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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01D
管理番号 1341123
異議申立番号 異議2018-700201  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-06 
確定日 2018-06-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6191838号発明「磁気センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6191838号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6191838号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成27年3月9日に特許出願され、平成29年8月18日に特許権の設定登録がされ、その特許に対して、平成30年3月6日に特許異議申立人特許業務法人楓国際特許事務所により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-10の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」-「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基準位置における被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する角度検出値を生成する磁気センサであって、
磁界検出部と演算部とを備え、
前記磁界検出部は、前記被検出磁界を検出する複数の磁気抵抗効果素子を含み、前記被検出磁界の方向が第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号と前記被検出磁界の方向が第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号とを出力し、
前記複数の磁気抵抗効果素子の各々は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記被検出磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記演算部は、前記第1および第2の信号に基づいて前記角度検出値を算出し、
前記被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、前記角度検出値は、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分を含み、
前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.1°以下であることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記被検出磁界の方向が前記所定の周期で回転する場合、前記第1の信号は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第1の理想成分と、前記第1の理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分である第1の第3高調波成分と、前記第1の理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分である第1の第5高調波成分とを含み、前記第2の信号は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第2の理想成分と、前記第2の理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分である第2の第3高調波成分と、前記第2の理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分である第2の第5高調波成分とを含み、
前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.18%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記演算部は、前記角度検出値を算出する角度検出値算出部と、前記角度検出値に対して補正処理を行って補正後角度検出値を生成する補正処理部とを含み、前記補正後角度検出値の誤差の絶対値の最大値は、前記角度検出値の誤差の絶対値の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項1または2記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記補正処理部は、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内のどの値であっても、前記補正後角度検出値の誤差の最大値と最小値の差の1/2が0.1°以下になるように、前記補正処理を行うことを特徴とする請求項3記載の磁気センサ。
【請求項5】
基準位置における被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する角度検出値を生成する磁気センサであって、
磁界検出部と演算部とを備え、
前記磁界検出部は、前記被検出磁界を検出する複数の磁気抵抗効果素子を含み、前記被検出磁界の方向が第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号と前記被検出磁界の方向が第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号とを出力し、
前記複数の磁気抵抗効果素子の各々は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記被検出磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記演算部は、前記第1および第2の信号に基づいて前記角度検出値を算出し、
前記被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、前記角度検出値は、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分を含み、
前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下であることを特徴とする磁気センサ。
【請求項6】
前記被検出磁界の方向が前記所定の周期で回転する場合、前記第1の信号は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第1の理想成分と、前記第1の理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分である第1の第3高調波成分と、前記第1の理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分である第1の第5高調波成分とを含み、前記第2の信号は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第2の理想成分と、前記第2の理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分である第2の第3高調波成分と、前記第2の理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分である第2の第5高調波成分とを含み、
前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.09%以下であることを特徴とする請求項5記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記演算部は、前記角度検出値を算出する角度検出値算出部と、前記角度検出値に対して補正処理を行って補正後角度検出値を生成する補正処理部とを含み、前記補正後角度検出値の誤差の絶対値の最大値は、前記角度検出値の誤差の絶対値の最大値よりも小さいことを特徴とする請求項5または6記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記補正処理部は、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内のどの値であっても、前記補正後角度検出値の誤差の最大値と最小値の差の1/2が0.05°以下になるように、前記補正処理を行うことを特徴とする請求項7記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記第2の方向は、前記第1の方向に直交していることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記磁界検出部は、前記第1の信号を出力する第1の検出回路と、前記第2の信号を出力する第2の検出回路とを有し、
前記第1の検出回路と前記第2の検出回路の各々は、前記複数の磁気抵抗効果素子のうちの2つ以上が直列に接続されて構成された磁気抵抗効果素子列を含み、
前記複数の磁気抵抗効果素子の各々の前記自由層は、前記非磁性層に接する第1の面と、その反対側の第2の面とを有し、前記第2の面は、5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状を有し、
前記磁気抵抗効果素子列を構成する2つ以上の磁気抵抗効果素子の数は、偶数であり、
前記磁気抵抗効果素子列を構成する2つ以上の磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果素子の対を1つ以上含み、
前記対を構成する2つの磁気抵抗効果素子における磁化固定層の磁化方向は、0°および180°を除く所定の相対角度をなし、
前記第1の検出回路において、前記第1の方向は、前記対を構成する2つの磁気抵抗効果素子における磁化固定層の磁化方向の中間の方向またはそれとは反対の方向であり、
前記第2の検出回路において、前記第2の方向は、前記対を構成する2つの磁気抵抗効果素子における磁化固定層の磁化方向の中間の方向またはそれとは反対の方向であること
を特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気センサ。」

第3 申立理由の概要
理由1 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証、甲第3号証を提出し、請求項1-10に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

理由2 特許異議申立人は、本件特許発明1-10は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

理由3 特許異議申立人は、本件特許発明1-10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

理由4 特許異議申立人は、本件特許発明1-10は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2012-107963号公報
甲第2号証:Characteristics of TMR Angle Sensors,SENSOR+TEST Conferences 2011、2011年6月7日、予稿集、p.361-365
甲第3号証:New generation TMR sensors,13th Symposium Magnetoresistive Sensors and Magnetic Systems、2015年3月3-4日、予稿集、p.160-167

第4 理由1(第29条第2項)について
1 甲第1号証-甲第3号証の記載事項
(1)甲第1号証には、以下のように記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)
「【0021】
図1に示したように、本実施の形態に係る回転磁界センサ1は、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度を検出するものである。・・・」

「【0027】
第1および第2の検出回路11,12は、それぞれ、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子列(以下、MR素子列と記す。)を含んでいる。各MR素子列は、直列に接続された複数の磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と記す。)によって構成されている。後で詳しく説明するが、各MR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。各MR素子列を構成する複数のMR素子の数は、2以上の偶数である。各MR素子列を構成する複数のMR素子は、MR素子の対を1つ以上含んでいる。対を構成する2つのMR素子における磁化固定層の磁化方向は、0°および180°を除く所定の相対角度をなしている。」

「【0072】
MR素子の両端間の電位差は、回転磁界MFの方向DMの回転に伴って周期的に変化する。MR素子の両端間の電位差のうち、周期的に変化する成分は、理想的な正弦曲線の成分の他に、電位差高調波成分を含む場合がある。この場合、MR素子列(一対のMR素子)の両端間の電位差のうち、周期的に変化する成分も、理想的な正弦曲線の成分の他に、電位差高調波成分を含む場合がある。本実施の形態によれば、対を構成する2つのMR素子の各々において発生する2つの電位差高調波成分が合成されることによって、1つのMR素子における電位差高調波成分に比べて、MR素子列(一対のMR素子)における電位差高調波成分を低減することが可能になる。以下、これについて詳しく説明する。」

「【0127】
[第3の実施の形態]
次に、図20を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る回転磁界センサについて説明する。図20は、本実施の形態に係る回転磁界センサ5の構成を示す回路図である。本実施の形態に係る回転磁界センサ5は、第1の実施の形態における第1の検出回路11、第2の検出回路12および演算回路13の代りに、第1の検出回路21、第2の検出回路22および演算回路23を備えている。第1の検出回路21は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す第1の信号S1を出力する。第2の検出回路22は、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度を検出して、その強度を表す第2の信号S2を出力する。演算回路23は、第1の信号S1および第2の信号S2に基づいて、基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度θと対応関係を有する角度検出値θsを算出する。演算回路23における角度検出値θsの算出方法は、第1の実施の形態と同じである。基準方向DRと第1の方向D1および第2の方向D2の関係は、図2に示した基準方向DRと第1の方向D1および第2の方向D2の関係と同じである。
【0128】
以下、第1および第2の検出回路21,22の構成について詳しく説明する。第1の検出回路21は、ブリッジ回路24と、差分検出器25とを有している。ブリッジ回路24は、電源ポートV3と、グランドポートG3と、2つの出力ポートE31,E32と、直列に接続された第1および第2のMR素子列R31,R32と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R33,R34とを含んでいる。第1ないし第4のMR素子列R31?R34は、いずれも、直列に接続された複数のMR素子によって構成されている。第1ないし第4のMR素子列R31?R34は、それぞれ、第1の端部と第2の端部とを有している。」

「【0131】
第2の検出回路22は、ブリッジ回路26と、差分検出器27とを有している。ブリッジ回路26は、電源ポートV4と、グランドポートG4と、2つの出力ポートE41,E42と、直列に接続された第1および第2のMR素子列R41,R42と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R43,R44とを含んでいる。第1ないし第4のMR素子列R41?R44は、いずれも、直列に接続された複数のMR素子によって構成されている。第1ないし第4のMR素子列R41?R44は、それぞれ、第1の端部と第2の端部とを有している。」

「【0134】
次に、各MR素子列を構成する複数のMR素子について詳しく説明する。まず、ブリッジ回路24の第1ないし第4のMR素子列R31,R32,R33,R34を構成する複数のMR素子について説明する。第1ないし第4のMR素子列R31,R32,R33,R34は、それぞれ、直列に接続された4つのMR素子によって構成されている。第1のMR素子列R31は、第1の対のMR素子R311,R312と、第2の対のMR素子R313,R314によって構成されている。第2のMR素子列R32は、第1の対のMR素子R321,R322と、第2の対のMR素子R323,R324によって構成されている。第3のMR素子列R33は、第1の対のMR素子R331,R332と、第2の対のMR素子R333,R334によって構成されている。第4のMR素子列R34は、第1の対のMR素子R341,R342と、第2の対のMR素子R343,R344によって構成されている。」

「【0141】
図21に示したように、MR素子R311,R312,R313,R314の磁化固定層の磁化方向D311,D312,D313,D314は、第3の方向D3と第4の方向D4の中間の方向が第1の方向D1と同じ方向(X方向)になるように固定されている。第3の方向D3と第4の方向D4は、0°および180°を除く所定の相対角度2φをなしている。第3の方向D3は、第1の方向D1から時計回り方向に角度φだけ回転した方向である。第4の方向D4は、第1の方向D1から反時計回り方向に角度φだけ回転した方向である。第1の対のMR素子R311,R312の磁化固定層の磁化方向D311,D312は、0°および180°を除く所定の相対角度2ψをなしている。第2の対のMR素子R313,R314の磁化固定層の磁化方向D313,D314も、0°および180°を除く所定の相対角度2ψをなしている。MR素子R311の磁化固定層の磁化方向D311は、第3の方向D3から時計回り方向に角度ψだけ回転した方向である。MR素子R312の磁化固定層の磁化方向D312は、第3の方向D3から反時計回り方向に角度ψだけ回転した方向である。MR素子R313の磁化固定層の磁化方向D313は、第4の方向D4から時計回り方向に角度ψだけ回転した方向である。MR素子R314の磁化固定層の磁化方向D314は、第4の方向D4から反時計回り方向に角度ψだけ回転した方向である。角度φ,ψは互いに異なる。角度φは、例えば45°である。角度ψは、例えば30°である。」

「【0184】
本実施の形態によれば、φを45°とし、ψを30°とすることにより、上述のように各MR素子列において2次および3次の電位差高調波成分を低減することができる。その結果、本実施の形態によれば、2次および3次の電位差高調波成分に起因した回転磁界センサ5の検出角度の誤差を低減することが可能になる。」

「【0187】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、各MR素子列がMR素子の対を4つ以上含み、各MR素子列において、3種類以上の次数の電位差高調波成分を低減できるようにしてもよい。例えば、第3の実施の形態における各MR素子の代りに、磁化固定層の磁化方向が、第3の実施の形態における各MR素子における磁化固定層の磁化方向に対して-22.5°、22.5°だけ異なる2つのMR素子を設けることによって、2次、3次および4次の電位差高調波成分に起因した回転磁界センサの検出角度の誤差を低減することが可能になる。」

図1


図20


図21


上記の記載事項を総合すると、第3の実施形態の回転磁界センサ5に関して、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。

「基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度を検出する回転磁界センサ5であって(【0021】、【0127】)、
回転磁界センサ5は、第1の検出回路21、第2の検出回路22および演算回路23を備え、
第1の検出回路21は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す第1の信号S1を出力し、
第2の検出回路22は、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度を検出して、その強度を表す第2の信号S2を出力し、
演算回路23は、第1の信号S1および第2の信号S2に基づいて、基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度θと対応関係を有する角度検出値θsを算出し(【0127】)、
第1の検出回路21は、直列に接続された第1および第2のMR素子列R31,R32と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R33,R34とを含んでおり、第1ないし第4のMR素子列R31?R34は、いずれも、直列に接続された複数のMR素子によって構成され(【0128】)、
第2の検出回路22は、直列に接続された第1および第2のMR素子列R41,R42と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R43,R44とを含んでおり、第1ないし第4のMR素子列R41?R44は、いずれも、直列に接続された複数のMR素子によって構成され(【0131】)、
各MR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有しており(【0027】)、
MR素子の両端間の電位差は、回転磁界MFの方向DMの回転に伴って周期的に変化し、MR素子の両端間の電位差のうち、周期的に変化する成分は、理想的な正弦曲線の成分の他に、電位差高調波成分を含む場合があり(【0072】)、
第1のMR素子列R31は、第1の対のMR素子R311,R312と、第2の対のMR素子R313,R314によって構成し(【0134】)、
第3の方向D3を、第1の方向D1から時計回り方向に角度φだけ回転した方向とし、第4の方向D4を、第1の方向D1から反時計回り方向に角度φだけ回転した方向とすると、MR素子R311の磁化固定層の磁化方向D311は、第3の方向D3から時計回り方向に角度ψだけ回転した方向であり、MR素子R312の磁化固定層の磁化方向D312は、第3の方向D3から反時計回り方向に角度ψだけ回転した方向であり、MR素子R313の磁化固定層の磁化方向D313は、第4の方向D4から時計回り方向に角度ψだけ回転した方向であり、MR素子R314の磁化固定層の磁化方向D314は、第4の方向D4から反時計回り方向に角度ψだけ回転した方向であり(【0141】)、φを45°とし、ψを30°とすることにより、MR素子列において2次および3次の電位差高調波成分を低減することができ(【0184】)、
磁化固定層の磁化方向が、各MR素子における磁化固定層の磁化方向に対して-22.5°、22.5°だけ異なる2つのMR素子を設けることによって、2次、3次および4次の電位差高調波成分に起因した回転磁界センサの検出角度の誤差を低減することが可能になる(【0187】)、
回転磁界センサ5。」

(2)甲第2号証には、以下のように記載されている(下線は、当審で付与した。なお、翻訳は、異議申立人の翻訳によった。)。
「Next, the dependence of the angle error on the magnetic field strength is shown in Fig.5. The minimum value of the angle error exists at about 60mT of the magnetic field, and it is smaller than 0.3 degrees over the range of 10mT-70mT, which indicates that this sensor will be used in various magnetic field strength conditions. These favorable characteristics were achieved by the decrease of coercive force and magnetic anisotropy of the free layer, the optimization of the pinned layer and the shape with the small shape anisotropy. 」(第362頁右欄第12-第363頁左欄第6頁)
(翻訳:次に、角度誤差の磁場強度依存性を図5に示す。角度誤差の最小値は磁場約60mTに存在し、10mT?70mTの範囲にわたり0.3度未満であり、このことからこのセンサが様々な磁気強度環境で使用できることが示される。これらの好ましい特性は、フリー層の保磁力および磁気異方性の減少、ピン層の最適化、および形状異方性の小さな形状によって達成された。)

(3)甲第3号証には、以下のように記載されている(下線は、当審で付与した。なお、翻訳は、異議申立人の翻訳によった。)。
「With this filter concept eight pinning angles are already required for one angle sensor.
The impact of harmonic filters has been investigated by simulation before chip design. Fig.8 demonstrates that angle errors below 0.2° over a large field range can be realized by means of two filters. Consequently a large number of different pinning angles are needed. It is evident that a method of manufacturing multiple pinning angles in one chip must be available.」(第165頁下から5-1行)
(翻訳:このフィルタ概念では、1つの角度センサに対しすでに8つのピニング角度が必要となる。
チップ設計の前に高周波フィルタの効果をシミュレーションによって調査した。2つのフィルタによって広い磁界範囲にわたり0.2°を下回る角度誤差の実現が実証可能なことが図8からわかる。その結果、多数の異なるピニング角度が必要となる。1つのチップにおいて複数のピニング角度を製造する方法が利用可能であることが必須であることが明らかである。)

2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「回転磁界MF」、「回転磁界センサ5」、「演算回路23」、「MR素子」は、それぞれ、本件特許発明1の「被検出磁界」、「磁気センサ」、「演算部」、「磁気抵抗効果素子」に相当する。

(イ)引用発明の「回転磁界センサ5は」「演算回路23を備え、」「演算回路23は、」「基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度θと対応関係を有する角度検出値θsを算出し」ているので、
引用発明の「基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度を検出する回転磁界センサ5」は、本件特許発明1の「基準位置における被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する角度検出値を生成する磁気センサ」に相当する。

(ウ)引用発明の「第1の検出回路21」及び「第2の検出回路22」は、本件特許発明1の「磁界検出部」に相当するので、
引用発明の「回転磁界センサ5」が、「第1の検出回路21、第2の検出回路22および演算回路23を備え」ることは、本件特許発明1の「磁気センサ」が、「磁界検出部と演算部とを備え」ることに相当する。

(エ)
a 引用発明の「第1の検出回路21は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して」いるので、「第1の検出回路21」の「直列に接続された第1および第2のMR素子列R31,R32と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R33,R34」を構成する「直列に接続された複数のMR素子」は、「回転磁界MF」を「検出」しているといえる。
同様に、「第2の検出回路22」の「直列に接続された第1および第2のMR素子列R41,R42と、直列に接続された第3および第4のMR素子列R43,R44」を構成する「直列に接続された複数のMR素子」は、「回転磁界MF」を「検出」しているといえる。
したがって、引用発明の「第1の検出回路21」及び「第2の検出回路22」が、「直列に接続された複数のMR素子によって構成され」ることは、本件特許発明1の「前記磁界検出部は、前記被検出磁界を検出する複数の磁気抵抗効果素子を含」むことに相当する。

b 引用発明の「回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度」は、「回転磁界MF」の方向が「第1の方向D1」に対してなす角度と対応関係を有しているので、「その強度を表す第1の信号S1」は、本件特許発明1の「前記被検出磁界の方向が第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号」に相当する。
同様に、引用発明の「その強度を表す第2の信号S2」は、本件特許発明1の「前記被検出磁界の方向が第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号」に相当する。

上記a及びbより、引用発明の「第1の検出回路21」及び「第2の検出回路22」が、「直列に接続された複数のMR素子によって構成され」、「第1の検出回路21は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す第1の信号S1を出力し、第2の検出回路22は、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度を検出して、その強度を表す第2の信号S2を出力」することは、本件特許発明1の「前記磁界検出部は、前記被検出磁界を検出する複数の磁気抵抗効果素子を含み、前記被検出磁界の方向が第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号と前記被検出磁界の方向が第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号とを出力」することに相当する。

(オ)引用発明の「各MR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有」することは、本件特許発明1の「前記複数の磁気抵抗効果素子の各々は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記被検出磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有」することに相当する。

(カ)引用発明の「演算回路23は、第1の信号S1および第2の信号S2に基づいて」「角度検出値θsを算出」することは、本件特許発明1の「前記演算部は、前記第1および第2の信号に基づいて前記角度検出値を算出」することに相当する。

(キ)引用発明は「磁化固定層の磁化方向が、各MR素子における磁化固定層の磁化方向に対して-22.5°、22.5°だけ異なる2つのMR素子を設けることによって、2次、3次および4次の電位差高調波成分に起因した回転磁界センサの検出角度の誤差を低減することが可能になる」のであるから、引用発明の「角度検出値θs」は、「4次の電位差高調波成分に起因した」「検出角度の誤差」を含んでいる。
そして、引用発明は「回転磁界MFの方向DM」が、所定の周期で回転するものであり、引用発明の「4次の電位差高調波成分」は、「回転磁界MFの方向DMの回転に伴って周期的に変化」する「MR素子の両端間」に含まれる「電位差高調波成分」であるから、「回転磁界MF」の周期の1/4の周期で変化するものであるといえるので、
引用発明の「角度検出値θs」は、「4次の電位差高調波成分に起因した」「検出角度の誤差」を含んでいることは、本件特許発明1の「前記被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、前記角度検出値は、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分を含」むことに相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「基準位置における被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度と対応関係を有する角度検出値を生成する磁気センサであって、
磁界検出部と演算部とを備え、
前記磁界検出部は、前記被検出磁界を検出する複数の磁気抵抗効果素子を含み、前記被検出磁界の方向が第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号と前記被検出磁界の方向が第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号とを出力し、
前記複数の磁気抵抗効果素子の各々は、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記被検出磁界の方向に応じて磁化の方向が変化する自由層と、前記磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記演算部は、前記第1および第2の信号に基づいて前記角度検出値を算出し、
前記被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、前記角度検出値は、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分を含む、磁気センサ。」

(相違点)
被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分について、本件特許発明1は、「角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量」を、「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するとき」「0.1°以下である」としているのに対して、引用発明は、「4次の電位差高調波成分に起因した」「検出角度の誤差を低減すること」が記載されているが、そのような特定がない点。

イ 判断
相違点について検討する。
引用発明は、磁化固定層の磁化方向を、-22.5°、22.5°だけ異なる2つのMR素子を設けることによって、4次の電位差高調波成分に起因した検出角度の誤差を低減することが記載されているが、回転磁界MFの強度の変化に対して、4次の電位差高調波成分に起因した検出角度の誤差の変動量を少なくすることは記載されておらず、また、そのような示唆もない。

また、甲第2号証には、角度誤差が、10mT?70mTの範囲にわたり0.3度未満であること(上記「1 (2)」)、甲第3号証には、角度誤差が、広い磁界範囲にわたり0.2°を下回ること(上記「1 (3)」)が記載されているが、被検出磁界の方向が所定の周期で回転する場合、所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分の変動量については、記載されていない。

したがって、本件特許発明1は、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(2)本件特許発明2-4について
本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2-4は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(3)本件特許発明5-8について
本件特許発明5-8は、上記相違点に係る本件特許発明1と同様の構成である「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下であること」を備えるものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(4)本件特許発明9、10について
本件特許発明1-8を直接又は間接的に引用する本件特許発明9,10は、本件特許発明1-8をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-10は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第5 理由2(第36条第4項第1号)について
1 本件特許発明1について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明1と甲1発明との相違点は、
G 前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.1°以下である
構成の有無である。
しかし、Gの構成は、単に誤差の変動量を0.1°以下、と限定しただけであるから、達成すべき結果をそのまま記載しただけである。」(異議申立書第23頁第34行-第24頁第3行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
発明が解決しようとする課題として、「本願の発明者による研究の課程で、磁気センサでは、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化することが分かった。」(段落【0009】)、「磁気センサが用いられるシステムでは、磁気センサに印加される被検出磁界の強度が一定とは限らない。」(段落【0010】)、「従来の磁気センサでは、前述の角度誤差の磁界強度依存に起因して、磁気センサの使用時の被検出磁界の強度の範囲として想定される所定の範囲内において角度誤差の変動量が大きくなる場合があった。この場合、従来の磁気センサでは、被検出磁界の強度が上記所定の範囲内の特定の値のときに角度誤差が低減されるように検出角度の補正処理を行っても、被検出磁界の強度が上記特定の値と異なるときには、角度誤差が十分に低減されないという問題点があった。」(段落【0011】)、「本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度を検出するための磁気センサであって、被検出磁界の強度の広い範囲で、検出角度の誤差の変動量が小さい磁気センサを提供することにある。」(段落【0012】)と記載されており、
発明を実施するための形態として、「本願の発明者による研究の課程で、角度誤差の磁界強度依存は、主に、前述の1つ以上の角度誤差成分のうちの、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分(以下、角度誤差4次成分と言う。)に起因するものであることが分かった。・・・また、角度誤差4次成分を低減することによって、角度誤差全体を低減することができることも分かった。」(段落【0073】)、「本実施の形態に係る磁気センサ1では、印加磁界強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4の変動量は0.1°以下である。・・・このような特性を有する本実施の形態に係る磁気センサ1によれば、印加磁界強度の広い範囲で角度誤差の変動量を小さくすることが可能になる。」(段落【0076】)と記載されている。
上記記載より、磁気センサにおいて、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化するので、その変動量を小さくするという課題があり、角度誤差の磁界強度依存は、所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分(角度誤差4次成分)に起因するものであることが分かったので、
本件特許発明1は、印加磁界強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4の変動量を0.1°以下にする手段によって、上記課題を解決したものであることが、理解できる。

そうすると、請求項1に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.1°以下である」は、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、単に誤差の変動量を0.1°以下と規定しただけではなく、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえない。

そして、発明の詳細な説明には、「このことから、所望の副範囲内におけるE4の変動量を小さくするには、その副範囲内において、各印加磁界強度におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量を小さくすればよいことが分かる。これは、その副範囲内において印加磁界強度の増加に対するV3rの変化の割合と印加磁界強度の増加に対するV5rの変化の割合が互いに近づくように、V3rとV5rの磁界強度依存性を制御することによって実現することができる。」(段落【0090】)、「本実施の形態では、以下で説明する第1の手段と第2の手段を用いて、所望の副範囲において印加磁界強度の増加に対するV3rの変化の割合と印加磁界強度の増加に対するV5rの変化の割合が互いに近づくように、V3rの磁界強度依存性とV5rの磁界強度依存性を制御する。第1の手段は、MR素子50の形状、特に自由層51の形状を制御することである。第2の手段は、図5を参照して説明したオフセット角度φを調整することである。」(段落【0091】)、「第1ないし第3の実施例は、いずれも、第1の手段と第2の手段を組み合わせて用いた例である。」(段落【0113】)との記載があり、
「第2の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが0.1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを10°としたものである。・・・第2の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が20?70mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下であり、E4の変動量は0.1°以下である。」(段落【0134】、【0135】)、「第3の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを30°としたものである。・・・第3の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が50?150mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下であり、E4の変動量は0.1°以下である。」(段落【0136】【0137】)と具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明1を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項1の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明1を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

2 本件特許発明2について
異議申立人は、異議申立書において、
「「I 前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.18%以下である」
しかし、Iの構成は、単に高調波の影響の変動(第3高調波成分比率と第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量)を0.18%以下、と規定しただけであるから、達成すべき結果をそのまま記載しただけである。」(異議申立書第25頁第8-29行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
発明が解決しようとうする課題として、「本願の発明者による研究の課程で、磁気センサでは、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化することが分かった。」(段落【0009】)、「磁気センサが用いられるシステムでは、磁気センサに印加される被検出磁界の強度が一定とは限らない。」(段落【0010】)、「従来の磁気センサでは、前述の角度誤差の磁界強度依存に起因して、磁気センサの使用時の被検出磁界の強度の範囲として想定される所定の範囲内において角度誤差の変動量が大きくなる場合があった。この場合、従来の磁気センサでは、被検出磁界の強度が上記所定の範囲内の特定の値のときに角度誤差が低減されるように検出角度の補正処理を行っても、被検出磁界の強度が上記特定の値と異なるときには、角度誤差が十分に低減されないという問題点があった。」(段落【0011】)、「本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、被検出磁界の方向が基準方向に対してなす角度を検出するための磁気センサであって、被検出磁界の強度の広い範囲で、検出角度の誤差の変動量が小さい磁気センサを提供することにある。」(段落【0012】)と記載されており、
発明を実施するための形態として、「本願の発明者による研究の課程で、角度誤差の磁界強度依存は、主に、前述の1つ以上の角度誤差成分のうちの、前記所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分(以下、角度誤差4次成分と言う。)に起因するものであることが分かった。・・・また、角度誤差4次成分を低減することによって、角度誤差全体を低減することができることも分かった。」(段落【0073】)、「本実施の形態に係る磁気センサ1では、印加磁界強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4の変動量は0.1°以下である。・・・このような特性を有する本実施の形態に係る磁気センサ1によれば、印加磁界強度の広い範囲で角度誤差の変動量を小さくすることが可能になる。」(段落【0076】)、「被検出磁界MFの方向DMが前記所定の周期で回転する場合、第1の信号S1は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第1の理想成分V11と、第1の理想成分V11に対する第3高調波に相当する誤差成分である第1の第3高調波成分V13と、第1の理想成分V11に対する第5高調波に相当する誤差成分である第1の第5高調波成分V15とを含み、第2の信号S2は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する第2の理想成分V21と、第2の理想成分V21に対する第3高調波に相当する誤差成分である第2の第3高調波成分V23と、第2の理想成分V21に対する第5高調波に相当する誤差成分である第2の第5高調波成分V25とを含んでいる。」(段落【0077】)、「ここで、第1の理想成分V11が最大値をとるときの第1の理想成分V11に対する第1の第3高調波成分V13の比率を第1の比率V13rと定義し、第1の理想成分V11が最大値をとるときの第1の理想成分V11に対する第1の第5高調波成分V15の比率を第2の比率V15rと定義し、第2の理想成分V21が最大値をとるときの第2の理想成分V21に対する第2の第3高調波成分V23の比率を第3の比率V23rと定義し、第2の理想成分V21が最大値をとるときの第2の理想成分V21に対する第2の第5高調波成分V25の比率を第4の比率V25rと定義する。また、第1の比率V13rと第3の比率V23rの平均値を、第3高調波成分比率と定義し、記号V3rで表す。また、第2の比率V15rと第4の比率V25rの平均値を、第5高調波成分比率と定義し、記号V5rで表す。」(段落【0078】)、「本願の発明者による研究により、角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4は、第3高調波成分比率V3rと第5高調波成分比率V5rの差の絶対値に比例することが分かった。E4は、近似的に次の式(2)で表される。なお、式(2)において、E4の単位は度であり、V3r,V5rの単位は%である。」(段落【0079】)、「E4=|V3r-V5r|×0.56 …(2)」(段落【0080】)、「式(2)から、副範囲内におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下であれば、副範囲内におけるE4の変動量は0.1°以下になる。」(段落【0082】)」と記載されている。
上記記載より、磁気センサにおいて、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化するので、その変動量を小さくするという課題があり、角度誤差の磁界強度依存は、所定の周期の1/4の周期で変化する角度誤差成分(角度誤差4次成分)に起因し、角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4は、第3高調波成分比率V3rと第5高調波成分比率V5rの差の絶対値に比例することが分かったので、
本件特許発明2は、副範囲内におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下にする手段によって、上記課題を解決したものであることが、理解できる。

そうすると、請求項2に記載された「前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.18%以下である」は、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、単に高調波の影響の変動(第3高調波成分比率と第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量)を0.18%以下、と規定しただけではなく、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえない。

そして、発明の詳細な説明には、「第2の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが0.1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを10°としたものである。・・・第2の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が20?70mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下であり、E4の変動量は0.1°以下である。」(段落【0134】、【0135】)、「第3の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを30°としたものである。・・・第3の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が50?150mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.18%以下であり、E4の変動量は0.1°以下である。」(段落【0136】【0137】)と、具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明2を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項2の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明2を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 本件特許発明3について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明3と甲1発明は、「J 前記演算部は、前記角度検出値を算出する角度検出値算出部と、前記角度検出値に対して補正処理を行って補正後角度検出値を生成する補正処理部とを含み、前記補正後角度検出値の誤差の絶対値の最大値は、前記角度検出値の誤差の絶対値の最大値よりも小さいこと」の構成で相違する。
しかし、検出された角度に何らかの補正を行うことで、誤差の大きさを減少させることは当然であり、本件特許発明3には、補正処理の具体的な記載がないから、Jの構成も、達成すべき結果をそのまま記載しただけであり、実質的な相違点になり得ない。」(異議申立書第25頁第29-37行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0035】
次に、図3を参照して、磁気センサ1の構成について詳しく説明する。図3は、磁気センサ1の構成を示す回路図である。磁気センサ1は、前述の磁界検出部3の他に、演算部30を備えている。前述の通り、磁界検出部3は、第1の検出回路10と第2の検出回路20を有している。」
「【0039】
図4は、演算部30の構成を示す機能ブロック図である。演算部30は、角度検出値算出部31と、補正処理部32と、補正情報保持部33とを含んでいる。角度検出値算出部31は、第1および第2の検出回路10,20から出力される第1および第2の信号S1,S2に基づいて、角度θと対応関係を有する角度検出値θsを算出する。補正処理部32は、角度検出値θsに対して補正処理を行って補正後角度検出値θtを生成する。補正後角度検出値θtの誤差の絶対値の最大値は、角度検出値θsの誤差の絶対値の最大値よりも小さい。補正情報保持部33は、補正処理部32が補正処理を行う際に利用する補正情報を保持している。補正後角度検出値θtは、磁気センサ1によって検出された角度θの値である。演算部30は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。角度検出値算出部31における角度検出値θsの算出方法と、補正処理部32における補正処理の内容については、後で詳しく説明する。」
上記記載より、磁気センサ1は、演算部30を備えており、演算部30は、角度検出値算出部31と、補正処理部32と、とを含んでおり、角度検出値算出部31は、角度検出値θsを算出し、補正処理部32は、角度検出値θsに対して補正処理を行って補正後角度検出値θtを生成し、補正後角度検出値θtの誤差の絶対値の最大値は、角度検出値θsの誤差の絶対値の最大値よりも小さいことが読み取れる。

そうすると、本件特許発明3の構成Jは、発明の詳細な説明に記載された、磁気センサ1の演算部30の構成について特定したものであり、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえない。

そして、発明の詳細な説明には、補正処理の第1の例について、より具体的に説明があり(段落【0121】-【0128】)、「図24に示したように、印加磁界強度が80mTのときの補正後角度誤差CAEの絶対値の最大値は、0.05°以下であり、図22に示した印加磁界強度が80mTのときの角度誤差AEの絶対値の最大値に比べて大幅に小さくなっている。」(段落【0124】)と、具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明3を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項3の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明3を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

4 本件特許発明4について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明4と甲1発明は、「K 前記補正処理部は、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内のどの値であっても、前記補正後角度検出値の誤差の最大値と最小値の差の1/2が0.1°以下になるように、前記補正処理を行うこと」の構成で相違する。
しかし、検出された角度に何らかの補正を行なうことで、誤差の所定値内に抑えることは当然であり、本件特許発明4にも、補正処理の具体的な記載がないから、Kの構成も、達成すべき結果をそのまま記載しただけであり、実質的な相違点にはなり得ない。」(異議申立書第26頁第2-10行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討する。
本件特許発明4は、本件特許発明3を引用しているので、本件特許発明4の構成Kは、本件特許発明3の構成Jを更に限定したものといえ、
本件特許発明3の構成Jは、発明の詳細な説明に記載された、磁気センサ1の演算部30の構成について特定したものであり、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえないことは、上記「3 本件特許発明3」で検討した通りであるから、本件特許発明4の構成Kについても、同様である。

そして、発明の詳細な説明には、補正処理の第1の例について、より具体的に説明があり(段落【0121】-【0128】)、「ここで、補正後角度誤差CAEの最大値と最小値の差の1/2を補正後角度誤差CAEの振幅と定義する。」(段落【0125】)、「補正処理の第1の例によれば、副範囲内におけるE4の変動量が0.1°以下であれば、副範囲内における補正後角度誤差CAEの振幅を0.1°以下にすることができ」(段落【0128】)と、具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明4を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項4の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明4を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

5 本件特許発明5について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明5と甲1発明との相違点は、
G1 前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下である
構成の有無である。
しかし、G1の構成は、単に誤差の変動量を0.05°以下、と限定しただけであるから、達成すべき課題をそのまま記載しただけである。」(異議申立書第26頁第12行-第26頁第19行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、「第2の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が25?55mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。第2の実施例の磁気センサ1は、本実施の形態に係る磁気センサ1の特性の要件を満たしている。」(段落【0135】)、「第3の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が60?150mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。第3の実施例の磁気センサ1は、本実施の形態に係る磁気センサ1の特性の要件を満たしている。」(段落【0137】)と記載されている。

上記「1 本件特許発明1について」を踏まえると、上記記載より、
本件特許発明5は、印加磁界強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの角度誤差4次成分の絶対値の最大値E4の変動量を0.05°以下にする手段によって、磁気センサにおいて、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化するので、その変動量を小さくするという課題を解決したものであることが、理解できる。

そうすると、請求項5に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下である」は、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、単に誤差の変動量を0.05°以下と規定しただけではなく、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえない。

そして、発明の詳細な説明には、「このことから、所望の副範囲内におけるE4の変動量を小さくするには、その副範囲内において、各印加磁界強度におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量を小さくすればよいことが分かる。これは、その副範囲内において印加磁界強度の増加に対するV3rの変化の割合と印加磁界強度の増加に対するV5rの変化の割合が互いに近づくように、V3rとV5rの磁界強度依存性を制御することによって実現することができる。」(段落【0090】)、「本実施の形態では、以下で説明する第1の手段と第2の手段を用いて、所望の副範囲において印加磁界強度の増加に対するV3rの変化の割合と印加磁界強度の増加に対するV5rの変化の割合が互いに近づくように、V3rの磁界強度依存性とV5rの磁界強度依存性を制御する。第1の手段は、MR素子50の形状、特に自由層51の形状を制御することである。第2の手段は、図5を参照して説明したオフセット角度φを調整することである。」(段落【0091】)、「第1ないし第3の実施例は、いずれも、第1の手段と第2の手段を組み合わせて用いた例である。」(段落【0113】)との記載があり、
「第2の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが0.1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを10°としたものである。・・・第2の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が25?55mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。」(段落【0134】、【0135】)、「第3の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを30°としたものである。・・・第3の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が60?150mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。」(段落【0136】【0137】)と具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明5を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項5は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明5を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

6 本件特許発明6について
異議申立人は、異議申立書において、
「「I1 前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.09%以下である」
しかし、I1の構成は、単に高調波の影響の変動(第3高調波成分比率と第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量)を0.09%以下、と規定しただけであるから、達成すべき結果をそのまま記載しただけである。」(異議申立書第27頁第24行-第28頁1行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、「副範囲内におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であれば、副範囲内におけるE4の変動量は0.05°以下になる。」(段落【0082】)と記載されている。

上記「2 本件特許発明2について」を踏まえると、上記記載より、
本件特許発明6は、副範囲内におけるV3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下にする手段によって、磁気センサにおいて、検出角度の誤差が被検出磁界の強度に応じて変化するので、その変動量を小さくするという課題を解決したものであることが、理解できる。

そうすると、請求項6に記載された「前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第3高調波成分の比率を第1の比率とし、前記第1の理想成分が最大値をとるときの前記第1の理想成分に対する前記第1の第5高調波成分の比率を第2の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第3高調波成分の比率を第3の比率とし、前記第2の理想成分が最大値をとるときの前記第2の理想成分に対する前記第2の第5高調波成分の比率を第4の比率とし、前記第1の比率と前記第3の比率の平均値を第3高調波成分比率とし、前記第2の比率と前記第4の比率の平均値を第5高調波成分比率としたときに、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内で変化するときの前記第3高調波成分比率と前記第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量が0.09%以下である」は、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、単に高調波の影響の変動(第3高調波成分比率と第5高調波成分比率との差の絶対値の変動量)を0.09%以下、と規定しただけではなく、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえない。

そして、発明の詳細な説明には、「第2の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが0.1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを10°としたものである。・・・第2の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が25?55mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。」(段落【0134】、【0135】)、「第3の実施例の磁気センサ1は、自由層51の第2の面の形状を、drが1%、αが0°である形状とし、且つオフセット角度φを30°としたものである。・・・第3の実施例の磁気センサ1では、印加磁界強度が60?150mTの範囲において、V3rとV5rの差の絶対値の変動量が0.09%以下であり、E4の変動量は0.05°以下である。」(段落【0136】【0137】)と、具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明6を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項6の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明6を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

7 本件特許発明7について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明7と甲1発明は、「J1 前記演算部は、前記角度検出値を算出する角度検出値算出部と、前記角度検出値に対して補正処理を行って補正後角度検出値を生成する補正処理部とを含み、前記補正後角度検出値の誤差の絶対値の最大値は、前記角度検出値の誤差の絶対値の最大値よりも小さいこと」の構成で相違する。
しかし、検出された角度に何らかの補正を行うことで、誤差の大きさを減少させることは当然であり、本件特許発明7には、補正処理の具体的な記載がないから、J1の構成も、達成すべき結果をそのまま記載しただけであり、実質的な相違点になり得ない。」(異議申立書第28頁第6-14行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

本件特許発明7の構成J1は、本件特許発明3の構成Jと同じであるので、本件特許発明7については、本件特許発明3と同様である。

したがって、請求項7の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明7を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

8 本件特許発明8について
異議申立人は、異議申立書において、
「本件特許発明8と甲1発明は、「K1 前記補正処理部は、前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が前記副範囲内のどの値であっても、前記補正後角度検出値の誤差の最大値と最小値の差の1/2が0.05°以下になるように、前記補正処理を行うこと」の構成で相違する。
しかし、検出された角度に何らかの補正を行なうことで、誤差の所定値内に抑えることは当然であり、本件特許発明4にも、補正処理の具体的な記載がないから、K1の構成も、達成すべき結果をそのまま記載しただけであり、実質的な相違点にはなり得ない。」(異議申立書第28頁第17-25行)として、
「請求項1-10は、上述の様に、達成すべき結果(誤差等を低減すること)によって物を特定しようとする記載を含んでおり、発明の詳細な説明の特定の実施の形態のみが実施可能に記載されている場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないため、実施可能要件違反である。」(異議申立書第29頁第19-24行)」と主張している。

そこで、検討する。
本件特許発明8は、本件特許発明7を引用しているので、本件特許発明8の構成K1は、本件特許発明7の構成J1を更に限定したものといえ、
本件特許発明7の構成J1は、発明の詳細な説明に記載された、磁気センサ1の演算部30の構成について特定したものであり、達成すべき結果をそのまま記載しただけとはいえないことは、上記「7 本件特許発明7」で検討した通りであるから、本件特許発明8の構成K1についても、同様である。

そして、発明の詳細な説明には、補正処理の第1の例について、より具体的に説明があり(段落【0121】-【0128】)、「ここで、補正後角度誤差CAEの最大値と最小値の差の1/2を補正後角度誤差CAEの振幅と定義する。」(段落【0125】)、「補正処理の第1の例によれば、・・・副範囲内におけるE4の変動量が0.05°以下であれば、副範囲内における補正後角度誤差CAEの振幅を0.05°以下にすることができる。」(段落【0128】)と、具体的に記載されているので、発明の詳細な説明には、本件特許発明4を、実施するための手段が記載されているといえる。

したがって、請求項8の記載は、達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含んでいるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、本件特許発明8を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

9 本件特許発明9について
発明の詳細な説明には、次の記載がある、
「【0036】
第1の検出回路10は、被検出磁界MFの方向DMが第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号S1を生成する。第2の検出回路20は、被検出磁界MFの方向DMが第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号S2を生成する。本実施の形態では、第1の方向はX方向であり、第2の方向はY方向である。従って、第2の方向は、第1の方向に直交している。」

したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明9を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

10 本件特許発明10について
異議申立人は、異議申立書において、
「請求項10は、「前記複数の磁気抵抗効果素子の各々の前記自由層は、前記非磁性層に接する第1の面と、その反対側の第2の面とを有し、前記第2の面は、5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状を有する」とあるが、本件特許明細書には、当該形状をどの様にして実現したのか、何ら記載されていないし、自明でもない。」(異議申立書第29頁第25-29行)」と主張している。

そこで、検討すると、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0093】
図13は、自由層51の第2の面の形状を説明するための説明図である。図13において、符号51aは、自由層51の第2の面の外縁を示している。なお、図13では、理解を容易にするために、第2の面の外縁51aの形状を、誇張して描いている。また、符号51Cは、自由層51の第2の面の形状を定義するために使用する基準円を示している。基準円51Cは、真円である。
【0094】
ここで、自由層51の第2の面の面重心を、第2の面の中心と定義する。また、第2の面の外縁51a上の任意の点と第2の面の中心とを結ぶ直線が、X方向(図2参照)に対してなす角度を記号θaで表す。角度θaは、X方向から反時計回り方向に見たときの値で表す。角度θaの範囲は、0°以上360°未満である。また、第2の面の中心から、第2の面の外縁51a上の任意の点までの距離をR(θa)と定義する。
【0095】
本実施の形態では、MR素子50の作製段階で、第2の面の形状を以下のように制御する。すなわち、本実施の形態では、第2の面の形状を、5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状にすると共に、後で説明する歪み比率と歪み方向を制御する。5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状は、nを2以上の整数としたときに、4×n回の回転対称となる形状を含まない。以下、5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状を、4回対称形状と言う。
【0096】
第2の面の形状が4回対称形状である場合には、角度θaを0°以上360°未満の範囲内で変化させると、R(θa)は、角度θaが90°ずつ異なる4つの値のときに最大値をとり、角度θaが90°ずつ異なる他の4つの値のときに最小値をとるように変化する。
【0097】
ここで、R(θa)の最大値とR(θa)の最小値の平均値を基準円51Cの半径Rcとして、基準円51Cを定義する。基準円51Cの中心は、第2の面の中心と一致している。また、R(θa)の最大値から基準円51Cの半径Rcを引いた値を歪み長dと定義する。また、Rcに対する歪み長dの比率を百分率で表したものを歪み比率drと定義し、Rcに対するR(θa)の比率を百分率で表したものをr(θa)と定義する。また、角度θaが0°以上90°未満の範囲内でR(θa)が最大値をとるときの角度θaを、歪み方向αと定義する。本実施の形態では、r(θa)は、例えば次の式(3)で表される。
【0098】
r(θa)=100+dr・cos(4(θa-α)) …(3)」

上記記載より、自由層の第2の面の4回対称の回転対称形状として、自由層51の第2の面の面重心を、第2の面の中心と定義し、第2の面の外縁51a上の任意の点と第2の面の中心とを結ぶ直線が、X方向(図2参照)に対してなす角度を記号θaで表し、第2の面の中心から、第2の面の外縁51a上の任意の点までの距離をR(θa)と定義し、R(θa)の最大値とR(θa)の最小値の平均値を基準円51Cの半径Rcとして、基準円51Cを定義し、R(θa)の最大値から基準円51Cの半径Rcを引いた値を歪み長dと定義する。また、Rcに対する歪み長dの比率を百分率で表したものを歪み比率drと定義し、Rcに対するR(θa)の比率を百分率で表したものをr(θa)と定義し、角度θaが0°以上90°未満の範囲内でR(θa)が最大値をとるときの角度θaを、歪み方向αと定義すると、r(θa)は、
r(θa)=100+dr・cos(4(θa-α))
で表せることが記載されているので、
発明の詳細な説明には、複数の磁気抵抗効果素子の各々の自由層の4回対称の回転対称形状が、具体的に記載されている。

したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明10を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-10は、特許法第36条4項1号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第6 理由3(特許法第36条第6項第1号)について
1 本件特許発明1-8について
異議申立人は、異議申立書において、
「請求項1-10には、達成すべき結果(誤差等を低減すること)により規定された発明が記載されているが、発明の詳細な説明には、特定の手段による発明が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、サポート要件違反である。」(異議申立書第30頁第5-10行)と主張している。

しかしながら、上記「第5 1」-「第5 8」で検討したように、請求項1-8に記載されたものは、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、達成すべき結果(誤差等を低減すること)により規定するものではない。
また、発明の詳細な説明には、本件特許発明1-8を、実施するための手段が記載されていることも、上記「第5 1」-「第5-8」で検討したとおりである。

したがって、本件特許発明1-8は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

2 本件特許発明9について
発明の詳細な説明には、次の記載がある、
「【0036】
第1の検出回路10は、被検出磁界MFの方向DMが第1の方向に対してなす角度と対応関係を有する第1の信号S1を生成する。第2の検出回路20は、被検出磁界MFの方向DMが第2の方向に対してなす角度と対応関係を有する第2の信号S2を生成する。本実施の形態では、第1の方向はX方向であり、第2の方向はY方向である。従って、第2の方向は、第1の方向に直交している。」

したがって、本件特許発明9は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 本件特許発明10について
異議申立人は、異議申立書において、
「また、請求項10には、誤差の補正処理に関する限定はないが、一方で、本件明細書の段落0126、0127及び図25には、以下の様な記載がある。
段落0126「補正処理部32では、印加磁界強度が副範囲内のどの値であっても補正後角度誤差CAEの振幅が0.1°以下になるように補正処理を行うことが好ましく、印加磁界強度が副範囲内のどの値であっても補正後角度誤差CAEの振幅が0.05°以下になるように補正処理を行うことがより好ましい。」
段落0127「図25は、副範囲50?120mTにおける印加磁界強度と補正後角度誤差CAEの振幅との関係を示している。図25において、横軸は印加磁界強度を示し、縦軸は補正後角度誤差CAEの振幅を示している。図25に示したように、副範囲50?120mTにおいて、補正後角度誤差CAEの振幅は0.05°以下である。」」(異議申立書第30頁第11-23行)
「図25には、発明の効果を推認できるグラフがあるが、当該グラフの特性は、段落0126、0127の記載からすると、誤差の補正処理を行なった後の特性を示している。これら記載からすると、本件明細書等では、単に補正処理を行ったことにより誤差の変動量を0.05%以下とする旨の開示があるだけである。
そうとすると、誤差の補正処理の構成を限定していない請求項10の発明(補正処理を行っていない発明)がどの様な特性を示すのか、不明である。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項10に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、サポート要件違反である。」(異議申立書第30頁最終行-第31頁第10行)と主張している。

そこで、検討すると、上記「第5 1」「第5 5」で検討したように、
請求項1に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.1°以下である」、請求項5に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下である」は、発明の詳細な説明に記載された、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段である。
そうすると、本件特許発明1及び本件特許発明5を、直接または間接的に引用する本件特許発明10は、誤差の補正処理の構成に関係なく、既に、発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段が反映しているものである。
また、上記「第5 10」で検討したように、発明の詳細な説明には、複数の磁気抵抗効果素子の各々の自由層の4回対称の回転対称形状が、具体的に記載されている。

したがって、本件特許発明10は、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-10は、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第7 理由4(特許法第36条第6項第2号)について
1 本件特許発明1-8について
異議申立人は、異議申立書において、
「請求項1-10には、達成すべき結果そのもの(誤差等を低減すること)が記載されているだけであり、発明の課題を解決するための手段が何ら記載されていないため、不明瞭である。」(異議申立書第31頁第12-14行)と主張している。

しかしながら、上記「第5 1」-「第5-8」で検討したように、請求項1-8に記載されたものは、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段であって、達成すべき結果そのもの(誤差等を低減すること)が記載されているだけではない。

したがって、本件特許発明1-8は、明確である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

2 本件特許発明9について
請求項9に記載された「前記第2の方向は、前記第1の方向に直交していること」は、磁気センサの構成であり、達成すべき結果そのもの(誤差等を低減すること)ではない。

したがって、本件特許発明9は、明確である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 本件特許発明10について
異議申立人は、異議申立書において、
(1)「また、請求項10は、補正処理の構成を限定していない。しかし、上述の様に、図25のグラフが示す特性は、補正処理を行った後の特性を示しているだけあり、補正処理の構成を限定していない請求項10の発明(補正処理を行っていない発明)がどの様な特性を示すのか、不明であり、請求項10の構成により発明の課題が解決できるか否か不明である。したがって、請求項10は、「発明の技術的課題を解決するため必要な事項が請求項に記載」されているとは言えず、不明瞭であり、明確性要件違反である。」 (異議申立書第31頁第19-26行)、
(2)「また、請求項10の「前記複数の磁気抵抗効果素子の各々の前記自由層は、前記非磁性層に接する第1の面と、その反対側の第2の面とを有し、前記第2の面は、5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状」との記載は、第2の面を5回転して対称とならずに4回転して対称である、と読める。しかし、例えば正方形や正五角形等は、5回転しても4回転しても、対称であるから、請求項10の記載は、その記載だけでは、意味がわからない。」(異議申立書第31頁第27-33行)と主張している。

上記主張(1)について検討する。
上記「第5 1」「第5 5」で検討したように、
請求項1に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、20?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.1°以下である」、請求項5に記載された「前記磁界検出部における前記被検出磁界の強度が、25?150mTの範囲の一部である副範囲であって、上限と下限の差が30mT以上である副範囲内で変化するときの前記角度誤差成分の絶対値の最大値の変動量は、0.05°以下である」は、発明の詳細な説明に記載された、検出角度の誤差の被検出磁界の強度に応じた変動量を小さくするという課題を解決するための手段である。
そうすると、本件特許発明1及び本件特許発明5を、直接または間接的に引用する本件特許発明10は、誤差の補正処理の構成に関係なく、既に、発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段が反映しているものである。
したがって、上記主張(1)は、採用できない。

上記主張(2)について検討する。
請求項10の「5回以上の回転対称とはならない4回対称の回転対称形状」は、4回対称の回転対称形状と捉えることができる。
そして、ある中心の周りを(360/n)°回転させると自ら重なる性質を、n回対称ということは一般的であるから、4回対称の回転対称形状は、90°回転させると自ら重なる性質を有するのであり、請求項10の上記記載は明確である。
したがって、上記主張(2)は、採用できない。

よって、本件特許発明10は、明確である。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-10は、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第8 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-05 
出願番号 特願2015-45477(P2015-45477)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G01D)
P 1 651・ 121- Y (G01D)
P 1 651・ 537- Y (G01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 久  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
登録日 2017-08-18 
登録番号 特許第6191838号(P6191838)
権利者 TDK株式会社
発明の名称 磁気センサ  
代理人 星宮 勝美  
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