と・・・第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出する・・・傾斜角度θ_(V)と各加速度センサ11q,11rによって検出された感度軸q,r方向の加速度の値A_(q),A_(r)とを代入すると、基準軸Y,Z方向に作用している加速度の値A_(Y),A_(Z)を算出することができる」(記載事項(1e))によれば、軸Zは「第一の基準軸」の、加速度センサ11rは「第一の加速度センサ」の、軸Yは「第二の基準軸」の、加速度センサ11qは「第二の加速度センサ」のそれぞれ具体的態様であることが明らかである。

以上の記載事項(1a)?(1f)及び認定事項(1g)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認める。
「第一の基準軸Zに対して感度軸rを傾斜させた状態で配置される第一の加速度センサ11rと、
前記第一の加速度センサ11rの感度軸rと直交する感度軸qを有する第二の加速度センサ11qと、
前記第一の基準軸Zの方向に検査用加速度A_(0)を作用させたときに前記第一の加速度センサ11rおよび前記第二の加速度センサ11qで検出された加速度A_(1),A_(2)の値に基づいて、前記第一の加速度センサ11rの感度軸rの前記第一の基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部と、
前記第一の加速度センサ11rおよび前記第二の加速度センサ11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)と前記傾斜角度検出部で演算された前記傾斜角度θ_(V)とに基づいて、前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)および前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)の少なくとも一方を算出する制御部と、を備える車載用装置10であって、
二つの加速度センサ11r,11qの互いに直交する感度軸q,rを、車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置し、前記第二の加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、前記第一の加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜し、
算出された加速度の値A_(Y),A_(Z)をブレーキ制御装置Bに出力する車載用装置10を内蔵する、
ブレーキに作用するブレーキ液圧の大きさを制御するブレーキ制御装置B。」

また、甲第1号証には、実質的に、引用発明1の「ブレーキ制御装置B」を制御するための情報の算出方法の発明(【請求項3】(記載事項(1b))を参照。以下「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

(2)甲第2号証に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【0001】
本発明は、車体の前後方向の傾きを検出することのできる車体の前後方向の傾き検出装置、およびこれを用いて車両の前照灯等の光軸の方向を調整する車両の光軸方向調整装置に関するものである。」

(2b)「【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の特に請求項1、2に記載の発明について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は本発明の実施の形態1における車体の前後方向の傾き検出装置の動作原理の第1の説明図、図2は同車体の前後方向の傾き検出装置の動作原理の第2の説明図、図3は同車体の前後方向の傾き検出装置のブロック図、図4は本発明の実施の形態1における車両の光軸方向調整装置を搭載した車両の動作の説明図である。
【0012】
図1?図4において、車両1は車体の一例としての自動車であり、この車両1は車体2とタイヤ3を備えている。車体2は、車両1の一部であり、主として車両1からタイヤ3を除いたもので構成されている。この点で、車体2は、自動車全体を示す車両1とは、明確に区別されている。タイヤ3は、車両1の一部であり、サスペンション等を介して車体2を支えているものである。前照灯4は車体2の前方に取り付けられた照明であり、夜間等における運転者の視認性を確保するために、車両1の前方を照らすものである。X軸は進行方向を正とする水平線と平行な軸である。α軸は車体2の前後方向の軸であり前方を正としている。β軸は前照灯4からの発せられる照明の光軸である。なお、前照灯4からの発せられる照明の光束は、平行な光束ではなく、前方に進むにしたがって広がっているものである。図1、図2および図4に示す光軸はその光束の中央部を示しているものである。
【0013】
加速度センサ5は、車体2に設けられており、α軸をその検知方向としている。加速度センサ5としては、慣性力を利用して検出するものが用いられている。そのような加速度センサ5の検出原理は、加速度センサ5内に弾性体(図示せず)を介して質量部(図示せず)を形成しておき、加速度が加わった際に、加速度センサの中で質量部が加速度方向と反対の方向へ移動することを利用したものである。このような加速度センサ5には公知のものがあり、それらを使用することができる。加速度算出装置6は、車両1の進行方向の変位を基に車両1の加速度を算出するものである。加速度とは、変位を時間で2回微分したものであるので、変位、または速度を入力情報として得ることができれば、加速度の算出は可能である。通常の自動車においては進行方向の変位を基に速度を検出する速度形が備わっていることを考慮すると、この速度計に入力する情報、または速度計から出力される情報を利用することで、車両1の加速度を算出することができる。
【0014】
計算装置7は、加速度センサ5および加速度算出装置6の出力を基に車体2の傾きθを計算する装置である。
・・・
【0025】
次に、以上のような車体の前後方向の傾き検出装置を用いた車両の光軸方向調整装置について説明をする。
【0026】
図4において、図4(a)は車体2の前後方向のα軸が水平の場合を示している。この場合、前照灯4の光軸であるβ軸は、運転者の視認性を良好にするために適切な方向に設定されている。具体的には、水平に対し下を向いた方向に設定され、前照灯4の光が車両1の前方方向の所定距離にある路面を照らすようになっている。
【0027】
次に図4(b)は、車体2の前後方向のα軸が水平に対し車体2が上方を向く方向に傾いているが、車両の光軸方向調整装置を動作させていない状態のものである。この場合には、前照灯4の光軸β軸は所定距離の前方の路面を照らすときよりも、さらに前方を照らす方向や、水平方向または水平よりも上方向を向くものとなってしまう。
【0028】
これに対し、図4(c)においては、図4(b)と同様に車体2の前後方向のα軸が水平軸に対して傾いているものの、車体2の傾きを検知し、この傾きに対応して前照灯4の光軸β軸の方向を調整して所定の距離の前方の路面を照らすようにしている。
【0029】
このときの車体2の傾きの検出方法は、図1?図3に示した原理に基づくものである。
【0030】
以上説明したように、本発明の車両の光軸方向調整装置は、車体2の傾きを検出し、その傾きに応じて、車体2の光軸β軸を動かすものである。例えば、車体2の前方が上を向く方向にθ傾いた場合には、前照灯4の光軸β軸を車体2が傾いていないときの角度に対して下向きにθ傾ければよい。このとき、前照灯4の光軸β軸を傾けるための方法としては、モータの動力を利用する方法が考えられる。」

(2c)甲第2号証には以下の図が示されている。


(3)甲第3号証に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【0001】
本発明は、車両の姿勢変化及び道路勾配に応じて車両用前照灯の照射方向を制御することにより、前方視認性を向上させるための技術に関する。」

(3b)「【0022】
車両用前照灯装置1は、車両の進行方向における姿勢変化及び走行路の道路勾配に応じて車両用前照灯の照射方向を制御するものであり、下記に示す構成要素を備えている(括弧内の数字は符号を示す。)。
【0023】
・第一の検出手段(2)
・第二の検出手段(3)
・比較手段(4)
・照射制御手段(5)
・駆動手段(6)
・車両用前照灯(7)
【0024】
第一の検出手段2は、水平面に対して路面がなす角度(これを「θ」と記す。)を検出する。第一の検出手段2には、例えば、GPS(Global Positioning System)を利用した衛星通信装置や、路車間通信装置等が用いられる。
【0025】
また、第二の検出手段3は、水平面に対して車両の車体軸がなす角度(これを「δ」と記す。)を検出する。第二の検出手段3には、水準器を用いたレベルセンサ又は傾斜センサが用いられ、車体又は車両用前照灯の非可動部に付設される。尚、レベルセンサの検出方法には、例えば、気泡位置等を光学的に計測する方式と、錘位置(あるいは加重位置)を計測する機械式等が挙げられ、水準器の車体等への取り付けに際して水平面にほぼ平行な状態で設置する。また、車両の加減速時における加速度の影響によって計測誤差が発生することへの配慮が必要とされ、車両の定速走行時にのみ、δを検出するか、あるいはδ値として所定時間又は所定の走行距離内での平均値を検出することが好ましい。
【0026】
比較手段4は、検出手段2、3によってそれぞれ得られるθ、δについての比較結果又は検出角度差を求めて、後段の照射制御手段5に送出する。尚、比較結果とは、θ値とδ値との大小関係や等値関係を示す信号を意味し、また、検出角度差とは「θ-δ」又は「δ-θ」を意味する。
【0027】
照射制御手段5は、比較手段4からの出力に基づく制御信号を駆動手段6に送出することにより、鉛直面内における車両用前照灯7の照射方向を変更し又は該照射方向を維持する。
【0028】
尚、駆動手段6には、車両用前照灯7の照射方向制御や光軸制御のためのアクチュエータや駆動回路、駆動機構等が含まれる。また、車両用前照灯7には、ヘッドランプあるいはヘッドランプやフォグランプ等を含めた前方照明システムが挙げられる。
【0029】
図2は、勾配をもった走行路上の車両姿勢に関して説明するための概略図である。尚、図中の「γ」は路面に対して車両の車体軸がなす角度を示している。
【0030】
オートレベリングシステムでは、前照灯の照射光軸を路面に対して常に一定の状態に保つことが必要とされる。
・・・
【0047】
上記照射制御手段5を構成するビーム制御用ECU10は、自車両の走行状況に応じた前照灯の照射制御を行うものであり、レベルセンサ14や加速度センサ15の検出情報が入力され、ナビゲーションECU9から必要な情報(角度θの検出データを含む。)を取得して前照灯の照射方向を制御する。具体的には、ナビゲーションECU9から勾配角度θのデータを得るとともに、レベルセンサ14の検出角度δのデータから所定時間又は所定走行距離内での平均値を算出する。そして、路面に対して車体軸のなす角度γを求め、γ値に応じた制御信号を駆動部16に対して出力する。駆動部16には前照灯の光軸調整用アクチュエータとその駆動回路が設けられており、角度γに応じた前照灯の照射方向変化を相殺すべく光軸調整が行われて照射方向が補正される。尚、加速度センサ15は車両の加減速状態を検出するために設けられており、また、図示しない他のECU(ABS用ECU等)に設けられた車速センサ13′の検出情報が必要に応じてビーム制御用ECU10に入力される。
・・・【0057】
また、ステップS5では、加速度センサ15の検出情報に基づいて前照灯の照射光軸の方向を制御する(例えば、加速走行時には照射方向が過剰に上向きにならないように制御し、また減速走行時には、ノーズダイブに伴って照射方向が過剰に下向きにならないように制御する。)。そして、ステップS6に進む。」

(3c)甲第3号証には以下の図が示されている。


(4)甲第4号証に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に配設される前照灯による照射の光軸方向を自動的に調整する車両用前照灯光軸方向自動調整装置に関するものである。」

(4b)「【0016】図1は本発明の実施の形態の一実施例にかかる車両用前照灯光軸方向自動調整装置の全体構成を示す概略図である。
【0017】図1において、車両に配設され周知のABS(Antilock Brake System)で用いられている車輪速センサ11等による車速(車輪速)V、また、車体に配設された傾斜計12にて計測された重力方向に対する傾斜角である絶対傾斜角θa 、その他のセンサ(図示略)から各種センサ信号等が車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)20に入力されている。なお、ECU20、車輪速センサ11及び傾斜計12は便宜上、車両の外部に図示されている。
【0018】ECU20は、周知の各種演算処理を実行する中央処理装置としてのCPU21、制御プログラムを格納したROM22、各種データを格納するRAM23、B/U(バックアップ)RAM24、入出力回路25及びそれらを接続するバスライン26等からなる論理演算回路として構成されている。
【0019】そして、ECU20内のCPU21によって、後述するように、車輪速センサ11からの車速V信号、傾斜計12からの絶対傾斜角θa に基づき制御角θactが算出され、車両の左右のヘッドライト(前照灯)30側のアクチュエータ35に入力され、左右のヘッドライト30の光軸方向が自動調整される。
【0020】図2は図1のヘッドライト30の要部構成を示す断面図である。
【0021】図2において、ヘッドライト30は主として、ランプ31とそのランプ31を固定するリフレクタ32、そのリフレクタ32を円弧矢印方向に揺動自在に支持する一方の支持部33及びリフレクタ32を支持すると共に可動自在な他方の可動部34、その可動部34を前後矢印方向に駆動するステップモータ等からなるアクチュエータ35にて構成されている。なお、ヘッドライト30の光軸方向は運転者1名が乗車した状態を想定して初期設定されている。
【0022】次に、本発明の実施の形態の一実施例にかかる車両用前照灯光軸方向自動調整装置で使用されているECU20内のCPU21による平地(発進加速)→坂道(上り・下り:一定速)→平地(減速停止)に対応する各種制御量等の遷移状態を示す図3のタイムチャートを参照し、ヘッドライト30の光軸方向を自動調整するアクチュエータ35を駆動するための制御角θact の算出について説明する。
【0023】一般に、車両のサスペンションのばね定数は常用域では線形であるため、加速度と停車中からのピッチ角変化とには比例関係があることが知られている。したがって、図3に示すように、平地であれば、加速度のみによる推定ピッチ角θpeは、次式(1)にて求めることができる。ここで、αは車速Vの微分(dV/dt)演算による加速度、Kはばね定数、θp0は停車中のピッチ角である。
【0024】
【数1】
θpe=α・K+θp0 ・・・(1)
【0025】これに対して、傾斜計12から得られる絶対傾斜角θa は、実際の路面に対する対地ピッチ角θp と路面自体の傾き分とを含んでいる。したがって、推定路面傾斜角θReは、次式(2)にて得ることができる。
【0026】
【数2】
θRe=θa -θpe ・・・(2)
【0027】ここで、実際の坂道走行時には、重力に起因する車両姿勢変化があり、上りでは正の誤差角θerror 、下りでは負の誤差角-θerror が生じる。これを補正するには、推定路面傾斜角θRe算出後に、この推定路面傾斜角θReから誤差角±θerror を推定して、この誤差角±θerror 分を補正してもよい。
【0028】このようにして、坂道走行時では、推定路面傾斜角θReと絶対傾斜角θa との差分から次式(3)にて制御角θact が算出される。この制御角θact に基づき、アクチュエータ35が駆動されヘッドライト30の光軸方向が自動調整される。
【0029】
【数3】
θact =-(θa -θRe) ・・・(3)
【0030】また、平地走行時、即ち、推定路面傾斜角θReがほぼ「0」であるときには、傾斜計12の出力としての絶対傾斜角θa が対地傾斜角を示すため、次式(4)にて制御角θact が算出される。この制御角θact に基づき、アクチュエータ35が駆動されヘッドライト30の光軸方向が自動調整される。
【0031】
【数4】
θact =-θa ・・・(4)
【0032】このように、本実施例の車両用前照灯光軸方向自動調整装置は、車両の重力方向に対する傾斜情報である絶対傾斜角θa を検出する1つの絶対傾斜角検出手段としての傾斜計12と、車両の車輪速センサ11からの車速V信号を微分演算することで加速度αを検出するECU20内のCPU21にて達成される加速度検出手段と、絶対傾斜角θa と加速度αから推定される車体傾斜角としての推定ピッチ角θpeとから推定路面傾斜角θReを求めるECU20内のCPU21にて達成される路面傾斜角推定手段と、路面傾斜角推定手段で得られた推定路面傾斜角θReに基づき、車両のヘッドライト(前照灯)30の制御角θact を算出するECU20内のCPU21にて達成される制御角演算手段と、前記制御角演算手段で算出された制御角θact に基づき、ヘッドライト30の光軸方向を調整するECU20内のCPU21、アクチュエータ35等からなる光軸方向調整手段とを具備するものである。
【0033】つまり、絶対傾斜角θa と加速度αから推定される推定ピッチ角θpeとから求められた推定路面傾斜角θReによって算出された制御角θact に基づき車両のヘッドライト30の光軸方向が調整される。このため、車両の静的及び動的な姿勢変化等が考慮され、ヘッドライト30の光軸方向を調整するためのシステム構成が簡略化されコスト低減を達成することができる。」

(4c)甲第4号証には以下の図が示されている。


2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。

(ア)引用発明1の「加速度」、「車体前後方向」及び「車体上下方向」は、その意味からみて、本件発明1の「加速度」、「車両前後方向」及び「車両上下方向」にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明1の「車体前後方向の軸」である「第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)」及び「車体上下方向の軸」である「第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)」は、その意味からみて、本件発明1の「車両前後方向の加速度」及び「車両上下方向の加速度」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明1は「ブレーキ制御装置B」は「ブレーキに作用するブレーキ液圧の大きさを制御する」ものであるから、引用発明1の「車載用装置10」が「前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)」及び「前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)」を車両走行中に検出し、「ブレーキ制御装置B」が出力された「加速度の値A_(Y),A_(Z)」に基づいて制御信号を生成していることが明らかである。
また、引用発明1の「車載用装置10」は「二つの加速度センサ11r,11q」(「第一の加速度センサ11r」及び「第二の加速度センサ11q」)を備え、「前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)」及び「前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)」を算出しているので、「前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)」及び「前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)」を検出する加速度センサをなすことが明らかである。
そうすると、引用発明1の「ブレーキ制御装置B」が「前記第一の加速度センサ11rおよび前記第二の加速度センサ11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)と前記傾斜角度検出部で演算された前記傾斜角度θ_(V)とに基づいて、前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)および前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)の少なくとも一方を算出」し、「算出された加速度の値A_(Y),A_(Z)をブレーキ制御装置Bに出力」していることは、本件発明1の「車両用灯具の制御装置」が「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」ことと、「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度」と「車両上下方向の加速度」とに基づいて、「制御信号を生成する」ものである限度で一致する。

(ウ)引用発明1の「ブレーキ制御装置B」は、本件発明1の「車両用灯具の制御装置」と、「車両用の制御装置」である限度で一致する。

以上のことから、本件発明1と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点1>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度とに基づいて、制御信号を生成する車両用の制御装置。」

<相違点1>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度」とに基づく「制御信号」の生成及び「車両用の制御装置」に関し、
本件発明1は、「車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」に基づいて制御信号を生成するものであって、「車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具の制御装置」であるのに対し、
引用発明1は、制御信号の生成がそのように特定されておらず、また「ブレーキ制御装置」である点。

イ 判断
(ア)引用発明1の「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」に関し、甲第1号証の段落【0045】?【0046】の「二つの加速度センサ11q,11rの互いに直交する感度軸q,rを、・・・車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置し・・・加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜し・・・軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Yを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11qを「第二の加速度センサ」と・・前記した演算式(3)を利用して第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出する」(記載事項(1e))という記載及び段落【0034】の「θ_(H)=tan^(-1)(A_(2)/A_(1)) (3)・・・A_(1):第一の加速度センサ11qで検出された加速度の値・・・A_(2):第二の加速度センサ11pで検出された加速度の値」(記載事項(1d))という記載を参照すると、甲第1号証には、「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」において、第二の加速度センサ11q及び第一の加速度センサ11rで検出された加速度の値の比率を用いることが記載されているといえる。
しかし、甲第1号証の上記記載は、第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出するために、第二の加速度センサ11q及び第一の加速度センサ11rで検出された加速度の値A_(q)、A_(r)の比率を用いることを示しているにすぎず、制御信号の生成に関し、車載用装置10(本件発明1の「加速度センサ」に相当。)で検出される車両前後方向の加速度値A_(Y)と車両上下方向の加速度値A_(Z)との比率を用いるものではないし、これら加速度A_(Y)の変化量及び加速度値A_(Z)の変化量を用いるものでもない。
したがって、引用発明1の「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」を上記のとおり理解したとしても、甲第1号証に、車両前後方向の加速度A_(Y)の変化量及び車両上下方向の加速度値A_(Z)の変化量の比率に基づいて制御信号を生成することは記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点1に係る本件発明1の構成は、「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具の制御装置」というものである。
甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する車両用灯具の制御装置は周知といえるが、「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて」制御信号を生成するものではない点で、本件発明1とは異なるから、当業者といえども、引用発明1及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点1に係る本件発明1の「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明1の「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づ」く制御装置に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第18ページ下から10行?第19ページ第16行。以下「主張A」という。)し、また、甲第1号証に記載された発明は、車両の前後方向に発生する加速度を用いて車両上下方向の傾斜角度を算出するものであるから、車両の前後方向に発生する加速度を用いて車両上下方向の傾斜角度を算出する点で軌を一にする甲第2?4号証に記載された技術的事項を適用することは当業者が容易に想到し得る旨主張する(特許異議申立書第20ページ第18行?末行。以下「主張B」という。)ので、以下検討する。

(エ)まず、上記主張Aについて検討する。
特許異議申立人は、出願時の技術常識について、いずれも具体的な証拠を示していないから、かかる技術常識を前提とする主張を直ちに採用することはできない。
さらに、仮に「加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得する」ものであることが技術常識であるとしても、本件明細書の段落【0036】の「加速度センサ316は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ316は、センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている。加速度センサ316は、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを検出し、3軸方向における重力加速度ベクトルGの各軸成分の数値を出力する。」(記載事項B)という記載を参照すると、本件発明1における「加速度」の意義は、加速度センサから加速度として出力される値を意味することが明らかであり、特許異議申立人が主張する、加速度センサが加速度を取得する過程において内部的に用いられる値とは異なる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Aは採用できない。

(オ)次に、上記主張Bについて検討する。
甲第1号証の【0045】?【0046】の「二つの加速度センサ11q,11rの互いに直交する感度軸q,rを、・・・車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置し・・・加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜し・・・軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Yを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11qを「第二の加速度センサ」と・・前記した演算式(3)を利用して第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出する」(記載事項(1e))という記載及び段落【0034】の「θ_(H)=tan^(-1)(A_(2)/A_(1)) (3)・・・A_(1):第一の加速度センサ11qで検出された加速度の値・・・A_(2):第二の加速度センサ11pで検出された加速度の値」(記載事項(1d))という記載を参照すると、甲第1号証には、加速度センサ11q,11rで検出された加速度の値の比率を用いて、第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)算出することが記載されているといえる。
しかし、当該傾斜角度θ_(V)は第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度であるから、「車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」ために用いられる車両の傾斜角度とは異なる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Bは採用できない。

(カ)以上より、本件発明1は、当業者であっても、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 対比
上記(1)アを踏まえ、本件発明2と引用発明1を対比すると、本件発明2と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点2>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値とに基づいて、制御信号を生成する車両用の制御装置。」

<相違点2>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値」とに基づく「制御信号」の生成及び「車両用の制御装置」に関し、
本件発明2は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率」に基づいて制御信号を生成するものであって、「車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具の制御装置」であるのに対し、
引用発明1は、制御信号の生成がそのように特定されておらず、また「ブレーキ制御装置」である点。

イ 判断
(ア)上記「(1)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、制御信号を生成することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点2に係る本件発明2の構成は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具」の制御装置というものである。
上記「(1)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する車両用灯具の制御装置は周知といえるが、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて」制御信号を生成するものではない点で、本件発明2とは異なるから、当業者といえども、引用発明1及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点2に係る本件発明2の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、、甲第1号証には、本件発明2の「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づ」く制御装置に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第21ページ第5行?第22ページ第2行。以下「主張C」という。)し、また、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第22ページ第9行?第12行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Cは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明2は、当業者であっても、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
上記(1)アを踏まえ、本件発明3と引用発明1を対比すると、本件発明3と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点3>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データに基づいて、制御信号を生成する車両用の制御装置。」

<相違点3>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データ」に基づく「制御信号」の生成及び「車両用の制御装置」に関し、
本件発明3は、「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾き」に基づいて制御信号を生成するものであって、「車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具の制御装置」であるのに対し、
引用発明1は、制御信号の生成がそのように特定されておらず、また「ブレーキ制御装置」である点。

イ 判断
(ア)上記「(1)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、制御信号を生成することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点3に係る本件発明3の構成は、「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具」の制御装置というものである。
上記「(1)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する車両用灯具の制御装置は周知といえるが、「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて」制御信号を生成するものではない点で、本件発明3とは異なるから、当業者といえども、引用発明1及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点3に係る本件発明3の「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明3の「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づ」く制御装置に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第22ページ第17行?第23ページ第14行。以下「主張D」という。)し、また、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第23ページ第21行?第24行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Dは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明3は、当業者であっても、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明4について
ア 対比
上記(1)アを踏まえ、本件発明4と引用発明1を対比すると、本件発明4と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点4>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データに基づいて、制御信号を生成する車両用の制御装置。」

<相違点4>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データ」に基づく「制御信号」の生成及び「車両用の制御装置」に関し、
本件発明4は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾き」に基づいて制御信号を生成するものであって、「車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具の制御装置」であるのに対し、
引用発明1は、制御信号の生成がそのように特定されておらず、また「ブレーキ制御装置」である点。

イ 判断
(ア)上記「(1)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、制御信号を生成することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点4に係る本件発明4の構成は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」「車両用灯具」の制御装置というものである。
上記「(1)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する車両用灯具の制御装置は周知といえるが、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて」制御信号を生成するものではない点で、本件発明4とは異なるから、当業者といえども、引用発明1及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点4に係る本件発明4の加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両用灯具の車両上下方向の照射方向を変更するための制御信号を生成する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明4の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づ」く制御装置に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第24ページ第1行?下から4行。以下「主張E」という。)し、さらに、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第25ページ第4行?第7行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Eは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明4は、当業者であっても、引用発明1(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明3または4を直接的に引用し、少なくとも本件発明3または4の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(3)、(4)のとおり、本件発明3?4が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明5は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(6)本件発明6について
ア 対比
上記(1)アを踏まえ、本件発明6と引用発明2を対比する。

(ア)引用発明2の「加速度センサ11r,11q」、「車体前後方向」及び「車体上下方向」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「加速度センサ」、「車両前後方向」及び「車両上下方向」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明2の「前記第一の加速度センサ11rおよび前記第二の加速度センサ11qで検出された加速度の値A_(p),A_(q)と前記傾斜角度検出部で演算された前記傾斜角度θ_(V)とに基づいて、前記第一の基準軸Zの方向に作用している加速度の値A_(Z)および前記第一の基準軸Zに直交する第二の基準軸Yの方向に作用している加速度の値A_(Y)の少なくとも一方を算出」し、「算出された加速度の値A_(Y),A_(Z)をブレーキ制御装置Bに出力」し、「ブレーキに作用するブレーキ液圧の大きさを制御するブレーキ制御装置B」を制御するための情報の算出方法は、本件発明6の「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」「車両姿勢角度情報の算出方法」と、「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度」と「車両上下方向の加速度」「とに基づいて」、「車両」「に関する情報を算出する」「車両情報の算出方法」である限度で一致する。

以上のことから、本件発明6と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点5>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度とに基づいて、車両に関する情報を算出する車両情報の算出方法。」

<相違点5>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度」とに基づく「車両に関する情報」の「算出」及び「車両情報の算出方法」に関し、
本件発明6は、「車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出するものであって、「車両姿勢角度情報の算出方法」であるのに対し、
引用発明2は、情報の算出がそのように特定されておらず、また「車両姿勢角度情報の算出方法」ではない点。

イ 判断
(ア)引用発明2の「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」に関し、甲第1号証の【請求項3】(記載事項(1b))、段落【0045】?【0046】の「二つの加速度センサ11q,11rの互いに直交する感度軸q,rを、・・・車体前後方向の軸Yおよび車体上下方向の軸Zを含む鉛直面内あるいはこれに平行な鉛直面内にあるように配置し・・・加速度センサ11qの感度軸qが軸Yに対して傾斜し、加速度センサ11rの感度軸rが軸Zに対して傾斜し・・・軸Zを「第一の基準軸」とし、加速度センサ11rを「第一の加速度センサ」とし、軸Yを「第二の基準軸」とし、加速度センサ11qを「第二の加速度センサ」と・・前記した演算式(3)を利用して第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出する」(記載事項(1e))という記載及び段落【0034】の「θ_(H)=tan^(-1)(A_(2)/A_(1)) (3)・・・A_(1):第一の加速度センサ11qで検出された加速度の値・・・A_(2):第二の加速度センサ11pで検出された加速度の値」(記載事項(1d))という記載を参照すると、甲第1号証には、「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」において、第二の加速度センサ11q及び第一の加速度センサ11rで検出された加速度の値の比率を使用し、角度情報を算出することが記載されているといえる。
しかし、甲第1号証の上記記載は第一の加速度センサ11rの感度軸rの基準軸Zに対する傾斜角度θ_(V)を算出することを示しているにすぎず、車両に関する情報の算出に関し、車載用装置10(本件発明1の「加速度センサ」に相当。)で検出される車両前後方向の加速度値A_(Y)と車両上下方向の加速度値A_(Z)との比率を用いるものではないし、これら加速度A_(Y)の変化量及び加速度値A_(Z)の変化量を用いるものでもない。
したがって、引用発明2の「傾斜角度θ_(V)を演算する傾斜角度検出部」を上記のとおり理解したとしても、甲第1号証に、加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両に関する情報を算出することは記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点5に係る本件発明6の構成は、「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」「車両姿勢角度情報の算出方法」というものである。
甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出する姿勢角度情報の算出方法は周知といえるが、「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて」姿勢角度情報を算出するものではない点で、本件発明6とは異なるから、当業者といえども、引用発明2及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点5に係る本件発明6の「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明6の「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づ」く車両姿勢角度情報の算出方法に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第25ページ下から4行?第26ページ下から8行。以下「主張F」という。)し、さらに、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第27ページ第8行?第15行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Fは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明6は、当業者であっても、引用発明2(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(7)本件発明7について
ア 対比
上記「(1)ア」及び「(6)ア」を踏まえ、本件発明7と引用発明2を対比すると、本件発明7と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点6>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値とに基づいて、車両に関する情報を算出する車両情報の算出方法。」

<相違点6>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値」とに基づく「車両に関する情報」の「算出」及び「車両情報の算出方法」に関し、
本件発明7は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率」に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出するものであって、「車両姿勢角度情報の算出方法」であるのに対し、
引用発明2は、情報の算出がそのように特定されておらず、また「車両姿勢角度情報の算出方法」ではない点。

イ 判断
(ア)上記「(6)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両に関する情報を算出することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点6に係る本件発明7の構成は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」「車両姿勢角度情報の算出方法」というものである。
上記「(6)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出する姿勢角度情報の算出方法は周知といえるが、「加速度センサで検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて」姿勢角度情報を算出するものではない点で、本件発明7とは異なるから、当業者といえども、引用発明2及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点6に係る本件発明7の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明7の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づ」く車両姿勢角度情報の算出方法に相当する構成が記載されている旨主張特許異議申立書第27ページ下から9行?第28ページ第17行。以下「主張G」という。)し、さらに、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第28ページ下から6行?下から3行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Gは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明7は、当業者であっても、引用発明2(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(8)本件発明8について
ア 対比
上記「(1)ア」及び「(6)ア」を踏まえ、本件発明8と引用発明2を対比すると、本件発明8と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点7>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データに基づいて、車両に関する情報を算出する車両情報の算出方法。」

<相違点7>
「車両走行中に加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データ」に基づく「車両に関する情報」の「算出」及び「車両情報の算出方法」に関し、
本件発明8は、「車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾き」に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出するものであって、「車両姿勢角度情報の算出方法」であるのに対し、
引用発明2は、情報の算出がそのように特定されておらず、また「車両姿勢角度情報の算出方法」ではない点。

イ 判断
(ア)上記「(6)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両に関する情報を算出することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点7に係る本件発明8の構成は、「車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」「車両姿勢角度情報の算出方法」というものである。
上記「(6)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出する姿勢角度情報の算出方法は周知といえるが、「車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて」姿勢角度情報を算出するものではない点で、本件発明7とは異なるから、当業者といえども、引用発明2及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点7に係る本件発明8の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸の数値の変化量と加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の数値の変化量との比率に基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明8の「加速度センサで検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づ」く車両姿勢角度情報の算出方法に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第29ページ第3行?第29ページ下から2行。以下「主張H」という。)し、さらに、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第30ページ第5行?第8行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Hは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明8は、当業者であっても、引用発明2(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(9)本件発明9について
ア 対比
上記「(1)ア」及び「(6)ア」を踏まえ、本件発明9と引用発明2を対比すると、本件発明9と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点8>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データに基づいて、車両に関する情報を算出する車両情報の算出方法。」

<相違点8>
「車両走行中に検出される、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データ」に基づく「車両に関する情報」の「算出」及び「車両情報の算出方法」に関し、
本件発明9は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾き」に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出するものであって、「車両姿勢角度情報」の算出方法であるのに対し、
引用発明2は、情報の算出がそのように特定されておらず、また「車両姿勢角度情報の算出方法」ではない点。

イ 判断
(ア)上記「(6)イ(ア)」で述べたと同様に、甲第1号証には、加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両に関する情報を算出することが記載も示唆もされていない。

(イ)上記相違点8に係る本件発明9の構成は、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」「車両姿勢角度情報の算出方法」というものである。
上記「(6)イ(イ)」で述べたとおり、甲第2号証?甲第4号証を参照すると、加速度センサで検出される加速度に基づいて車両姿勢角度に関する情報を算出する姿勢角度情報の算出方法は周知といえるが、「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて」姿勢角度情報を算出するものではない点で、本件発明9とは異なるから、当業者といえども、引用発明2及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点8に係る本件発明9の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて、車両姿勢角度に関する情報を算出する」という構成を容易に想到することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、「一般的な技術常識として、加速度はベクトルで表されるものであり、加速度センサは『加速度が作用していない状態』における値と『加速度が作用している状態』における値との変化量に基づいて加速度を取得することは自明である。また、車両に搭載される加速度センサにおいて、『加速度が作用している状態』とは、『車両が停止している状態』と『車両が一定速度で走行している状態』のことを示すものであり、当業者であれば当然想到できるものである」から、甲第1号証には、本件発明9の「加速度センサにおける車両前後方向と関連付けられたX軸、及び加速度センサにおける車両上下方向と関連付けられたZ軸の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、前記X軸の数値を第1軸に設定し前記Z軸の数値を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づ」く車両姿勢角度情報の算出方法に相当する構成が記載されている旨主張(特許異議申立書第30ページ第13行?第31ページ第10行。以下「主張I」という。)し、さらに、主張Bと同旨の主張をする(特許異議申立書第31ページ第16行?第19行。)。
しかしながら、上記「(1)イ(エ)」で述べたと同様に、特許異議申立人の上記主張Iは採用できないし、上記「(1)イ(オ)」で述べたとおり、特許異議申立人の上記主張Bも採用できない。

(エ)以上より、本件発明9は、当業者であっても、引用発明2(甲第1号証に記載された発明)及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-30 
出願番号 特願2015-148612(P2015-148612)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 當間 庸裕  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
中田 善邦
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6193928号(P6193928)
権利者 株式会社小糸製作所
発明の名称 車両用灯具の制御装置および車両姿勢角度情報の算出方法  
代理人 三木 友由  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  

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